JP4479171B2 - 表示素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、表示素子に関し、特には有機層を備えた自発光型の表示素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、マルチメディア指向の商品を初めとし、人間と機械とのインターフェースの重要性が高まってきている。人間がより快適に効率良く機械操作するためには、操作される機械からの情報を誤りなく、簡潔に、そして瞬時に、充分な量取り出す必要があり、その為にディスプレイを初めとする様々な表示素子について研究が行われている。
【0003】
また、機械の小型化に伴い、表示素子の小型化、薄型化に対する要求も日々、高まっているのが現状である。例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、ノート型ワードプロセッサなどの、表示素子一体型であるラップトップ型情報処理機器の小型化には目を見張る進歩があり、それに伴い、その表示素子である液晶ディスプレイに関しての技術革新も素晴らしいものがある。液晶ディスプレイは、様々な製品のインターフェースとして用いられており、ラップトップ型情報処理機器はもちろんのこと、小型テレビや時計、電卓を初めとし、我々の日常使用する製品に多く用いられている。
【0004】
ところが、液晶ディスプレイは、自発光性でないためバックライトを必要とし、このバックライト駆動に液晶を駆動するよりも電力を必要する。また、視野角が狭いため、大型ディスプレイ等の大型表示素子には適していない。さらに、液晶分子の配向状態による表示方法なので、視野角の中においても、角度によりコントラストが変化してしまう。しかも、液晶は基底状態における分子のコンフォメーションの変化を利用して表示を行っているので、ダイナミックレンジが広くとれない。これは、液晶ディスプレイが動画表示には向かない理由の一つになっている。
【0005】
これに対し、自発光性表示素子は、プラズマ表示素子、無機電界発光素子、有機電界発光素子等が研究されている。
【0006】
プラズマ表示素子は低圧ガス中でのプラズマ発光を表示に用いたもので、大型化、大容量化に適しているものの、薄型化、コストの面での問題を抱えている。また、駆動に高電圧の交流バイアスを必要とし、携帯用デバイスには適していない。
【0007】
無機電界発光素子は、緑色発光ディスプレイ等が商品化されたが、プラズマ表示素子と同様に、交流バイアス駆動であり駆動には数百V必要であり、ユーザーに受け入れられなかった。しかし、技術的な発展により、今日ではカラーディスプレイ表示に必要なRGB三原色の発光には成功しているが、青色発光材料が高輝度、長寿命で発光可能なものが無く、また、無機材料のために、分子設計などによる発光波長等の制御は困難である。
【0008】
2000年には、無機電界発光素子を用いたフルカラーディスプレイが発表されたが、色変換方式を用いており、理想的な独立三原色駆動方式でのデバイス化は難しい。
【0009】
一方、有機化合物による電界発光現象は、1960年代前半に強く蛍光を発生するアントラセン単結晶への、キャリア注入による発光現象が発見されて以来、長い期間、研究されてきたが、低輝度、単色で、しかも単結晶であった為、有機材料へのキャリア注入という基礎的研究として行われていた。
【0010】
しかし、1978年にEastman Kodak社のTangらが低電圧駆動、高輝度発光が可能なアモルファス発光層を有する積層構造の有機電界発光素子を発表して以来、各方面でRGB三原色の発光、安定性、輝度上昇、積層構造、作製法等の研究開発が盛んに行なわれている。
【0011】
また、有機材料の特徴である分子設計等により様々な新規材料が発明され、直流低電圧駆動、薄型、自発光性等の優れた特徴を有する有機電界発光素子のカラーディスプレイへの応用研究も盛んに行われ始めている。
【0012】
図7には、このような表示素子(有機電界発光素子)の一構成例を示す。この図に示す表示素子1は、例えばガラス等からなる透明な基板2上に設けられている。この表示素子1は、基板2上に設けられたITO(Indium Tin Oxide:透明電極)からなる陽極3、この陽極3上に設けられた有機層4、さらにこの上部に設けられた陰極5とで構成されている。有機層4は、陽極側から、例えば正孔注入層4a、正孔輸送層4bおよび電子輸送性の発光層4cを順次積層させた構成となっている。このように構成された表示素子1では、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが発光層4cにて再結合する際に生じる光が基板2側から取り出される。
【0013】
またこのような構成の他にも、基板2側から順に、陰極5、有機層4、陽極3を順次積層した構成や、さらには上方に位置する電極(上部電極)を透明材料で構成することで、基板2と反対側から光を取り出すようにした、いわゆる上面発光型の表示素子もある。そして特に、基板上に薄膜トランジスタ(thin film transistor:以下TFTと記す)を設けて成るアクティブマトリックス型の表示装置においては、TFTが形成された基板上に上面発光型の表示素子を設けた、いわゆるTAC(Top Emitting Adoptive Current drive)構造とすることが、発光部の開口率を向上させる上で有利になる。
【0014】
このようなTAC構造の表示装置において、上部電極が陰極である場合、この上部電極は、例えばLiF、Li2Oや、CsO等の金属フッ化物或いは酸化物層を用いて注入電極が構成される。また、これらの注入電極上にMgAg層を積層させる場合もある。
【0015】
また、TAC構造では、陽極としてITO等の透明電極を用いることで両サイドからの光の取り出しも可能であるが、一般的には不透明電極が用いられ、キャビティ構造を形成する。キャビティ構造の有機層膜厚は、発光波長によって規定され、多重干渉の計算から導くことが可能である。TAC構造では、このキャビティ構造を積極的に用いることにより、外部への光取り出し効率の改善や発光スペクトルの制御を行うことが可能である。
【0016】
ところで、上述した表示素子を用いたフルカラー表示の表示装置においては、赤(R)、緑(G)、青(B)の安定した発光が必要となる。ところが、これらの各色の全てについて、十分な色度および輝度を備えた発光材料の報告はない。そこで、主たる発光材料(ホスト材料)に発光中心となる発光材料(ゲスト材料)が添加されたホスト−ゲスト系の発光層4cを構成することによって、色度や輝度の改善が図られている。この場合、ホスト材料中に所定量のゲスト材料を均一に添加した発光層4cが調整されている。
【0017】
また、上述したような自発光型の表示素子、特には有機層を備えた発光素子を用いて表示装置を構成する場合、表示素子の長寿命化および、駆動における非発光領域を生じない、或いは、対環境性において安定している特性等の信頼性の確保が最も重要な課題の一つである。
【0018】
一般的に、表示素子の寿命は、輝度の低下を伴う初期劣化およびその後の定常的な劣化の速度によって決定される。つまり、表示素子の長寿命化を達成するためには、表示素子の初期劣化およびその後の定常的な劣化の速度を小さく抑えることが重要になるのである。
【0019】
また、発光素子の信頼性を向上するためには正孔と電子の再結合領域を広くし、広い領域でエキシトンを生成する事が好ましい。しかしながら、実際の素子では正孔輸送層と発光層界面に発光中心が局在している場合が大半であり、これによって生じる局所的な劣化が、上述した定常的な劣化を引き起こす要因の一つと考えられる。
【0020】
従って、定常的な劣化を防止するためには発光材料の経時的な局所的劣化を抑制することが有効と考えられ、例えば、緑色の表示素子においては、電子輸送性の発光材料からなるホストに正孔輸送材料をゲストとして添加することで信頼性(寿命特性)が大きく向上することが報告されている(下記非特許文献1,2参照)。
【0021】
また、青色発光素子においては、アルミニウム錯体を電子輸送層に用いながら、表示素子における有機層の積層構造の中にエキシトン生成促進層を設けて正孔と電子のエネルギー的な閉じ込め構造を作ることによってホール輸送層を発光層として用い、この発光層にて正孔と電子が効率良く結合し、発光材料独自の青色発光が高輝度で得られることが開示されている(下記特許文献1〜4、特に特許文献1参照)。
【0022】
また、青色以外の発光色においてもエネルギー移動によって発光層からエネルギーが拡散し効率が低下する素子の場合も、正孔ブロッキング層と呼ばれる層を発光層と電子輸送層の間に設けることによって高効率の発光が得られることが知られており、緑色発光の発光を得ることも可能である(下記特許文献5,6参照)。
【0023】
【非特許文献1】
Vi-En Choongらの Applied Physics Letters 第75巻2号172〜174頁(1999年)
【非特許文献2】
Anna B. Chwangらの Applied Physics Letters 第80巻5号725〜727頁(2002年)
【特許文献1】
特開平10−79297号公報
【特許文献2】
特開平11−204258号公報
【特許文献3】
特開平11−204264号公報
【特許文献4】
特開平11−204259号公報
【特許文献5】
特開2001−237079号公報
【特許文献6】
特開2001−237080号公報
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した非特許文献1,2で示されたような、電子輸送性の発光層に正孔輸送材料を添加する構成を、広バンドギャップの青色発光の表示素子に適用した場合、正孔が電子輸送層まで到達し電子輸送層として積層しているAlq3等が発光し、緑色の発光になってしまうという問題がある。
【0025】
また、上述した特許文献1〜4で示されたような、エキシトン生成促進層によって電荷の閉じ込めを行う構成は、正孔と電子の再結合領域の局在化に帰着し、長寿命化には効果は少ない。
【0026】
さらに、上述した特許文献5,6で示されたような、正孔ブロッキング層と呼ばれる層を発光層と電子輸送層の間に設ける構成では、学会等で寿命改善できる材料も報告されつつある。
【0027】
そこで本発明は、表示素子の初期劣化およびその後の定常的な劣化の速度を小さく抑えることが可能で、これにより長時間の安定した発光を与えることが可能な長期信頼性に優れた表示素子を提供することを目的とする。
【0028】
【課題を解決するための手段】
本発明の表示素子は、陰極と陽極との間に少なくとも発光層を含む有機層を挟持してなる表示素子において、発光層がホスト材料とゲスト材料とを含有すると共に、発光層の厚み方向に沿って、ゲスト材料の含有量が相対的に多い高濃度層領域とゲスト材料の含有量が相対的に低い低濃度層領域とが交互に存在していることにより、発光層の厚み方向に沿って正孔と電子との再結合領域が複数設けられるようにしたものである。
【0029】
本発明の表示素子では、発光層の厚み方向に沿って上記高濃度層領域と上記低濃度層領域とが交互に存在していることにより、この発光層の厚み方向に沿って、正孔と電子との再結合領域が複数設けられる。
ここで、従来の構成において、例えば、電子輸送性のホスト(主たる発光材料)中に、正孔輸送性のゲスト(添加される発光材料)を均一に添加した発光層では、陰極側から供給された電子が陽極側に素早く移動し、発光層の陽極側の界面付近において電子と正孔とが再結合する。しかし、実際の発光層は20〜50nm或いはそれ以上の厚さがあり、再結合領域で生成したエキシトンの拡散長もせいぜい20nm以下であるので、発光層の全体を発光領域として有効に利用していないことになる。
これに対して本発明の表示素子では、例えばホスト材料を電子輸送性のものとすると共にゲスト材料を正孔輸送性のものとした場合、高濃度領域では正孔の移動度が高くなるため、この高濃度領域の陰極側の界面付近にまで正孔が素早く到達する。このため、この陰極側の界面付近も、正孔と電子との再結合領域となる。したがって、発光層の内部にある程度の幅の再結合領域が設けられることになり、しかもこの再結合領域の位置と幅は、ゲスト材料の添加状態によって任意にコントロールすることもできるため、発光層内の広い範囲が発光領域として有効に利用されるようになる。
また、上記高濃度層領域と上記低濃度層領域とが交互に存在しているため、陰極側から陽極側にかけて、ゲスト材料の添加量の減少と増加とが繰り返されることになり、輝度の低下を抑え、長寿命に効果的である。
更に、上記した再結合領域が発光層の厚み方向に沿って複数設けられるため、陰極側から供給された電子が発光層内において正孔と再結合する際に、再結合領域が局在しない確率が高くなる。
【0030】
また、本発明の表示素子では、ホスト材料と共にゲスト材料がキャリア輸送性を備えている場合、特にゲスト材料のキャリア輸送性がホスト材料と逆導電型であれば、その効果は更に顕著になる。
【0031】
本発明の表示素子では、発光層中のゲスト材料の含有量が、発光層の厚み方向に沿って連続的に変化しているようにするのが好ましい。このように構成した場合、上述した高濃度領域から低濃度領域への移行が連続的であるため、上述した界面がある程度の幅を持った界面領域となり、上述の再結合領域も、ある程度の幅を備えた領域となる。したがって、発光層内のより広い範囲が発光領域として有効に利用されるようになる。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の表示素子および表示装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0035】
図1は、本発明の表示素子の一構成例を示す断面図である。これらの図に示す表示素子11は、基板12上に形成されており、基板12上に設けられた陽極13、この陽極13上に設けられた有機層14、およびこの有機層14上に設けられた陰極15を備えている。以下の説明においては、陽極13から注入された正孔と陰極15から注入された電子とが電子輸送性の発光層14cで結合する際に生じた発光を、基板2と反対側の陰極15側から取り出す上面発光方式の表示素子の構成を説明する。
【0036】
先ず、表示素子11が設けられる基板12は、ガラスのような透明基板や、シリコン基板、さらにはフィルム状のフレキシブル基板等の中から適宜選択して用いられることとする。また、この表示素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、基板12として、画素毎にTFTを設けてなるTFT基板が用いられる。この場合、この表示装置は、上面発光方式の表示素子をTFTを用いて駆動する、いわゆるTAC(Top Emitting Adoptive Current drive)構造となる。
【0037】
そして、この基板12上に下部電極として設けられる陽極13は、例えばITOのような透明電極材料用い、両側取りだし素子を構成しても良く、この場合に陰極は、スパッタリング法等によって形成されている。
【0038】
また、この陽極13は、ITOの他にも、効率良く正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいもの、例えばクロム(Cr)、金(Au)、酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金、さらにはこれらの金属や合金の酸化物等を、単独または混在させた状態で用いることができる。
【0039】
尚、この表示素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陽極13は、TFTが設けられている画素毎にパターニングされていることとする。そして、陽極13の上層には、ここでの図示を省略した絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から、各画素の陽極13表面を露出させていることとする。
【0040】
また、有機層14は、陽極13側から順に、正孔注入層14a、正孔輸送層14bおよび電子輸送性の発光層(発光層)14cを積層してなる。これらの各層は、例えば真空蒸着法や、例えばスピンコート法などの他の方法によって形成される。各層を構成する材料に特に限定条件はないが、例えば正孔輸送層14bであるならば、ベンジジン誘導体、スチリルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ヒドラゾン誘導体などの正孔輸送材料を用いることができる。
【0041】
そして、本発明においては、特に、上述した有機層14を構成する層のうちの発光層14cが、主たる発光材料である第1の発光材料(ホスト材料)に発光中心となる第2の発光材料(ゲスト材料)が添加されたホスト−ゲスト系の発光層14cであり、陽極13側から陰極15側(膜厚方向)に掛けてゲストの添加量が連続的に変化していることを特徴としている。
【0042】
これらのホストとゲストとは、例えば、逆導電形のキャリア輸送性を備えており、ホストが電子輸送性である場合にはゲストは正孔輸送性が電子輸送性に比べて相対的に強い材料であり、ホストが正孔輸送性である場合にはゲストは電子輸送性が相対的に正孔輸送性に比べて強い性質であることとする。
【0043】
また、これらのホスト材料およびゲスト材料には、特に限定条件はなく発光層に要求される発光色によって適する材料が選択されることとし、例えばベリレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン系色素、トリフェニルアミン誘導体等の有機物質が用いられる。ただし、ゲスト材料としては、例えば正孔輸送性を有するゲストであれば、正孔輸送の特徴を持つ三級アミンを分子構造中に有する材料で有れば、分子間相互作用が小さく、濃度消光しにくい特徴を有するものであれば、ホスト中への高濃度での添加が可能になり、本発明には最適なゲストの1つとして機能する。
【0044】
さらに、発光層14c内におけるゲストの添加状態は、例えば図1(2)に示すように、陽極13側の界面から膜厚方向に、添加量が減少し、ついで増加し、ついで減少し、…と減少と増加とが繰り返されている。また、これとは逆に、陽極13側の界面から膜厚方向に、ゲストの添加量が徐々に増加し、ついで減少し、ついで増加し、と増加と減少とが繰り返されていても良い。
【0045】
そして、ゲストのキャリア輸送性が正孔輸送性である場合には、最も陽極13に近い部分を、相対的にゲストの添加量を多くした高濃度領域とし、陰極15側に向かって徐々に減少させていくことが好ましい。これに対して、ゲストのキャリア輸送性が電子輸送性である場合には、最も陰極15に近い部分を、相対的にゲストの添加量を多くした高濃度領域とし、陽極13側に向かって徐々に減少させていくことが好ましい。
【0046】
以上のような構成の発光層14cは、例えば図2に示すような、ライン状のホスト蒸着源21とゲスト蒸着源22とを並列に並べた蒸着装置を用いた共蒸着によって形成される。この蒸着装置においては、蒸着源21,22上に配置した基板12を、図中矢印に示す蒸着源21の配列方向にスイープさせることで、ホストとゲストの量を連続的に変化させた発光層を形成することができる。このため、例えば、最もゲスト蒸着源22側の基板位置Aから、最もホスト蒸着源21側の基板位置Bに向かって基板12を移動させることで、図3に示すように、ゲストの添加量が減少するように発光層14cの蒸着が行われるのである。そして、基板12を往復してスイープさせることで、ゲストの添加量の増加と減少が膜厚方向に連続的に繰り返された発光層14cが形成される。
【0047】
尚、以上説明した有機層14は、上述した構成の発光層14cを有する構成であれば、このような層構造に限定されることはなく必要に応じた積層構造を選択することができる。例えば、発光層14cと陰極15との間にさらに電子輸送層を設けた構成であっても良い。また、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bは、それぞれが複数層からなる積層構造であっても良い。
【0048】
次に、陰極15は、例えば有機層14側から順に第1層15a、第2層15b、場合によっては第3層15cを積層させた3層構造で構成されている。
【0049】
第1層15aは、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料として、例えばリチウム(Li)の酸化物であるLi2Oや、セシウム(Cs)の酸化物であるCs2O、さらにはこれらの酸化物の混合物を用いることができる。また、第1層15aはこのような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム(Li),セシウム(Cs)等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属のフッ化物、酸化物等を、単体でまたはこれらの金属およびフッ化物、酸化物の混合物や合金として安定性を高めて使用しても良い。
【0050】
また、第2層15bは、MgAg等のアルカリ土類金属で構成される電極或いはAl等の電極で構成される。そして、TAC構造の様に半透過性電極でカソードを構成する場合には、薄膜のMgAg電極やCa電極を用いることで光を取り出すことが可能である。光透過性を有しかつ導電性が良好な材料で構成することで、この表示装置が、特に有機層14での発光光を共振させて取り出すキャビティ構造で構成されるTACの場合には、例えばMg−Agのような半透過性反射材料を用いて第2層15bを構成する。これにより、この第2層15bの界面と、光反射性を有する陽極13の界面で発光光を反射させてキャビティ効果を得る。
【0051】
そして、第3層15cを設ける場合には、例えばMgAgのような光透過性の良好な材料が用いられる。尚、この表示素子が発光光を基板12側から光を取り出すBottomエミッション(すなわち透過型)の場合には、AuGeやAu、Pt等の封止電極を付けても良い。
【0052】
尚、以上の第1層15aおよび第2層15b、さらに第3層15cは、真空蒸着法、スパッタリング法、さらにはプラズマCVD法などの手法によって形成される。また、この表示素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極15は、ここでの図示を省略した上述の絶縁膜と有機層14とによって、陽極13と絶縁された状態で基板12上にベタ膜状で形成され、各画素に共通電極として用いられる。
【0053】
もちろん、ここに示した陰極15の構造は3層構造であるが、電極各層の機能分離を行った際に必要な積層構造であれば良く、第2層のみで構成したり、第1層形成後にITOなどの透明電極を形成したりすることも可能であり、作製される表示素子に最適な組み合わせ、積層構造を取れば良いことは言うまでもない。
【0054】
また、このような表示素子11を基板12上に配列形成してなる表示装置は、陽極13と陰極15とに、各表示素子11を発光させるための走査線と信号線とを接続させている。例えば、この表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、上部電極である陰極15を共通電極として、TFTを介して陽極13に走査線と信号線とを接続させている。一方、この表示装置がパッシブ方式で有る場合、陰極15または陽極13の一方が信号線として構成され他方が走査線として構成される。
【0055】
そして、このような表示素子11においては、表示素子11が配列された表示領域を覆う封止缶と基板12との間に表示素子11が封止された状態、または基板12と対向基板との間に充填された樹脂中に表示素子11封止された状態とすることで、表示素子11を構成する有機材料の劣化を防止している。尚、この表示装置が、基板12と反対側から発光光を取り出すものである場合、光透過性の対向基板と基板12との間に光透過性の樹脂を充填して表示素子11を封止する構成とすることが好ましい。
【0056】
以上説明した構成の表示素子11および表示装置においては、表示素子11の発光層14cが、ホスト(第1の発光材料)に対するゲスト(第2の発光材料)の添加量を陽極13側から陰極15側にかけて連続的に変化させた構成となっている。このため、例えば電子輸送性のホストと正孔輸送性のゲストを用いた場合、陰極15側から陽極13側に掛けて、正孔輸送性のゲストの添加量が相対的に高い高濃度領域と、これよりも低い低濃度領域とが発光層14c内に積層されることになる。このうち、高濃度領域では正孔の移動度が高くなるため、当該高濃度領域の陰極15側の界面付近にまで正孔が素早く到達する。このため、当該界面付近も、正孔と電子との再結合領域aとなる。ここで、特に上述した構成の表示素子11では、ゲストの添加量は、陰極15側から陽極13側にかけて連続的に変化しているため、上述した高濃度領域から低濃度領域への移行は連続的であり、これらの界面はある程度の幅を持った界面領域となる。このため、上述の再結合領域aも、ある程度の幅を備えた領域となる。
【0057】
そして、この再結合領域aの位置および幅は、ゲストの添加状態によって任意にコントロールすることもできる。例えば、ゲストのキャリア輸送性が正孔輸送性である場合には最も陽極13に近い部分におけるゲストの添加量を高くして陰極15側に向けて添加量を減少させていくことで、発光層14cの内部に再結合領域aを設けることが可能になる。そして、この部分におけるゲストの減少量により再結合領域aの幅がコントロールされる。
【0058】
これにより、発光層14c内のより広い範囲が発光領域として有効に利用されるようになる。この結果、有機層14内の局所的な劣化による定常的な劣化の速度を小さく抑えることが可能となり、表示素子の寿命特性の向上を図ることが可能になる。
【0059】
さらにゲストの添加量が陰極15側から陽極13側にかけて減少と増加とが繰り返されている場合であれば、上述した再結合領域aが発光層14c内に複数設けられることになる。このため、陰極15側から供給された電子が発光層14c内において正孔と再結合する確率が高くなる。したがって、さらに発光層14c内のより広い範囲が発光領域として有効に利用され、さらなる寿命特性の向上が図られると共に、表示素子11の発光効率が高められるため、発光寄与しない電子や正孔が発光層14cの界面に到達して発光層14cの外側に拡散することが防止される。これにより、発光層14cに接する他の有機層においての発光が防止され、目的発光色のみの発光が可能になる。
【0060】
さらに、以上の構成は、ホスト−ゲスト系の発光層14c内におけるゲストの添加量を変化させるだけでよいため、表示素子11の構造を従来構造から大きく変更させる必要もない。
【0061】
尚、以上説明した構成の表示素子および表示装置は、本発明のあくまでも一例であり、本発明はこのような構成に限定されることはない。
【0062】
例えば、以上の実施形態においては、TFT基板を用いたアクティブマトリックス方式の表示装置に用いる表示素子に限定されることはなく、パッシブ方式の表示装置に用いる表示素子としても適用可能であり、同様の効果(寿命特性の向上)を得ることができる。
【0063】
また、以上の実施形態においては、基板1と反対側に設けた陰極15側から発光光を取り出す「上面発光型」の場合を説明した。しかし本発明は、基板12を透明材料で構成することで、発光光を基板12側から取り出す「透過型」の表示素子にも適用される。この場合、図1を用いて説明した積層構造を、基板12側から逆に積み上げた構成にする。さらにこの場合、上部電極となる陽極を透明材料で構成することで、基板12と反対側から発光光を取り出すことも可能になる。
【0064】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例1〜3、及びこれらの実施例に対する比較例1,2の表示素子の製造手順を説明し、その後これらの評価結果を説明する。尚、各実施例1〜3および比較例1,2では、上述した実施の形態中、図1を用いて説明した構成の表示素子11において、発光層14cをそれぞれの積層構造で形成し、さらに各発光層14c上に電子輸送層を設けた有機層構造の表示素子を製造した。
【0065】
<製造手順>
30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、陽極13としてCr(膜厚約100nm)を形成し、さらにSiO2蒸着により2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜(図示省略)でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。
【0066】
次に、真空蒸着法により、正孔注入層14aとして下記式(1)に示す2−TNATA[4,4',4"-tris(2-naphtylphenylamino)triphenylamine]を15nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。
【化1】
【0067】
次いで、正孔輸送層14bとして下記式(2)に示すα−NPD(α-naphtyl phenil diamine)を15nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。
【化2】
【0068】
その後、発光層14cとして、各層構造の発光層14cを形成した。各発光層14cの構造は、実施例1〜3においては、ホストに対するゲストの添加量をそれぞれの状態で変化させた構造とし、比較例1,2では、ホストに対するゲストの添加量が均一な構造とした。尚、各発光層14cにおいて、ホストには電子輸送性を有する下記式(3)に示すアントラセンジナフチル(ADNと記す)を用い、ゲストには正孔輸送性を有するジスチリルアミン誘導体(DSA誘導体と記す)を用いた。
【化3】
【0069】
図4には、発光層14cにおいてのホストに対するゲストの膜厚方向の添加量を示す。実施例1では、図4(1)に示す様に、陽極側の界面である膜厚0nm〜16nmにかけて、ゲストの添加量を12.5%から7.5%まで減少させ、膜厚16nm〜32nm(陰極側の界面)にかけて、ゲストの添加量を12.5%にまで増加させた。実施例2では、図4(2)に示す様に、陽極側の界面である膜厚0nm〜8nmにかけてゲストの添加量を12.5%から7.5%まで減少させ、膜厚8nm〜16nmにかけてゲストの添加量を12.5%にまで増加させ、膜厚16nm〜24nmにかけてゲストの添加量を7.5%まで減少させ、膜厚24nm〜32nm(陰極側の界面)にかけてゲストの添加量を12.5%にまで増加させた。実施例3では、図4(3)に示す様に、実施例2と逆にゲストの添加量を操作した。
【0070】
これに対して、比較例1では、ホストに対するゲストの添加量を7.5%の均一な値に保ち、比較例2ではホストに対するゲストの添加量を12.5%の均一な値に保った発光層を形成した。
【0071】
その後、各発光層14c上に、図1では図示されていない電子輸送層として、下記式(4)に示すAlq3(8-hydroxy quinorine alminum)を18nmの膜厚で蒸着形成した。
【化4】
【0072】
以上のようにして、正孔注入層14a、正孔輸送層14b、電子輸送性の発光層14c、および電子輸送層を順次積層してなる有機層14を形成した後、陰極15の第1層15aとして、LiFを真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度〜0.01nm/sec)形成した。次いで、第2層15bとしてMgAgを真空蒸着法により10nm形成し、2層構造の陰極15を形成した。
【0073】
<評価結果>
図5には、実施例2および比較例1,2の各表示素子の輝度の経時変化(0〜70時間)を、それぞれの表示素子における初期の輝度を1とした相対輝度として示した。駆動条件は53mA/cm2の定電流駆動でそれぞれの表示素子の駆動を行った。
【0074】
また、図6には、実施例2および比較例1,2の各表示素子の駆動電圧(Voltage)の経時変化(0〜70時間)を示した。ここでは、所定の輝度が得られるように各表示素子を駆動させる場合に必要とした電圧を駆動電圧として示した。
【0075】
尚、以上の評価における実施例1,3の結果は、実施例2とほぼ同様であるため、これらの代表として実施例2の結果を図5、図6に示した。
【0076】
図5から明らかなように、本発明を用いた実施例2の表示素子では、比較例1,2の表示素子と比較して、初期の劣化が抑制され、また、その後の定常的な劣化も抑制され、長時間の安定した輝度での発光が可能であることが確認された。
【0077】
また、図6から明らかなように、本発明を用いた実施例2の表示素子では、比較例1,2の表示素子と比較して、駆動電圧の低下をさせることが可能で有ることが確認された。そして、このとき作製された実施例1〜3及び比較例1,2の表示素子の発光効率(Luminous Efficiency:cd/A)はほぼ同一であったことから、さらに長時間の駆動においての寿命特性の改善が期待できる。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の表示素子によれば、表示素子の陰極と陽極との間に少なくともホスト−ゲスト系の発光層を含む有機層を挟持してなる表示素子において、発光層の厚み方向に沿って上記高濃度層領域と上記低濃度層領域とが交互に存在していることにより、この発光層の厚み方向に沿って正孔と電子との再結合領域が複数設けられるようにしたので、従来の素子構造から大きな素子構造の変更をすることなく、表示素子の初期劣化およびその後の定常的な劣化の速度を小さく抑えることが可能で、これにより長時間の安定した発光が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表示素子の一構成例を示す断面図である。
【図2】本発明の表示素子の製造に好適に用いられる蒸着装置の概略構成図である。
【図3】図2の蒸着装置によるゲストの添加量の推移を示すグラフである。
【図4】実施例および比較例における発光層中のゲストの添加量を示すグラフである。
【図5】実施例および比較例における表示素子の相対輝度の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例および比較例における表示素子の駆動電圧の経時変化を示すグラフである。
【図7】従来の表示素子の一構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
11…表示素子、13…陽極、14…有機層、14c…発光層、15…陰極
Claims (4)
- 陰極と陽極との間に、少なくとも発光層を含む有機層を挟持してなる表示素子において、
前記発光層は、ホスト材料とゲスト材料とを含有し、
前記発光層の厚み方向に沿って、前記ゲスト材料の含有量が相対的に多い高濃度層領域と、前記ゲスト材料の含有量が相対的に低い低濃度層領域とが交互に存在していることにより、前記発光層の厚み方向に沿って、正孔と電子との再結合領域が複数設けられる
表示素子。 - 請求項1記載の表示素子において、
前記発光層中の前記ゲスト材料の含有量が、前記発光層の厚み方向に沿って連続的に変化している
表示素子。 - 請求項1または請求項2記載の表示素子において、
前記ホスト材料は電子輸送性を備え、
前記ゲスト材料は正孔輸送性を備え、
前記発光層における前記陽極に最も近い部分が、前記高濃度層領域となっている
表示素子。 - 請求項1または請求項2記載の表示素子において、
前記ホスト材料は正孔輸送性を備え、
前記ゲスト材料は電子輸送性を備え、
前記発光層における前記陰極に最も近い部分が、前記高濃度層領域となっている
表示素子。
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