JP4854901B2 - 製紙方法 - Google Patents
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Description
本発明は製紙方法および該方法におけるデンプンの使用に関する。
【0002】
紙の強度特性を増すためには、製紙プロセスのウェットエンド(wet-end)段階でカチオン性デンプンを加えることが慣例である。製紙プロセスのウェットエンドとは、再生された古紙、木、コットンまたは代替源のようなセルロースベース物質から得られる繊維のパルプが加工される、製紙プロセスの段階に関する。“ウェットエンド”という用語は多量の水に由来しており、その存在下でパルプが加工される。
【0003】
最近、紙により多くのデンプンを要するいくつかの傾向が製紙業界にはある。これらの傾向のうち1つは再生紙への環境上の要求である。紙が再生されると、紙の繊維は短くて弱くなりがちであり、後者は繊維間の相互作用の減少のせいである。結果的に、十分に強い紙を生産するためには、デンプンの増量が製紙のウェットエンドで必要になる。紙が何回か再生された後では、再生に起因した強度の喪失がデンプンを単に加えるだけでいつも補えるわけではないことがわかった。そのため、再生は紙強度の劣った紙をやがてもたらす。
【0004】
もう1つの傾向は安い紙を生産したいという渇望である。これは多量の安いフィラーを紙に配合することで行える。しかしながら、紙でフィラー含有量が多いと、紙強度の劣化を招くため、ウェットエンドで増量させたデンプンの添加を要する。
【0005】
更にもう1つの傾向は、製紙プロセスで用いられる装置の変更に関する。従来用いられていたサイズプレスは、プレメーターリング(premetering)サイズプレスにますます多く代えられている。プレメーターリングサイズプレスの使用は、従来のサイズプレスが用いられたときよりも少なくデンプンが紙シート中に浸透する、という結果を多々生じる。結果的に、紙の強度へおよぼすデンプンの効果は小さくなる。更に、プレメーターリングサイズプレスの着色向け使用は、紙の内部強度を更に一層低下させる。そのため、より多くのデンプンを紙に配合して、紙の強度増加をもたらすことが望まれている。この点に関して、増量したデンプンが製紙プロセスのウェットエンドで加えられたときには、上記デンプンの高い保持性が得られることが特に重要である。つまり、多量のデンプンが実際に紙中に配合されて、パルプのプロセス水で失われないことが重要である。
【0006】
“アニオン性デンプン:紙強度を向上させる上で効果的なウェットエンド概念”,Proceedings of the PITA Annual Conference,87-91,Manchester,October 1997,J.Terpstra and R.P.Versluijsでは、生産された紙の内部強度を高めるために、製紙プロセスのウェットエンドで強化剤としてカチオン性デンプンの代わりにアニオン性デンプンを用いることを提案している。アニオン性デンプンを用いるというこの概念は、P.H.Brouwer,Wochenblatt fur Papierfabrikation,19(1997),928-937、WO‐A‐93/01353およびWO‐A‐96/05373にも記載されており、次のように説明される。
【0007】
紙を生産するために用いられる繊維およびフィラー粒子は負に荷電している。カチオン性デンプンが紙強化剤として用いられたとき、その保持は正に荷電したデンプンと負に荷電した繊維およびフィラー粒子との相互作用により主に行われる。アニオン性繊維およびフィラー粒子上にアニオン性デンプン分子を付着させるためには、いわゆるカチオン性固定剤が用いられる。特に、いかなるカチオン性紙助剤もアニオン性デンプン用の固定剤として用いうるが、一部は他よりも良い結果をもたらす。ポリアルミウムクロリドは安価であって水硬度によりほとんど影響されないため、非常に魅力ある固定剤とみなされている。この点で固定剤として使用が提案された他の物質は、特にミョウバンまたはカチオン性ポリマー、例えばポリジメチルジアリルアンモニウムクロリドおよびポリアミンである。
【0008】
適切な固定剤と一緒にアニオン性デンプンを用いることにより、カチオン性デンプンのみが強化剤として用いられる場合と比較して、紙シート中へ5倍もの多くのデンプンを配合することが可能とわかった。もちろん、これはかなり強い紙シートをもたらす。同時に、製紙プロセスにおけるデンプンの保持性は、アニオン性デンプンおよび固定剤がカチオン性デンプンの代わりに用いられたときにかなり高い。
【0009】
製紙プロセスのウェットエンドでカチオン性デンプンに代わるアニオン性デンプンの使用の欠点は、固定剤を用いる必要性にある。当業界で提案された固定剤の一部はたとえ比較的安いとしても、生産される紙のコストは固定剤の使用のせいで著しく増すおそれがある。しかも、固定剤はカチオン性化合物であるため、アニオン性対イオンが固定剤と一緒に紙へ加えられることが避けられない。多くの場合、対イオンは腐食性の塩化物イオンである。更に、固定剤の使用はプロセス水の硬化および塩の生成につながり、他の製紙助剤を妨げることがある。
【0010】
したがって、製紙プロセスのウェットエンドで添加により紙中へ配合されうるデンプンの量を増す別法を用意する必要性がある。この別法は上記の欠点を有しないことが好ましい。固定剤の使用は省けることが特に望ましい。
【0011】
意外にも、製紙プロセスのウェットエンドで特定タイプの架橋デンプンを用いることにより、上記の目的は達成しうることがわかった。よって、ウェットエンドで架橋デンプンがセルロースベース繊維の水性懸濁液へ加えられて、該デンプンが、300rpmでFANN粘度として測定されたときに50mPas以下、好ましくは25mPas以下の架橋度、および2.5以下、好ましくは0.5以下のFANN‐A値を有している、製紙方法に、本発明は関する。
【0012】
添加剤の使用なしではこれまで不可能であった、製紙プロセスのウェットエンドでのデンプンの添加により紙中へ多量のデンプンを配合するための手段が提供されたことが、本発明の大きな利点である。更に、本発明に従い製紙プロセスのウェットエンドで加えられたデンプンの保持性は、従来のプロセスと比較して著しく高い。更に、加えられたデンプンがアニオン性デンプンである場合には、固定剤を加える必要性のないことがわかった。
【0013】
本発明によるプロセスで用いられる架橋デンプンは、ポテト、タピオカ、メイズ、小麦、大麦などからのデンプンのように、原則としていかなるタイプのデンプンでもよい。しかしながら、根または塊茎デンプンが用いられることが好ましい。これらのタイプのデンプンは、通常、穀物および果実タイプのデンプンよりも少ない量の脂質およびタンパク質を含有している。その結果、臭気および泡立ちに関する問題のリスクは減る。ポテトおよびタピオカデンプンが特に適切であるとわかった。
【0014】
好ましい態様において、デンプンは、デンプンの乾燥物質ベースで、少くとも95wt%、更に好ましくは少くとも98wt%のアミロペクチンを含んでいる。これらアミロペクチンタイプのデンプンの使用は、紙でデンプンの保持性を一層高めることがわかった。
【0015】
ほとんどのデンプンタイプは、2つのタイプのグルコースポリマーが存在する顆粒からなる。これらはアミロース(乾燥物質ベースで15〜35wt%)およびアミロペクチン(乾燥物質ベースで65〜85wt%)である。アミロースは、デンプンタイプに応じて1000〜5000の重合平均度を有する未分岐の、または、やや分岐した分子からなる。アミロペクチンは、1,000,000以上の平均重合度を有する、非常に大きくて、高度に分岐した分子からなる。商業上最も重要なデンプンタイプ(メイズデンプン、ポテトデンプン、小麦デンプンおよびタピオカデンプン)は15〜30wt%のアミロースを含有している。
【0016】
一部の穀物タイプの中には、例えば、大麦、メイズ、アワ、小麦、ミロ、コメおよびモロコシの中には、デンプン顆粒がほぼ完全にアミロペクチンからなる品種がある。乾燥物質ベースで重量%として計算すると、これらのデンプン顆粒は95%以上、通常98%以上のアミロペクチンを含有している。そのため、これら穀物デンプン顆粒のアミロース分は5%以下、通常2%以下である。上記の穀物品種はワキシー穀物粒とも称され、そこから単離されたアミロペクチン‐デンプン顆粒はワキシー穀物デンプンと称される。
【0017】
様々な穀物の状況とは対照的に、デンプン顆粒がほぼ排他的にアミロペクチンからなる根および塊茎品種は自然界では知られていない。例えば、ポテト塊茎から単離されたポテトデンプン顆粒は(乾燥物質ベースで重量%として)約20%アミロースおよび80%アミロペクチンを通常含有している。しかしながら、過去10年間にわたり、ポテト塊茎では(乾燥物質ベースで)95wt%以上のアミロペクチンからなるデンプン顆粒を形成する遺伝子修飾ポテト植物により、栽培する試みがうまく行われてきた。実質的にアミロペクチンのみからなるポテト塊茎を生産することすら実現可能とわかった。
【0018】
デンプン顆粒の形成に際しては、様々な酵素が触媒活性である。これらの酵素の中で、顆粒結合デンプンシンターゼ(GBSS)はアミロースの形成に関与する。GBSS酵素の存在は、該GBSS酵素についてコードする遺伝子の活性に依存する。これらの特定遺伝子の発現の欠失または阻害により、GBSS酵素の生産が抑制または制限される。これら遺伝子の欠失は、ポテト植物物質の遺伝子修飾または劣性変異により行える。その例はポテトのアミロースフリー変異体(amf)であり、GBSS遺伝子で劣性変異によりデンプンがアミロペクチンのみを実質的に含有している。この変異技術は、特にJ.H.M.Hovenkamp-Hermelink et al.,”Isolation of amylose-free starch mutant of the potato(Solanum tuberosum L.)”,Theor.Appl.Gent.,(1987),75:217-221およびE.Jacobsen et al.,”Introduction of an amylose-free(amf) mutant into breeding of cultivated potato,Solanum tuberosum L.)”,Euphytica,(1991),53:247-253で記載されている。
【0019】
ポテトでGBSS遺伝子の発現の欠失または阻害は、いわゆるアンチセンス阻害を用いることでも可能である。ポテトのこの遺伝子修飾はR.G.F.Visser et al.,”Inhibition of the expression of the gene for granule-bound starch synthase in potato by antisence constructs”,Mol.Gen.Genet.(1991),225:289-296で記載されている。
【0020】
遺伝子修飾を用いることにより、デンプン顆粒がアミロースをほとんどまたは全く含有していない根および塊茎、例えばポテト、ヤムイモまたはカッサバを栽培および育成することが可能とわかった(南アフリカ特許97/4383)。ここで言及されているように、アミロペクチン‐ポテトデンプンはポテト塊茎から単離されたポテトデンプン顆粒であって、乾燥物質ベースで少くとも95wt%のアミロペクチン分を有している。このアミロペクチン‐ポテトタイプデンプンが本発明で使用上特に好ましい。
【0021】
上記のように、本発明の重要な面は、デンプンが架橋されていることである。原則的に、デンプンの誘導に関して知られたいかなる架橋も適切である。公知の架橋反応の概要から、O.B.Wurzburg(Ed.),”Modified Starches: Properties and Use”(修飾デンプン:性質および使用),CRC Press Inc.,Boca Eaton,Florida,1986が参照される。デンプンを架橋するのに好ましい剤は、エピクロロヒドリン、ジクロロプロパノール、トリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リン、無水アジピン酸およびそれらの組合せである。
【0022】
架橋が行われる反応はそれ自体公知であり、いかなる公知の手法で行ってもよい。架橋を行う上で適した手法の例には、半乾燥または乾燥条件下で、デンプンの水性またはアルコール懸濁物中、またはデンプンの水溶液中における反応がある。乾燥条件下で、リン酸またはその塩との反応によるか、またはトリポリリン酸ナトリウム、トリメタリン酸ナトリウムのようなオリゴマーリン酸塩により、架橋が行える。架橋はいわゆる熱‐水分処理またはアニーリングにより行ってもよい。
【0023】
架橋の程度は、本発明によると、そのFANN粘度およびそのFANN‐A値に関して規定される。用いられるデンプンは、300rpmで50mPas以下、好ましくは25mPas以下のFANN粘度を示す。デンプンのFANN‐A値は2.5以下、好ましくは0.5以下である。
【0024】
FANN粘度は、本発明によると、American Petroleum Institute(API)13B1,second edition,September 1997,section 4.3で記載されているように、FANN粘度計で測定される粘度として規定される。上記の粘度は、測定すべき溶液または懸濁液を攪拌するために装置が設定されるrpm値(回/min、攪拌の度数)、および異なるrpm値で粘度を測定することにより求められる2つの定数(Aおよびp)に依存する。
【0025】
デンプン溶液および懸濁液のレオロジーは、特にR.Schutz,Starch,1963,pp.394-400で記載されている。この文献から、(非ニュートン)デンプン溶液の見かけ粘度に関して下記式が導かれる:
粘度=A*rpm(1-p)
この式において、‘粘度’とは測定されるFANN粘度であり、AはFANN‐A値(ニュートン液体の粘度mPa.s)であり、pはニュートン粘度挙動からの偏差を表わし(ニュートン粘度挙動の場合p=0)、rpmは測定が行なわれるrpm値を表わす。
【0026】
本発明に従い用いられるデンプンには、カチオン性、アニオン性、ノニオン性または両性がある。デンプンをカチオン性、アニオン性、ノニオン性または両性にするために修飾が必要であるならば、この修飾はデンプンの架橋前、中または後に行われる。この点においてデンプンの適切な誘導体は、例えばノニオン性またはカチオン性置換基がエーテル化またはエステル化反応、例えばメチル化、エチル化、ヒドロキシエチル化、ヒドロキシプロピル化、アルキルグリシジル化(アルキル鎖の長さは1〜20炭素原子である)、アセチル化、プロピル化、カルバ‐イミド化、ジエチルアミノエチル化および/またはトリメチルアンモニウムヒドロキシプロピル化により導入されたデンプンである。可能な修飾およびそれらが行われる方法の記載は、Wurzburgによる前記の本でみられる。
【0027】
アニオン性デンプンは、本発明によると、少くとも−0.03μeq/mgの電荷密度を有するデンプンとして規定される。意外にも、固定剤を用いなくとも、本発明に従い架橋アニオンタイプデンプンを製紙プロセスのウェットエンドに加えることにより、紙へ非常に多量のデンプンを配合することが可能であるとわかった。本発明の関係において、電荷密度とは、当量点へ達する上で、既知量の溶解デンプンへ加えられねばならないカチオン性ポリマー(メチルグリコールキトサンヨージド、Sigma M-3150)の量として規定される。この当量点は、シリケート粒子が指示薬として加えられた分散液の電気泳動ゼータ電位を測定することにより求められる。ゼータ電位は、例えばMalvern Zetasizer 3を用いることにより測定しうる。
【0028】
アニオン性デンプンの例は、アニオン性置換基の導入により、またはデンプンの誘導化に関して知られたいずれかの酸化プロセスにより得られる。アニオン性置換基の適切な例は、ホスフェート、ホルホネート、スルホネート、サルフェート、(アルキル)サクシネート、スルホサクシネート、アニオン性グラフトコポリマーおよびそれらの組合せである。適切な酸化の例は、次亜塩素酸塩による酸化である。好ましくは、カルボキシメチルまたはリン酸化デンプンが用いられる。デンプンでグルコース単位の置換ヒドロキシル基の量とデンプンでグルコース単位の量とのモル比である置換度(DS)は、0.005〜0.5、好ましくは0.01〜0.2、更に好ましくは0.01〜0.1の範囲である。
【0029】
用いられるアニオン性デンプンおよびパルプのタイプ、および製紙プロセスの条件に応じて、少量の固定剤を用いることが有用なこともある。本発明によると、適切な固定剤は正に荷電した化合物であり、これはアニオン性紙繊維およびフィラー粒子へアニオン性デンプンを結合させうる。原則的に、製紙プロセスのウェットエンドでアニオン性デンプン用の固定剤として使用が提案されたいかなるカチオン性化合物も用いうる。
【0030】
例として、ミョウバン、カチオン性デンプンまたはその誘導体、ポリアルミニウム化合物、およびカチオン性ポリマー、例えばポリジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ポリアミン、ポリビニルアミン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド重縮合物、または他の高分子量カチオン性ポリマーまたはコポリマー、例えば四級化窒素原子を有するもの、またはポリビニルアルコール、およびそれらの組合せがある。このようなカチオン性ポリマーは、好ましくは、少くとも約10,000、好ましくは少くとも約50,000、更に好ましくは少くとも100,000の重量平均分子量を有するべきである。好ましい態様において、カチオン性ポリマーは、約50,000〜約2,000,000の重量平均分子量を有している。
【0031】
好ましくは、高電荷密度を有する固定剤が用いられる。この点において、1μeq/mg以上の電荷密度が高電荷密度とみなされる。固定剤の電荷密度とは、当量点に達する上で、既知量の固定剤(典型的には、脱塩水500ml中で数mlの固定剤)へ加えられねばならないアニオン性ポリマー(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、Aldrich cat.no.24,305-1)の量として規定される。この当量点は、シリケート粒子が指示薬として加えられた分散液の電気泳動ゼータ電位を測定することにより求められる。ゼータ電位は、例えばMalvern Zetasizer 3を用いることにより測定しうる。高電荷密度を有した固定剤の使用は、プロセス水の硬度および導電率に対する製紙プロセスの影響されやすさを減少させることがわかった。高電荷密度を有した好ましい固定剤は、ポリアルミニウム化合物、例えばポリアルミニウムクロリドまたはポリアルミニウムサルフェート、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ポリアミンおよびそれらの組合せである。
【0032】
通常、固定剤の重量対アニオン性デンプンの重量の比率は、無機固定剤の場合で1:1以下、有機固定剤の場合で1:4以下である。好ましくは、その比率は1:6より小さい。ウェットエンドで紙繊維に加えられたデンプンを十分に吸着させることが可能であるならば、固定剤は用いないことが好ましい。この点において、吸着と保持とは区別されるべきである。保持とは、ウェットエンドで加えられて、最終的に紙へ配合されるデンプンの量に関するが、吸着とは、ウェットエンドで加えられて、ウェットエンドでパルプ中の紙繊維へ吸着されるデンプンの量に関する。当業者であれば、周辺の状況に合わせて固定剤の量を調整しうる。通常、少くとも60%、好ましくは少くとも80%、更に好ましくは少くとも90%のアニオン性デンプンの吸着であれば十分と考えられる。少くとも50%、好ましくは少くとも65%、更に好ましくは少くとも75%の値を有していれば、保持は通常十分と考えられる。
【0033】
本発明によるノニオン性または両性デンプンは、−0.03〜+0.03μeq/mgの電荷密度を有するデンプンである。この点で適切な両性デンプンは、例えば、カチオン性置換基がアニオン性置換基と組み合わされた架橋デンプンである。カチオン性置換基はエーテル化またはエステル化反応、例えばジエチルアミノエチル化、トリメチルアンモニウムヒドロキシプロピル化、ジメチルアルキルアンモニウムヒドロキシプロピル化またはそれらの組合せにより導入される。アニオン性置換基の適切な例は、例えばホスフェート、ホルホネート、サルフェート、スルホサクシネート、(アルキル)サクシネート、アニオン性コポリマーおよびそれらの組合せである。酸化反応でアニオン性置換基を導入することも可能である。適切な酸化は次亜塩素酸塩による酸化である。両性デンプンに適した架橋剤は、エピクロロヒドリン、ジクロロプロパノール、トリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リン、無水アジピン酸およびそれらの組合せである。アニオン性置換基、カチオン性置換基および架橋の導入のための反応順序は、いかなる順序でも自由に選択しうる。
【0034】
用いられる両性デンプンおよびパルプのタイプ、および製紙の条件に応じて、架橋アニオン性デンプンに関して前記されたように少量の固定剤を用いると有用なこともある。固定剤を用いなくとも、製紙プロセスのウェットエンドへ、本発明に従い、架橋両性タイプデンプンを加えることにより、非常に多量のデンプンを配合することが可能であるとわかった。
【0035】
本発明によるカチオン性デンプンは、少くとも+0.03μeq/mgの電荷密度を有するデンプンである。この点で適切なカチオン性デンプンは、例えば、カチオン性置換基がエーテル化またはエステル化反応、例えばジエチルアミノエチル化、トリメチルアンモニウムヒドロキシプロピル化、ジメチルアルキルアンモニウムヒドロキシプロピル化またはそれらの組合せにより導入された架橋デンプンである。ノニオン性置換基は、メチル化、エチル化、ヒドロキシエチル化、ヒドロキシプロピル化、アルキルグリシジル化(アルキル鎖の長さは1〜20炭素原子である)、アセチル化、プロピル化またはカルバ‐イミド化およびそれらの組合せのような反応により、カチオン性デンプン中へ導入されうる。カチオン性デンプン用に適した架橋剤は、エピクロロヒドリン、ジクロロプロパノール、トリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リン、無水アジピン酸およびそれらの組合せである。ノニオン性置換基、カチオン性置換基および架橋の導入のための反応順序は、いかなる順序でも自由に選択しうる。高い導電率および硬度のパルプであっても、製紙プロセスのウェットエンドへ、本発明に従い、架橋されたカチオン性アミロペクチン根または塊茎デンプン、好ましくはポテトデンプンを加えることにより、非常に多量のデンプンを配合することが可能であるとわかった。そのため、特に、比較的硬い水が用いられる製紙プロセスは、本発明のこの態様のとき有利である。
【0036】
本発明によるプロセスで製紙に用いられるパルプは、紙を作るために用いうるセルロースベース繊維のいかなる水性懸濁液でもよい。アニオン性デンプンおよび場合により固定剤がそのパルプへ加えられた後、パルプはいずれか公知の手法で紙へ加工される。
【0037】
製紙プロセスにおいて、架橋デンプンまたはそのデンプンの誘導体、および場合により固定剤がプロセスのウェットエンドで加えられる。これは、再生紙または木および水から得られる繊維を含有したパルプへ加えられることを意味する。パルプへフィラー化合物を加えることが慣例である。本発明によると、粘土、重質CaCO3、沈降CaCO3、タルクまたは二酸化チタンのように、いかなる慣用的フィラー化合物も用いてよい。好ましくは、フィラー化合物はデンプンおよび場合により固定剤の添加前にパルプへ加えられる。本発明に従い、カチオン性、無機またはポリマー凝固剤と一緒に架橋デンプンをパルプヘ加えることも更に可能である。こうして得られた懸濁液は、アニオン性膨潤粘土または他のアニオン性保持助剤により凝集させてもよい。常用される保持助剤は、HydrocolおよびComposilの名で市販されている微小系である。
【0038】
本発明は次に下記の非制限例により説明される。
例1‐HD990205‐1の調製
水85ml中尿素30gおよびリン酸(85%)31.1gの溶液を50%NaOHでpH6.0に中和した。この溶液をHobartミキサーで30分間かけてポテトデンプン(水分20%)600gと混合した。混合物を平衡化させてから、Retsch流体床乾燥機において60℃で30分間および90℃で30分間乾燥させた。混合物を流体床反応器において140℃で30分間にわたり加熱した。
【0039】
例2‐HD990205‐4の調製
水85ml中尿素30gおよびリン酸(85%)31.1gの溶液を50%NaOHでpH6.0に中和した。この溶液をHobartミキサーで30分間かけてポテトデンプン(水分20%)600gと混合した。混合物を平衡化させてから、Retsch流体床乾燥機において60℃で30分間および90℃で30分間乾燥させた。混合物を流体床反応器において160℃で30分間にわたり加熱した。
【0040】
例3‐MS980818Aの調製
水85ml中尿素30gおよびリン酸(85%)31.1gの溶液を50%NaOHでpH6.0に中和した。この溶液をHobartミキサーで30分間かけてアミロペクチンポテトデンプン(水分20%)600gと混合した。混合物を平衡化させてから、Retsch流体床乾燥機において60℃で30分間および90℃で30分間乾燥させた。混合物を流体床反応器において140℃で30分間にわたり加熱した。
【0041】
例4‐MS980818Dの調製
水85ml中尿素30gおよびリン酸(85%)31.1gの溶液を50%NaOHでpH6.0に中和した。この溶液をHobartミキサーで30分間かけてアミロペクチンポテトデンプン(水分20%)600gと混合した。混合物を平衡化させてから、Retsch流体床乾燥機において60℃で30分間および90℃で30分間乾燥させた。混合物を流体床反応器において155℃で30分間にわたり加熱した。
【0042】
例5‐Fann粘度の測定
脱塩水150gにサンプル8.0g(乾燥重量)を懸濁させることにより、FANN粘度を測定した。温度を35℃に調整した後、50%KCSN溶液250mlを加え、35℃で15分間攪拌することによりデンプンサンプルを溶解させた。粘度をFann粘度計で100、200、300および600rpmで測定した。Fann‐AおよびFann‐p値を下記式から計算した:
粘度=A*rpm(1-p)
結果は表1で示されている。
【0043】
例6‐固形パルプ成分へのデンプンの吸着を次のように調べた。
パルプ(1%の粘稠度)へデンプン(粘稠度で3%の投入分)を加えた。パルプをバッフルビーカー中800rpmで攪拌した。30秒後に固定剤を加え、60秒後にパルプを濾過した。濾液中で非吸着デンプンの量を測定することにより、デンプン吸着を調べた。パルプは、Hollanderを用いて水道水中2%の粘稠度で(21℃で測定すると)34°SRまで打ち延ばされたバーチ(birch:シラカンバ)サルフェートパルプであった。打ち延ばした後、パルプを水道水で1%の粘稠度まで希釈した。パルプの導電率は3000μS/cm、硬度はCaCl2およびNa2SO4の組合せにより40°GHに設定した。
【0044】
水道水中10%スラリーから出発して、デンプンをライフスチームで調理した。調理後に、デンプン溶液を1%まで希釈した。用いられる固定剤は(Sachtleben Chemie GmbH,Germanyから得られる)Paper Pac Nおよび(Ciba Specialty Chemicals,United Kingdomから得られる)Starfix 01であった。使用前に、Paper Pac Nを脱塩水で10倍希釈した。
【0045】
Starfix 01を1%溶液として溶解させた。濾液中デンプンの量を酵素法で調べた。この方法によると、デンプンはα‐アミラーゼおよびアミログルコシダーゼでグルコースへ最初に変換される。次いで、ヘキソキナーゼ試験法(Boehringer no.716251)を用いてグルコースの量を分光測定する。デンプンの量は、酵素によるデンプンからグルコースへの不完全な変換に関する補正ファクターを用いて、得られたグルコースの量から計算する。この補正ファクターはデンプンのタイプに依存しており、標準法で別々に調べた。
【0046】
例1〜4に従い調製されたデンプンに関するデンプン吸着の概要は、固定剤としてPaper Pac Nの場合は表2で、および固定剤としてStarfix 01の場合は表3で示されている。
双方の表から、アニオン性デンプンに架橋を導入することにより、必要な固定剤の量は著しく減ることがわかる。
【0047】
例7‐HD990813‐2の調製
水85ml中尿素30gおよびリン酸(85%)31.1gの溶液を50%NaOHでpH6.0に中和した。この溶液をHobartミキサーで30分間かけてカチオン性アミロペクチンポテトデンプン(Posamyl-XL、水分20%)600gと混合した。混合物を平衡化させてから、Retsch流体床乾燥機において60℃で30分間および90℃で30分間乾燥させた。混合物を流体床反応器において145℃で30分間にわたり加熱した。
【0048】
例9‐HD990813‐4の調製
水85ml中尿素30gおよびリン酸(85%)31.1gの溶液を50%NaOHでpH6.0に中和した。この溶液をHobartミキサーで30分間かけてカチオン性アミロペクチンポテトデンプン(Posamyl-XL、水分20%)600gと混合した。混合物を平衡化させてから、Retsch流体床乾燥機において60℃で30分間および90℃で30分間乾燥させた。混合物を流体床反応器において160℃で30分間にわたり加熱した。
【0049】
例10‐HD990820‐2の調製
水85ml中尿素30gおよびリン酸(85%)31.1gの溶液を50%NaOHでpH6.0に中和した。この溶液をHobartミキサーで30分間かけてカチオン性ポテトデンプン(Amylofax-PW、水分20%)600gと混合した。混合物を平衡化させてから、Retsch流体床乾燥機において60℃で30分間および90℃で30分間乾燥させた。混合物を流体床反応器において145℃で30分間にわたり加熱した。
【0050】
例11‐HD990820‐4の調製
水85ml中尿素30gおよびリン酸(85%)31.1gの溶液を50%NaOHでpH6.0に中和した。この溶液をHobartミキサーで30分間かけてカチオン性ポテトデンプン(Amylofax-PW、水分20%)600gと混合した。混合物を平衡化させてから、Retsch流体床乾燥機において60℃で30分間および90℃で30分間乾燥させた。混合物を流体床反応器において160℃で30分間にわたり加熱した。
【0051】
例12‐Fann粘度の測定
例8〜11で記載された両性デンプンのFann粘度を例5に従い測定した。結果は表4で示されている。
【0052】
例13‐固形パルプ成分への両性デンプンの吸着を例6に従い測定した。
両性デンプンに関するデンプン吸着の概要は、固定剤としてPaper Pac Nの場合は表5で、および固定剤としてStarfix 01の場合は表6で示されている。
双方の表から、両性デンプンに架橋を導入することにより、必要な固定剤の量は著しく減ることがわかる。
【0053】
例13‐HD980417‐0の調製
アミロペクチンポテトデンプン1.0kg(乾燥物0.81kg)を水1.0kgに懸濁した。懸濁物の温度を35℃に上昇させた。65%活性物質を含有した3‐クロロ‐2‐ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド溶液57.9gを加えた。最後に、4.4%水酸化ナトリウム溶液410gを加えた。20時間後に、反応混合液を6N HClの添加によりpH4.0に中和し、次いで生成物を脱水して、乾燥前に洗浄した。
【0054】
例14‐HD980417‐1の調製
アミロペクチンポテトデンプン1.0kg(乾燥物0.81kg)を水1.0kgに懸濁した。懸濁物の温度を35℃に上昇させた。65%活性物質を含有した3‐クロロ‐2‐ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド溶液57.9g、次いで水8mlに溶解されたトリメタリン酸ナトリウム400mgを加えた。最後に、4.4%水酸化ナトリウム溶液410gを加えた。20時間後に、反応混合液を6N HClの添加によりpH4.0に中和し、次いで生成物を脱水して、乾燥前に洗浄した。
【0055】
例15‐Fann粘度の測定
例13〜14で記載されたカチオン性アミロペクチンデンプンのFann粘度を例5に従い測定した。結果は表7で示されている。
【0056】
例16‐カチオン性デンプンの性能を動的廃液分析器(DDA)による実験で評価した。
この装置は、パルプを脱水するために適用した加圧下で測定することにより、パルプの脱水時間を調べる。脱水が完了したときにおける真空状態の特徴的降下が、脱水時間として示される。各実験でパルプ500gを用いた。実験に際して、パルプを2000rpmで攪拌した。攪拌の開始時をt=0とするならば、デンプン(繊維の3%)をt=10秒の時点で加え、脱水をt=60秒の時点で始める。ワイヤ水の濾液を、非吸着デンプンの量を調べるために用いた。この量は前記の方法に従い酵素学的に調べた。パルプは例6で記載されたようなシラカンバサルフェートパルプであった。パルプは、いずれも水道水中(500μS/cmおよび11°GH)、3000μS/cm導電率および80°GHの硬度において、1%粘稠度で用いた。水道水中10%スラリーから出発して、デンプンをライフスチームで調理した。調理後に、デンプン溶液を1%まで希釈した。例13および14に従い調製されたデンプンを、National Starch製の市販カチオン性架橋ワキシーメイズ誘導体(Microcat 130)と比較した。結果は表8で記載されている。
【0057】
結果から、架橋カチオン性デンプンの適用は高い導電率および硬度のパルプで好ましいことがわかる。更に、架橋カチオン性アミロペクチンポテトデンプンは、ワキシーメイズ誘導体と比較して、高いパルプ導電率および高い水硬度にさほど影響されない。アミロペクチンポテトデンプンでこの改善された性能はリン酸基の存在から生じており、部分的両性挙動をもたらす。
Claims (9)
- ウェットエンドで、架橋デンプンがセルロースベース繊維の水性懸濁液へ加えられて、該デンプンが、300rpmでFANN粘度として測定されたときに50mPas以下の架橋度、および2.5以下のFANN‐A値を有しており、且つ、該デンプンが、アニオン性デンプンである、製紙方法。
- 架橋度が25mPas以下である、請求項1に記載の方法。
- FANN‐A値が0.5以下である、請求項1または2に記載の方法。
- デンプンが根または塊茎デンプンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- デンプンがポテトまたはタピオカデンプンである、請求項4に記載の方法。
- デンプンが、デンプンの乾燥物質ベースで、少くとも95wt%のアミロペクチンを含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- デンプンが、エピクロロヒドリン、ジクロロプロパノール、トリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リン、無水アジピン酸またはそれらの組合せを用いて架橋されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載された方法により得られる紙。
- 製紙プロセスのウェットエンドで加えられるデンプンの保持性を増加させるための、300rpmでFANN粘度として測定されたときに50mPas以下の架橋度、および2.5以下のFANN‐A値を有している架橋デンプンの使用:但し、該デンプンは、アニオン性デンプンである。
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