本発明のカチオン硬化性組成物は、カチオン重合性単量体として、
(I)下記式(1)
(式中、Arは置換基を有していても良い2価の芳香族炭化水素基であり、R1は、水素原子、炭素数1〜10の有機基である。)
で示されるオキセタン含有基を、分子内に少なくとも2個有するオキセタン化合物と
(II)エポキシ化合物
とを併用する。
上記(I)オキセタン化合物は、オキセタン基が、(オキセタン−3−イル)基として存在し、該基がメチレン基に結合しており、更に該メチレン基が芳香族炭化水素基とエーテル結合で結ばれた構造を有しており、このような構造のオキセタン含有基を分子内に少なくとも2個、好適には2〜8個有している。このような特徴的なオキセタン化合物をエポキシ化合物と組合せて使用することにより、得られるカチオン硬化性組成物は、オキセタン基の官能基当量が小さい場合であっても、その重合収縮率が著しく小さく、しかも極めて速やかにカチオン硬化するものになる。
ここで、オキセタン基が上記のようなオキセタン含有基として含まれていない場合、例えば、芳香族炭化水素基の部分が脂肪族炭化水素基である化合物の場合、本発明のような優れた重合収縮率の効果は得られなくなる。また、該オキセタン含有基を有していても、それが1個の場合、機械的強度等の硬化体物性が劣ってしまう。
ここで、R1で示される炭素数1〜10の有機基としては、上記炭素数の公知の有機基が制限なく採用できるが、好適には、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜10のアルキルオキシアルキル基、フェニルオキシアルキル基が好ましい。炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。また、炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、6−ヒドロキシヘキシル基、10−ヒドロキシデシル基等が挙げられる。また、アルキルオキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エチルオキシメチル基、プロピルオキシメチル基、
ノニルオキシメチル基、6−メチルオキシヘキシル基、6−エチルオキシヘキシル基、3−プロピルオキシヘキシル基等が挙げられる。また、炭素数1〜10のフェニルオキシアルキル基としては、フェニルオキシメチル基、2−フェニルオキシエチル基、3−フェニルオキシプロピル基、3−(4−メチルフェニル)オキシプロピル基等が挙げられる。このうち炭素数1〜10のアルキル基がより好適であり、特には炭素数1〜10のアルキル基、その中でもエチル基が最も好適である。
また、Arで示される2価の芳香族炭化水素基は、芳香族環としては炭素数6〜14のものが好ましく、具体的には、ベンゼン環のような単環式芳香族環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環のような縮合多環式芳香族環が挙げられる。
上記芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;シクロヘキシル基、シクロペンチル等の炭素数3〜8のシクロヘキシル基;塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられ、このうちメチル基、エチル基等の炭素数1〜3のアルキル基;メトキシ、エトキシ等の炭素数1〜3のアルコキシ基;フッ素、塩素等のハロゲン原子が好適である。芳香族炭化水素基に置換している、これら置換基の数は4個以下、より好適には2個以下であるのが好ましい。
また、こうしたオキセタン化合物のうち、分子内にエステル結合を有する化合物は、これを用いて得たカチオン硬化性組成物が、そのカチオン硬化時に湿潤条件に曝されると、重合開始剤として用いた酸の作用により、該エステル結合が加水分解して硬化体物性が低下する虞がある。したがって、このようなエステル結合は有しないものを用いるのが好ましい。
このようなオキセタン化合物としては、
等が挙げられる。
なお、オキセタン化合物において、2個のオキセタン含有基は、Arの部分を共有して、一個の芳香族炭化水素基に、2つ以上の
(式中、R1は式(1)と同じである)、
基が結合することにより含有されているものであっても良い。こうした形態のオキセタン化合物としては、例えば、
等が挙げられる。
本発明において最も好ましく使用されるオキセタン化合物は、下記一般式(a)
(式中、R2は酸素、もしくは炭素数1〜13の2価の炭化水素基であり、uは0または1であって、uが0のときは、各々のベンゼン環が直接単結合で結合する。)
で示される化合物である。ここで、炭素数1〜13の2価の炭化水素基としては、前記式(1)のオキセタン化合物として例示したものが有する2価の、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。好ましいR2としては、酸素原子、または炭素数1〜13のアルキレン基であり、最も好ましくは酸素原子、または炭素数1〜5のアルキレン基である。
なお、歯科用途である本発明の硬化性組成物においては、上記オキセタン化合物は、揮発性、組成物の操作性の観点からは、官能基当量が150〜500g/molものが好適に利用され、更に常温で液状のものがより好適に利用される。
本発明において、これらオキセタン化合物は、複数種のものを併用しても良い。
前記(II)エポキシ化合物としては、従来公知のものが制限なく利用できるが、中でもカチオン重合活性が高いことから、シクロヘキセンオキシド基等の脂環式エポキシド基を有するものが好ましい。また、こうしたエポキシ基を一個有する化合物、具体的には、4−ビニルシクロヘキセンオキシド、リモネンモノオキシド、4−エチルシクロヘキセンオキシド、4−メチルオキシメチルシクロヘキセンオキシド、4−ベンジルオキシメチルシクロヘキセンオキシド等も良好に使用できるが、機械的強度等の硬化体物性の観点から、該エポキシ基を2個以上、好適には2〜8個有する化合物が好ましい。
こうした本発明において好適に使用できるエポキシ化合物としては、例えば置換基を有していても良いシクロヘキセンオキシド環の3位または4位の炭素原子に下記式(2)
(式中、R3は水素原子またはメチル基であり、R4水素原子である。)
で示される基が結合したシクロヘキセンオキシド環含有基を、分子内に少なくとも2個有する化合物等が例示できる。
本発明において使用されるエポキシ化合物の具体例を示すと、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メタン、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ビフェニル、メチルビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]フェニルシラン、ジメチルビス[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル]シラン、メチル[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル][2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,4−フェニレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,2−エチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,3−ビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、2,5−ビシクロ[2.2.1]ヘプチレンビス{ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]}シラン、1,6−へキシレンビス{ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]}シラン、或いは下記に示す化合物
等が挙げられる。これら脂環式エポキシ化合物のうち、分子内にエステル結合を有する化合物は、硬化体物性が低下する虞があるため、このようなエステル結合は有しないものの方がより好ましい。
本発明において、これらエポキシ化合物は、複数種のものを併用しても良い。
本発明において、(I)オキセタン化合物と(II)エポキシ化合物との配合比は特に制限されないが、重合反応に対する水分の影響を大幅に低減することができ、口腔内のような高湿度条件下でも硬化可能となることから、オキセタン化合物が1分子平均a個のオキセタン官能基を有し、エポキシ化合物が1分子平均b個のエポキシ官能基を有する場合、(a×A):(b×B)が90:10〜45:55の範囲となるように、オキセタン化合物をAモルと、エポキシ化合物をBモル配合することが好ましい。さらに、(a×A):(b×B)を45:55よりもエポキシ官能基の割合を小さくすることにより、硬化速度がより速くなるため好ましい。更に本発明においては、より重合収縮が低減できることから、好ましくは、(a×A):(b×B)が80:20〜45:55の範囲であり、より好ましくは80:20〜45:55の範囲である。
本発明のカチオン硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記(I)成分として示したもの以外のオキセタン化合物が配合されていても良い。このようなオキセタン化合物としては、オキセタン基を下記式(3)
(式中、R1’は、水素原子、または炭素数1〜10の有機基であり、R5は脂肪族炭化水素基である。)
で示される基として含むものが挙げられる。また、こうした式(3)で示されるオキセタン基を分子内に少なくとも2個以上有する化合物が好ましい。
当該オキセタン化合物を具体的に例示すると、ビス[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、1,2−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]エタン、1,3−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]プロパン、1,4−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]ブタン、1,5−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]ペンタン、1,6−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]ヘキサン、1,7−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]ヘプタン、1,8−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシ]オクタン、1,4−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシメチル]ベンゼン、4,4′−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシメチル]ビフェニール、2,2′−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルオキシメチル]ビフェニール、ジエチレングリコールビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、トリチレングリコールビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、テトラエチレングリコールビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、トリメチロールプロパントリス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]エーテル、あるいは下記に示す化合物
が挙げられる。
このような他のオキセタン化合物の配合量は、硬化性組成物中の割合が増えるほど重合収縮が大きくなるため、前記した(I)オキセタン化合物の好適な配合量において、その40モル%以下、より好適には30モル%以下、最も好ましくは10モル%以下を代替する量に抑えるのが好ましい。
次に、本発明のカチオン硬化性組成物に配合する(III)カチオン重合開始剤について説明する。
当該(I)カチオン重合開始剤は特に限定されるものではなく、公知の如何なるカチオン重合開始剤でもよい。このようなカチオン重合開始剤としては、ルイス酸或いはブレンステッド酸、又は加熱や光照射によりルイス酸或いはブレンステッド酸を生じる化合物などが知られている。口腔内などの環境で速やかに重合させることが容易な点で、光照射によりルイス酸或いはブレンステッド酸を生じる、所謂、光酸発生剤を採用することが特に好適である。
当該光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、ピリジニウム塩化合物、およびハロメチル置換−S−トリアジン有導体等が挙げられる。
これらの中でも、ジアリールヨードニウム塩系化合物及びスルホニウム塩系化合物が、重合活性が特に高い点で優れている。ジアリールヨードニウム塩系化合物の具体例を例示すれば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−ドデシルフェニル)ヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなるジアリールヨードニウム塩系化合物が挙げられる。
これらのなかでも、重合性単量体に対する溶解性の点から、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネートをアニオンとして有する化合物が好適に使用でき、また、求核性が低く、光照射を行わなければ重合性単量体との混合物として安定に保存できる点で、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレートをアニオンとして有する化合物が好適に使用できる。
また、スルホニウム塩系化合物としては、ジメチルフェナシルスルホニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシフェニルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,7−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,8−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、p−トリルジフェニルスルホニウム、p−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンとからなるスルホニウム塩系化合物が挙げられる。
これら光酸発生剤は必要に応じて、1種または2種以上混合して用いても何等差し支えない。これら光酸発生剤の使用量は、光照射により重合を開始しうる量であれば特に制限されることはないが、適度な重合の進行速度と得られる硬化体の各種物性(例えば、耐候性や硬度)を両立させるために、一般的にはカチオン重合性単量体100質量部に対し、0.001〜10質量部を用いればよく、好ましくは0.05〜5質量部を用いるとよい。
上記のような光酸発生剤は通常、近紫外〜可視域には吸収の無い化合物が多く、重合反応を励起するためには、特殊な光源が必要となる場合が多い。そのため、近紫外〜可視域に吸収をもつ化合物を増感剤として、上記光酸発生剤に加えてさらに配合することが好ましい。
このような増感剤として用いられる化合物は、例えばアクリジン系色素、ベンゾフラビン系色素、アントラセン、ペリレン等の縮合多環式芳香族化合物、フェノチアジン等が挙げられる。
これら増感剤のなかでも、重合活性が良好な点で、縮合多環式芳香族化合物が好ましく、さらに、少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物が好適である。
このような少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物を具体的に例示すると、1−メチルナフタレン、1−エチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、アセナフテン、1,2,3,4−テトラヒドロフェナントレン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン、ベンゾ[f]フタラン、ベンゾ[g]クロマン、ベンゾ[g]イソクロマン、N−メチルベンゾ[f]インドリン、N−メチルベンゾ[f]イソインドリン、フェナレン、4,5−ジメチルフェナントレン、1,8−ジメチルフェナントレン、アセフェナントレン、1−メチルアントラセン、9−メチルアントラセン、9−エチルアントラセン、9−シクロヘキシルアントラセン、9,10−ジメチルアントラセン、9,10−ジエチルアントラセン、9,10−ジシクロヘキシルアントラセン、9−メトキシメチルアントラセン、9−(1−メトキシエチル)アントラセン、9−ヘキシルオキシメチルアントラセン、9,10−ジメトキシメチルアントラセン、9−ジメトキシメチルアントラセン、9−フェニルメチルアントラセン、9−(1−ナフチル)メチルアントラセン、9−ヒドロキシメチルアントラセン、9−(1−ヒドロキシエチル)アントラセン、9,10−ジヒドロキシメチルアントラン、9−アセトキシメチルアントラセン、9−(1−アセトキシエチル)アントラセン、9,10−ジアセトキシメチルアントラセン、9−ベンゾイルオキシメチルアントラセン、9,10−ジベンゾイルオキシメチルアントラセン、9−エチルチオメチルアントラセン、9−(1−エチルチオエチル)アントラセン、9,10−ビス(エチルチオメチル)アントラセン、9−メルカプトメチルアントラセン、9−(1−メルカプトエチル)アントラセン、9,10−ビス(メルカプトメチル)アントラセン、9−エチルチオメチル−10−メチルアントラセン、9−メチル−10−フェニルアントラセン、9−メチル−10−ビニルアントラセン、9−アリルアントラセン、9,10−ジアリルアントラセン、9−クロロメチルアントラセン、9−ブロモメチルアントラセン、9−ヨードメチルアントラセン、9−(1−クロロエチル)アントラセン、9−(1−ブロモエチル)アントラセン、9−(1−ヨードエチル)アントラセン、9,10−ジクロロメチルアントラセン、9,10−ジブロモメチルアントラセン、9,10−ジヨードメチルアントラセン、9−クロロ−10−メチルアントラセン、9−クロロ−10−エチルアントラセン,9−ブロモ−10−メチルアントラセン、9−ブロモ−10−エチルアントラセン、9−ヨード−10−メチルアントラセン、9−ヨード−10−エチルアントラセン、9−メチル−10−ジメチルアミノアントラセン、アセアンスレン、7,12−ジメチルベンズ(a)アントラセン、7,12−ジメトキシメチルベンズ(a)アントラセン、5,12−ジメチルナフタセン、コラントレン、3−メチルコラントレン、7−メチルベンゾ(a)ピレン、3,4,9,10−テトラメチルペリレン、3,4,9,10−テトラキス(ヒドロキシメチル)ペリレン、ビオランスレン、イソビオランスレン、5,12−ジメチルナフタセン、6,13−ジメチルペンタセン、8,13−ジメチルペンタフェン、5,16−ジメチルヘキサセン、9,14−ジメチルヘキサフェン等が挙げられる。
また上記以外の縮合多環式芳香族化合物としては、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ナフタセン、ベンズ[a]アントラセン、ピレン、ペリレン等が好適に用いられる。
これら縮合多環式芳香族化合物のなかでも、生体に対する為害性を考慮すると可視光で重合を励起することが可能となる、可視域に吸収を有する化合物が好ましく、可視域に極大吸収を有する化合物がより好ましい。また、これら縮合多環式芳香族化合物は必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
縮合多環式芳香族化合物の添加量も、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前期した光酸発生剤1モルに対し、縮合多環式芳香族化合物が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
さらに上記縮合多環式芳香族化合物に加えて、酸化型の光ラジカル発生剤を配合すると、より一層重合活性が向上し好ましい。酸化型の光ラジカル発生剤とは、光照射により励起してラジカルを発生する化合物であって、励起により水素供与体から水素を引き抜いてラジカルを生成するいわゆる水素引き抜き型のラジカル発生剤、励起により自己開裂を起こしてラジカルを発生し(自己開裂型ラジカル発生剤)、次いで該ラジカルが電子供与体から電子を引き抜くタイプのもの、及び光照射により励起して電子供与体から直接電子を引き抜いてラジカルとなるもの等の、光照射による励起によって活性ラジカル種を発生させる機構が酸化剤的な作用による(自らは還元される)ものである光ラジカル発生剤である。これら酸化型の光ラジカル発生剤は特に制限されず、公知の化合物を用いれば良いが、光照射を行った際の重合活性が他の化合物に比してより高い点で、水素引き抜き型の光ラジカル発生剤が好ましく、なかでも、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物又はケトクマリン化合物が特に好ましい。
ジアリールケトン化合物を具体的に例示すると4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、9−フルオレノン、3,4−ベンゾ―9−フルオレノン、2―ジメチルアミノ―9−フルオレノン、2−メトキシ―9―フルオレノン、2−クロロ―9−フルオレノン、2,7−ジクロロ―9―フルオレノン、2−ブロモ―9―フルオレノン、2,7−ジブロモ―9―フルオレノン、2−ニトロ−9−フルオレノン、2−アセトキ−9−フルオレノン、ベンズアントロン、アントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ジメチルアミノアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,2−ジメトキシアントラキノン、1,2−ジアセトキシ−アントラキノン、5,12−ナフタセンキノン、6、13−ペンタセンキノン、キサントン、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、9(10H)−アクリドン、9−メチル−9(10H)−アクリドン、ジベンゾスベレノン等を挙げることができる。
α−ジケトン化合物の具体例を例示すれば、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等が挙げられる。
またケトクマリン化合物としては、3−ベンゾイルクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)7−メトキシ−3−クマリン、3−アセチル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3,3’−クマリノケトン、3,3’−ビス(7−ジエチルアミノクマリノ)ケトン等を挙げることができる。
これら酸化型の光ラジカル発生剤は単独または2種類以上を混合して用いて使用できる。また、添加量も組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前記した光酸発生剤1モルに対し、光ラジカル発生剤が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物には、上記重合開始剤及び重合性単量体に加えて、歯科用硬化性組成物の配合成分として公知の他の成分を配合することができる。
代表的な他の配合成分としては充填材(フィラー)が挙げられる。本発明の歯科用カチオン硬化性組成物に充填材を配合することにより、重合収縮をさらに小さくすることができる。また、充填材を用いることにより、硬化前の硬化性組成物の操作性を改良したり、あるいは、硬化後の機械的物性の向上を計ることができ、特に歯科用の充填修復材料として有用性の高いものとなる。
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物に対して充填材を配合する場合、その充填材の種類や配合量は、該組成物の用途に応じて適宜設定すればよい。例えば、本発明の歯科用カチオン硬化性組成物を充填修復材料として用いる場合には、歯科用充填修復材料の充填材として公知の充填材を配合すればよい。
より具体的には、非晶質シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、石英、アルミナ等の無機充填材が挙げられる。さらに、これら無機酸化物粒子を高温で焼成する際に緻密な無機酸化物粒子を得やすくする等の目的で、少量の周期律表第I族の金属酸化物を該無機酸化物粒子中に存在させた複合酸化物の粒子を用いることもできる。歯科用としては、シリカとジルコニアとを主な構成成分とする複合酸化物の無機フィラーがX線造影性を有することから、特に好適に用いられる。
これら無機充填材の粒径、形状は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている、球状や不定形の、平均粒子径0.01μm〜100μmの粒子を目的に応じて適宜使用すればよい。また、これら充填材の屈折率も特に限定されず、一般的な歯科用組成物の充填材が有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用できる。中でもより高い表面滑沢性や、対磨耗性を得るために、形状が球状もしくは略球状の無機紛体及び/またはその凝集体を用いることが好適である。なお、ここで言う略球状とは、走査型電子顕微鏡で無機フィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子の最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で徐した平均均斉度が0.6以上の物であることを言う。
上記無機球状フィラーの粒径等は特に制限される物ではないが、より高い表面滑沢性や対磨耗性を得る為には、平均粒径が0.01μm〜1μmの無機粒子及び/又は概無機粒子の凝集体からなる無機球状フィラーを用いるのが好適である。これら無機球状フィラーは、単一の粒子系、及び平均粒子経が異なる2つあるいはそれ以上の群からなる混合粒子系で使用することができる。
上記無機フィラーは、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが、重合性単量体とのなじみをよくし機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−エチル−3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシメチル]オキセタン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。特に重合性単量体がカチオン重合成単量体である場合、カチオン重合性の官能基を有するシランカップリング剤である3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、3−エチル−3−[3−(トリエトキシシリル)プロポキシメチル]オキセタン等が望ましい。上記シランカップリング剤は1種類あるいは2種類以上を合わせて用いることができる。
また、更に高いフィラー充填率と良好な操作性を両立する目的で、有機無機複合フィラーが好適に使用できる。有機無機複合フィラーとは、重合性単量体と、無機フィラーを主成分とする重合硬化性組成物を重合硬化させた後に粉砕して得られるものであり、公知の製造方法によって製造される有機無機複合フィラーが何ら制限なく用いられる。
本発明のカチオン硬化性組成物に上記フィラーを配合する場合の配合量も特に限定されないが、歯科用充填修復材料として用いる場合には、前記重合性単量体100質量部に対して、50〜1500質量部、好ましくは70〜1000質量部とすることが好ましい。さらに、これら無機フィラー、有機−無機複合フィラー等の充填材は各々単独で用いても良いし、材質、粒径、形状等の異なる複数種のものを併用しても良いが、硬化後の機械的物性に優れる点で、無機フィラー単独、或いは無機フィラーと有機−無機複合フィラー併用して用いることが特に好ましい。
さらに本発明の歯科用カチオン硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、重合禁止剤、酸化防止剤および紫外線吸収剤等の安定化剤、その他染料、帯電防止剤、顔料、香料、有機溶媒や増粘剤等の公知の添加剤が配合されていても良い。
特に本発明の歯科用硬化性組成物に、重合開始剤としてヨードニウム塩系開始剤を配合した場合、50℃程度の比較的高の条件下や、或いは室温下における長期の保存おける同硬化性組成物のゲル化を抑制できる事から、ビンダードフェノール類及びヒンダードアミン類が配合されることが好ましい。ここで、ヒンダードフェノール類は、フェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の少なくとも1つが、第2級アルキル基、或いは第3級アルキル基によって置換されているものを示す。中でもフェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の、両方が第3級アルキル基によって置換されている物が最も好適に利用される。このような化合物としては2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらヒンダードフェノール類は、必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。これらヒンダードフェノール類の添加量は、組み合わせる他の成分によって異なるが、通常は前記したジアリールヨードニウム塩1モルに対し、ヒンダードフェノール基が0.001〜1モルであり、0.005〜0.8モルであることが好ましい。
また、ヒンダードアミン類は、第2級或いは第3級脂肪族アミン化合物であり、かつ該アミンを成す窒素原子に結合するアルキル基の少なくとも2つ以上が第2級或いは第3級アルキル基であるものを示す。このようなヒンダードアミン類としては、公知の化合物が特に制限なく使用でき、例えば、樹脂用の光安定剤として知られるヒンダードアミン類を使用できる。これらのなかでも、化学的に安定な環状アミンであるピロリジン類、ピペリジン類、ピペラジン類が好ましく、入手容易な点からピペリジン類がより好ましい。このようなヒンダードアミン類の具体例を挙げると、2,6−ジメチルピペリジン、N−メチル−2,6−ジメチルピペリジン、N−メチル−2,6−ジメチルピペリジン−4−オン、N−メチル−4―ヒドロキシ―2,6−ジメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オン、N−メチル−4―ヒドロキシ―2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジ/2,4−ジイル][ (2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノ]ヘキサメチルレン(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノール、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン重縮合物等が挙げられる。これらヒンダードアミン類は、必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
ヒンダードアミン類の添加量も、組み合わせる他の成分によって異なるが、硬化後の硬化体物性に悪影響を与え難い点で、通常は前期したヨードニウム塩1モルに対し、ヒンダードアミノ基が0.001〜1モルであり、0.005〜0.8モルであることが好ましい。
本発明の歯科用カチオン重合性組成物は上記のような歯科用充填修復材料として特に好適に使用されるが、それに限定されるものではなく、歯科用接着材や義歯床用材料等その他の用途にも使用できる。
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、公知の製造方法を適宜採用すればよい。具体的には、本発明の歯科用カチオン硬化性組成物を構成する、(I)オキセタン化合物、(II)エポキシ化合物、(III)カチオン重合開始剤、および必要に応じて配合されるその他の配合成分を所定量秤取り、これらを混合すればよい。
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物の包装形態は特に制限されるものではなく、その目的や保存安定性を考慮して適宜決定すればよい。例えば、カチオン重合開始剤として光カチオン重合開始剤を配合した際には、本発明の歯科用カチオン硬化性組成物を構成する全ての成分を遮光状態で一つの包装とすればよい。一方、光照射を行わずとも室温でカチオン重合を開始できるような成分を重合開始剤として用いる場合には、保存中に重合・硬化してしまわないように、2つ以上の包装に分割しておき、使用直前に両者を混合するような形態が好ましい。
本発明の歯科用カチオン硬化性組成物を硬化させる手段としては用いたカチオン重合開始剤の重合開始機構に従い適宜、公知の重合手段を採用すればよく、具体的には、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、蛍光灯、太陽光、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の光源による光照射、或いは加熱重合器等を用いた加熱、またはこれらを組み合わせた方法等が何等制限なく使用される。光照射により重合させる場合には、その照射時間は、光源の波長、強度、硬化体の形状や材質によって異なるため、予備的な実験によって予め決定しておけばよいが、一般には、照射時間が5〜60秒程度の範囲になるように、各種成分の配合割合を調整しておくことが好ましい。同様に加熱時間及び加熱温度も予備的な実験によって予め決定しておけばよい。
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。尚、本文中、並びに実施例中に使用した化合物の略称は以下の通りである。なお、()内は官能基当量を示す。
1.本発明の必須成分である(I)オキセタン化合物
2.本発明の必須成分でないオキセタン化合物
3.本発明の必須成分である(II)エポキシ化合物
4.ラジカル重合性化合物
6.光酸発生剤
7.縮合多環芳香族化合物
8.酸化型の光ラジカル発生剤
CQ:カンファーキノン
9.その他
DMBE:4−ジメチルアミノエチル安息香酸エチル
また実施例、比較例における各種組成物の調製法、物性の評価方法を以下に示す。
(1)マトリックスの調製
暗所下、重合性単量体に対し、重合開始剤を加え均一になるまで攪拌・溶解し、マトリックスA〜Nを調整した。表1にその組成を示す。
(2)無機フィラーの表面処理
球状シリカ−ジルコニア(粒径0.2μm)20gを、pH4.0に調整した塩酸80mlに縣濁させ、攪拌しながら3−エチル−3−(3−トリエトキシシリルプロポキシ)メチルオキセタン1.2gを滴下した。1時間攪拌後、エバポレーターで水を留去し、得られた固体を乳鉢で粉砕後、減圧下80℃で15時間乾燥した。乾燥後、得られた粉末を無機フィラーPF1とし、シリカゲルを乾燥剤としたデシケーター中で保存した。
同様に、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン1gで処理したものを無機フィラーPF2とした。
(3)有機無機複合フィラーの調整
60質量部のBis−GMAと40重量部の3Gの混合物100質量部に対して、予め重合開始剤として0.5質量部のアゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBN)を溶解させたもの25質量部と、75質量部のPF2を、メノウ乳鉢で混合し、ペースト化した。これを、95℃、窒素雰囲気下で1時間加熱重合した。重合硬化体を振動ボールミルを用いて粉砕し、これを有機無機複合フィラーHF1(平均粒径;20μm)とした。
(4)ペーストの調整
無機フィラーPF1と有機無機複合フィラーHF1の質量比40:60になるよう混合し、この混合物82質量部と、18質量部のマトリックスAをメノウ乳鉢で混合し、該混合物を真空下、脱泡して気泡を取り除きペーストAを得た。
同様にマトリックスB、H、J、MからペーストB、H、J、Mを得た。
(5)表面未重合
6mmφ×0.3mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドの底面に、パスツールピペットを用いてマトリックスを塗布した。同様に組成物液面上面約5mmの距離から歯科用可視光線照射器(トクヤマデンタル社、パワーライト)にて60秒間光照射し、光硬化させた。硬化体の照射面にべたつきがある物を×、べたつきがないものを○とした。
(6)フィラーを含まない組成物(マトリックス)の硬化時間
内径1.6cm、深さ1.1cmのポリプロピレン容器に、本発明のカチオン重合組成物0.9gを入れ、硬化厚膜を4mmとした。ついで照射距離0.5cmから歯科用の光照射器(TOKUSO POWER LITE、(株)トクヤマ社製)によって光照射を2分間行った。このとき、照射開始から、重合体表面を鋭利なピンセット先端で垂直に強く押しても、ピンセット先端が重合体に刺さらなくなるまでの時間を硬化時間とした。
(7)フィラーを含まない組成物の重合収縮率
硬化前の液状組成物を、重量既知の10mlメスフラスコに入れ、液面を標線に合わせた後、23℃インキュベーター中で一晩保存した。保存後、液面が標線に合っていることを確認し、その重量を測定した。測定した重量から組成物を入れる前のメスフラスコの重量を引き、更に体積で割ることで組成物の密度を算出した。以上の操作を3サンプル以上で行い、その平均値を組成物密度d1とした。
硬化時間評価に用いたものと同様な組成物を、直径3cm、深さ1cmのポリプロピレン樹脂製の容器に深さ0.5cmまで入れ、歯科用光照射器αライト(製)で10分間光照射し、硬化させた。硬化後、室温で30分放置し、デジタル比重計(ザルトリウス社製)を用い、浮力発生液体を水(水温23〜24℃)として密度を測定した。同様な操作を3サンプル以上で行い、その平均値を硬化体密度d2とした。得られたd1、d2から、下記式
(d2―d1)/d2 × 100 = 収縮率(%)
により重合収縮率を算出した。
(8)フィラー含有組成物(ペースト)の硬化時間
ガラス板上に、約直径6mm、高さ3mmにペーストを築盛し、築盛物上面約5mmの距離から光照射した。そのとき、太さ約0.4mmの針で照射光を遮らない様、築盛物上面および側面の硬さを調べ、築盛物全体に針が刺さらなくなった時を硬化時間とした。
(9)フィラー含有組成物の重合収縮率
直径3mm、高さ7mmの孔を有するSUS製割型に、直径3mm、高さ4mmのSUS製プランジャーを填入して孔の高さを3mmとした。これに硬化性組成物を充填し、上からスライドグラスで圧接した。フィルム面を下に向けて歯科用照射器の備え付けてあるガラス製台の上に載せ、更にSUS製プランジャーの上から微小な針の動きを計測できる短針を接触させた。歯科用照射器によって重合硬化させ、照射開始より10分後の収縮(%)を、短針の上下方向の移動距離から算出した。
(10)曲げ強度
硬化性組成物を2×2×25mmの金型に充填し、ポリプロピレンフィルムで覆い、光照射器にて1.5分間光照射し硬化させた。硬化物を空気中、37℃で7日間保存した後、オートグラフ(島津製作所社製)を使用し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分で3点曲げ強度を各々5個の硬化物について測定し、その平均値を算出した。
実施例1
本発明の必須成分である、(I)オキセタン化合物として、OX−1を70質量部と、同様に(II)エポキシ化合物としてEP−1を30重量部に対し、重合開始剤としてIMDPIを1質量部、DMAnを0.1質量部、カンファーキノンを0.6質量部を溶解させたマトリックスAについて、硬化時間、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
4秒で硬化し、硬い硬化体が得られた。また、表面未重合も無く、重合収縮は3%であった。
実施例2〜7
実施例1と同様に、マトリックスB〜Fについて硬化時間、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
何れも4秒以内で硬化し、表面未重合も無く、重合収縮は2%以下あった。
比較例1
実施例1と同様に、重合性単量体として本発明の必須成分でないOX−4を70質量部と、エポキシ化合物としてEP−1を30重量部からなるマトリックスHを用い、硬化時間、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
硬化時間は7秒であり、重合収縮率は3.8%であった。
比較例2
実施例1と同様に、重合性単量体として本発明の必須成分でないOX−5を70質量部と、エポキシ化合物としてEP−1を30重量部からなるマトリックスI用い、硬化時間、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
硬化時間は6秒であるが、重合収縮率は3.0%であった。
比較例3、4、5
実施例1と同様に、マトリックスJ、K、及びL用い、それぞれの硬化時間、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
重合性単量体としてオキセタン化合物のみを用いたマトリックスJ、K、及びLは硬化までに9秒以上を要した。
比較例6、7
実施例1と同様に、マトリックスL及びMを用い、それぞれの硬化時間、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
重合性単量体としてエポキシ化合物のみを用いたマトリックスL及びMは、硬化までに7秒以上を要した。
比較例8
実施例1と同様に、マトリックスNを用い、硬化時間、重合収縮率、及び表面未重合を評価した。その結果を表2にしめす。
ラジカル重合性単量体であるメタクリレート化合物を用いたマトリックスNは、重合収縮率が7.8%と大きく、表面未重合が生じた。
実施例8、9
ペーストA及びBについて硬化時間、重合収縮、曲げ強度を評価した。その結果を表3に示す。
調整したペーストA、Bは、何れも2秒で硬化し、0.7%以下の低い重合収縮率を示した。102MPa以上の曲げ強度を有している。
比較例9
実施例7、8と同様にペーストHを用い、硬化時間、重合収縮、曲げ強度を評価した。その結果を表3に示す。
硬化時間は3秒であり、曲げ強度も105MPaであったが、重合収縮は1.2%と大きいものであった。
比較例10
実施例7、8と同様にペーストJを用い、硬化時間、重合収縮、水曲げ強度を評価した。その結果を表3に示す。
重合収縮は0.8%であるが、硬化までに4秒を要した。
比較例11
実施例7、8と同様にペーストMを用い、硬化時間、重合収縮、水曲げ強度を評価した。その結果を表3に示す。
重合収縮は1.3%であるが、硬化までに5秒を要した。