JP4810715B2 - 2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの製造プロセス及びその用途 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの製造プロセスに関する。また、該製造プロセスで製造された2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの各種含フッ素機能材の中間体や溶剤として用いられる。特に、CD−RやDVD−Rに代表される光記録媒体用色素溶剤として用いられる。
【0002】
【従来の技術】
ヘキサフルオロプロペンとメタノールのラジカル付加の方法としては紫外線照射反応,熱反応,ラジカル開始剤による反応などが知られている。
【0003】
中圧水銀灯を用いた紫外線照射反応ではヘキサフルオロプロペンの転化率を90%にするまでの反応時間に4日を要している。(J. Fluorine Chem. 291, 28 (1985))発明者らも水銀灯を用いて同様に反応を行ったが、比較例1に示すように16時間の反応時間では生成物は少なく、高い生産性が期待できないと思われた。
【0004】
単純な熱反応でも生成物は得られるものの効率は良くない。(US 3927129)
効率の良い製造方法としてはラジカル開始剤を用いる方法があり、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの合成法として幾つか報告されている。しかし、それらは全て原料及び開始剤を全量仕込んで反応を開始するバッチ反応であるために反応熱により高温高圧になり反応の制御が困難であった。実際、それらの実験は小規模で、小型のオートクレーブ(J. Amer. Chem. Soc. 910, 77 (1955))もしくはアンプル中(J. Fluorine Chem. 291, 28 (1985))で行われている。
【0005】
この製造方法を用いて2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを工業的に製造するために10l以上、特に100l以上の反応器を使用することになるが、その場合大きな反応熱により温度や圧力が上昇し制御が出来なくなるばかりではなく、爆発など安全上も好ましくない。このような例である小型オートクレーブを用いたJ. Amer. Chem. Soc. 910, 77 (1955)の方法では、転化率が70〜75%であった。
【0006】
その他の製造方法としては、紫外線を照射しながらラジカル開始剤を熱的な分解温度より低温で分解させて6Fブタノールを低温にて反応させる方法も報告されている(CS 268247)。この方法の利点は発生ラジカル量を紫外線の照射量により制御出来ることにある。すなわち、発生ラジカル量の制御により反応量をその反応装置の除熱量以下の反応熱になるように制御できる可能性がある。しかしながら、上記の文献(CS 268247)ではヘキサフルオロプロペンの転化率が59%と低い上に、光照射装置を備えた特殊な耐圧容器が必要となる。
【0007】
以上、述べてきた通り2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを工業的に製造するためには既知の製造方法ではそれぞれ問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本反応を詳細に検討した結果この反応の工業化のために解決しなければならない最も大きな課題は反応の進行に伴って生じる発熱の除熱であることが分かった。半経験的分子軌道法(AM1法)にて見積もったこの反応の標準生成エンタルピーは−95KJ/mol(−23Kcal/mol)と非常に大きいものである。また、開始剤は温度が上昇するに従って分解速度が大きくなるので、仮に反応温度が一旦上昇すると、開始剤の分解も促進されてさらに反応が進行するという暴走反応に陥る危険がある。従って、反応熱を反応装置の除熱能力以下に抑える様に制御することは、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの工業的な製造に必須である。
【0009】
実際、バッチ法で反応を行ったところ、反応開始後、急速な昇温,昇圧が観測され、比較例2では100℃から150℃まで昇温するのに約1分しか要さず、ヘキサフルオロプロペンが消費されるまで一気にラジカル連鎖反応が進行した。さらに、このバッチ反応の粗生成物を蒸留で精製すると不純物を除去する際に2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールがロスすることも明らかとなった。
【0010】
本発明の目的は2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを工業的に安全で安価である実施可能な製造方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは本反応を検討した結果、原料であるヘキサフルオロプロペンを最初から全量仕込まずに、反応中に供給することで反応熱による発熱量を抑えることができることを見いだした。さらに、ヘキサフルオロプロペンの供給速度を制御することにより、発熱量を反応装置の除熱能力以下に抑え、安定した製造を実現できることを見いだした。
【0012】
さらに、ヘキサフルオロプロペンの供給量を制御すると反応器に投入したヘキサフルオロプロペンがほぼ全て反応し、転化率が90%以上になる利点も見いだした。
【0013】
本発明は、以下の項1〜項11に関する。
項1. メタノールとヘキサフルオロプロペンをラジカル開始剤存在下に反応させる2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの製造プロセスにおいて、ヘキサフルオロプロペンを供給しながら反応させることを特徴とする2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの製造プロセス。
項2. ヘキサフルオロプロペンを連続的に供給しながら反応させることを特徴とする項1に記載の製造プロセス。
項3. ラジカル開始剤として分解生成物としてアルコキシラジカルを生成する開始剤を用いる項1又は2に記載の製造プロセス。
項4. ラジカル開始剤として2−エチル過ヘキサン酸t−ブチル,過二炭酸ジ−n−プロピル,過二炭酸ジイソプロピル,炭酸t−ブチルパーオキシイソプロピルから選ばれる化合物を用いる項1〜3いずれかに記載の製造プロセス。
項5. 反応を、ラジカル開始剤の半減期が10時間になる温度より低い温度で開始する項1〜4のいずれかに記載の製造プロセス。
項6. 水を含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールから水分を2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとの最低共沸組成として除去し2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを精製する方法。
項7. 水と2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとの最低共沸組成を冷却した後分液し、下層の2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを項6の方法にて脱水精製する製造プロセス。
項8. 水を含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールから水分を脱水剤にて除去する2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの精製方法。
項9. 塩化カルシウム,ゼオライト,硫酸マグネシウム、金属炭酸塩から選ばれる1種以上の脱水剤にて水分を除去する2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの項8に記載の精製方法。
項10. 炭化水素を含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールから炭化水素を2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとの最低共沸組成として除去し2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを精製する製造プロセス。
項11. 項1〜10のいずれかに記載の方法により製造された2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを用いて製造された、基板上にレーザーによる情報の書き込み及び/又は読みとり可能な記録層が設けられてなる情報記録媒体。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の製造プロセスにおいて、「ヘキサフルオロプロペンを供給しながら反応させる」とは、ヘキサフルオロプロペンの反応開始時の仕込量を、メタノール100kgに対し20kg以下、好ましくは10kg以下とし、反応系内のヘキサフルオロプロペンの圧力を0.05〜2MPa程度に維持することを意味する。反応途中でのヘキサフルオロプロペンの供給は、連続的でも間欠的でもよい。
【0015】
反応は耐圧容器を用いて液相で実施する。通常、メタノールと開始剤を予め仕込んでおき、所定温度まで昇温後ヘキサフルオロプロペンを供給する。このとき、反応開始の段階でヘキサフルオロプロペンの一部を予め仕込んでおくと、反応の開始を温度上昇や圧力低下にて観測できる。この初期仕込量は多すぎると温度上昇が大きくなり開始剤をロスしてしまうので、10℃以下、さらに好ましくは5℃以下に抑えるのが好ましい。この場合の温度上昇は反応器固有の熱容量と上述した標準生成エンタルピーから推算する事ができる。例えば、実施例4で用いた反応器の熱容量は6600000J/Kであるので、初期仕込みのヘキサフルオロプロペン30Kgは反応系を約2.8℃の温度上昇をもたらすと見積もられた。このように初期仕込量は反応器の熱容量から温度上昇が10℃以下、さらに好ましくは5℃以下になるように計算して決定することができる。目安としては、仕込んだメタノール100kgに対して、ヘキサフルオロプロペンを20kg以下、さらに好ましくは10kg以下にする。
【0016】
反応中に供給するヘキサフルオロプロペンは反応器にガス状で供給してもよいし、反応溶液中に直接液状で供給しても差し支えない。また、ヘキサフルオロプロペンの供給は断続的に行ってもよいし、連続的に行ってもよいが、供給速度は反応温度が急激に上昇しないように反応器の除熱能力以下にする。反応器の除熱量が既知の場合や実測できる場合は、発熱量はその値以下にすることがよく、安全を見越しその約2分の1程度が発熱量となるように平均仕込み速度を設定するのがより好ましい。例えば実施例4では用いた反応器の除熱能力75000KJ/h(実測)に対して、ヘキサフルオロプロペンの平均仕込み速度は58.3kg/h(発熱量として36900KJ/h)にて実施した。また、実施する際はヘキサフルオロプロペンの仕込みを連続的かつ定量的に行い、反応による発熱量やブラインによる除熱量が一定になるようにした。これらの操作は反応系を安定させる目的で行われ、工業的な製造には重要なポイントである。
【0017】
反応器の除熱量が未知の場合は、反応器の仕様により一概に言えないが、目安としてメタノール100kgに対して、ヘキサフルオロプロペンを20kg/h以下、さらには10kg/h以下に制御することが好ましい。
【0018】
反応に用いるメタノールは、より高価なヘキサフルオロプロペンの転化率を向上させるために、過剰量(例えばヘキサフルオロプロペン1モルに対し3〜10モル程度)用いることが好ましい。
【0019】
ラジカル開始剤の種類は特に限定されず、ヒドロキシラジカルを生成しないラジカル開始剤(例えばベンゾイルパーオキサイド)を使用してもよいが、メタノールから水素原子を引き抜いてヒドロキシメチルラジカル(・CH2OH)を生成するラジカル開始剤が好ましく使用できる。水素原子引き抜き能力の高いラジカルとしてアルコキシラジカルがあげられ、アルコキシラジカルを分解生成する開始剤の中から適当な開始剤、例えば、2−エチル過ヘキサン酸t−ブチル,過二炭酸ジ−n−プロピル,過二炭酸ジイソプロピル(パーロイルIPP),炭酸t−ブチルパーオキシイソプロピルを選択できる。例えば、パーロイルIPPでは開始剤1モル当たり生成物が50モル以上得られるが、ベンゾイルパーオキサイドを用いてヘキサフルオロプロペンを供給しながら反応を行うと、ベンゾイルパーオキサイド1モルに対して生成物は11モルしか得られなかった(実施例5)。
【0020】
ラジカル開始剤の量は用いる開始剤の種類や反応条件により一定していないが、生成物である2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの生成量に対して1〜10モル%程度用いる。
【0021】
反応温度は特に限定されず、用いる開始剤により様々な温度で実施できる。しかし、反応初期においては開始剤の分解反応が一気に進行しないように、開始剤の半減期が10時間になる温度より低い温度で開始するのが好ましい。また、反応温度は一定で行ってもよいが、反応系中に生成するラジカル濃度を保つために反応開始後、反応温度を徐々に昇温する方が好ましい。
【0022】
例えば、パーブチルO(72℃で半減期が10時間)を用いた場合は、48℃で反応を開始し、7時間で75℃まで昇温した(実施例1)。また、パーロイルNPP(40℃で半減期が10時間)を用いた場合は29℃で反応を開始し、9時間で41℃まで昇温した(実施例4)。このように、実施例では半減期が10時間になる温度より低温で反応を開始した。
【0023】
反応圧力は反応溶液にヘキサフルオロプロペンが溶解するように0.1MPa以上好ましくは0.3MPa以上で行うのが望ましい。ヘキサフルオロプロペンの蒸気圧が反応圧力より低い場合には、ヘキサフルオロプロペンはポンプや気化器などを用いて昇圧して供給する。圧力の上限は特にないが、反応の制御上2MPa位が好ましい。
【0024】
開始剤は最初から全量入れずに反応中に追加してもよい。また、反応終了後、脱気,冷却して改めて開始剤を追加して反応を行ってもよい。
【0025】
この反応においては2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールは構造異性体の2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールを副生する。副生量は反応温度が高くなるほど多くなる傾向にあり、これら2異性体は蒸留にて分離することが困難である。実際、実施例2で得られた反応溶液を30段のオルダーショー精留塔にて分離を試みたところ、メタノールは容易に分離することができたが、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールと2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールはそれぞれ完全に分離することは出来なかった。
【0026】
2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールの副生する量は製造する際の反応温度に関係しており、主生成物である2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールに対して概ね1〜3%の割合で生成する。上記のようにこれらの化合物を完全に分離することは困難であるが、特に各種フッ素機能材の中間体や、CD−R、DVD−Rなどの情報記録媒体用色素溶剤としての用途には、混合物として用いても実質上問題ない。
【0027】
2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの精製についてさらに検討したところ、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールは水や炭化水素と最低共沸組成をつくり、これを共沸蒸留に応用することで、不純物を含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールから2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを分離精製できることを見いだした。この際、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール中に含まれる2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールは2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールと同じ挙動を示した。また、不純物を含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとは具体的には:
1. 安定剤として水や炭化水素などで希釈された開始剤を用いて製造した2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール
2.空気中の水分を吸収した2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール
3. 溶剤として使用後、回収された2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールなどがあげられる。
【0028】
水を不純物として含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールは蒸留すると、まず、水と2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの共沸組成が留出し、次に水を含まない2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを主成分とするフッ素アルコールが留出してくるので水を含まない純品が得られる。この際、共沸温度は常圧で98〜99℃であり、共沸組成中のフッ素アルコールの重量比は約60 mass%であった。
【0029】
水と2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの共沸組成は約50℃以下に冷却すると2液分離する。下層の2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール中には水が約5000mass ppm溶解しているが、さらに共沸蒸留を繰り返すことで除去できる。
【0030】
また、溶解している水分は脱水剤を用いて除去してもよい。脱水剤としては水に分散させたときに中性または酸性を示すものが好ましい。例えば、塩化カルシウム,ゼオライト,硫酸マグネシウムがあげられる。特に微量な100mass ppm以下に脱水する場合には、前脱水後ゼオライトで脱水するのが好ましい。
【0031】
炭化水素を不純物として含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールも同様に、炭化水素と2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの共沸組成が留出し、次に炭化水素を含まない2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを主成分とするフッ素アルコールが留出してくるので炭化水素を含まない純品が得られる。この場合炭化水素としてはシクロヘキサン,ヘプタン,ヘキサンなどがあげられるが、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールと最低共沸組成をつくる化合物であれば限定されない。
【0032】
例えば、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとシクロヘキサンは常圧で共沸温度75〜77℃で2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールが約40mass%の共沸組成を作る。また、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとヘプタンは常圧で共沸温度85〜87℃で2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールが約60mass%の共沸組成を作る。
【0033】
炭化水素と2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの共沸組成は約30℃以下に冷却すると2液分離する。下層の2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール中には炭化水素が溶解しているが、さらに共沸蒸留を繰り返すことで除去できる。
【0034】
水と炭化水素とを同時に不純物として含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールは蒸留すると、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの最低共沸組成が留出し、最後に不純物を含まない2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールが留出してくるので純品が得られる。
【0035】
例えば、水とヘプタンを含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを蒸留すると水やヘプタンが共沸組成として留出した後に、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを主成分とするフッ素アルコールのみが得られる。この蒸留において、最初に留出してくる共沸組成を冷却すると3液分離する。このことから蒸留の最初の留分では3成分の最低共沸していたと推定される。上層からヘプタン相,水相,2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール相であった。下層の2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール中には不純物が溶解しているが、さらに共沸蒸留を繰り返すことで除去できる。
【0036】
基板上にレーザーによる情報の書き込み及び/又は読みとり可能な記録層が設けられてなる情報記録媒体は、本発明の方法で得ることができる2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを含む溶剤、好ましくは2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを含むフッ素系溶剤に色素を溶解し、得られた溶液を基板上に塗布、乾燥するなどの常法に従い、色素を含む記録層を形成して製造できる。該色素としては、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、ピリリウム系色素、チオピリリウム系色素、スクワリリウム系色素、アズレニウム系色素、インドフェノール系色素、インドアニリン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノン系色素、アルミニウム系色素、ジインモニウム系色素、金属錯塩系色素等が挙げられる。基板としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、エポキシ樹脂、アモルファスポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニルなどのプラスチック、ガラス、セラミックスが挙げられる。尚、記録層と基板の間に平面性の改善、接着力の向上、記録層の変質防止等の目的で下塗層を設けてもよく、記録層の上には保護層を設けてもよい。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば反応の進行を供給するヘキサフルオロプロペンの量により制御できる。一方、従来のバッチ法によると反応原料のヘキサフルオロプロペンの全量を最初から反応器に仕込み、反応を行うために反応温度及び反応圧力が急上昇してしまう。その為に本発明には従来のバッチ法と比較して、次のような利点がある。
1.バッチ反応と比較して低温で反応を行えるため、反応器の耐熱性能がより低い反応器で実施できる
2.バッチ反応と比較して低圧で反応を行えるため、反応器の耐圧性能がより低い反応器で実施できる
3.供給するヘキサフルオロプロペンの量を制限することで転化率を高くすることが出来る
4.反応の進行をヘキサフルオロプロペンの供給量により制御できるので急激な温度や圧力の上昇がないために安全に実施できる
また、本発明によれば、基板上にレーザーによる情報の書き込み及び/又は読みとり可能な記録層が設けられてなる情報記録媒体(CD−R、DVD−R等の光ディスクなど)、フィルムの感光体の製造に好適な2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを大規模にかつ効率よく製造することができる。
【0038】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を具体的に説明する。
【0039】
【実施例1】
1L反応
1Lオートクレーブにメタノール400g,開始剤(2−エチル過ヘキサン酸t−ブチル;パーブチルO)10gとヘキサフルオロプロペンの初期仕込み量として40gを吸引させ、徐々に昇温させた。反応温度48℃で反応が開始し、その後反応圧力0.5MPaでヘキサフルオロプロペンを断続的に供給しながら昇温した。約7時間後、ヘキサフルオロプロペンを277g仕込んだところで反応が終了した。このとき反応温度は75℃であった。未反応のヘキサフルオロプロペンを回収したところ27gであり、ガスクロマトグラフィーにて分析するとフッ素化合物として2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールと2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールが生成していた。転化率90%。
【0040】
【実施例2】
20L反応
真空に引いたジャケット付き20Lオートクレーブにメタノール5kgを仕込み20℃に保った。そこに開始剤として50%過二炭酸ジ−n−プロピル240gと、ヘキサフルオロプロペンを1kg仕込んだ。撹拌させながら徐々に昇温させると、反応温度が30℃になったとき発熱を観測し、反応開始とした。その後、ヘキサフルオロプロペンを反応圧力が0.3MPaになるまで仕込んだ。以降、ヘキサフルオロプロペンは反応圧力が0.3MPaになるように連続的に仕込んだ。反応温度は徐々に昇温し、10時間後42℃になったところで、ヘキサフルオロプロペンの供給を停止した。ヘキサフルオロプロペンの仕込み量は4.53kgであった。さらに1時間加熱撹拌し、反応を完結させた後冷却した。反応後、オートクレーブより未反応のヘキサフルオロプロペンを20g回収した。反応溶液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタノールと開始剤由来のイソプロパノールの他に目的とする2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールと2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールが検出された。2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールは2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールに対して1.2%得られた。転化率は99%であった。
【0041】
【実施例3】
蒸留
実施例2で合成された反応溶液1kgを30段のオルダーショー型精留塔にて蒸留した。メタノールを主成分とする留分が留出した後に、目的とする2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールと2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールとの混合物を主成分とした留分が留出してきた。114℃から118℃の留分を回収し、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールを2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールとの混合物として460g得た。また、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールは2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールと完全に分離することは出来なかった。
【0042】
【実施例4】
2m3反応
下記仕様の2m3耐圧反応器にメタノール500kgを仕込み20℃に保った。そこに開始剤として50%過二炭酸ジ−n−プロピル(パーロイルNPP)26kgとヘキサフルオロプロペンを30kg仕込んだ。攪拌させながら徐々に昇温させると、反応温度が29℃になったとき発熱を観測し、反応開始とした。その後、ヘキサフルオロプロペンを反応圧力が0.44MPaになるまで仕込んだ。以降、ヘキサフルオロプロペンは反応圧力が0.41〜0.45MPaになるように連続的に仕込んだ。反応温度は徐々に昇温し、9時間後41℃になったところで、ヘキサフルオロプロペンの供給を停止した。ヘキサフルオロプロペンの仕込量は525kgであった。さらに4時間加熱攪拌し、反応を完結させた後冷却した。反応溶液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタノールと開始剤由来のイソプロパノールの他に目的とする2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールと2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールが検出された。2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールは2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールに対して1.2%得られた。転化率は99%以上であった。
反応器仕様
耐圧(MPa):5
材質:sus316L
除熱量(KJ/h):75000
熱容量(J/K):6600000
平均仕込み速度:58.3kg/h(発熱量として36900KJ/h)。
【0043】
【実施例5】
1L反応(ベンゾイルパーオキシド)
1Lオートクレーブにメタノール200g,開始剤(75% 過酸化ベンゾイル(含水品))7.5gとヘキサフルオロプロペンの初期仕込み量として7gを吸引させ、徐々に昇温させた。48℃を過ぎたところで反応が開始し、反応圧力0.5MPaにてヘキサフルオロプロペンを断続的に供給しながら75℃に昇温した。5時間後、ヘキサフルオロプロペンを61g仕込んだところで反応を終了した。未反応のヘキサフルオロプロペンを回収したところ18gであり、ガスクロマトグラフィーにて分析するとフッ素化合物として2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールと2−ジフルオロメチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロパノールが生成していた。転化率70%。
【0044】
【比較例1】
水銀灯による光照射反応
1000mlの光照射用フラスコにメタノール500mlを仕込み、ヘキサフルオロプロペン(約100ml/分)を流通させながら高圧水銀灯にて光照射した。17.5時間照射後、ガスクロマトグラフィーにて分析すると6FBuOHが約23g生成していた。ヘキサフルオロプロペンの転化率は2.7%であった。
【0045】
【比較例2】
バッチ反応
3Lオートクレーブにメタノール1152g,開始剤(75% 過酸化ベンゾイル(含水品))22.5gとヘキサフルオロプロペンを600gを吸引させ、徐々に昇温させた。反応温度80℃で発熱が大きくなり、100℃を越えると一気に150℃まで激しく発熱した。その時の圧力は約2MPaまで達し、100℃から150℃まで昇温するのに約1分しか要さない激烈な反応であった。100℃まで冷えた後、100℃で1.5時間保持した。ヘキサフルオロプロペンはほぼ全量消費されたが、ガスクロマトグラフィーにて分析すると目的生成物以外に不純物が生成しており、選択率は90%以下にとどまった。
次に、この反応液を蒸留で精製すると、不純物を除去する際に目的生成物をロスし、回収率は49%であった。
Claims (9)
- メタノールとヘキサフルオロプロペンをラジカル開始剤存在下に反応させる2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの製造プロセスにおいて、ヘキサフルオロプロペンを供給しながら反応させ、ラジカル開始剤として過二炭酸ジ−n−プロピル及び過二炭酸ジイソプロピルから選ばれる化合物を用い、反応をラジカル開始剤の半減期が10時間になる温度より低い温度で開始することを特徴とする2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールの製造プロセス。
- ヘキサフルオロプロペンを連続的に供給しながら反応させることを特徴とする請求項1に記載の製造プロセス。
- ヘキサフルオロプロペンの反応開始時の仕込量を、メタノール100kgに対し20kg以下とし、反応系内のヘキサフルオロプロペンの圧力を0.05〜2MPaに維持することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造プロセス。
- 反応開始後、反応温度を徐々に昇温することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の製造プロセス。
- さらに、製造された2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールが水を含む場合、水を含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールから水分を2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとの最低共沸組成として除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造プロセス。
- さらに、製造された2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールが水を含む場合、水と2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとの最低共沸組成を冷却した後分液し、下層の水を含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールから水分を2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとの最低共沸組成として除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造プロセス。
- さらに、製造された2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールが水を含む場合、水を含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールから水分を脱水剤にて除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造プロセス。
- 脱水剤が塩化カルシウム,ゼオライト,及び硫酸マグネシウムから選ばれる1種以上である請求項7に記載の製造プロセス。
- さらに、製造された2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールが炭化水素を含む場合、炭化水素を含む2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールから炭化水素を2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノールとの最低共沸組成として除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造プロセス。
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