JP4829436B2 - 鋼球とセラミックス球を交互に介挿させたボールねじ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、工作機械及び一般産業機械等の送り系に使用されるボールねじに関し、特に、高速送りに好適なボールねじに関する。
【0002】
【発明の背景】
ボールねじは、一般に、外周面にねじ溝を有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するボールナットと、両ねじ溝間に介挿されると共にボールナットに設けたボール循環路によって循環可能とされた複数個のボールとからなる。また、ボール循環路の形成方式として、リターンチューブ方式、こま方式、エンドキャップ方式又はガイドプレート方式が用いられている。そして、高精度位置決め用途のボールねじにおいては、ボールねじの軸方向すきまをゼロとし、更に軸方向荷重に対する弾性変位量を小さくして剛性を大きくするために、ボールねじに予圧が付与されている。なお、両ねじ溝の形状は、一般に、ゴシックアーク形式とされている。また、予圧の付与方式は、定位置予圧方式と定圧予圧方式(2個のボールナット間にばねを介在させて引張予圧を付与する方式)とに大別される。そして、この定位置予圧方式として、シングルナットの場合は、オーバーサイズ球予圧方式又はリードシフト予圧方式が用いられている。ダブルナットの場合は、2個のボールナット間に予圧量だけ厚い間座を挿入する引張予圧方式又は予圧量だけ薄い間座を挿入する圧縮予圧方式が用いられている(例えば、(株)工業調査会発行 井澤實著「ボールねじ応用技術」初版(1993.5.20)第18〜21頁及び第49〜51頁参照)。
【0003】
このようなボールねじにおいては、一般に、ねじ軸及びボールナットの材質としてクロムモリブデン鋼SCM415H又はSCM420H(JISG4105)が用いられ、浸炭焼入れ及び焼戻しによって表面硬さはHRC58〜62(Hv650〜740)とされている。また、軸方向荷重を支承するボールとして、高炭素クロム軸受鋼SUJ2(JISG4805)からなる玉軸受用鋼球(JISB1501)が用いられている(以下、玉軸受用鋼球を「鋼球」という。)。なお、ボールねじに予圧が付与される場合、鋼球同士の押し合いに起因する摩擦トルクの増大を抑制する観点から、鋼球の直径よりも数十μm小さいスペーサ用鋼球が1個おき、2個おき又は3個おきに配置されることが多い。また、材質を炭素鋼AISI4150H又はS55C(JISG4051)として、高周波焼入れを施したねじ軸も多用されている。
【0004】
この「鋼球のみ」を介挿させたボールねじにおいては、例えば60m/min以上の高速送りを行った場合、下記のような問題があった。
▲1▼発熱量が増加して、温度上昇によるねじ軸の伸びを引き起こす。このねじ軸の伸びは、位置決め精度の悪化を招来する。
▲2▼ボールねじに予圧が付与されている場合、ねじ軸の高速回転による温度上昇に起因する鋼球の熱膨張や遠心力によって予圧量が増大する。この予圧量の増大は、更なる発熱量の増加を招来する。すなわち、温度上昇によるねじ軸の伸びが増大して、位置決め精度が更に悪化する。
▲3▼ボールねじ運転時の騒音が大きくなる。
▲4▼前記のリターンチューブ方式ボールねじの場合、
(i)ボール(鋼球又は後記のセラミックス球)は、ねじ軸のねじ溝から離れてリターンチューブ内に進入するとき、リターンチューブのタング部に衝突する。このタング部に鋼球の増大した衝突力が繰返し作用して、タング部が破損することが多い(例えば、前掲の「ボールねじ応用技術」第117〜121頁参照)。
(ii)ボールねじには、一般に、加工及び組立誤差等に起因してボールの循環運動の軌跡にある範囲のバラツキが存在する。このため、リターンチューブ内から排出されたボールは、ねじ軸のねじ溝のランド(ねじ軸の円筒状の外径部)肩口近傍に衝突した後、ねじ溝にかみ込まれることが多い。このランド肩口近傍に鋼球の増大した衝突力が繰返し作用して、ねじ溝に損傷が生じやすい。
この結果、ボールねじの実用上の寿命が短くなる。
【0005】
このような問題を解決するための手段の一つとして、鋼球に代えて、次の表1に示すように、より密度が小さく且つ線膨張係数も小さい窒化けい素(Si3N4)からなるセラミックス球(以下、「セラミックス球」という。)が用いられている。
【表1】
しかし、「セラミックス球のみ」を介挿させたボールねじにおいても、下記のような問題があった。
(1)ボールねじに予圧が付与されている場合、高速送りを行うと、鋼球のみを介挿させたものより温度上昇は小さくなるけれども、軸方向すきまを生じやすくなって予圧が抜け、位置決め精度が悪化する。なお、軸方向すきまを生じやすくなる理由は、鋼製のねじ軸及びボールナット(線膨張係数は11.9×10−6/℃)に対してセラミックス球の線膨張係数が小さいからである。
(2)鋼球のみを介挿させたボールねじに比べて、一般に寿命が短くなる。なお、寿命が短くなる理由は、鋼球とセラミックス球が同じ直径であれば、同じ大きさの軸方向荷重、すなわち同じ大きさの転動体荷重が作用した場合、セラミックス球と両ねじ溝との接触面積は鋼球の場合よりも小さくなり、その分、接触面にはより高い接触応力が作用して、ねじ溝の寿命が低下するからである(ヘルツの弾性接触理論による。)。
(3)回転しているねじ軸が一旦停止して反転する際、ボール(鋼球又はセラミックス球)と両ねじ溝との接触面には衝撃荷重が作用する(ねじ軸が高速回転するほど、衝撃荷重は大きくなる。)。セラミックス球は鋼球よりも硬く且つ縦弾性係数も大きいので(前記の表1参照)、鋼球のみを介挿させたものよりも、衝撃荷重によってねじ溝に圧痕が生じやすい。この結果、ボールねじ運転時の騒音が大きくなりやすく、また圧痕に起因してねじ溝の寿命が低下するから、ねじ溝の耐衝撃性の点では鋼球よりも劣る。
(4)セラミックス球は、鋼球に比べてコストが非常に高い。
【0006】
【発明の目的】
本発明は、従来の「鋼球のみ」又は「セラミックス球のみ」を介挿させたボールねじが有する上記のような問題を解決して、高速送りに好適なボールねじを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は外周面にねじ溝を有する鋼製のねじ軸と、ねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有する鋼製のボールナットと、両ねじ溝間に介挿されると共にボールナットに設けたボール循環路によって循環可能とされた複数個のボールとからなり、ボールとして、軸受鋼からなる鋼球と窒化けい素からなるセラミックス球とが同数又は該セラミックス球が前記鋼球よりも少ない所定の比率で隣接しながら、セラミックス球と単数又は複数の鋼球とが交互に配置されるとともに、セラミックス球と両ねじ溝とのそれぞれの接触面に作用する接触応力が鋼球と両ねじ溝とのそれぞれの接触面に作用する接触応力に等しくなるように、セラミックス球の直径が鋼球の直径よりも小さく設定されたボールねじによって、上記の目的を達成している。
【0008】
本発明によれば、高速送りを行っても、
(1)従来の「鋼球のみ」を介挿させたボールねじに比べて、
▲1▼発熱量が小さくなるから、温度上昇によるねじ軸の伸びを抑制することができる。また、ボールねじに予圧が付与されている場合、ねじ軸の高速回転による温度上昇に起因する予圧量の増大を抑制することができる。したがって、所定の位置決め精度を維持することができる。
▲2▼ボールねじ運転時の騒音が小さくなる。
▲3▼リターンチューブ方式ボールねじの場合、リターンチューブのタング部が破損する確率が低くなる。また、ねじ軸のねじ溝に損傷が生じにくくなる。
(2)従来の「セラミックス球のみ」を介挿させたボールねじに比べて、
▲1▼ボールねじに予圧が付与されている場合、温度上昇によってセラミックス球と両ねじ溝間に軸方向すきまを生じて予圧が抜けたとしても、鋼球と両ねじ溝間の予圧は抜けないから、所定の位置決め精度を維持することができる。また、この場合、セラミックス球はスペーサ球として機能するから、高速送り時の作動性をより良好にすることができる。なお、鋼球とセラミックス球の介挿比率を1:1とした場合は支承できる軸方向荷重が半減するから、介挿比率を2:1又は3:1にすることが好ましい。
▲2▼寿命が長くなる。すなわち、「鋼球のみ」を介挿させたボールねじの寿命と同等になる。
▲3▼鋼球とねじ溝とが弾性接近し始めてからセラミックス球とねじ溝とが弾性接近し始めるので、衝撃荷重が作用しても、ねじ溝に圧痕が生じにくくなる。
▲4▼コストが廉価になる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
図1に、本発明のボールねじの一実施形態を示す。このシングルナットボールねじは、図2(a)に示すように軸方向すきまをゼロとした、又は同図(b)に示すように(但し、軸方向荷重が作用した場合を示す。)所定の値の軸方向すきまを有する無予圧ボールねじである。なお、図2(a)は、後記のオーバーサイズ球予圧方式の場合における鋼球4と両ねじ溝6,7又はセラミックス球5と両ねじ溝6,7との接触状態を示す縦断面図でもある。また、同図の(b)は、後記のリードシフト予圧方式の場合又はダブルナット予圧方式の場合(図示せず。)における鋼球4と両ねじ溝6,7又はセラミックス球5と両ねじ溝6,7との接触状態を示す縦断面図でもある(但し、軸方向荷重を支承する側のみを図示する。)。
【0010】
ねじ軸1の外周面には、1条のゴシックアーク形状のねじ溝6が形成されている。ねじ軸1が挿通されるボールナット2の内周面には、ねじ溝6に対向する1条のゴシックアーク形状のねじ溝7が形成されている。また、ボールナット2には、ボール循環路となるリターンチューブ3が装着されている。そして、図1及び図3(a)に示すように、前記の表1に示す特性値を有する複数個の鋼球4とセラミックス球5とが、両ねじ溝6,7間とリターンチューブ3内に1:1の比率で交互に介挿されている。この鋼球4とセラミックス球5の直径をそれぞれDs,Dcとすると、セラミックス球5と両ねじ溝6,7とのそれぞれの接触面に作用する接触応力が鋼球4と両ねじ溝6,7とのそれぞれの接触面に作用する接触応力に等しくなるように、セラミックス球5の直径Dcが鋼球4の直径Dsよりも小さく設定されている(後記の図5参照)。なお、ねじ軸1とボールナット2はクロムモリブデン鋼SCM415H又はSCM420Hからなり、浸炭焼入れ及び焼戻しによって表面硬さはHRC58〜62とされている。また、鋼球4と両ねじ溝6,7との適合度をf(f=0.52〜0.58)とすると、両ねじ溝6,7の曲率半径はf・Dsとされている。さらに、鋼球4とセラミックス球5の介挿比率は、図3(b)及び(c)に示すように、2:1又は3:1としてもよい。
次に、鋼球4の直径Ds〔mm〕に対するセラミックス球5の直径Dc〔mm〕の設定方法を説明する。
【0011】
図2に示すように、ボールねじに軸方向荷重P〔N〕が作用すると、鋼球4と両ねじ溝6,7とのそれぞれの接触面には、接触面に垂直な転動体荷重Qs〔N〕が発生する。同様に、セラミックス球5と両ねじ溝6,7とのそれぞれの接触面には、転動体荷重Qs〔N〕よりも小さく且つ接触面に垂直な転動体荷重Qc〔N〕が発生する。この転動体荷重Qs,Qc〔N〕と軸方向荷重P〔N〕は、次式(1)〜(3)の関係を満足する。
【0012】
軸方向荷重P〔N〕を支承するボールねじの総有効巻数(1回路における有効巻数×回路数)をTとし、この総有効巻数T中の鋼球4とセラミックス球5の個数をそれぞれMs,Mcとすると、
ここで、
Dm:鋼球4とセラミックス球5の中心円径 〔mm〕
L :リード 〔mm〕
βs:鋼球4と両ねじ溝6,7との接触角 〔°〕
βc:セラミックス球5と両ねじ溝6,7との接触角 〔°〕
なお、1回路、有効巻数及び回路数とは、それぞれ、鋼球4とセラミックス球5が交互に介挿される両ねじ溝6,7間とリターンチューブ3内とからなる1閉回路、1回路中の鋼球4とセラミックス球5がねじ軸1の周りを幾巻しているかを示す数、及び、1回路が幾列組み込まれているかを示す数をいう。また、接触角βs,βcは、45°付近に設定されることが多い。
【0013】
そして、図4及び図5に示すように、転動体荷重Qs〔N〕によって弾性変形が生じてδs〔mm〕だけ鋼球4とねじ溝6は弾性接近(弾性変位)し、両者の接触面は長軸半径as〔mm〕及び短軸半径bs〔mm〕の接触楕円となり、その中央部分で最大接触応力σs max〔N/mm2〕が発生する。同様に、転動体荷重Qcによって弾性変形が生じてδc〔mm〕だけセラミックス球5とねじ溝6は弾性接近し、両者の接触面は長軸半径ac〔mm〕及び短軸半径bc〔mm〕の接触楕円となり、その中央部分で最大接触応力σc max〔N/mm2〕が発生する。なお、図5に示すセラミックス球5とねじ溝6との弾性接近量δc′は接触角βc上の弾性接近量δcを接触角βs上に投影したものであるが、δc′とδcの差は極小なのでδc′≒δcと考える。また、後述するように、ねじ溝7の主曲率面2における主曲率がねじ溝6の主曲率と異なるから精解ではないが、セラミックス球5の直径Dcの値を求めるための計算式を簡単にする観点から、鋼球4とねじ溝7及びセラミックス球5とねじ溝7との接触状態はねじ溝6との接触状態と同一と考え、且つ、その図示も省略する。
【0014】
上記の接触楕円の長軸半径as,ac〔mm〕及び短軸半径bs,bc〔mm〕、最大接触応力σs max,σc max〔N/mm2〕、並びに弾性接近量δs,δc〔mm〕は、次のようにして求めることができる(例えば、岡本純三発行 同著「玉軸受の計算」(1999.9)第2〜5頁及び第8〜9頁参照)。
【0015】
図4の(a)及び(b)を、それぞれ、ヘルツの弾性接触理論における主曲率面1及び主曲率面2とする。また、ボール(鋼球4又はセラミックス球5)の主曲率面1,2における主曲率をρ11,ρ12とし、ねじ溝6の主曲率面1,2における主曲率をρ21,ρ22とすれば、ρ11,ρ12,ρ21,ρ22は次の表2に示すようになる。
【表2】
なお、鋼球4とねじ溝7及びセラミックス球5とねじ溝7との接触状態では、主曲率ρ11,ρ12,ρ21は上記の表2に示すようになるが、ねじ溝7の主曲率ρ22だけが次のように異なる。
このため、鋼球4とねじ溝7及びセラミックス球5とねじ溝7との接触における最大接触応力の値は、それぞれ、ねじ溝6との接触における最大接触応力σs max,σc maxよりも小さくなる。
【0016】
そうすると、上記の表2から、補助変数cosτの値は次式から算出される。
この補助変数cosτの値から、一般に、接触楕円の長軸半径a〔mm〕及び短軸半径b〔mm〕、最大接触応力σmax〔N/mm2〕、並びに弾性接近量δ〔mm〕は、次式のように与えられる。但し、転動体荷重を示す符号をQとする。
ここで、
E1 :ボールの縦弾性係数 〔GPa〕
E2 :ねじ溝6の縦弾性係数 〔GPa〕
1/m1:ボールのポアソン比
1/m2:ねじ溝6のポアソン比
なお、係数μ,ν及び2・K/π・μの値は、例えば、(株)養賢堂発行 転がり軸受工学編集委員会編「転がり軸受工学」第1版(昭50.7.10)第381〜384頁記載の付表から、直線補間によって求めることができる。
【0017】
そして、鋼球4とねじ溝6との接触の場合、E1=E2=210〔GPa〕=210×103〔N/mm2〕,1/m1=1/m2=0.3となるから(前記の表1
as,bs,σs max,δs,μs,νs,2・Ks/π・μs,及びQsに置き換える。
【0018】
また、セラミックス球5とねじ溝6との接触の場合、E1=310〔GPa〕=310×103〔N/mm2〕,E2=210〔GPa〕=210×103〔N/mm2〕,1/m1=0.25,1/m2=0.3となるから(前記の表1参照)、
c,bc,σc max,δc,μc,νc,2・Kc/π・μc,及びQcに置き換える。
【0019】
ところで、本発明においては、セラミックス球5とねじ溝6との接触面に作用する接触応力が鋼球4とねじ溝6との接触面に作用する接触応力に等しくなるようにしている。すなわち、σs max=σc maxの関係を満足するようにしている。したがって、前式(14)及び(20)から、次式が導かれる。
ここで、
また、図5に示した幾何学的関係から、次式が成り立つ。
上式(24)に前式(15)及び(21)を代入後、さらに上式(22)を代入すると、次式が導かれる。
【0020】
他方、前式(1)及び(2)に(3)を代入後、さらに上式(22)を代入すると、次式が導かれる。
【000 】
そして、上式(26−1),(26−2)又は(26−3)を上式(25)に代入すると、次式が得られる。
介挿比率が1:1の場合、
介挿比率が2:1の場合、
介挿比率が3:1の場合、
【0021】
そうすると、Ds,f,βs,Dm,P,T,及びLの値が定まっておれば、βc≒βsと仮定して上式(27−1),(27−2)又は(27−3)が成り立つようなDcの近似値を、コンピュータを利用してニュートン−ラプソン法と呼ばれる逐次計算法(例えば、前掲の「ボールねじ応用技術」第191頁参照)によって求めることができる。
【0022】
次に、上記の計算式を本出願人製品の呼び型番40TFC10(本出願人発行「TSUBAKI NAKASHIMA総合カタログ70」初版(1996.4.1)A−36〜A−37頁参照)に適用した結果を記する。
【0023】
先ず40TFC10に鋼球4のみを介挿して、軸方向すきまがゼロ又は所定の値になる鋼球4の直径Dsの値が6.3500mmであったとする。また、40TFC10に作用する軸方向荷重Pの値が5000Nであったとする。そうすると、鋼球4とセラミックス球5の介挿比率が1:1の場合、Ds=6.3500〔mm〕,f=0.55,βs≒βc=45〔°〕,Dm=41.8〔mm〕,P=5000〔N〕,T=2.5×2=5〔巻〕及びL=10〔mm〕として、上式(27−1)が成り立つようなセラミックス球5の直径Dcの近似値を求めると、Dc≒6.3485〔mm〕になる(計算過程の記載は省略する。)。すなわち、鋼球4の直径6.3500mmよりも1.5μm小さい直径のセラミックス球5を、隣接する鋼球4同士の間に配置すればよい。因みに、このときの鋼球4に作用する転動体荷重Qsは前式(26−1)からQs≒79.3〔N〕になり、セラミックス球5に作用する転動体荷重Qcは前式(22)からQc≒57.0〔N〕になる。総有効巻数2.5×2巻中の鋼球4の個数Msとセラミックス球5の個数Mcは前式(1)からMs=Mc≒51.9〔個〕になる。鋼球4とねじ溝6との接触楕円の長軸半径as,短軸半径bsは前式(12)及び(13)からas≒0.362〔mm〕,bs≒0.071〔mm〕になり、セラミックス球5とねじ溝6との接触楕円の長軸半径ac,短軸半径bcは前式(18)及び(19)からac≒0.307〔mm〕,bc≒0.060〔mm〕になる。また、鋼球4とねじ溝6との接触楕円の中央部分に発生する最大接触応力σs max及びセラミックス球5とねじ溝6との接触楕円の中央部分に発生する最大接触応力σc maxは前式(14)及び(20)からσs max=σc max≒1481〔N/mm2〕=1.481〔GPa〕になる。さらに、鋼球4とねじ溝6との弾性接近量δsは前式(15)から δs≒0.00273〔mm〕=2.73〔μm〕になり、セラミックス球5とねじ溝6との弾性接近量δcは前式(21)から δc≒0.00198〔mm〕=1.98〔μm〕になる。
【0024】
なお、軸方向荷重Pの値を17700N(定格寿命を250kmとしたときの基本動定格荷重)とした場合、前式(27−1)が成り立つようなセラミックス球5の直径Dcの近似値を求めると、Dc≒6.3464〔mm〕になる。すなわち、セラミックス球5の直径は、鋼球4の直径6.3500mmよりも3.6μm小さくなる。因みに、このときの鋼球4に作用する転動体荷重QsはQs≒281.1〔N〕になり、セラミックス球5に作用する転動体荷重QcはQc≒201.6〔N〕になる。また、鋼球4とねじ溝6との接触楕円の中央部分に発生する最大接触応力σs max及びセラミックス球5とねじ溝6との接触楕円の中央部分に発生する最大接触応力σc maxはσs max=σc max≒2.259〔GPa〕になる。さらに、鋼球4とねじ溝6との弾性接近量δsはδs≒6.41〔μm〕になり、セラミックス球5とねじ溝6との弾性接近量δcはδc≒4.61〔μm〕になる。
【0025】
次に、図1に示すシングルナットボールねじに定位置予圧が付与される場合(図2(a)のオーバーサイズ球予圧方式の場合、又は同図(b)のリードシフト予圧方式の場合)について、図6を参照して鋼球4の直径Ds〔mm〕に対するセラミックス球5の直径Dc〔mm〕の設定方法を説明する。なお、図6は、鋼球4とねじ溝6との接触における弾性接近量と軸方向荷重との関係を示す定位置予圧線図である(セラミックス球5とねじ溝6との接触における弾性接近量と軸方向荷重との関係を示す定位置予圧線図でもある。)。また、同図の符号U,Vは、それぞれ、軸方向荷重が作用する側及び軸方向荷重が作用しない側を示す。
【0026】
予め所定の予圧荷重P0〔N〕によって、鋼球4とねじ溝6はδ0〔mm〕だけ弾性接近しているものとする。この状態で軸方向荷重P1〔N〕がUに加わると、U,Vのそれぞれの弾性接近量δU,δV〔mm〕は次のようになる。
δU=δ0+δ1, δV=δ0−δ1
このとき、U,Vのそれぞれの軸方向荷重PU,PV〔N〕は次のようになる。
PU=P0+P1−P1′, PV=P0−P1′
ところで、本出願人の解析によれば、Uの軸方向荷重PU、すなわち上記の左式における右辺“P0+P1−P1′”の値は次式のように与えられる。
【0027】
そうすると、鋼球4の直径Ds〔mm〕、予圧荷重P0〔N〕及び軸方向荷重P1〔N〕の値が定まっておれば、前式(27−1),(27−2)又は(27−3)における“P”を“PU”に置き換え、すなわち、
として、適用する式が成り立つようなセラミックス球5の直径Dc〔mm〕の近似値を、前記と同様にして求めればよい。なお、予圧荷重P0〔N〕の最大値は、一般に、定格寿命を250kmとしたときの基本動定格荷重の25%以下、又は、100万回転を基準とする場合の基本動定格荷重の10%以下(オーバーサイズ球予圧方式の場合は5%以下)を目安とされている。
【0028】
前記の第1実施形態では「シングルナットボールねじ」を例示したが、本発明は、図示しない「ダブルナット予圧方式ボールねじ」にも適用することができる。
【0029】
次に、第2実施形態である「ダブルナット予圧方式ボールねじ」について説明する。なお、説明の都合上、第1実施形態における文言及び符号等を援用する。また、ボール循環路の形成方式は、リターンチューブ方式とする。
【0030】
第1実施形態と同様に、このダブルナット予圧方式ボールねじにおいても、前記の表1に示す特性値を有する複数個の鋼球4とセラミックス球5とが、ゴシックアーク形状の両ねじ溝6,7間とリターンチューブ4内に1:1,2:1又は3:1の比率で交互に介挿されている(前記の図1及び図3参照)。また、鋼球4とセラミックス球5の直径をそれぞれDs,Dcとすると、セラミックス球5と両6,7とのそれぞれの接触面に作用する接触応力が鋼球4と両ねじ溝とのそれぞれの接触面に作用する接触応力に等しくなるように、セラミックス球5の直径Dcが鋼球の直径Dcよりも小さく設定されている(前記の図5参照)。なお、ねじ軸と2個のボールナットはクロムモリブデン鋼SCM415H又はSCM420Hからなり、浸炭焼入れ及び焼戻しによって表面硬さはHRC58〜62とされている。また、鋼球4と両ねじ溝6,7との適合度をf(f=0.52〜0.58)とすると、両ねじ溝6,7の曲率半径はf・Dsとされている。
【0031】
次に、鋼球4の直径Ds〔mm〕に対するセラミックス球5の直径Dc〔mm〕の設定方法を説明する。なお、設定方法は第1実施形態と同様であるので、大略の説明は省略する。
(1)定位置予圧方式場合
この場合は、前記の定位置予圧が付与されたシングルナットボールねじの場合と同様になる。
【0032】
したがって、鋼球4の直径Ds〔mm〕、予圧荷重P0〔N〕及び軸方向荷重P1〔N〕の値が定まっておれば、前式(27−1),(27−2)又は(27−3)における“P”を
として、適用する式が成り立つようなセラミックス球5の直径Dc〔mm〕の近似値を求めればよい。
(2)定圧予圧方式の場合
この場合の予圧線図は、例えば、前掲の「ボールねじ応用技術」第63頁記載の図5.8及び図5.9に示されるようになる(転載せず。)。
したがって、鋼球4の直径Ds〔mm〕、予圧荷重P0〔N〕及び軸方向荷重P1〔N〕の値が定まっておれば、前式(27−1),(27−2)又は(27−3)における“P”を、軸方向荷重P1が作用するボールナットに対しては“P0+P1”とする。他方のボールナットに対しては“P0”とする。そして、それぞれのボールナットに対して、適用する式が成り立つようなセラミックス球5の直径Dc〔mm〕の近似値を求めればよい。
【0033】
なお、上記の実施形態では、ボール循環路の形成方式をリターンチューブ方式としたボールねじについて説明したが、こま方式、エンドキャップ方式又ガイドプレート方式としたボールねじにも適用できることは言うまでも無い。
【0034】
以上説明したように、本発明のボールねじは、外周面にねじ溝を有する鋼製のねじ軸と、ねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有する鋼製のボールナットと、両ねじ溝間に介挿されると共にボールナットに設けたボール循環路によって循環可能とされた複数個のボールとからなり、ボールとして、軸受鋼からなる鋼球と窒化けい素からなるセラミックス球とが同数又は該セラミックス球が前記鋼球よりも少ない所定の比率で隣接しながら、セラミックス球と単数又は複数の鋼球とが交互に配置されるとともに、セラミックス球と両ねじ溝とのそれぞれの接触面に作用する接触応力が鋼球と両ねじ溝とのそれぞれの接触面に作用する接触応力に等しくなるように、セラミックス球の直径が鋼球の直径よりも小さく設定されているので、下記のような作用・効果を奏する。高速送りを行っても、
(1)従来の「鋼球のみ」を介挿させたボールねじに比べて、
1.発熱量が小さくなるから、温度上昇によるねじ軸の伸びを抑制することができる。また、ボールねじに予圧が付与されている場合、ねじ軸の高速回転による温度上昇に起因する予圧量の増大を抑制することができる。したがって、所定の位置決め精度を維持することができる。
2.ボールねじ運転時の騒音が小さくなる。
3.リターンチューブ方式ボールねじの場合、リターンチューブのタング部が破損する確率が低くなる。また、ねじ軸のねじ溝に損傷が生じにくくなる。
(2)従来の「セラミックス球のみ」を介挿させたボールねじに比べて、
1.ボールねじに予圧が付与されている場合、温度上昇によってセラミックス球と両ねじ溝間に軸方向すきまを生じて予圧が抜けたとしても、鋼球と両ねじ溝間の予圧は抜けないから、所定の位置決め精度を維持することができる。また、この場合、セラミックス球はスペーサ球として機能するから、高速送り時の作動性をより良好にすることができる。なお、鋼球とセラミックス球の介挿比率を1:1とした場合は支承できる軸方向荷重が半減するから、介挿比率を2:1又は3:1にすることが好ましい。
2.寿命が長くなる。すなわち、「鋼球のみ」を介挿させたボールねじの寿命と同等になる。
3.鋼球とねじ溝とが弾性接近し始めてからセラミックス球とねじ溝とが弾性接近し始めるので、衝撃荷重が作用しても、ねじ溝に圧痕が生じにくくなる。
4.コストが廉価になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のボールねじの一実施形態を示す要部破断斜視図。
【図2】ねじ軸とボールナットのねじ溝形状、並びに、軸方向荷重が作用したときの鋼球と両ねじ溝又はセラミックス球と両ねじ溝との接触状態を示す縦断面図。なお、同図の(a)は、シングルナットで軸方向すきまをゼロとした場合若しくはオーバーサイズ球予圧方式の場合を示す。また、同図の(b)は、シングルナットで軸方向すきまを有する場合若しくはリードシフト予圧方式の場合、又は図示しないダブルナット予圧方式の場合を示す(但し、軸方向荷重を支承する側のみを図示する。)。
【図3】鋼球とセラミックス球の配置形態を示す横断面図。なお、同図の(a),(b)及び(c)は、それぞれ、鋼球とセラミックス球の介挿比率が1:1,2:1及び3:1の場合を示す。
【図4】鋼球とねじ軸のねじ溝又はセラミックス球とねじ軸のねじ溝との接触における主曲率面1,2の縦断面図。なお、同図の(a)及び(b)は、それぞれ、主曲率面1を鋼球とセラミックス球の公転方向から見た場合、及び主曲率面2を主曲率面1と直角な方向から見た場合を示す。
【図5】鋼球とねじ軸のねじ溝及びセラミックス球とねじ軸のねじ溝との接触における幾何学的関係を示す模式図。
【図6】図2(a)のオーバーサイズ球予圧方式の場合又は同図(b)のリードシフト予圧方式の場合における定位置予圧線図。
【符号の説明】
1・・・ねじ軸
2・・・ボールナット
3・・・リターンチューブ
4・・・鋼球
5・・・セラミックス球
6・・・ねじ溝
7・・・ねじ溝
Ds・・・鋼球の直径
Dc・・・セラミックス球の直径
Claims (1)
- 外周面にねじ溝を有する鋼製のねじ軸と、前記ねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有する鋼製のボールナットと、前記両ねじ溝間に介挿されると共に前記ボールナットに設けたボール循環路によって循環可能とされた複数個のボールとからなり、
前記ボールとして、軸受鋼からなる鋼球と窒化けい素からなるセラミックス球とが同数又は該セラミックス球が前記鋼球よりも少ない所定の比率で隣接しながら、該セラミックス球と単数又は複数の鋼球とが交互に配置されるとともに、
該セラミックス球と前記両ねじ溝とのそれぞれの接触面に作用する接触応力が前記鋼球と前記両ねじ溝とのそれぞれの接触面に作用する接触応力に等しくなるように、前記セラミックス球の直径が前記鋼球の直径よりも小さく設定された、
ボールねじ。
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