JP4836270B2 - 微粒子分級方法及び装置 - Google Patents

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Description

本発明は、粒径が数ミクロン以下の微粒子でも時間的に完全連続方式で精密分級が可能な微粒子分級方法及び装置に関するものである。
微粒子の分級方法としては、気相(または真空)中で分級する方法と、液相中で分級する方法がある。このうち、気相中で分級する方法は、処理容量が小さく、また微粒子が会合しやすいため、真の粒径による分級にはなかなかならないという問題があった。一方、液相中では気相中と異なり、微粒子は会合しにくく、また微粒子が分散媒中を移動する際に大きな抵抗が発生し、その抵抗は粒径に鋭敏に依存することから、真の粒径により微粒子を容易に分別することが可能となる利点がある。そこで、これらの観点から液相中で分級する方法が着目されている。
微粒子の分級の手法としては、回分(バッチ)方式と、半連続方式と、完全連続方式の3つの方式がある。
回分方式は、チューブやその他の形状の処理容器を用いて、一回の運転毎の対象微粒子を分級処理する方式である。回分方式では、少量ずつの処理しか行えず、バッチ間の粒子の粒径の均一性の保証が困難であるという問題がある。
半連続方式は、連続的な運転が可能な方式である。しかし、この方式では、例えば分級装置内に蓄積された分級微粒子の回収などのために、一定時間運転後には必ず定常運転状態を破らなければならないという問題がある。
完全連続方式は、原理的には定常運転状態を無限に続けることが可能な方式である。定常運転状態の中で試料の供給及び回収を完全に行うことができる。微粒子分級においてこの方式を用いると、分級処理量が飛躍的に増大するだけでなく、分級した回収微粒子の粒径を精密に揃えることへの道が開かれる。なぜなら回分方式の場合、上記のように、たとえ一回のバッチで精密に粒径を揃えた画分が得られたとしても、別のバッチでそれと粒径を精密に揃えることは難しく、どうしても粒径が微妙にずれがちとなる。ところが、完全連続方式では、このような問題はなく、また半連続方式におけるように一定時間運転後には必ず定常運転状態を破らなければならないという問題もないからである。
一方、液相中での微粒子分級の方法として、遠心分離を利用する方法が用いられており、大別して、沈降平衡法と、沈降速度法がある。
沈降平衡法は、微粒子をその浮游密度の差で分級する方法である。図1に沈降平衡法を利用したスイングローターによる遠心分離分級の原理の概念図を示す。遠心管1の中にあらかじめ階段状の密度勾配を形成させ、種種の浮遊密度を有する成分の混合物をその上で沈降させると、各成分はその浮遊密度と等しい層のところに移動する、そういう形で各成分をその浮遊密度により分離することが出来るのである。図1の方法は回分方式に相当する。
次に図2は、沈降平衡法を完全連続方式で実現するための装置原理を、従来のスイングローターとの比較で示したものである。完全連続方式の装置においては、試料溶液も階段状の密度勾配もローター内に時間的に連続して供給されるが、密度勾配の上を試料成分が沈降するに伴い浮遊密度の違いにより分離される機構に関しては、完全連続方式の場合もスイングローターの場合と全く同様であることが分る。さらに、このように沈降平衡法を完全連続方式で実現するための装置構造を図3に模式的に示す(米国特許第4425112号(特許文献1)、Pittsburgh Conference, March 2000, New Orleans、 LO、 USA(非特許文献1))。
それに対し沈降速度法は、微粒子をその沈降速度の差で分級する方法である。この沈降速度法では、液相中の微粒子の密度が等しく、形状も一定(例えば球状)ならば、粒子をサイズにより一義的に分離することが可能となる。図4において、スイングローターを用いた場合を例にとり、沈降速度法による遠心分離の原理を述べる。スイングローターで用いる遠沈管(遠心チューブ)2の中にあらかじめ(階段状ではなく)空間的に連続した密度勾配を形成させ、種種のサイズを有する粒子の混合物をその上で沈降させると、各粒子はそのサイズに応じた沈降速度により液相内を移動するので、沈降開始後ある時間だけ経過させると、各粒子はそのサイズにより異なる沈降距離の位置に存在する、そういう形で、各粒子成分をそのサイズにより分離することが出来るのである。なお、沈降速度法において、階段状ではなく空間的に連続した密度勾配を用いるのは、液相内の擾乱を最大限抑止するためである。沈降速度法は沈降平衡法と異なり、液相が擾乱すると(粒子の沈降が乱され、その結果)分離能が大幅に悪化するのであるが、ローターの動径方向に連続的に増大する濃度勾配を用いることで液相の擾乱を抑止出来ることが知られている。ローター回転数が大きくなると、コリオリ力が飛躍的に増大、ひとたび液相内で擾乱が起きると、それに正のフィードバックがかかると考えられる(そのことは我々の実験でも示された)が、強大な遠心力場における順方向の密度差による擾乱抑止効果がそれを上回ると考えられる。図4の方法は回分方式に分類される。
さて、図3に示したように、完全連続運転モードにより微粒子を分級出来る装置(ないしその原理)が既に存在するのであるが、その方式は沈降平衡法である。ここで留意すべき点は、産業技術一般の観点からすると、沈降平衡法より沈降速度法を利用した分級装置の方が遥かに意義が大きいことである。しかしながら沈降速度法は上述のように沈降平衡法と異なり、流れ層内の乱流により分離能が大幅に悪化することからこれまで、沈降速度法による完全連続モードの分級装置実現には困難があった。そのような(液相中における沈降速度法により微粒子を分級する連続運転モードの)装置としては、これまでハイドロクロンが唯一の装置であったが、しかしハイドロクロンは、粒径数ミクロン以上の微粒子の分級にしか適用できないという問題があった。
米国特許第4425112号 特開2004−314068号公報 Pittsburgh Conference,March 2000,New Orleans、LO、USA
本発明は、このような従来技術の実状に鑑みてなされたもので、粒径が数ミクロン以下、場合によっては100ナノメートル以下の微粒子でも完全連続方式で精密分級が可能な微粒子分級方法及び装置を提供することをその課題とする。
また、本発明者が先行して出願した特開2004−314068号公報にもその領域まで分画可能な装置が含まれていたが、この先行発明ではでは精密な温度制御が必要であった。
前記記課題を解決するため、
請求項1にかかるい発明は、遠心ローター内分離流路にて、分離対象とする微粒子試料を液相中において沈降速度法により分離する遠心分離方式を用いた微粒子分級方法であって、
遠心ローターの両端を大口径ベアリングで支持し、遠心ローター回転軸を経由せずに回転駆動力を伝える方式を採用し、遠心ローター回転軸両端からの回転シールによる前記分離流路との流路接続を可能とし、さらに該回転軸の一端に前記分離流路に接続される非連結型流路を設け、遠心ローターへ出入りする総流路数を増やすことを特徴とする微粒子分級方法である。
請求項2にかかる発明は、前記分離流路の入口に連続密度勾配形成器を設け、該連続密度勾配形成器により、液相の溶液密度が遠心ローターの動径方向において空間的に連続した密度勾配場を形成させることを特徴とする請求項1に記載の微粒子分級方法である。
請求項3にかかる発明は、分離対象となる微粒子試料の供給及び分級した微粒子の回収を時間的に完全連続方式により行うことを特徴とする請求項1または2に記載の微粒子分級方法である。
請求項4にかかる発明は、前記連続密度勾配形成器と分離流路の配置において遠心ローター内の一周以上を使うことで、連続密度勾配形成器と分離流路の合計長を長くし、試料粒子のローター滞在時間を確保することを特徴とする請求項2または3に記載の微粒子分級方法である。
請求項5にかかる発明は、前記連続密度勾配場の端または人為的に作った密度勾配段差の位置に微粒子試料をロードすることにより、試料バンドの幅広化を抑止する請求項2または3に記載の微粒子分級方法である。
請求項6にかかる発明は、分離対象となる微粒子試料を液相中において沈降速度法により分離するための分離流路、微粒子試料の供給のための入口および分級した微粒子の回収のための出口が形成された遠心ローターを有し、
該遠心ローターの両端を大口径ベアリングで支持し、遠心ローター回転軸を経由せずに回転駆動力を伝えようにし、遠心ローター回転軸両端に回転シールを設けて前記分離流路との流路接続を可能とし、さらに該回転軸の一端に前記分離流路に接続される非連結型流路を設けたことを特徴とする微粒子分級装置である。
請求項7にかかる発明は、前記分離流路の入口に連続密度勾配形成器を設け、該連続密度勾配形成器により、液相の溶液密度が遠心ローターの動径方向において空間的に連続した密度勾配場を形成させるようにしたことを特徴とする請求項6に記載の微粒子分級装置である。
請求項8にかかる発明は、請求項6または7に記載の分級装置において、非連結型流路の出口付近に羽根を設け、該羽根が遠心ローターとともに回転することでドレインダクト内の気流を形成し、かつ、非連結型流路出口先端付近の気流状態を調整するようにしたことを特徴とする微粒子分級装置である。
請求項9にかかる発明は、請求項8に記載の分級装置において、非連結型流路の出口をノズル状とし、ノズル周囲の気流状態の調整とノズル先端の液切れをよくし、ノズル先端部への固形分析出を抑えるようにしたことを特徴とする微粒子分級装置である。
請求項10にかかる発明は、請求項9に記載の分級装置において、出口のノズル周囲を環状フードで包むことにより、同ノズル先端付近の気流状態を調整するようにしたことを特徴とする微粒子分級装置である。
請求項11にかかる発明は、請求項7に記載の分級装置において、前記密度勾配場の端または人為的に作った密度勾配段差の位置に微粒子試料をロードする試料注入用ポートを設け、試料バンドの幅広化を抑止するようにしたことを特徴とする微粒子分級装置である。
請求項12にかかる発明は、前記非連結型流路の少なくとも出口および羽根が前記回転軸に対して着脱自在になっていることを特徴とする請求項10記載の微粒子分級装置である。
本発明によれば、粒径が数ミクロン以下の微粒子でも完全連続方式で精密分級が可能な微粒子分級方法及び装置を提供することが可能となる。
例えば、遠心ローター(以下、単にローターと表記することがある。)と静止している外界との間の流路連結に遠心ローターの回転軸の両端に設けた回転シールを用いているので、特開2004−314068号公報記載の発明と同等の微小粒子まで分画でき、なおかつ密度勾配形成に密度勾配材の濃度差を用いるので温度の精密制御は必要ない。
本発明でそれを可能ならしめた構造は、遠心ローターの回転軸の両端に設けた回転シールで実現できる(2+2=)4本の流路に加え、遠心ローターの回転軸近傍に設けた非連結型の第5流路である。5本の流路のうち、密度すなわち濃度の異なる2種の密度勾配材を2本の流路を使用して遠心ローター内の分離流路に送ることができる。このため、分離流路内での密度勾配形成に密度勾配材の濃度差を用いるので温度の精密制御は必要ない。
以下、本発明の実施の形態を好ましい実施例に基づいて詳述する。
先ず、本発明の微粒子分級方法及び装置で用いる遠心分離の原理について説明する。
この原理は装置の種類によらず成り立つものである。
液相中では微小な粒子の場合、何らかの原因で系のおかれている状況に変動があったとしても、当該粒子に働く遠心力と液相中を移動する際に生じる抵抗力は速やかに等しくなる。簡単のために粒子形状を球とすると、
遠心力=1/6πd(ρ−ρ)g
抵抗力=3πdμv (ストークスの法則)
d: 粒子直径
ρ: 粒子の浮游密度
ρ: 液相の密度
g: 遠心力場の加速度
μ: 液相の粘度
v: 沈降速度
という関係がある。
ここで、両者を等しいとおき、沈降速度vについて解くと、
v=d(ρ−ρ)g/18μ ・・・式(1)
となる。
式(1)より、ρ−ρ=0ならば、v=0になる。即ち、微粒子がその浮游密度と等しい液相部位に到達するとそこで停止する。沈降平衡法はこの現象を利用するものである。
これに対し、沈降速度法では、粒子密度が同一(ρ−ρが同一)の場合でも、粒径が異なると沈降速度も異なる(式(1)より沈降速度は粒径の2乗に比例する)という現象を利用するものである。同様に式(1)から分かるように、液相の粘度μは、沈降速度を遅くする(遠心の所要時間を長くする)因子であり、どの方式を用いる場合でも小さい方が望ましい。そして本発明では、一定の沈降時間の間に一定の距離を沈降(または浮上)する画分として、ある値の沈降速度をもつ画分を回収するものである。
なお、遠心力場の加速度gは、
g=rωで与えられる。
r: ローター回転軸からの距離
ω: ローター回転の角速度
本発明の微粒子分級方法及び装置は、遠心ローター内の分離流路において、分離対象とする微粒子試料を液相中において、沈降速度法を用いて試料粒子のサイズの違いにより分離する微粒子分級手法であって、分離流路内で液相の密度が遠心ローターの動径方向において連続的に変化する密度勾配を形成させ、かつ、試料微粒子の供給及び分級した微粒子の回収を時間的に完全連続方式により行うことを特徴とするものである。
図5に、沈降速度法を時間的に完全連続方式で実現するという本発明の装置原理を、従来のスイングローターとの比較で示す。本発明では、微粒子試料液も空間的に連続した密度勾配もローターの分離流路内に時間的に連続して供給されるが、密度勾配の上を粒径の異なる各粒子が沈降速度の違いにより分離される機構に関しては、本発明の場合も従来のスイングローターの場合と全く同様であることが分かる。まず、一つの好ましい実施例について説明する。本実施例においては、遠心ローター上で液相の密度が遠心ローターの動径方向において連続的に変化する連続的密度勾配を形成させるために、後述するような連続密度勾配形成器が使用される。そこでは、液相密度の制御は、溶解している溶質(密度勾配材と呼ばれる)の濃度を変えることにより行われる。本実施例における装置の全体構成の例を図11に示す。図11に示す装置については後述する。
図11の中でローター本体11と記されている部分の中身が図8の構造である。ここでは、異なる濃度(従って溶液密度)である2つの密度勾配材溶液が遠心ローター内の連続密度勾配形成器に時間連続的に供給される。同時に、試料液も同形成器の下流地点において、空間的に連続した密度勾配場上に供給される。
図6、図7は、連続密度勾配形成器3を示すもので、連続密度勾配形成器3は、入口部と出口部とを有する内部が空洞の略筒状となっており、長手方向での中央部分がくびれた形状となっている。入口部には、図10に示す複数のコネクタ4、4・・を介して複数の密度の異なる液相(密度勾配形成材)が供給できるようになっている。
図8はこの連続密度勾配形成器3を遠心ローター11内に配置した様子を示したものである(図8では連続密度勾配形成器の入り口に多数のチューブが接続しているように表現しているが、これは原理的にはチューブの数は何本でもよいことを示しているだけである。もし同形成器に実際に供給される液数が2の場合、入り口部分のチューブ数も2になる。)。連続密度勾配形成器3の上流側には回転シールを経由して2本の流路が接続され、その2本の流路を通して異なる密度を持つ2つの液相が供給される。連続密度勾配形成器3の下流側からは遠心ローター11の動径方向rの変化方向に対して連続的密度勾配を持つ液相が出てくることになる。連続密度勾配形成器3の構造は、液相の連続的密度勾配を形成するのに必要な長さ(図9参照。図9では初期の階段状濃度勾配の階段数が多段であるが、本実施例では2段となる。)とする。そして、連続密度勾配形成器3の下流において、狭い幅(小さいΔr)の試料注入ポートを設ける(試料注入過程については、注意すべき問題があり、後述)。さらに図8中の「出口」のところに、狭い幅(小さいΔr)の目的微粒子回収ポートと液相(及び微粒子のその他の画分)回収ポートを設ける。本実施例では試料回収ポートは1カ所であり、回転シール経由の流路から静止外界へ回収する(上下合わせて4流路。その内2流路を密度勾配形成のための液相供給に、そして1流路を試料供給に使用しているので、残り1流路を回収に使用。)。試料回収ポートの(動径方向)内側および外側から回収される液相と(試料の)その他の画分は、両者をまとめて非連結型流路へ流す。なお、試料導入ポートと目的試料回収ポートの幅を狭く(小さいΔrと)するのは、沈降(又は浮上)距離に関する微粒子毎の差異を小さくするなどのためである(後述)。
本実施例において、連続密度勾配形成器3を遠心ローター11内の分離流路にどのように配置するか、その概略は図8に示した通りである。同形成器の下流側はそのままローター内分離流路に接続するだけであるが、同形成器の上流において遠心ローター外から来た2つの流路がどのように接続されるかについては、液相に擾乱を起こしうる因子を除去するための工夫が望ましい。図10にその具体例を示す。
図10は、前記コネクタ4を示すもので、同図において、「上から見た図(全体構造)」は、複数の流路が連続密度勾配形成器3に接続されている様をローター回転軸上方から見たものである。矢印は各流路からの液相の流入を表している。(図10では一般的説明のために、連続密度勾配形成器への供給流路数は5としてあるが、本実施例で実際に供給される流路数は2となる。)そして各流路は各々コネクタ4を介して連続密度勾配形成器に接続されている。個々のコネクタ4の形状の詳細については、「立体図(単位構造)」、「上から見た図(単位構造)」など3つの図で示してある。これらはいずれも、液相を連続密度勾配形成器に流線形状に導入するためのものである。本図では、流路断面の「円形→四角」変換は図に示したコネクタの最も細くくびれた部分とチューブの間で行うことになるが、もっと断面の太い部分、即ち、コネクタ4(単位構造)の途中で「円形→四角」変換を行う手も考えられる。
また、コネクタ4の開口部における上下方向(ローター回転軸に平行な方向)のうちのりは、連続密度勾配形成器のそれに等しいが、コネクタの開口部における横幅(ローター回転軸および流路に直角な方向の幅)は、それぞれのコネクタ開口部における流速の平均線速度の(ローター回転軸から見た)角速度が全てのコネクタ4の間で等しくなるように設定する。
本実施例において用いる連続密度勾配形成器3では、分離流路内で液相の溶液密度が遠心ローターの動径方向において連続的に変化する連続的密度勾配を形成させることがポイントの一つであり、その動作原理について説明する。以下の説明は溶質の拡散という基本現象に基づくものであり、一般に成り立つものである。
遠心力場に図9のAのような階段状の密度を持つ液相があったとする(図9では一般的説明のために、階段状密度勾配の階段数を数個としてあるが、本実施例での階段数は2となる。)。この階段状の密度勾配は、密度勾配材が液相中を拡散することにより、次第に液相各部位の密度勾配材濃度が変化、濃度変化の結果として図9のBの実線のように液相密度も変化してゆく。さらに時間が経過すると、図9のCのように、液相各部位の密度はほとんど直線状の値をとることになる。もっと時間が経過すると、図9のDのように、ほぼ直線状の値をとる密度勾配の長さが次第に短くなってゆく。以上は、遠心力の存在の有無に関わりなく生じる現象であるが、本システムのように強大な遠心力が存在する場においては、密度勾配の整序性を維持しようと強大な力が働くことになり、該密度勾配を乱そうとするコリオリ力などの作用は抑止される。
図3に示す沈降平衡モードの装置では、液相密度の絶対値が重要であるため、ほとんど図9のAの状態での液相を使用している。そのため、(試料粒子の沈降過程を速やかに完了させるために)粘度をあまり増やさず、かつ(階段状密度勾配が長時間維持されるように)拡散速度も小さな密度勾配材として、シリカの超微粒子などを用いる場合が多い。
それに対し本実施例では、図9のC近傍の状態(BとCの中間からCとDの中間まで利用できる)の液相を用いて対象微粒子を分級する。まず、A→Cの過程を促進するため、「連続密度勾配形成器」を用いて液相を動径方向に大幅圧縮することにより、密度(密度勾配材の濃度)勾配ΔC/Δrを大きくし、かつ密度勾配材の拡散距離も小さくてすむようにしている。そして連続密度勾配形成器の下流で動径方向の圧縮を元に戻す。この区間で試料粒子の分離が行われるが、Dから分かるように、時間が経過するに従い密度勾配が直線状の区間はその長さこそ短くなるが、直線状という勾配形状とその勾配値はかなり長い時間保持されることを利用するのである。また仮に、密度勾配の勾配値が多少減少したとしても、液相の擾乱さえ起きず、そしてその密度勾配値の減少の程度が安定していさえすれば(時間によって変化しないということであり、システムが安定していればそうなることが期待される。)問題とはならない。以上を踏まえ、密度勾配材としては、密度勾配材としてありふれた低分子のもの(水に対しては蔗糖や塩類)を用いればよく、ランニングコストの低減につながる。
液相での微粒子の遠心分離による分級において、沈降平衡モードの場合、沈降平衡点(沈降平衡ゾーン)に到達するまでに対象微粒子の浮游密度と液相の密度との間の差が小さいゾーンを通過していく必要があるのに対し、沈降速度モードの場合、対象微粒子の浮游密度と液相の密度との間の差は大きく設定できるので、同等の遠心力場を用いる場合でもより小さな微粒子を扱えることになる。
本発明では、沈降速度モードを利用しているので、沈降平衡モードの場合と異なり、形成された液相密度勾配の絶対密度値は重要でない。液相の擾乱が抑止されるとともに運転中の定常状態が保たれさえすればよい。
本実施例では、回収試料粒子の粒径分布をシャープにするため、図3の装置とは異なり、目的微粒子回収ポートの幅Δrを狭くする。それに加えて、遠心ローター上におけるこの回収ポートの位置その他のハード上の仕様が例え固定されていたとしても、次のような方法により、注入試料の全成分をカバーする(広い粒径範囲をカバーする)ことが可能である。一つは、液相の流速を変えることで微粒子のローター内滞在時間を制御する方法である。回収ポートの位置により決まる距離の沈降に要する時間をそのように制御することで、ポートから回収される微粒子粒径を選択できるのである。また、ローターの回転速度を変える方法もある。一定の距離を一定の時間の間に沈降させる際の遠心力場の強さを制御することでポートから回収される微粒子粒径を選択するのである。
さて、供給液相数を2に限定して連続密度勾配形成器3に供給する場合、動径方向の拡散距離を短くするため、同形成器の中央主要部での動径方向流路幅を狭くする必要がある。そうすると、同主要部での流れに対する壁の効果が顕著になるが、同形成器内を通過する2液のいずれも、(動径方向から流路を挟む)壁から離れた流路中央付近を利用できること、連続密度勾配形成器内は定常状態において使用することにより、問題はない。また、連続密度勾配形成器の中央主要部では、流路断面積を稼ぐ(これは、密度勾配形成器内において拡散に必要な時間を稼ぐためである)ために流路幅が狭くなった分、ローター回転軸方向の流路寸法を長くする必要があり、回転軸方向に伸びたローターを2つのベアリングで支えることになる。しかし、ローターの寸法は長くなっても重量的には大きくないこと、ローター回転軸とローター重心がよく一致していることにより、装置動作上の問題は生じない。
ところで、ローター内滞在時間を稼ぐのは、ローター内で連続密度勾配を形成させるのに必要な拡散時間と試料粒子が分離流路で沈降分離するのに必要な沈降時間を確保するためである。そのためには大きく分けて、「ローター内流路長を長くする」という考え方と「ローター内流れの線速度を小さくする」という考え方がある。前者の考え方を実現する具体的方法として、連続密度勾配形成器と分離流路の合計長がローター1周を超える方式が考えられる。
図15にそのための一方式を示す。太い矢印は連続密度勾配形成器とそれに続く分離流路のローター内配置を示すもので、図15では等しい半径の流路(連続密度勾配形成器と分離流路の合計)をローター回転軸方向に2段重ねたものである(この数は2段に限定されない)。
図16にはローター内流路長を長くするための別の方式を示す。連続密度勾配形成過程では遠心力が微粒子の分離過程ほど強くなくてもよいことから、連続密度勾配形成器を内側(ローター回転軸に近い側)に配して、(連続密度勾配形成器と分離流路の合計として)同一平面内を2周させたものである(この数は2段に限定されない)。以上のような方式、あるいは「ローター内流れの線速度を小さくする」という方式をベースとすることにより、「分離流路内に比して連続密度勾配形成過程を極端に促進する」必要性は回避出来るので、連続密度勾配形成器の形状を極端に「動径方向に詰めてローター回転軸方向に長く」する必要性も回避できる。
また、ローター内滞在時間は同じとすると、(各瞬間において)ローター内に保持されている総液量と単位時間当たりの試料処理量は基本的に比例する。ロードする試料微粒子の適正濃度には限界があること、分離の分解能を考えると、微粒子試料液の分離場液相全体の容積に対する割合にも上限があるからである。従って、時間当たりの試料処理量を増やすには、ローター内の流路を深くする(ローター回転軸方向の寸法を長くする)方法が考えられるが、上述のように密度勾配形成器に極端な形状を採らせる必要を回避出来ることで、分離流路を深くすることも容易になる。また、分離流路を深くすることで、流路の上下壁の効果の除去も期待される。これは、試料微粒子自身の拡散により、試料微粒子が壁際という流れの遅い場とそうでない場との間を行き来しうることから生じる、(ローター内滞在時間の若干の不均一化による)回収微粒子径の若干の幅広化を指す。
さて、沈降速度法では、一定時間内の沈降距離の違いで分画することから、シャープな分画(粒径分布の狭い分画)を実現するためには上述のように、出発位置や終点位置における動径方向バンド幅を沈降距離に比べて狭くする必要がある。またそうすることは、試料粒子集団の中の各粒子に対する遠心力や液相の粘度・密度などの諸条件を揃える意味もある。これらの諸条件は動径方向位置により変化するからである。試料回収位置における動径方向位置を揃えることは例えば、回収ポートの動径方向幅を狭くし、かつ「回収ポートの下流側から回収ポートを経由する吸引流速(体積速度)または回収ポートの上流側から回収ポートを経由する吐出速度(体積流速)」と分離流路の全流速(体積速度)との比を、回収ポートの実効断面積と分離流路全体の断面積の比に見合ったものに調整することで比較的容易に実現可能であるが、試料注入位置でのシャープさの実現は結構面倒である。その理由を図17により説明する。分離流路上流に設置した連続密度勾配形成器などにより分離流路上に前もって形成された連続密度勾配場に試料液(微粒子混合物懸濁液)を注入する場合、試料液のバルク密度(試料微粒子が懸濁された状態の溶媒の巨視的な密度)が試料液注入位置の液相密度とぴったり一致すればよいがそうでないと大きな問題が起きるのである。例えば試料液のバルク密度が試料注入位置の液相密度より大きい場合、図中上段の円内に示したように、密度勾配場に挿入された試料バンドと該バンドより動径方向外側領域(試料液のバルク密度と同程度の密度のところまで)の液相が、密度の逆転を解消しようと、互いの位置を交換しようとする。もし試料バンドと液相の両者が異なる経路を通って位置を交換してくれるのならともかく、そうではなくて同じ空間を互いに逆方向に移動しようとすることから巨視的擾乱の発生が不可避で、たとえ狭いバンドとして試料液を注入したとしても、現実の試料バンドは幅広化する。また、もし試料液のバルク密度が試料注入位置の液相密度より小さい場合、図中下段の円内に示したように、密度勾配場に挿入された試料バンドと該バンドの動径方向内側領域(試料液のバルク密度と同程度の密度のところまで)の液相は互いの位置を交換しようとする。ここでも試料バンドと液相の両者が同じ空間を互いに逆方向に移動しようとすることから巨視的擾乱の発生が不可避で、たとえ狭いバンドとして試料液を注入したとしても、現実の試料バンドは幅広化するのである。試料液のバルク密度と試料注入位置の液相密度がぴったり一致している場合のみ、このような幅広化を回避できる(図中、中段の円内。試料液が密度勾配場に挿入された後、巨視的擾乱は起きない。)。図の横軸方向の位置合わせは、異なる流路をそのように並べて合流させることで実質的に達成できるが問題は、試料液のバルク密度と密度勾配場の密度の間のマッチングである。密度勾配場を拡散という動的過程の結果として形成させている場合、ある地点における密度勾配場の密度を正確に計算することは容易でないのである。
図18に、以上の観点を踏まえた問題解決のための一方式を示す。本図はローター上方(回転軸方向)から、連続密度勾配形成器3と分離流路の開始部分付近を描いたものであるが、この方式では試料注入ポートを分離流路の内外端に配置している(試料粒子が液相より重い沈降モードでは、試料注入ポートは分離流路の内側端に配置する。逆に、試料粒子が液相より軽い浮上モードでは、試料注入ポートを分離流路の外側端に配置する)。
図19に図18の方式(ただし沈降モードの場合)での注入位置を示す。試料液は分離流路内側端(壁際)の位置で注入されるが、その位置での液相の密度値と等しいかそれより小さいバルク密度を試料液が有していれば、上述のような巨視的強制擾乱は起きない。注入する試料液のバルク密度として許容される範囲が相当あることから、このような条件にはめ込むことは難しくない、という長所が示されている。この方式は、次に説明する方式と比べ、余分な流路は要求されず装置構造も難しくないが一方で、分離流路の内側壁の影響を強く受けるという問題がある。シャープな分画を実現するためには、注入される試料液バンドの動径方向幅を沈降距離に比べて狭くする必要があることは既に述べた通りであるが一方で、試料処理量を増やすには、適正な試料濃度には上限があることから、注入する試料液量を増やす必要がある。この相反する両者の対立関係が、壁と接するところでは流れの線速度がゼロになる(壁に近いところでは流れの線速度が中央部より遅くなる)ことから、より厳しくなるのである。以上より、図18の方式は、試料注入バンド幅を余り狭くしなくて済む(余りシャープな分画が要求されない)場合などに適している。
また図20に、問題解決のための別の方式を示す。本図は図18と同様、ローター上方(回転軸方向)から、連続密度勾配形成器3と分離流路の開始部分付近を描いたものであるが、この方式では試料注入ポートを分離流路の端より少し内側に配置している(試料粒子が液相より重い沈降モードでは、試料注入ポートは分離流路の内側に近い位置に、試料粒子が液相より軽い浮上モードでは、試料注入ポートは分離流路の外側に近い位置に配置する)。そして試料注入ポートと分離流路の端との間に別のポートを配置し、そこからスペーサー液を供給する。
図21に、図20の方式(ただし沈降モードの場合)のポイントを示す。試料液は分離流路内側端の位置より少し離れた位置で注入されるが、その試料液注入位置と分離流路内側端の間に別のスペーサー液を供給する。スペーサー液の密度を、密度勾配の内側端の値より有意に小さくすることで、注入する試料液のバルク密度として許容される範囲(巨視的強制擾乱の起きない範囲)が相当見込めることから、このような条件にはめ込むことは難しくない、という長所が示されている。この方式はスペーサー液を供給するために、(回転するローターと静止している外界を結ぶ流路として)図18の方式より1本多くの流路が要求されるが一方で、装置構造は難しくなく、図18の場合に起こる分離流路端壁の影響の問題を回避できるという長所がある。
また図22に、問題解決のためのさらに別の方式を示す。本図は図18,20と同様、ローター上方(回転軸方向)から、連続密度勾配形成器3と分離流路の開始部分付近を描いたものである。この方式では試料注入ポートを分離流路の端より多少内側に配置している(試料粒子が液相より重い沈降モードでは、試料注入ポートは分離流路の内側に近い位置に、試料粒子が液相より軽い浮上モードでは、試料注入ポートは分離流路の外側に近い位置に配置する)が、試料注入ポートから上流へ向かって、密度勾配形成器内流路の途中まで、空間的に連続した隔壁(この隔壁は、流路のローター回転軸方向上端から下端まで隙間なく仕切っている。)を設置することで、この区間における動径方向の物質移動を遮断している。
図23に、図22の方式(ただし沈降モードの場合)のポイントを示す。試料液は分離流路内側端の位置より多少離れた位置で注入されるが、試料注入位置まで流れ方向に沿ってしばらくの区間、拡散現象が遮断されていたことから、ちょうど試料注入位置において密度勾配の段差が生じている(実線で示した密度勾配プロファイル)。図23中に点線で示した密度勾配プロファイルが、このような隔壁がなかった場合に生じる密度勾配であるが、それに比べてしばらくの区間、図9に示す拡散過程が遮断されると、このような段差が生じるのである。段差の生じる原因は、図23の右の方から拡散してきたものが隔壁で止められてそこに蓄積すること、および左の方へ拡散する過程で隔壁の直ぐ左側では右方からの供給が絶たれていることから直感的に理解出来よう。すると、注入する試料液のバルク密度として許容される範囲(巨視的強制擾乱の起きない範囲)が相当見込めることから、このような条件にはめ込むことは難しくないのである。この方式は、スペーサー液を供給するための(回転する遠心ローターと静止している外界を結ぶ)流路は不要で、かつ図18の方式の場合に起こる分離流路端壁の影響の問題も回避できるという長所がある。
本実施例では、特開2004−314068号公報の一部内容と異なり、Ito博士の発明したチューブ接続機構(=Antitwist Assembly 但し、特許は切れている)の代わりに高速回転性や耐久性が確立している2流路型回転シールを用いることで、回転角速度をあげることやローター径を大きくすることが可能となりその結果、より大きな遠心力場を発生させ、より微細な粒子を分別することが可能となる。(サブミクロンに留まらず、100nm以下の所謂ナノ領域まで適用出来る可能性がある。)また、特開2004−314068号公報の中で回転シールを用いる内容との比較においては、適用可能な粒子径は両者同等であるが、本実施例では、精密な温度制御を必要としない分、操作しやすくなっている。
次に本実施例について、遠心ローターの支持の方法、外界との流路連結の方法、非連結型流路機構などに関して説明する。まず回転シールであるが、信頼性・耐久性のあるものとしては一カ所あたり2流路が無難である。すると回転シール2カ所の合計で4本流路までしか取れないが、これに非連結型流路1本を加え、ローターへの出入りとして合計5流路を確保する(図11)。
(1)遠心ローターの両端において大口径ベアリングにより遠心ローターを支持する方式とする。
(2)遠心ローター回転軸を経由せずにギアなどにより回転駆動力を遠心ローターに伝える方式とする。例えばギアを用いる場合、駆動力を伝えるギアと、それとは別にフリーのギアをローターを挟んで反対側に設置し、両者でローターを挟み込む形式とすることによりローター回転軸の安定を図る方法も考えられる。
(3)遠心ローター回転軸に沿って回転軸両端から回転シールなどにより流路を接続する。2流路用の回転シールは既にFFFなどで確立した技術であるが、それを遠心ローターの上下両端に設けることにより、外界と遠心ローターの間に合計4流路を確保出来ることになる。
図11において、符号11は遠心ローターの本体を示し、この遠心ローター11の回転軸12、12は大口径ベアリング13、13で軸支されている。モータ14からの回転駆動力は、ギア15、15を介して回転軸12、12に伝達され、遠心ローター11を高速回転させるようになっている。回転軸12、12のそれぞれの端部には回転シール16、16が設けられ、この回転シール16、16によって遠心ローター11内の分離流路に連通するそれぞれ2本の流路17、17が接続され、合計4本の流路が形成されている。一方の回転軸12の端部には、非連結型流路となる排出ノズル18が設けられており、この排出ノズル18には遠心ローター11内の分離流路に連通するとともに回転軸12内に配されている流路に接続されている。
非連結型流路の排出ノズル18は、ドレインダクト19内部に開口している(図11、12)。ドレインダクト19の形状は内部が空洞の傘状であって、回転軸12側の端部が全周にわたって開口しており、この開口部分に前記排出ノズル18が侵入するようになっている。また、ドレインダクト19は、どの横方向から見ても図11の断面になるような、即ちローター回転軸12を対称軸とする回転対称を基本とする。
ドレインダクト19の外側にドーナツ状の排気ダクト20を接続し、このダクト20の1カ所から排気してドレインダクト19内に気流を形成するが、「ドレインダクトとドーナツ状構造」全体の連携により、ドレインダクト内の気流はローター回転軸を対称軸とする回転対称に近くなるよう工夫している(図11)。
ドレインダクト19の底部には勾配を設けることにより、ドレインダクト19の底部の液体を一カ所に集め、そこから外部に排出する。
図12、図13に示したように、前記回転軸12のまわりに羽根21、21・・をつけ、その回転によりドレインダクト19内に、前記回転軸12に近いところから外側に向かう気流を形成し、排出される液体の飛沫が遠心室内に流入することを防止する(図12)。その気流速度の最適化は、各羽根の動径方向長さ、羽根の数などの設計により行う。
排出ノズル18を挟む2枚の羽根21、21は、ドレインダクト19内の気流形成の他に、ノズル18先端に横風が当たることを防止するとともにノズル方向と平行な気流をノズルまわりに形成するなど、排出ノズル18まわりの気流状態を調整する役割も有する。
排出ノズル18を2枚の羽根21、21で挟むだけだと、ノズル方向と平行な気流にノズル全体、特にその先端部分が直接曝されることになる。これを避け、ノズル先端部分の気流を(流れの方向に関わりなく)出来るだけ抑えたい場合、排出ノズルの周囲を環状フード22で包む方法がある(図13)。
前記排出ノズル18先端部の液切れをよくし、併せてノズル周囲の気流状態を調整することにより、ノズル先端部への固形分析出を抑えるためのノズル構造例を図14に示す。すなわち、図示のようにノズル18の先端部は、流線型に滑らかなテーパー状となっている。ここでの排出ノズル18先端付近の材質として疎水性の高いものを使用することも液切れをよくするための対策の一つである。
以上説明してきた方式は、ローター上においてローター回転軸に関して排出ノズル18等と反対側の位置に釣り合い重り(カウンターウエイト)を取り付け、ローター回転軸回りのバランスをとる(ローター全体の重心が回転軸上に来るようにする)こともできるが、それ以外に、排出ノズル18が取り付けてあるローター側部分を凹ませる方式もある(図24および図25に例を示す)。
排出ノズル等により増えた重量を、ローター回転軸に関して排出ノズル等と同じ側の位置でこのようにして重量を取り除くことでキャンセルし、ローター回転軸回りのバランスをとる、という考え方である。凹ませると表現したが、例えば図示したように、ローター回転軸に沿ったある長さ部分について、単に円周状に膨らむ部分を平面状に切り落とすということでもよい。この場合、図24のように、平面状に切り落とした部分の上下にはなだらかな傾斜部分を設けた方が、気流の流れが滑らかとなる。
この方式にはもう一つメリットがある。一般に非連結型流路においては、分離流路から非連結型流路への取り込み口において、「ρrωをrについてr=0からrまで積分したもの(圧力の次元になる)」から「非連結型流路への取り込み口から排出ノズル先端までの流通抵抗による圧損」を差し引いた値に相当する吸引圧が発生する。但し、ここでρは液相の密度、rはローター回転軸から動径方向に測った距離、rはノズル先端のr値、ωはローターの回転角速度である。つまり、回転軸から排出ノズル先端までの距離rが、非連結型流路への取り込み口における吸引圧に大きく(具体的には2乗で)効いてくるのである。システム全体の良好な運転のためにはこの吸引圧を適切な値に調整する必要があるので、排出ノズル18の根本の位置がローター回転軸に近い方が調整可能な幅が拡がって都合がよいのである(例えば、排出ノズルの長さをマイナスには出来ないからである。)。
但し、いずれにしても排出ノズル18等は構造的に固定式であり、回転数などに応じて、同一排出ノズルでもって回転軸から排出ノズル先端までの距離を変更出来る訳ではない。しかし本技術は生産手段としての使用が本命であり、試料の分離精製に用いる諸運転条件を検討し、それら諸運転条件が定まったら長時間それらの諸条件下で運転することになるので、排出ノズル等が取り替え式であったとしても、実際に取り替える頻度は非常に少ないことになる。従って、分画する試料によって排出ノズル等を取り替える方式としてもよい。図26に排出18ノズル等が取り替え式の装置構造例を示す。回転軸12に対して排出ノズル18や環状フード22と羽根21、21・・をセットとして交換する方式である。ここでは便宜上、排出ノズル18の取り付け部分の回転軸側に凹みのある方式を併せて用いているものを図示してあるが、凹みのない方式でもって取り替え方式としてもよい。
ところで、排出ノズル等を取り替える方式とする場合に新たに発生する脱着可能な構造であるが、ノズル等全体としてローター回転軸からの距離が近いので遠心力は大したことなく、その他の力も特に働かないので、取り替え方式とした構造体内部における流路配管の接続を含め、取替え方式とすることの技術的困難は無い。
単分散性シリカ微粒子、単分散性ポリマー微粒子、磁気記録媒体、トナー、顔料、シリコンナノ粒子など、種種の微粒子の製造手段としての利用が見込まれる。
従来のスイングローターを用いた場合を例に取り、沈降平衡法による遠心分離の原理を説明した図である。 沈降平衡法を完全連続方式で実現するための装置原理を、従来のスイングローターとの比較で説明した図である。 沈降平衡法を完全連続方式で実現するための装置の全体構成例を模式的に示した図である。 スイングローターを用いた場合を例にとり、沈降速度法による遠心分離の原理を説明した図である。 本発明の分級方法及び装置の原理をスイングローターの場合と比較して示す図である。 本発明で用いる連続密度勾配形成器の構成例を示す図である。 図6の連続密度勾配形成器を上から見た図である。 連続密度勾配形成器を遠心ローターに組み込んだ様子を示す図である。 密度勾配形成器の動作原理を説明する図である。 流路の途中において液相に擾乱が起きることを極力防止するための具体例を示す図である。 ローターの支持方法、駆動力伝達方法、非連結型流路構造など、全体的な装置構成を示す図である。 図11の中の排出ノズル付近を拡大した図である。 同じく、図11の中の排出ノズル付近を拡大した図である。 排出ノズルの構造例である。 ローター内における流路配置の基本スキームの一例である。 ローター内における流路配置の基本スキームの別の例である。 密度勾配場に試料液を注入する場合の留意点を説明するための図である。 分離流路へ試料注入するための方式例である。 図18に示した試料注入方式におけるポイントを説明するための図である。 分離流路へ試料注入するための別の方式例である。 図20に示した試料注入方式におけるポイントを説明するための図である。 分離流路へ試料注入するためのさらに別の方式例である。 図22に示した試料注入方式におけるポイントを説明するための図である。 排出ノズル付近を横から見た図。ノズル取り付け部分のローター側を凹ませる方式の装置構造例を示すためのものである。 排出ノズル付近の断面を上から見た図。ノズルが取り付けてあるローター側部分を凹ませる方式の装置構造例を示すためのものである。 排出ノズル付近を横から見た図。ノズル等を取り替える方式の装置構造例を示すためのものである。便宜上、ノズル取り付け部分のローター側を凹ませる方式も併用した装置構造例を示してある。
符号の説明
3・・連続密度勾配形成器、11・・遠心ローター、12・・回転軸、16・・回転シール、18・・排出ノズル

Claims (8)

  1. 遠心ローター内分離流路の入口に連続密度勾配形成器を設け、該連続密度勾配形成器により、液相の溶液密度が遠心ローターの動径方向において空間的に連続した密度勾配場を形成し、分離対象とする微粒子試料を当該密度勾配場を形成している液相中において沈降速度法により分離する遠心分離方式を用いた微粒子分級方法であって、
    前記分離流路の入口の試料注入ポートから微粒子試料を供給し、前記分離流路の出口に設けた狭い幅の目的微粒子回収ポートから分級した目的微粒子を回収し、前記分離流路の出口のうち目的微粒子回収ポートを除いた部分で構成される液相回収ポートからそれ以外の液相・微粒子を回収し
    遠心ローターの両端を大口径ベアリングで支持し、遠心ローター回転軸を経由せずに回転駆動力を伝える方式を採用し、遠心ローター回転軸両端からの2流路型回転シールにより静止外界の合計4流路と接続し、当該2流路型回転シールにより静止外界と接続された4流路のうち1流路を用いて微粒子試料液を試料注入ポートへ供給し、他の1流路を用いて目的微粒子回収ポートから分級した目的微粒子を回収し、残りの2つの流路を用いて異なる密度を持つ2つの液相を連続密度勾配形成器に供給し
    さらに、前記回転軸の一端に前記分離流路の出口の前記液相回収ポートに流路接続される非連結型流路を設け、該非連結型流路は前記回転軸の一端側周面に開口する出口を有しており、前記非連結型流路の出口に対向する位置に、内部が空洞であって、前記回転軸の一端側の端部が全周にわたって開口しているドレインダクトを設け、前記非連結型流路の出口からドレインダクトの開口内に液相回収ポートからの液相を排出して回収することを特徴とする微粒子分級方法。
  2. 分離対象となる微粒子試料を液相中において沈降速度法により分離するための分離流路と、分離流路の入口に設けられた連続密度勾配形成器を備えた遠心ローターであって、前記連続密度勾配形成器により、液相の溶液密度が遠心ローターの動径方向において空間的に連続した密度勾配場を形成し、分離対象とする微粒子試料を当該密度勾配場を形成している液相中において沈降速度法により分離する遠心ローターを有し、
    前記分離流路の入口に微粒子試料を供給する試料注入ポートを設け、前記分離流路の出口に目的微粒子を回収するための狭い幅の目的微粒子回収ポートを設け、それ以外の液相・微粒子を回収するために前記分離流路の出口のうち目的微粒子回収ポートを除いた部分で構成される液相回収ポートを設け、
    前記遠心ローターの両端を大口径ベアリングで支持し、遠心ローター回転軸を経由せずに回転駆動力を伝えようにし、遠心ローター回転軸両端に2流路型回転シールを設け、前記2流路型回転シールを経由して静止外界の合計4流路と接続し、当該2流路型回転シールにより静止外界と接続された4流路のうち1流路を用いて微粒子試料液を試料注入ポートへ供給し、他の1流路を用いて目的微粒子回収ポートから分級した目的微粒子を回収し、残りの2つの流路を用いて異なる密度を持つ2つの液相を連続密度勾配形成器に供給し
    さらに、前記回転軸の一端に前記分離流路の出口の前記液相回収ポートに流路接続される非連結型流路を設け、該非連結型流路は前記回転軸の一端側周面に開口する出口を有しており、前記非連結型流路の出口に対向する位置に、内部が空洞であって、前記回転軸の一端側の端部が全周にわたって開口しているドレインダクトを設け、前記非連結型流路の出口からドレインダクトの開口内に液相回収ポートからの液相を排出して回収することを特徴とする微粒子分級装置。
  3. 前記非連結型流路の出口付近に羽根を設け、該羽根が遠心ローターとともに回転することでドレインダクト内の気流を形成し、かつ、非連結型流路出口先端付近の気流状態を調整するようにしたことを特徴とする請求項2記載の微粒子分級装置。
  4. 前記非連結型流路の出口をノズル状とし、ノズル周囲の気流状態の調整とノズル先端の液切れをよくし、ノズル先端部への固形分析出を抑えるようにしたことを特徴とする請求項3記載の微粒子分級装置。
  5. 前記非連結型流路の出口のノズル周囲を環状フードで包むことにより、同ノズル先端付近の気流状態を調整するようにしたことを特徴とする請求項4記載の微粒子分級装置。
  6. 請求項記載の微粒子分級装置において、前記微粒子試料液のバルク密度、すなわち、試料微粒子が懸濁された状態の溶媒の巨視的な密度が、前記残りの2つの流路から供給される異なる密度を持つ2つの液相の密度のいずれよりも大きい場合には、前記分離流路の入口の外周側端に前記試料注入ポートを配置し、前記残りの2つの流路から供給される異なる密度を持つ2つの液相の密度のいずれよりも小さい場合には、前記分離流路の入口の内周側端に前記試料注入ポートを配置することを特徴とする微粒子分級装置。
  7. 請求項2記載の微粒子分級装置において、前記微粒子試料液のバルク密度、すなわち、試料微粒子が懸濁された状態の溶媒の巨視的な密度が、前記残りの2つの流路から供給される異なる密度を持つ2つの液相の密度の中間である場合には、前記連続密度勾配形成器の前記分離流路側端において、前記バルク密度と等しい密度が形成されるべき位置から、連続密度勾配形成器内部へ向けて途中まで隔壁を設け、該隔壁の前記分離流路側の端部位置に前記試料注入ポートを配置することを特徴とする微粒子分級装置
  8. 前記非連結型流路の少なくとも出口および羽根が前記回転軸に対して着脱自在になっていることを特徴とする請求項5記載の微粒子分級装置。
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