JP4857498B2 - 表示素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カラーディスプレイなどに用いられる表示素子に関し、特には有機層を備えた自発光型の表示素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、マルチメディア指向の商品を初めとし、人間と機械とのインターフェースの重要性が高まってきている。人間がより快適に効率良く機械操作するためには、操作される機械からの情報を誤りなく、簡潔に、そして瞬時に、充分な量取り出す必要があり、その為にディスプレイを初めとする様々な表示素子について研究が行われている。
【0003】
また、機械の小型化に伴い、表示素子の小型化、薄型化に対する要求も日々、高まっているのが現状である。例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、ノート型ワードプロセッサなどの、表示素子一体型であるラップトップ型情報処理機器の小型化には目を見張る進歩があり、それに伴い、その表示素子である液晶ディスプレイに関しての技術革新も素晴らしいものがある。液晶ディスプレイは、様々な製品のインターフェースとして用いられており、ラップトップ型情報処理機器はもちろんのこと、小型テレビや時計、電卓を初めとし、我々の日常使用する製品に多く用いられている。
【0004】
ところが、液晶ディスプレイは、自発光性でないためバックライトを必要とし、このバックライト駆動に液晶を駆動するよりも電力を必要する。また、視野角が狭いため、大型ディスプレイ等の大型表示素子には適していない。さらに、液晶分子の配向状態による表示方法なので、視野角の中においても、角度によりコントラストが変化してしまう。しかも、液晶は基底状態における分子のコンフォメーションの変化を利用して表示を行っているので、ダイナミックレンジが広くとれない。これは、液晶ディスプレイが動画表示には向かない理由の一つになっている。
【0005】
これに対し、自発光性表示素子は、プラズマ表示素子、無機電界発光素子、有機電界発光素子等が研究されている。
【0006】
プラズマ表示素子は低圧ガス中でのプラズマ発光を表示に用いたもので、大型化、大容量化に適しているものの、薄型化、コストの面での問題を抱えている。また、駆動に高電圧の交流バイアスを必要とし、携帯用デバイスには適していない。
【0007】
無機電界発光素子は、緑色発光ディスプレイ等が商品化されたが、プラズマ表示素子と同様に、交流バイアス駆動であり駆動には数百V必要であり、ユーザーに受け入れられなかった。しかし、技術的な発展により、今日ではカラーディスプレイ表示に必要なRGB三原色の発光には成功しているが、青色発光材料が高輝度、長寿命で発光可能なものがあまり無く、また、無機材料のために、分子設計などによる発光波長等の制御は困難であり、コンスーマー向けのフルカラーデバイス化は困難であると思われる。
【0008】
一方、有機化合物による電界発光現象は、1960年代前半に強く蛍光を発生するアントラセン単結晶への、キャリア注入による発光現象が発見されて以来、長い期間、研究されてきたが、低輝度、単色で、しかも単結晶であった為、有機材料へのキャリア注入という基礎的研究として行われていた。
【0009】
しかし、1978年にEastman Kodak社のTangらが低電圧駆動、高輝度発光が可能なアモルファス発光層を有する積層構造の有機電界発光素子を発表して以来、各方面でRGB三原色の発光、安定性、輝度上昇、積層構造、作製法等の研究開発が盛んに行なわれている。
【0010】
さらに、有機材料の特徴である分子設計等により様々な新規材料が発明され、直流低電圧駆動、薄型、自発光性等の優れた特徴を有する有機電界発光素子のカラーディスプレイへの応用研究も盛んに行われ始めている。
【0011】
図8には、このような表示素子(有機電界発光素子)の一構成例を示す。この図に示す表示素子1は、例えばガラス等からなる透明な基板2上に設けられている。この表示素子1は、基板2上に設けられたITO(Indium Tin Oxide:透明電極)からなる陽極3、この陽極3上に設けられた有機層4、さらにこの上部に設けられた陰極5とで構成されている。有機層4は、陽極側から、例えば正孔注入層4a、正孔輸送層4bおよび電子輸送性の発光層4cを順次積層させた構成となっている。このように構成された表示素子1では、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが発光層4cにて再結合する際に生じる光が基板2側から取り出される。
【0012】
またこのような構成の他にも、基板2側から順に、陰極5、有機層4、陽極3を順次積層した構成や、さらには上方に位置する電極(上部電極)を透明材料で構成することで、基板2と反対側から光を取り出すようにした上面発光型(いわゆるTAC:Top Emitting Adoptive Current device構造)の表示素子もある。そして特に、基板上に薄膜トランジスタ(thin film transistor:以下TFTと記す)を設けて成るアクティブマトリックス型の表示装置においては、表示素子をTAC構造とすることが、発光部の開口率を向上させる上で有利になる。
【0013】
このようなTAC構造の表示装置において、上部電極が陰極である場合、この上部電極は、例えばLi2Oや、CsO等の金属酸化物層を用いて構成される。また、この場合においては、金属酸化物層上に、導電性を補償するための層や、キャビティ構造を構成するための半透過反射層を積層させる構成が採用されている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述したような自発光型の表示素子、特には有機層を備えた発光素子を用いて表示装置を構成する場合、表示素子の長寿命化および信頼性の確保が最も重要な課題の一つである。
【0015】
一般的に、表示素子の寿命は、輝度の低下を伴う初期劣化およびその後の定常的な劣化の速度によって決定される。つまり、表示素子の長寿命化を達成するためには、表示素子の初期劣化およびその後の定常的な劣化の速度を小さく抑えることが重要になる。そして、定常的な劣化速度を小さく抑えるためには、表示素子の駆動電圧を低下させることで消費電力を低減し、なおかつ長期の駆動による電圧上昇を低く抑え、これによって駆動に伴う発熱等を抑えることが重要になってくる。
【0016】
そこで本発明は、駆動電力を低下させることによって表示素子の劣化速度を小さく抑えることが可能で、これにより長時間の安定した発光を与えることが可能な長期信頼性に優れた表示装置を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するための本発明は、陰極と陽極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機層を挟持してなり、陰極および陽極のうちの少なくとも一方が、有機層側の第1層とこの上部に積層された第2層とを有する積層構造で構成された表示素子において、第2層には、第1層の構成成分であるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方の酸化物またはランタノイド元素が少なくとも1つ添加されていることを特徴としている。
【0018】
このような構成にすることで、積層構造で形成された電極においては、第2層と第1層との間のエネルギー障壁が小さくなり、第2層側からの第1層を介しての有機層への荷電粒子の注入効率が上昇する。このため、表示素子の駆動電圧が低下する。
【0019】
特に、有機層での発光光を取り出さす側の電極が、表示素子をキャビティ構造とするための積層構造となっている場合に、この電極に本発明の積層構造を適用することで、電極を構成する各層の光透過率が殆ど変化することなく、駆動電圧を低下させることができる。つまり、設計に非常な手間がかかるキャビティ条件(各層の膜厚など)を変更することなく、駆動電圧の低下が図られる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の表示素子の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の表示素子の一構成例を示す断面図である。この図に示す表示素子11は、基板12上に形成されており、基板12上に設けられた陽極13、この陽極13上に設けられた有機層14、およびこの有機層14上に設けられた陰極15を備えている。以下の説明においては、陽極13から注入された正孔と陰極15から注入された電子とが有機層14で結合する際に生じた発光光を、基板2と反対側の陰極15側から取り出す上面発光方式、いわゆる「TAC構造」の表示素子の構成を説明する。
【0022】
先ず、表示素子11が設けられる基板12は、ガラスのような透明基板や、シリコン基板、さらにはフィルム状のフレキシブル基板等の中から適宜選択して用いられることとする。また、この表示素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、基板12として、画素毎にTFTを設けてなるTFT基板が用いられる。
【0023】
そして、この基板12上に下部電極として設けられる陽極13は、例えばITOのような透明電極材料で構成されており、スパッタリング法によって形成されている。また、この陽極13は、ITOの他にも、効率良く正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいもの、例えばクロム(Cr)、金(Au)、酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金、さらにはこれらの金属や合金の酸化物等を、単独または混在させた状態で用いられる。
【0024】
尚、この表示素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陽極13は、TFTが設けられている画素毎にパターニングされていることとする。そして、陽極13の上層には、ここでの図示を省略した絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から、各画素の陽極13表面を露出させていることとする。
【0025】
また、有機層14は、陽極13側から順に、正孔注入層14a、正孔輸送層14bおよび電子輸送性の発光層14cを積層してなる。これらの各層は、例えば真空蒸着法や、例えばスピンコート法などの他の方法によって形成される。各層を構成する材料に限定条件はなく、例えば正孔輸送層14bであるならば、ベンジジン誘導体、スチリルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ヒドラゾン誘導体などの正孔輸送材料を用いることができる。さらに、発光層14cの発光スペクトルの制御を目的として、発光層14cの形成において微量分子の共蒸着を行っても良く、例えば、ベリレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン系色素等の有機物質を微量含む有機薄膜を発光層14cとしても良い。
【0026】
尚、有機層14は、このような層構造に限定されることはなく、少なくとも発光層14cを有する構成であれば、必要に応じた積層構造を選択することができる。例えば、発光層14cは、正孔輸送性の発光層14cであっても良く、また発光層14c上にさらに電子輸送層を設けた構成であっても良い。また、以上の各有機層、例えば正孔注入層14a、正孔輸送層14bおよび電子輸送性の発光層14cは、それぞれが複数層からなる積層構造であっても良い。
【0027】
次に、陰極15は、例えば有機層14側から順に第1層15a、第2層15b、および第3層15cを積層させた3層構造で構成されている。
【0028】
3層構造のうちの第1層15aは、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料として、例えばリチウム(Li)の酸化物であるLi2Oや、セシウム(Cs)の酸化物であるCs2O、さらにはこれらの酸化物の混合物を用いることができる。また、第1層15aはこのような材料に限定されることはなく、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム(Li),セシウム(Cs)等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、銀(Ag)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属の酸化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物の混合物や合金として安定性を高めて使用しても良い。
【0029】
さらに、第1層15aとしては、例えばランタノイド元素を含有する材料が用いられる。この第1層15aを構成するランタノイド元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、カドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)等のうちから少なくとも1つが選択される。これらのランタノイド元素は、安定した原材料の形態が存在するため、容易に用いることができる。
【0030】
また、これらのランタノイド元素は、例えば酸化物とて用いられている。このような酸化物としては、La2O3、CeO2 、Pr2O3、Pr6O11、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb2O3、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3、Lu2O3のうちの少なくとも1種類が選択される。
【0031】
尚、第1層15a内のランタノイド元素は、このような組成の酸化物とて含有されていることに限定されず、他の組成の酸化物や、さらには酸化物と金属(ランタノイド金属)とが混在していても良い。
【0032】
また3層構造のうちの第2層15bは、第2層成分中に第1層15aを構成する物質(第1層成分)を含有させてなる混合層であることとする。第2層15bを構成する第2層成分は、第1層15aを構成する材料との組み合わせによって適宜選択された他の材料を用いることができる。ただし、ここでは表示素子がTAC構造であるため、第2層15bは、ある程度の光透過性を有する材料で構成されることとする。
【0033】
例えば、第1層15aが、例えばリチウム(Li)の酸化物であるLi2Oや、セシウム(Cs)の酸化物であるCs2O、さらにはこれらの酸化物の混合物からなる場合には、第2層成分としてアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、MgAg、CaAg、MgIn、CaIn等の材料、さらにはこれらの合金が好ましく用いられる。これらの第2層成分が合金である場合には、その組成比は任意に決定される。
【0034】
また、第1層15aが、Mgを用いて構成されている場合には、第2層成分としてAl、Ca、CaAg、CaIn等の材料、さらにはこれらの合金が好ましく用いられる。これらの第2層成分が合金である場合には、その組成比は任意に決定される。
【0035】
そして、第1層15aが、上述したアルカリ金属、アルカリ土類金属、その他の仕事関数が小さい金属またはこれらの酸化物からなる場合、第2層成分は、例えばランタノイド元素を含有する材料が用いられる。このランタノイド元素を含有する材料は、第1層15aで説明したと同様の形態で用いられる。
【0036】
ここで、第2層15b中における第2層成分と第1層成分との組成比は、第1層15aの構成によって適宜設定される。例えば、第1層15aが、仕事関数が低く光透過性も良好であるが、導電性が低い材料からなる場合には、第1層15aを薄膜とすることで、その導電性を確保することになる。このため、第2層15bは、ある程度の導電性を有する材料でかつある程度の膜厚で構成する必要がある。このような第2層15bにおいては、導電性の小さい第1層成分をある程度の組成比に抑えることで、第2層15b自体の導電性を確保する必要がある。
【0037】
具体的には、第1層15aがLi2Oからなる場合に、第2層15b中における第1層成分であるLi2Oの組成比が大きすぎると、第2層15bが絶縁性になる。このため、第2層15b中においての、第2層成分に対する第1層成分としてのLi2Oの組成比は、膜厚比に換算して0.1%〜2.0%程度とすることが好ましい。
【0038】
また、第1層15aがMgからなる場合には、第2層15b中における第1層成分であるMgの組成比は、50%を越えても良い。
【0039】
そして、3層構造のうちの第3層15cは、第2層15bの構成によって適宜選択された他の材料を用いることができる。ただし、ここでは表示素子がTAC構造であるため、第3層15cは、ある程度の光透過性を有する材料で構成されることとする。
【0040】
この第3層15cは、第2層15bから、第1層成分を抜いた材料、すなわち第2層成分のみで構成されても良い。また、第3層15cは、この表示素子11がキャビティ構造である場合には、有機層14で生じた発光光を第3層15cと陽極13との間で共振させるために、半透過反射材料を用いて構成されることとする。さらに第3層15cは、AlSiCuのような封止層を兼ねる材料で構成されても良い。尚、この第3層15は、必要に応じて設けられることとする。
【0041】
尚、以上の第1層15a、第2層15bおよび第3層15cは、真空蒸着法、スパッタリング法、さらにはプラズマCVD(chemical vapor deposition)法などの手法によって形成される。また、この表示素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極15は、ここでの図示を省略した上述の絶縁膜と有機層14とによって、陽極13と絶縁された状態で基板12上にベタ膜状で形成され、各画素に共通電極として用いられる。
【0042】
このように構成された表示素子11では、陰極15の第2層15bに第1層15aを構成する第1層成分を添加したことで、第1層15aと第2層15bとの間のエネルギー障壁が小さくなり、第2層15b側からの第1層15aを介しての有機層14への電子の注入効率が上昇する。このため、表示素子11の駆動電圧を低下させることが可能になる。この結果、長期の駆動による電圧上昇も低く抑えられ、表示素子の劣化速度を小さく抑えることが可能で、これにより長時間の安定した発光を与えることが可能になる。
【0043】
特に、この表示素子11は、有機層14での発光光が、このような積層構造の陰極15から取り出されるため、第2層15bの光透過率を同程度に維持しつつも、上述のように駆動電圧を低下させることが可能になる。このため、例えば、この表示素子11がキャビティ構造に構成されている場合、材料変更やこれに伴うキャビティ条件を変更することなく駆動電圧を低下させることができる。
【0044】
ここで、有機層14上の電極(ここでは陰極15)側から発光光を取り出すTAC構造では、有機層14に影響を与えることなく成膜が可能な材料で陰極15を構成する必要がある。このため、TAC構造の表示素子においては、陰極15の材質に制限が加わるため、表示素子をキャビティ構造とすることで発光スペクトルをチューニングし、発光光の取り出し効率を確保している。このようなキャビティ構造の表示素子においては、上述したように陰極15が積層構造で構成されることになるが、特に、本実施形態のような積層構造を採用することで、陰極15を構成する各膜の性質を殆ど変化させずに電子の注入効率のみを向上させることが可能になる。このため、非常に手間の掛かるキャビティ条件の設計を変更することなく、電子の注入効率の向上による発光効率の向上を図ることができるのである。
【0045】
尚、以上説明した構成の表示素子は、本発明のあくまでも一例であり、本発明の表示素子はこのような構成に限定されることはない。
【0046】
すなわち、以上の実施形態においては、TFT基板を用いたアクティブマトリックス方式の表示装置に用いる表示素子に限定されることはなく、パッシブ方式の表示装置に用いる表示素子としても適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0047】
また、以上の実施形態においては、基板1と反対側に設けた陰極15側から発光光を取り出す「TAC構造」の場合を説明した。しかし本発明は、基板12を透明材料で構成することで、発光光を基板12側から取り出す「透過型(いわゆるBottom型)」の表示素子にも適用される。この場合、陽極13を透明材料で構成したり、図1を用いて説明した積層構造を、基板12側から逆に積み上げた構成にする。逆に積み上げた場合、上部電極となる陽極を透明材料で構成することで、基板12と反対側からも発光光を取り出すことも可能になる。
【0048】
また、図1を用いて説明した積層構造を、基板12側から逆に積み上げた構成において、上部電極となる陽極側からのみ発光光を取り出す構成であっても良い。この場合、基板側の下部電極となる積層構造の陰極には、光過性が要求されることはない。
【0049】
さらに、以上の実施形態においては、陰極15のみを積層構造とした構成を説明した。しかし、本発明はこのような構成に限定されることなく、陰極15と共に陽極13を上述した積層構造にしても良く、また陽極13のみを上述した積層構造にしても良い。
【0050】
陽極13を上述した積層構造とする場合、有機層14に最も近い層を第1層として仕事関数の高い材料で構成し、この第1層上に、第2層成分中に第1層15aを構成する物質(第1層成分)を含有させてなる混合層を第2層として形成する。この場合、第1層成分および第2層成分は、適宜選択された材料が用いられるが、特に積層構造とした陽極側から発光光を取り出す構成である場合には、第1層を仕事関数の高い透明材料で構成し、第2層成分としては上述した実施形態で説明した陰極用の第2層成分と同様の物質を用いることができる。
【0051】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例1〜5、および実施例1〜5に対する比較例1〜5の表示素子の製造手順を説明し、その後これらの評価結果を説明する。
【0052】
(実施例1〜6)
各実施例1〜5においては、上述した実施の形態において、図1を用いて説明した構成の表示素子11を形成した。ただし、下記表1に示すように、実施例1〜3をTAC構造、実施例4,5をBottom構造とした。また、各実施例1〜5においては、陽極13および陰極15を構成する材料として、表1に示す各材料を用いた。
【0053】
【表1】
【0054】
以下に先ず、実施例1〜5の表示素子11の製造手順を説明する。
【0055】
30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、表1中▲1▼の各陽極材料を膜厚約100nmで成膜して陽極13とした。次いで、SiO2蒸着により2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜(図示省略)でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。
【0056】
次に、真空蒸着法により、正孔注入層14aとして図2に示すm−MTDATA(4,4',4''-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine)を15nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec.)の膜厚で形成した。次いで、正孔輸送層14bとして図3に示すα−NPD(α-naphtyl phenil diamine)を15nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec.)の膜厚で形成した。さらに電子輸送性の発光層14cとして、青色発光有機材料を30nmの膜厚で蒸着した。次いで、電子輸送性の発光層14cとして、図4に示すAlq3(8-hydroxy quinorine alminum)を20nmの膜厚で蒸着した。
【0057】
以上のようにして、正孔注入層14a、正孔輸送層14bおよび電子輸送性の発光層14cを順次積層してなる有機層14を形成した後、陰極15の第1層15aとして、Li2Oを真空蒸着法により約1.0nm(蒸着速度〜0.01nm/sec.)の膜厚で形成した。
【0058】
次に、陰極15の第2層15bとして、表1中▲3▼の各第2層成分に表1中▲4▼の第1層成分(Li2O)を含有させた材料を、真空蒸着法により10nmの膜厚で形成した。第2層15b中における第1層成分(Li2O)の組成比は、膜厚比に換算して0.2vol%とした。ただし、実施例3においては、表示素子をキャビティ構造とするため、第2層15bを1.0nmの膜厚で形成した。
【0059】
次いで、実施例3においては、第2層15b上に、陰極15の第3層13c(表中▲5▼)として、半透明反射材料のMgAg(Mg:Ag=10:1ただし膜厚比)を10nm蒸着した。
【0060】
一方、Bottom構造とする実施例4,5では、第2層15b上に、陰極15の第3層15c(表中▲5▼)として、陰極封止層をかねてAlSiCu(Si:1重量%、Cu:0.5重量%)を120nm蒸着した。
【0061】
(比較例1〜5)
これらの比較例1〜5においては、上述した実施例1〜5の表示素子の製造において、第2層15bを表1の▲3▼で示した第2層成分のみで構成した以外は、各実施例1〜5と同様にして表示素子を形成した。つまり、比較例1では、実施例1の表示素子の製造において、第2層15bをMgAgのみで構成した以外は、実施例1と同様にして表示素子を作製した。また、比較例2では、実施例2の表示素子の製造において、第2層15bをCaAgのみで構成した以外は、実施例2と同様にして表示素子を作製し、以下同様に対応させて表示素子を作製した。
【0062】
(評価結果)
以上のようにして作製した実施例1〜5および比較例1〜5の表示素子について、駆動電圧に対する発光輝度を測定した。
【0063】
図5には、各実施例および比較例を代表して、実施例1とこれに対応する比較例1についての、駆動電圧(Voltage)−発光輝度(Luminance)特性(すなわちIVL特性)と、駆動電圧(Voltage)−発光効率(Efficiency)特性とを示した。このグラフから、本発明の電極構造を用いることで、駆動電圧の低下及び発光効率の向上が達成されることが確認された。
【0064】
尚、図5に示した実施例1とこれに対応する比較例1の表示素子は、TAC構造であるが、実施例4,5などのBottom構造の場合を含む全ての実施例と比較例との組み合わせで同様の効果が得られた。さらに、実施例3のキャビティ構造の表示素子においても、同様の効果が得られた。
【0065】
上記表1の▲6▼には、上記測定によって得られた結果から、実用輝度領域数十〜数百cd/m2の範囲においての、各比較例の駆動電圧に対する各実施例の駆動電圧の低下量を示す。この値からも分かるように、全ての実施例と比較例との組み合わせにおいて、比較例に対して実施例の駆動電圧が0.5〜2.0V程度低下し、これにともない発光効率の改善も達成されることが確認できた。
【0066】
また、図6には、各実施例および比較例を代表して、実施例1とこれに対応する比較例1についての、駆動電圧(Voltage)−電流密度(Current Density)特性を示した。このグラフから、本発明の電極構造を用いることで、電極から有機層への電流の注入効率、具体的には陰極から有機層への電子の注入効率が改善され、駆動電圧に対する電流密度の向上が達成されることが確認できた。尚、このような効果は、全ての実施例で同様であった。
【0067】
さらに、図7には、各実施例および比較例を代表して、実施例1とこれに対応する比較例1についての、電流密度(Current Density)−発光輝度(Luminance)特性を示した。このグラフから、本発明の電極構造を用いることで、電流密度に対する発光輝度の上昇が達成されることが確認できた。このことから、本発明による効果は、駆動電圧の低下とそれに伴う発光効率の改善だけにとどまらず、電子と正孔の注入バランスも改善されることが示唆され、その結果として電流密度に対する発光輝度の上昇が達成できると考えられる。
【0068】
以上説明した様に本発明の表示素子によれば、有機層を挟持する陰極および陽極のうちの少なくとも一方が二層以上の積層構造である場合に、有機層側の第1層の構成成分であるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方の酸化物またはランタノイド元素のうちの少なくとも1つをこの上部の第2層にも含有させる電極構成としたことで、有機層に対する電流注入効率を向上させ、これによって駆動電圧の低下を図ることが可能になる。この結果、消費電力の低減、さらには駆動に伴う発熱等を抑えることができ、長期信頼性に優れた表示装置を得ることが可能になる。特に、有機層での発光光が取り出される側の電極が、キャビティ構造を構成するための積層構造となっている場合には、この電極に本発明の積層構造を適用することで、電極を構成する各層の光透過率を殆ど変化させずに、つまりは設計に非常な手間がかかるキャビティ条件(各層の膜厚など)を変更することなく、駆動電圧を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表示素子の一構成例を示す断面図である。
【図2】実施例において正孔注入層に用いたm−MTDATAの構造式である。
【図3】実施例において正孔輸送層に用いたα−NPDの構造式である。
【図4】実施例において電子輸送性発光層に用いたAlq3の構造式である。
【図5】実施例1および比較例1についての駆動電圧(Voltage)−発光輝度(Luminance)特性、駆動電圧(Voltage)−発光効率(Efficiency)特性を示す図である。
【図6】実施例1および比較例1についての駆動電圧(Voltage)−電流密度(Current Density)特性を示す図である。
【図7】実施例1および比較例1についての電流密度(Current Density)−発光輝度(Luminance)特性を示す図である。
【図8】従来の表示素子の一構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
11…表示素子、13…陽極、14…有機層、14c…発光層、15…陰極、15a…第1層、15b…第2層(混合層)
Claims (5)
- 陰極と陽極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機層を挟持してなり、当該陰極および陽極のうちの少なくとも一方が当該有機層側の第1層と当該第1層上に積層された第2層を有する積層構造で構成された表示素子において、前記第2層には、前記第1層の構成成分であるアルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方の酸化物が添加されている表示素子。
- 請求項1記載の表示素子において、前記酸化物は、Li2O、Cs2O、MgO、CaO、SrOのうちの少なくとも1種類である、表示素子。
- 陰極と陽極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機層を挟持してなり、当該陰極および陽極のうちの少なくとも一方が当該有機層側の第1層と当該第1層上に積層された第2層を有する積層構造で構成された表示素子において、前記第2層には、前記第1層の構成成分であるランタノイド元素のうちの少なくとも1つが添加されている表示素子。
- 請求項3記載の表示素子において、前記第2層に添加される前記第1層の構成成分は、ランタノイド元素の酸化物である、表示素子。
- 請求項4記載の表示素子において、前記ランタノイド元素の酸化物は、La2O3、CeO2、Pr2O3、Pr6O11、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb2O3、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3、Lu2O3のうちの少なくとも1種類である、表示素子。
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