JP4827330B2 - レーダ波浪測定方法及び装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーダのシークラッタ信号を収集し、フーリエ変換処理を施して、波長、波速、波向き、波高等の波浪の特性を測定するレーダによる波浪測定方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、パルスレーダを使用して、海面からのレーダ反射信号を利用して波浪の特性、例えば波長、波速、波向き、波高等を測定することが行われている。
【0003】
例えば、海面からのレーダ反射信号の最初の画面の2次元FFT演算出力と次の画面の2次元FFT演算出力とから2画面のクロススペクトル演算を行い、そのクロススペクトルから振幅情報と位相情報を求め、この求めた振幅情報と位相情報に基づいて、波浪の各特性を求める波浪レーダ観測方式が、特公平2−30674号公報(以下、文献1)に示されている。
【0004】
また、連続する多数枚(例、32枚)のレーダ画像を3次元フーリエ変換して、波浪の各特性を求めることが、ESTIMATION OF SEA STATE DIRECTIONAL SPECTRA BY USING MARINE RADAR IMAGING OF SEA SURFACE,Proceedings of ETCE/OMAE 2000 February14-17,2000,NewOrleans,LA(以下、文献2)に示されている。この文献2における処理概要は、図3に示されるように、レーダ31でシークラッタを取得し、レーダ信号集録手段32に連続する32スキャンのレーダ信号を記録する。次に、3次元FFT手段33で32スキャン分のレーダ信号を極座標から直角座標に変換し、3次元FFT処理を行い、3次元スペクトラムI(k、ω)を得る。次に、波浪スペクトル推算手段34において、計算された3次元スペクトラムI(k、ω)を、分散関係式ω2=gkに当てはめることによりフィルタリングし、雑音を除去して、本来の波に関する3次元スペクトラムF(k、ω)だけを抽出する。そして、シーステート解析手段35で、抽出された3次元スペクトラムF(k、ω)を用いて、波長、波速、波向き、波高等の波浪情報を算出する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の文献1の波浪レーダ観測方式では、2画面のクロススペクトルから求めた振幅情報と位相情報から直接波浪の各特性を求めるから、クロススペクトルに含まれる雑音成分による悪影響を受けることは避けられず、特に荒天下での測定ではその影響が大きくなってしまう。
【0006】
また、文献2の方式では、分散関係式を用いて3次元スペクトラムI(k、ω)をフィルタリングしているから、雑音成分の多くが除去されるが、そのために連続する多数スキャンのレーダ信号を必要とする。このため、陸上設置のレーダであれば、近くのレーダやレーダビーコン、その他の電波源の干渉を受けた場合には、観測結果に悪影響を受けることになる。また、船上のレーダの場合には、電波の干渉の外に、船体の動揺や旋回により画像が歪む等の悪影響を受けることになってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、レーダによる波浪測定において、連続する多数スキャンのレーダ反射信号を不要とし、連続する2スキャンのレーダ反射信号から精度よく、波長、波速、波向き、波高等の波浪情報を得ることができる、レーダによる波浪測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係るレーダ波浪測定方法は、干渉がないと判断された2スキャンのレーダデータをそれぞれ2次元フーリエ変換し、このそれぞれ2次元フーリエ変換した2スキャン分のレーダデータの2次元クロススペクトルを演算し、この2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを求め、
この2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを、位相スペクトルに基づいて計算された計算波速が波速関係式から求まる理論波速に整合するか否かにしたがって通過或いは阻止するようにフィルタリングし、
フィルタリングされた2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを用いて、波浪情報を算出する際に、
フィルタリングされた2次元クロススペクトルのスペクトルピーク点に基づいて波長及び波向きを算出し、さらにそのピーク点に対応する位相スペクトルに基づいて波速を算出するとともに、
フィルタリングされる前の振幅スペクトルの総和Wを算出し、フィルタリングされた2次元クロススペクトルの振幅スペクトルのピーク点及びその周囲所定範囲の振幅スペクトルの和Sを算出し、その振幅スペクトルの和Sと、前記振幅スペクトルの総和Wから振幅スペクトルの和Sを引いた値W−Sとの比から、予め求めておいた回帰係数を用いた回帰式により波高値を求める、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項に係るレーダ波浪測定装置は、順次入力される連続する2スキャン分のレーダデータを記録するレーダ信号集録手段と、
前記2スキャン分のレーダデータに他の電波源からの干渉の有無を検出し、干渉がある場合にはそのレーダデータを廃棄するレーダ干渉検出手段と、
前記レーダ干渉検出手段で干渉がないと判断された、前記2スキャンのレーダデータをそれぞれ2次元フーリエ変換し、この2次元フーリエされたデータから2次元クロススペクトルを演算し、この2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを求める2次元演算手段と、
前記2次元クロススペクトルの振幅スペクトルのピーク値に対応する位相スペクトルに基づいて波速を計算し、この計算された計算波速が波速関係式から求まる理論波速に整合するか否かにしたがって、その位相スペクトル及び対応する振幅スペクトルを通過或いは阻止させるフィルタリングを行う波浪スペクトル推算手段と、
前記波浪スペクトル推算手段でフィルタリングされた2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを用いて、波浪情報を算出するシーステート解析手段を有し、
前記波浪スペクトル推算手段でフィルタリングされた2次元クロススペクトルのスペクトルピーク点に基づいて波長及び波向きを算出し、さらにそのピーク点に対応する位相スペクトルに基づいて波速を算出するとともに、
前記波浪スペクトル推算手段でフィルタリングされる前の振幅スペクトルの総和Wを算出し、前記シーステート解析手段で2次元クロススペクトルの振幅スペクトルのピーク点及びその周囲所定範囲の振幅スペクトルの和Sを算出し、その振幅スペクトルの和Sと、前記振幅スペクトルの総和Wから振幅スペクトルの和Sを引いた値W−Sとの比から、予め求めておいた回帰係数を用いた回帰式により、波高値を求める、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項に係るレーダ波浪測定装置は、請求項記載のレーダ波浪測定装置において、前記2次元演算手段から出力される2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを、所定回数分の平均をとって、前記波浪スペクトル推算手段に入力することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項に係るレーダ波浪測定装置は、請求項記載のレーダ波浪測定装置において、波の2次元クロススペクトルの振幅スペクトルのピーク値が複数ある場合には、それぞれ各ピーク点及びその周囲所定範囲の振幅スペクトルの和S1,S2・・・を算出し、各波高値Wh1、Wh2・・・を、Wh1=A+B×{S1/(W−S1ーS2・・・)}、Wh2=A+B×{S2/(W−S1ーS2・・・)}・・・により求めることを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るレーダ波浪測定装置の概略ブロック構成を示す図であり、図2はそのフローチャートである。
【0017】
本発明では、それぞれ2次元フーリエ変換した2スキャン分のレーダデータの2次元クロススペクトルを演算し、この2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを求め、その位相スペクトルに基づいて計算された計算波速が、波速関係式から求まる理論波速に整合するか否かにしたがって、当該位相スペクトル及びその対応する振幅スペクトルを通過させるフィルタリングを行い、フィルタリングされた2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを用いて、波高、波長、波速、波向き等の波浪情報を算出する。
【0018】
このように、本発明では、波速関係式から求まる理論波速に整合するように、位相スペクトル及び振幅スペクトルをフィルタリングすることにより雑音による成分は除去されるから、連続する多数スキャンのレーダ反射信号を不要とし、また、2スキャンのレーダ反射信号から精度よく、波長、波速、波向き、波高等の波浪情報を得ることができる。
【0019】
図1のレーダ波浪測定装置の概略ブロック構成図において、レーダ11は一般的な船舶用のパルスレーダでよく、海面反射信号を受信し、増幅・検波して、必要な距離分解能に合致した周期でサンプリングし、A/D変換する。なお、このレーダ波浪測定装置の各手段は、コンピュータを使用してソフトウエアにより実施されることになる。
【0020】
レーダ信号集録手段12は、レーダ11で取得したレーダデータを連続する2スキャン分記録する。
【0021】
レーダ干渉検出手段13では、レーダ信号集録手段12に記録されたレーダデータが、他のレーダやレーダビーコンなどの他の電波源による電波干渉を受けていないかどうかを検出する。干渉をうけている場合には、そのスキャンのレーダデータを廃棄し、干渉を受けていない連続する2スキャンのレーダデータが、2次元演算手段14に供給されるようにする。
【0022】
このレーダ干渉検出手段13における電波干渉の有無は、種々の検出方法があるが、1つの方法としてデータのレベルが通常レベルを超えている場合に干渉と見なすことができる。例えば、極座標の距離方向のデータを加算し、通常の信号レベルを超えている場合に、干渉とする。通常の信号レベルとは、例えば8ビットのA/D変換器を使用している場合には、0〜255の値をとるが、64近辺の値とする。
【0023】
2次元演算手段14では、電波干渉を受けていない連続する2スキャンのレーダデータを受けて、まず、近距離ほど受信レベルが大きいので距離方向の強度補正を行い、レーダデータを極座標から直交座標に座標変換する。なお、海面の監視範囲を決めるために、レーダデータを例えば正方形状(辺の長さD)に切り出す。この切り出しは、座標変換時でもよく、またそれ以前に行ってもよい。
【0024】
座標変換されたレーダデータを、スキャン毎に2次元フーリエ変換(以後、2次元FFT、とする)し、そのクロススペクトルP(k,l)を求める。さらに、この2次元クロススペクトルP(k,l)の各ポイント毎の振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφを算出する。
【0025】
平均化手段15では、2次元演算手段14から供給される2次元クロススペクトルP(k,l)の各ポイント毎の振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφを所定回数N(例えば32回)だけ加算し除算して、振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφの平均値を求める。この平均化の処理は、連続する2スキャンのデータを入力しながら処理が行われるので、電波干渉がない場合にはN+1スキャンのデータを平均することになる。この平均化により、振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφの2次元クロススペクトルP(k,l)毎の値のばらつきが吸収されるから、以後の演算・解析が安定して行われることになる。
【0026】
波浪スペクトル推算手段16では、まず、平均化された2次元クロススペクトルP(k,l)から振幅スペクトルSaのピーク値を求める。このピーク点の位相スペクトルSφに対応する位相をφとすると、計算波速Wvcは、式(1)により求められる。
【0027】
【数1】
Figure 0004827330
【0028】
但し、Dは辺の長さ、k、lは二次元クロススペクトル上の波数、Tはレーダのスキャン時間である。
【0029】
一方、波の性質から波速関係式により決定される理論波速Wvt は、式(2)により、求められる。
【0030】
【数2】
Figure 0004827330
【0031】
但し、Wlは、波長である。
【0032】
なお、この理論波速を決める波速関係式は、次のようにして求められる。一般に波の分散関係式は、式(3)で表される。
【0033】
【数3】
Figure 0004827330
【0034】
ここで、dは水深、kvは波数ベクトル、Uは表面の流れである。水深が深くなるとtanh()の項はなくなり、U=0の場合は、分散関係式は、式(4)になる。
【0035】
【数4】
Figure 0004827330
【0036】
この分散関係式ωに、波速の一般式Wvt =ω/kvを適用し、ωを消去すると、kv=2π/Wl だから、式(2)が求められる。
【0037】
このように、一方では、計算波速Wvcが、ピーク点の振幅スペクトルに対応する位相スペクトルSφ、その二次元クロススペクトル上の波数により計算され、他方では、理論波速Wvt が波長、言い換えれば二次元クロススペクトル上の波数により計算される。
【0038】
したがって、ピーク点の振幅スペクトル及びそれに対応する位相スペクトルSφが本来の波によるものであるか、或いは雑音によるものであるかは、計算波速Wvcが理論波速Wvt に整合するか否かによって、決定することができる。この整合の程度は、計算波速Wvcが理論波速Wvt に対して例えば±10%以内の差であれば、整合していると判定する。このときの計算波速Wvcが、求める波速となる。
【0039】
この結果、計算により求められた2次元クロススペクトルの振幅スペクトルPC(k,l)の振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφは、波浪スペクトル推算手段16でフィルタリングされ、本来の波の振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφが出力され、シーステート解析手段17に供給される。
【0040】
シーステート解析手段17では、波浪スペクトル推算手段16でフィルタリングされた2次元クロススペクトルPC(k,l)の振幅スペクトルSaのピーク点に基づいて波長Wl及び波向きWdを算出し、さらに対応する位相スペクトルSφに基づいて波速Wvcを波毎に、例えば振幅スペクトルSaの大きい波について算出する。
【0041】
また、波浪スペクトル推算手段16でフィルタリングされる前の振幅スペクトルSaの総和Wを算出し、シーステート解析手段17で2次元クロススペクトルの振幅スペクトルSaのピーク点及びその周囲所定範囲の振幅スペクトルの和Sを算出し、予め求めておいた回帰係数A,Bに基づく回帰式により、波高値Whを、Wh=A+B×{S/(W−S)}により求める。波が複数である場合には、それぞれ各ピーク点のポイント及びその周囲所定範囲の振幅スペクトルの和S1,S2・・・を算出し、各波高値を、計算式Wh1=A+B×{S1/(W−S1ーS2・・・)}、計算式Wh2=A+B×{S2/(W−S1ーS2・・・)}・・・、により求める。
【0042】
次に、この波浪レーダ測定装置の動作を図2のフローチャートを参照して、説明する。
【0043】
動作が開始されると、レーダ11で取得されたスキャン毎のレーダデータが、1スキャン分入力されバッファに移されるとともに、次の1スキャン分が入力される(ステップ101、102)。このデータ入力は、レーダでのデータ取得とともに、順次更新されていく。
【0044】
ステップ103において1スキャンバッファに格納されたデータについて前述のような手法により電波干渉の有無を検出し、電波干渉を受けている場合には、そのレーダデータを廃棄する。連続する2スキャンのレーダデータのいずれにも電波干渉がない場合に、両レーダデータを利用するから、1つのスキャンのレーダデータはその前後のスキャンのレーダデータと組み合わされる。しかし、1つのスキャンのレーダデータが廃棄されたときには、その前のスキャンのレーダデータはさらにその前のデータのみと組み合わされ、その後のスキャンのレーダデータはさらにその後のデータのみと組み合わされる。このような処理が、図1のレーダ信号集録手段12及びレーダ干渉検出手段13で行われる。
【0045】
次に、電波干渉を受けていないスキャンのレーダデータに対して、近距離ほど受信レベルが大きいので距離方向の強度補正を行い(ステップ104)、極座標データから直交座標データに座標変換する(ステップ105)。なお、海面の監視範囲に応じて、各スキャンのレーダデータを同じ範囲の例えば正方形状(辺の長さD)に切り出す。
【0046】
次に、座標変換され、所定の範囲に切り出されたレーダデータを、スキャン毎に2次元FFTし、2次元のフーリエ変換値F(k,l)を得る(ステップ106)。
【0047】
【数5】
Figure 0004827330
【0048】
ここで、f(n,m)はレーダデータ、F(k,l)は空間スペクトルである。また、n,mは座標値、k,lは波数を表す。
【0049】
次に、連続するスキャンのレーダデータに対する2次元FFT値間のクロススペクトルPC(k,l)を求める(ステップ107)。
【0050】
【数6】
Figure 0004827330
【0051】
次に、この2次元クロススペクトルPC(k,l)の各ポイント毎の振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφを算出する(ステップ108)。各ポイントのクロススペクトルPC(k,l)は、複素数で表現されるから、その実数部をRe、虚数部をImとすると、
【0052】
【数7】
Figure 0004827330
【0053】
となる。なお、atan2は、アークタンジェントを表す。
【0054】
このようにして、連続する2スキャンのレーダデータに対する2次元FFT値間のクロススペクトルPC(k,l)及びその振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφを求める。
【0055】
次に、2次元クロススペクトルPC(k,l)の各ポイント毎の振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφを順次加算し、平均化処理を行う(ステップ109)。この平均化処理が、所定回数N(例えば32回)行われたかどうかを判断し、N回に満たない場合には、ステップ101に戻って、ステップ109までの処理を繰り返し実行する。なお、この平均化処理は、途中に電波干渉を受けて廃棄されたスキャンのレーダデータがあってもよく、多数回連続している必要はない。平均化処理がN回行われた場合には、その時点の平均化処理された振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφを出力する。このようなステップ104〜ステップ109の処理が、図1の2次元演算手段14及び平均化手段15で行われる。
【0056】
次に、位相スペクトルSφから振幅スペクトルSaの曖昧さを除去する(ステップ110)。2次元クロススペクトルPC(k,l)の振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφは、原点に対して点対称な位置に現れる。この場合、波の移動がある場合には、点対称な位置に現れる位相スペクトル同士は異符号となる。これを利用して、位相スペクトルの点対称な2点を比較し、異符号の場合には負側の位相スペクトル及び振幅スペクトルをクリアする。なお、同符号の場合には、波の移動がないときであるから、両方の位相スペクトル及び振幅スペクトルを残す。
【0057】
次に、全ての振幅スペクトルSaの総和Wを計算する(ステップ111)。レーダデータに基づいて演算された2次元クロススペクトルP(k,l)の振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφは、本来の波に基づくものの外、実際には種々の条件により生じた雑音成分によるものがある。このステップ111では、本来の波に基づくか雑音成分に基づくかに関わらず、全ての振幅スペクトルSaの総和Wを計算する。
【0058】
次に、振幅スペクトルSaの最も値の大きいピーク値を検出する(ステップ112)。そして、そのピーク値の位置周辺±Lの位相スペクトルから位相スペクトルの重心を計算し、その重心の位相スペクトルを用いて、前掲の式(1)により、計算波速Wvcを求める。ここで、ピーク値の位置の位相スペクトルをそのまま用いることもできるが、この場合ディジタル処理に特有の離散値となる。したがって、位相スペクトルの重心を計算して用いる方が本来の中心が得られるから、精度を向上することができる。
【0059】
次に、波速関係式(前掲の式(2))による理論波速Wvtを用いて計算波速Wvcを評価することにより、位相スペクトルSφと振幅スペクトルSaのフィルタリングを行う(ステップ114)。つまり、ピーク点の振幅スペクトルに対応する位相スペクトルSφが本来の波によるものであるか、或いは雑音によるものであるかを、計算波速Wvcが理論波速Wvt に整合するか否かによって、決定する。この整合の程度は、計算波速Wvcが理論波速Wvt に対して例えば±10%以内の差であれば、整合していると判定する。整合していると判断されたときの、計算波速Wvcが、求める波速となる。このように、本来の波の振幅スペクトルSa及び位相スペクトルSφが波浪スペクトル推算手段16でフィルタリングされ出力される。このようなステップ110〜ステップ114の処理が、図1の波浪スペクトル推算手段16で行われる。
【0060】
次に、フィルタリングされた本来の波の位相スペクトルSφについて、そのピーク値周辺±Lの座標内で重心が求められ(ステップ115)、その位相スペクトルの重心から、波長Wl及び波向きWdをそれぞれ、式(9)、式(10)により求める(ステップ116)。
【0061】
【数8】
Figure 0004827330
【0062】
次に、フィルタリングされた本来の波の振幅スペクトルSaについて、そのピーク値周辺±L内の総和Sを求める(ステップ117)。ここで、振幅スペクトルSaのピーク値を用いることとしてもよいが、一定範囲の周辺±L内の総和を用いることにより、より安定して波高関連値を得ることができる。
【0063】
なお、ステップ114でのフィルタリングの結果、計算波速Wvcが理論波速Wvt に整合しなかった場合には、そのときの振幅スペクトル及び位相スペクトルは、本来の波のものではないから、ステップ115〜ステップ117の処理は行われない。
【0064】
これにより、振幅スペクトルSaの最も値の大きいピーク値について、ステップ112〜ステップ117の処理が終了したことになる。この一連の処理を、振幅スペクトルSaのピーク値の第2番目以降の大きい順に、所定のM回繰り返す(ステップ118)。そして、ステップ114でのフィルタリングの結果、計算波速Wvcが理論波速Wvt に整合し、本来の波と判断されたものについては、波速Wvc、波長Wl、波向きWdをそれぞれ求める。また、フィルタリングされた本来の波の振幅スペクトルSaについて、そのピーク値周辺±L内の総和Sを求める。
【0065】
なお、この所定回数Mの代わりに、本来の波と判断されたスペクトルの数(例えば2)としてもよく、また振幅スペクトルSaのピーク値の大きさが、所定値以上のものとすることができる。
【0066】
次に、波高関連値を、波の振幅スペクトルの総和Sと全振幅スペクトルの総和Wとを用いて、S/(W−S)により求める(ステップ119)。全振幅スペクトルの総和Wから波の振幅スペクトルの総和Sを減算することにより、信号対雑音比が正確にとれる。
【0067】
また、波が複数ある場合(例えば2波)には、それぞれの波の振幅スペクトルの総和をS1,S2とし、第1の波に対する波高関連値を、S1/(W−S1−S2)として求め、第2の波に対する波高関連値を、S2/(W−S1−S2)として求める。これにより、複数の波がある場合にも、それぞれの波に対する波高関連値を正しく求めることができる。
【0068】
次に、超音波波高計やブイ式波高計等により、予め求めておいた回帰係数A,Bに基づく1次回帰式に、波高関連値S/(W−S)、S1/(W−S1−S2)、S2/(W−S1−S2)を適用して、波高Wh,Wh1,Wh2を次のように求める(ステップ120)。
Wh=A+B×S/(W−S)
Wh1=A+B×S1/(W−S1−S2)
Wh2=A+B×S2/(W−S1−S2)
このようなステップ115〜ステップ120の処理が、図1のシーステート解析手段で行われて、一連の処理が終了する。
【0069】
【発明の効果】
本発明のレーダ波浪測定方法及び装置によれば、連続する2スキャンのレーダデータから2次元クロススペクトルを求め、その振幅スペクトル及び位相スペクトルを、波速の理論式(波速関係式)によりフィルタリングしているから、連続する多数スキャンのレーダデータを不要とし、連続する2スキャンのレーダデータから精度よく、波長、波速、波向き、波高等の波浪情報を得ることができる。
【0070】
また、位相スペクトルに基づいて計算された計算波速が、波速関係式から求まる理論波速に整合するか否かにしたがってフィルタリングしているから、このフィルタリングの処理とともに、波速を得ることができる。
【0071】
また、2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを、所定回数分の平均をとってフィルタリングするから、振幅スペクトル及び位相スペクトルのばらつきが吸収され、以後の演算・解析が安定して行われる。
【0072】
また、フィルタリングされた2次元クロススペクトルのスペクトルピーク点に基づき重心を算出して波長及び波向きを求め、さらにそのピーク点に対応する位相スペクトルに基づいて波速を算出するから、精度よく、波長、波向き及び波速を得ることができる。
【0073】
また、波高関連値を、特定の波の振幅スペクトルの総和S1と全振幅スペクトルの総和Wから各波の振幅スペクトルの総和S1、S2・・を引いて、S1/(W−S1−S2・・)により求めるから、信号対雑音比が正確にとれ、波高を精度よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーダ波浪測定装置の概略ブロック構成図。
【図2】本発明の実施の形態に係るレーダ波浪測定装置のフローチャート。
【図3】従来のレーダ波浪測定装置の概略ブロック構成図。
【符号の説明】
11 レーダ
12 レーダ信号集録手段
13 レーダ干渉検出手段
14 2次元演算手段
15 平均化手段
16 波浪スペクトル推算手段
17 シーステート解析手段

Claims (4)

  1. 干渉がないと判断された2スキャンのレーダデータをそれぞれ2次元フーリエ変換し、このそれぞれ2次元フーリエ変換した2スキャン分のレーダデータの2次元クロススペクトルを演算し、この2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを求め、
    この2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを、位相スペクトルに基づいて計算された計算波速が波速関係式から求まる理論波速に整合するか否かにしたがって通過或いは阻止するようにフィルタリングし、
    フィルタリングされた2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを用いて、波浪情報を算出する際に、
    フィルタリングされた2次元クロススペクトルのスペクトルピーク点に基づいて波長及び波向きを算出し、さらにそのピーク点に対応する位相スペクトルに基づいて波速を算出するとともに、
    フィルタリングされる前の振幅スペクトルの総和Wを算出し、フィルタリングされた2次元クロススペクトルの振幅スペクトルのピーク点及びその周囲所定範囲の振幅スペクトルの和Sを算出し、その振幅スペクトルの和Sと、前記振幅スペクトルの総和Wから振幅スペクトルの和Sを引いた値W−Sとの比から、予め求めておいた回帰係数を用いた回帰式により波高値を求める、
    ことを特徴とするレーダ波浪測定方法。
  2. 順次入力される連続する2スキャン分のレーダデータを記録するレーダ信号集録手段と、
    前記2スキャン分のレーダデータに他の電波源からの干渉の有無を検出し、干渉がある場合にはそのレーダデータを廃棄するレーダ干渉検出手段と、
    前記レーダ干渉検出手段で干渉がないと判断された、前記2スキャンのレーダデータをそれぞれ2次元フーリエ変換し、この2次元フーリエされたデータから2次元クロススペクトルを演算し、この2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを求める2次元演算手段と、
    前記2次元クロススペクトルの振幅スペクトルのピーク値に対応する位相スペクトルに基づいて波速を計算し、この計算された計算波速が波速関係式から求まる理論波速に整合するか否かにしたがって、その位相スペクトル及び対応する振幅スペクトルを通過或いは阻止させるフィルタリングを行う波浪スペクトル推算手段と、
    前記波浪スペクトル推算手段でフィルタリングされた2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを用いて、波浪情報を算出するシーステート解析手段を有し、
    前記波浪スペクトル推算手段でフィルタリングされた2次元クロススペクトルのスペクトルピーク点に基づいて波長及び波向きを算出し、さらにそのピーク点に対応する位相スペクトルに基づいて波速を算出するとともに、
    前記波浪スペクトル推算手段でフィルタリングされる前の振幅スペクトルの総和Wを算出し、前記シーステート解析手段で2次元クロススペクトルの振幅スペクトルのピーク点及びその周囲所定範囲の振幅スペクトルの和Sを算出し、その振幅スペクトルの和Sと、前記振幅スペクトルの総和Wから振幅スペクトルの和Sを引いた値W−Sとの比から、予め求めておいた回帰係数を用いた回帰式により、波高値を求める、
    ことを特徴とするレーダ波浪測定装置。
  3. 前記2次元演算手段から出力される2次元クロススペクトルの振幅スペクトルと位相スペクトルを、所定回数分の平均をとって、前記波浪スペクトル推算手段に入力することを特徴とする請求項記載のレーダ波浪測定装置。
  4. 波の2次元クロススペクトルの振幅スペクトルのピーク値が複数ある場合には、それぞれ各ピーク点及びその周囲所定範囲の振幅スペクトルの和S1,S2・・・を算出し、各波高値Wh1、Wh2・・・を、Wh1=A+B×{S1/(W−S1ーS2・・・)}、Wh2=A+B×{S2/(W−S1ーS2・・・)}・・・により求めることを特徴とする請求項記載のレーダ波浪測定装置。
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