まず本発明の実施例を説明する前に、本発明のズーム光学系を構成するオフアキシャル光学系の回転非対称面及びそれらの構成諸元の表し方について説明する。
Off-Axial光学系では、後述する本発明の比較例2として示す。図2のように光入射側の面SOを基準面とし、基準面SOの中心POを原点とする絶対座標系を設定する。その原点POと瞳中心を通る光線が辿る経路を基準軸とする。また、像中心IPOと基準面SOの中心POである絶対座標系の原点を結ぶ直線をZ軸と定め、向きは第1面から像中心に向かう方向を正とする。このZ軸を光軸と呼ぶこととする。さらに、Y軸は原点POを通り右手座標系の定義に従ってZ軸に対して反時計回り方向に90゜をなす直線とし、X軸は原点を通りZ、Yの各軸に垂直な直線とする。
以下で示す近軸値はOff-Axialの近軸追跡を行った結果である。特に断り書きがない限りOff-Axialの近軸追跡を行い、近軸値を算出した結果とする。
本発明に係る光学系は、回転非対称形状の非球面を有し、その形状は以下の式で表される。
(数1)
z =C02y2+C20x2+C03y3+C21x2y+C04y4+C22x2y2+C40x4+C05y5+C23x2y3+C41x4y+C06y6+C24x2y4+C42x4y2+C60x6
数式1はxに関して偶数次の項のみであるため、数式1により規定される曲面はyz面(図2参照)を対称面とする面対称な形状である。
また、以下の条件が満たされる場合はxz面(図2参照)に対して対称な形状を表す。
(数2)
C03=C21=C05=C23=C41=t=0
更に、以下の条件が満たされる場合は回転対称な形状を表す。
(数3)
C02=C20
(数4)
C04=C40=C22/2
(数5)
C06=C60=C24/3=C42/3
以上の条件を満たさない場合は回転非対称な形状である。
以下に示す実施例及び比較例における回転対称面及び回転非対称面の形状は、数1〜数5に基づいている。
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1のレンズ断面図である。
図1において、T、M、Wは各々、望遠端、(全系のパワーが最も小さくなるズーム位置)、中間のズーム位置、広角端(全系のパワーが最も大きくなるズーム位置)におけるレンズ断面図である。
図10は、図1の実施例1の中間のズーム位置、(図1のM)を例として選択し、各要素について説明するためのレンズ断面図である。
実施例1のズーム光学系は、撮像装置に用いられる撮影レンズ系であり、レンズ断面図において、左方が物体側で、右方が像側である。
尚、実施例1のズーム光学系を、投射装置(プロジェクタ)として用いてもよく、このときは、左方がスクリーン、右方が被投射面となる。
図1、図10において、G1、G3は光学的パワーが可変の(本実施例ではズーム光学系のズーミングに際して光学的パワー、焦点距離が変化する)光学群である。G2は光学的パワーが不変(実質的に不変)の光学群である。
G4は少なくとも1つの面に対して(1つの面を対称の中心とする)対称性を持ち、偏心可能な1以上の光学素子Lsを有する光学群(光学群S)である。つまり、光学素子Lsは複数の面に対する対称性を持つ回転非対称形状(例えば、トーリック面等)であっても良いが、より望ましくは、1つの面に対してのみ対称性を持つ(対称中心となる面が1つしか無いような)回転非対称形状の面を有する光学素子であることが望ましい。これは、G1、G3内に含まれる光学素子に関しても同様のことが言える。
光学的パワーが可変の2つの光学群G1、G3のパワーを変えて像面IPを一定にしつつズーミングを行っている。
光学的パワーが可変の2つの光学群G1、G3は、各々回転非対称面を含み、光軸と異なる方向に移動して、光学群G1、G3内のパワーを変える2つの光学素子(光学素子Ld)E1,E2、E5、E6を有している。
尚、光学的パワーとは、光軸上に位置する面のパワーをいい、回転非対称の面を持つ光学素子が偏心して光軸上の面が変化するときは、それに応じて光学群内の光学的パワーも変化する。
本発明の実施例1では、光学素子(レンズ)が全部で7枚である。物体側から順に、光学素子E1,E2,E5,E6は回転非対称形状であり、これらの光学素子はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。光学素子E3,E4が回転対称球面形状である。光学素子E3、E4は光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称形状としてもよい。光学素子E7は少なくとも1つの面に対して対称性を持つ回転非対称形状である。これは光学素子E1乃至光学素子E6で除去しきれなかった軸上コマ収差をシフト又はチルトすることで除去している。また、光学素子E1,E2で第1群G1を構成している。同様に光学素子E3,E4で第2群G2を構成し、光学素子E5、E6で第3群G3を構成している。光学素子E7で第4群G4を構成している。面番号については絶対座標系の原点である基準面を面S0と定め、光学素子E1の第1面をS1とし順に面S2,S3,S4となり、面S6の後(光学素子E3の後方)に絞りS7(SP)が位置している。光学素子E4の第1面をS8とし順に番号を付け、像面IPがS16となる。以下Y軸方向に連続偏心し、パワー変化に寄与する回転非対称群(G1とG3)、回転対称群(G2)、上記の残存収差を偏心によって抑制している光学素子(E7)より成る第4群G4をそれぞれ偏心可動ブロックG1,G3、補助ブロック(光学群C)G2、補助可動ブロック(光学群S)G4と呼ぶこととする。偏心可動ブロックG1、G3のみではパワーが強くなりすぎて収差補正が困難になるため、補助ブロックG2を配置している。
実施例1のレンズデータを表7に示す。各光学素子のZ軸からのずれ量は表8のようになる。数式1で表される多項式面の各係数の値を表9−1、9−2に示す。図1は表−8に示す望遠端(T)、中間のズーム位置(M)、広角端(W)のレンズ断面図である。図1及び表8に示すように一対の光学素子E1とE2はY軸方向に偏心し、その量は表8に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーを望遠端から広角端にかけて正から負に変化させている。第1群G1を射出した光線は光学素子E3、絞りSP、光学素子E4を通過し、光学素子E5とE6に入射する。図1及び表8に示すように一対の光学素子E5とE6はY軸方向に偏心し、その量は表8に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようにしている。それによって第3群G3のパワーを望遠端から広角端にかけて負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックG1、G3を通過した光線は次の補助可動ブロックG4に入射する。補助可動ブロックG4は偏心可動ブロックG1、G3の足りないパワーを補っている。これらの光学素子を通過した光線は像面IPを変化させることなく結像している。
次に、望遠端、中間のズーム位置、広角端の収差図をそれぞれ図11(A)乃至図11(C)に示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図11(A)乃至図11(C)中の番号は画角番号であり、像面上では図8に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向については正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図12に望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wにおけるディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションは良好に抑えられているが、画角0°の光線を見ると若干ではあるがコマ収差が残存していることが分かる。
ズーミングによる第1群G1、第3群G3のパワー変化Φ1、Φ3及びそれらの和Φ13(Φ1+Φ3)を全系のパワーに対してプロットした図を図13に示す。
このとき第1群G1と第3群G3におけるパワーの絶対値の最大値を|Φ|max、第1群G1と第3群G3の合計のパワーをΦ13とするとき、
−|φ|max≦φ13≦|φ|max・・・・(5)
を満足している。
条件式(5)を満足することによって、ペッツバール和を小さくし、像面歪曲を小さくしている。
図14に第1群G1および第3群G3の前後の主点位置(H1(HA)が第1群(光学群A)G1の前側主点位置、H1'(HA´)が第1群G1の後側主点位置、H2(HB)が第3群G3(光学群B)の前側主点位置、H2'(HB´)が第3群G3の後側主点位置)の変化を示す。第1群G1をメニスカス形状の光学素子で構成したため、主点位置は大きく移動している。またその変化と図13を比較すると、第1群G1のパワーが正の範囲では全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げている。また、第1群G1の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH1、H1'とし、第3群G3の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH2、H2'とし、物点とH1(前側主点位置HA)の距離をeo、H1'(後側主点位置HA´)とH2(前側主点位置HB)の距離をe、H2'(後側主点位置HB´)と像点との距離をeiとし、距離eoと距離eiを比較して小さい方を距離e´としたとき、eとe´、およびe/e´の関係を表10に示す。これを見ると、どの(任意の)ズーム位置においてもeとe´は実質的に同一である。
特に
0.7<e/e‘<1.4・・・・(3)
となっている。
実施例1において光学群G4の光学的パワーの符号は、全ズーム範囲内において、不変である。
これによって、光学的パワーが可変の光学群G1、G3の残留収差及びズーミングによる収差変動の補正を良好に行っている。
全ズーム位置において、光学的パワーが可変の光学群G1、G3の光学的パワーの絶対値の最大値を|Φd|max、全ズーム位置において、光学群G4の光学的パワーの絶対値の最大値を|Φs|maxとするとき、
|Φs|max<|Φd|max・・・・(1)
なる条件を満足している。
これによって、所定のズーム比が容易に得られ、かつズーミングによって生ずる収差変動が小さくなるようにしている。
又、全ズーム位置において、光学素子E1、E2、E5、E6がシフトするとし、このときのシフト量の絶対値の最大値を|Dd|max、全ズーム位置において、該光学素子Lssのシフト量の絶対値の最大値を|Ds|maxとするとき、
|Ds|max<|Dd|max・・・・・(2)
なる条件を満足している。
これによって光学的パワーが可変の光学群が、光学的パワーを変えてズーミングを行うとき、所定のズーム比が容易に得られ、かつズーミングに伴う収差変動を良好に補正することができるようにしている。
尚、本実施例及び以下の実施例においてフォーカスは全系を移動させて行うか又は1つの光学群を光軸に対して垂直方向に移動させて行うのが良い。
以下、本発明の実施例2〜4について説明する。
実施例2〜4では、前述した実施例1の特徴以外を中心に述べる。
[実施例2]
図15は本発明の実施例2のレンズ断面図である。
仕様は実施例1と同じである。光学素子(レンズ)は全部で7枚である。物体側から順に、光学素子E1,E2,E5,E6が回転非対称形状であり、これらの光学素子はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。光学素子E3,E4が回転対称球面形状である。光学素子E3、E4は光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称形状としてもよい。光学素子E7は少なくとも1つの面に対して対称性を持つ回転非対称形状である。これは光学素子E1からE2で除去しきれなかった軸上コマ収差をチルトすることで除去している。また、光学素子E1,E2で第1群G1を構成している。同様に光学素子E3,E4で第2群G2を構成し、光学素子E5、E6で第3群G3を構成している。面番号については絶対座標系の原点である基準面を面S0と定め、光学素子E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、面S6のE後(光学素子3の後方)に絞りS7(SP)が位置している。光学素子E4の第1面をS8とし順に番号を付け、像面IPがS16となる。以下、Y軸方向に連続偏心し、パワー変化に寄与する回転非対称群(G1とG3)、回転対称群(G2)、上記の残存収差を偏心によって抑制している光学素子(E7)をそれぞれ偏心可動ブロック、補助ブロック、補助可動ブロックと呼ぶこととする。偏心可動ブロックG1、G3のみではパワーが強くなり収差補正が困難になるため、補助ブロックG2、E7を配置している。
実施例2のレンズデータを表11に示す。各光学素子のZ軸からのずれ量は表12のようになり、光学素子E7のチルト量は表13のようになっている。さらに数式1で表される多項式面の各係数の値を表14−1、表14−2に示す。図16にそのときの光路図を望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wの順に示す。光学素子E1とE2はY軸方向に偏心し、その量は表12に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーを望遠端から広角端にかけて正から負に変化させている。第1群G1を射出した光線は光学素子E3、絞りS7(SP)、光学素子E4を通過し、光学素子E5とE6に入射する。光学素子E5とE6はY軸方向に偏心し、その量は表10に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第3群G3のパワーを望遠端から広角端にかけて負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックを通過した光線は次の補助ブロックE7に入射する。補助ブロックE7は偏心可動ブロックG1、G3の足りないパワーを補っている。これらの光学素子を通過した光線は像面IPを変化させることなく結像している。
次に、望遠端、中間のズーム位置、広角端の収差図をそれぞれ図17(A)乃至図17(C)に示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図17(A)乃至図17(C)中の番号は画角番号であり、像面上では図8に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向については、正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図18に望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wにおけるディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションは良好に抑えられているが、画角0°の光線を見ると若干ではあるがコマ収差が残存していることが分かる。
次に第1群G1、第3群G3のパワー変化Φ1、Φ3及びそれらの和(合計値)Φ13を全系のパワーに対してプロットした図を図19に示す。
このとき第1群G1と第3群G3におけるパワーの絶対値の最大値を|Φ|max、第1群G1と第3群G3の合計のパワーをΦ13(ΦAB)とするとき、
−|φ|max≦φ13≦|φ|max・・・・(5)
を満足している。
図20に第1群G1および第3群G3の前後の主点位置(H1が第1群G1の前側主点位置、H1’が第1群G1の後側主点位置、H2が第3群G3の前側主点位置、H2’が第3群G3の後側主点位置、)の変化を示す。第1群G1をメニスカスレンズで構成したため、主点位置は大きく移動している。またその変化を見ると、第1群G1のパワーが正の範囲では全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げている。
また、第1群G1の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH1、H1’とし、第3群G3の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH2、H2’とし、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとし、eoとeiを比較して小さい方をe’としたとき、eとe‘、およびe/e‘の関係を表15に示す。これを見ると望遠端においてe/e‘はズームステート5を除いて
0.7<e/e‘<1.4・・・・(3)
となっている。
この他の特徴は実施例1と同様である。
[実施例3]
図21は、本発明の実施例3のレンズ断面図である。
仕様は実施例1と同じである。光学素子(レンズ)は全部で7枚である。物体側から順に、光学素子E1,E2,E5,E6が回転非対称形状であり、これらの光学素子はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。光学素子E3,E4が回転対称球面形状である。光学素子E3、E4は光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称形状としてもよい。光学素子E7もまた回転対称形状である。これは光学素子E1からE2で除去しきれなかった軸上コマ収差をシフトすることで除去している。また、光学素子E1,E2で第1群G1を構成している。同様に光学素子E3,E4で第2群G2を構成し、光学素子E5、E6で第3群G3を構成している。面番号については絶対座標系の原点である基準面を面S0と定め、光学素子E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、面S6の後(光学素子E3の後方)に絞りS7(SP)が配置されている。光学素子E4の第1面をS8とし順に番号を付け、像面IPがS16となる。以下、Y軸方向に連続偏心し、パワー変化に寄与する回転非対称群(G1とG3)、回転対称群(G2)、上記の残存収差を偏心によって抑制している光学素子(E7)をそれぞれ偏心可動ブロック、補助ブロック、補助可動ブロックと呼ぶこととする。偏心可動ブロックG1、G3のみではパワーが強くなり収差補正が困難になるため、補助ブロックG2、E7を配置している。
実施例3のレンズデータを表16に示す。各光学素子のZ軸からのずれ量は表17のようになり、光学素子E7のずれ量は表18に示す。数式1で表される多項式面の各係数の値を表19に示す。図22にそのときの光路図を望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wの順に示す。光学素子E1とE2のレンズはY軸方向に偏心し、その量は表17に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーを望遠端から広角端にかけて正から負に変化させている。第1群G1を射出した光線は光学素子E3、絞りS7(SP)光学素子、E4を通過し、光学素子E5とE6に入射する。光学素子E5とE6はY軸方向に偏心し、その量は表17に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第3群G3のパワーを望遠端から広角端にかけて負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックを通過した光線は次の補助ブロックE7に入射する。補助ブロックE7は偏心可動ブロックG1、G3の足りないパワーを補っている。これらの光学素子を通過した光線は像面IPを変化させることなく結像している。
次に、望遠端、中間のズーム位置、広角端の収差図をそれぞれ図23(A)乃至図23(C)に示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図23(A)乃至図23(C)中の番号は画角番号であり、像面上では図8に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向については正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図24に望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wにおけるディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションは良好に抑えられているが、画角0°の光線を見ると若干ではあるがコマ収差が残存していることが分かる。
次に第1群G1、第3群G3のパワー変化Φ1、Φ3及びそれらの和Φ13を全系のパワーに対してプロットした図を図25に示す。
このとき第1群G1と第3群G3におけるパワーの絶対値の最大値を|Φ|max、第1群G1と第3群G3の合計のパワーをΦ13とするとき、
−|φ|max≦φ13≦|φ|max・・・・(5)
を満足している。
図26に第1群G1および第3群G3の前後の主点位置(H1が第1群G1の前側主点位置、H1’が第1群G1の後側主点位置、H2が第3群G3の前側主点位置、H2’が第3群G3の後側主点位置、)の変化を示す。第1群G1をメニスカスレンズで構成したため、主点位置は大きく移動している。またその変化を見ると、第1群G1のパワーが正の範囲では全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げている。また、第1群G1のパワーが負の範囲ではやはり全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げていることが分かる。また、第1群G1の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH1、H1’とし、第3群G3の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH2、H2’とし、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとし、eoとeiを比較して小さい方をe’としたとき、eとe‘、およびe/e‘の関係を表20に示す。これを見るとズームステート5以外で
0.7<e/e‘<1.4・・・・(3)
となっている。
この他の特徴は実施例1と同様である。
[実施例4]
図27は、本発明の実施例4のレンズ断面図である。
仕様は実施例1と同じである。光学素子(レンズ)は全部で7枚である。物体側から順に、光学素子E1,E2,E5,E6が回転非対称形状であり、これらの光学素子はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。光学素子E3,E4が回転対称球面形状である。光学素子E3、E4は光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称形状としてもよい。光学素子E7及びE8は少なくとも1つの面に対して対称性を持つ回転非対称形状である。これは光学素子E1からE2で除去しきれなかった軸上コマ収差をチルトすることで除去している。また、光学素子E1,E2で第1群G1を構成している。同様に光学素子E3,E4で第2群G2を構成し、光学素子E5,E6で第3群G3を構成し、光学素子E7,E8で第4群G4を構成している。面番号については絶対座標系の原点である基準面を面S0と定め、光学素子E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、面S6の後(光学素子E3の後方)に絞りS7(SP)が配置されている。光学素子E4の第1面をS8とし順に番号を付け、像面IPがS18となる。以下、Y軸方向に連続偏心し、パワー変化に寄与する回転非対称群(G1とG3)、回転対称群(G2)、上記の残存収差を偏心によって抑制している群(G4)をそれぞれ偏心可動ブロック、補助ブロック、補助可動ブロックと呼ぶこととする。偏心可動ブロックG1、G3のみではパワーが強くなり収差補正が困難になるため、補助ブロックG2を配置している。
実施例4のレンズデータを表21に示す。各光学素子のZ軸からのずれ量は表22のようになり、表23に光学素子E7及びE8のチルト量を示す。また、数式1で表される多項式面の各係数の値を表24に示す。図28にそのときの光路図を望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wの順に示す。光学素子E1とE2はY軸方向に偏心し、その量は表22に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーを望遠端から広角端にかけて正から負に変化させている。第1群G1を射出した光線は光学素子E3、絞りS7(SP)、光学素子E4を通過し、光学素子E5とE6に入射する。光学素子E5とE6はY軸方向に偏心し、その量は表22に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第3群G3のパワーを望遠端から広角端にかけて負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックを通過した光線は次の補助ブロックG4に入射する。補助ブロックG4は偏心可動ブロックの足りないパワーを補っている。これらの光学素子を通過した光線は像面を変化させることなく結像している。
次に、望遠端、中間のズーム位置、広角端の収差図をそれぞれ図29(A)乃至図29(C)に示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図29(A)乃至図29(C)中の番号は画角番号であり、像面上では図8に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向については正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図30に望遠端T、中間のズーム位置M、広角端におけるディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションは良好に抑えられているが、画角0°の光線を見ると若干ではあるがコマ収差が残存していることが分かる。
次に第1群G1、第3群G3のパワー変化Φ1、Φ3及びそれらの和Φ13を全系のパワーに対してプロットした図を図31に示す。
このとき第1群G1と第3群G3におけるパワーの絶対値の最大値を|Φ|max、第1群G1と第3群G3の合計のパワーをΦ13とするとき、
−|φ|max≦φ13≦|φ|max・・・・(5)
を満足している。
図32に第1群G1および第3群G3の前後の主点位置(H1が第1群G1の前側主点位置、H1’が第1群G1の後側主点位置、H2が第3G3の前側主点位置、H2’が第3群G3の後側主点位置、)の変化を示す。第1群G1をメニスカスレンズで構成したため、主点位置は大きく移動している。またその変化を見ると、第1群G1のパワーが正の範囲では全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げている。また、第1群G1のパワーが負の範囲ではやはり全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げていることが分かる。また、第1群G1の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH1、H1’とし、第3群G3の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH2、H2’とし、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとし、eoとeiを比較して小さい方をe’としたとき、eとe‘、およびe/e‘の関係を表25に示す。これを見るとズームステート5以外
0.7<e/e‘<1.4・・・・(3)
となっている。
この他の特徴は実施例1と同様である。
以上のように各実施例によれば、回転非対称な光学素子を光軸とは異なる方向に動かして良好に収差を除去しながらズーミングを行い、且つ良好なる光学性能を有したコンパクトな光学系を得ることができる。
[実施例5]
図33は、本発明の実施例5のレンズ断面図である。
図33において、T、M、Wは各々、望遠端、(全系のパワーが最も小さくなるズーム位置)、中間のズーム位置、広角端(全系のパワーが最も大きくなるズーム位置)におけるレンズ断面図である。
図34は、図33の実施例5の中間のズーム位置、(図33のM)を例として選択し、各要素について説明するためのレンズ断面図である。
実施例5のズーム光学系は、撮像装置に用いられる撮影レンズ系であり、レンズ断面図において、左方が物体側で、右方が像側である。
尚、実施例5のズーム光学系を、投射装置(プロジェクタ)として用いてもよく、このときは、左方がスクリーン、右方が被投射面となる。
図33、図34において、G1、G2は光学的パワーが可変の光学群である。
G3は少なくとも1つの面に対して対称性を持ち、偏心可能な1以上の光学素子Lsを有する光学群である。
光学的パワーが可変の2つの光学群G1、G2のパワーを変えてズーミングを行っている。
光学的パワーが可変の2つの光学群G1、G2は、各々回転非対称面を含み、光軸と異なる方向に移動して、光学群G1、G2内のパワーを変える2つの光学素子E1,E2、E3、E4を有している。
尚、光学的パワーとは、光軸上に位置する面のパワーをいい、回転非対称の面を持つ光学素子が偏心して光軸上の面が変化するときは、それに応じて光学的パワーも変化する。
本発明の実施例5では、光学素子(レンズ)が全部で5枚である。物体側から順に、光学素子E1,E2,E3,E4は回転非対称形状であり、これらの光学素子はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。光学素子E5は少なくとも1つの面に対して対称性を持つ回転非対称形状である。これは光学素子E1乃至光学素子E4で除去しきれなかった軸上コマ収差をシフト又はチルトすることで除去している。また、光学素子E1,E2で第1群G1を構成している。同様に光学素子E3,E4で第2群G2を構成し、光学素子E7で第3群G3を構成している。面番号については絶対座標系の原点である基準面を面S0と定め、光学素子E1の第1面をS1とし順に面S2,S3,S4となり、面S4の後(光学素子E2の後方)に絞りS5(SP)が位置している。光学素子E3の第1面をS6とし順に番号を付け、像面IPがS12となる。以下Y軸方向に連続偏心し、パワー変化に寄与する回転非対称群(G1とG2)、上記の残存収差を偏心によって抑制している光学素子(E5)より成る第3群G3をそれぞれ偏心可動ブロックG1,G2、補助可動ブロックG3と呼ぶこととする。
実施例5のレンズデータを表26に示す。各光学素子のZ軸からのずれ量は表27のようになる。数式1で表される多項式面の各係数の値を表28−1および28−2に示す。光学素子E1とE2はY軸方向に偏心している。第1群G1を射出した光線は、絞りSPを通過し、光学素子E3とE4に入射する。光学素子E3とE4はY軸方向に偏心している。それによって第2群G2のパワーを望遠端から広角端にかけて負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックG1、G2を通過した光線は次の補助可動ブロックG3に入射する。補助可動ブロックG3は偏心可動ブロックG1、G2の足りないパワーを補っている。これらの光学素子を通過した光線は像面IPを変化させることなく結像している。
次に、望遠端、中間のズーム位置、広角端の収差図をそれぞれ図35(A)乃至図35(C)に示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図35(A)乃至図35(C)中の番号は画角番号であり、像面上では図8に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向については正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図36に望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wにおけるディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションは良好に抑えられているが、画角0°の光線を見ると若干ではあるがコマ収差が残存していることが分かる。 以上の設計例、実施例1及至5における第1群G1、第3群G3(実施例5では第1群G1、第2群G2)および補助可動ブロック(実施例1及至3ではE7、実施例4ではG4、実施例5ではE5)のパワーの比較を表29に示す。網掛けで示した箇所が補助可動ブロックと偏心可動ブロックの絶対値の最大値である(それぞれ|φs|max、|φd|max)。
これらを比較すると、補助可動ブロックのパワー変化に正負の変化がなく、さらにどの実施形態においても補助可動ブロックのパワーの最大値の絶対値|φs|maxは、偏心可動ブロックの|φd|maxよりも小さくなっている。すなわち|φs|max < |φd|maxが成り立っている。
さらに、全ズーム領域で偏心補助ブロックのパワーの最大値から最小値を引いた値の絶対値をΔ|φs|とした時、Δ|φs|<0.1が成り立ち、全ズーム領域で補助可動ブロックのパワーの最大値から最小値を引いた値の絶対値をΔ|φd|とした時、Δ|φs|>0.5が成り立っている。Δ|φd|をG1とG3で比較して小さい方をΔ|φd|minとしたとき、Δ|φd|min / Δ|φd| > 6が成り立ち、実施例5を除くとΔ|φd|min / Δ|φd| > 25が成り立っていることが分かる。ゆえにこれと収差図の比較から、補助可動ブロックは全系のパワー変動に影響せず、軸上コマ収差の除去に関わっていることが分かる。
尚、以上の各実施例において、光学的パワーが可変の光学群は3以上でも良い。又、少なくとも1つの面に対して対称性を持ち偏心可能な1以上の光学素子を有する光学群は2以上あっても良い。
又、光学的パワーが不変の光学群は、なくても良く、2以上あってもよい。
次に本発明のズーム光学系を撮影光学系として用いたデジタルスチルカメラ(撮像装置)の実施例を図37を用いて説明する。
図37において、20はカメラ本体、21は本発明のズーム光学系によって構成された撮影光学系、22は撮影光学系21によって被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)、23は撮像素子22が受光した被写体像を記録するメモリ、24は不図示の表示素子に表示された被写体像を観察するためのファインダーである。
上記表示素子は液晶パネル等によって構成され、撮像素子22上に形成された被写体像が表示される。
このように本発明のズーム光学系をデジタルスチルカメラ等の撮像装置に適用することにより、小型で高い光学性能を有する撮像装置を実現している。
[比較例1]
次に本発明の比較例1を示す。比較例1は特許文献3を参考に設計したものである。図4に比較例1のレンズ断面図を示す。
比較例1のズーム光学系は、図4に示すようにそれぞれ2枚の回転非対称光学素子E1、E2(E3、E4)を有する2つの光学群G1、G2から成り、それらを物体側から第1群G1、第2群G2とする。まずこれらの群を1つの薄肉レンズで近似し近軸計算を行う。次に各薄肉レンズのパワーを第1群G1、第2群G2それぞれφ1、φ2とし、主点間隔とバックフォーカスをそれぞれe、Skとする。また、全系のパワーをφ、焦点距離をfとすると、次式が成立する
また、バックフォーカスSkは近軸計算から次式が成り立つ。
ここで主点間隔eおよびバックフォーカスSkを定めると、数式6及び7からパワーφ1及びφ2は全系のパワーφの関数として表される。即ち、全系のパワー変化における第1群G1及び第2群G2のパワー変化の軌跡を表すことができる。そこで、主点間隔e=3とし、バックフォーカスSk=15とするとパワーφ1、φ2は以下となる。
全系のパワーφに対するパワーφ1、φ2の関係をグラフで表すと図3のようになる。これを見ると、全系のパワーΦが増加するに従って第1群G1は正から負に、第2群G2は逆に負から正にパワーが変化していることが分かる。ここで、回転非対称曲面は数式10で表され、またその係数aとパワーとの関係は数式11となる。
(数10)
z = ay3 + 3ax2y
(数11)
φ = 12aδ(n-1)
x,y,zは上記に示した軸である。δは2枚の回転非対称光学素子E1、E2(E3、E4)のZ軸からのY軸方向へのずれ量、nはレンズの屈折率である。回転非対称光学素子E1〜E4の係数a,nを表1に示し、併せてZ軸からのずれ量δを望遠端(テレ端)・中間のズーム位置(ミドル)・広角端(ワイド端)の順に示す。また、表2には各面S0〜S9の面のタイプおよび面間隔を表す。
図4において、基準面S0に入射した光線はまず第1群G1に入射する。第1群G1は2つの光学素子(レンズ)E1、E2から構成され、面の番号は順にS1からS4とする。光学素子E1とE2はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーΦ1を図3に示すように望遠端から広角端のズーミングに際して(以下、ズーム方向は同じである)、正から負に変化させている。第1群G1を射出した光線は次に絞りS5を通過し、第2群G2に入射する。第2群G2は第1群G1と同様に2つの光学素子E3、E4から構成され、面の番号はS6からS9とする。光学素子E3とE4はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第2群G2のパワーΦ2を図3に示すように負から正に変化させている。
これらの群G1、G2を通過した光線は像面IPを変化させることなく結像している。しかしながら、像面を見ると結像はしているものの、収差が大きく発生していることが分かる。これらは、数式8及び9で定めた近軸配置に因らず発生するものである。例えば、軸上で発生するコマ収差は、近軸配置だけではどうしても除去することができない。以上の結果から比較例では以下の点で収差を補正しきれないことが分かる。これは、
(イ)回転非対称光学素子を有する光学系は、光軸に対して非対称であるため上線・下線にずれが生じ、結果として軸上光線においてもコマ収差が発生すること、
(ロ)像面湾曲が発生すること、
に起因する。
そこで、本発明の実施例では、光軸とは異なる方向に光学素子(レンズ)を動かすことでズーミングを行い、十分に収差を除去することが可能なズーム光学系を達成している。
[比較例2]
次に本発明の比較例2を説明する。
一般に、軸上光線のコマ収差を除去することと、偏心可動ブロックのパワー(焦点距離の逆数で光学的パワーともいう。)を大きくすることを両立できれば、高精細な高ズーム比のズーム光学系を達成することができる。しかし、一般的に偏心可動ブロックのパワーを大きくすると各面の傾きが大きくなってしまい、軸上コマ収差を抑制することが困難になる。そこで、本発明では、光路中に共軸レンズ(共軸光学素子)を配置することでパワーの補正を行い偏心可動ブロックのパワーを抑え、軸上コマ収差を抑制している。
本発明の比較例2としては、実施例1〜4における第4群G4の光学素子E7を回転対称の球面より成る1つの光学素子より構成し、ズーミングに際して固定とした(偏心させない)。
次にこのときの比較例2の光学性能について説明する。
図5は本発明の比較例2の光路図である。比較例2では撮像面としてCCDを仮定し、その大きさを1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとする。また入射瞳径を0.8とした。光学素子(レンズ)は全部で7枚から構成され、物体側から像側へ順に、光学素子E1,E2,E5,E6が回転非対称形状であり、これらの光学素子はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。光学素子E3,E4及びE7は回転対称球面形状であるが、光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称形状の光学素子を配置してもよい。また、光学素子E1,E2で第1群G1を構成している。
同様に光学素子E3,E4で第2群G2、光学素子E5、E6で第3群G3を構成している。面番号については絶対座標系の原点である基準面S0を定め、光学素子E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、S6の後(E3の後)に絞りSPがあるのでそれをS7としている。光学素子E4の第1面をS8とし順に番号を付け、像面IPがS16となる。以下、Y軸方向に連続偏心する回転非対称群(群G1と群G3)、回転対称群(群G2と光学素子E7)をそれぞれ偏心可動ブロック、補助ブロックと呼ぶこととする。偏心可動ブロックG1、G3のみではパワーが強くなり収差補正が困難になるため、補助ブロックG2、E7を配置している。
比較例2のレンズデータを表3に示す。各光学素子(レンズ)のZ軸(光軸)からのずれ量は表4のようになり、数式1で表される多項式面の各係数の値を表5に示す。そのときの光路図を望遠端、中間、広角端の順に図6に示す。光学素子E1とE2はY軸方向に偏心し、その量は表4に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーを正から負に変化させている。第1群G1を射出した光線は光学素子E3、絞りS7、光学素子E4を通過し、光学素子E5と光学素子E6に入射する。光学素子E5とE6はY軸方向に偏心し、その量は表4に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG3のパワーを負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックG1、G3を通過した光線は次の補助ブロックE7に入射する。補助ブロックE7は偏心可動ブロックG1、G3の足りないパワーを補っている。これらの光学素子を通過した光線はズーミングに際して像面を変化させることなく結像している。
次に、望遠端、中間のズーム位置、広角端の収差図をそれぞれ図7(A)乃至図7(C)に示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図7(A)乃至図7(C)中の番号は画角番号であり、像面上では図8に示す各像高に対応している。光学素子の形状はx軸方向については対称であるので、x方向においては、正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図9に、望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wにおけるディストーション格子を示す。格子の
縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションは良好に抑えられているが、画角0°の光線を見ると若干ではあるがコマ収差が残存していることが分かる。
これは全系の光学的パワーの変化に伴って、偏心可動ブロックG1、G3を可動させる際、面の光線に対する角度が変化するため、それを補正しきれていないことが原因である。そこで本発明ではこれを除去するに、偏心可動ブロックG1、G3の移動に伴って変化する軸上光線の角度を補正する別の補正ブロックを設けている。
すなわち、本発明ではそれぞれが回転非対称面を有する複数の光学素子で構成される複数の光学群G1、G3を有し、複数の光学群の各群G1、(G3)内の光学素子E1,E2(E5、E6)が互いに光軸と異なる方向に移動することで光学的パワーを変化させるズーム光学系において、ズーム光学系の残留収差を除去するために、少なくとも1つの面に対して対称性を持ち、偏心する光学素子(補助可動ブロック)E7を少なくとも1つ設けている。さらに、補助可動ブロックE7は残留収差を除去するために配置するので、偏心可動ブロックG1、G3と比較してパワーや偏心量が少ない。ゆえに、補助可動ブロックE7は正負の屈折力の変化がなく、さらに、偏心可動ブロックG1、G3の光学的パワーの絶対値の最大値を|φd|max、補助可動ブロックの光学的パワーの絶対値の最大値を|φs|maxとするときに以下の条件を満たすようにしている。
(数12)
|φs|max < |φd|max・・・・(1)
さらに、全ズーム領域で偏心補助ブロックのパワーの最大値から最小値を引いた値の絶対値をΔ|φs|とした時、以下の範囲を満たすことが望ましい。
Δ|φs|<0.2
またより好ましくは
Δ|φs|<0.1
となる。この範囲を超えると非対称収差の除去という偏心補助ブロックの特徴がなくなり、偏心可動ブロックとして分類されることになる。
また、全ズーム領域で補助可動ブロックのパワーの最大値から最小値を引いた値の絶対値をΔ|φd|とした時、以下の範囲を満たすことが望ましい。
Δ|φd|>0.2
またより好ましくは
Δ|φs|>0.5
となる。この範囲を超えると非対称収差の除去という偏心可動ブロックの特徴がなくなり、偏心補助ブロックとして分類されることになる。
さらに、Δ|φd|をG1とG3で比較して小さい方をΔ|φd|minとしたとき、以下の範囲を満たすことが望ましい。
Δ|φd|min / Δ|φd| > 6
より好ましくは
Δ|φd|min / Δ|φd| > 25
となる。
これは上と同様の理由である。
また、補助可動ブロックE7がシフトで補助するとき、そのシフト量(移動量)の絶対値の最大値を|Ds|max、偏心可動ブロックのシフト量の絶対値の最大値を|Dd|maxとしたときに以下の条件を満たしている。
(数13)
|Ds|max < |Dd|max・・・・(2)
さらに、ペッツバールが大きいと像面湾曲が大きくなり、逆だと小さくなることが知られている。そこで本発明ではペッツバールを小さくすることで像面湾曲を小さく抑えている。ペッツバールはレンズEi(i=1〜n)でのパワーをφEi、材料の屈折率をnEiとしたとき以下の式で与えられる。
(数14)
PEi= φEi/nEi
共軸光学素子を用いた通常のズーム光学系においては、この値は常に一定である。しかしながら、本発明のように光学素子が連続して偏心し、パワーが変化する光学系においては一定ではない。またパワーの変化に対して、硝材の屈折率は1.45付近から1.9付近とその変化が小さいため、ペッツバールの変化はパワーの変化といってもよい。そこで、このペッツバールを小さく抑えるために、第1群G1と第3群G3におけるパワーの絶対値の最大値を|φ|maxとし、第1群G1と第3群G3の合計のパワーをφ13とするとき、次式を満足するようにパワーの変化の範囲を定めている。
(数15)
−|φ|max ≦ φ13 ≦ |φ|max・・・・(5)
次に主点位置の観点から述べる。
コンパクトを保ちながらズーミングを行うには、主点位置を各群の所定位置から大きく移動させる必要がある。従来の片面に3次曲線を与えただけの光学系では、その3次係数を持たせた面に主点位置があるだけで大きく変動しない。主点位置を大きく変動させるための方法として、例えば片方の面に曲率を持たせ回転非対称レンズの形状をメニスカス形状にすることが挙げられる。正レンズや負レンズとは異なり、メニスカス形状のレンズは主点がレンズの外側にすることもできるレンズであり、回転非対称レンズにもこの形状を採用することにより主点を群の外側に大きく変動させることができる。しかしながら、回転非対称レンズをメニスカス形状にすると望遠端もしくは広角端で(光線がレンズの端を通るときに)軸上光線の上線・下線でずれが生じる。そのため、他のレンズでこれの補正しなければならない。これを解決する方法は補正するレンズを逆の傾きを持つメニスカス形状にし、上線・下線のずれを打ち消すことを行う。3次以上の高次の係数を面に導入する際にはこれに着目し係数を定める。また、メニスカス形状は互いの距離を縮める方向に形状をつけることが望ましい。なぜならばレンズ同士を近づけることで、軸上コマ収差を各面で最小限にしながら除去できるからである。
以上のようにして軸上コマ収差を除去する。
比較例2では、数式6乃至9を求め、図3のように焦点距離に対する各群のパワー変化を求めることによって行った。各群のパワーを大きくすると収差が発生するため、各群のパワーを大きくすることなく変倍比を上げるには、図3に示す全系のパワーに対する各群のパワー変化の傾きを小さくすればよい。そのようにすることで各群のパワー変化の範囲を一定にしながらも、全系のパワーが変化できる範囲を広げることができる。それを実現するために薄肉近似をした近軸配置に戻って考える。数式6及7をバックフォーカスSkおよび主点間隔eを変数のままにすると、以下の式が導かれる。ただし、焦点距離、前側主点位置、後側主点位置の各近軸値は論文1にて導かれる値として定義する。それらの値の導出は、各面の曲率と各面間隔を元に4×4行列式を計算することで行われる。
これから両者の傾きは主点間隔eとバックフォーカスSkで定まることが分かる。そこで、両者をパワーφで微分すると以下の式が導かれる。
パワーφ1は直線で変化するため傾きは一定である。それに対して、パワーφ2の傾きは全系のパワーφによって変化する。また主点間隔eが大きくなれば、パワーφ1,φ2の傾きは、ともに小さくなり高倍率化となるが、バックフォーカスSkが大きくなればパワーφ1が大きくなるのに対してパワーφ2は小さくなり、高倍率化に対するバックフォーカスSkの変化の方向を定めることはできない。
ここで、全系のパワーφの変化に対するパワーφ1,φ2の傾きを比較する。φ2=0となる
の点で
となり、
の範囲では
となり、
の範囲では
となる。これらを比較した表を表6に示す。これから、広範囲にわたって
となっていることが分かる。したがって、広範囲にわたって傾きが大きいパワーφ2の傾きを小さくすることができれば高倍化を達成することができる。
そこで、数式20中のパワーφ2の傾き
に着目すると主点間隔eとバックフォーカスSkを共に大きくすれば、傾きを小さくすることができることが分かる。またここでは、主点間隔eとバックフォーカスSkの和である第1群の主点位置から像面までの距離(薄肉近似での全長)が一定であるので、e=Skのときにパワーφ2の傾きは最小になる。以上のようにしたときズーム比が最大となる。
本発明では、薄肉での近似から厚肉化に伴って、上記主点間隔eがH1’とH2の距離に置き換わり、薄肉の主点間隔eとずれることを考えて、本発明の実施例では、以下のようにしている。
ただしe’は、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとした時のeoとeiを比較して小さい方の距離である。またバックフォーカスSkが一定であり主点を動かすことが可能ならば、パワーφ1、φ2ともに主点間隔eを大きくすることで傾きを小さくでき高倍化となる。そのため、群を構成する光学素子の面の形状によって主点間隔を広げるような光学素子を回転非対称レンズとして用いれば、面間隔をそのままにしながら主点間隔を広げ、さらに高倍率化を達成する
ことができる。
上記に示すような片面のみ数式10で記述するような曲面を用いると、前側・後側主点とも同面上で移動するだけである。この光学素子を用いただけでは主点位置を大きく動かすことができない。そのためズーム比も大きくすることができない。この主点を光学素子の前、もしくは後に動かし主点間隔を大きくすることができれば、面間隔を大きくすることを行わないで高倍率化を達成することができる。ここで、共軸レンズとして両レンズ面が凸形状の正レンズ(両凸レンズ)、両レンズ面が凹形状の負レンズ(両凹レンズ)、メニスカス形状のレンズの3つのレンズの主点位置について考察する。すると両凸・両凹レンズとも主点はレンズの内部にあり、上記のように主点をレンズの外に大きく動かすことを望めない。それに対してメニスカス形状のレンズは両凸レンズや両凹レンズとは異なり、主点がレンズの外側にすることもできるレンズである。そのため回転非対称レンズにもこの形状を採用することにより主点をレンズの外側に大きく変動させることができる。これを本発明のズーム光学系のような回転非対称レンズに採用すれば、主点間隔を大きくし高倍率化が望める。
さらに、主点間隔はテレ側(望遠側)では小さくワイド側(広角側)で大きくした方が高倍率となる。それは数式6から理解できる。ワイド側での全系のパワーをφwとし、そ
のときの第1群、第2群のパワーをそれぞれφ1w、φ2w、その主点間隔ewとし、同じようにテレ側での全系のパワーをφt、第1群、第2群のパワーをそれぞれφ1t、φ2t、その主点間隔etとする。すると数式6は以下のようになる。
(数21)
Φw=Φ1w+Φ2w−ewΦ1wΦ2w
(数22)
Φt=Φ1t+Φ2t−etΦ1tΦ2t
ただしΦw>Φtである。ここで、パワーφ1とパワーφ2は異符号であるため、
(数23)
Φ1w+Φ2w>0、Φ1t+Φ2t<0
とし、
(数24)
ew>et
とすると、パワーφwとパワーφtの差が大きくなり、高倍化となることが分かる。