地盤を含む多くの材料は、大地震時等のように大きなエネルギーが大振幅の外力として入力された場合、内部減衰の履歴吸収エネルギー(減衰定数h)が振動数ωにあまり依存しない振動数非依存特性(減衰定数hが振動数ωに拘わらず一定値を示す特性)を示すことが知られており、更に、剛性低下率α(=剛性G/初期剛性G0)及び減衰定数hが物体の歪レベルγに応じて変化する歪振幅依存特性も示すことが知られている。
これに対し、前述のSHAKEを用いた解析では、解析対象の物体の減衰定数hの振動数特性に関しては任意の特性(振動数非依存特性や振動数ωの変化に対して減衰定数hが所定の変化を示す特性)で解析を行うことができるものの、当該解析は周波数領域での解析であるため、解析対象の物体の歪レベルγに関しては大エネルギーの入力に拘わらず一定と見做して解析せざるを得ず、解析対象の物体の剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示していたとしても、これを考慮した解析を行うことはできない。
また、前述のR−Oモデルや双曲線モデルは、解析対象の物体の剛性低下率α及び減衰定数hの歪振幅依存特性を表すことは可能であるものの、減衰定数hの振動数特性については規定できないので、減衰定数hの振動数特性についてどのような特性で解析を行っているのか不明確であり、減衰定数hの振動数特性として任意の特性で解析を行うことは不可能である。また、R−Oモデルや双曲線モデルは、剛性低下率α及び減衰定数hの歪振幅依存特性についても明確に規定できるものではなく、チャート上に物体の歪と応力の関係を表すループ状の軌跡を描画することで解析結果を出力するにあたり、ループ状の軌跡の動きを規定するルールを設定しておくことで、剛性低下率α及び減衰定数hの歪振幅依存特性を間接的に表すことができるに過ぎず、物体の歪振幅依存特性を上記のルールへ置き換えることは試行錯誤的な作業であると共に、置き換えたルールの妥当性を確認する手法も確立されていないので、ルールの設定に多大な手間が掛り解析精度も低いという問題がある。
また、特許文献1に記載の技術を適用すれば、減衰定数hが振動数非依存特性を示す物体の時刻歴応答解析を行うことができるものの、この技術は剛性低下率α及び減衰定数hの歪振幅依存特性について考慮しておらず、物体の歪レベルの変化に拘わらず剛性低下率α及び減衰定数hを一定とみなして解析を行うので、歪振幅依特性を示す物体の時刻歴応答解析を精度良く行うことは困難である。
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、減衰定数hが振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示す物体の時刻歴応答解析を容易かつ高精度に行うことができる時刻歴応答解析方法、時刻歴応答解析装置及び時刻歴応答解析プログラムを得ることが目的である。
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る時刻歴応答解析方法は、減衰定数hが物体を振動させる外力の振動数に依存しない振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが前記物体の歪レベルγに応じて変化する歪振幅依存特性を示す前記物体の時刻歴応答解析を行う時刻歴応答解析方法であって、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)−(2ω/ωm)なる値(但しnは整数)を示す虚数部の正則成分、及び、振動数ωに拘わらず(2ω/ωm)なる値を示す虚数部の特異成分の和で表され、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)なる値を示す虚数部と、前記虚数部の正則成分のヒルベルト変換値に対応する実数部と、から成る因果的単位虚数関数を時間領域へ変換するか、又は前記虚数部のみを時間領域へ変換することで、前記因果的単位虚数関数のインパルス応答値として、前記物体の速度に依存する同時成分c(t0)、前記物体の変位に依存する同時成分k(t0)、前記物体の変位に依存するΔt刻みの時間遅れ成分k(tj)(但しjは自然数でtj=Δt・j)を演算し、前記物体の質量マトリクスを[Ms]、前記物体の初期剛性マトリクスを[K0]、時間領域での物体の変位ベクトルを{u(t)}、速度ベクトルを{u'(t)}、反力ベクトルを{F(γ,t)}、前記物体を振動させる外力の時間領域での加速度をy0"(t)、時間遅れ成分k(tj)の総数をnとしたときに、前記演算したインパルス応答値を、
[Ms]{u"(t)}+{F(γ,t)}=−y0"(t)[Ms]{1} …(1)
但し、
上式に代入し、剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)を各時刻における前記物体の歪レベルγに応じた値に切り替えながら物体の反力ベクトル{F(γ,t)}、変位ベクトル{u(t)}及び速度ベクトル{u'(t)}をΔt刻みで順次演算することで、前記物体の時刻歴応答解析を行うことを特徴としている。
減衰定数hが振動数非依存特性を示す物体の減衰(履歴減衰)を表す履歴減衰モデル、すなわち履歴減衰を有する複素剛性S(ω)は、次の(3)式で表される。なお、(3)式においてK0は剛性、hは減衰定数、iは虚数単位である。
S(ω)=K0(1+2h・i) …(3)
ここで、(3)式における虚数単位iに代えて次の(4)式で表される単位虚数関数Z(ω)を用いれば、先の(3)式は(6)式で表される。
Z(ω)=ZR(ω)+ZI(ω)・i …(4)
なお、ZR(ω)は単位虚数関数Z(ω)の実数部、ZI(ω)は単位虚数関数Z(ω)の虚数部であり、それぞれ以下の(5)式で表される。
S(ω)=K0(1+2h・Z(ω)) …(6)
但し、上記(5)式によって規定される単位虚数関数Z(ω)は、実数部ZR(ω)と虚数部ZI(ω)がヒルベルト(Hilbert)変換対を形成しないために因果律を満たさず、時間領域への厳密な変換は不可能である。
これに対して請求項1記載の発明では、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)−(2ω/ωm)なる値(但しnは整数)を示す虚数部の正則成分Z'IR(ω)(図1(B)参照)、及び、振動数ωに拘わらず(2ω/ωm)なる値を示す虚数部の特異成分Z'IS(ω)(図1(C)参照)の和で表され、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)なる値を示す虚数部Z'I(ω)と、虚数部の正則成分Z'IR(ω)のヒルベルト変換値に対応する(すなわち因果律を満たす)実数部Z'R(ω)と、から成る因果的単位虚数関数Z'(ω)を用いている。因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部Z'I(ω)は、図2に示すように振動数範囲(ω>ωm)及び(ω<−ωm)で単位虚数関数Z(ω)の虚数部ZI(ω)の値と相違する((5)式の条件から外れる)ものの、図1(A)に示すように、振動数範囲(0<ω<ωm)内で+1の値を示すと共に、振動数範囲(−ωm<ω<0)内で−1の値を示すので、振動数範囲(−ωm<ω<ωm)内では単位虚数関数Z(ω) の虚数部ZI(ω)と同一の値を示す(虚数部ZI(ω)に関する(5)式の条件を満たす)。
また、因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部の正則成分Z'IR(ω)と特異成分Z'IS(ω)のうち、正則成分Z'IR(ω)は因果律を満たさない成分、特異成分Z'IS(ω)は因果律を満たす成分であるが、請求項1記載の発明では、因果的単位虚数関数Z'(ω)の実数部Z'R(ω)を、虚数部の正則成分Z'IR(ω)のヒルベルト変換値に対応する値(すなわち因果律を満たす値)とすることで、一定の振動数範囲(−ωm<ω<ωm)内で単位虚数関数Z(ω)と同様の値を示し、かつ因果律を満たす因果的単位虚数関数Z'(ω)を得ている。なお、虚数部の正則成分Z'IR(ω)のヒルベルト変換値に対応する(すなわち因果律を満たす)実数部Z'R(ω)は、次の(7)式(ヒルベルト変換)を用いることで算出することができる。
一例として振動数ωm=20Hz(40π)の場合に(7)式によって算出される因果的単位虚数関数Z'(ω)の実数部Z'R(ω)を、因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部Z'I(ω)と共に図3に示す。図3からも明らかなように、因果的単位虚数関数Z'(ω)の実数部Z'R(ω)は、単位虚数関数Z(ω)の実数部ZR(ω)のように0ではなく(実数部ZR(ω)に関する(5)式の条件を満たしておらず)、振動数ωに依存した値となっている点で単位虚数関数Z(ω)と相違しているが、因果的単位虚数関数Z'(ω)は、実数部Z'R(ω)を上記のように定めることで実数部Z'R(ω)と虚数部Z'I(ω)がヒルベルト変換対を形成するために因果律を満たし、時間領域へ厳密に変換することが可能となる。また、因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部Z'I(ω)は、前述のように振動数範囲(−ωm<ω<ωm)内で単位虚数関数Z(ω)の虚数部ZI(ω)と値が一致している。従って、(6)式における単位虚数関数Z(ω)に代えて因果的単位虚数関数Z'(ω)を用いる(因果的単位虚数関数Z'(ω)を2h倍して用いる)ことにより、振動数範囲(−ωm<ω<ωm)内で履歴減衰モデルと精度良く一致し(振動数範囲(−ωm<ω<ωm)内で物体の減衰定数hの振動数非依存性を精度良く表し)かつ因果律を満たす(時間領域への厳密な変換が可能な)減衰モデルを得ることができる。
また、請求項1記載の発明では、上記の因果的単位虚数関数Z'(ω)を時間領域へ変換することで、因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値として、物体の速度に依存する同時成分c(t0)、物体の変位に依存する同時成分k(t0)、物体の変位に依存するΔt刻みの時間遅れ成分k(tj)(但しjは自然数でtj=Δt・j)を演算する。なお、「同時成分」は現在の状態量(変位・速度・加速度)に依存して反力を生じる量(成分)を、「時間遅れ成分」は過去の状態量に依存して反力を生じる量(成分)を意味している。
なお、因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値は、因果的単位虚数関数Z'(ω)の実数部Z'R(ω)をヒルベルト変換を用いて算出する場合は、因果的単位虚数関数Z'(ω)を時間領域へ変換することで演算することができるが、請求項1記載の発明はこれに限られるものではなく、因果的単位虚数関数Z'(ω)の実数部Z'R(ω)を算出することなく、因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部Z'I(ω)のみを時間領域へ変換することで因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値を演算することも可能である。
すなわち、時間領域で因果律を満たす複素関数の実数部及び虚数部は周波数領域でヒルベルト変換対を形成し、複素関数の実数部及び虚数部のうちの虚数部のみが既知の場合にも、ヒルベルト変換により、当該虚数部から当該虚数部に対応しかつ時間領域で因果律を満たす実数部を一意に算出できるので、虚数部には実数部の成分も含まれていると見なすことができる。また、時間領域で因果律を満たさない(ヒルベルト変換対を形成しない)複素関数についても、虚数部が既知であれば、未知の実数部も近似によっておおよそ求まるので、時間領域で因果律を満たす複素関数と同様に、虚数部には実数部の情報が含まれていると見なすことができる。
本願発明者は上記事実に事実に着目し、特許第3878626号で提案したインパルス応答演算方法を基礎として、物体の動的剛性のうちの虚数成分(又は実数成分)のみを用いて時間領域変換(インパルス応答の演算)を行うことに想到し、物体の動的剛性S(ω)の実数成分SR(ω)及び虚数成分SI(ω)のうち虚数成分SI(ω)のみを用いて時間領域変換(インパルス応答の演算)を行う数式として以下の(8)式を定め、
(6)式で表される関係を、動的剛性のN個の虚数部のデータ(DI(ω1)〜DI(ωN))のデータに対してマトリクス表示した、以下の(9),(10)式を導出し、
上記の(8)〜(10)式の動的剛性の虚数成分のみを用いたインパルス応答の演算(虚部変換法)を提案している。そして本願発明者は、この虚部変換法の有効性を確認する解析検討を行い、実用上十分な精度でインパルス応答を算出できることを確認している(中村尚弘,「実部もしくは虚部のデータのみを用いた複素剛性の時間領域変換法」,日本建築学会構造系論文集,2007年2月,第612号,p.79−86、及び、特願2006−339913号)。従って、請求項1記載の発明において、上記の虚部変換法を適用し、因果的単位虚数関数Z'(ω)の実数部Z'R(ω)を算出することなく、因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部Z'I(ω)のみを時間領域へ変換することで因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値を演算するようにしてもよい。
一方、減衰定数hが振動数非依存特性を示す物体の剛性マトリクス[K(ω)]は、因果的単位虚数関数Z'(ω)によって履歴減衰を表しかつ因果律を満たす因果的履歴減衰モデルを用いて次の(11)式で表される。なお、[K0]は初期剛性マトリクスである。
[K(ω)]=[K0](1+2h・Z'(ω)) …(11)
ここで、物体の剛性低下率α及び減衰定数hが物体の歪レベルγに応じて変化する歪振幅依存特性を示す場合、この歪振幅依存特性により、物体の剛性マトリクスも物体の歪レベルγに応じて変化する(次の(12)式を参照)。
[K(γ,ω)]=α(γ)[K0](1+2h(γ)・Z'(ω)) …(12)
なお、(12)式において、[K(γ,ω)]は物体の歪レベルγ(及び振動数ω)に依存して変化する物体の剛性マトリクス、α(γ)は歪レベルγに応じて変化する剛性低下率、h(γ)は歪レベルγに応じて変化する減衰定数を各々表す。
(12)式の両辺に変位{u(ω)}を各々乗ずると次の(13)式が得られる。
{F(γ,ω)}=[K(γ,ω)]・{u(ω)}={F1(γ,ω)}+{F2(γ,ω)} …(13)
但し、{F1(γ,ω)}=α(γ)[K0]・{u(ω)}
{F2(γ,ω)}=α(γ)[K0]・2h(γ)・Z'(ω)・{u(ω)}
上記の(13)式を時間領域へ変換すると次の(14)式が得られる。
なお、{u(t)}は時間領域での物体の変位ベクトル、{u'(t)}は時間領域での物体の速度ベクトル、{F(γ,t)}は物体の反力ベクトル、nは時間遅れ成分k(tj)の総数である。そして上記の(14)式を整理することで請求項1記載の発明に係る前出の(2)式を得ることができる。なお、前出の(1)式は因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値を用いて物体の時刻歴応答解析を行うための時間領域の運動方程式である。
請求項1記載の発明に係る前出の(1),(2)式には、物体の剛性低下率αの歪振幅依存特性がα(γ)として明示的に表現されていると共に、物体の減衰定数hの歪振幅依存特性がh(γ)として明示的に表現されている。そして請求項1記載の発明では、演算したインパルス応答値を前出の(1),(2)式に代入し、剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)を各時刻における物体の歪レベルγに応じた値に切り替えながら物体の反力ベクトル{F(γ,t)}、変位ベクトル{u(t)}及び速度ベクトル{u'(t)}をΔt刻みで順次演算することで、物体の時刻歴応答解析を行うので、物体の時刻歴応答解析を行うにあたり、前記物体の減衰定数hが振動数非依存特性を示すこと、及び、前記物体の剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示すことを考慮した高精度の解析を行うことができる。また、請求項1記載の発明に係る (1),(2)式には物体の剛性低下率αの歪振幅依存特性がα(γ)として、減衰定数hの歪振幅依存特性がh(γ)として明示的に組み込まれているので、剛性低下率α及び減衰定数hの歪振幅依存特性を、妥当性の確認が困難な別のルールに置き換える等の煩雑な作業が不要となり、剛性低下率α及び減衰定数hの歪振幅依存特性として任意の特性を適用することも可能となる。
従って、請求項1記載の発明によれば、減衰定数hが振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示す物体の時刻歴応答解析を容易かつ高精度に行うことができる。
地震応答解析等の時刻歴応答解析では、構造物に対する解析対象の振動数範囲の多くがおおよそ定まっていることから、解析対象の振動数範囲が振動数ω=0〜ωmの範囲内に入るように解析対象上限振動数ωmを予め固定的に定めておくことも可能であるが、解析対象の振動数範囲のうち下限振動数付近及び上限振動数付近では精度が低下することが本願発明者によって確認されており、これを考慮すると、請求項1記載の発明において、例えば請求項2に記載したように、物体の主要な固有振動数を把握する実固有値解析を行い、実固有値解析によって把握した前記物体の主要な固有振動数が、振動数ω=0〜ωmの範囲内のうち誤差(例えば演算したインパルス応答値を用いて複素剛性S(ω)等を再現したときの目標値との比率)が所定値未満となる振動数範囲内に入るように、解析対象上限振動数ωmを設定又は選択することが好ましい。これにより、時刻歴応答解析の精度を更に向上させることができる。なお、上記の実固有値解析は、主要な固有振動数が何れの振動数範囲内に存在しているかを把握できれば目的を達成できるので簡単な処理で済む。
また、請求項2記載の発明において、例えば請求項3に記載したように、物体を振動させる外力と物体の挙動との関係の非線形化によって物体の固有振動数が変化するか否かを推定し、物体の固有振動数が変化すると判断した場合には、概略の減衰に基づく予備解析により非線形化後の固有振動数をおおよそ把握し、把握した非線形化後の固有振動数も振動数ω=0〜ωmの範囲内のうち誤差が所定値未満となる振動数範囲内に入るように解析対象上限振動数ωmを設定又は選択することが好ましい。これにより、時刻歴応答解析の途中で、物体を振動させる外力と物体の挙動との関係の非線形化によって物体の固有振動数が変化する解析結果が得られたとしても、変化後の固有振動数が、誤差が所定値未満となる振動数範囲から外れてしまうことを防止することができ、時刻歴応答解析の精度を更に向上させることができると共に、解析対象上限振動数ωmを試行錯誤的に変更しながら解析を繰り返すことを回避できることで時刻歴応答解析の処理時間を短縮することができる。
また、解析対象の物体(の主要な固有振動数や非線形化後の固有振動数)に応じて解析対象上限振動数ωmを設定又は選択する態様であっても、解析対象上限振動数ωmの値の種類数は限られていることを考慮すると、請求項2又は請求項3記載の発明において、例えば請求項4に記載したように、解析対象上限振動数ωmの値が互いに異なる複数種の因果的単位虚数関数について、時間領域への変換を各々行い複数種の因果的単位虚数関数のインパルス応答値を各々演算して記憶手段に記憶しておき、物体の時刻歴応答解析に際し、記憶手段に記憶した複数種の因果的単位虚数関数のインパルス応答値のうち、把握した固有振動数が振動数ω=0〜ωmの範囲内のうち誤差が所定値未満となる振動数範囲内に入る特定の因果的単位虚数関数のインパルス応答値を読み出して用いることが好ましい。これにより、時刻歴応答解析の度に因果的単位虚数関数のインパルス応答値を演算する必要が無くなるので、時刻歴応答解析の処理時間を短縮することができる。
請求項5記載の発明に係る時刻歴応答解析装置は、減衰定数hが物体を振動させる外力の振動数に依存しない振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが前記物体の歪レベルγに応じて変化する歪振幅依存特性を示す前記物体の時刻歴応答解析を行う時刻歴応答解析装置であって、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)−(2ω/ωm)なる値(但しnは整数)を示す虚数部の正則成分、及び、振動数ωに拘わらず(2ω/ωm)なる値を示す虚数部の特異成分の和で表され、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)なる値を示す虚数部と、前記虚数部の正則成分のヒルベルト変換値に対応する実数部と、から成る因果的単位虚数関数を時間領域へ変換するか、又は前記虚数部のみを時間領域へ変換することで、前記因果的単位虚数関数のインパルス応答値として演算された、前記物体の速度に依存する同時成分c(t0)、前記物体の変位に依存する同時成分k(t0)、前記物体の変位に依存するΔt刻みの時間遅れ成分k(tj)(但しjは自然数でtj=Δt・j)を記憶する記憶手段と、前記物体の質量マトリクスを[Ms]、前記物体の初期剛性マトリクスを[K0]、時間領域での物体の変位ベクトルを{u(t)}、速度ベクトルを{u'(t)}、反力ベクトルを{F(γ,t)}、前記物体を振動させる外力の時間領域での加速度をy0"(t)、時間遅れ成分k(tj)の総数をnとしたときに、前記記憶手段に記憶されているインパルス応答値を、
[Ms]{u"(t)}+{F(γ,t)}=−y0"(t)[Ms]{1} …(1)
但し、
上式に代入し、剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)を各時刻における前記物体の歪レベルγに応じた値に切り替えながら物体の反力ベクトル{F(γ,t)}、変位ベクトル{u(t)}及び速度ベクトル{u'(t)}をΔt刻みで順次演算することで、前記物体の時刻歴応答解析を行う解析手段と、を備えたことを特徴としているので、請求項1記載の発明と同様に、減衰定数hが振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示す物体の時刻歴応答解析を容易かつ高精度に行うことができる。
請求項6記載の発明に係る時刻歴応答解析プログラムは、記憶手段と接続されたコンピュータを、減衰定数hが物体を振動させる外力の振動数に依存しない振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが前記物体の歪レベルγに応じて変化する歪振幅依存特性を示す前記物体の時刻歴応答解析を行う時刻歴応答解析装置として機能させるための時刻歴応答解析プログラムであって、前記記憶手段には、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)−(2ω/ωm)なる値(但しnは整数)を示す虚数部の正則成分、及び、振動数ωに拘わらず(2ω/ωm)なる値を示す虚数部の特異成分の和で表され、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)なる値を示す虚数部と、前記虚数部の正則成分のヒルベルト変換値に対応する実数部と、から成る因果的単位虚数関数を時間領域へ変換するか、又は前記虚数部のみを時間領域へ変換することで、前記因果的単位虚数関数のインパルス応答値として演算された、前記物体の速度に依存する同時成分c(t0)、前記物体の変位に依存する同時成分k(t0)、前記物体の変位に依存するΔt刻みの時間遅れ成分k(tj)(但しjは自然数でtj=Δt・j)が記憶されており、前記コンピュータを、前記物体の質量マトリクスを[Ms]、前記物体の初期剛性マトリクスを[K0]、時間領域での物体の変位ベクトルを{u(t)}、速度ベクトルを{u'(t)}、反力ベクトルを{F(γ,t)}、前記物体を振動させる外力の時間領域での加速度をy0"(t)、時間遅れ成分k(tj)の総数をnとしたときに、前記演算手段によって演算されたインパルス応答値を、
[Ms]{u"(t)}+{F(γ,t)}=−y0"(t)[Ms]{1} …(1)
但し、
上式に代入し、剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)を各時刻における前記物体の歪レベルγに応じた値に切り替えながら物体の反力ベクトル{F(γ,t)}、変位ベクトル{u(t)}及び速度ベクトル{u'(t)}をΔt刻みで順次演算することで、前記物体の時刻歴応答解析を行う解析手段として機能させることを特徴としている。
請求項6記載の発明に係る時刻歴応答解析プログラムは、上記の記憶手段と接続されたコンピュータを上記の解析手段として機能させるためのプログラムであるので、上記のコンピュータが請求項6記載の発明に係る時刻歴応答解析プログラムを実行することで、上記のコンピュータが請求項5に記載の時刻歴応答解析装置として機能することになり、請求項1及び請求項5記載の発明と同様に、減衰定数hが振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示す物体の時刻歴応答解析を容易かつ高精度に行うことができる。
以上説明したように本発明は、減衰定数hが振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示す物体に対し、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)−(2ω/ωm)なる値(但しnは整数)を示す虚数部の正則成分、及び、振動数ωに拘わらず(2ω/ωm)なる値を示す虚数部の特異成分の和で表され、振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)なる値を示す虚数部と、虚数部の正則成分のヒルベルト変換値に対応する実数部と、から成る因果的単位虚数関数を時間領域へ変換するか、又は前記虚数部のみを時間領域へ変換することで、因果的単位虚数関数のインパルス応答値として、物体の速度に依存する同時成分c(t0)、物体の変位に依存する同時成分k(t0)、物体の変位に依存するΔt刻みの時間遅れ成分k(tj)(但しjは自然数でtj=Δt・j)を演算し、物体の質量マトリクスを[Ms]、物体の初期剛性マトリクスを[K0]、時間領域での物体の変位ベクトルを{u(t)}、速度ベクトルを{u'(t)}、反力ベクトルを{F(γ,t)}、物体を振動させる外力の時間領域での加速度をy0"(t)、時間遅れ成分k(tj)の総数をnとしたときに、演算したインパルス応答値を、
[Ms]{u"(t)}+{F(γ,t)}=−y0"(t)[Ms]{1} …(1)
但し、
上式に代入し、剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)を各時刻における前記物体の歪レベルγに応じた値に切り替えながら物体の反力ベクトル{F(γ,t)}、変位ベクトル{u(t)}及び速度ベクトル{u'(t)}をΔt刻みで順次演算することで、物体の時刻歴応答解析を行うので、減衰定数hが振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示す物体の時刻歴応答解析を容易かつ高精度に行うことができる、という優れた効果を有する。
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図4には本発明を適用可能なパーソナル・コンピュータ(PC)10が示されている。PC10は、CPU10A、ROM10B、RAM10C及び入出力ポート10Dが、データバス、制御バス、アドレスバス等から成るバス10Eを介して互いに接続されて構成されている。また入出力ポート10Dには、各種の周辺機器として、CRT又はLCDから成るディスプレイ12、キーボード14、マウス16、プリンタ18、ハードディスクドライブ(HDD)20、CD−ROM22からの情報の読み出しを行うCD−ROMドライブ24が各々接続されている。
PC10のHDD20には、インパルス応答値データベース(DB)が記憶されており(詳細は後述)、後述する時刻歴応答解析処理を行うための時刻歴応答解析プログラムもインストールされている。時刻歴応答解析プログラムは請求項6記載の発明に係る時刻歴応答解析プログラムに対応している。PC10は、CPU10Aが時刻歴応答解析プログラムを実行することで、請求項5記載の発明に係る時刻歴応答解析装置として機能する。なお、PC10は請求項6に記載のコンピュータにも対応しているが、請求項6に記載のコンピュータはPC10に限られるものではなく、例えばワークステーションや汎用の大型コンピュータ等であってもよい。
次に本実施形態の作用として、まずHDD20に記憶されているインパルス応答値DBについて説明する。このインパルス応答値DBには、因果的単位虚数関数Z'(ω)の解析対象上限振動数ωmと、因果的単位虚数関数Z'(ω)の時間領域への変換に用いるデータ点の数の少なくとも一方が互いに異なる複数種のインパルス応答値が各々記憶されている。インパルス応答値DBは、例として図5に示すインパルス応答値演算処理を任意のコンピュータ(PC10でもよいし、PC10とは別のコンピュータであってもよい)で実行させることによって生成される。以下、このインパルス応答値演算処理について説明する。なお、以下で説明するインパルス応答値演算処理は、請求項1のうち因果的単位虚数関数のインパルス応答値を演算するステップに対応している。
図5に示すインパルス応答値演算処理では、予め定められた解析対象上限振動数ωmの複数種の値について因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値を各々演算する。このため、まずステップ100では、解析対象上限振動数ωmの複数種の値の中からインパルス応答値未演算の任意の解析対象上限振動数ωmを選択する。またステップ102では、ステップ100で選択した解析対象上限振動数ωmに対応する因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部Z'I(ω)を規定する正則成分Z'IR(ω) 及び特異成分Z'IS(ω)を設定する。なお、図1(B)に示すように正則成分Z'IR(ω)は振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)−(2ω/ωm)なる値(但しnは整数)を示し、図1(C)に示すように特異成分Z'IS(ω)は振動数ωに拘わらず(2ω/ωm)なる値を示すので、正則成分Z'IR(ω)と特異成分Z'IS(ω)の和である因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部Z'I(ω) (Z'I(ω)=Z'IR(ω)+Z'IS(ω))は、図1(A)に示すように振動数ωが(n−1)・ωmからn・ωmの範囲で(2n−1)なる値を示す。
次のステップ104では、ステップ102で設定した正則成分Z'IR(ω)に対してヒルベルト変換(前出の(7)式を参照)を行うことで、因果律を満たす因果的単位虚数関数Z'(ω)の実数部Z'R(ω)を算出する。これにより、正則成分Z'IR(ω)と特異成分Z'IS(ω)の和で表される虚数部Z'I(ω)と、振動数ωの変化に対して例えば図3に示すように値が変化する実数部Z'R(ω)と、から成る因果的単位虚数関数Z'(ω)が得られ、ステップ104では得られた因果的単位虚数関数Z'(ω)のデータをメモリ(RAM10C)に一時記憶させる。なお、図3に示す実数部Z'R(ω)は解析対象上限振動数ωm=20Hzの場合であり、ステップ104で算出される実数部Z'R(ω)は、実際には振動数ω=0Hzからステップ100で選択した解析対象上限振動数ωmの範囲内で図3に示すように値が変化する特性を示す。
また本実施形態に係るインパルス応答値演算処理では、単一の因果的単位虚数関数Z'(ω)を時間領域へ変換してインパルス応答値を演算する際にサンプリングを行うデータ点の数として複数種の値が予め設定されており、ステップ106では、予め設定された複数種のデータ点数の中からインパルス応答値未演算のデータ点数を選択する。そしてステップ108では、ステップ106で選択したデータ点数に対応するデータ点で因果的単位虚数関数Z'(ω)をサンプリングし、時間領域に変換することでインパルス応答値を算出する。このインパルス応答値の算出は、以下のようにして行うことができる。
すなわち、まずステップ102,104の処理によって得られた因果的単位虚数関数Z'(ω)のデータから、振動数ω=0〜ωmの範囲内で、ステップ106で選択したデータ点数Nに対応するN種の振動数ω1,…,ωNにおける因果的単位虚数関数Z'(ω)の値を表すN個の複素データS(ω1),…,S(ωN)を各々抽出(サンプリング)し、抽出した複素データをメモリ又はHDD20に記憶させる。なお、因果的単位虚数関数Z'(ω)のデータから抽出した複素データは、次に述べるようにインパルス応答の演算に用いられ、この演算により時刻t=0及び時刻t=Δt・j(j=1,2,…)の各時刻におけるインパルス応答値が得られるが、得られるインパルス応答値の個数は演算に用いる複素データの個数に応じて定まり(すなわちjの最大値jmax=複素データの個数−1(=n))、得られるインパルス応答値によって表される因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答の時刻範囲も演算に用いる複素データの個数に応じて定まる(例えば複素データの個数が21個、Δt=0.05秒とすると、tmax=Δt・jmax=0.05×20=1秒となり、時刻t=0〜1秒の時刻範囲の因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答を表す21個のインパルス応答値が得られる)ことになるので、因果的単位虚数関数Z'(ω)のデータから抽出する複素データの個数(複数種のデータ点数の各々の値)は、因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答を算出すべき時刻範囲の長さも勘案して予め定められている。
次に、周波数領域の動的剛性を時間領域のインパルス応答へ変換するために本願発明者が特許第3878626号で提案した次の(15)式及び(16)式の連立方程式をHDD20から読み出し、読み出した連立方程式に、先に因果的単位虚数関数Z'(ω)のデータから抽出したN個の複素データS(ω1),…,S(ωN)を代入し、この連立方程式の解を求めることで、因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答を表すインパルス応答値を、予め設定されたΔt刻みで演算する。
上記の演算により、因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値として、変位に依存するインパルス応答の剛性項の同時成分k(t0)、速度に依存するインパルス応答の減衰項の同時成分c(t0)、加速度に依存するインパルス応答の質量項の同時成分m(t0)のデータが得られると共に、変位に依存するインパルス応答の剛性項の時間遅れ成分k(tj)のデータがΔt刻みでn個(n=N−1)得られ、速度に依存するインパルス応答の減衰項の時間遅れ成分c(tj)のデータがΔt刻みでn−1個得られることになる。但し、因果的単位虚数関数Z'(ω)は、振動数範囲ω=0〜ωmの中央に相当する振動数(ωm/2)に関して実数部Z'R(ω)が線対称、虚数部Z'I(ω)が点対称の変化を示すため、上記各データのうち、質量項の同時成分m(t0)及び減衰項の時間遅れ成分c(t1)〜c(tn−1)の値は何れも0となる。このため、因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値として、
剛性項の同時成分k(t0)、減衰項の同時成分c(t0)、及び、剛性項の時間遅れ成分k(t1)〜k(tn)がメモリ又はHDD20に記憶される。
上記のようにして、選択した解析対象上限振動数ωm及びデータ点数に対応する因果的単位虚数関数Z'(ω)のインパルス応答値が得られると、次のステップ110では、得られたインパルス応答値を、選択した解析対象上限振動数ωm及びデータ点数を表す情報と対応付けてインパルス応答値DBへ登録する。次のステップ112では、予め定められた複数種のデータ点数の中にインパルス応答値を未演算のデータ点数が有るか否か判定する。判定が肯定された場合はステップ106に戻り、ステップ112の判定が否定される迄ステップ106〜ステップ112を繰り返す。これにより、単一の因果的単位虚数関数Z'(ω)から、サンプリングを行うデータ点の数が互いに異なる複数種のインパルス応答値が各々演算されてインパルス応答値DBに各々登録されることになる。
また、単一の因果的単位虚数関数Z'(ω)について、データ点数が互いに異なる複数種のインパルス応答値が各々演算されてインパルス応答値DBに各々登録されることでステップ112の判定が否定されると、次のステップ114において、予め定められた複数種の解析対象上限振動数ωmの中にインパルス応答値が未演算の解析対象上限振動数ωmが有るか否か判定する。判定が肯定された場合はステップ100に戻り、ステップ114の判定が否定される迄ステップ100〜ステップ114を繰り返す。これにより、インパルス応答値DBには解析対象上限振動数ωm又はデータ点数の少なくとも一方が互いに異なる因果的単位虚数関数Z'(ω)の多数のインパルス応答値が各々登録されることになる。そして、ステップ114の判定が否定されるとインパルス応答値演算処理を終了する。
なお、上述したインパルス応答値演算処理をPC10とは別のコンピュータで実行させた場合、生成されたインパルス応答値DBは、例えばPC10への時刻歴応答解析プログラムのインストール時や他のタイミング(PC10で時刻歴応答解析処理が実行される前のタイミング)でPC10のHDD20に複写される。このように、HDD20は請求項5,6に記載の記憶手段に対応している。
続いて、時刻歴応答解析の実行を所望しているオペレータによりキーボード14又はマウス16を介して時刻歴応答解析プログラムの実行が指示されることで、PC10のCPU10Aで実行される時刻歴応答解析処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。この時刻歴応答解析処理は、減衰定数hが振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示す物体を解析対象とし、上述したインパルス応答値DBに記憶されているインパルス応答値を用いて時刻歴応答解析を行う処理であり、請求項1のうち物体の時刻歴応答解析を行うステップに対応していると共に、請求項5,6に記載の解析手段に対応している。なお、以下では解析対象の物体として地盤を適用した例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、地盤上に建設され地盤の挙動の影響を受ける構造物も解析対象とし、その挙動も同時に解析するようにしてもよいし、解析対象の物体としてその他の物体(例えば粘弾性体等)を適用してもよい。
本実施形態では、解析対象の物体に関する各種データ(例えば解析対象の物体の質量マトリクス[Ms]や剛性マトリクス[Ks]、初期剛性マトリクス[K0]、剛性低下率特性γ−α、減衰定数特性γ−H等)がPC10に予め入力されてHDD20に記憶されており、時刻歴応答解析処理では、まずステップ120において、解析対象の物体に関する各種データをHDD20から取得する。なお、解析対象の物体が地盤である場合、当該地盤の質量マトリクス[Ms]や剛性マトリクス[Ks]、初期剛性マトリクス[K0]は、例えば図7(A)に示すように、解析対象の地盤の地層構成、各地層の層厚H、地震波の伝播速度Vs、ポアソン比ν、密度ρ、減衰率h等のデータを用いて所定の演算を行うことで得ることができる。また、地盤の剛性低下率特性γ−α及び減衰定数特性γ−H(一例を図7(B)に示す)については、実験等を行って求めてもよいし、文献等に記載されている特性を用いてもよい。
次のステップ122では、ステップ120で取得した解析対象の物体に関する各種データのうち質量マトリクス[Ms]及び剛性マトリクス[Ks]に基づき、解析対象の物体に対して実固有値解析を行い、解析対象の物体の主要な固有振動数(例えば一次振動数及び二次振動数)と固有モードを算出する。物体に入力する地震動が比較的小さい場合には、物体に損傷劣化が生じないので物体の応答は線形範囲内に収まり、物体の剛性や固有振動数の変化は生じないが、入力する地震動が比較的大きくなると、物体に損傷劣化が生ずることで物体の応答が非線形化し、物体の剛性及び固有振動数が低下する。そして、物体の応答の非線形化に伴って変化した固有振動数が、後述する時刻歴応答解析における解析対象振動数範囲0〜ωmから外れたり、解析対象振動数範囲0〜ωmのうち精度の低い振動数範囲に入ってしまうと、時刻歴応答解析の途中で処理を継続できない状態に陥ったり、解析精度が低下する恐れがある。
このため、次のステップ124では、解析対象の物体に対して実行を予定している時刻歴応答解析で入力する地震動と同一の地震動を入力したときの解析対象の物体の概略の挙動を解析する予備解析を行い、前記地震動の入力によって解析対象の物体の応答が非線形化するか否かを判断すると共に、解析対象の物体の応答の非線形化が生ずる場合には非線形化後の固有振動数を算出する。なお、上記の予備解析としては、例えば剛性比例型の減衰モデルやRayleigh型の減衰モデルを用いた簡易的な時刻歴応答解析を行うことで実現できる。また、上記の予備解析を省略し、物体の損傷(応答の非線形化)が生ずるか否か、及び、物体の応答の非線形化が生ずる場合の非線形化後の固有振動数を、オペレータが経験的に判断して判断結果を入力するようにすることも可能である。
次のステップ126では、ステップ122で算出した解析対象の物体の主要な固有振動数に基づいて、時刻歴応答解析に用いるインパルス応答値の解析対象上限振動数ωm及びデータ点数を選択する。また、ステップ124の予備解析によって解析対象の物体の損傷(応答の非線形化)が生ずると判断された場合、ステップ126では予備解析で算出した非線形化後の固有振動数も考慮して解析対象上限振動数ωm及びデータ点数を選択する。より具体的には、例えば「解析対象の物体の主要な固有振動数(及び非線形化後の固有振動数)が、振動数ω=0〜ωmの範囲内のうち剛性及び減衰定数の誤差が所定値未満(例えば±10%未満)となる振動数範囲内に全て入る」という条件を満たすように解析対象上限振動数ωmを選択する。
データ点数に関しては、或る程度以上のデータ点数があればデータ点数を更に増加させても精度はそれ程変化しないことが本願発明者によって確認されているので(特開2007−071754号公報参照)、時刻歴応答解析処理の簡素化を考慮し、上記の条件を満たす範囲内でなるべく少ないデータ点数を選択すればよい。また、データ点数が多くなるに従い剛性及び減衰定数の誤差が所定値未満となる振動数範囲が若干広くなることも本願発明者によって確認されているので(特開2007−071754号公報参照)、一部の固有振動数が、剛性及び減衰定数の誤差が所定値未満となる振動数範囲の端部付近に存在している場合には、時刻歴応答解析処理の精度向上のためにデータ点数を増加させるようにしてもよい。解析対象上限振動数ωm及びデータ点数を選択すると、次のステップ128では、選択した解析対象上限振動数ωm及びデータ点数に対応するインパルス応答値(剛性項の同時成分k(t0)、減衰項の同時成分c(t0)、及び、剛性項の時間遅れ成分k(t1)〜k(tn))をインパルス応答値DBから読み込む。
次のステップ130以降では、外力が加わった場合の解析対象の物体の挙動を解析する時刻歴応答解析を行う。すなわち、ステップ130では解析対象時刻tを0に初期化する。次のステップ132では、解析対象時刻tに解析対象の物体に加わる外力を表すデータを取り込み、取り込んだデータが表す外力に基づいて、解析対象時刻tにおける解析対象の物体の変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}を各々推定する。なお、解析対象の物体が地盤であり、外力が地震動である場合、前記外力を表すデータの取り込みは、予め想定した地震動のデータから解析対象時刻tに解析対象の地盤に加わる地震動のデータを抽出することで行うことができる。またステップ134では、ステップ132で推定した解析対象時刻tにおける解析対象の物体の変位ベクトル{u(t)}に基づいて、解析対象時刻tにおける解析対象の物体の歪レベルγを演算し、演算結果をRAM10Cに記憶する。
次のステップ136では、先のステップ120で取得した解析対象の物体に関する各種のデータのうち、解析対象の物体の剛性低下率特性γ−α及び減衰定数特性γ−hを表すデータに基づき、解析対象時刻tにおける応答解析に用いる解析対象の物体の剛性低下率α及び減衰定数hとして、ステップ134で演算した歪レベルγに対応する剛性低下率α及び減衰定数hを各々演算する。なお、剛性低下率α及び減衰定数hの演算は、剛性低下率特性γ−αを表すデータや減衰定数特性γ−hを表すデータが、歪レベルγと剛性低下率α(又は減衰定数h)との関係を関数等の形態で表すデータであれば、当該関数等にステップ134で演算した歪レベルγを代入して演算することで実現できるが、剛性低下率特性γ−αを表すデータや減衰定数特性γ−hを表すデータが、歪レベルγと剛性低下率α(又は減衰定数h)との関係を離散的に表すデータ(歪レベルγが互いに異なる複数種の値のときの剛性低下率α(又は減衰定数h)の値を各々表すデータ等)である場合は、ステップ134で演算した歪レベルγの前後の歪レベルγに対応する剛性低下率α(又は減衰定数h)の複数の値を抽出し、抽出した複数の値に基づいて、ステップ134で演算した歪レベルγに対応する剛性低下率α(又は減衰定数h)を補間演算によって求めることで実現できる。
ここで、解析対象時刻tにおける応答解析に用いる解析対象の物体の剛性低下率α及び減衰定数hは、前出の(2)式に代入する剛性低下率α及び減衰定数hを意味しているが、(2)式の右辺第1項は解析対象時刻tに対応する同時成分の項であるので、右辺第1項における剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)としては、解析対象時刻tにおける歪レベルγに対応する剛性低下率α及び減衰定数hをそのまま用いることができる。一方、(2)式の右辺第2項は解析対象時刻tよりも前の時刻t−tj(但し、jは自然数でtj=Δt・j)における解析対象の物体の挙動が及ぼす影響を表す時間遅れ成分の項であるのに対し、外力が入力されると解析対象の物体の歪レベルγも時々刻々変化するので、(2)式の右辺第2項における剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)として、何れの時点での歪レベルγに対応する値を用いるのかという点に関しては選択の余地がある。
(2)式の右辺第2項の剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)として用いる剛性低下率α及び減衰定数hを決定するための歪レベルγの選択肢としては、例えば解析対象時刻tよりも前の時刻t−tjにおける解析対象の物体の歪レベルγ(t−tj)を用いるケース(ケース1と称する)、解析対象時刻tにおける解析対象の物体の歪レベルγ(t)を用いるケース(ケース3と称する)、ケース1とケース3の平均値に相当する歪レベル(γ(t−tj)+γ(t)/2)を用いるケース(ケース2と称する)が挙げられる。
本願発明者が実施した解析検討の結果、(2)式の右辺第2項の剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)として、ケース1〜ケース3の何れの歪レベルγに対応する剛性低下率α及び減衰定数hを用いた場合にも時刻歴応答解析の精度には大きな差が無いことが確認されており、(2)式の右辺第2項の剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)としては、ケース1〜ケース3の何れの歪レベルγに対応する剛性低下率α及び減衰定数hを用いてもよい。また、解析対象の物体の種類や条件等によっては、(2)式の右辺第2項の剛性低下率α(γ)及び減衰定数h(γ)として、ケース1〜ケース3の何れの歪レベルγに対応する剛性低下率α及び減衰定数hを用いるかに応じて時刻歴応答解析の精度が変動する可能性もあるが、ケース1〜ケース3の何れの歪レベルγに対応する剛性低下率α及び減衰定数hを用いたとしても演算量自体は略同じであるので、その場合はケース1〜ケース3のうち最も高い精度が得られる何れかのケースの歪レベルγに対応する剛性低下率α及び減衰定数hを選択的に用いればよい。
次のステップ138では、ステップ132で仮定した解析対象の物体の変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}、ステップ120で取得した解析対象の物体の質量マトリクス[Ms]及び初期剛性マトリクス[K0]、ステップ128で取り込んだインパルス応答値、ステップ136で演算した剛性低下率α及び減衰定数hを前出の(1),(2)式に代入し、解析対象時刻tにおける解析対象の物体の挙動を演算する。またステップ140では、ステップ138の演算の結果、解析対象時刻tに解析対象の物体に加わる外力が、解析対象時刻tにおける解析対象の物体の反力と釣り合っているか否か判定する。(1)式の運動方程式における右辺は解析対象時刻tに解析対象の物体に加わる外力を表しており、(1)式の左辺は解析対象時刻tにおける解析対象の物体の反力を表している。ステップ140の判定は、(1)式の右辺の値と(6)式の左辺の値との偏差(外力と反力との釣合の誤差)が許容範囲内か否かを判断することで行われる。
ステップ140の判定が否定された場合はステップ132へ戻り、ステップ132において、先に仮定した解析対象時刻tにおける解析対象の物体の変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}を修正した後にステップ134以降の処理を行う。上述したステップ132〜140は、ステップ140の判定が肯定される迄繰り返されるので、解析対象時刻tにおける解析対象の物体の変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}は、解析対象時刻tにおける外力に対する解析対象の物体の反力の偏差が許容範囲内となる値に収束することになる。
ステップ140の判定が肯定され、解析対象時刻tにおける外力に対する反力の偏差が許容範囲内となる解析対象の物体の変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}が求まるとステップ142へ移行し、上記の時刻歴応答解析(各時刻における解析対象の物体の変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}の演算)を、時刻歴応答解析の解析終了時刻tmax迄行ったか(解析対象時刻tが解析終了時刻tmaxに達したか)否か判定する。判定が否定された場合はステップ144へ移行し、解析対象時刻tにΔtを加えることで解析対象時刻tを更新してステップ132に戻る。
これにより、ステップ142の判定が肯定される迄ステップ132〜144が繰り返され、解析対象時刻t=0から時間Δt刻みの各時刻について、演算に用いる剛性低下率α及び減衰定数hを各時刻における解析対象の物体の歪レベルγに応じた値に切り替えながら時刻歴応答解析(解析対象の各時刻における解析対象の物体の変位ベクトル{u(t)}、速度ベクトル{u'(t)}、加速度ベクトル{u"(t)}の演算)が順次行われることになる。そして、ステップ142の判定が肯定されると時刻歴応答解析処理を終了する。
上述したように、本実施形態に係る時刻歴応答解析処理は、減衰定数hが振動数非依存特性を示す物体をモデル化して表す因果的単位虚数関数のインパルス応答値を用いると共に、物体の歪レベルγの変化に伴って変化する物体の剛性低下率α及び減衰定数hを明示的に表して物体の挙動をモデル化した(1),(2)式(非線形の因果的履歴減衰モデル)を用い、解析対象時刻tが各時刻のときの解析対象の物体の歪レベルγを演算し、演算に用いる剛性低下率α及び減衰定数hを各時刻における解析対象の物体の歪レベルγに応じた値に切り替えながら、各時刻における解析対象の物体の変位、速度及び加速度を演算する時刻歴応答解析を行うので、解析対象の物体の歪レベルγの変化に伴って解析対象の物体の剛性低下率α及び減衰定数hが変化し、この剛性低下率α及び減衰定数hの変化に伴って解析対象の物体の挙動が変化することを、上記の剛性低下率α及び減衰定数hの切替えによって各時刻の解析に反映させることができる。従って、解析対象の物体の時刻歴応答解析を、解析対象の物体の減衰定数hが振動数非依存特性を示しかつ解析対象の物体の剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示すことによる影響を考慮して高精度に行うことができる。
なお、上記では因果的単位虚数関数Z'(ω)の解析対象上限振動数ωmと、因果的単位虚数関数Z'(ω)の時間領域への変換に用いるデータ点の数の少なくとも一方が互いに異なる複数種のインパルス応答値をインパルス応答値DBに予め記憶しておく態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、時刻歴応答解析処理を行う都度、選択した解析対象上限振動数ωmに対応する因果的単位虚数関数Z'(ω)のデータから、選択したデータ点数の複素データを抽出し、時間領域への変換を行ってインパルス応答値を演算するようにしてもよい。
また、上記では因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部Z'I(ω)の正則成分Z'IR(ω)に対してヒルベルト変換を行うことで、因果律を満たす因果的単位虚数関数Z'(ω)の実数部Z'R(ω)を算出した後に、因果的単位虚数関数Z'(ω)を時間領域へ変換することでインパルス応答値を演算する態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、虚部変換法を適用し、因果的単位虚数関数Z'(ω)の虚数部Z'I(ω)のみを時間領域へ変換することで、因果的単位虚数関数Z'(ω)の実数部Z'R(ω)を算出することなく、インパルス応答値を演算するようにしてもよい。
また、上記では本発明に係る時刻歴応答解析を、地震動が入力された際の物体の応答を解析する地震応答解析に適用した例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、減衰定数hが振動数非依存特性を示しかつ剛性低下率α及び減衰定数hが歪振幅依存特性を示す任意の物体について、地震動やそれ以外の任意の外力が入力された際の時刻歴応答解析に適用可能である。
更に、上記では本発明に係る時刻歴応答解析プログラムがPC10のHDD20に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、本発明に係る時刻歴応答解析プログラムは、CD−ROMやDVD−ROM等の記録媒体に記録されている形態で提供することも可能である。
次に、本発明(に係る非線形の因果的履歴減衰モデル)の有用性を確認するために本願発明者が実施した解析検討の結果について説明する。
(解析検討の条件)
この解析検討では、解析対象の地盤として、図8(A)に示すように、層厚H=20m、地震波の伝播速度Vs=200m/s(但し弾性時)、密度ρ=2.0t/m3の地層が剛基盤上に存在している地層構成の地盤モデル(図8(B)に示す1自由度モデル)を用い、この地盤モデルに対し、R−Oモデル、双曲線モデル及び本発明に係る非線形の因果的履歴減衰モデルを各々適用して地震応答解析(時刻歴応答解析)を各々行った。
解析検討に用いたR−Oモデルは、剛性低下率α=0.5のときの歪レベルγ=0.1%、減衰定数hの最大値hmax=26%に設定した。また、解析検討に用いた双曲線モデルは、剛性低下率α=0.5となるときの歪レベルγ=0.1%とした。これは、最大剪断応力τmaxを0.001G0に設定したことに相当する。上記パラメータを設定したR−Oモデル及び双曲線モデルによって表される歪レベルγ−剛性低下率α特性、歪レベルγ−減衰定数h特性を図9に示す。また、入力地震動としては、神戸位相のレベル2告示波(時間刻み0.005秒、継続時間30秒)を係数倍(0.2倍, 0.5倍, 1.0倍, 2.0倍, 4.0倍)して用いた。
また、本発明に係る非線形の因果的履歴減衰モデルについては、解析対象の振動数範囲を原則として0〜10Hzとし、(2)式の右辺第2項に代入する剛性低下率α及び減衰定数hを決定するための歪レベルγとしてはケース2を適用した(後述する解析検討の結果はケース2に対応しているが、本願発明者はケース1,3についても解析検討を行い、ケース2と解析結果の差異が小さいことを確認している)。また歪レベルγに応じて変化する各解析対象時刻tにおける剛性低下率α及び減衰定数hの値は、各解析対象時刻tから過去1秒間の歪レベルγの最大値に応じて変化するものとした。本願発明者は、この時間(過去の歪レベルγの最大値を記憶している時間)を0.25秒〜2.0秒の間で変化させた解析検討も行ったが、この時間を変化させても解析結果に大きな差異が生じないことを確認している。また、時間積分にはNewmark-β法(β=1/4)、収束計算には修正Newton-Raphson法を適用した。
(R−Oモデルとの比較検討)
R−Oモデルと比較検討を行うため、本発明に係る非線形の因果的履歴減衰モデルに対し、図9に示すR−Oモデルと同一の歪レベルγ−剛性低下率α特性、歪レベルγ−減衰定数h特性を与え、前述の地盤モデルに対して地震応答解析(時刻歴応答解析)を行い、全ケースの全ての解析対象時刻で演算結果の収束を得た。次の表1に、非線形の因果的履歴減衰モデルを用いた地震応答解析によって得られた最大応答値と、R−Oモデルを用いた地震応答解析によって得られた最大応答値との比較を示す。
表1からも明らかなように、R−Oモデルによって得られた最大応答値に比して、非線形の因果的履歴減衰モデルによって得られた最大応答値は全体的に若干小さめの値となっているが、その差異はほぼ±10%以内である。
また図10には、入力地震動のレベルが0.2倍、1倍、4倍のときに非線形の因果的履歴減衰モデル及びR−Oモデルによって得られた加速度波形(5〜20秒)を各々示す。図10から明らかなように、両モデルによって得られた加速度波形は、若干の相違はあるものの全体としてはおおよそ一致している。
更に図11には入力地震動のレベルが0.2倍、1倍、4倍のときに非線形の因果的履歴減衰モデル及びR−Oモデルによって得られた歪と応力の関係を各々示す。図11から明らかなように、非線形の因果的履歴減衰モデルによって得られる歪と応力の関係においても、R−Oモデルと同様、歪の増大に伴い、ループの膨らみの増大(減衰定数hの増大を表す)や、正負の最大値を結ぶ中心軸の傾きの減少(剛性の低下を表す)が生じている。両モデルによる結果は、ループの形状がやや相違しているものの、ループの大きさや傾きは全体としておおよそ一致している。
以上の結果より、比較検討を行った非線形の因果的履歴減衰モデルは、入力地震動のレベルの変化に拘わらず、R−Oモデルとおよそ同等の精度の良好な解析結果が得られることが理解できる。
(双曲線モデルとの比較検討)
続いて、双曲線モデルと比較検討を行うため、本発明に係る非線形の因果的履歴減衰モデルに対し、図9に示す双曲線モデルと同一の歪レベルγ−剛性低下率α特性、歪レベルγ−減衰定数h特性を与え、前述の地盤モデルに対して地震応答解析(時刻歴応答解析)を行った。次の表2に、非線形の因果的履歴減衰モデルを用いた地震応答解析によって得られた最大応答値と、双曲線モデルを用いた地震応答解析によって得られた最大応答値との比較を示す。
非線形の因果的履歴減衰モデルを用いた地震応答解析では、入力地震動のレベルが0.2倍〜1倍の範囲では、全ての解析対象時刻で演算結果が収束し、表2からも明らかなように、非線形の因果的履歴減衰モデルによって得られた最大応答値は、R−Oモデルによって得られた最大応答値に対して±15%以内に収まった。
一方、非線形の因果的履歴減衰モデルを用いた地震応答解析において、入力地震動のレベルが2.0倍以上のケースでは演算結果(解)が発散した。これは以下の原因が考えられる。すなわち、本解析検討で用いた双曲線モデルの動的変形特性(歪レベルγ−剛性低下率α特性、歪レベルγ−減衰定数h特性)は、歪レベルγが0.1%以上となると減衰定数hが急速に上昇し、剛性も急速に低下する。入力地震動のレベルが2.0倍のケースでは、歪レベルγが最大約1.5%で、その時点の減衰定数hが約50%、剛性低下率αが約10%となっている。そして、歪レベルγが最大となっている時の共振振動数は初期の2.5Hzから0.8Hzに低下するものと考えられる。本発明に係る非線形の因果的履歴減衰モデルは、複素減衰K0(1+2h・i)の虚数単位iを時間領域で近似するものである。このため減衰定数hの値が小さくなるほど精度が高く、逆に減衰定数hの値が大きくなるほど精度が低下する傾向がある。この精度の低下は解析対象の振動数範囲の下限や上限及びその付近で大きい。本願発明者が詳細に検討したところ、減衰定数hが40%程度以上の場合に解の発散が生じていることが判明した。解析検討の条件にもよるが、減衰定数hがこのように大きな値となる場合には、モデルの設定に関して検討の余地があると考えられるが、一方で通常の地盤では減衰定数hがこのように大きな値となる場合はかなり限定されるものと考えられる。
また本願発明者は、入力地震動のレベルが2.0倍のケースについて、解析対象の振動数範囲の上限を10Hzから5Hzに低下させて再度解析検討を行った。この場合は解の収束を得たが、表2からも明らかなように最大応答値の精度は大きく低下した。本発明に係る非線形の因果的履歴減衰モデルでは、解析対象の振動数範囲外に対し、解析対象の振動数範囲内の3倍以上の大きな減衰定数が与えられるため、実質的に5〜10Hzの成分がカットされ、これが精度の低下に繋がったものと考えられる。
一方、図12には、入力地震動のレベルが0.2倍、1倍のときに非線形の因果的履歴減衰モデル及び双曲線モデルによって得られた加速度波形(5〜20秒)を各々示す。図12から明らかなように、両モデルによって得られた加速度波形は、若干の相違はあるものの全体としてはおおよそ一致している。
更に図13には入力地震動のレベルが0.2倍、1倍のときに非線形の因果的履歴減衰モデル及び双曲線モデルによって得られた歪と応力の関係を各々示す。図13から明らかなように、入力地震動のレベルが1倍のケースでループの形状がやや相違しているものの、ループの大きさや傾きは全体としておおよそ一致している。
以上の結果より、比較検討を行った非線形の因果的履歴減衰モデルは、入力地震動のレベルの変化に拘わらず、双曲線モデルとおよそ同等の精度の良好な解析結果が得られることが理解できる。
(まとめ)
上記の解析検討から、本発明に係る非線形の因果的履歴減衰モデルの特性に関し、以下の事項が明らかとなった。すなわち、R−Oモデルや双曲線モデルと同一の動的変形特性(歪レベルγ−剛性低下率α特性、歪レベルγ−減衰定数h特性)を与えた場合、本発明に係る非線形の因果的履歴減衰モデルは、R−Oモデルや双曲線モデルとおよそ同等の精度の良好な解析結果が得られる。R−Oモデルや双曲線モデルは動的変形特性の設定に制限があり、多くの場合、実験等より得られた動的変形特性をそのまま用いることは困難である。これに対し、本発明に係る因果的履歴減衰モデルはそのような制限がなく、任意の動的変形特性で解析を行うことができるので、この点で優れている。