以下、本発明の実施の形態に係る信号捕捉装置について、図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る信号捕捉装置が使用される通信システムの構成を示すシステム構成図である。この通信システム20は、携帯電話機10と、携帯電話網21と、この携帯電話網21に接続された無線基地局23と、携帯電話機10の上空に配置されたGPS衛星(ここでは説明のために、4つのGPS衛星24−1〜24−4を示す)と、から主に構成される。
携帯電話機10は、無線基地局23と無線信号を送受信することによって、携帯電話網21に配置された図示しない他の携帯電話機や固定電話機あるいは情報サーバと通信を行う。また、4つのGPS衛星24−1〜24−4のそれぞれから送出されるGPS信号を捕捉し、各GPS信号から情報を抽出することによって測位を行う。このGPS信号は、1,57542GHz(ギガヘルツ)の同一の周波数の搬送波に、GPS信号ごとに異なるC/Aコード(Coarse/Acquisition Code)やPコード(Precise CodeもしくはProtected Code)といったPRNコードを重畳したものである。
図2は、図1に示す携帯電話機10の構成を示すブロック図である。携帯電話機10は、無線用アンテナ101と、無線通信部102と、GPS用アンテナ103と、GPS信号受信部104と、測位演算部105と、GPS用クロック生成部106と、周波数比較部107と、基準周波数設定部108と、サーチ周波数制御部109と、測位開始指示入力部110と、トリガ出力部111と、タイマ112、から主に構成される。また、サーチ周波数制御部109は、基準補正情報格納部121と、サーチ範囲補正部122とを備えている。
また、この携帯電話機10は、図示しないがCPU(Central Processing Unit)と、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体と、RAM(Random Access Memory)等の作業用メモリと、既存のハードウェアとしての通信回路によって構成されている。すなわち、制御プログラムをCPUが実行することで上記した各装置部の機能が実現する。
無線通信部102は、図1に示す無線基地局23との間で無線信号の送受信を行う。無線基地局23は、図示しないが高い周波数精度でクロック信号を生成するクロック発振器を備えており、このクロック信号を搬送周波数として使用して無線通信部102と無線通信を行う。無線通信部102は、図示しないがPLL(Phase-Locked Loop)回路を有するAFC(Automatic Frequency Control)装置を備えており、無線基地局23から送出される無線信号の搬送波周波数に周波数同期した基準クロック信号を生成する。
GPS信号受信部104は、GPS信号をサーチするとともにこれを捕捉し、GPS信号に含まれる情報を取得する。測位演算部105は、この取得された情報を基に測位のための演算を行う。すなわち、携帯電話機10は、携帯電話網21に接続する機能と、GPSシステムによる測位機能とを備えた移動体通信端末である。
測位開始指示入力部110は、図示しないがキースイッチを備えており、GPSによる測位の開始の指示を受け付ける。GPS用クロック生成部106は、図示しない温度補償型水晶発振器(Temperature Compensated Crystal Oscillator : TCXO)を使用して、GPS信号受信部104の動作クロックとして使用されるGPSクロック信号を生成する。このGPS用クロック生成部106は、携帯電話機10の無線通信部102のAFC装置のような周波数同期は施されず、自走のクロック源である。また、温度補償型となっているものの、水晶発振器の発振周波数は周囲温度からの影響によって変動する。したがって、GPSクロック信号の周波数精度は、無線通信部102が出力する基準クロック信号の周波数精度よりも低くなっている。
トリガ出力部111は、タイマ112を使用して周波数比較部107に周波数の比較を行わせるためのトリガを出力する。周波数比較部107は、トリガ出力部111からトリガを入力されるたびに、GPSクロック信号の周波数(以下、単に「GPSクロック周波数」という。)をその理想値と比較し、その周波数の差分(以下、「クロック周波数差」という。)を周波数差情報として出力する。
基準周波数設定部108は、この周波数差情報を基にして、GPSクロック周波数の理想値の実際のGPSクロック周波数に対する比を示す情報である基準補正情報を生成する。この基準補正情報は、GPS信号受信部104がGPS信号を捕捉する際の基準となる周波数としてのサーチ基準周波数を補正するのに使用されるものである。
基準補正情報格納部121は、基準周波数設定部108から入力される基準補正情報を格納する。サーチ周波数制御部109は、基準補正情報格納部121に格納された基準補正情報に基づいて、GPS信号受信部104がGPS信号を捕捉する際の基準となる周波数としてのサーチ基準周波数を補正する。サーチ範囲補正部122は、周波数比較部107から出力される周波数差情報に基づいて、GPS信号のサーチ範囲を補正する。
図3は、図2に示すGPS信号受信部104の回路構成を示すものである。GPS信号受信部104は、増幅回路131と、第1のミキサ132と、第1の帯域制限フィルタ133と、第2のミキサと134と、第2の帯域制限フィルタ135と、アナログデジタル(A/D)変換器136と、第3のミキサ137と、積分器138と、周波数逓倍器139と、数値制御発振器(Numerical Controlled Oscillator:NCO)140と、PRNコード生成部141と、から主に構成される。
周波数逓倍器139は、GPSクロック信号を逓倍してGPS信号の搬送波の周波数レベルの第1のローカル信号(周波数:fLo1)に変換する。図2に示すGPS用アンテナ103で受信された受信信号は、増幅回路131で増幅され、第1のミキサ132でこの第1のローカル信号と乗算されてから、第1の帯域制限フィルタ133で不要な周波数成分を除去することでGPS信号は第1のIF(Intermediate Frequency)周波数(fIF1)にダウンコンバートされる。数値制御発振器140は、GPSクロック信号を動作クロックとし、入力されるサーチ対象周波数と同一の周波数をもつ第2のローカル信号(周波数:fLo2)を生成する。第1の帯域制限フィルタ133から出力される第1のIF周波数に変換された受信信号は、第2のミキサ134でこの第2のローカル信号と乗算され、第2のIF周波数(fIF2)に変換される。ここでは第2のIF周波数はベースバンド相当の信号、すなわち0Hz付近としているが、第2のIF周波数fLo2はベースバンドでなくても構わない。第2のIF周波数fLo2に変換された受信信号は、第2の帯域制限フィルタ135で不要な周波数成分が除去される。そして、アナログデジタル変換器136で、デジタル信号に変換される。
PRNコード生成部141は、PRNコードを数値制御発振器140から出力されるクロック信号に同期してPRNコードを生成する。アナログデジタル変換器136でデジタル化された受信信号は、第3のミキサ137でこの生成されたPRNコードと乗算され、積分器138で積分される。すなわち、受信する信号がGPS信号であり、なおかつ数値制御発振器140から出力されるクロック信号がこれと周波数同期したとき、PRNコード生成部141が出力するPRNコードとの同期が確立し、積分器138が出力する積分値はピークをとる。したがって、図2に示す測位演算部105は、この積分値を監視することによって、コード同期が確立されたか否かを判別し、GPS信号の捕捉を検出する。
数値制御発振器140の設定周波数は、GPSクロック周波数が理想値に一致する前提での内容となっている。具体的には、前記した第1のローカル信号はGPSクロック信号を逓倍したものであり、更に第2のローカル信号を出力する数値制御発振器140はGPSクロック周波数が正しいものとして動作するため、その上で設定された周波数で第2のローカル信号を出力する。したがって、サーチ対象周波数をfsと設定した場合、GPSクロック周波数をfclk、周波数逓倍器139の逓倍率をN1とすると、数値制御発振器140の設定周波数(fnco)を以下の式(1)で示される内容に設定することで、サーチ対象周波数fsをサーチすることが可能となる。
fnco=fs−N1×fclk−fIF2……(1)
GPSクロック周波数が理想値からずれている場合には、第1のローカル信号および第2のローカル信号も周波数が想定する周波数からずれたものとなる。たとえば、GPSクロック周波数が理想値のm倍であった場合、出力される第1のローカル信号の周波数および第2のローカル信号の周波数も想定される周波数のm倍となる。したがって、これらの信号によってダウンコンバートされて出力される信号、すなわちIF変換された受信信号の周波数も、指定されたサーチ対象周波数fsに対応するIF周波数からずれたものとなる。
なお、GPS信号の捕捉は、図1に示す4つのGPS衛星24−1〜24−4の全てについてそれぞれ異なるチャネルで行われる必要がある。ここでは、説明の簡便化のために、GPS信号受信部104にはGPS衛星24−1に対応する構成のみが備えられているものとするが、実際にはチャネルごとに図3に示す構成が備えられる。
以上の構成を有する携帯電話機10について、以下、各装置部の動作を説明する。
携帯電話機10のユーザは、測位開始指示入力部110のキースイッチを操作することによって任意のタイミングでGPSによる測位の開始の指示を入力できる。また、測位開始指示入力部110は、携帯電話機10に搭載されたアプリケーションソフトウェアあるいは携帯電話網21側からの測位開始の指示の入力も受け付ける。測位開始指示入力部110は、この測位開始の指示が入力されると、その旨を示す測位開始指示情報をGPS用クロック生成部106およびトリガ出力部111に出力する。
GPS用クロック生成部106は、測位開始指示情報が入力されると、温度補償型水晶発振器への電源供給を開始し、GPSクロック信号の出力を開始する。トリガ出力部111は、測位開始指示情報が入力されると、周波数比較部107に対するトリガの出力を開始する。
図4は、トリガ出力部111によるトリガ出力処理の流れを示すフロー図である。トリガ出力部111は、測位開始指示入力部110から測位開始指示情報を入力されると(ステップS201:YES)、タイマ112を初期化するとともにタイマ112の計時を開始させ(ステップS202)、トリガを周波数比較部107へと出力する(ステップS203)。そして、GPS信号のサーチがまだ終了していない場合には(ステップS204:NO)、タイマ112が出力する時間情報が、サーチ時間Sに達したか否かの判別を行う(ステップS205)。サーチ時間Sは、GPS信号受信部104によるGPS信号のサーチ対象周波数の上下の幅がサーチ範囲の周波数幅の初期値に達する最小時間に予め設定されている。また、この最小時間はGPSクロック周波数に比例して変化することから、サーチ時間Sの計測に使用されるタイマ112は、GPSクロック信号に同期して計時を行う。
トリガ出力部111は、タイマ112が出力する時間情報がサーチ時間Sに到達していない場合には(ステップS205:NO)、ステップS204へと戻り、到達した場合には(ステップS205:YES)、ステップS202へ戻ってタイマ112を初期化するとともにトリガを出力する。すなわち、サーチ時間Sが経過するごとに、トリガが出力される。GPS信号のサーチが終了すると(ステップS204:YES)、トリガ出力部111はステップS201へ戻り、新たに測位開始指示情報が入力されるのを待機する(リターン)。
なお、GPS信号のサーチが終了するのは、たとえば、測位に必要な数のGPS衛星24との間でコード同期を確立できたときや、後に説明する所定のサーチ範囲についてサーチを実施したものの、測位に必要な数のGPS衛星24との間でコード同期を確立できなかったときである。この場合には、トリガ出力部111はステップS202へ戻り、再度一連のサーチ処理を再実行するようにしてもよい。
周波数比較部107は、トリガ出力部111からトリガを入力されると、GPSクロック周波数をその理想値と比較し、得られたクロック周波数差を、周波数差情報として基準周波数設定部108へと出力する。この周波数差情報は、たとえば無線通信部102が出力する基準クロック信号が所定回数立ち上がる区間に、GPS用クロック生成部106が出力するGPSクロック信号が何回立ち上がるかをカウントし、GPSクロック周波数が理想値であったときに得られるカウント値と実際のカウント値を比較することによって求めることができる。
基準周波数設定部108は、周波数比較部107から周波数差情報を入力されるたびに、基準補正情報を生成してサーチ周波数制御部109に出力する。GPS信号受信部104では、既に説明したようにGPSクロック周波数が理想値のm倍であった場合、出力される第1のローカル信号の周波数および第2のローカル信号の周波数も想定される周波数のm倍となる。また、サーチ周波数制御部109は、後に詳しく説明するが、サーチ対象周波数に基準補正情報を乗じたものをGPS信号受信部104に出力する。したがって、実際のGPSクロック周波数に対するGPSクロック周波数の理想値の比が基準補正情報に設定されることにより、GPS信号受信部104で実際にサーチの対象となる周波数を、想定値に合わせ込むことが可能となる。したがって、基準周波数設定部108は、GPSクロック信号の理想的な周波数をf1とし、入力された周波数差情報をΔf1とすると、基準補正情報を、f1/(f1+Δf1)で示される値に決定する。
サーチ周波数制御部109は、基準周波数設定部108から基準補正情報を入力されるたびに、入力された周波数差情報で基準補正情報格納部121を更新する。また、サーチ周波数制御部109は、その時点に設定されたサーチ範囲の周波数幅(以下、サーチ幅という。)Aまでサーチ範囲を広げる形で、サーチ対象周波数を決定し、決定したサーチ対象周波数を基準補正情報格納部121の周波数差情報に基づいて補正し、図3に示す数値制御発振器140へと出力する。サーチ幅Aは、サーチ範囲補正部122によって適宜補正されるが、この補正については後に説明する。
図5は、サーチ周波数制御部109によるサーチ周波数制御処理の流れを示すフロー図である。サーチ周波数制御部109は、周波数比較部107から周波数差情報を入力されると(ステップS221:YES)、基準周波数設定部108から入力される基準補正情報で基準補正情報格納部121を更新するとともに、サーチ基準周波数fbに基準補正情報格納部121に格納された基準補正情報を乗じた値を図3に示す数値制御発振器140へと出力し、GPS信号受信部104に対して該当する周波数についてのサーチを行わせる。また、サーチ基準周波数fbに対するサーチ対象周波数のシフト量を示すパラメータFrに初期値「0」を設定する(ステップS222)。サーチ基準周波数fbには、たとえばPRNコードのチップレート1.023MHzが設定される。
GPS信号が捕捉されない場合には(ステップS223:NO)、サーチ周波数制御部109は、予め定められたサーチステップΔFSだけパラメータFrを増加させてから(ステップS224)、サーチ基準周波数fbとパラメータFrとの加算値に基準補正情報を乗じた値を数値制御発振器140へと出力し、GPS信号受信部104に対して該当する周波数についてのサーチを行わせる(ステップS225)。GPS信号が捕捉されない場合には(ステップS226:NO)、サーチ基準周波数fbからパラメータFrを減じた値に基準補正情報を乗じ、算出された値を数値制御発振器140へと出力してGPS信号受信部104に対して該当する周波数についてのサーチを行わせる(ステップS227)。
まだGPS信号が捕捉されない場合には(ステップS228:NO)、パラメータFrがサーチ幅Aの2分の1(A/2)を超えたか否かを判別する(ステップS229)。パラメータFrがA/2を超えていない場合には(ステップS229:NO)、ステップS224へ戻り、パラメータFrを更に増加させてGPS信号のサーチを継続する。パラメータFrがA/2を超えた場合には(ステップS229:YES)、ステップS222へ戻り、基準補正情報のリセットを行ってからGPS信号のサーチを再開する。
ステップS222からステップS229までの処理を繰り返す間にGPS信号が捕捉されると(ステップS223:YES、ステップS226:YESまたはステップS228:YES)、サーチ周波数制御部109は、再びステップS221へ戻って新たに周波数差情報が入力されるのを待機する(リターン)。
サーチ周波数制御部109のサーチ範囲補正部122は、周波数比較部107から2回目以降の周波数差情報を入力されるたびに、GPS信号受信部104によって理想的なサーチ範囲、すなわちGPSクロック周波数が理想値に一致している場合のサーチ範囲のサーチが完了したか否かを判別する。GPSクロック周波数がサーチ開始後に変動し、実際のサーチ範囲が理想的なサーチ範囲からずれてしまったことを判別した場合には、サーチ幅Aを拡大させる。
図6は、サーチ範囲補正部122によるサーチ範囲補正処理の流れを示すフロー図である。サーチ範囲補正部122は、周波数比較部107から周波数差情報を入力されると(ステップS241:YES)、サーチ幅Aに、初期値A0を設定する(ステップS242)。この初期値A0は、理想的なサーチ範囲の周波数幅として予め定められた値であり、サーチ幅Aは図5のステップS229で使用されるパラメータである。
周波数差情報は、無線クロック信号に基づいて生成されているため、実際のクロック周波数差との間に誤差が生じる。また、この誤差は、無線通信部102の周波数精度(周波数確度)によって決まってくる。したがって、サーチ範囲の周波数幅の初期値A0は、この無線通信部102の周波数精度に対応する大きさが設定される。また、既に説明したように、トリガ出力部111に設定されるサーチ時間Sは、GPS信号のサーチ対象周波数の上下の幅がサーチ範囲の周波数幅の初期値A0に達する最小時間に予め設定されている。
サーチ範囲補正部122は、GPS信号の捕捉と2回目以降の周波数差情報の入力を監視し(ステップS243、ステップS244)、2回目以降の周波数差情報が入力されると(ステップS244:YES)、パラメータFrに周波数差情報Δfを加算した値と、パラメータFrから周波数差情報Δfを減じた値が、いずれもA/2より大きいか否かを判別する(ステップS245)。すなわち、実際にサーチの対象となった周波数範囲が理想的なサーチ範囲を包含するか否かを判別する。サーチ範囲補正部122は、パラメータFrに周波数差情報Δfを加算した値とパラメータFrから周波数差情報Δfを減じた値が、いずれもA/2より大きい場合には(ステップS245:YES)、ステップS242へ戻ってサーチ幅Aを初期化する。
一方、パラメータFrに周波数差情報Δfを加算した値と、パラメータFrから周波数差情報Δfを減じた値のいずれかが、A/2以下であるとき、実際にサーチの対象となった周波数範囲が理想的なサーチ範囲を包含しておらず、まだ理想的なサーチ範囲についてのサーチが完了していない。しかしながら、サーチ幅Aをそのままとすると図5のステップS229でA/2がパラメータFrよりも小さいと判別され、サーチがリセットされてしまう。そこで、サーチ範囲補正部122は、パラメータFrに周波数差情報Δfを加算した値とパラメータFrから周波数差情報Δfを減じた値のいずれかが、A/2以下の場合には(ステップS245:NO)、サーチ幅Aを更にその初期値A0だけ増加させ(ステップS246)、ステップS243へ戻る。これにより、サーチ対象周波数がリセットされることなく、GPS信号のサーチが継続される。GPS信号が捕捉されると(ステップS243:YES)、サーチ周波数制御部109は、再びステップS241へ戻って新たに周波数差情報が入力されるのを待機する(リターン)。
図7は、GPS信号受信部104によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図である。横軸はサーチが開始されてからの経過時間を示し、縦軸は周波数を示している。説明の簡便化のため、以下、GPSクロック信号の理想的な周波数が、PRNコードのチップレートと同一であり、実際にGPS信号受信部104でサーチされる際の基準となる周波数(以下、「実サーチ基準周波数」という。)がGPSクロック信号の実際の周波数に一致するものとする。また、サーチ周波数制御部109の基準補正情報格納部121には、初期値として値「1」が格納されているものとする。
ここで、第1の時刻t1に、サーチが開始されてトリガ出力部111からトリガが出力され、基準周波数設定部108およびサーチ周波数制御部109に周波数差情報が入力されたとする。基準補正情報は、PRNコードのチップレート、すなわちここではGPSクロック信号の理想的な周波数をサーチ基準周波数fbとすると、基準補正情報は、fb/(fb+Δf1)で示される値に決定される。すると、同図に示すように、第1の時刻t1の直後には、実サーチ基準周波数fSはサーチ基準周波数fbにほぼ一致する。
ただし、GPS信号のPRNコードのチップレートとしてのGPS信号周波数f0との間には、既に説明したように、周波数誤差Δdが残る。しかしながら、GPS用クロック生成部106の発振周波数を調整した場合に比べて、その周波数精度は数ppm(parts per million)から1ppm以下の値へと向上する。
サーチ基準周波数fb以上の周波数帯域に設定されるサーチ対象周波数301を高周波側サーチ対象周波数3011とし、サーチ基準周波数fb以下の周波数帯域に設定されるサーチ対象周波数301を低周波側サーチ対象周波数3012とする。図5で説明した処理により、高周波側サーチ対象周波数3011は実サーチ基準周波数fSを基準として時間の経過とともに増加していき、低周波側サーチ対象周波数3012は実サーチ基準周波数fSを基準として時間の経過とともに減少していく。
第1の時刻t1以降もGPSクロック周波数(実サーチ基準周波数fS)が更に増加すると、サーチ幅Aによって定まる実際のサーチ範囲の上限値としての実サーチ上限値fmaxと実際のサーチ範囲の下限値としての実サーチ下限値fminもそれぞれ増加する。
第1の時刻t1からサーチ時間Sが経過した第2の時刻t2に、トリガが出力されて周波数差情報が出力されると、サーチ範囲補正部122は、図6のステップS245で、実サーチ上限値fmaxが理想的なサーチ範囲の上限値fmax0を超え、かつ実サーチ下限値fminが理想的なサーチ範囲の下限値fmin0未満となっているか否かを判別する。同図に示すように、第2の時刻t2では実サーチ下限値fminが理想的なサーチ範囲の下限値fmin0未満ではないため、サーチ幅Aは初期値A0だけ増加し、実サーチ上限値fmaxは高周波側サーチ対象周波数3011よりもA0/2だけ高くなり、実サーチ下限値fminは低周波側サーチ対象周波数3012よりもA0/2だけ低くなる。したがって、GPS信号のサーチはリセットされずに継続される。
第2の時刻t2からサーチ時間Sが経過した第3の時刻t3にも同様に周波数差情報が出力されるが、同図に示すように実サーチ下限値fminは理想的なサーチ範囲の下限値fmin0未満ではないため、サーチ幅Aは更に増加する。そして、第4の時刻t4で低周波側サーチ対象周波数3012がGPS信号周波数f0に到達し、GPS信号が捕捉され、サーチが終了する。
同図には、第4の時刻t4でGPS信号を捕捉できなかった場合のサーチ対象周波数301の変化の様子についても図示する。この場合、第3の時刻t3からサーチ時間Sが経過した第5の時刻t5にも同様に周波数差情報が出力されるが、この時には同図に示すように実サーチ下限値fminは理想的なサーチ範囲の下限値fmin0未満となっている。したがって、サーチ幅Aは初期値A0にリセットされ、その結果、図5のステップS229でA/2はパラメータFr以下であると判別され、第5の時刻t5の直後に実サーチ基準周波数fSは再びサーチ基準周波数fbと一致するように補正される。この結果、パラメータFrは初期値に戻され、実サーチ基準周波数fSを基点としてサーチが再開され、第6の時刻t6に周波側サーチ対象周波数3012は再びGPS信号周波数f0に到達する。
図8は、参考のためにサーチ幅Aを拡大しない場合のGPS信号受信部104によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図であり、図7に対応するものである。サーチ幅Aを拡大しない場合、第2の時刻t2の直後に高周波側サーチ対象周波数3011と低周波側サーチ対象周波数3012はそれぞれ実サーチ上限値fmaxおよび実サーチ下限値fminに到達し、GPS信号のサーチはリセットされてしまう。第2の時刻t2からサーチ時間Sが経過した第3の時刻t3の直後と、第3の時刻t3からサーチ時間Sが経過した第5の時刻t5の直後も同様である。そして、第5の時刻t5でのGPS信号のリセットの後の第7の時刻t7に、ようやく低周波側サーチ対象周波数3012はGPS信号周波数f0に到達する。
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、GPS信号に周波数変動が無い場合のサーチ範囲についてのサーチが完了していない場合には、サーチ対象周波数をリセットせずに、サーチを継続させる。これにより、サーチ開始後にGPSクロック周波数が変動し、実際のサーチ対象周波数がGPSクロック信号の周波数が理想値のときの周波数からずれていってしまう場合でも、周波数上限値fmaxあるいは周波数下限値fminに実際のサーチ対象周波数が到達するまでサーチ範囲の拡大を継続でき、取りこぼしのないGPS信号のサーチを実現することができる。また、GPS信号のサーチ対象周波数の上下の幅が設定されたサーチ幅に達する時刻に、GPS信号に周波数変動が無い場合のサーチ範囲についてのサーチが完了したか否かの判別を行うので、判別処理を最小限に抑えることができる。また、従来のサーチ対象周波数の制御処理はそのまま適用することができるため、従来の信号補足装置に対する軽微な変更で以上説明した機能を実現することができる。また、サーチ範囲を広げる周期や拡大幅が固定であるため、ソフトウェアへの影響を抑えた状態で上記したようなより確実なサーチを実現することができる。
(実施の形態2)
図9は、本発明の実施の形態2に係る信号捕捉装置が使用される移動通信端末装置としての携帯電話機の構成を示すブロック図であり、実施の形態1の図2に対応するものである。図2と同一部分には同一符号を付し、これについての説明を省略する。携帯電話機40のサーチ周波数制御部409は、図2のサーチ範囲補正部122とは異なる処理を行うサーチ範囲補正部422を備えている。また、このサーチ範囲補正部422、新たにサーチ幅Aおよびサーチ時間Sを補正するサーチ幅補正部423を備えている。
図10は、サーチ範囲補正部422によるサーチ範囲補正処理の流れを示すフロー図であり、実施の形態1の図6に対応するものである。図6と同一部分には同一ステップ番号を付し、これについての説明を省略する。サーチ範囲補正部422は、2回目以降の周波数差情報を入力されたと判別し(ステップS244:YES)、理想的なサーチ範囲についてのサーチがまだ完了していないと判別すると(ステップS245:NO)、図9に示すサーチ幅補正部423に対して、実施の形態1で説明したサーチ幅Aおよびサーチ時間Sの補正を行うサーチ幅補正処理を実行させ(ステップS546)、ステップS243へ戻る。
図11は、サーチ幅補正部423によるサーチ幅補正処理の流れを示すフロー図である。サーチ幅補正部423は、周波数比較部107から入力された周波数差情報Δfに基づいて、理想的なサーチ範囲の上限値fmax0と理想的なサーチ範囲の下限値fmin0の両方に達するようなサーチ幅Aを新たに設定する。すなわち、実施の形態1と同様にGPSクロック信号の理想的な周波数をPRNコードのチップレートと同一であるとすると、サーチ幅の初期値A0に周波数差情報Δfを2倍したものを加算した値を、サーチ幅Aに設定する(ステップS561)。そして、サーチ幅補正部423は、サーチ対象周波数301の上下の幅がこの決定されたサーチ幅Aに到達する最小時間を演算し(ステップS562)、演算結果をトリガ出力部111へ出力し、実施の形態1の図4のステップS205での判別に使用されるサーチ時間Sに設定して(ステップS563)、処理を終了する(エンド)。
設定すべきサーチ時間Sは、高周波側サーチ対象周波数3011の増加速度および低周波側サーチ対象周波数3012の減少速度の絶対値が同一であり、これを周波数サーチ速度VSとすると、たとえば以下の式(2)で演算することができる。
S={(A0/2)+Δf−Fr}/VS ……(2)
周波数サーチ速度VSは、サーチ周波数制御部409に設定されているサーチステップΔFと、GPS信号受信部104のサーチ能力によって決定されるパラメータである。このようにして、サーチ幅Aとサーチ時間Sは周波数差情報Δfに応じて補正される。
図12は、GPS信号受信部104によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図であり、実施の形態1の図7に対応するものである。図7と同一部分には同一符号を付し、これについての説明を省略する。
第1の時刻t1から第1のサーチ時間S1が経過した第2の時刻t2にサーチ周波数制御部409に周波数差情報が入力されたとする。この第1のサーチ時間S1は、実施の形態1のサーチ時間Sと同一である。サーチ範囲補正部422は、GPS信号のサーチをリセットせずに継続させるが、図11で説明した処理によって、サーチ幅補正部423はサーチ幅Aとサーチ時間Sを補正する。したがって、第2の時刻t2の直後には、実サーチ下限値fminは理想的なサーチ範囲の下限値fmin0に一致し、低周波側サーチ対象周波数3012が実サーチ下限値fminに一致するのに要する第2のサーチ時間S2が経過した第3の時刻に、トリガ出力部111からトリガが出力され、サーチ周波数制御部409に周波数差情報が入力される。
第3の時刻t3にも同様にサーチ幅Aとサーチ時間Sが補正され、第4の時刻t4で低周波側サーチ対象周波数3012がGPS信号周波数f0に到達し、GPS信号が捕捉され、サーチが終了する。
同図には、GPS信号の電波強度が弱く、第4の時刻t4で捕捉できなかった場合のサーチ対象周波数301の変化の様子についても図示する。この場合、第3の時刻t3までと同様に第3の時刻t3から第3のサーチ時間S3が経過した第5の時刻t5と、その後の第6の時刻t6でサーチ幅Aとサーチ時間Sを補正する。ここで、第6の時刻t6の後に、サーチ幅Aとサーチ時間Sの演算が行われてその結果が反映されるよりも先に、パラメータFrがA/2を超え、低周波側サーチ対象周波数3012が実サーチ下限値fmin未満となったとする。すると、第6の時刻t6の直後の第7の時刻t7には、実サーチ基準周波数fSは再びサーチ基準周波数fbと一致するように補正され、パラメータFrは初期値に戻され、実サーチ基準周波数fSを基点としてサーチが再実行される。
ただし、サーチ開始後時間が経過してGPSクロック信号の周波数変動が少なくなると、サーチ範囲の変更が頻繁に行われるようになるため、図7でサーチがリセットされる時刻よりも、図12でサーチがリセットされる第7の時刻t7のほうが早い。したがって、GPS信号を捕捉できなかった場合に以降の再サーチをより早く実行することができ、たとえば1回目のサーチによる捕捉失敗が一時的なGPS信号の信号レベルの低下であったような場合に、2回目以降にGPS信号周波数f0をサーチの対象とする時刻をより早めることができる。
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、サーチ幅Aとサーチ時間Sを理想的なサーチ範囲についてのサーチを行う最小限の値に抑えるように設定するので、理想的なサーチ範囲以外の周波数帯域についてのサーチが行われる時間を低減させることができ、より早くサーチをリセットすることができる。すなわち、2回目以降にGPS信号周波数f0をサーチの対象とする時刻をより早めることができ、より早くGPS信号を捕捉することが可能となる。
(実施の形態3)
図13は、本発明の実施の形態3に係る信号捕捉装置が使用される移動通信端末装置としての携帯電話機の構成を示すブロック図であり、実施の形態1の図2に対応するものである。図2と同一部分には同一符号を付し、これについての説明を省略する。携帯電話機60は、図示しない温度センサを用いてGPS用クロック生成部106の温度補償型水晶発振器の周辺温度の変化を判定し、その判定結果に基づいてトリガを出力する温度変化判定部613を備えている。また、携帯電話機60は、トリガ出力部111と温度変化判定部613のいずれかからトリガが出力されると、周波数比較部107に周波数の比較を行わせるためのトリガを出力するタイミング制御部614を備えている。トリガ出力部111は周波数比較部107に接続されておらず、トリガ出力部111から出力されるトリガは、タイミング制御部614に入力される。測位開始指示入力部110から出力される測位開始指示情報は、温度変化判定部613にも入力される。
図14は、温度変化判定部613による温度変化判定処理の流れを示すフロー図である。温度変化判定部613は、図13に示す測位開始指示入力部110から測位開始指示情報を入力されると(ステップS701:YES)、温度センサで検出されるGPS用クロック生成部106の温度補償型水晶発振器の周辺温度(以下、発振器温度という。)を取得し、これを記憶する(ステップS702)。
GPS信号のサーチが終了していない場合には(ステップS703:NO)、温度変化判定部613は、再び発振器温度を取得し、取得した発振器温度からステップS702で記憶した発振器温度を差し引いて温度変動値Δhを演算する(ステップS704)。そして、演算された温度変動値Δhが所定値H以上であるか否かを判別する(ステップS705)。
温度変動値Δhが所定値H未満である場合には(ステップS705:NO)、温度変化判定部613は、ステップS703へ戻る。一方、温度変動値Δhが所定値H以上である場合には(ステップS705:YES)、温度変化判定部613は、発振器温度が大きく変動しGPS信号の周波数も大きく変動したと判定し、サーチ範囲を拡大するためにトリガをタイミング制御部614へ出力する(ステップS706)。そして、ステップS702へ戻り、発振器温度を記憶し、ステップS703からステップS705までの処理を繰り返す。すなわち、サーチ範囲の補正が行われるたびに、ステップS704での演算の基準となる発振器温度が更新される。そして、GPS信号のサーチが終了すると(ステップS703:YES)、再びステップS701へ戻って新たに測位開始指示情報が入力されるのを待機する(リターン)。
このようにして、タイミング制御部614には、温度変動値Δhが所定値Hだけ変動するたびに、温度変化判定部613からトリガが入力される。また、タイミング制御部614には、実施の形態1の図4に示す処理によって、トリガ出力部111からもサーチ時間Sを周期としてトリガが繰り返し入力される。タイミング制御部614は、トリガ出力部111からトリガが入力されるときと、温度変化判定部613からトリガが入力されるときの両方とも、周波数比較部107にトリガを出力する。
図15は、GPS信号受信部104によるサーチ対象周波数の変化の様子の一例を示す説明図であり、実施の形態1の図7に対応するものである。図7と同一部分には同一符号を付し、これについての説明を省略する。
第1の時刻t1からサーチ時間Sが経過した第2の時刻t2と第2の時刻t2からサーチ時間Sが経過した第3の時刻t3のそれぞれでサーチ幅Aが増大するのは、実施の形態1と同様である。本実施の形態では、更に温度変化判定部613から入力されるトリガに対応して、第11〜第31の時刻t11〜t31にもサーチ幅Aが増大するようになっている。このようにして、GPS信号のサーチ対象周波数の上下の幅がサーチ範囲の周波数幅の初期値に達する最小時間の計測や、サーチ対象周波数が理想的なサーチ範囲の上限値と下限値の両方に達する最小時間の計測を行うことなく、発振器温度の変化をトリガとしてサーチ範囲を拡大することができる。
なお、以上説明した各実施の形態では、GPSクロック信号の比較の対象として、無線基地局との通信で得られるクロック信号を基準クロック信号として使用するようにしたが、他のクロック信号を使用してもよい。たとえば、あるチャネルでGPS信号を捕捉できた場合に、そのGPS信号の搬送波周波数に同期する形で得られるクロック信号を、他のチャネルでのサーチに基準クロック信号として使用するようにしてもよい。また、GPSクロック信号の理想的な周波数がPRNコードのチップレートと同一であるものとして説明を行ったが、当然ながらこれに限定されるものではない。周波数比較部が出力する周波数差情報に、PRNコードのチップレートをGPSクロック信号の理想値で除した値を乗じることによって、同様に適用することが可能である。更に、GPS機能を有する携帯電話機に本願発明を適用する場合について説明したが、これに限るものではなく、周波数が変動する可能性のあるクロック信号を使用して所定の周波数の信号の捕捉を試みるような他の各種装置に適用できることは勿論である。