JP4856636B2 - 新規なβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素、それをコードする遺伝子およびその製造方法 - Google Patents

新規なβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素、それをコードする遺伝子およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、新規なβ‐ガラクトシド‐α2,3‐シアル酸転移酵素、当該酵素をコードする遺伝子、当該酵素を生産する微生物および当該酵素の製造方法に関する。
糖転移酵素は、生体内において糖タンパク質や糖脂質等の糖鎖の生合成に関与する酵素である。そしてその反応生成物である糖タンパク質や糖脂質等の糖鎖(以下、複合糖質糖鎖)は、生体内において非常に重要な機能を有している。例えば、糖鎖は、主に哺乳類細胞において、分化や発生における細胞間および細胞−細胞外マトリックス間のシグナル伝達や複合糖質のタグとして機能する重要な分子であることなどが明らかにされている。
上記のとおり、糖鎖は非常に重要な機能を有しているが、これを応用した具体例として、エリスロポエチンが挙げられる。エリスロポエチンは本来糖タンパク質であるが、糖鎖の数を増加させ、その寿命を向上させた組換えエリスロポエチンタンパク質が作製され、現在市販されている。
今後もこのように糖鎖を応用した医薬品、機能性食品等の開発が想定される。そのため、糖鎖を合成・生産する手段としての糖転移酵素の重要性が増大している。
これまでに約150種類以上の糖転移酵素遺伝子がヒト、マウス、ラットおよび酵母等の真核生物から単離されており、さらにCHO細胞や大腸菌等を宿主細胞とする生産系で糖転移酵素活性を有するタンパク質が発現されている。一方、原核生物である細菌からも、いくつかの糖転移酵素遺伝子が単離されており、さらに大腸菌を用いる組換え生産系で糖転移酵素活性を有するタンパク質が発現され、それらの基質特性や酵素化学的な諸性質が明らかにされている。
糖鎖を構成する糖の中でも、非還元末端に存在することの多いシアル酸は、糖鎖機能という観点から極めて重要な糖であり、従って、シアル酸転移酵素は、現在重要性が増している糖転移酵素の中で最も需要が高い酵素の一つである。
α2,3−シアル酸転移酵素およびその遺伝子に関しては、動物、特に哺乳類由来のものが多く報告されている(例えば、Harduin-Lepers, A. et al., Biochem J., 15;352 Pt 1:37-48 (2000);Young-Choon Lee et al., J. Biol. Chem., 23;274(17):11958-67 (1999);Lee, Y-C. et al., J. Biochem., 216, 377-385 (1993);Chang, M-L. et al., Glycobiology, 5, 319-325 (1995);Gillespie, W. et al., J. Biol. Chem., 267, 21004-21010 (1992)を参照)。しかし、これらの動物由来の酵素は精製が困難で大量に得られないため非常に高価であり、さらに酵素としての安定性が悪いという問題を有している。
これに対し、微生物由来のα2,3−シアル酸転移酵素およびその遺伝子としては、ナイセリア属、キャンピロバクター属、ヘモフィラス属およびパスツレラ属に属する微生物から取得されたものが報告されている(例えば、WO97/047749、WO99/049051、WO01/077314、WO03/027297を参照)。しかし、ビブリオ科に属する微生物から取得されたという報告はなく、また、ビブリオ科に属する微生物にα2,3-シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質が存在するという報告もない。
国際公開第WO97/047749A号パンフレット 国際公開第WO99/049051A号パンフレット 国際公開第WO01/077314A号パンフレット 国際公開第WO03/027297A号パンフレット Harduin-Lepers, A. et al., Biochem. J., 15;352 Pt 1:37-48 (2000) Young-Choon Lee et al., J. Biol. Chem., 23;274(17):11958-67 (1999) Lee, Y-C. et al., J. Biochem., 216, 377-385 (1993) Chang, M-L. et al., Glycobiology, 5, 319-325 (1995) Gillespie, W. et al., J. Biol. Chem., 267, 21004-21010 (1992)
本発明の課題は、ビブリオ科の微生物に由来する新規なβ‐ガラクトシド‐α2,3‐シアル酸転移酵素、およびそれをコードする遺伝子を提供することである。また、本発明の課題は、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素をコードする遺伝子を利用して遺伝子組換え技術により本酵素を高生産する方法を提供することである。
本発明者らは鋭意研究に努めた結果、ビブリオ科(Vibrionaceae)に属する微生物がシアル酸を糖鎖中のガラクトース残基、グルコース残基、マンノース残基、フコース残基、N−アセチルグルコサミン残基もしくはN−アセチルガラクトサミン残基にα2,3結合で転移させる新規な酵素を生産することを見出し、本発明を完成させた。本発明は、新規なβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素およびそれをコードする核酸、ならびに、当該シアル酸転移酵素を製造する方法を提供する。
以下、本発明を詳細に説明する。
β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素
本発明は、新規なβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を提供する。本明細書において、「β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素」とは、シチジン1リン酸(CMP)−シアル酸からシアル酸を、複合糖質糖鎖もしくは遊離の糖鎖中のガラクトース残基の3位、ラクトースもしくはN−アセチルラクトサミンなどのオリゴ糖に存在するガラクトースの3位、またはガラクトース、グルコース、マンノース、フコース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミンなどの複合糖質を構成しうる単糖であって3位の炭素に水酸基を有する単糖の3位、に転移させる活性を有するタンパク質を意味する。本明細書において、「β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性」とは、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素について上述した活性を意味する。また、ここでいうシアル酸とは、シアル酸ファミリーに属するノイラミン酸誘導体を示す。具体的には、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N−グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)、5−デアミノ−5−ヒドロキシノイラミン酸(KDN)、ジシアル酸などを示す。
本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は、配列番号2、配列番号29または配列番号31のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質である。また、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は、配列番号1、配列番号28または配列番号30の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質である。
本発明の配列番号2のアミノ酸配列を含んでなる、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素において、配列番号2のアミノ酸1−21はシグナル配列である。したがって、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は、配列番号2のアミノ酸22−409のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であってもよい。また、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は、配列番号1の塩基64−1230の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質であってもよい。
本発明の配列番号29のアミノ酸配列を含んでなる、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素において、配列番号29のアミノ酸1−24はシグナル配列であると想定される。したがって、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は、配列番号29のアミノ酸25−409のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であってもよい。また、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は、配列番号28の塩基73−1230の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質であってもよい。
本発明の配列番号31のアミノ酸配列を含んでなる、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素において、配列番号31のアミノ酸1−22はシグナル配列であると想定される。したがって、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は、配列番号31のアミノ酸23−402のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であってもよい。また、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は、配列番号30の塩基67−1209の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質であってもよい。
本発明はまた、上記の本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の変異体であって、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有する変異タンパク質をも包含する。このような変異タンパク質もまた、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素に含まれる。
本発明の変異体タンパク質は、配列番号2、配列番号2のアミノ酸22−409、配列番号29、配列番号29のアミノ酸25−409、配列番号31、および、配列番号31のアミノ酸23−402からなる群より選択されるアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加を含むアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質であってもよい。置換は、保存的置換であってもよく、これは、特定のアミノ酸残基を類似の物理化学的特徴を有する残基で置き換えることである。保存的置換の非限定的な例には、Ile、Val、LeuまたはAla相互の置換のような脂肪族基含有アミノ酸残基の間の置換、LysおよびArg、GluおよびAsp、GlnおよびAsn相互の置換のような極性残基の間での置換などが含まれる。
アミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加による変異体は、野生型タンパク質をコードするDNAに、例えば周知技術である部位特異的変異誘発(例えば、Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, p.6487-6500, 1982参照、引用によりその全体を本明細書に援用する)を施すことにより作成することができる。本明細書において、「1または複数のアミノ酸」とは、部位特異的変異誘発法により欠失、置換、挿入および/または付加できる程度のアミノ酸を意味する。
部位特異的変異誘発法は、例えば、所望の変異である特定の不一致の他は、変異を受けるべき一本鎖ファージDNAに相補的な合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて次のように行うことができる。即ち、プライマーとして上記合成オリゴヌクレオチドを用いてファージに相補的な鎖を合成させ、得られた二重鎖DNAで宿主細胞を形質転換する。形質転換された細菌の培養物を寒天にプレーティングし、ファージを含有する単一細胞からプラークを形成させる。そうすると、理論的には50%の新コロニーが一本鎖として変異を有するファージを含有し、残りの50%が元の配列を有する。上記所望の変異を有するDNAと完全に一致するものとはハイブリダイズするが、元の鎖を有するものとはハイブリダイズしない温度において、得られたプラークをキナーゼ処理により標識した合成プローブとハイブリダイズさせる。次に該プローブとハイブリダイズするプラークを拾い、培養してDNAを回収する。
なお、酵素などの生物活性ペプチドのアミノ酸配列にその活性を保持しつつ1または複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加を施す方法としては、上記の部位特異的変異誘発の他にも、遺伝子を変異源で処理する方法、および遺伝子を選択的に開裂し、次に選択されたヌクレオチドを除去、置換、挿入または付加し、次いで連結する方法もある。
本発明の変異体タンパク質はまた、配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件または高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含む核酸によってコードされるタンパク質であって、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質であってもよい。
ここで、ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件としては、0.5M リン酸ナトリウム pH7.2、1mM EDTA、7%SDS、1%BSA中で55℃でハイブリダイゼーションさせた後、40mM リン酸ナトリウムバッファー pH7.2、1mM EDTA、5%SDS、0.5%BSA中で55℃、15分を2回、40mM リン酸ナトリウムバッファー pH7.2、1mM EDTA、1%SDS中で55℃、15分を2回、洗浄操作を行うという条件、あるいはMolecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版、第1巻、1.101-104頁、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)(引用によりその全体を本明細書に援用する)等に記載されているように、30% 脱イオン化ホルムアミド、0.6M NaCl、40mM リン酸ナトリウム pH7.4、2.5mM EDTA、1%SDS中で42℃で、ハイブリダイゼーションさせた後、2XSSC、0.1%SDS、中で室温で10分を2回、さらに同じバッファー中で55℃で1時間洗浄操作を行うという条件が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、高度にストリンジェントな条件におけるハイブリダイゼーションとして、例えば、Molecular Cloning(同上)等に記載されている、0.5M リン酸ナトリウム pH7.2、1mM EDTA、7%SDS、1%BSA中で65℃でハイブリダイゼーションさせた後、40mM リン酸ナトリウムバッファー pH7.2、1mM EDTA、5%SDS、0.5%BSA中で65℃、40mM リン酸ナトリウムバッファー pH7.2、1mM EDTA、1%SDS中で65℃、洗浄操作を行うという条件が挙げられる。
本発明の変異体タンパク質はさらに、配列番号2、配列番号2のアミノ酸22−409、配列番号29、配列番号29のアミノ酸25−409、配列番号31、および、配列番号31のアミノ酸23−402からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上、好ましくは65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上、より好ましくは99.5%以上のアミノ酸相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質であってもよい。
または、本発明の変異体タンパク質は、配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列と、少なくとも60%以上、好ましくは65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上、より好ましくは99.5%以上の相同性を有する核酸によってコードされるタンパク質であって、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質であってもよい。
ここで、アミノ酸配列または核酸塩基配列の相同性%は、視覚的検査および数学的計算によって決定可能である。例えば、2つのアミノ酸配列の相同性%は、遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7(ゼネティックス製)などのプログラム、または、FASTAアルゴリズムやBLASTアルゴリズムなどを用いて、配列情報を比較することによって決定することができる。
シアル酸転移酵素活性は、公知の手法、例えば、J. Biochem., 120, 104-110 (1996)(引用によりその全体を本明細書に援用する)に記載されている方法で測定してもよい。例えば、糖供与体基質としてCMP−NeuAc(N−アセチルノイラミン酸)を、そして糖受容体基質としてラクトースを用いて酵素反応を行い、反応生成物であるシアリルラクトースの量を評価することで酵素活性を評価することができる。
糖受容体基質に転移したシアル酸の結合様式の決定方法としては、限定するわけではないが、ピリジルアミノ化糖鎖を用いる手法、反応生成物の核磁気共鳴分光法(NMR)による分析など、当業者に公知の手法のいずれかを用いて行うことができる。ピリジルアミノ化糖鎖を用いる手法は、ピリジルアミノ化糖鎖を糖受容体基質として酵素反応を行うことを含む。具体的には、ピリジルアミノ化ラクトース(Galβ1−4Glc−PA、タカラバイオ製)を糖受容体基質、CMP−NeuAcを糖供与体基質として用いて酵素反応を行い、反応生成物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析にかけ、反応生成物の保持時間からシアル酸が転移された位置を特定する。
本発明の一態様において本発明の酵素は、ビブリオ科に属する微生物由来、好ましくはビブリオ属(Vibrio spp.)に属する微生物由来、または、好ましくはフォトバクテリウム属(Photobacterium spp.)に属する微生物由来、さらに好ましくは、フォトバクテリウム・フォスフォレウム種(Photobacterium phosphoreum)に属する微生物由来の酵素である。
本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の酵素学的性質および理化学的性質は、上記に定義したβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有することを特徴とするほか、限定するわけではないが、至適pHが、pH5〜11、pH5〜10、pH5〜9、またはpH5〜7の範囲であり、至適温度が、5〜35℃、10〜35℃、20〜35℃、または20〜30℃であり、分子量がSDS−PAGE分析で42,000±3,000Da程度である。
β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素をコードする核酸
本発明は、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素をコードする核酸を提供する。
本発明の核酸は、配列番号2、配列番号2のアミノ酸22−409、配列番号29、配列番号29のアミノ酸25−409、配列番号31、および、配列番号31のアミノ酸23−402からなる群より選択されるアミノ酸配列を含んでなるタンパク質をコードする核酸である。本発明の核酸はまた、配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列を含んでなる核酸である。
本発明の核酸は、上記の核酸の変異体であって、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質をコードする核酸であってもよい。そのような核酸もまた、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素をコードする核酸に含まれる。
そのような核酸の変異体は、配列番号2、配列番号2のアミノ酸22−409、配列番号29、配列番号29のアミノ酸25−409、配列番号31、および、配列番号31のアミノ酸23−402からなる群より選択されるアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加を含むアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質、をコードする核酸である。
そのような核酸の変異体はまた、配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件、または高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含む核酸であって、該核酸はβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質をコードする、前記核酸である。ここで、ストリンジェントな条件または高度にストリンジェントな条件とは、上記で定義したとおりである。
そのような核酸の変異体はまた、配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列と、少なくとも60%以上、好ましくは65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上、より好ましくは99.5%以上の相同性を有する核酸であって、該核酸はβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質をコードする、前記核酸である。ここで、核酸塩基配列の相同性は、上記に示した方法で決定することができる。
そのような核酸の変異体はさらに、配列番号2、配列番号2のアミノ酸22−409、配列番号29、配列番号29のアミノ酸25−409、配列番号31、および、配列番号31のアミノ酸23−402からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上、好ましくは65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上、より好ましくは99.5%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質、をコードする核酸である。ここで、アミノ酸配列の相同性は、上記に示した方法で決定することができる。
β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を発現する微生物
本発明者らは、ビブリオ科に属する微生物が新規なβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を発現することを見いだした。よって本発明は、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を発現する微生物を提供する。本発明の微生物は、ビブリオ科に属し、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素生産能を有する微生物であり、好ましくはビブリオ属(Vibrio spp.)に属するもの、または、好ましくはフォトバクテリウム属(Photobacterium spp.)に属するもの、さらに好ましくは、フォトバクテリウム・フォスフォレウム(Photobacterium phosphoreum)に属するものである。β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素生産能を有するビブリオ科に属する微生物の例としては、フォトバクテリウム・フォスフォレウム JT−ISH−467株(寄託番号NITE BP−88)、フォトバクテリウム属 JT−ISH−224株(寄託番号NITE BP−87)、および、ビブリオ属 JT−FAJ−16株(寄託番号NITE BP−98)が挙げられる。なお、上記のビブリオ科の微生物は海洋性細菌であり、海水中または海産の魚介類から分離される。たとえば、本発明のフォトバクテリウム・フォスフォレウム JT−ISH−467株は石川県産のイカから、フォトバクテリウム属 JT−ISH−224株は石川県産のカマスから、そして、ビブリオ属 JT−FAJ−16株は福岡県産のアジから、それぞれ分離されたものである。
本発明の微生物は、例えば以下に説明するようなスクリーニング法を用いて分離することができる。海水、海砂、海泥あるいは海産魚介類を微生物源とする。海水、海砂、海泥はそのままもしくは滅菌海水で希釈し、接種源とする。海産魚介類は表面の粘液等をループで擦り採って接種源としたり、内臓器を滅菌海水中で磨砕した液を接種源とする。これらをマリンブロスアガー2216培地(ベクトン・ディッキンソン製)や塩化ナトリウム添加ニュートリエントアガー培地(ベクトン・ディッキンソン製)などの平板培地上に塗布し、様々な温度条件下で生育する海洋性微生物を取得する。常法に従い、得られた微生物を純粋培養した後、マリンブロス2216培地(ベクトン・ディッキンソン製)や塩化ナトリウム添加ニュートリエントブロス培地(ベクトン・ディッキンソン製)などの液体培地を用い、それぞれの微生物を培養する。微生物が十分生育した後に、培養液から菌体を遠心分離によって集める。集めた菌体に界面活性剤である0.2%トリトンX−100(関東化学製)を含む20mMカコジレート緩衝液(pH6.0)を添加し、菌体を懸濁する。この菌体懸濁液を氷冷下、超音波処理し細胞を破砕する。この細胞破砕液を酵素溶液として、常法にしたがってシアル酸転移活性を測定し、シアル酸転移活性を有する菌株を得ることができる。
本発明のフォトバクテリウム・フォスフォレウム JT−ISH−467株、フォトバクテリウム属 JT−ISH−224株、および、ビブリオ属 JT−FAJ−16株も上記のスクリーニング法を用いることで得られた。得られた上記の菌株の菌学的性質および生理学生化学的性質、ならびに16S rRNA遺伝子の塩基配列解析による種の同定については、実施例1に詳述する。
フォトバクテリウム フォスフォレウム(Photobacterium phosphoreum)JT−ISH−467株は2005年3月14日付でNITE BP−88として、フォトバクテリウム属(Photobacterium sp.)JT−ISH−224株は2005年3月11日付でNITE BP−87として、そして、ビブリオ属(Vibrio sp.)JT−FAJ−16株は2005年5月23日付でNITE BP−98として、いずれも独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD:National Institute of Technology and Evaluation, Patent Microorganisms Depositary;日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている。
β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を製造する方法
(1)β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を発現する微生物を培養することによる当該酵素の製造方法
本発明の一態様において、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素はビブリオ科に属する微生物由来であり、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素生産能を有する微生物を培地に培養し、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を生産させ、これを採取することによって得られる。
ここで用いる微生物としては、ビブリオ科に属し、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素生産能を有する微生物であれば、いずれの菌株でも用いることができる。ビブリオ科の微生物の中でも、ビブリオ属に属するものが好ましく、または、フォトバクテリウム属に属するものが好ましく、そしてフォトバクテリウム・フォスフォレウムに属するものがさらに好ましい。本発明の方法において用いる微生物の例としては、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株(寄託番号NITE BP−88)、フォトバクテリウム属(Photobacterium sp.)JT−ISH−224株(寄託番号NITE BP−87)、および、ビブリオ属(Vibrio sp.)JT−FAJ−16株(寄託番号NITE BP−98)が挙げられる。
上記微生物の培養に用いる培地としては、それらの微生物が利用し得る炭素源、窒素源、無機物等を含むものを用いる。炭素源としては、ペプトン、トリプトン、カゼイン分解物、肉エキス、ブドウ糖等が挙げられ、好ましくはペプトンを用いる。窒素源としては、酵母エキスを用いるのが好ましい。塩類としては、塩化ナトリウム、クエン酸鉄、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、臭化カリウム、塩化ストロンチウム、ほう酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、硝酸アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム等を適宜組み合わせて用いるのが好ましい。
また、上記成分を含んだマリンブロス2216培地(ベクトン・ディッキンソン製)を用いてもよい。さらには、上記塩類を適度に含む人工海水を用い、これにペプトン、酵母エキス等を添加した培地を用いてもよい。培養条件は培地の組成や菌株によって多少異なるが、例えば、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株を培養する場合、培養温度は10〜28℃、好ましくは20〜25℃、培養時間は8〜48時間、好ましくは16〜24時間である。
目的とする酵素は菌体内に存在するため、公知の菌体破砕法、例えば超音波破砕法、フレンチプレス破砕法、ガラスビーズ破砕法、ダイノミル破砕法などのいずれかの方法を行えばよく、その菌体破砕物から目的とする酵素を分離精製する。本発明の方法における好ましい菌体破砕法は超音波破砕法である。例えば、菌体破砕物から遠心分離により固形物を除去した後に、得られた菌体破砕液上清を市販の陰イオン交換カラム、陽イオン交換カラム、ゲル濾過カラム、ハイドロキシアパタイトカラム、CDP−ヘキサノールアミンアガロースカラム、CMP−ヘキサノールアミンアガロースカラム、疎水性カラム等のカラムクロマトグラフィーおよびネイティブ−PAGE等を適宜組み合わせて電気泳動的に単一バンドになるまで精製することができる。
なお、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は完全に精製してもよいが、部分精製品でも十分な活性を有するため、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は精製品であってもよく、または部分精製品であってもよい。
(2)組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を製造する方法
本発明は、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素をコードする核酸を含む発現ベクター、および当該発現ベクターを含有する宿主細胞を提供する。そして、本発明は、当該発現ベクターを含有する宿主細胞を、組換えタンパク質の発現に適する条件下で培養して、発現された組換えタンパク質を回収することにより組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質を製造する方法も提供する。
本発明の組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質を製造するためには、使用する宿主に応じて選ばれた発現ベクターに、哺乳動物、微生物、ウィルス、または昆虫遺伝子等から誘導された適当な転写または翻訳調節ヌクレオチド配列に機能可能に連結したβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素をコードする核酸配列を挿入する。調節配列の例として、転写プロモーター、オペレーター、またはエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位、ならびに、転写および翻訳の開始および終結を制御する適切な配列が挙げられる。
本発明のベクターに挿入されるβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素をコードする核酸配列は、配列番号1の塩基1−63、配列番号28の塩基1−72、または配列番号30の塩基1−66に相当するリーダー配列を含んでいても、含んでいなくてもよく、また、他の生物源由来のリーダー配列に置き換えてもよい。リーダー配列を置き換えることによって、発現したタンパク質を宿主細胞の外に分泌させるように発現システムを設計することも可能である。
また、本発明の組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質は、当該酵素をコードする核酸に続いて、Hisタグ、FLAGTMタグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼなどをコードする核酸を連結した核酸をベクターに挿入することにより、融合タンパク質として発現することも可能である。本発明の酵素をこのような融合タンパク質として発現させることにより、当該酵素の精製および検出を容易にすることができる。
β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質の発現に適する宿主細胞には、原核細胞、酵母または高等真核細胞が含まれる。細菌、真菌、酵母、および哺乳動物細胞宿主で用いる適切なクローニングおよび発現ベクターは、例えば、Pouwelsら、Cloning Vectors: A Laboratory Manual, Elsevier, New York, (1985)(引用によりその全体を本明細書に援用する)に記載されている。
原核生物には、グラム陰性またはグラム陽性菌、例えば、大腸菌または枯草菌が含まれる。大腸菌のような原核細胞を宿主として使用する場合、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質は、原核細胞内での組換えポリペプチドの発現を容易にするためにN末端メチオニン残基を含むようにしてもよい。このN末端メチオニンは、発現後に組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質から切り離すこともできる。
原核宿主細胞内で用いる発現ベクターは、一般に1または2以上の表現型選択可能マーカー遺伝子を含む。表現型選択可能マーカー遺伝子は、例えば、抗生物質耐性を付与するか、または独立栄養要求性を付与する遺伝子である。原核宿主細胞に適する発現ベクターの例には、pBR322(ATCC37017)のような市販のプラスミドまたはそれらから誘導されるものが含まれる。pBR322は、アンピシリンおよびテトラサイクリン耐性のための遺伝子を含有するので、形質転換細胞を同定するのが容易である。適切なプロモーターならびにβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素をコードする核酸のDNA配列が、このpBR322ベクター内に挿入される。他の市販のベクターには、例えば、pKK223−3(Pharmacia Fine Chemicals, スウェーデン、ウプサラ)およびpGEM1(Promega Biotech.、米国、ウイスコンシン州、マディソン)などが含まれる。
原核宿主細胞用の発現ベクターにおいて通常用いられるプロモーター配列には、tacプロモーター、β−ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)プロモーター、ラクトースプロモーター(Changら、Nature 275:615, 1978;およびGoeddelら、Nature 281:544, 1979、引用によりその全体を本明細書に援用する。)などが含まれる。
また、組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質を酵母宿主内で発現させてもよい。好ましくは、サッカロミセス属(Saccharomyces、例えば、S.cerevisiae )を用いるが、ピキア属(Pichia)またはクルイベロミセス属(Kluyveromyces)のような他の酵母の属を用いてもよい。酵母ベクターは、2μ酵母プラスミドからの複製起点の配列、自立複製配列(ARS)、プロモーター領域、ポリアデニル化のための配列、転写終結のための配列、および選択可能なマーカー遺伝子を含有することが多い。酵母α因子リーダー配列を用いて、組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質の分泌を行わせることもできる。酵母宿主からの組換えポリペプチドの分泌を促進するのに適する他のリーダー配列も知られている。酵母を形質転換する方法は、例えば、Hinnenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75: 1929-1933, 1978(引用によりその全体を本明細書に援用する)に記載されている。
哺乳動物または昆虫宿主細胞培養系を用いて、組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質を発現することもできる。哺乳動物起源の株化細胞系も用いることができる。哺乳動物宿主細胞発現ベクターのための転写および翻訳制御配列は、ウィルスゲノムから得ることができる。通常用いられるプロモーター配列およびエンハンサー配列は、ポリオーマウィルス、アデノウイルス2などから誘導される。SV40ウィルスゲノム、例えば、SV40起点、初期および後期プロモーター、エンハンサー、スプライス部位、およびポリアデニル化部位から誘導されるDNA配列を用いて、哺乳動物宿主細胞内での構造遺伝子配列の発現のための他の遺伝子要素を与えてもよい。哺乳動物宿主細胞内で用いるためのベクターは、例えば、OkayamaおよびBerg(Mol. Cell. Biol., 3: 280, 1983、引用によりその全体を本明細書に援用する)の方法で構築することができる。
本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質を産生する1つの方法は、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質をコードする核酸配列を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞を、当該タンパク質が発現する条件下で培養することを含む。次いで、用いた発現系に応じてβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質を培養培地または細胞抽出液から回収する。
組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質を精製する操作は、用いた宿主の型および本発明のタンパク質を培養培地中に分泌させるかどうかといった要因に従って適宜選択される。例えば、組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質を精製する操作には、陰イオン交換カラム、陽イオン交換カラム、ゲル濾過カラム、ハイドロキシアパタイトカラム、CDP−ヘキサノールアミンアガロースカラム、CMP−ヘキサノールアミンアガロースカラム、疎水性カラム等のカラムクロマトグラフィーおよびネイティブ−PAGE等、またはそれらの組み合わせが含まれる。また、組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素に精製を容易にするタグなどを融合させて発現させた場合には、アフィニティークロマトグラフィーによる精製方法を利用してもよい。例えば、ヒスチジンタグ、FLAGTMタグ、またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)などを融合させた場合には、それぞれ、Ni−NTA(ニトリロトリ酢酸)カラム、抗FLAG抗体を連結したカラム、またはグルタチオンを連結したカラム、などを用いてアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は電気泳動的に単一バンドになるまで精製してもよいが、部分精製品でも十分な活性を有するため、本発明のβ−ガラクトシド−2,3−シアル酸転移酵素は精製品であってもよく、または部分精製品であってもよい。
抗体
本発明は、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質に対する抗体を提供する。本発明の抗体は、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質、またはそのフラグメント、に対して作製してもよい。ここで、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素のフラグメントは、当該酵素のアミノ酸配列中、少なくとも6アミノ酸、少なくとも10アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、または少なくとも30アミノ酸を含む配列を有するフラグメントである。
抗体は、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素またはそのフラグメントを、当該技術分野において抗体作製のために用いられる動物、例えば、限定されるわけではないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギなどに免疫して作製してもよい。抗体はポリクローナル抗体であっても、またはモノクローナル抗体であってもよい。抗体は、当業者に周知の抗体作製方法に基づいて作製することができる。
本発明の抗体は、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質をアフィニティー精製により回収するのに用いることができる。本発明の抗体は、本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質を、ウエスタンブロッティングやELISAなどのアッセイにおいて検出するのに用いることもできる。
シアリル糖鎖の製造方法
一態様において、本発明は本発明のシアル酸転移酵素を利用したシアリル糖鎖の製造方法を提供する。本発明の方法は、シアリル糖鎖の製造方法であって、
(i)本発明のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素、糖供与体基質、および糖受容体基質を含む溶液を調製し;
(ii)当該溶液においてシアル酸転移反応を行い;そして
(iii)反応溶液から生成したシアリル糖鎖を得る;
ことを含んでなる、前記方法である。
本明細書においてシアリル糖鎖とは、シアル酸を有する糖鎖をいう。本発明の方法においては、本発明の酵素によるシアル酸転移反応より、糖供与体基質のシアル酸が糖受容体基質に転移し、シアリル糖鎖が得られる。
本発明の方法に使用可能な糖供与体基質は、本発明のシアル酸転移酵素によるシアル酸転移反応において糖供与体となりうる基質であれば特に限定されない。好ましい本発明の方法に使用可能な糖供与体基質はCMP−シアル酸であり、より好ましくはCMP−NeuAcである。
本発明の方法に使用可能な糖受容体基質は、特に限定されないが、ガラクトース残基、グルコース残基、マンノース残基、フコース残基、N−アセチルグルコサミン残基、もしくはN−アセチルガラクトサミン残基などを有する複合糖質糖鎖もしくはオリゴ糖、または、ガラクトース、グルコース、マンノース、フコース、N−アセチルグルコサミンもしくはN−アセチルガラクトサミンなどの単糖である。ここで、複合糖質とは、糖質を含む生体分子の総称で、糖タンパク質、プロテオグリカン、糖脂質が含まれる。本明細書において複合糖質糖鎖とは、糖タンパク質、プロテオグリカン、糖脂質などの複合糖質そのものを意味することもあるし、また、その糖鎖部分を意味することもある。また、オリゴ糖とは、2以上の単糖がグリコシド結合で連結された糖を意味する。オリゴ糖を構成する単糖の数には特に制限はない。また、単糖またはオリゴ糖の還元末端は、アルキル基、ピリジルアミノ基、ベンゾイル基、ベンジル基、パラニトロフェニル基、4−メチルウンベリフェリル基などで修飾されていてもよい。
本発明の方法において、本発明の酵素、糖供与体基質、および糖受容体基質を含む溶液は緩衝液であり、例えば、非限定的に、酢酸バッファー、カコジル酸バッファー、リン酸バッファー、TAPSバッファー、Bis−Trisバッファー、Trisバッファー、CHESバッファー、CAPSバッファー、MOPSバッファー、MESバッファー、ADAバッファー、PIPESバッファー、ACESバッファー、MOPSOバッファー、HEPESバッファー、などが含まれる。本発明の方法における、本発明の酵素、糖供与体基質、および糖受容体基質を含む溶液のpHは、本発明の酵素が酵素活性を有するpHであれば特に限定されないが、好ましくはpH5〜11、pH5〜10、pH5〜9、pH5〜7である。
本発明の方法において、シアル酸転移反応を行う温度は、本発明の酵素が酵素活性を有する温度であれば特に限定されないが、好ましくは、5〜35℃、10〜35℃、20〜35℃、20〜30℃の範囲で行うことができる。
本発明の方法における、反応溶液から生成したシアリル糖鎖を得る工程は、当業者に公知の複合糖質糖鎖、オリゴ糖を精製する手法を用いて行うことができる。例えば、クロマトグラムとしては、逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、活性炭クロマトグラフィー、シリカゲルクロマトグラフィーなど、またその他の手法としては、限外ろ過による糖鎖の分画・濃縮、糖鎖の結晶化など、もしくはそれらの組み合わせ、などが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明の酵素は、後述の実施例4、11、12および13に示すように、多くの種類の糖受容体基質にシアル酸をα2,3結合で転移することが可能である。本発明のシアリル糖鎖の製造方法により、一般的には基質特異性が高い公知のシアル酸転移酵素では製造できなかった糖鎖を容易に製造することが可能になる。特にα-ガラクトピラノシド、α-グルコピラノシド、α-マンノピラノシド、α-フコシノピラノシド、β-フコシノピラノシドなどといった糖に効率よくシアル酸を転移する活性を有する酵素は知られていないので、本発明の方法は、これらの糖にシアル酸が付加されたシアリル糖鎖の容易な製造方法を提供する。
本発明は、新規なβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素およびそれをコードする核酸を提供することにより、生体内において重要な機能を有することが明らかにされてきている糖鎖の合成・生産手段を提供するという観点において貢献する。特に、シアル酸は、生体内の複合糖質糖鎖において非還元末端に存在することが多く、糖鎖機能という観点から極めて重要な糖であるため、シアル酸転移酵素は糖転移酵素の中でも最も需要が高い酵素の一つであり、本発明の新規なシアル酸転移酵素の提供は、そのような高い需要に応えるものである。
図1−1は、JT−ISH−467株由来の組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の酵素活性の確認実験における、標品(失活させた粗酵素液、ピリジルアミノ化ラクトースおよびピリジルアミノ化α2,3−シアリルラクトース(ピリジルアミノ化3’−シアリルラクトース)の混合物)のHPLC分析結果を示す図である。 図1−2は、JT−ISH−467株由来の組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の酵素活性の確認実験のHPLC分析結果を示す図である。 図1−3は、JT−ISH−467株由来の組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の酵素活性の確認実験における、対照実験(糖供与体であるCMP−シアル酸を含まない反応液を使用した反応)のHPLC分析結果を示す図である。 図2は、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来、フォトバクテリウム属 JT−ISH−224株由来、およびビブリオ属 JT−FAJ−16株由来のα2,3−シアル酸転移酵素(それぞれ配列番号2、29、31)、フォトバクテリウム・ダムセラのα2,6−シアル酸転移酵素(JC5898)、ならびにパスツレラ・ムルトシダ亜種ムルトシダ株Pm70の仮定上のタンパク質PM0188(AAK02272)のアミノ酸配列間のアラインメントを示す図である。JT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素についての下線は精製タンパクから決定されたアミノ酸配列を示す。 図3−1は、JT−ISH−467株が生産したβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の酵素活性における反応pHの影響を示すグラフである。グラフ中の、黒四角、黒丸、黒三角、黒ひし形、白抜き四角、および白抜き丸のプロットはそれぞれ、酢酸バッファー、カコジル酸バッファー、リン酸バッファー、TAPSバッファー、CHESバッファーおよびCAPSバッファー中で測定した結果を示す。 図3−2は、組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の酵素活性における反応pHの影響を示すグラフである。図3−2aはJT−ISH−467株由来、図3−2bはJT−ISH−224株由来、および図3−2cはJT−FAJ−16株由来の組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素についての結果を示すグラフである。グラフ中の、黒四角、黒丸、黒三角、黒ひし形、白抜き四角、および白抜き丸のプロットはそれぞれ、酢酸バッファー、カコジル酸バッファー、リン酸バッファー、TAPSバッファー、CHESバッファーおよびCAPSバッファー中で測定した結果を示す。 図4−1は、JT−ISH−467株が生産したβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の酵素活性における反応温度の影響を示すグラフである。 図4−2は、組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の酵素活性における反応温度の影響を示すグラフである。図4−2aはJT−ISH−467株由来、図4−2bはJT−ISH−224株由来、そして図4−2cはJT−FAJ−16株由来の組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素についての結果を示すグラフである。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1: β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を発現する微生物のスクリーニングと菌株の同定
海水、海砂、海泥あるいは海産魚介類を接種源とした。この接種源をマリンブロスアガー2216培地(ベクトン・ディッキンソン製)からなる平板培地上に塗布し、15℃、25℃もしくは30℃で生育する微生物を取得した。常法に従い、得られた微生物を純粋培養した後、マリンブロス2216培地(ベクトン・ディッキンソン製)からなる液体培地を用いてそれぞれの微生物を培養した。微生物が十分成育した後に、培養液から菌体を遠心分離によって集めた。集めた菌体に、0.2%トリトンX−100(関東化学製)を含む20mMカコジレート緩衝液(pH6.0)を添加し、菌体を懸濁した。この菌体懸濁液を氷冷下、超音波処理し細胞を破砕した。この細胞破砕液を酵素溶液としてシアル酸転移活性を測定し、シアル酸転移活性を有する菌株JT−ISH−467株、JT−ISH−224株、およびJT−FAJ−16株を得た。なお、JT−ISH−467株は、スルメイカの表皮から、JT−ISH−224株はカマスの内臓から、およびJT−FAJ−16株はアジの内臓から、それぞれ得られた。
シアル酸転移活性は、J. Biochem., 120, 104-110 (1996) (引用によりその全体を本明細書に援用する)に記載されている方法で測定した。具体的には、糖供与体基質CMP−NeuAc(70nmol、14CでNeuAcをラベルしたCMP−NeuAc 25000cpmを含む、356cpm/nmol。NeuAcはN−アセチルノイラミン酸を表す)、糖受容体基質としてラクト−ス(1.25μmol)、NaClを0.5M濃度になるように添加し、および上記に記した方法で調製した酵素を含む反応溶液(30μl)を用いて酵素反応を行った。酵素反応は25℃で10分間から30分間行った。反応終了後、反応溶液に1.97mlの5mMリン酸緩衝液(pH6.8)を加え、この溶液をDowex1×8(PO4 3‐ フォーム、0.2×2cm、BIO−RAD製)カラムに供した。このカラムの溶出液(0〜2ml)に含まれる反応生成物、すなわち、シアリルラクト−スに含まれる放射活性を測定することで、酵素活性を算出した。
(i)JT−ISH−467株
得られたJT−ISH−467株の性質は以下の通りであった:
菌学的性質
(1)細胞の形態は桿菌で、大きさは0.7〜0.8μm×1.5〜2.0μm。
(2)運動性 −
(3)グラム染色性 −
(4)胞子の有無 −
生理学生化学的性質
(1)生育温度 4℃では+、25℃では+、30℃では−
(2)集落の色調 特徴的集落色素を産生せず
(3)O/Fテスト +/−
(4)カタラーゼテスト −
(5)オキシダーゼテスト +
(6)グルコースからの酸産生 −
(7)グルコースからのガス産生 −
(8)発光性 +
(9)硝酸塩還元 +
(10)インドール産生 +
(11)ブドウ糖酸性化 −
(12)アルギニンジヒドロラーゼ +
(13)ウレアーゼ −
(14)エスクリン加水分解 −
(15)ゼラチン加水分解性 −
(16)β‐ガラクトシダーゼ +
(17)ブドウ糖資化性 −
(18)L−アラビノース資化性 −
(19)D−マンノース資化性 −
(20)D−マンニトール資化性 −
(21)N−アセチル−D−グルコサミン資化性 −
(22)マルトース資化性 −
(23)グルコン酸カリウム資化性 −
(24)n−カプリン酸資化性 −
(25)アジピン酸資化性 −
(26)dl−リンゴ酸資化性 −
(27)クエン酸ナトリウム資化性 −
(28)酢酸フェニル資化性 −
(29)チトクロームオキシダーゼ +
(30)菌体内DNA のGC含量(モル%)39.7%
16S rRNA遺伝子の塩基配列解析およびDNA−DNAハイブリダイゼーションによる種の同定
JT−ISH−467株から、常法により抽出したゲノムDNAを鋳型として、PCRにより16S rRNA遺伝子の全塩基配列を増幅し、塩基配列を決定した。塩基配列を配列番号3に示した。この塩基配列はフォトバクテリウム・フォスフォレウム(Photobacterium phosphoreum)基準株であるATCC11040株の16S rRNA遺伝子の塩基配列に対し、相同率100%の高い相同性を示した。この結果から、JT−ISH−467株はフォトバクテリウム属に属することが明らかとなった。しかしながら、16S rRNA遺伝子は細菌の全ゲノムの一部でしかないので、16S rRNA遺伝子の塩基配列による同定解析は種レベルの極めて近縁な生物間の距離に対しては誤差が非常に大きいとされている。そこで、属内における菌株の類縁関係の定量的な評価に一般的に用いられているDNA−DNAハイブリダイゼーション試験法を用い、種の決定を行った。JT−ISH−467株およびフォトバクテリウム・フォスフォレウム基準株であるNCIMB1282株(ATCC11040株と同一株)の全DNAを抽出し、供試した。その結果、84.7%の高い相同値(DNA-DNA relatedness)が得られた。一般に、同一種間のDNA−DNA相同値は60%以上を示すことから、JT−ISH−467株はフォトバクテリウム・フォスフォレウム(Photobacterium phosphoreum)と同定された。なお、DNA−DNAハイブリダイゼーション試験は「微生物の分類・同定実験法」(鈴木健一郎・平石 明・横田 明 編、シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社、2001年9月、参照によりその全体を本明細書に援用する)に従い、マイクロプレートを用いたフォトビオチン標識法によって行った。
(ii)JT−ISH−224株
得られたJT−ISH−224株の性質は以下の通りであった:
菌学的性質
(1)細胞の形態は桿菌で、大きさは0.7〜0.8μm×1.0〜1.5μm。
(2)運動性 +
(3)グラム染色性 −
(4)胞子の有無 −
生理学生化学的性質
(1)生育温度 4℃では−、25℃では+、30℃では+、37℃では−
(2)集落の色調 特徴的集落色素を産生せず
(3)O/Fテスト +/−
(4)カタラーゼテスト +
(5)オキシダーゼテスト +
(6)グルコースからの酸産生 +
(7)グルコースからのガス産生 +
(8)発光性 −
(9)硝酸塩還元 +
(10)インドール産生 +
(11)ブドウ糖酸性化 −
(12)アルギニンジヒドロラーゼ +
(13)ウレアーゼ −
(14)エスクリン加水分解 −
(15)ゼラチン加水分解性 −
(16)β‐ガラクトシダーゼ +
(17)ブドウ糖資化性 −
(18)L−アラビノース資化性 −
(19)D−マンノース資化性 −
(20)D−マンニトール資化性 −
(21)N−アセチル−D−グルコサミン資化性 −
(22)マルトース資化性 −
(23)グルコン酸カリウム資化性 −
(24)n−カプリン酸資化性 −
(25)アジピン酸資化性 −
(26)dl−リンゴ酸資化性 −
(27)クエン酸ナトリウム資化性 −
(28)酢酸フェニル資化性 −
(29)チトクロームオキシダーゼ +
(30)O/129感受性、10μg −、15μg +
(31)菌体内DNA のGC含量(モル%)39.4%
16S rRNA遺伝子の塩基配列解析
JT−ISH−224株から、常法により抽出したゲノムDNAを鋳型として、PCRにより16S rRNA遺伝子の全塩基配列を増幅し、塩基配列を決定した。塩基配列を配列番号32に示した。
JT−ISH−224株はマリンアガー上での生育性、桿菌、グラム染色性、グルコース発酵的分解性、O/129感受性などの形態観察および生理・生化学的性状試験の結果からビブリオ科に属することが示された。さらに、JT−ISH−224株の16S rRNA遺伝子のDNA塩基配列はフォトバクテリウム・フォスフォレウム(Photobacterium phosphoreum)基準株ATCC11040の16S rRNA遺伝子の配列に最も相同性が高く、その相同率は99.2%であること、次にフォトバクテリウム・イリオピスカリウム(Photobacterium iliopiscarium)基準株ATCC51760の16S rRNA遺伝子の配列に相同性が高く、その相同率は99.1%であることが明らかとなった。これらの結果から、JT−ISH−224株はフォトバクテリウム属(Photobacterium sp.)に属する微生物であることが明らかとなった。
(iii)JT−FAJ−16株
得られたJT−FAJ−16株の性質は以下の通りであった:
菌学的性質
(1)細胞の形態は桿菌で、大きさは0.7〜0.8μm×1.2〜1.5μm。
(2)運動性 −
(3)グラム染色性 −
(4)胞子の有無 −
生理学生化学的性質
(1)生育温度 4℃では+w、25℃では+、30℃では+、37℃では+
(2)集落の色調 淡黄色〜クリーム色
(3)O/Fテスト +/+
(4)カタラーゼテスト +
(5)オキシダーゼテスト +
(6)グルコースからの酸産生 +
(7)グルコースからのガス産生 −
(8)硝酸塩還元 +
(9)インドール産生 −
(10)ブドウ糖酸性化 +
(11)アルギニンジヒドロラーゼ −
(12)ウレアーゼ −
(13)エスクリン加水分解 +
(14)ゼラチン加水分解性 −
(15)β‐ガラクトシダーゼ +
(16)ブドウ糖資化性 −
(17)L−アラビノース資化性 −
(18)D−マンノース資化性 −
(19)D−マンニトール資化性 −
(20)N−アセチル−D−グルコサミン資化性 −
(21)マルトース資化性 −
(22)グルコン酸カリウム資化性 −
(23)n−カプリン酸資化性 −
(24)アジピン酸資化性 −
(25)dl−リンゴ酸資化性 −
(26)クエン酸ナトリウム資化性 −
(27)酢酸フェニル資化性 −
(28)チトクロームオキシダーゼ +
(29)O/129感受性、 −
(30)マンイトール発酵性、 +
(31)イノシトール発酵性、 +
(32)アラビノース発酵性、 +
(33)ラムノース発酵性、 −
(34)サッカロース発酵性、 −
(35)生育性(NaCl)、3%NaCl+、4%NaCl+、6%NaCl+、
(36)デンプン加水分解、 −
(37)Tween80分解、 −
(38)H2S産生、 −
(39)アセトイン産生(VPテスト)、 −
16S rRNA遺伝子の塩基配列解析
JT−FAJ−16株から、常法により抽出したゲノムDNAを鋳型として、PCRにより16S rRNA遺伝子の全塩基配列を増幅し、塩基配列を決定した。塩基配列を配列番号33に示した。
JT−FAJ−16株はマリンアガー上での生育性、桿菌、グラム染色性、グルコース発酵的分解性、O/129感受性などの形態観察および生理・生化学的性状試験の結果からビブリオ科に属することが示された。さらに、JT−FAJ−16株の16S rRNA遺伝子のDNA塩基配列はビブリオ・ルモイエンシス(Vibrio rumoiensis)基準株の16S rRNA遺伝子の配列に最も相同性が高く、その相同率は99.5%であることが明らかとなった。これらの結果から、JT−FAJ−16株はビブリオ属(Vibrio sp.)に属する微生物であることが明らかとなった。

実施例2: フォトバクテリウム フォスフォレウム(Photobacterium phosphoreum)JT−ISH−467からのβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の抽出および精製
マリンアガー2216平板培地上で継代培養したフォトバクテリウム フォスフォレウムJT−ISH−467株のコロニーから菌体をループで採取し、マリンブロス2216液体培地10mlに接種し、25℃、毎分180回転で8時間振とう培養した。
本培養は、以下の手順で実施した。20g/LのBacto Peptoneおよび4 g/LのBacto Yeast Extractを加えたマリンブロス2216培地を1000ml容のコブ付フラスコに300ml張り込み、オートクレーブ(121℃、15分間)で滅菌した。これを36本(合計10.8L)用意した。各々のフラスコに前培養液10mlを接種し、25℃、毎分180回転で24時間振とう培養した。培養液を遠心分離し、菌体を回収した。湿重量で約60gを得た。
この菌体を、990mlの0.2%トリトンX−100および3M塩化ナトリウムを含む20mMカコジレート緩衝液(pH6.0)に懸濁し、氷冷下で超音波破砕した。菌体破砕液を4℃、100,000×gで1時間、遠心分離を行い、上清を得た。得られた上清を、透析膜チューブに入れ、0.2%トリトンX−100を含む20mMカコジレート緩衝液(pH6.0)中で4℃、塩化ナトリウムが20mM程度になるまで透析した。透析後、溶液中に沈澱が生じたため、4℃で、100,000×gで1時間遠心分離を行い、沈殿を取り除いた。
この粗酵素液を、0.2%トリトンX−100なる界面活性剤を含む20mMカコジレート緩衝液(pH6.0)で平衡化したHiPrep 16/10 DEAE FF(アマシャムバイオサイエンス製)という陰イオン交換カラムに吸着させ、0.2%トリトンX−100を含む20mMカコジレート緩衝液(pH6.0)から1M塩化ナトリウムを含む同緩衝液へ直線濃度勾配法で溶出させた。その結果、塩化ナトリウム濃度が0.25M付近で溶出された酵素活性を有する画分を回収した。
回収した画分を20mMリン酸緩衝液(pH6.0)で希釈し、予め0.2%トリトンX−100を含む20mMリン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化したハイドロキシアパタイト(Bio−Rad製)に吸着させ、0.2%トリトンX−100を含む20mMリン酸緩衝液(pH6.0)から0.2%トリトンX−100を含む500mMリン酸緩衝液(pH6.0)へ直線濃度勾配法で溶出させ。その結果、リン酸緩衝液濃度が125mM付近に溶出された酵素活性を有する画分を回収した。
この画分をMonoQ 5/50 GL(アマシャムバイオサイエンス製)陰イオン交換カラムに吸着させ、0.2%トリトンX−100を含む20mM カコジレート緩衝液(pH6.0)から1M 塩化ナトリウムを含む同緩衝液へ直線濃度勾配法で溶出させた。その結果、塩化ナトリウム濃度が300mM付近で溶出される酵素活性を有する画分を回収した。
この画分を、0.2%トリトンX−100を含む20mM カコジレート緩衝液(pH7.0)で10倍希釈し、MonoQ 5/50 GL(ファルマシア製)陰イオン交換カラムに吸着させた。0.2%トリトンX−100を含む20mMカコジレート緩衝液(pH7.0)から1M 塩化ナトリウムを含む同緩衝液へ、直線濃度勾配法で溶出させた。塩化ナトリウム濃度が300mM付近で溶出される酵素活性を有する画分を回収した。
この画分を0.2%トリトンX−100および0.2M塩化ナトリウムを含む20mMカコジレート緩衝液(pH7.0)で2倍希釈し、HiLoad 16/60 Superdex 200 prep grade(アマシャムバイオサイエンス製)ゲルろ過カラムで分画した。0.2%トリトンX−100および0.2M塩化ナトリウムを含む20mM カコジレート緩衝液(pH7.0)で溶出させた。
活性のあった画分をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(アクリルアミドゲルの濃度は12.5%)した結果、目的酵素は単一のバンドを示し、約39,000の分子量を示した。この画分の比活性は、菌体破砕時の比活性に比べて約350倍に上昇した(表1)。
粗酵素液からのJT−ISH−467株由来のα2,3−シアル酸転移酵素の精製について、上述したそれぞれの精製工程を経た試料の酵素活性を表1に示す。酵素活性は、実施例1に記載したのと同様にJ. Biochem. 120, 104-110(1996)に記載されている方法で測定した。また、タンパク質の定量はCoomassie Protein Assay Reagent(PIERCE製)を用いて、添付されたマニュアルにしたがってタンパク質の定量を行った。酵素1単位(1U)は、1分間に1マイクロモルのシアル酸を転移する酵素量とした。
実施例3: ピリジルアミノ化糖鎖を用いたシアル酸結合様式の決定
実施例2で得られた酵素を用い、ピリジルアミノ化糖鎖を糖受容体基質として酵素反応を行った。ピリジルアミノ化糖鎖としては、ピリジルアミノ化ラクトース(Galβ1−4Glc−PA、タカラバイオ製)を用い分析した。糖受容体基質が2.0μM、CMP−NeuAcが5.7μMおよび酵素が20mU/mlとなるように、それぞれを20mM カコジレート緩衝液(pH6.0)25μl中に溶解し、25℃下で3時間反応させた。反応終了後、100℃で2分間反応溶液を処理することにより酵素を失活させた。その後、HPLCで反応生成物の分析を行った。
HPLCシステムとしてShimadzu LC10A(島津製作所製)を用い、分析カラムにはTakara PALPAK Type R(タカラバイオ製)を用いた。0.15% N−ブタノールを含む100mM 酢酸−トリエチルアミン(pH5.0)で平衡化したカラムに溶出液A(100mM 酢酸−トリエチルアミン、pH5.0)で希釈した反応液を注入した。ピリジルアミノ化糖鎖の溶出には溶出液A(100mM 酢酸−トリエチルアミン、pH5.0)および溶出液B(0.5%、n−ブタノールを含む100mM 酢酸−トリエチルアミン、pH5.0)を用い、30〜100%溶出液Bの直線濃度勾配法(0〜35分)および100%溶出液B(35〜50分)により、順次ピリジルアミノ化糖鎖を溶出した。なお、分析は以下の条件で行った(流速:1ml/min、カラム温度:40℃、検出:蛍光(Ex:320nm、Em:400nm))。
その結果、本酵素を用いることにより、ピリジルアミノ化ラクトースからピリジルアミノ化α2,3−シアリルラクトース(ピリジルアミノ化3’−シアリルラクトース)が合成されることが明らかとなった。

実施例4: JT−ISH−467菌株が生産するβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を用いた単糖・二糖類へのシアル酸の転移(シアル酸含有糖鎖の製造)
材料および方法
JT−ISH−467菌株から調整した菌体破砕液を、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて部分精製したα2,3−シアル酸転移酵素を用いて、各種の単糖・二糖類へのシアル酸の転移を確認するために、以下の実験を行った。
各種の糖受容体基質を用いたシアル酸転移反応
反応溶液24μl中に、糖供与体基質CMP−14C−NeuAc(400nmol(15600cpm)、反応溶液中での最終濃度:16.6mM)、各種糖受容体基質(10μmol、反応溶液中での最終濃度:200mM)、シアル酸転移酵素(0.13mU)、NaCl(反応溶液中での最終濃度:500mM)からなる反応溶液を調製して、25℃で4時間、酵素反応を行った。なお、糖受容体基質として用いた単糖・二糖類は、メチル−α−D−ガラクトピラノシド(Gal−α−OMe)、メチル−β−D−ガラクトピラノシド(Gal−β−OMe)、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、ラクト−ス(Gal−β1,4−Glc)、N−アセチルラクトサミン(Gal−β1,4−GlcNAc)、メチル−β−D−ガラクトピラノシル−β1,3−N−アセチルグルコサミニド(Gal−β1,3−GlcNAc−β−OMe)の6種類を用いた。
酵素反応終了後、反応溶液に1.98mlの5mMリン酸バッファー(pH6.8)を添加して酵素反応を停止した。その後、5mMリン酸バッファー(pH6.8)で希釈した酵素反応溶液(2ml)を、AG1−×2Resin(PO4 3‐ フォーム、0.2×2cm)カラムに供した。このカラムは、AG1−×2Resin(OH‐form、BIO-RAD社製)を1Mリン酸バッファー(pH6.8)に懸濁し、30分後レジンを蒸留水で洗浄した後、蒸留水に懸濁して作成した。このカラムの溶出液(0〜2ml)の放射活性を測定した。このカラムの溶出液には、反応で生じた14C−NeuAc(N−アセチルノイラミン酸)が結合した反応生成物および未反応の糖受容体基質が含まれるが、未反応のCMP−14C−NeuAcはカラムに保持されたままである。従って、酵素反応の結果生じた各種シアル酸含有糖鎖由来の14Cの放射活性は、全て反応生成物由来であり、この画分の放射活性から酵素活性を算出することができる。
上記の方法を用いて、それぞれの糖受容体基質に転移されたNeuAcの放射活性を測定して転移されたシアル酸を算出した。
結果
今回糖受容体基質として用いた6種類の単糖、二糖いずれにもシアル酸が転移していることが明らかとなった(表2参照)。今回糖受容体基質として用いた糖類の中では、N−アセチルラクトサミンに最も多くのシアル酸が転移していることが明らかとなった。
実施例5: フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株が生産するβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素をコードする遺伝子の塩基配列解析および当該遺伝子の形質転換
(1)ゲノムDNAの精製とゲノムライブラリーの作成
JT−ISH−467株の菌体ペレット約0.5gから、Qiagen Genomic-tip 100/G(Qiagen社製)を用いて、キット添付の説明書きに従って、約100μgのゲノムDNAを調製した。1−2μgのDNAに対して、0.1〜0.2ユニットの四塩基認識の制限酵素Sau3AIを反応させ、部分分解を行った。反応バッファーは酵素に添付のものを用い、反応条件は37℃、30分とした。反応終了後、反応液に最終濃度25mMのEDTA pH8.0を加え、フェノール・クロロホルム処理を行った。ゲノムDNAをエタノール沈殿で回収し、TE 400μlに溶解した。遠心チューブ(日立製作所製40PA)に、グラジエント作製装置を用いて、40%シュークロースバッファー(20mM Tris pH8.0,5mM EDTA pH8.0,1M NaCl)と10%シュークロースバッファーから、40−10%のグラジエントを作製し、そこへ上記の部分分解DNA溶液を重層した。超遠心機(日立製作所製SCP70H、ローター:SRP28SA)を用いて、26,000rpm、20℃、15時間遠心した。遠心後チューブの底部に25Gの針で穴を空け、底部の液から1mlずつ回収した。回収したゲノムDNAを含むサンプルの一部を、サブマリン電気泳動糟を用い、0.5−0.6%アガロースゲル/TAEバッファー中で、26V、20時間電気泳動を行い、9−16kbのサイズのDNAを含む画分を把握した。マーカーとしてλ/HindIIIを用いた。9−16kbのサイズのDNA断片を含む画分にTEを2.5ml加えシュークロース濃度を下げた後,エタノール沈殿、リンスを行い、少量のTEに溶解した。
JT−ISH−467株のゲノムライブラリー作成のためのベクターとして、λDASH II(Stratagene製)を用いた。λDASH II/BamHIベクターとゲノムDNA断片のライゲーション反応はStratagene製のライゲーションキットを用いて、12℃で一晩行った。反応後、反応液をGigaPack III Gold Packaging extractと反応させ、ゲノムDNAが組み込まれたλベクターをファージ粒子に取り込ませた。ファージ液は500μlのSMバッファーと20μlのクロロホルム中で4℃保管した。大腸菌XL1−Blue MRA(P2)(Stratagene製)をLBMM(LB+0.2%マルトース+10mM MgSO4)中でA600=0.5になるまで培養し、この培養液200μlに、適量のファージ溶液を加え、37℃で15分間培養した。ここへ48℃で保温したNZYトップアガロースを4ml加え、混合し、NZYアガープレート(直径9cmのプラスチックシャーレ)にプレーティングした。プレートを37℃で一晩培養し、プラーク数を数え、titerを計算したところ、ライブラリーサイズは約30万pfu(plaque forming unit)と算出された。
(2)プライマー設計とプローブ作成
Procise 494 cLC Protein Sequencing System(Applied Biosystems製)を用いて、JT−ISH−467株由来のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素のアミノ末端(N末端)アミノ酸配列、および内部アミノ酸配列を決定した。
N末端アミノ酸配列の決定は、次のようにして行った。当該シアル酸転移酵素を5/20%グラジエントゲル(ATTO製)にてSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。泳動後、当該酵素をPVDF膜に吸着させ、アミノ酸配列分析装置により、アミノ末端側10個のアミノ酸の配列を決定した。その結果、当該酵素のN末端アミノ酸配列はXNSDSKHNNS(配列番号4)であった。
また、内部アミノ酸配列の決定は、次のようにして行った。当該シアル酸転移酵素を5/20%グラジエントゲル(ATTO製)にてSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。ゲルを染色した後、目的のバンドを切り出し、リジルエンドペプチダーゼを含むトリスバッファー(pH8.5)を加え、35℃、20時間の処理を行った。その後、溶液の全量を逆相HPLC(カラム:Symmetry C18 3.5μm)に供して、断片ペプチドを分離した。アミノ酸配列分析装置により、当該酵素の内部アミノ酸配列は、SLDSMILTNEIK(配列番号5)、FYNFTGFNPE(配列番号6)およびGHPSATYNQQIIDAHNMIEIY(配列番号7)を有することが明らかとなった。
上記のように決定されたフォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467由来α2,3−シアル酸転移酵素の部分アミノ酸配列、即ちN末アミノ酸配列:XNSDSKHNNS(配列番号4)と、三箇所の内部アミノ酸配列のうち、二箇所の内部アミノ酸配列:FYNFTGFNPE(配列番号6)およびGHPSATYNQQIIDAHNMIEIY(配列番号7)を基に以下のdegenerateプライマーを設計、合成した。即ち、N末端のアミノ酸配列:XNSDSKHNNS(配列番号4)から、下記の表3に示す3本のプライマー(Iはイノシン)を合成した。
また、内部アミノ酸配列:GHPSATYNQQIIDAHNMIEIY(配列番号7)から下記の表4に示す4本のプライマーを合成した。
さらに、内部アミノ酸配列:FYNFTGFNPE(配列番号6)から下記の表5に示す2本のプライマーを合成した。
これらのプライマーを用いて、上記(1)で抽出・精製したJT−ISH−467株のゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、ライブラリーをスクリーニングするためのプローブとなるJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の部分長DNAを増幅した。プライマー組み合わせは、N末端配列由来の3本のプライマーのそれぞれと、467in1FW(配列番号12)、467in1FW2(配列番号14)もしくは467in2FW(配列番号16)の9つの組み合わせ、467in1RV(配列番号11)もしくは467in1RV2(配列番号13)と467in2FW(配列番号16)の2つの組み合わせ、さらに467in2RV(配列番号15)と467in1FW(配列番号12)もしくは467in1FW2(配列番号14)の2つの組み合わせの、総計13組み合わせである。PCR反応は以下のように行った。50μlの反応液中に、ゲノムDNA 250ng、10( Ex taqバッファー 5μl、2.5mM 各dNTPs 4μl,プライマーをそれぞれの配列について5pmole,Ex taq(タカラバイオ製)0.5μl、をそれぞれ含み、プログラムテンプコントロールシステムPC−700(ASTEK社)を用いて、96℃ 3分を1回、96℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 2分を40回、72℃ 6分を1回行った。その結果、9つのプライマー組み合わせ(467N−RV(配列番号8)と467in1FW(配列番号12)、467N−RV(配列番号8)と467in2FW(配列番号16)、467in1RV(配列番号11)と467in2FW(配列番号16)、467in2RV(配列番号15)と467in1FW(配列番号12)の組み合わせ以外の9つ)において、PCR産物が増幅された。これらのPCR産物のうち、特異的かつ高い増幅効率の得られた組み合わせ(467N−RV3(配列番号10)と467in1FW(配列番号12))由来のPCR産物をベクターpCR2.1TOPO(Invitrogen製)にクローニングした。ライゲーション反応はベクターキット添付の説明書きに従った。大腸菌TB1にエレクトロポレーション法を用いてDNAを導入し、常法(Sambrook et al. 1989, Molecular Cloning, A laboratory manual, 2nd edition(引用によりその全体を本明細書に援用する))に従いプラスミドDNAを抽出した。このクローンに関して、M13プライマー(タカラバイオ製)を用いて、ABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer, Perkin Elmer製)で、PCR産物の塩基配列をその両端から決定した。
決定されたDNA塩基配列(929bp:配列番号17)に関して、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のGeneBankデータベースに対して、BLASTプログラムによる相同性検索を行った。その結果、有意な相同性を示すDNA配列は検出されなかった。これは本発明によって明らかにされた、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のDNA塩基配列が新規な配列であることを意味する。次に、この塩基配列をアミノ酸に翻訳して、再度BLASTサーチをかけたところ、フォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damselae)のα2,6−シアル酸転移酵素(JC5898)と30%の相同性、パスツレラ・ムルトシダ亜種ムルトシダ株(Pasteurella multocida subsp. multocida)Pm70の仮定上のタンパク質 PM0188(AAK02272)と26%の相同性、へモフィルス・デュクレイ(Haemophilus ducreyi)35000HP株の仮定上のタンパク質 HD0053(AAP95068)と21%の相同性が検出された。さらに、翻訳されたアミノ酸配列は、上記の精製酵素から直接決定された内部アミノ酸配列:FYNFTGFNPE(配列番号6)とSLDSMILTNAIK(配列番号5)の全体を含み、N末アミノ酸配列:XNSDSKHNNS(配列番号4)と、内部アミノ酸配列:GHPSATYNQQIIDAHNMIEIY(配列番号7)の一部を含んでいた。以上の結果から、クローニングされたDNAは、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の一部であり、かつ本発明のフォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素のアミノ酸配列は、既報配列と30%程度しか相同性を示さない新規なアミノ酸配列であることが明らかとなった。
(3)スクリーニングと遺伝子クローニング
上記(2)でクローン化されたフォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の一部からなるDNA断片を、pCR2.1 TOPOベクターから制限酵素EcoRIで切り出し、これをプローブとして、上記(1)作製したフォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来ゲノムDNAライブラリーをスクリーニングした。直径9cmの丸形シャーレにλDASH II/BamHI ベクターキット(Stratagene製)の説明書きに従って、約300−500pfuのファージを宿主菌XL1−blue MRA(P2)とともにプレーティングした。プラークをHybond−N+ナイロンメンブレンフィルター(Amersham製)に接触させ、メンブレン添付の説明書きに従ってアルカリ処理を行いDNAを変性させ、メンブレン上に固定させた。プローブはrediprime IITM DNA labelling system(アマシャムバイオサイエンス製)を用いて32Pラベルした。ハイブリダイゼーションは0.5M リン酸ナトリウムバッファー pH7.2、7% SDS、1mM EDTA中で65(Cで一晩、洗浄の条件は40mM リン酸ナトリウムバッファー pH7.2、1mM EDTA、5%SDS中で65℃、15分を2回、40mM リン酸ナトリウムバッファー pH 7.2、1% SDS、1mM EDTA中で65(C、15分を2回行った。1次スクリーニングで約5,000pfuのファージから24個のポジティブクローンが得られた。うち18個のクローンに関して、プラークの精製を兼ねた2次スクリーニングを行った。その結果、6種類の選抜・精製プラークを得ることが出来た。
これらのプラークを回収し、それぞれ大腸菌XL1−blue MRA(P2)とともに、一枚数万pfuとなるようにNZYプレートにプレーティングし、一晩37℃で保温した。プラークが一面に出ている6枚のプレートにSMバッファーを4mlづつ注ぎ、4℃で一晩静置した。パスツールピペットで、ファージプレートライセートを回収し、QIAGEN Lambda Mini Kit(キアゲン製)で、λDNAを抽出、精製した。これら6種類のλDNA、および(1)で精製したJT−ISH−467株の全ゲノムDNAを制限酵素EcoRI、HindIIIで消化し、0.7%アガロースゲル電気泳動で分画後、0.4M NaOHを用いたアルカリブロッティングにより、ゲルをHybond−N+ナイロンメンブレンフィルター(アマシャムバイオサイエンス製)に転写した。このフィルターに関して、上記の929bpのプローブ(配列番号17)を用いて、上述のようにサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、EcoRI消化では、9kbまたはそれ以上のバンドが検出された。一方、HindIII消化の場合、全てのλDNA、ゲノムDNAともに4.6kbのバンドが検出された。そこで、λDNAを再度HindIIIで消化し、アガロースゲル電気泳動を行い、4.6kb HindIII断片を回収し、プラスミドベクターpBluescript SK(−)のHindIII部位に、常法に従いクローニングした。
次に、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の全塩基配列を決定するため、同遺伝子の部分DNA配列(上述、929bp:配列番号17)を基に以下の表6に示すプライマーを合成した。
これらのプライマーを用いて、ABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer, Perkin Elmer製)で、4.6kb HindIII断片の内部塩基配列を解析し、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の内部、およびその近傍の塩基配列を解析した。その結果、配列表の配列番号1の配列を得た。この配列は、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の全塩基配列である。最初のATGの上流には同じ読み枠で、翻訳終止コドンが現れるのでこれが、本遺伝子の翻訳開始コドンであると考えられる。
フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のORFは、1230塩基からなり、409個アミノ酸をコードしていた。このアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。このアミノ酸配列は、精製酵素から決定された4箇所のアミノ酸配列全てを完全に含む。N末のアミノ酸配列の一文字目が解読されていなかったが、遺伝子から演繹されるこの部分のアミノ酸はCys(システイン)であった。また成熟タンパクのN末端は、配列表の配列番号2の配列のうちの第22番目のCysであることから、初めの21アミノ酸からなる配列は、フォトバクテリウム・フォスフォレウムにおいてはプロセッシングを受け、除去されると考えられた。遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7(ゼネティックス製)を用いて、本発明のフォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素タンパク質全長、およびその遺伝子全長と、それらのホモローグの全長同士の相同性を解析したところ、アミノ酸配列では、フォトバクテリウム・ダムセラのα2,6−シアル酸転移酵素(JC5898)と32%の相同性、パスツレラ・ムルトシダ亜種ムルトシダ株Pm70の仮定上のタンパク質PM0188(AAK02272)と28%の相同性を有し、そして、遺伝子DNA配列ではそれぞれと、53%、51%の相同性を有していた。
(4)発現ベクターの構築
クローン化した遺伝子が、シアル酸転移活性を有するか否かを調べるため、同遺伝子の全長、およびN末端側のシグナルペプチド部分を除去したタイプの遺伝子を発現ベクターに組み込み、大腸菌内でタンパク質を生産させ、この発現タンパク質の活性を測定した。
フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素のアミノ酸配列について、遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7で解析を行ったところ、N末端の24アミノ酸が、シグナルペプチドであると予測された。そこで、遺伝子全長(本実施例において467−N0C0と表記する)をクローン化するためのプライマー 467−23ST−N0−Pci(配列番号27)および467−23ST−C0−Bm(配列番号26)、さらにシグナルペプチド部分のアミノ酸が除かれたタイプのタンパク質をコードする遺伝子(本実施例において467−N2C0と表記する)をクローン化するためのプライマー 467−23ST−N2−Nco(配列番号25)および467−23ST−C0−Bm(配列番号26)を設計、合成した(表7)。
クローニング用にプライマーに予め組み込んだ制限酵素PciI(467−23ST−N0−Pci)、NcoI(467−23ST−N2−Nco)、BamHI(467−23ST−C0−Bm)部位を下線で示した。翻訳開始コドンATG、翻訳終止コドンに対応する相補配列TAAを四角で囲んだ。さらに、プライマー配列のうち、制限酵素部位より3’側で、鋳型DNAとアニーリングする部分の配列を太字で示した。PCR時の鋳型DNAは、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子全長を含む上記HindIII 4.6kb断片が組み込まれたプラスミドを用いた。PCRの反応条件は以下のように設定した。50μlの反応液中に、鋳型DNA 100ng、10× Ex taq buffer 5μl、2.5mM 各dNTP 4μl、プライマー 50pmole、Ex taq(タカラバイオ製) 0.5μlをそれぞれ含み、プログラムテンプコントロールシステムPC−700(ASTEK製)を用いて、96℃ 3分を1回、96℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 2分を15回、72℃ 6分を1回行った。その結果、467−N0C0でおよそ1.2kb、467−N2C0でおよそ1.1kbのPCR産物が増幅された。これらのPCR産物のうち、467−N0C0を制限酵素PciI(New England Biolab製)とBamHI(タカラバイオ製)で二重消化し、そして、467−N2C0を制限酵素NcoI(タカラバイオ製)とBamHIで二重消化した後、ゲル精製した。大腸菌発現用ベクターはpTrc99A(Pharmacia LKB製)を用いた。このベクターを同じ制限酵素PciIとBamHI、または制限酵素NcoIとBamHIで二重消化しゲル精製したものを、制限酵素処理を行ったPCR産物とTakara Ligation Kit(タカラバイオ製)を用いてライゲーションし、大腸菌TB1にトランスフェクトした。常法に従いプラスミドDNAを抽出、制限酵素分析し、インサートの組み込みを確認した。PCR反応による塩基の変化を調べるため、467−N0C0では二つのクローンを、467−N2C0では3つのクローンの全塩基配列を決定した。その結果、467−N0C0においては一つのクローン(ISH467−N0C0第一クローン)で配列番号1の塩基配列のうち、第569番目のアデニン(A)がグアニン(G)に変化し、これによりコドンがAACからAGCに変化し、配列番号2のアミノ酸配列のうち第190番目のアスパラギン(Asn)がセリン(Ser)に変化していた。AsnとSerは同じ極性アミノ酸である。一方、もう一つのクローン(ISH467−N0C0第二クローン)では塩基の変化は一つも無く、配列番号1の塩基配列が確認された。次に3つの467−N2C0クローンの全塩基配列を決定した。その結果、第一および第二クローンの2つにアミノ酸置換を伴う塩基の変異が見つかった。即ち、ISH467−N2C0第一クローンでは、配列番号1の塩基配列の476番目のチミン(T)がシトシン(C)に変異しており、これによりコドンがTTTからTCTに変わり、159番目のフェニルアラニン(Phe)がセリン(Ser)に置換されていた。ISH467−N2C0第二クローンでは、配列番号1の塩基配列の78番目のチミン(T)が欠失し、これにより、フレームシフトが起き、正しいタンパク質が翻訳されない。一方、ISH467−N2C0第三クローンでは、変異は検出されず、配列番号1のうち第73番目の塩基から第1230番目の塩基までの配列そのものを含んでいた。
(5)発現誘導と活性測定
上記(4)で得られた467−N0C0の2クローン、467−N2C0の3クローンに関して、タンパク質発現誘導実験を行った。各クローンが組み込まれた発現ベクターpTrc99Aをもつ大腸菌TB1の単一コロニーを、抗生物質アンピシリン(最終濃度100mg/mL)を含むLB培地(5ml)に接種し、A600=0.5程度になるまで30℃で菌を前培養し、その後IPTG(イソプロピル−β−D(−)−チオガラクトピラノシド、和光純薬工業製)を最終濃度で1mMとなるように加え、30℃でさらに4時間振とう培養した。培養液2ml中の菌体を遠心分離によって集めた。この菌体を、200μlの0.336%トリトンX−100および0.5M塩化ナトリウムを含む20mM ビストリス緩衝液(pH7.0)に懸濁し、氷冷下で超音波破砕した。得られた破砕液を粗酵素液とし、活性測定に供試した。反応は2反復で行い、反応組成は実施例1と同様に行った。但し、反応時間は15時間とした。その結果、下記の表8に示すように、ISH467−N0C0第一クローンの粗酵素液中およびISH467−N0C0第二クローンの粗酵素液中には、糖供与体であるCMP−NeuAc中の14CでラベルされたNeuAcを糖受容体基質であるラクトースに転移する因子、即ちシアル酸転移酵素活性が存在することが示された。また、ISH467−N2C0第一クローンおよびISH467−N2C0第三クローンの粗酵素液中にもシアル酸転移酵素活性が存在することが示された。一方、ISH467−N2C0第二クローンの粗酵素液中および粗酵素液なしの反応液中にはシアル酸転移酵素活性が含まれていなかった。以上の結果から、ISH467−N0C0第一クローンもしくは第二クローン、または、ISH467−N2C0第一クローンもしくは第三クローンを導入した大腸菌にはシアル酸転移酵素が発現されていることが明らかとなった。
(6)α−2,3シアル酸転移活性の確認
上記(5)の粗酵素液を用いて、ISH467−N2C0第一クローンを導入した大腸菌で発現されたシアル酸転移酵素がα−2,3シアル酸転移活性を有するかどうか調べた。実施例3と同様に、糖受容体としてピリジルアミノ化ラクトース(Galβ1−4Glc−PA、タカラバイオ社製PA−Sugar Chain 026)を用い、酵素反応を行った。反応終了後、95℃で5分間、反応溶液を熱処理することにより酵素を失活させ、HPLCで分析した。なお、酵素反応は、ピリジルアミノ化ラクトースが2.0μM、CMP−シアル酸が5.7μMとなるように、それぞれを20mM カコジレート緩衝液(pH6.0)25μl中に溶解し、25℃下で6時間行った(反応1)。一方、CMP−シアル酸を含まない反応液を供試した対照実験(反応2)を行った。また、標品の保持時間を明らかにするため、熱処理(95℃、5分間)によって失活させた粗酵素液を加え、ピリジルアミノ化ラクトースおよびピリジルアミノ化α2,3−シアリルラクトース(ピリジルアミノ化3’−シアリルラクトース)(Neu5Acα2−3Galβ1−4Glc−PA、タカラバイオ製PA−Sugar Chain 029)を添加した試験を行った。
標品の分析結果(図1−1)から、ピリジルアミノ化ラクトースの保持時間は4.1分、ピリジルアミノ化α2,3−シアリルラクトース(ピリジルアミノ化3’−シアリルラクトース)の保持時間は5.4分であることが示された。これにより反応2(図1−3)では検出されない保持時間5.3分のピーク(図1−2)がピリジルアミノ化α2,3−シアリルラクトース(ピリジルアミノ化3’−シアリルラクトース)であることが明らかとなった。すなわち、ISH467−N2C0第一クローンを導入した大腸菌で発現されたシアル酸転移酵素がα−2,3シアル酸転移活性を有することが証明された。
また、同様にISH467−N0C0第一クローンおよび第二クローン、ならびにISH467−N2C0第三クローンについても、当該クローンを導入した大腸菌で発現されたシアル酸転移酵素がα−2,3シアル酸転移活性を有するかどうか調べた。その結果、大腸菌で発現されたシアル酸転移酵素による反応において、いずれのクローンについても反応生成物としてピリジルアミノ化α2,3−シアリルラクトース(ピリジルアミノ化3’−シアリルラクトース)のピークが検出された。よって、これらの酵素がα−2,3シアル酸転移活性を有することが明らかとなった。

実施例6: フォトバクテリウム属細菌JT−ISH−224株由来β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のクローニングと、塩基配列解析および当該遺伝子の大腸菌での発現
(1)JT−ISH−224株のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性と同酵素遺伝子の存在の確認
実施例1でシアル酸転移酵素活性を有することが明らかとなったフォトバクテリウム属JT−ISH−224株において、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のホモローグが存在するか否かを明らかにするため、ゲノミックサザンハイブリダイゼーションを実施した。実施例5の(1)に記載した方法で、JT−ISH−224株の菌体ペレットからゲノムDNAを調製した。次に実施例5の(3)に記載した方法により、JT−ISH−224株のゲノムDNAを制限酵素EcoRIまたはHindIIIで消化し、0.7%アガロースゲル電気泳動で分画後、0.4M NaOHを用いたアルカリブロッティングにより、ゲルをHybond−N+ナイロンメンブレンフィルター(アマシャムバイオサイエンス製)に転写した。このフィルターに関して、上記のJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の部分断片(929bp;配列番号17)をプローブとして用いて、実施例5の(3)に記載した方法でサザンハイブリダイゼーションを行った。ただしハイブリダイゼーション温度、および洗浄処理の温度は、55℃とした。その結果、EcoRI消化では、16kbのバンドが検出された。一方、HindIII消化の場合、5kbと2.7kbのバンドが検出された。この結果から、JT−ISH−224株にはJT−ISH−467株由来のα2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のホモローグが存在することが明らかとなった。
(2)JT−ISH−224株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のクローニング
次に、JT−ISH−224株のα2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のクローニングを行った。実施例5の(1)に記載した方法により、JT−ISH−224株のゲノムDNAから、λDASH II(Stratagene製)を用いて、ゲノムライブラリーを構築した。JT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の部分断片(929bp;配列番号17)をプローブに用い、JT−ISH−224株のゲノムライブラリーをスクリーニングした。ただし、実施例6の(1)と同様にハイブリダイゼーション、および洗浄の温度は55℃とした。その結果、プラーク精製を兼ねた二次選抜までに、12クローンを得、うち6つのλDNAを、実施例5の(3)のようにQIAGEN Lambda Mini Kit(キアゲン製)を用いて精製した。さらにこのうち3クローンのλDNAサンプル、およびJT−ISH−224株の全ゲノムDNAについて、制限酵素EcoRIまたはHindIIIで消化した。消化物をアガロースゲル電気泳動で分画し、上述の様にナイロンメンブレンフィルターに転写した。このフィルターを用いて、JT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の部分断片(929bp;配列番号17)をプローブに用い、サザン分析を行った。ハイブリダイゼーション、洗浄の温度は55℃とした。その結果、EcoRI消化の場合、12kbまたはそれ以上のバンドが検出されたのに対し、HindIII消化の場合は、3つ全てのλDNAサンプルとJT−ISH−224株の全ゲノムDNAに関して、5kbと2.7kbの二本のバンドが検出された。そこでλDNAサンプルを再度HindIIIで消化し、これら5kbと2.7kbの二本のDNA断片をゲル精製し、プラスミドベクターpBluescript SK(−)のHindIII部位に常法に従いクローニングした。
次に、これらのクローンに関して、M13プライマー(タカラバイオ製)を用いて、ABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer, Perkin Elmer社製)で、5kb HindIII断片と2.7kb HindIII断片の両端の塩基配列を決定した。その結果、5kb断片の片側のDNA配列、および2.7kbの片側のDNA配列から推定されるアミノ酸配列が、データベース検索の結果ともに、シアル酸転移酵素と相同性を示した。JT−ISH−224株の同酵素の遺伝子のDNAを完全に決定するため、HindIII 2.7kb断片から得られたDNA配列を基に、下記の表9のプライマーを合成し、塩基配列決定に用いた。
その結果、配列表の配列番号28の配列を得た。この配列は、JT−ISH−224株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の全塩基配列である。最初のATGの上流には同じ読み枠で翻訳終止コドンが現れるので、これが本遺伝子の翻訳開始コドンであると考えられる。フォトバクテリウム属 JT−ISH−224株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のORFは、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のそれと同様に、1230塩基からなり、409個のアミノ酸をコードしていた。このアミノ酸配列を配列表の配列番号29に示す。遺伝子内部にはHindIII部位を有していた。GENETYX Ver.7を用いて核酸、およびアミノ酸配列の解析を行ったところ、JT−ISH−224株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子は、JT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子と92%の相同性を有していた。またアミノ酸配列でも、JT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素と92%の相同性を示した。さらに、JT−ISH−224株由来α2,3−シアル酸転移酵素のアミノ酸配列は、フォトバクテリウム・ダムセラのα2,6−シアル酸転移酵素(JC5898)と33%の相同性、パスツレラ・ムルトシダ亜種ムルトシダ株Pm70の仮定上のタンパク質PM0188(AAK02272)と29%の相同性を示し、遺伝子DNA配列ではそれぞれと、54%、50%という相同性であった。
(3)発現ベクターの構築
クローン化した遺伝子が、シアル酸転移酵素活性を有するか否かを調べるため、同遺伝子の全長、およびN末端側のシグナルペプチド部分を除去したタイプの遺伝子を発現ベクターに組み込み、大腸菌内でタンパク質を生産させ、この発現タンパク質の活性を測定した。
JT−ISH−224株由来α2,3−シアル酸転移酵素のアミノ酸配列について、遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7で解析を行ったところ、N末端の24アミノ酸が、シグナルペプチドであると予測された。そこで、遺伝子全長(本実施例において224−N0C0と表記する)をクローン化するためのプライマー224−23ST−N0−Pci(配列番号35)、224−23ST−C0new−Bm(配列番号37)、さらにシグナルペプチド部分のアミノ酸が除かれたタイプのタンパク質をコードする遺伝子(本実施例において224−N1C0と表記する)をクローン化するためのプライマー224−23ST−N1−Nco(配列番号36)、224−23ST−C0new−Bm(配列番号37)を設計、合成した(表10)。
クローニング用にプライマーに予め組み込んだ制限酵素PciI(224−23ST−N0−Pci)、NcoI(224−23ST−N1−Nco)、BamHI(224−23ST−C0new−Bm)部位を下線で示した。翻訳開始コドンATG、および翻訳終止コドンに対応する相補配列TAAを四角で囲んだ。さらに、プライマー配列のうち、鋳型DNAとアニーリングする部分の配列を太字で示した。プライマー224−23ST−N0−Pciの場合、後のクローニング用にPciI部位を導入したことで、翻訳開始コドンATG直後のシトシン(C)がチミン(T)に置換される。このため、翻訳開始メチオニンの直後のアミノ酸配列がロイシン(Leu)からフェニルアラニン(Phe)に置換される。LeuとPheは同じ疎水性のアミノ酸であること、この部分はシグナルペプチド領域であることから、この変異によって酵素活性に大きな変化をもたらす可能性は低いと判断した。
続いてPCRを行い、発現ベクターに組み込むためのJT−ISH−224株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子を増幅した。鋳型DNAは、JT−ISH−224株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子を含む上記λDNAを用いた。PCRの反応条件は以下のように設定した。50μlの反応液中に、鋳型DNA 100ng、10× Ex taq buffer 5μl、2.5mM 各dNTP 4μl、プライマー 50pmole、Ex taq(タカラバイオ製)0.5μlをそれぞれ含み、プログラムテンプコントロールシステムPC−700(ASTEK製)を用いて、96℃ 3分を1回、96℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 2分を15回、72℃ 6分を1回行った。その結果、224−N0C0でおよそ1.2kb、そして224−N1C0でおよそ1.1kbのPCR産物が増幅された。これらのPCR産物を、制限酵素PciI(New England Biolab社製)とBamHI(224−N0C0の場合)、または制限酵素NcoIとBamHI(224−N1C0の場合)で二重消化した後、ゲル精製した。大腸菌発現用ベクターはpTrc99Aを用いた。このベクターを同じ制限酵素PciIとBamHI(224−N0C0を導入する場合)、または制限酵素NcoIとBamHI(224−N1C0を導入する場合)で二重消化しゲル精製したものを、制限酵素処理を行ったPCR産物とTakara Ligation Kit(タカラバイオ製)を用いてライゲーションし、大腸菌TB1にトランスフェクトした。常法に従いプラスミドDNAを抽出、制限酵素分析して、インサートの組み込みを確認し、そして224−N0C0(ISH224−N0C0第一クローン)、ならびに224−N1C0(ISH224−N1C0第一クローン)の全塩基配列を確認した。その結果、ISH224−N0C0第一クローンにおいては、上述のLeuからPheへの置換が確認されたが、それ以外は塩基配列の変異はなかった。同様にISH224−N1C0第一クローンの場合は、塩基配列の変異はなく、所望の塩基配列、即ち配列表の配列番号28のうち、第73番目の塩基から第1230番目の塩基までを含んでいた。
(4)発現誘導と活性測定
実施例5(5)と同様に、ISH224−N0C0第一クローンおよびISH224−N1C0第一クローンの2クローンに関して、タンパク質発現誘導実験を行い、酵素活性を測定した。その結果、下記の表11に示すように、ISH224−N0C0第一クローンおよびISH224−N1C0第一クローンの粗酵素液中にシアル酸転移酵素活性が存在することが示された。
(5)α−2,3シアル酸転移酵素活性の確認
実施例5(6)と同様に、ISH224−N0C0第一クローンおよびISH224−N1C0第一クローンをそれぞれ大腸菌に導入して酵素を発現させ、ピリジルアミノ化ラクトースを糖受容体として用いる反応により、α−2,3シアル酸転移酵素活性を調べた。大腸菌で発現されたシアル酸転移酵素による反応生成物をHPLCにより評価した結果、いずれのクローンを用いた反応についてもピリジルアミノ化α2,3−シアリルラクトース(ピリジルアミノ化3’−シアリルラクトース)のピークが検出された。この結果から、JT−ISH−224株由来のシアル酸転移酵素がα−2,3シアル酸転移活性を有することが明らかとなった。

実施例7: ビブリオ属細菌JT−FAJ−16株由来β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のクローニングと塩基配列解析、および当該遺伝子の大腸菌での発現
(1)JT−FAJ−16株のβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性と同酵素遺伝子の存在の確認
実施例1でシアル酸転移酵素活性を有することが明らかとなったビブリオ属 JT−FAJ−16株において、フォトバクテリウム・フォスフォレウム JT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のホモローグが存在するか否かを明らかにするため、ゲノミックサザンハイブリダイゼーションを実施した。実施例5の(1)に記載した方法で、JT−FAJ−16株の菌体ペレットからゲノムDNAを調製した。次に実施例5の(3)に記載した通り、制限酵素EcoRI、HindIIIで消化し、0.7%アガロースゲル電気泳動で分画後、0.4M NaOHを用いたアルカリブロッティングにより、ゲルをHybond−N+ナイロンメンブレンフィルター(アマシャムバイオサイエンス製)に転写した。このフィルターに関して、上記の929bpのプローブ(配列番号17)を用いて、実施例5の(3)に記載した方法でサザンハイブリダイゼーションを行った。ただしハイブリダイゼーション温度、および洗浄処理の温度は、55℃とした。その結果、EcoRI消化で、3.6kbのバンドが、HindIII消化で、7kbのバンドが検出された。即ちJT−FAJ−16株にはJT−ISH−467株由来のα2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のホモローグが存在することが明らかとなった。
(2)JT−FAJ−16株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のクローニング
次に、JT−FAJ−16株のα2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のクローニングを行った。実施例5の(1)に記載した方法で、JT−FAJ−16株のゲノムDNAから、λDASH II(Stratagene製)を用いて、ゲノムライブラリーを構築した。JT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の部分断片(929bp;配列番号17)をプローブに用い、JT−FAJ−16株のゲノムライブラリーをスクリーニングした。ただし、ハイブリダイゼーション実験はECL direct labelling & detection system(アマシャムバイオサイエンス製)を使用した。キット添付の説明書きに従ってプローブを作成した。ハイブリダイゼーションは、キット中のハイブリダイゼーションバッファーにブロッキング試薬を5%(w/v)、NaClを0.5Mになるように加え、37℃で4時間行った。洗浄は、0.4%SDS、0.5X SSC中で、50℃で20分を2回、2X SSC中で室温、5分を1回行った。シグナルの検出は、キット添付の説明書きに従った。
その結果、プラーク精製を兼ねた一次選抜で、12クローンを得、うち6つのλDNAを、実施例5の(3)のようにQIAGEN Lambda Mini Kit(キアゲン製)を用いて精製した。さらにこれらのλDNAサンプル、およびJT−FAJ−16株の全ゲノムDNAに関して、制限酵素EcoRIで消化した。消化物をアガロースゲル電気泳動で分画し、上述の様にナイロンメンブレンフィルターに転写した。このフィルターを用いて、JT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の部分断片(929bp;配列番号17)をプローブに用い、ECLシステムを用いて、上述と同じ条件でサザン分析を行った。その結果、6つ全てのλDNAサンプルとJT−FAJ−16株の全ゲノムDNAについて、3.6kbのバンドが検出された。そこでλDNAサンプルを再度EcoRIで消化し、この3.6kbのDNA断片をゲル精製し、プラスミドベクターpBluescript SK(−)のEcoRI部位に常法に従いクローニングした。
次に、JT−FAJ−16株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子を含むと考えられたEcoRI 3.6kb断片に関して、M13プライマー(タカラバイオ製)を用いて、ABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer,Perkin Elmer製)で、両端の塩基配列を決定した。その結果、片側の端のDNA配列から推定されるアミノ酸配列が、データベース検索でフォトバクテリウム・ダムセラのα2,6−シアル酸転移酵素(JC5898)と27%の相同性を示した。JT−FAJ−16株のα2,3−シアル酸転移酵素遺伝子の全塩基配列を完全に決定するため、EcoRI 3.6kb断片から得られたDNA配列を基に、下記の表12に記載のプライマーを合成し、塩基配列決定に用いた。
得られた塩基配列データからさらに以下の表13に記載のプライマーを設計、合成し、全塩基配列の決定を行った。
その結果、配列表の配列番号30の配列を得た。この配列は、JT−FAJ−16株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の全塩基配列である。最初のATGの上流には同じ読み枠で翻訳終止コドンが現れるので、これが本遺伝子の翻訳開始コドンであると考えられる。JT−FAJ−16株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子のORFは、1209塩基からなり、402個アミノ酸をコードしていた。このアミノ酸配列を配列表の配列番号31に示す。GENETYX Ver.7を用いて核酸、およびアミノ酸配列の解析を行ったところ、JT−FAJ−16株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子は、JT−ISH−467株およびJT−ISH−224株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子と、それぞれ69.7%および68%の相同性を有していた。またアミノ酸配列でも、それぞれ、64.7%および64.8%の相同性を示した。さらに、JT−FAJ−16株由来α2,3−シアル酸転移酵素のアミノ酸配列は、フォトバクテリウム・ダムセラのα2,6−シアル酸転移酵素(JC5898)と30.5%の相同性、パスツレラ・ムルトシダ亜種ムルトシダ株Pm70の仮定上のタンパク質 PM0188(AAK02272)と27.3%の相同性を示し、遺伝子DNA配列ではそれぞれと、51.2%、48.3%という相同性であった。
(3)発現ベクターの構築
クローン化した遺伝子が、シアル酸転移酵素活性を有するか否かを調べるため、同遺伝子の全長、およびN末端側のシグナルペプチド部分を除去したタイプの遺伝子を発現ベクターに組み込み、大腸菌内でタンパク質を生産させ、この発現タンパク質の活性を測定した。
JT−FAJ−16株由来α2,3−シアル酸転移酵素のアミノ酸配列について、遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7で解析を行ったところ、N末端の22アミノ酸が、シグナルペプチドであると予測された。そこで、遺伝子全長(本実施例においてFAJ−N0C0と表記する)をクローン化するためのプライマーFAJ23STN0−BspHI(配列番号43)、FAJ23STC0−BamHI(配列番号45)、さらにシグナルペプチド部分のアミノ酸が除かれたタイプのタンパク質をコードする遺伝子(本実施例においてFAJ−N1C0と表記する)をクローン化するためのプライマーFAJ23STN1−BspHI(配列番号44)、FAJ23STC0−BamHI(配列番号45)を設計、合成した(表14)。
クローニング用にプライマーに予め組み込んだ制限酵素BspHI(FAJ23STN0−BspHI、FAJ23STN1−BspHI)、BamHI(FAJ23STC0−BamHI)部位を下線で示した。翻訳開始コドンATG、翻訳終止コドンに対応する相補配列TAAを四角で囲んだ。さらに、プライマー配列のうち、鋳型DNAとアニーリングする部分の配列を太字で示した。これらのプライマーを用いてPCRを行い、発現ベクターに組み込むためのJT−FAJ−16株由来α2,3−シアル酸転移酵素遺伝子を増幅した。鋳型DNAは、同遺伝子を含む上記3.6kbのDNA断片を用いた。PCRの反応条件は以下のように設定した。50μlの反応液中に、鋳型DNA 300ng、10× Ex taq buffer 5μl、2.5mM 各dNTP 4μl、プライマー 50pmole、Ex taq(タカラバイオ製) 0.5μlをそれぞれ含み、プログラムテンプコントロールシステムPC−700(ASTEK製)を用いて、96℃ 3分を1回、96℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 2分を10回、72℃ 6分を1回行った。その結果、FAJ−N0C0でおよそ1.2kb、FAJ−N1C0でおよそ1.1kbのPCR産物が増幅された。これらのPCR産物を、TAクローニング用ベクターpCR2.1TOPO(Invitrogen製)に、TAクローニングキット(Invitrogen製)に添付された説明書に従って、クローニングした。大腸菌はTB1を使用した。得られたコロニーから常法でプラスミドを精製し、制限酵素EcoRIでPCR産物のベクターへの導入を確認した。導入の確認されたプラスミドサンプルを、制限酵素BspHIとBamHIで二重消化した後、1.2kb(FAJ−N0C0)または1.1kb(FAJ−N1C0)断片をゲル精製した。これらのDNAサンプルを、予め制限酵素NcoIとBamHIで二重消化した大腸菌発現用ベクターpTrc99Aに、Takara Ligation Kit(タカラバイオ製)を用いてライゲーションし、大腸菌TB1に組み込んだ。常法に従いプラスミドDNAを抽出、制限酵素分析を行いインサートの組み込みを確認し、FAJ−N0C0の代表クローン1つ(FAJ−N0C0第一クローン)ならびにFAJ−N1C0の代表クローン2つ(FAJ−N1C0第一クローンおよびFAJ−N1C0第二クローン)の全塩基配列を確認した。その結果、FAJ−N0C0第一クローンの場合、塩基配列の変異はなく、所望の塩基配列、即ち、配列表の配列番号30のうち、第1番目の塩基から第1209番目の塩基までを含んでいた。一方、FAJ−N1C0の場合、その第一クローンには塩基配列の変異はなく、所望の塩基配列、即ち、配列表の配列番号30うち、第67番目の塩基から第1209番目の塩基までを含んでいた。第二クローンでは、配列番号30の塩基のうち、第631番目のアデニン(A)がグアニン(G)に変化していた。これによりコドンがACAからGCAに変化し、アミノ酸がスレオニン(Thr)からアラニン(Ala)に変化していた。これ以外には塩基置換は存在しなかった。
(4)発現誘導と活性測定
実施例5(5)と同様に、FAJ−N0C0第一クローン、FAJ−N1C0第一クローンおよび第二クローンの3クローンに関して、タンパク質発現誘導実験を行い、酵素活性を測定した。その結果、下記の表15に示すように、FAJ−N0C0第一クローンならびにFAJ−N1C0第一クローンおよび第二クローンの粗酵素液中にシアル酸転移酵素活性が存在することが示された。
(5)α−2,3シアル酸転移活性の確認
実施例5(6)と同様に、FAJ−N0C0第一クローン、ならびに、FAJ−N1C0第一クローンおよび第二クローンの3クローンをそれぞれ大腸菌に導入して酵素を発現させ、ピリジルアミノ化ラクトースを糖受容体として用いる反応により、α−2,3シアル酸転移酵素活性を調べた。大腸菌で発現されたシアル酸転移酵素による反応生成物をHPLCにより分析した結果、いずれのクローンを用いた反応においてもピリジルアミノ化α2,3−シアリルラクトース(ピリジルアミノ化3’−シアリルラクトース)のピークが検出された。この結果から、JT−FAJ−16株由来のシアル酸転移酵素がα−2,3シアル酸転移活性を有することが明らかとなった。

実施例8:各種シアル酸転移酵素タンパク質のアミノ酸配列のマルチアライメント分析
遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7(ゼネティックス社製)を用いて、マルチアライメント分析を行った。その結果、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株由来、フォトバクテリウム属 JT−ISH−224株由来、およびビブリオ属 JT−FAJ−16株由来のα2,3−シアル酸転移酵素(それぞれ配列番号2、29、31)、フォトバクテリウム・ダムセラのα2,6−シアル酸転移酵素(JC5898)、ならびに、パスツレラ・ムルトシダ亜種ムルトシダ株Pm70の仮定上のタンパク質PM0188(AAK02272)は図2のようなアラインメントを示した。なお、JT−ISH−467株由来α2,3−シアル酸転移酵素についての下線は精製タンパク質から決定されたアミノ酸配列を示す。

実施例9:β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の酵素活性の至適pHおよび至適温度
調製した精製酵素を用い、JT−ISH−467株が生産するβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素、ISH467−N2C0第三クローン、ISH224−N1C0第一クローン、およびFAJ−N1C0第一クローンが生産する組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の至適pHおよび至適温度を調べた。
(1)酵素活性の至適pH
酢酸バッファー(pH4.0、pH4.5、およびpH5.0)、カコジル酸バッファー(pH5.0、pH5.5、pH6.0、pH6.5、およびpH7.0)、リン酸バッファー(pH7.0、pH7.5、およびpH8.0)、TAPSバッファー(pH8.0、pH8.5、およびpH9.0)、CHESバッファー(pH9.0、pH9.5、およびpH10.0)、CAPSバッファー(pH10.0、pH10.5、およびpH11.0)を調製し、これを用いて25℃で各pHにおける酵素活性を測定した。
その結果、図3−1および図3−2に示すように、JT−ISH−467株が生産するβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素ではpH5.0において、ISH467−N2C0第三クローンではpH5.5において、ISH224−N1C0第一クローンではpH5.0において、FAJ−N1C0第一クローンではpH5.5において、酵素活性が最大であった。そして、いずれの酵素でもpH5.0〜pH7.0あるいはpH9.0まで高い活性であった。なお、各pHにおける酵素活性は最大活性を示したpHにおける酵素活性を100とする相対活性で示した。
(2)酵素活性の至適温度
JT−ISH−467株が生産するβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素ではpH5.0において、ISH467−N2C0第三クローンではカコジル酸バッファー(pH5.5)を用いて、ISH224−N1C0第一クローンではカコジル酸バッファー(pH5.0)を用いて、FAJ−N1C0第一クローンではカコジル酸バッファー(pH5.5)を用いて、5℃から45℃までの5℃毎の反応温度において、酵素活性を測定した。
その結果、図4−1および図4−2に示すように、JT−ISH−467株が生産するβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素では25℃において、ISH467−N2C0第三クローンでは25℃において、ISH224−N1C0第一クローンでは30℃において、FAJ−N1C0第一クローンでは20℃において、酵素活性が最大であった。そして、いずれの酵素でも15℃あるいは20℃〜30℃あるいは35℃まで高い活性であった。なお、温度における酵素活性は最大活性を示した温度における酵素活性を100とする相対活性で示した。

実施例10:β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の質量分析
フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株が生産するβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素、ならびに、ISH467−N0C0第二クローン、ISH467−N2C0第三クローン、ISH224−N1C0第一クローン、およびFAJ−N1C0第一クローンが生産する組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の精製酵素を、レーザーイオン化飛行時間型質量分析装置(株式会社島津製作所MALDI-TOFMS AXIMA-CFR)によって質量分析した結果、分子量はそれぞれ45,026Da、45,023Da、44,075Da、43,996Da、および43,921Daであった。
ISH467−N2C0第三クローン、ISH224−N1C0第一クローン、およびFAJ−N1C0第一クローンについては、質量分析の結果とアミノ酸配列から推定された分子量は一致した。しかしながら、フォトバクテリウム・フォスフォレウムJT−ISH−467株が生産するβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素、およびISH467−N0C0第二クローンについては、質量分析の結果とアミノ酸配列から推定された分子量は一致しなかった。これは、これらの二つの酵素のアミノ酸配列にリポボックスと呼ばれる共通配列(Leu−Gly−Gly−Cys:配列番号2のアミノ酸残基19〜22)が含まれるため、細菌内で、この共通配列のCysのアミノ末端側で切断され、リポボックス中のCysに脂質が付加されたためとと考えられる(Madan Babu, M. and Sankaran, K., Bioinformatics., 18, 641-643 (2002))。

実施例11:組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の受容体基質特異性(単糖・二糖類・三糖類)の比較
材料および方法
ISH467−N2C0第三クローン組換え大腸菌、ISH224−N1C0第一クローン組換え大腸菌、およびFAJ−N1C0第一クローン組換え大腸菌から調製した菌体破砕液を、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーを用いて電気泳動的に単一バンドまで精製したβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を用いて、各種の単糖、二糖類および三糖類へのシアル酸の転移活性の有無を調べるために、以下の実験を行った。
各種の糖受容体基質を用いたシアル酸転移反応
反応溶液24μl中に、糖供与体基質CMP−14C−NeuAcを含むCMP−NeuAc(21.9nmol、反応溶液中での最終濃度:0.874mM)、20mMカコジル酸緩衝液(pH5.0)で溶解した各種糖受容体基質(1μmol、反応溶液中での最終濃度:42mM)、シアル酸転移酵素(酵素量は表脚注に示した)、NaCl(反応溶液中での最終濃度:500mM)からなる反応溶液を調製し、表脚注の条件で反応した。なお、糖受容体基質として用いた単糖は、メチル−α−D−ガラクトピラノシド(Gal−α−OMe)、メチル−β−D−ガラクトピラノシド(Gal−β−OMe)、メチル−α−D−グルコピラノシド(Glc−α−OMe)、メチル−β−D−グルコピラノシド(Glc−β−OMe)、メチル−α−D−マンノピラノシド(Man−α−OMe)、メチル−β−D−マンノピラノシド(Man−β−OMe)、メチル−α−−フコシノピラノシド(Fuc−α−OMe)、メチル−β−−フコシノピラノシド(Fuc−β−OMe)、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)の10種類を用いた。二糖類として、ラクト−ス(Gal−β1,4−Glc)、N−アセチルラクトサミン(Gal−β1,4−GlcNAc)、メチル−β−D−ガラクトピラノシル−β1,3−N−アセチルグルコサミニド(Gal−β1,3−GlcNAc−β−OMe)、メチル−α−D−ガラクトピラノシル−α1,3−ガラクトピラノシド(Gal−α1,3−Gal−α−OMe)、メチル−β−D−ガラクトピラノシル−β1,3−ガラクトピラノシド(Gal−β1,3−Gal−β−OMe)の5種類を用いた。三糖類として、2’−フコシルラクト−ス(Fuc-α1,2-Galβ1,4-Glc )の1種類を用いた。但し、表18に示す糖鎖、メチル−α−D−ガラクトピラノシル−α1,3−ガラクトピラノシド(Gal−α1,3−Gal−α−OMe)、メチル−β−D−ガラクトピラノシル−β1,3−ガラクトピラノシド(Gal−β1,3−Gal−β−OMe)および2’−フコシルラクト−ス(Fuc-α1,2-Gal-β1,4-Glc)については最終濃度8.4mMで反応させた。
酵素反応終了後、反応溶液に1.98mlの5mMリン酸バッファー(pH6.8)を添加して酵素反応を停止した。その後、5mMリン酸バッファー(pH6.8)で希釈した酵素反応溶液(2ml)を、AG1−×2Resin(PO4 3‐ フォーム、0.2×2cm)カラムに供した。このカラムは、AG1−×2Resin(OH‐form、BIO-RAD社製)を1Mリン酸バッファー(pH6.8)に懸濁し、30分後レジンを蒸留水で洗浄した後、蒸留水に懸濁して作成した。このカラムの溶出液(0〜2ml)の放射活性を測定した。このカラムの溶出液には、反応で生じた14C−NeuAc(N−アセチルノイラミン酸)が結合した反応生成物および未反応の糖受容体基質が含まれるが、未反応のCMP−14C−NeuAcはカラムに保持されたままである。従って、酵素反応の結果生じた各種シアル酸含有糖鎖由来の14Cの放射活性は、全て反応生成物由来であり、この画分の放射活性から酵素活性を算出することができる。
上記の方法を用いて、それぞれの糖受容体基質に転移されたNeuAcの放射活性を測定して転移されたシアル酸を算出した。
結果
今回糖受容体基質として用いた16種類の単糖、二糖、三糖のいずれにも高効率でシアル酸が転移していることが明らかとなった(表16、表17および表18)。なお、各受容体基質に対する相対活性は、ラクトースに対するシアル酸転移活性を100とした値である。
実施例12:組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素の糖タンパク質に対する受容体基質特異性
ISH467−N2C0第三クローン組換え大腸菌、ISH224−N1C0第一クローン組換え大腸菌およびFAJ−N1C0第一クローン組換え大腸菌から調製した菌体破砕液を、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーを用いて電気泳動的に単一バンドまで精製したβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を用いて、糖タンパク質へのシアル酸の転移活性の有無を調べるために、以下の実験を行った。
糖受容体基質として、アシアロフェツインを用いた。2mgのアシアロフェツインを1mlの20mM Bis-tris緩衝液(pH6.0)に溶解させて、糖受容体基質溶液とした。糖供与体基質としてCMP−14C−NeuAcを含むCMP−NeuAcを用いた。糖受容体基質溶液40μl、糖供与体基質5μl(22.8nmol(約19,000cpm))、酵素溶液5μl(いずれも10mU)を混合して、25℃、2時間インキュベートしてシアル酸転移反応を行った。反応終了後、反応溶液を0.1M塩化ナトリウムで平衡化したセファデックスG−50スーパーファイン(0.8x18.0cm)に供して、ゲルろ過を行った。糖タンパク質が含まれるゲルろ過の溶出液画分(2〜4mlの画分)を集め、この画分の放射活性を液体シンチレーションカウンターを用いて測定することで、糖受容体基質に転移したシアル酸の定量を行った。
その結果、表19に示すように、いずれの酵素もアシアロフェツインにシアル酸を転移することが明らかとなった。
実施例13:組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素のPA糖鎖に対する受容体基質特異性
ISH467−N2C0第三クローン組換え大腸菌、ISH224−N1C0第一クローン組換え大腸菌およびFAJ−N1C0第一クローン組換え大腸菌から調製した菌体破砕液を、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーを用いて電気泳動的に単一バンドまで精製したβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を用いて、PA糖鎖へのシアル酸の転移活性の有無を調べるために、以下の実験を行った。
実施例3と同様に、糖受容体としてピリジルアミノ化ラクトース(Galβ1−4Glc−PA、タカラバイオ社製PA−Sugar Chain 026)、ピリジルアミノ化GM1-pentasaccharide(Galβ1-3GalNAcβ1-4(Neu5Acα2-3)Galβ1-4Glc-PA、タカラバイオ社製PA−Sugar Chain 032)およびピリジルアミノ化GD1b-hexasaccharide(Galβ1-3GalNAcβ1-4(Neu5Acα2-8Neu5Acα2-3)Galβ1-4Glc-PA、タカラバイオ社製PA−Sugar Chain 034)を用い、表脚注の条件で、酵素反応を行った。反応終了後、95℃で5分間、反応溶液を熱処理することにより酵素を失活させ、HPLCで分析した。
その結果、PA−Sugar Chain 026を受容体基質にした場合、いずれの酵素においても、PA−Sugar Chain 029標品と同一溶出時間のピークが検出された。同様にして、PA−Sugar Chain 032を受容体基質にした場合にはPA−Sugar Chain 033標品と同一溶出時間のピークが、PA−Sugar Chain 034を受容体基質にした場合、PA−Sugar Chain 036標品と同一溶出時間のピークが、それぞれ検出された。従って、JT−ISH−467株由来、JT−ISH−224株由来およびJT−FAJ−16株由来の組換えβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素は、供試したPA糖鎖の非還元末端にあるガラクトースに、シアル酸をα2,3結合で転移する活性を有することが明らかとなった。
本発明は、新規なβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素およびそれをコードする核酸を提供することにより、生体内において重要な機能を有することが明らかにされてきている糖鎖の合成・生産手段を提供する。特に、シアル酸は、生体内の複合糖質糖鎖において非還元末端に存在することが多く、糖鎖機能という観点から極めて重要な糖であるため、シアル酸転移酵素は糖転移酵素の中でも最も需要が高い酵素の一つである。本発明の新規なシアル酸転移酵素は、糖鎖を応用した医薬品、機能性食品等の開発に利用することが可能である。

Claims (16)

  1. 配列番号2、配列番号2のアミノ酸残基22−409、配列番号29、配列番号29のアミノ酸残基25−409、配列番号31、および、配列番号31のアミノ酸残基23−402からなる群より選択されるアミノ酸配列を含んでなる、単離されたタンパク質。
  2. 配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列と少なくとも90%以上の相同性を有する核酸によってコードされ、そして、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有する、単離されたタンパク質。
  3. 配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列を含んでなる核酸によってコードされ、そして、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有する、単離されたタンパク質。
  4. 配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含む核酸によってコードされ、そして、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有する、単離されたタンパク質。
  5. ビブリオ科微生物由来である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の単離されたタンパク質。
  6. 配列番号2、配列番号2のアミノ酸残基22−409、配列番号29、配列番号29のアミノ酸残基25−409、配列番号31、および、配列番号31のアミノ酸残基23−402からなる群より選択されるアミノ酸配列を含んでなるタンパク質をコードする、単離された核酸。
  7. 配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列と少なくとも90%の相同性を有する単離された核酸であって、該核酸はβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質をコードする、前記単離された核酸。
  8. 配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列を含んでなる単離された核酸。
  9. 配列番号1、配列番号1の塩基64−1230、配列番号28、配列番号28の塩基73−1230、配列番号30、および、配列番号30の塩基67−1209からなる群より選択される塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含む単離された核酸であって、該核酸はβ−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質をコードする、前記単離された核酸。
  10. 請求項ないしのいずれか1項に記載の核酸を含んでなる組換えベクター。
  11. 請求項10に記載の組換えベクターで形質転換した宿主細胞。
  12. 請求項1ないしのいずれか1項に記載のタンパク質を発現するビブリオ科の単離された微生物。
  13. フォトバクテリウム・フォスフォレウム JT−ISH−467株(寄託番号NITE BP−88)、フォトバクテリウム属(Photobacterium sp.) JT−ISH−224株(寄託番号NITE BP−87)、または、ビブリオ属(Vibrio sp.) JT−FAJ−16株(寄託番号NITE BP−98)である、請求項12に記載の微生物。
  14. β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質の製造方法であって、以下の工程:
    1)請求項12または13に記載の微生物を培養し;
    2)培養した微生物または培養上清から、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素を単離する;
    ことを含んでなる、前記製造方法。
  15. β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有する組換えタンパク質の製造方法であって、以下の工程:
    1)請求項ないしのいずれか1項に記載の核酸を含んでなる組換えベクターで宿主細胞を形質転換し;
    2)形質転換した当該宿主細胞を培養し;そして、
    3)培養した宿主細胞または培養上清から、β−ガラクトシド−α2,3−シアル酸転移酵素活性を有するタンパク質を単離する;
    ことを含んでなる、前記製造方法。
  16. シアリル糖鎖の製造方法であって、
    (i)請求項1ないしのいずれか1項に記載のタンパク質、糖供与体基質、および糖受容体基質を含む溶液を調製し;
    (ii)当該溶液においてシアル酸転移反応を行い;そして
    (iii)反応溶液から生成したシアリル糖鎖を得る;
    ことを含んでなる、前記方法。
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