近年、通信システム側の要求スペックも、厳しいものになっており、従来よりもアイソレーション特性の優れた(漏洩電力比の小さな)デュプレクサが切望されている。
また、通信装置の更なる高機能化に伴い、通信装置を構成する部品点数が増加しているため、部品に対する小型化要求は常に存在する。
従来は、アイソレーション特性を改善するために、圧電基板そのものを送信側フィルタと受信側フィルタの2つに切断・分離して漏洩した弾性表面波が音響的に結合することによるアイソレーション特性の劣化を抑えていた(例えば、非特許文献1,2を参照)。
しかしながら、このように構成したアンテナ共用器は、2つに切断するための切り代の面積分だけ1枚のウェハーあたりの取れ個数が少なくなってしまい、製造コストを下げることが難しかった。また、チップをパッケージ内に実装する際に必要な実装マージンがチップ2個分必要になるためパッケージのサイズが大きくなってしまい、顧客の小型化要求を満足することは困難であった。
また、弾性表面波素子は電気信号を機械的な波(=弾性表面波)に変換して信号処理する素子であるが、弾性表面波フィルタに入力された電気信号が弾性表面波共振子により電気信号から変換された弾性表面波の状態で漏洩するということは、弾性表面波フィルタに入力された電気信号の電力が弾性表面波に変換された状態で損失するということであり、このため、弾性表面波共振子から弾性表面波の漏洩が起こるとフィルタの挿入損失が増大するという問題もあった。このため、通信装置にこのような挿入損失の大きなアンテナ共用器を搭載した場合、必要な送信電力で電気信号を送信するためには、より大きな出力電力が必要となり、近年の低消費電力化の要求に応えることができないという問題もあった。
また、フィルタの挿入損失が大きいために、送信側フィルタに大電力が印加された場合、送信側フィルタで発生する熱量が大きく、これによって耐電力寿命が加速度的に短くなるという不具合もあった。
また、良好な挿入損失を実現するためには、ラダー型を構成する直列共振子と並列共振子それぞれの等価的容量(=くし歯状電極指の電極対数、交差幅、電極ピッチ等によって決まる電気容量)の比で決定される容量比を小さくすることが効果的である。しかしながら、従来の弾性表面波フィルタの減衰量は、この容量比によってほぼ決まるため、良好な挿入損失を実現するために容量比を小さくすると減衰量が悪化し、S/N比を悪化させてしまうという問題があった。
ここで、弾性表面波共振子の外部に弾性表面波が漏洩する原因について説明する。
IDT電極により励振された弾性表面波は概ね電極指の長手方向と直交する方向へと伝搬する。この方向を主伝搬方向という。電極指が長手方向に無限の長さを持つ理想状態であれば、主伝搬方向のみに伝搬する弾性表面波が励振されるが、現実の素子は有限のサイズを持つため、実際に励振される弾性表面波は主伝搬方向から逸れた成分を含んでしまう。
従来の弾性表面波共振子を図32に示すように、IDT電極1の両端の反射器電極2の長手方向の長さが、IDT電極1の長手方向の長さと概ね同じサイズで形成されるため、反射器電極2は、主伝搬方向から逸れた成分を効率よく反射することができず、主伝搬方向から逸れた成分は、弾性表面波共振子の外部へと漏洩してしまう。
また、IDT電極1で励振される弾性表面波は、複数の周波数成分を含むが、通常、反射器電極2は、IDT電極1で励振される周波数成分のうち、ある周波数に対して最も反射効率が良くなるよう繰り返し電極(グレーティング電極ともいう)の周期を設計するため、それ以外の周波数成分の弾性表面波は反射器で効率よく反射されずに弾性表面波共振子の外部へと漏洩してしまう。
また、弾性表面波共振子内の主伝搬路に存在する伝搬モードとバスバー電極12aに存在する伝搬モードとが結合できる場合、電極指の交差部で励振された弾性表面波がバスバー電極12aへと漏洩し、バスバー電極12aの端部には弾性表面波を閉じこめる構造が無いため、弾性表面波はバスバー電極の端部から弾性表面波共振子の外部へと漏洩してしまう(例えば非特許文献3参照)。
このようにして弾性表面波共振子の外部へと漏洩した弾性表面波が、前述のような問題を引き起こすのである。デュプレクサにおいて、このような漏洩は、従来は問題とされていなかったが、近年の特性に対する厳しい要求により問題となってきたものである。
なお、特許文献1には、反射器の形状を屈曲もしくは湾曲した形状とすることにより、IDT電極の主伝搬方向に対してある角度を持った弾性表面波が、屈曲もしくは湾曲した形状の反射器電極により効率的に反射され、IDT電極へ再び戻されるために、共振子外への弾性表面波の漏洩を防止できるという構造が提案されている。
しかし、特許文献1に記載された構造の反射器電極は従来の反射器の端部をそのまま延長した形状となっているため、グレーティング電極周期が帯域内の周波数に対して最も反射効率が高くなるように設計せざるを得ない。このため、フィルタの通過帯域内での損失は改善されるものの、アンテナ共用器で問題となっている通過帯域外の隣接する周波数帯(つまり送信側周波数帯に隣接する受信側周波数帯)でのアイソレーション特性に影響を与える周波数の弾性表面波が漏洩するのを防止することはできなかった。
以上の課題に鑑み、本発明の目的は、弾性表面波の弾性表面波共振子外部への漏洩を防ぐことにより、高Qの弾性表面波共振子を実現することである。
また本発明の目的は、本発明の弾性表面波共振子を用いることにより、小型であり、且つ、低挿入損失な弾性表面波フィルタを実現することである。
また本発明の目的は、本発明の弾性表面波共振子を用いることにより、小型であり、且つ、アイソレーション特性に優れ、低挿入損失で、また、耐電力性にも優れた弾性表面波デュプレクサを実現することである。
また本発明の目的は、このような本発明の弾性表面波共振子や弾性表面波フィルタや弾性表面波デュプレクサを用いることにより、より低消費電力で、通話品質の良好な通信装置を提供することである。
本発明の弾性表面波共振子は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成され、バスバー電極を有するIDT電極と、前記圧電基板上に形成され、前記IDT電極の弾性表面波の主伝搬方向の両端に隣接して配置された反射器電極と、前記圧電基板上に形成され、繰り返し形成された電極を有し、前記反射器電極の外側の位置であって、前記IDT電極のバスバー電極を仮想的に延長した直線上に配置された補助反射器電極とを備えている。
この構造の弾性表面波共振子によれば、前記IDT電極の弾性表面波の主伝搬方向以外の方向へ漏洩する弾性表面波や、前記バスバー電極から漏洩する弾性表面波を、前記補助反射器電極によって反射させ、弾性表面波共振子内に閉じこめることができるため、弾性表面波の漏洩損失の少ない、高Qな弾性表面波共振子を実現することができる。
前記補助反射器電極は、前記繰り返し形成された電極の繰り返し方向(図1、図11に示されるG)が、前記IDT電極に向かうように形成されていることが望ましい。
特に、前記補助反射器電極の前記繰り返し形成された電極の繰り返し方向と、前記IDT電極の電極指の繰り返し方向との成す角度θが0度を超え、20度以下であることが望ましい。
また、前記IDT電極1個あたりの前記補助反射器電極の数は限定されないが、例えば、前記反射器電極の斜め外側の四箇所の位置に配置されていてもよい。
なお、前記補助反射器電極が2本のバスバー電極を有し、前記補助反射器電極の前記繰り返し形成された電極の両端部が、前記バスバー電極に接続されている、いわゆる梯子型電極であってもよい。
また、前記補助反射器電極は、前記繰り返し形成された電極の片端部が電気的に開放された形状を有する櫛歯型の電極であってもよい。
また、前記補助反射器電極は、前記繰り返し形成された電極の両端部が電気的に開放された電極であってもよい。
また、前記補助反射器電極は、2本のバスバー電極を有し、前記バスバー電極からほぼ直角方向に延びる電極指を噛み合わせた形状を有するIDT型の電極でも構わない。
また、前記構成において、前記補助反射器電極のピッチを前記反射器電極のピッチと異なるようにすることができる。これにより、前記補助反射器電極を、前記反射器電極とは異なる波長で反射効率が高くなるように設計することができるため、前記反射器電極で反射されなかった波長の弾性表面波であっても補助反射器電極で効率よく反射させるようにすることができ、弾性表面波共振子の外側に弾性表面波が漏洩するのを、いっそう抑制することができる。
また、本発明の弾性表面波共振子によれば、前記補助反射器電極のピッチを前記IDT電極のピッチと異なるようにすることができる。このようにすることにより、補助反射器電極とIDT電極との間で発生する不要な共振を押さえることが可能となり、スプリアス共振の少ない弾性表面波共振子を実現することができる。なお、ここでIDT電極のピッチとは、一方の櫛歯状電極の電極指と、この櫛歯状電極に噛み合わされた他方の櫛歯状電極の電極指のうち、前記一方の櫛歯状電極の前記電極指に隣接する電極指との中心間距離を指すものとする。
また、前記反射器電極の外側であって2つの補助反射器電極の間に、第二の補助反射器電極が形成されていることによって、前記反射器によって完全に反射されることのなかった弾性表面波を反射させ、IDT電極内に閉じこめることができる。これにより、より弾性表面波の漏洩損失の少ない高Qな弾性表面波共振子を実現することができる。
また、前記第二の補助反射器電極と前記補助反射器電極とが接続されて一体に形成されていることにより、前記第二の補助反射器電極と前記補助反射器電極との間を漏洩する弾性表面波をさらに反射し、弾性表面波共振子内に閉じこめることができ、さらに高Qな弾性表面波共振子を実現することができる。また、前記第二の補助反射器電極と前記補助反射器電極との電位を等しくすることができるため、圧電基板の持つ焦電性によって電位の異なる部分の間で発生する場合があるスパークによる微細電極の破壊を防止することができ、且つ高Qな弾性表面波共振子を実現することができる。
また、本発明の弾性表面波共振子を用いた弾性表面波フィルタによれば、高Qな弾性表面波共振子を備えていることにより、小型でありながら挿入損失が小さい弾性表面波フィルタを実現することができる。従来は、送信フィルタから漏洩した弾性表面波が受信フィルタと結合するのを防止するため、送信フィルタと受信フィルタで基板を2つに分けるなどしていた。そのため、実装のためのマージンを必要としていたが、本発明によれば、送信フィルタからの弾性表面波の漏洩を防止できるので、基板を2つに分ける必要がなく、上述したような実装のマージンが必要なくなるため、小型化できるのである。
また、本発明の弾性表面波共振子を用いた弾性表面波デュプレクサによれば、基板上に送信用フィルタ領域及び受信用フィルタ領域を具備した弾性表面波デュプレクサにおいて、前記記載の弾性表面波共振子を前記送信用フィルタ領域又は前記受信用フィルタ領域の少なくとも一方に設け、圧電基板を共通の基板として用いていることにより、小型でありながらアイソレーション特性に優れ、挿入損失が小さく、またこのため、耐電力性に優れた弾性表面波デュプレクサを実現することができる。
そして、本発明の弾性表面波デュプレクサを備えた本発明の通信装置によれば、フィルタが低挿入損失であることにより、同じ出力パワーを得るために必要な入力パワーを低減することができるため、パワーアンプの消費電力を削減でき、従って消費電力を抑えた通信装置を実現することができる。また、この弾性表面波デュプレクサは小型であるため他の部品の実装面積を確保することができ、このため、高機能な通信装置を実現することができる。しかも高いアイソレーション特性のため、高い通話品質を得ることができる。
以下、本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、図面において同様の箇所には同じ符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、あるいは電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものであるので、これらに限定されるものではない。
図1に弾性表面波共振子の平面図を示す。
この弾性表面波共振子は、圧電基板(図2の”19”参照)の一主面に、金属薄膜からなる複数の電極を形成した素子である。形成されている電極は、IDT電極1、反射器電極2、及び補助反射器電極3等である。
IDT電極1は、弾性表面波の主伝搬方向Fに平行に伸びる2本のバスバー電極12a及び各バスバー電極12aから内側方向に直角に延びて形成された、互いに噛み合う電極指13を有する。
反射器電極2は、IDT電極1の主伝搬方向Fの両端に隣接して配置されている。反射器電極2は、平行に伸びる2本のバスバー電極12bと、各バスバー電極12bから内側方向に直角に延びて形成されたグレーティング電極14aを備えている。グレーティング電極14aは、対向するバスバー電極12bにも接続され、短絡されている点で、対向するバスバー電極12bに接続されていない電極指13と異なっている。
補助反射器電極3は、反射器電極2のIDT電極1と隣接していない側、すなわち、反射器電極2の外側の四箇所の位置に、4つ配置されている。これらの四箇所の位置は、IDT電極1の2本のバスバー電極12aをそれぞれ仮想的に延長した直線H上である。補助反射器電極3も、反射器電極2と同様、短絡されたグレーティング電極14bを備えている。
なお、補助反射器電極3の設置位置は反射器電極2の外側の四箇所に限定されるものではない。前記四箇所のうち、一箇所にのみ設置してもよく、二箇所又は三箇所に設置してもよい。一〜三箇所に設置しても、弾性表面波の外部への漏洩を防ぎ、Qを高めるという本発明の効果を達成することができる。
補助反射器電極3は、いずれも、グレーティング電極14bの繰り返し方向(以下「補助反射器電極3の方向G」という)がIDT電極1に向かうように傾斜して配置されている。すなわち、IDT電極1から見れば、4つの補助反射器電極3は、それぞれ外側に広がる方向に配置されている。その傾斜角をθで図示している。
補助反射器電極3のない従来の構造(図32)では、反射器電極2よりも外側に漏洩する弾性表面波が存在する。これは、反射器電極2は単一の電極ピッチにより構成されているため、このピッチで反射される波長以外の波長の弾性表面波が漏洩するためである。
また、IDT電極1のバスバー電極12aから、弾性表面波が漏洩する場合があるが、その漏洩した弾性表面波が反射器電極2のバスバー電極12bからの伝搬モードと結合すると、結局、バスバー電極12bの端部から弾性表面波が漏洩することとなる。
そこで、図1のように補助反射器電極3を形成することにより、このような漏洩する主伝搬方向Fから斜めθ方向へ漏洩する漏れ 弾性表面波を反射させ、その漏れるエネルギーを低減することができる。
したがって、弾性表面波共振子のQ値をより高くでき、弾性表面波フィルタの挿入損失改善、弾性表面波デュプレクサのアイソレーション改善等の効果を得ることができる。
図2は、図1の構造の弾性表面波共振子を用いた送信用フィルタ、受信用フィルタを同一圧電基板19上に形成した弾性表面波デュプレクサの上面模式図である。図2中、上半分が送信用フィルタ領域、下半分が受信用フィルタ領域を示す。
送信用フィルタの入力端子15から入った信号は、ラダー型に組み合わされた3個の直列弾性表面波共振子と2個の並列弾性表面波共振子を通って出力端子16から出力される。
また、受信用フィルタの入力端子17から入った信号は、ラダー型に交互に組み合わされた2個の直列弾性表面波共振子と3個の並列弾性表面波共振子を通って出力端子18から出力される。
また、送信側及び受信用フィルタのそれぞれの弾性表面波共振子には、前記補助反射器電極3が付加されており、主伝搬方向Fに対して、斜めに傾いた方向へ漏洩する弾性表面波が低減される構造となっている。
なお、圧電基板19には環状電極21が設けられているが、この環状電極21は圧電基板19を実装用基板(図示せず)にフリップチップ実装で気密封止するためのものである。この環状電極21が存在していても、弾性表面波共振子から漏洩した弾性表面波の伝搬がほとんど妨げられないことが実験によって分かっている。
図2の構造において、特に、送信用フィルタを構成する弾性表面波共振子のうち直列弾性表面波共振子に、本発明の構成を用いると効果が高い。
これは、送信用フィルタに印加された大電力信号は直列弾性表面波共振子を透過するが、この際に励振された強い強度の弾性表面波を本発明により効率よく閉じこめることができるためである。
一方、受信用フィルタの並列弾性表面波共振子に本発明の弾性表面波共振子を用いた場合、送信用フィルタの直列弾性表面波共振子から漏洩した弾性表面波が、受信用フィルタの並列弾性表面波共振子に用いた前記補助反射器電極3により反射される。この結果、受信用フィルタの並列弾性表面波共振子を構成するIDT電極1で受信されにくくなるため、アイソレーション改善の効果がある。
なお、補助反射器電極3のグレーティング電極14bのピッチを、反射器電極2のグレーティング電極14aのピッチと異ならせることもできる。
例えば、送信用フィルタに使用する弾性表面波共振子の補助反射器電極3のグレーティング電極14bのピッチを、受信用フィルタに使用する弾性表面波共振子のIDT電極1の電極指13のピッチに合わせることで、受信周波数帯域でのアイソレーション特性を向上させることができる。この理由は、反射器電極2で完全に反射できなかった受信周波数帯域の波長の弾性表面波が補助反射器電極3によって反射され、送信用フィルタの弾性表面波共振子内に閉じこめられ、受信周波数帯域での弾性表面波が漏洩しなくなるためである。
さらに、補助反射器電極3のグレーティング電極14bにおいて複数の異なったピッチを混在させて構成しても良い。このようにすることで、特定の周波数帯域だけでなく、より広い帯域において弾性表面波素子から漏洩する弾性表面波を抑制することができるために、弾性表面波共振子のQが向上する。この場合、複数のピッチの空間的並び方は特に重要ではなく自由に設定することができる。
なお、図1等において前記IDT電極1は、一方のバスバー電極12aに形成された電極指13の先端と相対する部位の他方のバスバー電極12aに短いダミー電極8が形成されている場合を示したが、このようにすることによって、より主伝搬路の伝搬モードとバスバー電極の伝搬モードを結合し難くすることができるため、弾性表面波共振子の主伝搬路からバスバー電極を通って外部へ漏洩する弾性表面波を低減することができ、高Qの弾性表面波共振子とすることができる。そしてこの弾性表面波共振子を用いてフィルタを構成した場合、より低挿入損失なフィルタとすることができる。さらに同一基板上に送信用フィルタ領域及び受信用フィルタ領域を設けたデュプレクサを構成した場合、よりアイソレーション特性に優れたものとなる。
また、図1等では補助反射器電極3の構造として、グレーティング電極14bを両端部で電気的にショートさせた梯子状の電極(ショート反射器)を用いたが、このような形に限定せず、例えば両端部又は片端部を電気的に開放した形状(オープン反射器)であってもアイソレーション特性を同様に向上させることができる。
図3に片端部を電気的に開放したオープン反射器の例を示し、図4に両端部を電気的に開放したオープン反射器の例を示す。
さらに、補助反射器電極3の形状は、IDT電極のように電極指が交互にかみ合った形状(IDT型反射器)であってもよい。この構造は、後に図面を用いて詳しく説明する。
また、補助反射器電極3の形状は、直線形状の電極指からなるグレーティング電極でなく一定の曲率を持った円弧、もしくは屈曲もしくは湾曲した形状、又は台形等の形状で構成したグレーティング電極から構成することもできる。このようにすることで広範囲な角度範囲で漏洩する弾性表面波を反射することができるため、より共振子のQ値向上、フィルタの挿入損失改善、デュプレクサのアイソレーション改善等の効果を得ることができる。
本発明の弾性表面波共振子において、圧電基板としてはタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。
また、IDT電極、反射器電極及び本発明にかかる補助反射器電極には、アルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、又はこれらの材料から成る層の積層膜やこれらの材料とチタン,クロム等の材料から成る層との積層膜を用いることができる。これら積層膜の成膜方法としては、スパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
これらの電極をパターニングする方法としては、電極膜の成膜後にフォトリソグラフィを行い、次いでRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行う方法がある。又は、電極膜の成膜前に圧電基板上にフォトレジストを塗布しフォトリソグラフィを行って所望のIDT電極や反射器電極等のパターンを形成した後、前記アルミニウム等の材料からなる単層膜又は積層膜を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された単層膜又は積層膜ごと除去するリフトオフプロセスを行ってもよい。
以下、圧電基板に形成される弾性表面波共振子の電極形状の変形例を説明する。
図5に示すように、反射器電極2のIDT電極1と反対側に隣接した位置に、グレーティング電極14cを有する第二の補助反射器電極4を配置してもよい。
第二の補助反射器電極4によって、IDT電極1の電極指とほぼ垂直方向、すなわち前述したような弾性表面波の主伝搬方向Fに沿って伝搬し、第一の反射器電極2で完全には反射することができない弾性表面波を反射させることができる。
第二の補助反射器電極4のグレーティング電極14cのピッチは、反射器電極2のグレーティング電極14aのピッチと異なっていることが望ましい。このようにすることにより、反射器電極2で反射できなかった弾性表面波を効率良く反射させることができる。
なお、図5では第二の補助反射器電極4をバスバー電極とグレーティング電極とからなる梯子型電極(ショート反射器)で示したが、バスバー電極と電極指とからなるIDT電極(IDT型反射器)でも、グレーティング電極のみ(オープン反射器)からなっても構わない。
また、この第二の補助反射器電極4のグレーティング電極14cに複数の異なったピッチを混在させて構成しても良い。このようにすることで、特定の周波数帯域だけでなく、より広い帯域において弾性表面波共振子から漏洩する弾性表面波を抑制することができるために、弾性表面波共振子のQ値が向上する。この場合、複数のピッチの空間的並び方は特に重要ではなく自由に設定することができる。
また、図6に示すように、互いに隣接する補助反射器電極3と第二の補助反射器電極4とを、接続部5で接続して一体に形成しても良い。このようにすることにより、補助反射器電極3と第二の補助反射器電極4の電位を等しくすることができるため、圧電基板の持つ焦電性によって電位の異なる部分の間で発生するスパークによる微細電極の破壊を防止することができ、且つ高Qな弾性表面波共振子を実現することができる。
なお、補助反射器電極3と第二の補助反射器電極4とを接続して一体に形成する場合、接続する構造がいろいろ考えられる。例えば図6に示すようにもともと図5において対向して存在していた部分をそのまま延長して接続することもできる。
また、図7に示すように補助反射器電極3のグレーティング電極14bと第二の補助反射器電極4のグレーティング電極14cとを延長し、一体としても良い。その際、接続部5の領域にグレーティング電極を短絡するための反射器バスバー電極25を設けても良いし、図8に示すように設けなくとも良い。
また、図9のように、補助反射器電極3と第二の補助反射器電極4の間にあたる領域にグレーティング電極14dを設けた構造としても良い。このような構造とすることにより、更に補助反射器電極3と第二の補助反射器電極4との間を漏洩する弾性表面波を反射させ、弾性表面波共振子内に閉じこめることができ、更に高Qな弾性表面波共振子を実現することができる。
以上の構造の中で、特に、図7に示した構造と図9の構造は各方向に対して、最適なグレーティング電極のピッチとすることができるため有利である。
また、第二の補助反射器電極4の形状は、直線形状の電極指からなるグレーティング電極でなく一定の曲率を持った円弧、もしくは屈曲もしくは湾曲した形状で構成したグレーティング電極から構成することもでき、このようにすることで広範囲な角度範囲で漏洩する弾性表面波を反射することができるため、より高い弾性表面波共振子のQ値改善、フィルタの挿入損失改善、デュプレクサのアイソレーション改善等の効果を得ることができる。
また、図10に示すように、図1に示した長方形の外形形状を有する反射器電極2に代えて、反射器電極のバスバー電極12bをIDT電極1に向かって傾斜させるようにして、反射器電極のグレーティング電極14aの端部を屈曲させた形状の反射器電極2′を用いてもよい。
さらに、図10では反射器電極2′は屈曲した形状で示したが、滑らかに湾曲した形状でも良い。
このような屈曲したもしくは湾曲した形状にすることにより、IDT電極1から弾性表面波の主伝搬方向F以外の方向に漏洩する弾性表面波を、屈曲もしくは湾曲した形状の反射器電極2′により反射することができ、より高い効果が得られる。
図11は、図1の補助反射器電極3に代えて、バスバー電極12c及び電極指13bを有し、電極指13bを交互に噛み合わせたIDT型補助反射器電極3′を配置した例を示す平面図である。
これらのIDT型補助反射器電極3′が配置されている四箇所の位置は、IDT電極1のバスバー電極12aを仮想的に延長した直線上である。
IDT型補助反射器電極3′は、いずれも、各々のIDT型補助反射器電極3′の繰り返し方向(以下「IDT型補助反射器電極3′の方向」という)GがIDT電極1に向かうように傾斜して配置されている。
なお、IDT型補助反射器電極3′には、信号線が接続されていないので、それ自体で弾性表面波を励振することはない。
この図11に示した弾性表面波共振子を複数用いて作製したラダー型フィルタを2個圧電基板19上に形成して、本発明の弾性表面波素子である弾性表面波デュプレクサを構成することが出来る。その構造を図12に示す。図1の補助反射器電極3に代えて、IDT型補助反射器電極3′を配置しているところが違っているだけである。
なお、IDT型補助反射器電極3′の電極指13bのピッチと、反射器電極2のグレーティング電極14aのピッチとを異ならせるようにしても良い。こうすれば、IDT型補助反射器電極3′を反射器電極2とは異なる波長で反射効率が高くなるように設計することができるため、反射器電極2で反射されなかった波長の弾性表面波であってもIDT型補助反射器電極3′で効率よく反射させるようにすることができ、弾性表面波共振子の外側に弾性表面波が漏洩するのをより抑制することができるからである。
また、IDT型補助反射器電極3′の電極指13bのピッチと、IDT電極1の電極指13aのピッチとを異ならせるようにしても良い。これにより、IDT型補助反射器電極3′とIDT電極1との間で発生する不要な共振を押さえることが可能となり、リップルの少ない弾性表面波共振子を実現することができる。
また、図12のデュプレクサの場合、送信用フィルタに使用する弾性表面波共振子のIDT型補助反射器電極3′の電極指13bのピッチを、受信用フィルタに使用する弾性表面波共振子のIDT電極1の電極指13aのピッチに合わせるようにすれば、受信周波数帯域でのアイソレーション特性を向上させることができる。この理由は、反射器電極2で完全に反射できなかった受信周波数帯域の波長の弾性表面波がIDT型補助反射器電極3′によって反射され弾性表面波共振子内に閉じこめられることにより、送信用フィルタの弾性表面波共振子から、受信用フィルタへ弾性表面波が漏洩しなくなるためである。
さらに、IDT型補助反射器電極3′の電極指13bに複数の異なったピッチを混在させて構成しても良い。このようにすることで、特定の周波数帯域だけでなく、より広い帯域において弾性表面波共振子から漏洩する弾性表面波を抑制することができるために、弾性表面波共振子のQ値が向上する。この場合、複数のピッチの空間的並び方は特に重要ではなく自由に設定することができる。
また、IDT型補助反射器電極3′の形状は、直線形状の電極指でなく一定の曲率を持った円弧や、屈曲もしくは湾曲した形状、又は台形等の形状で構成した電極指から構成することもでき、このようにすることで広範囲な角度範囲で漏洩する弾性表面波を反射することができるため、より高い弾性表面波共振子のQ値改善、フィルタの挿入損失改善、デュプレクサのアイソレーション改善等の効果を得ることができる。
また、IDT型補助反射器電極3′において、図11に示したIDT電極1のようにダミー電極8を設けたり、電極指13aやダミー電極8の長さを場所によって異なるようにする、いわゆるアポダイズを行ったりしても良い。このようにすることでより広範囲な波長の漏洩する弾性表面波を反射したり、ある周波数での反射効率をより向上させたりすることができるため、より高い弾性表面波共振子のQ値改善,フィルタの挿入損失改善、デュプレクサのアイソレーション改善等の効果を得ることができる。
また、2つの近接するIDT型補助反射器電極3′の間、すなわち、反射器電極2の両外側に第二の補助反射器電極4を配置してもよい。図13は、第二の補助反射器電極4の配置例を示す図である。
この第二の補助反射器電極4によって、前述したようなIDT電極1の電極指13aとほぼ垂直方向に伝搬し反射器電極2では完全に反射することができない弾性表面波を反射させることができる。
なお、第二の補助反射器電極4をグレーティング電極14bとした場合、そのピッチは、反射器電極2のグレーティング電極14aのピッチと異なっていてもよいこと、IDT電極(IDT型反射器)でもグレーティング電極のみ(オープン反射器)からなってもよいこと、複数の異なったピッチを混在させて構成しても良いことは、すでに図5を用いた説明したとおりである。
また、互いに隣接するIDT型補助反射器電極3′と第二の補助反射器電極4とを接続して一体に形成しても良い。
例えば図14に示すように、IDT型補助反射器電極3′のバスバー電極と第二の補助反射器電極4のバスバー電極とをそのまま延長した領域に接続部5aを設けて接続することができる。
また、図15に示すようにIDT型補助反射器電極3′の電極指13bに接触するまで、第二の補助反射器電極4のグレーティング電極14bを延長した領域である接続部5bを設け、それらを一体としても良い。その際、グレーティング電極14bを短絡する反射器バスバー電極25を設けても良いし、図16に示すように設けなくとも良い。
また、図17のように、図13のIDT型補助反射器電極3′と第二の補助反射器電極4の間にあたる領域である接続部5dにさらにグレーティング電極14cを設けた構造としても良い。グレーティング電極14cに代えてIDT電極を設けた構造としても良い。
このような構造とすることにより、さらに図13のIDT型補助反射器電極3′と第二の補助反射器電極4との間を漏洩する弾性表面波を反射し、弾性表面波共振子内に閉じこめることができ、さらに高Qな弾性表面波共振子を実現することができる。
このような構造の中で、図15に示した構造と図17の構造は各方向に対して、最適なグレーティング電極のピッチとすることができるため有利である。
また、第二の補助反射器電極4の形状は、直線形状の電極指でなく一定の曲率を持った円弧や、屈曲もしくは湾曲した形状、又は台形等の形状で構成した電極指から構成することもでき、このようにすることで広範囲な角度範囲で漏洩する弾性表面波を反射することができるため、より高い弾性表面波共振子のQ値改善、フィルタの挿入損失改善、デュプレクサのアイソレーション改善等の効果を得ることができる。
また、図11に示した直方体の外形形状を有する反射器電極2に代えて、図10に示したのと同様、反射器電極2のバスバー電極12bの部分を、IDT電極1に向かって傾斜させるように、反射器電極のグレーティング電極14aの端部を屈曲させた形状の反射器電極を用いてもよい。
以上説明を行った、本発明の弾性表面波共振子又は弾性表面波素子は、挿入損失の良好な通過帯域内特性を有するものであるので、これらを、通信装置に適用することができる。
すなわち、受信回路又は送信回路の一方又は両方を備える通信装置において、本発明の弾性表面波共振子又は弾性表面波素子を、バンドパスフィルタやデュプレクサに搭載することができる。
前記送信回路は、送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信する回路である。
前記受信回路は、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す回路である。
前記デュプレクサやバンドパスフィルタが組み込まれた通信装置は、フィルタが低挿入損失であることにより、同じ出力パワーを得るために必要な入力パワーを低減することができる。このため、パワーアンプの消費電力を削減でき、従って消費電力を抑えた通信装置を実現することができる。
また、圧電基板上に送信用フィルタ領域及び受信用フィルタ領域を具備する本発明の弾性表面波デュプレクサを用いることにより、該弾性表面波デュプレクサは小型であるため他の部品の実装面積を確保することができ、このため、小型で高機能な通信装置を実現することができる。しかも高いアイソレーション特性のため、高い通話品質を得ることができる。
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得る。
例えば、図18に示すように、更にバスバー電極12aや反射器電極2のバスバー電極12b上に厚膜部6を設けても良い。このようにすることにより、主伝搬路とバスバー電極とのモードが結合することを抑制することができるため、より弾性表面波の漏洩による損失を抑制することができる。なお、図18では電極指13及び反射器電極2のグレーティング電極を挟んで上下対称に厚膜部6を設けた形状を示したが、形状は上下で異なっていても構わない。
また、IDT電極の外形は、図1、図11等に示した長方形でなく、例えば三角形,菱形,台形等の形状にアポダイズされていても構わない。
また反射器電極のグレーティング電極領域の形状も、三角形、菱形、台形等であってもかまわない。
また、補助反射器電極の位置については、反射器電極のIDT電極と隣接していない側のバスバー電極を仮想的に延長した直線上に配置すればよく、傾斜角度θについては0°を超え、20°以下であれば効果があるが、効果のある角度は、基板方位,IDT電極膜厚,電極指13のピッチ等に依存するパラメータであるので、この範囲に限定するものではない。
また、ラダー型フィルタの場合について説明したが、DMS型フィルタ,トランスバーサル型フィルタ,IIDT型フィルタ等、弾性表面波を扱う弾性表面波素子であれば本発明の適用が可能である。
まず、38.7°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶基板から成る圧電基板(基板厚みは250μm)の一方主面に、スパッタリング法により基板側からTi/Al−1質量%Cu/Ti/Al−1質量%Cuからなる4層の下地導体膜を成膜した。膜厚はそれぞれ6nm/104nm/6nm/104nmである。
次に、この下地導体膜をフォトリソグラフィとRIEとによりパターニングして、それぞれ電極指及びバスバー電極を有するIDT電極と、反射器電極、補助反射器電極とを具備する弾性表面波共振子を複数有し、それらをラダー型に接続し、入出力電極を有する、図2、図12に示した本発明の弾性表面波デュプレクサを作製した。このときのエッチングガスにはBCl3及びCl2の混合ガスを用いた。電極指の線幅及び隣り合う電極指間の距離はどちらも約0.5μmである。
また、従来構造の比較例として図19に示した構造の弾性表面波デュプレクサについても同時に作製した。
次に、入力端子15,17及び出力端子16,18及び環状電極21の上に新たなCr/Ni/Auからなる導体層を積層して、入力端子15,17の上及び出力端子16,18上にそれぞれ入力パッド及び出力パッドを形成した。
この新たな導体層の厚みはそれぞれ10nm/1000nm/100nmである。
その後、圧電基板にダイシング線に沿ってダイシング加工を施し、弾性表面波デュプレクサのチップごとに分割した。
次に、本発明の実施例の弾性表面波デュプレクサ及び比較例の弾性表面波デュプレクサを、それぞれLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板からなる実装用基体上に一方主面を対面させて実装した。
ここで、LTCC基板は、圧電基板19の一方主面に形成した環状電極21に対応する基体側環状導体及び弾性表面波デュプレクサの入出力パッドと接続されるパッド電極を有しており、予めこれら基体側環状導体及びパッド電極には半田を印刷しておいた。
これに弾性表面波デュプレクサを実装するにおいては、これら半田パターンに一致するように弾性表面波デュプレクサを配置して超音波を印加することにより仮固定し、その後、加熱することにより半田を溶融することによって環状電極21と基体側環状導体とを、及び入出力パッドとパッド電極とを接続した。
これにより、弾性表面波デュプレクサの各IDT電極,反射器電極,及び入出力パッドは、LTCC基板の基体側環状導体とこれに接続された環状電極21とによって完全に気密封止された。
なお、以上の弾性表面波素子の実装工程は窒素雰囲気下で行った。
次に、弾性表面波素子の他方主面(裏面)をモールド樹脂で保護し、最後にLTCC基板を各弾性表面波デュプレクサ間でダイシングすることにより、本発明の実施例の弾性表面波デュプレクサ及び比較例の弾性表面波デュプレクサを有する弾性表面波素子を得た。
(1)補助反射器電極3(図2)を有する場合
図20は、図2の構造のデュプレクサのアイソレーション特性を示すグラフである。
図20のグラフにおいて、横軸は規格化した周波数を、縦軸はアイソレーション(単位:dB)を表す。点線の特性曲線は従来の補助反射器電極3を有しない図19に示す従来の弾性表面波デュプレクサの結果を示し、実線の特性曲線は、従来の弾性表面波デュプレクサに対して補助反射器電極3を付加した場合の本発明の実施例の結果を示している。
図20に示す結果から分かるように、この本発明の実施例の弾性表面波デュプレクサは、たとえば規格化周波数0.95において、アイソレーション特性が比較例のものに比べて最大で5dBと、大きな改善が見られた。
比較例の構成のデュプレクサは、送信用フィルタを構成する弾性表面波共振子からは、漏れて伝搬する漏洩弾性表面波が存在するため、良好な特性が得られなかったものと思われる。
図21は、本発明の弾性表面波共振子を用いて作製した1端子対弾性表面波共振子のインピーダンス特性(実線)を、従来の弾性表面波共振子によるインピーダンス特性(破線)と比較した例を示すグラフである。
図21において、横軸は任意の周波数で規格化した周波数を、縦軸はインピーダンスの絶対値|Z|(単位:Ω)を表す。インピーダンス|Z|のピークの部分は、反共振抵抗といわれる。
図21のように本発明では、反共振抵抗値11と呼ばれるピーク値を大きくし、高Qにすることができる。反共振抵抗値11は、ラダー型フィルタを構成した場合、通過帯域内の挿入損失に影響を及ぼすパラメータで、このラダー型フィルタの並列腕の共振子の反共振抵抗値11が大きいほど挿入損失を低減することができる。具体的には、本発明の反共振抵抗値11は約900Ωであるのに対して、補助反射器電極3を持たない従来の反共振抵抗値10は840Ωであり、本発明により約60Ωと大きく改善されている。
また、図22は、補助反射器電極3のグレーティング電極14bの繰り返し方向Gと、IDT電極1の弾性表面波の主伝搬方向Fとのなす角度θ(単位:°)を横軸とした場合の、反共振抵抗値(単位:Ω)を縦軸に示した図である。
この実験ではθを0°から20°まで変化させることで、反共振抵抗値が約62Ω向上することが分かった。
なお、補助反射器電極3の方向Gと、IDT電極1の弾性表面波の主伝搬方向Fとのなす角度は、所望の特性に応じて、20°以上にしてもよい。
また、図23は送信用フィルタの通過帯域内特性の拡大図である。図23において、横軸は任意の周波数で規格化した周波数を、縦軸は減衰量(単位:dB)を表している。
パラメータとして補助反射器電極3の方向Gと、IDT電極1の弾性表面波の主伝搬方向Fとのなす角度θ(単位:°)をとっており、破線は5°、一点鎖線は10°、点線は15°、実線は20°を示している。図23ではθが20°の場合が最も挿入損失が改善され、5°の場合に比べると約0.1dBの改善が見られる。
また、上述の実施例において説明したものと全く同様の方法で、補助反射器電極3のグレーティング電極14bのピッチとIDT電極1の電極指13のピッチとを異ならせた、本発明の弾性表面波共振子を用いた弾性表面波デュプレクサを作製し、前記の評価を行った。
その結果を図24に示す。図24は、上面概略図は図2と同じであるが、補助反射器電極3のグレーティング電極14bのピッチがIDT電極1の電極指13のピッチと異なる場合のアイソレーション特性をグラフで示したものである。
図24のグラフにおいて、横軸は規格化した周波数を、縦軸はアイソレーション(単位:dB)を表す。点線の特性曲線は従来の補助反射器電極3を有しない比較例の結果を示し、破線及び実線の特性曲線はそれぞれ、従来の弾性表面波共振子に対してグレーティング電極14bのピッチがIDT電極1の電極指13のピッチと同一である補助反射器電極3を有する場合と、グレーティング電極14bのピッチがIDT電極1の電極指13のピッチの2倍である補助反射器電極3を有する場合の本発明の実施例の結果を示している。
図24に示す結果から分かるように、この実施例の弾性表面波共振子は、比較例のものに比べて最大で約6dBと大きなアイソレーション特性の改善が見られた。
(2)IDT型補助反射器電極3′(図12)を有する場合
作製した本発明の実施例と比較例について、そのアイソレーション特性を、図25にグラフで示す。
図25のグラフにおいて、横軸は規格化した周波数を、縦軸はアイソレーション(単位:dB)を表す。破線の特性曲線は従来のIDT型補助反射器電極3′を有しない図19の比較例の結果を示し、実線の特性曲線は、従来の弾性表面波デュプレクサに対してIDT型補助反射器電極3′を付加した場合の本発明の実施例の結果を示している。
図25に示す結果から分かるように、この実施例の弾性表面波デュプレクサは、比較例の場合に比べてたとえば規格化周波数1.005において約9dBと大きなアイソレーション特性の改善が見られた。比較例のデュプレクサは、送信用フィルタを構成する弾性表面波共振子から漏れて伝搬する漏洩弾性表面波が存在するため、良好な特性が得られなかったものと思われる。
また、本発明の弾性表面波共振子を用いて作製した1端子対弾性表面波共振子のインピーダンス特性(実線)を、従来の弾性表面波共振子によるインピーダンス特性(破線)と比較した場合、図26に示したようなグラフが得られる。実線に示すように、 反共振抵抗値11と呼ばれるピーク値を大きくすることができることが確認できる。具体的には、本発明の反共振抵抗値は約819Ωであるのに対して、従来のIDT型補助反射器電極3′を持たない弾性表面波共振子の反共振抵抗値10は812Ωであり、本発明により約7Ω改善することができる。
また、図27は、IDT型補助反射器電極3′の方向GとIDT電極1の弾性表面波の主伝搬方向Fとのなす角度θ(単位:°)を横軸とした場合の、反共振抵抗値(単位:Ω)を縦軸に示した図である。
実験ではθを0°から10°変化させることで、反共振抵抗値が約14Ω向上することがわかる。なお、角度θを10°前後とした場合、最も改善することがわかる。
したがって、反共振抵抗値を最適にするという観点から見れば、IDT電極型補助反射器電極3′の電極指の繰り返し方向Gと、IDT電極1の弾性表面波の主伝搬方向Fとのなす角度θとしては、5°から10°の範囲とすることが望ましい。
なお、この角度が10°よりも大きいときには、反共振抵抗値の値が小さくなる。しかし、図29の説明で後述するように、アイソレーション特性は、角度に拘わらず向上する。
また、図28は、図12で示したデュプレクサの送信用フィルタの通過帯域内特性を示す拡大図である。
図28において、横軸は任意の周波数で規格化した周波数を、縦軸は減衰量(単位:dB)を表している。
パラメータとして角度θ(単位:°)をとっており、破線は角度θ=0°のグラフであるのに対して、実線は、角度θが10°の場合を示している。図28ではθ=10°の場合、従来にくらべ約0.1dB挿入損失が改善されることがわかる。
また、IDT電極型補助反射器電極の位置について、反射器電極のIDT電極と隣接していない側のバスバー電極を仮想的に延長した直線上に配置し、傾斜角度θを変えた場合の、アイソレーション特性に与える影響を図29のグラフに示す。
パラメータとして角度θ(単位:°)をとり、横軸は規格化した周波数を、縦軸はアイソレーション(単位:dB)を表す。
IDT電極型補助反射器電極の傾斜角度θが0°〜20°の範囲で大きくなるにつれ、広い周波数範囲でアイソレーション特性が改善し、θが20°の場合、θが0°の場合にくらべて最大で約2dB程度の改善が見られた。
また、上述の実施例において説明したものと全く同様の方法で、IDT型補助反射器電極3′の電極指13bのピッチとIDT電極1の電極指13aのピッチとを異ならせた弾性表面波デュプレクサを作製し、前記の評価を行った。
結果は図30に示すように、IDT型補助反射器電極3′の電極指13bのピッチをIDT電極1の電極指13aのピッチの2倍にした場合に、送信用フィルタの通過帯域内にあたる1.00の周波数において、従来に比べて約9dB程度アイソレーション特性が改善した。
図31は、図14に示したIDT型補助反射器電極3′と第二の補助反射器電極4とを接続して一体に形成する場合における、デュプレクサのアイソレーション特性を示したグラフである。破線はIDT型補助反射器電極3′と第二の補助反射器電極4の接続がない図13に示した構造の場合であり、実線はIDT型補助反射器電極3′と第二の補助反射器電極4の接続がある図14に示した構造の場合である。実線では、接続がない場合にくらべると、規格化周波数が0.98〜1.02の広い範囲に渡って、約1dB改善されることがわかる。