以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明のシステムを説明するための概略図である。
空気は吸気コレクタ2に蓄えられた後、吸気マニホールド3を介して各気筒の燃焼室5に導入される。燃料(ガソリン)は各気筒の吸気ポート4に配置された燃料インジェクタ21より噴射供給される。空気中に噴射された燃料は気化しつつ空気と混合してガス(混合気)を作り、燃焼室5に流入する。この混合気は吸気弁15が閉じることで燃焼室5内に閉じこめられ、ピストン6の上昇によって圧縮される。
この圧縮混合気に対して高圧火花により点火を行うため、パワートランジスタ内蔵の点火コイルを各気筒に配した電子配電システムの点火装置11を備える。すなわち、点火装置11は、バッテリからの電気エネルギーを蓄える点火コイル13と、点火コイル13の一次側への通電、遮断を行うパワートランジスタと、燃焼室5の天井に設けられ点火コイル13の一次電流の遮断によって点火コイル13の二次側に発生する高電圧を受けて、火花放電を行う点火プラグ14とからなっている。
圧縮上死点より少し手前で点火プラグ14により火花が飛ばされ圧縮混合気に着火されると、火炎が広がりやがて爆発的に燃焼し、この燃焼によるガス圧がピストン6を押し下げる仕事を行う。この仕事はクランクシャフト7の回転力として取り出される。燃焼後のガス(排気)は排気弁16が開いたとき排気通路8へと排出される。
排気通路8には三元触媒9を備える。三元触媒9は排気の空燃比が理論空燃比を中心とした狭い範囲(ウインドウ)にあるとき、排気に含まれるHC、CO、NOxといった有害三成分を同時に効率よく除去できる。空燃比は吸入空気量と燃料量の比であるので、エンジンの1サイクル(4サイクルエンジンではクランク角で720°区間)当たりに燃焼室5に導入される吸入空気量と、燃料インジェクタ21からの燃料噴射量との比が理論空燃比となるように、エンジンコントローラ31ではエアフローメータ32からの吸入空気流量の信号とクランク角センサ(33、34)からの信号に基づいて燃料インジェクタ21からの燃料噴射量を定めると共に、三元触媒9の上流に設けたO2センサ35からの信号に基づいて空燃比をフィードバック制御している。
吸気コレクタ2の上流には絞り弁23がスロットルモータ24により駆動される、いわゆる電子制御スロットル22を備える。運転者が要求するトルクはアクセルペダル41の踏み込み量(アクセル開度)に現れるので、エンジンコントローラ31ではアクセルセンサ42からの信号に基づいて目標トルクを定め、この目標トルクを実現するための目標空気量を定め、この目標空気量が得られるようにスロットルモータ24を介して絞り弁23の開度を制御する。
吸気弁用カムシャフト25、排気弁用カムシャフト26及びクランクシャフト7の各前部にはそれぞれカムスプロケット、クランクスプロケットが取り付けられ、これらスプロケットにタイミングチェーン(図示しない)を掛け回すことで、カムシャフト25、26がエンジンのクランクシャフト7により駆動されるのであるが、このカムスプロケットと吸気弁用カムシャフト25との間に介在して、作動角一定のまま吸気弁用カムの位相を連続的に制御し得る可変吸気バルブタイミングコントロール機構(以下、「吸気VTC機構」という。)27と、カムスプロケットと排気弁用カムシャフト26との間に介在して、作動角一定のまま排気弁用カムの位相を連続的に制御し得る可変排気バルブタイミングコントロール機構(以下、「排気VTC機構」という。)28とを備える。吸気弁15の開閉時期や排気弁16の開閉時期を変えると燃焼室5に残留する不活性ガスの量が変化する。燃焼室5内の不活性ガスの量が増えるほどポンピングロスが減って燃費がよくなるので、運転条件によりどのくらいの不活性ガスが燃焼室5内に残留したらよいかを目標吸気弁閉時期や目標排気弁閉時期にして予め定めており、エンジンコントローラ31ではそのときの運転条件(エンジンの負荷と回転速度)より目標吸気弁閉時期と目標排気弁閉時期を定め、それら目標値が得られるように吸気VTC機構27、排気VTC機構28の各アクチュエータを介して吸気弁閉時期と排気弁閉時期を制御する。
吸気温度センサ43からの吸気温度の信号、吸気圧力センサ44からの吸気圧力の信号、排気温度センサ45からの排気温度の信号、排気圧力センサ46からの排気圧力の信号が、水温センサ37からの冷却水温の信号と共に入力されるエンジンコントローラ31では、パワートランジスタ13を介して点火プラグ14の一次側電流の遮断時期である点火時期を制御する。
この場合に、本発明では、圧力センサにより燃焼室内の圧力を直接検出することなくエンジンの発生する軸トルクを推定できるようにするため、燃焼室内のガスの燃焼中のクランク角における燃焼質量割合を推定し、この推定した燃焼質量割合に基づいてエンジンの発生する軸トルク推定値を算出する。
さらに本発明では、この軸トルク推定値に基づいてトルク制御(吸入空気量の増加と点火時期の遅角補正)を行う。
ここでのトルク制御を簡単に説明しておくと、点火は基本的にMBTの得られる点火時期で行うのであるが、点火時期がMBTの得られる点火時期よりリタードされることがあり、このときに発生する軸トルクは、MBTの得られる点火時期で点火したときの軸トルクより低下する。そこで、MBTの得られる点火時期よりリタードされた点火時期での軸トルクを大きくしてMBTの得られる点火時期での軸トルクへと近づけるため吸入空気量を増加させる。
一方、アクセル開度とエンジン回転速度からドライバの要求する要求軸トルクが定まっており、MBTの得られる点火時期での軸トルクがこの要求軸トルクを超えるようだと軸トルクの出過ぎであり、運転上の違和感を生じさせかねない。そこで、MBTの得られる点火時期での軸トルクが要求軸トルクを超えるときには点火時期をリタードさせる。
図2は点火時期制御の全体の流れを示すフローである。このフローは一定時間毎に実行するフローではなく操作の流れを示している。
ステップ1では基本点火時期MBTCAL[degBTDC]を、ステップ2〜7では点火時期リタード量RET(new)[deg]をそれぞれ算出する。
ここでは、基本点火時期MBTCALの算出を先に説明する。まず、燃焼解析に基づく点火時期制御を概説する(基本的な考え方は特開2003−148236公報に記載されている)。
図3に示すようにMBT(最大トルクの得られる最小進角値)で混合気に点火した場合に混合気の燃焼圧力が最大値Pmaxとなるクランク角を基準クランク角θPMAX[degATDC]とする。基準クランク角θPMAXは燃焼方式によらずほぼ一定であり、一般に圧縮上死点後12〜15度、最大で圧縮上死点後10〜20度の範囲にある。
図4に火花点火エンジンにおける燃焼室内の燃焼解析により得られた燃焼質量割合BR(燃焼ガス質量割合)の変化を示す。燃焼室に供給された燃料に対する燃焼質量の比率を表す燃焼質量割合BRは、点火時に0%であり、完全燃焼によって100%に達する。基準クランク角θPMAXにおける燃焼質量割合は一定で約60%であることが実験により確かめられている。
燃焼質量割合BRが0%から基準クランク角θPMAX相当の約60%に達するまでの変化代に相当する燃焼期間は、燃焼開始直後で燃焼質量割合にも燃焼圧力にもほとんど変化のない期間である初期燃焼期間と、燃焼質量割合と燃焼圧力が急激に増加する主燃焼期間とに分けられる。初期燃焼期間は、燃焼開始から火炎核が形成されるまでの段階であり、火炎核が形成されるのは燃焼質量割合が0%から2%〜10%まで変化したときである。この初期燃焼期間中は、燃焼圧力や燃焼温度の上昇速度が小さく、燃焼質量割合の変化に対して初期燃焼期間は長い。初期燃焼期間の長さは燃焼室内の温度や圧力の変化の影響を受けやすい。
一方、主燃焼期間においては、火炎核から外側へと火炎が伝播するのであり、その火炎速度(つまり燃焼速度)が急上昇する。そのため、主燃焼期間の燃焼質量割合の変化は初期燃焼期間の燃焼質量割合の変化に比べて大きい。
エンジンコントローラ31では、燃焼質量割合が2%に達する(変化する)までを初期燃焼期間BURN1[deg]とし、初期燃焼期間BURN1の終了後、基準クランク角θPMAXに至るまでの区間(燃焼室量割合でいえば2%より約60%に達するまでの間)を主燃焼期間BURN2[deg]として区別する。そして、初期燃焼期間BURN1に主燃焼期間BURN2を加えた合計である燃焼期間BURN[deg]を算出し、この燃焼期間BURNから基準クランク角θPMAX[degATDC]を差し引き、さらに後述する点火無駄時間相当クランク角IGNDEAD[deg]を加えたクランク角位置を、MBTの得られる点火時期である基本点火時期MBTCAL[degBTDC]として設定する。
火炎核の形成される初期燃焼期間での燃焼室5内の圧力、温度は、点火時の圧力、温度とほぼ等価になるが、これから点火時期を算出しようとしているのに、最初から正確な点火時期を設定することはできない。そこで、図13に示したように基本点火時期の前回値を前回燃焼開始時期MBTCYCL[degBTDC]として算出し(ステップ44)、この値を図10に示したように初期燃焼期間の算出に用いるようにし(ステップ162)、初期燃焼期間の算出をサイクリックに繰り返すことで、精度の高い結果を時間遅れなしに出すようにしている。
次に、エンジンコントローラ31で実行される基本点火時期MBTCALの算出を以下のフローチャートを参照しながら詳述する。
図5は点火時期の算出に必要な各種の物理量を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
まずステップ11では、吸気弁閉時期IVC[degBTDC]、温度センサ43により検出されるコレクタ内温度TCOL[K]、圧力センサ44により検出されるコレクタ内圧力PCOL[Pa]、温度センサ45により検出される排気温度TEXH[K]、内部不活性ガス率MRESFR[%]、温度センサ37により検出される冷却水温TWK[K]、目標当量比TFBYA、クランク角センサにより検出されるエンジン回転速度NRPM[rpm]を読み込む。
ここで、クランク角センサはクランクシャフト7のポジションを検出するポジションセンサ33と、吸気用カムシャフト25ポジションを検出するフェーズセンサ34とからなり、これら2つのセンサ33、34からの信号に基づいてエンジン回転速度NRPM[rpm]が算出されている。
吸気弁閉時期IVCは吸気VTC機構27に与える指令値から既知である。あるいはフェーズセンサ34により実際の吸気弁閉時期を検出してもかまわない。
内部不活性ガス率MRESFRは燃焼室内に残留する不活性ガス量を燃焼室内の総ガス量で除した値で、その算出については後述する。
目標当量比TFBYAは図示しない燃料噴射量の算出フローにおいて算出されている。目標当量比TFBYAは無名数であり、理論空燃比を14.7とすると、次式により表される値である。
TFBYA=14.7/目標空燃比 …(1)
例えば(1)式より目標空燃比が理論空燃比のときTFBYA=1.0となり、目標空燃比が例えば22.0といったリーン側の値であるとき、TFBYAは1.0未満の正の値である。
ステップ12では、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける容積(つまり圧縮開始時期での容積)VIVC[m3]を算出する。燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCは、ピストン6のストローク位置によって決まる。ピストン6のストローク位置はエンジンのクランク角位置によって決まる。
図6を参照して、エンジンのクランクシャフト71の回転中心72がシリンダの中心軸73からオフセットしている場合を考える。コネクティングロッド74、コネクティングロッド74とクランクシャフト71との結節点75、コネクティングロッド74とピストンをつなぐピストンピン76が図に示す関係にあるとする。このときの、燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCは次式(2)〜(6)で表すことができる。
VIVC=f1(θivc)=Vc+(π/4)D2・Hivc …(2)
Vc=(π/4)D2・Hx/(ε−1) …(3)
Hivc={(CND+ST2/2)−(CRoff−PISoff)2}1/2
−{(ST/2)・cos(θivc+θoff)}
+(CND2−X2)1/2 …(4)
X =(ST/2)・sin(θivc+θoff)−CRoff+PISoff …(5)
θoff=arcsin{(CRoff−PISoff)/(CND・(ST/2))}…(6)
ただし、Vc :隙間容積[m3]、
ε :圧縮比、
D :シリンダボア径[m]、
ST :ピストンの全ストローク[m]、
Hivc :吸気弁閉時期におけるピストンピン76の
TDCからの距離[m]、
Hx :ピストンピン76のTDCからの距離の最大値と最小値の
差[m]、
CND :コネクティングロッド74の長さ[m]、
CRoff :結節点75のシリンダ中心軸73からのオフセット距離
[m]、
PISoff:クランクシャフト回転中心72のシリンダ中心軸73から
のオフセット距離[m]、
θivc :吸気弁閉時期のクランク角[degATDC]、
θoff :ピストンピン76とクランクシャフト回転中心72とを結
ぶ線がTDCにおいて垂直線となす角度[deg]、
X :結節点75とピストンピン76との水平距離[m]、
吸気弁閉時期のクランク角θivcは前述のように、エンジンコントローラ31から吸気VTC機構27への指令信号によって決まるので、既知である。式(2)〜(6)にこのときのクランク角θivc(=IVC)を代入すれば、燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCを算出することができる。したがって、実用上は燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCは吸気弁閉時期IVCをパラメータとするテーブルで設定したものを用いる。吸気VTC機構27を備えないときには定数で与えることができる。
ステップ13では、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける温度(つまり圧縮開始時期温度)TINI[K]を算出する。燃焼室5に流入するガスの温度は、燃焼室5に流入する新気と燃焼室5に残留する不活性ガスとが混じったガスの温度であり、燃焼室5に流入する新気の温度は吸気コレクタ2内の新気温度TCOLに等しく、また燃焼室5内に残留する不活性ガスの温度は排気ポート部近傍の排気温度TEXHで近似できるので、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける温度TINIは吸気弁閉時期IVCになったタイミングでの、吸気コレクタ2内の新気温度TCOL、排気温度TEXH、燃焼室5内に残留する不活性ガスの割合である内部不活性ガス率MRESFRから次式により求めることができる。
TINI=TEXH×MRESFR+TCOL×(1−MRESFR)…(7)
ステップ14では燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける圧力(つまり圧縮開始時期圧力)PINI[Pa]を算出する。すなわち、吸気弁閉時期IVCになったタイミングでのコレクタ内圧力PCOLを吸気弁閉時期IVCにおける圧力PINIとして取り込む。
ステップ15では、燃焼室5内の混合気の燃えやすさを表す反応確率RPROBA[%]を算出する。反応確率RPROBAは無次元の値であり、残留不活性ガス率MRESFR、冷却水温TWK[K]、目標当量比TFBYAの3つのパラメータに依存するので、次式により表すことができる。
RPROBA=f3(MRESFR、TWK、TFBYA) …(8)
具体的に説明すると、MRESFR、TWK、TFBYAの3つのパラメータの組み合わせによって得られる反応確率の最大値を100%とし、これらのパラメータと反応確率RPROBAの関係を実験的に求め、求めた反応確率RPROBAをパラメータに応じたテーブルとしてエンジンコントローラ31のメモリに予め格納しておく。ステップ14ではパラメータに応じてこのテーブルを検索することにより反応確率RPROBAを求める。
具体的には、冷却水温TWKに応じて図7に示すような特性を有する水温補正係数のテーブルと、同様に設定された内部不活性ガス率補正係数のテーブル(図示しない)と、目標当量比TFBYAに応じて図8に示すような特性を有する当量比補正係数のテーブルを予めメモリに格納しておく。各補正係数の最大値はそれぞれ1.0であり、3種類の補正係数の積に反応確率の最大値100%を掛け合わせることで、反応確率RPROBAを算出する。
各テーブルを説明すると、図7に示す水温補正係数は冷却水温TWKが高いほど大きく、冷却水温TWKが80℃以上では1.0になる。図8に示す当量比補正係数は目標当量比TFBYAが1.0のとき、つまり理論空燃比のときに最大値の1.0となり、目標当量比が1.0より大きくても小さくても当量比補正係数は減少する。内部不活性ガス率補正係数は図示しないが、内部不活性ガス率MRESFRがゼロの場合に1.0となる。
ステップ16では、基準クランク角θPMAX[degATDC]を算出する。前述のように基準クランク角θPMAXはあまり変動しないが、それでもエンジン回転速度NRPMの上昇に応じて進角する傾向があるため、基準クランク角θPMAXはエンジン回転速度NRPMの関数として次式で表すことができる。
θPMAX=f4(NRPM) …(9)
具体的にはエンジン回転速度NRPMから、エンジンコントローラ31のメモリに予め格納された図9に示す特性のテーブルを検索することにより基準クランク角θPMAXを求める。算出を容易にするために、基準クランク角θPMAXを一定とみなすことも可能である。
図10は初期燃焼期間BURN1[deg]を算出するためのもの、また図12は主燃焼期間BURN2[deg]を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。図10、図12は図5に続けて実行する。図10、図12はどちらを先に実行してもかまわない。
まず図10から説明すると、ステップ161では、前回燃焼開始時期MBTCYCL[degBTDC]、図5のステップ12で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVC[m3]、図5のステップ13で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINI[K]、図5のステップ14で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力PINI[Pa]、エンジン回転速度NRPM[rpm]、図5のステップ15で算出されている反応確率RPROBA[%]を読み込む。
ここで、前回燃焼開始時期MBTCYCLは、基本点火時期MBTCALの[degBTDC]の1サイクル前の値であり、その算出については図13により後述する。
ステップ162では燃焼室5の燃焼開始時期における容積V0[m3]を算出する。前述したように、ここでの点火時期(燃焼開始時期)は今回のサイクルで演算する基本点火時期MBTCALではなく基本点火時期の1サイクル前の値である。すなわち、基本点火時期の1サイクル前の値であるMBTCYCLから次式により燃焼室5の燃焼開始時期における容積V0を算出する。
V0=f6(MBTCYCL) …(11)
具体的には前回燃焼開始時期MBTCYCLにおけるピストン6のストローク位置と、燃焼室5のボア径から、燃焼室5のMBTCYCLにおける容積V0を算出する。図5のステップ12では、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける容積VIVCを、吸気弁閉時期をパラメータとする吸気弁閉時期容積のテーブルを検索することにより求めたが、ここではMBTCYCLをパラメータとする前回燃焼開始時期容積のテーブルを検索することにより、燃焼室5の前回燃焼開始時期MBTCYCLにおける容積V0を求めればよい。
ステップ163では燃焼開始時期における有効圧縮比Ecを算出する。有効圧縮比Ecは無次元の値であり、次式に示すように燃焼室5の燃焼開始時期における容積V0を燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCで除した値である。
Ec=f7(V0、VIVC)
=V0/VIVC …(12)
ステップ164では吸気弁閉時期IVCから燃焼開始時期に至る間の燃焼室5内の温度上昇率TCOMPを次式に示すように有効圧縮比Ecに基づいて算出する。
TCOMP=f8(Ec)=Ec^(κ−1) …(13)
ただし、κ:比熱比、
(13)式は断熱圧縮されるガスの温度上昇率の式である。なお、(13)式右辺の「^」は累乗計算を表している。この記号は後述する式でも使用する。
κは断熱圧縮されるガスの定圧比熱を定容比熱で除した値で、断熱圧縮されるガスが空気であればκ=1.4であり、簡単にはこの値を用いればよい。ただし、混合気に対してκの値を実験的に求めることで、一層の算出精度の向上が可能である。
図11は(13)式を図示したものである。従って、このような特性のテーブルを予めエンジンコントローラ31のメモリに格納しておき、有効圧縮比Ecに基づき当該テーブルを検索することにより温度上昇率TCOMPを求めることも可能である。
ステップ165では、燃焼室5の燃焼開始時期における温度T0[K]を、燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIに温度上昇率TCOMPを乗じることで、つまり
T0=TINI×TCOMP …(14)
の式により算出する。
ステップ166、167はステップ164、165と同様である。すなわち、ステップ166では吸気弁閉時期IVCから燃焼開始時期に至る間の燃焼室5内の圧力上昇率PCOMPを次式に示すように有効圧縮比Ecに基づいて算出する。
PCOMP=f9(Ec)=Ec^κ…(41)
ただし、κ:比熱比、
(41)式も(13)式と同じに断熱圧縮されるガスの圧力上昇率の式である。(41)式右辺の「^」も(13)式と同じに累乗計算を表している。
κは上記(13)式で用いている値と同じで、断熱圧縮されるガスが空気であればκ=1.4であり、簡単にはこの値を用いればよい。ただし、混合気に対してその組成、温度からκの値を求めることで、一層の算出精度の向上が可能である。
図11と同様の特性のテーブルを予めエンジンコントローラ31のメモリに格納しておき、有効圧縮比Ecに基づき当該テーブルを検索することにより圧力上昇率PCOMPを求めることも可能である。
ステップ167では、燃焼室5の燃焼開始時期における圧力P0[Pa]を、燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力PINIに圧力上昇率PCOMPを乗じることで、つまり
P0=PINI×PCOMP …(42)
の式により算出する。
ステップ168では、初期燃焼期間における層流燃焼速度SL1[m/sec]を次式(公知)により算出する。
SL1=f10(T0、P0)
=SLstd×(T0/Tstd)2.18×(P0/Pstd)-0.16 …(15)
ただし、Tstd :基準温度[K]、
Pstd :基準圧力[Pa]、
SLstd:基準温度Tstdと基準圧力Pstdにおける基準層流燃焼
速度[m/sec]、
T0 :燃焼室5の燃焼開始時期における温度[K]、
P0 :燃焼室5の燃焼開始時期における圧力[Pa]、
層流燃焼速度(層流火炎速度)は気体の流れがない状態での火炎の伝播速度のことであり、燃焼室5内の圧縮速度、燃焼室5内の吸気流速に因らず、燃焼室5の温度及び圧力の関数となることが知られていることから、初期燃焼期間における層流燃焼速度を燃焼開始時温度T0と燃焼開始時圧力P0の関数として、また後述するように主燃焼期における層流燃焼速度を圧縮上死点時温度TTDCと圧縮上死点圧力PTDCの関数としている。これは、層流燃焼速度は一般的に、エンジン負荷、燃焼室5内の不活性ガス率、吸気弁閉時期、比熱比、吸気温度により変化するのであるが、これらは燃焼室5内の温度Tと圧力Pに影響する因子であるので、層流燃焼速度は最終的に燃焼室5内の温度Tと圧力Pにより規定できるとするものである。
上記の(15)式において基準温度Tstdと基準圧力Pstdと基準層流燃焼速度SLstdは実験により予め定められる値である。
燃焼室5の通常の圧力である2bar以上の圧力下では、(15)式の圧力項(P0/Pstd)-0.16は小さな値となる。従って、圧力項(P0/Pstd)-0.16を一定値として、基準層流燃焼速度SLstdを基準温度Tstdのみで規定することも可能である。
従って、基準温度Tstdが550[K]で、基準層流燃焼速度SLstdが1.0[m/sec]で、圧力項が0.7である場合の燃焼開始時期における温度T0と層流燃焼速度SL1との関係は近似的に次式で定義することができる。
SL1=f11(T0)
=1.0×0.7×(T0/550)2.18 …(16)
ステップ169では、初期燃焼期間におけるガス流動の乱れ強さST1を算出する。このガス流動の乱れ強さST1は無次元の値であり、燃焼室5に流入する新気の流速と燃料インジェクタ21の噴射燃料のペネトレーションとに依存する。
燃焼室5に流入する新気の流速は、吸気通路の形状と、吸気弁15の作動状態と、吸気弁15を設ける吸気ポート4の形状に依存する。噴射燃料のペネトレーションは燃料インジェクタ21の噴射圧力と、燃料噴射期間と、燃焼噴射タイミングに依存する。
最終的に、初期燃焼期間におけるガス流動の乱れ強さST1は、エンジン回転速度NRPMの関数として次式で表すことができる。
ST1=f12(NRPM)=C1×NRPM …(17)
ただし、C1:定数、
乱れ強さST1を回転速度NRPMをパラメータとするテーブルから求めることも可能である。
ステップ170では層流燃焼速度S1と乱れ強さST1から、初期燃焼期間におけるガスの燃焼速度FLAME1[m/sec]を次式により算出する。
FLAME1=SL1×ST1 …(18)
燃焼室5内にガス乱れがあるとガスの燃焼速度が変化する。(18)式はこのガス乱れに伴う燃焼速度への寄与(影響)を考慮したものである。
ステップ171では、次式により初期燃焼期間BURN1[deg]を算出する。
BURN1={(NRPM×6)×BR1×V0}
/(RPROBA×AF1×FLAME1) …(19)
ただし、AF1 :火炎核の反応面積(固定値)[m2]、
この(19)式および後述する(22)式は、燃焼ガス質量を燃焼速度で割ると燃焼期間が得られるとする次の基本式より導いたものであるが、(19)、(22)式右辺の分子、分母ががただちに燃焼ガス質量、燃焼速度を表すものではない。
燃焼期間[sec]=シリンダ内総質量[g]/(未燃ガス密度[g/m3]
×火炎表面積[m2]×火炎速度[m/sec])
…(補1)
(補1)式右辺分母の未燃ガス密度は、未燃ガス質量[g]を未燃ガス体積[m3]で割った値であるので、従来装置のように質量に相当する充填効率ITACのみの関数では未燃ガス密度を正確に計算できているとはいえない。そこで、(補1)式に対して実験結果とを照らし合わせつつ所定の近似を導入して初めて得られたのが上記(19)式及び後述する(22)式に示す実験式である。
ここで、(19)式右辺のBR1は燃焼開始時期より初期燃焼期間BURN1の終了時期までの燃焼質量割合の変化代であり、ここではBR1=2%に設定している。(19)式右辺の(NRPM×6)は単位をrpmからクランク角(deg)に変換するための処理である。火炎核の反応面積AF1は実験的に設定される。
また、初期燃焼期間中はほぼ燃焼室容積は変わらないとみなすことができる。従って、初期燃焼期間BURN1を算出するに際して最初の燃焼室容積である燃焼開始時の燃焼室容積V0を採用している。
次に図12のフローに移ると、ステップ181では図10のステップ161と同様に、図5のステップ12で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVC[m3]、図5のステップ13で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINI[K]、図5のステップ14で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力PINI[Pa]、エンジン回転速度NRPM[rpm]、図5のステップ15で算出されている反応確率RPROBA[%]を読み込み、さらにシリンダ新気量MACYL[g]、目標当量比TFBYA、内部不活性ガス量MRES[g]、外部不活性ガス量MEGR[g]を読み込む。
ここで、図1には外部EGR装置は示していないが、図12に関する限り外部EGR装置を備えているエンジンを前提として説明する。この場合に、外部不活性ガス量MEGRは例えば公知の手法(特開平10−141150号公報参照)を用いて算出すればよい。なお、図1に示す本実施形態のように外部EGR装置を備えていないエンジンを対象とするときには外部不活性ガス量MEGR=0で扱えば足りる。シリンダ新気量MACYL、内部不活性ガス量MRESの算出については図14以降で後述する。
ステップ182、183は図10のステップ163、164と同様である。すなわち、ステップ182で圧縮上死点時期における有効圧縮比Ec 2を算出する。有効圧縮比Ec 2も上記(12)式の有効圧縮比Ecと同様に無次元の値であり、次式に示すように燃焼室5の圧縮上死点時における容積VTDCを燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCで除した値である。
Ec 2=f13(VTDC、VIVC)=VTDC/VIVC
…(43)
(43)式において燃焼室5の圧縮上死点時における容積VTDCは運転条件によらず一定であり、予めエンジンコントローラ31のメモリに格納しておけばよい。
ステップ183では吸気弁閉時期IVCから圧縮上死点に至る間の燃焼室5内の断熱圧縮による温度上昇率TCOMP 2を次式に示すように有効圧縮比Ec 2に基づいて算出する。
TCOMP 2=f14(Ec 2)
=Ec 2^(κ−1)…(44)
ただし、κ:比熱比、
図11と同様の特性のテーブルを予めエンジンコントローラ31のメモリに格納しておき、有効圧縮比Ec 2から当該テーブルを検索することにより温度上昇率TCOMP 2を求めることも可能である。
ステップ184ではシリンダ新気量MACYL、目標当量比TFBYA、内部不活性ガス量MRES、外部不活性ガス量MEGRから次式により燃焼室5の総ガス質量MGAS[g]を算出する。
MGAS=MACYL×(1+TFBYA/14.7)+MRES+MEGR
…(45)
(45)式右辺の括弧内の「1」は新気分、「TFBYA/14.7」は燃料分である。
ステップ185ではこの燃焼室5の総ガス質量MGASと、シリンダ新気量MACYL、目標当量比TFBYAを用い、次式により混合気の燃焼による温度上昇量(燃焼上昇温度)TBURN[K]を算出する。
TBURN={MACYL×TFBYA/14.7×BRk×Q}
/(Cv×MGAS)…(46)
ただし、Q :燃料の定発熱量、
BRk:シリンダ内燃料の燃焼質量割合、
Cv :定積比熱、
(46)式右辺の分子はシリンダ内燃料による発生総熱量[J]、分母は単位発生熱量当たりの温度上昇率[J/K]を意味している。すなわち、(46)式は熱力学の公式に当てはめた近似式である。
ここで、シリンダ内燃料の燃焼質量割合BRkとしては予め実験等で適合しておく。簡易的には例えば60%/2=30%を設定する。これは、本実施形態では燃焼質量割合BRが約60%に達するまでを燃焼期間として扱うので、そのちょうど中間の30%をBRkとして設定するものである。
燃料の定発熱量Qは燃料の種類により異なる値であるので、燃料の種類に応じ予め実験等で求めておく。定積比熱Cvは2〜3の値であり予め実験等で代表値を適合しておく。ただし、混合気に対してその組成、温度から定積比熱Cvの値を求めることで、一層の算出精度の向上が可能である。
ステップ186では、燃焼室5の圧縮上死点における温度TTDC[K]を、燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIに圧縮上死点までの温度上昇率TCOMP 2を乗じその乗算値に上記の燃焼上昇温度TBURNを加算することで、つまり次式により算出する。
TTDC=TINI×TCOMP 2+TBURN
…(47)
ステップ187では、この燃焼室5の圧縮上死点における温度TTDCと容積VTDC及び燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力PINI、容積VIVC及び温度TINIから次式により燃焼室5の圧縮上死点における圧力PTDC[K]を算出する。
PTDC=PINI×VIVC×TTDC/(VTDC×TINI)
…(48)
(48)式は状態方程式を用いて得たものである。すなわち、吸気弁閉時期における圧力、容積及び温度(PINI、VIVC、TINI)を用いて次の状態方程式が成立する。
PINI×VIVC=n・R・TINI…(補2)
ただし、n:モル数、
R:ガス定数、
圧縮上死点近傍では容積はほぼ等しいので、圧縮上死点での圧力、容積及び温度(PTDC、VTDC、TTDC)を用いて次の状態方程式が成立する。
PTDC×VTDC=n・R・TTDC…(補3)
この(補3)式と上記(補2)との両式からn・Rを消去しPTDCについて解くと、上記(48)式が得られる。
ステップ188では図10のステップ168と同様にして、次式(公知)により、主燃焼期間における層流燃焼速度SL2[m/sec]を算出する。
SL2=f15(TTDC、PTDC)
=SLstd×(TTDC/Tstd)2.18×(PTDC/Pstd)-0.16
…(49)
ただし、Tstd :基準温度[K]、
Pstd :基準圧力[Pa]、
SLstd:基準温度Tstdと基準圧力Pstdにおける基準層流燃焼速度
[m/sec]、
TTDC:燃焼室5の圧縮上死点における温度[K]、
PTDC:燃焼室5の圧縮上死点における圧力[Pa]、
(49)式の解説は上記(16)式と同様ある。すなわち、(49)式の基準温度Tstdと基準圧力Pstdと基準層流燃焼速度SLstdは実験により予め定められる値である。燃焼室5の通常の圧力である2bar以上の圧力下では、(49)式の圧力項(PTDC/Pstd)-0.16は小さな値となる。従って、圧力項(PTDC/Pstd)-0.16を一定値として、基準層流燃焼速度SLstdを基準温度Tstdのみで規定することも可能である。よって、基準温度Tstdが550[K]で、基準層流燃焼速度SLstdが1.0[m/sec]で、圧力項が0.7である場合の圧縮上死点における温度TTDCと層流燃焼速度SL2との関係は近似的に次式で定義することができる。
SL2=f16(TTDC)
=1.0×0.7×(TTDC/550)2.18
…(50)
ステップ189では主燃焼期間におけるガス流動の乱れ強さST2を算出する。このガス流動の乱れ強さST2も初期燃焼期間におけるガス流動の乱れ強さST1と同様に、エンジン回転速度NRPMの関数として次式で表すことができる。
ST2=f17(NRPM)=C2×NRPM …(20)
ただし、C2:定数、
乱れ強さST2を回転速度をパラメータとするテーブルから求めることも可能である。
ステップ190では、層流燃焼速度SL2[m/sec]と主燃焼期間におけるガス流動の乱れ強さST2とから、主燃焼期間における燃焼速度FLAME2[m/sec]を次式により算出する。
FLAME2=SL2×ST2 …(21)
ただし、SL2:層流燃焼速度[m/sec]、
(21)式は(18)式と同様、ガス乱れに伴う燃焼速度への寄与を考慮したものである。
ステップ191では、主燃焼期間BURN2[deg]を(19)式に類似した次式で算出する。
BURN2={(NRPM×6)×(BR2×VTDC)}
/(RPROBA×AF2×FLAME2) …(22)
ただし、AF2:火炎核の反応面積[m2]、
ここで、(22)式右辺のBR2は主燃焼期間の開始時期より終了時期までの燃焼質量割合の変化代である。初期燃焼期間の終了時期に燃焼質量割合BRが2%になり、その後、主燃焼期間が開始し、燃焼質量割合BRが60%に達して主燃焼期間が終了すると考えているので、BR2=60%−2%=58%を設定している。AF2は火炎核の成長行程における平均の反応面積であり、(19)式のAF1と同様に、予め実験的に定めた固定値とする。
主燃焼期間では圧縮上死点を挟んで燃焼室容積が変化する。つまり、主燃焼期間の開始時期と、主燃焼期間の終了時期のほぼ中央に圧縮上死点位置が存在するとみなすことができる。また、圧縮上死点付近ではクランク角が変化しても燃焼室容積があまり変化しない。そこで主燃焼期間での燃焼室容積としてはこの圧縮上死点での燃焼室容積VTDCで代表させることとしている。
図13は基本点火時期MBTCAL[degBTDC]を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。図10、図12のうち遅く実行されるフローに続けて実行する。
ステップ41では、図10のステップ171で算出されている初期燃焼期間BURN1[deg]、図12のステップ191で算出されている主燃焼期間BURN2[deg]、図5のステップ17で算出されている基準クランク角θPMAX[degATDC]、点火時期無駄時間相当クランク角IGNDEAD[deg]を読み込む。
上記の点火無駄時間相当クランク角IGNDEADの算出については図29のフローにより説明する(詳細は特願2003−109040を参照)。図29のフローは、図10、図12のフローで示した燃焼期間BURN1、BURNN2を算出した後、図13のフローの実行前に実行する。
ここでは、点火無駄時間DEADTIME[μsec]をまず算出し、その点火無駄時間DEADTIMEをクランク角に換算する。点火無駄時間DEADTIMEは点火指令を受けてから燃焼室5内で実際に燃焼が開始するまでの遅れ時間である。点火無駄時間に影響する因子は燃焼室5の圧力及び温度、混合気の空燃比の3つでありしかもこれら各因子の点火無駄時間への影響は互いに独立であるとして算出する。
図29においてステップ201では図13のステップ43で算出されている基本点火時期MBTCAL[degBTDC]、図5のステップ12で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVC[m3]、図5のステップ13で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINI[K]、図5のステップ14で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力PINI[Pa]、目標当量比TFBYA、エンジン回転速度NRPM[rpm]を読み込む。
ステップ202〜205では図10のステップ162〜167と同様にして燃焼開始時期における有効圧縮比Ec(=V0/VIVC)を算出し、その圧縮比Ecを用いて燃焼室5の燃焼開始時期における温度T0と、燃焼室5の燃焼開始時期における圧力P0とを算出する。
T0=TINI×Ec^(κ−1) …(10−1)
P0=PINI×Ec^κ …(10−2)
ただし、κ:比熱比、
ステップ206では燃焼室5の燃焼開始時期における圧力P0の関数として点火無駄時間基本値DEADTIME0[μsec]を次式により算出する。
DEADTIME0=f21(P0) …(10−3)
例えば燃焼室5の燃焼開始時期における圧力P0から図30を内容とするテーブルを検索することにより点火無駄時間基本値DEADTIME0を求めればよい。点火無駄時間基本値DEADTIME0は理論空燃比のときかつ燃焼室5の燃焼開始時期における温度が基準温度である場合の値で、図30のように圧力P0が高いほど大きくなる。高圧で点火無駄時間が長くなるのは、高圧下では混合気が気化しにくくなるためである。
ステップ207〜209は点火無駄時間に対する2つの補正係数を算出する部分である。すなわち、燃焼室5の燃焼開始時期における温度が基準温度より低下したり、混合気の空燃比が理論空燃比より外れるときには、点火無駄時間基本値DEADTIME0が実際と合わなくなるので、温度補正係数Kdtmtと空気過剰率補正係数Kdtmlmbとを導入している。
まずステップ207では燃焼室5の燃焼開始時期における温度T0の関数として点火無駄時間の温度補正係数Kdtmtを次式により算出する。
Kdtmt=f22(T0) …(10−4)
例えば燃焼室5の燃焼開始時期における温度T0から図31を内容とするテーブルを検索することにより温度補正係数Kdtmtを求めればよい。温度補正係数Kdtmtは図31のように基準温度以上のとき1.0であり、基準温度より低くなるほど大きくなる値である。すなわち、温度T0が低いほど点火無駄時間は長くなる。
ステップ208では目標当量比TFBYAの逆数を目標空気過剰率TLAMBDAとしてつまり次式により目標空気過剰率TLAMBDA求める。
TLAMBDA=1/TFBYA …(10−5)
ステップ209では、この目標空気過剰率TLAMBDAの関数として点火無駄時間の空気過剰率補正係数Kdtmlmbを次式により算出する。
Kdtmlmb=f23(TLAMBDA) …(10−6)
例えば目標空気過剰率TLAMBDAから図32を内容とするテーブルを検索することにより空気過剰率補正係数Kdtmlmbを求めればよい。空気過剰率補正係数Kdtmlmbは図32のように目標空気過剰率TLAMBDAが1のとき(つまり理論空燃比のとき)最小の1.0となり、これより大きくても小さくても大きくなる値である。すなわち、空燃比が理論空燃比よりリッチ側にずれてもリーン側にずれても点火無駄時間は長くなる。
ステップ210では点火無駄時間基本値DEADTIME0を2つの補正係数Kdtmt、Kdtmlmbで補正することにより、つまり次式により点火無駄時間DEADTIME[μsec]を算出する。
DEADTIME=DEADTIME0×Kdtmt×Kdtmlmb
…(10−7)
ここでは、圧力P0によるものを基本値(DEADTIME0)として温度T0と空燃比(TLAMBDA)により補正する形式としたが、これに限られるものでなく、温度T0によるものを基本値として圧力P0と空燃比(TLAMBDA)により補正したり、空燃比(TLAMBDA)によるものを基本値として温度T0と圧力P0により補正するようにしてもかまわない。また、点火無駄時間に影響する因子はこれに限られるものでなく、充填効率や不活性ガス率(内部不活性ガス率MRESや外部不活性ガス率)があるので、これらの因子をも考慮して点火無駄時間を算出することができる。ただし、5つの因子全てを考慮する必要は必ずしもなく、少なくとも1つの因子をパラメータとして点火無駄時間を算出すればよい。
最後にステップ211では、点火無駄時間相当クランク角IGNDEAD[deg]を算出する。点火無駄時間相当クランク角IGNDEADは、エンジンコントローラ31から点火コイル13の一次電流を遮断する信号を出力したタイミングから点火プラグ14が実際に点火するまでのクランク角区間で、次式により表すことができる。
IGNDEAD=f5(DEADTIME、NRPM) …(10−8)
(10−8)式は、エンジン回転速度NRPMから点火無駄時間DEADTIMEに相当するクランク角である点火無駄時間相当クランク角IGNDEADを算出するためのものである。
図13に戻りステップ42では、初期燃焼期間BURN1と主燃焼期間BURN2の合計を燃焼期間BURN[deg]として算出する。
ステップ43では次式により基本点火時期MBTCAL[degBTDC]を算出する。
MBTCAL=BURN−θPMAX+IGNDEAD …(23)
ステップ44では、この基本点火時期MBTCALから点火無駄時間相当クランク角IGNDEADを差し引いた値を前回燃焼開始時期MBTCYCL[degBTDC]として算出する。
今サイクルの点火時期指令値としてステップ43で算出された基本点火時期MBTCALが用いられたとすると、次サイクルの点火時期になるまでの間、ステップ44で算出された前回燃焼開始時期MBTCYCLが図10のステップ162において用いられる。
図14は燃焼室5内の内部不活性ガス率MRESFRを算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。このフローは上記図5のフローに先立って実行する。
ステップ51ではエアフローメータ32の出力と目標当量比TFBYAを読み込む。ステップ52ではエアフロメータ32の出力に基づいて、燃焼室5に流入する新気量(シリンダ新気量)MACYLを算出する。このシリンダ新気量MACYLの算出方法については公知の方法を用いればよい(特開2001−50091号公報参照)。
ステップ53では、燃焼室5内の内部不活性ガス量MRESを算出する。この内部不活性ガス量MRESの算出については、図15のフローにより説明する。
図15(図14ステップ53のサブルーチン)においてステップ61では、燃焼室5内の排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLを算出する。この不活性ガス量MRESCYLの算出についてはさらに図16のフローにより説明する。
図16(図15ステップ61のサブルーチン)においてステップ71では、排気弁閉時期EVC[degBTDC]、温度センサ45により検出される排気温度TEXH[K]、圧力センサ46により検出される排気圧力PEXH[kPa]を読み込む。
ここで、吸気弁閉時期IVCが吸気VTC機構27に与える指令値から既知であったように、排気弁閉時期EVCも排気VTC機構28に与える指令値から既知である。
ステップ72では燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける容積VEVCを算出する。これは吸気弁閉時期IVCにおける容積VIVCと同様に、排気弁閉時期をパラメータとするテーブルを検索することにより求めればよい。すなわち、排気弁VTC機構28を備える場合には、排気弁閉時期EVCから図23に示すテーブルを検索することにより、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける容積VEVCを求めればよい。排気VTC機構28を備えないときには定数で与えることができる。
また、図示しないが圧縮比を変化させる機構を有する場合には、圧縮比の変化量に応じた排気弁閉時期における燃焼室容積VEVCをテーブルから求める。排気VTC機構28に加えて圧縮比を変化させる機構をも有する場合には、排気弁閉時期と圧縮比変化量とに応じたマップを検索することにより排気弁閉時期における燃焼室容積を求める。
ステップ73では、目標当量比TFBYAから図24に示すテーブルを検索することにより、燃焼室5内の不活性ガスのガス定数REXを求める。図24に示すように、不活性ガスのガス定数REXは目標当量比TFBYAが1.0のとき、つまり理論空燃比のとき最も小さく、これより大きくても小さくても大きくなる。
ステップ74では、排気温度TEXHに基づいて燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける温度TEVCを推定する。簡単には排気温度TEXHをそのままTEVCとおけばよい。なお、燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEVCは、インジェクタ21の燃料噴射量に応じた熱量により変化するため、このような特性をも加味すれば、TEVCの算出精度が向上する。
ステップ75では、排気圧力PEXHに基づいて燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける圧力PEVCを算出する。簡単には排気圧力PEXHをPEVCと置けばよい。
ステップ76では、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける容積VEVC、排気弁閉時期EVCにおける温度TEVC、排気弁閉時期EVCにおける圧力PEVC及び不活性ガスのガス定数REXから、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLを次式により算出する。
MRESCYL=(PEVC×VEVC)/(REX×TEVC) …(24)
このようにして燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLの算出を終了したら図15に戻り、ステップ62で吸排気弁15、16のオーバーラップ(図では「O/L」と略記する)中に排気側から吸気側へ吹き返す不活性ガス量であるオーバーラップ中吹き返し不活性ガス量MRESOLを算出する。
この不活性ガス量MRESOLの算出については図17のフローにより説明する。
図17(図15ステップ62のサブルーチン)においてステップ81では、吸気弁開時期IVO[degBTDC]と、排気弁閉時期EVC[degBTDC]、図16のステップ74で算出されている燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける温度TEVCを読み込む。
ここで、吸気弁開時期IVOは、吸気弁閉時期IVCより吸気弁15の開き角だけ前の時期となるので、吸気弁閉時期IVCより吸気弁15の開き角(予め分かっている)とから求めることができる。
ステップ82では吸気弁開時期IVOと排気弁閉時期EVCとから、吸排気弁のオーバーラップ量VTCOL[deg]を次式により算出する。
VTCOL=IVO+EVC …(25)
例えば、吸気VTC機構27用アクチュエータへの非通電時に吸気弁開時期IVOが吸気上死点位置にあり、吸気VTC機構27用アクチュエータへの通電時に吸気弁開時期が吸気上死点より進角する特性であり、かつ排気VTC機構28用アクチュエータへの非通電時に排気弁閉時期EVCが排気上死点にあり、排気弁VTC機構28用アクチュエータへの通電時に排気弁閉時期EVCが排気上死点より進角する特性である場合には、IVOとEVCの合計が吸排気弁のオーバーラップ量VTCOLとなる。
ステップ83では、吸排気弁のオーバーラップ量VTCOLから、図25に示すテーブルを検索することによりオーバーラップ中の積算有効面積ASUMOLを算出する。図25に示すようにオーバーラップ中の積算有効面積ASUMOLは吸排気弁のオーバーラップ量VTCOLが大きくなるほど大きくなる値である。
ここで、図26は、吸排気弁のオーバーラップ中の積算有効面積ASUMOLの説明図であり、横軸はクランク角、縦軸は吸気弁12と排気弁15とのそれぞれの開口面積を示している。オーバーラップ中の任意の時点における有効開口面積は、排気弁開口面積と吸気弁開口面積とのうち小さい方とする。オーバーラップ中の全期間における積算有効面積ASUMOLは、吸気弁15及び排気弁16が開いている期間の積分値(図中の斜線部)である。
このようにオーバーラップ中積算有効面積ASUMOLを算出することで、吸気弁15と排気弁16とのオーバーラップ量を1つのオリフィス(流出孔)であると近似することができ、排気系の状態と吸気系の状態とからこの仮想オリフィスを通過するガス流量を簡略的に算出し得る。
ステップ84では、目標当量比TFBYAと、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける温度TEVCとから、図27に示すマップを検索することにより、燃焼室5に残留する不活性ガスの比熱比SHEATRを算出する。図27に示したように、燃焼室に残留する不活性ガスの比熱比SHEATRは目標当量比TFBYAが1.0の近傍にあるときが最も小さくなり、それより大きくても小さくても大きくなる。また、目標当量比TFBYAが一定の条件では、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける温度TEVCが高くなるほど小さくなる。
ステップ85では過給判定フラグTBCRG及びチョーク判定フラグCHOKEを設定する。この過給判定フラグTBCRG及びチョーク判定フラグCHOKEの設定については図18のフローにより説明する。
図18(図17ステップ85のサブルーチン)においてステップ101では、吸気圧力センサ44により検出される吸気圧力PINと、図16のステップ75で算出されている燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける圧力PEVCを読み込む。
ステップ102では、吸気圧力PINと、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける圧力PEVCとから、次式により吸気排気圧力比PINBYEXを算出する。
PINBYEX=PIN/PEVC …(26)
この吸気排気圧力比PINBYEXは無名数であり、これと1をステップ103で比較する。吸気排気圧力比PINBYEXが1以下の場合には過給無しと判断し、ステップ104に進んで過給判定フラグTBCRG(ゼロに初期設定)=0とする。
吸気排気圧力比PINBYEXが1より大きい場合には過給有りと判断し、ステップ105へ進んで過給判定フラグTBCRG=1とする。
ステップ106では、図14のステップ51で読み込まれている目標当量比TFBYAから図28に示すテーブルを検索することにより、混合気の比熱比MIXAIRSHRを求め、これをステップ107で不活性ガスの比熱比SHEATRと入れ換える。図28に示したように、混合気の比熱比MIXAIRSHRは、目標当量比TFBYAが小さくなるほど大きくなる値である。
ステップ106、107において、不活性ガスの比熱比SHEATRを混合気の比熱比MIXAIRSHRに置き換えるのは、ターボ過給や慣性過給等の過給時を考慮したものである。すなわち、過給時には吸排気弁のオーバーラップ中のガス流れが吸気系から排気系へ向かう(吹き抜ける)ので、この場合においては、上記の仮想オリフィスを通過するガスの比熱比を不活性ガスの比熱比から混合気の比熱比に変更することで、吹き抜けるガス量を精度良く推定し、内部不活性ガス量を精度良く算出するためである。
ステップ108では、図17のステップ84または図18のステップ106、107で算出している不活性ガスの比熱比SHEATRに基づき、最小と最大とのチョーク判定しきい値SLCHOKEL、SLCHOKEHを次式により算出する。
SLCHOKEL={2/(SHEATR+1)}
^{SHEATR/(SHEATR−1)} …(27a)
SLCHOKEH={−2/(SHEATR+1)}
^{−SHEATR/(SHEATR−1)}…(27b)
これらのチョーク判定しきい値SLCHOKEL、SLCHOKEHは、チョークする限界値を算出している。
ステップ108において、(27a)右辺、(27b)右辺の各累乗計算が困難な場合には、(27a)、(27b)式の算出結果を、最小チョーク判定しきい値SLCHOKELのテーブルと最大チョーク判定しきい値SLCHOKEHのテーブルとしてそれぞれエンジンコントローラ31のメモリに予め記憶しておき、不活性ガスの比熱比SHEATRから当該テーブルを検索することにより求めてもよい。
テップ109では、吸気排気圧力比PINBYEXが、最小チョーク判定しきい値SLCHOKEL以上でかつ最大チョーク判定しきい値SLCHOKEH以下の範囲内にあるか否か、すなわちチョーク状態にないか否かを判定する。吸気排気圧力比PINBYEXが範囲内にある場合にはチョーク無しと判断し、ステップ110に進んでチョーク判定フラグCHOKE(ゼロに初期設定)=0とする。
吸気排気圧力比P1NBYEXが範囲内にない場合にはチョーク有りと判断し、ステップ111に進んでチョーク判定フラグCHOKE=1とする。
このようにして過給判定フラグとチョーク判定フラグの設定を終了したら図17に戻り、ステップ86〜88で次の4つの場合分けを行う。
〈1〉過給判定フラグTBCRG=0かつチョーク判定フラグCHOKE=0のとき
〈2〉過給判定フラグTBCRG=0かつチョーク判定フラグCHOKE=0のとき
〈3〉過給判定フラグTBCRG=0かつチョーク判定フラグCHOKE=1のとき
〈4〉過給判定フラグTBCRG=1かつチョーク判定フラグCHOKE=0のとき
そして、上記〈1〉のときにはステップ89に進んで、過給無しかつチョーク無し時のオーバーラップ中の平均吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp1を、上記〈2〉のときにはステップ90に進んで過給無しかつチョーク有り時のオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp2を、上記〈3〉のときにはステップ91に進んで過給有りかつチョーク無し時のオーバーラップ中の平均吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp3を、上記〈4〉のときにはステップ92に進んで過給有りかつチョーク有り時の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp4をそれぞれ算出し、算出結果をオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
ここで、過給無しかつチョーク無し時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp1の算出について図19のフローにより説明する
図19(図17ステップ89のサブルーチン)においてステップ121では、図16のステップ73、75で算出されている不活性ガスのガス定数REX、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCを読み込む。
ステップ122では、不活性ガスのガス定数REXと、図17のステップ81で読み込まれている燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEVCとに基づき、後述するガス流量の算出式に用いる密度項MRSOLDを次式により算出する。
MRSOLD=SQRT{1/(REX×TEVC)} …(28)
ここで、(28)式右辺の「SQRT」はすぐ右のカッコ内の値の平方根を計算させる関数である。
なお、密度項MRSOLDの平方根計算が困難な場合は、(28)式の算出結果をマップとしてエンジンコントローラ31のメモリに予め記憶しておき、ガス定数REXと燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEVCとからそのマップを検索することにより求めてもよい。
ステップ123では、図17のステップ84で算出されている不活性ガスの比熱比SHEATRと、図18のステップ102で算出されている吸気排気圧力比PINBYEXとに基づき、後述するガス流量の算出式に用いる圧力差項MRSOLPを次式により算出する。
MRSOLP=SQRT[SHEATR/(SHEATR−1)
×{PTNBYEX^(2/SHEATR)
−PTNBYEX^((SHEATR+1)/SHEATR)}]…(29)
ステップ124では、これら密度項MRSOLD、圧力差項MRSOLPと、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCとから、過給無しかつチョーク無し時のオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp1を次式(ガス流量の算出式)により算出し、その算出値をステップ125でオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
MRESOLtmp1=1.4×PEVC×MRSOLD×MRSOLP…(30)
次に、過給無しかつチョーク有り時の吹き返し不活性ガス流量の算出について図20のフローにより説明する
図20(図17ステップ90のサブルーチン)においてステップ131、132では、図19のステップ121、122と同様にして、不活性ガスのガス定数REX、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCを読み込み、これらから前述の(28)式により密度項MRSOLDを算出する。
ステップ133では、図17のステップ84で算出されている不活性ガスの比熱比SHEATRに基づき、チョーク時圧力差項MRSOLPCを次式により算出する。
MRSOLPC=SQRT[SHEATR×{2/(SHEATR+1)} ^{(SHEATR+1)/〔SHEATR−1)}]…(31)
なお、(31)式の累乗計算と平方根計算とが困難な場合には、(31)式の算出結果を、チョーク時圧力差項MRSOLPCのテーブルとしてエンジンコントローラ31のメモリに予めに記憶しておき、不活性ガスの比熱比SHEATRからそのテーブルを検索することにより求めてもよい。
ステップ134では、これら密度項MRSOLD、チョーク時圧力差項MRSOLPCと、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCとから、過給無しかつチョーク有り時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp2を次式により算出し、その算出値をステップ135でオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
MRESOLtmp2=PEVC×MRSOLD×MRSOLPC …(32)
次に、過給有りかつチョーク無し時の吹き返しガス流量の算出について図21のフローにより説明する
図21(図17ステップ91のサブルーチン)においてステップ141では、吸気圧力センサ44により検出される吸気圧力PINを読み込む。
ステップ142では、図18のステップ106、107で算出されている不活性ガスの比熱比SHEATRと、図18のステップ102で算出されている吸気排気圧力比PINBYEXとから、過給時圧力差項MRSOLPTを次式により算出する。
MRSOLPT=SQRT[SHEATR/(SHEATR−1)
×{PINBYEX^(−2/SHEATR)
−PINBYEX^(−(SHEATR+1)/SHEATR)}]…(33)
なお、(33)式の累乗計算と平方根計算とが困難な場合は、(33)式の算出結果を、過給時圧力差項MRSOLPTのマップとしてエンジンコントローラ31のメモリに予め記憶しておき、不活性ガスの比熱比SHEATRと吸気排気圧力比PINBYEXとからそのマップを検索することにより求めてもよい。
ステップ143では、この過給時圧力差項MRSOLPTと吸気圧力PINとに基づいて、過給有りかつチョーク無し時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp3を次式により算出し、その算出値をステップ144でオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
MRESOLtmp3=−0.152×PIN×MRSOLPT …(34)
ここで、(34)式の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp3は負の値とすることで、オーバーラップ中に吸気系から排気系へ吹き抜ける混合気のガス流量を表すことができる。
次に、過給有りかつチョーク有り時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量の算出について図22のフローにより説明する
図22(図17ステップ92のサブルーチン)においてステップ151、152では、図21のステップ141と同じく吸気圧力センサ44により検出される吸気圧力PINを読み込むと共に、図20のステップ132と同じくチョーク時圧力差項MRSOLPCを前述の(31)式により算出する。
ステップ153では、このチョーク時圧力差項MRSOLPCと吸気圧力PINとに基づいて、過給有りかつチョーク有り時のオーバーラップ中吹き返しガス流量MRESOLtmp4を次式により算出し、その算出値をステップ154でオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
MRESOLtmp4=−0.108×PIN×MRSOLPC …(35)
ここで、(35)式の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp4も、MRESOLtmp3と同様、負の値とすることで、オーバーラップ中に吸気側から排気側へ吹き抜ける混合気のガス流量を表すことができる。
このようにして、過給の有無とチョークの有無との組み合わせにより場合分けした、オーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpの算出を終了したら図17に戻り、ステップ93においてこのオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpとオーバーラップ期間中の積算有効面積ASUMOLとから、次式によりオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLを算出する。
MRESOL=(MRESOLtmP×ASUMOL×60)
/(NRPM×360) …(36)
このようにしてオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLの算出を終了したら図15に戻り、ステップ63において燃焼室5内の排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLと、このオーバーラップ中吹き返しガス量MRESOLとを加算して、つまり次式により内部不活性ガス量MRESを算出する。
MRES=MRESCYL+MRESOL …(37)
前述のように、過給有り時にはオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量(MRESOLtmp3、MRESOLtmp4)が負となるため、上記(36)式のオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLも負となり、このとき(37)式によれば、オーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLの分だけ内部不活性ガス量が減じられる。
このようにして内部不活性ガス量MRESの算出を終了したら図14に戻り、ステップ54においてこの内部不活性ガス量MRESと、目標当量比TFBYAとを用いて、次式により内部不活性ガス率MRESFR(燃焼室5内の総ガス量に対する内部不活性ガス量の割合)を算出する。
MRESFR=MRES
/{MRES+MACYL×(1+TFBYA/14.7)}…(38)
これで内部不活性ガス率MRESFRの算出を総て終了する。
このように本実施形態によれば、内部不活性ガス量MRESを、燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYLと、吸排気弁のオーバーラップ中の吹き返しガス量MRESOLとで構成し(図15のステップ63参照)、この場合に、燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEV及び圧力PEVCを算出し(図16のステップ74、75)、これら温度TEVC、圧力PEVCと不活性ガスのガス定数REXとに基づいて状態方程式(上記(24)式)により燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYLを算出する(図16のステップ76参照)ようにしたので、特に、燃焼室5内部の状態量(PEVC、VEVC、TEVC)が刻々と変化する過渡運転時においても、運転条件に関わらず精度良く燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYLを算出(推定)できる。
また、燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEVC及び圧力PEVC、不活性ガスのガス定数REX及び比熱比SHEATR、吸気圧力PINに基づいてオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量(MRESOLtmp1、MRESOLtmp2)を算出し(図19、図20参照)、このガス流量にオーバーラップ中の積算有効面積ASUMOLを乗算して、オーバーラップ中の吹き返しガス量MRESOLを算出する(図17のステップ93参照)ようにしたので、精度良くオーバーラップ中吹き返しガス量MRESOLを算出(推定)できる。
このように、燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYL、オーバーラップ中吹き返しガス量MRESOLとも精度良く算出(推定)できると、これらの和である内部不活性ガス量MRESも精度良く算出(推定)できることになり、この精度良く推定することが可能となった内部不活性ガス量MRESに基づいて算出される内部不活性ガス率MRESFRを、点火時期の算出に用いる燃焼室5内の吸気弁閉時期IVCにおける温度TINIに活かすことで(図5のステップ13参照)、燃焼室5内の吸気弁閉時期IVCにおける温度TINIを精度良く算出できる。また、精度良く推定することが可能となった内部不活性ガス量MRESを、燃料噴射量、バルブ開閉タイミング(オーバーラップ量)などにも活かすことで、エンジンを適切に制御することが可能である。
また、不活性ガスのガス定数REXや不活性ガスの比熱比SHEATRは、目標当量比TFBYAに応じた値としているので(図24、図27参照)、理論空燃比を外れた空燃比での運転時(例えば理論空燃比よりもリーンな空燃比で運転を行うリーン運転時、冷間始動時のようにエンジンが元々不安定な状態を安定させるために理論空燃比の空燃比よりもリッチ側の空燃比で運転するエンジン始動直後、同じく大きな出力が要求されるために理論空燃比の空燃比よりもリッチ側の空燃比で運転する全負荷運転時)にも、燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYL、オーバーラップ中吹き返しガス量MRESOL、これらの合計である内部不活性ガス量MRES、これに基づく内部不活性ガス率MRESFRを精度良く算出できる。
また、オーバーラップ期間の積算有効面積ASUMOLを仮想オリフィスの面積とし、この仮想オリフィスを排気が燃焼室5から吸気系へと吹き抜けると仮定しているので、オーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLの算出が簡略化されている。
これで燃焼室5内の内部不活性ガス率MRESFRの算出についての説明を終了し、次にはエンジンの発生する軸トルク推定値の算出について説明する。
図2のステップ2では軸トルク推定値Trqest1、Trqest2を算出する。ここでは、基本点火時期MBTCALで点火したときの軸トルク推定値と、基本点火時期MBTCALよりリタード(遅角)された点火時期で点火したときの軸トルク推定値との2種類の軸トルク推定値を算出するので、基本点火時期MBTCALで点火したときの軸トルク推定値を第1軸トルク推定値Trqest1、基本点火時期MBTCALよりリタードされた点火時期で点火したときの軸トルク推定値を第2軸トルク推定値Trqest2として区別する。
また、各軸トルク推定値を求める過程で初期燃焼期間BURN1、点火無駄時間相当クランク角IGNDEAD、主燃焼期間BURN2を算出するが、これらも第1軸トルク推定値Trqest1を求める過程で算出するBURN1、IGNDEAD、BURN2に「ref1」を付して「BURN1ref1」、「IGNDEADref1」、「BURN2ref1」とし、これらをそれぞれ第1初期燃焼期間、第1点火無駄時間相当クランク角、第1主燃焼期間という。また、第2軸トルク推定値Trqest2を求める過程で算出するBURN1、IGNDEAD、BURN2に「ref2」を付して「BURN1ref2」、「IGNDEADref2」、「BURN2ref2」とし、これらをそれぞれ第2初期燃焼期間、第2点火無駄時間相当クランク角、第2主燃焼期間という。
さらに、各軸トルク推定値を求める過程で算出する燃焼質量割合の近似式、図示正仕事推定値をそれぞれ算出するが、これらも第1軸トルク推定値Trqest1を求める過程で算出する燃焼質量割合の近似式、図示正仕事推定値にそれぞれ「1」を付して「X1’」、「Wpos1」とし、これらをそれぞれ燃焼質量割合の第1近似式、第1図示正仕事推定値という。また、第2軸トルク推定値Trqest2を求める過程で算出する燃焼質量割合の近似式、図示正仕事推定値にそれぞれ「2」を付して「X2’」、「Wpos2」とし、これらをそれぞれ燃焼質量割合の第2近似式、第2図示正仕事推定値という。
上記の第1軸トルク推定値Trqest1の算出については図33(A)のフローにより、上記の第2軸トルクTrqest2の算出については図33(B)のフローにより説明する。この場合に、点火時期が相違するだけで軸トルク推定値の算出方法そのものは変わらないので、第1軸トルク推定値Trqest1の算出について詳述し、その後に第2軸トルク推定値Trqest2の算出に言及する。
図33(A)(図2のステップ2のサブルーチン)においてステップ221では図13のステップ43で算出されている基本点火時期MBTCAL[degBTDC]を読み込む。
ステップ222では点火時期θign[degBTDC]の値を点火時期前回値θignz[degBTDC]に移すと共に、基本点火時期MBTCALを点火時期θign[degBTDC]に入れる。
ステップ223では第1初期燃焼期間BURN1ref1、第1主燃焼期間BURN2ref1、第1点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref1の各値を第1初期燃焼期間前回値BURN1ref1z、第1主燃焼期間前回値BURN2ref1z、第1点火無駄時間相当クランク角前回値IGNDEADref1zに移す。
ここで、BURN1ref1、BURN2ref1、IGNDEADref1の値は後述するステップ224〜226で算出される値である。従って、初回はこれらBURN1ref1、BURN2ref1、IGNDEADref1は算出されていないので、BURN1ref1zには図10のステップ171により算出されているBURN1の値を、BURN2ref1zには図12のステップ191により算出されているBURN2の値を、IGNDEADref1zには図29のステップ211により算出されているIGNDEADの値を入れておく。
ステップ224〜226では第1初期燃焼期間BURN1ref1、第1点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref1、第1主燃焼期間BURN2ref1を算出する。これらの算出については図34、図35、図36のフローにより説明する。
まず、図34から説明すると、第1初期燃焼期間BURN1ref1の算出方法の基本的な考え方は図10に示した初期燃焼期間の算出方法と同じである。
図34(図33(A)のステップ224のサブルーチン)においてステップ241では図14のステップ52、53で算出されているシリンダ新気量MACYL[kg]及び内部不活性ガス量MRES[kg]、燃料量QINJ[kg]、温度センサ43により検出されるコレクタ内温度TCOL[K]、温度センサ45より検出される排気温度TEXH[K]、圧力センサ44により検出されるコレクタ内圧力PCOL[Pa]、図5のステップ12で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVC[m3]、エンジン回転速度NRPM[rpm]、図5のステップ15で算出されている反応確率RPROBA[%]、図33(A)のステップ222、223で得られている点火時期前回値θignz[degBTDC]、第1初期燃焼期間前回値BURN1ref1z[deg]、第1主燃焼期間前回値BURN2ref1z[deg]、第1点火無駄時間相当クランク角前回値IGNDEADRf1z[deg]を読み込む。
ステップ242では点火時期前回値θignzを用いて燃焼室5の燃焼質量割合1%時における容積Vmb1p[m3]を次式により算出する。
Vmb1p=f25(θignz−IGNDEADref1z
−BURN1ref1z/2)
…(61)
ステップ243では燃焼質量割合1%時の有効圧縮比Emb1pを次式により算出する。
Emb1p=Vmb1p/VIVC …(62)
ステップ244ではシリンダ新気量MACYL[kg]をWIDRY[kg]に、内部不活性ガス量MRES[kg]をMASSZ[kg]に移す。これらWIDRY、MASSZは、軸トルク推定値の算出にのみ用いるために導入したもので、WIDRYはシリンダ新気量、MASSZは内部不活性ガス量である。
ステップ245では燃焼室5の圧縮開始時温度TC0[K]を次式により算出する。
TC0={(WIDRY+QINJ)×TCOL+MASSZ×TEXH}
/(WIDRY+QINJ+MASSZ) …(63)
ここでは、不活性ガスと新気の比熱を等しくして式を簡略化している。
ステップ246では燃焼室5の圧縮開始時圧力PC0[Pa]を算出する。これは圧力センサ44により検出される吸気弁閉時期IVCのコレクタ内圧力PCOLをPC0とすればよい。
ステップ247、248では燃焼質量割合1%時の瞬間圧縮比であるEmb1pと、燃焼質量割合1%時の燃焼質量割合であるBR1pとを用いて、燃焼室5内の燃料が燃焼したときの平均温度TC[K]と平均圧力PC[Pa]を次式により算出する。
TC=TC0×Emb1p^0.35
+CF#×QINJ×BR1p/(MASSZ+WIDRY+QINJ)
…(64)
PC=PC0×Emb1p^1.35×TC/TC0/Emb1p^0.35
…(65)
ただし、CF#:燃料の低位発熱量、
(64)、(65)式は燃焼室5内でガスが断熱圧縮されると共に定容変化で燃焼すると仮定したときの式である。すなわち、(64)式右辺第1項が断熱圧縮後の温度を、(65)式右辺のPC0×Emb1p^1.35が断熱圧縮後の圧力を、これに対して(64)式右辺第2項が定容変化で燃焼により温度上昇した分を、(65)式右辺のTC/TC0/Emb1p^0.35が定容変化での燃焼による圧力上昇率を表している。
ステップ249〜252により第1初期燃焼期間を算出するための操作は図10のステップ168〜171により初期燃焼期間を算出するための操作と同様である。異なるのは図10のステップ168において燃焼室5の燃焼開始時期における温度T0と圧力P0とを用いて層流燃焼速度SL1を算出したのに対して、図34のステップ249では上記(64)式、(65)式で求めた温度TCと圧力PCを用いて層流燃焼速度SL1を算出する点、また図10のステップ171において初期燃焼期間BURN1の終了時期における燃焼質量割合であるBR1(=2%)と、燃焼室5の燃焼開始時期における容積であるV0とを用いて初期燃焼期間BURN1を算出したのに対して、図34のステップ252では初期燃焼期間の中間時期における燃焼質量割合である1%(=BR1p)と、燃焼室5の燃焼質量割合1%時における容積であるVmb1pとを用いて第1初期燃焼期間BURN1ref1を算出する点である。すなわち、ステップ249では第1初期燃焼期間における層流燃焼速度SL1[m/sec]を、またステップ252では第1初期燃焼期間BURN1ref1[deg]をそれぞれ次式により算出する。
SL1=SLstd×(TC/Tstd)2.18×(PC/Pstd)-0.16 …(66)
ただし、Tstd :基準温度[K]、
Pstd :基準圧力[Pa]、
SLstd:基準温度Tstdと基準圧力Pstdにおける基準層流燃焼
速度[m/sec]、
BURN1ref1={(NRPM×6)×BR1p×Vmb1p}
/(RPROBA×AF1×FLAME1) …(67)
ただし、AF1 :火炎核の反応面積(固定値)[m2]、
図35(図33(A)のステップ225のサブルーチン)のフローは第1点火無駄時間相当クランク角IGNDEADを算出するためのもので、その算出方法は前述した図29に示す点火無駄時間相当クランク角IGNDEADの算出方法と基本的に変わらない。
図29に示す点火無駄時間相当クランク角IGNDEADの算出方法と異なるのは、図29においては燃焼室5の燃焼開始時期における容積V0を算出するのに前回燃焼開始時期MBTCYCLを用いたのに対して(図29のステップ201、202参照)、図35では点火時期θignを用いる(図35のステップ261、262参照)点だけである。従って異なる点を主に説明すると、図35のステップ261において図33(A)のステップ222で得られている点火時期θign[degBTDC]、図5のステップ12で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVC[m3]、図5のステップ13で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINI[K]、図5のステップ14で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力PINI[Pa]、目標当量比TFBYA、エンジン回転速度NRPM[rpm]を読み込み、このうち点火時期θignを用いステップ262において燃焼室5の燃焼開始時期における容積V0[m3]を算出する。
ステップ263〜265では図29のステップ203〜205と同様にして燃焼室5の燃焼開始時期における温度T0[K]と、燃焼室5の燃焼開始時期における圧力P0[Pa]とを算出する。
図36(図33(A)のステップ226のサブルーチン)のフローは第1主燃焼期間を算出するためのもので、ここでの第1主燃焼期間の算出方法の基本的な考え方は図12に示した主初期燃焼期間の算出方法と同じである。
ステップ281では図14のステップ52、53で算出されているシリンダ新気量MACYL[kg]及び内部不活性ガス量MRES[kg]、燃料量QINJ[kg]、温度センサ43により検出されるコレクタ内温度TCOL[K]、温度センサ45より検出される排気温度TEXH[K]、圧力センサ44により検出されるコレクタ内圧力PCOL[Pa]、図5のステップ12で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVC[m3]、エンジン回転速度NRPM[rpm]、図5のステップ15で算出されている反応確率RPROBA[%]、図33(A)のステップ222で得られている点火時期θign、点火時期前回値θignz、図33(A)のステップ223で得られている第1初期燃焼期間前回値BURN1ref1z[deg]、第1主燃焼期間前回値BURN2ref1z[deg]、第1点火無駄時間相当クランク角前回値IGNDEADref1z[deg]、図34のステップ252で算出されている第1初期燃焼期間BURN1ref1[deg]、図35のステップ271で算出されている第1点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref1[deg]を読み込む。
ステップ282〜285は燃焼室5の燃焼質量割合31%時における容積Vmb31pを算出する部分である。まずステップ282では燃焼質量割合が31%のときのクランク角の前回値θmb31pz[degBTDC]を次式により算出する。
θmb31pz=θignz−IGNDEADref1z−BURN1ref1z
−BURNN2ref1z/2
…(68)
ステップ283では燃焼質量割合が2%のときのクランク角の前回値と、燃焼質量割合が2%のときのクランク角の今回値との差θ2pdif[deg]を次式により算出する。
θ2pdif=(θignz−IGNDEADref1z−BURN1ref1z)
−(θign−IGNDEADref1−BURN1ref1) …(69)
ステップ284では燃焼質量割合が31%のときのクランク角の今回値θmb31p[degBTDC]を次式により算出する。
θmb31p=θmb31pz−θ2pdif …(70)
ステップ285ではこのクランク角θmb31pから燃焼室5の燃焼質量割合31%時における容積Vmb31p[m3]を次式により算出する。この操作は図34のステップ242の操作と同様である。
Vmb31p=f25(θmb31p) …(71)
ステップ286ではこの燃焼室5の燃焼質量割合31%時における容積Vmb31pから燃焼質量割合31%時の有効圧縮比Emb31pを次式により算出する。
Emb31p=Vmb31p/VIVC …(72)
ステップ287〜291によりTCとPCを算出するための操作は図34のステップ244〜248によりTCとPCを算出するための操作と同様である。異なるのは図34のステップ247、248においては燃焼質量割合1%時の圧縮比であるEmb1pと、燃焼質量割合1%時の燃焼質量割合であるBR1pとを用いたのに対して、図36のステップ290、291では燃焼質量割合31%時の圧縮比であるEmb31pと、燃焼質量割合31%時の燃焼質量割合であるBR31pとを用いる点である。すなわち、図36のステップ290、291では燃焼室5内の燃料が燃焼したときの平均温度TC[K]と平均圧力PC[Pa]を次式により算出する。
TC=TC0×Emb31p^0.35
+CF#×QINJ×BR31p/(MASSZ+WIDRY+QINJ)
…(73)
PC=PC0×Emb31p^1.35×TC/TC0/Emb31p^0.35
…(74)
ただし、CF#:燃料の低位発熱量、
ステップ292〜295により第1主燃焼期間を算出するための操作は図12のステップ188〜191により主燃焼期間を算出するための操作と同様である。異なるのは図12のステップ188において燃焼室5の圧縮上死点時期における温度TTDCと圧力PTDCとを用いたのに対して、図36のステップ292では上記(73)式、(74)式で求めた温度TCと圧力PCとを用いる点、また図12のステップ191において主燃焼期間BURN2の終了時期における燃焼質量割合であるBR2(=58%)と、燃焼室5の圧縮上死点時期における容積であるVTDCとを用いたのに対して、図36のステップ295では主燃焼期間の中間時期の近傍における燃焼質量割合である31%(=BR31p)と、燃焼室5の燃焼質量割合31%時における容積であるVmb31pとを用いる点である。すなわち、ステップ292では第1主燃焼期間における層流燃焼速度SL2[m/sec]を、またステップ295では第1主燃焼期間BURN2ref1[deg]をそれぞれ次式により算出する。
SL2=SLstd×(TC/Tstd)2.18×(PC/Pstd)-0.16 …(75)
ただし、Tstd :基準温度[K]、
Pstd :基準圧力[Pa]、
SLstd:基準温度Tstdと基準圧力Pstdにおける基準層流燃焼
速度[m/sec]、
BURN2ref1={(NRPM×6)×BR31p×Vmb31p}
/(RPROBA×AF2×FLAME1) …(76)
ただし、AF2 :火炎核の反応面積(固定値)[m2]、
このようにして、第1初期燃焼期間BURN1ref1、第1点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref1、第1主燃焼期間BURN2ref1の算出を終了したら図33(A)のステップ227に戻り燃焼質量割合の第1近似式X1’を算出する。この第1近似式の算出については図37のフローにより説明する。
ここで、図37のフローを説明する前に、どのようにして燃焼質量割合の近似式を求めたのかを先に説明する。
燃焼質量割合X[%]は一般にクランク角θ[deg]を変数とする指数関数として次式により記述されることが多い。
X=1−exp[−a・{(θ−θs)/θB}^(m+1)]
…(補4)
ただし、θs:熱発生開始クランク角、
θB:燃焼期間相当クランク角、
a、m:プロファイルを決める定数、
(補4)式の定数a、mは燃焼室形状や点火プラグ位置、及び燃焼室内のガス流動特性等、エンジン機種によって一義的に定まる値である。従って、定数a、mは実験等により予め決めておくことができる。(補4)式はWiebe関数といわれる。
本実施形態は、所定のパラメータに基づいてこれらの定数a、mを算出し、これら算出した定数a、mを上記(補4)式に代入した式を燃焼質量割合の近似式として求める。具体的に説明すると、(補4)式を次のように変形する。
X=1−exp[−{a/θB^(m+1)}・(θ−θs)^(m+1)]
…(補5)
この(補5)式において定数kを、
k≡a/{θB^(m+1)} …(補6)
の式で定義すると、(補4)式に代えて次式が得られる。
X=1−exp[−k・(θ−θs)^(m+1)]…(補7)
さて、(補4)式のWiebe関数を本実施形態に適用することを考える。
まず、熱発生開始クランク角θs[degBTDC]は本実施形態では次式で与えられる。
θs=θign[degBTDC]−IGNDEAD[deg]
…(補8)
いま、燃焼質量割合が2%のときのクランク角をθ2、燃焼質量割合が60%のときのクランク角をθ60とすれば、これらを上記(補4)式に代入して次の2つの式が成立する。
0.02=1−[−a・{(θ2−θs)/θB}^(m+1)]
…(補9)
0.6=1−[−a・{(θ60−θs)/θB}^(m+1)]
…(補10)
(補9)、(補10)式をそれぞれ変形して、
−a・{(θ2−θs)/θB}^(m+1)=ln(1−0.02)
=ln(0.98)
…(補11)
−a・{(θ60−θs)/θB}^(m+1)=ln(1−0.6)
=ln(0.4)
…(補12)
(補11)、(補12)式の両辺をそれぞれ割り算して、
{(θ2−θs)/(θ60−θs)}^(m+1)
=ln(0.98)/ln(0.4)
…(補13)
(補13)式を定数mについて整理すると次式が得られる。
m=ln{ln(0.98)/ln(0.4)}
/ln{(θ2−θs)/(θ60−θs)}−1
…(補14)
ここで、(補14)式の「ln」は自然対数を表している。
また、上記(補11)式を変形すると次式が得られる。
a/{θB^(m+1)}=−ln(0.98)/{(θ2−θs)^(m+1)}
…(補15)
(補15)、(補6)式より、上記の定数kはこの定数mを用いて次式により表される。
k=a/{θB^(m+1)}
=−ln(0.98)/{(θ2−θs)^(m+1)}
…(補16)
以上をまとめると、上記(補8)式により得られる熱発生開始クランク角θsを上記(補14)式に代入すれば、定数mが求まり、その求めた定数mを(補16)式に代入すれば定数kが求まる。このようにして、定数mと定数kが求まると、この求めた定数m、kを上記(補7)式に代入した式を燃焼質量割合の近似式として定めることができる。
図37(図33(A)のステップ227のサブルーチン)は燃焼質量割合の第1近似式X1’を算出するためのものである。
図37においてステップ301では、図33(A)のステップ222で得ている点火時期θign[degBTDC]、図33(A)のステップ225で算出している第1点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref1[deg]を読み込む。
ステップ302では次式により熱発生開始クランク角θs[degBTDC]を算出する。
θs=θign−IGNDEADref1 …(77)
(77)式は上記(補8)式と同じである。
ステップ303ではこの熱発生開始クランク角θsを用いて次式により定数mを算出する。
m=ln{ln(0.98)/ln(0.4)}
/ln{(θ2−θs)/(θ60−θs)}−1 …(78)
ただし、θ2 :燃焼質量割合が2%のときのクランク角、
θ60:燃焼質量割合が60%のときのクランク角、
(78)式は上記(補14)式と同じである。ここで、(78)式のθ2、θ60は基本点火時期MBTCALより求める。または適合により定めておく。
ステップ304ではこのようにして算出した定数mを用いて次式によりもう一つの定数kを算出する。
k=a/{θB^(m+1)}
=−ln(0.98)/{(θ2−θs)^(m+1)} …(79)
(79)式は上記(補16)式と同じである。
ステップ305ではこの定数kと上記の定数mとを用いて次式により燃焼質量割合の第1近似式X1’[%]を次式により算出する。
X1’=1−exp[−k・(θ−θs)^(m+1)] …(80)
(80)式は上記(補7)式と同じである。
このようにして燃焼質量割合の第1近似式X1’の算出を終了したら図33(A)のステップ228に戻り、第1図示正仕事推定値Wpos1を算出する。この第1図示正仕事推定値Wpos1の算出については図38、図39のフローにより説明する。
図38、図39(図33(A)のステップ228のサブルーチン)は第1正仕事推定値Wpos1を算出するためのものである。
図38においてステップ311では、図33(A)のステップ222で得ている点火時期θign[degBTDC]、図33(A)のステップ225で算出している第1点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref1[deg]、燃料量QINJ[kg]、 図5のステップ12で算出している燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVC[m3]、図5のステップ13で算出している燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINI[K]、図5のステップ14で算出している燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力PINI[Pa]、温度センサ48により検出される燃焼室壁温Twall[K]、目標当量比TFBYAを読み込む。
ステップ312では吸気弁閉時期IVC[degBTDC]をクランク角前回値θ(old)[degBTDC]にセットする。
ステップ313ではクランク角前回値θ(old)を所定角度const2[deg]だけ進めた値をクランク角今回値θ(new)としてセットする。ここで、所定角度const2は後述する瞬間仕事dWを算出する周期を定める値であり、const2の値を大きくし過ぎると演算時間は短くて済むものの図示正仕事推定値の演算精度が低下し、この逆にconst2の値を小さくし過ぎると演算精度は上がるものの演算時間が長引くことになるので、最適な値を適合により設定する。ここでは所定角度const2は1deg程度で考えている。
ステップ314ではこのクランク角今回値θ(new)と排気弁開時期EVOとを比較する。クランク角今回値θ(new)が排気弁開時期EVOに達していなければステップ315に進み燃焼室5のクランク角今回値θ(new)における容積Vcyl(new)[m3]を算出する。この算出にはクランク角今回値θ(new)から次式によりまずピストン変位[m]を算出する。
ピストン変位=(クランク長+コンロッド長)−クランク長・cos(θ(new))
−sqrt{コンロッド長^2−クランク長^2・sin((θ(new)^2)}
…(81)
(81)式のクランク長[m]、コンロッド長[m]はエンジンの仕様により定まる値である。(81)式の「sqrt」は平方根を採ることを表している。ただし、ここには簡単のためクランクシャフトの回転中心がシリンダの中心軸からオフセットしていない場合の式を示している。
上記(81)式により算出されるピストン変位を用いて次式により燃焼室5のクランク角今回値θ(new)における容積Vcyl(new)[m3]を算出する。
Vcyl(new)=(π/4)・D^2・ピストン変位+Vc …(82)
ただし、D :シリンダボア径[m]、
Vc:隙間容積[m3]、
ステップ316では燃焼室5のクランク角今回値θ(new)における圧力P(new)と温度T(new)を次式により算出する。
P(new)=P(old)×(Vcyl(old)/Vcyl(new))^κ …(83)
T(new)=T(old)×(Vcyl(old)/Vcyl(new))^(κ−1)
…(84)
(83)、(84)式は燃焼室5内でガスが断熱圧縮されるとしたときの圧力と温度を熱力学の法則に則って表した式である。
ここで、(83)、(84)式のVcyl(old)は燃焼室5のクランク角前回値θ(old)における容積前回値、またP(old)とT(old)は燃焼室5のクランク角前回値θ(old)における圧力前回値と温度前回値で、後述する図39のステップ329により得られている。P(old)の初期値としては図5のステップ14で算出している燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力PINIを、T(old)の初期値としては図5のステップ13で算出している燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIを、Vcyl(old)の初期値としては図5のステップ12で算出している燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCを入れておく。
ピストン6が上昇して燃焼室5内でガスが断熱圧縮されるときにはVcyl(old)/Vcyl(new)>1.0となり、従って、上記(83)、(84)式よりクランク角前回値における圧力前回値P(old)よりもクランク角今回値における圧力P(new)のほうが高くなり、かつクランク角前回値における温度前回値T(old)よりもクランク角今回値における温度T(new)のほうが高くなる。
ステップ317では図33(A)のステップ227で求めた燃焼質量割合の第1近似式X1’にクランク角今回値θ(new)を代入することによって、つまりクランク角今回値θ(new)での燃焼質量割合MB(new)を次式により算出する。
MB(new)=1−exp[−k・(θ(new)
−(θign−IGNDEADref1))^(m+1)]
…(85)
ステップ318ではこの燃焼質量割合MB(new)と所定値const3を、またクランク角今回値θ(new)と熱発生開始クランク角(θign−IGNDEADref1)とを比較する。ここで、燃焼が終了するのは燃焼質量割合が100%になるときであるので、所定値const3としてはこの100%に十分近い値を設定する。つまり、燃焼質量割合MB(new)が所定値const3以上になると燃焼が終了していることを表す。
クランク角今回値θ(new)が熱発生開始クランク角(θign−IGNDEADref1)に達していないときにはまだ熱発生がないし、燃焼質量割合MB(new)が所定値const3以上であるときには燃焼が終了しているので、これらの場合にはステップ320に進んでクランク角前回値からクランク角今回値までの発生熱量dQburn=0とする。
一方、クランク角今回値θ(new)が熱発生開始クランク角(θign−IGNDEADref1)を過ぎておりかつ燃焼質量割合MB(new)が所定値const3未満であるときには熱発生がありかつ燃焼が終了していないと判断しステップ318よりステップ319に進んでクランク角前回値からクランク角今回値までの発生熱量dQburn[kJ]を次式により算出する。
dQburn=(MB(new)−MB(old))・QINJ・CF#…(86)
ただし、CF#:燃料の低位発熱量[kJ/kg]、
ここで、(86)式のMB(old)はクランク角前回値θ(old)における燃焼質量割合前回値で、後述する図39のステップ329により得られている。
ステップ321ではクランク角前回値からクランク角今回値までの冷却損失dQloss[kJ]を次式により算出する。この算出については図40のフローにより説明する。
図40(図38のステップ321のサブルーチン)においてステップ341では熱伝達係数h[kcal/(m2・h・K)]を次式により算出する。
h=110・D^(−0.2)・P(old)^0.8・T(old)^(−0.53)
・[C1・Cm+C2・(Vcyl(old)・TINI)
/(PINI・VIVC)・(P(old)−PM(old))]^0.8
…(87)
ただし、D :シリンダボア径[m]、
Cm :平均ピストン速度[m/s]、
PM(old):モータリング圧力の前回値[Pa]、
ここで、(87)式のPM(old)は燃焼室5のクランク角前回値θ(old)におけるモータリング時の圧力前回値で、後述するステップ344により得られている。PM(old)の初期値としては圧力センサ44により検出されるコレクタ内圧力PCOLを入れておく。なお、上記(87)式のP(old)、T(old)、Vcyl(old)はそれぞれ燃焼室5のクランク角前回値θ(old)における圧力前回値、温度前回値、容積前回値で、後述する図39のステップ329により得られている。
上記(87)式の2つの定数C1、C2は一般に用いられている定数で、例えば一方の定数C1は排気行程において6.18、圧縮行程と膨張行程において2.28である。また、他方の定数C2は3.24×10^(−3)[m/(s・K)]である。
ステップ342では、この熱伝達係数hを用いて次式によりクランク角前回値からクランク角今回値までの冷却損失dQloss[kJ]を次式により算出する。
dQloss=h・A・(T(old)−Twall)・Δt …(88)
ただし、A :燃焼室の表面積[m2]、
Δt:クランク角前回値からクランク角今回値までの演算間隔[h]
(88)式右辺の温度前回値T(old)は燃焼室壁温Twallより高いので、(88)式左辺の冷却損失dQlossは正の値である。
(88)式のΔtは次のようにして求めればよい。すなわち、上記の所定角度const2[deg]がクランク角前回値からクランク角今回値までの演算間隔であるので、これをそのときのエンジン回転速度NRPMを用いて時間[h]に換算する。
ステップ343では、燃焼室5のクランク角今回値θ(new)におけるモータリング時の圧力PM(new)を上記(81)式と同様の式である次式により算出する。
PM(new)=PM(old)×(Vcyl(old)/Vcyl(new))^κ…(89)
ステップ344ではこのようにして算出した燃焼室5のクランク角今回値θ(new)におけるモータリング時の圧力PM(new)を、次回に備えて燃焼室5のクランク角前回値θ(new)におけるモータリング時の圧力前回値PM(old)に移しておく。
このようにしてクランク角前回値からクランク角今回値までの冷却損失dQlossの算出を終了したら図38のステップ322に戻り、定容比熱Cv[J/(kg・K)]を算出する。これは燃焼室5のクランク角前回値における温度前回値T(old)からそれぞれ所定のテーブルを検索して既燃ガスの定圧比熱Cp1及び比熱比κ1を、また同じく燃焼室5のクランク角前回値における温度前回値T(old)からそれぞれ所定のテーブルを検索して未燃ガスの定圧比熱Cp2及び比熱比κ2を求める。
ここで、定圧比熱Cp1、Cp2を対応する比熱比でκ1、κ2で除算すれば、各定容比熱Cv1(=Cp1/κ1)、Cv2(=Cp2/κ2)を求めることができるので、この求めた既燃ガスの定容比熱Cv1と未燃ガスの定容比熱Cv2との2つを燃焼質量割合前回値MB(old)で加重平均し、その算出した加重平均値を燃焼室5内のガスの定容比熱Cvとして設定する。すなわち、次式により定容比熱Cvを算出する。
Cv=(Cp1/κ1)×MB(old)+(Cp2/κ2)×(1−MB(old))
…(90)
ただし、Cp1:既燃ガスの定圧比熱、
Cp2:未燃ガスの定圧比熱、
κ1 :既燃ガスの比熱比、
κ2 :未燃ガスの比熱比、
ステップ323では燃焼室5内の全ガス量GASALL[kg]を算出する。これは燃料量QINJ、目標当量比TFBYAから次式により算出すればよい。
GASALL=QINJ×(1+1/TFBYA) …(91)
図39のステップ324では、燃焼室5のクランク角今回値θ(new)における温度T(new)及び圧力P(new)を次式により改めて算出する。
T(new)=T(old)×(Vcyl(old)/Vcyl(new))^(κ−1)
+(dQburn−dQloss)/(GASALL・Cv)
…(92)
P(new)={P(old)×(Vcyl(old))/Vcyl(new)^κ}
・T(new)/{T(old)×(Vcyl(old)/Vcyl(new))^(κ−1)}
…(93)
ここで、(92)式右辺の第1項は燃焼室5内でガスが断熱圧縮されるとしたときの温度上昇分であるため上記の(84)式と同じであり、(92)式右辺の第2項が燃焼による温度上昇分である。また、(93)式右辺の{P(old)×(Vcyl(old))/Vcyl(new)^κ}は燃焼室5内でガスが断熱圧縮されるとしたときの圧力上昇分であるため上記の(83)式と同じであり、(93)式右辺のT(new)/{T(old)×(Vcyl(old)/Vcyl(new))^(κ−1)}が燃焼による温度上昇に伴って圧力が上昇する程度である。
ステップ325ではクランク角前回値からクランク角今回値までの平均仕事を瞬間仕事dW[kJ]として次式により算出する。
dW=(P(new)+P(old))×(Vcyl(new)−Vcyl(old))/2
…(94)
ここで、ピストン6が圧縮上死点を過ぎて下死点TDCに向かって下降するときには容積Vcyl(new)が容積前回値Vcyl(old)より大きくなり、(94)式左辺の値は正の値となるのに対して、圧縮上死点TDCに向かって上昇するときには容積Vcyl(new)が容積前回値Vcyl(old)より小さく(94)式左辺の値が負の値となるので、(94)式左辺の値は正負の値を採り得るが、ここでは、絶対値を採って瞬間仕事dWが常に正の値で得られるようにしておく。
ステップ326ではクランク角今回値θ(new)と圧縮上死点TDCとを比較する。クランク角今回値θ(new)が圧縮上死点TDCに達していなければエンジンが行う仕事は負の仕事であると判断し、ステップ327に進んでクランク角今回値θ(new)での負の仕事Wn(new)を次式により算出する。
Wn(new)=Wn(old)+dW …(95)
ここで、(95)式右辺の瞬間仕事dWは常に正の値で算出しているので、(95)式左辺の負の仕事Wn(new)も正の値で算出されている。
一方、クランク角今回値θ(new)が圧縮上死点TDCに達した後はエンジンが行う仕事は正の仕事であると判断してステップ326よりステップ328に進みクランク角今回値θ(new)での正の仕事Wp(new)を次式により算出する。
Wp(new)=Wp(old)+dW …(96)
上記(95)、(96)式右辺のWn(old)、Wp(old)はそれぞれクランク角前回値θ(old)での負の仕事前回値、クランク角前回値θ(old)での正の仕事前回値で、後述するステップ329により得られている。
ステップ329ではクランク角今回値θ(new)、クランク角今回値θ(new)での燃焼質量割合MB(new)、燃焼室5のクランク角今回値θ(new)における圧力P(new)、燃焼室5のクランク角今回値θ(new)における温度T(new)、燃焼室5のクランク角今回値θ(new)における容積Vcyl(new)、クランク角今回値θ(new)での負の仕事Wn(new)、クランク角今回値θ(new)での正の仕事wp(new)を、次回に備えてそれぞれクランク角前回値θ(old)、クランク角前回値θ(old)での燃焼質量割合前回値MB(old)、燃焼室5のクランク角前回値θ(old)における圧力前回値P(old)、燃焼室5のクランク角前回値θ(old)における温度前回値T(old)、燃焼室5のクランク角前回値θ(old)における容積前回値Vcyl(old)、クランク角前回値θ(old)での負の仕事前回値Wn(old)、クランク角前回値θ(old)での正の仕事前回値Wp(old)に移しておく。
ここで、クランク角前回値θ(old)の初期値は図38のステップ312で与えられている。また、図38のステップ316で前述したように、P(old)の初期値としては図5のステップ14で算出している燃焼室5の吸気弁閉時期における圧力PINIを、T(old)の初期値としては図5のステップ13で算出している燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIを、Vcyl(old)の初期値としては図5のステップ12で算出している燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCを入れておく。残った前回値であるMB(old)、Wn(old)、Wp(old)の各初期値としては図38のフローの処理開始時にゼロを入れておく。
ステップ330では、図38のステップ313と同じに、クランク角前回値θ(old)を所定角度const2だけ進めた値をクランク角今回値θ(new)としてセットした後に図38のステップ314に戻り、図38のステップ314〜323、図39のステップ324〜330の操作を繰り返す。つまり、クランク角θが熱発生開始クランク角(θign−IGNDEADref1)になると、発生熱量dQburnと冷却損失dQlossとが所定クランク角const2毎に算出され、これら算出された発生熱量dQburn及び冷却損失dQloss並びに熱力学の法則に基づいて燃焼室5内の燃焼中の圧力Pと温度Tが、さらにはこのうち圧力Pに基づいて瞬時仕事dWが所定クランク角const2毎に算出される。この場合に、圧縮上死点TDCまではその瞬時仕事dWは負の仕事であるとしてWnに、また圧縮上死点TDC後になるとその瞬時仕事dWは正の仕事であるとしてWpにそれぞれ所定クランク角const2毎に積算されてゆく。
やがて、図38のステップ314でクランク角今回値θ(new)が排気弁開時期EVOに達したときには燃焼室5内の燃焼ガスによる仕事の終了タイミングであると判断し、ステップ314よりステップ331に進み次式により第1図示正仕事推定値Wpos1[kJ]を算出し、これで図38、図39での処理を終了する。
Wpos1=Wp(old)−Wn(old) …(97)
このようにして第1図示正仕事推定値Wpos1の算出を終了したら図33(A)のステップ229に戻り、第1軸トルク推定値Trqest1を算出する。この算出については図41のフローにより説明する。
図41(図33(A)のステップ229のサブルーチン)においてステップ351では、図33(A)のステップ228により算出されている第1図示正仕事推定値Wpos1[kJ]、圧力センサ44により検出されるコレクタ内圧力PCOL[Pa]、エンジンの負荷、回転速度NRPM[rpm]を読み込む。
ステプ352ではポンピングロスWneg1[kJ]を次式により算出する。
Wneg=PCOL×Hx …(98)
ただし、Hx:ピストンピンのTDCからの距離の最大値と最小値の差[m]
ステップ353では摩擦損失Wneg2[kJ]を算出する。これはエンジンの負荷と回転速度NRPMから図42を内容とするマップを検索することにより求めればよい。図42のように摩擦損失Wneg2は高負荷になるほど、また回転速度NRPMが高くなるほど大きくなる値である。
ステップ354では第1図示正仕事推定値Wpos1にポンピングロスWneg1と摩擦損失Wneg2を加算して、つまり次式により第1軸トルク推定値Trqest1[kJ]を算出する。
Trqest1=Wpos+Wneg1+Wneg2 …(99)
これで図33(A)のフローの説明を全て終える。
次に、図33(B)(図2のステップ2のサブルーチン)において上記の図33(A)と異なるのは点火時期の扱いだけである。すなわち、図33(B)においてステップ231では図13のステップ43で算出されている基本点火時期MBTCAL[degBTDC]、点火時期リタード量前回値RET(old)[deg]を読み込む。ここで、点火時期リタード量前回値RET(old)は図2のステップ6で得られる値である(後述する)。
ステップ232では点火時期θign[degBTDC]の値を点火時期前回値θignz[degBTDC]に移すと共に、基本点火時期MBTCALから点火時期リタード量前回値RET(old)を差し引いた値(つまり基本点火時期MBTCALより点火時期リタード量前回値RET(old)だけリタード側の値)を点火時期θign[degBTDC]として算出する。なお、RET(old)の初期値としてはゼロを入れておく。
ステップ234では第2初期燃焼期間BURN1ref2[deg]を、ステップ235では第2点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref2[deg]を、ステップ236では第2主燃焼期間BURN2ref2[deg]を、ステップ237では燃焼質量割合の第2近似式X2’を、ステップ238では第2図示正仕事推定値Wpos2[kJ]を、ステップ239では第2軸トルク推定値Trqest2[kJ]をそれぞれ算出する。
ここで、第2初期燃焼期間BURN1ref2の算出については図43のフローにより、第2点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref2の算出については図44のフローにより、第2主燃焼期間BURN2ref2の算出については図45のフローにより、燃焼質量割合の第2近似式X2’の算出については図46のフローにより、第2図示正仕事推定値Wpos2の算出については図47、図48のフローにより、第2軸トルク推定値Trqest2の算出については図49(図33(B)のステップ239のサブルーチン)のフローにより説明する。
この場合に、図43(図33(B)のステップ234のサブルーチン)、図44(図33(B)、図45(図33(B)のステップ236のサブルーチン)、図46(図33(B)のステップ237のサブルーチン)、図47、図48(図33(B)のステップ238のサブルーチン)において、上記の図34、図35、図36、図37、図38、図39と異なるのは、図34のステップ241における点火時期前回値θignz、図35のステップ261における点火時期θign、図36のステップ281における点火時期θign、点火時期前回値θignz、図37のステップ301における点火時期θign、図38のステップ311における点火時期θignがいずれも基本点火時期MBTCALであるのに対して、図43のステップ361における点火時期前回値θignz、図44のステップ381における点火時期θign、図45のステップ401における点火時期θign、点火時期前回値θignz、図46のステップ421における点火時期θign、図47のステップ431における点火時期θignがいずれも基本点火時期MBTCALより点火時期リタード量前回値RET(old)だけリタードさせた値である点にある。他は同様であるので、個々の説明は省略する。
このように、図33(B)において初期燃焼期間、点火無駄時間相当クランク角、主燃焼期間、燃焼質量割合の近似式、図示正仕事推定値、軸トルク推定値を、図33(A)とは別に算出するのは、基本点火時期MBTCALより点火時期リタード量前回値RET(old)だけリタードさせた点火時期で点火したときの初期燃焼期間、点火無駄時間相当クランク角、主燃焼期間、燃焼質量割合の近似式、図示正仕事推定値、軸トルク推定値が、基本点火時期MBTCALで点火したときの初期燃焼期間、点火無駄時間相当クランク角、主燃焼期間、燃焼質量割合の近似式、図示正仕事推定値、軸トルク推定値とは異なる値になるためである。
このようにして第1軸トルク推定値Trqest1、第2軸トルク推定値Trqest2の算出を共に終了したら、図2に戻りステップ3で要求軸トルクTrqtgtを算出する。この要求軸トルクTrqtgtを算出するには、アクセルセンサ42により検出されるアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)APOと回転速度NRPMとから図50を内容とするマップを検索することにより求めればよい。図50に示したように要求軸トルクTrqtgtはアクセル開度APOが大きくなるほどまた回転速度NRPMが高くなるほど大きくなる値である。
ステップ4では点火時期リタード量RET(new)を算出する。この点火時期リタード量RET(new)の算出については図51のフローにより説明する。
図51(図2のステップ4のサブルーチン)においてステップ471では図2のステップ2により算出されている第1軸トルク推定値Trqest1[kJ]、図2のステップ3により算出されている要求軸トルクTrqtgt[kJ]を読み込む。
ステップ472では第1軸トルク推定値Trqest1と要求軸トルクTrqtgtとの差に基づいて、つまり次式により点火時期リタード量RET(new)[deg]を算出する。
RET(new)=(Trqest1−Trqtgt)×const201
…(100)
ただし、const201:所定値、
この点火時期リタード量RET(new)は、基本点火時期MBTCALでの軸トルク推定値である第1軸トルク推定値Trqest1が要求軸トルクTrqtgtより大きい、つまり軸トルクが出過ぎている場合に、点火時期を基本点火時期MBTCALよりリタードさせて要求軸トルクが得られるようにするためのものである。従って、(100)式によれば、第1軸トルク推定値Trqest1のほうが要求軸トルクTrqtgtより小さい場合があり得るが、この場合は考えない。
上記の所定値const201は軸トルクを点火時期リタード量へと換算するための値で、予め適合する。
ステップ473では基本点火時期MBTCALよりこの点火時期リタード量RET(new)だけリタードさせたと仮定したときの軸トルク推定値を第3軸トルク推定値Trqest3として算出する。
この第3軸トルク推定値Trqest3の算出については図52のフローにより説明する。図52において図33(B)と同一の部分には同一のステップ番号をつけている。
ここで、第3軸トルク推定値Trqest3の算出方法そのものは図33(B)で説明した第2軸トルク推定値Trqest2の算出方法と同じである。図52において図33(B)の場合と異なるのは、図33(B)では点火時期リタード量前回値RET(old)を用いたのに対して、図52では図51のステップ472で算出した点火時期リタード量RET(new)を用いる点だけである。すなわち、ステップ481では図13のステップ43で算出されている基本点火時期MBTCAL[degBTDC]、図51のステップ472で算出されている点火時期リタード量RET(new)[deg]を読み込み、ステップ482で点火時期θign[degBTDC]の値を点火時期前回値θignz[degBTDC]に移すと共に、基本点火時期MBTCALから点火時期リタード量RET(new)を差し引いた値(つまり基本点火時期MBTCALより点火時期リタード量RET(new)だけリタード側の値)を点火時期θign[degBTDC]として算出している。
図52のステップ233〜239では図33(B)のステップ233〜239と同じに第2軸トルク推定値Trqest2を算出し、図52のステップ483でこの算出した第2軸トルク推定値Trqest2を第3軸トルク推定値Trqest3に移す。
このようにして第3軸トルク推定値Trqest3の算出を終了したら図51のステップ474に戻りこの第3軸トルク推定値Trqest3から要求軸トルクTrqtgtを差し引いて軸トルク差dTrq(=Trqest3−Trqtgt)を算出し、この軸トルク差dTrqと所定値const202をステップ475で比較する。
ここで、所定値const202は要求軸トルクの許容範囲を定める値である。軸トルク差dTrqが所定値const202以上あれば第3軸トルク推定値Trqest3が要求軸トルクTrqtgtの許容範囲内にない、つまりそのときの第3軸トルク推定値Trqest3によれば軸トルクが出過ぎていると判断し、ステップ476に進んで点火時期リタード量RET(new)を点火時期リタード量前回値RET(old)に移したあと、ステップ477で点火時期リタード量RET(new)[deg]を所定値だけ大きくする。つまり、次式により点火時期リタード量RET(new)を更新する。
RET(new)=RET(old)+(Trqest3−Trqtgt)
×const201
…(101)
ただし、RET(new) :更新後の点火時期リタード量、
RET(old) :更新前の点火時期リタード量、
const201:大きくする側への更新の程度、
この点火時期リタード量RET(new)の大きくする側への更新は、基本点火時期MBTCALより所定の点火時期リタード量(上記(100)式のリタード量)だけリタードさせたと仮定したときの点火時期での軸トルク推定値である第3軸トルク推定値Trqest1も要求軸トルクTrqtgtより大きい、つまり軸トルクが出過ぎている場合に、点火時期リタード量をさらに大きくして要求軸トルクが得られるようにするためのものである。従って、(101)式によれば、第3軸トルク推定値Trqest3のほうが要求軸トルクTrqtgtより小さい場合があり得るが、この場合は考えない。
(101)式の所定値const201は上記(100)式と同じである。
この後はステップ473に戻ってステップ473〜477の操作を繰り返す。この操作により第3軸トルク推定値Trqest3が減少して軸トルク差dTrqが所定値const202未満になるとステップ475より「END」へと進んで図51の処理を終了する。この場合に、ステップ473〜477の操作は実際に点火を行うことなく実行するものであり、ほぼ一瞬で終了する。
一方、ステップ475で軸トルク差dTrqが所定値const202未満であるとき、つまり当初より第3軸トルク推定値Trqest3が要求軸トルクTrqtgtの許容範囲内に収まっているときにもステップ475より「END」へと進んで図51の処理を終了する。
このようにして点火時期リタード量RET(new)の算出を終了したら図2のステップ5に戻り、この点火時期リタード量RET(new)だけ基本点火時期MBTCALよりリタードさせて、つまり次式により点火時期指令値QADV[degBTDC]を設定する。
QADV=MBTCAL−RET(new) …(102)
ステップ6では点火時期リタード量RET(new)を点火時期リタード量前回値RET(old)に移す。この点火時期リタード量前回値RET(old)の値が前述した図33(B)のステップ231、232で用いられる。
上記(102)式により設定した点火時期指令値QADVは、ステップ7で点火レジスタに移され、実際のクランク角がこの点火時期指令値QADVと一致したタイミングでエンジンコントローラ31より一次電流を遮断する点火信号が点火コイル13に出力される。
次に、図53はエンジントルク補正量としての要求空気増加率Rqaiを算出するためのもので、燃料の噴射毎に実行する。
ここで、要求空気増加率Rqaiを導入したのは次の理由からである。すなわち、図51で前述したように第1軸トルク推定値Trqest1が要求軸トルクTrqtgtより大きい場合に点火時期がリタードされるので(図51のステップ472参照)、基本点火時期MBTCALよりリタードされた点火時期で点火したときに発生する軸トルク(つまり第2軸トルク推定値Trqest2)は、基本点火時期MBTCALで点火したときに発生する軸トルク(つまり第1軸トルク推定値Trqest1)より低下する。この点火時期リタードに伴う軸トルクの低下を避けるため、トルク補償を行うようにしたものである。
まずステップ491では、図2のステップ2で算出されている第1軸トルク推定値Trqest1[kJ]および第2軸トルク推定値Trqest2[kJ]を読み込む。
ステップ492では、第1軸トルク推定値Trqest1からの軸トルク不足量Ts[kJ]を次式により算出する。
Ts=Trqest1−Trqest2 …(103)
ステップ493ではこの軸トルク不足量Tsと所定値const203を比較する。ここで、所定値const203は軸トルク不足量の許容範囲を定めるもので、予め設定しておく。軸トルク不足量Tsが所定値const203以上あるときにはステップ493よりステップ494に進み要求空気増加率Rqai(new)を所定値const204だけ大きくする。つまり次式により要求空気増加率Rqai(new)を更新する。
Rqai(new)=Rqai(old)+const204 …(104)
ただし、Rqai(new):更新後の要求空気増加率、
Rqai(old):更新前の要求空気増加率、
const204:大きくする側への更新量(正の値)、
ここで、Rqai(old)の初期値としては1.0を入れておく。エンジンの運転後に初めて軸トルク不足量Tsが所定値const203以上になったときにはRqai(old)=1.0であることより要求空気増加率Rqai(new)は1.0を超える値となる。
ステップ495では次回に備えてRqai(new)の値を前回値を表すRqai(old)に移して今回の処理を終了する。
本実施形態では、燃料量と空気量については特開平9−287513号公報に記載されているのと同じ制御を行っている。この燃料量と空気量の制御について説明すると、アクセルセンサ42により検出されるアクセル開度APSとエンジン回転速度NRPMとに基づいて理論空燃比を得るための基準目標吸入空気量tTPと、理論空燃比を含みリーン空燃比やリッチ空燃比での運転を可能とするための目標当量比tDMLとを算出し、これら基準目標吸入空気量tTPと目標当量比tDMLから目標空燃比を得るための目標吸入空気量tTP’(=tTP/tDML)を算出し、この目標吸入空気量tTP’に基づいて目標絞り弁開度tTPSを算出し、この目標絞り弁開度tTPSが実現されるようにスロットルモータ24で絞り弁23の開度を制御することで空気量の制御を行いつつ、エンジン回転速度とエアフローメータ32により検出される実吸入空気量とに基づいて算出される基本燃料噴射パルス幅TP[ms]を前記目標当量比tDML及び無効パルス幅TSで補正して得られる燃料噴射パルス幅TI[ms]を燃料インジェクタ21に与えることで燃料量の制御を行っている。
こうした燃料量と空気量の制御を行うものを前提として本実施形態では、目標吸入空気量(tTPやtTP’)に上記図53のステップ494(またはステップ496)で更新される要求空気増加率Rqai(new)を乗算した値を改めて目標吸入空気量(tTPやtTP’)として空気量の制御を行う。図53のステップ494で更新される要求空気増加率Rqai(new)は1.0を超える値であるので、この1.0を超える値である要求空気増加率Rqai(new)が目標吸入空気量に乗算されると、乗算後の目標空気量は乗算前より大きくなり、この乗算後の目標空気量が得られるように絞り弁23の開度が乗算前より大きくされる。これにより吸入空気量が増え、この空気量の増加を介して燃料量が増量され、同じ点火時期でもエンジンの発生する軸トルクが増加する。そして、要求空気増加率Rqai(new)による目標空気量の増加と並行して図2のステップ2により第2軸トルク推定値Trqest2の算出が行われ、要求空気増加率Rqai(new)による目標空気量の増加で軸トルクが増えれば、算出される第2軸トルク推定値Trqest2も大きくなり、図53のステップ492で算出される軸トルク不足量Tsが小さくなる。それでも、軸トルク不足量Tsが所定値const203以上であれば図53のステップ494で要求空気増加率Rqai(new)をさらに大きくなる側に更新する。これにより、エンジンで発生する軸トルクが増え軸トルク不足量Tsが減るので、図53のステップ494を繰り返せばやがて軸トルク不足量Tsが所定値const203未満に収まる。このときにはそのときの要求空気増加率Rqai(new)の値を維持するためステップ493よりステップ496に進んで要求空気増加率前回値Rqai(old)を要求増加率今回値Rqai(new)に移して今回の処理を終了する。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、エンジンの運転状態を検出し、この検出した運転状態に基づいて燃焼室内のガスの燃焼中のクランク角における燃焼質量割合(X1’、X2’)を推定し、この推定した燃焼質量割合に基づいてエンジンの発生する軸トルクを推定し、この推定した軸トルク(Trqest1、Trqest2)に基づいてトルク制御(吸入空気量の増加補正や点火時期のリタード補正)を行うように構成したので、圧力センサにより燃焼室内の圧力を直接検出することなくエンジンの発生する軸トルクを推定できる。
本実施形態(請求項1、6に記載の発明)によれば、軸トルク推定手段が、燃焼中のクランク角における燃焼質量割合の近似式(X1’、X2’)を算出する近似式算出手段(図33(A)のステップ227、図33(B)のステップ237参照)と、この燃焼質量割合の近似式(X1’、X2’)に基づいて図示正仕事推定値(Wpos1、Wpos2)を算出する図示正仕事推定値算出手段(図33(A)のステップ228、図33(B)のステップ238参照)と、この図示正仕事推定値(Wpos1、Wpos2)にポンピングロスWneg1と摩擦損失Wneg2を加算した値を軸トルク推定値(Trqest1、Trqest2)として算出する軸トルク推定値算出手段(図33(A)のステップ229、図33(B)のステップ239参照)とを含むので、図示正仕事推定値(Wpos1、Wpos2)を精度よく算出することができる。
本実施形態(請求項2、7に記載の発明)によれば、エンジンの運転状態は熱発生開始時期θsであり、燃焼質量割合の近似式(X1’、X2’)はこの熱発生開始時期θsと2つの定数(m、k)とを用いた指数関数の式であるので(図37のステップ305、図46のステップ425参照)、燃焼開始からの燃焼質量割合の変化をほぼ厳密に与えることができる。
本実施形態(請求項3、8に記載の発明)によれば基本点火時期MBTCAL(MBTの得られる点火時期)で点火するときと、基本点火時期MBTCALより点火時期リタード量前回値RET(old)だけリタード側の値(MBTの得られる点火時期よりリタードさせた点火時期)で点火したときとで燃焼質量割合の近似式を相違させるので(図33(A)のステップ222、227、図37のステップ305、図33(B)のステップ232、237、図46のステップ425参照)、第1軸トルク推定値Trqest1(MBTの得られる点火時期で点火したときの軸トルク推定値)と、第2軸トルク推定値Trqest2(MBTの得られる点火時期よりリタードさせた点火時期で点火したときの軸トルク推定値)とをいずれも精度よく算出できる。
本実施形態(請求項11に記載の発明)によれば、軸トルク推定値算出手段が、MBTの得られる点火時期で点火したときの軸トルク推定値を第1軸トルク推定値Trqest1として算出する第1軸トルク推定値算出手段(図33(A)のステップ229参照)と、MBTの得られる点火時期よりリタードさせた点火時期で点火したときの軸トルク推定値を第2軸トルク推定値Trqest2として算出する第2軸トルク推定値算出手段(図33(B)のステップ239参照)とを含み、トルク制御手段が、この第2軸トルク推定値Trqest2が第1軸トルク推定値Trqest1と一致するように吸入空気量を増加する空気量増加手段(図52参照)であるので、点火時期がMBTの得られる点火時期よりリタードされ(図2のステップ4、5参照)、ドライバの意図しない軸トルクの低下が発生したときであっても、第1軸トルク推定値Trqest1(MBTの得られる点火時期で点火したときの軸トルク)と同じ軸トルクが得られる。
第1軸トルク推定値Trqest1(MBTの得られる点火時期で点火したときの軸トルク推定値)が要求軸トルクTrqtgtを超えているときには軸トルクが出過ぎているのであり、この場合に本実施形態(請求項12に記載の発明)によれば、トルク制御手段が、第1軸トルク推定値Trqest1が要求軸トルクTrqtgtを超えるとき、この第1軸トルク推定値Trqest1が要求軸トルクTrqtgtと一致するように所定の点火時期リタード量RET(new)だけ点火時期をリタード側に補正する点火時期補正手段(図51のステップ471、472参照)を含むので、第1軸トルク推定値Trqest1が要求軸トルクTrqtgtを超えるときであってもドライバの意図通りの軸トルクを発生させることができる。
前記所定の点火時期リタード量RET(new)だけ点火時期をリタードさせたときの軸トルクが要求軸トルクTrqtgtを超えているときにはまだ軸トルクの出過ぎであり、この場合に、本実施形態(請求項13に記載の発明)によれば、軸トルク推定値算出手段が、基本点火時期MBTCAL(MBTの得られる点火時期)より前記所定の点火時期リタード量RET(new)だけ点火時期をリタードさせたと仮定したときの軸トルク推定値を第3軸トルク推定値Trqest3として算出する第3軸トルク推定値算出手段(図51のステップ473、図52参照)を含み、トルク制御手段が、この第3軸トルク推定値Trqest3が要求軸トルクTrqtgtを超えるとき、この第3軸トルク推定値Trqest3が要求軸トルクTrqtgtと一致するように点火時期をリタード側に補正する点火時期補正手段(図51のステップ473〜477参照)を含むので、第3軸トルク推定値Trqest3がまだ要求軸トルクTrqtgtを超えるときであってもドライバの意図通りの軸トルクを発生させることができる。
実施形態では、図51に示したように、第1軸トルク推定値Trqest1を要求軸トルクTrqtgtへと下げるための点火時期リタード量だけリタードさせたと仮定したときの軸トルク推定値を求め、この軸トルク推定値がまだ要求軸トルクTrqtgtより大きいときには点火時期リタード量を大きくなる側に更新する場合で説明したが、簡単には、図51においてステップ473〜477の操作を省略した態様も考え得る。
実施形態では、エンジンの運転状態は熱発生開始時期θsであり、燃焼質量割合の近似式がこの熱発生開始時期θsと2つの定数(m、k)とを用いた指数関数の式である場合で説明したが、エンジンの運転状態は燃焼開始から所定クランク角までの燃焼期間であり、この燃焼期間を複数に分割して算出する燃焼期間算出手段を備えさせ、この複数の燃焼期間に基づいて燃焼質量割合の近似式を設定することもできる(第2実施形態)。
この第2実施形態について説明すると、いま燃焼質量割合を求めるためのクランク角として、圧縮上死点TDCを基準のゼロとしこれより遅角側をプラス、これより進角側をマイナスに採ったクランク角Θ[degATDC]を考える。このとき、基本点火時期MBTCALで点火したときの燃焼質量割合BRは基本点火時期MBTCAL、第1点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref1、第1初期燃焼期間BURN1ref1、第1主燃焼期間BURN2ref1を用いて次のような一次式で近似できる。
第1燃焼遅れ期間;
BR=0 …(105)
第1初期燃焼期間;
BR=SS1×(Θ+MBTCAL−IGNDEADref1)
…(106)
第1主燃焼期間 ;
BR=0.02+SS2×(Θ+MBTCAL−IGNDEADref1
−BURN1ref1)
…(107)
ただし、SS1:0.02/BURN1ref1、
SS2:0.58/BURN2ref1、
同様にして、基本点火時期MBTCALより点火時期リタード量前回値RET(old)だけリタードさせた点火時期で点火したときの燃焼質量割合BRは基本点火時期MBTCAL、第2点火無駄時間相当クランク角IGNDEADref2、第2初期燃焼期間BURN1ref2、第2主燃焼期間BURN2ref2を用いて次のような一次式で近似できる。
第2燃焼遅れ期間;
BR=0 …(108)
第2初期燃焼期間;
BR=SS1×(Θ+MBTCAL−IGNDEADref2)
…(109)
第2主燃焼期間 ;
BR=0.02+SS2×(Θ+MBTCAL−IGNDEADref2
−BURN1ref2)
…(110)
ただし、SS1:0.02/BURN1ref2、
SS2:0.58/BURN2ref2、
図54は、基本点火時期MBTCALで点火したときの燃焼質量割合と、基本点火時期MBTCALより点火時期リタード量前回値RET(old)だけリタードさせた点火時期で点火したときの燃焼質量割合の一次式近似波形をモデル的に示したものである。
このように第2実施形態(請求項4、9に記載の発明)によれば、エンジンの運転状態が燃焼開始から所定クランク角までの燃焼期間であり、この燃焼期間を初期燃焼期間と主燃焼期間の2つ(複数)に分割して算出する燃焼期間算出手段(図33(A)のステップ224〜226、図33(B)のステップ234〜236参照)を備え、この複数の燃焼期間(BURN1ref1、BURN1ref2、BURN2ref1、BURN2ref2、IGNDEADref1、IGNDEADref2)に基づいて燃焼質量割合の近似式(上記(105)〜(110)式参照)を設定するので、燃焼質量割合の変化を簡単な一次式で近似することができ、燃焼質量割合の近似式の設定が容易になる。
実施形態では、エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、この検出した運転状態に基づいて燃焼室内のガスの燃焼中のクランク角における燃焼質量割合を推定する推定手段と、この推定した燃焼質量割合に基づいてエンジンの発生する軸トルクを推定する軸トルク推定手段と、この推定した軸トルクに基づいてトルク制御を行うトルク制御手段とを備える場合で説明したが(請求項6に記載の発明)、エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、この検出した運転状態に基づいて燃焼室内のガスの燃焼中のクランク角における燃焼質量割合を推定する推定手段と、この推定した燃焼質量割合に基づいてエンジンの発生する軸トルクを推定する軸トルク推定手段とで軸トルク演算装置を構成することができる。
請求項1、6に記載の発明において、運転状態検出手段の機能は図37のステップ302、図46のステップ422または図33(A)のステップ224〜226、図33(B)のステップ234〜236により、推定手段の機能は図33(A)のステップ227、図33(B)のステップ237により、軸トルク推定手段の機能は図33(A)のステップ227〜229、図33(B)のステップ237〜239により、トルク制御手段の機能は図51または図53によりそれぞれ果たされている。