JP4157399B2 - ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体 - Google Patents
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は連通した空隙を有するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体、該発泡成形体を得るために用いるポリプロピレン系樹脂発泡粒子、及び該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水はけを良くするための排水資材又は壁材又は吸音材等に使用可能な連通した空隙を有するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が、特許文献1、特許文献2及び特許文献3等に開示されている。
【0003】
この空隙を有するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、筒状等の貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子を加熱成形することによって得られる。具体的には、例えば発泡粒子を雄型及び雌型とから構成される金型内に充填し、該金型に蒸気を導入して、発泡粒子を加熱し融着させてから冷却した後、金型を開き成形体を取り出すことによって製造する。かかる方法によれば、空隙を有するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を製造することは可能である。
【0004】
しかしながら、従来の貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子を用いて加熱成形を行なうと、貫通孔が大きく押し潰された発泡成形体しか得ることができないという問題があった。即ち、従来の貫通孔を有する発泡粒子を用いると、金型にスチームを導入して発泡粒子を加熱し融着させる際に発泡粒子が激しく膨張するので、発泡粒子の貫通孔が大きく押し潰されることによる空隙率の大きな低下を防ぐことができなかった。加熱温度を低くすれば貫通孔が大きく押し潰されることを防ぐことはできるが、得られる成形体は、発泡粒子どうしの融着が悪くなって曲げ強度や局部圧縮強度等の機械的強度が大きく低下してしまうという問題があった。
【0005】
従って、発泡粒子の融着に必要な温度(スチーム圧)で加熱しても激しく膨張しないポリプロピレン系樹脂発泡粒子、及びその製造方法の開発が待望されていた。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−138400号公報
【特許文献2】
特開平8−156000号公報
【特許文献3】
特開平8−108441号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、発泡粒子どうしが融着可能な温度で加熱しても、激しく膨張することがないポリプロピレン系樹脂発泡粒子、該発泡粒子の製造方法、及び該発泡粒子から得られたポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、以下に示すポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体が提供される。
(1)貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂粒子(但し、ポリプロピレン系樹脂中にビニル系単量体を含浸しているものを除く。)を有機過酸化物が存在する分散媒体中に分散させて分散媒体とし、該分散媒体を該樹脂粒子の基材樹脂の融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が分解する温度に加熱して該有機過酸化物を分解させることによって、無架橋の表面改質粒子を得る表面改質工程と、該表面改質粒子を発泡させて無架橋の貫通孔を有する発泡粒子を得る発泡工程とを含むことを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
(2)該分散媒体を、該発泡粒子の基材樹脂であるポリプロピレン系樹脂のガラス転移温度以上、ビカット軟化点以下の温度に加熱して該有機過酸化物を分解させることを特徴とする前記(1)に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
(3)該表面改質粒子を物理発泡剤を用いて発泡させることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
(4)該発泡工程において、見かけ密度が10g/L〜500g/Lであり、且つ示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線において、基材樹脂の融解熱に由来する吸熱曲線ピークよりも高温側に吸熱曲線ピークが存在する発泡粒子を得ることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
(5)該発泡粒子の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量が2〜70J/gであることを特徴とする前記(4)に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
(6)該有機過酸化物の1時間半減期温度が、該発泡粒子の基材樹脂であるポリプロピレン系樹脂のガラス転移点以上であり且つビカット軟化点以下であることを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
(7)該有機過酸化物がカーボネート構造を有するパーオキシドであることを特徴とする前記(1)乃至(6)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
(8)請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって得られる貫通孔を有する無架橋のポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線において、基材樹脂の融解熱に由来する吸熱曲線ピークよりも高温側に吸熱曲線ピークが存在し、かつ発泡粒子の表面についてのマイクロ示差熱分析(25℃から200℃までの昇温速度10℃/秒)によって得られる融解開始温度が基材樹脂の融点以下であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
(9)該発泡粒子の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量が2〜70J/gであることを特徴とする前記(8)に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
(10)該ポリプロピレン系樹脂の融点が158℃以上であることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
(11)前記(8)乃至(10)のいずれかに記載の発泡粒子を型内に充填した後、発泡粒子を加熱し冷却することによって得られた、空隙を有するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明方法で用いられるポリプロピレン系樹脂粒子の基材樹脂(以下、本基材樹脂という。)であるポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン単独重合体、またはプロピレン成分を70モル%以上含有する(好ましくはプロピレン成分を80モル%以上含有する)プロピレンと他のコモノマーとの共重合体のいずれか、あるいはこれらの樹脂の中から選ばれる2種以上の混合物である。
【0010】
プロピレン成分を70モル%以上含有するプロピレンと他のコモノマーとの共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、エチレン−プロピレンブロックコポリマー、プロピレン−ブテンランダムコポリマー、エチレン−プロピレン−ブテンランダムコポリマーなどが例示される。
【0011】
上記ポリプロピレン系樹脂の融点は、最終的に得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体(以下、本発泡成形体という。)の圧縮強度等の機械的物性を高いものとする上で、130℃以上であることが好ましく、135℃以上であることがより好ましく、145℃以上であることが更に好ましく、158℃以上であることが特に好ましい。該融点の上限は、通常、170℃程度である。
【0012】
更に、上記ポリプロピレン系樹脂は、本発泡成形体の耐熱性及び発泡粒子製造時の発泡効率を考慮すると、メルトフローレイト(MFR)が0.3〜100g/10分のものが好ましく、1〜90g/10分のものがより好ましい。尚、MFRはJIS K7210(1976年)の試験条件14で測定された値である。
【0013】
本発明方法においては、本基材樹脂中に本発明の所期の効果を損なわない範囲内において、ポリプロピレン系樹脂以外の他の合成樹脂又は/及びエラストマーを添加することができる。ポリプロピレン系樹脂以外の他の合成樹脂又は/及びエラストマーの添加量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部当り、多くても35重量部であることが好ましく、多くても20重量部であることがより好ましく、多くても10重量部であることが更に好ましく、多くても5重量部であることが最も好ましい。
【0014】
本基材樹脂に添加される他の合成樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等のエチレン系樹脂、或いはポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂等が例示される。
【0015】
前記本基材樹脂に添加されるエラストマーとしては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−1−ブテンゴム、プロピレン−1−ブテンゴム、スチレン−ブタジエンゴムやその水添物、イソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、或いはスチレン−ブタジエンブロック共重合体エラストマーやその水添物等のエラストマーが例示される。
【0016】
なお、本基材樹脂中には、本発明の所期の効果を損なわない範囲内において、各種添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、難燃剤、金属不活性剤、顔料、染料、核剤、あるいは気泡調整剤等を挙げることができる。気泡調整剤としては、たとえばホウ酸亜鉛、タルク、炭酸カルシウム、ホウ砂、水酸化アルミニウムなどの無機粉体が例示される。これらの添加剤は、合計で本基材樹脂100重量部当り20重量部以下、特に5重量部以下で使用されるのが好ましい。
【0017】
これらの添加剤は例えば、押出機を用いて本基材樹脂と共に加熱混練することにより本樹脂粒子中に含有させることができる。
【0018】
本発明方法で用いられるポリプロピレン系樹脂粒子(以下、本樹脂粒子という。)は、貫通孔を有する。該貫通孔は、その断面の形状が、図5に示すように、(ア)中空円状(ドーナツ状)、(イ)中空三角状、(ウ)中空六角状、(エ)中空円の中に仕切りがある形状、(オ)2つの中空円が並列された形状、(カ)3つの中空円がのそれぞれが接触して並列した形状、(キ)一部に断裂部dを有する中空円形状、(ク)一部に断裂部dを有する中空四角形状等である。このような断面形状の貫通孔を有する本樹脂粒子を用いると、貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることができ、該発泡粒子を用いると空隙率の大きい本発泡成形体を得ることができる。
【0019】
本樹脂粒子は、本基材樹脂を構成する各種樹脂や添加剤等を押出機に供給して、加熱、溶融、混練してから押出機先端に取付けたダイを通してストランド状に押出してから切断することにより製造することが好ましい。図5に示すような断面形状を有する本樹脂粒子は、前記ダイの出口を目的とする本樹脂粒子の断面形状に相似する形状に形成し、該ダイの出口を通して押出すことによって得ることができる。
【0020】
本発明方法で用いる本樹脂粒子は、溶融した本基材樹脂を前記ダイを通して押出されたストランドを急冷した後切断することによって得られたものが好ましい。急冷された本樹脂粒子は、後述する表面改質を効率よく行なうことができる。そのストランドの急冷は、ストランドを押出し直後に、好ましくは50℃以下に調節された水中に、より好ましくは40℃以下に調節された水中に、最も好ましくは30℃以下に調節された水中に入れることにより行なうことが好ましい。充分に冷却されたストランドは水中から引き上げられ、適宜長さに切断することにより、所望の大きさの本樹脂粒子とされる。本樹脂粒子は、通常、長さ/直径比が0.5〜5.0、好ましくは0.8〜3.0となるように調節され、また1個当たりの平均重量(無作為に選んだ200個の重量を同時に測定した1個当たりの平均値)は、0.1〜20mgとなるように、好ましくは0.2〜10mgとなるように調節される。
【0021】
本発明の製造方法は、無架橋の表面改質粒子を得る表面改質工程と、該表面改質粒子を発泡させて無架橋の貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子(以下、本発泡粒子という。)を得る発泡工程(発泡剤含浸工程+樹脂粒子発泡工程)とからなる。
【0022】
本発明方法の表面改質工程では、前記本樹脂粒子を有機過酸化物が存在する分散媒体中に分散させて分散媒体とし、該分散媒体を本樹脂粒子の基材樹脂の融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が分解する温度に加熱して該有機過酸化物を分解させることによって、本樹脂粒子の表面を改質することにより無架橋の表面改質粒子を得る。このようにして得られた表面改質粒子は、これを次の発泡工程において、発泡することにより無架橋の本発泡粒子に変換される。
【0023】
このようにして得られた本発泡粒子は表面が改質されており、熱融着性にすぐれ、表面が改質されていない本樹脂粒子から得られた発泡粒子どうしでは融着しないような低い温度で加熱しても融着させることができる。また、本発泡粒子は、従来より低い温度であっても融着するので、成形時に加熱により激しく膨張することがない。
【0024】
前記表面改質工程で使用される分散媒体は、一般には水性媒体、好ましくは水が使用され、より好ましくはイオン交換水が使用されるが、水に限らず本基材樹脂を溶解せず且つ本樹脂粒子の分散が可能な溶媒又は液体であれば使用することができる。水以外の分散媒体としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等が挙げられる。水性媒体には、水と有機溶媒、例えば前記アルコールとの混合液が包含される。
【0025】
本発明方法において本樹脂粒子の表面改質に用いられる有機過酸化物としては、従来公知の各種のもの、例えば、イソブチルパーオキシド〔50℃/85℃〕、クミルパーオキシネオデカノエート〔55℃/94℃〕、α,α'−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン〔54℃/82℃〕、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート〔58℃/94℃〕、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート〔56℃/88℃〕、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート〔59℃/94℃〕、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート〔58℃/92℃〕、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート〔58℃/92℃〕、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート〔59℃/92℃〕、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート〔59℃/91℃〕、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート〔63℃/101℃〕、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート〔64℃/102℃〕、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート〔65℃/103℃〕、t−ブチルパーオキシネオデカノエート〔65℃/104℃〕、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド〔74℃/119℃〕、t−ヘキシルパーオキシピバレート〔71℃/109℃〕、t−ブチルパーオキシピバレート〔73℃/110℃〕、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド〔77℃/113℃〕、オクタノイルパーオキシド〔80℃/117℃〕、ラウロイルパーオキシド〔80℃/116℃〕、ステアロイルパーオキシド〔80℃/117℃〕、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート〔84℃/124℃〕、サクシニックパーオキシド〔87℃/132℃〕、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン〔83℃/119℃〕、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔90℃/138℃〕、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔90℃/133℃〕、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔92℃/134℃〕、m−トルオイルベンゾイルパーオキシド〔92℃/131℃〕、ベンゾイルパーオキシド〔92℃/130℃〕、t−ブチルパーオキシイソブチレート〔96℃/136℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン〔102℃/142℃〕、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン〔106℃/147℃〕、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン〔107℃/149℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン〔109℃/149℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン〔111℃/154℃〕、2,2−ビス(4,4−ジブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン〔114℃/154℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン〔114℃/153℃〕、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート〔115℃/155℃〕、t−ブチルパーオキシマレイン酸〔119℃/168℃〕、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート〔119℃/166℃〕、t−ブチルパーオキシラウレート〔118℃/159℃〕、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン〔117℃/156℃〕、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート〔118℃/159℃〕、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート〔119℃/161℃〕、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート〔119℃/160℃〕、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン〔119℃/158℃〕等が例示される。尚、上記各有機過酸化物名のすぐ後ろのカッコ内における左側の温度は後述する1時間半減期温度であり、右側の温度は後述する1分間半減期温度である。該有機過酸化物は、単独でまたは2種以上を併用して、本樹脂粒子100重量部当り、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部を分散媒体中に添加される。
【0026】
上記有機過酸化物と本樹脂粒子と分散媒体からなる分散媒体において、本樹脂粒子/分散媒体の重量比が大きくなりすぎると本樹脂粒子に対して均一な表面改質が行なえなくなる虞がある。そうなると、表面改質粒子の中に改質が極度に進みすぎたものが混じり、それが原因で、次の発泡工程において、密閉容器内で改質樹脂粒子同士の多数個が融着して大きな塊になり、密閉容器外へ放出することができなくなる虞がある。そのような観点から、本発明では、本樹脂粒子/分散媒体の重量比は1.3以下とされるが、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下、更に好ましくは1.0以下とされる。ただし、この重量比があまりにも小さくなりすぎると、本樹脂粒子に対する有機過酸化物の使用量を増やさなければ得られる発泡粒子に充分な低温成形性を付与できない虞がある。有機過酸化物の使用量の増加はコストアップにもつながる。有機過酸化物の使用量をより少なくする上で、本樹脂粒子/分散媒体の重量比は0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。
【0027】
一般に、有機過酸化物が発生するラジカルには水素の引き抜き、付加、β崩壊の3種の連鎖移動作用がある。本発明においては、その3つの作用のうち特に付加の作用が大きいもの、即ち、分解時に酸素ラジカルを発生するものが好ましく、その中でもカーボネート構造を有するパーオキシドが特に好ましい。尚、該有機過酸化物を使用する際、必要に応じて連鎖移動剤等を併用(予め本樹脂粒子中に含有させておくか又は/及び分散媒体中に添加して併用)することも可能である。なお、前記酸素ラジカルは、酸素単体のラジカルの他、有機過酸化物の分解により生じた有機基が結合した酸素ラジカルを意味する。
【0028】
従来、ポリプロピレンに対する有機過酸化物の用途としては、次の(1)〜(4)の利用方法が知られている。
(1)ポリプロピレン粒子に有機過酸化物と架橋助剤を均質に含浸させてポリプロピレンの融点を超える温度で上記有機過酸化物を分解させてポリプロピレンを架橋させる。
(2)ポリプロピレンと有機過酸化物とを含む組成物をポリプロピレンの融点を超える温度で押出機内で均一に溶融混練して上記有機過酸化物を均質に分解させ、それによって分子量分布の狭くなったポリプロピレンを得る(特開平3−152136号)。
(3)ポリプロピレン粒子に有機過酸化物と架橋助剤を均質に含浸させてポリプロピレンの融点未満の温度で上記有機過酸化物を分解させることによってポリプロピレンに長鎖分岐又は架橋構造を導入してポリプロピレンの溶融張力を高める(特開平11−80262号)。この溶融張力が高められたポリプロピレンはその後、押出機内で発泡剤と共に溶融混練されて押出発泡に使用される。
(4)ポリプロピレンと有機過酸化物と無水マレイン酸を含む組成物をポリプロピレンの融点を超える温度で押出機内で均一に溶融混練してグラフト重合させる。
【0029】
前記(1)〜(4)の有機過酸化物の利用法は、いずれも、無架橋の表面改質粒子を得る本発明の利用法とは相違する。即ち、本発明方法の改質工程における過酸化物の利用法においては、本樹脂粒子を有機過酸化物が存在する分散媒体中に分散させて分散媒体とし、該分散媒体を本樹脂粒子の基材樹脂の融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が分解する温度に加熱して該有機過酸化物を分解させることによって、熱融着性に優れた無架橋の表面改質粒子を得る。かかる本発明方法の過酸化物の利用法は、従来の有機過酸化物の利用法とは異なるものである。
【0030】
本発明においては、有機過酸化物は、本基材樹脂の融点よりも低温で分解させることが好ましい。具体的には、有機過酸化物の1時間半減期温度(一定温度で有機化酸化物を分解させた際、活性酸素量が1時間で当初の半分になる一定温度)が、本基材樹脂のビカット軟化点(JIS K 6747−1981、以下同じ)以下であることが好ましい。
【0031】
使用する有機過酸化物の上記1時間半減期温度が本基材樹脂のビカット軟化点を超える場合には、その過酸化物の分解を迅速に行なうには本基材樹脂の融点以上の高温が必要となるので好ましくない。逆に、本基材樹脂のビカット軟化点よりも低温では、有機過酸化物を分解させることができない虞がある。
【0032】
また、1時間半減期温度が本基材樹脂のビカット軟化点を超える有機過酸化物を、本基材樹脂の融点以上の温度で分解させると、該過酸化物が本樹脂粒子の奥深くまで浸透した状態で分解するため、本樹脂粒子を構成する本基材樹脂が表面、内部を問わず全体的に大きく分解してしまうので、加熱成形に使用できない発泡粒子しか得ることができなくなる虞がある。たとえ成形できたとしても最終的に得られる本発泡成形体の機械的物性が大きく低下する虞がある。
【0033】
以上のことを考慮すると、本発明方法で使用される有機過酸化物は、1時間半減期温度が本基材樹脂のビカット軟化点よりも20℃以上低温であることが好ましく、本基材樹脂のビカット軟化点よりも30℃以上低温であることがより好ましい。
【0034】
尚、有機過酸化物の1時間半減期温度は、本基材樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましく、常温での取り扱い性等を考慮すると、40〜100℃であることがより好ましく、50〜90℃であることが更に好ましい。
【0035】
上記ガラス転移温度は、JIS K 7121−1987に従って、試験片の状態調節を「一定の熱処理を行なった後、ガラス転移温度を測定する場合」とし、熱流束DSCにより求めた中間点ガラス転移温度を意味する。
【0036】
また、本発明方法で用いる過酸化物は、本樹脂粒子が存在する分散媒体中で、本基材樹脂のビカット軟化点以下で分解させることが好ましく、本基材樹脂のビカット軟化点よりも20℃以上低温で分解させることがより好ましく、本基材樹脂のビカット軟化点よりも30℃以上低温で分解させることが更に好ましい。本基材樹脂の融点以上の温度で過酸化物を分解させると、過酸化物が本樹脂粒子の奥深くまで浸透した状態で分解するため、本樹脂粒子を構成する本基材樹脂が表面、内部を問わず全体的に大きく分解してしまうので、加熱成形に使用できない本発泡粒子しか得ることができなくなる虞がある。
【0037】
本発明方法においては、上記有機過酸化物は、該有機過酸化物の1分間半減期温度(一定温度で有機化酸化物を分解させた際、活性酸素量が1分間で当初の半分になるときのその温度)±30℃の温度範囲に10分以上保持して分解させることが好ましい。〔1分間半減期温度−30℃〕よりも低温度で分解させると、分解させるのに必要な時間が長くなるので効率が悪くなる。逆に〔1分間半減期温度+30℃〕よりも高温度で分解させると、分解が急激となってしまう虞があり、表面改質の効率が悪くなる虞がある。
【0038】
また、1分間半減期温度±30℃の範囲にて有機過酸化物を分解させる時間は、10分以上であることが好ましい。該時間は、長くとるほどより確実に有機過酸化物を分解させることができるが、長すぎることも好ましくない。該時間が必要以上に長くなると、表面改質粒子の生産効率の低下をまねく虞がある。上記温度範囲で分解させる時間は通常は長くても60分にとどめるべきである。
【0039】
本発明方法で用いる有機過酸化物を分解させるには、最初に有機過酸化物が分解しにくい温度に調整された上記分散媒体を用意し、次にその分散媒体を前記有機過酸化物の分解温度に加熱すればよい。この際、1分間半減期温度±30℃の範囲に10分以上保持されるように昇温速度を選択することが好ましく、1分間半減期温度±30℃の範囲内の任意の温度で止めてその温度を5分以上保持することがより好ましい。その際の任意の温度としては、1分間半減期温度±5℃内の温度が好ましい。
【0040】
尚、本明細書において、有機過酸化物を分解させるとは、使用した有機過酸化物の活性酸素量が当初の50%以下になるまで分解することを意味するが、当初の30%以下になるまで分解することが好ましく、当初の20%以下になるまで分解させることがより好ましく、当初の5%以下になるまで分解させることが更に好ましい。
【0041】
有機過酸化物の前記半減期温度は、ラジカルに対して比較的不活性な溶液(例えばベンゼンやミネラルスピリット等)を使用して、0.1mol/L濃度の有機過酸化物溶液を調整し、窒素置換を行なったガラス管内に密封し、所定温度にセットした恒温槽に浸し、熱分解させて測定される。
【0042】
本発明方法の表面改質工程において得られる、前記表面改質粒子は無架橋である。本発明方法では架橋助剤等を併用しないので架橋は進行しない。尚、無架橋であるとは、次のとおり定義される。即ち、基材樹脂、本樹脂粒子、表面改質粒子、本発泡粒子、本発泡成形体を問わず、それぞれの試料(キシレン100g当たり試料1g使用)を、沸騰キシレン中に8時間浸漬後、標準網フルイを規定しているJIS Z 8801(1966年)に定められている網目74μmの金網で速やかに濾過し、該金網上に残った沸騰キシレン不溶分の重量を測定する。この不溶分の割合が試料の10重量%以下の場合を無架橋というが、その不溶分の割合は、試料の5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが最も好ましい。その不溶分の割合が少ないほど再利用し易い。
【0043】
上記不溶分の含有率P(%)を式で表すと下記(1)式の通りである。
【0044】
【数1】
P(%)=(M÷L)×100……(1)
ただし、Mは不溶分の重量(g)、Lは試料の重量(g)である。
【0045】
本樹脂粒子は、前述したように、有機過酸化物の分解によりその表面が改質された表面改質粒子とされ、該表面改質粒子は発泡工程における本発泡粒子の製造に供される。発泡工程の好ましい態様としては、例えば、表面改質粒子を発泡剤の存在下に密閉容器内で分散媒体に分散させながら加熱することにより、該表面改質粒子に発泡剤を含浸せしめ(発泡剤含浸工程)、次いで、表面改質粒子の発泡可能な温度で、表面改質樹脂粒子と分散媒体とを低圧帯域に放出することにより発泡粒子を得る(樹脂粒子発泡工程)方法が挙げられる(以下、分散媒放出発泡方法という)。
【0046】
本発明方法においては、前記表面改質粒子を形成する表面改質工程と、その表面改質粒子から発泡粒子を得る発泡工程(発泡剤含浸工程+樹脂粒子発泡工程)とを、それぞれ別の装置で別な時期に実施することも可能である。但し、適当な分解温度を持つ前記有機過酸化物を密閉容器内の分散媒体に所定量添加して前記表面改質を行なって表面改質粒子を製造し(表面改質工程)、続いて同じ容器内で表面改質粒子に発泡剤を含浸させてから(発泡剤含浸工程)、分散媒放出発泡方法によって発泡粒子を得ることもできる(樹脂粒子発泡工程)。
【0047】
本発明方法の発泡工程においては、密閉容器内での上記表面改質粒子の融着防止の点から、表面改質粒子/分散媒体の重量比を0.5以下、好ましくは0.5〜0.1にすることが好ましい。尚、表面改質工程と発泡工程とを同じ容器で実施する場合であって、表面改質工程における本樹脂粒子/分散媒体の重量比が0.5を超える場合は、表面改質工程後に分散媒体を容器内に追加することにより、発泡工程における表面改質粒子/分散媒体の重量比を0.5以下にすることができる。
【0048】
本発明の表面改質粒子、ひいてはそれから得られる本発泡粒子や本発泡成形体中には、前記有機過酸化物の分解に伴なって生成される分子量50以上のアルコールが数百ppm乃至数千ppm程度含有され得る。そのようなアルコールとしては、後述される実施例で示されたビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートが使用された場合には、P−t−ブチルシクロヘキサノールが本発明の表面改質粒子中に含有され得る。他の過酸化物が使用された場合には他のアルコールが含有され得る。そのようなアルコールとしては、例えば、イソプロパノール、S−ブタノール、3−メトキシブタノール、2−エチルヘキシルブタノール、t−ブタノールが例示される。
【0049】
前記分散媒放出発泡方法においては、表面改質粒子が容器内で加熱された場合に互いに融着しないように、分散媒体中に分散剤を添加することが好ましい。そのような分散剤としては、表面改質粒子の容器内での融着を防止するものであればよく、有機系、無機系を問わず使用可能であるが、取り扱いのし易さから微粒状無機物が好ましい。例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の天然又は合成粘土鉱物や、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等を1種または数種を組み合わせて使用する事ができる。
【0050】
更に、分散媒放出発泡方法においては、分散剤の分散力を強化する(分散剤の添加量を少なくしても容器内で表面改質粒子どうしの融着を防止する)分散強化剤を分散媒体中に添加することが好ましい。
【0051】
このような分散強化剤は、40℃の水100ccに対して少なくとも1mg以上溶解し得る無機化合物であって、該化合物の陰イオンまたは陽イオンの少なくとも一方が2価または3価である無機物質である。このような無機物質としては、たとえば、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄等が例示される。
【0052】
通常、本樹脂粒子100重量部当り、分散剤は0.001〜5重量部程度で使用され、分散強化剤は0.0001〜1重量部程度で使用される。
【0053】
本発明方法の発泡工程において用いる発泡剤としては、プロパン、ブタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類、クロロフロロメタン、トリフロロメタン、1,2−ジフロロエタン、1,2,2,2−テトラフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素などの有機系物理発泡剤や、窒素、酸素、空気、二酸化炭素、水といったいわゆる無機系物理発泡剤が例示される。有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤を併用することもできる。
【0054】
本発明方法の発泡工程においては、窒素、酸素、空気、二酸化炭素、水の群から選択される1又は2以上の無機系物理発泡剤を主成分とするものが特に好適に使用される。その中でも発泡粒子の見かけ密度の安定性、環境負荷やコストなどを考慮すると、窒素や空気が好ましい。また発泡剤として使用される水は表面改質粒子を密閉容器中に分散させるために分散媒体として使用される水(イオン交換水も含む)をそのまま利用すればよい。
【0055】
本発明方法において前記分散媒放出発泡方法を採用する場合、物理発泡剤の容器内への充填量は、使用する発泡剤の種類と発泡温度と目的とする発泡粒子の見かけ密度に応じて適宜選択される。例えば発泡剤として窒素を使用し、分散媒体として水を使用した場合を例にとると、発泡開始直前の安定した状態にある密閉容器内の圧力、すなわち密閉容器内空間部の圧力(ゲージ圧)が、0.6〜6MPaとなるように選定することが好ましい。通常は、目的とする発泡粒子の見かけ密度が小さいほど前記容器内の空間部の圧力は高くすることが好ましく、目的とする発泡粒子の見かけ密度が大きいほど空間部の圧力は低くすることが好ましい。
【0056】
前記分散媒放出発泡方法により、見かけ密度が10g/L〜500g/Lの本発泡粒子を製造する場合、本発泡粒子の示差走査熱量測定(熱流束示差走査熱量測定、以下同じ)によって得られるDSC曲線において、基材樹脂の融解熱に由来する吸熱曲線ピーク(固有ピーク)よりも高温側に吸熱曲線ピーク(高温ピーク)が存在するように表面改質粒子を発泡させることが好ましい。このように得られた本発泡粒子は、独立気泡率が高くなり、型内成形に好適なものとなる。
【0057】
分散媒放出発泡方法により得られる本発泡粒子の高温ピークの熱量は、2〜70J/gであることが好ましい。高温ピークの熱量が2J/g未満の場合は本発泡成形体の圧縮強度、エネルギー吸収量などが低下する虞がある。また70J/gを超える場合は、本発泡粒子を成形するに先立ち本発泡粒子内の空気圧を高める工程で必要となる空気圧が高くなりすぎたり、成形サイクルが長くなりすぎる虞れがある。
【0058】
上記高温ピークの熱量は、特に3J/g〜65J/gであって、かつ高温ピークの熱量と固有ピークの熱量の総和に対して10〜60%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。また、高温ピークの熱量と固有ピークの熱量の総和は40〜150J/gであることが好ましい。尚、本明細書において言う高温ピークの熱量と固有ピークの熱量は、いずれも吸熱量を意味し、絶対値で表現される値である。
【0059】
本発泡粒子の高温ピークの熱量とは、示差走査熱量計を用いて得られる第1回めのDSC曲線(図1に示す。)に現れる二つのピークのうちの高温側のピークの熱量をいう。即ち、本発泡粒子2〜10mgを、示差走査熱量計によって室温(10〜40℃)から220℃まで10℃/分の速度で最初(第1回め)に昇温する場合に第1回目のDSC曲線を得ることができる。該第1回目のDSC曲線には、本基材樹脂の融解熱に由来する固有の吸熱曲線ピーク(固有ピーク)aと該固有ピークの高温側には吸熱曲線ピーク(高温ピーク)bが現れ、該高温ピークbの熱量(吸熱量)が本発泡粒子の高温ピークの熱量であり、高温ピークbの面積に相当するものである。本発泡粒子の高温ピークの熱量は、具体的にはDSC曲線から次のように求めることができる。
【0060】
まずDSC曲線上の80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当するDSC曲線上の点βとを結ぶ直線(α−β)を引く。次に上記の固有ピークaと高温ピークbとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線を引き、前記直線(α−β)と交わる点をσとする。高温ピークbの面積は、DSC曲線の高温ピークb部分の曲線と、線分(σ−β)と、線分(γ−σ)とによって囲まれる部分(図1において斜線を付した部分)の面積であり、これが高温ピークの熱量に相当する。また、高温ピークの熱量と固有ピークの熱量の総和は、前記直線(α−β)とDSC曲線とで囲まれる部分の面積に相当する。尚、上記融解終了温度Tとは、高温ピークbの高温側のDSC曲線と、DSC曲線の高温側ベースラインとの交点をいう。
【0061】
尚、本発泡粒子の固有ピークと高温ピークを前記の通り示差走査熱量計によって測定するに際しては、本発泡粒子1個当たりの重量が2mg未満の場合は、総重量が2mg〜10mgとなる複数個の発泡粒子をそのまま測定に使用する。また、本発泡粒子1個当たりの重量が2mg〜10mgの場合には、本発泡粒子1個をそのまま測定に使用する。また、本発泡粒子1個当たりの重量が10mg超の場合には、1個の本発泡粒子を複数個に切断して得られた切断試料から重量が2〜10mgの切断試料1個を選んで測定に使用する。
【0062】
ただし、1個の本発泡粒子をカッター等を使用してこの切断試料を作製する場合、本発泡粒子の表面は切除せずにそのまま残す。また、各切断試料の形状ができる限り同じ形状となるように均等に切断され、切除せずに残された上記本発泡粒子表面の面積ができる限り同じ大きさとなるように切断される。
【0063】
具体的には、例えば本発泡粒子1個当たりの重量が18mgの場合には、本発泡粒子に形成された貫通孔の方向(貫通孔が延びる方向)を垂直方向と一致させた状態で、その垂直方向の真中より本発泡粒子を水平に切断すれば2個のほぼ同じ形状の約9mgの切断試料が得られる。このようにして得られた各切断試料には、当初から有する本発泡粒子の表面がそのまま残されており、その表面の面積が各切断試料でほぼ同じ面積となる。このようにして得られた2個の切断試料の内の1個を上記の通り固有ピークと高温ピークの測定に使用すればよい。
【0064】
尚、前記高温ピークbは、上記のようにして測定した第1回目のDSC曲線には認められるが、第1回目のDSC曲線を得た後、220℃から10℃/分の速度で一旦40℃付近(40〜50℃)まで降温し、再び10℃/分の速度で220℃まで昇温した時に得られる第2回目のDSC曲線には認められず、図2に示されるような本材樹脂の融解時の吸熱に由来する固有ピークcのみが現れる。
【0065】
尚、本発泡粒子の第1回目のDSC曲線に現れる固有ピークaの頂点の温度は、本基材樹脂の融点(Tm)を基準とすると、[Tm−5℃]〜[Tm+5℃]の範囲に現れることが多く、[Tm−4℃]〜[Tm+4℃]の範囲に現れることが更に多い。また、本発泡粒子の第1回目のDSC曲線に現れる高温ピークbの頂点の温度は、本基材樹脂の融点(Tm)を基準とすると、[Tm+5℃]〜[Tm+15℃]の範囲に現れることが多く、[Tm+6℃]〜[Tm+14℃]の範囲に現れることが更に多い。また、発泡粒子の第2回目のDSC曲線に認められる固有ピークaの頂点の温度(本基材樹脂の融点に対応する温度)は、本基材樹脂の融点(Tm)を基準とすると、通常、[Tm−2℃]〜[Tm+2℃]の範囲に現れる。
【0066】
本発泡粒子は、前記DSC測定において、1回目のDSC曲線に高温ピークが出現する結晶構造を有するものが好ましく、該高温ピーク熱量は、本発泡粒子相互の融着に関して最低融着温度を決定する因子として作用する。
尚、高温ピークの熱量は基材樹脂の融点と発泡温度の差に強く影響される。
【0067】
上記最低融着温度とは、発泡粒子相互が型内で融着するために必要な最低の飽和スチーム圧力を与える温度を意味する。表面が改質されていないポリプロピレン系樹脂発泡粒子(以下、未改質発泡粒子という。)においては、高温ピーク熱量はこの最低融着温度と密接な関係にあり、全く同一の基材樹脂を用いた場合、高温ピーク熱量値が小さい方が高温ピーク熱量値が大きいときよりも最低融着温度が低くなる傾向がある。この高温ピーク熱量の値には発泡粒子の製造段階で樹脂粒子を発泡させる温度の高低が強く影響しており、同一の基材樹脂を用いた場合、発泡温度が高い方が低い場合より高温ピーク熱量値が小さくなる傾向がある。これらの傾向は本発明方法によって得られる本発泡粒子についても同様である。
【0068】
ところが、高温ピーク熱量が小さい未改質発泡粒子を用いて発泡成形体を得る場合、最低融着温度は相対的に低く、低いスチーム圧で加熱成形できる傾向があるものの、得られる発泡成形体の圧縮強度(剛性)等の強度物性等が相対的に低下する傾向がある。一方で、高温ピーク熱量が大きい未改質発泡粒子を用いて発泡成形体を得る場合、発泡成形体の圧縮強度等の強度物性等が相対的に高い傾向があるものの最低融着温度が相対的に高くなり、前述のように本発泡成形体を製造する際に高い圧力のスチームを必要とする問題が発生する。即ち、最も好ましい未改質発泡粒子は最低融着温度が低く且つ本発泡成形体の圧縮強度等の強度物性等が相対的に高いといった相反する性質を同時に有する未改質発泡粒子である。
【0069】
しかしながら、分散媒放出発泡方法により得られる未改質発泡粒子では、前述したような相反する性質を同時に有しない。これに対し、本発泡粒子は表面が改質されているので、発泡粒子の高温ピーク熱量が同じ場合であっても、未改質発泡粒子と比較すると最低融着温度が低下している。従って、本発泡粒子を用いて本発泡成形体を加熱成形すると、同一の基材樹脂からなる未改質発泡粒子を加熱成形する場合と比較すると、低いスチーム圧でも本発泡粒子どうしを融着させることができる。従って、本発泡粒子から得られる本発泡成形体は圧縮強度等の機械的物性がより優れたものとなる。
【0070】
DSC曲線における高温ピークを有する本発泡粒子を得るためには、密閉容器内で分散媒体に表面改質粒子を分散させて昇温する際に、本基材樹脂の融点(Tm)より20℃低い温度以上、融解終了温度(Te)未満の範囲内の任意の温度(Ta)で止めて、その温度(Ta)で10〜60分程度保持することが好ましい。その後、融点(Tm)より15℃低い温度から融解終了温度(Te)+10℃の範囲の任意の温度(Tb)に調節し、その温度で止め、好ましくは10〜60分程度保持してから表面改質粒子を密閉容器内から低圧下に放出して発泡させることが好ましい。
【0071】
尚、上記融点(Tm)とは、本樹脂粒子2〜4mgを試料として用いて前述の如き発泡粒子のDSC曲線を得るのと同様の方法で本樹脂粒子に対して示差走査熱量測定を行い、これによって得られた2回目のDSC曲線(その一例を図2に示す)に認められる基材樹脂固有の吸熱曲線ピークcの頂点の温度である。又、融解終了温度(Te)とは、該固有の吸熱曲線ピークcの高温側におけるDSC曲線と、DSC曲線の高温側ベースライン(BL)との交点(β)を言う。
【0072】
本樹脂粒子に対する2回目のDSC曲線に現れる吸熱曲線ピークは、それがポリプロピレン系樹脂の融解に基づくピークであることを前提として、通常は1つの吸熱曲線ピークとなって現れる。ただし、2以上のポリプロピレン系樹脂の混合物からなる場合等には、まれに2以上の吸熱ピークが認められることがある。その場合には、各ピークの頂点を通ると共にグラフの縦軸と平行な(横軸と直交する)直線をそれぞれ引き、各直線においてピークの頂点からベースラインBLまでの長さを測定し、その長さが最も長い直線上のピークの頂点を上記Tmとする。ただし、同程度の長さの最も長い直線が2以上存在する場合には、最も高温側のピークの頂点を上記Tmとする。
【0073】
また、本発泡粒子における上記高温ピークの熱量の大小は、主として、本発泡粒子を製造する際の本樹脂粒子に対する上記温度Taと該温度における保持時間および上記温度Tbと該温度における保持時間ならびに昇温速度に依存する。本発泡粒子の上記高温ピークの熱量は、温度TaまたはTbが上記温度範囲内において低い程、保持時間が長い程、大きくなる傾向を示す。通常、加熱時の昇温速度(加熱開始から温度保持を開始するまでの間の平均昇温速度)は0.5〜5℃/分が採用される。これらの点を考慮して予備実験を繰り返すことにより、所望の高温ピーク熱量を示す本発泡粒子の製造条件を容易に知ることができる。
【0074】
尚、以上で説明した温度範囲は、発泡剤として無機系物理発泡剤を使用した場合の適切な温度範囲である。有機系物理発泡剤が併用された場合には、その種類や使用量に応じてその適切な温度範囲は上記温度範囲よりもそれぞれ低温側にシフトする傾向がある。
【0075】
このように発泡工程において得られる本発泡粒子は、貫通孔を有する本樹脂粒子を発泡させたものなので貫通孔を有する。該貫通孔は、その断面の形状が、図5に示すように、(ア)中空円状(ドーナツ状)、(イ)中空三角状、(ウ)中空六角状、(エ)中空円の中に仕切りがある形状、(オ)2つの中空円が並列された形状、(カ)3つの中空円がのそれぞれが接触して並列した形状、(キ)一部に断裂部dを有する中空円形状、(ク)一部に断裂部dを有する中空四角形状等である。このような断面形状の貫通孔を有する本発泡粒子を用いると空隙率の大きい本発泡成形体を得ることができる。
【0076】
本発明方法によって得られる本発泡粒子の見かけ密度(g/L)は、本発泡粒子の重量(g)を本発泡粒子の見かけ体積(L)で除すことにより算出される。
【0077】
本発泡粒子の見かけ体積は、23℃、大気圧下に48時間以上放置された本発泡粒子約5gを23℃の水100cm3が収容されたメスシリンダー内の水に水没させたときの排除体積から、本発泡粒子の見かけ体積(cm3)を読み取り、これをリットル単位に換算することにより求まる。この測定には本発泡粒子重量が0.5000〜10.0000g、かつ本発泡粒子の見かけ体積が50〜90cm3となる量の複数個の本発泡粒子が使用される。
【0078】
以上のようにして表面改質粒子から得られた本発泡粒子は、次のような構造的特異性を有していることが測定結果より判明している。
【0079】
本発泡粒子のDSC測定の結果、本発明方法で得られた本発泡粒子は、従来法により得られた未改質発泡粒子とは異なる傾向を示すことが判った。具体的には、発泡粒子の表層部分と表層部分を含まない内側部分に分割して融点を測定したところ、従来の未改質発泡粒子においては発泡粒子の表層部分の融点(TmS)の方が内側部分の融点(Tmi)に比較して必ず高くなる性質があったのに対して、本発明方法で得られた本発泡粒子においては、表層部分の融点(TmS)の方が内側部分の融点(Tmi)よりもより低くなっていることが観察された。
【0080】
従って、本発泡粒子は従来の未改質発泡粒子より低い温度でも本発泡粒子どうしが融着するので、従来の未改質発泡粒子より低いスチーム圧であっても加熱成形が可能である。具体的には、TmSはTmiよりも0.05℃以上低いことが好ましく、0.1℃以上低いことがより好ましく、0.3℃以上低いことが更に好ましい。
【0081】
本発泡粒子の表層部分の融点(TmS)は、本発泡粒子の表層部分を切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は、前記した本発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって得られる第2回目のDSC曲線の固有ピークaの頂点の温度を意味する。また、本発泡粒子の内側部分の融点(Tmi)は、表層部分を含まないように本発泡粒子の内部から切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外上記した本発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって得られる第2回目のDSC曲線の固有ピークaの頂点の温度を意味する。
【0082】
また、本発泡粒子の表層部分と表層部分を含まない内側部分に分割して高温ピーク熱量を測定したところ、従来の未改質発泡粒子は発泡粒子の表層部分の高温ピーク熱量(ΔHS)と内側部分の高温ピークの熱量(ΔHi)との関係が、ΔHs≧ΔHi×0.87となる性質があった。これに対して、本発明方法で得られた本発泡粒子では、ΔHS<ΔHi×0.86であることが観察された。低温のスチームで成形可能であるという観点からは、ΔHS<ΔHi×0.86であることが好ましく、ΔHS<ΔHi×0.80であることがより好ましく、ΔHS<ΔHi×0.75であることが更に好ましく、ΔHS<ΔHi×0.70であることが特に好ましく、ΔHS<ΔHi×0.60であることが最も好ましい。ΔHS<ΔHi×0.86であることにより、表面改質されていない未改質発泡粒子よりも低温で型内成形が可能となりΔHS値が小さくなるほどその効果は大きい。
【0083】
また、ΔHSは、ΔHs≧ΔHi×0.25であることが好ましい。具体的には、ΔHSは1.7J/g〜60J/gであることが好ましく、2J/g〜50J/gであることがより好ましく、3J/g〜45J/gであることが更に好ましく、4J/g〜40J/gであることが最も好ましい。
【0084】
本発泡粒子の表層部分の高温ピーク熱量は、本発泡粒子の表層部分を切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した本発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって求めることができる。また、本発泡粒子の内側部分の高温ピーク熱量は、表層部分を含まないように本発泡粒子の内部から切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した本発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって求めることができる。
尚、表面改質されていない未改質発泡粒子の表層部分と内側部分について測定する場合も同様である。
【0085】
上記の本発泡粒子の表層部分と表層部分を含まない内側部分に分割して融点及び高温ピーク熱量を測定する方法は次の通りである。尚、表面改質されていない未改質発泡粒子について測定する場合も同様である。
【0086】
本発泡粒子の表層部分は、表層部分をカッターナイフ、ミクロトーム等を用いてスライスして表層部分を集めて測定に供する。具体的には次の通りである。まず、本発泡粒子に形成された貫通孔の方向(貫通孔が延びる方向)を上下方向と一致させ、その状態における本発泡粒子の上下両端部分をスライスする。このとき、スライスされた上端部分と下端部分のそれぞれは、上下方向の寸法が最も長いところで長さが200μmを越えないようにする。上下方向の寸法の最も厚いところで長さが200μmを越えている場合には、スライス面側からその部分を削りとることによって、上下方向の寸法が最も長いところで長さが200μmを越えないように調整する。
【0087】
次に、上下両端部分がスライスされた本発泡粒子は、当初から存在する表面として、外側の周面を形成している表面(以下、外周面という。)と内側の貫通孔面(以下、内周面という。)を持つが、この外周面をスライスする。この際、外周面からスライスされたスライス片は、外周面から貫通孔の中心軸に向かう水平方向(貫通孔の方向と直交する方向)の寸法が最も長いところで長さが200μmを越えないようにする。その水平方向の寸法の最も長いところで長さが200μmを越えている場合には、スライス面側からその部分を削りとることによって、その水平方向の寸法が最も長いところで長さが200μmを越えないように調整する。
【0088】
上記の本発泡粒子の表層部分における融点と高温ピーク熱量は、以上のようにして本発泡粒子からスライスして得られた上下両端部分と外周面から得られたスライス片を使用して測定する。尚、上記スライス片の最も長い寸法がいずれも200μmを越えるようになると、上記内側部分を多量に含有することとなり表層部分の融点及び高温ピーク熱量と、上記内側部分の融点及び高温ピーク熱量との差が明確に確認できない虞がある。また、1個の本発泡粒子から得られる表層部分が2〜4mgに満たない場合は複数個の本発泡粒子を使用して上記操作を繰り返して必要量の表層部分を集めて測定する。
【0089】
一方、本発泡粒子の表層部分を含まない内側部分は、本発泡粒子に当初から存在している表面の全面をスライスして取り除いて残った部分を意味する。通常は、上記のようにして本発泡粒子の上下両端部分をスライスし、次いで外周面の全面をスライスし、更に内周面も外周面と同様にして全面スライスし、これによって最終的に残った部分を本発泡粒子の表層部分を含まない内側部分の融点及び高温ピーク熱量の測定に使用される。但し、本発泡粒子の大きさが小さ過ぎるために全面をスライスした結果、内側部分が殆ど残らない場合には、可能な限り薄く全面をスライスして残った部分を上記内側部分とする。また、1個の本発泡粒子から得られる上記内側部分が2〜4mgに満たない場合は複数個の発泡粒子を使用して上記操作を繰り返して必要量の内側部分を集めて測定する。
【0090】
また、本発明方法で得た表面改質された本発泡粒子と従来の方法で得た未改質発泡粒子の各発泡粒子表面に対し、ティ・エイ・インスツルメント・ジャパン社のマイクロ熱分析システム「2990型マイクロサーマルアナライザー」を使用し、25℃から200℃まで昇温速度10℃/秒の条件にて、マイクロ示差熱分析(μDTA)を行なった。その結果、本発泡粒子の表面の融解開始温度(請求項8でいう融解開始温度)は、本基材樹脂の融点以下の温度であるのに対し、従来の方法で得た未改質発泡粒子の表面の融解開始温度は、その基材樹脂の融点よりも5℃高い温度であることが判明した。
【0091】
尚、ここでいう融解開始温度とは、上記μDTAに基づくμDTA曲線におけるベースライン(BL)からμDTA曲線が下方に変化し始めた(時間当りの比熱が変化し始めた)温度を意味する。
【0092】
また、表面改質発泡粒子と従来の方法で得た表面改質されていない発泡粒子の各発泡粒子表面に対し、ティ・エイ・インスツルメント・ジャパン社のマイクロ熱分析システム「2990型マイクロサーマルアナライザー」を使用し、25℃から200℃まで昇温速度10℃/秒の条件にて、マイクロ示差熱分析(μDTA)を行なったところ、表面改質発泡粒子の表面の補外融解開始温度(請求項9でいう補外融解開始温度のこと)は、基材樹脂の〔融点+4℃〕以下の温度であるのに対し、従来の方法で得た表面改質されていない発泡粒子の表面の補外融解開始温度は、基材樹脂の融点よりも8℃以上高い温度であることが判明した。尚、ここでいう補外融解開始温度とは、上記μDTA曲線の前記ベースライン(BL)を高温側に延長した直線と、前記融解開始温度より高温側のμDTA曲線上における各点から引いた接線の内、該接線と上記ベースライン(BL)を高温側に延長した直線との間の角度が最大となる接線(TL)との交点の温度をいう。
【0093】
発泡粒子の型内成形においては、発泡粒子相互の融着は発泡粒子表面同士で行なわれるため、発泡粒子の表面のみを熱分析する意義は大きい。発泡粒子の表面のみの融解開始の傾向をDSC法で知ることは不可能と思われる。それを可能にするのがμDTAである。また、μDTAで昇温速度を1秒あたり10℃としているが、この速度は、実際の型内成形に際して発泡粒子を加熱する際の昇温速度に近いものである(このような速い昇温速度はDSC法では困難である)。従って、このような実際の型内成形に近似した昇温速度で分析する意義は大きい。このような理由から本発明では、発泡粒子表面に対するマイクロ示差熱分析(μDTA)を採用した。この測定に基づく上記融解開始温度は、厳密な意味での融解開始の温度を示していないかもしれないが、上記融解開始温度の温度の高低の傾向と成形温度の高低の傾向とはよく一致している。また、本発明では、上記融解開始温度とは別に補外融解開始温度をも規定している。求め方の違いから補外融解開始温度の方がやや高めの数値となる以外は、両者はほぼ同じ傾向を観察するものである。ただし、補外融解開始温度の方が誤差が少ないのでより再現性に優れる。
【0094】
図3及び図4は発泡粒子の表面に対するμDTA曲線の一例を示すものであり、これらの図を使用して発泡粒子の表面の融解開始温度と補外融解開始温度の求め方を説明する。図3は、後述する実施例1で得られた本発泡粒子と比較例1で得られた未改質発泡粒子の夫々に対する上記μDTA曲線の一例を示すものである。図3において、曲線Cmが表面改質発泡粒子の表面に対するμDTA曲線の一例であり、曲線Cm上のPm点がその融解開始温度であり、Pme点が前記ベースライン(BL)と前記接線(TL)との交点である補外融解開始温度である。一方、曲線Cnmが表面改質されていない発泡粒子に対するμDTA曲線の一例であり、曲線Cnm上のPnm点がその融解開始温度であり、Pnme点が前記ベースライン(BL)と前記接線(TL)との交点である補外融解開始温度である。図3におけるPm、Pme、Pnm及びPnmeは、それぞれ、131℃、135℃、168℃及び171℃である。
【0095】
また図4は、融点161℃、MFR18g/10分のプロピレン単独重合体を基材樹脂とする、表面改質された本発泡粒子(図3のものよりも多少表面改質の程度が小さいもの)の表面に対するμDTA曲線の一例を示すものである。図4において、曲線CmがμDTA曲線であり、曲線Cm上のPm点がその融解開始温度であり、Pme点が前記ベースライン(BL)と前記接線(TL)との交点である補外融解開始温度である。図4におけるPm及びPmeは、それぞれ140℃及び142℃である。
【0096】
また、上記μDTAにおいては、本発泡粒子を装置のサンプルステージに固定し(1個の本発泡粒子がそのままでは大きすぎる場合は例えば半分に切断する等して適当な大きさにして固定する)、次いで、本発泡粒子の表面において無作為に選択した箇所に向けて、プローブチップ(本発泡粒子表面に接触させる部分は縦横各0.2μmの先端部を持つ)を下降させて本発泡粒子表面に接触させた状態で測定する。
前記マイクロ示差熱分析による発泡粒子表面の融解開始温度及び補外融解開始温度は、異なる測定点10点の測定結果より、最大値と最小値を除く8点の相加平均値が採用される。尚、最大値と最小値がそれぞれ複数ある場合はそれらを除く数点の相加平均値が採用される。また、平均10点の測定値が全て同じ場合や、最大値と最小値の値しか得られなかった場合であって最大値と最小値の差が10℃以内の場合には、10点の相加平均値が採用される。尚、最大値と最小値の値しか得られなかった場合であって最大値と最小値の差が10℃を超える場合には、更に異なる表面の10点に対し測定して上記したと同じ要領で相加平均値を求め、それを採用すればよい。それでも上記条件に合わない場合には、上記条件で相加平均値が求められるまで再度測定を繰り返す。
【0097】
以上のμDTAによる結果は、本発泡粒子表面の融解開始温度又は/及び本発泡粒子表面の補外融解開始温度の低下が、成形時に必要な最低融着温度の低下に寄与していることを示している。このことから、低温のスチームで成形可能な本発泡粒子は、上記測定に基づく本発泡粒子表面の融解開始温度が基材樹脂の融点(Tm)以下であるが、[Tm−5℃]以下であることがより好ましく、[Tm−16℃]〜[Tm−50℃]であることが更に好ましく、[Tm−17℃]〜[Tm−35℃]であることが最も好ましい。また、低温のスチームで成形可能な発泡粒子は、上記測定に基づく発泡粒子表面の補外融解開始温度が[Tm+4℃]以下であるが、[Tm−1℃]以下であることが好ましく、[Tm−6℃]以下であることがより好ましく、[Tm−17℃]〜[Tm−50℃]であることが更に好ましく、[Tm−18℃]〜[Tm−35℃]であることが最も好ましい。
【0098】
また、このような融解開始温度の低下又は/及び本発泡粒子表面の補外融解開始温度の低下は、本基材樹脂の融点が158℃以上であり、且つ高温ピークを持つ本発泡粒子の場合に特に有効である。本発泡粒子表面の融解開始温度又は/及び本発泡粒子表面の補外融解開始温度の低下が低いほど成形時に必要な最低融着温度の低下への寄与度が大きくなる。但し、その融解開始温度又は/及び本発泡粒子表面の補外融解開始温度の低下があまりにも低くなりすぎると、得られる成形体の圧縮強度等の機械的物性等の低下につながる虞がある。
【0099】
また、本発明方法で得られた本発泡粒子のメルトフローレイト(MFR)の値は表面改質される前の本樹脂粒子のMFRの値と同じがそれよりも大きな値を示すことが観察された。本発泡粒子のMFRの値は表面改質される前の本樹脂粒子のMFRの値の1.2倍以上とすることが好ましく、1.5倍以上とすることがより好ましく、1.8〜3.5倍とすることが最も好ましい。
【0100】
尚、本発泡粒子のMFRの値は、本発泡成形体の耐熱性及び本発泡粒子製造時の発泡効率を考慮すると、0.5〜150g/10分となるようにすることが好ましく、1〜100g/10分となるようにすることがより好ましく、10〜80g/10分となるようにすることが更に好ましい。
【0101】
上記本発泡粒子のMFRとは、本発泡粒子を200℃に温度調節した加熱プレス盤で厚さ0.2mmから1mmのプレスシートを調製し、該シートからペレット状或いは棒状に試料を切出し、その試料を使って上記無架橋プロピレン系樹脂のMFRの測定と同様の方法で測定を行った値である。尚、未改質発泡粒子のMFRについても同様である。
【0102】
尚、本発泡粒子のMFRを測定する上で、上記試料への気泡等の混入は、正確な測定値を得るために避ける必要がある。気泡の混入がどうしても避けられない場合には、同一サンプルを繰り返し3回までの範囲で加熱プレス盤による脱泡を目的としたプレスシートの調製を行うことが好ましい。
【0103】
更に、本発明方法で得た本発泡粒子は、特に酸素ラジカルを発生する有機過酸化物を用いた場合、有機過酸化物の付加作用により若干量の酸素を含有する改質表面を形成する。このことは、本発明方法で得た本発泡粒子の表面と、それから製造された本発泡成形体の表面の分析から明らかとなっている。具体的には、本発明方法で得た本発泡粒子から製造された本発泡成形体の表面(即ち本発泡粒子の表面と実質的に同じ)と、従来の表面改質されていない未改質発泡粒子から製造された本発泡成形体の表面のそれぞれをATR測定(全反射吸収測定法)で比較した結果、本発明方法で得た本発泡粒子から製造された本発泡成形体の表面には、新たに1033cm-1付近の吸収に差のあることが確認されており、酸素単体あるいは酸素を含有した官能基の付加あるいは挿入等の変化があったことが認められた。
【0104】
具体的には、1166cm-1の吸収における両ピーク高さ(本発明方法で得た本発泡粒子からの本発泡成形体に対する吸収ピーク高さと従来の未改質発泡成形体に対する吸収ピーク高さ)を同じとしたときに、本発泡成形体表面の1033cm-1付近の吸収ピークの高さは、従来の未改質発泡成形体表面の1033cm-1付近の吸収ピークの高さに比べ高くなっている。更に本発泡粒子の表面観察としてEDS(エネルギー分散形分析装置)による元素分析を行った結果、酸素と炭素の比に関し、本発明方法で得た本発泡粒子の場合、0.2(mol/mol)であったのに対し、従来の未改質発泡粒子の場合、0.09(mol/mol)であった。
【0105】
以上のことから、本発明方法においては有機過酸化物の付加作用により若干量の酸素を含有する改質表面が形成されているのは明白である。このような改質表面の形成は成形の際スチームの透過性を有利にすると考えられる。この様な観点から、低温のスチームで成形可能な発泡粒子は、発泡粒子表面における上記EDSによるその酸素と炭素の比は0.15以上であることが好ましい。
【0106】
本発明方法によって得られた本発泡粒子は、上記酸素を含有する改質表面、又は/及び前記融点の逆転現象、又は/及び前記本発泡粒子の表層部分の高温ピーク熱量の低下、又は/及び前記本発泡粒子表面の融解開始温度の低下により、又は/及び前記補外融解開始温度の低下により、その最低融着温度が低減されるものと推測される。
【0107】
前記した方法によって得られた本発泡粒子は、大気圧下で熟成した後、必要に応じて気泡内圧を高めてから、水蒸気や熱風を用いて加熱することによって、より高発泡倍率の本発泡粒子とすることが可能である。
【0108】
本発明の本発泡成形体の製造方法としては、バッチ式成形法を採用できる。
該バッチ式成形法においては、必要に応じて気泡内圧が高められた本発泡粒子を、加熱及び冷却が可能であってかつ開閉及び密閉できる型内に充填し、飽和スチームを供給して型内で加熱して、本発泡粒子どうしを膨張させて融着させ、次いで冷却して型内から取り出すことによって、本発泡成形体が製造される。
【0109】
該バッチ式成形法で使用される成形機としては、既に数多くの成形機が世界中に存在し、国によって多少異なるものの、その耐圧は、0.41MPa(G)又は0.45MPa(G)のものが多い。従って、本発泡粒子どうしを膨張させて融着させる際の飽和スチームの圧力は、0.45MPa(G)以下又は未満であることが好ましく、0.41MPa(G)以下又は未満であることがより好ましい。
【0110】
また、本発泡成形体の製造方法としては、連続式成形法(例えば特開平9−104026号、特開平9−104027号及び特開平10−180888号等に記載される成形方法)を採用することもできる。該連続式成形法においては、必要に応じて気泡内圧が高められた本発泡粒子を、通路内の上下に沿って連続的に移動するベルト間に連続的に供給し、飽和スチーム供給領域(加熱領域)を通過する際に本発泡粒子どうしを膨張させて融着させ、その後冷却領域を通過させて冷却し、次いで得られた成形体を通路内から取り出し、適宜の長さに順次切断することによって、本発泡成形体が製造される。
【0111】
尚、本発泡粒子の気泡内圧を高める場合には、密閉容器に発泡粒子を入れ、該容器内に加圧空気を供給した状態で適当な時間放置して発泡粒子内に加圧空気を浸透させればよい。加圧供給される気体は必要とされる圧力下で液化、固化しない無機ガスが主成分であれば問題なく使用できるが、さらに窒素、酸素、空気、二酸化炭素、アルゴンの群から選択される1又は2以上の無機ガスを主成分とするものが特に好適に使用され、さらにその中でも環境負荷やコストなどを考慮すると、窒素や空気が好ましい。
【0112】
空気を使用して内圧が高められた本発泡粒子の内圧P(MPa)は、次の操作により測定される。尚、未改質発泡粒子についても同様である。
まず、成形に使用される本発泡粒子は、密閉容器に入れられ、該容器内に加圧空気を(通常は容器内の空気圧がゲージ圧で0.98〜9.8MPaの範囲を維持するように)供給した状態で適当な時間放置して本発泡粒子内に空気を浸透させることにより内圧が高められる。充分に内圧が高められた本発泡粒子は、成形機の金型内に供給される。本発泡粒子の内圧は型内成形直前の本発泡粒子の一部(以下、発泡粒子群という。)を使用して、次の操作を行うことによって求められる。
【0113】
内圧が高められた型内成形直前の発泡粒子群を加圧タンク内から取り出してから60秒以内に、本発泡粒子は通過させないが空気は自由に通過させるサイズの針穴を多数穿設した70mm×100mm程度のポリエチレン製袋の中に収容して気温23℃、相対湿度50%の大気圧下の恒温室に移動する。続いて本発泡粒子群を袋ごと恒温室内の秤に載せて重量を読み取る。その重量の測定は、上記した本発泡粒子群を加圧タンク内から取出してから120秒後とする。このときの重量をQ(g)とする。続いて本発泡粒子群を袋ごと同恒温室に48時間放置する。本発泡粒子内の加圧空気は時間の経過と共に気泡膜を透過して外部に抜け出すため本発泡粒子群の重量はそれに伴って減少し、48時間後では平衡に達しているため実質的にその重量は安定する。上記48時間後に再度本発泡粒子群を袋ごと重量を測定し、このときの重量をU(g)とする。続いて直ちに同恒温室内にて袋から本発泡粒子群の全てを取り出して袋のみの重量を読み取る。その重量をZ(g)とする。上記のいずれの重量も0.0001gまで読み取るものとする。Q(g)とU(g)の差を増加空気量W(g)とし、下記(2)式より本発泡粒子の内圧P(MPa)が計算される。尚、この内圧Pはゲージ圧に相当する。
【0114】
【数2】
P=(W÷M)×R×T÷V ……(2)
【0115】
ただし、上式中、Mは空気の分子量であり、ここでは28.8(g/モル)の定数を採用する。Rは気体定数であり、ここでは0.0083(MPa・L/(K・mol))の定数を採用する。Tは絶対温度を意味し、23℃の雰囲気が採用されているので、ここでは296(K)の定数である。Vは発泡粒子群の見掛け体積から本発泡粒子群中に占める基材樹脂の体積を差し引いた体積(L)である。
【0116】
尚、本発泡粒子群の見掛け体積(L)は、48時間後に袋から取り出された発泡粒子群の全量を直ちに同恒温室内にて23℃の水100cm3が収容されたメスシリンダー内の水に水没させたときの目盛りから、本発泡粒子群の体積Y(cm3)を算出し、これをリットル(L)単位に換算することによって求められる。本発泡粒子群の見掛け発泡倍率は、本基材樹脂の密度(g/cm3)を本発泡粒子群の見掛け密度(g/cm3)で除すことにより求められる。また本発泡粒子群の見掛け密度(g/cm3)は、上記本発泡粒子群重量(U(g)とZ(g)との差)を体積Y(cm3)で除すことにより求められる。
尚、以上の測定においては、上記本発泡粒子群重量(U(g)とZ(g)との差)が0.5000〜10.0000gで、かつ体積Yが50〜90cm3となる量の複数個の本発泡粒子群が使用される。
【0117】
本発泡粒子の気泡内の上記内圧は、0〜0.98MPaが好ましく、さらに好ましくは0〜0.69MPa、最も好ましくは0〜0.49MPaである。
【0118】
さらに本発明方法で得られた本発泡粒子の中でも、基材樹脂として引張り弾性率が1300MPa以上、好ましくは1400MPa以上(より好ましくは1500〜2600MPa)の高剛性のポリプロピレン系樹脂を使用したものは、加圧雰囲気下での見掛け体積の減少が小さく、本発泡粒子気泡内と外部雰囲気との圧力差を高めに設定することが可能となり、結果として内圧付与に要する時間を短くできることができる。また、そのような高剛性のポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする本発泡粒子は、成形後の収縮が生じにくいため冷却時間を極端に短くすることが出来るという効果もある。尚、そのような高剛性のポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体の大半がそのような高剛性を示し、プロピレンと他のコモノマーとの共重合体であってもそのコモノマー成分含有割合が極端に少ないものはそのような高剛性を示す傾向にある。
【0119】
尚、引張り弾性率は、基材樹脂をJIS K 7161(1994年)にしたがって以下の条件にて測定して求められた値である。
試験片:JIS K 7162(1994年)記載の試験片1A形(射出成形で直接成形)。
試験速度:1mm/分。
【0120】
本発泡成形体の見掛け密度は目的によって任意に選定できるが、通常は9g/L〜600g/Lの範囲である。尚、本発泡成形体の見掛け密度とは、JIS K 7222(1999年)でいう見掛け全体密度のことである。ただし、見掛け全体密度の計算に用いられる成形体の体積は、外寸から計算される体積を採用するが、形状が複雑で外寸からの計算が困難である場合には、発泡粒子間隙に水が浸透しないように(薄いフィルム等で全面を覆う等して)成形体を水没させた際の排除体積が採用される。
【0121】
また、本発泡成形体にはその表面の少なくとも一部に、表面装飾材を積層一体化することができる。そのようなラミネート複合タイプの型内発泡成形体の製造方法は、米国特許第5928776号、米国特許第6096417号、米国特許第6033770号、米国特許第5474841号、ヨーロッパ特許477476号、WO98/34770号、WO98/00287号、日本特許第3092227号等の各公報に詳細に記載されている。
【0122】
また、本発明の本発泡成形体中には、インサート材の全部または一部が埋設されるようにして該インサート材を複合一体化することができる。そのようなインサート複合タイプの型内発泡成形体の製造方法は、米国特許第6033770号、米国特許第5474841号、日本公開特許昭59−127714号、日本特許第3092227号等の各公報に詳細に記載されている。
【0123】
以上のようにして製造される本発泡成形体は、ASTM−D2856−70の手順Cに基づく(本発泡成形体に形成された連通する空隙が占める体積は試験片の見かけ体積から除いて計算する)連続気泡率が40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることが最も好ましい。連続気泡率が小さい成形体ほど、機械的強度に優れるものとなる。
【0124】
【実施例】
以下に本発明について実施例および比較例を挙げ説明する。
【0125】
実施例1
表1から選択されるポリプロピレン系樹脂と該ポリプロピレン系樹脂100重量部当り、ホウ酸亜鉛粉末(気泡調整剤)0.05重量部とを押出機に供給して押出機内で溶融混練した後、図5の(ア)に示すような断面形状に相似する形状のスリットを有するダイからストランド状に押出し、そのストランドを直ちに18℃に調節された水中に入れて急冷しながら引き取り、充分に冷却した後、水中から引き上げ、長さ/直径比が約2.0になるようにストランドを切断して、1粒子当りの平均重量が2mgの樹脂粒子を得た。
【0126】
次いで400リットルのオートクレーブに、上記樹脂粒子80kgを100重量部として、イオン交換水275重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)0.005重量部とカオリン(分散剤)0.3重量部及び硫酸アルミニウム粉末(分散強化剤)0.01重量部、表2に示す有機過酸化物及び表3に示す炭酸ガス(発泡剤)をそれぞれ表3に示す量充填して密閉し、攪拌しながら表3に示す発泡温度よりも5℃低い温度まで昇温して(平均昇温速度3℃/分)からその温度で15分間保持した。
【0127】
次いで、表3に示す発泡温度まで昇温して(平均昇温速度3℃/分)同温度で15分間保持した。次いで、その圧力を保持するように密閉容器内に高圧の炭酸ガスを圧入しつつ密閉容器の一端を開放して樹脂粒子と水とを同時に放出して、樹脂粒子を発泡せしめ、図5の(ア)に示すような断面形状を有する発泡粒子を得た。
【0128】
得られた発泡粒子を水洗し遠心分離機にかけたのち、24時間大気圧下に放置して養生した後、発泡粒子の高温ピーク熱量(発泡粒子1個に対する)、発泡粒子表面に対するマイクロ示差熱分析による融解開始温度と補外融解開始温度、発泡粒子の見かけ密度、発泡粒子の嵩密度(発泡粒子の体積に、発泡粒子間の空隙と発泡粒子の貫通孔が占める体積を加え、これを発泡粒子の嵩体積と見なし、その嵩体積でその際の発泡粒子重量を除した値)等を測定した。その結果を表3に示した。
【0129】
尚、表1の形状を表す記号(ア)は図5において記号(ア)によって示される断面形状であることを意味し、(キ)の記号はそれぞれ図5において記号(キ)によって示される断面形状であることを意味する。
【0130】
得られた発泡粒子を上記したように養生した後、発泡粒子内圧を高めることなく、250mm×200mm×50mmの成形空間を持つ金型内に、金型を完全に閉鎖せずに僅かな隙間(5mm)を開けた状態(成形空間の50mmの方向が55mmの状態)で充填し、次いで完全に型締めした後、スチームで金型内の空気を排気してから、所定の飽和スチーム圧力によって成形した。成形後金型内の成形体の面圧が0.059MPa(G)となるまで水冷した後成形体を型から取り出し、60℃で24時間養生した後、室温(23℃)まで冷却して発泡成形体を得た。
【0131】
尚、所定の飽和スチーム圧力とは、150kPa(G)〜550kPa(G)まで10kPaづつ飽和スチーム圧を変えて繰り返し成形体を製造し、後述する方法で求めた最低融着温度(最低飽和スチーム圧力)に相当する圧力である。その結果も表3に示す。
【0132】
得られた発泡成形体の見掛け密度、空隙率を表3に示した。
【0133】
発泡成形体の空隙率は、下記(3)式により求めた。
【0134】
【数3】
空隙率:A(%)=〔(B−C)÷B〕×100 ……(3)
【0135】
ただし、Bは発泡粒子間の空隙部分をも含む発泡成形体の見掛け体積(cm3)、Cは発泡粒子間の空隙部分を含まない発泡成形体の真の体積(cm3)である。発泡成形体の見掛け体積:B(cm3)は、発泡成形体の外形寸法より算出される体積である。また、発泡成形体の真の体積:C(cm3)は、発泡成形体の見掛け体積:Bから空隙部の容積を除いた実質体積で、発泡成形体を容積既知のエタノール中に沈めた時、増加した容積が真の体積:C(cm3)に相当する。
【0136】
尚、本発明の発泡成形体では、上記空隙率は通常5〜90%、好ましくは15〜80%、より好ましくは25〜70%、更に好ましくは30〜60%である。
【0137】
前記発泡成形体の見かけ密度は、空隙部分を含む発泡成形体の見掛け体積:B(cm3)で発泡成形体の重量(g)を割ることにより求める。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
尚、表3中の最低融着温度は、250mm×200mm×50mmの金型で成形した発泡成形体の250mm×200mm表面の一方の面に、カッターナイフで250mm長さを2分するように発泡成形体の厚み方向に約10mmの切り込みを入れた後、切り込み部から発泡成形体を折り曲げて破断するテストにより、破断面に存在する発泡粒子の個数(n)と材料破壊した発泡粒子の個数(b)の比(b/n)の値が最初に0.30以上となった際のその時の成形に要した飽和スチーム圧力を意味する。
尚、上記発泡粒子の個数(n)は、発泡粒子間で剥離した発泡粒子の個数と、発泡粒子内で材料破壊した発泡粒子の個数(b)との総和である。また、表1中のガラス転移温度と融点、表3中の発泡粒子の高温ピークの熱量は、株式会社島津製作所の島津熱流束示差走査熱量計「DSC−50」を使用して測定した。
【0142】
実施例2
樹脂粒子及び発泡粒子の断面を図5の(キ)に示す形状としたこと、発泡温度を162℃としたこと以外は、実施例1と同様に樹脂粒子、発泡粒子、発泡成形体を製造した。
得られた発泡粒子に対して実施例1と同様に高温ピーク熱量(発泡粒子1個に対する)、融解開始温度、発泡粒子の見かけ密度、発泡粒子の嵩密度、得られた発泡成形体の見掛け密度、空隙率を測定した結果を表3に示した。
【0143】
比較例1
有機過酸化物を添加しないこと、炭酸ガスの仕込み重量を7.5重量部としたこと以外は、実施例1と同様に樹脂粒子、発泡粒子、発泡成形体を製造した。
得られた発泡粒子に対して実施例1と同様に、高温ピーク熱量、融解開始温度、発泡粒子の見かけ密度、発泡粒子の嵩密度、得られた発泡成形体の見掛け密度、空隙率を測定した結果を表3に示した。
【0144】
但し、比較例1では、使用した成形機の耐圧である0.55MPa(G)の飽和スチーム圧力では、(b/n)の値は、0.16という結果であり、0.30には至らなかった。比較例1の未改質発泡粒子を用いて(b/n)の値が0.30以上のものを得るためには、更に高い圧力の飽和スチーム圧力での成形が可能な成形機が必要である。
【0145】
以上の結果は、有機過酸化物が存在する水性媒体中にポリプロピレン系樹脂粒子を分散させると共に、該樹脂粒子の基材樹脂の融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が分解する温度下で該有機過酸化物を分解させることによって該樹脂粒子の表面を改質して無架橋の表面改質粒子を得る工程を行なうと、それから得られた発泡粒子は、ポリプロピレン系樹脂のリサイクル性を維持しながら成形温度が低減され、その結果、発泡粒子の激しい膨張が抑制され、容易に得られる成形体の空隙率をコントロールできることを示している。より具体的には次の通りである。
【0146】
実施例1と比較例1は、発泡粒子の見かけ密度が同じであり、発泡粒子の全体の高温ピーク熱量がほぼ同等であるから対比するのに好都合である。実施例1と比較例1の対比より、比較例1で必要な最低飽和スチーム圧力(最低融着温度)は550kPa(G)を超えるのに対し、実施例1で必要な最低融着温度は410kPa(G)となっており、実施例1は比較例1に比べ、最低融着温度が10℃以上も低下されていることが分かる。しかも、比較例1で得られた成形体の空隙率は26%であるのに対し、実施例1で得られた成形体の空隙率は40%となっており、成形時の発泡粒子の膨張、すなわち二次発泡が抑えられているにもかかわらず発泡粒子間の融着性に優れていることがわかる。
【0147】
実施例2は、実施例1と比較すると多少最低融着温度が高くなっている。これは、発泡粒子の見かけ密度及び高温ピークの融解熱量が実施例2の方が実施例1よりも多少大きかったことに起因しているものと思われる。ただし、実施例2は、比較例1と比較すると、実施例1と比較例1との比較と同様に、実施例2は比較例1に比べ、最低融着温度が7℃以上(最低飽和スチーム圧力が30kPa(G))も低下されていることが分かる。しかも、比較例1で得られた成形体の空隙率は26%であるのに対し、実施例2で得られた成形体の空隙率は41%となっており、実施例2では、成形時の発泡粒子の膨張、すなわち二次発泡が抑えられているにもかかわらず発泡粒子間の融着性に優れていることがわかる。
【0148】
更に、実施例1および実施例2得られた発泡粒子と比較例1で得られた発泡粒子について、各発泡粒子表面に対し、ティ・エイ・インスツルメント・ジャパン社のマイクロ熱分析システム「2990型マイクロサーマルアナライザー」を使用し、25℃から200℃まで昇温速度10℃/秒の条件にて、マイクロ示差熱分析(μDTA)を行なったところ、実施例1、2で得られた発泡粒子表面の融解開始温度は131℃であったのに対し、比較例1で得られた発泡粒子表面の融解開始温度は168℃であった。また、実施例1で得られた発泡粒子表面の補外融解開始温度は136℃及び実施例2で得られた発泡粒子表面の補外融解開始温度は137℃であったのに対し、比較例1で得られた発泡粒子表面の補外融解開始温度は171℃であった。
以上のμDTAによる結果は、発泡粒子表面の融解開始温度及び/又は発泡粒子表面の補外融解開始温度の低下が、成形時に必要な最低融着温度の低下に寄与していることを示している。
【0149】
【発明の効果】
本発明方法においては、分散媒体中で有機過酸化物を用いて表面改質されたポリプロピレン系樹脂粒子を発泡させて貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造する。かかる発泡粒子は従来の方法で得られたものとは異なり、従来よりも低温で成形できるので、成形時における発泡粒子の膨張が小さく、貫通孔が大きく押し潰されて空隙率が大きく低下することがない。
【0150】
発泡粒子の基材樹脂であるポリプロピレン系樹脂のガラス転移温度以上、ビカット軟化点以下の温度で有機過酸化物を分解させると効率良くポリプロピレン系樹脂樹脂粒子の表面改質を行なって表面改質粒子を得ることができる。
【0151】
前記有機過酸化物の1時間半減期温度が、発泡粒子の基材樹脂であるポリプロピレン系樹脂のガラス転移点以上であり且つビカット軟化点以下である場合に、効率良くポリプロピレン系樹脂樹脂粒子の表面改質を行なうことができる。
【0152】
前記有機過酸化物がカーボネート構造を有するパーオキシドである場合、効率良くポリプロピレン系樹脂樹脂粒子の表面改質を行なうことができる。
【0153】
ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする無架橋の貫通孔を有すると共に、DSC曲線に高温側の吸熱曲線ピークが存在する発泡粒子であって、該発泡粒子の表面におけるマイクロ示差熱分析に基づく融解開始温度が基材樹脂の融点以下又は/及び補外融解開始温度が基材樹脂の〔融点+4℃〕であるポリプロピレン系樹脂発泡粒子の場合、低温での成形が可能になり、成形時における発泡粒子の膨張が小さく、貫通孔が大きく押し潰されて空隙率が大きく低下することがない。従って、得られる成形体の空隙率のコントロールが容易となり、より大きな連続する空隙を持つ成形体の製造が容易となる。
【0154】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂の融点が158℃以上の場合、成形温度の低減効果が大きい上、最終的に得られるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の圧縮強度等の機械的物性が優れたものとなる。
【0155】
本発明のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、前記貫通孔を有する表面改質されたポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内に充填した後、発泡粒子を加熱、冷却することによって得られたものなので、得られた成形体には、連通した空隙が形成されている。従って、透水性や通気性に優れた排水資材や壁材等に、又は吸音材、緩衝材、衝撃吸収材、或いはバンパー芯材等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の、第1回目のDSC曲線のチャートの一例を示す図である。
【図2】図2は、ポリプロピレン系樹脂粒子の第2回目のDSC曲線のチャートの一例を示す図である。
【図3】図3は、実施例1と比較例1に基づく各例で得られた発泡粒子表面に対するマイクロ熱機械分析に基づくμDTA曲線の一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の発泡粒子表面に対するマイクロ熱機械分析に基づくμDTA曲線の一例を示す図である。
【図5】本発明における貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂粒子の貫通孔の具体例を示す断面図である。
Claims (11)
- 貫通孔を有するポリプロピレン系樹脂粒子(但し、ポリプロピレン系樹脂中にビニル系単量体を含浸しているものを除く。)を有機過酸化物が存在する分散媒体中に分散させて分散媒体とし、該分散媒体を該樹脂粒子の基材樹脂の融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が分解する温度に加熱して該有機過酸化物を分解させることによって、無架橋の表面改質粒子を得る表面改質工程と、該表面改質粒子を発泡させて無架橋の貫通孔を有する発泡粒子を得る発泡工程とを含むことを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
- 該分散媒体を、該発泡粒子の基材樹脂であるポリプロピレン系樹脂のガラス転移温度以上、ビカット軟化点以下の温度に加熱して該有機過酸化物を分解させることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
- 該表面改質粒子を物理発泡剤を用いて発泡させることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
- 該発泡工程において、見かけ密度が10g/L〜500g/Lであり、且つ示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線において、基材樹脂の融解熱に由来する吸熱曲線ピークよりも高温側に吸熱曲線ピークが存在する発泡粒子を得ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
- 該発泡粒子の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量が2〜70J/gであることを特徴とする請求項4に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
- 該有機過酸化物の1時間半減期温度が、該発泡粒子の基材樹脂であるポリプロピレン系樹脂のガラス転移点以上であり且つビカット軟化点以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
- 該有機過酸化物がカーボネート構造を有するパーオキシドであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって得られる貫通孔を有する無架橋のポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線において、基材樹脂の融解熱に由来する吸熱曲線ピークよりも高温側に吸熱曲線ピークが存在し、かつ発泡粒子の表面についてのマイクロ示差熱分析(25℃から200℃までの昇温速度10℃/秒)によって得られる融解開始温度が基材樹脂の融点以下であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
- 該発泡粒子の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量が2〜70J/gであることを特徴とする請求項8に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
- 該ポリプロピレン系樹脂の融点が158℃以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
- 請求項8乃至10のいずれかに記載の発泡粒子を型内に充填した後、発泡粒子を加熱し冷却することによって得られた、空隙を有するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体。
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