以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1に従う電源装置の概略ブロック図である。
図1を参照して、電源装置は、交流モータMに電力を供給するインバータ10と、インバータ10を介して電力を供給するメインバッテリBと、DC/DCコンバータ20と、補機バッテリ30と、冷却ファン40と、バッテリBの充放電を制御する電池ECU(Electrical Control Unit)50とを備える。
交流モータMは、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動輪を駆動するためのトルクを発生するための駆動モータである。また、ハイブリッド自動車においては、交流モータMは、駆動輪を駆動するモータではなく、エンジンにて駆動される発電機の機能を持つように、そして、エンジンに対して電動機として動作し、たとえばエンジン始動を行ない得るようなモータであってもよい。
メインバッテリBは、たとえばニッケル水素電池を多数直列に接続した構造からなる。他にも、メインバッテリBとしては、鉛蓄電池、リチウムイオン電池あるいはキャパシタであってもよい。
インバータ10は、3相インバータであり、メインバッテリBから直流電圧が供給されると、図示しない制御回路からの制御信号に基づいて直流電圧を3相交流電圧に変換して交流モータMを駆動する。これにより、交流モータMは、指定されたトルクを発生するように駆動される。
DC/DCコンバータ20は、メインバッテリBからの直流電圧を降圧して、補機バッテリ30および図示しない灯火装置などの補機電気負荷に電力を供給する。補機バッテリ30に供給された直流電圧は、補機バッテリ30を充電する。補機バッテリ30は、たとえば鉛蓄電池である。
冷却ファン40は、メインバッテリBを冷却対象とし、補機バッテリ30を電源として設けられる。なお、本実施の形態に係る電源装置において、冷却ファン40はメインバッテリBを冷却対象とするように配されるが、メインバッテリBの冷却に加えて、他の電気機器(たとえばDC/DCコンバータ20、インバータ10または電池ECU50)を冷却ファン40からの送風にて冷却する配置にしてもよい。
電源装置は、メインバッテリBの電池温度、端子間電圧、充放電電流値および充電状態(SOC:State of Charge)を検知するためのセンサ60をさらに備える。センサ60で検知された各種情報は、電池ECU50に伝送される。
電池ECU50は、バッテリ制御に関するプログラムを実行するCPU52と、CPU52で実行される制御プログラムやプログラムの実行結果を記憶するメモリ54と、予め設定された時間の経過を検知するタイマ56とを含む。
電池ECU50において、センサ60で検知された電池に関する情報は、図1に示すように、CPU52に転送されるとともに、メモリ54にも転送される。
メモリ54は、先の制御プログラムの記憶領域に加えて、転送された電池に関する情報を記憶する領域をも有する。センサ60から逐次転送される電池に関する情報は、この記憶領域に時系列に従って蓄積される。
CPU52は、メインバッテリBおよび補機バッテリ30の蓄電量を制御するとともに、センサ60で検知された電池温度に基づいて冷却ファン40の送風量を制御する。このとき、CPU52は、後述するように、タイマ56からの計時情報をもとに、格納された電池に関する情報をメモリ54から読出す。CPU52は、後述するように、電池温度の検知結果と読出した電池に関する情報とに基づいて、メインバッテリBを所望の電池温度に調整する。
以下に、電池ECU50における冷却ファン40の制御について詳細に説明する。
図2は、図1における電池ECU50による冷却ファン40の制御を説明するための制御ブロック図である。
図2を参照して、冷却ファン40は、冷却空気を冷却対象に送風するファン48と、ファン48を回転させるファンモータ46と、ファンモータ46の回転数を制御するファン回路42とを備える。
ファン回路42は、補機バッテリ30(図示せず)からの供給電圧VCと接地電圧GNDとを電源電圧とし、電池ECU50のCPU52から送られる冷却モード指令信号SIに基づいて、ファンモータ46の回転数を制御する。これにより、ファン48の送風量が変化する。さらに、ファン回路42は、ファンモータ46の回転数を検出し、検出結果をファン出力信号VMとしてCPU52に出力する。
電池ECU50において、CPU52は、メインバッテリBおよび補機バッテリ30の蓄電量を制御するバッテリ制御部(図示せず)と、冷却ファン40を制御する冷却ファン制御部とを含む。
バッテリ制御部は、図示は省略するが、センサ60で検出したメインバッテリBの蓄電量に応じて、交流モータMから発電された電力を使い分ける。たとえば蓄電量が所定の値よりも低ければ、交流モータMは発電機として作用し、メインバッテリBを充電する。一方、蓄電量が所定の値よりも高ければ、交流モータMは電動機として作用し、メインバッテリBの電力を用いる。
冷却ファン制御部は、標準偏差演算部82と、ファン作動温度設定部84と、ファンモード指令部86とを含む。
標準偏差演算部82は、メモリ54に蓄積された所定の期間の電池温度情報を読出して、当該所定の期間における電池温度の温度分布の標準偏差を演算する。このときの所定の期間は、タイマ56によって計時され、その計時情報が標準偏差演算部82に与えられる。計時される期間としては、たとえば1年、1月、1週間、1日などが設定される。これらの場合、標準偏差演算部82は、タイマ56から与えられる所定の期間に応じて、電池温度の年間温度分布、月間温度分布、週間温度分布、もしくは日間温度分布を求め、求めた温度分布の標準偏差を算出する。
さらに、所定の期間としては、季節ごともしくは製造時点からの期間が設定される。この場合、標準偏差演算部82は、電池温度の季節ごとの温度分布もしくは製造時点からの温度分布を求め、求めた温度分布の標準偏差を算出する。
このように、標準偏差演算部82は、所定の期間における電池温度の温度分布の標準偏差を求め、求めた標準偏差を信号TDとして、ファン作動温度設定部84に入力する。
ファン作動温度設定部84は、信号TDを受けると、所定の期間での電池温度分布の標準偏差に基づいて、冷却ファン40を作動させる基準となるファン作動温度を決定する。詳細には、ファン作動温度設定部84は、標準的な電池温度分布を想定して予め設定されたファン作動温度の初期値を有しており、得られた標準偏差に基づいて、この初期値を増加/減少する微調整を行なう。調整後のファン作動温度は、作動温度信号STとして、ファンモード指令部86に与えられる。
ファンモード指令部86は、センサ60から送られるメインバッテリBの電池温度情報BTと、ファン作動温度設定部84から与えられる作動温度信号STとに基づいて、ファン48の送風量を決定する。
具体的には、ファンモード指令部86は、メインバッテリBの電池温度とファン作動温度との温度差に応じて送風量が予め段階的に設定された複数の冷却モードを有する。ファンモード指令部84は、メインバッテリBの電池温度とファン作動温度との温度差を求め、求めた温度差に応じた送風量を指示する冷却モードを複数の冷却モードの中から選択する。選択された冷却モードは、冷却モード指令信号SIとして、ファン回路42に出力される。
ファン回路42は、与えられた冷却モード指令信号SIに対応する送風量となるようにファンモータ46を駆動する。ファンモータ46の回転数は、ファン回路42で検出されると、周波数電圧変換されてファン出力信号VMとしてファンモード指令部86に出力される。ファンモード指令部86は、入力されたファン出力信号VMが指示した冷却モードに一致しているか否かを確認して、フィードバック制御を行なう。
図3は、図2におけるファン回路42の詳細な構成を示す回路図である。
図3を参照して、ファン回路42は、冷却モード指令信号SIに応じた制御デューティ指令値を発生するIC部43と、制御デューティ指令値に基づいた3相交流電圧を出力して、ファンモータ46を駆動するインバータ部44と、ファンモータ46の回転数を検出して回転数検出信号RDを周波数電圧変換する周波数電圧変換回路(以下、F/V変換回路とも称する)45とを含む。
インバータ部44は、IC部43からの制御デューティ指令値に基づいて、補機バッテリ30からの直流電圧をU相、V相、W相からなる3相交流電圧に変換してファンモータ46を駆動する。
ファンモータ46は、3相交流モータであり、3相交流電圧に応じて、冷却モード指令信号SIによって指定された送風量をファン48から発生させる。
IC部43は、さらに、ファンモータ46の回転数を検出して、回転数検出信号RDをF/V変換回路45に出力する。
F/V変換回路45は、回転数検出信号RDをその周波数に応じた電圧レベルの信号に変換する。変換後の回転数検出信号RDは、ファン出力信号VMとして、ファンモード指令部86に伝達される。
再び図2を参照して、ファン作動温度設定部84におけるファン作動温度の設定方法について、より詳細に説明する。
先述のように、ファン作動温度設定部84は、所定の期間における電池温度の温度分布に基づいてファン作動温度を調整する。
図4は、図2の標準偏差演算部82に与えられる電池温度の年間温度分布である。
図4を参照して、実線、点線および一点鎖線で示す温度分布は、図1に示す電源装置が互いに異なる3つの使用環境でそれぞれ使用されたときにおいて、各使用環境において検出された電池温度の年間温度分布である。
詳細には、実線で示す温度分布は、電源装置を年間を通じて予め想定される標準的な使用環境で使用したときの電池温度の温度分布である。これに対して、点線で示す温度分布は、比較的電池温度の高い領域に分布が偏っていることが分かる(以下、高分布とも称する)。一方、一点鎖線で示す温度分布は、比較的電池温度の低い領域にまで分布が広がっていることが分かる(以下、低分布とも称する)。
ここで、点線で示す温度分布(高分布)に着目すると、電池温度の分布が高温側に偏っていることから、電源装置が設置される環境の温度が年間を通じて比較的高いことが予想される。たとえば、当該電源装置を搭載した車両が年間平均気温の比較的高い地域で使用される場合が挙げられる。
または、急激な充放電によっても電池温度が上昇することから、当該電源装置を搭載した車両において、駐車期間よりも走行期間がより長く、かつ走行期間において、急加速や急停止といった電源装置への負荷が比較的大きい走行が中心であることが予想される。
一方、一点鎖線で示す温度分布(低分布)においては、電池温度の分布が低温側に偏っていることから、電源装置が設置される環境の温度が年間を通じて比較的低いことが予想される。たとえば寒冷地などの年間平均気温が比較的低い地域で電源装置が使用される場合が相当する。
または、当該電源装置を搭載した車両において、走行期間よりも駐車期間の方が長く、電池が充放電される回数が比較的少ないことが予想される。
このように、電源装置の使用環境は多様化していることから、所定のファン作動温度(固定値)に基づいて電池温度を一律に調整する従来の冷却方法では、電池の温度分布に図4のような差が生じ、この差が電池の寿命時期にも影響を及ぼすことになる。
詳細には、図4の高分布においては、標準分布よりも電池温度が高温となる頻度が高いことから、電池の劣化の程度がより大きく、電池の寿命時期もより早いと判断される。
一方、図4の低分布においては、標準分布よりも電池温度が高温となる頻度が低いことから、電池の劣化の程度がより小さく、電池の寿命時期もより遅いと判断される。
ここで、高分布においても標準分布と同程度の電池の寿命を保証するためには、冷却ファン40の作動率を上げて冷却頻度を高めることによって電池温度を下げ、温度分布を標準分布に近づけることが望ましい。そのためには、冷却ファン40の作動温度を標準分布よりも低くして、より早いタイミングで冷却ファン40を作動させることが有効である。
一方、低分布については、冷却ファン40の作動率を低減して冷却頻度を下げても、標準分布と同程度の電池の寿命が十分保証されると判断できる。そこで、冷却ファン40の作動温度を標準分布よりも高くして冷却ファンの作動タイミングを遅らせれば、車両全体での燃費の改善が実現できる。
このように、冷却ファン40の作動タイミングを電池の使用環境に応じて調整する構成とすれば、いかなる使用環境においても、電池の寿命を保証することができ、信頼度を高めることができる。さらに、冷却ファン40を使用環境に応じて効率良く作動させることによって、燃費を改善することも可能となる。
そこで、本実施の形態では、図2に示すファン作動温度設定部84において、電池の使用環境として電池の温度分布に着目し、これに基づいてファン作動温度を調整する構成とする。具体的には、ファン作動温度設定部84は、標準偏差演算部82で求めた標準偏差から電池の温度分布が高分布であると判定されると、ファン作動温度を初期値よりも低い温度に設定する。一方、電池の温度分布が低分布であると判定されると、ファン作動温度設定部84は、ファン作動温度を初期値よりも高い温度に設定する。
図5は、本実施の形態に従う冷却ファン40の制御方法を説明するためのフローチャートである。
図5を参照して、イグニッションキーがオフからオンに切り換わり、車両システムが起動すると(ステップS01)、センサ60は、メインバッテリBの電池温度を検知し、検知した電池温度を電池ECU50の内部のCPU52とメモリ54とにそれぞれ与える(ステップS02)。
メモリ54は、製造時点を起算点として、検知した電池温度を時系列に従って逐次蓄積する。蓄積した電池温度の情報は、所定の期間のタイミングで、CPU52の標準偏差演算部82によって読出される。
CPU52の冷却ファン制御部では、標準偏差演算部82が、所定の期間の電池温度分布から標準偏差を演算する(ステップS03)。詳細には、標準偏差演算部82は、タイマ56で計時された所定の期間における電池温度をメモリ54から読出し、読出した電池温度の温度分布から所定の期間での標準偏差を算出する。算出した標準分布は、ファン作動温度設定部84に送られる。
ファン作動温度設定部84は、電池温度分布の標準偏差をもとに、以下の手順に従ってファン作動温度を調整する。
最初に、ファン作動温度設定部84は、電池の温度分布が高分布か否かを判定する(ステップS04)。電池の温度分布が高分布であると判定されると、ファン作動温度設定部84は、ファン作動温度を初期値よりも低い温度に設定する(ステップS05)。
一方、ステップS04において、電池の温度分布が高分布でないと判定されると、続いて、ファン作動温度設定部84は、温度分布が低分布か否かを判定する(ステップS06)。電池の温度分布が低分布であると判定されると、ファン作動温度設定部84は、ファン作動温度を初期値よりも高い温度に設定する(ステップS07)。
一方、ステップS04およびS06において、電池の温度分布が高分布でなく、かつ低分布でないと判定されると、ファン作動温度設定部84は、電池の温度分布が標準分布であると判定して、ファン作動温度を変更することなく、初期値に維持する(ステップS08)。
以上のステップS05,S07,S08において電池の温度分布に応じて設定されたファン作動温度は、ファンモード指令部86に送られる。
ファンモード指令部86では、送られたファン作動温度と電池温度との温度差に基づいて、複数の冷却モードから所望の送風量を指示する冷却モードを選択する(ステップS09)。
さらに、ファンモード指令部86は、冷却ファン40のファン回路42にファンモード指令信号SIを出力する(ステップS10)。これにより、ファン48からメインバッテリBに対して所望の送付量の冷却風が供給される。
なお、ステップS03に示す電池温度の温度分布の検出方法については、温度分布を求める所定の期間は、1年、1月、1週間、季節もしくは製造時からの経過時間など、様々な単位の期間に設定することができる。したがって、標準偏差演算部82は、単一の期間における標準偏差を演算する構成以外に、複数の期間についての標準偏差をそれぞれ算出し、複数の算出結果から総合的な標準偏差を求める構成とすることができる。なお、この場合の各期間の設定は、タイマ56によって容易に行なうことができる。
図6は、標準偏差演算部82における電池温度分布の標準偏差の演算方法の一例を示すフローチャートである。以下の手順は、実際には、図5のステップS03において実行されるものである。
図6を参照して、標準偏差演算部82は、長さが互いに異なる複数の期間における電池の温度分布の標準偏差をそれぞれ求め、得られた複数の演算結果を総合してファン作動温度を決定することを特徴とする。
具体的には、標準偏差演算部82は、製造時からの経過時間全般にわたって蓄積される電池温度をメモリ54から読出し、その温度分布から標準偏差を演算する(ステップS031)。以下において、製造時からの経過時間における温度分布の標準偏差を単に標準偏差(A)とも称する。
次に、標準偏差演算部82は、現時点までの1年間にわたって蓄積される電池温度をメモリ54から読出し、その年間温度分布から標準偏差を演算する(ステップS032)。以下において、年間温度分布の標準偏差を単に標準偏差(B)とも称する。
続いて、標準偏差演算部82は、現時点までの1季節(たとえば3カ月とする)にわたって蓄積される電池温度をメモリ54から読出し、その季節間の温度分布から標準偏差を演算する(ステップS033)。以下において、季節間の温度分布の標準偏差を標準偏差(C)とも称する。
さらに、標準偏差演算部82は、現時点までの1月(もしくは1週間)にわたって蓄積される電池温度をメモリ54から読出し、その月間(もしくは週間)の温度分布から標準偏差を演算する(ステップS034)。以下において、月間(もしくは週間)温度分布の標準偏差を標準偏差(D)とも称する。
さらに、標準偏差演算部82は、現時点までの1日にわたって蓄積される電池温度をメモリ54から読出し、その1日の温度分布から標準偏差を演算する(ステップS035)。以下において、1日の温度分布の標準偏差を標準偏差(E)とも称する。
最後に、標準偏差演算部82は、以上のステップS031〜S035において得られた標準偏差(A)〜(E)から、これらの平均値を演算し、得られた標準偏差の平均値を総合的な標準偏差とする(ステップS036)。なお、この演算において、標準偏差(A)〜(E)の各々に対して重み付けをして平均値を算出する構成とすれば、さらに精度の高い標準偏差を得ることができる。得られた総合的な標準偏差は、ファン作動温度設定部84に送られる。ファン作動温度設定部84は、図5のステップS04以降に示す手順に従って、求めた総合的な標準偏差をもとにファン作動温度を調整する。
なお、図6において、標準偏差演算部82は、標準偏差(A)〜(E)のうちのいずれか1つを演算して、その演算結果をファン作動温度設定部84に与える構成としてもよい。もしくは、これらの標準偏差(A)〜(E)のうちの少なくとも2以上の組合せて、これらの平均値を演算し、演算結果を総合的な標準偏差としてファン作動温度設定部84に与える構成とすることもできる。
以上のように、この発明の実施の形態1によれば、電池を冷却する冷却ファンの作動タイミングを電池の使用環境に応じて調整することにより、劣化度の高い使用環境においても電池が長寿命化され、電池の信頼度を高めることができる。
さらに、劣化度の低い使用環境においては、冷却ファンの作動率を下げることによって、寿命を保証するとともに、この発明による電源装置を搭載した車両の燃費の改善を図ることができる。
[実施の形態2]
電池の寿命時期は、先述のように、電池温度によって左右される以外に、電池の充放電時に流れる充放電電流量にも大きく影響される。詳細には、充放電される回数が多いほど電池の劣化が進み、特に急激な充放電が繰り返されると、その劣化がさらに加速される。
そこで、本実施の形態では、充放電電流量によって電池の劣化状態を判断し、この判断結果に基づいて冷却ファンの作動タイミングを調整する構成について提案する。電池の劣化の程度に応じて冷却ファンの作動率を調整することで、電池の信頼度の向上を図るものである。
なお、本実施の形態に従う電源装置は、実施の形態1に従う電源装置に対して、ファン作動温度の設定に関する処理方法が異なるのみで、回路構成を同じとすることから、以下においては、図1〜図3に示す回路構成を引用して、この相違点について詳細に説明するものとする。
図2を参照して、本実施の形態において、メモリ54は、センサ60で検知されたメインバッテリBの各種情報(電池温度、端子間電圧、充放電電流値など)のうちの充放電電流値を取り込んで、時系列的に蓄積する。
標準偏差演算部82は、メモリ54に蓄積された所定の期間の充放電電流値を読出して、当該所定の期間における充放電電流値の分布から標準偏差を演算する。このときの所定の期間は、タイマ56によって計時され、その計時情報が標準偏差演算部82に与えられる。計時される期間としては、たとえば1年、1月、1週間、1日などが設定される。これらの場合、標準偏差演算部82は、タイマ56から与えられる所定の期間に応じて、充放電電流値の年間分布、月間分布、週間分布、もしくは日間分布を求め、求めた分布の標準偏差を算出する。
さらに、所定の期間としては、季節ごともしくは製造時点からの期間が設定される。この場合、標準偏差演算部82は、電池温度の季節ごとの分布もしくは製造時点からの分布を求め、求めた分布の標準偏差を算出する。
このように、標準偏差演算部82は、所定の期間における充放電電流値分布の標準偏差を求め、求めた標準偏差を信号TDとして、ファン作動温度設定部84に入力する。
ファン作動温度設定部84は、信号TDを受けると、所定の期間での充放電電流値分布の標準偏差に基づいて、図7に示す手順に従い、冷却ファン40を作動させる基準となるファン作動温度を決定する。
図7は、この発明の実施の形態2に従う電源装置における冷却ファン40のファン作動温度設定動作を説明するためのフローチャートである。
図7を参照して、イグニッションキーがオフからオンに切り換わり、車両システムが起動すると(ステップS20)、センサ60は、メインバッテリBの充放電電流値を検知し、検知した電流値を電池ECU50の内部のCPU52とメモリ54とにそれぞれ与える(ステップS21)。
メモリ54は、製造時点を起算点として、検知した充放電電流値を時系列に従って逐次蓄積する。蓄積した充放電電流値の情報は、所定の期間のタイミングで、CPU52の標準偏差演算部82によって読出される。
CPU52の冷却ファン制御部では、標準偏差演算部82が、所定の期間の充放電電流値分布から標準偏差を演算する(ステップS22)。詳細には、標準偏差演算部82は、タイマ56で計時された所定の期間における充放電電流値をメモリ54から読出し、読出した電流値の温度分布から所定の期間での標準偏差を算出する。算出した標準分布は、ファン作動温度設定部84に送られる。
ファン作動温度設定部84は、充放電電流値分布の標準偏差をもとに、以下の手順に従ってファン作動温度を調整する。
最初に、ファン作動温度設定部84は、電池の充放電電流値分布が高分布か否かを判定する(ステップS23)。充放電電流値の分布が高分布であると判定されると、ファン作動温度設定部84は、電源装置への負荷が相対的に高い傾向にあって、電池の劣化度が相対的に高いと判断し、ファン作動温度を初期値よりも低い温度に設定する(ステップS24)。これにより、ファン作動率が上がり、電池の長寿命化が図られる。
一方、ステップS23において、電池の充放電電流値の分布が高分布でないと判定されると、続いて、ファン作動温度設定部84は、充放電電流値分布が低分布か否かを判定する(ステップS25)。電池の充放電電流値分布が低分布であると判定されると、ファン作動温度設定部84は、電源装置への負荷が相対的に低い傾向にあって劣化が少ないと判断し、ファン作動温度を初期値よりも高い温度に設定する(ステップS26)。これにより、冷却ファン40の作動率が抑えられ、この発明による電源装置を搭載した車両の燃費の改善が図られる。
一方、ステップS23およびS25において、充放電電流値分布が高分布でなく、かつ低分布でないと判定されると、ファン作動温度設定部84は、充放電電流値が標準分布であると判断し、ファン作動温度を変更することなく、初期値に維持する(ステップS27)。
以上のステップS24,S26,S27において充放電電流値分布に応じて設定されたファン作動温度は、ファンモード指令部86に送られる。
ファンモード指令部86では、さらに、センサ60で検知された電池温度を受けると(ステップS28)、ファン作動温度と検知された電池温度との温度差に基づいて、複数の冷却モードから所望の送風量を指示する冷却モードを選択する(ステップS29)。
続いて、ファンモード指令部86は、冷却ファン40のファン回路42にファンモード指令信号SIを出力する(ステップS30)。これにより、ファン48からメインバッテリBに対して所望の送付量の冷却風が供給される。
なお、ステップS22に示す充放電電流値の分布の検出方法において、分布を求める所定の期間は、実施の形態1と同様に、1年、1月、1週間、季節もしくは製造時からの経過時間など、様々な単位の期間に設定することができる。したがって、標準偏差演算部82は、単一の期間における標準偏差を演算する構成以外に、複数の期間についての標準偏差をそれぞれ算出し、複数の算出結果の平均値から総合的な標準偏差を求める構成とすることができる。
図8は、標準偏差演算部82における充放電電流値分布の標準偏差の演算方法の一例を示すフローチャートである。
図8を参照して、本実施の形態において、標準偏差演算部82は、長さが互いに異なる複数の期間における電池の充放電電流値分布の標準偏差をそれぞれ求め、得られた複数の演算結果を総合してファン作動温度を決定することを特徴とする。
具体的には、標準偏差演算部82は、製造時からの経過時間全般にわたって蓄積される充放電電流値をメモリ54から読出し、その電流値分布から標準偏差を演算する(ステップS221)。以下において、製造時からの経過時間における充放電電流値分布の標準偏差を単に標準偏差(F)とも称する。
次に、標準偏差演算部82は、現時点までの1年間にわたって蓄積される充放電電流値をメモリ54から読出し、その年間電流値分布から標準偏差を演算する(ステップS222)。以下において、年間充放電電流値分布の標準偏差を単に標準偏差(G)とも称する。
続いて、標準偏差演算部82は、現時点までの1季節(たとえば3カ月とする)にわたって蓄積される充放電電流値をメモリ54から読出し、その季節間の電流値分布から標準偏差を演算する(ステップS223)。以下において、季節間の充放電電流値分布の標準偏差を標準偏差(H)とも称する。
さらに、標準偏差演算部82は、現時点までの1月(もしくは1週間)にわたって蓄積される充放電電流値をメモリ54から読出し、その月間(もしくは週間)の電流値分布から標準偏差を演算する(ステップS224)。以下において、月間(もしくは週間)の充放電電流値分布の標準偏差を標準偏差(I)とも称する。
さらに、標準偏差演算部82は、現時点までの1日にわたって蓄積される充放電電流値をメモリ54から読出し、その1日の電流値分布から標準偏差を演算する(ステップS225)。以下において、1日の充放電電流値分布の標準偏差を標準偏差(J)とも称する。
最後に、標準偏差演算部82は、以上のステップS221〜S225において、それぞれ得られた標準偏差(F)〜(J)の平均値を演算して、その演算結果から総合的な標準偏差を求める(ステップS226)。ファン作動温度設定部84は、図7のステップS23以降に示す手順に従って、求めた標準偏差をもとにファン作動温度を設定する。
なお、標準偏差演算部82は、図8に示す標準偏差(F)〜(J)のうちのいずれか1つを演算して、その演算結果をファン作動温度設定部84に与える構成としてもよい。もしくは、これらの標準偏差(F)〜(J)のうちの少なくとも2以上の組合せた平均値から求めた標準偏差をファン作動温度設定部84に与える構成とすることもできる。
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、電池の相対的な劣化度を電池に与えられる充放電電流から判断し、判断した劣化度に基づいて、電池を冷却する冷却ファンの作動タイミングを調整することにより、いかなる使用環境においても電池の信頼度を保証できるとともに、この発明による電源装置を搭載した車両の燃費の改善をも図ることができる。
[実施の形態3]
最後に、本実施の形態では、電池の劣化状態を電池の充電状態(SOC)に基づいて判断し、その判断結果に応じて、冷却ファンの作動タイミングを調整する構成について説明する。
周知のように、電池のSOCは、充放電によって増加または減少し、急激な充放電ほどその変動量が大きくなる。そのため、電池が使用される環境によっては、SOCに大きな変動が高い頻度で生じる場合や、ほとんど変動がない場合など、SOCの時間的な変動パターンに違いが現われる。この変動パターンの違いは、先述の電池温度や充放電電流値と同様に、電池の劣化状態および寿命時期に差を生じる一因となる。
そこで、本実施の形態では、電池のSOCの時間的な変動パターンから電池の劣化状態を推定し、推定した結果に基づいて冷却ファンの作動タイミングを調整するものとする。
なお、本実施の形態に従う電源装置においても、先の実施の形態1に従う電源装置とは、電池の寿命時期の判定処理が異なるのみで、その回路構成は同じであることから、図1〜図4に示す回路構成を引用して、具体的な判定処理について説明する。
図2を参照して、メモリ54は、センサ60で検知されたメインバッテリBの各種情報(電池温度、端子間電圧、充放電電流値、SOCなど)の中からSOCを取り込んで、時系列的に蓄積する。
標準偏差演算部82は、メモリ54に蓄積された所定の期間のSOCを読出して、単位走行時間あたりのSOCの変動量(以下、ΔSOCとも称する)を算出する。このとき、SOCの変動量ΔSOCは、単位走行時間(たとえば1時間とする)におけるSOCの最高値と最低値との差から求められる。
さらに、標準偏差演算部82は、当該所定の期間におけるSOCの変動量ΔSOCの分布から標準偏差を演算する。このときの所定の期間は、タイマ56によって計時され、その計時情報が標準偏差演算部82に与えられる。計時される期間としては、たとえば1年、1月、1週間、1日などが設定される。これらの場合、標準偏差演算部82は、タイマ56から与えられる所定の期間に応じて、充放電電流値の年間分布、月間分布、週間分布、もしくは日間分布を求め、求めた分布の標準偏差を算出する。
さらに、所定の期間としては、季節ごともしくは製造時点からの期間が設定される。この場合、標準偏差演算部82は、電池温度の季節ごとの分布もしくは製造時点からの分布を求め、求めた分布の標準偏差を算出する。
このように、標準偏差演算部82は、所定の期間におけるΔSOCの分布の標準偏差を求め、求めた標準偏差を信号TDとして、ファン作動温度設定部84に入力する。
ファン作動温度設定部84は、信号TDを受けると、所定の期間でのΔSOCの分布の標準偏差に基づいて、図9に示す手順に従い、冷却ファン40を作動させる基準となるファン作動温度を決定する。
図9は、この発明の実施の形態3に従う電源装置における冷却ファン40のファン作動温度設定動作を説明するためのフローチャートである。
図9を参照して、イグニッションキーがオフからオンに切り換わり、車両システムが起動すると(ステップS40)、センサ60は、メインバッテリBのSOCを検知し、検知したSOCを電池ECU50の内部のCPU52とメモリ54とにそれぞれ与える(ステップS41)。
メモリ54は、製造時点を起算点として、検知したSOCを時系列に従って逐次蓄積する。蓄積したSOCの情報は、所定の期間のタイミングで、CPU52の標準偏差演算部82によって読出される。
CPU52の冷却ファン制御部では、標準偏差演算部82が、SOCの変動量ΔSOCについて、所定の期間における分布から標準偏差を演算する(ステップS42)。詳細には、標準偏差演算部82は、タイマ56で計時された所定の期間におけるSOCをメモリ54から読出し、読出したSOCの変動量ΔSOCの分布から所定の期間での標準偏差を算出する。算出した標準分布は、ファン作動温度設定部84に送られる。
ファン作動温度設定部84は、ΔSOCの分布の標準偏差をもとに、以下の手順に従ってファン作動温度を調整する。
最初に、ファン作動温度設定部84は、電池のΔSOCの分布が高分布か否かを判定する(ステップS43)。ΔSOCの分布が高分布であると判定されると、ファン作動温度設定部84は、電源装置への負荷が相対的に高い傾向にあって、劣化度が相対的に高いと判断し、ファン作動温度を初期値よりも低い温度に設定する(ステップS44)。これにより、ファン作動率が上がり、電池の長寿命化が図られる。
一方、ステップS43において、ΔSOCの分布が高分布でないと判定されると、続いて、ファン作動温度設定部84は、ΔSOCの分布が低分布か否かを判定する(ステップS45)。ΔSOCの分布が低分布であると判定されると、ファン作動温度設定部84は、電源装置への負荷が相対的に低い傾向にあって劣化が少ないと判断し、ファン作動温度を初期値よりも高い温度に設定する(ステップS46)。これにより、ファンの作動率が抑えられ、この発明による電源装置を搭載した車両の燃費の改善が図られる。
一方、ステップS43およびS45において、ΔSOCの分布が高分布でなく、かつ低分布でないと判定されると、ファン作動温度設定部84は、ΔSOCが標準分布であると判断し、ファン作動温度を変更することなく、初期値に維持する(ステップS47)。
以上のステップS44,S46,S47において、ΔSOCの分布に応じて設定されたファン作動温度は、ファンモード指令部86に送られる。
ファンモード指令部86では、センサ60で検知された電池温度を受けると(ステップS48)、ファン作動温度と検知された電池温度との温度差に基づいて、複数の冷却モードから所望の送風量を指示する冷却モードを選択する(ステップS49)。
さらに、ファンモード指令部86は、冷却ファン40のファン回路42にファンモード指令信号SIを出力する(ステップS50)。これにより、ファン48からメインバッテリBに対して所望の送付量の冷却風が供給される。
なお、ステップS42に示すΔSOCの分布の演算方法において、分布を求める所定の期間は、実施の形態1と同様に、1年、1月、1週間、季節もしくは製造時からの経過時間など、様々な単位の期間に設定することができる。したがって、標準偏差演算部82は、単一の期間における標準偏差を演算する構成以外に、複数の期間についての標準偏差をそれぞれ算出し、複数の算出結果の平均値から総合的な標準偏差を求める構成とすることができる。
図10は、標準偏差演算部82におけるSOCの変動量分布の標準偏差の演算方法の一例を示すフローチャートである。
図10を参照して、本実施の形態に係る電源装置は、長さが互いに異なる複数の期間における電池のSOCの変動量分布から標準偏差をそれぞれ求め、得られた複数の演算結果を総合してファン作動温度を決定することを特徴とする。
具体的には、標準偏差演算部82は、製造時からの経過時間全般にわたって蓄積されるSOCをメモリ54から読出し、SOCの変動量ΔSOCの分布から標準偏差を演算する(ステップS421)。以下において、製造時からの経過時間におけるSOCの変動量分布の標準偏差を単に標準偏差(K)とも称する。
次に、標準偏差演算部82は、現時点までの1年間にわたって蓄積されるSOCをメモリ54から読出し、ΔSOCの年間分布から標準偏差を演算する(ステップS422)。以下において、年間のΔSOC分布の標準偏差を単に標準偏差(L)とも称する。
続いて、標準偏差演算部82は、現時点までの1季節(たとえば3カ月とする)にわたって蓄積されるSOCをメモリ54から読出し、季節間のΔSOCの分布から標準偏差を演算する(ステップS423)。以下において、季節間のΔSOC分布の標準偏差を標準偏差(M)とも称する。
さらに、標準偏差演算部82は、現時点までの1月(もしくは1週間)にわたって蓄積されるSOCをメモリ54から読出し、その月間(もしくは週間)のΔSOC分布から標準偏差を演算する(ステップS424)。以下において、月間(もしくは週間)のΔSOC分布の標準偏差を標準偏差(N)とも称する。
さらに、標準偏差演算部82は、現時点までの1日にわたって蓄積されるSOCをメモリ54から読出し、その1日のΔSOC分布から標準偏差を演算する(ステップS425)。以下において、1日のΔSOC分布の標準偏差を標準偏差(O)とも称する。
最後に、標準偏差演算部82は、以上のステップS421〜S425において、それぞれ得られた標準偏差(K)〜(O)の平均値を演算して、その演算結果から総合的な標準偏差を求める(ステップS426)。ファン作動温度設定部84は、図9のステップS43以降に示す手順に従って、求めた標準偏差をもとにファン作動温度を設定する。
なお、標準偏差演算部82は、図10に示す標準偏差(K)〜(O)のうちのいずれか1つを演算して、その演算結果をファン作動温度設定部84に与える構成としてもよい。もしくは、これらの標準偏差(K)〜(O)のうちの少なくとも2以上の組合せの平均値から求めた標準偏差をファン作動温度設定部84に与える構成とすることもできる。
さらには、図6,図8および図10にて示した電池温度、充放電電流値およびΔSOCの標準偏差(A)〜(O)について、総合的な平均値を演算し、演算から得られた総合的な標準偏差をファン作動温度設定部84に与える構成としてもよい。
以上のように、この発明の実施の形態3によれば、電池の相対的な劣化度を電池のSOCの変動量の時間的遷移から判断し、判断した劣化度に基づいて、電池を冷却する冷却ファンの作動タイミングを調整することにより、いかなる使用環境においても電池の信頼度を保証できるとともに、この発明による電源装置を搭載した車両の燃費の改善をも図ることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10 インバータ、20 DC/DCコンバータ、30 補機バッテリ、40 冷却ファン、42 ファン回路、43 IC部、44 インバータ部、45 F/V変換回路、46 ファンモータ、48 ファン、50 電池ECU、52 CPU、54 メモリ、56 タイマ、60 センサ、82 標準偏差演算部、84 ファン作動温度設定部、86 ファンモード指令部、B メインバッテリ、M 交流モータ、SI 冷却モード指令信号、VM ファン出力信号、RD 回転数検出信号。