紐を締結する手段は、紐締め具を用いないもの、スリーブをかしめるもの、複数部品からなる紐締め具を用いるものなど、多数知られているが、紐の締結・解除動作を簡単なものとする紐締め具としては一体物の板状の紐締め具を用いたものがよく知られている。
例えば、図14に示すように、合成樹脂板101の中央部に設けた穴103,103’に紐106を通し、つぎに該板101の端部に開口するV字状の案内切込み104,104’に当てがってひも止め孔105,105’に食い込ませるようにしたものがある(特許文献1参照)。
また、図15に示すように、2つの第一紐挿透孔202と1つの第二紐挿透孔203を有する調節具201を用い、調節具201に屈曲させて通した紐204を引っ張ることにより調節具201との間の摩擦力で紐204を固定するものも提案されている(特許文献2)。紐204はその端部を調節具201の一方の第一紐挿透孔202に通してから折り返して再び他方の第一紐挿透孔202に通し、折り返すことにより2本とされた紐203を纏めて側方の切り欠き205から第二紐挿透孔203に導入することにより、2本の紐201を調節具201の両端並びに中央の孔間部206に対して絡みつけるようにして、紐203の動きを阻止するようにしている。
また、第16図に示すように、直線的に並んだ3つの透孔303,304,305を有するプラスチック製要具301を利用してベルト状の紐302を固定するものが提案されている(特許文献3)。平紐302は、第1の透孔303を裏側から表側へ、第2の透孔304を表側から裏側へ、第3の透孔305を裏側から表側へ通してあり、さらに、第3の透孔305からプラスチック製要具301の表側へ導かれたものを再び第1の透孔303で表側から裏側へ通してある。
さらには、図17に示すように、流通業における荷物配送時の荷物固定という目的に好適に用いることができるロープ緊締具が提案されている(特許文献4)。このロープ緊締具401は、緊締対象物たる荷物を括るロープ404の一端404aを固定的に保持する保持部402と、ロープ404の他端404bを任意の位置で固定可能な操作部403とを備え、保持部402の貫通口405、406、407を利用して予めロープ404の一端を固定しておき、ロープ404の他端404b側を引っ張って荷物を縛り付けてから操作部403の第1及び第2の開口408,410並びに第1及び第2の折り返し部409,411を利用してロープ他端404b側を任意の位置で固定するようにしている。ここで、操作部403はロープ緊締具401の裏側から表側にロープを通す第1の開口408と、この第1の開口408を通したロープ404を当該ロープ404の延在方向において折り返し、更にこの方向における操作部403の端縁にて裏側に折り返すための第1の折り返し部位409と、該第1の折り返し部位409にて折り返されたロープ404を再び表側に通す第2の開口410と、該第2の開口410を通したロープ404を、第1の開口408から第1の折り返し部位409まで延在するロープの部分404cの上に交差させて渡し、この方向における操作部403の端縁にて再び裏側に折り返すための第2の折り返し部位411とを備えている。
このロープ緊締具401によると、ロープ404の一端404aは、まず貫通口405、406、407の順番に通し、この貫通口407を通したロープ端部を更に、貫通口405と406の間に延在するロープの部分404dの上から折り返し、緊締具401との隙間に差し込む。その後ロープを矢印aの方に引っ張ることにより、この隙間を圧迫してロープの端404aを固定するようにしている。さらに、ロープの端部404aには結び目を作り、ロープ端404aが貫通口405,406の間のロープ部分404dとロープ緊締具401との隙間や貫通口405〜407から抜け落ちるのを確実に防止するようにしている。このようにロープを3カ所に通して固定することにより、ロープを引っ張った際に各貫通口にかかる負荷を分散させて確実に固定できるとともに、ロープ及びロープ緊締具の耐久性を確保するようにしている。
他方、ロープの他端404bは、図17(B)に示すように、第1の開口408を通したロープ他端404bを引っ張って荷物にかけられたロープ404の全体の緩みを取り、矢印bの方向に折り返した後、ロープ404が緩まないように第1の開口408の近傍でロープ404を指で押さえながら、(C)に矢印cで示すように、第1の折り返し部位409にロープ404を引っかけて裏側へ折り返す。次に、(D)に示すように、矢印dで示すように、ロープ端404bを第2の開口410に引き込んでから、第1の開口408と第1の折り返し部409との間に掛け渡されたローブ部分404cを上から押さえるようにロープ端404bを第2の折り返し部411に対して引っかける。そして、(E)に矢印eで示すように、上側に折り返したロープ端404bを緊締具401の上側の端縁(第2の折り返し部位)411にて三たび折り返し、最後に荷物の外側に延在するロープの部分404eとロープ緊締具401との間に挟み込む。この際、裏側に折り返したロープ端404bを第1の開口408側に寄せて、ロープ404が緊締具401の裏側に突出する突出部412と第1の開口408との間に延在するようにする。上述のように操作を行うと、最後に折り返したロープ端部404bは、(F)に示すように緊締具401とロープの部分404eとの間に、かつ、第1の開口408と突出部412との間に挟み込まれている。このようにロープ端部404bを挟むことにより、荷物緊締時にはロープの部分404eは矢印fの方向に引っ張られているため、部分404eと緊締具401との間でロープ端部404bが強固に固定され、ずれることがない。また、突出部412は適用するロープ404の直径と同程度の高さを有しており、ロープ端404bは緊締具401側に押しつけられているため、一旦挟み込んだロープ端部404bが緊締後に突出部412を外側に越えて係止状態が外れることがない。また、第1の開口408と、第1の折り返し部409と、第2の開口410と、緊締具401の上側の端辺(第2の折り返し部)411の各々が滑り止めとなり、確実にロープ404を固定しておくことができる。
実公昭54-040162号
実登3040841号
実全昭63-099507号
特開2001-171627号
しかしながら、特許文献1の技術では、紐をひも止め孔105,105’に通した段階で紐106が固定されることを前提とした構造である。つまり、紐106をひも止め孔105,105’に通した状態では、もはや紐106を引いて締めることはできない。しかし、紐106を引いて締めた後で、この紐106を紐締め具(ひも止め具)101に係合させなければならないのでは、この係合の段階で緩みが生じやすい。
また、特許文献2の技術では、図15(B)に示すように、紐204の輪状部が調節具201の孔間部206を跨いで側面視山状となるように直線方向に引っ張られている状態では、第二紐挿透孔203に摩擦保持されることにより、調節具201が紐204に固定されるものであるが、調節具2が紐体に対して直交した状態になれば容易に緩んでしまい、締結状態が確実に保持される必要がある場合に適したものではない。
さらに、特許文献3記載の技術では、丸紐には適用しにくい構造である。しかも、ベルトを保持する状態では、平紐2を引き戻す方向のみならず、引き出す方向にも制動がかかってしまう構造である。したがって、紐を引き出しながら締めていくことは困難である。
さらに、特許文献4記載の技術によると、荷物を縛るロープの両端404a,404bのロープ緊締具401への固定が完了した後にさらにロープ404の締め付けを行うことができない。つまり、ロープ端404a,404bを引っ張りながら締め付けを行うと共に、引っ張っているロープを手から離すと同時にロープに制動力を作用させてその位置に固定させることができない。
即ち、ロープ緊締具401の保持部402におけるロープの一端404aは、貫通口405と406の間の部分のロープ404cの上から折り返されて更に緊締具1との隙間に差し込まれていることから、矢印aの方向(ロープの他端404b側)にしかロープ404を引っ張ることはできず、そしてその方向は荷物を縛っている状態のロープにとっては緩める方向であって、荷物にロープを掛ける前の最初の段階ではロープ緊締具401にロープ404を固定ためのものである。また、ロープ緊締具401の操作部403におけるロープの他端404bでは、図17(F)に示される最終状態で、ロープ端部404bを引っ張ったとしても、第1の開口408と第1の折り返し部409との間に掛け渡されているロープ部分404cの上を第2の開口410で折り返されたロープが交差して押さえつけるため、ロープの他端404bを引っ張っても荷物を縛っている状態のロープ404を締め付けることはできない。ロープを締め付け得るのは、あくまでも操作部403の第1の開口408に巻き掛ける最初の段階((B)の状態)であり、その状態ではロープから手を離すと同時に荷物を縛っている状態のロープが緩んでしまう。
そこで本発明は、紐締め具に紐を通した状態で、紐を締め付ける方向には引くことができ、かつ、緩める方向には強い制動がかかる紐締め構造を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、簡単な構造の紐締め具で、紐をきわめて容易にかつ強固に締め付けることができるようにすることである。
かかる目的を達成するため、本発明の紐締め構造は、緊締対象物を括る紐を締め付けて前記緊締対象物を縛る紐締め構造において、紐の一端を固定する組と他端を固定する組との少なくとも2組の第1から第3の3つの透孔をそれぞれ1つの基材に対して三角形状に配置して設けた紐締め具を用い、前記紐の両端をそれぞれ前記紐締め具の基材の表面あるいは裏面のいずれか一方から前記第1の透孔に通して他方側に引き出し、この第1の透孔から出た紐の端部を前記第2の透孔に通して再び前記紐締め具の一方の面に引き出すと共に、この第2の透孔から出た紐の端部を前記第3の透孔に通して再度前記紐締め具の他方の面に引き出すと共にこの第3の透孔から出た紐の端部を前記紐締め具の他方の面において前記第1の透孔と第2の透孔との間に通された紐と前記基材との間を通した状態で前記紐の両端を互いに逆方向に引っ張って締め付けることで、前記第1及び第2の透孔の間の紐と前記基材との間で前記紐の両端を挟みつけて拘束するようにしている。
したがって、紐の両端を同時に引っ張ることで、緊締対象物を括る紐を締め付けて緊締対象物を所望の緊締力で縛りあげることができ、その状態で紐を離すと縛りを緩める方向には強く制動がかかることから縛りの状態が保持される。
また、本発明の紐締め構造は、緊締対象物を括る紐を締め付けて前記緊締対象物を縛る紐締め構造において、S字状波形カーブを繰り返す連続した1本のばね鋼から成り、鋼材で仕切られた空間が第1から第3の透孔を形成する紐締め具を用い、予め一端が固定された前記紐の自由端側を前記紐締め具の表面あるいは裏面のいずれか一方から前記第1の透孔に通して他方側に引き出し、この第1の透孔から出た紐の端部を前記第2の透孔に通して再び前記紐締め具の一方の面に引き出すと共に、この第2の透孔から出た紐の端部を前記第3の透孔に通して再度前記紐締め具の他方の面に引き出すと共にこの第3の透孔から出た紐の端部を前記紐締め具の他方の面において前記第1の透孔と第2の透孔との間に通された紐と前記基材との間を通して前記第1及び第2の透孔の間の紐と前記基材との間で前記紐の自由端を挟みつけて拘束するようにしている。
したがって、第1から第3の透孔への紐通しは、S字状波形カーブを繰り返す連続した1本のばね鋼の弾性的に閉ざされている部分に紐を押し当てて引っ張るだけで通過させることができる。そして、紐の自由端側を引っ張る場合、即ち緊締対象物を縛る紐を締め付ける方向には引くことができるが、縛り状態を緩める方向に引っ張る場合には第1及び第2の透孔の間に掛けられた紐と基材との間で紐の自由端側が挟みつけられて拘束されるため、紐の動きに強い制動がかかる。
ここで、紐締め具の2組の第1の透孔、第2の透孔および第3の透孔は線対称に配置されたものであることが好ましく、さらには前記第1の透孔、前記第2の透孔および前記第3の透孔のうちのいずれかが両組で共通であることが好ましい。さらには、共通の透孔は前記紐を2本挿通可能な開口面積を少なくとも有し、残りの他の透孔は前記紐を少なくとも1本挿通可能な開口面積を有するものであることが好ましく、基材が板状のブロックであり、その表裏を貫通する5つの透孔がW字形状に配置されて2組の前記第1から第3の透孔が備えられていることがより好ましい。
また、基材はS字状波形カーブを繰り返す連続した1本のばね鋼から成り、鋼材で仕切られた空間が前記第1から第3の透孔を形成するものであっても良い。
さらには、一部あるいは全部の透孔は紐が掛かる部位を除いたところに透孔が基材の外部と連通する切り欠きあるいは不連続部を有するものであっても良い。
また、本発明の紐締め構造においては、第1の透孔と第2の透孔との間の位置で、第1の透孔から出て第2の透孔に通される紐を該紐とは別の輪の中を通して第2の透孔に通すようにしても良い。
また、本発明における緊締対象物は、特に限定されるものではなく、被くるみ体を覆う張り地であって、その縁の紐通しに通された紐の両端が紐締め具で締め付けられて固定されるものであっても良い。さらに、この被くるみ体は椅子の座あるいは背もしくはその他の椅子の構成部品のいずれかであっても良い。
さらに、本発明は、緊締対象物を括る紐を締め付けて緊締対象物を縛る紐締め構造において、板状のブロックから成る基材に、その表裏を貫通する5つの透孔がW字形状に配置されると共に中央の透孔を共通にして紐の一端を固定する組と他端を固定する組との少なくとも2組の第1から第3の3つの透孔が線対称に配置された紐締め具を用い、W字形状の両端の透孔を第1の透孔、W字形状の両谷部の透孔を第2の透孔、W字形状の中央部の透孔を共通の第3の透孔として、紐の両端部を紐締め具の表裏一側から両第1の透孔に各々通してあり、これら第1の透孔から出た紐の両端部を紐締め具の表裏他側から両第2の透孔に各々通してあり、これら第2の透孔から出た紐の両端部を紐締め具の表裏一側から第3の透孔に各々通してあり、この第3の透孔から出た紐の両端部を紐締め具の表裏他側においてその端部が通された第1の透孔と第2の透孔との間に位置している紐と基材との間を各々通して第1及び第2の透孔の間の紐と基材との間で紐の両端を挟みつけて拘束するものである。
本発明の紐締め構造によれば、紐の両端を同時に引っ張るだけで、緊締対象物を括る紐を締め付けて緊締対象物を所望の緊締力で縛った状態で紐を固定・拘束することができ、しかも、緩むことがない。また、紐同士が互いに不必要に干渉し合ったり絡み合うことがないので、紐締め作業時の紐の動きがスムーズとなる。しかも、紐締め作業時に紐の両端を互いに反対方向に引くことになるので、この2つの力がバランスして安定することにより、緊締対象物が妄りに動いたりせず、緊締対象物を別途に押さえたりする必要がない。また、同じく紐締め作業時に紐から紐締め具に加わる力も安定し、この紐締め具が妄りに遊動したりしない。こうして、紐締め作業の作業性はきわめてよいものとなる。
さらに請求項8記載の紐締め構造によれば、紐を締め付ける方向には引くことができるが、緩む方向には強い制動がかかるので、紐を締め付ける方向に引っ張ると共に緊締対象物を縛った状態が所望の緊締力(緊張状態)となったときに紐を離すだけで、その締め付け状態を固定・拘束することができる。
また、請求項2記載の紐締め構造によれば、紐の両端を互いに逆方向に引っ張ることで、緊締対象物を括る紐を締め付けて緊締対象物を所望の緊締力で縛った状態で紐を固定・拘束することができる。
また、請求項3記載の紐締め構造によれば、透孔の一部を共用化することで孔数を減らすことができるので、基材ブロックを小さく即ち紐締め具をコンパクトにできるとともに、その強度も高められる。
また、請求項4記載の紐締め構造によれば、紐通し作業を難しいものとせずに、透孔の大きさを最小限のものとすることができ、紐締め具をよりコンパクトなものとできるとともに、その強度も高められる。
また、請求項5記載の紐締め構造によれば、基材ブロックの左右を対称に紐通しを行うことができるので、紐を互いに逆方向に引っ張りながら締め上げることとなるので、力を掛けやすく、かつ紐締め具もコンパクトなものとできる。
また、請求項6記載の紐締め構造によれば、S字状波形カーブが多数繰り返す長尺の素材を作っておけば、これを切るだけで、多数の紐締め具を簡単に作れる。しかも、S字ばね鋼で基材を構成しているので、弾性的に開くばね鋼で閉ざされている透孔への紐通しが容易となる。
また、請求項7記載の紐締め構造によれば、切り欠きあるいは不連続部を通して紐を透孔内に挿入できるので、紐通し作業が極めて容易となる。
また、請求項9記載の紐締め構造によれば、輪を引っ張ることで第1の透孔と第2の透孔との間に跨って掛け渡された紐を持ち上げることができるので、第1の透孔と第2の透孔との間に跨って掛け渡された紐によって基材に押さえつけられている紐の自由端側の押さえが解除されて、紐を引き戻して緩めることができる。また、このようにして紐の一端部を緩めれば、紐全体の張力が弱まるので、紐の他端側においても第1の透孔と第2の透孔との間に跨って掛け渡された紐を摘み上げることが可能となり、緊締対象物を縛った状態を緩めることができる。
また、請求項10記載の紐締め構造によれば、張り地によるくるみ作業が簡単に行うことができる。即ち、被くるみ体を覆う張り地の縁の紐通しに通された紐の両端を基材の第1から第3の透孔に順次通せば、紐の両端を引っ張るだけで張り地を周縁を絞って座構造物などを張り地でくるむことができる。
また、請求項11記載の紐締め構造によれば、椅子の座や背などの構造物の張り地によるくるみ作業が簡単に行うことができる。即ち、座構造物あるいは背構造物などをくるむ張り地の縁の紐通しに通された紐の両端を基材の第1から第3の透孔に順次通せば、紐の両端を引っ張るだけで張り地を周縁を絞って座構造物などを張り地でくるむことができる。
また、請求項12記載の紐締め構造によれば、紐の部分同士が不必要に干渉し合うことがないとともに、紐締め作業時に紐の両端部を互いに反対方向に引くことになるので、この2つの力がバランスして安定することにより、座が妄りに動いたりせず、座を別途に押さえたりする必要がない。また、同じく紐締め作業時に紐から紐締め具に加わる力も安定し、この紐締め具が妄りに遊動したりしない。こうして、紐締め作業の作業性はきわめてよいものとなる。そして、紐締め具に紐を通す作業を除けば、単に紐の端部を引っ張るだけで紐締め作業が完了し、しかも、緩むことがない。余分な紐の端部を切るような作業が必要となる場合が生じるかもしれないが、紐を引っ張るのが紐締めの最終工程即ち座構造物のくるみ行程の完了となる。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1から図4に本発明の紐締め構造(紐締め具)の一実施形態を示す。この実施形態の紐締め構造は、いすの座構造物の張り地の緊締手段として利用したものであり、緊締対象物を括る紐1とこの紐の両端を固定するための1つの紐締め具2とを備える。なお、図中の符号11は椅子の座の裏板、12は同張り地である。この張り地12の周縁部には筒状の紐通し部13が形成されている。この紐通し部13は、両端が開口しているが、この両端開口は近接対向している。そして、紐1は、紐通し部13に通され、その両端開口から両端部がそれぞれ出されている。
紐締め具2は、本実施形態の場合、平板状のブロックから成る基材3に、紐1の一端を固定する組と他端を固定する組との少なくとも2組の第1から第3の3つの透孔を三角形状に配置するように設けて成る。具体的には、基材3の表裏を貫通する5つの透孔がW字形状に配置されて1つの透孔が共用する2組の前記第1から第3の透孔が構成されている。本実施形態の場合、W字形状に配置された5つの透孔のうち、両端の透孔を第1の透孔4a,4b、両谷部の透孔を第2の透孔5a,5b、中央の透孔を共通の第3の透孔6としている。即ち、2組の第1の透孔4a,4b、第2の透孔5a,5bおよび第3の透孔6は、透孔6を通る直線を軸とする線対称に配置されたものである。この場合、紐締め具2をコンパクトにできるとともに、その強度も高められる。ここで、共通孔となる第3の透孔6は他の透孔4a,4b,5a,5bよりも大きく形成することが紐通し作業を容易にする上で好ましく、例えば第3の透孔6は紐1を2本挿通可能な開口面積を少なくとも有し、残りの他の透孔は紐を少なくとも1本挿通可能な開口面積を有するものである。
基材3は、紐1から加わる力に耐えられるものであればその材料・材質に限定を受けるものではなく、例えばポリプロピレン等の合成樹脂や鉄,アルミニウム等の金属などの使用が可能であるが、特にリサイクル可能なポリプロピレンの使用が好ましい。プラスチック製の基材を用いる場合には、一般には射出成形によって作られるが、金属製基材の場合にはプレス打ち抜き加工などによって簡単に作られる。
この基材3に対し、紐1の両端1a,1bは、基材3の表面あるいは裏面のいずれか一方から第1の透孔4a,4bに通して基材3の反対側に引き出し、基材3の反対側で第1の透孔4a,4bから出た紐4の端部1a,1bを第2の透孔5a,5bに通して再び基材3の一方の面に引き出すと共に、この第2の透孔5a,5bから出た紐1の端部1a,1bを第3の透孔6に通して再度基材3の反対側の面に引き出すと共にこの第3の透孔6から出た各紐端部1a,1bを基材3の反対側の面において第1の透孔4a,4bと第2の透孔5a,5bとの間に跨って通された紐部分(以下、跨ぎ部という)1cと基材3との間を通して第1及び第2の透孔の間の紐の跨ぎ部1cと基材3との間で紐両端1a,1bを挟みつけて拘束している(以下、挟まれる部分を固定部1dという)。
なお、紐1は、本実施形態の場合、締め付けを容易にするため丸紐を用いているが、場合によっては平紐などを用いても良い。
以上のように構成された紐締め構造によって椅子の座に張り地12を包むにあたっては、張り地12の周縁部の紐通し部13の両端開口から取り出された紐1の両端1a,1bを紐締め具2の基材3の第1から第3の透孔4a,4b,5a,5b,6に所定の手順で通してから、紐1の両端1a,1bを両手で互いに反対方向へ引けば、それだけで紐締めが完了し、張り地12の包みが完了する。
ここで、この紐締めの作用について、特に図4を参照しながら一方の紐端部1bを例に挙げてより詳しく説明する。紐1の端部1bは、第1の透孔4b、第2の透孔5b、第3の透孔6の順に縫うように通し、さらに、この第3の透孔6から出た紐1の端部1bが第1の透孔4bと第2の透孔5bとの間に位置している跨ぎ部1cの下に潜らせるように通してある。この跨ぎ部1cの下に通された紐1の固定部1dが、紐1を自由端1b側へ引き出す方向(張り地12を締める方向)Aに引いた場合には、紐1の反対側(図では紐端部1aに向かう方向)から強い抗力が働かない段階(紐1全体がまだ締まっておらず、張力が弱い段階)では、跨ぎ部1cから固定部1dへ強い力は働かないので、紐1の端部1bを引き出していくことができる。しかし、紐1全体が締まり、その張力が高まると、跨ぎ部1cが固定部1dを強く押さえ付けるようになるので、紐1の端部を引き出すのにも限界がある。
逆に、紐1の端部1bが引き戻される方向(張り地12を緩める方向)Bに引かれた場合には、たとえ紐1全体の張力が弱い段階であっても、強い制動がかかる。すなわち、この場合、紐1に加えられた力は、固定部1dより先に跨ぎ部1cに伝わるので、この跨ぎ部1cが固定部1dを強く押さえ付けることになり、これら跨ぎ部1cと固定部1dとの間に強い静摩擦が働き、その結果、紐1は動くことができない。
以上のように、最終的には、紐1の端部に引き出す方向Aにも引き戻す方向Bにも強い制動がかかるようになるので、紐1の両端部が紐締め具2に強固に固定される。しかも、紐1の端部を引き戻す方向Bには特に強い制動が作用するので、紐締め作業時にいったん締めた紐1が緩んでしまうことがないとともに、椅子の使用時などにも、張り地12を締めている紐1が緩んでしまうことを確実に防止できる。
そして、紐1の両端部1a,1bを引くだけでよいので、紐締め作業の作業性は非常によい。しかも、本実施形態の場合、紐同士が互いに不必要に干渉し合ったり絡み合うことがないので、紐締め作業時の紐1の動きがスムーズとなる。しかも、紐締め作業時に紐1の両端1a,1bを互いに反対方向に引くことになるので、この2つの力がバランスして安定することにより、座が妄りに動いたりせず、座を別途に押さえたりする必要がない。また、同じく紐締め作業時に紐1から紐締め具2に加わる力も安定し、この紐締め具2が妄りに遊動したりしない。こうして、紐締め作業の作業性はきわめてよいものとなる。そして、紐締め具に紐を通す作業を除けば、単に紐の端部を引っ張るだけで紐締め作業が完了し、しかも、緩むことがない。余分な紐の端部を切るような作業が必要となる場合が生じるかもしれないが、紐を引っ張るのが紐締めの最終工程即ち座構造物のくるみ行程の完了となる。
また、紐1に紐締め具2は付けておくが、紐1を締めることなく、座を流通させ、紐締め作業は別の所で行う場合でも、流通中に紐締め具2が脱落したり、脱落しないまでも、紐1が透孔4a,4b,5a,5b,6から外れてしまうことがない。したがって、紐1に紐締め具2を付ける作業と紐締め作業とを別の所で行う場合に好適である。
上述のように、本紐締め構造によれば、紐1の両端部が紐締め具2に強固に固定され、一旦締めると、緩めるのは難しい。しかし、張り地12を交換可能としたり、洗濯のために着脱可能としたりしたい場合など、場合によっては意図的に紐を緩め易くすることが望まれることもある。
例えば図5並びに図6に示す実施形態のように、紐の少なくとも一端の第1の透孔と第2の透孔との間に跨って張られる紐(跨ぎ部1c)を持ち上げる手段を備えれば、緊締状態にあっても自在にロープを緩めることが可能となる。即ち、第1の透孔4a,4bと第2の透孔5a,5bとの間の位置において、紐端部1a,1bの跨ぎ部1cの部分を紐1とは別の輪10の中に通しておけばよい。ここで、輪10は紐を縛って輪にするようにすれば、輪10は後で付けることも可能である。また、輪10を付けるのは、紐1の両端部のうち少なくとも一方でよい。そして、輪10を引けば、跨ぎ部1cによる固定部1dの押さえが解除されるので、紐1を緩める方向(図4のB方向)に引き戻すことができる。また、このようにして紐1の一端部を緩めれば、紐1全体の張力が弱まるので、紐1の他端部において、跨ぎ部1cを摘み上げるようにすることにより、紐1を緩めることができる。ここで、輪10は、その直径・太さを緊締用の紐1の直径・太さよりも細いものとし、跨ぎ部1cにおいて固定部1dを基材3との間で挟みつけるのに妨げとならないものとすることが必要である。なお、跨ぎ部1cを持ち上げる手段としては、上述の紐の輪に限られず、跨ぎ部1cを持ち上げられる手段であれば環状物でなくとも良く、例えば、跨ぎ部1cの下に細い棒のようなものを通して跨ぎ部1cで押さえておけば、この細い棒を持ち上げることにより紐1を引き戻す(緩める)方向に引くことも可能である。また、紐端部1a,1bを第1の透孔4a,4bから第2の透孔5a,5bへ通す際にプラスチック製あるいは金属製のリングを通す用にしても良い。
図7に第3の実施形態を示す。この実施形態は、各透孔4a,4b,5a,5b,6から基材3の外縁に至る導入部7を形成し、紐通し作業を容易にしたものである。導入部7は、紐1を締め付けるときに紐1が掛かる部位を除いたところに、各透孔4a,4b,5a,5b,6が基材3の外部と連通する切り欠きあるいは不連続部を設けることによって構成されるものである。この導入部7は、全ての透孔4a,4b,5a,5b,6に設けているが、図8に示す第4の実施形態のように一部の透孔例えば第2の透孔5a,5bに対してのみ導入部7を設けるようにしても良い。一部の透孔に導入部7を設けるだけでも、その分だけ紐通し作業が容易となる。しかも、図8の実施形態のように紐1が最初に通される第1の透孔4aと最後に通される第3の透孔6とが閉じた孔としている場合には、紐1の紐締め具2からの抜け落ちが防がれる。
なお、導入部7を設ける紐締め具2の場合には、導入部7を形成することにより基材3の強度が低下し、紐1を締めたときにその張力で基材3が撓むおそれがあるので、その材料としては、アルミニウムなどのより剛性の高い材料を用いることが好ましい。
さらに、図9に第5の実施形態を示す。この実施形態の紐締め構造は、紐締め具2としてS字状波形カーブを繰り返す一筆書き形状のばね鋼線材製の基材3を用いたものである。S字状波形カーブを繰り返す本実施形態の線材製基材3の場合、弧状部が両側に交互に形成され、その弧状部の内側が透孔4a,4b,5a,5b,6として機能し、隣接する弧状部の間が導入部7となる。この導入部7は、常時は閉じていて、紐1を通すときに弾性的に開くように構成されているが、紐1が通過する程度の隙間が常時形成されるようにしても良い。
この線材製基材3の場合、図9に鎖線で示すように、S字状波形カーブが多数繰り返す長尺の素材を作っておけば、これを必要な長さ(少なくとも紐の一端を固定する1組の第1から第3の3つの透孔を構成する長さ、好ましくは紐の両端を固定する2組の透孔を構成する長さ)で切るだけで、多数の紐締め具2を簡単に作れる。
さらに、上述の各実施形態では2組の第1から第3の透孔のうちのいずれかの透孔を共通させて基板3のコンパクト化を図るようにしているが、場合によっては図10に示す第6の実施形態のように2組の透孔を完全に独立させるようにしても良い。この実施形態の紐締め具2は、2組の透孔4a,4b,5a,5b,6a,6bを左右対称に配置して互いに独立させたものであり、紐締め具2のコンパクト化という利点は損なうが、透孔の間隔が広がることにより紐通し作業が容易になるという利点がある。
さらに、上述の各実施形態では、紐締め具2に紐1の両端を位置調整可能に固定するようにしているが、これに特に限られるものではなく、例えば図11に示す第7の実施形態のように、紐締め具2の一端側には1組の第1の透孔4、第2の透孔(半円形)5および第3の透孔6を設け、他端側には紐の他端を固定する一つの透孔8のみを設けるようにしても良い。この場合における紐の固定並びに締め付けは、紐1の他端を透孔8に通して予め縛りつける一方、紐1の一端側を第1の透孔4から第2の透孔5さらに第3の透孔6へと縫うように通し、最後に第3の透孔6から出た紐4の一端を第1の透孔4と第2の透孔5との間の跨ぎ部1cの下(紐と基材の間)を通してから、この紐の自由端を引っ張ることで第1及び第2の透孔の間の紐と基材との間で紐の自由端を挟みつけて拘束する。
なお、本実施形態の紐締め具2では、第2の透孔を半円形状として導入部7を兼ね備えたものとしているが、第1から第3の全ての透孔4,5,6を完全円の透孔としても良いし、全ての透孔4,5,6に図7に示すような導入部7を設けても良い。また、紐の他端を縛り付ける手段についても特に透孔8に限られるものでなく、例えば縊れ部やフック形状の固定部を設けてそこに紐を縛り付けるようにしても良い。
また、1組の透孔の数は少なくとも3つあれば良く、4つあるいはそれ以上あっても良い。例えば、図12に示す実施形態のように、5つの透孔4,5,21,22,6を設けて、全ての透孔に1本の紐の端部を縫うように順次通して任意の2つの透孔の間に張られた紐の下を通して固定するようにしても良い。要は、4つ以上ある透孔のうちのいずれか3つについて、上述の各実施形態における第1の透孔、第2の透孔並びに第3の透孔として機能させるようにすればよい。例えば図12の実施形態では、透孔4,5,6,21,22のうち、4が第1の透孔、5が第2の透孔、6が第3の透孔として機能する。したがって、第1の透孔4、第2の透孔5、透孔21、透孔22、第3の透孔6を経て第1の透孔4と第2の透孔5との間に張られた紐の下を第6の透孔6から引き出された紐を通すことにより、紐の端部を引き出し可能に固定している。この場合には、3つの透孔だけで固定する場合に比べて紐に与えられる基材3との摩擦力がより大きくなるので、固定力は強くなるが余分な紐通し作業を必要とする。
また、図12の透孔の配置の紐締め具2においては、図13に示すように、五角形の各頂点に位置する透孔の1つ例えば透孔22を共通の透孔として、透孔4並びに透孔5に紐の両端をそれぞれ引き込み、一方は透孔5,22及び21を利用して、他方は透孔4,22及び6を利用してそれぞれ紐の両端を透孔5と透孔22並びに透孔4と透孔22との間に掛け渡された紐の下を潜らせるようにして引き出すことで固定することも可能である。この場合には、透孔22の中心から2つの透孔4,5の間を通る直線を軸とする線対称に2組の透孔が配置されているので、紐同士が不必要に干渉し合うことがないとともに、紐締め作業時に紐の両端部を互いに反対方向に引くことになるので、この2つの力がバランスして安定することにより、紐締め具2が妄りに動いたりせず、紐締め具2を紐締め作業時に押さえたりする必要がない。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では椅子の座や背において張り地を取り付ける場合について主に例示したが、椅子以外の張り地の取り付けにも利用できるばかりか、さらには、荷造りなどの紐締め一般に利用可能である。
また、図示していないが、互いに独立した2つの部材間に張り渡された紐の端部を引っ張って締め付けつつ固定するのに本発明の紐締め付け構造を利用することも可能である。この場合にはそれぞれ紐の端部を固定する部材に三角形状に配された3つの透孔を形成すればよい。
また、図示していないが、紐を通す順序は上述の各実施形態に示すものに限定されるものではなく、必要に応じてその順序は適宜変えられる。例えば実施例1の紐締め具2を用いる場合でも、紐1の一端部を通す1組の透孔4a,5a,6の間でどういう順序で紐1を通すかは任意である。すなわち、3つの透孔4a,5a,6のうち、最初に紐を通すのがどの透孔であっても、最初に紐を通した透孔が第1の透孔であり、次に通すのが第2の透孔、最後に通されるのが第3の透孔に相当する。そして、2組の透孔の間でも対称な位置関係にある透孔あるいは共通の透孔に対して同じ順番で紐を通す必要がなく、例えば図1の実施形態において一方の紐端部は透孔4を第1の透孔とするのに対し他方の紐端部は透孔6あるいは透孔5bを第1の透孔とすることも可能である。
さらに、2組の第1の透孔4a,4b、第2の透孔5a,5bおよび第3の透孔6で、紐1の端部1a,1bを基材3の表裏について逆に通しても良い。