JP4239607B2 - エンジンの点火制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジン(内燃機関)の点火制御装置、特に部分燃焼を回避するための制御に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
2回点火制御を行なうものがある(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−130028号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、理論空燃比の混合気よりもリーン側(薄い側)の混合気で燃焼させたり、燃焼室内に多くの不活性ガスを残留させたまま燃焼させると、ポンピングロスが減って燃費が向上したり排気エミッションが低減するのであるが、近年のエネルギー資源問題や環境保全の観点から、混合気はよりリーン側にしたい、また不活性ガスはより多く燃焼室内に残留させたいという要求が高まっている。
【0005】
しかしながら、混合気をリーン側にするほど、また燃焼室内に残留させる不活性ガスや排気還流する不活性ガスの量を多くするほど燃焼状態が不安定になり、部分失火が発生する。部分失火が発生すると運転性が悪くなるし、排気エミッションも悪くなる。
【0006】
このため、混合気の濃い薄いを定める当量比や、燃焼室に残留する不活性ガス率、排気還流する不活性ガス率の設定値は、運転領域毎に失火の発生レベルを確認しながら適合する必要があった。実際のエンジンでは、このように失火の発生レベルを確認しながら適合したのにも拘わらず、燃料インジェクタや点火装置といった部品、エアフローメータやクランク角センサといったセンサ、組み付け、気筒分配、新気、燃焼室内の残留ガス、排気還流する不活性ガスの各量、混合気の温度、燃焼室内の混合気分布、燃焼室内のガス流動などのばらつき因子が複合して燃焼室内での燃焼状態に影響を及ぼすため、燃焼が安定せず部分失火が発生することがある。
【0007】
この場合に、様々な因子に対する部分失火発生メカニズムは解明されておらず、かつ時間の制約がある中で、ばらつき因子毎にその因子に対する部分失火メカニズムがどうなっているのかを実験で確認することはできないため、安全方向(当量比が小さくなる側、燃焼室内に残留するガス不活性ガス率、排気還流する不活性ガス率を減らす側)に余裕をもって設定値の適合を行っているのが現状である。このため、燃費向上や排気エミッション低減の効果が目減りする傾向を避けることができない。
【0008】
一方、最近では火炎核の成長や伝播についてのモデリングや実験結果が論文に発表されるなど、火花点火エンジンにおける燃焼室内の燃焼解析の研究が進んできている。
【0009】
この場合に、本発明の発明者は、部分失火つまり部分燃焼と火炎核成長速度との間に強い相関があるとみなせばよいのでないか、との発想を得た。これを図38を参照しながら説明すると、部分燃焼が生じていない燃焼を「正常燃焼」として、このときには火炎核成長速度が順調に大きくなっていくはずであるのに対し、混合気の空燃比が理論空燃比よりリーン側になっていくにつれて、また燃焼室内の不活性ガス量が多くなっていくにつれて火炎核成長速度が遅くなり、ついには部分燃焼が発生することが燃焼解析実験等により知られている。これより、部分燃焼のときには正常燃焼のときより火炎核成長速度の増加が遅れるとみなすことができる。
【0010】
それでは火炎核成長速度をどのように算出するかであるが、
(1)質量燃焼モデルにより燃焼質量(mb)の変化速度の算出式が、また火炎核成長速度(dr/dt)の算出式についてもSAEペーパー2000−01−0960の論文に記載されており、両式は熱拡散速度(Sdiff)、燃焼速度(Scomb)を介して結びついている(本発明の実施形態で詳述する)。
(2)実験により燃焼開始より燃焼質量割合がどのように変化するのか判明してきている。
【0011】
これら(1)、(2)を考え合わせた結果、本発明者は燃焼開始時期から燃焼質量割合が所定値となるまでの燃焼期間に基づけば基本的に火炎核成長速度を算出することができることを見出した。
【0012】
本発明は、このような発明者の発想により創出されたもので、燃焼開始時期から燃焼質量割合が所定値となるまでの燃焼期間を算出し、この燃焼期間に基づいて火炎核成長速度を算出し、この火炎核成長速度に基づいて点火に必要なエネルギーを算出しこの点火エネルギーに基づいて、またはこの火炎核成長速度に基づいて複数回の点火回数指令値を算出しこの点火回数指令値に基づいて多重点火を行うことにより、部分燃焼を回避して安定した燃焼を得ることを目的とする。
【0013】
一方、上記の特許文献は燃焼解析の結果に基づくものでないので、燃焼解析の結果に基づく本発明と技術的思想が異なっている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、燃焼室内における燃焼開始から燃焼質量割合が所定値となるまでの燃焼期間(BURN)を算出する燃焼期間算出手段と、燃焼室内の総ガス量(MASSC)を算出する総ガス量算出手段と、燃焼室の圧縮開始時圧力(PIN)を算出する圧縮開始時圧力算出手段と、燃焼室の圧縮開始時容積(VIVC)を算出する圧縮開始時容積算出手段と、燃焼室の燃焼開始時容積(V2)を算出する燃焼開始時容積算出手段と、燃焼室の基準クランク角時圧力(Pc)を算出する基準クランク角時圧力算出手段と、これら燃焼期間、総ガス量、圧縮開始時圧力、圧縮開始時容積、燃焼開始時容積、基準クランク角時圧力の算出値に基づいて基準クランク角時の火炎核成長速度を算出する燃焼開始時火炎核成長速度算出手段と、火炎核成長速度に基づいて複数回の点火回数指令値を算出する点火回数指令値算出手段と、この算出した点火回数指令値に基づいて多重点火を行う多重点火手段とを備える。
【0015】
【発明の効果】
燃焼室内に残留する不活性ガス量が多い場合、圧縮比が低い場合、燃焼室の吸気弁閉時期における温度が低い場合など、燃焼室内の圧力と温度が上昇しない場合には通常の1回点火では燃焼開始時に火炎核が成長しにくくなり部分燃焼が生じることが燃焼解析実験等により知られている。
【0016】
このように火炎核成長速度と部分燃焼とは強い相関を持つのであり、本発明によれば、部分燃焼そのものに相関する基準クランク角時の火炎核成長速度に基づいて点火に必要なエネルギー、具体的には複数回の点火回数指令値を算出する。このため、基準クランク角時の火炎核成長速度が遅くて部分燃焼が発生していることを示していれば、2回以上の点火回数指令値が算出されるのであり、この点火回数指令値により、1回目の点火に続けて2回目の点火が行われると、この2回目の点火は、いわゆる「つぎ火」となるのであり、これによって再び点火プラグ周りの混合気温度を上昇させて火炎核の成長を促進することが可能となり、部分燃焼に至らず燃焼させることができる。
【0017】
このように部分燃焼そのものに相関する基準クランク角時の火炎核成長速度に基づいて多重点火を行うことで、新気、燃焼室内の残留ガス、排気還流する不活性ガスの各量、混合気の温度、燃焼室内のガス流動などのばらつきがあっても、部分燃焼が生じないようにすることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明のシステムを説明するための概略図である。
【0020】
空気は吸気コレクタ2に蓄えられた後、吸気マニホールド3を介して各気筒の燃焼室5に導入される。燃料は各気筒の吸気ポート4に配置された燃料インジェクタ21より噴射供給される。空気中に噴射された燃料は気化しつつ空気と混合してガス(混合気)を作り、燃焼室5に流入する。この混合気は吸気弁15が閉じることで燃焼室5内に閉じこめられ、ピストン6の上昇によって圧縮される。
【0021】
この圧縮混合気に対して高圧火花により点火を行うため、パワートランジスタ内蔵の点火コイルを各気筒に配した電子配電システムの点火装置11を備える。すなわち、点火装置11は、バッテリからの電気エネルギーを蓄える点火コイル13と、点火コイル13の一次側への通電、遮断を行うパワートランジスタと、燃焼室5の天井に設けられ点火コイル13の一次電流の遮断によって点火コイル13の二次側に発生する高電圧を受けて、火花放電を行う点火プラグ14とからなっている。
【0022】
圧縮上死点より少し手前で点火プラグ14により火花が飛ばされ圧縮混合気に着火されると、火炎が広がりやがて爆発的に燃焼し、この燃焼によるガス圧がピストン6を押し下げる仕事を行う。この仕事はクランクシャフト7の回転力として取り出される。燃焼後のガス(排気)は排気弁16が開いたとき排気通路8へと排出される。
【0023】
排気通路8には三元触媒9を備える。三元触媒9は排気の空燃比が理論空燃比を中心とした狭い範囲(ウインドウ)にあるとき、排気に含まれるHC、CO、NOxといった有害三成分を同時に効率よく除去できる。空燃比は吸入空気量と燃料量の比であるので、エンジンの1サイクル(4サイクルエンジンではクランク角で720°区間)当たりに燃焼室5に導入される吸入空気量と、燃料インジェクタ21からの燃料噴射量との比が理論空燃比となるように、エンジンコントローラ31ではエアフローメータ32からの吸入空気流量の信号とクランク角センサ(33、34)からの信号に基づいて燃料インジェクタ21からの燃料噴射量を定めると共に、三元触媒9の上流に設けたO2センサ35からの信号に基づいて空燃比をフィードバック制御している。
【0024】
吸気コレクタ2の上流には絞り弁23がスロットルモータ24により駆動される、いわゆる電子制御スロットル22を備える。運転者が要求するトルクはアクセルペダル41の踏み込み量(アクセル開度)に現れるので、エンジンコントローラ31ではアクセルセンサ42からの信号に基づいて目標トルクを定め、この目標トルクを実現するための目標空気量を定め、この目標空気量が得られるようにスロットルモータ24を介して絞り弁23の開度を制御する。
【0025】
吸気弁用カムシャフト25、排気弁用カムシャフト26及びクランクシャフト7の各前部にはそれぞれカムスプロケット、クランクスプロケットが取り付けられ、これらスプロケットにタイミングチェーン(図示しない)を掛け回すことで、カムシャフト25、26がエンジンのクランクシャフト7により駆動されるのであるが、このカムスプロケットと吸気弁用カムシャフト25との間に介在して、作動角一定のまま吸気弁用カムの位相を連続的に制御し得る吸気バルブタイミングコントロール機構(以下、「吸気VTC機構」という。)27と、カムスプロケットと排気弁用カムシャフト26との間に介在して、作動角一定のまま排気弁用カムの位相を連続的に制御し得る排気バルブタイミングコントロール機構(以下、「排気VTC機構」という。)28とを備える。吸気弁15の開閉時期や排気弁16の開閉時期を変えると燃焼室5に残留する不活性ガスの量が変化する。燃焼室5内の不活性ガスの量が増えるほどポンピングロスが減って燃費がよくなるので、運転条件によりどのくらいの不活性ガスが燃焼室5内に残留したらよいかを目標吸気弁閉時期や目標排気弁閉時期にして予め定めており、エンジンコントローラ31ではそのときの運転条件(エンジンの負荷と回転速度)より目標吸気弁閉時期と目標排気弁閉時期を定め、それら目標値が得られるように吸気VTC機構27、排気VTC機構28の各アクチュエータを介して吸気弁閉時期と排気弁閉時期を制御する。
【0026】
吸気温度センサ43からの吸気温度の信号、吸気圧力センサ44からの吸気圧力の信号、排気温度センサ45からの排気温度の信号、排気圧力センサ46からの排気圧力の信号が、水温センサ37からの冷却水温の信号と共に入力されるエンジンコントローラ31では、パワートランジスタ13を介して点火プラグ14の一次側電流の遮断時期である点火時期を制御する。
【0027】
図2はエンジンコントローラ31内で行われる点火時期制御のブロック図で、大きくは点火時期演算部51と点火時期制御部61とからなる。点火時期演算部51はさらに初期燃焼期間算出部52、主燃焼期間算出部53、燃焼期間算出部54、基本点火時期算出部55、前回燃焼開始時期算出部56、多重点火時期指令値算出部57からなる。
【0028】
初期燃焼期間算出部52では、混合気が着火してから火炎核が形成されるまでの期間を初期燃焼期間BURN1として算出する。主燃焼期間算出部53では、火炎核が形成されてから燃焼圧力が最大値Pmaxに達するまでの期間を主燃焼期間BURN2として算出する。燃焼期間算出部54では、これら初期燃焼期間BURN1と主燃焼期間BURN2との合計を、点火より最大燃焼圧力Pmaxに至るまでの燃焼期間BURNとして算出する。基本点火時期算出演算部55では、この燃焼期間BURNに基づいてMBTの得られる点火時期(この点火時期を「基本点火時期」という。)MBTCALを算出する。
【0029】
多重点火時期指令値算出部57は図37に示したように、基準クランク角時基本火炎核成長速度算出部81、基準クランク角時火炎核成長速度算出部82、点火回数指令値算出部83、多重点火時期算出部87からなる。また、点火回数指令値算出部83は点火回数算出部84、85と大きい側選択部86とからなっている。
【0030】
基準クランク角時基本火炎核成長速度算出部81では、燃焼室5内のガス流動の乱れ強さが所定値であるときの基準クランク角時の基本火炎核成長速度Sfmbt0を算出する。基準クランク角時火炎核成長速度算出部82ではこの基本火炎核成長速度Sfmbt0に対して実際の燃焼室5内のガス流動の乱れ強さST1に応じた補正を行ってそのときの乱れ強さに対する基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbtを算出する。点火回数算出部84ではこの火炎核成長速度Sfmbtと燃焼期間BURNとに基づいて点火回数n1を、また点火回数算出部85ではこの火炎核成長速度Sfmbtとエンジン回転速度NRPMとに基づいて点火回数n2をそれぞれ算出する。大きい側選択部86ではこれらn1、n2のうちより大きい側の値を点火回数指令値nとして選択する。多重点火時期算出部87ではこのようにして点火回数指令値算出部83で算出された点火回数指令値nに基づいて1サイクル当たりn回の点火時期指令値を算出する。
【0031】
図2に戻り、点火時期制御部61ではこのようにして算出された1サイクル当たりn回の多重点火時期指令値で点火プラグ14が燃焼室5内の混合気に対して着火するように、イグニッションコイル13への通電角と非通電角を制御する。
【0032】
上記のように燃焼期間BURNを初期燃焼期間BURN1と主燃焼期間BURN2に分けて算出し、燃焼期間BURNに応じて基本点火時期MBTCALを求めるようにしたのは、燃焼解析より得られた結果に基づくものである。以下、燃焼解析に基づくこの点火時期制御をさらに説明する。
【0033】
図3に示すようにMBT(最大トルクの得られる最小進角値)で混合気に点火した場合に混合気の燃焼圧力が最大値Pmaxとなるクランク角を基準クランク角θPMAX[degATDC]とする。基準クランク角θPMAXは燃焼方式によらずほぼ一定であり、一般に圧縮上死点後12〜15度、最大で圧縮上死点後10〜20度の範囲にある。
【0034】
図4に火花点火エンジンにおける燃焼室内の燃焼解析により得られた燃焼質量割合Rの変化を示す。燃焼室に供給された燃料に対する燃焼質量の比率を表す燃焼質量割合Rは、点火時に0%であり、完全燃焼によって100%に達する。基準クランク角θPMAXにおける燃焼質量割合Rmaxは一定で約60%である。
【0035】
燃焼質量割合Rが0%から基準クランク角θPMAX相当の約60%に達するまでの燃焼期間は、点火直後で燃焼質量割合にも燃焼圧力にもほとんど変化のない期間である初期燃焼期間と、燃焼質量割合と燃焼圧力が急激に増加する主燃焼期間とに分けられる。初期燃焼期間は、燃焼の開始から火炎核が形成されるまでの段階であり、火炎核が形成されるのは燃焼質量割合で2%〜10%のタイミングである。この期間中は、燃焼圧力や燃焼温度の上昇速度が小さく、燃焼質量割合の変化に対して初期燃焼期間は長い。初期燃焼期間の長さは燃焼室内の温度や圧力の変化の影響を受けやすい。
【0036】
一方、主燃焼期間においては、火炎核から外側と火炎が伝播し、燃焼速度が急上昇する。そのため、主燃焼期間の燃焼質量割合の変化は初期燃焼期間の燃焼質量割合の変化に比べて大きい。
【0037】
エンジンコントローラ31では、燃焼質量割合が2%に達するまでを初期燃焼期間BURN1[deg]とし、初期燃焼期間BURN1の終了後、基準クランク角θPMAXに至るまでの区間(燃焼室量割合でいえば2%より約60%に達するまでの間)を主燃焼期間BURN2[deg]として区別する。そして、初期燃焼期間BURN1に主燃焼期間BURN2を加えた合計である燃焼期間BURN[deg]を算出し、この燃焼期間BURNから基準クランク角θPMAX[degATDC]を差し引き、さらに後述する点火無駄時間相当クランク角IGNDEAD[deg]を加えたクランク角位置を、MBTの得られる点火時期である基本点火時期MBTCAL[degBTDC]として設定する。
【0038】
火炎核の形成される初期燃焼期間での燃焼室5内の圧力、温度は、点火時の圧力、温度とほぼ等価になるが、これから点火時期を算出しようとしているのに、最初から正確な点火時期を設定することはできない。そこで、図2に示したように前回燃焼開始時期算出部56で基本点火時期の前回値を前回燃焼開始時期MBTCYCL[degBTDC]として算出し、この値を初期燃焼期間算出部52に対して与えるようにし、初期燃焼期間算出部52において初期燃焼期間の算出をサイクリックに繰り返すことで、精度の高い結果を時間遅れなしに出すようにしている。
【0039】
次に、エンジンコントローラ31で実行される点火時期指令値QADVの算出を以下のフローチャートを参照しながら詳述する。
【0040】
図5は点火時期の算出に必要な各種の物理量を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。
【0041】
まずステップ11では、吸気弁閉時期IVC[degBTDC]、温度センサ43により検出されるコレクタ内温度TCOL[K]、温度センサ45により検出される排気温度TEXH[K]、内部不活性ガス率MRESFR[%]、温度センサ37により検出される冷却水温TWK[K]、目標当量比TFBYA、クランク角センサにより検出されるエンジン回転速度NRPM[rpm]、点火無駄時間DEADTIME[μsec]を読み込む。
【0042】
ここで、クランク角センサはクランクシャフト7のポジションを検出するポジションセンサ33と、吸気用カムシャフト25ポジションを検出するフェーズセンサ34とからなり、これら2つのセンサ33、34からの信号に基づいてエンジン回転速度NRPM[rpm]が算出されている。
【0043】
吸気弁閉時期IVCは吸気VTC機構27に与える指令値から既知である。あるいはフェーズセンサ34により実際の吸気弁閉時期を検出してもかまわない。
【0044】
内部不活性ガス率MRESFRは燃焼室内に残留する不活性ガス量を燃焼室内の総ガス量で除した値で、その算出については後述する。点火無駄時間DEADTIMEは一定値である。
【0045】
目標当量比TFBYAは図示しない燃料噴射量の算出フローにおいて算出されている。目標当量比TFBYAは無名数であり、理論空燃比を14.7とすると、次式により表される値である。
【0046】
TFBYA=14.7/目標空燃比…(1)
例えば(1)式より目標空燃比が理論空燃比のときTFBYA=1.0となり、目標空燃比が例えば22.0といったリーン側の値であるとき、TFBYAは1.0未満の正の値である。
【0047】
ステップ12では、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける容積(つまり圧縮開始時期での容積)VIVC[m3]を算出する。燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCは、ピストン6のストローク位置によって決まる。ピストン6のストローク位置はエンジンのクランク角位置によって決まる。
【0048】
図6を参照して、エンジンのクランクシャフト71の回転中心72がシリンダの中心軸73からオフセットしている場合を考える。コネクティングロッド74、コネクティングロッド74とクランクシャフト71との結節点75、コネクティングロッド74とピストンをつなぐピストンピン76が図に示す関係にあるとする。このときの、燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCは次式(2)〜(6)で表すことができる。
【0049】
VIVC=f1(θivc)
=Vc+(π/4)D2・H…(2)
Vc=(π/4)D2・H/(ε−1)…(3)
H ={(CND+ST2/2)−(CRoff−PISoff)21/2
−{(ST/2)・cos(θivc+θoff)}
+(CND2−X21/2…(4)
X =(ST/2)・sin(θivc+θoff)−CRoff+PISoff…(5)
θoff=arcsin{(CRoff−PISoff)/(CND・(ST/2))}…(6)
ただし、Vc:隙間容積[m3]、
ε :圧縮比、
D :シリンダボア径[m]、
ST :ピストンの全ストローク[m]、
H :ピストンピン76のTDCからの距離[m]、
CND :コネクティングロッド74の長さ[m]、
CRoff :結節点75のシリンダ中心軸73からのオフセット距離[m]、
PISoff:クランクシャフト回転中心72のシリンダ中心 軸73からのオフセット距離[m]、
θivc :吸気弁閉時期のクランク角[degATDC]、
θoff :ピストンピン76とクランクシャフト回転中心72とを結ぶ線がTDCにおいて垂直線となす角度[deg]、
X :結節点75とピストンピン76との水平距離[m] 、
吸気弁閉時期のクランク角θivcは前述のように、エンジンコントローラ31から吸気VTC機構27への指令信号によって決まるので、既知である。式(2)〜(6)にこのときのクランク角θivc(=IVC)を代入すれば、燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCを算出することができる。したがって、実用上は燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCは吸気弁閉時期IVCをパラメータとするテーブルで設定したものを用いる。吸気VTC機構27を備えないときには定数で与えることができる。
【0050】
ステップ13では、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける温度(つまり圧縮開始時期温度)TINI[K]を算出する。燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける温度TINIは、燃焼室5に流入する新気と燃焼室5に残留する不活性ガスとが混じったガスの温度であり、燃焼室5に流入する新気の温度は吸気コレクタ2内の新気温度TCOLに等しく、また燃焼室5内に残留する不活性ガスの温度は排気ポート部近傍の排気温度TEXHで近似できるので、吸気コレクタ2内の新気温度TCOL、排気温度TEXH、燃焼室5内に残留する不活性ガスの割合である内部不活性ガス率MRESFRから次式により求めることができる。
【0051】
TINI=TEXH×MRESFR+TCOL×(1−MRESFR)…(7)
ステップ14では、燃焼室5内の混合気の燃えやすさを表す反応確率RPROBA[%]を算出する。反応確率RPROBAは無次元の値であり、残留不活性ガス率MRESFR、冷却水温TWK[K]、目標当量比TFBYAの3つのパラメータに依存するので、次式により表すことができる。
【0052】
RPROBA=f3(MRESFR、TWK、TFBYA)…(8)
具体的に説明すると、MRESFR、TWK、TFBYAの3つのパラメータの組み合わせによって得られる反応確率の最大値を100%とし、これらのパラメータと反応確率RPROBAの関係を実験的に求め、求めた反応確率RPROBAをパラメータに応じたテーブルとしてエンジンコントローラ31のメモリに予め格納しておく。ステップ14ではパラメータに応じてこのテーブルを検索することにより反応確率RPROBAを求める。
【0053】
具体的には、冷却水温TWKに応じて図7に示すような特性を有する水温補正係数のテーブルと、同様に設定された内部不活性ガス率補正係数のテーブル(図示しない)と、目標当量比Tfbyaに応じて図8に示すような特性を有する当量比補正係数のテーブルを予めメモリに格納しておく。各補正係数の最大値はそれぞれ1.0であり、3種類の補正係数の積に反応確率の最大値100%を掛け合わせることで、反応確率RPROBAを算出する。
【0054】
各テーブルを説明すると、図7に示す水温補正係数は冷却水温TWKが高いほど大きく、冷却水温TWKが80℃以上では1.0になる。図8に示す当量比補正係数は目標当量比TFBYAが1.0のとき、つまり理論空燃比のときに最大値の1.0となり、目標当量比が1.0より大きくても小さくても当量比補正係数は減少する。内部不活性ガス率補正係数は図示しないが、内部不活性ガス率MRESFRがゼロの場合に1.0となる。
【0055】
ステップ15では、基準クランク角θPMAX[degATDC]を算出する。前述のように基準クランク角θPMAXはあまり変動しないが、それでもエンジン回転速度NRPMの上昇に応じて進角する傾向があるため、基準クランク角θPMAXはエンジン回転速度NRPMの関数として次式で表すことができる。
【0056】
θPMAX=f4(NRPM)…(9)
具体的にはエンジン回転速度NRPMから、エンジンコントローラ31のメモリに予め格納された図9に示す特性のテーブルを検索することにより基準クランク角θPMAXを求める。算出を容易にするために、基準クランク角θPMAXを一定とみなすことも可能である。
【0057】
最後にステップ16では、点火無駄時間相当クランク角IGNDEAD[deg]を算出する。点火無駄時間相当クランク角IGNDEADは、エンジンコントローラ31から点火コイル13の一次電流を遮断する信号を出力したタイミングから点火プラグ14が実際に点火するまでのクランク角区間で、次式により表すことができる。
【0058】
IGNDEAD=f5(DEADTIME、NRPM)…(10)
ここでは、点火無駄時間DEADTIMEを200μsecとする。(10)式は、エンジン回転速度NRPMから点火無駄時間DEADTIMEに相当するクランク角である点火無駄時間相当クランク角IGNDEADを算出するためのものである。
【0059】
図10は初期燃焼期間BURN1[deg]を算出するためのもの、また図12は主燃焼期間BURN2[deg]を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。図10、図12は図5に続けて実行する。
図10、図12はどちらを先に実行してもかまわない。
【0060】
まず図10から説明すると、ステップ21では、前回燃焼開始時期MBTCYCL[degBTDC]、図5のステップ12で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVC[m3]、図5のステップ13で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINI[K]、エンジン回転速度NRPM[rpm]、図5のステップ14で算出されている反応確率RPROBA[%]を読み込む。
【0061】
ここで、前回燃焼開始時期MBTCYCLは、基本点火時期MBTCALの[degBTDC]の1サイクル前の値であり、その算出については後述する。
【0062】
ステップ22では燃焼室5の燃焼開始時期における容積V0[m3]を算出する。前述したように、ここでの点火時期(燃焼開始時期)は今回のサイクルで演算する基本点火時期MBTCALではなく基本点火時期の1サイクル前の値である。すなわち、基本点火時期の1サイクル前の値であるMBTCYCLから次式により燃焼室5の燃焼開始時期における容積V0を算出する。
【0063】
V0=f6(MBTCYCL)…(11)
具体的には前回燃焼開始時期MBTCYCLにおけるピストン6のストローク位置と、燃焼室5のボア径から、燃焼室5のMBTCYCLにおける容積V0を算出する。図5のステップ12では、燃焼室5の吸気弁閉時期IVCにおける容積VIVCを、吸気弁閉時期をパラメータとする吸気弁閉時期容積のテーブルを検索することにより求めたが、ここではMBTCYCLをパラメータとする前回燃焼開始時期容積のテーブルを検索することにより、燃焼室5の前回燃焼開始時期MBTCYCLにおける容積V0を求めればよい。
【0064】
ステップ23では燃焼開始時期における有効圧縮比Ecを算出する。有効圧縮比Ecは無次元の値であり、次式に示すように燃焼室5の燃焼開始時期における容積V0を燃焼室5の吸気弁閉時期における容積VIVCで除した値である。
【0065】
Ec=f7(V0、VIVC)=V0/VIVC…(12)
ステップ24では吸気弁閉時期IVCから燃焼開始時期に至る間の燃焼室5内の温度上昇率TCOMPを次式に示すように有効圧縮比Ecに基づいて算出する。
【0066】
TCOMP=f8(Ec)=Ec^(κ−1)…(13)
ただし、κ:比熱比、
(13)式は断熱圧縮されるガスの温度上昇率の式である。なお、(13)式右辺の「^」は累乗計算を表している。
【0067】
κは断熱圧縮されるガスの定圧比熱を定容比熱で除した値で、断熱圧縮されるガスが空気であればκ=1.4であり、簡単にはこの値を用いればよい。ただし、混合気に対してκの値を実験的に求めることで、一層の算出精度の向上が可能である。
【0068】
図11は(13)式を図示したものである。従って、このような特性のテーブルを予めエンジンコントローラ31のメモリに格納しておき、有効圧縮比Ecに基づき当該テーブルを検索することにより温度上昇率TCOMPを求めることも可能である。
【0069】
ステップ25では、燃焼室5の燃焼開始時期における温度T0[K]を、燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINIに温度上昇率TCOMPを乗じることで、つまり
T0=TINI×TCOMP…(14)
の式により算出する。
【0070】
ステップ26では、次式(公知)により層流燃焼速度SL1[m/sec]を算出する。
【0071】
SL1=SLstd×(T0×Tstd)2.18×(P0/Pstd)-0.16…(15)
ただし、Tstd :基準温度[K]、
Pstd :基準圧力[Pa]、
SLstd:基準温度Tstdと基準圧力Pstdにおける基準層流燃焼 速度[m/sec]、
T0 :燃焼室5の燃焼開始時期における温度[K]、
P0 :燃焼室5の燃焼開始時期における圧力[Pa]、
基準温度Tstdと基準圧力Pstdと基準層流燃焼速度SLstdは実験により予め定められる値である。
【0072】
燃焼室5の通常の圧力である2bar以上の圧力下では、(15)式の圧力項(P0/Pstd)-0.16は小さな値となる。従って、圧力項(P0/Pstd)-0.16を一定値として、基準層流燃焼速度SLstdを基準温度Tstdのみで規定することも可能である。
【0073】
従って、基準温度Tstdが550[K]で、基準層流燃焼速度SLstdが1.0[m/sec]で、圧力項が0.7である場合の燃焼開始時期における温度T0と層流燃焼速度SL1との関係は近似的に次式で定義することができる。
【0074】
SL1=f9(T0)
=1.0×0.7×(T0/550)2.18…(16)
ステップ27では、初期燃焼におけるガス流動の乱れ強さST1を算出する。このガス流動の乱れ強さST1は無次元の値であり、燃焼室5に流入する新気の流速と燃料インジェクタ21の噴射燃料のペネトレーションとに依存する。
【0075】
燃焼室5に流入する新気の流速は、吸気通路の形状と、吸気弁15の作動状態と、吸気弁15を設ける吸気ポート4の形状に依存する。噴射燃料のペネトレーションは燃料インジェクタ21の噴射圧力と、燃料噴射期間と、燃焼噴射タイミングに依存する。
【0076】
最終的に、初期燃焼におけるガス流動の乱れ強さST1は、エンジン回転速度NRPMの関数として次式で表すことができる。
【0077】
ST1=f10(NRPM)=C1×NRPM…(17)
ただし、C1:定数、
乱れ強さST1を回転速度NRPMをパラメータとするテーブルから求めることも可能である。
【0078】
ステップ28では層流燃焼速度S1と乱れ強さST1から、初期燃焼におけるガスの燃焼速度FLAME1[m/sec]を次式により算出する。
【0079】
FLAME1=SL1×ST1…(18)
燃焼室5内にガス乱れがあるとガスの燃焼速度が変化する。(18)式はこのガス乱れに伴う燃焼速度への寄与(影響)を考慮したものである。
【0080】
ステップ29では、次式により初期燃焼期間BURN1[deg]を算出する。
【0081】
BURN1={(NRPM×6)×(BR1×V0)}
/(PRROBA×AF1×FLAME1)…(19)
ただし、AF1:火炎核の反応面積(固定値)[m2]、
ここで、(19)式右辺のBR1は燃焼開始時期より初期燃焼期間BURN1の終了時期までの燃焼質量割合の変化量であり、ここではBR1=2%に設定している。(19)式右辺の(NRPM×6)は単位をrpmからクランク角(deg)に変換するための措置である。火炎核の反応面積AF1は実験的に設定される。
【0082】
次に図12のフローに移ると、ステップ31では回転速度NRPM、図5のステップ14で算出されている反応確率RPROBAを読み込む。
【0083】
ステップ32では主燃焼におけるガス流動の乱れ強さST2を算出する。このガス流動の乱れ強さST2も初期燃焼におけるガス流動の乱れ強さST1と同様に、エンジン回転速度NRPMの関数として次式で表すことができる。
【0084】
ST2=f11(NRPM)=C2×NRPM…(20)
ただし、C2:定数、
乱れ強さST2を回転速度をパラメータとするテーブルから求めることも可能である。
【0085】
ステップ33では、層流燃焼速度SL2[m/sec]と主燃焼におけるガス流動の乱れ強さST2とから、主燃焼における燃焼速度FLAME2[m/sec]を次式により算出する。
【0086】
FLAME2=SL2×ST2…(21)
ただし、SL2:層流燃焼速度[m/sec]、
(21)式は(18)式と同様、ガス乱れに伴う燃焼速度への寄与を考慮したものである。
【0087】
前述のように主燃焼期間BURN2の長さは燃焼室5内の温度や圧力の変化の影響を受けにくい。従って、層流燃焼速度SL2には予め実験的に求めた固定値を適用する。
【0088】
ステップ34では、主燃焼期間BURN2[deg]を(19)式に類似した次式で算出する。
【0089】
BURN2={(NRPM×6)×(BR2×V2)}
/(PRROBA×AF2×FLAME2)…(22)
ただし、V2:燃焼室5の主燃焼期間開始時容積[m3]、
AF2:火炎核の反応面積[m2
ここで、(22)式右辺のBR2は主燃焼期間の開始時期より終了時期までの燃焼質量割合の変化量である。初期燃焼期間の終了時期に燃焼質量割合が2%になり、その後、主燃焼期間が開始し、燃焼質量割合が60%に達して主燃焼期間が終了すると考えているので、BR2=60%−2%=58%を設定している。AF2は火炎核の成長行程における平均の反応面積であり、(19)式のAF1と同様に、予め実験的に定めた固定値とする。燃焼室5の主燃焼期間開始時における容積V2も固定値である。
【0090】
図13は基本点火時期MBTCAL[degBTDC]を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。図10、図12のうち遅く実行されるフローに続けて実行する。
【0091】
ステップ41では、図10のステップ29で算出されている初期燃焼期間BURN1、図12のステップ34で算出されている主燃焼期間BURN2、図5のステップ16で算出されている点火時期無駄時間相当クランク角IGNDEAD、図5のステップ15で算出されている基準クランク角θPMAXを読み込む。
【0092】
ステップ42では、初期燃焼期間BURN1と主燃焼期間BURN2の合計を燃焼期間BURN[deg]として算出する。
【0093】
ステップ43では次式により基本点火時期MBTCAL[degBTDC]を算出する。
【0094】
MBTCAL=BURN−θPMAX+IGNDEAD…(23)
ステップ44では、この基本点火時期MBTCALから点火無駄時間相当クランク角IGNDEADを差し引いた値を前回燃焼開始時期MBTCYCL[degBTDC]として算出する。
【0095】
このようにして算出した基本点火時期MBTCALは、後述するように、部分燃焼発生限界点火時期CCLCAL[degBTDC]と比較され、より遅角側の値が点火時期指令値QADV[degBTDC]として選択される。この点火時期指令値QADVは点火レジスタに移され、実際のクランク角がこの点火時期指令値QADVと一致したタイミングでエンジンコントローラ31より一次電流を遮断する点火信号が点火コイル13に出力される。
【0096】
また、今サイクルの点火時期指令値としてステップ43で算出された基本点火時期MBTCALが用いられたとすると、次サイクルの点火時期になるまでの間、ステップ44で算出された前回燃焼開始時期MBTCYCLが図10のステップ22において用いられる。
【0097】
以上のように、本実施形態においては、燃焼室5内の未燃ガス量などの質量計算を行わずにMBTの得られる点火時期である基本点火時期MBTCALを算出するので、計算負荷を小さく抑えることができる。
【0098】
また、上記(19)式に示したように初期燃焼期間BURN1を、燃焼開始時期における燃焼室容積V0と、混合気の燃焼のしやすさを表す反応確率RPROBAと、燃焼速度FLAME1の関数で表している。ここで、燃焼開始時期における燃焼室容積V0が大きいほど、反応確率RPROBAが小さいほど、燃焼速度FLAME1が遅いほど、それぞれ初期燃焼期間BURN1が長くなり、結果として基本点火時期MBTCALが進角する。
【0099】
同様に、上記(22)式に示したように主燃焼期間BURN2を、主燃焼期間の開始時期における燃焼室容積V2と、混合気のしやすさを表す反応確率RPROBAと、燃焼速度FLAME2の関数で表している。ここで、主燃焼期間開始時期における燃焼室容積V2が大きいほど、反応確率RPROBAが小さいほど、燃焼速度FLAME2が遅いほど、それぞれ主燃焼期間BURN2が長くなり、結果として点火時期MBTCALが進角する。
【0100】
このように、燃焼期間BURN1とBURN2を、燃焼期間に影響を与える様々なパラメータの関数として算出することで、燃焼期間BURN1とBURN2を正確に算出することができる。結果として、燃焼期間BURN1とBURN2に基づき算出される基本点火時期MBTCALも高精度に算出することができる。また、燃焼期間BURNを温度や圧力が大きく影響を受けやすい火炎核成長期間に相当する初期燃焼期間BURN1と、温度や圧力の影響の少ない主燃焼期間とに分けて算出しているので、燃焼期間BURNの算出精度が向上する。燃焼期間BURNを3以上にさらに分割することで、算出精度のさらなる向上も可能である。
【0101】
実施形態では、初期燃焼期間BURN1の算出に用いる燃焼速度FLAME1を層流燃焼速度SL1と乱れ強さST1の積として、また主燃焼期間BURN2の算出に用いる燃焼速度FLAME2を層流燃焼速度SL2と乱れ強さST2の積としてそれぞれ算出しているが、特開平10−30535号公報に記載されているように足し算による算出方法で求めても良い。
【0102】
実施形態では、初期燃焼期間を燃焼質量割合でゼロから2%まで(つまりBR1=2%)、主燃焼期間を燃焼質量割合で2〜60%まで(つまりBR2=58%)と規定したが、本発明は必ずしもこの数値に限定されるものでない。
【0103】
次に、図14は燃焼室5内の内部不活性ガス率MRESFRを算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。このフローは上記図5のフローに先立って実行する。
【0104】
ステップ51ではエアフローメータ32の出力と目標当量比TFBYAを読み込む。ステップ52ではエアフロメータ32の出力に基づいて、燃焼室5に流入する新気量(シリンダ新気量)MACYLを算出する。このシリンダ新気量MACYLの算出方法については公知の方法を用いればよい(特開2001−50091号公報参照)。
【0105】
ステップ53では、燃焼室5内の内部不活性ガス量MRESを算出する。この内部不活性ガス量MRESの算出については、図15のフローにより説明する。
【0106】
図15(図14ステップ53のサブルーチン)においてステップ61では、燃焼室5内の排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLを算出する。この不活性ガス量MRESCYLの算出についてはさらに図16のフローにより説明する。
【0107】
図16(図15ステップ61のサブルーチン)においてステップ71では、排気弁閉時期EVC[degBTDC]、温度センサ45により検出される排気温度TEXH[K]、圧力センサ46により検出される排気圧力PEXH[kPa]を読み込む。
【0108】
ここで、吸気弁閉時期IVCが吸気VTC機構27に与える指令値から既知であったように、排気弁閉時期EVCも排気VTC機構28に与える指令値から既知である。
【0109】
ステップ72では燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける容積VEVCを算出する。これは吸気弁閉時期IVCにおける容積VIVCと同様に、排気弁閉時期をパラメータとするテーブルを検索することにより求めればよい。すなわち、排気弁VTC機構28を備える場合には、排気弁閉時期EVCから図23に示すテーブルを検索することにより、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける容積VEVCを求めればよい。排気VTC機構28を備えないときには定数で与えることができる。
【0110】
また、図示しないが圧縮比を変化させる機構を有する場合には、圧縮比の変化量に応じた排気弁閉時期における燃焼室容積VEVCをテーブルから求める。排気VTC機構28に加えて圧縮比を変化させる機構をも有する場合には、排気弁閉時期と圧縮比変化量とに応じたマップを検索することにより排気弁閉時期における燃焼室容積を求める。
【0111】
ステップ73では、目標当量比TFBYAから図24に示すテーブルを検索することにより、燃焼室5内の不活性ガスのガス定数REXを求める。図24に示すように、不活性ガスのガス定数REXは目標当量比TFBYAが1.0のとき、つまり理論空燃比のとき最も小さく、これより大きくても小さくても大きくなる。
【0112】
ステップ74では、排気温度TEXHに基づいて燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける温度TEVCを推定する。簡単には排気温度TEXHをそのままTEVCとおけばよい。なお、燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEVCは、インジェクタ21の燃料噴射量に応じた熱量により変化するため、このような特性をも加味すれば、TEVCの算出精度が向上する。
【0113】
ステップ75では、排気圧力PEXHに基づいて燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける圧力PEVCを算出する。簡単には排気圧力PEXHをPEVCと置けばよい。
【0114】
ステップ76では、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける容積VEVC、排気弁閉時期EVCにおける温度TEVC、排気弁閉時期EVCにおける圧力PEVC及び不活性ガスのガス定数REXから、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLを次式により算出する。
【0115】
MRESCYL=(PEVC×VEVC)/(REX×TEVC)…(24)
このようにして燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLの算出を終了したら図15に戻り、ステップ62で吸排気弁15、16のオーバーラップ(図では「O/L」と略記する)中に排気側から吸気側へ吹き返す不活性ガス量であるオーバーラップ中吹き返し不活性ガス量MRESOLを算出する。
【0116】
この不活性ガス量MRESOLの算出については図17のフローにより説明する。
【0117】
図17(図15ステップ62のサブルーチン)においてステップ81では、吸気弁開時期IVO[degBTDC]と、排気弁閉時期EVC[degBTDC]、図16のステップ74で算出されている燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける温度TEVCを読み込む。
【0118】
ここで、吸気弁開時期IVOは、吸気弁閉時期IVCより吸気弁15の開き角だけ前の時期となるので、吸気弁閉時期IVCより吸気弁15の開き角(予め分かっている)とから求めることができる。
【0119】
ステップ82では吸気弁開時期IVOと排気弁閉時期EVCとから、吸排気弁のオーバーラップ量VTCOL[deg]を次式により算出する。
【0120】
VTCOL=IVO+EVC…(25)
例えば、吸気VTC機構27用アクチュエータへの非通電時に吸気弁開時期IVOが吸気上死点位置にあり、吸気VTC機構27用アクチュエータへの通電時に吸気弁開時期が吸気上死点より進角する特性であり、かつ排気VTC機構28用アクチュエータへの非通電時に排気弁閉時期EVCが排気上死点にあり、排気弁VTC機構28用アクチュエータへの通電時に排気弁閉時期EVCが排気上死点より進角する特性である場合には、IVOとEVCの合計が吸排気弁のオーバーラップ量VTCOLとなる。
【0121】
ステップ83では、吸排気弁のオーバーラップ量VTCOLから、図25に示すテーブルを検索することによりオーバーラップ中の積算有効面積ASUMOLを算出する。図25に示すようにオーバーラップ中の積算有効面積ASUMOLは吸排気弁のオーバーラップ量VTCOLが大きくなるほど大きくなる値である。
【0122】
ここで、図26は、吸排気弁のオーバーラップ中の積算有効面積ASUMOLの説明図であり、横軸はクランク角、縦軸は吸気弁12と排気弁15とのそれぞれの開口面積を示している。オーバーラップ中の任意の時点における有効開口面積は、排気弁開口面積と吸気弁開口面積とのうち小さい方とする。オーバーラップ中の全期間における積算有効面積ASUMOLは、吸気弁15及び排気弁16が開いている期間の積分値(図中の斜線部)である。
【0123】
このようにオーバーラップ中積算有効面積ASUMOLを算出することで、吸気弁15と排気弁16とのオーバーラップ量を1つのオリフィス(流出孔)であると近似することができ、排気系の状態と吸気系の状態とからこの仮想オリフィスを通過するガス流量を簡略的に算出し得る。
【0124】
ステップ84では、目標当量比TFBYAと、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける温度TEVCとから、図27に示すマップを検索することにより、燃焼室5に残留する不活性ガスの比熱比SHEATRを算出する。図27に示したように、燃焼室に残留する不活性ガスの比熱比SHEATRは目標当量比TFBYAが1.0の近傍にあるときが最も小さくなり、それより大きくても小さくても大きくなる。また、目標当量比TFBYAが一定の条件では、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける温度TEVCが高くなるほど小さくなる。
【0125】
ステップ85では過給判定フラグTBCRG及びチョーク判定フラグCHOKEを設定する。この過給判定フラグTBCRG及びチョーク判定フラグCHOKEの設定については図18のフローにより説明する。
【0126】
図18(図17ステップ85のサブルーチン)においてステップ101では、吸気圧力センサ44により検出される吸気圧力PINと、図16のステップ75で算出されている燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける圧力PEVCを読み込む。
【0127】
ステップ102では、吸気圧力PINと、燃焼室5の排気弁閉時期EVCにおける圧力PEVCとから、次式により吸気排気圧力比PINBYEXを算出する。
【0128】
PINBYEX=PIN/PEVC…(26)
この吸気排気圧力比PINBYEXは無名数であり、これと1をステップ103で比較する。吸気排気圧力比PINBYEXが1以下の場合には過給無しと判断し、ステップ104に進んで過給判定フラグTBCRG(ゼロに初期設定)=0とする。
【0129】
吸気排気圧力比PINBYEXが1より大きい場合には過給有りと判断し、ステップ105へ進んで過給判定フラグTBCRG=1とする。
【0130】
ステップ106では、図14のステップ51で読み込まれている目標当量比TFBYAから図28に示すテーブルを検索することにより、混合気の比熱比MIXAIRSHRを求め、これをステップ107で不活性ガスの比熱比SHEATRと入れ換える。図28に示したように、混合気の比熱比MIXAIRSHRは、目標当量比TFBYAが小さくなるほど大きくなる値である。
【0131】
ステップ106、107において、不活性ガスの比熱比SHEATRを混合気の比熱比MIXAIRSHRに置き換えるのは、ターボ過給や慣性過給等の過給時を考慮したものである。すなわち、過給時には吸排気弁のオーバーラップ中のガス流れが吸気系から排気系へ向かう(吹き抜ける)ので、この場合においては、上記の仮想オリフィスを通過するガスの比熱比を不活性ガスの比熱比から混合気の比熱比に変更することで、吹き抜けるガス量を精度良く推定し、内部不活性ガス量を精度良く算出するためである。
【0132】
ステップ108では、図17のステップ84または図18のステップ106、107で算出している不活性ガスの比熱比SHEATRに基づき、最小と最大とのチョーク判定しきい値SLCHOKEL、SLCHOKEHを次式により算出する。
【0133】
SLCHOKEL={2/(SHEATR+1)}
^{SHEATR/(SHEATR−1)}…(27a)
SLCHOKEH={−2/(SHEATR+1)}
^{−SHEATR/(SHEATR−1)}…(27b)
これらのチョーク判定しきい値SLCHOKEL、SLCHOKEHは、チョークする限界値を算出している。
【0134】
ステップ108において、(27a)右辺、(27b)右辺の各累乗計算が困難な場合には、(27a)、(27b)式の算出結果を、最小チョーク判定しきい値SLCHOKELのテーブルと最大チョーク判定しきい値SLCHOKEHのテーブルとしてそれぞれエンジンコントローラ31のメモリに予め記憶しておき、不活性ガスの比熱比SHEATRから当該テーブルを検索することにより求めてもよい。
【0135】
テップ109では、吸気排気圧力比PINBYEXが、最小チョーク判定しきい値SLCHOKEL以上でかつ最大チョーク判定しきい値SLCHOKEH以下の範囲内にあるか否か、すなわちチョーク状態にないか否かを判定する。吸気排気圧力比PINBYEXが範囲内にある場合にはチョーク無しと判断し、ステップ110に進んでチョーク判定フラグCHOKE(ゼロに初期設定)=0とする。
【0136】
吸気排気圧力比P1NBYEXが範囲内にない場合にはチョーク有りと判断し、ステップ111に進んでチョーク判定フラグCHOKE=1とする。
【0137】
このようにして過給判定フラグとチョーク判定フラグの設定を終了したら図17に戻り、ステップ86〜88で次の4つの場合分けを行う。
【0138】
〈1〉過給判定フラグTBCRG=0かつチョーク判定フラグCHOKE=0のとき
〈2〉過給判定フラグTBCRG=0かつチョーク判定フラグCHOKE=0のとき
〈3〉過給判定フラグTBCRG=0かつチョーク判定フラグCHOKE=1のとき
〈4〉過給判定フラグTBCRG=1かつチョーク判定フラグCHOKE=0のとき
そして、上記〈1〉のときにはステップ89に進んで、過給無しかつチョーク無し時のオーバーラップ中の平均吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp1を、上記〈2〉のときにはステップ90に進んで過給無しかつチョーク有り時のオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp2を、上記〈3〉のときにはステップ91に進んで過給有りかつチョーク無し時のオーバーラップ中の平均吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp3を、上記〈4〉のときにはステップ92に進んで過給有りかつチョーク有り時の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp4をそれぞれ算出し、算出結果をオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
【0139】
ここで、過給無しかつチョーク無し時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp1の算出について図19のフローにより説明する
図19(図17ステップ89のサブルーチン)においてステップ121では、図16のステップ73、75で算出されている不活性ガスのガス定数REX、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCを読み込む。
【0140】
ステップ122では、不活性ガスのガス定数REXと、図17のステップ81で読み込まれている燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEVCとに基づき、後述するガス流量の算出式に用いる密度項MRSOLDを次式により算出する。
【0141】
MRSOLD=SQRT{1/(REX×TEVC)}…(28)
ここで、(28)式右辺の「SQRT」はすぐ右のカッコ内の値の平方根を計算させる関数である。
【0142】
なお、密度項MRSOLDの平方根計算が困難な場合は、(28)式の算出結果をマップとしてエンジンコントローラ31のメモリに予め記憶しておき、ガス定数REXと燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEVCとからそのマップを検索することにより求めてもよい。
【0143】
ステップ123では、図17のステップ84で算出されている不活性ガスの比熱比SHEATRと、図18のステップ102で算出されている吸気排気圧力比PINBYEXとに基づき、後述するガス流量の算出式に用いる圧力差項MRSOLPを次式により算出する。
【0144】
MRSOLP=SQRT[SHEATR/(SHEATR−1)
×{PTNBYEX^(2/SHEATR)
−PTNBYEX^((SHEATR+1)/SHEATR)}]…(29)
ステップ124では、これら密度項MRSOLD、圧力差項MRSOLPと、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCとから、過給無しかつチョーク無し時のオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp1を次式(ガス流量の算出式)により算出し、その算出値をステップ125でオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
【0145】
MRESOLtmp1=1.4×PEVC×MRSOLD×MRSOLP…(30)
次に、過給無しかつチョーク有り時の吹き返し不活性ガス流量の算出について図20のフローにより説明する
図20(図17ステップ90のサブルーチン)においてステップ131、132では、図19のステップ121、122と同様にして、不活性ガスのガス定数REX、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCを読み込み、これらから前述の(28)式により密度項MRSOLDを算出する。
【0146】
ステップ133では、図17のステップ84で算出されている不活性ガスの比熱比SHEATRに基づき、チョーク時圧力差項MRSOLPCを次式により算出する。
【0147】
MRSOLPC=SQRT[SHEATR×{2/(SHEATR+1)}
^{(SHEATR+1)/〔SHEATR−1)}]…(31)
なお、(31)式の累乗計算と平方根計算とが困難な場合には、(31)式の算出結果を、チョーク時圧力差項MRSOLPCのテーブルとしてエンジンコントローラ31のメモリに予めに記憶しておき、不活性ガスの比熱比SHEATRからそのテーブルを検索することにより求めてもよい。
【0148】
ステップ134では、これら密度項MRSOLD、チョーク時圧力差項MRSOLPCと、燃焼室5の排気弁閉時期における圧力PEVCとから、過給無しかつチョーク有り時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp2を次式により算出し、その算出値をステップ135でオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
【0149】
MRESOLtmp2=PEVC×MRSOLD×MRSOLPC…(32)
次に、過給有りかつチョーク無し時の吹き返しガス流量の算出について図21のフローにより説明する
図21(図17ステップ91のサブルーチン)においてステップ141では、吸気圧力センサ44により検出される吸気圧力PINを読み込む。
【0150】
ステップ142では、図18のステップ106、107で算出されている不活性ガスの比熱比SHEATRと、図18のステップ102で算出されている吸気排気圧力比PINBYEXとから、過給時圧力差項MRSOLPTを次式により算出する。
【0151】
MRSOLPT=SQRT[SHEATR/(SHEATR−1)
×{PINBYEX^(−2/SHEATR)
−PINBYEX^(−(SHEATR+1)/SHEATR)}]…(33)
なお、(33)式の累乗計算と平方根計算とが困難な場合は、(33)式の算出結果を、過給時圧力差項MRSOLPTのマップとしてエンジンコントローラ31のメモリに予め記憶しておき、不活性ガスの比熱比SHEATRと吸気排気圧力比PINBYEXとからそのマップを検索することにより求めてもよい。
【0152】
ステップ143では、この過給時圧力差項MRSOLPTと吸気圧力PINとに基づいて、過給有りかつチョーク無し時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp3を次式により算出し、その算出値をステップ144でオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
【0153】
MRESOLtmp3=−0.152×PIN×MRSOLPT…(34)
ここで、(34)式の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp3は負の値とすることで、オーバーラップ中に吸気系から排気系へ吹き抜ける混合気のガス流量を表すことができる。
【0154】
次に、過給有りかつチョーク有り時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量の算出について図22のフローにより説明する
図22(図17ステップ92のサブルーチン)においてステップ151、152では、図21のステップ141と同じく吸気圧力センサ44により検出される吸気圧力PINを読み込むと共に、図20のステップ132と同じくチョーク時圧力差項MRSOLPCを前述の(31)式により算出する。
【0155】
ステップ153では、このチョーク時圧力差項MRSOLPCと吸気圧力PINとに基づいて、過給有りかつチョーク有り時のオーバーラップ中吹き返しガス流量MRESOLtmp4を次式により算出し、その算出値をステップ154でオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpに移す。
【0156】
MRESOLtmp4=−0.108×PIN×MRSOLPC…(35)
ここで、(35)式の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmp4も、MRESOLtmp3と同様、負の値とすることで、オーバーラップ中に吸気側から排気側へ吹き抜ける混合気のガス流量を表すことができる。
【0157】
このようにして、過給の有無とチョークの有無との組み合わせにより場合分けした、オーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpの算出を終了したら図17に戻り、ステップ93においてこのオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量MRESOLtmpとオーバーラップ期間中の積算有効面積ASUMOLとから、次式によりオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLを算出する。
【0158】
MRESOL=(MRESOLtmP×ASUMOL×60)
/(NRPM×360)…(36)
このようにしてオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLの算出を終了したら図15に戻り、ステップ63において燃焼室5内の排気弁閉時期EVCにおける不活性ガス量MRESCYLと、このオーバーラップ中吹き返しガス量MRESOLとを加算して、つまり次式により内部不活性ガス量MRESを算出する。
【0159】
MRES=MRESCYL+MRESOL…(37)
前述のように、過給有り時にはオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量(MRESOLtmp3、MRESOLtmp4)が負となるため、上記(36)式のオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLも負となり、このとき(37)式によれば、オーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLの分だけ内部不活性ガス量が減じられる。
【0160】
このようにして内部不活性ガス量MRESの算出を終了したら図14に戻り、ステップ54においてこの内部不活性ガス量MRESと、目標当量比TFBYAとを用いて、次式により内部不活性ガス率MRESFR(燃焼室5内の総ガス量に対する内部不活性ガス量の割合)を算出する。
【0161】
MRESFR=MRES
/{MRES+MACYL×(1+TFBYA/14.7)}…(38)
これで内部不活性ガス率MRESFRの算出を総て終了する。
【0162】
このように本実施形態によれば、内部不活性ガス量MRESを、燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYLと、吸排気弁のオーバーラップ中の吹き返しガス量MRESOLとで構成し(図15のステップ63参照)、この場合に、燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEV及び圧力PEVCを算出し(図16のステップ74、75)、これら温度TEVC、圧力PEVCと不活性ガスのガス定数REXとに基づいて状態方程式(上記(24)式)により燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYLを算出する(図16のステップ76参照)ようにしたので、特に、燃焼室5内部の状態量(PEVC、VEVC、TEVC)が刻々と変化する過渡運転時においても、運転条件に関わらず精度良く燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYLを算出(推定)できる。
【0163】
また、燃焼室5の排気弁閉時期における温度TEVC及び圧力PEVC、不活性ガスのガス定数REX及び比熱比SHEATR、吸気圧力PINに基づいてオーバーラップ中の吹き返し不活性ガス流量(MRESOLtmp1、MRESOLtmp2)を算出し(図19、図20参照)、このガス流量にオーバーラップ中の積算有効面積ASUMOLを乗算して、オーバーラップ中の吹き返しガス量MRESOLを算出する(図17のステップ93参照)ようにしたので、精度良くオーバーラップ中吹き返しガス量MRESOLを算出(推定)できる。
【0164】
このように、燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYL、オーバーラップ中吹き返しガス量MRESOLとも精度良く算出(推定)できると、これらの和である内部不活性ガス量MRESも精度良く算出(推定)できることになり、この精度良く推定することが可能となった内部不活性ガス量MRESに基づいて算出される内部不活性ガス率MRESFRを、点火時期の算出に用いる燃焼室5内の吸気弁閉時期IVCにおける温度TINIに活かすことで(図5のステップ13参照)、燃焼室5内の吸気弁閉時期IVCにおける温度TINIを精度良く算出できる。また、精度良く推定することが可能となった内部不活性ガス量MRESを、燃料噴射量、バルブ開閉タイミング(オーバーラップ量)などにも活かすことで、エンジンを適切に制御することが可能である。
【0165】
また、不活性ガスのガス定数REXや不活性ガスの比熱比SHEATRは、目標当量比TFBYAに応じた値としているので(図24、図27参照)、理論空燃比を外れた空燃比での運転時(例えば理論空燃比よりもリーンな空燃比で運転を行うリーン運転時、冷間始動時のようにエンジンが元々不安定な状態を安定させるために理論空燃比の空燃比よりもリッチ側の空燃比で運転するエンジン動直後、同じく大きな出力が要求されるために理論空燃比の空燃比よりもリッチ側の空燃比で運転する全負荷運転時)にも、燃焼室5の排気弁閉時期における不活性ガス量MRESCYL、オーバーラップ中吹き返しガス量MRESOL、これらの合計である内部不活性ガス量MRES、これに基づく内部不活性ガス率MRESFRを精度良く算出できる。
【0166】
また、オーバーラップ期間の積算有効面積ASUMOLを仮想オリフィスの面積とし、この仮想オリフィスを排気が燃焼室5から吸気系へと吹き抜けると仮定しているので、オーバーラップ中の吹き返し不活性ガス量MRESOLの算出が簡略化されている。
【0167】
次に、図29は点火回数指令値nを算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。図13のフローに続けて実行する。
【0168】
ステップ161では、図14のステップ52、53で算出されているシリンダ新気量MACYL及び内部不活性ガス量MRES、吸気圧力センサ44(圧縮開始時圧力検出手段)により検出される吸気圧力PIN、図5のステップ13で算出されている燃焼室5の吸気弁閉時期における温度TINI、図10のステップ23、25、27で算出されている燃焼開始時有効圧縮比Ec、乱れ強さST1、図13のステップ42、43で算出されている燃焼期間BURN、基本点火時期MBTCAL、エンジン回転速度NRPMを読み込む。
【0169】
ステップ162では、燃焼室5の総ガス量MASSCを次式により算出する。
【0170】
MASSC=MACYL+MRES…(39)
ステップ163、164では、燃焼室5の基準クランク角時における平均温度Tc及び基準クランク角時における圧力Pcを次式により算出する。
【0171】
Tc=TINI×Ec^(n−1)+Tup#×Q/MASSC…(39a)
Pc=PIN×Ec^n
×{Tc/((TINI×Ec^(n−1))}×Vup#…(39b)
ただし、n:ポリトロープ指数、
Tup#:定数、
Q:60%燃焼発熱量、
Vup#:定数、
ここで、不可逆断熱変化の場合、ポリトーロープ指数nはガスの比熱比κに等しいので、(39b)式を書き換えると次式が得られる。
【0172】
Pc=PIN×Ec^κ
×{Tc/((TINI×Ec^(κ−1))}×Vup#…(39c)
(39c)式の定数Vup#は燃焼質量が60%まで燃焼し燃焼途中のガスになったときの分子量変化に伴うガス容積変化率である。1より若干大きな値(1.03程度)を用いればよい。
【0173】
ステップ165では、基準クランク角時の基本火炎核成長速度Sfmbt0[m/sec]を次式により算出する。
【0174】
Sfmbt0
=(0.6×MASSC)/(BURN×ρb×AF2)
+(V2/AF2)×[(Tc−TINI)/(BURN×Tc)
−(Pc−PIN)/(BURN×Pc)]…(40)
ただし、V2 :燃焼室5の主燃焼期間開始時容積[m3]、
AF2:火炎核の反応面積[m2]、
ρb :既燃ガス密度、
ここで、V2、AF2は上記(22)式で既に用いられている。ρbは燃焼質量が60%まで燃焼したときのガス質量/既燃ガス体積であり、一定値である。
【0175】
次に、SAEペーパー2001−01−0960論文(火花点火エンジンにおける燃焼室内の火炎核の成長と伝播についてのモデリングと実験研究についてのもの)の記載に基づいて、上記(40)式を導いた処を説明する。
【0176】
上記論文における連続の式及び火炎核へのアプローチによれば、質量燃焼モデルで、燃焼質量mbの時間的変化が次式により定義されている。
【0177】
dmb/dt=ρu×Ab×(Sdiff+Scomb)+C×ρu×μin…(補1)
ただし、mb :燃焼質量、
ρu :未燃ガス密度、
Ab :既燃ガスの表面積、
Sdiff :熱拡散速度、
Scomb :燃焼速度、
C :液体の比熱、
この場合、(補1)式の右辺第2項は小さいので無視すると次式を得る。
【0178】
dmb/dt=ρu×Ab×(Sdiff+Scomb)…(補2)
一方、燃焼質量mbは、実験結果によれば、図30において一点鎖線で示したように曲線で変化するのであるが、ここではその曲線の変化を、実線で示した直線で近似する。このとき、直線の傾きつまりdmb/dtは幾何学的に次式のように表すことができる。
【0179】
dmb/dt≒(MASSC×0.6)/BURN…(補3)
この(補3)式と上記の(補2)式よりdmb/dtを消去する。
【0180】
ρu×Ab×(Sdiff+Scomb)=(0.6×MASSC)/BURN
∴Sdiff+Scomb
={1/(ρu×Ab)}×{(MASSC×0.6)/BURN}…(補4)
一方、上記論文において火炎核成長速度dr/dtは次式により表されている。
【0181】
dr/dt=(ρu/ρb)×(Sdiff+Scomb)
+(Vb/Ab)×[(1/Tb)×(dTb/dt)
−(1/P)×(dP/dt)]…(補5)
ただし、r :火炎核の半径、
ρu :未燃ガス密度、
ρb :既燃ガス密度、
Sdiff:熱拡散速度、
Scomb:燃焼速度、
Vb :既燃ガスの体積、
Ab :既燃ガスの表面積、
Tb :既燃ガス温度、
P :ガスの圧力、
(補5)式の火炎核成長速度dr/dtを改めて本発明の基本火炎核成長速度Sfmbt0とし、(補4)を代入して、Sdiff+Scombを消去すると、次式が得られる。
【0182】
Sfmbt0
=(0.6×MASSC)/(ρb×Ab×BURN)
+(Vb/Ab)×[(1/Tb)×(dTb/dt)
−(1/P)×(dP/dt)]…(補6)
ここで、(補6)式右辺第2項に対してさらに近似を行う。すなわち、TbやPは基準クランク角時期における温度Tcや圧力Pcであり、dTbやdPはそれぞれ圧縮開始時期から基準クランク角時期までの間の温度(Tb)や圧力(P)の変化量であるから、dTbはTc−TINI、またdPはPc−PINである。このとき、dtに相当するのは圧縮開始時期より基準クランク角時期までのクランク角区間となるが、ここではこのクランク角区間に代えて微小クランク角である燃焼期間BURN[deg]を適用する。
【0183】
従って、(補6)式において、dt→BURN、Tb→Tc、dTb→Tc−TINI、P→Pc、dP→Pc−PINの置き換えを行うと、次式が得られる。
【0184】
Sfmbt0
=(0.6×MASSC)/(ρb×Ab×BURN)
+(Vb/Ab)×[(1/Tc)×{(Tc−TINI)/BURN}
−(1/Pc)×{(Pc−PIN)/BURN}]
=(0.6×MASSC)/(BURN×ρb×Ab)
+(Vb/Ab)×[(Tc−TINI)/(BURN×Tc)
−(Pc−PIN)/(BURN×Pc)]…(補7)
次に、(補7)式のVbは、主燃焼期間における燃焼室容積の変化が小さいので一定値とみなし、燃焼室5の主燃焼期間開始時期における容積を用いる。これは上記(22)式のV2に等しい。また、(補7)式のAbは火炎核の成長過程における平均の火炎表面積、つまり上記(22)式のAF2に等しい。従って、Vb→V2、Ab→AF2の置き換えを行うと、次式が得られる。
【0185】
Sfmbt0
=(0.6×MASSC)/(BURN×ρb×AF2)
+(V2/AF2)×[(Tc−TINI)/(BURN×Tc)
−(Pc−PIN)/(BURN×Pc)]…(補8)
このようにして(補8)式つまり上記(40)式を導くことができた。
【0186】
ステップ166では、乱れ強さST1から図31を内容とするテーブルを検索することにより、乱れ強さ補正係数Smbを算出する。この補正係数Smbは無名数であり、図31に示したように乱れ強さST1が強くなるほど大きくなる値である。これは、ガス流動の乱れ強さST1は火炎核成長速度に寄与するので、ガス流動の乱れ強さST1を火炎核成長速度に反映させるためのものである。ガス流動の乱れ強さST1が火炎核成長速度にどのように寄与するかは、エンジン仕様により異なってくるので、補正係数Smbの特性は実験により適合することになる。
【0187】
ステップ167ではこの乱れ強さ補正係数Smbを基本火炎核成長速度Sfmbt0に乗算して、つまり次式により基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbt[m/sec]を算出する。
【0188】
Sfmbt=Sfmbt0×Smb …(41)
ステップ168ではこの基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbtと燃焼期間BURNとから図32を内容とするマップを検索することにより、点火回数n1を、またステップ169では同じく燃焼開始時の火炎核成長速度Sfmbtとエンジン回転速度NRPMとから図33を内容とするマップを検索することにより、点火回数n2をそれぞれ算出し、ステップ170でこれら点火回数n1とn2のうちより大きい側の値を点火回数指令値nとして選択する。
【0189】
点火回数n1は、図32に示したように燃焼期間BURNが同じであれば基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbtが遅いほど、また基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbtが同じであれば燃焼期間BURNが長くなるほど2回、3回と大きくなる値である。燃焼期間が同じでありながら基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbtが遅いということは、あるいは基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbtが同じでありながら燃焼期間BURNが長くなっているということは、燃焼状態が悪く部分燃焼に至る可能性があることを表すので、この場合には、基本点火時期MBTCALによる1回目の点火に続く2回目の点火、いわゆる「つぎ火」を行い、この「つぎ火」により再び点火プラグ14の周りの混合気温度を上昇させて火炎核の成長を促進させ、部分燃焼に至ることを回避するためである。
【0190】
点火回数n2は図33に示したように基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbtが遅くかつ低回転速度域で2回と大きくなる値である。これは基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbtが遅くかつ低回転速度域では部分燃焼に至る可能性があるので、このときにも基本点火時期MBTCALによる1回目の点火に続く2回目の点火、いわゆる「つぎ火」を行い、この「つぎ火」により再び点火プラグ14の周りの混合気温度を上昇させて火炎核の成長を促進させ、部分燃焼に至ることを回避するためである。
【0191】
ここでは、点火回数指令値nを求めるためのパラメータが3つ(火炎核成長速度Sfmbt、燃焼期間BURN、回転速度NRPM)であるので、これらをパラメータとする3次元のマップより直接に点火時期指令値nを求めるようにしてもかまわない。
【0192】
図34は基本点火時期MBTCALに続く2回目の点火時期θIGN2を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10msec毎)に実行する。図29のフローに続けて実行する。
【0193】
なお、点火回数指令値nが3回であることもあるが、3回目の点火時期の算出については、基本的に2回目の点火時期θIGN2の算出と同様であるため、その説明は省略する。
【0194】
ステップ171では図13のステップ43で算出されている基本点火時期MBTCAL、エンジン回転速度NRPMを読み込む。
【0195】
ステップ172ではエンジン回転速度NRPMから図35を内容とするテーブルを検索することにより、1回目の通電角DWELL1[deg]を算出する。1回目の通電角DWELL1はバッテリ電圧の影響も受けるので、バッテリ電圧とエンジン回転速度から所定のマップを検索することにより、1回目の通電角DWELL1を算出するようにしてもよい。
【0196】
ステップ173ではこの1回目の通電角DWELL1から所定のテーブルを検索することにより、2回目の通電角DWELL2[deg]を算出する。2回目の通電角DWELL2も、図35に示したようにエンジン回転速度に対する特性は、1回目の通電角DWELL1と同様である(絶対値は異なる)。
【0197】
ステップ174では次式により2回目の点火時期θIGN2[degBTDC]を算出する。
【0198】
θIGN2=MBTCAL−DWELL2−所定角…(42)
図36に示したように1つの点火コイル13で1サイクル当たり2回の点火を行うには、一回目の点火を行った後に2回目の点火に備えて点火コイル13の一次側を閉じる必要がある。(42)式の所定角は、1回目の点火時期である基本点火時期MBTCALから点火コイル13の一次側を閉じるまでのクランク角区間(一定値)である。
【0199】
ステップ175、176では次式により1回目の通電開始時期θDWL1[degBTDC]、2回目の通電開始時期θDWL2[degBTDC]を算出する。
【0200】
θDWL1=MBT+DWELL1…(43)
θDWL2=MBT−所定角…(44)
このようにして、算出された2点火分の通電開始時期θDWL1、θDWL2と点火時期MBTCAL、θIGN2とから図示しない点火時期制御のフローでは、図36上段に示す2点点火信号(多重点火信号)が作られ、この2点点火信号が点火コイル13の1次側回路を連通、遮断するパワートランジスタに送られる。
【0201】
ここで、本実施形態の作用を図36を参照しながら説明すると、
燃焼室5内に残留する不活性ガス量が多い場合、圧縮比が低い場合、燃焼室5の吸気弁閉時期における温度が低い場合など、燃焼室5内の圧力と温度が上昇しない場合には、通常の1回点火では火炎核が成長しにくくなり(図36下段の破線参照)、部分燃焼が生じることが燃焼解析実験等により知られている。
【0202】
このように火炎核成長速度と部分燃焼とは強い相関を持つのであり、本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、部分燃焼そのものに相関する基準クランク角時の基本火炎核成長速度Sfmbt0を算出し、その算出した基本火炎核成長速度Sfmbt0に基づいて複数回の点火回数指令値nを算出する(図29のステップ161〜169)。このため、基本火炎核成長速度Sfmbt0が遅くて部分燃焼が発生していることを示していれば、2回以上の点火回数指令値nが算出されるのであり、この点火回数指令値nにより、基本点火時期MBTCALによる1回目の点火に続けて、2回目の点火時期θIGN2による2回目の点火が行われる(図36上段の多重点火信号参照)。この2回目の点火は、いわゆる「つぎ火」となるのであり、これによって再び点火プラグ14周りの混合気温度を上昇させて火炎核の成長を促進することが可能となり、部分燃焼に至らず燃焼させることができる。
【0203】
このように部分燃焼そのものに相関する基準クランク角時の基本火炎核成長速度Sfmbt0に基づいて多重点火を行うことで、新気、燃焼室5内に残留する不活性ガスの各量、混合気の温度、燃焼室5内のガス流動などのばらつきがあっても、部分燃焼が生じないようにすることができる。
【0204】
また、本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、点火回数指令値nを算出するのに燃焼期間BURNをも加味するので(図32参照)、それだけ点火回数指令値nの算出精度がよくなる。
【0205】
また、エンジンの低回転速度域では部分燃焼が発生し易いのであるが、本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、点火回数指令値nを算出するのにエンジンの回転速度NRPMをも加味するので(図33参照)、低回転速度域での部分燃焼を確実に回避できる。
【0206】
また、点火プラグ14周りのガス流動の乱れ強さが強すぎると火炎核が点火プラグ14から流れて、火炎の成長が妨げられ部分燃焼に至る可能性が高いのであるが、本実施形態(請求項10に記載の発明)によれば、基本火炎核成長速度Sfmbt0を燃焼室内のガス流動の乱れ強さST1により補正して基準クランク角時の火炎核成長速度Sfmbtを算出するので(図29のステップ165、166参照)、点火プラグ14周りのガス流動の乱れ強さが強すぎる場合に多重点火が行われ、これによって部分燃焼を回避できる。
【0207】
請求項1に記載の発明において、燃焼期間算出手段の機能は図13のステップ42により、総ガス量算出手段の機能は図29のステップ162により、圧縮開始時容積算出手段の機能は図5のステップ12により、燃焼開始時容積算出手段の機能は図10のステップ22により、基準クランク角時圧力算出手段の機能は図29のステップ163、164により、基準クランク角時火炎核成長速度算出手段の機能は図29のステップ165により、点火回数指令値算出手段の機能は図29のステップ168〜170により、多重点火手段の機能は図34、図2の点火時期制御部61によりそれぞれ果たされている。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施形態のエンジンの制御システム図。
【図2】エンジンコントローラで実行される点火時期制御のブロック図。
【図3】燃焼室の圧力変化図。
【図4】燃焼質量割合の変化を説明する特性図。
【図5】物理量の算出を説明するためのフローチャート。
【図6】エンジンのクランクシャフトとコネクティングロッドの位置関係を説明するダイアグラム。
【図7】水温補正係数の特性図。
【図8】当量比補正係数の特性図。
【図9】基準クランク角の特性図。
【図10】初期燃焼期間の算出を説明するためのフローチャート。
【図11】温度上昇率の特性図。
【図12】主燃焼期間の算出を説明するためのフローチャート。
【図13】基本点火時期の算出を説明するためのフローチャート。
【図14】内部不活性ガス率の算出を説明するためのフローチャート。
【図15】内部不活性ガス量の算出を説明するためのフローチャート。
【図16】EVC時不活性ガス量の算出を説明するためのフローチャート。
【図17】オーバーラップ中吹き返し不活性ガス量の算出を説明するためのフローチャート。
【図18】過給判定フラグ、チョーク判定フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図19】過給無しかつチョーク無し時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量の算出を説明するためのフローチャート。
【図20】過給無しかつチョーク有り時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量の算出を説明するためのフローチャート。
【図21】過給有りかつチョーク無し時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量の算出を説明するためのフローチャート。
【図22】過給有りかつチョーク有り時のオーバーラップ中吹き返し不活性ガス流量の算出を説明するためのフローチャート。
【図23】排気弁閉時期における燃焼室容積の特性図。
【図24】不活性ガスのガス定数の特性図。
【図25】オーバーラップ中の積算有効面積の特性図。
【図26】オーバーラップ中の積算有効面積の説明図。
【図27】不活性ガスの比熱比の特性図。
【図28】混合気の比熱比の特性図。
【図29】点火回数指令値の算出を説明するためのフローチャート。
【図30】燃焼質量の変化を示す波形図。
【図31】乱れ強さ補正係数の特性図。
【図32】点火回数n1の特性図。
【図33】点火回数n2の特性図。
【図34】2回目点火時期の算出を説明するためのフローチャート。
【図35】通電角の特性図。
【図36】本実施形態の作用を説明するための波形図。
【図37】多重点火時期指令値算出部のブロック図。
【図38】部分燃焼と火炎核成長速度の関係を示す波形図。
【符号の説明】
1 エンジン
5 燃焼室
13 点火コイル
14 点火プラグ
15 吸気弁
16 排気弁
21 燃料インジェクタ
27 吸気VTC機構
28 排気VTC機構
31 エンジンコントローラ
33、34 クランク角センサ
43 吸気温度センサ
44 吸気圧力センサ(圧縮開始時圧力算出手段)
45 排気温度センサ
46 排気圧力センサ

Claims (14)

  1. 燃焼室内における燃焼開始から燃焼質量割合が所定値となるまでの燃焼期間を算出する燃焼期間算出手段と、
    燃焼室内の総ガス量を算出する総ガス量算出手段と、
    燃焼室の圧縮開始時圧力を算出する圧縮開始時圧力算出手段と、
    燃焼室の圧縮開始時容積を算出する圧縮開始時容積算出手段と、
    燃焼室の燃焼開始時容積を算出する燃焼開始時容積算出手段と、
    燃焼室の基準クランク角時圧力を算出する基準クランク角時圧力算出手段と、
    これら燃焼期間、総ガス量、圧縮開始時圧力、圧縮開始時容積、燃焼開始時容積、基準クランク角時圧力の算出値に基づいて基準クランク角時の火炎核成長速度を算出する基準クランク角時火炎核成長速度算出手段と、
    この火炎核成長速度に基づいて複数回の点火回数指令値を算出する点火回数指令値算出手段と、
    この算出した点火回数指令値に基づいて多重点火を行う多重点火手段と
    を備えることを特徴とするエンジンの点火制御装置。
  2. 前記燃焼期間の算出値に基づいてMBTの得られる点火時期を基本点火時期として算出し、この基本点火時期と前記点火回数指令値とに基づいて多重点火を行うことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの点火制御装置。
  3. 前記点火回数指令値は燃焼開始時の火炎核成長速度が遅くなるほど大きくなる値であることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの点火制御装置。
  4. 前記点火回数指令値を算出するのに燃焼期間を加味することを特徴とする請求項2に記載のエンジンの点火制御装置。
  5. 前記点火回数指令値は燃焼期間が長くなるほど大きくなる値であることを特徴とする請求項4に記載のエンジンの点火制御装置。
  6. 前記点火回数指令値を算出するのにエンジン回転速度を加味することを特徴とする請求項2に記載のエンジンの点火制御装置。
  7. 前記点火回数指令値は低回転速度域で大きくなる値であることを特徴とする請求項6に記載のエンジンの点火制御装置。
  8. 前記点火回数指令値を算出するのに燃焼期間及びエンジン回転速度を加味することを特徴とする請求項2に記載のエンジンの点火制御装置。
  9. 前記所定値は基準クランク角のときの燃焼質量割合であることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの点火制御装置。
  10. 前記基準クランク角は圧縮上死点後10〜20度の範囲に設定することを特徴とする請求項9に記載のエンジンの点火制御装置。
  11. 前記火炎核成長速度を燃焼室内のガス流動の乱れ強さにより補正することを特徴とする請求項1または1に記載のエンジンの点火制御装置。
  12. 点火開始より火炎核が形成されるまでの期間を初期燃焼期間、その後に基準クランク角に達するまでの期間を主燃焼期間として構成することを特徴とする請求項9に記載のエンジンの点火制御装置。
  13. 前記初期燃焼期間を算出する初期燃焼期間算出手段は、
    燃焼室の燃焼開始時容積を算出する手段と、
    燃焼室内の燃焼ガスの燃焼のしやすさを示した反応確率を算出する手段と、
    燃焼室内の燃焼ガスの燃焼速度を算出する手段と、
    これら燃焼開始時容積、反応確率、燃焼速度の算出値に基づいて初期燃焼期間を算出する手段と
    からなることを特徴とする請求項12に記載のエンジンの点火制御装置。
  14. 前記主燃焼期間を算出する主燃焼期間算出手段は、
    燃焼室の初期燃焼期間終了時容積を算出する手段と、
    燃焼室内の燃焼ガスの燃焼のしやすさを示した反応確率を算出する手段と、
    燃焼室内の燃焼ガスの燃焼速度を算出する手段と、
    これら初期燃焼期間終了時容積、反応確率、燃焼速度の算出値に基づいて主燃焼期間を算出する手段と
    からなることを特徴とする請求項12に記載のエンジンの点火制御装置。
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