本発明は、光ファイバ通信、光情報処理、光ディスクなどに用いられる半導体レーザ、半導体光増幅器又は半導体光スイッチ等アクティブ素子に用いられているコーティング膜の反射率最適化を可能とする半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法に関する。
劈開した半導体レーザは劈開面が反射率0.3のミラーを自動的に形成する。この半導体レーザに電流を注入すると光利得が増加し、ロスを補償するまで駆動電流を増加させるとレーザ発振を起こす。このレーザ発振は、ロスを下げる(反射率を上げる)と低電流駆動で生じることから、半導体レーザの端面には反射率を制御する手段として誘電体薄膜(以下、コーティング膜という)のコーティングが行われている。一方、半導体レーザの両端面に反射防止(Antireflection;AR)膜をコーティングすると、端面によるファブリー・ペローモードが抑制され、半導体光増幅器又は光スイッチを作製することができる。このように、半導体レーザの端面コーティングは多機能の光素子を作製する上で必須の技術となっている。
図7に分布帰還型半導体レーザ(DFBレーザ)の一部破断した斜視図を示す。図中1は1.3μm組成InGaAsP活性層、2は1.1μm組成下部InGaAsPガイド層、3は1.1μm組成上部InGaAsPガイド層、4はp‐InPバッファー層、5はn‐InPクラッド層、6はn+‐InGaAsPキャップ層、7はp‐InP基板、8はRu添加半絶縁体(semi‐insulator;SI)‐InP電流ブロック層、9はp電極、10はn電極である。なお、1.1μm組成InGaAsPガイド層3には分布帰還(Distributed feedback)を実現する構造としてグレーティング11が作製され、単一縦モード発振を可能にしている。
図7に示す半導体レーザでは、コーティング膜として、前端面側にAR膜12、後端面側に高反射(High reflection;HR)膜13のコーティングがなされ、これによって、光出力の大きい前端面側から図示しない光ファイバへ効率良くレーザ光を結合させることが可能となっている。さらに、劈開端面が誘電体膜でコーティングされるため、劈開端面の劣化が抑制され、長期信頼性が確保される。このように、端面コーティングは半導体素子の光特性及び信頼性の観点から必須な技術となっている。
半導体レーザ端面の反射率、即ち、半導体レーザ端面にコーティングされたコーティング膜の反射率は該コーティング膜の膜厚と屈折率の2つのパラメータから決定され、適切な設計が必要とされる。しかしながら、これら2つのパラメータ(膜厚、屈折率)はコーティング膜の作製に依存し変動する。2つのパラメータが変動すると、該コーティング膜の反射率が設計値からずれてしまう。コーティング膜の反射率と設計値とのずれを修正するためには該コーティング膜の反射率の精密な測定が必要であり、測定した結果をもとに上記パラメータを設計値に近づけることが可能となる。
以下、一例として図7に示す半導体レーザの端面反射率を測定する測定法について説明する。コーティング膜の反射率は半導体レーザの光出力Pと関係があり、次の(1)式で表される。
但し、RfとRrはそれぞれ半導体レーザの前端面側反射率と後端面側反射率(図7に示す構成においては、AR膜12の反射率とHR膜13の反射率)である。コーティング前の反射率は約0.3であるので、半導体レーザ端面の反射率は各コーティング前後の前端面側光出力Pfと後端面側光出力Prの比から見積もることができる。
上記測定法で見積もられた前端面側反射率Rfと後端面側反射率Rrをもとに、コーティング膜の解析が可能となる。
まず、後端面側のHR膜13について説明する。後端面側のHR膜13はそれぞれ光学的に1/4波長の厚さの高屈折率の誘電体と低屈折率の誘電体をペアとして用いることにより実現でき、さらに、ペア数の増加はコーティング膜の反射率を増加させる(例えば、非特許文献1参照)。一例として1ペアの高屈折率(例えば、屈折率2.3)のTiO2膜と低屈折率(例えば、屈折率1.45)のSiO2膜を使い、波長λ=1310nmのレーザ光に対する該HR膜13の反射率Rrを計算すると0.61程度となる。
コーティング膜の反射率は既に述べたように膜厚と屈折率に依存して変化する。一般的にコーティングに使用する誘電体は安定な物質であり、上記誘電体の屈折率変動はほとんどない。この理由から、コーティング膜の反射率の設計値からのずれはコーティング膜の膜厚が設計値からずれたことによるものであることがわかる。
図8に、波長1310nmのレーザ光を用いた場合におけるTiO2膜厚dTiO2-xとSiO2膜厚dSiO2-xのそれぞれの膜厚の設計値である設計膜厚dTiO2-0とdSiO2-0からのずれ(以下、それぞれTiO2膜厚のずれ、SiO2膜厚のずれという)(dTiO2-x−dTiO2-0)と(dSiO2-x−dSiO2-0)に伴うHR膜13の反射率、即ち後端面側反射率Rrの変化(計算値)を示す。
図8に示すように、TiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)が±10nmの範囲であれば反射率Rrは0.60以上0.61以下となり、HR膜では膜厚の設計値からのずれに対する反射率の変化は小さい。しかしながら、膜厚のトレランスが大きいことは、反射率の測定値から膜厚のずれを見積もることを困難にする。
次に、前端面側のAR膜12について説明する。前端面側のAR膜12は(1)式を用いた測定法では、前端面側反射率Rfが数%以下になると前端面側光出力Pfの増加は小さくなり、精度よく前端面側反射率Rfを見積もることは困難になる。そこで、前端面側反射率Rfが数%以下の場合においては、レーザ発振前の波長スペクトルのリップル測定が行われる。リップルの最大値と最小値の比をmとすると、利得Gと反射率Rf、Rrの関係は以下の(2)式のようになる。
as-cleaved素子では前端面側反射率Rfと後端面側反射率Rrはそれぞれ0.3であることから、閾値電流以下の電流でリップルの最大値と最小値の比mを測定することにより利得Gを見積もることができる。次に、AR膜12のコーティング後、同電流で測定されたリップルの最大値と最小値の比mと、AR膜12のコーティング前に測定した利得Gを使い、前端面側反射率Rfを見積もることができる。
反射率を0.1%程度に下げるには、一層からなるAR膜に比べ屈折率制限のない二層からなるAR膜が適している。一例として低屈折率(例えば、屈折率1.45)のSiO2膜と高屈折率(例えば、屈折率2.3)のTiO2膜を使い、波長1310nmの光を用いた場合における、最低となる前端面側反射率Rfを計算すると、0.0002以下となる。
図9に、波長1310nmの光を用いた場合におけるSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)に対するAR膜の反射率、即ち前端面側反射率Rfの変化(計算値)を示す。
図9に示すように、それぞれの膜厚が設計値から10nm程度ずれた場合、前端面側反射率RfはTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)がそれぞれ0である場合に比べて10倍以上増加している。また、前端面側反射率RfはSiO2膜厚dSiO2-x、TiO2膜厚dTiO2-xに対してほぼ同心円状に変化している。従って、仮にリップル測定法により前端面側反射率Rf=0.0005と見積もられたとすると、作製されたコーティング膜のSiO2膜厚dSiO2-x、TiO2膜厚dTiO2-xがそれぞれの設計値dSiO2-0、dTiO2-0に対してどのようにずれているか判別することはできない。
一般的に、ファブリ・ペロー型半導体レーザの場合、(1)式と(2)式を用いることにより、前端面側反射率Rfと後端面側反射率Rrを見積もることができる。しかしながら、上述したように、DFBレーザではグレーティング構造を持ち、前端面側反射率Rfは0.1%程度になることから、ファブリ・ペロー型半導体レーザと同様な方法で前端面側反射率Rfを見積もることは困難である。
このように例えば図7に示すような半導体レーザにおいて、該半導体レーザ端面の反射防止/高反射を実現するにはコーティング膜の膜厚制御が重要であり、特にAR膜12では従来の光パワーの比を用いた測定方法で前端面側反射率Rfを精度よく見積もることは容易ではなかった。二つ目に、図8に示したように、HR膜13では膜厚のずれによる後端面側反射率Rrの変化が小さいため、後端面側反射率Rrの測定値から膜厚のずれを見積もることは困難であった。三つ目に、AR膜では、特に、DFBレーザのグレーティング特性が現れるため、AR膜12をコーティングした半導体レーザ端面の反射率測定は困難であった。最後に、波長スペクトルのリップルを使った測定では、設計波長近傍であることから、図8及び図9に示したように、反射率の変化に対してSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)の関係が同心円状の膜厚のずれの解として現れ、膜厚の設計値である設計膜厚との差を判定することはできなかった。
なお、上記のように半導体レーザの特性から反射率を求める方法以外に、モニタ用ウエハにコーティング膜を作製し、その反射パワーを測定し、反射率を見積もる方法がある。しかしながら、半導体レーザ端面の光出射領域とモニタウエハの等価屈折率が異なるため、異なった反射率特性を示すことになる。従って、測定する領域は半導体レーザの光出射端面である必要がある。
本発明はこのような課題を解決するものであり、半導体素子端面の反射率を精度よく測定するとともに、測定値に基づいて該半導体素子端面の反射率をより設計値に近づけた半導体レーザ、半導体光増幅器又は半導体光スイッチ等アクティブ素子を得ることを可能とする半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するための第1の発明に係る半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法は、第一の薄膜および第二の薄膜を備え、半導体素子の光出射端面に設けられて該光出射端面における反射率を決定する誘電体薄膜の膜厚評価方法であって、前記誘電体薄膜に前記半導体素子の光出射端面外部から励起光を照射し、前記半導体素子の出射端面を透過した光によって生成された光励起電流を測定し、前記光励起電流の測定値に基づいて前記誘電体薄膜が設計膜厚である場合に対する前記光励起電流の変動率を算出し、前記光励起電流の変動率の算出結果と、予め参考値として計算した前記第一の薄膜の設計膜厚と実際の膜厚のずれ及び前記第二の薄膜の設計膜厚と実際の膜厚のずれに対する前記変動率の関係とを比較し、前記光励起電流の変動率の正負に応じて前記第一の薄膜の実際の膜厚と前記第二の薄膜の実際の膜厚の取り得る領域を決定することを特徴とする。
第2の発明に係る半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法は、第1の発明において、前記励起光の波長として、前記誘電体薄膜の反射率が波長の変化に対して0.1%/nm以上又は−0.1%/nm以下変動する波長帯の波長を用いることを特徴とする。
第3の発明に係る半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法は、第1又は第2の発明において、前記光励起電流の変動率の算出結果と、前記参考値と、予め計算した前記第一の薄膜の設計膜厚と実際の膜厚のずれ及び前記第二の薄膜の設計膜厚と実際の膜厚のずれに対する前記光出射端面における前記励起光の波長での反射率の関係とを比較し、前記第一の薄膜の実際の膜厚と前記第二の薄膜の実際の膜厚の取り得る領域を決定することを特徴とする。
第4の発明に係る半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚最適化方法は、第1乃至第3のいずれかの発明に係る半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法によって得られた前記第一の薄膜の実際の膜厚と前記第二の薄膜の実際の膜厚の取り得る領域に基づいて前記第一の薄膜の実際の膜厚と前記第二の薄膜の実際の膜厚を導出し、導出した結果に基づいて前記第一の薄膜の膜厚及び前記第二の薄膜の膜厚が設計膜厚となるように調整することを特徴とする。
上述した本発明に係る半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法によれば、半導体レーザの光出射端面の高反射又は反射防止コーティング膜、さらに、半導体光増幅器又は半導体光スイッチ等アクティブ素子の光出射端面の反射防止コーティング膜の最適化に関して、励起波長光源を用いた光励起電流の測定を行い、光励起電流の変動率の正負に応じて第一の薄膜と第二の薄膜の実際の膜厚と設計膜厚とのずれが存在する領域を決定することにより、第一の薄膜と第二の薄膜の実際の膜厚を設計膜厚に近づけるプロセスを短縮できる。
さらに、光励起電流の変動率の算出結果と、第一の薄膜の設計膜厚と実際の膜厚のずれ及び第二の薄膜の設計膜厚と実際の膜厚のずれに対する光励起電流の変動率の関係と、第一の薄膜の設計膜厚と実際の膜厚のずれ及び第二の薄膜の設計膜厚と実際の膜厚のずれに対する光出射端面における前記励起光の波長での反射率の関係とを比較し、第一の薄膜の実際の膜厚と第二の薄膜の実際の膜厚の取り得る領域を決定するようにすれば、取り得る膜厚の解を2又は1点に絞ることができ、設計膜厚に近づけるプロセスを更に短縮できる。
本発明の実施の形態について図を用いて説明する。本実施形態は、半導体レーザ等の光出射端面の高反射率/低反射率のコーティング膜の膜厚の最適化を可能とする半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法であって、従来のコーティング膜の光学的な反射特性に加えて新たに光励起電流特性を考慮するものであり、コーティング膜の膜厚最適化に係る工程を短縮することができる。以下、本発明を半導体レーザに適用した例について説明する。
図10(a)に誘電体薄膜としてのHR膜の反射率の波長依存性(計算値)、図10(b)に他の誘電体薄膜としてのAR膜の反射率の波長依存性(計算値)をそれぞれ示す。両図に示すように、HR膜の反射率、AR膜の反射率ともに、設計波長1310nmから離れていくと反射率が大きく変化する領域がある。
また、図11にHR膜とAR膜のdR/dλの波長依存性(計算値)を示す。図11に示すように、コーティング膜のdR/dλの絶対値が0.1%/nm以上となる領域としては、HR膜では波長820〜1080nmの波長帯等、AR膜では510〜650nmの波長帯等がある。なお、dR/dλは波長の変化に対する反射率の変動率である。
これらの波長帯では、図10(a)及び図10(b)に示したように、膜厚のずれ、即ち実際の膜厚と設計値との差によって生じる反射率の変化も大きくなっている。従って、励起光源として上述した波長帯の光を半導体レーザ外部から該半導体レーザの光出射端面に照射し、端面を透過した光によって生成された光励起電流を測定すると、反射率(透過率)の差を反映し光励起電流が大きく変動し、微小な反射率変動を膜厚のずれとして高精度に見積もることができる。
従って、本実施形態においては、HR膜の反射率測定のため、上述したコーティング膜のdR/dλの絶対値が0.1%/nm以上となるとともに膜厚のずれによって生じる反射率の変化が大きい波長820〜1080nmの波長帯の範囲から、一例として波長940nmの光を励起光源として半導体レーザの光出射端面に照射し、その結果生じる光励起電流を測定し、膜厚のずれを判定する。
また、AR膜の反射率測定のため、上述したコーティング膜のdR/dλの絶対値が0.1%/nm以上となるとともに膜厚のずれによって生じる反射率の変化が大きい波長510〜650nmの波長帯の範囲から、一例として波長600nmの光を励起光源として半導体レーザの光出射端面に照射し、その結果生じる光励起電流を測定し、膜厚のずれを判定する。
さらに、本実施形態の光励起電流測定から見積もった反射率の解を従来のリップル測定から見積もった反射率の解と比較することにより、該当し得る解を2又は1点に絞り込むものである。
本実施形態に係る半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法によれば、半導体素子端面の反射率を精度よく測定することができるとともに、測定値に基づいて該半導体素子端面の反射率をより設計値に近づけることができる。
以下、図1乃至図3を用いて本発明の第1の実施例を詳細に説明する。本実施例においてはコーティング膜として1ペアの第一の薄膜としての高屈折率(例えば、屈折率2.3)のTiO2膜と第二の薄膜としての低屈折率(例えば、屈折率1.45)のSiO2膜からなるHR膜を使い、設計波長1310nmで最大反射率となるように、TiO2膜とSiO2膜の設計膜厚dTiO2-0とdSiO2-0を、それぞれ142.39と225.86nmとした。
図1に、HR膜の膜厚のずれによって反射率Rが大きく変動する波長として940nmを用いた場合における、TiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)によるHR膜の反射率Rの変化(計算値)を示す。図1に示すように、本実施例にあっては、TiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)の値が±10nmの範囲において、HR膜の反射率が0.15〜0.39の範囲で変化している。
HR膜の反射率としてある一定値を付与する可能性のあるTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)の関係はライン状の軌跡となり、TiO2膜厚dTiO2-xとSiO2膜厚dSiO2-xが増加・減少するに従い、HR膜の反射率はそれぞれ減少・増加している。また、図1に示す波長940nmの励起光源を用いた場合のTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)が±10nmの範囲における反射率変動は、図8に示した波長1310nmのレーザ光を用いた場合と比べ、一桁以上反射率の変動が大きくなっている。
図2にHR膜の膜厚が設計値である場合、即ち、TiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)がそれぞれ0である場合の光励起電流(以下、設計値の光励起電流という)を基準にして、TiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)に対する光励起電流の変動率を計算した結果を示す。反射率変動を反映して、半導体レーザ端面の透過光が変動すると、半導体に吸収される光励起電流が変化する。設計値の光励起電流Iphは以下に示す(3)式で表される。
ここで、Rは反射率、ηは量子効率、qは電子電荷、hはプランク定数、νは周波数、Γは光閉じ込め係数、α0は内部損失、Pi(x)はパワーである。パワーPi(x)は以下の(4)式で表される。
なお、Pi0は入射パワーである。
図2に示すように、本実施例にあっては、TiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)が±10nmの範囲において、光励起電流の変動率が−16%〜16%の範囲で変化しており、TiO2膜厚dTiO2-xとSiO2膜厚dSiO2-xが増加・減少するに従い、光励起電流は、それぞれ増加・減少している。
例えば、図2中(a)点においては矢印の方向、即ち、SiO2膜厚dSiO2-xを減少させるとともにTiO2膜厚dTiO2-xを増加させることにより、HR膜の膜厚を設計膜厚に近づけることができる。また、(b)点においては矢印の方向、即ちSiO2膜厚dSiO2-x及びTiO2膜厚dTiO2-xを減少させることにより、HR膜の膜厚を設計膜厚に近づけることができる。また、(c)点においては矢印の方向、即ちSiO2膜厚dSiO2-xを増加させるとともにTiO2膜厚dTiO2-xを減少させることにより、HR膜の膜厚を設計膜厚に近づけることができる。
図2に示すように、dTiO2-x−dTiO2-0=0のラインとdSiO2-x−dSiO2-0=0のラインを境界として4つの領域(I)〜(IV)に分ける。即ち、領域(I)、(II)、(III)と(IV)はそれぞれ(i)dTiO2-x−dTiO2-0<0とdSiO2-x−dSiO2-0>0、(ii)dTiO2-x−dTiO2-0>0とdSiO2-x−dSiO2-0>0、(iii)dTiO2-x−dTiO2-0<0とdSiO2-x−dSiO2-0<0、(iv)dTiO2-x−dTiO2-0>0とdSiO2-x−dSiO2-0<0の領域となる。
ここで、光励起電流の変動率が正の場合と負の場合に注目すると、光励起電流の変動率が正の場合、TiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)は領域(I)、(II)と(IV)に分布することがあるが、領域(III)に分布することはない。一方、光励起電流の変動率が負の場合、TiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)は領域(I)、(III)と(IV)に分布することがあるが、領域(II)に分布することはない。
つまり、光励起電流の変動率が正の場合と負の場合とでは、SiO2膜厚dSiO2-x及びTiO2膜厚dTiO2-xをそれぞれ設計膜厚に近づけるために、それぞれ、SiO2膜厚dSiO2-x/TiO2膜厚dTiO2-xを、増加/増加と減少/減少にする解はないことを示している。
図3に本実施例における光励起電流測定装置の概略構成図を示す。14は励起光源、15はビームスプリッタ、16はパワーメータ、17はガルバノメータ、18はリレーレンズ、19はミラー、20は測定試料、21は光励起電流測定器、22はコンピュータである。本実施例においては、測定試料20としてレーザダイオード(LD)を用いた。LD端面にはコーティング膜が形成され、その表面上に励起光源14からの光を照射する。LDは表面と裏面に電極を有しそれぞれからの配線を光励起電流測定器21に接続することにより光励起電流を測定する。
本実施例において、励起波長光源940nmを用い、LD光出射端面の光励起電流を測定したところ、標準試料の光励起電流に比べ4%増加した。つまり、図2に示す領域(I)、(II)と(IV)にある4%のライン状軌跡に実際のTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)の関係を満たす可能性のある解があり、このライン状軌跡のどこかに実際の設計膜厚とのずれが存在する。これは、SiO2膜厚dSiO2-x/TiO2膜厚dTiO2-xを図2中(a)に示すように減少/増加するように変化させる、(b)に示すように減少/減少するように変化させる、又は、(c)に示すように増加/減少するように変化させることにより、HR膜の膜厚を設計膜厚に近づけることができることを示している。
このように領域(III)を排除した結果、残る領域(I)、(II)、(IV)それぞれに基づいて膜厚の最適化を行った。まず、領域(I)に基づいて設計膜厚に近づけるようにSiO2膜厚dSiO2-xを減少させTiO2膜厚dTiO2-xを増加させた結果、設計膜厚に相当する結果は得られなかった。次に、領域(II)に基づいて設計膜厚に近づけるようにSiO2膜厚dSiO2-xを減少させTiO2膜厚dTiO2-xを減少させた結果、設計膜厚に相当する結果は得られなかった。最後に、領域(IV)に基づいて設計膜厚に近づけるようにSiO2膜厚dSiO2-xを増加させTiO2膜厚dTiO2-xを減少させた結果、設計膜厚に相当する結果が得られた。この設計膜厚が得られた条件でLD端面にHR膜を形成した結果、波長1310nmの光に対する反射率が0.61という良好なLD特性が得られた。
以上のように、本実施例による励起波長光源を用いた光励起電流測定により、光励起電流の変動率が正の場合と負の場合において、TiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)がそれぞれ領域(III)と領域(II)に存在する可能性を排除でき、コーティング膜の膜厚を設計膜厚に近づけるプロセスを短縮できる。なお、本実施例では設計波長として1310nmを用いたが、他の波長を用いても同様の効果が得られることは明らかである。
以下、図4乃至図6を用いて本発明の第2の実施例を詳細に説明する。本実施例においては、コーティング膜として1ペアの低屈折率(例えば、屈折率1.45)のSiO2膜と高屈折率(例えば、屈折率2.3)のTiO2膜からなるAR膜を使い、波長1310nmで最小反射率となるように、SiO2膜とTiO2膜の設計膜厚dSiO2-0とdTiO2-0を、それぞれ168.86と101.67nmとした。
図4にAR膜の膜厚のずれによって反射率が大きく変動する波長の一例として600nmの光を用いた場合における、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)によるAR膜の反射率の変化(計算値)を示す。図4に示すように、本実施例にあっては、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)の値が±10nmの範囲において、AR膜の反射率が0.06〜0.18の範囲で変化している。
AR膜の反射率としてある一定値を付与する可能性のあるSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)の関係はライン状の軌跡となり、SiO2とTiO2の膜厚が増加・減少するに従い、AR膜の反射率は、それぞれ、増加・減少している。また、図4に示す波長600nmの励起光源を用いた場合のSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)が±10nmの範囲における反射率変動は、図9に示した波長1310nmの場合と比べ、一桁以上反射率の変化が大きくなっている。
図5に、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)がそれぞれ0である場合の設計値の光励起電流を基準にして、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)に対して光励起電流の変動率を計算した結果を示す。反射率変動を反映して、LD端面の透過光が変動し、その結果、半導体に吸収される光励起電流が変化する。
図5に示すように、本実施例にあっては、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)の値が±10nmの範囲において、光励起電流の変動率が6%〜−8%の範囲で変化しており、TiO2膜厚dTiO2-xとSiO2膜厚dSiO2-xが増加・減少するに従い、光励起電流は、それぞれ、減少・増加している。
図5において、dSiO2-X−dSiO2-0=0のラインとdTiO2-X−dTiO2-0=0のラインを境界として4つの領域(I)〜(IV)に分ける。即ち、領域(I)、(II)、(III)と(IV)はそれぞれ(i)dSiO2-X−dSiO2-0<0及びdTiO2-X−dTiO2-0>0、(ii)dSiO2-X−dSiO2-0>0及びdTiO2-X−dTiO2-0>0、(iii)dSiO2-X−dSiO2-0<0及びdTiO2-X−dTiO2-0<0と(iv)dSiO2-X−dSiO2-0>0及びdTiO2-X−dTiO2-0<0の領域となる。
ここで、光励起電流の変動率が正の場合と負の場合に注目すると、光励起電流の変動率が正の場合、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)の値は領域(I)、(III)と(IV)に分布することがあるが、領域(II)に分布することはない。一方、光励起電流の変動率が負の場合、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)の値は領域(I)、(II)と(IV)に分布することがあるが、領域(III)に分布することはない。
つまり、光励起電流の変動率が正の場合と負の場合とでは、TiO2膜厚dTiO2-xとSiO2膜厚dSiO2-xを設計膜厚に近づけるために、それぞれ、TiO2膜厚dTiO2-X/SiO2膜厚dSiO2-Xを、減少/減少及び増加/増加にする解はないことを示している。
本実施例において、図3に示し上述した光励起電流測定系を用い、励起波長光源600nmとして、LD光出射端面の光励起電流を測定したところ、標準試料の光励起電流に比べ2%増加した。つまり、図5に示す領域(I)、(III)と(IV)にある2%のライン状軌跡に実際のSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)の関係を満たす可能性のある解があり、このライン状軌跡のどこかに実際の設計膜厚とのずれが存在する。これはTiO2膜厚dTiO2-x/SiO2膜厚dSiO2-xを、図5の(d)に示すように減少/増加するように変化させる、(e)に示すように増加/増加するように変化させる、又は、(f)に示すように増加/減少するように変化させることにより、AR膜の膜厚を設計膜厚に近づけることができることを示している。
図6に本発明に係る設計値の光励起電流を基準にした場合における、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)による光励起電流の変動率特性(計算値)(図6中実線で示す)、及び、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)によるAR膜の反射率(波長1310nm)の変化(計算値)(図6中破線で示す)を示す。
リップルの測定から設定波長を1310nmとした場合の反射率は0.0005であった。これにより、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)の解は図6に示す反射率0.0005の同心円状軌跡上にあることがわかる。また、波長600nmの光励起電流測定から、SiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)の解は2%のライン状軌跡上にある。従って、反射率0.0005の同心円と光励起電流の変動率2%のラインが交わる点(A)と点(B)は双方を満足する点であり、どちらかの点が実際のSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)である。これは、TiO2膜厚dTiO2-x/SiO2膜厚dSiO2-xを(A)減少/増加又は(B)増加/減少の方法により、設計膜厚に近づけることができることを意味している。
このように領域(II)と(III)を排除し、領域(I)にある点(A)、領域(IV)にある点(B)それぞれに基づいて膜厚の最適化を行った。まず、点(A)に基づいて設計膜厚に近づけるようにSiO2膜厚dSiO2-xを減少させTiO2膜厚dTiO2-xを増加させた結果、設計膜厚に相当する結果は得られなかった。一方、点(B)に基づいて設計膜厚に近づけるようにSiO2膜厚dSiO2-xを増加させTiO2膜厚dTiO2-xを減少させた結果、設計膜厚に相当する結果が得られた。この設計膜厚が得られた条件でLD端面にAR膜を形成した結果、設定波長1310nmにおける反射率が0.0002という良好な特性が得られた。
以上のように、本発明による励起波長光源を用いた光励起電流測定により、光励起電流の変動率が正の場合と負の場合とで、それぞれ領域(II)と領域(III)を排除でき、コーティング膜の膜厚を設計膜厚に近づけるプロセスを短縮できる。さらに、本発明の光励起電流測定から見積もった反射率の解を従来のリップル測定から見積もった反射率の解に取り込むことにより、取り得る解を2又は1点(本実施例では2点)に絞り込むことができ、コーティング膜の膜厚を設計膜厚に近づけるプロセスを更に短縮できる。
なお、本実施例においては設計波長として1310nmを用いたが、他の波長を用いても同様の効果が得られることは明らかである。また、本実施例ではAR膜コーティングを施す半導体素子として半導体レーザを用いたが、半導体光増幅器又は半導体光スイッチ等アクティブ素子を用いても同様の効果が得られることは明らかである。
本発明は、光ファイバ通信、光情報処理、光ディスクなどに用いられる半導体レーザ、半導体光増幅器又は半導体光スイッチ等アクティブ素子に用いられているコーティング膜の反射率最適化を可能とする半導体素子端面の誘電体薄膜膜厚評価方法に適用して好適なものである。
本発明の実施例1における励起光の波長を940nmとした場合のTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)に対するHR反射率(計算値)を示すグラフである。
本発明の実施例1における励起光の波長を940nmとした場合のTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)に対する光励起電流の変動率(計算値)を示すグラフである。
本発明の実施例1に係る光励起電流測定装置の概略構成図である。
本発明の実施例2における励起光の波長を600nmとした場合のSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)に対するAR反射率(計算値)を示すグラフである。
本発明の実施例2における励起光の波長を600nmとした場合のSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)に対する光励起電流の変動率(計算値)を示すグラフである。
本発明の実施例2における励起光の波長を600nmとした場合のSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)に対する光励起電流の変動率(計算値)及び反射率を示すグラフである。
分布帰還型半導体レーザ(DFBレーザ)を一部破断して示す斜視図である。
設定波長1310nmとした場合のTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)とSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)に対するHR反射率(計算値)を示すグラフである。
設定波長1310nmとした場合のSiO2膜厚のずれ(dSiO2-x−dSiO2-0)とTiO2膜厚のずれ(dTiO2-x−dTiO2-0)に対するAR反射率(計算値)を示すグラフである。
図10(a)はHR膜の反射率の波長依存性を示すグラフ、図10(b)はAR膜の反射率の波長依存性を示すグラフである。
HR膜及びAR膜の波長の変化に対する反射率の変動率の波長依存性を示すグラフである。
符号の説明
1 1.3μm組成InGaAsP活性層
2 1.1μm組成下部InGaAsPガイド層
3 1.1μm組成上部InGa AsPガイド層
4 p‐InPバッファー層
5 n‐InPクラッド層
6 n+‐InGaAsPキャップ層
7 p‐InP基板
8 Ru添加SI‐InP電流ブロック層
9 p電極
10 n電極
11 グレーティング
12 反射防止(AR)膜
13 高反射(HR)膜
14 励起光源
15 ビームスプリッタ
16 パワーメータ
17 ガルバノメータ
18 リレーレンズ
19 ミラー
20 測定試料
21 光励起電流測定器
22 コンピュータ