JP4857506B2 - Wc基超硬合金製積層チップ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に刃先交換型チップに使用されるWC基超硬合金に関し、具体的には、2層以上の積層チップで、切れ刃を形成する層には高性能な合金組成を、切削に不必要な層には安価で高強度な合金組成を用いると共に、両層の熱膨張係数をほぼ同一にすることによって層間での熱応力発生による強度低下を防止し、かつ合金粒度を調整することによって焼結時の結合相移動に伴うチップ変形や層間での異常層生成を防止したWC基超硬合金製積層チップに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ISO規格でP,M,Kに分類される切削工具用超硬合金は、WC-Co系とWC−TiC−TaC(NbC)−Co系に大別され、鋼,ステンレス,鋳物,非鉄金属など被削材の種類によって成分を調整して使用されている。しかし、一般的に超硬合金の成分組成に関して、TiC,TaCの増加やCo量の低減によって耐摩耗性や耐塑性変形性を向上させると、耐欠損性や耐チッピング性が逆に低下すると言う二律背反の問題がある。
【0003】
そこで、この二律背反問題の一解決策として、積層構造が種々提案されている。すなわち、切削に関与する部位には耐摩耗性,耐塑性変形性に優れる合金組成を、切削に関与しない部位には強度、靱性に優れる合金組成を適用することによって、工具全体で全ての要求特性を満たそうとするものである。また、切削に関与しない部位を低価格、省資源型の合金組成とすることも可能であり、例えば、Ta削減の有効手段ともなる。
【0004】
超硬合金製チップにおける積層材の先行技術として、例えば、特開平7−207398号公報、特開2000−308904号公報が、その製造方法としては特開平9−300024号公報などが挙げられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
積層材として、特開平7−207398号公報には、表面部には0〜5%の鉄族金属を結合相量とする高硬度超硬合金、内部がHRA硬さで92以下のWC基超硬合金あるいはサーメットからなる異なる超硬材を接合した樹脂モールド用超硬合金部材が記載されている。同公報記載の樹脂付着を低減した超硬合金部材は、表面が高硬度であるために耐付着性,耐摩耗性,耐食性などに優れるものの、表面部の靱性が低過ぎるために切削チップとしては欠け易いと言う問題がある。
【0006】
さらに、特開2000−308904号公報には、上下面は熱膨張率の小さい材質、内部は熱膨張率の大きい材質とすることによって、上下面に圧縮残留応力を存在させたステンレス加工用の積層チップが記載されている。同公報記載のWC基超硬合金製チップは、表面の圧縮残留応力により熱的あるいは機械的クラックの発生、伝播を防止して寿命を向上させたものではあるが、接合面に大きな剪断応力が生じているために逆に層間の剥離や欠けを起こし易いと言う問題がある。
【0007】
また、積層材の製造方法に関して、上記の特開平7−207398号公報、特開2000−308904号公報には、超硬合金粉末を型に積層充填し、通電焼結,プラズマ活性化焼結などで加圧しながら焼結する方法が、特開平9−300024号公報には、鋼板上に溶接可能層として高結合相量の超硬合金粉末、耐摩耗層として通常超硬合金粉末を順次充填し、温度傾斜させながら加圧焼結する方法が記載されている。これらに記載された方法は、型中で加圧焼結するために層間の結合が容易で変形も少ないものの、層間の結合相拡散が不十分で、かつ結合相量の差が大きいために、接合面に大きな剪断応力が発生すると言う問題がある。さらに、切削チップを製造する場合には、切断と研削加工を伴うために高コストとなり、特にブレーカ付きチップは製作困難であると言う問題がある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、長年に亘り、積層チップによる工具の欠損寿命アップ,コストダウン,積層プレス体の焼結変形防止などについて検討していた所、各層の熱膨張係数をほぼ同一とすれば層間に剪断応力が生じないために欠損寿命が向上し、チップの切れ刃以外でのTa削減によってコストダウンでき、相対する層の合金組成と粒度の調整により焼結変形が防止できる、と言う知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
本発明のWC基超硬合金製積層チップは、鉄族金属を主成分とする結合相5〜30体積%と、周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物,窒化物,炭窒化物,炭酸化物,炭窒酸化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種以上からなる立方晶系化合物相65体積%以下と、残りが炭化タングステンと不可避不純物とからなるWC基超硬合金製チップにおいて、該チップは該立方晶系化合物相の組成及び/又は含有量が異なる2層以上の積層構造を有し、かつ各積層間の熱膨張係数の差が0.05×10-6/K以下であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のWC基超硬合金製積層チップにおける結合相は、具体的には、Co,Ni,Co−Ni合金,Fe−Ni合金および20重量%以下のW,Cr,Moを固溶したCo−W合金,Ni−Cr合金,Co−Ni−W−Cr合金,Fe−Ni−Co−W−Cr−Mo合金などを挙げることができる。結合相量は、5体積%未満では焼結が困難であり、30体積%を超えて多くなると切削時の摩耗が著しい。
【0011】
本発明のWC基超硬合金製積層チップにおける立方晶系化合物相は、具体的には、TaC,NbC,VC,Ti(C,N),(W,Ti)C,(W,Ti,Ta)C,(W,Ti,Ta)(C,N)などを挙げることができる。立方晶系化合物相量は、65体積%を超えて多くなると強度低下が著しい。
【0012】
本発明のWC基超硬合金製積層チップにおける2層以上は、立方晶系化合物相の組成及び/又は含有量が異なるもので、具体的には、WC−2TiC−4TaC−8Co、WC−2TiC−2.3NbC−9.3Co、WC−2NbC−10Co、WC−10.4Co(各重量%)などの組合せが挙げられる。ここで、これら各層間の熱膨張係数の差は、0.05×10-6/Kを超えて大きくなると、焼結後の冷却過程で各層間に過大な熱応力が発生するために、切削時に大破も含めた欠損やチッピングを起こして工具寿命が著しく低下する。
【0013】
本発明のWC基超硬合金製積層チップにおける各層の結合相量は、熱膨張係数がほぼ同一となるように、立方晶系化合物相の組成及び/又は含有量に応じて増加あるいは減少させることが好ましい。具体的には、超硬合金成分の熱膨張係数がWC<<NbC<TiC<TaC<<Coであることから、例えば、TaCをNbCに置換した場合はCo量を若干増加させ、TiC,TaCを削減した場合はCo量を増加させることにより熱膨張係数をほぼ同一にすることが好ましい。また、立方晶系化合物相及び/又は炭化タングステンの粒度も結合相量に応じて変化させると、焼結時に層間で起こる結合相の移動が阻止され、層間の熱膨張係数安定化やチップ変形の防止ができるので好ましい。具体的には、焼結時に層間で起こるCoの移動が毛細管現象に基づくことから、例えば、Co量が多い層ほど炭化物の粒度を微細にすることで焼結時のCoの層間移動が防止されるので好ましい。
【0014】
本発明のWC基超硬合金製積層チップにおいて、片面をすくい面とする構造の刃先交換型積層チップである場合、該すくい面に対して垂直な方向に2層を積層すること、両面をすくい面とする構造の刃先交換型積層チップである場合、該すくい面に対して垂直な方向に3層を積層することは、それぞれプレス時の粉充填回数が最小となるので好ましい。しかしながら用途や切削条件によってはすくい面に平行な方向であり、かつ逃げ面に対してほぼ垂直な方向に2層以上積層した積層構造でもよい。
【0015】
本発明のWC基超硬合金製積層チップにおける積層構造は、切れ刃を形成する層が立方晶系化合物相中にタンタルを含有し、切れ刃を形成する層以外の層がタンタルを含まないか、あるいは相対的にタンタル量が少ないと、高価なTaの省資源となるので好ましい。
【0016】
本発明のWC基超硬合金製積層チップの製造方法は、鉄族金属粉末と、周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物,窒化物,炭窒化物,炭酸化物,炭窒酸化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種以上の立方晶系化合物相形成粉末と、炭化タングステン粉末とからなる2種以上の混合粉末を使用し、積層にプレス成形した後、無加圧で焼結する積層チップの製造方法において、混合粉を作製する際に、結合相量と、該立方晶系化合物相の組成及び/又は含有量と、該立方晶系化合物相及び/又は上記炭化タングステンの粒度とを調整することによって、各積層間の熱膨張係数の差が0.05×10-6/K以下にし、かつ焼結時の結合相移動を防止したことを特徴とする製造方法である。
【0017】
本発明のWC基超硬合金製積層チップの製造方法における熱膨張係数の調整は、組成の各成分量と各成分単独の熱膨張係数とから推算でき、TiC,TaCなどが添加された合金ではCoの増量によりほぼ同一の熱膨張が狙える。また、粒度の調整は、結合相量が多い合金層ほど微粒とする。
【0018】
【実施例1】
市販されている平均粒子径が4.5μmのWC(WC/45と表記),3.5μmのWC(WC/35と表記),2.5μmのWC(WC/25と表記),1.0μmのTaC,1.2μmのNbC,1.5μmの(W,Ti)C(重量比でWC/TiC=70/30の複合炭化物),1.5μmの(W,Ti,Ta)C(重量比でWC/TiC/TaC=50/20/30の複合炭化物),1.2μmのCoの各粉末を用いて、表1に示す配合組成に秤量し、ステンレス製ポットにアセトン溶媒と超硬合金製ボールと共に装入し、48時間混合粉砕後、加熱・乾燥しながら2重量%のパラフィンワックスを添加してA−1,2,3,4,5とB−1,2,3,4,5の混合粉末を得た。
【0019】
【表1】
【0020】
次に、これらの粉末を金型に充填し、2ton/cm2の圧力でもって約4×9.5×29mmの圧粉成形体を作製し、アルミナとカーボン繊維からなるシート上に設置し、雰囲気圧力10Paの真空中で、表1に併記した温度でもって1時間加熱保持して、各焼結合金を作製した。そして、切断とダイヤモンド砥石による研削によって、3×3×25mmの角棒試料を得て、室温〜500℃までの平均熱膨張係数を測定した。その結果を表1に併記した。
【0021】
【実施例2】
ISO規格でCNMG120408の金型を用いて実施例1で得られたA1〜A5の混合粉末を表2に示す粉末番号と重量で順次充填し、2ton/cm2の圧力でもってプレス成形した後、実施例1と同様の方法,条件で焼結した。そして、これらチップ素材の上下面を230#のダイヤモンド砥石を用いて研削加工し、ISO規格でSNMN120408の工具チップとして本発明品1〜4および比較品1〜3を得た。ここで、比較品2,3では、チップの稜線部が突出(各面の中央が凹)する焼結変形が見られたが、研削により規格寸法に入れた。
【0022】
まず、片面を0.3μmのダイヤモンドペーストによる十分なラップ加工を施して研削応力を除去した後、X線応力測定装置を用いてチップ表面に作用する残留熱応力を測定した。この結果を表2に併記した。次に、各チップの1個について、チップ中央を切断し、ダイヤモンド砥石による研削と0.3μmのダイヤモンドペーストによるラップ加工を行って、断面観察および分析用試料を得た。そして、実態顕微鏡を用いて各試料での各層の厚みを測定し、また層間付近のCo量を分析電子顕微鏡にて測定した。これらの結果も表2に併記した。
【0023】
【表2】
【0024】
【実施例3】
ISO規格でSPGN120308の金型を用いて実施例1で得られたB1〜B5の混合粉末を表3に示す粉末番号と重量で順次充填し、2ton/cm2の圧力でもってプレス成形した後、実施例1と同様の方法,条件で焼結した。そして、これらチップ素材の上下面と外周面を230#のダイヤモンド砥石を用いて研削加工し、ISO規格でSPGN120308の工具チップとして本発明品5〜8および比較品4〜6を得た。ここで、比較品5,6では、上面(粉末充填での最終層に相当)の中央部が大きく突出する焼結変形が見られ、比較品6は研削により規格寸法に入れたが、比較品4は上面中央部で下層が露出していた。実施例2と同様の項目と方法で測定した残留熱応力、各層の厚み、層間付近のCo量の結果を表3に併記した。ただし、比較品5での測定は、下層露出のない刃先周辺部とした。
【0025】
【表3】
【0026】
【実施例4】
実施例2で得られた工具チップ(SNMN120408)の本発明品1〜4および比較品1〜3について、刃先部を320#の炭化けい素砥粒を含有したナイロン製ブラシで半径0.04mmのホーニング加工し、アセトン中で超音波洗浄した後、CVDコーティング装置を用いて、母材側から1.0μmのTiN,8.0μmの柱状晶TiCN,1.5μmのAl2O3,0.5μmのTiNの計11.0μmを被覆して表面被覆超硬工具チップとした。そして、これらチップの各5個を用いて被削材:炭素鋼S45C(4本溝入り),切削速度:100m/min,切込み:3.0mm,送り:0.10mm/revから段階的(各送りでの衝撃回数は3,000回)にアップした条件で乾式の断続旋削試験を行った。チッピングまたは欠損が発生する時の送り量とその割合を求めた結果を表4に示す。また、チップの各1個を用いて被削材:炭素鋼S48C,切削速度:200m/min,切込み:3.0mm,送り:0.25mm/revの条件で乾式の連続旋削試験を行い、平均の逃げ面摩耗幅が0.35mmを超えるまでの寿命時間を求めた結果を表4に併記した。
【0027】
【表4】
【0028】
次に、実施例3で得た工具チップ(SPGN120308)の本発明品5〜8および比較品4〜6について、各3個を用い、被削材:SCM440,切削速度:100m/min,切込み:2.0mm,送り:0.30mm/刃,切削距離:3mの条件で乾式のフライス切削試験を行い、刃先が欠損,チッピングを発生するか、平均の逃げ面摩耗幅が0.20mmを超えるまでの平均の切削距離を求めた。その結果を表5に示す。
【0029】
【表5】
【0030】
【発明の効果】
上述したように本発明のWC基超硬合金製積層チップは、工具の耐欠損性あるいは耐摩耗性の向上やTaなどの省資源化を図るために積層構造を持たせた。積層構造により隣接した超硬合金の層の熱膨張係数をほぼ同一することは、層間に生じる剪断応力を減少させる作用がある。剪断応力を減少させると耐欠損性が向上させる効果がある。また結合相量に応じて各層の合金粒度を調整することは焼結時に層間で起こる結合相の移動を防ぐ作用があり、焼結変形を防止する効果がある。こうした作用および効果と積層構造を持たせた効果が相まって、本発明のWC基超硬合金製積層チップは、切削工具、特に刃先交換型チップとして使用すると従来品に比較して鋼の断続旋削試験においては耐チッピング性や耐欠損性、鋼の連続旋削試験においては耐摩耗性、またはフライス試験においては耐チッピング性、耐欠損性、および/または耐摩耗性が高くなり、長寿命が達成されるという顕著な効果があること、各層間における組成成分の調整により省資源に貢献するという効果を発揮するものである。
Claims (5)
- 鉄族金属を主成分とする結合相5〜30体積%と、周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物,窒化物,炭窒化物,炭酸化物,炭窒酸化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種以上からなる立方晶系化合物相65体積%以下と、残りが炭化タングステンと不可避不純物とからなるWC基超硬合金製チップにおいて、該チップは該立方晶系化合物相の組成及び/又は含有量が異なる超硬合金が2種以上積層された積層構造を有し、積層により隣接した超硬合金の層は熱膨張係数の差が0.05×10-6/K以下であり、上記積層構造は、切れ刃を形成する層が上記立方晶系化合物相中にタンタルを含有し、切れ刃を形成する層以外の層がタンタルを含まないかあるいは相対的にタンタル量が少ないことを特徴とするWC基超硬合金製積層チップ。
- 上記超硬合金の層は、各層に含有する上記結合相量が上記立方晶系化合物相の組成及び/又は含有量に応じて増加あるいは減少し、かつ各層に含有する該立方晶系化合物相及び/又は上記炭化タングステンの粒度が該結合相量に応じて増加あるいは減少することを特徴とする請求項1記載のWC基超硬合金製積層チップ。
- 上記WC基超硬合金製積層チップは刃先交換型チップであることを特徴とする請求項1または2に記載のWC基超硬合金製積層チップ。
- 上記刃先交換型チップは、片面をすくい面とする構造でなり、該すくい面に対して垂直な方向に2層が積層されていることを特徴とする請求項3に記載のWC基超硬合金製積層チップ。
- 上記刃先交換型チップは、両面をすくい面とする構造でなり、該すくい面に対して垂直な方向に3層が積層されていることを特徴とする請求項3に記載のWC基超硬合金製積層チップ。
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