JP4802401B2 - 標的化感染特異性を有するポックスウイルス - Google Patents

標的化感染特異性を有するポックスウイルス Download PDF

Info

Publication number
JP4802401B2
JP4802401B2 JP2001179289A JP2001179289A JP4802401B2 JP 4802401 B2 JP4802401 B2 JP 4802401B2 JP 2001179289 A JP2001179289 A JP 2001179289A JP 2001179289 A JP2001179289 A JP 2001179289A JP 4802401 B2 JP4802401 B2 JP 4802401B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
poxvirus
imv
gene
particle
fragment
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP2001179289A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2002330774A (ja
Inventor
ジャン−マルク・バロール
ステファン・ポール
ミッシェル・ジェスト
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Transgene SA
Original Assignee
Transgene SA
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Transgene SA filed Critical Transgene SA
Publication of JP2002330774A publication Critical patent/JP2002330774A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4802401B2 publication Critical patent/JP4802401B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Fee Related legal-status Critical Current

Links

Images

Description

【0001】
本発明は、ポックスウイルス粒子の表面に存在し、標的細胞の表面に局在する抗リガンド分子を特異的に認識し結合しうる異種リガンド部分により付与される標的化感染特異性 (targeted infection specificity) を有するポックスウイルス粒子に関する。本発明はさらに、かかる異種リガンド部分および天然型ポックスウイルスの表面ポリペプチドの全部または一部を含むキメラポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むベクターに関する。本発明はまた、該ポックスウイルス粒子または該ベクターを含む組成物、およびその治療および予防目的の用途に関する。本発明は、遺伝子治療、特に哺乳動物におけるガンの予防または治療に非常に特別な有用性を有する。
【0002】
遺伝子治療は、遺伝物質の細胞または生物体への導入として定義することができる。遺伝子治療によりヒトの疾病を治療する可能性は、この数年で理論的考察の段階から臨床応用の段階まで変化した。ヒトに適用された最初のプロトコルは米国においてアデノシンデアミナーゼ (ADA)欠損症の患者に対して1990年9月に開始された。この最初の有望な実験に続いて、多数の新たな適用が行われ、遺伝子治療に基づく将来性のある臨床試験が現在進行中である (例えば、http://cnetdb.nci.nih.gov/trialsrch.shtml またはhttp://www.wiley.co.uk/genetherapy/clinical/に挙げられた臨床試験を参照) 。
【0003】
成功的遺伝子治療は、主として、目的の治療用遺伝子をその発現を可能にするように生きている生物の細胞中に効率的に送り込むことに依る。治療用遺伝子は、広範な種類のベクターを用いて細胞中に導入することができ、その結果、一過性発現 (トランスフェクション) かまたは宿主ゲノムの恒久的形質転換を生じる。過去10年間に、非常に多くのウイルスベクター、および非ウイルスベクターが遺伝子導入のために開発された (例えば、総説としてRobbins et al., 1998, Tibtech 16,35-40および Rolland, 1998, Therapeutic Drug Carrier Systems 15, 143-198参照) 。
【0004】
最も広く用いられているウイルスベクターは、レトロウイルスおよびアデノウイルス由来である (総説としてMiller, 1997, Human Gene Therapy 8, 803-815 参照) 。しかし、シンドビスウイルス由来ベクターやポックスウイルス由来ベクターなどのその他のウイルスベクターもin vivo 遺伝子導入のための有望な候補となりつつある。
【0005】
ポックスウイルスは、主にその異常な形態、大きいDNA ゲノムおよび複製の細胞質部位を特徴とする、エンベロープを持つ複雑なウイルスの一群である。コペンハーゲンワクシニアウイルス (VV) 株 (Goebel et al., 1990, Virol, 179, 247-266 and 517-563; Johnson et al., 1993, Virol, 196, 381-401)および改変されたワクシニアウイルスアンカラ(MVA) 株(Antoine et al., 1998, Virol. 244,365-396)を含む、ポックスウイルス科の数種のメンバーのゲノムは、マッピングされ配列決定されている。VVは約200 のタンパク質をコードする約192kb の2本鎖DNA ゲノムを有し、そのうちの約100 のタンパク質はウイルスの組み立てに関与している。MVA は、鶏胚繊維芽細胞でワクシニアウイルスのアンカラ(Ankara)株(CVA) を500 回以上の連続継代培養により作製された高度に弱毒化されたワクシニアウイルス株である (Mayr et al., 1975, Infection 3, 6-16) 。MVA は受託番号I-721としてCollection Nationale de Cultures de Microorganismes (CNCM)に寄託された。MVA ゲノムの完全な配列決定およびコペンハーゲン (Copenhagen) VVゲノムとの比較により、ウイルスゲノムに生じた変化の正確な同定、およびいくつかの断片化されたORF (オープンリーディングフレーム) にいたる欠失(IからVII)と多数の突然変異の規定が可能になる (Antoine et al., 1998, Virology 244, 365-396)。
【0006】
エンベロープをもつウイルスの細胞内取り込みのための自然の経路には、ウイルス表面において露出されたウイルスポリペプチドの細胞受容体への結合、およびウイルス膜と細胞膜との間の融合機構、それにより生じる感染細胞の細胞質へのウイルスゲノムの放出を含む一連の過程が含まれる。
【0007】
しかし、ポックスウイルスの特別な場合では、正確な送達経路の分析は、細胞内成熟ウイルス(IMV) および細胞外エンベロープ含有ウイルス(EEV) と称される、二つの形態学的に異なる形態の感染性ウイルスの存在により複雑である。その他の特徴の中で、IMV 形態は、ウイルスコアを囲む単脂質(monolipid) エンベロープを特徴とし (図1) 、感染細胞の溶菌後に細胞外に放出されるにもかかわらず、感染細胞の細胞質に主として局在する。IMV 脂質エンベロープの表面に露出された天然のポリペプチドの多くは同定され、例えばp14kDaやp21kDaタンパク質があり、それぞれA27L遺伝子(Rodriguez at al., 1985, J., Virol, 56, 482-488; Rodriguez et Estaban, 1987, J. Virol. 61, 3550-3554) およびA17L遺伝子によりコードされており、またL1R 、A14L、D8L 、A9L (Yeh et al., 2000, J. Virol, 74, 9701-9711) 、E10R (Senkevich et al., 2000, Virol, 5, 244-252)およびH3L 遺伝子よりコードされるタンパク質がある。IMV に比べて、EEV 形態は、トランスゴルジ網嚢から得られた追加の外部脂質膜エンベロープ (二重脂質層) を有する。これは、感染細胞の外側に放出されるウイルス形態に相当する。EEV 表面膜エンベロープは、IMV 表面にはない約10種のタンパク質を示し、例えばコードされたB5R,A34Rおよび赤血球凝集素(HA)遺伝子産物( 図1) などがある。このIMV およびEEV 形態の共存は、ワクシニア株のほとんど (例えばコペンハーゲンおよびMVA 株) 、およびニワトリポックスウイルス (鶏痘ウイルス) などのその他のポックスウイルスについて報告されている(Boulanger et al., 2000, J. Gen. Virol. 81, 675-687)。
【0008】
IMV とEEV の異なる形態は、これらのポックスウイルス形態の宿主細胞への侵入の異なる機構を示唆する。EEV 供給経路はエンドサイトーシスおよびそれに続くpH依存性膜融合経路により媒介されるが、IMV 形態はpH非依存的に細胞膜と直接融合することが最近提案された (Vanderplasschen et al., 1998, J. Gen. Virol. 79, 877-887) 。IMV 結合と細胞内取り込みを媒介する二つの細胞受容体が最近同定された: 細胞表面プロテオグリカンのグリコサミノグリカン(GAG) 側鎖であるヘパラン硫酸(Chung et al., 1998, J. Virol. 72, 1577-1585) および別のGAG 成分であるコンドロイチン硫酸 (Hsiao et al., 1999, J. Virol. 73, 8750-8761)。両受容体は異なるIMV 表面ポリペプチド、それぞれp14(ヘパラン硫酸と結合) およびD8L 遺伝子産物 (コンドロイチン硫酸と結合) と相互作用し、これは異なる種類のウイルス-GAG相互作用を示している。
【0009】
ワクシニアウイルス14-kDaタンパク質(p14) は、ウイルスの感染性において重要な役割を果たしている。p14 タンパク質は21-kDaタンパク質(p21) との会合によりIMV 脂質エンベロープに固定されている(anchored)。p14 タンパク質は、おそらく細胞表面ヘパラン硫酸への結合に関与することによりIMV 供給経路に関与している (Chung et al., 1998, J.Virol. 72, 1577-1585) 。さらに、融合過程はこのp14 タンパク質によるものであった。さらに、一般的に言うと、IMV 表面ポリペプチドがIMV 感染性に密接に関与し、その変異または欠失がIMV の伝播を劇的に損なうことが示されてきた(Dallo et al., 1987, Virology 159, 423-32)。p14 タンパク質はまた、EEV の形成および感染細胞外でのウイルス拡散に必要である。
【0010】
最近、細胞表面ヘパラン硫酸受容体への結合、ウイルス/ 細胞膜融合およびウイルス放出に必要とされる機能性ドメインがp14 の最初の43のN末端アミノ酸内でマッピングされた (Vazquez an Esteban, 1999, J.Virol. 73, 9098-9109)。さらに、Vazquez 等 (1998, J.Virol. 72, 10126-10137) は、p14 のC末端ドメインがp21 タンパク質との結合に関与していることを示した。
【0011】
各種の治療用遺伝子を発現する多数の組換えポックスウイルスベクターが文献において報告されてきた。特に、サイトカイン遺伝子を発現するVV(Peplinski et al., 1995, Ann. Surg. Oncol. 2, 151-159; Whitman et al., 1994, Surgery 116, 183-188)、B7.1免疫刺激遺伝子(Hodge et al., 1994,Cancer Res. 54, 5552-5555)、1CAM-1(Uzendoski et al., 1997, Hum. Gene Ther. 8, 851-860)または、単純ヘルペスウイルス-1(TK HSV-1)のチミジンキナーゼ遺伝子 (Puhlmann et al., 1999, Hum, Gene Ther. 10, 649-657) や、シトシンデアミナーゼ遺伝子(Gnant et al., 1999, Cancer Res. 59, 3396-3403) などの自殺遺伝子を発現するVVがガンの治療に提案されてきた。さらに、それらの抗腫瘍活性が動物モデルで実証された。MVA 株に基づくベクターもまた提案された(Sutter and Moss, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 10847-10851; Carroll and Moss, 1995, Bio Techniques 19, 352-355; Antoine et al., 1996, Gene 177, 43-46;Schleiflinger et al., 1996, Arch. Virol. 141, 663-669)。
【0012】
しかしながら、ワクシニアウイルスは非常に広い宿主範囲を示し、ほとんどの脊椎動物細胞に感染する。また、IMV とEEV 形態は伝播性に関して異なる。なぜなら、EEV はその表面にIMV 表面よりもより多くの種類のポリペプチドを提示しており、IMV よりも広範に伝播する傾向がより大きいからである。どの形態を考えても、感染選択性の欠如は、非標的化細胞中に導入された遺伝子 (すなわち、細胞障害性遺伝子) の発現から生じ得る悪影響を制限するのが望ましい特別な用途に対しては不利であると見なされ得る。従って、標的細胞集団への感染を指令するために宿主範囲を限定するにはウイルスを改変するのが有用であろう。
【0013】
ウイルスの指向性 (tropism)の改変はすでにある種のウイルスで行われている。例えばWO93/09221では、モノクローナル抗体により細胞受容体へのウイルスの結合を正常に媒介するウイルス赤血球凝集素ポリペプチドの阻害により、および標的化細胞上に発現されたトランスフェリン受容体と相互作用し得る抗体とウイルスとを結合させることにより、インフルエンザウイルス指向性を改変している。
【0014】
Roux等(1989, Proc. Natl. Acad Sci. USA 86, 9079-9083) はレトロウイルスエンベロープgp70およびヒト主要組織適合抗原 (MHC) のそれぞれに対する2つのビオチニル化抗体を用いてマウス同種指向性組換えレトロウイルスをヒト細胞に感染させることを報告している。
【0015】
WO94/10323は、抗体に認識される抗原を発現する細胞にアデノウイルスの感染を指示するために、単鎖 (single chain) 抗体との融合により改変された繊維タンパク質をその表面に提示する標的化アデノウイルスベクターを記載している。
【0016】
しかしながら、ポックスウイルス粒子の制御された標的化は、ポックスウイルスの固有の複雑さおよび異なる2つの感染性形態の存在により阻害されたきた。これに関して、Galmiche (1997,J. Gen. Virol. 78, 3019-3027)は、腫瘍細胞標的化のためのEEV 粒子の構築を報告している。腫瘍関連抗原ErbB-2に対する単鎖抗体を、EEV 表面に発現されるようにウイルス赤血球凝集素 (HA) に融合させた。ErbB-2は、ヒト腺がん細胞上に過発現される上皮増殖因子受容体である。融合タンパク質はEEV 粒子の表面に露出され、in vivo で培養ヒト腺ガン細胞に結合し得るが、著者等は、抗体-HA 融合体を有するEEV のErbB-2発現細胞への優先的感染を観察しなかった。改変EEV 粒子は、広範囲な細胞の感染を可能にする未同定のタンパク質をまだ含有していると推定される。
【0017】
従って、本発明の基礎となる技術的課題は、ポックスウイルスの特定細胞への標的化のための改良された方法および手段の提供である。この技術的課題は、ここに明らかにする態様の提供により解決される。
【0018】
本発明は、標的細胞への標的化感染特異性を有するポックスウイルス粒子であり、この粒子はこの標的細胞に優先的に感染するものであり、この特異性は、ポックスウイルス粒子の表面に局在し、かつ標的細胞の表面に局在する抗リガンド分子に結合し得る、少なくとも1つの異種リガンド部分により付与される(ただしポックスウイルス粒子がEEV ワクシニアウイルス粒子であるときリガンドはErbB-2に対する抗体ではない)。
【0019】
ここで用いる「標的細胞に対する標的化感染特異性」なる用語は、本発明のポックスウイルス粒子が、関連する非改変 (即ち野生型) ポックスウイルス粒子に比べ、標的細胞に対して新たな、または向上した指向性を示すように操作されている、制御された感染特異性を指す。その結果、本発明のポックスウイルス粒子は、その関連する非改変ポックスウイルス粒子と異なり標的細胞に感染する傾向を示し、これは本発明のポックスウイルス粒子は、標的細胞 (本発明のポックスウイルス粒子の表面に提示されるリガンド部分により認識される抗リガンドをその表面に提示する) に、非標的細胞 (前記の抗リガンドをその表面に提示しない) よりもより効率的またはより迅速に感染するが、一方、関連する非改変ポックスウイルス粒子は非標的細胞に比べより低いか同じ程度の効率で標的細胞に感染するだろうことを意味する。この好ましい感染性は、標的細胞および非標的細胞に対する本発明のポックスウイルス粒子の感染性を、その関連非改変ポックスウイルス粒子の感染性とin vitro (例、培養細胞において) またはin vivo(例、動物モデルにおいて) で、同じ実験条件下で比較することにより容易に決定できる。感染性を分析するためのin vitro実験条件は、本明細書の実施例5において提供されるが、その他の方法も当業者には周知であり、従って、本発明に関して使用できる。例えば、本発明によるポックスウイルス粒子および関連非改変ポックスウイルス粒子の混合物を、比較的短い感染時間(30 分以下、特に1〜10分) で培養標的細胞に感染させるのに用いると、最初の混合物に含まれる本発明によるポックスウイルス粒子の大多数 (少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、そしてより好ましくは少なくとも80%) は前記標的細胞に感染することができるが、一方、最初の混合物中の関連非改変ポックスウイルス粒子の少量(40 %以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下) しか前記標的細胞に感染することができない。これは、各感染操作毎に、混合物中に存在する本発明によるポックスウイルス粒子の量を増やす結果となる。このような濃縮は、標準的技術により各ポックスウイルス粒子のウイルス力価を測定して評価することができる。
【0020】
本発明において用いる「リガンド部分」という用語は、標的細胞の表面において発現または露出された少なくとも1つの抗リガンド分子を認識して結合し得る任意の部分を意味する。これは、標的細胞結合および本発明のポックスウイルス粒子への感染特異性を提供する。本明細書を読むことにより、前記抗リガンド分子は、ポックスウイルスの取り込みを媒介する天然型細胞受容体( 例、ヘパラン硫酸またはコンドロイチン硫酸) とは異なることが明らかである。本発明によれば、リガンド部分は、請求されたポックスウイルス粒子の表面に局在する。使用する結合方法 (下記参照) によって、このリガンド部分は、ウイルス粒子表面上に付加され露出している (例えば化学的結合による) 部分であるか、又は粒子エンベロープ構造において融合した部分 (例えば遺伝子結合により) である。「異種 (heterologous) 」とは、このリガンド部分が野生型ポックスウイルス粒子の表面には見出されないことを意味する。広く、「同種 (homologous) 」とは、野生型ポックスウイルス粒子の表面に見出されるポリペプチド又は天然部分をいう。標的細胞の表面に局在する抗リガンド分子は、好ましくは、野生型ポックスウイルス粒子が結合しないものであるか、又は、野生型ポックスウイルス粒子が本発明の改変ポックスウイルス粒子よりも低い特異性でしか結合しないものである。リガンドとある抗リガンド分子間の結合特異性は、ELISA 、免疫蛍光及び表面プラズモン共鳴に基づく技術(Biacore AB)を含む当分野の技術によって測定できる。
【0021】
一般に、本発明の範囲において用いられるリガンド部分は広く文献に記載されている; これは、本発明の改変ポックスウイルス粒子に、少なくとも1つの標的細胞の表面に局在するある抗リガンド分子又は一群の抗リガンド分子に結合する能力を付与しうる部分である。適当な抗リガンド分子には、細胞特異的マーカー、組織特異性マーカー、細胞受容体、ウイルス抗原、抗原性エピトープ及び腫瘍関連マーカーよりなる群から選ばれるポリペプチドがあるが、これらに限定されない。抗リガンド分子は、さらに糖質、脂質、糖脂質、抗体等がある。本発明によれば、リガンド部分は、例えば脂質、糖脂質、ホルモン、糖、ポリマー (例、PEG 、ポリリシン、PEI 等) 、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、ビタミン、抗原、レクチン、JTS1(WO94/40958)などの標的化特性を示すポリペプチド部分、抗体又はそれらの組み合わせであってもよい。前述のリガンド部分の断片もまた、それが天然分子の標的化特性を保持していれば使用できる。
【0022】
好ましくは、本発明において用いられるリガンド部分は、最小で7アミノ酸の長さのポリペプチドである。これは天然のポリペプチドか、天然のポリペプチド由来のポリペプチドである。「由来」とは、(i) 天然の配列に関して1又は2以上の改変 (例、1又は2以上の残基の付加、欠失及び/又は置換) 、(ii)非天然アミノ酸を含むアミノ酸類似体、又は(iii) 置換された結合、並びに(vi)当分野で既知のその他の改変を含むことを意味する。この用語は、変異物及び各種起源の配列を融合させることにより得られるキメラポリペプチドも含む。さらに、このリガンド部分は直鎖でも環状構造を有していてもよい (例、システイン残基によりポリペプチドリガンドを両端に配置することにより) 。さらに、本発明で用いるリガンド部分は、化学的部分を置換または付加することにより (例、グリコシル化、アルキル化、アセチル化、アミド化、リン酸化、スルフヒドリル基の付加等) 、そのもとの構造を修飾することを含む。本発明はさらに、リガンド部分を検出可能にする修飾も含む。この目的のためには、検出しうる部分による修飾が検討された (すなわち、シンチグラフィー、放射能、蛍光又は染料標識等) 。適当な放射能標識には、Tc99m、I123 及びIn111があるが、これらに限定されない。このような検出可能な標識は任意の慣用技術によりリガンド部分に結合してもよく、診断目的に用いてもよい (例、腫瘍細胞の画像化) 。
【0023】
1つの好ましい態様において、抗リガンド分子は抗原 (例、細胞特異的抗原、疾病特異的抗原、遺伝子操作された標的細胞の表面に特異的に発現される抗原等) であり、リガンド部分は抗体、その断片又は最小認識単位 (すなわち、抗原特異性を依然として示す断片) であり、例えば免疫学マニュアル (例えば、Immunology, 3版, 1993, Roitt,Brostoff and Male,編 Gambli,Mosby 参照) に詳細に記載されているものがある。リガンド部分はモノクローナル抗体であってもよい。これらの抗原の多くに結合するであろうモノクローナル抗体は、既に知られているが、いずれの場合もモノクローナル抗体技術に関する現在の手法を用いて、ほとんどの抗原に対する抗体で製造できる。リガンド部分は抗体の一部 (例えばFab断片) であっても、合成抗体断片 (例えばScFv) であってもよい。
【0024】
選択された抗原に対する適当なモノクローナル抗体は既知の方法、例えば "Monoclonal Antibodies: A manual of techniques", H. Zola(CRC Press, 1988) および "Monoclonal Hydridoma Antibodies: Techniques and Applications", J. G. R. Hurrell (CRC Press, 1982) に記載の方法により製造してもよい。適切に製造された非ヒト抗体は既知のやり方で「ヒト化」してもよく、例えばマウス抗体のCDR 領域をヒト抗体のフレームワーク中に挿入することにより行える。さらに、抗体の可変重(VH)ドメイン及び可変軽 (VL) ドメインは抗原の認識に関与し、齧歯動物起源の可変ドメインは、得られる抗体が齧歯動物の親抗体の抗原特異性を保時するようにヒト起源の定常ドメインに融合していてもよい(Morrison et al., (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 6851-6855)。
【0025】
抗体の抗原特異性は、Fab様分子(Better et al., (1988) Science 240, 1041);Fv分子(Skerra et al., (1988) Science 240, 1038); VH 及びVLの対ドメインが、可撓性オリゴペプチドを介して連結していてもよいScFv分子(Bird et al., 1988) Science 242, 423; Huston et al., (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 5879)、及び分離Vドメインを含むdAb(Ward et al., (1989) Nature 341, 544)などの可変ドメインにより付与される。その特異的結合部位を保持する抗体断片の合成に関与する技術の総説はWinter & Milstein (1991) Nature 349, 293-299にみられる。
【0026】
有利な態様によれば、リガンド部分は全抗体よりもむしろ抗体断片から選択される。補体結合のような全抗体のエフエクター機能は除かれる。ScFv部位及びdAb 抗体断片は、その他のポリペプチドとの融合体として発現されていてもよい。最小認識単位は、Fv断片の相補的決定領域 (CDR)の1又は2以上の配列由来であってもよい。全抗体及びF(ab')2 断片は「2価」である。「2価」とは、この抗体及びF(ab')2 断片が2つの抗原結合部位を有することを意味する。対照的に、Fab 、Fv、ScFv、dAb 断片及び最小認識単位は1価であり、ただ1つの抗原結合部位を有する、
別の態様では、リガンド部分は天然の細胞表面受容体結合に関する特異的部分の少なくとも一部である。当然、この天然の受容体 (例、ホルモン受容体) はそれ自身が標的細胞特異的抗原であってもよく、またモノクローナル抗体、ScFv、dAb又は最小認識単位のいずれか1つの性質を有するリガンド部分により認識されてもよい。
【0027】
好ましい態様では、リガンド部分がウイルス感染細胞の標的化を可能にし、ウイルス成分 (例、エンベロープ糖タンパク質) を認識して結合できるか、あるいはウイルスの生態 (例、侵入、複製) を妨げることができる。例えば、HIV (ヒト免疫不全症ウイルス) 感染細胞の標的化は、HIVエンベロープのエピトープに特異的なリガンド部分、例えば、膜貫通糖タンパク質gp41 の高度に保存されたエピトープを認識する2F5抗体由来のリガンド部分(Buchacher et al., 1992, Vaccines 92, 191-195)、又は細胞受容体CD4 へのHIV 結合を妨げるリガンド部分 (例、CD4分子の細胞外ドメイン) を用いて行うことができる
別の好ましい態様においては、リガンド部分は腫瘍細胞を標的化することを可能にし、腫瘍特異的抗原、腫瘍細胞において特異的にもしくは過剰に発現される細胞タンパク質、又はガン関連ウイルスの遺伝子産物などの腫瘍状態に関連する分子を認識して結合しうる。
【0028】
腫瘍特異的抗原の例には、乳ガンに関連するMUC-1(Hareuveni et al., 1990, Eur. J. Biochem 189, 475-486) 、乳及び卵巣ガンに関連する変異BRCA1及びBRCA2遺伝子によりコードされる産物(Miki et al.,1994, Science 226, 66-71; Futreal et al., 1994, Science 226, 120-122; Wooster et al., 1995, Nature 378, 789-792) 、大腸ガン関連APC(Polakis, 1995, Curr. Opin. Genet. Dev. 5, 66-71)、前立腺ガン関連前立腺特異的抗原 (PSA)(Stamey et al., 1987, New England J. Med. 317, 909) 、大腸ガン関連ガン腫胚性抗原 (carcinoma embryonic antigen related to colon cancer) (CEA)(Schrewe et al., 1990, Mol. Cell. Biol. 10, 2738-2748)、黒色腫関連チロシナーゼ(Vile et al., 1993, Cancer Res. 53, 3860-3864)、黒色腫細胞において多数発現するメラノサイト刺激ホルモン(MSH) の受容体、乳ガン及びすい臓ガン関連ErbB-2(Harris et al., 1994, Gene Therapy 1, 170-175)、及び肝ガン関連α−フェトプロテイン(Kanai et al., 1997, Cancer Res. 57, 461-465) があるが、それらには限定されない。
【0029】
本発明で用いるのに好ましいリガンド部分は、MUC-1 抗原を認識して結合し、従ってMUC-1 陽性腫瘍細胞を標的化しうる抗体の断片である。より好ましいリガンド部分は、MUC-1 抗原の縦列反復領域を認識するSM3 モノクローナル抗体のseFv 断片(Burshell et al., 1987, Cancer Res. 47, 476-5482; Girling et al., 1989, Int J. Cancer 43, 1072-1076; Dokurno et al., 1998, J. Mol.Biol. 284, 713-728) である。
【0030】
腫瘍細胞において特異的にもしくは過剰に発現される細胞タンパク質の例には、ある種のリンパ球腫瘍において過剰に発現するインターロイキン2 (IL-2) の受容体、肺ガン細胞、膵臓、前立腺及び胃ガンにおいて過剰に発現するGRP ( ガストリン放出ペプチド)(Michael et al., 1995, Gene Therapy 2, 660-668)、TNF(腫瘍壊死因子) 受容体、表皮増殖因子受容体、Fas 受容体、CD40受容体、CD30受容体、CD27受容体、OX−40、∀v インテグリン(Brooks et al., 1994, Science 264, 569) 及びある種の血管新生増殖因子(Hanahan, 1997, Science 277, 48)に対する受容体があるが、これらに限定されない。これらの示唆に基づき、上記タンパク質を認識して結合しうる適宜リガンド部分を決定することは当業者の範囲内である。例えば、IL-2はIL-2受容体に結合するための適当なリガンド部分である。
【0031】
適当なガン関連ウイルスの遺伝子産物には、子宮頸ガンにおいて発現するヒトパピローマウイルス (HPV)E6及びE7初期ポリペプチド、並びにL1及びL2後期ポリペプチド (EP 0 462 187、US 5,744,133及びWO98/04705) 、及びバーキットリンパ腫に関連するエプスタインバールウイルス (EBV)のEBNA-1抗原(Evans et al., 1997, Gene Therapy 4, 264-267) があるが、これらには限定されない。
【0032】
さらに別の好ましい態様では、リガンド部分は組織特異的分子の標的化を可能にする。例えば、肝細胞を標的化するのに適したリガンド部分には、LDL 受容体に結合しうるApoB (アポリポタンパク質) 、LPR 受容体に結合しうるα-2- マクログロブリン、アシアロ糖タンパク質受容体に結合しうるα-1酸糖タンパク質及びトランスフェリン受容体に結合しうるトランスフェリン由来のものがあるが、これらに限定されない。活性化内皮細胞を標的化するためのリガンド部分は、シリアル−ルイス−X抗原 (ELAM-1に結合しうる) 由来、VLA-4(VCAM-1受容体に結合しうる) 由来、またはLFA-1(ICAM-1受容体に結合しうる) 由来であってもよい。CD34由来のリガンド部分は、CD34受容体への結合を通して造血前駆細胞を標的化するのに有用である。ICAM-1由来のリガンド部分は、LFA−1受容体への結合を通してリンパ球を標的化するのに有用である。最後に、Tヘリパー細胞の標的化には、HIVgp-120 由来のリガンド部分又はCD4受容体に結合しうるMHCCクラスII抗原を用いてもよい。
【0033】
ポリペプチドであるリガンド部分が組換えDNA 技術を用いて好都合に作製できることは当業者には認められるだろう。リガンド部分は、以下に示すようにウイルス粒子の表面のタンパク質に融合していてもよく、あるいは、例えば新たな(de novo) 合成、又は真核及び原核細胞における適宜DNA 断片の発現により独立に合成され、次いで以下に開示するようにウイルス粒子に結合してもよい。多くのリガンド部分をコードする核酸配列は既知であり、例えばペプチドホルモン類、増殖因子類、サイトカイン類等の核酸配列があり、そしてEMBL及びGenBank などの公的に利用しうるヌクレオチド配列データベースを参照することにより容易に見出されるかもしれない。ヌクレオチド配列が一旦分かれば、例えばDNAの化学合成技術、またはポリメラーゼ連鎖反応を用いて、ゲノムDNA からもしくは組織特異的cDNAから必要なDNA を増幅することにより、選択したリガンド部分をコードするDNA を作製する方法は当業者には自明である。ペプチドホルモン類、増殖因子類、抗体の全体又は一部、サイトカイン類等をコードする多くのcDNAは、リガンド部分として有用であり、一般に市販されている。
【0034】
「標的細胞」とは、本発明の改変ポックスウイルス粒子が優先的に感染しうる細胞をいう。リガンド部分及び/又は抗リガンド分子の性質により、「標的細胞」は、本発明のポックスウイルス粒子上に存在するリガンド部分により認識される抗リガンド分子をその表面に共通の特徴として有する特別な種類の細胞または異なる種類の一群の細胞を意味するかもしれない。本発明の目的にとっては、標的細胞は、本発明のポックスウイルス粒子に感染しうる任意の哺乳動物細胞 (好ましくはヒト細胞) からなる。この細胞は初代細胞、形質転換細胞又は任意の起源の腫瘍細胞でもよい。適当な標的細胞には造血細胞 (全能性幹細胞、白血球、リンパ球、単球、マクロファージ、樹状細胞等) 、筋細胞 (衛生細胞、ミオサイト、筋芽細胞、骨格及び平滑筋細胞、心筋細胞) 、肺細胞、気管細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞又は繊維芽細胞があるが、これらに限定されない。
【0035】
「リガンド部分 (または抗リガンド分子) がポックスウイルス粒子の (又は標的細胞の) 表面に局在する」とは、このリガンド部分 (又は抗リガンド分子) が、該ポックスウイルス粒子を該標的細胞に接触させたときに、その特異的抗リガンド分子 (又はそれぞれ、リガンド分子) と結合するためにポックスウイルス粒子の (又は標的細胞の) 表面に接近可能であることを意味する。この接近可能性は、文献に広く開示された方法を用いて過度の実験なしにin vitroで測定できる。
【0036】
本発明のポックスウイルス粒子は、ポックスウイルス科の任意のメンバー、特にワクシニアウイルス、カナリアポックス、ニワトリポックス (鶏痘) 、ウシポックス、昆虫ポックス、サルポックス、ブタポックス又はペンギンポックスから得ることができる。好ましくは、コペンハーゲン、ワイエス(Wyeth) 又はアンカラ改変 (MVA)株のワクシニアウイルス粒子である。一般的に、多数の刊行物が上で引用したポックスウイルス及びポックスウイルス株の配列及び生物学に関する。さらに、それらは、ATCC (鶏痘 ATCC VR−251 、サルポックス ATCC VR−267 、ブタポックス ATCC VR-363、カナリアポックス ATCC VR−111 、ウシポックス ATCC VR−302)又はICTV (オーストラリア、キャンベラ) ( コペンハーゲンウイルスコード58.1.1.0.001; GenBank 受託番号M35027)などの認定されたコレクションにおいて入手できる。
【0037】
本発明のポックスウイルス粒子はIMV でもEEV 形態のどちらでもよい。好ましい態様においては、それはIMV 粒子である。前述したように、IMV 粒子は、A27L(p14タンパク質) 、L1R 、A14L、A17L(p21タンパク質) 、D8L 、A9L 、E10R及びH3L 遺伝子によりコードされる産物などの、その表面に存在するウイルスのポリペプチドを有する単層脂質エンベロープにより囲まれたウイルスゲノムを含むウイルス核を含む。「EEV 」なる用語は、B5R 、A34R及びHA遺伝子によりコードされる産物などの細胞およびウイルスポリペプチドをその細胞表面に露出している、追加の2層脂質エンベロープに囲まれるIMV 粒子を意味する。
【0038】
有利な態様において、ポックスウイルスゲノムは、EEV 粒子の産生に関与する少なくとも1つの遺伝子において欠損性であり、好ましくはF13L遺伝子(p37タンパク質をコードする) において欠損性である。F13L遺伝子の欠失が、正常レベルのIMV が産生されるにもかかわらず、EEV の包みこみ(wrapping)過程において重大な欠陥をもたらすことがBorrego 等により示された(1999,J.Gen.Virol.80,425-432) 。従って、ポックスウイルスF13L遺伝子を変化させることによりIMV産生を増加させることが可能である。このF13L遺伝子は、コーディング配列内またはプロモーター内の任意の配列の完全もしくは部分的欠失、変異又は挿入により改変することができる。ポックスウイルスゲノムは、任意に、その産物がポックスウイルス取り込みを媒介する天然の細胞受容体 (例、ヘパラン硫酸又はコンドロイチン硫酸) との相互作用に関与する少なくとも1つの遺伝子において改変されていてもよい。これらの遺伝子改変技術は当分野では既知であり、Borrego 等 (1999、前出) に説明されている。
【0039】
ここで用いる遺伝子の名称は、コペンハーゲンワクシニア株において使用されているものであり、特に指定がない限り他のポックスウイルス科 (例、MVA)の相同遺伝子に対しても用いられる。しかし、遺伝子の名称はポックス株により異なる。参考のために、コペンハーゲン及びMVA 遺伝子の間の対応がAntoine 等(1998, Virol. 244, 365-396) の表1に示されている。例えば、コペンハーゲンA27L遺伝子はMVA では138 Lと呼ばれるが、これら両遺伝子は同様の機能とIMV 表面における局在を有する相同p14-kDa タンパク質をコードする。
【0040】
本発明によれば、ポックスウイルス粒子は本発明で用いる異種リガンド部分と作動的に結合している。「作動的に結合している」とは、この粒子とリガンド部分が、それらが意図したように機能する (すなわち、リガンド部分が、所望の細胞へのポックスウイルス粒子の標的化感染特異性を促進する) ことを可能にする関係にあることを意味する。結合は、共有結合、非共有結合または遺伝的手段を含む、当業者に周知の各種手段により行うことができる。
【0041】
ポックスウイルス粒子の表面へのリガンド部分の共有結合は、反応性官能基を介して直接に、あるいはスペーサー基もしくは他の活性化部分により間接に行ってもよい。具体的には、結合は、(i) ホモ二官能性、もしくは(ii)ヘテロ二官能性架橋剤により、(iii) カルボジイシドにより、(iv)還元的アミノ化により、もしくは(vi)カルボキシレートの活性化により行ってもよい (例えば、Bioconjugate techniques 1996; G Hermanson 編; Academic Press参照) 。
【0042】
グルタルアルデヒド及びDMS (ジメチルスーベルイミデート) のようなビス- イミドエステルを含むホモ二官能性架橋剤を、リガンド部分のアミノ基をジアシルアミンを含む脂質構造 (例、IMV エンベロープの) に結合するのに用いてもよい。
【0043】
本発明においては多くのヘテロ二官能性架橋剤を用いることができ、詳しくは、アミノ反応基とスルフヒドリル反応基を有するもの、カルボニル反応基とスルフヒドリル反応基を有するもの、及びスルフヒドリル反応基と光反応性リンカーを含むものがある。適当なヘテロ二官能性架橋剤はBioconjugate techniques (1996) 229-285; G Hermanson 編; Academic Press およびWO99/40214に記載されている。第一のカテゴリーの例には、SPDP(N−スクシンイミジル3-(2−ピリジルジチオ) プロピオネート) 、SMBP (スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル) ブチレート) 、SMPT (スクシンイミジルオキシカルボニル- ∀- メチル-(∀-2- ピリジルジチオ) トルエン) 、MBS (m- マレイミドベンゾイル-N- ヒドロキシスクシンイミドエステル) 、SIAB(N- スクシンイミジル (4-ヨードアセチル) アミノベンゾエート) 、GMBS (マレイミドブチリルオキシスクシンイミドエステル) 、SIAX (スクシンイミジル−6−ヨードアセチルアミノヘキソネート) 、SIAC (スクシンイミジル−4−ヨードアセチルアミノメチル) 、NPIA(P−ニトロフェニルヨードアセテート) があるが、これらには限らない。第二のカテゴリーは、炭水化物含有分子 (例、env 糖タンパク質、抗体) をスルフヒドリル反応性基に結合するのに有用である。例としてはMPBH (4-(4- N-マレイミドフェニル) 酪酸ジドラジド) 及びPDPH (4-(N- マレイミドメチル) シクロヘキサン−1−カルボキシル−ヒドラジド、M2C2H 及び3-2(2-ピリジルジチオ) プロピオニルヒドラジド) がある。第三のカテゴリーの例としては、ASIB (1-(p- アジドサリシルアミド)-4- (ヨードアセトアミド) ブチレート) を挙げることができる。別の例には、Frisch等(Bioconjugate Chem. 7 (1996) 180-186) に記載のチオール反応性試薬がある。
【0044】
結合(iii) には、リガンド部分のカルボキシレート基とのカルボジイミド反応に関与しうる脂質構造中に存在するジアシルアミンのアミノ基がある。
結合(iv)は、例えばイミン形成、次いでシアノボロハイドレート(cyanoborohydrate)を介して行われてもよい。
【0045】
結合(vi)は、例えば、安定なアミド結合連結を生じるリガンド部分のNHS エステル誘導体とポックスウイルスアミノ基を含む。
別の例では、スルフヒドリル基とスルフヒドリル反応性基を含むマレイミド−スルフヒドリル結合を用いる。例えば、SATA(N−スクシンイミジルS−アセチルチオアセテート) を用いてスルフヒドリル基を導入でき、一方、スルホSMCC (スルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル) シクロヘキサン1−カルボキシレート) を用いてマレイミド基を導入してチオエーテル共有結合を生じさせることができる。
【0046】
共有結合は、ポリエチレングリコール (PEG)やその誘導体などのポリマーを用いて生じさせてもよい。好ましくは、ポリマーは 200〜20000 Daの間の平均分子量をもつ。例えば、トレシル(tresyl)−MPEGを用いてLys 残基中に存在するアミノ基を結合させることができる (例えばWO99/40214参照) 。PEG を介した2つの相手を結合させる他の手段は文献に記載されている(Bioconjugate techniques (1996) 606-618; G Hermanson編; Academic Pressおよび Frisch et al. Bioconjugate Chem. 7 (1996) 180-186) 。
【0047】
非共有結合には、静電気的相互作用、例えば陽イオン性リガンド部分と負に帯電したポックスウイルスとの間のものがある。別の例は、両パートナーを非共有的に又は親和性により会合させうる、プロテインA、ビオチン/ アビジン、抗体などの親和性成分を用いることからなる。例えば、ペプチドリガンド部分とポックスウイルス粒子間の結合には、Roux等(1989, Proc. Natl. Acad Sci USA 86, 9079) により開示された技法により、表面に提示されたエピトープに対するビオチニル化抗体及び、ペプチドリガンド部分に対するストレプトアビジン標識抗体を用いてもよい。結合相手のそれぞれに対する二官能性抗体もまた、この目的に適している。
【0048】
遺伝子連結は、ポリペプチド又はその断片であるリガンド部分を連結するためである。有利にはこのリガンド部分をコードする核酸を、非改変ポックスウイルス粒子の表面に局在する同種ポックスウイルスポリペプチドをコードするウイルス核酸配列に融合させる。しかし、本発明はさらに、リガンド部分をコードする核酸が、ポックスウイルス粒子の表面にこのリガンド部分を局在化させることを可能にする異種ポリペプチド (例、膜固定ポリペプチド) をコードする核酸配列に融合している遺伝子連結に関する。好ましくは、このリガンド部分をコードする核酸はポックスウイルスの完全さには必須でないウイルスゲノムの領域において融合している。
【0049】
第一の方法によれば、遺伝子連結は、表面に露出した同種ポックスウイルスポリペプチドの少なくとも一部が除去され、本発明で用いる異種リガンド部分で置換されたキメラポリペプチドを生ずる。第二の方法では、遺伝子連結は、本発明で用いる異種リガンドポリペプチド部分が、表面に露出した同種ポックスウイルスポリペプチドに導入されたキメラポリペプチドを生じる。遺伝子連結から生じるポリペプチド融合は、任意の位置、N末端、C末端又はウイルスポリペプチドの2つのアミノ酸残基の間で生じる。好ましくは、選ばれた遺伝子連結部位 (すなわち、リガンド部分コーディング配列が挿入されたウイルス核酸の部位) は対応するオープンリーディングフレームを破壊しない。
【0050】
本発明のポックスウイルスがIMVであるとき、これらの遺伝子連結に適した同種表面露出ポックスウイルスポリペプチドには、A27L(p14タンパク質) 、LIR 、A14L、A17L(p21タンパク質) 、D8L 、A9L 、E10R及びH3L 遺伝子の発現産物があるが、これらに限定されない。好ましい態様によれば、リガンド部分をコードするヌクレオチド配列を、このリガンド部分が最終的にp14 のN末端に位置するように、A27L遺伝子配列に融合させる。好ましくは、このリガンド部分のコーディングヌクレオチド配列は、A27L遺伝子開始コドンのすぐ下流に融合させる。
【0051】
本発明のポックスウイルス粒子がEEV である場合、これらの遺伝子連結に適した同種表面露出ポックスウイルスポリペプチドには、B5R 、A34R及びHA遺伝子の発現産物があるが、これらに限定されない。好ましい態様によれば、リガンド部分をコードするヌクレオチド配列を、このリガンド部分が最終的に対応する発現産物のN末端に位置するようにB5R 遺伝子配列に融合させる。好ましくは、このリガンド部分のコーディングヌクレオチド配列を、B5R 遺伝子開始コドンのすぐ下流に融合させる。
【0052】
本発明によれば、リガンド部分及びポックスウイルス粒子は連結を改善または安定化するためにさらに改変されてもよい。詳しくは、リガンド部分は、標的細胞への接近を容易にするためにその末端の一方にスペーサー部分を提示してもよい。さらに、本発明のポックスウイルス粒子は、順次結合してもしなくてもよい、例えば縦列構造の1又は2以上のリガンド部分を含んでいてもよい。例えば、ポックスウイルス粒子の特定標的細胞への特異性を増すことが望ましい場合は、この標的細胞を認識し結合しうるリガンド部分の組み合わせを用いることが有利であるかもしれない。
【0053】
本発明が求める目的に従い、リガンド部分はポックスウイルス粒子のエンベロープ中への挿入を容易にするシグナルペプチドを含んでよい。膜固定を可能にする疎水性配列の使用が考えられるが、トランスゴルジ網への移動を可能にするシグナルペプチドを用いるのが好ましい。かかるペプチドはゴルジ区画に天然に存在する任意のタンパク質から分離又は同定出来る (例えば、Mochamer et Rose, 1987, J. Cell Biol. 105, 1205-1214; Mochamer, 1993, Curr. Opin. Cell Biol. 5, 606-612; Muesch et al., 1990, Trends Biochem sci 15, 86-88参照) 。シグナルペプチドは、その機能があまり改変されていないという条件で、天然の配列に関して1又は複数の改変を含みうる。本発明で用いる好ましいシグナルペプチドは、ヒトのトランスゴルジ網糖タンパク質TGN51(Kain et al., 1997, J. Biol. Chem. 273, 981-988) 由来である。これは、好ましくはリガンド部分のN末端において遺伝子連結により導入される。好ましくは、リガンド部分はウイルスポリペプチドに遺伝子連結している。
【0054】
上記の特異的感性性を示す中空のポックスウイルス粒子 (偽ポックスウイルス粒子ともいう) を得ることは可能だが、好ましい態様によれば本発明のポックスウイルス粒子は、少なくとも1つの関心ある核酸、詳しくは真核標的細胞においてその発現を可能にするエレメントの制御下に位置する少なくとも1つの治療用遺伝子を含む組換え核酸を含む。しかしながら、本発明の中空のポックスウイルス粒子、すなわち偽ポックスウイルス粒子は、US5,928,944 及びWO9521259 に開示されているような、標的化細胞の取り込みを容易にするための、関心ある核酸との複合体を形成させるのに用いてもよい。
【0055】
本発明において「核酸」という用語は、任意のありうる核酸、特に、DNA 、RNA もしくは雑種形態、一本鎖もしくは二本鎖、直鎖もしくは環状、天然もしくは合成、改変されたもしくはされていない (改変例についてはUS5525711 、US4711955 又はEP-A302 175 参照) ものを意味する。それはとりわけ、ゲノムDNA 、ゲノムRNA 、cDNA、mRNA、アンチセンスRNA 、リボソームRNA 、リボザイム、転移RNA もしくはこのRNA をコードするDNA であってもよい。核酸は、細胞に供給すると、ポリペプチド、リボザイム、アンチセンスRNA 又は関心ある他の分子を産生しうる少なくとも1つの発現可能な配列を含む、プラスミド又は直鎖核酸の形態であってもよい。核酸はまた、細胞へ、例えばアンチセンスもしくはリボザイム機能のために供給されるべきオリゴヌクレオチド (すなわち、100bp 以下の短いサイズの核酸) であってもよい。好ましくは、核酸はポックスウイルスゲノムDNA の形態である。
【0056】
核酸が、遺伝子発現に適した環境に置かれた場合に適切な遺伝情報を含むならば、その転写単位はコードされた遺伝子産物を発現するだろう。発現のレベル及び細胞特異性は、関連プロモーターの強さと起源、及び関連エンハンサーエレメントの存在及び活性化にかなりの程度依存するであろう。従って好ましい態様においては、転写制御エレメントは、CMV プロモーター/エンハンサーなどのプロモーター/エンハンサー配列を含む。しかしながら、当業者であれば、任意のウイルス、原核細胞 (例、細菌の) もしくは真核細胞から得られてもよく、構成性でも制御可能なものでもよく、また真核細胞、特に標的細胞において発現に適した多様なその他のプロモーター及び/又はエンハンサー配列が知られていることが分かる。より正確には、標的細胞による発現に必要なこれらの遺伝情報は、該DNA をmRNAに転移するのに、そして必要であればmRNAをポリペプチドに翻訳するのに必要なエレメントを含む。各種の脊椎系における使用に適した転写プロモーターは、文献に広く記載されている。例えば、適当なプロモーターには、RSV 、MPSV、SV40、CMV 又は7.5kのようなウイルスプロモーター、ワクシニアプロモーター、誘導性プロモーター等がある。好ましいプロモーターはポックスウイルスから分離されたもので、例えばワクシニアウイルスの7.5k、H5R 、TK、p21 、p11又はK1L がある。あるいは、Chakrabarti 等(1997, Biotechniques 23, 1094-1097) 、Hammound等(1997, J. Virological Methods 66, 135-138)及びKuman とBoyle(1990, Virology 179, 151-158)に記載されたような合成プロモーター、また、初期及び後期ポックスウイルスプロモーターの間のキメラプロモーターを用いてもよい。
【0057】
核酸はさらに、追加の機能性要素を含んでいてもよく、例えばイントロン配列、標的化配列、輸送配列、分泌シグナル、核局在化シグナル、IRES、polyA転写終結配列、三部分(tripartite)リーダー配列、複製又は組み込みに関与する配列がある。この配列は文献に報告されており、当業者により容易に得ることができる。
【0058】
好ましい態様において、関心ある核酸は、治療用分子である遺伝子産物をコードする関心ある少なくとも1つの配列 (すなわち、治療用遺伝子) を含む。「治療用分子」は、患者、殊にある疾病や病状にかかっている、又はこの疾病もしくは病状に対して防御されるべき患者に適切に投与された場合に薬理的もしくは防御的活性を有するものである。このような薬理的もしくは防御的活性は、この疾病もしくは病状の過程又は微候に対する有益な効果に関連すると期待されるものである。本発明の過程で当業者が、治療用分子をコードする遺伝子を選択した場合、当業者は一般にその選択を以前に得られた結果に関連づけ、請求された本発明を実施する以外の過度の実験なしに該薬理特性を得ることを合理的に期待しうる。本発明によれば、関心ある配列は、それが導入される標的細胞と同種又は異種でありうる。有利には、この関心ある配列はポリペプチド、殊に治療もしくは予防特性を与える治療用又は予防用ポリペプチドの全部又は一部をコードする。ポリペプチドは、大きさに、またグリコシル化されているかどうかにかかわらない、ポリヌクレオチドの任意の翻訳産物であり、ペプチドとタンパク質を含む。治療用ポリペプチドには、主な例として、動物又はヒト生体において欠陥もしくは欠損タンパク質を補償しうるポリペプチド、又は生体から有害な細胞を制限又は除去するために毒性の作用を通して作用するものがある。それらはまた、体液性又は細胞性応答、又は両方を引き起こす内在性抗原として作用する免疫付与ポリペプチドであってもよい。
【0059】
治療用遺伝子によりコードされるポリペプチドの例には、サイトカイン (インターフェロンα、βもしくはγ、インタロイキン、特にIL−2、IL−6、IL−10もしくはIL−12、腫瘍壊死因子 (TNF)、コロニー刺激因子(GM-CSF 、C-CSF 、M-CSF 等) 、免疫刺激ポリペプチド (B7.1、B7.2等) 、凝固因子 (FVIII 、FIX 等) 、増殖因子 (トランスフォーミング増殖因子TGF 、繊維芽増殖因子FGF 等) 、酵素 (ウレアーゼ、レニン、トロンビン、メタロプロテイナーゼ、酸化チッ素シンターゼNOS 、SOD 、カタラーゼ等) 酵素阻害剤 (α1−アンチトリプシン、アンチトロンビンIII 、ウイルスプロテアーゼ阻害剤、プラスミノーゲンアクチベーター阻害剤PAI-1)、CFTR (嚢胞性繊維症膜貫通調節タンパク質) タンパク質、インスリン、ジストロフィン、MHC 抗原クラスIもしくはII、細胞遺伝子の発現を変化/調節しうるポリペプチド、細菌、寄生虫もしくはウイルス感染又はその増殖を阻害しうるポリペプチド (抗原性ポリペプチド、抗原性エピトープ、競合により天然のタンパク質の作用を阻害するトランスドミナント(transdominant) 変異物、アポトーシス誘導剤もしくは阻害剤 (Bax 、Bc12、Bc1X等) 、細胞分裂抑制剤(p21、p16 、Rb等) 、アポリポタンパク質 (ApoAI 、ApoAIV、ApoE等) 、血管生成の阻害剤 (アンギオスタチン、エンドスタチン等) 、血管生成ポリペプチド (血管内皮増殖因子VEGFのファミリー、FGF ファミリー、CTGFを含むCCN ファミリー、Cyr61 及びNov)、酸素ラジカル除去剤、抗腫瘍効果をもつポリペプチド、抗体、毒素、イムノトキシン及びマーカー (β又はガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ等) 又は当分野で臨床症状の治療もしくは予防に有用であると認められている関心ある任意の他の遺伝子がある。
【0060】
遺伝子機能不全の治療を考慮すると、欠陥遺伝子の機能的対立遺伝子、例えば血友病AもしくはBに関して因子VIIIもしくはIXをコードする遺伝子、筋疾患に関してジストロフィン (もしくはミニジストロフィン) 、糖尿病に関してインスリン、嚢疱性繊維病に関してCFTRを使用してもよい。
【0061】
適当な抗腫瘍遺伝子には、腫瘍抑制遺伝子 (例、Rb、p53 、DCC 、NF-1、ウィルムス腫瘍、NM23、BRUSH-1 、p16、p21、p56、p73、またそれらの各変異体) をコードするもの、自殺遺伝子産物、抗体、細胞分裂もしくは形質導入シグナルを阻害するポリペプチドをコードする遺伝子があるが、これらに限定されない。
【0062】
好ましい態様において、治療用遺伝子は、不活性物質 (プロドラッグ) を細胞障害性物質へ変化させ、それにより細胞死を生じさせうる発現産物をコードする自殺遺伝子である。TK HSV-1をコードする遺伝子は、自殺遺伝子ファミリーの始原型を構成する(Caruso et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 7024-7028) 。TKポリペプチドは非毒性である一方、アシクロビルやガンシクロビルなどのヌクレオシド類似体 (プロドラッグ) の変換を触媒する。変換されたヌクレオチドは伸長の過程にあるDNA 鎖に取り込まれ、この伸長を妨害し、従って細胞分裂を阻害する。多数の自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせが現在利用できる。より具体的に言及できるのは、ラットシトクロームp450 及びシクロホスホファミド(Wei et al., 1994, Human Gene Ther. 5, 969-978) 、Escherichia coli (E.coli) プリンヌクレオシドホスホリラーゼ及び6−メチルプリンデオキシリボヌクレオシド(Sorscher et al., 1994, Gene Therapy 1, 223-238)、E.coliグアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ及び6−チオキサンチン(Mzoz et al., 1993, Human Gene Ther. 4, 589-595)である。しかしながら、より好ましい態様では、本発明のポックスウイルス粒子は、プロドラッグの5-フルオロシトシン (5-FC) と共に使用できる、シトシンデアミナーゼ (CDase)もしくはウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ (UPRTase)活性又はCDase をUPRTTase の両方の活性を有するポリペプチドをコードする自殺遺伝子を含む。自殺遺伝子、例えばCDase とUPRTase 活性を有するポリペプチドをコードするもの、の組み合わせを用いることも本発明に関して考えられる。
【0063】
CDase とUPRTase 活性は原核生物及び下等真核生物で証明されているが、哺乳動物には存在しない。CDase は、通常は、外生シトシンが加水分解性脱アミノによりウラシルに変換されるピリミジン代謝経路に関与し、一方UPRTase はUMP 中でウラシルを変換する。しかしながら、CDase はまたシトシン類似体、5−FCを脱アミノして、5−フルオロウラシル (5−FU) を生成させ、これはUPRTase 作用により5−フルオロ−UMP(5−FUMP) に変換されると細胞障害性が高い。
【0064】
適当なCDase コーディング遺伝子には、Saccharomyces cerevisiaeFCY1 遺伝子(Erbs et al., 1997, Curr. Genet. 31, 1-6; WO93/01281) 及びE.coli codA遺伝子(EP 402 108)があるが、これらに限定されない。適当なUPRTase コード遺伝子には、E.coli由来 (upp 遺伝子; Anderson et al., 1992, Eur. J. Biochem. 204, 51-56) 、Lactococcus lactis由来(Martinussen and Hammer, 1994, J. Bacteriol. 176, 6457-6463)、Mycobacterium bovis 由来(Kim et al., 1997, Biochem Mol. Biol. Int 41, 1117-1124)、Bacillus subtilis 由来(Martinussen et al., 1995, J. Bacteriol. 177, 271-274)、及びSaccharomyces cerevisiae由来 (FUR-1 遺伝子;Kern et al., 1990, Gene 88, 149-157) があるが、これらに限定されない。好ましくはCDase コーディング遺伝子はFCY1遺伝子由来であり、UPRTase コーディング遺伝子はFUR-1 遺伝子由来である。
【0065】
本発明はまた、その遺伝子産物の細胞障害活性が保存されるならば、1又は複数のヌクレオチドの付加、欠失及び/又は置換により改変された変異自殺遺伝子の使用も含む。いくつかのCDase 及びUPRTase 変異体、例えばCDase とUPRTase の両方の活性を有する2ドメイン酵素をコードする融合タンパク質 (WO96/16183) 、及び最初の35残基が欠失したFUR-1 遺伝子によりコードされるUPRTase の変異体 (WO99/54481に開示の変異TFCU-1) などが文献に報告されている。
【0066】
上述のように、治療用遺伝子にはまた、ガン遺伝子や原ガン遺伝子 (c-myc, c-fos, c-jun, c-myb, c-ras, Kc 及びJE) などの、選択された正に作用する増殖調節遺伝子のRNA に結合して破壊しうるアンチセンス配列及びリボザイムコーディング遺伝子が含まれる。
【0067】
本発明のポックスウイルス粒子中に取り込まれる核酸は1又は2以上の治療用遺伝子を含んでいてもよい。これに関して、自殺遺伝子産物をコードする遺伝子及びサイトカイン遺伝子 (例、インタフェロンα、∃もしくはγ、インターロイキン、好ましくはIL−2、IL−4、IL−6、IL−10もしくはIL−12の中から選択したもの、TNF 因子、GM-CSF、C-CSF 、M-CSF 等) 、免疫刺激遺伝子 (例、B7.1 、B7.2 、ICAM) 又はchimiokine遺伝子 (例、MIP 、RANTES、MCP1等) の組み合わせが有利である。異なる遺伝子発現はユニークプロモーター (ポリシストロン性カセット) により、または独立のプロモーターにより制御されてもよい。さらに、それらは核酸と共に、同じもしくは反応の方向に、単一の部位もしくは各種部位に挿入されてもよい。
【0068】
別の態様では、本発明はさらに、(i) 上述の少なくとも1つの異種リガンド部分、および(ii)上述のポックスウイルス粒子表面に天然に局在する同種ウイルスポリペプチドの全部もしくは一部を含有するキメラタンパク質をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むベクターに関する。当然、ヌクレオチド配列は、その発現に必要なエレメントの制御下に置かれる。本発明のベクターの選択は広範囲にわたり、当業者には容易に入手できる。ベクターはプラスミドでも、任意の動物ウイルス、殊に、アデノウイルス、レトロウイルス、AAV(アデノ随伴ウイルス) もしくはポックスウイルス由来のウイルスベクターでもよい。好ましい態様によれば、本発明のベクターはポックスウイルスベクター (すなわち、ポックスウイルスゲノム DNA、殊にVVまたはMVA ゲノム DNA) である。ここで用いる「一部」なる用語は、ウイルスベクターの表面にリガンド部分の提示を可能にするウイルスポリペプチドの断片を意味する。さらに、本発明のベクターはまた、関心ある少なくとも1つののヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0069】
関心ある配列および発現に必要な関連要素をウイルスゲノムに挿入するための基本的技術は当業者が利用できる多数の文献に記載されている (Piccini et al., 1987, Methods of Enzymology 153, 545-563; US 4,769,330; US 4,772,848; US 4,603,112; US 5,100,587 およびUS 5,179,993) 。この技術は、ウイルスゲノム中の重複配列 (すなわち所望の挿入部位) と関心ある配列を含むプラスミドとの間の相同的組換えに関する。
【0070】
ポックスウイルスゲノム内の挿入部位は、組換えポックスウイルスが生きて感染性であり続けるように、好ましくは非必須遺伝子座である。適当な非必須領域は、非コーディング遺伝子間領域、またはその不活性化もしくは欠失がウイルスの増殖、複製もしくは感染にあまり害を及ぼさない任意の遺伝子などであるが、これらに限定されない。例えば、ポックスウイルスゲノム中の欠失配列に対応する相補的配列を有するヘルパー細胞系を用いることにより、ウイルス粒子の産生の間に欠損機能がトランスに (in trans) 供給される条件で、必須のウイルスの遺伝子座に挿入することも考えられる。
【0071】
例えば、コペンハーゲンワクシニアウイルスを用いる場合、好ましくはチミジンキナーゼ遺伝子(tk)内に位置する挿入部位を選べばよい(Hruby et al., 1983, Proc. Natl.Acad. Sci USA 80, 3411-3415; Weir et al., 1983, J. Virol. 46, 530-537)。しかしながら、その他の挿入部位も適しており、例えば、赤血球凝集素遺伝子内のもの(Guo et al., 1989, J. Virol 63, 4189-4198)、K1L 遺伝子座内のもの、u 遺伝子内のもの(Zhou et al., 1990, J. Gen. Virol. 71, 2185-2190) または多様な自然のもしくは操作された欠失が文献に報告されているワクシニアウイルスゲノムの左端(Altenburger et al., 1989, Archives Virol. 105, 15-27; Moss et al., 1981, J. Virol. 40, 387-395; Panicali et al., 1981, J. Virol. 37, 1000-1010; Perkus et al., 1989, J. Virol. 63, 3829-3836; Perkus et al., 1990, Virol. 179, 276-286; Perkus et al., 1991, Virol. 180, 406-410)のものがある。
【0072】
MVA を用いる場合、同定された欠失I〜VII のいずれか内に、好ましくは欠失IIまたはIII に位置する挿入部位(Meyer et al., 1991, J. Gen. Virol. 72, 1031-1038; Sutter et al., 1994, Vaccine 12, 1032-1040)、およびD4R 遺伝子座内のものを選択するのが好ましい。
【0073】
鶏痘ウイルスを用いる場合、チミジンキーゼ遺伝子内の挿入が考えられるが、関心ある配列は好ましくは非コーティング遺伝子間領域、例えば鶏痘ウイルスゲノムの1.3kb Hind III断片のORF 7 と9の間に位置する遺伝子間領域に導入される (EP 314 569およびUS 5,180,675参照) 。
【0074】
本発明はさらに、下記工程を含む本発明のポックスウイルス粒子を作製する方法を提供する:
a)該ポックスウイルス粒子の種 (seed、接種物) を得る、
b)許容細胞の培養物を調製する、
c)該細胞培養物に該ポックスウイルス粒子の種を感染させる、
d)この感染細胞を適当な時間培養する、
e)細胞培養物および/または培養上清から、産生されたポックスウイルス粒子を回収する、そして
f)任意に、回収したポックスウイルス粒子を精製する。
【0075】
特別な態様では、a)とc)の工程を結合することができる。この場合、本発明の方法は下記工程を含む:
a)許容細胞の培養物を調製する、
b)該細胞培養物に、野生型ポックスウイルス粒子を感染させ、該細胞に該ポックスウイルスの DNAゲノムと相同的組換えが可能な重複配列を両端に有する関心ある配列を含むプラスミドをトランスフェクトする、
c)この感染細胞を適当な時間培養する、
d)細胞培養物および/または培養上清から、産生されたポックスウイルス粒子を回収する、そして
f)任意に、回収したポックスウイルス粒子を精製する。
【0076】
好ましい態様において、「許容細胞」とは、受精卵から得た鶏胚より調製した初代鶏胚繊維芽細胞(CEF) である。粒子のポックスウイルスゲノムが1または2以上のウイルス機能が欠損している (例、EEV 粒子の産生に関与する少なくとも1つのの遺伝子において欠損) 特定の態様によれば、トランスに欠損機能を付与するヘルパー細胞を用いるのが有利であるかもしれい。特に、F13L遺伝子によりコードされる機能が欠損したポックスウイルスをF13L発現産物を発現する細胞系において培養するのが好ましい。このよう細胞系はBorrego 等 (1999, J. Gen. Virol. 80, 425-432) に記載のようにF13Lポリペプチドを発現する適宜ベクターのトランスフェクションにより作製することができる。有利な態様では、本発明のポックスウイルス粒子の分離および増殖は、本発明のリガンド部分により認識される抗リガンド分子を表面に提示する標的細胞系上で行うことができる。これにより、野生型ゲノムの起こりうる混入を最小にすることができる。例えば、MUC-1 ポリペプチドに特異的なリガンド部分を有するポックスウイルス粒子は好ましくはMUC-1 発現標的細胞上で増殖させる。表面に抗リガンド分子を発現するかかる細胞系の構築は当業者のなしうる範囲内である。
【0077】
「ポックスウイルス粒子の種」は、通常の技術により、ポックスウイルスゲノムと関心ある配列を取り込んでいるプラスミドとの間の相同的組換えの最後に得られる。これに関し、例えば、本明細書の実験の項を参照できる。
【0078】
プラスミドによる細胞の追加のトランスフェクションが必要な場合、各種の広く使用されている細胞トランスフェクション法 (例、DNA カルシウム沈降、エレクトロトランスフェクション、…) を任意にプラスミド取り込みを容易にするグリセロールと組み合わせて用いることができる。さらに、組換えウイルスが選択遺伝子 (例、E.coli gtp遺伝子) を含んでいる場合、選択工程を含むことができ、例えば工程Cにおいてミコフェノール酸、キサンチンおよびヒポキサンチンの混合物を含む選択的培地を用いることにより行える。
【0079】
ウイルス粒子は培養上清から回収できるが、それらはまた細胞からも回収できる。慣用的に使用される方法の1つは、任意の手段 (化学的、凍結/解凍、浸透圧衝撃、機械的衝撃、音波処理等) により細胞を溶解することからなる。本発明のポックスウイルス粒子は、プラーク精製の連続操作により分離し、次いで従来の技術 (クロマトグラフィー法、塩化セシウムまたはショ糖勾配上での超遠心) を用いて精製することができる。あるいは、ウイルス表面に提示されたリガンド部分とその抗リガンドとの親和性を本発明のポックスウイルス粒子の精製に用いてもよい。例えば、精製は、a)固体支持体上に関連抗リガンドを固定化し、b)ウイルス調製物を、抗リガンドとリガンド部分の間の特異的結合を可能にするのに十分な時間、固定化抗リガンドと接触させ、c)結合していない材料を捨て、d)結合した材料を溶離させ、そしてe)溶離した材料を回収することにより行ってもよい。このような精製は、本発明のポックスウイルス粒子に野生型もしくはヘルパーポックスウイルスが最終的に混入することを減少させるのに有利である。
【0080】
本発明の方法は、IMV およびEEV 両方のポックスウイルス粒子を産生するのに使用できる。本発明の好ましい態様によれば、本方法は、EEV の追加のエンベロープを破壊し、IMV の選択産生を可能にする追加工程を含む。好ましくは、この追加の工程は音波処理工程または穏やかな洗浄剤 (例、Brij-58)における可溶化工程からなる。
【0081】
本発明はまた、少なくとも1種のポックスウイルス粒子および/または少なくとも1種の本発明のベクターを含む組成物に関する。特別な場合には、この組成物は、2またはそれ以上のポックスウイルス粒子、および/または2またはそれ以上の本発明ベクターを含み、ここで、それらは(i) 異種リガンド部分の性質および/または(ii)関心ある配列の核酸の性質および/または(iii) ポックスウイルスの起源および/または(iv)粒子の型 (IMV/EEV)により互いに異なる。この組成物は、例えば、固体、液体、粉末、水性、凍結乾燥形態の各種形態でありうる。好ましい態様では、この組成物はさらに薬剤的に許容しうる担体を含み、ヒトまたは動物の治療的処置のための方法に使用することを可能にする。この特定の場合では、担体は好ましくは薬剤的に適した注射可能な担体または希釈剤である (例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第16版, 1980, Mack Publishing Co参照) 。このような担体または希釈剤は薬剤的に許容しうる、すなわち、使用する用量および濃度において受容者に非毒性である。これは好ましくは、等張、低張または少し高張であり、例えばショ糖溶液により供給される比較的低いイオン強度を有する。さらに組成物は、任意の関連溶媒、滅菌、発熱物質を含まない水を含む水性もしくは部分的に水性の液体担体、分散媒、被覆物および同等物または希釈剤 (例、Tris-HCl、酢酸塩、リン酸塩) 、乳化剤、可溶化剤もしくはアジュバントを含んでいてもよい。薬剤調製物のpHは、in vivo での適用に有用となるように適宜調整して緩衝剤で処理する。組成物は、液体溶液として、または投与前に溶液中に懸濁されうる固体の形態 (例、凍結乾燥) として調製してもよい。注射可能な組成物のための担体または希釈剤の代表的例には、水、好ましくは生理的pHに緩衝液で処理された等張生理食塩水 (例えばリン酸塩緩衝化生理食塩水またはトリス緩衝化生理食塩水) 、マンニトール、デキストロース、グリセロールおよびエタノール、またヒト血清アルブミンなどのポリペプチドまたはタンパク質がある。例えば、このような組成物は、10mg/ml マンニトール、1mg/ml HSA 、20mM Tris pH7.2 および150mM NaClを含んでいてもよい。
【0082】
本発明の組成物は、局所、全身、経口、直腸、または局部投与用に常法によって製造することができる。適した投与経路には、胃内、皮下、エアロゾル、点滴、吸入、心臓内、筋肉内、静脈内、動脈内、腹膜内、腫瘍内、鼻腔内、肺内または気管内経路があるが、これらに限定されない。投与は一回であるいは一定時間の間隔をあけて1または数回繰り返す量で行ってもよい。適当な投与経路および用量は、各種パラメーターにより、例えば、関連する症状や疾病、予防もしくは治療の必要度、進行の段階および導入する治療用遺伝子によって異なる。指標としては、ポックスウイルス粒子は104 〜1014 pfu (プラーク形成単位) 、有利には105 〜1013 pfu、そして好ましくは106 〜1012 pfuの量で剤に配合してもよい。力価は慣用の技術により決定される。ベクターの量は好ましくは、0.01〜10mg/kg 、特に0.1 〜2mg/kg 含まれる。
【0083】
さらに、本発明の組成物は、脂質 (例、陽イオン性脂質、リポソーム、WO98/44143に記載の脂質) 、ヌクレアーゼ阻害剤、ポリマー、キレート剤などの1または2以上の安定化物質を、動物/ヒト体内での分解から保護するために含有してもよい。
【0084】
別の態様では、本発明は遺伝子治療によるヒトまたは動物生体の治療のための薬剤の調製のための、本発明のポックスウイルス粒子またはベクターの使用を提供する。本発明の範囲において、「遺伝子治療」とは、任意の治療用の遺伝子を細胞に導入する方法であると理解すべきである。従って、これは、細胞性もしくは体液性または両者でありうる免疫応答を誘導するために、潜在的抗原性エピトープを細胞に導入することに関する免疫治療も含む。
【0085】
本発明の使用は、ポックスウイルス粒子の表面に提示されるか、本発明のベクターにより発現するリガンド部分の標的化特性に依存する。従って、病原因子 (細菌、ウイルスまたは寄生虫) に感染した細胞の表面に存在する分子を認識して結合しうるリガンド部分は、このような感染により生じる任意の病状や疾病の治療または予防に適している。腫瘍標的化リガンド部分は、ガンの治療または予防により意図される。「ガン」の用語は、拡散もしくは局在化腫瘍、転移、ガン性ポリープおよびプレ新生物病変 (例、形成異常) を含む任意のガン性病状、ならびに望ましくない細胞増殖から生じる病気を含む。より詳しくは、胸部、子宮頸部 (特にパピローマウイルスにより引き起こされるもの) 、前立腺、肺、膀胱、肝臓、結腸直腸、膵臓、胃、食道、喉頭、中枢神経系、血液 (リンパ腫、白血病等) 、黒色腫、肥満細胞腫等を挙げることができる。
【0086】
本発明はさらに、治療に有効な量の本発明のポックスウイルス粒子、ベクターまたは組成物をヒトまたは動物生体に投与することを含む、ヒトまたは動物生体の治療方法を提供する。「治療に有効な量」とは、治療することが望まれる疾病や病状に通常関連した1または2以上の症状の軽減に十分な量である。予防的使用に関する場合、この用語は疾病や病状の発症を予防または遅延させるのに十分な量を意味する。
【0087】
本発明の方法は、上に挙げた疾病や病状に関する予防目的および治療用途に用いることができる。本発明方法は、ここに記載したと同様の方法を用いて、任意の型の腫瘍の発症を防止するか、または既存の腫瘍を逆転させるのに特に有用である。本発明方法が多様な任意の方法により実施できることは当然である。有利には、本発明のポックスウイルス粒子、ベクターまたは組成物は任意の慣用の生理学的に許容しうる投与経路により、例えば静脈内注射により接近可能な腫瘍へ、噴霧や点滴の手段により肺へ、適宜カテーテルを用いて血管系へ、等によりin vivo で直接投与することができる。ex vivo の方法を採用してもよく、これは患者から細胞 (骨髄細胞、末梢血リンパ球、筋芽細胞等) を採取し、従来の技術により本発明のポックスウイルス粒子またはベクターを導入し、そしてこれを患者に再投与することからなる。
【0088】
本発明によるin vivo 治療の場合では、トランスフェクション率を改善するために、上記薬剤調製物の投与の前に患者はマクロファージ低減処置をうけてもよい。このような手法は文献に記載されている (特にVan Rooijen et al., 1997, TibTech, 15, 178-184参照) 。
【0089】
好ましい態様によれば、本発明の方法が、本発明の特徴を示し、かつ自殺遺伝子を発現する組換えポックスウイルス粒子を用いる場合、発現した自殺遺伝子産物に特異的なプロドラッグを薬剤的に許容しうる量でさらに投与するのが有利でありうる。2回の投与は同時にまたは連続して行うことができるが、好ましくは本発明のポックスウイルス粒子の後にプロドラッグを投与する。例えば、50〜500 mg/kg/日の量でプロドラッグを使用することが可能であるが、200 mg/kg/日の量が好ましい。プロドラッグは標準的実施法に従って投与される。経口投与が好ましい。プロドラッグは1回で、または宿主生物または標的細胞内で毒性代謝物が産生されうるように十分長い期間で複数回を反復投与することが可能である。上述のように、プロドラッグのガンシクロビルまたはアシクロビルを、TK HSV-1遺伝子産物と組み合わせて、そして5-FCをFCY1、FUR1および/またはFCU1遺伝子産物と組み合わせて用いることができる。
【0090】
腫瘍の治療のために意図される方法を説明すると、まず、自殺遺伝子を発現し、その表面に腫瘍細胞により発現される腫瘍抗原を認識し、結合しうるリガンド部分を提示すポックスウイルス粒子を投与してもよい。一旦感染すると、ガン性細胞は自殺遺伝子を発現するであろう。選ばれた自殺遺伝子産物により代謝されるプロドラッグを投与することにより、感染細胞を殺すことができる。MUC-1 陽性胸部ガン (乳ガン) の予防または逆転が望ましい個体においては、FCU-1 を発現し、その表面にMUC-1 腫瘍抗原を認識し結合しうるSM3 scFvリガンドを有するポックスウイルス粒子を用いることができる。プロドラッグ5-FCをさらに投与してMUC-1 陽性感染細胞を殺してもよい。
【0091】
さらに本発明の方法の1つの特徴は、本発明のポックスウイルス粒子が治療される生体においてin vivo で産生されうることである。これに関して、リガンド部分をその表面に提示しないが、EEV ポックスウイルス粒子の表面に局在するポリペプチドをコードする配列 (例、B5R 遺伝子) 中に上記リガンド部分をコードする核酸を挿入して遺伝子操作されたポックスウイルスゲノムを含む、IMV ポックスウイルス粒子を患者に投与することが考えられるかもしれない。従って、この特別の態様では、組換えポックスウイルスゲノムはin vivo において (すなわち、患者への投与後に) 本発明に従ってEEV 粒子を産生することができ、一方、投与されたIMV 形態は依然として野生型ポックスウイルスの性質を示す。投与されたこのIMV 粒子は非特異的に患者細胞 (非標的化細胞) に感染するので、ウイルスゲノムは宿主の感染した細胞中で複製し、標的細胞のみに感染しうるEEV 粒子を放出するであろう。
【0092】
本方法を単独で用い、あるいは所望により現在利用しうる方法 (例、放射線照射、化学療法および外科手術) と組み合わせて、疾病もしくは病状の予防もしくは治療を行うことができる。
【0093】
本発明のポックスウイルス粒子の感染特異性は実際に、その表面に局在するリガンド部分の結合特異性に関連している。従って、このポックスウイルス粒子は、このリガンド部分と抗リガンド分子間の特異的結合に基づく方法において使用することができる。このように、本発明はまた、試料中に存在する任意の抗リガンド分子、または拡張して、抗リガンド分子を含む任意の化合物を、検出及び/又は分離及び/又は濃縮及び/又は精製及び/又は解析する方法に関し、この方法では、本発明のポックスウイルス粒子 (すなわち、その表面に該分子に特異的に結合しうる異種リガンド部分を提示している) が、もし試料中に存在する場合、該抗リガンド分子または該化合物と結合複合体を形成するのに使用される。
【0094】
本発明はまた、試料中の任意の抗リガンド分子、または拡張してこの抗リガンド分子を含む任意の化合物を、検出及び/又は濃縮及び/又は分離及び/又は精製及び/又は解析するための試薬に関し、この試薬は本発明のポックスウイルス粒子 (すなわち、その表面に該分子または化合物に特異的に結合しうる異種リガンド部分を提示している) を含む。
【0095】
本発明は特に、試料中の任意の抗リガンド分子、または拡張して、この抗リガンド分子を含む任意の化合物を、検出及び/又は濃縮及び/又は分離及び/又は精製及び/又は解析する方法に関し、これは以下の工程を含む:この試料を結合反応を可能にする条件下で本発明の試薬と接触させ、次いで形成された何らかの結合複合体を分離し、可能であれば検出し及び/又は定量する。
【0096】
さらに詳しくは、本発明は、下記工程を含む、試料中に存在する任意の抗リガンド分子または広く、この抗リガンド分子を含む任意の化合物を、本発明の試薬を用いて検出及び/又は濃縮及び/又は分離及び/又は精製及び/又は解析する方法に関する:
a)固体支持体に該試薬を固定化する、
b)該試料を、抗リガンド分子またはこの抗リガンド分子を含む化合物を該試薬の異種リガンド部分と特異的に結合させるのに十分な時間、該固定化試薬と、接触させる、
c)結合していない試料を捨てる、
d)工程b)で保持された抗リガンド分子または抗リガンド分子を含む化合物を溶離させる、そして、
e)工程d)において溶離した該抗リガンド分子または抗リガンド分子を含む化合物を解析する。
【0097】
ここで用いる「固体支持体」とは、マイクロ滴定スライド、ホイル、カラム、シート、コーン、ウェル、ビーズまたはその他の任意の適当なミクロもしくはマクロ粒子基体の形態のもの (ただし、これらに限定されない) であり、本発明のウイルス粒子を固定化しうる任意の材料を含む。これは、化学的に変性された合成材料であってもよく、さもなくば殊に多糖類、例えばセルロース材料 (例、紙) 、セルロース誘導体 (例、ニトロセルロース及び酢酸セルロース) 又はデキストラン(BIAcore、スウェーデン、ウプサラ);ポリマー類 (例、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリレート又は共重合体 (例、プロピレン- 塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、スチレンを主成分とする共重合体);天然繊維 (例、綿) 及び合成繊維 (例、ナイロン) であってもよい。
【0098】
好ましくは、「固体支持体」はポリスチレンポリマー、ブタジエン/スチレン共重合体、又はブタジエン/スチレン共重合体をポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル又はスチレン/メチルメタクリレート共重合体から選ばれた1又は2以上の重合体と混合したもの、ポリプロピレン、ポリカーボネート等である。
【0099】
試薬 (すなわち、本発明のウイルス粒子を含む) は固体支持体に直接又は間接に結合しうる。
直接法を用いると、2つのやり方が可能である。固体支持体上への試薬の吸着による、すなわち非共有結合 (主に水素、ファンデルワールス又はイオン型の) によるか、又は試薬と支持体との間の共有結合の形成による方法である。間接的には、基体へ「抗試薬」化合物を予め結合 (吸着又は共有結合により) しておくことが可能であり、該化合物は、試薬と相当作用しうる、例えばこの系を固体基体に固定化することができる。例を挙げると、抗リガンド分子との結合に関与する部分とは異なるポックスウイルス粒子の部分と免疫学的に反応性であることを条件として抗体; 例えば、ポックスウイルス粒子上にビタミンなどの分子をグラフトし、そして固体相上には対応する受容体 (例えばビオチン- ストレプトアビジン系) を固定化することによるリガンド−受容体系がある。間接法はまた、タンパク質もしくはこのタンパク質の断片またはポリペプチドのポックスウイルス粒子タンパク質の一端への遺伝的連結による予備的グラフト又は融合と、グラフト又は融合されたタンパク質又はポリペプチドの受動的吸着又は共有結合によるポックスウイルス粒子タンパク質の前記支持体への固定化も意味することは理解されよう。
【0100】
本発明方法に関連して、「抗リガンド分子又は広く、この抗リガンド分子を含む任意の化合物」なる用語は、試料又は前に定義した標的細胞中に含まれているかもしれない薬剤やポリペプチドなどの有機化学物質を広く意味し、より詳しくは腫瘍細胞である。例えば、in vitro又は合成法の結果作製されうる非天然分子を意味しうる。これは、細胞又は生物学的試料 (培養細胞、細胞、器官又は組織生検材料、体液等) に存在する天然の分子、例えば抗体、細胞受容体、ウイルス受容体及び腫瘍マーカーなどでありうる。所望により、試料をHPLCなどの方法を用いて加工することが可能であり、これは、ある決まった範囲の分子量、親水性等を有する分子中で濃縮された画分を提供できる。濃縮の条件は、その分子の化学構造及び技術により当業者により決めることができる。
【0101】
溶離工程は、結合したリガンド部分/抗リガンド分子を分離することが可能な任意の技術を用いて行うことができる。これらの技術は、文献に十分に記載されており、前記結合の物理化学的性質に基づく。例えば、pH又はイオン強度の条件を変化させることができる。さらに、リガンド及び分子の特異的結合と競合しうる溶離化合物を用いることも可能である。
【0102】
本発明の別の目的は、抗リガンド分子、又は広くは該抗リガンド分子を含む任意の化合物 (例、腫瘍細胞) を検出するためのキットであり、これは、試薬と適合性 (すなわち、リガンド部分と抗リガンド分子との結合を妨げない) である固体基体に結合した前記試薬を含む。
【0103】
最後に、本発明のポックスウイルス粒子は、以下の工程を用いて同定してもよい。まず、ポックスウイルス粒子ライブラリーを用意する。このポックスウイルス粒子ライブラリーは、ランダムポリペプチドリガンド部分をクローニングし、それらをポックスウイルス表面に正しい折り畳まれ方で発現するように設計される。ここで用いるように、「ライブラリー」の用語は、約10〜数10億までの、少数から多数の異なるリガンド部分を表面に提示するポックスウイルス粒子のコレクションを意味する。好ましくは、リガンド部分は抗体又はペプチドの単鎖断片である。ウイルス表面にリガンドの多様な集団を発現するポックスウイルス粒子ライブラリーが、ファージ展示ライブラリー(WO97/10507)又はワクシニア直接連結ベクター(Merchlinsky et al., 1997, Virol 238, 444-451)に記載したようにして製造できる。あるいは、発現ライブラリーからの核酸配列 (ゲノム断片、選択した器官及び組織由来のcDNA) 又はペプチドモチーフを発現しているランダムライブラリーを用いてもよい。このようなライブラリーは文献に記載され、市販されている(Invitrogene, USA 参照番号 K1125-01; Clontech Laboratories Inc参照番号 NL4000AA)。
【0104】
好ましくは、上記のように、ポリペプチドリガンド部分をコードする核酸配列を、ポックスウイルス粒子の表面に天然に局在するタンパク質をコードする適宜ポックスウイルス遺伝子にクローニングする。好ましい態様において、ポリペプチドリガンド部分を、IMV 又はEEV 表面ポリペプチドの1つとの融合タンパク質として発現させる。より好ましい態様では、ポリペプチドリガンド部分を、IMV 表面上に存在するp14 タンパク質か又は、EEV 表面上に存在するB5R 遺伝子産物のN末端に枠内で融合させる。
【0105】
次いで、前記ポックスウイルス粒子ライブラリーを、同定された抗リガンド分子、又は広く、この抗リガンド分子を含む同定された化合物 (例、MUC1を発現している腫瘍細胞) からなる固定化試薬と接触させておく。この接触は、ポックスウイルス粒子ライブラリーの表面に存在するリガンド部分と、固定化された試薬中に存在する同定抗リガンド分子との特異的結合を可能にするのに十分な時間行う。特異的結合は、適当なpHと容量オスモル濃度により向上させることができる。好ましくは、ポックスウイルス粒子ライブラリーを、約6〜約9.5 、より好ましくは約7〜約8.5 のpHを有する緩衝液中におく。さらに各種方法が、非特異的結合を防止するのに有用であり、例えば接触工程前に非特異的結合のブロックに有用な任意の物質 (例、血清アルブミン、デキストラン硫酸等) を用いて予備吸着工程を行うことによる方法がある。
【0106】
非結合粒子を除去し、結合粒子を溶離させる。試薬の固定及び溶離条件は上記のように行う。固定化試薬上に結合により保持されたライブラリーからのポックスウイルス粒子を次に解析する。より詳しくは、この解析は、分離されたポックスウイルス粒子のゲノム中に挿入された核酸をコードするリガンド部分の配列決定により行う。この方法の中で同定されたリガンド部分の結合特異性は、(i) 標的細胞及び非標的細胞を用い、そして、実験の項に開示された方法に従い、このリガンド部分を提示するポックスウイルス粒子の感染性を制御することにより、又は(ii)本発明の試薬を調製し、それを固体支持体に固定化し、そして、上記のように標的細胞及び非標的細胞を解析する方法を実施することにより、容易に確認できる。
【0107】
これらの及びその他の態様は、本発明の記載及び実施例に開示され、これらから明らかであり、またこれに含まれる。本発明により用いられる方法、用途及び化合物のいずれかに関する別の文献は、例えば電子機器を用いて公開のライブラリーから引き出してもよい。例えば、公共のデータベース「Medline 」を用いてもよく、これは、インターネットで利用でき、例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.html.で利用できる。さらに、http://www.ncbi.nlm.nih.gov, http://www.infobiogen.fr, http://www.fmi.ch/biology/research tools.html, http://www.tigr.org のようなデータベースやアドレスも当業者に知られており、また http://www.lycos.com.を用いても得られる。バイテクノロジーにおける特許情報の全体、及び過去の検索及び現在の事情を知るのに有用な関連の特許情報源の調査は、Berks, TIBTECH 12 (1994), 352-364 に示されている。
【0108】
本発明はまた、本発明のポックスウイルス粒子と野生型ポックスウイルス粒子の両方を含むウイルス調製物から本発明のポックスウイルス粒子を精製する方法にも関し、このウイルス調製物を、異種リガンド部分を結合しうる抗リガンド分子で被覆した固体支持体に結合する工程、このポックスウイルス粒子を回収する工程を含む。好ましくは、結合工程は、表面プラズモン共鳴により行い、より好ましくはBIAcore X TMバイオセンサーシステム(BIAcore AB 、スウェーデン、ウプサラ) を製造者の指示に従って用いて行う。好ましい態様では、アミン結合キット(BIAcore AB 、Uppsala 、スウェーデン) を用いたアミン結合により、ストレプトアビジンをSAセンサーチップの固体支持体に共有結合させる。次に、ビオチニル化抗リガンド分子を、ストレプトアビジンで被覆されたSAセンサーチップ上にフローセル(flow cell) 内で固定化する。フローセル1は参照として働く。本発明の流体相ポックスウイルス粒子の結合を1×104 〜1×1010 pfu/ml の範囲にわたり測定した。注入量は5〜100 μl であり、流速は2〜10μl/mlである。特異的標的化粒子の回収のために表面をNaOH(2〜50mM) で再生させる。好ましくは、固体支持体はデキストラン支持体である。好ましくは抗リガンド分子はMUC-1 由来ペプチドであり、特にMUC-1 の3縦列反復を提示する60マ−である。
【0109】
本発明の方法はさらに、許容細胞にこの回収ポックスウイルス粒子を感染させる工程を含む。この工程は標準技術により行う。好ましくは、感染工程はEDTA(0.1〜10mMであり、1mMが好ましい) の存在下で行う。
【0110】
上記で引用した特許、刊行物およびデータベースの開示は、各特許、刊行物またはエントリーが参照として援用されるように具体的にかつ個別に指示されている限り、すべて具体的に、その全体を参照として本明細書に援用する。
【0111】
以下の実施例は本発明を説明するためのものである。
【0112】
【実施例】
以下に記載の構築は、Maniatis等 (1989, Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY)に詳しく説明されている一般的遺伝子操作及び分子クローニング手法により、又は市販のキットを用いる場合には製造者の推奨に従い、行われる。PCR 増幅技術は当業者に知られている (例えば、PCR プロトコル−方法及び応用への指針、1990, Innis, Gelfand, Sninsky 及びWhite, Academic Press 発行、参照) 。
【0113】
組換えM13 バクテリオファージを寒天系最小培地又は液体の多いLBM 培地中でE. coli NM522 株 (Strategene) 上で増殖させる。アンピシリン耐性遺伝子を有する組換えプラスミドを、抗生物質を100 μg/ml添加した寒天又は液体培地で, E. coli C600 (Stratagene) 、BJ5183 (Hanahan, 1983, J. Mol. Biol. 166, 557-580)及びNM522 株中で複製させる。クローニングを相同的組換え(Bubek et al., 1993, Nucleic acid Res. 21, 3601-3602) によって行う場合はBJ5183株を用いるのが好ましい。
【0114】
組換えワクシニアウイルスの構築は、上で引用した文献及びMackett 等(1982, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79, 7415-7419)及びMackett 等 (1984, J. Virol. 49, 857-864)における当分野の慣用的手法により行われる。E. coli の選択遺伝子gpt(キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)(Falkner and Moss, 1988, J. Virol. 62, 1849-1854)を、組換えワクシニアウイルスの選択を容易にするために用いる。
【0115】
実施例1:MUC1 陽性細胞を標的化する MVA の構築
2つの異なる構築物を操作した:
MVATG14519は、SM3モノクローナル抗体のscFv鎖がMVA 138L ORF (p14-KDa)のN末端にその天然の形態で融合しているキメラp14 タンパク質を発現するMUC-1 陽性腫瘍細胞を標的化するように操作されたMVA ベクターである。
【0116】
MVATG14552 (図2) は、MUC-1 陽性腫瘍細胞を標的化するように操作されたMVA ベクターであり、SM3モノクローナル抗体のscFv鎖のN末端に融合したヒトトランスゴルジ網糖タンパク質TGN51(Kain et al., 1997, J. Biol. Chem 273, 981-988 により記載された配列) のシグナルペプチドの存在を除いて、MVATG14519に類似している。
【0117】
A. MVA138L 遺伝子改変
scFv配列の挿入のためのクローニングベクターはPCR に基づく方策を用いて組立てられている。MVA138L 遺伝子の3'末端及び3'フランキング領域を、プライマーOTG12340 (配列番号1) 及びOTG12343 (配列番号2) を用いて増幅し、断片Cを作成する。初期−後期プロモーターpH5R (Goevel et al., 1990, Virol 179, 247-266, 517-563) の制御下におかれたE. coli gpt をコードする選択マーカー発現カセットをpH5R-GPT (FR 98 13279) (以降pTG9996 と称する) などの従来のプラスミドDNA から、プライマーOTG12342 (配列番号3) 及びOTG12341 (配列番号4) を用いてPCR により分離し、断片Eを得る。断片CとEの融合を、両断片とプライマーOTG12340及び12342 (断片F) を混合することによりPCR によって行う。
【0118】
scFvを天然のp14-kDa と融合させ断片Aを生成させ、次いでこれをM13TG6131 のEcoRI とHindIII 部位間でクローニングし (WO99/03885の実施例7) 、M13TG14025を生じさせる場合は、MVA138L の上流領域を縦列プライマーOTG12338 (配列番号5) 及びOTG12359 (配列番号6) を用いて増幅する。scFvをそのN末端でトランスゴルジ網糖タンパク質TGN51 転座シグナルに融合させる場合は、増幅をプライマーOTG12338 (配列番号5) 及びOTG12346 (配列番号7) を用いて行う。得られた断片 (断片Asp)を、M13TG6131 のEcoRI とHindIII 部位間にクローニングし、M13TG14027を得る。両構築物はMVA138Lコーディング配列の上流にユニークHindIII 部位を有する。
【0119】
MVA138L とMVA138L の下流領域とを、プライマーOTG12380 (配列番号8) 及びOTG12339 (配列番号9) を用いて増幅する。得られた断片 (断片D) をM13TG6131 のEcoRI とHindIII 部位の間でクローニングし、M13TG14026を得る。断片A/D 又はAsp/D をHindIII とEcoRI での消化により分離し、ベクターpTG1E (WO99/03885 の実施例2) のEcoRI 部位に挿入して、pTG14359 (A/D 断片を含有) 及びpTG14359 (Asp/D 断片を含有) をそれぞれ生じる。次いで断片FをPacI部位で、pTG14359またはpTG14358のいずれかの中に挿入する。最終の構築物をpTG14366及びpTG14365と称する。
【0120】
B. SM3 scFvの分離
SM3 ハイブリドーマはBurschell 等 (1987, Cancer Res 47, 5476-5482) 、Girling 等 (1989, Int J Cancer 43, 1072-1076) 及びDokurno 等 (1998, J. Mol. Biol. 284, 713-728) により報告されている。MUC-1 腫瘍関連形態上で認識されるエピトープはP-D-T-R-P である。SM3 scFvは、SM3 抗体軽鎖 (GeneBank、受託番号AF042143) の可変領域が後に続く10残基のスペーサーに連結した、SM3 抗体重鎖 (GeneBank、受託番号AF042142) の可変領域を含む。各可変領域は、pMAL-SM3のような従来のプラスミドから、例えば、pTG14366のHindIII 部位内へのSM3-scFv配列の挿入には、縦列プライマーOTG12360 (配列番号10) 及びOTG12361 (配列番号11) を用いて、又は、pTG14365のHindIII 部位内へのSM3-scFv配列の挿入には縦列プライマーOTG12344 (配列番号12) 及びOTG12361 (配列番号11) を用いてPCR により分離することができる。得られる構築物はpTG14519及びpTG14552(図2) と称する。
【0121】
C. MVA 感染性粒子の分離
MVA のサブクローンはStickl等 (1974, Deutsch Med Wochenschr 99, 2386-2392;Mayr et al., 1978, Zentralbl Bakteriol 167, 375-390) の記載のように粗製材料からGMP 条件で分離されている。このサブクローンはMVATGN33.1と称される。この親MVA は通常通りCEF 上で増殖させ、力価決定する。
【0122】
CEF は、予じめ湿気のある雰囲気中37℃において11日間培養しておいた受精卵から得た鶏胚から調製する。鶏胚を小片に切断し、トリプシンの2.5 % (w/v)溶液で処理する。次いでCEF を、10%ウシ血清加イーグル系培地 (MBE)/トリプトース (Gibco BRL)中 1.5×106 細胞/シャーレの細胞密度でFalcon 3001 プラスチックシャーレに入れる。48時間後、単層細胞に、細胞上にウイルスを吸着させるために、PBS + 陽イオン (酢酸マグネシウム及びCaCl2 をそれぞれ1mg/ml)+1%ウシ血清中で30分間MVATGN33.1を感染させる。感染細胞を次いで、37℃5%CO2 でMBE +5%ウシ血清中で1時間培養する。次いで、1〜5gのプラスミド (pTG14519又はpTG14552) をヘペス及びCaCl2 の溶液中で析出させる。析出DNA を感染細胞単層上に置き、37℃、5%CO2 で2時間インキュベートする。プラスミド移行を容易にするために、グリセロール衝撃を1分間行うことができる。この目的には、グリセロールのMBE/トリプトース中の10%溶液を、1分間細胞単層上に置く。次に単層をPBS +陽イオンで洗浄し、37℃5%CO2 でMBE +5%ウシ血清中でインキュベートする。48時間後シャーレを凍結する。
【0123】
組換えプラークの分離を次のように行う。シャーレを解凍し、感染細胞を回収し、MBE/ウシ血清内で超音波処理する。次に組換えウイルスを、Falkner 及びMoss (1988, J. Virol. 62, 1849-1854)に既報のように、250 μg/mlキサンチン、15μg/mlヒポキサンチン及び25μg/mlミコフェノール酸の存在下で選択マーカーの圧力下でCEF 中でのプラーク精製の連続回により分離する。
【0124】
ストック (ウイルス種) を、MVA を感染させた108 CEF を含むF175フラスコ中で調製することができる。ウイルスを48〜72時間増殖させる。感染細胞及び培地をプールし、懸濁液を超音波処理する。粗抽出物をまず、36%ショ糖のクッション上で分画する。ウイルスペレットを次いで、Joklik (1962, Virology 18, 9-18)に記載のようにして不連続ショ糖勾配上で分画する。
【0125】
実施例2:FCU-1 を発現し、 MUC1 陽性細胞を標的化する組換え MVA の構築
DNA プラスミドpTG13046(WO99/54481 においてpCI-neo FCU1と称される) のHindIII/KpnI消化によりFCU-1 遺伝子を分離した。pTG6019 (WO99/03885 の実施例2) と称される欠失III のフランキング領域への相同配列を含む導入ベクターを次のようにして改変した。初期後期pH5Rワクシニアウイルスプロモーターの制御下におかれE. coli gpt をコードする発現カセットをSacI消化によりDNA プラスミドpTG9996 から分離した。このDNA 断片を次に、DNA プラスミドpTG6019 のSacI部位内に挿入して、pTG14033を生じる。合成初期後プロモーターp11K75 (配列番号13) を、プライマーOTG12271 (配列番号14) とOTG12272 (配列番号15) を用いて鋳型M13TG4052からPCR により分離する。M13TG4052 はM13TG130 (Kieny et al., 1983, Gene 26, 91-99) に基づいている。プロモーター11K7.5は、5'から3'方向に、転写開始部位のヌクレオチド+4までの後期プロモーター11K の配列 (Geobel et al., 1990,前出) を−18位にAの代わりにCを有するヌクレオチド−28〜−13からのTKプロモーター配列、及び初期7.5Kプロモーターのヌクレオチド−12〜+6間の領域を含有する。
【0126】
増幅断片を、pTG14033のBamHI 部位内に挿入する前にBamHI 及びBg1II 制限酵素で消化して、pTG14084を得る。FCU-1 遺伝子を、次のようにして相同的組換えによりp11K75プロモーター下流にクローニングする。まず、合成配列を、OTG12522 (配列番号16) 及びOTG12523 (配列番号17) を用いてpTG14084のPstI及びBamHI 部位間に挿入する。次にDNA プラスミドをXhoIで直鎖とし、FCU-1 遺伝子との相同的組換えをE. coli 中で行う。得られたDNA プラスミドをpTG14322と呼ぶ。
【0127】
MVATG14552に感染し、pTG14322でトランスフェクトしたCEF における相同的組換えにより、自殺遺伝子FCU-1 を発現するMUC1標的化MVA が得られる結果となる。
【0128】
実施例3:F13LE がノックアウトされた MVA の産生
5' F13L フランキング領域を、縦列プライマーOTG13192 (配列番号18) 及びOTG13194 (配列番号19) を用いて標準PCR 法によりMVATGN33ウイルスDNA より分離し、pBS (Stratagene) (pTG14746) のBamHI とEcoRI 部位間に挿入する。3' F13L フランキング領域を、縦列プライマーOTG13190 (配列番号20) 及びOTG13191 (配列番号21) を用いて標準PCR 法によりMVATGN33ウイルスDNA より分離し、M13TG6131 のBamHI とEcoRI 部位間に挿入し、M13TG14101を得る。次に、5'及び3' F13L フランキング領域をpTG1E のEcoRI 部位にクローニングする。得られる構築物をpTG14783と称する。
【0129】
実施例4:MUC-1 抗原を発現するプロデュサー細胞系の作製
上述のように、p14-kDa タンパク質にSM3 scFvリガンド部分を挿入すると、ウイルス産生に影響を与えるかもしれない (ウイルス収量が減少) 。従って、野生型MVATGN33.1の混入を減らすために、実施例1の標的化MVA は好ましくは、ウイルス表面に存在するSM3 抗体により認識されるMUC-1 抗原を細胞表面に提示する細胞系上で分離して増殖させる。
【0130】
膜固定形態のMUC-1 抗原をコードするcDNAを、Bg1II 及びEcoRI 制限酵素による2重消化によりpPOLYII-ETAtm (Hareuveni et al., 1990, Eur. J. Biochem 189, 475-486)より分離し、CMV プロモーター下流でpcDNA3発現ベクター (InVitrogen、米国) のBamHI 及びEcoRI 部位間に挿入する。得られるプラスミドをpTG5077 と称する。
【0131】
1×106 BHK-21 (ATCC CCL-10)細胞に、5μg のpTG5077 をトランスフェクトし、次いで20g/l のゲンタマイシン(Gentamycin)と10%ウシ胎児血清を含むGMEM (グラスゴー修飾イーグル培地、Gibco BRL)において培養する。5%CO2 雰囲気中37℃で24時間後に、1mg/ml のG418 (Gibco BRL)を添加する。次に、限定希釈によりネオマイシン耐性クローンを分離し、H23 モノクローナル抗体 (Tsarfaty et al., 1989, Breast cancer immunodiagnosis and Immunotherapy所載, Ceriani 編, Plenum NY)を用いて細胞表面におけるMUC-1 発現についてFACSにより試験する。興味深いことに、MUC-1 陽性クローンのほとんどは、親のBHK-21細胞系の可塑的接着能を失い、懸濁液中で増殖し始める。この知見は、本発明の組換えウイルスをバイオリアクター中での増殖と薬剤産生を容易にするだろう。
【0132】
実施例5:標的化性能の評価
実施例1のMVATG14552のクローンを、上記のようにキサンチン、ヒポキサンチン及びミコフェノール酸の存在下の選択的条件下でCEF におけるプラーク精製を連続反復して分離する。
【0133】
まず、一定数のクローンを、PCR により解析して、TG51/SM3scFv/p14KDa 融合タンパク質をコードするキメラ遺伝子のウイルスゲノム中の存在を検出する。9つのクローンを選択し、さらにウエスタンブロットにより解析し、ポックスウイルス粒子の表面の融合タンパク質の発現を確認する。感染細胞又は上清から得た粗抽出物中のp14-KDa 特異的ウサギポリクローナル血清で免疫ブロッティングすることによりECL キット(Amershan)を用いて検出を行う。精製p14-KDa タンパク質を対照として用いる。クローンC5を除いて、選択したクローンはすべて、46kDa の分子量を有するキメラ融合タンパク質を発現している。予想したように、標識の強さは、培養上清中よりも粗抽出物における方が強く、ポックスウイルス粒子の細胞内の状況を反映している。これらの結果は、TG51/SM3scFv/p14-KDa融合タンパク質をその表面に提示しているポックスウイルスのほとんどがIMV 粒子であることを示している。培養上清中の融合タンパク質の少量の検出は、EEV エンベロープの破壊かまたはクローン調製中の細胞溶解により説明できる。
【0134】
次に、MVATG14552の感染特性を異なる細胞系で検討した:
−ネズミ肥満細胞腫P815 (ATCC CRL6448) 、
−親P815細胞に膜固定形態のMUC-1 抗原を発現するベクターでトランスフェクションすることにより得られる、MUC-1 抗原を発現するP815 (P815-MUC1)、
−BHK 21 (仔ハムスター腎臓) 、
−親BHK 21細胞に, 膜固定系形態のMUC1抗原を発現するベクターでトランスフェクションすることにより得られる、MUC-1 抗原を発現するBHK 21 (BHK 21-MUC1)。
【0135】
細胞に、MVATG14552クローン9又は対照ウイルス (MVAN33) を約0.1 のMOI で24時間感染させる。感染効率は、希釈率1/100 でのMVA 免疫の後に得られるポリクローナルネズミ血清とインキュベート後にフローサイトメトリー (FACS) により測定する。モノクローナルFITCヤギ抗マウスIgG (Pharmingen 、10μg/ml) でインキュベートすることにより顕示を行う。図3Aに示すように、MVATG14552は、親細胞P815及びBHK-21に比べて、MUC-1 発現細胞の方に感染しやすい。これに対し、対照MVA はMUC-1 発現及び非発現細胞の両方に同じ程度の効率で感染する (図3B) 。
【0136】
総合すると、これらの結果は、リガンド部分SM3 scFvはポックスウイルス (IMV)粒子の表面において発現すること、及び、これはその標的 (MUC-1 抗原) を認識して、それに結合することができ、改変ウイルスによりこの細胞の特異的感染が生じることを示している。
【0137】
MUC-1 60マーペプチドと、2つのSM3 scFv発現クローン (A3及びA9) との間の相互作用を、BIAcore XTM バイオセンサーシステム (BIAcore AB, スウェーデン、ウプサラ) を用いて表面プラズモン共鳴 (SPR)により調べた。すべての実験は25℃で行った。ステプトアビジンを、アミン結合キット (BIAcore AB, スウェーデン、ウプサラ) を用いたアミン結合により、SAセンサーチップのカルボキシル化デキストランマトリックスに共有結合させた。次に、MUC-1 の3つの縦列反復を提示しているビオチニル化60マーペプチド(10 μg/ml、HBSS緩衝液中) をステプトアビジンで被覆されたSAセンサーチップ上のフローセル2内で固定化した。フローセル1は参照として用いた。流体相組換えSM3 の結合を陽性対照として用いた。流体相組換えウイルスの結合は、HBSS緩衝液中1×106 〜1×108 pfu/mlの範囲にわたって測定した。この目的のために、初代ニワトリ繊維芽細胞に、ウイルス懸濁液を1のMOI で24時間感染させた。注入量は15μl で、流速は5μl/分であった。表面を10mM NaOH で再生した。速度解析をBIAevaluation 3.0 ソフトウエアを用いて行った。組換えウイルスと60マーMUC-1 ペプチド間の特異的かつ再現性ある相互作用が見られた。測定値はウイルス濃度と相関することが見出された。対照MVA(MVAN33) の同じペプチドへの結合は全く見られなかった。
【0138】
これらの結果は、SM3 scFv/p14融合タンパク質がMVA 粒子と会合すること、及び組換えウイルスがMUC-1 由来ペプチドを特異的に認識することを実証している。
【0139】
実施例6:SM3 scFv 発現ウイルス粒子の精製
組換え体から非組換え野生型ウイルス粒子を分離するために、選択プロトコルを、MUC-1 ペプチドを結合する能力に基づいて組換えSM3 scFv発現ウイルス粒子を精製するようにBIAcore の技術により行った。クローンA3から作製したウイルス調製物を上記のようにしてBIAcore X システムに注入した。60マーMUC-1 ペプチドに高い親和性を示すウイルスを、BIAcore X Instrument Handbook に記載のように、20mM NaOH を用いて再生段階中に表面で回収した。次いで、回収したウイルスを許容細胞に、ウイルス凝集体の形成を避けるためにEDTA (1mM)の存在下で感染させ、組換えウイルスをGUS/GPT の二重選択により選択した。野生型非組換えウイルスの不在は、PCR により分離クローン中で評価した。この新規な精製及び選択プロトコルにより、野生型ウイルスの混入のない複数のクローンを得ることができた。
【0140】
【配列表】
Figure 0004802401
Figure 0004802401
Figure 0004802401
Figure 0004802401
Figure 0004802401
Figure 0004802401
Figure 0004802401
Figure 0004802401
Figure 0004802401
Figure 0004802401
Figure 0004802401

【図面の簡単な説明】
【図1】ポックスウイルス粒子の構造を説明する図である。IMV エンベロープは細線で表され、その表面にD8L 遺伝子産物および、p21-kDタンパク質 (p21)とp14-kDタンパク質 (p21)との複合体を提示している。EEV エンベロープは太線で表され その表面にA34R、HAおよびB5R 遺伝子産物を提示している。
【図2】プラスミドpTG14552を図式的に示した図である。
【図3】 MVATG14552(A) または対照 MVAN33(B)による、P815、MUC-1 発現P815 (P815-MUC-1) 、BHK-21およびMUC-1 発現BHK-21 (BHK-21-MUC-1) の感染後のフローサイトメトリー解析を示す図である。

Claims (21)

  1. 標的細胞への標的化感染特異性を有するIMV ポックスウイルス粒子であり、ここで、該粒子は該標的細胞に優先的に感染し、この特異性は、抗体または、Fab, Fv, ScFv およびdAb 断片からなる群より選択されたその断片とポックスウイルスポリペプチドとを含む少なくとも1種のキメラタンパク質により付与され、該キメラタンパク質は、該ポックスウイルス粒子の表面に局在し、かつ該標的細胞の表面に局在する対応する抗原に結合し得ることを特徴とするIMV ポックスウイルス粒子。
  2. 前記ポックスウイルス粒子が、ワクシニアウイルス、カナリアポックス、ニワトリポックス (鶏痘) 、ウシポックス、昆虫ポックス、サルポックス、ブタポックス又はペンギンポックス粒子である請求項1記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  3. 前記ワクシニアウイルスが、コペンハーゲン、ワイエス(Wyeth) およびアンカラ改変 (MVA)株よりなる群から選択される請求項記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  4. 前記標的細胞が腫瘍細胞であり、前記抗体またはその断片が、腫瘍特異的抗原、該腫瘍細胞で特異的にまたは過剰に発現する細胞タンパク質、またはガン関連ウイルスの遺伝子産物に結合しうる、請求項1〜3のいずれかに記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  5. 前記抗体の断片が、MUC-1 抗原を認識し結合しうる抗体のFab, Fv, ScFv またはdAb 断片である、請求項1〜4のいずれかに記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  6. 前記断片が、SM3 モノクローナル抗体のScFv断片である、請求項5記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  7. 前記ポックスウイルスポリペプチドがA27L、L1R 、A14L、A17L、D8L およびH3L 遺伝子の発現産物よりなる群から選択される、請求項1〜6のいずれかに記載IMV ポックスウイルス粒子。
  8. 前記抗体またはその断片が、A27L遺伝子の発現産物のN末端に融合している、請求項7記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  9. 前記抗体またはその断片が、該ポックスウイルス粒子のエンベロープへの挿入を容易にするシグナルペプチドを含有する、請求項1〜8のいずれかに記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  10. 前記シグナルペプチドがトランスゴルジ網における前記抗体またはその断片の移動を可能にする、請求項9記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  11. 前記シグナルペプチドがヒトトランスゴルジ網の糖タンパク質TGN51 由来である請求項10記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  12. 前記ポックスウイルス粒子が、関心ある核酸を少なくとも含んでいる、請求項1〜11のいずれかに記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  13. 前記関心ある核酸が自殺遺伝子である、請求項12記載のIMV ポックスウイルス粒子。
  14. (i) 請求項1および4〜6のいずれかに記載の少なくとも1種の抗体またはその断片、および(ii)IMV ポックスウイルス粒子表面に天然に局在する同種ウイルスポリペプチドの全部もしくは一部、を含有するキメラタンパク質をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むベクターであり、ここで該キメラタンパク質は、表面に抗原を発現する標的細胞への感染特異性を付与する、前記ベクター。
  15. 前記同種ウイルスポリペプチドが請求項7記載のものである、請求項14記載のベクター。
  16. 請求項1〜13のいずれかに記載の少なくとも1つのIMV ポックスウイルス粒子、または請求項14もしくは15記載の少なくとも1つのベクターと、薬剤的に許容しうる賦型剤とを含有する組成物。
  17. 請求項1〜13のいずれかに記載のIMV ポックスウイルス粒子、または請求項14もしくは15記載のベクターの、遺伝子治療によるヒトまたは動物生体の治療に用いる薬剤の製造のための使用。
  18. 請求項1〜13のいずれかに記載のIMV ポックスウイルス粒子を、該IMV ポックスウイルス粒子と野生型IMV ポックスウイルス粒子とを含むウイルス調製物から精製する方法であり、前記抗体またはその断片に結合しうる抗原分子で被覆された固体支持体に該ウイルス調製物を結合させる工程および該IMV ポックスウイルス粒子を回収する工程を含む、前記精製方法。
  19. 前記結合工程をデキストラン支持体上で表面プラズモン共鳴により行う、請求項18記載の方法。
  20. さらに、前記回収したIMV ポックスウイルス粒子を許容細胞に感染させる工程を含む、請求項18または19記載の方法。
  21. 前記感染工程をEDTAの存在下で行う、請求項20記載の方法。
JP2001179289A 2000-11-07 2001-06-13 標的化感染特異性を有するポックスウイルス Expired - Fee Related JP4802401B2 (ja)

Applications Claiming Priority (5)

Application Number Priority Date Filing Date Title
US24608000P 2000-11-07 2000-11-07
US60/246080 2000-11-07
EP60/246080 2001-01-22
EP01440009.7 2001-01-22
EP01440009 2001-01-22

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2002330774A JP2002330774A (ja) 2002-11-19
JP4802401B2 true JP4802401B2 (ja) 2011-10-26

Family

ID=26077284

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2001179289A Expired - Fee Related JP4802401B2 (ja) 2000-11-07 2001-06-13 標的化感染特異性を有するポックスウイルス

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4802401B2 (ja)

Families Citing this family (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP1947181A4 (en) 2005-11-24 2010-09-22 Genomidea Inc MUTANT PARAMYXOVIRUS AND METHOD FOR THE MANUFACTURE THEREOF
JP2010526546A (ja) * 2007-05-14 2010-08-05 バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ ワクシニアウイルス系及び組換えワクシニアウイルス系ワクチンの精製

Family Cites Families (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
AU660629B2 (en) * 1990-10-01 1995-07-06 University Of Connecticut, The Targeting viruses and cells for selective internalization by cells
GB9223084D0 (en) * 1992-11-04 1992-12-16 Imp Cancer Res Tech Compounds to target cells
EP0672129A4 (en) * 1992-11-20 1997-06-11 Univ New Jersey Med CELL TYPE SPECIFIC GENE TRANSFER USING RETROVIRAL VECTORS CONTAINING WRAP PROTEIN-ANTIBODY PROTEINS.
WO1994027643A1 (en) * 1993-06-01 1994-12-08 Targeted Genetics Corporation Envelope fusion vectors for use in gene delivery
WO1995023846A1 (en) * 1994-03-04 1995-09-08 University Of Medicine & Dentistry Of New Jersey Cell-type specific gene transfer using retroviral vectors containing antibody-envelope and wild-type envelope-fusion proteins
CA2341356C (en) * 2000-04-14 2011-10-11 Transgene S.A. Poxvirus with targeted infection specificity

Also Published As

Publication number Publication date
JP2002330774A (ja) 2002-11-19

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US7354591B2 (en) Poxvirus with targeted infection specificity
US11419926B2 (en) Identification of mutations in herpes simplex virus envelope glycoproteins that enable or enhance vector retargeting to novel non-HSV receptors
US7429481B2 (en) Targeting viruses using a modified sindbis glycoprotein
KR101041691B1 (ko) 변형 백시니아 바이러스 안카라(mva)의 게놈내삽입부위로서의 유전자내 영역
CA2285667C (en) Viral vectors having chimeric envelope proteins containing the igg-binding domain of protein a
JP2010057500A (ja) 細胞における局在性が改変された免疫ポリペプチドに基づく抗腫瘍組成物
JP5933565B2 (ja) 組み換え改変ワクシニアウイルスアンカラインフルエンザワクチン
US20070275873A1 (en) Methods and Compositions Comprising Protein L Immunoglobulin Binding Domains for Cell-Specific Targeting
US7348014B2 (en) Poxvirus with targeted infection specificity
MXPA04011034A (es) Expresion de los genes en el virus de la vacuna de ankara modificada, usando el promotor ati de viruela.
JP4802401B2 (ja) 標的化感染特異性を有するポックスウイルス
JP2005525119A (ja) 組換え鶏痘ウイルス
US20040102382A1 (en) Targeting peptides
AU2003281072B2 (en) Methods of making viral particles having a modified cell binding activity and uses thereof
CN115843313A (zh) 用于多重靶向的重组单纯疱疹病毒及其用途
JPH11504204A (ja) 免疫回避タンパク質
EP1156118A1 (en) Virus vector
JP2004534004A (ja) ポリヌクレオチドを細胞へトランスフェクションするための組成物を製造するための非複合体化ペプチドの使用および遺伝子治療において有用な組成物

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20080307

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20100824

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20101119

A602 Written permission of extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A602

Effective date: 20101125

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20101222

A602 Written permission of extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A602

Effective date: 20101228

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20110124

A602 Written permission of extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A602

Effective date: 20110127

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20110222

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20110315

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20110414

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20110614

A602 Written permission of extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A602

Effective date: 20110617

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20110620

TRDD Decision of grant or rejection written
A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20110621

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20110712

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20110725

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20140819

Year of fee payment: 3

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees