JP4831647B2 - ポリプロピレン系樹脂発泡粒子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子に関し、詳しくは、型内成形時の融着温度を効果的に低下させたポリプロピレン系樹脂発泡粒子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年プラスチック材料の統合の動きがあり、その中でも特にポリプロピレン系樹脂は、その機械強度、耐熱性、加工性、価格のバランスに優れていること及び易焼却性、易リサイクル性等の優れた性質を有することから利用分野を拡大しつつある。ポリプロピレン系樹脂の利用分野の一つとして、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の型内発泡成形体(以下「EPP成形体」又は「発泡粒子成形体」又は単に「成形体」と称することがある)は、上記ポリプロピレン系樹脂の優れた性質を失うことなく、更に、緩衝性、断熱性等の特性を付加できるため、包装材料、建築材料、断熱材料等として広く利用されている。
【0003】
融点が158℃以上のポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子は、耐熱性が高いEPP成形体を製造することができることから、又は/及び、圧縮強度の大きいEPP成形体を得ることが出来ることから好ましいものである。融点が158℃以上のポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子としては、例えば、[特許文献1]に記載されている。しかしながら、それに記載された発泡粒子では、型内成形時に、極めて高い温度のスチームを使用しなければ発泡粒子間の融着率を高めることができなかった。極めて高い温度のスチームの使用は、コスト増につながると共に、成形機への負荷が大きいため成形機の耐久性を高める必要があり、成形機が高価になったり、大型化してしまうという問題があると共に、金型の重量増や金型作製のコスト増にもつながる。そのため、高融点のポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子でありながら、より低温のスチームで成形が可能な発泡粒子が所望されていた。
【0004】
【特許文献1】
国際公開第96/31558号パンフレット
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高融点のポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子でありながら、より低温のスチームで成形が可能な発泡粒子を提供することをその課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の基材樹脂を選択することにより、より低温のスチームで発泡粒子間の融着を達成することができ且つ耐熱性の高い又は/及び圧縮強度の大きいEPP成形体を与えることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明によれば、次の[1]乃至[6]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子が提供される。
[1]融点が158〜170℃、メルトフローレート(MFR)が1〜60g/10分、引張降伏強さが31〜45MPa、引張破壊伸びが200〜1000%、及び分子量分布(Mw/Mn)が4.5〜10であるポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子であって、該発泡粒子は、示差走査熱量測定によるDSC曲線における基材樹脂の融解熱に由来する吸熱曲線ピークよりも高温側に吸熱曲線ピークが存在し、該高温側吸熱曲線ピークの融解熱量が10〜60J/gであることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[2]該発泡粒子の表層部分の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量(ΔHs)と該発泡粒子の内部発泡層の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量(ΔHi)との関係がΔHs<ΔHi×0.86であることを特徴とする前記[1]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[3]該発泡粒子の表面におけるマイクロ示差熱分析(25℃から200℃まで昇温速度10℃/秒の条件)に基づく融解開始温度が基材樹脂の融点以下であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[4]該発泡粒子の表面におけるマイクロ示差熱分析(25℃から200℃まで昇温速度10℃/秒の条件)に基づく補外融解開始温度が基材樹脂の〔融点+4℃〕以下であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子が、有機過酸化物が存在する分散媒体中にポリプロピレン系樹脂粒子を分散させると共に、該分散媒体を該ポリプロピレン系樹脂粒子の基材樹脂融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が分解する温度に保持して該有機過酸化物を分解させることによって無架橋の表面改質粒子を得る表面改質工程と、該表面改質粒子を発泡剤を用いて発泡させて無架橋の発泡粒子を得る発泡工程とを含む方法により製造されたことを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明で使用されるポリプロピレン系樹脂粒子の基材樹脂(以下「本基材樹脂」ということがある)であるポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン単独重合体、またはプロピレン成分を70モル%以上含有する(好ましくはプロピレン成分を80モル%以上含有する)プロピレンと他のコモノマーとの共重合体のいずれか、あるいはこれらの樹脂の中から選ばれる2種以上の混合物である。
【0008】
プロピレン成分を70モル%以上含有するプロピレンと他のコモノマーとの共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、エチレン−プロピレンブロックコポリマー、プロピレン−ブテンランダムコポリマー、エチレン−プロピレン−ブテンランダムコポリマーなどが例示される。
【0009】
本基材樹脂の融点は、最終的なEPP成形体の耐熱性を高いものとする上で又は/及び圧縮強度を大きいものとする上で、158℃以上であるが、160℃以上であることが最も好ましい。該融点の上限値は、170℃である。
【0010】
本基材樹脂は、最終的なEPP成形体の圧縮強度を大きいものとする上で、引張降伏強さが31MPa以上であるが、32MPa以上であることが好ましい。引張降伏強さの上限は45MPaである。また、本基材樹脂は、発泡粒子の製造に際しての気泡形成時における気泡の破泡を防止する上で、更には型内成形に際しての加熱時における発泡粒子の気泡の破泡を防止する上で、引張破壊伸びが200〜1000%である。上記引張降伏強さ及び引張破壊伸びは、いずれも、JIS K 6758(1981年)記載の測定方法に基づくものである。
【0011】
更に、本基材樹脂は、高融点の基材樹脂からなる発泡粒子であっても型内成形時の成形スチーム温度をより低くする上で、分子量分布(Mw/Mn)が、4.5〜10である。この分子量分布は、GPC法により、下記の装置及び条件で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnより算出した値である。
〈GPC測定装置〉
装置:WATERS 150Cカラム :TOSO GMHHR−H(S)HT
検出器 :液体クロマトグラム用RI検出器〈測定条件〉
溶媒 :1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度 :145℃ 流速 :1.0ミリリットル/分
試料濃度 :2.2mg/ミリリットル
注入量 :160マイクロリットル
検量線 :Universal Calibration
解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0012】
また、本基材樹脂は、MFRと略記されるメルトフローレート(JIS K6758(1981年))が1g/10分以上60g/10分以下である。そのMFRが1g/10分未満であると、型内成形時の成形スチーム温度をより低くする効果が不充分となる虞がある。また、そのMFRが60g/10分を越えると、得られた型内成形体が脆くなってしまう虞がある。このような観点から、本基材樹脂のMFRは10g/10分以上50g/10分以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の上記した特性を有する基材樹脂は、ポリプロピレン樹脂として販売されているものの一種であるから市場で容易に入手可能である。本発明の上記した特性を有する基材樹脂は、種々の方法で製造可能であるが、特に、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセスを採用して、或いは、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセスを含む多段重合プロセス(例えば気相重合とバルク重合との多段重合プロセス)を採用して、アイソタクチック指数(沸騰ノルマルヘプタン抽出後の不溶成分の割合)が85重量%以上、13C−NMR分析によるmmmmペンタッド%が85〜97.5%、重量平均分子量が200000以上(好ましくは200000〜550000)、数平均分子量が20000以上(好ましくは20000〜53000)となるように製造(アタクチック分の除去等の後処理も含む)すれば容易に得られ、この際、得られるポリプロピレン系樹脂中のプロピレン成分含有割合が99重量%となるように、(共)重合条件を選定すればいっそう容易にその製造が可能となる。また、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセス、或いは、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセスを含む多段重合プロセスを経て得られたポリプロピレン系樹脂は、他の重合プロセスを経て得られたポリプロピレン系樹脂よりも、本発明の基材樹脂として好適である。尚、分子量分布の数値は、重合触媒の選択、或いは、異なる平均分子量を持つポリプロピレン系樹脂を2以上ブレンドすることにより容易に大きくすることが出来る。使用可能な重合触媒としては、メタロセン触媒等の均一系触媒又はチーグラー・ナッタ型触媒等の不均一系触媒が例示されるが、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセス、或いはスラリー重合プロセス又はバルク重合プロセスを含む多段重合プロセスでは、チーグラー・ナッタ型触媒の方が好適である。
【0014】
本発明においては、本基材樹脂へ、本発明の所期の効果を損なわない範囲内において、ポリプロピレン系樹脂以外の他の合成樹脂又は/及びエラストマーを添加することができる。ポリプロピレン系樹脂以外の他の合成樹脂又は/及びエラストマーの添加量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部当り、多くても35重量部であることが好ましく、多くても20重量部であることがより好ましく、多くても10重量部であることが特に好ましく、多くても5重量部であることが最も好ましい。
【0015】
上記ポリプロピレン系樹脂以外の他の合成樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等のエチレン系樹脂、或いはポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂等が例示される。
【0016】
また上記エラストマーとしては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−1−ブテンゴム、プロピレン−1−ブテンゴム、スチレン−ブタジエンゴムやその水添物、イソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、或いはスチレン−ブタジエンブロック共重合体エラストマーやその水添物等のエラストマーが例示される。
【0017】
なお、本基材樹脂には、本発明の所期の効果を損なわない範囲内において、各種添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、難燃剤、金属不活性剤、顔料、染料、核剤、あるいは気泡調整剤等を挙げることができる。気泡調整剤としては、たとえばホウ酸亜鉛、タルク、炭酸カルシウム、ホウ砂、水酸化アルミニウムなどの無機粉体が例示される。これらの添加剤は、合計で本基材樹脂100重量部当り20重量部以下で使用されることが好ましく、5重量部以下で使用されることがより好ましい。これらの添加剤は、通常、必要最小限の量で使用される。またこれらの添加剤は例えば、押出機により押出したストランドを切断する等して本発明で使用されるポリプロピレン系樹脂粒子(以下「本樹脂粒子」ということがある)を製造する際に、押出機内で溶融した本基材樹脂に添加、混練することによって本樹脂粒子中に含有させることができる。
【0018】
尚、本樹脂粒子としては、本基材樹脂を押出機内で溶融して押出したストランドを切断して本樹脂粒子を製造する際に、押出直後のストランドを急冷することによって得られたものが好ましい。そのように急冷された本樹脂粒子であると、後述する表面改質を効率よく行なうことができる。その押出直後のストランドの急冷は、そのストランドを押出し直後に、好ましくは50℃以下に調節された水中に、より好ましくは40℃以下に調節された水中に、最も好ましくは30℃以下に調節された水中に入れることにより行なうことができる。そして充分に冷却されたストランドは水中から引き上げられ、適宜長さに切断することにより、所望の大きさの本樹脂粒子になされる。本樹脂粒子は、通常、長さ/直径比が0.5〜2.0、好ましくは0.8〜1.3となるように調節され、また1個当たりの平均重量(無作為に選んだ200個の重量を同時に測定した1個当たりの平均値)は、0.1〜20mgとなるように、好ましくは0.2〜10mgとなるように調節される。
【0019】
本発明の発泡粒子は、本樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、粒子状に発泡させることにより製造される。このようにして得られる本発明の発泡粒子は、本発明の発泡粒子と基材樹脂の融点、後述する発泡粒子の高温側吸熱曲線ピークの融解熱量及び見かけ密度のいずれもが同等であるが、本発明で使用される基材樹脂とは異なるポリプロピレン系樹脂を使用して得られた発泡粒子と比較すると、より低温のスチームを使用しても型内成形体を得ることができる。
【0020】
更に、本発明の発泡粒子は、後述する表面改質が行なわれていることが好ましい。その表面改質が行なわれた発泡粒子は、その表面改質が行なわれていない発泡粒子に比べ、より低温で型内成形が可能となるので好ましい。特に、本樹脂粒子を使用した場合には、その表面改質効果に優れる。
【0021】
上記表面改質が行なわれた発泡粒子は、有機過酸化物が存在する分散媒体中に本樹脂粒子を分散させるとともに、得られた分散体(以下、分散液とも言う)を本樹脂粒子の基材樹脂融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が分解する温度に保持して該有機過酸化物を分解させることによって本樹脂粒子の表面が改質された表面改質粒子(以下「表面改質粒子」ということがある)を得てからその表面改質粒子を粒子状に発泡させることにより製造することができる。このようにして得られる発泡粒子は、熱融着性にすぐれ、低温のスチームでその発泡粒子間の融着を行うことができる。また、この発泡粒子は、これを成形型に充填し、スチームで加熱することにより、耐熱性又は/及び剛性にすぐれたEPP成形体を得ることができる。
【0022】
上記表面改質粒子の製造に際して使用される分散媒体は、一般には水性媒体、好ましくは水が使用され、より好ましくはイオン交換水が使用されるが、水に限らず本基材樹脂を溶解せず且つ本樹脂粒子の分散が可能な溶媒又は液体であれば使用することができる。水以外の分散媒体としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等が挙げられる。水性媒体には、水と有機溶媒、例えば前記アルコールとの混合液が包含される。
【0023】
前記有機過酸化物としては、従来公知の各種のもの、例えば、イソブチルパーオキシド〔50℃/85℃〕、クミルパーオキシネオデカノエート〔55℃/94℃〕、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン〔54℃/82℃〕、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート〔58℃/94℃〕、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート〔56℃/88℃〕、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート〔59℃/94℃〕、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート〔58℃/92℃〕、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート〔58℃/92℃〕、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート〔59℃/92℃〕、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート〔59℃/91℃〕、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート〔63℃/101℃〕、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート〔64℃/102℃〕、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート〔65℃/103℃〕、t−ブチルパーオキシネオデカノエート〔65℃/104℃〕、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド〔74℃/119℃〕、t−ヘキシルパーオキシピバレート〔71℃/109℃〕、t−ブチルパーオキシピバレート〔73℃/110℃〕、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド〔77℃/113℃〕、オクタノイルパーオキシド〔80℃/117℃〕、ラウロイルパーオキシド〔80℃/116℃〕、ステアロイルパーオキシド〔80℃/117℃〕、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート〔84℃/124℃〕、サクシニックパーオキシド〔87℃/132℃〕、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン〔83℃/119℃〕、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔90℃/138℃〕、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔90℃/133℃〕、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔92℃/134℃〕、m−トルオイルベンゾイルパーオキシド〔92℃/131℃〕、ベンゾイルパーオキシド〔92℃/130℃〕、t−ブチルパーオキシイソブチレート〔96℃/136℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン〔102℃/142℃〕、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン〔106℃/147℃〕、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン〔107℃/149℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン〔109℃/149℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン〔111℃/154℃〕、2,2−ビス(4,4−ジブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン〔114℃/154℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン〔114℃/153℃〕、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート〔115℃/155℃〕、t−ブチルパーオキシマレイン酸〔119℃/168℃〕、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート〔119℃/166℃〕、t−ブチルパーオキシラウレート〔118℃/159℃〕、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン〔117℃/156℃〕、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート〔118℃/159℃〕、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート〔119℃/161℃〕、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート〔119℃/160℃〕、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン〔119℃/158℃〕等が例示される。尚、上記各有機過酸化物のすぐ後ろの〔〕内における左側の温度は後述する1時間半減期温度であり、右側の温度は後述する1分間半減期温度である。前記有機過酸化物は、単独でまたは2種以上を併用して、本樹脂粒子100重量部当り、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部を分散媒体中に添加する必要がある。
【0024】
上記有機過酸化物と本樹脂粒子と分散媒体からなる分散体において、本樹脂粒子/分散媒体の重量比が大きくなりすぎると本樹脂粒子に対して均一な表面改質が行なえなくなる虞がある。そうなると、表面改質粒子の中に改質が極度に進みすぎたものが混じり、それが原因で、次工程の発泡工程の際に、密閉容器内で改質樹脂粒子同士の多数個が融着して大きな塊になってしまい、密閉容器外へ放出することができなくなってしまう虞がある。そのような観点から、上記本樹脂粒子/分散媒体の重量比は1.3以下であることが好ましく、1.2以下がより好ましく、1.1以下が更に好ましく、1.0以下が最も好ましい。ただし、この重量比があまりにも小さくなりすぎると、本樹脂粒子に対する有機過酸化物の使用量を増やさなければ得られる発泡粒子に効果的な低温成形性を付与できない虞がある。有機過酸化物の使用量の増加はコストアップにもつながる。有機過酸化物の使用量をより少なくする上で、本樹脂粒子/分散媒体の重量比は0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。
【0025】
一般に、有機過酸化物が発生するラジカルには水素の引き抜き、付加、β崩壊の3種の連鎖移動作用がある。本発明においては、その3つの作用のうち特に付加の作用が大きいもの、即ち、分解時に酸素ラジカルを発生するものが特に好ましく、その中でもカーボネート構造を有するパーオキシドが最も好ましい。尚、該有機過酸化物を使用する際、必要に応じて連鎖移動剤等を併用(予め本樹脂粒子中に含有させておくか又は/及び分散媒体中に添加して併用)することも可能である。なお、前記酸素ラジカルは、酸素単体のラジカルの他、有機過酸化物の分解により生じた有機基が結合した酸素ラジカルを意味する。
【0026】
従来、ポリプロピレンに対する有機過酸化物の用途としては、次の<1>〜<4>の利用方法が知られている。
<1> ポリプロピレン粒子に有機過酸化物と架橋助剤を均質に含浸させてポリプロピレンの融点を超える温度で上記有機過酸化物を分解させてポリプロピレンを架橋させる。
<2>ポリプロピレンと有機過酸化物とを含む組成物をポリプロピレンの融点を超える温度で押出機内で均一に溶融混練して上記有機過酸化物を均質に分解させ、それによって分子量分布の狭くなったポリプロピレンを得る(特開平3−152136号)。
<3> ポリプロピレン粒子に有機過酸化物と架橋助剤を均質に含浸させてポリプロピレンの融点未満の温度で上記有機過酸化物を分解させることによってポリプロピレンに長鎖分岐又は架橋構造を導入してポリプロピレンの溶融張力を高める(特開平11−80262号)。この溶融張力が高められたポリプロピレンはその後、押出機内で発泡剤と共に溶融混練されて押出発泡に使用される。
<4> ポリプロピレンと有機過酸化物と無水マレイン酸を含む組成物をポリプロピレンの融点を超える温度で押出機内で均一に溶融混練してグラフト重合させる。
有機過酸化物の従来の利用法は、いずれも、熱融着性にすぐれた発泡粒子を得るために、その発泡粒子の製造に先立ち、有機過酸化物が存在する分散媒体中にポリプロピレン系樹脂粒子を分散させると共に、該分散液を該ポリプロピレン系樹脂粒子の基材樹脂融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が分解する温度に保持して該有機過酸化物を分解させることによって該ポリプロピレン系樹脂粒子の表面を改質して無架橋の表面改質粒子を得る本発明の利用法とは相違する。
【0027】
本発明においては、有機過酸化物は、本基材樹脂の融点よりも低温で分解させる。従って、該有機過酸化物の1時間半減期温度(一定温度で有機化酸化物を分解させた際、活性酸素量が1時間で当初の半分になるときのその一定温度)は、本基材樹脂のビカット軟化点(JIS K 6747−1981、以下同じ)以下であることが好ましい。使用する有機過酸化物の1時間半減期温度が本基材樹脂のビカット軟化点を超える場合には、その過酸化物の分解を迅速に行なうには本基材樹脂の融点以上の高温が必要となるので好ましくないし、場合によっては、本基材樹脂の融点よりも低温で分解させることができなくなるので好ましくない。そして該過酸化物を本基材樹脂の融点以上の高温で分解させると、該過酸化物が本樹脂粒子の奥深くまで浸透した状態で分解するため、本樹脂粒子を構成する本基材樹脂が表面、内部を問わず全体的に大きく分解してしまうので、場合によっては、成形に使用できない発泡粒子しか得ることができなくなる虞があり、また成形できたとしても最終的に得られるEPP成形体の機械的物性が大きく低下してしまう虞がある。
【0028】
以上のことを考慮すると、本発明の方法で使用される有機過酸化物は、1時間半減期温度が本基材樹脂のビカット軟化点よりも20℃以上低温であることが好ましく、本基材樹脂のビカット軟化点よりも30℃以上低温であることがより好ましい。尚、該1時間半減温度は、本基材樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましく、取り扱い性等を考慮すると、40〜100℃であることがより好ましく、50〜90℃であることが更に好ましい。上記ガラス転移温度は、JIS K 7121−1987に従って、試験片の状態調節を「一定の熱処理を行なった後、ガラス転移温度を測定する場合」とし、熱流束DSCにより求めた中間点ガラス転移温度を意味する。また、該過酸化物は、本樹脂粒子が存在する分散媒体中で、本基材樹脂のビカット軟化点以下で分解させることが好ましく、本基材樹脂のビカット軟化点よりも20℃以上低温で分解させることがより好ましく、本基材樹脂のビカット軟化点よりも30℃以上低温で分解させることが更に好ましい。本発明においては、該有機過酸化物は、該有機過酸化物の1分間半減期温度(一定温度で有機化酸化物を分解させた際、活性酸素量が1分間で当初の半分になるときのその温度)±30℃の温度範囲に10分以上保持して分解させることが特に好ましい。〔1分間半減期温度−30℃〕よりも低温度で分解させようとする場合、分解させるのに長時間を要してしまうので効率が悪くなってしまう。逆に〔1分間半減期温度+30℃〕よりも高温度で分解させようとする場合、分解が急激となってしまう虞があり、表面改質の効率を悪くする虞がある。また、1分間半減期温度±30℃の範囲に10分以上保持すれば、有機過酸化物を分解させることが容易となる。1分間半減期温度±30℃の範囲での保持時間は、長くとるほどより確実に有機過酸化物を分解させることができるが、ある時間以上はもはや必要ない。必要以上の長時間は生産効率の低下をまねく。上記温度範囲での保持時間は通常は長くても60分にとどめるべきである。有機過酸化物を分解させるには、最初に有機過酸化物が分解しにくい温度に調整された上記分散体を用意し、次にその分散体を上記有機過酸化物の分解温度に加熱すればよい。この際、1分間半減期温度±30℃の範囲に10分以上保持されるように昇温速度を選択すればよいが、1分間半減期温度±30℃の範囲内の任意の温度で止めてその温度を5分以上保持することがより好ましい。その際の任意の温度としては、1分間半減期温度±5℃内の温度が最も好ましい。
【0029】
尚、有機過酸化物を分解させるとは、使用した有機過酸化物の活性酸素量が当初の50%以下になるまで分解させることを意味するが、その活性酸素量が当初の30%以下になるまで分解させることが好ましく、その活性酸素量が当初の20%以下になるまで分解させることがより好ましく、その活性酸素量が当初の5%以下になるまで分解させることが更に好ましい。尚、有機過酸化物の上記半減期温度は、ラジカルに対して比較的不活性な溶液(例えばベンゼンやミネラルスピリット等)を使用して、0.1mol/L濃度の有機過酸化物溶液を調整し、窒素置換を行なったガラス管内に密封し、所定温度にセットした恒温槽に浸し、熱分解させて測定される。
【0030】
本発明において、本樹脂粒子、表面改質粒子、発泡粒子及びそれから得られるEPP成形体は、いずれも、無架橋であることが好ましい。上記表面改質粒子を製造するに際しては、架橋助剤等を併用しないので実質的に架橋は進行しない。尚、無架橋であるとは、次のとおり定義される。即ち、基材樹脂、本樹脂粒子、表面改質粒子、発泡粒子、EPP成形体を問わず、それぞれを試料とし(キシレン100g当たり試料1g使用)、これを沸騰キシレン中に8時間浸漬後、標準網フルイを規定しているJIS Z 8801(1966年)に定められている網目74μmの金網で速やかに濾過し、該金網上に残った沸騰キシレン不溶分の重量を測定する。この不溶分の割合が試料の10重量%以下の場合を実質的に無架橋というが、その不溶分の割合は、試料の5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが最も好ましい。その不溶分の割合が少ないほど再利用し易い。不溶分の含有率P(%)を式で表すと下式の通りである。
P(%)=(M÷L)×100
ただし、Mは不溶分の重量(g)、Lは試料の重量(g)である。
【0031】
本樹脂粒子は、本樹脂粒子又は表面改質粒子を発泡剤の存在下に密閉容器内で分散媒体に分散させながら加熱及び加熱条件下で本樹脂粒子又は表面改質粒子に発泡剤を含浸せしめる工程(発泡剤含浸工程)を経た後、除圧した際に発泡粒子を生成する温度で、本樹脂粒子又は表面改質粒子と分散媒体とを低圧帯域に放出することにより発泡粒子を得る工程(樹脂粒子発泡工程)とからなる発泡方法(以下「分散媒放出発泡方法」という)により製造することが好ましい。
【0032】
本発明においては、上記表面改質粒子を形成する表面改質工程と、その表面改質粒子から発泡粒子を得る発泡工程(発泡剤含浸工程+樹脂粒子発泡工程)とは、それぞれ別の装置で別な時期に実施することも可能であるが、適当な分解温度を持つ上記有機過酸化物を密閉容器内の分散媒体に所定量添加して上記表面改質工程を行い、続いて同じ容器内で表面改質粒子に発泡剤を含浸させて通常の分散媒放出発泡方法による発泡工程を行なうことによって表面改質粒子から発泡粒子を得ることもできる。発泡工程においては、密閉容器内での上記表面改質粒子の融着防止の点から、上記樹脂粒子/該分散媒体の重量比を0.5以下、好ましくは0.5〜0.1にすることが好ましい。尚、上記表面改質工程における上記樹脂粒子/該分散媒体の重量比が0.6〜1.3であった場合であって且つ表面改質工程と発泡工程とを同じ容器で実施する場合は、発泡工程における上記樹脂粒子/該分散媒体の重量比を0.5以下にするには、表面改質工程後に分散媒体を容器内に追加すればよい。
【0033】
上記表面改質粒子、ひいてはそれから得られる発泡粒子やEPP成形体中には、前記過酸化物の分解に伴なって生成される分子量50以上のアルコールが数百ppm乃至数千ppm程度含有され得る。そのようなアルコールとしては、後述される実施例で示されたビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートが使用された場合には、P−t−ブチルシクロヘキサノールが本発明の表面改質粒子中に含有され得る。他の過酸化物が使用された場合には他のアルコールが含有され得る。そのようなアルコールとしては、例えば、イソプロパノール、S−ブタノール、3−メトキシブタノール、2−エチルヘキシルブタノール、t−ブタノールが例示される。
【0034】
上記分散媒放出発泡方法では、容器内の加熱下の本樹脂粒子又は表面改質粒子が容器内で互いに融着しないように、分散媒体中に分散剤を添加することが好ましい。そのような分散剤としては、本樹脂粒子又は表面改質粒子の容器内での融着を防止するものであればよく、有機系、無機系を問わず使用可能であるが、取り扱いのし易さから微粒状無機物が好ましい。例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の天然又は合成粘土鉱物や、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等を1種または数種の組み合わせで使用する事ができる。
【0035】
更に、上記分散媒放出発泡方法においては、分散剤の分散力を強化する(分散剤の添加量を少なくしても容器内で本樹脂粒子同士又は表面改質粒子同士の融着を防止する)分散強化剤を分散媒体中に添加することが好ましい。このような分散強化剤は、40℃の水100ccに対して少なくとも1mg以上溶解し得る無機化合物であって、該化合物の陰イオンまたは陽イオンの少なくとも一方が2価または3価である無機物質である。このような無機物質としては、たとえば、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄等が例示される。
【0036】
通常、本樹脂粒子又は表面改質粒子100重量部当り、分散剤は0.001〜5重量部程度で使用され、分散強化剤は0.0001〜1重量部程度で使用される。
【0037】
本発明の発泡粒子を製造する際に用いる発泡剤としては、プロパン、ブタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類、クロロフロロメタン、トリフロロメタン、1,2−ジフロロエタン、1,2,2,2−テトラフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素などの有機系物理発泡剤や、窒素、酸素、空気、二酸化炭素、水といったいわゆる無機系物理発泡剤が例示される。有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤を併用することもできる。本発明においては、窒素、酸素、空気、二酸化炭素、水の群から選択される1又は2以上の無機系物理発泡剤を主成分とするものが特に好適に使用される。その中でも発泡粒子の見かけ密度の安定性、環境負荷やコストなどを考慮すると、窒素や空気が好ましい。また発泡剤として使用される水は表面改質粒子を密閉容器中に分散させるために分散媒体として使用される水(イオン交換水も含む)をそのまま利用すればよい。
【0038】
上記分散媒放出発泡方法において、物理発泡剤の容器内への充填量は、使用する発泡剤の種類と発泡温度と目的とする発泡粒子の見かけ密度に応じて適宜選択されるが、例えば発泡剤として窒素を使用し、分散媒体として水を使用した場合を例にとると、発泡開始直前の安定した状態にある密閉容器内の圧力、すなわち密閉容器内空間部の圧力(ゲージ圧)が、0.6〜6MPaとなるように選定することが好ましい。通常は、目的とする発泡粒子の見かけ密度が小さいほど前記容器内の空間部の圧力は高くすることが望ましく、目的とする発泡粒子の見かけ密度が大きいほど空間部の圧力は低くすることが望ましい傾向にある。
【0039】
本発明では、上記分散媒放出発泡方法を採用して、見かけ密度が10g/L〜500g/Lで且つ発泡粒子の示差走査熱量測定(熱流束示差走査熱量測定、以下同じ)によるDSC曲線における基材樹脂の融解熱に由来する吸熱曲線ピーク(固有ピーク)の頂点よりも高温側に吸熱曲線ピーク(高温ピーク)の頂点が存在する発泡粒子を製造することが好ましい。そのような発泡粒子は、独立気泡率の高い、成形に適切な発泡粒子である。本発明の場合、得られる発泡粒子において、その高温ピークの熱量は10J/g〜60J/gである。高温ピークの熱量が10J/g未満の場合は得られるEPP成形体の圧縮強度が不充分となりやすい。また60J/gを超える場合は、成形温度の低減効果が低い。本発明において、上記高温ピークの熱量は、特に12J/g〜58J/gが好ましい。また、上記高温ピークの熱量は、高温ピークの熱量と固有ピークの熱量の総和に対して10〜60%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。また、高温ピークの熱量と固有ピークの熱量の総和は40J/g〜150J/gであることが好ましい。尚、本明細書において言う高温ピークの熱量と固有ピークの熱量は、いずれも吸熱量を意味し、その数値は絶対値で表現されている。
【0040】
発泡粒子の高温ピークの熱量は、発泡粒子2〜10mgを、示差走査熱量計によって室温(10〜40℃)から220℃まで10℃/分で昇温した時に得られる図1に示す第1回目のDSC曲線に認められる基材樹脂の融解熱に由来する固有の吸熱曲線ピーク(固有ピーク)aの頂点が現れる温度よりも高温側に頂点が現れる吸熱曲線ピーク(高温ピーク)bの熱量(吸熱量)で、この高温ピークbの面積に相当するものであり、具体的には次のようにして求めることができる。
まずDSC曲線上の80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当するDSC曲線上の点βとを結ぶ直線(α−β)を引く。次に上記の固有ピークaと高温ピークbとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線を引き、前記直線(α−β)と交わる点をσとする。高温ピークbの面積は、DSC曲線の高温ピークb部分の曲線と、線分(σ−β)と、線分(γ−σ)とによって囲まれる部分(図1において斜線を付した部分)の面積であり、これが高温ピークの熱量に相当する。尚、上記融解終了温度Tとは、高温ピークbの高温側におけるDSC曲線と高温側ベースラインとの交点をいう。
また、高温ピークの熱量と固有ピークの熱量の総和は、前記直線(α−β)とDSC曲線とで囲まれる部分の面積に相当する。
尚、発泡粒子の固有ピークと高温ピークを上記の通り示差走査熱量計によって測定するに際しては、発泡粒子1個当たりの重量が2mg未満の場合は、総重量が2mg〜10mgとなる複数個の発泡粒子をそのまま測定に使用すればよく、また、発泡粒子1個当たりの重量が2mg〜10mgの場合には、発泡粒子1個をそのまま測定に使用すればよく、また、発泡粒子1個当たりの重量が10mg超の場合には、1個の発泡粒子を、複数個に切断して得た重量が2mg〜10mgとなる切断試料1個を測定に使用すればよい。ただし、この切断試料は、1個の発泡粒子をカッター等を使用して切断されたものであるが、切断に際しては、当初から有する発泡粒子の表面は切除せずにそのまま残すと共に、各切断試料の形状ができる限り同じ形状となるように均等に且つ各切断試料においては切除せずに残された上記発泡粒子表面の面積ができる限り同じ面積となるように切断されることが好ましい。例えば発泡粒子1個当たりの重量が18mgの場合には、任意の方向に向けた発泡粒子を垂直方向の真中より水平に切断すれば2個のほぼ同じ形状の約9mgの切断試料が得られ、各切断試料は、当初から有する発泡粒子の表面はそのまま残されていると共にその表面の面積は各切断試料でほぼ同じ面積となる。このようにして得られた2個の切断試料の内の1個を上記の通り固有ピークと高温ピークの測定に使用すればよい。尚、本明細書では、断り無く単に「発泡粒子の高温ピーク」と表現している場合には、以上の測定で得られた高温ピークの熱量のことを言い、これは後述する発泡粒子の表層部分に関する高温ピークの熱量及び内部発泡層に関する高温ピークの熱量とは異なるものである。
【0041】
上記高温ピークbは、上記のようにして測定した第1回目のDSC曲線には認められるが、第1回目のDSC曲線を得た後、220℃から10℃/分で一旦40℃付近(40〜50℃)まで降温し、再び10℃/分で220℃まで昇温した時に得られる第2回目のDSC曲線には認められず、図2に示されるような基材樹脂の融解時の吸熱に相当する固有ピークaのみが認められる。
尚、発泡粒子の第1回目のDSC曲線に現れる固有ピークaの頂点の温度は、基材樹脂の融点(Tm)を基準とすると、通常、[Tm−5℃]〜[Tm+5℃]の範囲に現れる(最も一般的には[Tm−4℃]〜[Tm+4℃]の範囲に現れる)。また、発泡粒子の第1回目のDSC曲線に現れる高温ピークbの頂点の温度は、基材樹脂の融点(Tm)を基準とすると、通常、[Tm+5℃]〜[Tm+15℃]の範囲に現れる(最も一般的には[Tm+6℃]〜[Tm+14℃]の範囲に現れる)。また、発泡粒子の第2回目のDSC曲線に認められる固有ピークaの頂点の温度(基材樹脂の融点に対応する温度)は、基材樹脂の融点(Tm)を基準とすると、通常、[Tm−2℃]〜[Tm+2℃]の範囲に現れる。
【0042】
本発明の発泡粒子は、前記の通り、DSC測定において、1回目のDSC曲線に高温ピークが出現する結晶構造を有するものが好ましいが、この高温ピークの熱量は樹脂の融点と発泡温度の差に強く影響される。
発泡粒子の高温ピーク熱量は特に発泡粒子相互の融着に関して最低融着温度を決定する因子として作用する。ここでいう最低融着温度とは、発泡粒子相互が型内で融着するために必要な最低の飽和スチーム圧力を与える温度を意味する。高温ピーク熱量は、この最低融着温度と密接な関係にあり、全く同一の基材樹脂を用いた場合、高温ピーク熱量値が小さい方が高温ピーク熱量値が大きいときよりも最低融着温度が低くなるといった傾向がある。この高温ピーク熱量の値には発泡粒子の製造段階で樹脂に与える発泡温度の高低が強く影響しており、同一の基材樹脂を用いた場合、発泡温度が高い方が低い場合より高温ピーク熱量値が小さくなる傾向がある。
【0043】
ところが、高温ピーク熱量が小さい発泡粒子を用いてEPP成形体を得る場合、最低融着温度は相対的に低い傾向があるものの、EPP成形体の圧縮強度(剛性)等の強度物性等が相対的に低下する傾向がある。一方で、高温ピーク熱量が大きい発泡粒子を用いてEPP成形体を得る場合、EPP成形体の圧縮強度等の強度物性等が相対的に高い傾向があるが最低融着温度が相対的に高くなり、前述のようにEPP成形体を製造する際に高い圧力のスチームを必要とする場合が生じるといった問題が発生する。即ち、最も好ましい発泡粒子は最低融着温度が低く且つEPP成形体の圧縮強度等の強度物性等が相対的に高いといった相反する性質を同時に有する発泡粒子である。本発明の発泡粒子は、高温ピーク熱量が大きい場合であっても、最低融着温度が効果的に低下されたものである。特に、表面改質粒子から得られた発泡粒子ではその最低融着温度の低下効果はより大きい。本発明の発泡粒子を用いてEPP成形体を製造する場合には、耐熱性又は/及び圧縮強度等の機械的物性に優れたEPP成形体を得ることができる。
【0044】
DSC曲線における高温ピークを有する発泡粒子は、密閉容器内で分散媒体に本樹脂粒子又は表面改質粒子を分散させて加熱する際に、本基材樹脂の融解終了温度(Te)以上に昇温することなく、本基材樹脂の融点(Tm)より20℃低い温度以上、融解終了温度(Te)未満の範囲内の任意の温度(Ta)で止めてその温度(Ta)で十分な時間、好ましくは10〜60分程度保持し、その後、融点(Tm)より15℃低い温度から融解終了温度(Te)+10℃の範囲の任意の温度(Tb)に調節し、その温度で止め、必要により当該温度でさらに十分な時間、好ましくは10〜60分程度、保持してから本樹脂粒子又は表面改質粒子を密閉容器内から低圧下に放出して発泡させる方法により得ることができる。
尚、上記融点(Tm)とは、本樹脂粒子2〜4mgを試料として用いて前述の如き発泡粒子のDSC曲線を得るのと同様の方法で本樹脂粒子に対して示差走査熱量測定を行い、これによって得られた2回目のDSC曲線(その一例を図2に示す)に認められる基材樹脂固有の吸熱曲線ピークaの頂点の温度であり、融解終了温度(Te)とは、該固有の吸熱曲線ピークaの高温側におけるDSC曲線と高温側ベースライン(BL)との交点(β)を言う。
本樹脂粒子に対する2回目のDSC曲線に現れる吸熱曲線ピークは、それがポリプロピレン系樹脂の融解に基づくピークであることを前提として、通常は1つの吸熱曲線ピークとなって現れる。ただし、2以上のポリプロピレン系樹脂の混合物からなる場合等には、まれに2以上の吸熱ピークが認められることがある。その場合には、各ピークの頂点を通ると共にグラフの縦軸と平行な(横軸と直交する)直線をそれぞれ引き、各直線においてピークの頂点からベースラインBLまでの長さを測定し、その長さが最も長い直線上のピークの頂点を上記Tmとする。ただし、同程度の長い直線が2以上存在し最も長い直線を特定できない場合には、最も高温側のピークの頂点を上記Tmとする。
【0045】
また、発泡粒子における上記高温ピークの熱量の大小は、主として、発泡粒子を製造する際の樹脂粒子に対する上記温度Taと該温度における保持時間および上記温度Tbと該温度における保持時間ならびに昇温速度に依存する。発泡粒子の上記高温ピークの熱量は、温度TaまたはTbが上記温度範囲内において低い程、保持時間が長い程、大きくなる傾向を示す。通常、加熱時の昇温速度(加熱開始から温度保持を開始するまでの間の平均昇温速度)は0.5〜5℃/分が採用される。これらの点を考慮して予備実験を繰り返すことにより、所望の高温ピーク熱量を示す発泡粒子の製造条件を容易に知ることができる。
【0046】
尚、以上で説明した温度範囲は、発泡剤として無機系物理発泡剤を使用した場合の適切な温度範囲である。有機系物理発泡剤が併用された場合には、その種類や使用量に応じてその適切な温度範囲は上記温度範囲よりもそれぞれ低温側にシフトする。
【0047】
前記発泡粒子の見かけ密度(g/L)は、発泡粒子の重量(g)を発泡粒子の見かけ体積(L)で除すことにより算出される。発泡粒子の見かけ体積は、23℃、大気圧下に48時間以上放置された発泡粒子約5gを23℃の水100cm3が収容されたメスシリンダー内の水に水没させたときの排除体積から、発泡粒子の見かけ体積(cm3)を読み取り、これをリットル単位に換算することにより求まる。この測定には発泡粒子重量が0.5000〜10.0000g、かつ発泡粒子の見かけ体積が50〜90cm3となる量の複数個の発泡粒子が使用される。
【0048】
尚、上記した表面改質粒子から得られた、低温のスチームで成形可能な発泡粒子(以下「表面改質発泡粒子」という)は、次のような構造的特異性を有していることが測定結果より判明している。
【0049】
発泡粒子のDSC測定の結果、表面改質発泡粒子は、従来法により得られた発泡粒子とは異なる傾向を示す。発泡粒子の表層部分と表層部分を含まない内部発泡層に分割して融点を測定したところ、従来の発泡粒子は発泡粒子の表層部分の融点(Tms)の方が内部発泡層の融点(Tmi)に比較して必ず高くなる性質があったのに対して、表面改質発泡粒子は表層部分の融点(Tms)の方が内部発泡層の融点(Tmi)よりもより低くなっていることが観察された。従って、表面改質発泡粒子としては、TmsはTmiよりも0.05℃以上低いことが好ましく、0.1℃以上低いことがより好ましく、0.3℃以上低いことが更に好ましい。
【0050】
発泡粒子の表層部分の融点(Tms)は、発泡粒子の表層部分を切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって得た第2回目のDSC曲線の固有ピークaの頂点の温度を意味する。また、発泡粒子の内部発泡層の融点(Tmi)は、表層部分を含まないように発泡粒子の内部から切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって得た第2回目のDSC曲線の固有ピークaの頂点の温度を意味する。
【0051】
また、発泡粒子の表層部分と表層部分を含まない内部発泡層に分割して高温ピーク熱量を測定したところ、従来の発泡粒子は発泡粒子の表層部分の高温ピーク熱量(ΔHs)と内部発泡層の高温ピークの熱量(ΔHi)との関係が、ΔHs≧ΔHi×0.87となる性質があったのに対して、表面改質発泡粒子では、ΔHs<ΔHi×0.86であることが観察された。従って、表面改質発泡粒子としては、ΔHs<ΔHi×0.86であることが好ましく、ΔHs<ΔHi×0.80であることがより好ましく、ΔHs<ΔHi×0.75であることが更に好ましく、ΔHs<ΔHi×0.70であることが更に好ましく、ΔHs<ΔHi×0.60であることが最も好ましい。また、ΔHsは、ΔHs≧ΔHi×0.25であることが好ましい。表面改質発泡粒子は、ΔHs<ΔHi×0.86であることにより、表面改質されていない発泡粒子よりも低温で型内成形が可能となりΔHs値が小さくなるほどその効果は大きい。尚、ΔHsは、1.7J/g〜60J/gであることが好ましく、2J/g〜50J/gであることがより好ましく、3J/g〜45J/gであることが更に好ましく、4J/g〜40J/gであることが最も好ましい。
【0052】
発泡粒子の表層部分の高温ピーク熱量は、発泡粒子の表層部分を切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって求めることができる。また、発泡粒子の内部発泡層の高温ピーク熱量は、表層部分を含まないように発泡粒子の内部から切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって求めることができる。
【0053】
上記の発泡粒子の表層部分と表層部分を含まない内部発泡層に分割して融点及び高温ピーク熱量を測定する際の試料の作製方法は次の通りである。
発泡粒子の表層部分は、表層部分をカッターナイフ、ミクロトーム等を用いてスライスして表層部分を集めて測定に供すればよい。但し、スライスされた発泡粒子の表層部分の表面の全面には発泡粒子の表面を必ず存在させるが、スライスされた発泡粒子の表層部分の裏面においては、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心に向って200μmを越える部分が含まれないように、発泡粒子表面の無作為に選んだ1箇所又は複数箇所からスライスされる。スライスされた発泡粒子の表層部分の裏面において、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心に向って200μmを越える部分が含まれるようになると、内部発泡層を多量に含有することとなり表層部分の融点及び高温ピーク熱量を正確に測定できない虞がある。尚、1個の発泡粒子から得られる表層部分が2〜4mgに満たない場合は複数個の発泡粒子を使用して上記操作を繰り返して必要量の表層部分を集めればよい。
一方、発泡粒子の表層部分を含まない内部発泡層は、発泡粒子の表面と、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心部に向かって200μmとの間の部分が含まれないように発泡粒子の全面から表層部分を切除したものを使用して融点及び高温ピーク熱量の測定に供すればよい。ただし、発泡粒子の大きさが小さすぎて上記の表面から200μmの部分を切除すると内部発泡層がなくなってしまう場合には、発泡粒子の表面と、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心部に向かって100μmとの間の部分が含まれないように発泡粒子の全面から表層部分を切除したものが内部発泡層として使用され、更にそれでも内部発泡層がなくなってしまう場合には、発泡粒子の表面と、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心部に向かって50μmとの間の部分が含まれないように発泡粒子の全面から表層部分を切除したものが内部発泡層として使用される。尚、1個の発泡粒子から得られる内部発泡層が2〜4mgに満たない場合は複数個の発泡粒子を使用して上記操作を繰り返して必要量の内部発泡層を集めればよい。
【0054】
また、表面改質発泡粒子と従来の方法で得た表面改質されていない発泡粒子の各発泡粒子表面に対し、ティ・エイ・インスツルメント・ジャパン社のマイクロ熱分析システム「2990型マイクロサーマルアナライザー」を使用し、25℃から200℃まで昇温速度10℃/秒の条件にて、マイクロ示差熱分析(μDTA)を行なったところ、表面改質発泡粒子の表面の融解開始温度(請求項4でいう融解開始温度のこと)は、基材樹脂の融点以下の温度であるのに対し、従来の方法で得た表面改質されていない発泡粒子の表面の融解開始温度は、基材樹脂の融点よりも5℃高い温度であることが判明した。尚、ここでいう融解開始温度とは、上記μDTAに基づくμDTA曲線におけるベースライン(BL)からμDTA曲線が下方に変化し始めた(時間当りの比熱が変化し始めた)温度を意味する。
【0055】
また、表面改質発泡粒子と従来の方法で得た表面改質されていない発泡粒子の各発泡粒子表面に対し、ティ・エイ・インスツルメント・ジャパン社のマイクロ熱分析システム「2990型マイクロサーマルアナライザー」を使用し、25℃から200℃まで昇温速度10℃/秒の条件にて、マイクロ示差熱分析(μDTA)を行なったところ、表面改質発泡粒子の表面の補外融解開始温度(請求項5でいう補外融解開始温度のこと)は、基材樹脂の〔融点+4℃〕以下の温度であるのに対し、従来の方法で得た表面改質されていない発泡粒子の表面の補外融解開始温度は、基材樹脂の融点よりも8℃以上高い温度であることが判明した。尚、ここでいう補外融解開始温度とは、上記μDTA曲線の前記ベースライン(BL)を高温側に延長した直線と、前記融解開始温度より高温側のμDTA曲線上における各点から引いた接線の内、該接線と上記ベースライン(BL)を高温側に延長した直線との間の角度が最大となる接線(TL)との交点の温度をいう。
【0056】
発泡粒子の型内成形においては、発泡粒子相互の融着は発泡粒子表面同士で行なわれるため、発泡粒子の表面のみを熱分析する意義は大きい。発泡粒子の表面のみの融解開始の傾向をDSC法で知ることは不可能と思われる。それを可能にするのがμDTAである。また、μDTAで昇温速度を1秒あたり10℃としているが、この速度は、実際の型内成形に際して発泡粒子を加熱する際の昇温速度に近いものである(このような速い昇温速度はDSC法では困難である)。従って、このような実際の型内成形に近似した昇温速度で分析する意義は大きい。このような理由から本発明では、発泡粒子表面に対するマイクロ示差熱分析(μDTA)を採用した。この測定に基づく上記融解開始温度は、厳密な意味での融解開始の温度を示していないかもしれないが、上記融解開始温度の温度の高低の傾向と成形温度の高低の傾向とはよく一致している。また、本発明では、上記融解開始温度とは別に補外融解開始温度をも規定している。求め方の違いから補外融解開始温度の方がやや高めの数値となる以外は、両者はほぼ同じ傾向を観察するものである。ただし、補外融解開始温度の方が誤差が少ないのでより再現性に優れる。
【0057】
図3及び図4は発泡粒子の表面に対するμDTA曲線の一例を示すものであり、これらの図を使用して発泡粒子の表面の融解開始温度と補外融解開始温度の求め方を説明する。図3は、融点161℃、MFR18g/10分のプロピレン単独重合体を基材樹脂とする、表面改質発泡粒子の表面と表面改質されていない発泡粒子の表面のそれぞれに対するμDTA曲線の一例を示す。図3において、曲線Cmが表面改質発泡粒子の表面に対するμDTA曲線の一例であり、曲線Cm上のPm点がその融解開始温度であり、Pme点が前記ベースライン(BL)と前記接線(TL)との交点である補外融解開始温度である。一方、曲線Cnmが表面改質されていない発泡粒子に対するμDTA曲線の一例であり、曲線Cnm上のPnm点がその融解開始温度であり、Pnme点が前記ベースライン(BL)と前記接線(TL)との交点である補外融解開始温度である。図3におけるPm、Pme、Pnm及びPnmは、それぞれ、131℃、135℃、168℃及び171℃である。
また図4は、融点161℃、MFR18g/10分のプロピレン単独重合体を基材樹脂とする、表面改質発泡粒子(図3のものよりも多少表面改質の程度が小さいもの)の表面に対するμDTA曲線の一例を示す。図4において、曲線CmがμDTA曲線であり、曲線Cm上のPm点がその融解開始温度であり、Pme点が前記ベースライン(BL)と前記接線(TL)との交点である補外融解開始温度である。図4におけるPm及びPmeは、それぞれ140℃及び142℃である。
【0058】
上記マイクロ示差熱分析は、発泡粒子を装置のサンプルステージに固定し(1個の発泡粒子がそのままでは大きすぎる場合は例えば半分に切断する等して適当な大きさにして固定する)、次いで、発泡粒子の表面において無作為に選択した箇所に向けて、プローブチップセンター(発泡粒子表面に接触させる部分は縦横各0.2μmの先端部を持つ)を下降させて発泡粒子表面に接触させた状態で実施される。
前記マイクロ示差熱分析による発泡粒子表面の融解開始温度及び補外融解開始温度は、異なる測定点10点の測定結果より、最大値と最小値を除く8点の相加平均値が採用される。尚、最大値と最小値がそれぞれ複数ある場合はそれらを除く数点の相加平均値が採用される。また、平均10点の測定値が全て同じ場合や、最大値と最小値の値しか得られなかった場合であって最大値と最小値の差が10℃以内の場合には、10点の相加平均値が採用される。尚、最大値と最小値の値しか得られなかった場合であって最大値と最小値の差が10℃を超える場合には、更に異なる表面の10点に対し測定して上記したと同じ要領で相加平均値を求め、それを採用すればよい。それでも条件に合わない場合には更に同じ操作を繰り返す。
以上のμDTAによる結果は、発泡粒子表面の融解開始温度の低下又は/及び発泡粒子表面の補外融解開始温度の低下が、成形時に必要な最低融着温度の低下に寄与していることを示している。低温のスチームで成形可能な発泡粒子は、上記測定に基づく発泡粒子表面の融解開始温度が基材樹脂の融点(Tm)以下であるが、[Tm−5℃]以下であることが好ましく、[Tm−10℃]以下であることがより好ましく、[Tm−15℃]以下であることが更に好ましく、[Tm−16℃]〜[Tm−50℃]であることが特に好ましく、[Tm−17℃]〜[Tm−35℃]であることが最も好ましい。また、低温のスチームで成形可能な発泡粒子は、上記測定に基づく発泡粒子表面の補外融解開始温度が[Tm+4℃]以下であるが、[Tm−1℃]以下であることが好ましく、[Tm−6℃]以下であることがより好ましく、[Tm−17℃]〜[Tm−50℃]であることが更に好ましく、[Tm−18℃]〜[Tm−35℃]であることが最も好ましい。また、このような最低融着温度の低下は、基材樹脂の融点が158℃以上であり、且つ高温ピークを持つEPP粒子の場合に特に有効である。発泡粒子表面の融解開始温度が低いほど成形時に必要な最低融着温度の低下への寄与度が大きくなるが、その融解開始温度があまりにも低くなりすぎると、得られる成形体の圧縮強度等の機械的物性等の低下につながる虞がある。
【0059】
また、MFRを測定したところ、表面改質発泡粒子のMFRの値は表面改質される前の本樹脂粒子のMFRの値と同じかそれよりも大きな値を示すことが観察された。表面改質発泡粒子のMFRの値は表面改質される前の本樹脂粒子のMFRの値の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、1.8〜3.5倍であることが最も好ましい。尚、表面改質発泡粒子のMFRの値は、EPP成形体の耐熱性及び発泡粒子製造時の発泡効率を考慮すると、0.5〜150g/10分となるようにすることが好ましく、1〜60g/10分となるようにすることがより好ましく、10〜80g/10分となるようにすることが更に好ましい。
【0060】
上記発泡粒子のMFRとは、発泡粒子を200℃に温度調節した加熱プレス盤で厚さ0.2mmから1mmのプレスシートを調製し、該シートからペレット状或いは棒状に試料を切出し、その試料を使って上記無架橋プロピレン系樹脂のMFRの測定と同様の方法で測定を行った値である。尚、発泡粒子のMFRを測定する上で上記試料には気泡等の混入は正確な測定値を得るために避ける必要がある。気泡の混入がどうしても避けられない場合には、同一サンプルを繰り返し3回までの範囲で加熱プレス盤による脱泡を目的としたプレスシートの調製を行うことができる。
【0061】
更に、表面改質発泡粒子は、表面改質工程において、特に上記有機過酸化物として酸素ラジカルを発生する有機過酸化物を用いた場合、有機過酸化物の付加作用により若干量の酸素を含有する改質表面が形成される。このことは、表面改質発泡粒子の表面と、それから製造されたEPP成形体の表面の分析から明らかとなっている。具体的には、表面改質発泡粒子から製造されたEPP成形体の表面(即ち表面改質発泡粒子の表面と実質的に同じ)と、従来の表面改質されていない発泡粒子から製造されたEPP成形体の表面のそれぞれをATR測定(全反射吸収測定法)で比較した結果、表面改質発泡粒子から製造されたEPP成形体の表面には、新たに1033cm-1付近の吸収に差のあることを確認しており、酸素単体あるいは酸素を含有した官能基の付加あるいは挿入等の変化があったことが認められた。
具体的には、1166cm-1の吸収における両ピーク高さ(表面改質発泡粒子からの成形体に対する吸収ピーク高さと従来の成形体に対する吸収ピーク高さ)を同じとしたときに、表面改質発泡粒子から得られた成形体表面の1033cm-1付近の吸収ピークの高さは、従来の成形体表面の1033cm-1付近の吸収ピークの高さに比べ高くなっている。更に発泡粒子の表面観察としてEDS(エネルギー分散形分析装置)による元素分析を行った結果、酸素と炭素の比に関し、表面改質発泡粒子の場合、0.2(mol/mol)であったのに対し、従来の発泡粒子の場合、0.09(mol/mol)であった。
以上のことから、有機過酸化物の付加作用により若干量の酸素を含有する改質表面を形成しているのは明白である。このような改質表面の形成は成形の際スチームの透過性を有利にすると考えられる。この様な観点から、表面改質発泡粒子は、発泡粒子表面における上記EDSによるその酸素と炭素の比は0.15以上であることが好ましい。
【0062】
表面改質発泡粒子は、本基材樹脂からなることに加え、上記発泡粒子の表層部分の高温ピーク熱量の低下又は/及び上記発泡粒子表面の融解開始温度又は/及び上記発泡粒子表面の補外融解開始温度の低下により、その最低融着温度が効果的に低減されるものと推測される。
【0063】
本発明の発泡粒子は、大気圧下で熟成した後、必要に応じて気泡内圧を高めてから、水蒸気や熱風を用いて加熱することによって、より高発泡倍率の発泡粒子とすることが可能である。
【0064】
EPP成形体は、発泡粒子を、必要に応じて気泡内圧を高めてから、加熱及び冷却が可能であってかつ開閉及び密閉できる型内に充填し、飽和スチームを供給して型内で発泡粒子を加熱して膨張させて相互に融着させ、次いで冷却して型内から取り出すバッチ式成形法を採用して製造することができる。当該バッチ式成形法で使用される成形機としては、既に数多くの成形機が世界中に存在し、国によって多少異なるものの、その耐圧は、0.41MPa(G)又は0.45MPa(G)のものが多い。従って、発泡粒子同士を膨張させて融着させる際の飽和スチームの圧力は、0.45MPa(G)以下又は未満であることが好ましく、0.41MPa(G)以下又は未満であることがより好ましい。
また、EPP成形体は、発泡粒子を、必要に応じて気泡内圧を高めてから、通路内の上下に沿って連続的に移動するベルト間に連続的に供給し、飽和スチーム供給領域(加熱領域)を通過する際に発泡粒子同士を膨張融着させ、その後冷却領域を通過させて冷却し、次いで得られた成形体を通路内から取り出し、適宜の長さに順次切断する連続式成形法(例えば特開平9−104026号、特開平9−104027号及び特開平10−180888号等に記載される成形方法)により製造することもできる。この方法では通路内が型内ということになる。
尚、発泡粒子の気泡内圧を高める場合には、密閉容器に発泡粒子を入れ、該容器内に加圧空気を供給した状態で適当な時間放置して発泡粒子内に加圧空気を浸透させればよい。加圧供給される気体は必要とされる圧力下で液化、固化しない無機ガスが主成分であれば問題なく使用できるが、さらに窒素、酸素、空気、二酸化炭素、アルゴンの群から選択される1又は2以上の無機ガスを主成分とするものが特に好適に使用され、さらにその中でも環境負荷やコストなどを考慮すると、窒素や空気が好ましい。
【0065】
内圧が高められた発泡粒子の内圧P(MPa)は、次の操作により測定される。尚、ここでは、空気を使用してEPP粒子の内圧を高めた例を示す。
まず、成形に使用される発泡粒子は、密閉容器に入れられ、該容器内に加圧空気を(通常は容器内の空気圧がゲージ圧で0.98〜9.8MPaの範囲を維持するように)供給した状態で適当な時間放置して発泡粒子内に空気を浸透させることにより発泡粒子の内圧が高められる。充分に内圧が高められた発泡粒子は、成形機の金型内に供給される。発泡粒子の内圧は型内成形直前の発泡粒子の一部(以下、発泡粒子群という。)を使用して、次の操作を行うことによって求められる。
【0066】
内圧が高められた型内成形直前の発泡粒子群を加圧タンク内から取り出してから60秒以内に、発泡粒子は通過させないが空気は自由に通過できるサイズの針穴を多数穿設した70mm×100mm程度のポリエチレン製袋の中に収容して気温23℃、相対湿度50%の大気圧下の恒温室に移動する。続いてその恒温室内の秤に載せて重量を読み取る。その重量の測定は、上記した発泡粒子群を加圧タンク内から取出してから120秒後とする。このときの重量をQ(g)とする。続いてその袋を同恒温室に48時間放置する。発泡粒子内の加圧空気は時間の経過と共に気泡膜を透過して外部に抜け出すため発泡粒子群の重量はそれに伴って減少し、48時間後では平衡に達しているため実質的にその重量は安定する。上記48時間後に再度その袋の重量を測定し、このときの重量をU(g)とする。続いて直ちに同恒温室内にて袋から発泡粒子群の全てを取り出して袋のみの重量を読み取る。その重量をZ(g)とする。上記のいずれの重量も0.0001gまで読み取るものとする。Q(g)とU(g)の差を増加空気量W(g)とし、次式より発泡粒子の内圧P(MPa)が計算される。尚、この内圧Pはゲージ圧に相当する。
【0067】
P=(W÷M)×R×T÷V
ただし、上式中、Mは空気の分子量であり、ここでは28.8(g/モル)の定数を採用する。Rは気体定数であり、ここでは0.0083(MPa・L/(K・mol))の定数を採用する。Tは絶対温度を意味し、23℃の雰囲気が採用されているので、ここでは296(K)の定数である。Vは発泡粒子群の見掛け体積から発泡粒子群中に占める基材樹脂の体積を差し引いた体積(L)を意味する。
【0068】
尚、発泡粒子群の見掛け体積(L)は、48時間後に袋から取り出された発泡粒子群の全量を直ちに同恒温室内にて23℃の水100cm3が収容されたメスシリンダー内の水に水没させたときの目盛りから、発泡粒子群の体積Y(cm3)を算出し、これをリットル(L)単位に換算することによって求められる。発泡粒子群の見掛け発泡倍率は、基材樹脂密度(g/cm3)を発泡粒子群の見掛け密度(g/cm3)で除すことにより求められる。また発泡粒子群の見掛け密度(g/cm3)は、上記発泡粒子群重量(U(g)とZ(g)との差)を体積Y(cm3)で除すことにより求められる。
尚、以上の測定においては、上記発泡粒子群重量(U(g)とZ(g)との差)が0.5000〜10.0000gで、かつ体積Yが50〜90cm3となる量の複数個の発泡粒子群が使用される。
【0069】
発泡粒子の気泡内の上記内圧は、0.005〜0.98MPaが好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.69MPa、最も好ましくは0.029〜0.49MPaである。
前記気泡内圧が小さくなりすぎると成形時の二次発泡力が不足し、それを補うために成形時に型内に導入するの飽和スチーム圧を高めに設定しなければならなくなる。
一方、前記気泡内圧が高くなりすぎると成形時の二次発泡力が過剰となり、成形体内部へ飽和スチームの浸透を阻害し、結果的に成形体中央部の温度が不足し、発泡粒子の相互融着が不良となりやすい。
さらに本発明の発泡粒子は、加圧雰囲気下での発泡粒子の見掛け体積の減少が小さく、発泡粒子気泡内と外部雰囲気との圧力差を高めとすることが可能となり、結果として内圧付与に要する時間を短くできることができる。
【0070】
上記方法で製造されるEPP成形体の見かけ密度は目的によって任意に選定できるが、通常は9g/L〜600g/Lの範囲である。
尚、EPP成形体の見掛け密度とは、JIS K 7222(1999年)でいう見掛け全体密度のことである。ただし、見掛け全体密度の計算に用いられる成形体の体積は、外寸から計算される体積を採用するが、形状が複雑で外寸からの計算が困難である場合には、成形体を水没させた際の排除体積が採用される。
【0071】
また、EPP成形体にはその表面の少なくとも一部に、表面装飾材を積層一体化することができる。そのようなラミネート複合タイプの型内発泡成形体の製造方法は、米国特許第5928776号、米国特許第6096417号、米国特許第6033770号、米国特許第5474841号、ヨーロッパ特許477476号、WO98/34770号、WO98/00287号、日本特許第3092227号等の各公報に詳細に記載されている。
また、本発明のEPP成形体中には、インサート材の全部または一部が埋設されるようにして該インサート材を複合一体化することができる。そのようなインサート複合タイプの型内発泡成形体の製造方法は、米国特許第6033770号、米国特許第5474841号、日本公開特許昭59−127714号、日本特許第3092227号等の各公報に詳細に記載されている。
【0072】
以上のようにして製造されるEPP成形体は、ASTM−D2856−70の手順Cに基づく連続気泡率が40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることが最も好ましい。連続気泡率が小さい成形体ほど、機械的強度に優れる。
【0073】
【実施例】
以下に本発明について実施例および比較例を挙げ説明する。
【0074】
実施例1、比較例1、2
表1から選択されるポリプロピレン単独重合体樹脂100重量部当り、ホウ酸亜鉛粉末(気泡調整剤)0.05重量部を添加して押出機内で溶融混練した後、押出機からストランド状に押出し、そのストランドを直ちに18℃に調節された水中に入れて急冷しながら引き取り、充分に冷却した後、水中から引き上げ、長さ/直径比が略1.0になるようにストランドを切断して、1粒子当りの平均重量が2mgの樹脂粒子を得た。次いで400リットルのオートクレーブに、上記樹脂粒子100kg、分散媒体として18℃のイオン交換水220kg(樹脂粒子/分散媒体重量比0.45)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)0.005kg、カオリン粉末(分散剤)0.3kg及び硫酸アルミニウム粉末(分散強化剤)0.01kgを仕込み、密閉した後、オートクレーブ内の圧力が490KPa(G)となるまで炭酸ガスを圧入した。次いで密閉状態のままで攪拌しながら表2に示す発泡温度よりも5℃低い温度まで昇温して(平均昇温速度4℃/分)からその温度で15分間保持した。次いで、発泡温度まで昇温して(平均昇温速度3℃/分)同温度で15分間保持した。尚、発泡温度に到達した直後に、発泡直前のオートクレーブ内圧力が表2に示した圧力となるように高圧の炭酸ガス(発泡剤)をオートクレーブへ圧入し続けた。次いで、オートクレーブの一端を開放してオートクレーブ内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得た。尚、樹脂粒子をオートクレーブから放出する間のオートクレーブ内圧力が、放出直前のオートクレーブ内圧力に保たれるように、オートクレーブ内に炭酸ガスを供給しながら放出を行った。得られた発泡粒子を水洗し遠心分離機にかけたのち、室温23℃の大気圧下に48時間放置して養生した後、発泡粒子1個全体の高温ピーク熱量、及び発泡粒子の見かけ密度等を測定した。その結果を表2に示した。尚、実施例1及び比較例1、2で得られた発泡粒子は、いずれも無架橋であった(前記沸騰キシレン不溶分はいずれも0であった)。
【0075】
次いで、この発泡粒子を、耐圧容器内の加圧空気下に置いて発泡粒子に高められた気泡内圧を付与した後、表2に示す気泡内圧(表中では内圧と表示)の時に、250mm×200mm×50mmの成形空間を持つ金型内に、金型を完全に閉鎖せずに僅かな隙間(約1mm)を開けた状態で(成形空間50mmの方向が51mmの状態で)充填し、次いで完全に型締めした後に、スチームで金型内の空気を排気してから、所定の飽和スチーム圧力によって成形した。成形後、金型内の成形体の面圧が59kPa(G)となるまで水冷した後、成形体を型から取り出し、60℃で24時間乾燥させた後、室温(23℃)まで冷却した。引き続いてその部屋で14日間成形体を養生した。尚、所定の飽和スチーム圧力とは、150kPa(G)〜550kPa(G)まで10kPaづつ飽和スチーム圧を変えて繰り返し成形体を製造し、表2に示す最低融着温度(最低飽和スチーム圧力)を測定した。
【0076】
尚、表2中の最低融着温度とは、250mm×200mm×50mmの金型で成形した養生後の成形体の250mm×200mm表面の一方の面に、カッターナイフで250mm長さを2分するように成形体の厚み方向に約10mmの切り込みを入れた後、切り込み部から成形体を折り曲げて破断するテストにより、破断面に存在する発泡粒子の個数(n)と材料破壊した発泡粒子の個数(b)の比(b/n)の値が初めて0.50以上となった時の、成形に要した飽和スチーム圧力を意味する。尚、上記発泡粒子の個数(n)は、発泡粒子間で剥離した発泡粒子の個数と、発泡粒子内で材料破壊した発泡粒子の個数(b)との総和である。尚、(b/n)の値が大きいほど成形体は曲げ強度や引張強度が大きくなるので好ましい。
【0077】
また、最低融着温度で得られた養生後の成形体に対し、圧縮強度を測定した。その結果を表2に示す。表2中の圧縮強度とは、成形体から縦50mm、横50mm、厚み25mm、となるように切断して得られた試験片(全面の表皮がカットされたもの)を使用し、JIS Z 0234(1976年)A法に従って試験片温度23℃、荷重速度10mm/分の条件で歪が55%に至るまで圧縮試験を行い、得られた応力−歪線図より50%歪時の応力を読みとり、これを圧縮強度とした。
【0078】
実施例1と比較例1、2は、いずれも有機過酸化物による表面改質が行なわれていない例を示すものである。実施例1は、158℃を越える161℃の高融点のポリプロピレン樹脂を基材樹脂とする発泡粒子でありながら、基材樹脂の分子量分布が4.4以上の5.1であることから小さい(低温の)飽和スチーム圧力で成形して上記(b/n)の値を0.50以上とすることが可能であった。また、基材樹脂の引張破壊伸びが200%以上の560%であることから得られた発泡粒子は独立気泡性に優れ、また基材樹脂の引張降伏強さが31MPa以上の34MPaであることから得られたEPP成形体の圧縮強度も成形体の見かけ密度及び発泡粒子の高温ピーク熱量値に見合った比較的高強度のものであった。尚、実施例1では、基材樹脂の融点が161℃と高く、基材樹脂のMFRが18g/10分と比較的小さく、発泡粒子の高温ピーク熱量が26J/gと比較的大きい上、内圧が197kPa(G)と小さく、有機過酸化物による表面改質が行なわれていないにもかかわらず、400kPaという小さい飽和スチーム圧力で成形して上記(b/n)の値が0.50以上の成形体が得られたことは正に驚異的な結果であるといえる。
【0079】
一方、実施例1に対する比較例1は、実施例1と同様に158℃を越える高融点のポリプロピレン樹脂を基材樹脂とし、基材樹脂の引張破壊伸び、引張降伏強さ及び発泡粒子の高温ピーク熱量値は実施例1と実質的に同じであったが、EPP成形体の圧縮強度は実施例1よりもやや劣るものであった。また、比較例1では基材樹脂の分子量分布が4.4未満の4.1であったことから実施例1に比べ遥かに大きい(高温の)飽和スチーム圧力を使用して成形しないと上記(b/n)の値を0.50以上にすることができなかった。
また、実施例1に対する比較例2は、実施例1と同様に158℃を越える高融点のポリプロピレン樹脂を基材樹脂とし、基材樹脂の引張破壊伸び、引張降伏強さ、発泡粒子の高温ピーク熱量値及び最低融着温度は実施例1と実質的に同じであったが、基材樹脂の分子量分布が4.4未満の3.6である上、MFRが63g/10分とかなり大きかったこともあり、EPP成形体の圧縮強度は実施例1よりも大幅に劣るものとなった。
以上の結果は、161℃という高温の融点を持つポリプロピレン樹脂を基材樹脂とする10J/g以上という大きい高温ピークを持つ発泡粒子であってもその基材樹脂の分子量分布が4.4以上であると、基材樹脂の分子量分布が4.4未満の他の性能が同等である発泡粒子と比較すると、低温度の飽和スチームで発泡粒子間の融着に優れた成形体が得られることを示しているか、又は最低融着温度が同等の発泡粒子と比較すると圧縮強度の大きなEPP成形体が得られることを示している。
【0080】
実施例2、比較例3〜6
表1から選択されるポリプロピレン単独重合体樹脂100重量部当り、ホウ酸亜鉛粉末(気泡調整剤)0.05重量部を添加して押出機内で溶融混練した後、押出機からストランド状に押出し、そのストランドを直ちに18℃に調節された水中に入れて急冷しながら引き取り、充分に冷却した後、水中から引き上げ、長さ/直径比が略1.0になるようにストランドを切断して、1粒子当りの平均重量が2mgの樹脂粒子を得た。次いで400リットルのオートクレーブに、上記樹脂粒子100kg、分散媒体として18℃のイオン交換水220kg(樹脂粒子/分散媒体重量比0.45)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)0.005kgとカオリン(分散剤)0.3kgと硫酸アルミニウム粉末(分散強化剤)0.01kg、有機過酸化物としてビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(1時間半減期温度58℃、1分間半減期温度92℃)を仕込み、密閉した後、オートクレーブ内の圧力が490KPa(G)となるまで炭酸ガスを圧入した。次いで、密閉状態のままで攪拌しながら表3に示す発泡温度よりも5℃低い温度まで昇温して(平均昇温速度4℃/分)からその温度で15分間保持した。この昇温の際に、使用された有機過酸化物の1分間半減期±30℃の範囲内に保持された時間は15分であった。次いで、発泡温度まで昇温して(平均昇温速度3℃/分)同温度で15分間保持した。尚、発泡温度に到達した直後に、発泡直前のオートクレーブ内圧力が表3に示した圧力となるように高圧の炭酸ガス(発泡剤)をオートクレーブへ圧入し続けた。次いで、オートクレーブの一端を開放してオートクレーブ内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得た。尚、樹脂粒子をオートクレーブから放出する間のオートクレーブ内圧力が、放出直前のオートクレーブ内圧力に保たれるように、オートクレーブ内に窒素ガスを供給しながら放出を行った。得られた発泡粒子を水洗し遠心分離機にかけたのち、室温23℃の大気圧下に48時間放置して養生した後、発泡粒子1個全体の高温ピーク熱量、発泡粒子の表層部分及び内部発泡層の各高温ピーク熱量、前記のμDTAによる発泡粒子表面の融解開始温度と補外融解開始温度、並びに発泡粒子の見かけ密度等を測定した。その結果を表3に示した。尚、実施例2及び比較例3〜6で得られた発泡粒子は、いずれも無架橋であった(前記沸騰キシレン不溶分はいずれも0であった)。
【0081】
次いで、この発泡粒子を、耐圧容器内の加圧空気下に置いて発泡粒子に高められた気泡内圧を付与した後、表3に示す気泡内圧(表中では内圧と表示)の時に、250mm×200mm×50mmの成形空間を持つ金型内に、金型を完全に閉鎖せずに僅かな隙間(約1mm)を開けた状態で(成形空間50mmの方向が51mmの状態で)充填し、次いで完全に型締めした後に、スチームで金型内の空気を排気してから、実施例1、比較例1、2と同様にして飽和スチームによって繰り返し成形して最低融着温度(最低飽和スチーム圧力)を測定した。また、最低融着温度で得られた養生後の成形体に対し、実施例1、比較例1、2と同様にして圧縮強度を測定した。これらの結果も表3に示した。
【0082】
実施例2と比較例3〜6は、いずれも有機過酸化物による表面改質が行なわれた例を示すものである。従って、いずれの例も小さい飽和スチーム圧力で成形して上記(b/n)の値を0.50以上の成形体が得られた。
特に、実施例2では、基材樹脂の融点が161℃と高く、基材樹脂のMFRが18g/10分と比較的小さく、発泡粒子の高温ピーク熱量が40J/gとかなり大きいにもかかわらず、350kPaという小さい飽和スチーム圧力で成形して上記(b/n)の値が0.50以上の成形体が得られたことは正に驚異的な結果であるといえる。この結果は、比較例3〜6と同じ表面改質を行なったにもかかわらず、実施例1の発泡粒子の方が発泡粒子表層部分の高温ピーク熱量が小さくなり、μDTAによる発泡粒子表面の融解開始温度及び補外融解開始温度が低下している事実より、基材樹脂の分子量分布が4.4以上であったことがその表面改質効果を高め、より低温度の飽和スチームにて成形が可能になったものと推測される。
一方、実施例2に対する比較例3は、発泡粒子の見かけ密度、発泡粒子の高温ピーク熱量、内圧が同等であるにもかかわらず、基材樹脂の引張降伏強さが31MPa未満の30MPaであったことから得られた成形体の圧縮強度は実施例2に比べ低いものとなった。更に、基材樹脂の分子量分布が4.4未満の4.3であることから、実施例1よりも改質効果が劣り、実施例2に比べ大きい(高温の)飽和スチーム圧力を使用して成形しないと上記(b/n)の値を0.50以上にすることができなかった。
また、実施例2に対する比較例4は、基材樹脂の引張降伏強さと引張破断伸び、発泡粒子の見かけ密度、発泡粒子の高温ピーク熱量、内圧が同等であるにもかかわらず、基材樹脂の分子量分布が4.4未満の4.0であることから実施例2に比べ大きい(高温の)飽和スチーム圧力を使用して成形しないと上記(b/n)の値を0.50以上にすることができなかった。
【0083】
また、実施例2に対する比較例5は、基材樹脂の引張降伏強さ、発泡粒子の見かけ密度、発泡粒子の高温ピーク、内圧が同等であるにもかかわらず、基材樹脂の引張破断伸びが20%未満の18%であることから、得られた発泡粒子は独立気泡性に劣り、結果として得られた成形体の圧縮強度は実施例2に比べ低いものとなった。更に、基材樹脂の分子量分布が4.4未満の4.0であることから実施例2に比べ大きい(高温の)飽和スチーム圧力を使用して成形しないと上記(b/n)の値を0.50以上にすることができなかった。
また、実施例2に対する比較例6は、基材樹脂の引張降伏強さと引張破断伸び、発泡粒子の見かけ密度、発泡粒子の高温ピーク、内圧が実施例2と同等であるにもかかわらず、基材樹脂の分子量分布が4.4未満の3.6である上に基材樹脂のMFRが63g/10分とかなり大きな値を示していたことから、最低融着温度は実施例2よりもやや高いだけであったが、得られた成形体の圧縮強度は実施例2よりも大きく低下するものであった。
以上の結果は、有機過酸化物により表面改質された、158℃以上の161℃という高温の融点を持つポリプロピレン樹脂を基材樹脂とする10J/g以上という大きい高温ピークを持つ発泡粒子であっても、分子量分布が4.4以上の基材樹脂からなるものであると、分子量分布が4.4未満の基材樹脂からなるものと比べ、より低温度の飽和スチームにて発泡粒子間の融着に優れると共に圧縮強度の大きい成形体が得られることを示している。また、基材樹脂のMFRが大きくなると最低融着温度は低くなる傾向にはあるが、得られる成形体の圧縮強度を低下させることが分る。また、基材樹脂の引張破壊伸びが20%を下回ると又は基材樹脂の引張降伏強さが31MPaを下回ると得られる成形体の圧縮強度が劣ることが分る。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【発明の効果】
本発明の発泡粒子は、融点が158〜170℃、メルトフローレート(MFR)が1〜60g/10分、引張降伏強さが31〜45MPa、引張破壊伸びが200〜1000%、及び分子量分布(Mw/Mn)が4.5〜10であるポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子であって、該発泡粒子は、示差走査熱量測定によるDSC曲線における基材樹脂の融解熱に由来する吸熱曲線ピークよりも高温側に吸熱曲線ピークが存在し、該高温側吸熱曲線ピークの融解熱量が10〜60J/gであることにより、発泡粒子間の融着率が高い上、耐熱性又は/及び圧縮強度に優れた成形体を、従来の同等の発泡粒子に比べ、低温の飽和スチームを使用して得ることができるという効果を奏する。特に、有機過酸化物で表面処理する工程を経たポリプロピレン系樹脂粒子から得られた発泡粒子では、表面処理効果とあいまって、発泡粒子間の融着率が高い上、耐熱性又は/及び圧縮強度に優れた成形体を、従来の同等の発泡粒子に比べ、極めて低温の飽和スチームを使用して得ることができるという効果を奏する。従って、本発明の発泡粒子を使用すれば、従来よりも安価に、高物性(高剛性)又は/及び耐熱性の高い又は/及び軽量なEPP成形体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、高温ピークを持つポリプロピレン系樹脂発泡粒子の、第1回目のDSC曲線のチャートの一例を示す図である。
【図2】図2は、ポリプロピレン系樹脂粒子の第2回目のDSC曲線のチャートの一例を示す図である。
【図3】図3は、融点が161℃のポリプロピレン単独重合体樹脂を基材樹脂とする、表面改質工程を経て得られたポリプロピレン系樹脂発泡粒子と表面改質工程を経ないで得られたポリプロピレン系樹脂発泡粒子のそれぞれにおける発泡粒子表面に対するマイクロ熱機械分析に基づくμDTA曲線の一例を示す図である。
【図4】図4は、融点が161℃のポリプロピレン単独重合体樹脂を基材樹脂とする、表面改質工程を経て得られたポリプロピレン系樹脂発泡粒子における発泡粒子表面に対するマイクロ熱機械分析に基づくμDTA曲線の別な一例を示す図である。
Claims (5)
- 融点が158〜170℃、メルトフローレート(MFR)が1〜60g/10分、引張降伏強さが31〜45MPa、引張破壊伸びが200〜1000%、及び分子量分布(Mw/Mn)が4.5〜10であるポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子であって、該発泡粒子は、示差走査熱量測定によるDSC曲線における基材樹脂の融解熱に由来する吸熱曲線ピークよりも高温側に吸熱曲線ピークが存在し、該高温側吸熱曲線ピークの融解熱量が10〜60J/gであることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
- 該発泡粒子の表層部分の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量(ΔHs)と該発泡粒子の内部発泡層の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量(ΔHi)との関係がΔHs<ΔHi×0.86であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
- 該発泡粒子の表面におけるマイクロ示差熱分析(25℃から200℃まで昇温速度10℃/秒の条件)に基づく融解開始温度が基材樹脂の融点以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
- 該発泡粒子の表面におけるマイクロ示差熱分析(25℃から200℃まで昇温速度10℃/秒の条件)に基づく補外融解開始温度が基材樹脂の〔融点+4℃〕以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子が、有機過酸化物が存在する分散媒体中にポリプロピレン系樹脂粒子を分散させると共に、該分散媒体を該ポリプロピレン系樹脂粒子の基材樹脂融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が分解する温度に保持して該有機過酸化物を分解させることによって無架橋の表面改質粒子を得る表面改質工程と、該表面改質粒子を発泡剤を用いて発泡させ
て無架橋の発泡粒子を得る発泡工程とを含む方法により製造されたことを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
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