JP4845102B2 - ペプチド - Google Patents

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本発明は抗酸化作用を持つペプチドに関する。また、本発明は、乳タンパク質に由来する抗酸化作用を持つペプチドに関する。さらに、本発明は、該ペプチドを有効成分とする抗酸化剤に関する。さらにまた、本発明は、該ペプチドを配合した抗酸化用飲食品、化粧品または飼料に関する。
不飽和脂肪酸の酸化によって生じる過酸化物やフリーラジカルは、食品の風味や栄養価等を損ない、品質の劣化を惹き起こすだけではなく、生体においては、その強い酸化力により細胞内のタンパク質や遺伝子DNAを傷つけるとともに、細胞膜を構成する脂質を攻撃して、毒性の強いハイドロパーオキサイド等の過酸化脂質を作り、細胞損傷や組織障害を惹き起こすといわれている。こうした活性酸素やフリーラジカルによる生体への有害な作用の蓄積が、老化を促進することや、ガンや動脈硬化、心臓病をはじめとする、いわゆる生活習慣病の原因の一つとして関係があることが明らかとなってきた。そのため、食品成分による酸化ストレスの防止や抑制の観点から、食品の抗酸化性と食品成分との関係に関する研究や抗酸化性を持つ成分の探索が行われている。
抗酸化性を持つ成分に関しては、植物由来のビタミンやポリフェノール等が以前から知られている。ビタミンに関しては多くの報告があり、特にビタミンC、ビタミンE及びβ-カロテン等に抗酸化性が認められている。また、ポリフェノールについては、カテキン類やフラボノイド類等が強い抗酸化性をもつことが明らかにされている。 さらに、タンパク質のプロテアーゼ加水分解物からも多種多様な抗酸化ペプチドが分離・同定されており、卵白アルブミンの酵素分解物から3種類の抗酸化ペプチドを分離したという報告がある(例えば、非特許文献1参照。)。また、大豆タンパク質のβ-コングリシニンのプロテアーゼ加水分解物から、6種類の抗酸化ペプチドを分離・同定したという報告もある(例えば、非特許文献2参照。)。
一方、乳タンパク質の酵素分解物についてはオピオイド活性作用、カルシウム吸収促進作用、細胞増殖作用、抗菌作用、アンジオテンシンI変換酵素阻害作用等、多くの生理作用が明らかにされている。魚油等のエイコサペンタエン酸含有油脂を水溶性タンパク質溶液により乳化して魚油臭を抑制する方法(例えば、特許文献1参照。)や、高度不飽和脂肪酸含有油脂を乳の部分加水分解物により乳化し、酸化安定性の高い高度不飽和脂肪酸含有油脂の粉末を得る方法(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。また、高度不飽和脂肪酸含有油脂、チーズ及び水を乳化させて抗酸化乳化物を調製して、高度不飽和脂肪酸含有油脂の酸化を防止し、高度不飽和脂肪酸含有魚油由来の魚臭や保存中の異臭をマスキングするという方法(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。しかし、これらはいずれも高度不飽和脂肪酸含有油脂に、水溶性タンパク質溶液、乳の部分加水分解物、またはチーズを加えてそれぞれ乳化させた高度不飽和脂肪酸含有油脂の乳化物であって、主体となる高度不飽和脂肪酸含有油脂自体が有する魚臭や保存中の異臭を防止するものである。しかしながら、高度不飽和脂肪酸含有油脂と混合し乳化させることなく、乳タンパク質由来のペプチド単独で抗酸化性を持つという報告は数少ない。本発明者らはチーズの水溶性ペプチド画分が抗酸化作用を持つことを見出し、特許出願を行った(特許文献4参照。)。また、特定のアミノ酸配列を有するペプチドが抗酸化作用を有することを見出した(特許文献5参照。)。しかし、本発明で特定するアミノ酸配列を有するペプチドが抗酸化作用を有することを見出したものではない。
特開昭60‐102168号公報 特開平2‐305898号公報 特開平7‐274823号公報 特開2004‐352958号公報 特願2005‐294358号 柘植信昭ら、日本農芸化学会誌、65号、p.1635、1991年 エッチ・エム・チェンら(Chen, H.M. et al.), ジャーナル・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー(J. Agric. Food Chem.), 43号, p.574, 1995年
本発明は、食品の風味や栄養価等を損ない、品質の劣化を引き起こすだけではなく、生体においては疾病や老化等の悪影響を及ぼす活性酸素やフリーラジカル等による生体の酸化的障害を抑制するのに有効な抗酸化作用を有するペプチドを提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、次の式(1)又は(2)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに抗酸化効果があり、しかも低用量で効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
Gly-Ile-His 式(1)
Pro-Gly-Pro-Ile-His 式(2)
すなわち、本発明は、上記の式(1)又は(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドに関する。
また、本発明は、乳タンパク質に由来する式(1)又は(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドに関する。
さらに、本発明は、式(1)もしくは(2)、又はそれらの混合物で表されるペプチドを有効成分とする抗酸化剤に関する。
さらにまた、本発明は、式(1)もしくは(2)、又はそれらの混合物で表されるペプチドを配合した抗酸化用飲食品、化粧品または飼料に関する。
本発明の式(1)又は(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドは、食品の風味や栄養価等を損ない品質の劣化を引き起こすだけではなく、生体においては疾病や老化等の悪影響を及ぼす活性酸素やフリーラジカル等による生体の酸化的障害を抑制するのに有効であり、このペプチドを有効成分とする抗酸化剤として、また、このペプチドを配合した抗酸化用飲食品、化粧品または飼料として有用である。
本発明に用いることができるGly-Ile-His、又はPro-Gly-Pro-Ile-Hisで表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドは、例えばチーズを溶媒に懸濁した後、脱脂、遠心分離によって不溶性物質の除去を行って得ることができる。さらにその得られた画分からタンパク質を除去してもよい。本発明においてチーズを溶媒に懸濁するということは、チーズに溶媒を加えて均質化したり、または溶媒中で破砕したりして、水溶性ペプチド画分を得やすい大きさにすることをいう。溶媒としては、水、リン酸緩衝液等の水性溶媒を用いることができる。その後、透析膜やイオン交換樹脂等によって脱塩を行ってもよいし、さらに、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥させることにより粉末化してもよい。
また、式(1)又は(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドを得るためのチーズ原料としては、パルメザンチーズ、グリュイエールチーズ、マリボーチーズ、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エメンタールチーズ、エダムチーズ、カマンベールチーズ、ブリーチーズ、マンステールチーズ、ポン・レヴェックチーズ、スチルトンチーズ、ダナブルーチーズ、ブルーチーズ等のナチュラルチーズ、及びこれらのナチュラルチーズを原料としたプロセスチーズ等を用いることができる。
さらに、チーズを溶媒に懸濁した後、脱脂、不溶性物質の除去及びタンパク質の除去によって得られる式(1)又は(2)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む画分は、C18カラムを用いた逆相クロマトグラフィーによりさらに精製することも可能である。本ペプチドを含む画分をトリフルオロ酢酸(TFA)等の酸性条件下あるいは蒸留水等の中性条件下でC18カラムに通した時に、抗酸化活性を有する画分は、主としてカラムに吸着されない透過画分と、カラムに吸着されて10%エタノールで溶出されてくる画分に分かれる。これらの画分についてゲルろ過クロマトグラフィーによりさらに精製を行った場合の、活性画分の分子量分布は、いずれの画分も400〜6,000の範囲である。
さらに、このペプチドを含む画分を0.05%TFAで溶解した後、YMC-Pack ODS-Aカラム(4.6mm x 150mm;YMC社)を用いて逆相HPLCに供してペプチドを分画する。クロマトグラフィーは、溶媒(A液:0.05%TFA;B液:100%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒45%B,125 min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行うことが望ましい。
本発明の式(1)もしくは(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド及び該ペプチドを含む画分又はそれらの混合物は、それらを有効成分とする抗酸化剤、それらを配合した飲食品、化粧品または飼料を経口摂取又は非経口摂取することによって生体内で抗酸化作用を発揮するだけでなく、飲食品、化粧品または飼料自体の酸化による劣化をも防ぐ。
本発明の式(1)もしくは(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド及び該ペプチドを含む画分、又はそれらの混合物を飲食品に配合する場合は、チーズを水中で摩砕した後、脱脂、遠心分離によって不溶性物質の除去を行って、さらにタンパク質を除去することにより得たチーズの水溶性ペプチドをそのまま配合することができるし、透析膜やイオン交換樹脂等によって脱塩を行ったもの、さらに、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥を行い粉末化したものも配合することができる。また、合成して得られたペプチドについても利用可能である。本発明の抗酸化用飲食品としては、チーズ、バター、乳飲料、ジュース、ヨーグルト、ゼリー、パン、アイスクリーム、麺、ソーセージ、育児用調製乳や離乳食等を挙げることができる。
本発明の式(1)もしくは(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド及び該ペプチドを含む画分、又はそれらの混合物は、抗酸化剤として経口あるいは非経口的に投与して、生体において活性酸素やフリーラジカル等を消去することにより疾病や老化等の進行を防止することができる。経口あるいは非経口的に投与する場合、本発明の抗酸化作用を持つペプチドの剤形としては、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、丸剤、トローチ、舌下剤または液剤等の経口投与用の製剤、あるいは、注射剤、座剤、塗布剤等の非経口投与用の製剤を例示することができる。
本発明の式(1)もしくは(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド及び該ペプチドを含む画分、又はそれらの混合物を化粧品に利用するに当たっては、その使用目的に応じて、通常用いられる公知の成分に配合することによって、液剤、固形剤、半固形剤等の各種剤形に調製することが可能で、好ましい組成物として軟膏、ゲル、クリーム、スプレー剤、貼付剤、ローション、粉末、顆粒剤、錠剤等が挙げられる。例えば、本発明の抗酸化作用を持つペプチド及び該ペプチドを含む画分をワセリン等の炭化水素、ステアリルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸低級アルキルエステル、ラノリン等の動物性油脂、グリセリン等の多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリエチレングリコールの界面活性剤、無機塩、蝋、樹脂、水および要すればパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等の防腐剤に混合することによって、化粧品を製造することができる。
本発明の式(1)又は(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド及び該ペプチドを含む画分、又はそれらの混合物の経口による投与量は、治療や予防の目的、症状、体重、年齢や性別等を考慮して適宜決定すればよいが、通常、成人1日あたり式(1)又は(2)で表される抗酸化作用を持つアミノ酸配列からなるペプチドとして10μg〜500mg投与すれば、疾病や老化等に悪影響を及ぼす活性酸素やフリーラジカル等による生体の酸化的障害を抑制する治療または予防効果が得られる。 また、本発明化粧品の有効量は剤形により異なるが、塗布による場合には、適用する組成物全量を基準として、好ましくは、0.001%〜2重量%となるように、本発明の式(1)又は(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドを配合すればよい。
このように本発明は低用量で効果がある。
さらに、本発明の式(1)もしくは(2)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド及び該ペプチドを含む画分、又はそれらの混合物からなる抗酸化作用を持つペプチドは、各ペプチド1種だけを有効成分として抗酸化剤としたり、1種だけを配合して抗酸化用飲食品、化粧品または飼料とすることもできるが、2種のペプチドを有効成分として抗酸化剤としたり、2種ペプチドを配合して抗酸化用飲食品、化粧品または飼料とすることもできる。
以下に実施例及び試験例を示し、本発明をより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
(ブルーチーズのペプチドの調製)
ブルーチーズ20gに蒸留水80mlを加え、ストマッカー(オルガノ社)で15分間摩砕した後、水中においてウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX、T-25;IKAジャパン社)で30秒間さらに破砕した。 破砕時に生じた乳脂肪を取り除き、得られたチーズスラリーを振盪機で30分間振盪した後、遠心分離(6,000rpm、20min、4℃)で不溶物を除き、上清をろ紙(No.113;ワットマン社)によりろ過した。 得られたろ過液にエタノールを70%濃度になるように加え、4℃で4時間静置した後、遠心分離(10,000rpm、20min、4℃)により不溶物を除去し、エバポレーターでエタノールを除いた後、凍結乾燥してブルーチーズの水溶性ペプチド画分を得た。
この水溶性ペプチド画分を0.05%TFAで溶解した後、YMC-Pack ODS-Aカラム(4.6mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供し、水溶性ペプチド精製画分に分画した。クロマトグラフィーは、溶媒(A液:0.05%TFA;B液:100%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒45%B,125 min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行った。結果を図1(Blueと示したクロマトグラム)に示す。これら分画した画分の抗酸化活性を以下に示す試験例1の方法で測定したところ、クロマトグラムの矢印の画分に強い抗酸化活性が確認された。
この強い抗酸化活性が確認された水溶性ペプチド精製画分をCosmosil 5C22-AR-II(4.6mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供し、更に分画しペプチドを得た。クロマトグラフィーは、溶媒(A液:0.1%TFA;B液:80%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒15%B,40 min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行なった。結果を図2に示す。これら分画したペプチドの抗酸化活性を測定したところ、クロマトグラムの7の画分に強い抗酸化活性が確認された。
得られたブルーチーズのペプチドについて、ペプチドシークエンサー(アプライド・バイオシステムズ社)でアミノ酸配列を解析したところ、Gly-Ile-His及びPro-Gly-Pro-Ile-Hisなる配列であることが確認された。
このようにして得られた本発明のペプチドは、そのまま抗酸化剤として利用可能である。
(各種チーズのペプチドの調製)
スターターとして乳酸菌を用いたボン・レヴェックチーズ及びミュンスターチーズ、乳酸菌と青カビを用いたダナブルーチーズ、乳酸菌と白カビを用いたブリーチーズ及びカマンベールチーズについて、実施例1と同様にしてペプチドを調製した。
すなわち、前記の各チーズ20gに蒸留水80mlを加え、ストマッカー(オルガノ社)で15分間摩砕した後、水中においてウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX、T-25;IKAジャパン社)で30秒間さらに破砕した。 破砕時に生じた乳脂肪を取り除き、得られたチーズスラリーを振盪機で30分間振盪した後、遠心分離(6,000rpm、20min、4℃)で不溶物を除き、上清をろ紙(No.113;ワットマン社)によりろ過した。得られたろ過液にエタノールを70%濃度になるように加え、4℃で4時間静置した後、遠心分離(10,000rpm、20min、4℃)により不溶物を除去し、エバポレーターでエタノールを除いた後、凍結乾燥して各水溶性ペプチド画分を得た。
この各水溶性ペプチド画分を0.05%TFAで溶解した後、YMC-Pack ODS-Aカラム(4.6mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供し、各ペプチド精製画分にさらに分画した。クロマトグラフィーは、溶媒(A液:0.05%TFA;B液:100%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒45%B,125 min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行った。結果を図1(ボン・レヴェックチーズはPont-l’Eveque、ミュンスターチーズはMunster、ダナブルーチーズはDanablu、ブリーチーズはBrie、カマンベールチーズはCamembertと示したクロマトグラム)に示す。これら分画した画分の抗酸化活性を以下に示す試験例1の方法で測定したところ、クロマトグラムの矢印の画分に強い抗酸化活性が確認された。
これらの矢印の強い抗酸化活性が確認された水溶性ペプチド精製画分を、Cosmosil 5C22-AR-II(4.6mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供し、更に分画しペプチドを得た。クロマトグラフィーは、溶媒(A液:0.1%TFA;B液:80%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒15%B,40 min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行ったところ、図2に示したブルーチーズと同様のクロマトグラムが得られ、抗酸化活性が確認された画分について実施例1と同様にしてアミノ酸配列を確認したところ、ブルーチーズの場合と同じペプチドであった。
このようにして得られた本発明のペプチドは、そのまま抗酸化剤として利用可能である。
[試験例1]
(各種チーズの水溶性ペプチド精製画分の抗酸化活性の測定)
実施例1及び実施例2で分画した水溶性ペプチド精製画分及びペプチドについて、リノール酸の酸化物がβ-カロテンを退色させる作用を利用する方法で抗酸化活性を測定した。すなわち、β-カロテン溶液(10mg/10mlクロロホルム) 0.5ml、リノール酸溶液(1g/10mlクロロホルム) 0.2ml、ツイーン40溶液(2g/10mlクロロホルム) 1.0mlを200m1の三角フラスコに入れ、窒素ガスでクロロホルムを完全に除去した後、100mlの蒸留水を加えて溶解した。さらに、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0) 8.9mlを添加して、リノール酸・β-カロテン溶液を調製した。次に、あらかじめ水溶性ペプチド画分0.1mlを分注した分光光度計用試験管セルに、上記のリノール酸・β-カロテン溶液4.9mlを加え、撹拌後直ちに470nmの吸光度(S0)を測定した。なお、リノール酸・β-カロテン溶液の調製に際しては、S0が1.2程度(1.1〜1.3)になるようにβ-カロテン溶液の添加量を適宜増減した。S0測定後、直ちに試験管セルを50℃の恒温槽に入れ、30分間インキュベートした。インキュベート終了後、直ちに吸光度(S30)を測定し、30分間における470nmの吸光度の低下量、ΔS=S0−S30を算出した。ブランクには試料の代わりに70%エタノールを用い、同様の操作を行なった。すなわち、リノール酸・β-カロテン溶液を加えた直後の吸光度(B0)、及び50℃、30分間保持した後の吸光度(B30)を測定し、30分間における470nmの吸光度の低下量、ΔB=B0−B30を求めた。抗酸化活性は次の式に代入し、抗酸化率(%)として表した。
[数1]
抗酸化率(%)=〔(ΔB−ΔS)/(ΔB)〕×100
なお、ポジティブコントロールとして合成抗酸化剤BHT(ブチルヒドロキシルトルエン)を20μM、50μM、100μM、及び200μMに調製したものを用いた。また、対照としてカゼインについても同様に処理し、抗酸化活性を評価したところ、図1の矢印位置の画分に強い抗酸化活性が確認された。また、図2の7の画分に強い抗酸化活性が確認された。
(ペプチドの合成)
得られた2種類のペプチドについて、ペプチドシンセサイザーにて合成を行った。ペプチドシンセサイザー431A(アプライド・バイオシステムズ社)により、パラヒドロキシメチルフェノキシメチルポリスチレン(HMP)樹脂を用い、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基をアミノ末端の保護基としてC末端側からペプチド鎖を順次延長することにより0.25mmolスケールで直鎖保護ペプチドを合成した。得られたHMP樹脂結合保護ペプチドをフェノール、1,2−エタンジチオール、チオアニソール存在下、トリフルオロ酢酸(TFA)によりペプチドのHMP樹脂からの切り離しと保護基の除去を同時に行った。減圧濃縮によりTFAを除去した後、エチルエーテルで粗ペプチドを結晶化させ、これを5%酢酸に溶解し凍結乾燥を行った。得られた直鎖粗ペプチドを、HPLC〔カラム:オクタデシル4PW(21.5×150mm;東ソー社),溶出:0.1%TFAを含む水−アセトニトリルにてグラジエント溶出〕により精製し、直鎖精製ペプチド(Gly-Ile-His)を得た。得られた精製ペプチドの純度は、HPLCによる分析の結果98%であった。
また、Pro-Gly-Pro-Ile-Hisについても同様にして合成した。純度は98%であった。このようにして得られたペプチドについて以下に示す試験例2の方法で抗酸化活性を測定したところ、いずれのペプチドについても強い抗酸化活性が確認された。
このようにして得られた抗酸化作用を持つペプチドは、そのまま抗酸化剤として利用可能である。
[試験例2]
(ペプチドの抗酸化活性)
実施例3で得られた2種類のペプチドの抗酸化活性を、大澤らの方法(J. Agric.Food Chem., Vol.35, No.5, p.809-812, 1987) により測定した。すなわち、ウサギ保存血液と等張液(10mMリン酸緩衝液/152mM NaCl, pH7.4)とを等量混和し、4℃、1,500×g(3,500rpm) 、20分間の遠心分離を3回行って洗浄した。洗浄された血球に低張液(10mMリン酸緩衝液, pH7.4)をよく混和し、4℃、20,000×g(11,000rpm)、40分間の遠心分離を4回行った。得られた緩い沈澱部分 (ゴースト) を用いてペプチドの抗酸化活性を検討した。実施例3で得られた各ペプチドを初濃度で0、0.01、0.1 、1 、10mMとなるように調製し、上記の赤血球膜ゴーストと混合し、酸化剤を加えて酸化反応を行った。対照としては、既知の抗酸化剤であるビタミンEを用いて同様の処理を行った。次いで TBA反応を行い、532nmで吸光度を測定して酸化生成物を定量した。抗酸化活性の評価は、サンプル無添加での吸光度を100%として、各サンプルを添加したときの吸光度から次式で定義されるゴースト酸化率を算出することで行った。なお、このゴースト酸化率が低いものほどゴーストの酸化が抑制されており、抗酸化活性が高いことを示している。また、吸光度測定に当たっては、対照としてゴースト無添加で TBA反応を行って得られた吸光度をブランク値として吸光度から差し引いた。結果を表1に示す。
[数2]
ゴースト酸化率(%) =(吸光度/サンプル無添加での吸光度)×100
表1に見られるように、各ペプチドを添加すると、濃度依存的な抗酸化活性を示した。
以上、本試験例の結果により、Gly-Ile-His又はPro-Gly-Pro-Ile-Hisで表されるアミノ酸配列からなるペプチドには抗酸化活性(ラジカルスカベンジャー活性)が認められ、活性酸素や過酸化脂質による酸化的細胞障害の予防・改善に有用であることがわかった。
[表1]
ゴースト酸化率(%)
──────────────────────────────────
サンプル濃度(mM) 0 0.01 0.1 1 10
──────────────────────────────────
ビタミンE 100 93 88 74 59
Gly-Ile-His 100 81 58 41 26
Pro-Gly-Pro-Ile-His 100 71 52 33 11
──────────────────────────────────
(抗酸化用錠剤の製造)
本発明の抗酸化ペプチド(Gly-Ile-His) 20重量%、乳糖(DMV社)46重量%、結晶セルロース(和光純薬工業社)31重量%、水3重量部を十分混合した後、打錠機(富士薬品機械社)により打錠し、本発明の抗酸化ペプチドを配合した抗酸化用錠剤を製造した。
(抗酸化用果汁飲料の製造1)
表2に示した組成で各成分を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の抗酸化ペプチド(Gly-Ile-His)を配合した本発明の抗酸化用果汁飲料を製造した。
[表2]
────────────────────────────
混合異性化糖 15.4 (重量%)
果汁 10.0
クエン酸 0.5
抗酸化ペプチド(Gly-Ile-His) 0.1
香料 0.2
水 73.8
────────────────────────────
(抗酸化用果汁飲料の製造2)
表3に示した組成で各成分を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の抗酸化ペプチド(Gly-Ile-His及びPro-Gly-Pro-Ile-His)を配合した本発明の抗酸化用果汁飲料を製造した。
[表3]



────────────────────────────
混合異性化糖 15.4 (重量%)
果汁 10.0
クエン酸 0.5
抗酸化ペプチド(Gly-Ile-His) 0.05
抗酸化ぺプチド(Pro-Gly-Pro-Ile-His) 0.05
香料 0.2
水 73.8
────────────────────────────
(抗酸化用ビスケットの製造)
表4に示す組成のドウを作成し、成形した後、焙焼して本発明の抗酸化ペプチド(Pro-Gly-Pro-Ile-His)を配合した本発明の抗酸化用ビスケットを製造した。
[表4]
────────────────────────────
小麦粉 51.0 (重量%)
砂糖 20.0
食塩 0.5
マーガリン 12.5
卵 12.5
水 2.5
ミネラル混合物 0.8
抗酸化ペプチド(Pro-Gly-Pro-Ile-His) 0.2
────────────────────────────
(イヌ飼育用飼料の製造)
表5に示す組成で各成分を混合し、本発明の抗酸化ペプチド(Gly-Ile-His)を配合した本発明のイヌ飼育用飼料を製造した。
[表5]
───────────────────────────
大豆粕 12.0 (重量%)
脱脂粉乳 14.9
大豆油 4.0
コーン油 2.0
パーム油 28.0
とうもろこし澱粉 15.0
小麦粉 8.0
ふすま 2.0
ビタミン混合物 9.0
ミネラル混合物 2.0
セルロース 3.0
抗酸化ペプチド(Gly-Ile-His) 0.1
───────────────────────────
表6に示した配合により原料を混合し、本発明の抗酸化ペプチド(Gly-Ile-His)を配合した本発明の乳液を製造した。
[表6]
───────────────────────────────
スクワラン 8.0(重量%)
エタノール 7.0
ワセリン 2.0
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20E.0) 1.2
ソルビタンセスキオレエート 0.8
ミツロウ 0.5
プロピレングリコール 0.5
抗酸化ペプチド(Gly-Ile-His) 0.5
カルボキシビニルポリマー 0.2
水酸化カリウム 0.1
精製水 79.2
───────────────────────────────
YMC-Pack ODS-Aカラムによる各種チーズを原料とする水溶性ペプチド画分の分離クロマトグラムを示す。 Cosmosil 5C22-AR-IIカラムによるブルーチーズ水溶性ペプチド精製画分の分離クロマトグラムを示す。

Claims (2)

  1. 次の式(2)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分とする抗酸化剤。

    Pro-Gly-Pro-Ile-His 式(2)
  2. 請求項1に記載のペプチドを配合した化粧品
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