JP2004534004A - ポリヌクレオチドを細胞へトランスフェクションするための組成物を製造するための非複合体化ペプチドの使用および遺伝子治療において有用な組成物 - Google Patents
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Abstract
本発明は目的物質の細胞への導入を強化するのに有用な組成物の製造に向けた、非複合体化ペプチドの使用に関する。かかる組成物は遺伝子治療、予防接種、および目的物質、特に核酸が細胞にin vivo投与されるいずれもの治療または予防状況において特に有用である。
Description
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、目的物質の細胞への導入を強化するのに有用な組成物を製造するための、非複合体化ペプチドの使用に関する。かかる組成物は遺伝子治療、予防接種、および目的物質、特に核酸が細胞にin vivo投与されるいずれもの治療または予防状況において特に有用である。
【0002】
背景技術
遺伝子治療は遺伝物質の細胞または生物への導入と定義されうる。数年のうちに遺伝子治療によるヒト疾患治療の可能性は理論的検討段階から臨床応用の段階に移行する。ヒトに適用された最初のプロトコールは1990年9月にアメリカ合衆国においてアデニン・デアミナーゼ(ADA)欠損症患者で開始された。この最初の有望な試験は数々の新規なる応用および現在進められている遺伝子治療に基づく有望な臨床試験の後に行われた(例えば、http://cnetdb.nci.nih.gov/trialsrch.shtmlまたはhttp://www. wiley.co.uk/genetherapy/clinical/に挙げられる臨床試験を参照)。
【0003】
遺伝子治療の成功は主として目的の治療遺伝子の効率的な送達によって得られ、生体生物の細胞内でのその発現を可能にする。治療遺伝子は種々のベクターを用いて細胞へ導入され、その結果、宿主ゲノムの一時的発現または恒久的な形質転換のいずれかが生じうる。この10年間、多数のウイルス、ならびに非ウイルスベクターが遺伝子導入用に開発されてきた(例えば、総説としてはRobbins et al., 1998, Tibtech 16, 35-40 and Rolland, 1998, Therapeutic Drug Carrier Systems 15, 143-198を参照)。
【0004】
これまでに使用されてきた細胞内遺伝子送達機構のほとんどがウイルスベクター、特に、アデノウイルス、ポックスウイルスおよびレトロウイルスベクターである(総説としてはRobbins et al., 1998, Tibtech, 16, 35-40を参照)。しかしながら、ウイルスの上記使用では、レトロウイルスベクターは大型のヌクレオチド配列(例えば、約13kbであるジストロフィン遺伝子)を収容できないこと、レトロウイルスゲノムは宿主細胞DNAに組み込まれ、そのため、レシピエント細胞において遺伝子変化をもたらしうること、感染ウイルス粒子が生物内または環境に拡散しうること、アデノウイルスベクターは治療した患者において強い免疫応答を誘導しうること(Mc Coy et al, 1995, Human Gene Therapy, 6, 1553-1560; Yang et al., 1996, Immunity, 1, 433-442)など、多くの不利な点がある。
【0005】
このため、大量生産、安全性、低免疫原性、および大きなDNA断片の送達能力に関し特に有利な非ウイルス系が提案されてきた。例えば、核酸の陽イオン脂質または陽イオンポリマーとの複合体化に基づき、非ウイルスベクター代替物が提案されてきた(総説としてはRolland, 1998, Therapeutic Drug Carrier Systems, 15, 143-198を参照)。これらの陽イオン化合物は陰イオン分子と複合体を形成することができ、そのため、それらの負電荷を中和する傾向があり、かつそれらをそれらの細胞への導入に有利に働く複合形態に構成可能である。これらの非ウイルス送達系は、例えば、受容体媒介性機構(Perales et al., 1994, Eur. J. Biochem. 226, 255-266; Wagner et al., 1994, Advanced Drug Delivery Reviews, 14, 113-135)、ポリアミドアミン(Haensler et Szoka, 1993, Bioconjugate Chem., 4, 372379)、樹状ポリマー(WO95/24221)、ポリエチレンイミンもしくはポリプロピレンイミン(WO96/02655)、ポリリジン(米国特許US−A−5595897またはフランス特許FR2719316)などのポリマー媒介性トランスフェクション、またはDOTMA(Felgner et al., 1987, PNAS, 84, 7413-7417)、DOGSもしくはトランスフェクタム(商標)(Behr et al., 1989, PNAS, 86, 6982-6986)、DMRIEもしくはDORIE(Felgner et al., 1993, Methods 5, 67-75)、DC-CHOL(Gao et Huang, 1991, BBRC, 179, 280-285)、DOTAP(商標)(McLachlan et al., 1995, Gene Therapy, 2, 674-622)、リポフェクタミン(商標)もしくはグリセロ脂質化合物(例えば、欧州特許第EP901463号およびWO98/37916を参照)などの脂質媒介性トランスフェクション(Felgner et al., 1989, Nature, 337, 387-388)に基づくものである。
【0006】
もう一つの代替物が1990年に、裸のRNAまたはDNAの注入、すなわち特別な送達系を用いずに直接マウス骨格筋に注射することで筋肉細胞内でのリポーター遺伝子の発現がもたらされることを示したWolff et al.(Science 247 (1990), 1465-1468)により提案された。細胞をトランスフェクトするこの技術により有利な簡便性が提供され、さらに肺(Tsan et al., Am. J. Physiol. 268 (1995), L1052-L1056; Meyer et al., Gene Therapy 2 (1995), 450-460)、脳(Schwartz et al., Gene Therapy 3 (1996), 405-411)、関節(Evans and Roddins, Gene therapy for arthritis; In Wolff (ed) Gene therapeutics: Methods and Applications of direct Gene Transfer. Birkhaiser. Boston (1990), 320-343)、甲状腺(Sikes et al., Human Gen. Ther. 5 (1994), 837-844)、皮膚(Raz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 (1994), 9519-9523)および肝臓(Hickman et al., Hum. Gene Ther. 5 (1994), 1477-1483)への送達に関するこの系の有用性を確認する試験が行われた。
【0007】
それでもなお、Davis et al.(Human Gene Therapy 4 (1993), 151-159 and Human Mol. Genet. 4 (1993), 733-740) は、例えば、一次的筋疾患の治療では、不足していると思われる、骨格筋にin vivo注入された裸のDNAの発現に大きな変動性があることを観察した。著者らは筋肉に比較的大量の高張スクロースまたは毒素、例えば、ヘビから単離される心臓毒を予備注射して筋肉の再生を促すことにより遺伝子導入効率の向上を達成するという解決法を提示している。しかし、これらの方法は有望なものではあるがヒト治療には適用できない。
【0008】
さらに、詳細な検討の結果、これらの非ウイルス系の細胞内送達の主要経路はエンドサイトーシスによる小胞へのインターナリゼーションであることが分かっってきた。エンドサイトーシスは真核細胞が小さなエンドサイトーシス小胞の形態、すなわち、細胞外液および分子材料、例えば、核酸分子を取り込むエンドソームとして原形質膜の部分を摂取する自然プロセスである。細胞内では、これらのエンドソームは細胞内分解の特異部位であるリソソームと融合する。リソソームは酸性であり、エンドソーム小胞の分子内容物を消化する種々の分解酵素を含んでいる。従って、エンドサイトーシス後、インターナライズされた材料は膜によってさらに細胞質から分離されるため、その所望の機能を果たすことができない。実際、上記所望の機能、すなわち、所望の治療効果はほとんどの核酸導入アプローチにおいて、少なくとも細胞質(例えば、RNAに関して)への、もっと正確に言えば、それらの機能効果が生じうる細胞の核(例えば、ポリペプチドまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするDNAに関して) へのそれらの送達によって変化する。そのため、インターナライズされた核酸のエンドソーム小胞への集積により核酸の細胞への機能導入効率がかなり低下し、その結果として遺伝子治療の効果が低くなる(Zabner et al., 1995, J. Biol. Chem., 270, 18997-19007)。
【0009】
よって、生存生物の細胞への効率的な送達およびその細胞内での遺伝情報の発現は送達系の核酸分子を細胞へ導入する能力ならびに核酸のエンドソーム保持および分解回避を促すその能力の両方によって変化する。
【0010】
送達系がエンドサイトーシスを介して細胞によって取り込まれてしまうと、それは細胞質に局在するまたは核に移動するエンドソームコンパートメントから脱出しなければならない。一般的な方法は、例えば、融合誘導性または膜分解性/エンドソーム分解性ペプチドを用いることによりエンドソーム分解を促進することである(Mahato et al., 1999, Current Opinion in Mol. Therapeutics, 1, 226-243を参照)。
【0011】
ある微生物(例えば、ウイルス)は自然に受容体媒介性エンドサイトーシスを介してインターナライズされるものであり、上記のエンドソーム分解を回避する系を発展させた。この性質に基づき、トランスフェクション培地に添加される(Cotten et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 6094-6098)、または送達複合体と直接結合させる(Wu et al., 1994, J. Biol. Chem., 269,11542-11546;米国特許第5,928,944号)いずれかの複製欠陥アデノウイルス粒子またはライノウイルス粒子のエンドソーム不安定化活性をはじめとする遺伝子導入系が提案された。これらの系についてのin vivo遺伝子導入によって生じる発現レベルは将来的な見込みはあるものの依然比較的低いものであり、さらなる最適化が必要である。また、合成系も生み出された。融合誘導活性を有する最も特徴的な合成ペプチドはインフルエンザ血球凝集素HA2サブユニットのN末端ペプチド(例えば、INFペプチド)の第1の23個のアミノ酸から誘導されるものである。pH7では、このペプチドは優先的にランダムコイル構造をとる。pH5では、両親媒性のα‐へリックスコンホメーションが有利であり、ペプチドはエンドソーム分解性となる。同様に、Gottschalk et al.(1996, Gene Therapy, 3, 448-457)により開発された合成ペプチドJTS−1はINF配列GLFEAで始まり、その後に最適化されたペプチド配列が続くものである。このJTS−1ペプチドはホスファチジルコリンリポソームを含有するカルセインをpH7よりもpH5において有利に溶解しうることが分かった。
【0012】
しかしながら、核酸の細胞内送達には上記ペプチドがそれらの融合誘導活性と上記核酸を細胞へ導入しうる送達複合体を形成するための核酸複合体化活性とを併せもつ必要がある。
【0013】
現在までに開発されたいくつかの系は上記の特徴(例えば、WO96/40958、WO98/50078またはGottschalk et al., 1996, Gene Therapy, 3,448-457, Haensler & Szoka, 1993, Bioconjugate Chem., 4, 372-379)を示す二つの異なる要素を併せもっている。これらの2成分系は実際には酸性残基(グルタミン酸およびアスパラギン酸アミノ酸)により、エンドソームpHに関し特異性を有するペプチドを含有している。中性pHでは、負電荷を有するカルボン酸基によってこれらのペプチド構造が不安定化する;カルボン酸基の酸性化によってペプチドの多量体化および/または膜相互作用が促され、膜不安定化および漏出がもたらされる。Wagner et al.(1999, Advanced Drug Delivery Reviews, 38, 279-289)はこのpH特異性を分析し、ペプチドへのさらなるグルタミン酸の導入によってそれらのpH特異性を高め、その結果として、それらのエンドソーム破壊特性を高めることができることを示した。しかしながら、ウイルス粒子のエンドソーム破壊特性を有し、かつ核酸分子と結合して複合体を形成することができる上記の混合系が細胞内核酸導入を促進し、in vitroならびにin vivo状況下で機能するには性質の異なる各部分(すなわち、核酸結合リガンドと膜不安定化合成ペプチド)の微妙なバランスを示す必要がある。
【0014】
簡易系を提案するために、Wyman et al.(1997, Biochemistry, 36, 3008-3017)は核酸分子のin vitroトランスフェクションを促進することができ、かつ膜破壊を引き起こすことができる設計された合成ペプチド、KALAを用いる単一成分系を開発した。正電荷を有する親水性リジンアミノ酸残基は核酸分子を結合するために選択されものであるが、グルタミン酸アミノ酸残基はKALAペプチドにpH特異性を与え、それによってそのエンドソーム破壊特性を確実なものとするためにさらに保持されている。
【0015】
入手可能な核酸送達系はin vivo遺伝子治療での利用において安全性または効率に関しまだ満足に値するものではなく、さらなる最適化が必要である。
【発明の概要】
【0016】
本発明の基礎となる技術的な課題は目的物質、好ましくは治療、好ましくは遺伝子治療に有用である核酸分子を細胞へ送達するための改良された方法および手段を提供することである。この問題は特許請求の範囲で記載される態様を提供することによって解決される。
【0017】
よって、本発明は少なくとも1種の目的物質を細胞へ導入するための組成物を製造するための、ペプチドの使用、より詳しくは、少なくとも1種の目的物質の細胞への導入を強化するための組成物を製造するための、ペプチドの使用に関する。ここでこのペプチドは、下記(i)および(ii)からなる群から選択される:
(i)アミノ酸配列 Gly Leu Phe Xaa Ala Leu Leu Xaa Leu Leu Xaa Ser Leu Trp Xaa Leu Leu Leu Xaa Ala(配列番号1)を含んでなるまたはからなるペプチド[ここで、Xaaはアラニン(AlaまたはA)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、トリプトファン(TrpまたはW)、バリン(ValまたはV)、アスパラギン(AsnまたはN)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GluまたはQ)、グリシン(GlyまたはG)、セリン(SerまたはS)、トレオニン(ThrまたはT)およびチロシン(TyrまたはY)からなる群から互いに独立して選択される]、および
(ii)アミノ酸配列(配列番号7) Gly-Leu-Phe-His-Ala-Leu-Leu-His-Leu-Leu-His-Ser-Leu-Trp-His-Leu-Leu-Leu-His-Alaを含んでなるまたはからなるペプチド[なお、前記ペプチドは前記組成物において好ましくは6より大きい、さらに好ましくは6.5より大きい、なお好ましくは7より大きい、いっそうさらに好ましくは7.5より大きいpH、最も好ましくは約8である]。
【0018】
本発明者らはこれまでに(以下の例1〜12を参照)細胞膜破壊を引き起こし、陰イオン物質、特に核酸分子を結合することができる陽イオンペプチドを同定して複合体を作製し、それによって上記複合体化陰イオン物質の細胞への導入を強化した。すなわち、これらの陽イオンペプチドは酸性アミノ酸を含んでおらず、さらに詳しくはグルタミン酸アミノ酸(GluまたはE)を含んでいない。かかる陽イオンペプチドの例はアミノ酸配列 Gly Leu Phe Xaa Ala Leu Leu Xaa Leu Leu Xaa Ser Leu Trp Xaa Leu Leu Leu Xaa Ala(配列番号1)を含んでなるか、またはからなる、ペプチド[ここで、Xaaはリジン(LysまたはK)、ヒスチジン(HisまたはH)およびアルギニン(ArgまたはR)アミノ酸からなる群から互いに独立して選択される]である。
【0019】
現在、試験された一つのペプチド、ppTG21;配列番号7がpH8ではプラスミドDNAと結合できないが6より大きいpHで核酸組成物に加えて使用した場合、特に上記組成物が腫瘍性組織に投与される場合に脊椎動物細胞への核酸導入効率の飛躍的な向上をもたらすことが驚くべきことに分かっている(例13を参照)。ppTG21がpH8でDNAと結合できない事実はプラスミドDNAとppTG21ペプチド間の結合を妨げるppTG21のヒスチジン残基のプロトン化状態(pK6)により説明されうる。pH8ではDNA結合ができないため、これまでppTG21は上記核酸を細胞へ導入するのに有用な核酸を含有する複合体の製造から排除されていた。
【0020】
しかしながら、本願において提供される結果では核酸の細胞への導入を強化するための医薬組成物の製造に、核酸との複合体形成がなされない非荷電ペプチドも使用できることを示している。
【0021】
「目的物質」とは、好ましくは、荷電分子(電荷数に制限はない)をいう。好ましくは、上記分子は目的の陰イオン物質であり、さらに好ましくは、それはタンパク質および核酸分子からなる群から選択される。好ましい態様によれば、上記目的の陰イオン物質は核酸である。
【0022】
本発明の範囲内で使用する「核酸」または「核酸分子」とは、一本鎖または二本鎖、直鎖または環状、天然または合成、修飾または非修飾のDNAまたはRNA、もしくは断片、もしくはその組合せ(米国特許第5525711号、同第4711955号、同第5792608号または欧州特許第EP302175号(変形例)を参照)(大きさに制限はない)を意味する。中でも、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、またはかかるRNAをコードするDNAであることができる。「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸分子」および「核酸」は、本発明において同義語である。核酸は直鎖または環状ポリヌクレオチド形態、好ましくはプラスミド形態であってよい。また、核酸は例えば、アンチセンスまたはリボザイム機能に関しては細胞に送達されるオリゴヌクレオチドであることができる。本発明によれば、核酸は、好ましくは裸のポリヌクレオチドである(Wolff et al., Science 247 (1990), 1465-1468)か、またはポリヌクレオチドの細胞への取り込みに関与しうるポリペプチド、好ましくはウイルスポリペプチド、または陽イオン脂質、もしくは陽イオンポリマー、もしくはその組合せなどの少なくとも1種の化合物(総説としてはLedley, Human Gene Therapy 6 (1995), 1129-1144を参照) 、またはプロトン性極性化合物(例は本願において以下にまたは欧州特許第EP890362号に示される)とともに合成される。また、核酸は、さらにウイルスベクター(アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ポックスウイルスベクターなど)も示す。本発明において「ウイルスベクター」とは、ベクターゲノム、ウイルス粒子(すなわち、ウイルスゲノムをはじめとするウイルスキャプシド)、ならびにエンプティーウイルスキャプシドを包含する。
【0023】
「プラスミド」とは、染色体外環状DNAをいう。プラスミドの選択は非常に多様である。プラスミドは様々な製造業者から購入することができる。好適なプラスミドとしては、限定されるものではないが、pBR322(Gibco BRL)、pUC(Gibco BRL)、pBluescript(Stratagene)、pREP4、pCEP4(Invitrogene)、pCI(Promega)およびpポリ(Lathe et al., Gene 57 (1987), 193-201)由来のものが挙げられる。分子生物学技術(Sambrook et al., Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (1989), NY)によりかかるプラスミドを改変することもできる。プラスミドはトランスフェクト細胞(例えば、細胞栄養要求性、抗生物質耐性の誘導による)、安定化エレメント(例えば、cer配列; Summers and Sherrat, Cell 36 (1984), 1097-1103)または組込みエレメント(例えば、LTRウイルス配列)を選択または同定するために選択遺伝子を含んでもよい。
【0024】
好ましくは、核酸分子は、転写、翻訳されて目的のポリペプチドおよびその発現を可能にするエレメント(すなわち、発現カセット)を生じうる少なくとも一つの目的のコード化遺伝子配列(すなわち、転写ユニット)を含んでなる。核酸が遺伝子発現に好適な環境におかれている場合にそれがこの正確な遺伝情報を有しているならば、その転写ユニットがコードされた遺伝子産物を発現すると考えられる。発現のレベルおよび細胞特異性は、関連プロモーターの強度および起源、ならびに関連エンハンサーエレメントの存在および活性化に非常に左右される。よって、好ましい態様では、転写制御エレメントには、CMVプロモーター/エンハンサーなどのプロモーター/エンハンサー配列が含まれる。なお、当業者ならば、ウイルス、原核生物(例えば、細菌)、または真核生物から得られると考えられ、構成性または調節可能であり、真核細胞、特に標的細胞または組織内での発現に好適である種々の他のプロモーターおよび/またはエンハンサー配列が公知であることが分かるであろう。さらに厳密には、標的細胞または組織による発現に必要なこの遺伝情報は、上記遺伝子配列(この遺伝子配列がDNAである場合)のRNAへの転写、好ましくはmRNAへの転写、および、必要に応じて、mRNAのポリペプチドへの翻訳、に必要な全てのエレメントを含んでなる。種々の脊椎動物系での使用に好適なプロモーターは文献で広く記載されている。好適なプロモーターとしては、限定されるものではないが、アデノウイルスEla、MLP、PGK(ホスホグリセロキナーゼ;Adra et al. Gene 60 (1987) 65-74; Hitzman et al. Science 219 (1983) 620-625)、RSV、MPSV、SV40、CMVまたは7.5k、ワクシニアプロモーター、誘導プロモーター、MT(メタロチオネイン; Mc Ivor et al., Mol. Cell Biol. 7 (1987), 838-848)、α−1アンチトリプシン、CFTR、免疫グロブリン、α−アクチン(Tabin et al., Mol. Cell Biol. 2 (1982), 426436)、SR(Takebe et al., Mol. Cell. Biol. 8 (1988), 466-472)、初期SV40(シミアンウイルス)、RSV(ラウス肉腫ウイルス) 、LTR、TK−HSV−1、SM22(WO97/38974)、デスミン(WO96/26284)、および初期CMV(サイトメガロウイルス;Boshart et al. Cell 41 (1985) 521)などが挙げられる。また、Chalcrabarti et al.(1997, Biotechniques 23,1094-1097)、Hammond et al.(1997, J. Virological Methods 66, 135-138)またはKumar and Boyle(1990, Virology 179,151-158)に記載されるものなどの合成プロモーター、ならびに初期および後期ポックスウイルスプロモーターのキメラプロモーターを使用してもよい。また、腫瘍細胞で活性であるプロモーターも使用できる。好適な例としては、限定されるものではないが、MUC−1(乳癌および前立腺癌で過剰発現;Chen et al., J. Clin. Invest. 96 (1995), 2775-2782)、CEA(癌胎児抗原;結腸癌で過剰発現;Schrewe et al., Mol. Cell. Biol. 10 (1990), 2738-2748)、チロシナーゼ(黒色腫で過剰発現;Vile et al., Cancer Res. 53 (1993), 3860-3864)、ErbB-2(乳癌および膵臓癌で過剰発現;Harris et al., Gene Therapy 1 (1994), 170-175)およびα-ホエトプロテイン(肝臓癌で過剰発現;Kanai et al., Cancer Res. 57 (1997), 461-465)、またはその組合せからなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子から単離されたプロモーターが挙げられる。本発明に関しては初期CMVプロモーターが好ましい。
【0025】
核酸はまた、イントロン配列、標的化配列、輸送配列、複製または組込みに関連した配列を含むことができる。これらの配列は文献で報告されており、当業者は容易に入手することができる。また、核酸を改変して特定の成分、例えば、スペルミンにより安定化させることも可能である。それをさらに、例えば、化学修飾に変えて、例えば、本発明のペプチドなどの特定のポリペプチドとのその結合を助けることもできる。本発明によれば、核酸はそれが導入される標的細胞と同種であってもまたは異種であってもよい。
【0026】
好ましい態様では、核酸は、治療分子(すなわち、治療遺伝子)である遺伝子産物をコードする少なくとも一つの目的の遺伝子配列を含有している。「治療分子」とは、好適には患者、特に、ある疾患または病状に苦しむ患者、またはこの疾患または病状から守るべき人に投与した際または発現させた際に薬理学的または防御活性を有するものである。かかる薬理学的または防御活性は上記疾患または上記病状の進行または症状への有益な効果との関連が期待されるものである。当業者が本発明を適用する過程で治療分子をコードする遺伝子を選択する際、一般に自分の選択をこれまでに得られた結果と対応させ、請求された本発明の実施以外の不必要な試験を行うことなく、合理的にかかる薬理学的性質が得られると期待できる。本発明によれば、目的の配列はそれが導入される標的細胞と同種であってもまたは異種であってもよい。有利には、上記目的の配列はポリペプチド、特に治療または予防効果を与える治療または予防ポリペプチドの全てまたは一部をコードする。ポリペプチドとは、大きさに関係なく、またグリコシル化されていてもそうでなくても、ポリヌクレオチドの全ての翻訳産物であると考えられるものであり、ペプチドおよびタンパク質を含んでいる。治療ポリペプチドとしては、主な例として、動物またはヒトの欠陥または欠損タンパク質を補うことができるこれらのポリペプチド、または毒作用によって働いて有害な細胞を制限するまたは体から取り除くものが挙げられる。また、これらは内因性抗原として働いて液性または細胞性の応答、もしくはその両方を誘導する免疫付与ポリペプチドでありうる。
【0027】
次のコード化遺伝子配列は特別注目されているものである。例えば、サイトカイン(α、βまたはγ−インターフェロン、インターロイキン(IL)、特にIL−2、IL−6、IL−10またはIL−12、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー刺激因子(GM−CSF、C−CSF、M−CSFなど)、免疫活性化ポリペプチド(B7.1、B7.2、CD40、CD4、CD8、ICAMなど)、細胞または核受容体、受容体リガンド(fasリガンドなど)、凝固因子(FVIII、FIXなど)、増殖因子(形質転換増殖因子 TGF、線維芽細胞増殖因子FGFなど)、酵素(ウレアーゼ、レニン、トロンビン、メタロプロテイナーゼ、一酸化窒素シンターゼ NOS、SOD、カタラーゼなど)、酵素阻害剤(α1−アンチトリプシン、アンチトロンビンIII、ウイルスプロテアーゼ阻害剤、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤 PAI-1など)、CFTRタンパク質、インスリン、ジストロフィン、MHC抗原(主要組織適合遺伝子複合体)クラスIもしくはIIまたは一つ以上の細胞遺伝子の発現を調整/調節できるポリペプチド、細菌、寄生生物もしくはウイルス感染またはその発症を抑制できるポリペプチド(抗原ポリペプチド、抗原エピトープ、競合により天然タンパク質の作用を抑制するトランスドミナント変異体など)、アポトーシス誘導因子または抑制因子(Bax、Bcl2、BclXなど)、細胞増殖抑制因子(p21、pl6、Rbなど)、アポリポタンパク質(ApoAI、ApoAIV、ApoEなど)、脈管形成阻害薬(アンギオスタチン、エンドスタチンなど)、脈管形成ポリペプチド(血管内皮増殖因子 VEGFファミリー、FGFファミリー、CTGF、Cyr61およびNovをはじめとするCCNファミリーなど)、酸素ラジカル捕捉剤、抗腫瘍作用を有するポリペプチド、抗体、毒素、抗毒素およびマーカー(β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなど)をコードする遺伝子、または病態の治療または予防に有用であると当技術分野で認められているその他の目的の遺伝子。遺伝性機能障害を治療するという点から見て、欠陥遺伝子の機能的対立遺伝子、例えば、AまたはB型血友病では第VIIIまたはIX因子、ミオパシーではジストロフィン (もしくはミニジストロフィン)、糖尿病ではインスリン、嚢胞性線維症ではCFTR(嚢胞性線維性膜貫通調節因子)をコードする遺伝子を使用してもよい。好適な抗腫瘍遺伝子としては、限定されるものではないが、アンチセンスRNA、リボザイム、単純ヘルペス1型ウイルスのチミジンキナーゼ(TK-HSV-1)などの細胞傷害性産物、リシン、細菌毒、UPRTアーゼ(ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ)およびCDアーゼ(シトシンデアミナーゼ)活性を各々有する酵母遺伝子FCY1および/またはFUR1の発現産物、抗体、細胞分裂または形質導入シグナルを抑制するポリペプチド、癌抑制遺伝子(p53、Rb、p73)、宿主免疫系を活性化するポリペプチド、腫瘍関連抗原(MUC−1、BRCA−1、HPV初期または後期抗原(E6、E7、LI、L2)をコードするものが挙げられるが、所望により、サイトカイン遺伝子と組み合わせてもよい。ポリヌクレオチドは抗体もまたコードすることができる。これに関し、「抗体」とは、全てのクラスの全免疫グロブリン、二重もしくは多重抗原またはエピトープ特異性を有するキメラ抗体およびハイブリッド抗体、ならびにハイブリッドフラグメントをはじめとするF(ab)’2、Fab’、Fabおよび抗イディオタイプなどのフラグメントを包含するものである(米国特許第4,699,880号)。有利には、上記核酸は免疫付与ポリペプチドであり、細胞内ウイルスをはじめとする感染因子または腫瘍細胞に対して内因性免疫原として働いて液性または細胞性の応答、もしくはその両方を誘導するポリペプチドの全てまたは一部をコードする。「免疫付与ポリペプチド」とは、上記ポリペプチドがトランスフェクト細胞で産生される場合にそれが処置した患者の免疫応答に関与していることを意味する。すなわち、APCなどの大飲細胞で産生されたまたはその細胞により取り込まれた上記ポリペプチドが加工され、生じたフラグメントがMHCクラスIおよび/またはII分子によりこれらの細胞の表面に提示され、特定の免疫応答を誘導する。
【0028】
核酸は1種以上の目的の遺伝子を含んでいてもよい。これに関し、自殺遺伝子産物をコードする遺伝子およびサイトカイン遺伝子(例えば、α、βまたはγ−インターフェロン、インターロイキン(好ましくはIL−2、IL−4、IL−6、IL−10またはIL−12から選択される)、TNF因子、GM−CSF、C−CSF、M−CSFなど)、免疫活性化遺伝子(例えば、B7.1、B7.2、ICAM)またはケモカイン(chimiokine)遺伝子(例えば、MIP、RANTES、MCP 1)の組合せが有利である。異なる遺伝子発現は特異なプロモーター(ポリシストロン性カセット)または独立したプロモーターによって制御しうる。さらに、それらは核酸に沿って、同じまたは逆方向のいずれかに、特異部位または種々の部位に挿入しうる。
【0029】
目的のコード化遺伝子配列は分子生物学の通常の技術(PCR、好適なプローブを用いたクローニング、化学合成)であらゆる生物または細胞から単離しうる。要すれば、突然変異誘発、PGRまたは他のプロトコールによりその配列を改変しうる。
【0030】
また、「目的物質」は変異体または改変ペプチドをはじめとするペプチド(ポリペプチド、タンパク質およびペプチドは同義語である) 、ペプチド様分子、抗体もしくはそのフラグメント、キメラ抗体もしくはペプチドなどである。
【0031】
目的物質の細胞への伝達もしくは導入(introduction or transfer)プロセス自体は十分に公知である。「伝達もしくは導入」(introduction or transfer)とは、物質が細胞へ導入され、このプロセスの終わりには上記細胞内部またはその膜内もしくはその上に存在することを意味する。また、物質が核酸である場合、「伝達もしくは導入」(introduction or transfer)のことを「トランスフェクション」ともいう。トランスフェクションは好適な方法、例えば、上記核酸によりコードされた遺伝子の発現を定量する、もしくは発現タンパク質またはそのmRNAの濃度を測定する、またはその生物学的作用を調べることにより確認できる。
【0032】
これに関し、本発明の範囲において「導入の強化」(improved transfer)とは、上記ペプチド不在下で行われた導入に対する本発明のペプチドが存在する場合の細胞による目的物質のより効率的な導入を意味する。これは本発明で開示されたペプチドを使用しないで取り込まれた物質の量を対照とし、この量を同一試験条件下で上記ペプチドを使用した場合に細胞によって取り込まれた量と比較することによって確認することができる。好ましくは、導入の強化はペプチドを使用しない状況と比較した本発明のペプチドを含んでなる組成物、および/または6より大きいpHを有する、好ましくはpH8を有する組成物を使用した場合に細胞へ導入された核酸に存在する遺伝子の発現量の高まりによって確認することができる。
【0033】
一つの好ましい態様では、本発明のペプチドは膜破壊を引き起こしうるものである。本明細書において使用する「膜破壊を引き起こしうるペプチド」とは、膜、特に細胞膜、さらに詳しくはエンドソームおよび/またはリソソーム膜との相互作用によって膜不安定化および/または漏出、特にエンドソーム内容物の開放がもたらされるように相互作用しうるペプチドをいう。好ましくは、上記相互作用によってその細胞の細胞質へのエンドソームおよび/またはリソソーム内容物の流出が起こる。ペプチドの膜破壊性は例えば、付属の実施例またはOlson et al.(1979, Biochim. Biophys. Acta, 557,19-23)に記載される方法によって容易に測定できる。本明細書において使用する「膜」は、当業者が一般に理解している意味と同じ意味とする。一般に、主として脂質からなる単または二層をいい、結果的にはタンパク質を含有している。天然(例えば、細胞膜)および合成(例えば、リポソーム)膜が含まれる。好ましい膜は例えば、細胞膜、エンドソームもしくはリソソーム膜、トランスゴルジネットワーク膜、ウイルス膜、核膜などの天然膜である。上記の特性は試験の節で行うように評価できる。
【0034】
本明細書において使用する「ペプチド」、「アミノ酸残基」および「酸性アミノ酸残基」は、当業者が一般に理解している意味と同じ意味とする。好ましくは、「ペプチド」とは、長さが50残基未満、さらに好ましくは30残基未満、最も好ましくは20残基未満であるアミノ酸残基の重合体をいう。好ましい態様では、本発明において使用するペプチドの分子量は5kD未満、最も好ましくは3kD未満である。本発明のペプチドはデノボ合成法によりまたは真核または原核生物細胞における組換えDNA技術による好適なDNA断片の発現により作製しうる。特定の態様では、上記ペプチドはカルボキシル部分などの天然ペプチドに存在するものの代わりに1種以上の非加水分解性化学部分を含有する。その特殊な場合では、自然加水分解性部分が例えば、メチレン部分などの非加水分解性部分で置き換えられる。本発明はレトロまたはインベルソペプチドをはじめとする少なくとも一つのアミノ酸が類似特性を有する別のアミノ酸で置き換えられた上記ペプチド類似体(WO95/24916)もまた包含する。さらに、本発明において使用するリガンド部分は化学部分の置換または付加(例えば、グリコシル化、アルキル化、アセチル化、アミド化、リン酸化、メルカプト基付加など)によるその原型構造の改変がなされていてもよい。また、本発明は本発明のペプチドを検出可能にする改変も意図している。このためには、本発明のペプチドを検出可能な部分(すなわち、シンチグラフィック、放射性、蛍光部分、酵素、色素標識など)で改変できる。好適な放射性標識としては、限定されるものではないが、Tc99m、I123およびIn111が挙げられる。かかる標識は公知の方法で、例えば、システイン残基を介して本発明のペプチドに付けることができる。その他の技術は他の場所で記載される。標識した本発明のペプチドは診断目的に使用しうる(例えば、腫瘍性細胞、形質転換細胞などの造影)。
【0035】
特定の態様では、本発明のペプチドをそのNおよび/またはC末端で少なくとも一つのシステイン残基の付加により改変する。この改変により、例えば、本発明のペプチドの二、三または多重結合の形成が可能になる。改変ペプチドの上記結合は直鎖または環状でありうる。
【0036】
本発明のもう一つの態様では、本発明のペプチドが細胞特異的標的化が可能なリガンドまたは核標的化が可能なリガンドでさらに改変される。「細胞特異的標的化が可能なリガンド」とは、細胞膜の表面受容体(すなわち、抗リガンド)に結合するリガンド部分をいう。上記細胞膜表面受容体は高い親和性、好ましく高い特異性を有する上記リガンドを結合しうる分子または構造である。上記細胞膜表面受容体は好ましくは特定の細胞に特異的であり、すなわち、主としてある種の細胞で別の種の細胞におけるよりも見出される(例えば、肝細胞表面のアシアロ糖タンパク質受容体を標的化するガラクトシル残基)。細胞膜表面受容体は細胞標的化およびリガンドの標的細胞(すなわち、細胞特異的標的化に関与するペプチド) および結合分子(すなわち、本発明のペプチド)へのインターナリゼーションを助ける。
【0037】
本発明において使用しうる多くのリガンド部分/抗リガンドは文献で広く記載されている。かかるリガンド部分は本発明のペプチドに、所定の抗リガンド分子または少なくとも一つの標的細胞の表面に存在するある種の抗リガンド分子と結合する能力を与えうる。好適な抗リガンド分子としては、限定されるものではないが、細胞特異的マーカー、組織特異的マーカー、細胞受容体、ウイルス抗原、抗原エピトープおよび腫瘍関連マーカーからなる群から選択されるポリペプチドが挙げられる。抗リガンド分子はさらに1種以上の糖、脂質、糖脂質または抗体分子からなってよい、または含んでなってよい。本発明によれば、リガンド部分は例えば、脂質、糖脂質、ホルモン、糖、ポリマー(例えば、PEG、ポリリジン、PEI)、オリゴヌクレオチド、ビタミン、抗原、レクチンの全てまたは一部、例えば、JTSI(WO94/40958)などのポリペプチドの全てまたは一部、抗体もしくはそのフラグメント、またはその組合せであってよい。
【0038】
好ましくは、本発明において使用するリガンド部分は長さが少なくとも7つのアミノ酸であるペプチドまたはポリペプチドである。これは天然ポリペプチドまたは天然ポリペプチド由来のポリペプチドのいずれかである。「由来の」とは、(a)天然配列の一つ以上の改変(例えば、一つ以上の残基の付加、欠失および/または置換)、(b)天然アミノ酸でないアミノ酸類似体、または(c)置換結合または(d)当技術分野で公知のその他の改変を含むことを意味する。リガンド部分として働くポリペプチドは変異体および例えば、マウス抗体の可変領域とヒト免疫グロブリンの不変領域を合わせたヒト化抗体などの種々の起源の配列を融合することにより得られたキメラポリペプチドを包含する。さらに、かかるポリペプチドは直鎖または環状構造をとっていてもよい(例えば、システイン残基により両末端でポリペプチドリガンドにフランキングすることによる)。さらに、リガンド部分として使用するポリペプチドは化学部分の置換または付加(例えば、グリコシル化、アルキル化、アセチル化、アミド化、リン酸化、メルカプト基付加など)によるその原型構造の改変がなされていてもよい。本発明はさらにリガンド部分を検出可能にする改変も意図している。このためには、検出可能な部分(すなわち、シンチグラフィック、放射性、もしくは蛍光部分、または色素標識など)での改変が考えられる。好適な放射性標識としては、限定されるものではないが、Tc99m、I123およびIn111が挙げられる。かかる検出標識は標準技術によりリガンド部分に付けて診断目的に使用しうる(例えば、腫瘍性細胞の造影)。
【0039】
一つの特定の態様では、抗リガンド分子が抗原(例えば、標的細胞特異的抗原、疾患特異的抗原、操作された標的細胞の表面で特異的に発現される抗原)であり、リガンド部分が抗体、フラグメントまたは免疫学マニュアル(例えば、Immunology, third edition 1993, Roitt, Brostoff and Male, ed Gambli, Mosbyを参照)に詳細に記載されるものなどのその最小認識単位(すなわち、抗原特異性をなお示すフラグメント) である。リガンド部分がモノクローナル抗体であってよい。これらの抗原の多くと結合するモノクローナル抗体についてはモノクローナル抗体テクノロジーに関する現在の技術によりいずれの場合もすでに公知であり、ほとんどの抗原に対する抗体を作成することができる。リガンド部分が抗体の一部(例えば、Fabフラグメント)または合成抗体フラグメント(例えば、ScFv)であってもよい。
【0040】
選択された抗原に対して好適なモノクローナル抗体は公知の技術、例えば、“Monoclonal Antibodies: A manual of techniques”, H. Zola (CRC Press, 1988) および“Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications”, J. G. R. Hurrell (CRC Press, 1982)で開示されるものにより作製しうる。適切に作製された非ヒト抗体は公知の方法で、例えば、マウス抗体のCDR領域をヒト抗体のフレームワークに挿入することにより「ヒト化」(humanized)しうる。さらに、抗体の可変H(VH)および可変L(VL)ドメインが抗原認識と関係しているため、得られた抗体が齧歯動物親抗体の抗原特異性を有するように齧歯動物起源の可変ドメインとヒト起源の不変ドメインとを融合してもよい(Morrison et al (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81,6851-6855)。
【0041】
抗体の抗原特異性はFab様分子(Better et al (1988) Science 240, 1041);Fv分子(Skerra et al (1988) Science 240,1038);VHおよびVLパートナードメインがフレキシブルなオリゴペプチドで結合されるScFv分子(Bird et al (1988) Science 242, 423;Huston et al (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 5879)および単離されたVドメインを含んでなるdAb(Ward et al (1989) Nature 341, 544)をはじめとする可変ドメインにより与えられる。それらの特異的結合部位を有する抗体フラグメントの合成に関する技術の一般論はWinter & Milstein (1991) Nature 349, 293-299に見出せる。
【0042】
有利な態様によれば、リガンド部分は完全抗体よりも抗体フラグメントから選択される。補体結合などの完全抗体の有効な働きは取り除かれる。ScFvおよびdAb抗体フラグメントは一つ以上のその他のポリペプチドとの融合物として示される。最小認識単位はFvフラグメントの1以上の相補性決定領域(CDR)の配列から誘導されうる。完全抗体、およびF(ab’)2フラグメントは「二価」である。「二価」とは、上記抗体およびF(ab’)2フラグメントが二つの抗原結合部位を有することを意味する。これに対し、Fab、Fv、ScFv、dAbフラグメントおよび最小認識単位は一つの抗原結合部位しかない一価である。
【0043】
さらなる態様では、リガンド部分が天然細胞表面受容体結合に関係のある特定の部分の少なくとも一部である。もちろん、上記の天然受容体(例えば、ホルモン受容体)もまた標的細胞特異的抗原であってよく、モノクローナル抗体、ScFv、dAbまたは最小認識単位の特性を有するリガンド部分によって認識されうる。
【0044】
好ましい態様では、リガンド部分がウイルス感染した細胞の標的化を可能にし、ウイルス成分(例えば、エンベロープ糖タンパク質)を認識してそれと結合しうるまたはウイルス生物学(例えば、侵入または複製)を阻害しうる。例えば、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染細胞の標的化は、トランスメンブラン糖タンパク質gp41の高度に保存されたエピトープを認識する2F5抗体由来のリガンド部分などのHIVエンベロープのエピトープに特異的なリガンド部分(Buchacher et al., 1992, Vaccines 92, 191-195)またはその細胞受容体CD4へのHIV結合を妨害するリガンド部分(例えば、CD4分子の細胞外ドメイン)を用いて行うことができる。
【0045】
もう一つの好ましい態様では、リガンド部分が腫瘍細胞の標的化を可能にし、腫瘍特異的抗原、腫瘍細胞で特異的にまたは過剰発現される細胞タンパク質または癌関連ウイルスの遺伝子産物などの腫瘍状態と関係のある分子を認識してそれと結合しうる。
【0046】
腫瘍特異的抗原の例としては、限定されるものではないが、乳癌に関連するMUC−1(Hareuveni et al., 1990, Eur. J. Biochem 189, 475-486)、乳癌および卵巣癌に関連する変異型BRCA1およびBRCA2遺伝子によりコードされた産物(Miki et al., 1994, Science 226, 66-71; Futreal et al., 1994, Science 226, 120-122; Wooster et al., 1995, Nature 378, 789-792)、結腸癌に関連するAPC(Polakis, 1995, Curr. Opin. Genet. Dev. 5, 66-71)、前立腺癌に関連する前立腺特異的抗原(PSA)(Stamey et al., 1987, New England J. Med. 317, 909)、結腸癌に関連する癌胎児抗原(CEA)(Schrewe et al., 1990, Mol. Cell. Biol. 10, 2738-2748)、黒色腫に関連するチロシナーゼ(Vile et al., 1993, Cancer Res. 53, 3860-3864)、黒色腫細胞で高度に発現されるメラニン細胞刺激ホルモン(MSH)の受容体、乳癌および膵臓癌に関するErbB-2(Harris et al., 1994, Gene Therapy 1, 170-175)、および肝臓癌に関連するα-ホエトプロテイン(Kanai et al., 1997, Cancer Res. 57, 461-465)が挙げられる。
【0047】
本発明において使用する特定のリガンド部分はMUC−1抗原を認識してそれと結合し、その結果としてMUC−1陽性腫瘍細胞を標的化しうる抗体のフラグメントである。さらに好ましいリガンド部分はMUC−1抗原のタンデム反復配列領域を認識するSM3モノクローナル抗体のScFvフラグメントである(Burshell et al., 1987, Cancer Res. 47, 5476-5482; Girling et al., 1989, Int J. Cancer 43, 1072-1076; Dokumo et al., 1998, J. Mol. Biol. 284, 713-728)。
【0048】
腫瘍細胞で特異的にまたは過剰発現される細胞タンパク質の例としては、限定されるものではないが、あるリンパ腫瘍で過剰発現されるインターロイキン2(IL-2)の受容体、肺癌細胞、膵臓、前立腺および胃癌で過剰発現されるGRP(ガストリン分泌ペプチド)(Michael et al., 1995, Gene Therapy 2, 660-668)、TNF(腫瘍壊死因子)受容体、上皮細胞増殖因子受容体、Fas受容体、CD40受容体、CD30受容体、CD27受容体、OX-40、αvインテグリン(Brooks et al., 1994, Science 264, 569)およびある脈管形成増殖因子の受容体(Hanahan, 1997, Science 277, 48)が挙げられる。これらの例示に基づき、当業者によりかかるタンパク質を認識してそれと結合しうる好適なリガンド部分が同定される。例えば、IL-2はIL-2受容体を結合するのに好適なリガンド部分である。
【0049】
癌関連ウイルスの好適な遺伝子産物としては、限定されるものではないが、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)E6およびE7初期ポリペプチド、ならびに子宮頸癌で見られるLIおよびL2後期ポリペプチド(欧州特許第EP0462187号、米国特許第5,744,133号およびWO98/04705)およびバーキットリンパ腫に関係のあるエプスタイン-バーウイルス(EBV)のEBNA-1抗原(Evans et al., 1997, Gene Therapy 4, 264-267)が挙げられる。
【0050】
なおもう一つの態様では、リガンド部分が組織特異的分子の標的化を可能にする。例えば、肝臓細胞の標的化に好適なリガンド部分としては、限定されるものではないが、LDL受容体と結合しうるApoB(アポリポタンパク質)由来のもの、LPR受容体と結合しうるα−2−マクログロブリン、アシアロ糖タンパク質受容体と結合しうるα−1 酸糖タンパク質およびトランスフェリン受容体と結合しうるトランスフェリンが挙げられる。活性化内皮細胞を標的化するためのリガンド部分はシアリル−ルイス−X抗原(ELAM−1と結合しうる)、VLA−4(VCAM−1受容体と結合しうる)またはLFA−1(ICAM−1受容体と結合しうる)由来であってよい。CD34受容体との結合により造血前駆細胞を標的化するにはCD34由来のリガンド部分が有用である。ICAM−1由来のリガンド部分はLFA−1受容体との結合によりリンパ球を標的化するのに非常に向いている。最後に、T−ヘルパー細胞の標的化にはHIV gp−120またはCD4受容体と結合しうるクラスII MHC抗原由来のリガンド部分を使用してよい。
【0051】
「標的細胞」とは、本発明のペプチドが選択的に標的化しうる細胞または目的物質の導入が望ましい細胞種をいう。「標的細胞」は、リガンド部分および/または抗リガンド分子の性質により、特異な細胞種または共通した特徴として表面に本発明の複合体に存在するリガンド部分により認識される抗リガンド分子を有する異なる細胞種群を指すと考えられる。本発明の目的では、標的細胞は好適なリガンド部分を有する本発明の複合体により標的化されうる哺乳類細胞(好ましくはヒト細胞)である。「標的化する」とは、本発明の組成物と接触させた細胞の残る部分を選択してある細胞種または遺伝子導入用の細胞種群をアドレッシングすることをいう。標的細胞は一次細胞、形質転換細胞または腫瘍細胞でありうる。好適な標的細胞としては、限定されるものではないが、造血細胞(全能、幹細胞、白血球、リンパ球、単球、マクロファージ、APC、樹状細胞、非ヒト細胞など)、筋肉細胞(付随体、ミオサイト、筋芽細胞、骨格もしくは平滑筋細胞、心臓細胞)、肺細胞、気管細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞または線維芽細胞が挙げられる。
【0052】
「核標的化が可能なリガンド」とは、核受容体(核抗リガンド)と結合しうる特定のリガンドをいう。上記核受容体は核膜内または/および上に存在し、上記リガンドと結合することにより本発明のペプチドの核への細胞内輸送およびその核へのインターナリゼーションを助けうる分子または構造である。核標的化に関与するかかるリガンドの例はSV40ウイルスのT抗原(Lanford and Butel, 1984, Cell 37, 801-813)およびエプスタイン-バーウイルスのEBNA−1タンパク質(Ambinder et al., 1991, J. Virol. 65, 1466-1478)由来の核シグナル配列である。
【0053】
本発明は、好ましくは目的物質を細胞へ導入するための、本明細書上記において定義される少なくとも一つのペプチドおよび少なくとも1種の目的物質を含んでなる組成物もまた包含する。上記ペプチドがppTG21の場合、組成物のpH値は好ましくは6より大きい、さらに好ましくは6.5より大きい、なお好ましくは7より大きい、いっそうさらに好ましくは7.5より大きい、最も好ましくは約8である。好ましくは、上記目的物質は核酸であり、かつ上記組成物が遺伝子治療法における被検体細胞または組織への核酸送達に特に有用であるが、かかる使用に限定されるものではない。「遺伝子治療法」は、好ましくは細胞への核酸のin vivo導入法、または細胞へin vitro導入した後の被検体への再移植による方法のいずれかと考えられる。「遺伝子治療」は、特に遺伝子産物が組織内で発現される場合、ならびに遺伝子産物が特に血流に分泌される場合に関する。好ましい態様では、本発明の使用により製造される組成物中のペプチド量は約0.05マイクログラム〜約100マイクログラム、好ましくは約0.1マイクログラム〜約50マイクログラム、さらに好ましくは約0.5マイクログラム〜約15マイクログラムの範囲である。また、当業者ならばこれらの濃度およびpH条件を調整することができる。一般に、組成物中の核酸濃度は約0.01mM〜約1Mであり、好ましい態様は約0.1mM〜10mMである。
【0054】
この組成物は種々の形態、例えば、固体、液体、粉末、水溶液、凍結乾燥形態で製造できる。好ましい態様では、この組成物はヒトまたは動物の治療的処置法においてその使用を可能にする医薬上許容される担体をさらに含んでなる。この特定の場合では、担体は、好ましくは医薬上好適な注射可能担体または希釈剤である(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed. 1980, Mack Publishing Coを参照)。かかる担体または希釈剤は医薬上許容される、すなわち使用量および濃度でレシピエントに対し無毒である。これは好ましくは等張、低張またはやや高張であり、スクロース溶液によって提供されるような比較的低いイオン強度を有するものである。さらに、これに関連溶剤、滅菌、パイロジェンフリー水、分散媒、被覆剤、および等価物を含んでなる水性または部分水性液体担体、もしくは希釈剤(例えば、Tris−HCl、酢酸塩、リン酸塩)、乳化剤、可溶化剤または補助剤を含めてもよい。医薬製剤のpHはin vivo適用においても有用であるよう適宜調整および緩衝させる。組成物が本発明のペプチドppTG21を含んでなっている特定の態様では、組成物のpHはpH6より大きい、好ましくはpH8であるように調整、緩衝させる。これは液体溶液または投与前に溶液に懸濁しうる固体形態(例えば、凍結乾燥)のいずれかとして製造しうる。注射可能な組成物に向く担体または希釈剤の典型例としては、水、所望のpHに緩衝化された等張生理食塩水(リン酸緩衝溶液またはTris緩衝溶液など)、マンニトール、デキストロース、グリセロールおよびエタノール、ならびにヒト血清アルブミンなどのポリペプチドもしくはタンパク質が挙げられる。例えば、かかる組成物は10mg/mlマンニトール、1mg/ml HSA、20mM Tris pH7.2および150mM NaClを含んでなる。
【0055】
本発明は、さらに特に上記目的物質のトランスフェクション能を強化しうる少なくとも1種の補助剤をさらに含んでなる上記組成物に関する。補助剤はクロロキン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、EtOH、1−メチル L−2−ピロリドンもしくはそれらの誘導体などのプロトン性極性化合物、またはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド、ジ−n−プロピルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、アセトニトリルもしくはそれらの誘導体などの非プロトン性極性化合物からなる群から選択してよい。これらの化合物は上記のpH制限に従う条件で加える。
【0056】
本発明の組成物は脊椎動物組織に投与できる。この投与は注射器またはその他の装置による皮内、皮下、静脈内、筋肉内、経鼻、大脳内、気管内、動脈内、腹腔内、膀胱腔内、胸腔内、冠動脈内または腫瘍内注射により行われうる。吸入、エアゾール経路、喉頭注入法または局所適用などの経皮投与もまた包含される。腫瘍内投与が好ましい。本発明により製造された組成物が、さらに好ましくは筋肉内注射経路または血管内経路による筋肉細胞への導入に向けたものである場合、輸入および/または輸出リンパ管への注射と上記脈管の浸透性の上昇とを組み合わせることにより投与方法を有利に改善しうる。特定の態様では、上記の上昇は静水圧(すなわち、流出および/または流入を妨げることにより)、浸透圧(高張液を用いて)を高めるおよび/または生物学的に活性な分子(例えば、投与する組成物にヒスタミン)を導入することにより行われる(WO98/58542を参照)。
【0057】
本明細書において使用する「脊椎動物」とは、当業者が一般に理解している意味と同じ意味とする。特に、「脊椎動物」とは、哺乳類、さらに特にはヒトを包含する。
【0058】
遺伝子治療に適用した場合、本発明によって投与する製剤による重大な免疫反応を誘導する危険性なしに患者への連続投与が可能になる。投与は単回または反復投与、一回または一定時間をおいて複数回であってよい。連続投与では一回に投与する活性物質、特に DNAの量を減らすことが可能である。投与経路および好適な量は複数のパラメーター、例えば、各患者、治療する疾患または導入する核酸によって様々に異なる。本発明によれば、本発明のペプチドは少なくとも一つの核酸を含有する組成物の同じ標的組織への投与にある第2の投与とは関係なく投与できる。本発明によれば、第1の投与は第2の投与の前に、それと同時に、またはその後に行うことができ、逆もまた同じである。組成物の投与および第2の投与は別々のまたは同じ送達経路(全身送達および標的化送達、または例えば、標的化送達)によって行うことができる。好ましい態様では、各々を最も好ましくは注射によって同じ標的組織に行うべきである。
【0059】
さらに、本発明は目的物質を細胞へ導入するための、上記細胞を少なくとも一つの本発明の組成物と接触させることを含んでなる方法にも関する。この方法は上記組成物の動物細胞へのin vivo直接投与、または動物から採取した後、動物体内に再導入した細胞(ex vivo法)のin vitro処理により適用しうる。in vitro適用では、好適な培地で培養した細胞を本発明の組成物を含有する懸濁液と接触させて置く。インキュベーション時間後、細胞を洗浄し、回収する。活性物質の導入は(最終的には細胞溶解後)好適な方法により確認できる。
【0060】
本発明のin vivo治療では、トランスフェクション率を高めるために上記組成物の投与に先立ち、患者にマクロファージデプリーション処置を施してもよい。かかる技術は文献に記載されている(特に、Van Rooijen et al., 1997, TibTech, 15, 178-184を参照)。
【0061】
本発明はさらに目的物質を細胞へ導入するための、本明細書上記、下記において定義される少なくとも一つのペプチドを含んでなる組成物と核酸との接触と同時にまたはその後に上記細胞をそれと接触させることを含んでなる方法にも関する(なお、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含んでなるまたはからなるペプチドが使用される場合、上記ペプチドが上記組成物において好ましくは6より大きい、さらに好ましくは6.5より大きい、なお好ましくは7より大きい、いっそうさらに好ましくは7.5より大きいpHであり、最も好ましくは約8である)。
【0062】
もう一つの好ましい態様では、本発明は目的物質の細胞への導入を強化するための、本明細書上記において定義されるペプチドの使用を提供する(なお、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含んでなるまたはからなるペプチドが使用される場合、上記ペプチドが上記組成物において好ましくは6より大きい、さらに好ましくは6.5より大きい、なお好ましくは7より大きい、いっそうさらに好ましくは7.5より大きいpHであり、最も好ましくは約8である)。有利には、上記目的物質は核酸である。
【0063】
目的物質の細胞への導入ではin vitro (もしくはex vivo、上記参照)またはin vivoのいずれかで上記強化を果たすことができる。
【0064】
本明細書において「治療」とは、予防および治療をいう。これはヒトおよび動物の治療の両方に関する。「治療上有効な量のペプチドまたは組成物」とは、治療が望まれる疾患に通常伴う1種以上の症状の緩和に十分な量である。本発明の方法は、特に上記の疾患の治療を意図するものである。
【0065】
本発明はヒトまたは動物、好ましくは哺乳類の治癒的、予防的またはワクチン治療、すなわち、遺伝子治療で使用するための組成物の製造に向けた、上記ペプチドの使用にさらに関する。
【0066】
もう一つの態様では、本発明は目的物質を細胞へ導入するための、上記細胞の物質との接触の前に、同時にまたはその後にそれらを本発明の使用により製造される組成物と接触させることを含んでなる方法にもまた関する。この方法は上記組成物の動物細胞へのin vivo直接投与により適用しうる。本発明の実施において標的化「細胞」および「in vivo 投与経路」は上文にて記載するように定義される。「標的化細胞」とは、ポリヌクレオチド取り込みおよび発現が起こるものであり、これらが必ずしも注射した組織(投与部位)に存在する必要はない。特定の態様では、投与が血管に行われ、ポリヌクレオチドトランスフェクションまたは感染が近位または遠位部、例えば、肺、筋肉、肝臓、腎臓、心臓などの器官または組織で起こる。
【0067】
もう一つの好ましい態様によれば、腫瘍性組織は目的物質、特に核酸の送達および発現部位として使用される。
【0068】
これらおよびその他の態様は本発明の説明および実施例により開示され、または明らかとなり、さらにこれに包含される。さらなる文献は方法のうちのいずれか一つに関するものであるが、本発明で使用される使用および化合物は、例えば、電子装置を用いて公的ライブラリーから検索することができる。例えば、インターネット上、例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.htmlにおいて利用可能な公共データベース“Medline”を使用してもよい。 その他のデータベースおよびhttp://www.ncbi.nlm. nih.gov、http://www.infobiogen.fr、http://www.fmi.ch/biology/research_tools.html、http://www.tigr.orgなどのアドレスも当業者には公知であり、例えば、http://www.lycos.comを利用しても得ることができる。バイオテクノロジーにおける特許情報概要ならびに逆上り検索およびカレント・アウェアネスに有用な特許情報関連ソースの調査はBerks, TIBTECH 12 (1994), 352-364で与えられている。
【0069】
本発明の方法、組成物および使用はその治療および/または診断が細胞における核酸の導入に関連しているまたはそれに依存しているあらゆる種類の疾患の治療に適用可能である。本明細書において記載する使用に動物治療も含まれるが、本発明の組成物、および使用はヒトにおいて使用されることが望ましい。
【0070】
例を挙げて本発明を記載してきたが、使用した専門用語は限定を意図するものではなく説明を意図するものであることが分かるであろう。上記技術から、本発明の多くの改変および変形が可能であることは明らかである。よって、添付の請求項の範囲であれば、本発明を本明細書において特に記載したものとは異なる方法で行ってもよいことが分かるであろう。
【0071】
本願で引用した全ての特許、公開特許公報、およびデータベースエントリーの開示は、かかる個々の特許、公報およびデータベースエントリーが各々、具体的かつ個々に本明細書に引用されて組み込まれ、その全てが示されているのと同じ程度でそれらの全内容が引用することにより本明細書の一部とされる。
【実施例】
【0072】
本発明に従い、新規低分子量陽イオンペプチド、ppTG1(配列番号2)を合成した。このペプチドはグルタミン酸残基を含有せず、DNAを結合して成形し、さらに膜破壊を引き起こすことができる。
【0073】
材料および方法
細胞:HeLa細胞(ATCC)および293−EBNA細胞(Invitrogen)を10%ウシ胎児血清、1%ゲンタマイシン、1%グルタミンおよび3g/l グルコースを補給したDMEM培地中、37℃および5%CO2のインキュベータ内で培養した。
WiDr(ATCC CCL-218)、MDA−MB−435S(ATCC HTB-129)、SW480(ATCC CCL-228)およびLoVo細胞(CCL-229)を10%ウシ胎児血清、1%ゲンタマイシン、1%グルタミンおよび3g/lグルコースを含有する好適な培地中、37℃および5%CO2のインキュベータ内で培養した。
【0074】
プラスミド:CMVプロモーター、HMG遺伝子のイントロン1およびSV40ポリAシグナルの制御下、EBV oriP配列に加えてルシフェラーゼ遺伝子を有するプラスミドpTG11056(13787bp;Langle-Rouault et al., 1998, J. Virol., 72, 6181-6185)を使用する。さらに、CMVプロモーター、ショートSV40 16S/19SイントロンおよびSV40ポリAシグナル含んでなるルシフェラーゼ発現カセットを有するプラスミドpTG11236(5738bp)もこの試験で使用する。
プラスミドpTG11022(7998bp)は、HMG遺伝子のイントロン1およびSV40ポリAシグナルを含有する「エンプティー」CMV IEプロモーター駆動発現カセットを有するプラスミドの典型である。
【0075】
ポリペプチド:以下のペプチドの化学合成はNeosystem(France)によって行った。
ppTG1(20mer、分子量2297)(配列番号2)
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala
JTS−1(20mer、分子量2301)(配列番号3)
Gly-Leu-Phe-Glu-Ala-Leu-Leu-Glu-Leu-Leu-Glu-Ser-Leu-Trp-Glu-Leu-Leu-Leu-Glu-Ala
JTS−1−K13(40mer、分子量4826)(配列番号4)
Gly-Leu-Phe-Glu-Ala-Leu-Leu-Glu-Leu-Leu-Glu-Set-Leu-Trp-Glu-Leu-Leu-Leu-Glu-Ala-Cys-Cys-Tyr-Lys -Ala-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Trp-Lys-Lys-Lys-Lys-Gln-Ser
KALA(30mer、分子量3131)(配列番号5)
Trp-Glu-Ala-Lys-Leu-Ala-Lys-Ala-Leu-Ala-Lys-Ala-Leu-Ala-Lys-His-Leu-Ala-Lys-Ala-Leu-Ala-Lys-Ala-Leu-Lys-Ala-Cys-Glu-Ala
ppTG20(20mer)(配列番号6)
Gly-Leu-Phe-Arg-Ala-Leu-Leu-Arg-Leu-Leu-Arg-Ser-Leu-Trp-Arg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ala
ppTG21(20mer)(配列番号7)
Gly-Leu-Phe-His-Ala-Leu-Leu-His-Leu-Leu-His-Ser-Leu-Trp-His-Leu-Leu-Leu-His-Ala
ppTG22(21mer)(配列番号8)
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Cys
ppTG23(21mer)(配列番号9)
Cys-Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala
ppTG24(22mer)(配列番号10)
Cys-Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Cys
ppTG25(20mer)(配列番号11)ppTG1−リンカー−SV40NLS
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Gly-Gly-Gly-Pro-Lys-Lys-Lys-Arg-Lys-Val-Glu-Asp
ppTG26(20mer)(配列番号12)ppTG1−リンカー−SV40NLSm(変異型)
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Gly-Gly-Gly-Pro-Lys-Thr-Lys-Arg-Lys-Val-Glu-Asp
ppTG27(20mer)(配列番号13)ppTG1−リンカー−SV40NLSrev(逆転型)
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Gly-Gly-Gly-Asp-Glu-Val-Lys-Arg-Lys-Lys-Lys-Pro
ppTG28(20mer)(配列番号14)
Gly-Leu-Phe-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala
ppTG29(20mer)(配列番号15)
Gly-Leu-Phe-Arg-Arg-Leu-Leu-Arg-Leu-Leu-Arg-Arg-Leu-Trp-Arg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ala
ppTG30(20mer)(配列番号16)
Gly-Ile-Phe-Lys-Ala-Ile-Ile-Lys-Ile-Ile-Lys-Ser-Ile-Trp-Lys-Ile-Ile-Ile-Lys-Ala
ppTG31(20mer)(配列番号17)
Gly-Ile-Phe-Arg-Ala-Ile-Ile-Arg-Ile-Ile-Arg-Ser-Ile-Trp-Arg-Ile-Ile-Ile-Arg-Ala
ppTG32(20mer)(配列番号18)
Gly-Val-Phe-Lys-Ala-Val-Val-Lys-Val-Val-Lys-Ser-Val-Trp-Lys-Val-Val-Val-Lys-Ala
ppTG33(20mer)(配列番号19)
Gly-Val-Phe-Arg-Ala-Val-Val-Arg-Val-Val-Arg-Ser-Val-Trp-Arg-Val-Val-Val-Arg-Ala
ppTG20−D配置(20mer)(配列番号20)
Gly-Leu-Phe-Arg-Ala-Leu-Leu-Arg-Leu-Leu-Arg-Ser-Leu-Trp-Arg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ala
【0076】
ペプチドは、陽イオンペプチドの場合にはカウンターイオンとして酢酸塩を含有する純度80〜97%の凍結乾燥粉末として入手した。ペプチドJTS−1−K13を二段階で合成した。最初にJTS−1−システインおよびシステイン−K13を合成し、次ぎにジスルフィド結合を形成する。全てのペプチドを最終濃度少なくとも1g/lまでmilliQ水で希釈した。
【0077】
必要であれば、ペプチドppTG1およびppTG20のN末端とポリエチレングリコール(PEG) MW2000とを共有結合させてPEG−ppTG1およびPEG−ppTG20を得てもよい。これらの生成物にはHPLCによる精製を行わなかった。3.3μg/μl〜0.5μg/μl間の濃度において差がない場合には全てのペプチドをmilliQ水に溶解した。
【0078】
脂質および補助脂質
脂質pcTG90は、引用することによりその全てが本明細書の一部とされる欧州特許第EP901463号に開示される通りである(また、上記に示した式も参照)。
【0079】
ゲルリターデーション( Gel retardation )アッセイ
3μgのプラスミドpTG11236を0.9%NaClを含有する漸増量の各々のペプチド(最終量30μl)とともにインキュベートした。室温で20分間のインキュベーション後、6μl 5×ローディングバッファー(TAEバッファー中グリセロールおよびブロモフェノールブルー)を加え、これらの溶液の10μlを臭化エチジウムの存在下で1%アガロースゲル上で解析した。
【0080】
リポソームリーケージ(リポソーム漏出( Liposome leakage ) ) アッセイ
1−パルミトイル−2−オレイル−ホスファチジルコリン(POPC)リポソームは反復凍結融解法により調製した後、押し出し成形を行った(Olson et al., 1979, Biochim. Biophys. Acta 557, 19-23)。クロロホルム中10μモルのPOPCをガラス管に入れ、Labconco Rapidvapボルテックスエバポレータ(Uniequip, Germany)を用いて溶媒を減圧下で蒸発させた。得られた脂質フィルムをカルセイン水溶液(100mMカルセイン、3.75当量NaOH、50mM NaCl)0.5mlで水和させた。超音波水浴(Bransonic 221, Branson Ultrasonics Corp., USA)で溶液が透明になるまで脂質懸濁物を超音波処理した。凍結融解を5サイクル行った後、200nm孔径ポリカーボーネート膜(Nuclepore, Costar, MA, USA)に4回通してリポソームを押し出し成形した。セファデックスG-50カラム(3cm×14cm)および溶出バッファーとして200mM NaCl、25mM HEPES、pH7.3溶液を用いるゲル排除クロマトグラフィーにより遊離カルセインをリポソーム封入カルセインとを分離した。最終脂質濃度はリンアッセイ(Bartlett, 1959, J. Biol. Chem. 234, 466-469)により確認した。リポソーム粒径はCoulter N4プラスサブミクロン粒径分析装置(Coultronics France S. A, France)を用いて動的レーザー光散乱法により測定した。測定では一定の散乱光角度90°を用い、3nm〜10000nmサイズのウインドウ内で行った。
【0081】
リポソームリーケージアッセイはPlanck et al.(1994, J. Biol. Chem. 269, 12918-12924)で記載されるように行った。リポソーム原液を1.8×アッセイバッファー(360mM NaCl、36mMクエン酸ナトリウム、pH5およびpH7)で脂質濃度45μMまで希釈した。96ウェルマイクロタイタープレートである一つのウェルの20μlのペプチド溶液を次のウェルに移し、80μl H2Oで希釈して、試験するペプチドの1:5連続希釈を行った。100μlのリポソーム溶液を各ウェルに加え(最終脂質濃度:25μM)、室温で30分後、マイクロタイタープレート蛍光分光計(WALLAC, 1420 multilabel counter Victor)で535nm(励起:485nm)にて蛍光アッセイを行った。これらの条件はフルオレセインの分析に好適なものであるが、カルセインの好適な励起/発光プロフィール(495nm/515nm)に可能な限り近い。100%漏出値は10%Triton X−100溶液1lの添加により得られた。漏出活性についてはペプチド濃度に対してプロットした。
【0082】
融合誘導ペプチドでのトランスフェクションアッセイ
細胞を24ウェルプレートで10%FCSを補給したDMEM中4×104(239−EBNA)または7×104(HeLa、Renca)細胞/ウェルの密度で培養した。翌日、培地を200μl血清フリーDMEMに交換し、プラスミド(pTG11056もしくはpTG11236)/ペプチド複合体またはプラスミド/ペプチド/脂質複合体を0.9%NaClまたは5%グルコース30μl中で調製した。室温で20分後、これらの複合体を細胞に与え、次いで、この細胞を37℃および5%CO2で2〜3時間インキュベートし、その後、1ml血清含有DMEMを添加した。約20時間後、1×Promega溶解バッファー100μlを加えて細胞を溶解し、溶解物20μlのルシフェラーゼ活性を調べた。タンパク質をビシンコン酸(bicinchonic acid)(BCA)比色法(Smith, Anal. Biochem. 150 (1985), 76-85)により定量した。
【0083】
in vivo 試験
指定量のルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236をppTG1および/またはpcTG90/DOPEと混合した。得られた製剤はマウスに筋肉内(30μl)、静脈内(250μl)または腫瘍内(Renca腫瘍、100μl)注射した。指定の時点で筋肉、腫瘍または器官を回収し、細かく砕き、Promegaのルシフェラーゼアッセイキットでルシフェラーゼ活性を調べた。
【0084】
細胞培養
バフィロマイシンAの存在下でのトランスフェクション:6×104 HeLa細胞を24ウェルプレートで培養した。トランスフェクション30分前とトランスフェクション中、細胞を175nMバフィロマイシンAで処理した(血清不在下での細胞のトランスフェクションミックスとの1時間のトランスフェクション)。
【0085】
例1:DNA結合活性
ppTG1ペプチドのDNA複合体化能力をゲルリターデーションアッセイによって調べた。3μgのpTG11236を0.9%NaClを最終量30μlまで加えた漸増量のppTG1(0.01μg〜27μg)と混合した。室温で20分間のインキュベーション後、ローディングバッファーを加え、得られた溶液の10μlを1%アガロースゲル上で解析した。同じ試験をJTS−1、JTS−1−K13およびKALAペプチドでも行った。
【0086】
プラスミド/ペプチド比3μgプラスミドDNA(0.8pmol)/4μgペプチド(1.4nmol)でppTG1と複合体化させるとプラスミドpTG11236の遅延が得られるという結果が示された。1μgペプチド(0.35nmol)を加えた場合には50%のDNAが複合体化する。プラスミドDNAの遅延は陰イオンJTS−1の存在下では見られない(3μg pTG11236および0.1μg〜10μg JTS−1)が、3μg(0.6nmol)JTS−1−K13では3μg pTG11236の>95%の遅延がもたらされる。これらの結果から、本発明のペプチドppTG1がDNAプラスミドと複合体を形成しうることが分かる。
【0087】
例2:リポソームリーケージアッセイ
ペプチドppTG1を蛍光製品カルセインを含有するPOPCリポソームを用いるリポソームリーケージアッセイで膜破壊を引き起こすその能力について試験した。リポソームリーケージアッセイはPlanck et al.(1994-上記)に記載されるように行った;Triton X−100処理によるカルセインの放出を正の対照反応とし、水とのインキュベーションを負の対照とした。ペプチドppTG1(開始時の20μg)の膜分解活性と同量(20μg)のJTS−1、JTS−1−K13およびKALAのものとを比較した。
【0088】
この結果を図1A/1Bに示す。
【0089】
図1A/1Bから、ppTG1がpH5(図1A)およびpH7(図1B)の両方で、JTS−1およびJTS−1−K13と少なくとも同じくらい効率的に膜破壊を引き起こすことができることが分かる。
【0090】
例3: in vitro におけるトランスフェクション効率−ppTG1、リポフェクチンおよびPEIの比較
293−EBNA1およびHeLa細胞をin vitroでトランスフェクトするppTG1およびプラスミドDNAの複合体の能力について調べた。
【0091】
プラスミドpTG11056 0.5μg、0.1μg、0.05μgおよび0.01μgで、前日に24ウェルプレートで培養した4×104 293−EBNA細胞をトランスフェクトした。このプラスミドをppTG1の完全DNA複合体化または不完全DNA複合体化量のいずれかと5%グルコース30μl中で混合し、室温で20分後、この混合物を200μl血清フリー培地でインキュベートした細胞に加えた。さらに、pTG11056を確立されたトランスフェクション試薬リポフェクチンおよびPEIを加えて作製した。製造業者の推奨に従い、リポフェクチン(Gibco BRL)およびPEIを使用した。要するに、リポフェクチンを200μl血清フリー培地中4倍重量過剰のプラスミドDNAに加え、その後(室温で20分後)これを細胞に与えた。PEIを10mM溶液に希釈、例えば、75μlを5%グルコース30μg中0.5μg DNAに加え、室温で30分後、200μl血清フリー培地で培養した細胞に移した。3時間後、1mlの血清含有DMEMを細胞に与えた。20時間後、細胞を洗浄し、1/5の溶解細胞でルシフェラーゼ活性を確認した。
【0092】
ルシフェラーゼ活性を図2に示す。
【0093】
図2より、ppTG1(電荷比約1)0.65μgと複合体化したpTG11056 0.5μgで293−EBNA1細胞をトランスフェクションした場合にリポフェクチンまたはPEIとで作製した複合体で見られるルシフェラーゼ活性より高い活性が得られることが分かる。ppTG1(同じ電荷比)0.065μgと混合したpTG11056 0.05μgでのトランスフェクションでもなお高いトランスフェクション効率を示すが、PEIおよびリポフェクチン製剤では10倍以上効率が低い。
【0094】
この試験から、ペプチドppTG1を含んでなる本発明の複合体でのトランスフェクションはリポフェクチンまたはPEIを、特に低濃度で含んでなる先行技術の複合体とのものと少なくとも同程度に効率が良く、ほとんどの測定ではいっそう顕著に効率が良くなることが分かる。プラスミドDNAで細胞を効率的にトランスフェクトするのにはppTG1単独で十分である。
【0095】
もう一つの試験では、リポフェクチンまたはppTG1と複合体化したpTG11236 0.5μgまたは0.05μgで、トランスフェクション前日に24ウェルプレートに播種した7×104HeLa細胞をトランスフェクトした。プラスミド/ペプチド複合体を5%グルコースまたは0.9%NaCl30μl中で調製し、室温で20分後、細胞に与えた(200μl血清フリー培地)。3時間後に血清含有培地を添加し、翌日細胞を回収した。
【0096】
全タンパク質溶解物のルシフェラーゼ活性を図3に示す。
【0097】
図3より、ppTG1 1.17μgまたは0.117μgを含有するpTG11236 0.5μgまたは0.05μgの製剤(ペプチドの全DNA複合体化量;電荷比1.8)ではリポフェクチンを用いて作製したDNAで見られるルシフェラーゼ活性と同等の活性が得られたことが分かる。pTG11236 0.05μgのトランスフェクション効率に対し、0.9%NaCl中でppTG1と混合したプラスミドDNAではリポフェクチン製剤で見られるルシフェラーゼ活性よりも高い活性が得られると考えられる。
【0098】
図2および図3から、プラスミドDNAを細胞に効率的に導入するにはペプチドppTG1単独で十分であることが示される。この効率は低DNA量で、例えば、リポフェクチンまたはPEI試薬などの確立されたトランスフェクション試薬よりも優れている。
【0099】
例4:トランスフェクション効率:HeLa細胞でのppTG1およびJTS−1−K13の比較
ppTG1およびJTS−1−K13のトランスフェクション効率への影響の比較をHeLa細胞で行った。pTG11236 0.5μgまたは0.05μgの複合体を漸増量の各々のペプチドを用いて作製した。
【0100】
ルシフェラーゼ解析の結果を図4に示す。
図4により、JTS−1−K13 1.5μgと複合体化したpTG11236 0.5μgでは高レベルのルシフェラーゼ発現が得られたが、JTS−1−K13と複合体化したプラスミドDNA0.05μgでのトランスフェクションではppTG1でのトランスフェクションと比べて相変わらず低いことが分かる。これらの結果より、ppTG1がJTS−1−K13よりも優れたトランスフェクション試薬であることが示唆される。
【0101】
例5: in vitro におけるトランスフェクション効率−HeLaおよびCHO細胞でのppTG1およびKALAの比較
ppTG1およびKALAの比較をHeLaおよびCHO細胞で行った。5×104細胞を24ウェルプレートに播種した。翌日、0.9%NaCl30μl中でppTG1またはKALAと複合体化したpTG11236 500ngまたは50ngで細胞をトランスフェクトした。電荷比+/−は1、2、3、4、7〜10と変えた。トランスフェクション20時間後に細胞を回収し、100μl Promega溶解バッファーに溶解させた。20μl中のルシフェラーゼ活性および全タンパク質濃度を調べた。
【0102】
その結果を図5a/bに示す。
【0103】
図5a/bにより、ppTG1を含んでなる複合体でのトランスフェクションではペプチドKALAを用いて作製したものよりも効率が良いことが分かる。ペプチドppTG1の場合、HeLa細胞において最適な電荷比条件は1または2のいずれかであった。KALAでは、ppTG1の場合よりも200倍(pTG11236 50ng)〜4倍(500ng)低い電荷比7で最適な遺伝子導入が示された。最も優れた事例では、ppTG1を含んでなる複合体はKALAを含んでなる複合体よりも3000倍効率が良かった。
【0104】
CHO細胞では、トランスフェクションの最適条件はppTG11を含んでなる複合体では電荷比2および3各々で、KALAを含んでなる複合体では電荷比10および7各々で見られ、遺伝子導入においてppTG1が比較的効率が良かった(pTG11236 50ngで68倍およびpTG11236 500ngで9倍)。最も優れた事例では、ppTG1を含んでなる複合体はKALAを含んでなる複合体よりも2500倍効率が良かった。
【0105】
例6:ペプチドppTG1およびpcTG90/DOPEを含んでなる複合体の in vitro におけるトランスフェクション効率
350μlのクロロホルム中でpcTG90およびDOPE(1:1)の混合物を調製した。溶液をボルテックスエバポレーターを用いて蒸発させた。得られた脂質フィルムを1mlの5%グルコースに再懸濁し、濃度約0.5mg/mlとした。ppTG1を水に溶解して3mg/mlにし、脂質懸濁物に加えた。次いで、混合物を5%グルコースで希釈したDNA(pTG11236)に加えて攪拌した。
【0106】
HeLa細胞を24ウェルプレートに6×104細胞の密度で播種した。翌日、細胞を200μl血清フリー培地とともにインキュベートし、30μlのプラスミド(50ng)/ペプチド/脂質混合物を加えて5%CO2中37℃で3時間インキュベートした。次いで、DMEM 1ml+10%FCSを添加した。翌日、培地を除去し、細胞を500μlのPBSで洗浄し、続けて、100μlのPromega溶解バッファーで処理した。
【0107】
細胞溶解物20μlのルシフェラーゼ活性を測定するまでプレートを−80℃で保存した。タンパク質アッセイはPierce BCAキットを用いて行った。
【0108】
図6はこの試験の結果である。
【0109】
図6より、50ngのプラスミドおよび最終電荷比3、5および10では、少量のppTG1の添加(各々複合体の正電荷の1/3、1/5および1/10を与える)により少なくとも1log pcTG90/DOPEのトランスフェクション効率が高まることが分かる。最終電荷比5および10でppTG1量を増やす(各々複合体の正電荷の2/3および7/10を与える)とこの高まりはいっそう大きなものとなった(2log)。最終電荷比3では、ppTG1単独でpcTG90/DOPE単独よりも優れた結果が得られた。
【0110】
例7: in vivo 試験
プラスミド pTG11236 60μgまたは30μgを5%グルコース250μl中でペプチドppTG1および/またはpcTG90/DOPE 1:2混合物と混合した。室温で20分間のインキュベーション後、B6SJLマウスに複合体を静脈注射した。1日目にマウスを犠牲にした。肺を摘出し、全タンパク質を抽出してルシフェラーゼ活性を調べた。
【0111】
その結果を図7に示す。
【0112】
図7より、肺での遺伝子発現はpTG11236およびppTG1(5匹のマウス中5匹とも)を含んでなる複合体で達成できることが分かる。陽イオン脂質をさらに含んでなる複合体にppTG1が存在することによって遺伝子発現が10倍増強した。
【0113】
例8:トランスフェクション効率−JTS−1の影響
JTS1を1mM NaOHに溶解して1mg/mlとし、5%グルコースで希釈したDNAと混合した。次いで、ppTG1をこの溶液に添加した。例6で記載したように、pcTG90/DOPE ppTG1混合物を調製した。例6で記載したように、HeLa細胞でプラスミド50ngを加えてトランスフェクションアッセイを行った。
【0114】
その結果を図8に示す。
【0115】
図8により、ppTG1 0.9μgおよびJTS1 0.1μg(最終電荷比5)と複合体化したpTG11236によってppTG1/pcTG90/DOPE(最終電荷比5、電荷比2(+/−)を与えるppTG1)の最適製剤と比べて約10倍、さらに最終電荷比5のpcTG90/DOPE単独と比べて約1000倍ルシフェラーゼ活性が高まったことが分かる。
【0116】
最終電荷比1〜2を有するppTG1/プラスミドDNA複合体は多様な細胞株の効率的なトランスフェクションを媒介している。この効率はリポフェクチン、PEI、またはGottschalk et al., 1996に記載の多成分ペプチド複合体を含んでなる複合体で見られるトランスフェクションレベルと同等またはそれよりも優れている。
【0117】
実施例概要:
in vitro
ペプチドppTG1、単独またはプラスミドDNAとの複合体、はPOPC/Chol(3:2モル比)リポソームを効率的に不安定化するが、KALAはこの種のリポソームに対して活性を示さない。遺伝子導入効率の調査をヒト腫瘍細胞系 WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoまで拡大した。これら全ての細胞系ではppTG1/DNA複合体でのトランスフェクトで好結果が得られた。ppTG1/プラスミド複合体でのトランスフェクション効率はバフィロマイシンAの存在下でも低下しなかった。このことから遺伝子導入がエンドソームの酸性化と関連がないことが示唆される。
【0118】
ppTG1の種々の誘導体を設計した。pH5でプラスミドDNAを結合するppTG21(Lys=>His)を除き、これら全てのペプチド(材料および方法を参照)はpH8でアガロースゲル中のプラスミドDNAの移動を阻止することができた。ppTG20(Lys=>Arg)およびppTG21のPOPC/Cholリポソームでのリポソーム漏出活性はppTG1に匹敵するものであった。ppTG20でのトランスフェクション効率はppTG1のものに匹敵するものであったが、ppTG21でのトランスフェクション効率はかなり低下した。二つのさらなる塩基性アミノ酸残基を有するペプチドppTG28およびppTG29は、リポソーム漏出および遺伝子導入アッセイにおいてはppTG1およびppTG20と同等であった。LeuのIleまたはValでの置換によりリポソーム漏出活性が阻害され(ppTG32およびppTG33)、in vitro遺伝子導入効率が低下した(ppTG30、ppTG31、ppTG32およびppTG33)。C末端に野生型または変異型核局在化シグナル(SV40ラージT抗原)を有するppTG1誘導体はリポソーム漏出および遺伝子導入効率を保持した。ppTG1 Nおよび/またはC末端へのCys残基の付加ではリポソーム漏出活性が失われることはなかったが、遺伝子導入効率は低下した。ペプチドのN末端と共有結合するポリエチレングリコール(PEG)2000を含有するppTG1およびppTG20誘導体はリポソーム漏出活性、遺伝子導入効率を保持したものの、かなり低下した。D配置の全てのアミノ酸を含有するppTG20誘導体(ppTG20−D)をさらに調べた。このペプチドのリポソーム漏出および遺伝子導入活性は保持された。
【0119】
in vivo:
マウスに静脈注射したペプチドppTG20およびppTG20−Dを含有するプラスミドDNA複合体では、ppTG1を含有するものよりもいっそう高い肺での遺伝子導入効率が得られた。しかし、JTS1−K13では遺伝子導入が少なく、KALAでは検出すらできなかった。ppTG32の使用では遺伝子導入効率がかなり低下し、in vivo遺伝子導入を成功させるにはDNA結合活性のほか、リポソーム漏出活性が重要であることが示唆された。ppTG1およびppTG20を用いた遺伝子導入はpcTG90/DOPE 1:2[+/−]10により作製した最適なリポプレックスを用いた遺伝子導入と少なくとも同等であった。
【0120】
リポーター遺伝子活性は注射後1日目で最大となった後、時間の経過とともに低下した。14日目の再投与によりリポーター遺伝子活性の再生が起こった。
【0121】
例9:DNA結合活性
材料および方法で示したppTG1誘導体についてのプラスミドDNA結合能力をゲルリターデーションアッセイによって調べた。
【0122】
その結果を以下の表1で示す。
【0123】
【表1】
【0124】
表1に示した結果はppTG21(Lys=>His)を除く、全てのペプチドがpH8でプラスミドDNAと結合することができたことを示している。しかしながら、pH5でならppTG21がDNAを結合できることも分かった。この結果はヒスチジン残基(pK6)のプロトン化状態によって説明することができ、プラスミドDNAとppTG1誘導ペプチドとの結合が主として静電気相互作用によるものであることが示唆される。
【0125】
例10:リポソーム漏出活性
POPCおよびコレステロール、モル比3:2(mol/mol)からなるリポソームでリポソーム漏出活性を調べた。コレステロールは天然膜の流動性を決定するそれらの重要な遍在成分である。よって、かかるリポソームでの試験は純粋なPOPCリポソームでの試験よりも in vivo条件に近い。ペプチドppTG1、JTS−1−K13、KALAおよびJTS−1をpH5およびpH7で比較した。
【0126】
その結果を図9Aに示す。
【0127】
図9Aにより、KALAではコレステロール(chol)含有リポソームからカルセインを遊離させることができなかったことがはっきりと分かる。JTS−1−K13もまたpH7でカルセイン放出を妨げたが、pH5では低レベルの放出が起こった。pH感受性ペプチドJTS−1はpH5で高い溶解活性を示し、pH7ではこの活性は低下した。ppTG1はpH5およびpH7でPOPC/cholリポソームからカルセインを効率的に遊離させることができた。
【0128】
POPC/chol 3:2リポソームでのリポソーム漏出活性についてプラスミドDNA pTG11236とのppTG1複合体を試験した。
【0129】
その結果を図9Bに示す。
【0130】
図9Bにより、プラスミドDNAに対してペプチド過剰である場合(P/N 5または10)、リポソーム漏出は遊離ppTG1と同等であったことがはっきりと分かる。理論的に全てのペプチドがプラスミドDNAとの結合に関与する、電荷比(P/N)1または0.8条件では、漏出活性は少し低下した。この観察はDNA結合および膜破壊活性には異なる構造特性が必要であることから説明できる。
【0131】
pH7におけるPOPC/chol 3:2リポソームでのリポソーム漏出活性について材料および方法で記載した一連のppTG1誘導体を試験した。その結果を図9C(ppTG20およびppTG21)、図9D(ppTG22〜ppTG24およびppTG20−D)、図9E(ppTG25〜ppTG27)、図9F(ppTG28〜ppTG33)、および図9G(PEG−ppTG1およびPEG−ppTG20)に示し、また表1に要約する。
【0132】
図9C、9Dおよび9Gより、ppTG1のLysのArgまたはHisでの置換、D配置のppTG20、またはppTG1もしくはppTG20N末端へのPEG2000付加では得られたペプチドの膜破壊活性が低下しなかったことがはっきり分かる。図9Fでは、二つの塩基性アミノ酸(ppTG28およびppTG29)の付加、またはLeuのIle(ppTG31)での置換ではリポソーム漏出活性が少し低下したことが示される。LeuのValでの置換ではリポソーム漏出活性(ppTG32およびppTG33)がかなり低下した。図9Dでは、さらなるCys残基をC末端に付加してもリポソーム漏出活性に影響はなかったが、N末端に付加すると膜破壊がやや低下した(ppTG23およびppTG24)ことが示される。図9Eでは、野生型(wt)、逆転型または変異型NLSと結合したppTG1の漏出活性は大きいが、ppTG1で得られた最大値よりも低いことがはっきりと示される。
【0133】
例11: in vitro におけるトランスフェクション効率
プラスミド/ppTG1複合体でのトランスフェクション効率をヒト腫瘍細胞WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVo(ATCC)においてリポフェクチン、PEIおよびpcTG90/DOPE(1:1)[+/−]5との比較により試験した。トランスフェクション後1日目のルシフェラーゼ活性を図10Aに示す。
【0134】
図10Aより、ppTG1/プラスミド複合体によってヒト腫瘍細胞系、特にSW480細胞を効率的にトランスフェクトできることがはっきりと分かる。
HeLa細胞における遺伝子導入効率について材料および方法に記載した連続系ppTG1誘導体を試験した。漸増量のペプチドと複合体化したpTG11236 50ngで6×104細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後1日目にルシフェラーゼ活性を調べた。その結果を図10B(ppTG20、ppTG21)、図10C(ppTG25、ppTG26、ppTG27)、図10D(ppTG28〜ppTG33)、図10E(PEG−ppTG1およびPEG−ppTG20)、図10F(ppTG22〜ppTG24)および図10G(ppTG20−D)に示す。また、全ての結果を表1に示している。
【0135】
図10Bより、LysのArg残基での置換ではトランスフェクション効率に変化はなかったが、LysのHisでの置換ではかなりの低下が起こったことがはっきり分かる。図10Cでは、SV40ラージT抗原誘導NLSペプチドのC末端付加が遺伝子導入効率に影響しなかったことが示される。
【0136】
図10Dでは、二つの塩基性アミノ酸残基の付加(ppTG28およびppTG29)によるトランスフェクション効率に変化はなかったことが示される。しかし、LeuのIleでの置換(ppTG30およびppTG31)では遺伝子導入効率が低下し、LeuのValでの置換ではこの活性がさらにいっそう低下したことが示される。PEG−2000のN末端への共有結合によりトランスフェクション効率が低下した(図10E)。また、Cys残基のppTG1のNおよび/またはC末端への結合も同様であった(図10F)。しかし、ppTG20−Dの効率は遺伝子導入試験でのppTG1と同等であった(図10G)。
【0137】
例11:ppTG1の遺伝子導入機構に関する研究
バフィロマイシンAは特異的な液胞型プロトンポンプ阻害剤である。バフィロマイシン処理によって後期エンドソームの酸性化を防ぐ。トランスフェクション30分前およびその間、HeLa細胞をバフィロマイシンA(175nM)で処理した(血清不在下でのトランスフェクション複合体との1時間のトランスフェクション)。PEIまたはppTG1を用いたpTG11236 150ngで6×104細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後1日目にルシフェラーゼアッセイを行った。
【0138】
バフィロマイシンAの存在はppTG1でのトランスフェクション効率には影響を与えなかったが、PEIでのトランスフェクションを400倍低下させた(データは示していない)。このことはppTG1/プラスミド複合体がエンドソームに取り込まれた場合にそれらがpHに無関係の機構を介して放出されることを示唆している。
【0139】
例12: in vivo 試験
単一成分系ペプチドベクターでの遺伝子導入の可能性をin vivoで調べた。ルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 50または60μgを5%グルコース250μl中でpcTG90/DOPE(1:2)[+/−]10と複合体化した(Meyer et al. 2000)。得られたリポプレックスベクターを5%グルコース250μl中でppTG1、ppTG20およびppTG32と複合体化したpTG11236を用いる遺伝子導入試験の参照とした。各群5匹のマウスに静脈注射を施し、注射後1日目に動物を犠牲にし、肺のルシフェラーゼ活性を調べた。その結果を図11に示す。
【0140】
図11Aにより、ppTG1複合体(電荷比2〜3間)を用いた遺伝子導入によりリポプレックスを用いて得られるルシフェラーゼ活性に匹敵する活性が肺で得られたことがはっきり分かる。ppTG20を用いた遺伝子導入ではppTG1よりも効率が良く、かつ毒性が低いという一般的な傾向が示されたが、ペプチドppTG32との複合体では検出可能なリポーター遺伝子発現は得られなかった。これはppTG1誘導ペプチドによる遺伝子送達を成功させるには膜破壊活性が必要であることを意味している。
【0141】
ppTG1との複合体をJTS−1−K13、KALA、K8−NLSm/JTS−1およびppTG20で作製したものと比較した。KALAおよびK8−NLSm/JTS−1では効率が悪かった(データは示していない)。ppTG1、JTS−1−K13およびppTG20と複合体化したpTG11236 50μgの静脈注射後1日目に肺で見られるルシフェラーゼ活性を図11Bに示す。ppTG1を用いた遺伝子導入はJTS−1−K13を用いた場合よりも良いと考えられる。ppTG20を用いた遺伝子導入はppTG1よりも高い遺伝子発現をもたらし、かつ毒性が低い再現可能な傾向を示す。
【0142】
ppTG1/プラスミド複合体を用いて得られる遺伝子発現は注射後3日目にバックグラウンドレベルまで低下した(データは示していない)。1回目の注射後14日目のppTG1/プラスミド複合体の再投与によってリポーター遺伝子発現が再現された。3日目にその系はなお不応であった(図11C)。
【0143】
図11Dでは、ppTG20がppTG1よりも効率の良い遺伝子導入をもたらし、ppTG20−DがppTG20よりもいっそう効率が良いと考えられることが確認できる。
【0144】
これらのデータは重要なin vivo遺伝子導入を可能にする単一成分系ペプチドベクターを初めて示すものである。
【0145】
例13: in vivo 試験:腫瘍内注射後の非濃縮 (non-condensing) トランスフェクションエンハンサーとしてのppTG21
材料および方法
B6D2マウスに4×105RENCA細胞(ネズミ腎臓腫瘍細胞、ATCC)を皮下注射し、腫瘍増殖を誘発した。腫瘍体積が約30mm3に達したところで、本発明のペプチドの存在または不在下でルシフェラーゼ発現プラスミドDNA pTG13236を含有する5%グルコース溶液30μgを腫瘍に注射した。注射後1日目にマウスを犠牲にし、腫瘍を回収してホモジナイズした。ルシフェラーゼ活性を調べ、RLU/腫瘍gとして表した。
【0146】
結果
RENCA担癌マウスにおいて腫瘍内注射後のプラスミド導入を強化する能力についてペプチドppTG21を試験した。ルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 10μgをpH8(10mM Tris pH8)で漸増量(すなわち、0.1、0.6、3または15マイクログラム)のppTG21と混合した。これらの条件下ではppTG21はプラスミドDNAに結合できない(上記参照)、同時に、同じ条件で漸増量(すなわち、0.1%、0.2%、0.4%および0.6%)のHPC(ヘキサデシル−ホスホ−コリン)の存在下、同じプラスミドDNAを投与することにより試験を行った。同じ条件でプラスミドDNA単独、またはHPCまたはppTG21の存在下でプラスミドDNAを腫瘍内注射した。翌日、腫瘍のルシフェラーゼ活性を調べた(RLU/腫瘍g)。その結果を図12に示す。
【0147】
図12より、pTG11236 10μgとppTG21 0.6μgとを同時注射することで遺伝子発現が明らかに高まることがはっきり示される。この高まりは非濃縮脂質HPCで得られた結果に匹敵するものである。
参考文献
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Wyman, T.B et al., 1997, Biochemistry 36 : 3008-3017
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1A】リポソームリーケージアッセイ。漸増量のペプチドJTS1、ppTG1、JTS1−K13、KALAおよびppTG20が示される。図1AはpH5で行ったリポソーム漏出アッセイの結果である。図1BはpH7で得られた結果の概要である。
【図1B】リポソームリーケージアッセイ。漸増量のペプチドJTS1、ppTG1、JTS1−K13、KALAおよびppTG20が示される。図1AはpH5で行ったリポソーム漏出アッセイの結果である。図1BはpH7で得られた結果の概要である。
【図2】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1、PEIおよびリポフェクチンの比較。リポフェクチン、PEIまたは指定の電荷比(+/−)のppTG1を加えて製造したプラスミドpTG11056 0.5μg、0.1μg、0.05μgまたは0.01μgで293−EBNA細胞をトランスフェクトした。モックはバッファーでのトランスフェクションとする。
【図3】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1およびリポフェクチンの比較;電荷比の影響。7×104HeLa細胞を24ウェルプレートで培養した。翌日、リポフェクチンまたは指定の電荷比(+/−)のppTG1を加えて製造したpTG11236 0.5μgまたは0.05μgで細胞をトランスフェクトした。
【図4】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1およびJTS1−K13の比較。指定の電荷比(+/−)のppTG1またはJTS1−K13を加えて製造したpTG11236 0.5μgまたは0.05μgで5×104 HeLa細胞をトランスフェクトした。JTS1−K13の推定は分子あたりの正味の正電荷+5に基づいて行われる。
【図5a】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1およびKALAの比較。指定の電荷比(+/−)のppTG1またはKALAを加えて作製したpTG11236(=p) 50または500ngで5×104 HeLaまたはCHO細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後20時間で確認されるルシフェラーゼ活性を図5A(HeLa細胞)および図5B(CHO細胞)に示す。
【図5b】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1およびKALAの比較。指定の電荷比(+/−)のppTG1またはKALAを加えて作製したpTG11236(=p) 50または500ngで5×104 HeLaまたはCHO細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後20時間で確認されるルシフェラーゼ活性を図5A(HeLa細胞)および図5B(CHO細胞)に示す。
【図6】in vitroトランスフェクション試験−pcTG90/DOPE有りおよび無しでのppTG1の比較。ppTG1またはKALAと複合体化したpTG11236 500ngまたは50ngでHeLaまたはCHO細胞をトランスフェクトした。電荷比+/−は1、2、3、4、7〜10と変えた。
【図7】in vivo試験。各群5匹のB6SJLマウスにppTG1単独またはppTG1 42gの不在または存在下、pcTG90/DOPE 1:2を加えて製造したpTG11236 60μgまたは30μgを静脈注射した。各製剤の最終電荷比を示す。
【図8】トランスフェクション効率−JTS−1の効果。
【図9A−1】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。A)ppTG1、JTS−1−K13、KALAおよびJTS−1のpH5およびpH7での比較。
【図9A−2】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。A)ppTG1、JTS−1−K13、KALAおよびJTS−1のpH5およびpH7での比較。
【図9B】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。B)ppTG1およびプラスミドpTG11236の複合体のpH7でのリポソーム漏出活性。
【図9C】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。C)ppTG1、ppTG20およびppTG21のpH7での比較。
【図9D】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。D)ppTG1、ppTG20−D、ppTG22、ppTG23およびppTG24のpH7での比較。
【図9E】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。E)ppTG1とppTG25、ppTG26およびppTG27とのpH7での比較。
【図9F】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。F)ppTG1と一連のペプチドppTG28〜ppTG33とのpH7での比較。
【図9G】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。G)ppTG1およびppTG20とPEG−ppTG1およびPEG−ppTG20とのpH7での比較。
【図10A】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
【図10B】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。B)ppTG1、ppTG20およびppTG21。
【図10C】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。C)ppTG25、ppTG26およびppTG27。
【図10D−1】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。D)ppTG1および一連のppTG28〜ppTG33。
【図10D−2】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。D)ppTG1および一連のppTG28〜ppTG33。
【図10E】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。E)ppTG1、PEG−ppTG1およびPEG−ppTG20。
【図10F】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。F)ppTG1、ppTG22、ppTG23およびppTG24。
【図10G】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。G)ppTG1およびppTG20−D。
【図11A】in vivo試験。アスタリスクの付いた数は各群5匹のうちの死亡マウス数を示す。A)各群5匹のB6SJLマウスにpcTG90/DOPE 1:2 [P/N] 10、または指定量のppTG1、ppTG20およびppTG32と複合体化したpTG11236 60μgまたは50μgを静脈注射した。注射後1日目にマウスを犠牲にし、肺のルシフェラーゼ活性を調べた。
【図11B】in vivo試験。アスタリスクの付いた数は各群5匹のうちの死亡マウス数を示す。B)各群5匹のB6SJLマウスにppTG1、JTS−1−K13およびppTG20と複合体化したpTG11236 60μgまたは50μgを静脈注射した。注射後1日目にマウスを犠牲にし、肺のルシフェラーゼ活性を調べた。
【図11C】in vivo試験。アスタリスクの付いた数は各群5匹のうちの死亡マウス数を示す。C)5匹のB6SJLマウス群全てに0日目のppTG1と複合体化したpTG11236またはpTG11022 (「エンプティベクター」)60μgの予備注射後、0、3および14日目にppTG1 150μgと複合体化したpTG11236 60μgを静脈注射した。翌日、マウスを犠牲にした。肺のルシフェラーゼ活性/mgタンパク質を示す。
【図11D】in vivo試験。アスタリスクの付いた数は各群5匹のうちの死亡マウス数を示す。D)各群5匹のB6SJLマウスにppTG1、ppTG20またはppTG20−D 180μgと複合体化したpTG11236 60μgを静脈注射した。注射後1日目にマウスを犠牲にし、肺のルシフェラーゼ活性を示す。
【図12】HPCまたはppTG21の存在または不在下、pH8でのpTG11236プラスミド(pと記載)10マイクログラムの腫瘍内投与後1日目のRENCA腫瘍のルシフェラーゼ活性。
【0001】
発明の分野
本発明は、目的物質の細胞への導入を強化するのに有用な組成物を製造するための、非複合体化ペプチドの使用に関する。かかる組成物は遺伝子治療、予防接種、および目的物質、特に核酸が細胞にin vivo投与されるいずれもの治療または予防状況において特に有用である。
【0002】
背景技術
遺伝子治療は遺伝物質の細胞または生物への導入と定義されうる。数年のうちに遺伝子治療によるヒト疾患治療の可能性は理論的検討段階から臨床応用の段階に移行する。ヒトに適用された最初のプロトコールは1990年9月にアメリカ合衆国においてアデニン・デアミナーゼ(ADA)欠損症患者で開始された。この最初の有望な試験は数々の新規なる応用および現在進められている遺伝子治療に基づく有望な臨床試験の後に行われた(例えば、http://cnetdb.nci.nih.gov/trialsrch.shtmlまたはhttp://www. wiley.co.uk/genetherapy/clinical/に挙げられる臨床試験を参照)。
【0003】
遺伝子治療の成功は主として目的の治療遺伝子の効率的な送達によって得られ、生体生物の細胞内でのその発現を可能にする。治療遺伝子は種々のベクターを用いて細胞へ導入され、その結果、宿主ゲノムの一時的発現または恒久的な形質転換のいずれかが生じうる。この10年間、多数のウイルス、ならびに非ウイルスベクターが遺伝子導入用に開発されてきた(例えば、総説としてはRobbins et al., 1998, Tibtech 16, 35-40 and Rolland, 1998, Therapeutic Drug Carrier Systems 15, 143-198を参照)。
【0004】
これまでに使用されてきた細胞内遺伝子送達機構のほとんどがウイルスベクター、特に、アデノウイルス、ポックスウイルスおよびレトロウイルスベクターである(総説としてはRobbins et al., 1998, Tibtech, 16, 35-40を参照)。しかしながら、ウイルスの上記使用では、レトロウイルスベクターは大型のヌクレオチド配列(例えば、約13kbであるジストロフィン遺伝子)を収容できないこと、レトロウイルスゲノムは宿主細胞DNAに組み込まれ、そのため、レシピエント細胞において遺伝子変化をもたらしうること、感染ウイルス粒子が生物内または環境に拡散しうること、アデノウイルスベクターは治療した患者において強い免疫応答を誘導しうること(Mc Coy et al, 1995, Human Gene Therapy, 6, 1553-1560; Yang et al., 1996, Immunity, 1, 433-442)など、多くの不利な点がある。
【0005】
このため、大量生産、安全性、低免疫原性、および大きなDNA断片の送達能力に関し特に有利な非ウイルス系が提案されてきた。例えば、核酸の陽イオン脂質または陽イオンポリマーとの複合体化に基づき、非ウイルスベクター代替物が提案されてきた(総説としてはRolland, 1998, Therapeutic Drug Carrier Systems, 15, 143-198を参照)。これらの陽イオン化合物は陰イオン分子と複合体を形成することができ、そのため、それらの負電荷を中和する傾向があり、かつそれらをそれらの細胞への導入に有利に働く複合形態に構成可能である。これらの非ウイルス送達系は、例えば、受容体媒介性機構(Perales et al., 1994, Eur. J. Biochem. 226, 255-266; Wagner et al., 1994, Advanced Drug Delivery Reviews, 14, 113-135)、ポリアミドアミン(Haensler et Szoka, 1993, Bioconjugate Chem., 4, 372379)、樹状ポリマー(WO95/24221)、ポリエチレンイミンもしくはポリプロピレンイミン(WO96/02655)、ポリリジン(米国特許US−A−5595897またはフランス特許FR2719316)などのポリマー媒介性トランスフェクション、またはDOTMA(Felgner et al., 1987, PNAS, 84, 7413-7417)、DOGSもしくはトランスフェクタム(商標)(Behr et al., 1989, PNAS, 86, 6982-6986)、DMRIEもしくはDORIE(Felgner et al., 1993, Methods 5, 67-75)、DC-CHOL(Gao et Huang, 1991, BBRC, 179, 280-285)、DOTAP(商標)(McLachlan et al., 1995, Gene Therapy, 2, 674-622)、リポフェクタミン(商標)もしくはグリセロ脂質化合物(例えば、欧州特許第EP901463号およびWO98/37916を参照)などの脂質媒介性トランスフェクション(Felgner et al., 1989, Nature, 337, 387-388)に基づくものである。
【0006】
もう一つの代替物が1990年に、裸のRNAまたはDNAの注入、すなわち特別な送達系を用いずに直接マウス骨格筋に注射することで筋肉細胞内でのリポーター遺伝子の発現がもたらされることを示したWolff et al.(Science 247 (1990), 1465-1468)により提案された。細胞をトランスフェクトするこの技術により有利な簡便性が提供され、さらに肺(Tsan et al., Am. J. Physiol. 268 (1995), L1052-L1056; Meyer et al., Gene Therapy 2 (1995), 450-460)、脳(Schwartz et al., Gene Therapy 3 (1996), 405-411)、関節(Evans and Roddins, Gene therapy for arthritis; In Wolff (ed) Gene therapeutics: Methods and Applications of direct Gene Transfer. Birkhaiser. Boston (1990), 320-343)、甲状腺(Sikes et al., Human Gen. Ther. 5 (1994), 837-844)、皮膚(Raz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 (1994), 9519-9523)および肝臓(Hickman et al., Hum. Gene Ther. 5 (1994), 1477-1483)への送達に関するこの系の有用性を確認する試験が行われた。
【0007】
それでもなお、Davis et al.(Human Gene Therapy 4 (1993), 151-159 and Human Mol. Genet. 4 (1993), 733-740) は、例えば、一次的筋疾患の治療では、不足していると思われる、骨格筋にin vivo注入された裸のDNAの発現に大きな変動性があることを観察した。著者らは筋肉に比較的大量の高張スクロースまたは毒素、例えば、ヘビから単離される心臓毒を予備注射して筋肉の再生を促すことにより遺伝子導入効率の向上を達成するという解決法を提示している。しかし、これらの方法は有望なものではあるがヒト治療には適用できない。
【0008】
さらに、詳細な検討の結果、これらの非ウイルス系の細胞内送達の主要経路はエンドサイトーシスによる小胞へのインターナリゼーションであることが分かっってきた。エンドサイトーシスは真核細胞が小さなエンドサイトーシス小胞の形態、すなわち、細胞外液および分子材料、例えば、核酸分子を取り込むエンドソームとして原形質膜の部分を摂取する自然プロセスである。細胞内では、これらのエンドソームは細胞内分解の特異部位であるリソソームと融合する。リソソームは酸性であり、エンドソーム小胞の分子内容物を消化する種々の分解酵素を含んでいる。従って、エンドサイトーシス後、インターナライズされた材料は膜によってさらに細胞質から分離されるため、その所望の機能を果たすことができない。実際、上記所望の機能、すなわち、所望の治療効果はほとんどの核酸導入アプローチにおいて、少なくとも細胞質(例えば、RNAに関して)への、もっと正確に言えば、それらの機能効果が生じうる細胞の核(例えば、ポリペプチドまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするDNAに関して) へのそれらの送達によって変化する。そのため、インターナライズされた核酸のエンドソーム小胞への集積により核酸の細胞への機能導入効率がかなり低下し、その結果として遺伝子治療の効果が低くなる(Zabner et al., 1995, J. Biol. Chem., 270, 18997-19007)。
【0009】
よって、生存生物の細胞への効率的な送達およびその細胞内での遺伝情報の発現は送達系の核酸分子を細胞へ導入する能力ならびに核酸のエンドソーム保持および分解回避を促すその能力の両方によって変化する。
【0010】
送達系がエンドサイトーシスを介して細胞によって取り込まれてしまうと、それは細胞質に局在するまたは核に移動するエンドソームコンパートメントから脱出しなければならない。一般的な方法は、例えば、融合誘導性または膜分解性/エンドソーム分解性ペプチドを用いることによりエンドソーム分解を促進することである(Mahato et al., 1999, Current Opinion in Mol. Therapeutics, 1, 226-243を参照)。
【0011】
ある微生物(例えば、ウイルス)は自然に受容体媒介性エンドサイトーシスを介してインターナライズされるものであり、上記のエンドソーム分解を回避する系を発展させた。この性質に基づき、トランスフェクション培地に添加される(Cotten et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 6094-6098)、または送達複合体と直接結合させる(Wu et al., 1994, J. Biol. Chem., 269,11542-11546;米国特許第5,928,944号)いずれかの複製欠陥アデノウイルス粒子またはライノウイルス粒子のエンドソーム不安定化活性をはじめとする遺伝子導入系が提案された。これらの系についてのin vivo遺伝子導入によって生じる発現レベルは将来的な見込みはあるものの依然比較的低いものであり、さらなる最適化が必要である。また、合成系も生み出された。融合誘導活性を有する最も特徴的な合成ペプチドはインフルエンザ血球凝集素HA2サブユニットのN末端ペプチド(例えば、INFペプチド)の第1の23個のアミノ酸から誘導されるものである。pH7では、このペプチドは優先的にランダムコイル構造をとる。pH5では、両親媒性のα‐へリックスコンホメーションが有利であり、ペプチドはエンドソーム分解性となる。同様に、Gottschalk et al.(1996, Gene Therapy, 3, 448-457)により開発された合成ペプチドJTS−1はINF配列GLFEAで始まり、その後に最適化されたペプチド配列が続くものである。このJTS−1ペプチドはホスファチジルコリンリポソームを含有するカルセインをpH7よりもpH5において有利に溶解しうることが分かった。
【0012】
しかしながら、核酸の細胞内送達には上記ペプチドがそれらの融合誘導活性と上記核酸を細胞へ導入しうる送達複合体を形成するための核酸複合体化活性とを併せもつ必要がある。
【0013】
現在までに開発されたいくつかの系は上記の特徴(例えば、WO96/40958、WO98/50078またはGottschalk et al., 1996, Gene Therapy, 3,448-457, Haensler & Szoka, 1993, Bioconjugate Chem., 4, 372-379)を示す二つの異なる要素を併せもっている。これらの2成分系は実際には酸性残基(グルタミン酸およびアスパラギン酸アミノ酸)により、エンドソームpHに関し特異性を有するペプチドを含有している。中性pHでは、負電荷を有するカルボン酸基によってこれらのペプチド構造が不安定化する;カルボン酸基の酸性化によってペプチドの多量体化および/または膜相互作用が促され、膜不安定化および漏出がもたらされる。Wagner et al.(1999, Advanced Drug Delivery Reviews, 38, 279-289)はこのpH特異性を分析し、ペプチドへのさらなるグルタミン酸の導入によってそれらのpH特異性を高め、その結果として、それらのエンドソーム破壊特性を高めることができることを示した。しかしながら、ウイルス粒子のエンドソーム破壊特性を有し、かつ核酸分子と結合して複合体を形成することができる上記の混合系が細胞内核酸導入を促進し、in vitroならびにin vivo状況下で機能するには性質の異なる各部分(すなわち、核酸結合リガンドと膜不安定化合成ペプチド)の微妙なバランスを示す必要がある。
【0014】
簡易系を提案するために、Wyman et al.(1997, Biochemistry, 36, 3008-3017)は核酸分子のin vitroトランスフェクションを促進することができ、かつ膜破壊を引き起こすことができる設計された合成ペプチド、KALAを用いる単一成分系を開発した。正電荷を有する親水性リジンアミノ酸残基は核酸分子を結合するために選択されものであるが、グルタミン酸アミノ酸残基はKALAペプチドにpH特異性を与え、それによってそのエンドソーム破壊特性を確実なものとするためにさらに保持されている。
【0015】
入手可能な核酸送達系はin vivo遺伝子治療での利用において安全性または効率に関しまだ満足に値するものではなく、さらなる最適化が必要である。
【発明の概要】
【0016】
本発明の基礎となる技術的な課題は目的物質、好ましくは治療、好ましくは遺伝子治療に有用である核酸分子を細胞へ送達するための改良された方法および手段を提供することである。この問題は特許請求の範囲で記載される態様を提供することによって解決される。
【0017】
よって、本発明は少なくとも1種の目的物質を細胞へ導入するための組成物を製造するための、ペプチドの使用、より詳しくは、少なくとも1種の目的物質の細胞への導入を強化するための組成物を製造するための、ペプチドの使用に関する。ここでこのペプチドは、下記(i)および(ii)からなる群から選択される:
(i)アミノ酸配列 Gly Leu Phe Xaa Ala Leu Leu Xaa Leu Leu Xaa Ser Leu Trp Xaa Leu Leu Leu Xaa Ala(配列番号1)を含んでなるまたはからなるペプチド[ここで、Xaaはアラニン(AlaまたはA)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、トリプトファン(TrpまたはW)、バリン(ValまたはV)、アスパラギン(AsnまたはN)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GluまたはQ)、グリシン(GlyまたはG)、セリン(SerまたはS)、トレオニン(ThrまたはT)およびチロシン(TyrまたはY)からなる群から互いに独立して選択される]、および
(ii)アミノ酸配列(配列番号7) Gly-Leu-Phe-His-Ala-Leu-Leu-His-Leu-Leu-His-Ser-Leu-Trp-His-Leu-Leu-Leu-His-Alaを含んでなるまたはからなるペプチド[なお、前記ペプチドは前記組成物において好ましくは6より大きい、さらに好ましくは6.5より大きい、なお好ましくは7より大きい、いっそうさらに好ましくは7.5より大きいpH、最も好ましくは約8である]。
【0018】
本発明者らはこれまでに(以下の例1〜12を参照)細胞膜破壊を引き起こし、陰イオン物質、特に核酸分子を結合することができる陽イオンペプチドを同定して複合体を作製し、それによって上記複合体化陰イオン物質の細胞への導入を強化した。すなわち、これらの陽イオンペプチドは酸性アミノ酸を含んでおらず、さらに詳しくはグルタミン酸アミノ酸(GluまたはE)を含んでいない。かかる陽イオンペプチドの例はアミノ酸配列 Gly Leu Phe Xaa Ala Leu Leu Xaa Leu Leu Xaa Ser Leu Trp Xaa Leu Leu Leu Xaa Ala(配列番号1)を含んでなるか、またはからなる、ペプチド[ここで、Xaaはリジン(LysまたはK)、ヒスチジン(HisまたはH)およびアルギニン(ArgまたはR)アミノ酸からなる群から互いに独立して選択される]である。
【0019】
現在、試験された一つのペプチド、ppTG21;配列番号7がpH8ではプラスミドDNAと結合できないが6より大きいpHで核酸組成物に加えて使用した場合、特に上記組成物が腫瘍性組織に投与される場合に脊椎動物細胞への核酸導入効率の飛躍的な向上をもたらすことが驚くべきことに分かっている(例13を参照)。ppTG21がpH8でDNAと結合できない事実はプラスミドDNAとppTG21ペプチド間の結合を妨げるppTG21のヒスチジン残基のプロトン化状態(pK6)により説明されうる。pH8ではDNA結合ができないため、これまでppTG21は上記核酸を細胞へ導入するのに有用な核酸を含有する複合体の製造から排除されていた。
【0020】
しかしながら、本願において提供される結果では核酸の細胞への導入を強化するための医薬組成物の製造に、核酸との複合体形成がなされない非荷電ペプチドも使用できることを示している。
【0021】
「目的物質」とは、好ましくは、荷電分子(電荷数に制限はない)をいう。好ましくは、上記分子は目的の陰イオン物質であり、さらに好ましくは、それはタンパク質および核酸分子からなる群から選択される。好ましい態様によれば、上記目的の陰イオン物質は核酸である。
【0022】
本発明の範囲内で使用する「核酸」または「核酸分子」とは、一本鎖または二本鎖、直鎖または環状、天然または合成、修飾または非修飾のDNAまたはRNA、もしくは断片、もしくはその組合せ(米国特許第5525711号、同第4711955号、同第5792608号または欧州特許第EP302175号(変形例)を参照)(大きさに制限はない)を意味する。中でも、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、またはかかるRNAをコードするDNAであることができる。「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸分子」および「核酸」は、本発明において同義語である。核酸は直鎖または環状ポリヌクレオチド形態、好ましくはプラスミド形態であってよい。また、核酸は例えば、アンチセンスまたはリボザイム機能に関しては細胞に送達されるオリゴヌクレオチドであることができる。本発明によれば、核酸は、好ましくは裸のポリヌクレオチドである(Wolff et al., Science 247 (1990), 1465-1468)か、またはポリヌクレオチドの細胞への取り込みに関与しうるポリペプチド、好ましくはウイルスポリペプチド、または陽イオン脂質、もしくは陽イオンポリマー、もしくはその組合せなどの少なくとも1種の化合物(総説としてはLedley, Human Gene Therapy 6 (1995), 1129-1144を参照) 、またはプロトン性極性化合物(例は本願において以下にまたは欧州特許第EP890362号に示される)とともに合成される。また、核酸は、さらにウイルスベクター(アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ポックスウイルスベクターなど)も示す。本発明において「ウイルスベクター」とは、ベクターゲノム、ウイルス粒子(すなわち、ウイルスゲノムをはじめとするウイルスキャプシド)、ならびにエンプティーウイルスキャプシドを包含する。
【0023】
「プラスミド」とは、染色体外環状DNAをいう。プラスミドの選択は非常に多様である。プラスミドは様々な製造業者から購入することができる。好適なプラスミドとしては、限定されるものではないが、pBR322(Gibco BRL)、pUC(Gibco BRL)、pBluescript(Stratagene)、pREP4、pCEP4(Invitrogene)、pCI(Promega)およびpポリ(Lathe et al., Gene 57 (1987), 193-201)由来のものが挙げられる。分子生物学技術(Sambrook et al., Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (1989), NY)によりかかるプラスミドを改変することもできる。プラスミドはトランスフェクト細胞(例えば、細胞栄養要求性、抗生物質耐性の誘導による)、安定化エレメント(例えば、cer配列; Summers and Sherrat, Cell 36 (1984), 1097-1103)または組込みエレメント(例えば、LTRウイルス配列)を選択または同定するために選択遺伝子を含んでもよい。
【0024】
好ましくは、核酸分子は、転写、翻訳されて目的のポリペプチドおよびその発現を可能にするエレメント(すなわち、発現カセット)を生じうる少なくとも一つの目的のコード化遺伝子配列(すなわち、転写ユニット)を含んでなる。核酸が遺伝子発現に好適な環境におかれている場合にそれがこの正確な遺伝情報を有しているならば、その転写ユニットがコードされた遺伝子産物を発現すると考えられる。発現のレベルおよび細胞特異性は、関連プロモーターの強度および起源、ならびに関連エンハンサーエレメントの存在および活性化に非常に左右される。よって、好ましい態様では、転写制御エレメントには、CMVプロモーター/エンハンサーなどのプロモーター/エンハンサー配列が含まれる。なお、当業者ならば、ウイルス、原核生物(例えば、細菌)、または真核生物から得られると考えられ、構成性または調節可能であり、真核細胞、特に標的細胞または組織内での発現に好適である種々の他のプロモーターおよび/またはエンハンサー配列が公知であることが分かるであろう。さらに厳密には、標的細胞または組織による発現に必要なこの遺伝情報は、上記遺伝子配列(この遺伝子配列がDNAである場合)のRNAへの転写、好ましくはmRNAへの転写、および、必要に応じて、mRNAのポリペプチドへの翻訳、に必要な全てのエレメントを含んでなる。種々の脊椎動物系での使用に好適なプロモーターは文献で広く記載されている。好適なプロモーターとしては、限定されるものではないが、アデノウイルスEla、MLP、PGK(ホスホグリセロキナーゼ;Adra et al. Gene 60 (1987) 65-74; Hitzman et al. Science 219 (1983) 620-625)、RSV、MPSV、SV40、CMVまたは7.5k、ワクシニアプロモーター、誘導プロモーター、MT(メタロチオネイン; Mc Ivor et al., Mol. Cell Biol. 7 (1987), 838-848)、α−1アンチトリプシン、CFTR、免疫グロブリン、α−アクチン(Tabin et al., Mol. Cell Biol. 2 (1982), 426436)、SR(Takebe et al., Mol. Cell. Biol. 8 (1988), 466-472)、初期SV40(シミアンウイルス)、RSV(ラウス肉腫ウイルス) 、LTR、TK−HSV−1、SM22(WO97/38974)、デスミン(WO96/26284)、および初期CMV(サイトメガロウイルス;Boshart et al. Cell 41 (1985) 521)などが挙げられる。また、Chalcrabarti et al.(1997, Biotechniques 23,1094-1097)、Hammond et al.(1997, J. Virological Methods 66, 135-138)またはKumar and Boyle(1990, Virology 179,151-158)に記載されるものなどの合成プロモーター、ならびに初期および後期ポックスウイルスプロモーターのキメラプロモーターを使用してもよい。また、腫瘍細胞で活性であるプロモーターも使用できる。好適な例としては、限定されるものではないが、MUC−1(乳癌および前立腺癌で過剰発現;Chen et al., J. Clin. Invest. 96 (1995), 2775-2782)、CEA(癌胎児抗原;結腸癌で過剰発現;Schrewe et al., Mol. Cell. Biol. 10 (1990), 2738-2748)、チロシナーゼ(黒色腫で過剰発現;Vile et al., Cancer Res. 53 (1993), 3860-3864)、ErbB-2(乳癌および膵臓癌で過剰発現;Harris et al., Gene Therapy 1 (1994), 170-175)およびα-ホエトプロテイン(肝臓癌で過剰発現;Kanai et al., Cancer Res. 57 (1997), 461-465)、またはその組合せからなる群から選択されるタンパク質をコードする遺伝子から単離されたプロモーターが挙げられる。本発明に関しては初期CMVプロモーターが好ましい。
【0025】
核酸はまた、イントロン配列、標的化配列、輸送配列、複製または組込みに関連した配列を含むことができる。これらの配列は文献で報告されており、当業者は容易に入手することができる。また、核酸を改変して特定の成分、例えば、スペルミンにより安定化させることも可能である。それをさらに、例えば、化学修飾に変えて、例えば、本発明のペプチドなどの特定のポリペプチドとのその結合を助けることもできる。本発明によれば、核酸はそれが導入される標的細胞と同種であってもまたは異種であってもよい。
【0026】
好ましい態様では、核酸は、治療分子(すなわち、治療遺伝子)である遺伝子産物をコードする少なくとも一つの目的の遺伝子配列を含有している。「治療分子」とは、好適には患者、特に、ある疾患または病状に苦しむ患者、またはこの疾患または病状から守るべき人に投与した際または発現させた際に薬理学的または防御活性を有するものである。かかる薬理学的または防御活性は上記疾患または上記病状の進行または症状への有益な効果との関連が期待されるものである。当業者が本発明を適用する過程で治療分子をコードする遺伝子を選択する際、一般に自分の選択をこれまでに得られた結果と対応させ、請求された本発明の実施以外の不必要な試験を行うことなく、合理的にかかる薬理学的性質が得られると期待できる。本発明によれば、目的の配列はそれが導入される標的細胞と同種であってもまたは異種であってもよい。有利には、上記目的の配列はポリペプチド、特に治療または予防効果を与える治療または予防ポリペプチドの全てまたは一部をコードする。ポリペプチドとは、大きさに関係なく、またグリコシル化されていてもそうでなくても、ポリヌクレオチドの全ての翻訳産物であると考えられるものであり、ペプチドおよびタンパク質を含んでいる。治療ポリペプチドとしては、主な例として、動物またはヒトの欠陥または欠損タンパク質を補うことができるこれらのポリペプチド、または毒作用によって働いて有害な細胞を制限するまたは体から取り除くものが挙げられる。また、これらは内因性抗原として働いて液性または細胞性の応答、もしくはその両方を誘導する免疫付与ポリペプチドでありうる。
【0027】
次のコード化遺伝子配列は特別注目されているものである。例えば、サイトカイン(α、βまたはγ−インターフェロン、インターロイキン(IL)、特にIL−2、IL−6、IL−10またはIL−12、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー刺激因子(GM−CSF、C−CSF、M−CSFなど)、免疫活性化ポリペプチド(B7.1、B7.2、CD40、CD4、CD8、ICAMなど)、細胞または核受容体、受容体リガンド(fasリガンドなど)、凝固因子(FVIII、FIXなど)、増殖因子(形質転換増殖因子 TGF、線維芽細胞増殖因子FGFなど)、酵素(ウレアーゼ、レニン、トロンビン、メタロプロテイナーゼ、一酸化窒素シンターゼ NOS、SOD、カタラーゼなど)、酵素阻害剤(α1−アンチトリプシン、アンチトロンビンIII、ウイルスプロテアーゼ阻害剤、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤 PAI-1など)、CFTRタンパク質、インスリン、ジストロフィン、MHC抗原(主要組織適合遺伝子複合体)クラスIもしくはIIまたは一つ以上の細胞遺伝子の発現を調整/調節できるポリペプチド、細菌、寄生生物もしくはウイルス感染またはその発症を抑制できるポリペプチド(抗原ポリペプチド、抗原エピトープ、競合により天然タンパク質の作用を抑制するトランスドミナント変異体など)、アポトーシス誘導因子または抑制因子(Bax、Bcl2、BclXなど)、細胞増殖抑制因子(p21、pl6、Rbなど)、アポリポタンパク質(ApoAI、ApoAIV、ApoEなど)、脈管形成阻害薬(アンギオスタチン、エンドスタチンなど)、脈管形成ポリペプチド(血管内皮増殖因子 VEGFファミリー、FGFファミリー、CTGF、Cyr61およびNovをはじめとするCCNファミリーなど)、酸素ラジカル捕捉剤、抗腫瘍作用を有するポリペプチド、抗体、毒素、抗毒素およびマーカー(β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなど)をコードする遺伝子、または病態の治療または予防に有用であると当技術分野で認められているその他の目的の遺伝子。遺伝性機能障害を治療するという点から見て、欠陥遺伝子の機能的対立遺伝子、例えば、AまたはB型血友病では第VIIIまたはIX因子、ミオパシーではジストロフィン (もしくはミニジストロフィン)、糖尿病ではインスリン、嚢胞性線維症ではCFTR(嚢胞性線維性膜貫通調節因子)をコードする遺伝子を使用してもよい。好適な抗腫瘍遺伝子としては、限定されるものではないが、アンチセンスRNA、リボザイム、単純ヘルペス1型ウイルスのチミジンキナーゼ(TK-HSV-1)などの細胞傷害性産物、リシン、細菌毒、UPRTアーゼ(ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ)およびCDアーゼ(シトシンデアミナーゼ)活性を各々有する酵母遺伝子FCY1および/またはFUR1の発現産物、抗体、細胞分裂または形質導入シグナルを抑制するポリペプチド、癌抑制遺伝子(p53、Rb、p73)、宿主免疫系を活性化するポリペプチド、腫瘍関連抗原(MUC−1、BRCA−1、HPV初期または後期抗原(E6、E7、LI、L2)をコードするものが挙げられるが、所望により、サイトカイン遺伝子と組み合わせてもよい。ポリヌクレオチドは抗体もまたコードすることができる。これに関し、「抗体」とは、全てのクラスの全免疫グロブリン、二重もしくは多重抗原またはエピトープ特異性を有するキメラ抗体およびハイブリッド抗体、ならびにハイブリッドフラグメントをはじめとするF(ab)’2、Fab’、Fabおよび抗イディオタイプなどのフラグメントを包含するものである(米国特許第4,699,880号)。有利には、上記核酸は免疫付与ポリペプチドであり、細胞内ウイルスをはじめとする感染因子または腫瘍細胞に対して内因性免疫原として働いて液性または細胞性の応答、もしくはその両方を誘導するポリペプチドの全てまたは一部をコードする。「免疫付与ポリペプチド」とは、上記ポリペプチドがトランスフェクト細胞で産生される場合にそれが処置した患者の免疫応答に関与していることを意味する。すなわち、APCなどの大飲細胞で産生されたまたはその細胞により取り込まれた上記ポリペプチドが加工され、生じたフラグメントがMHCクラスIおよび/またはII分子によりこれらの細胞の表面に提示され、特定の免疫応答を誘導する。
【0028】
核酸は1種以上の目的の遺伝子を含んでいてもよい。これに関し、自殺遺伝子産物をコードする遺伝子およびサイトカイン遺伝子(例えば、α、βまたはγ−インターフェロン、インターロイキン(好ましくはIL−2、IL−4、IL−6、IL−10またはIL−12から選択される)、TNF因子、GM−CSF、C−CSF、M−CSFなど)、免疫活性化遺伝子(例えば、B7.1、B7.2、ICAM)またはケモカイン(chimiokine)遺伝子(例えば、MIP、RANTES、MCP 1)の組合せが有利である。異なる遺伝子発現は特異なプロモーター(ポリシストロン性カセット)または独立したプロモーターによって制御しうる。さらに、それらは核酸に沿って、同じまたは逆方向のいずれかに、特異部位または種々の部位に挿入しうる。
【0029】
目的のコード化遺伝子配列は分子生物学の通常の技術(PCR、好適なプローブを用いたクローニング、化学合成)であらゆる生物または細胞から単離しうる。要すれば、突然変異誘発、PGRまたは他のプロトコールによりその配列を改変しうる。
【0030】
また、「目的物質」は変異体または改変ペプチドをはじめとするペプチド(ポリペプチド、タンパク質およびペプチドは同義語である) 、ペプチド様分子、抗体もしくはそのフラグメント、キメラ抗体もしくはペプチドなどである。
【0031】
目的物質の細胞への伝達もしくは導入(introduction or transfer)プロセス自体は十分に公知である。「伝達もしくは導入」(introduction or transfer)とは、物質が細胞へ導入され、このプロセスの終わりには上記細胞内部またはその膜内もしくはその上に存在することを意味する。また、物質が核酸である場合、「伝達もしくは導入」(introduction or transfer)のことを「トランスフェクション」ともいう。トランスフェクションは好適な方法、例えば、上記核酸によりコードされた遺伝子の発現を定量する、もしくは発現タンパク質またはそのmRNAの濃度を測定する、またはその生物学的作用を調べることにより確認できる。
【0032】
これに関し、本発明の範囲において「導入の強化」(improved transfer)とは、上記ペプチド不在下で行われた導入に対する本発明のペプチドが存在する場合の細胞による目的物質のより効率的な導入を意味する。これは本発明で開示されたペプチドを使用しないで取り込まれた物質の量を対照とし、この量を同一試験条件下で上記ペプチドを使用した場合に細胞によって取り込まれた量と比較することによって確認することができる。好ましくは、導入の強化はペプチドを使用しない状況と比較した本発明のペプチドを含んでなる組成物、および/または6より大きいpHを有する、好ましくはpH8を有する組成物を使用した場合に細胞へ導入された核酸に存在する遺伝子の発現量の高まりによって確認することができる。
【0033】
一つの好ましい態様では、本発明のペプチドは膜破壊を引き起こしうるものである。本明細書において使用する「膜破壊を引き起こしうるペプチド」とは、膜、特に細胞膜、さらに詳しくはエンドソームおよび/またはリソソーム膜との相互作用によって膜不安定化および/または漏出、特にエンドソーム内容物の開放がもたらされるように相互作用しうるペプチドをいう。好ましくは、上記相互作用によってその細胞の細胞質へのエンドソームおよび/またはリソソーム内容物の流出が起こる。ペプチドの膜破壊性は例えば、付属の実施例またはOlson et al.(1979, Biochim. Biophys. Acta, 557,19-23)に記載される方法によって容易に測定できる。本明細書において使用する「膜」は、当業者が一般に理解している意味と同じ意味とする。一般に、主として脂質からなる単または二層をいい、結果的にはタンパク質を含有している。天然(例えば、細胞膜)および合成(例えば、リポソーム)膜が含まれる。好ましい膜は例えば、細胞膜、エンドソームもしくはリソソーム膜、トランスゴルジネットワーク膜、ウイルス膜、核膜などの天然膜である。上記の特性は試験の節で行うように評価できる。
【0034】
本明細書において使用する「ペプチド」、「アミノ酸残基」および「酸性アミノ酸残基」は、当業者が一般に理解している意味と同じ意味とする。好ましくは、「ペプチド」とは、長さが50残基未満、さらに好ましくは30残基未満、最も好ましくは20残基未満であるアミノ酸残基の重合体をいう。好ましい態様では、本発明において使用するペプチドの分子量は5kD未満、最も好ましくは3kD未満である。本発明のペプチドはデノボ合成法によりまたは真核または原核生物細胞における組換えDNA技術による好適なDNA断片の発現により作製しうる。特定の態様では、上記ペプチドはカルボキシル部分などの天然ペプチドに存在するものの代わりに1種以上の非加水分解性化学部分を含有する。その特殊な場合では、自然加水分解性部分が例えば、メチレン部分などの非加水分解性部分で置き換えられる。本発明はレトロまたはインベルソペプチドをはじめとする少なくとも一つのアミノ酸が類似特性を有する別のアミノ酸で置き換えられた上記ペプチド類似体(WO95/24916)もまた包含する。さらに、本発明において使用するリガンド部分は化学部分の置換または付加(例えば、グリコシル化、アルキル化、アセチル化、アミド化、リン酸化、メルカプト基付加など)によるその原型構造の改変がなされていてもよい。また、本発明は本発明のペプチドを検出可能にする改変も意図している。このためには、本発明のペプチドを検出可能な部分(すなわち、シンチグラフィック、放射性、蛍光部分、酵素、色素標識など)で改変できる。好適な放射性標識としては、限定されるものではないが、Tc99m、I123およびIn111が挙げられる。かかる標識は公知の方法で、例えば、システイン残基を介して本発明のペプチドに付けることができる。その他の技術は他の場所で記載される。標識した本発明のペプチドは診断目的に使用しうる(例えば、腫瘍性細胞、形質転換細胞などの造影)。
【0035】
特定の態様では、本発明のペプチドをそのNおよび/またはC末端で少なくとも一つのシステイン残基の付加により改変する。この改変により、例えば、本発明のペプチドの二、三または多重結合の形成が可能になる。改変ペプチドの上記結合は直鎖または環状でありうる。
【0036】
本発明のもう一つの態様では、本発明のペプチドが細胞特異的標的化が可能なリガンドまたは核標的化が可能なリガンドでさらに改変される。「細胞特異的標的化が可能なリガンド」とは、細胞膜の表面受容体(すなわち、抗リガンド)に結合するリガンド部分をいう。上記細胞膜表面受容体は高い親和性、好ましく高い特異性を有する上記リガンドを結合しうる分子または構造である。上記細胞膜表面受容体は好ましくは特定の細胞に特異的であり、すなわち、主としてある種の細胞で別の種の細胞におけるよりも見出される(例えば、肝細胞表面のアシアロ糖タンパク質受容体を標的化するガラクトシル残基)。細胞膜表面受容体は細胞標的化およびリガンドの標的細胞(すなわち、細胞特異的標的化に関与するペプチド) および結合分子(すなわち、本発明のペプチド)へのインターナリゼーションを助ける。
【0037】
本発明において使用しうる多くのリガンド部分/抗リガンドは文献で広く記載されている。かかるリガンド部分は本発明のペプチドに、所定の抗リガンド分子または少なくとも一つの標的細胞の表面に存在するある種の抗リガンド分子と結合する能力を与えうる。好適な抗リガンド分子としては、限定されるものではないが、細胞特異的マーカー、組織特異的マーカー、細胞受容体、ウイルス抗原、抗原エピトープおよび腫瘍関連マーカーからなる群から選択されるポリペプチドが挙げられる。抗リガンド分子はさらに1種以上の糖、脂質、糖脂質または抗体分子からなってよい、または含んでなってよい。本発明によれば、リガンド部分は例えば、脂質、糖脂質、ホルモン、糖、ポリマー(例えば、PEG、ポリリジン、PEI)、オリゴヌクレオチド、ビタミン、抗原、レクチンの全てまたは一部、例えば、JTSI(WO94/40958)などのポリペプチドの全てまたは一部、抗体もしくはそのフラグメント、またはその組合せであってよい。
【0038】
好ましくは、本発明において使用するリガンド部分は長さが少なくとも7つのアミノ酸であるペプチドまたはポリペプチドである。これは天然ポリペプチドまたは天然ポリペプチド由来のポリペプチドのいずれかである。「由来の」とは、(a)天然配列の一つ以上の改変(例えば、一つ以上の残基の付加、欠失および/または置換)、(b)天然アミノ酸でないアミノ酸類似体、または(c)置換結合または(d)当技術分野で公知のその他の改変を含むことを意味する。リガンド部分として働くポリペプチドは変異体および例えば、マウス抗体の可変領域とヒト免疫グロブリンの不変領域を合わせたヒト化抗体などの種々の起源の配列を融合することにより得られたキメラポリペプチドを包含する。さらに、かかるポリペプチドは直鎖または環状構造をとっていてもよい(例えば、システイン残基により両末端でポリペプチドリガンドにフランキングすることによる)。さらに、リガンド部分として使用するポリペプチドは化学部分の置換または付加(例えば、グリコシル化、アルキル化、アセチル化、アミド化、リン酸化、メルカプト基付加など)によるその原型構造の改変がなされていてもよい。本発明はさらにリガンド部分を検出可能にする改変も意図している。このためには、検出可能な部分(すなわち、シンチグラフィック、放射性、もしくは蛍光部分、または色素標識など)での改変が考えられる。好適な放射性標識としては、限定されるものではないが、Tc99m、I123およびIn111が挙げられる。かかる検出標識は標準技術によりリガンド部分に付けて診断目的に使用しうる(例えば、腫瘍性細胞の造影)。
【0039】
一つの特定の態様では、抗リガンド分子が抗原(例えば、標的細胞特異的抗原、疾患特異的抗原、操作された標的細胞の表面で特異的に発現される抗原)であり、リガンド部分が抗体、フラグメントまたは免疫学マニュアル(例えば、Immunology, third edition 1993, Roitt, Brostoff and Male, ed Gambli, Mosbyを参照)に詳細に記載されるものなどのその最小認識単位(すなわち、抗原特異性をなお示すフラグメント) である。リガンド部分がモノクローナル抗体であってよい。これらの抗原の多くと結合するモノクローナル抗体についてはモノクローナル抗体テクノロジーに関する現在の技術によりいずれの場合もすでに公知であり、ほとんどの抗原に対する抗体を作成することができる。リガンド部分が抗体の一部(例えば、Fabフラグメント)または合成抗体フラグメント(例えば、ScFv)であってもよい。
【0040】
選択された抗原に対して好適なモノクローナル抗体は公知の技術、例えば、“Monoclonal Antibodies: A manual of techniques”, H. Zola (CRC Press, 1988) および“Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications”, J. G. R. Hurrell (CRC Press, 1982)で開示されるものにより作製しうる。適切に作製された非ヒト抗体は公知の方法で、例えば、マウス抗体のCDR領域をヒト抗体のフレームワークに挿入することにより「ヒト化」(humanized)しうる。さらに、抗体の可変H(VH)および可変L(VL)ドメインが抗原認識と関係しているため、得られた抗体が齧歯動物親抗体の抗原特異性を有するように齧歯動物起源の可変ドメインとヒト起源の不変ドメインとを融合してもよい(Morrison et al (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81,6851-6855)。
【0041】
抗体の抗原特異性はFab様分子(Better et al (1988) Science 240, 1041);Fv分子(Skerra et al (1988) Science 240,1038);VHおよびVLパートナードメインがフレキシブルなオリゴペプチドで結合されるScFv分子(Bird et al (1988) Science 242, 423;Huston et al (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 5879)および単離されたVドメインを含んでなるdAb(Ward et al (1989) Nature 341, 544)をはじめとする可変ドメインにより与えられる。それらの特異的結合部位を有する抗体フラグメントの合成に関する技術の一般論はWinter & Milstein (1991) Nature 349, 293-299に見出せる。
【0042】
有利な態様によれば、リガンド部分は完全抗体よりも抗体フラグメントから選択される。補体結合などの完全抗体の有効な働きは取り除かれる。ScFvおよびdAb抗体フラグメントは一つ以上のその他のポリペプチドとの融合物として示される。最小認識単位はFvフラグメントの1以上の相補性決定領域(CDR)の配列から誘導されうる。完全抗体、およびF(ab’)2フラグメントは「二価」である。「二価」とは、上記抗体およびF(ab’)2フラグメントが二つの抗原結合部位を有することを意味する。これに対し、Fab、Fv、ScFv、dAbフラグメントおよび最小認識単位は一つの抗原結合部位しかない一価である。
【0043】
さらなる態様では、リガンド部分が天然細胞表面受容体結合に関係のある特定の部分の少なくとも一部である。もちろん、上記の天然受容体(例えば、ホルモン受容体)もまた標的細胞特異的抗原であってよく、モノクローナル抗体、ScFv、dAbまたは最小認識単位の特性を有するリガンド部分によって認識されうる。
【0044】
好ましい態様では、リガンド部分がウイルス感染した細胞の標的化を可能にし、ウイルス成分(例えば、エンベロープ糖タンパク質)を認識してそれと結合しうるまたはウイルス生物学(例えば、侵入または複製)を阻害しうる。例えば、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染細胞の標的化は、トランスメンブラン糖タンパク質gp41の高度に保存されたエピトープを認識する2F5抗体由来のリガンド部分などのHIVエンベロープのエピトープに特異的なリガンド部分(Buchacher et al., 1992, Vaccines 92, 191-195)またはその細胞受容体CD4へのHIV結合を妨害するリガンド部分(例えば、CD4分子の細胞外ドメイン)を用いて行うことができる。
【0045】
もう一つの好ましい態様では、リガンド部分が腫瘍細胞の標的化を可能にし、腫瘍特異的抗原、腫瘍細胞で特異的にまたは過剰発現される細胞タンパク質または癌関連ウイルスの遺伝子産物などの腫瘍状態と関係のある分子を認識してそれと結合しうる。
【0046】
腫瘍特異的抗原の例としては、限定されるものではないが、乳癌に関連するMUC−1(Hareuveni et al., 1990, Eur. J. Biochem 189, 475-486)、乳癌および卵巣癌に関連する変異型BRCA1およびBRCA2遺伝子によりコードされた産物(Miki et al., 1994, Science 226, 66-71; Futreal et al., 1994, Science 226, 120-122; Wooster et al., 1995, Nature 378, 789-792)、結腸癌に関連するAPC(Polakis, 1995, Curr. Opin. Genet. Dev. 5, 66-71)、前立腺癌に関連する前立腺特異的抗原(PSA)(Stamey et al., 1987, New England J. Med. 317, 909)、結腸癌に関連する癌胎児抗原(CEA)(Schrewe et al., 1990, Mol. Cell. Biol. 10, 2738-2748)、黒色腫に関連するチロシナーゼ(Vile et al., 1993, Cancer Res. 53, 3860-3864)、黒色腫細胞で高度に発現されるメラニン細胞刺激ホルモン(MSH)の受容体、乳癌および膵臓癌に関するErbB-2(Harris et al., 1994, Gene Therapy 1, 170-175)、および肝臓癌に関連するα-ホエトプロテイン(Kanai et al., 1997, Cancer Res. 57, 461-465)が挙げられる。
【0047】
本発明において使用する特定のリガンド部分はMUC−1抗原を認識してそれと結合し、その結果としてMUC−1陽性腫瘍細胞を標的化しうる抗体のフラグメントである。さらに好ましいリガンド部分はMUC−1抗原のタンデム反復配列領域を認識するSM3モノクローナル抗体のScFvフラグメントである(Burshell et al., 1987, Cancer Res. 47, 5476-5482; Girling et al., 1989, Int J. Cancer 43, 1072-1076; Dokumo et al., 1998, J. Mol. Biol. 284, 713-728)。
【0048】
腫瘍細胞で特異的にまたは過剰発現される細胞タンパク質の例としては、限定されるものではないが、あるリンパ腫瘍で過剰発現されるインターロイキン2(IL-2)の受容体、肺癌細胞、膵臓、前立腺および胃癌で過剰発現されるGRP(ガストリン分泌ペプチド)(Michael et al., 1995, Gene Therapy 2, 660-668)、TNF(腫瘍壊死因子)受容体、上皮細胞増殖因子受容体、Fas受容体、CD40受容体、CD30受容体、CD27受容体、OX-40、αvインテグリン(Brooks et al., 1994, Science 264, 569)およびある脈管形成増殖因子の受容体(Hanahan, 1997, Science 277, 48)が挙げられる。これらの例示に基づき、当業者によりかかるタンパク質を認識してそれと結合しうる好適なリガンド部分が同定される。例えば、IL-2はIL-2受容体を結合するのに好適なリガンド部分である。
【0049】
癌関連ウイルスの好適な遺伝子産物としては、限定されるものではないが、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)E6およびE7初期ポリペプチド、ならびに子宮頸癌で見られるLIおよびL2後期ポリペプチド(欧州特許第EP0462187号、米国特許第5,744,133号およびWO98/04705)およびバーキットリンパ腫に関係のあるエプスタイン-バーウイルス(EBV)のEBNA-1抗原(Evans et al., 1997, Gene Therapy 4, 264-267)が挙げられる。
【0050】
なおもう一つの態様では、リガンド部分が組織特異的分子の標的化を可能にする。例えば、肝臓細胞の標的化に好適なリガンド部分としては、限定されるものではないが、LDL受容体と結合しうるApoB(アポリポタンパク質)由来のもの、LPR受容体と結合しうるα−2−マクログロブリン、アシアロ糖タンパク質受容体と結合しうるα−1 酸糖タンパク質およびトランスフェリン受容体と結合しうるトランスフェリンが挙げられる。活性化内皮細胞を標的化するためのリガンド部分はシアリル−ルイス−X抗原(ELAM−1と結合しうる)、VLA−4(VCAM−1受容体と結合しうる)またはLFA−1(ICAM−1受容体と結合しうる)由来であってよい。CD34受容体との結合により造血前駆細胞を標的化するにはCD34由来のリガンド部分が有用である。ICAM−1由来のリガンド部分はLFA−1受容体との結合によりリンパ球を標的化するのに非常に向いている。最後に、T−ヘルパー細胞の標的化にはHIV gp−120またはCD4受容体と結合しうるクラスII MHC抗原由来のリガンド部分を使用してよい。
【0051】
「標的細胞」とは、本発明のペプチドが選択的に標的化しうる細胞または目的物質の導入が望ましい細胞種をいう。「標的細胞」は、リガンド部分および/または抗リガンド分子の性質により、特異な細胞種または共通した特徴として表面に本発明の複合体に存在するリガンド部分により認識される抗リガンド分子を有する異なる細胞種群を指すと考えられる。本発明の目的では、標的細胞は好適なリガンド部分を有する本発明の複合体により標的化されうる哺乳類細胞(好ましくはヒト細胞)である。「標的化する」とは、本発明の組成物と接触させた細胞の残る部分を選択してある細胞種または遺伝子導入用の細胞種群をアドレッシングすることをいう。標的細胞は一次細胞、形質転換細胞または腫瘍細胞でありうる。好適な標的細胞としては、限定されるものではないが、造血細胞(全能、幹細胞、白血球、リンパ球、単球、マクロファージ、APC、樹状細胞、非ヒト細胞など)、筋肉細胞(付随体、ミオサイト、筋芽細胞、骨格もしくは平滑筋細胞、心臓細胞)、肺細胞、気管細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞または線維芽細胞が挙げられる。
【0052】
「核標的化が可能なリガンド」とは、核受容体(核抗リガンド)と結合しうる特定のリガンドをいう。上記核受容体は核膜内または/および上に存在し、上記リガンドと結合することにより本発明のペプチドの核への細胞内輸送およびその核へのインターナリゼーションを助けうる分子または構造である。核標的化に関与するかかるリガンドの例はSV40ウイルスのT抗原(Lanford and Butel, 1984, Cell 37, 801-813)およびエプスタイン-バーウイルスのEBNA−1タンパク質(Ambinder et al., 1991, J. Virol. 65, 1466-1478)由来の核シグナル配列である。
【0053】
本発明は、好ましくは目的物質を細胞へ導入するための、本明細書上記において定義される少なくとも一つのペプチドおよび少なくとも1種の目的物質を含んでなる組成物もまた包含する。上記ペプチドがppTG21の場合、組成物のpH値は好ましくは6より大きい、さらに好ましくは6.5より大きい、なお好ましくは7より大きい、いっそうさらに好ましくは7.5より大きい、最も好ましくは約8である。好ましくは、上記目的物質は核酸であり、かつ上記組成物が遺伝子治療法における被検体細胞または組織への核酸送達に特に有用であるが、かかる使用に限定されるものではない。「遺伝子治療法」は、好ましくは細胞への核酸のin vivo導入法、または細胞へin vitro導入した後の被検体への再移植による方法のいずれかと考えられる。「遺伝子治療」は、特に遺伝子産物が組織内で発現される場合、ならびに遺伝子産物が特に血流に分泌される場合に関する。好ましい態様では、本発明の使用により製造される組成物中のペプチド量は約0.05マイクログラム〜約100マイクログラム、好ましくは約0.1マイクログラム〜約50マイクログラム、さらに好ましくは約0.5マイクログラム〜約15マイクログラムの範囲である。また、当業者ならばこれらの濃度およびpH条件を調整することができる。一般に、組成物中の核酸濃度は約0.01mM〜約1Mであり、好ましい態様は約0.1mM〜10mMである。
【0054】
この組成物は種々の形態、例えば、固体、液体、粉末、水溶液、凍結乾燥形態で製造できる。好ましい態様では、この組成物はヒトまたは動物の治療的処置法においてその使用を可能にする医薬上許容される担体をさらに含んでなる。この特定の場合では、担体は、好ましくは医薬上好適な注射可能担体または希釈剤である(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed. 1980, Mack Publishing Coを参照)。かかる担体または希釈剤は医薬上許容される、すなわち使用量および濃度でレシピエントに対し無毒である。これは好ましくは等張、低張またはやや高張であり、スクロース溶液によって提供されるような比較的低いイオン強度を有するものである。さらに、これに関連溶剤、滅菌、パイロジェンフリー水、分散媒、被覆剤、および等価物を含んでなる水性または部分水性液体担体、もしくは希釈剤(例えば、Tris−HCl、酢酸塩、リン酸塩)、乳化剤、可溶化剤または補助剤を含めてもよい。医薬製剤のpHはin vivo適用においても有用であるよう適宜調整および緩衝させる。組成物が本発明のペプチドppTG21を含んでなっている特定の態様では、組成物のpHはpH6より大きい、好ましくはpH8であるように調整、緩衝させる。これは液体溶液または投与前に溶液に懸濁しうる固体形態(例えば、凍結乾燥)のいずれかとして製造しうる。注射可能な組成物に向く担体または希釈剤の典型例としては、水、所望のpHに緩衝化された等張生理食塩水(リン酸緩衝溶液またはTris緩衝溶液など)、マンニトール、デキストロース、グリセロールおよびエタノール、ならびにヒト血清アルブミンなどのポリペプチドもしくはタンパク質が挙げられる。例えば、かかる組成物は10mg/mlマンニトール、1mg/ml HSA、20mM Tris pH7.2および150mM NaClを含んでなる。
【0055】
本発明は、さらに特に上記目的物質のトランスフェクション能を強化しうる少なくとも1種の補助剤をさらに含んでなる上記組成物に関する。補助剤はクロロキン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、EtOH、1−メチル L−2−ピロリドンもしくはそれらの誘導体などのプロトン性極性化合物、またはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド、ジ−n−プロピルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、アセトニトリルもしくはそれらの誘導体などの非プロトン性極性化合物からなる群から選択してよい。これらの化合物は上記のpH制限に従う条件で加える。
【0056】
本発明の組成物は脊椎動物組織に投与できる。この投与は注射器またはその他の装置による皮内、皮下、静脈内、筋肉内、経鼻、大脳内、気管内、動脈内、腹腔内、膀胱腔内、胸腔内、冠動脈内または腫瘍内注射により行われうる。吸入、エアゾール経路、喉頭注入法または局所適用などの経皮投与もまた包含される。腫瘍内投与が好ましい。本発明により製造された組成物が、さらに好ましくは筋肉内注射経路または血管内経路による筋肉細胞への導入に向けたものである場合、輸入および/または輸出リンパ管への注射と上記脈管の浸透性の上昇とを組み合わせることにより投与方法を有利に改善しうる。特定の態様では、上記の上昇は静水圧(すなわち、流出および/または流入を妨げることにより)、浸透圧(高張液を用いて)を高めるおよび/または生物学的に活性な分子(例えば、投与する組成物にヒスタミン)を導入することにより行われる(WO98/58542を参照)。
【0057】
本明細書において使用する「脊椎動物」とは、当業者が一般に理解している意味と同じ意味とする。特に、「脊椎動物」とは、哺乳類、さらに特にはヒトを包含する。
【0058】
遺伝子治療に適用した場合、本発明によって投与する製剤による重大な免疫反応を誘導する危険性なしに患者への連続投与が可能になる。投与は単回または反復投与、一回または一定時間をおいて複数回であってよい。連続投与では一回に投与する活性物質、特に DNAの量を減らすことが可能である。投与経路および好適な量は複数のパラメーター、例えば、各患者、治療する疾患または導入する核酸によって様々に異なる。本発明によれば、本発明のペプチドは少なくとも一つの核酸を含有する組成物の同じ標的組織への投与にある第2の投与とは関係なく投与できる。本発明によれば、第1の投与は第2の投与の前に、それと同時に、またはその後に行うことができ、逆もまた同じである。組成物の投与および第2の投与は別々のまたは同じ送達経路(全身送達および標的化送達、または例えば、標的化送達)によって行うことができる。好ましい態様では、各々を最も好ましくは注射によって同じ標的組織に行うべきである。
【0059】
さらに、本発明は目的物質を細胞へ導入するための、上記細胞を少なくとも一つの本発明の組成物と接触させることを含んでなる方法にも関する。この方法は上記組成物の動物細胞へのin vivo直接投与、または動物から採取した後、動物体内に再導入した細胞(ex vivo法)のin vitro処理により適用しうる。in vitro適用では、好適な培地で培養した細胞を本発明の組成物を含有する懸濁液と接触させて置く。インキュベーション時間後、細胞を洗浄し、回収する。活性物質の導入は(最終的には細胞溶解後)好適な方法により確認できる。
【0060】
本発明のin vivo治療では、トランスフェクション率を高めるために上記組成物の投与に先立ち、患者にマクロファージデプリーション処置を施してもよい。かかる技術は文献に記載されている(特に、Van Rooijen et al., 1997, TibTech, 15, 178-184を参照)。
【0061】
本発明はさらに目的物質を細胞へ導入するための、本明細書上記、下記において定義される少なくとも一つのペプチドを含んでなる組成物と核酸との接触と同時にまたはその後に上記細胞をそれと接触させることを含んでなる方法にも関する(なお、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含んでなるまたはからなるペプチドが使用される場合、上記ペプチドが上記組成物において好ましくは6より大きい、さらに好ましくは6.5より大きい、なお好ましくは7より大きい、いっそうさらに好ましくは7.5より大きいpHであり、最も好ましくは約8である)。
【0062】
もう一つの好ましい態様では、本発明は目的物質の細胞への導入を強化するための、本明細書上記において定義されるペプチドの使用を提供する(なお、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含んでなるまたはからなるペプチドが使用される場合、上記ペプチドが上記組成物において好ましくは6より大きい、さらに好ましくは6.5より大きい、なお好ましくは7より大きい、いっそうさらに好ましくは7.5より大きいpHであり、最も好ましくは約8である)。有利には、上記目的物質は核酸である。
【0063】
目的物質の細胞への導入ではin vitro (もしくはex vivo、上記参照)またはin vivoのいずれかで上記強化を果たすことができる。
【0064】
本明細書において「治療」とは、予防および治療をいう。これはヒトおよび動物の治療の両方に関する。「治療上有効な量のペプチドまたは組成物」とは、治療が望まれる疾患に通常伴う1種以上の症状の緩和に十分な量である。本発明の方法は、特に上記の疾患の治療を意図するものである。
【0065】
本発明はヒトまたは動物、好ましくは哺乳類の治癒的、予防的またはワクチン治療、すなわち、遺伝子治療で使用するための組成物の製造に向けた、上記ペプチドの使用にさらに関する。
【0066】
もう一つの態様では、本発明は目的物質を細胞へ導入するための、上記細胞の物質との接触の前に、同時にまたはその後にそれらを本発明の使用により製造される組成物と接触させることを含んでなる方法にもまた関する。この方法は上記組成物の動物細胞へのin vivo直接投与により適用しうる。本発明の実施において標的化「細胞」および「in vivo 投与経路」は上文にて記載するように定義される。「標的化細胞」とは、ポリヌクレオチド取り込みおよび発現が起こるものであり、これらが必ずしも注射した組織(投与部位)に存在する必要はない。特定の態様では、投与が血管に行われ、ポリヌクレオチドトランスフェクションまたは感染が近位または遠位部、例えば、肺、筋肉、肝臓、腎臓、心臓などの器官または組織で起こる。
【0067】
もう一つの好ましい態様によれば、腫瘍性組織は目的物質、特に核酸の送達および発現部位として使用される。
【0068】
これらおよびその他の態様は本発明の説明および実施例により開示され、または明らかとなり、さらにこれに包含される。さらなる文献は方法のうちのいずれか一つに関するものであるが、本発明で使用される使用および化合物は、例えば、電子装置を用いて公的ライブラリーから検索することができる。例えば、インターネット上、例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.htmlにおいて利用可能な公共データベース“Medline”を使用してもよい。 その他のデータベースおよびhttp://www.ncbi.nlm. nih.gov、http://www.infobiogen.fr、http://www.fmi.ch/biology/research_tools.html、http://www.tigr.orgなどのアドレスも当業者には公知であり、例えば、http://www.lycos.comを利用しても得ることができる。バイオテクノロジーにおける特許情報概要ならびに逆上り検索およびカレント・アウェアネスに有用な特許情報関連ソースの調査はBerks, TIBTECH 12 (1994), 352-364で与えられている。
【0069】
本発明の方法、組成物および使用はその治療および/または診断が細胞における核酸の導入に関連しているまたはそれに依存しているあらゆる種類の疾患の治療に適用可能である。本明細書において記載する使用に動物治療も含まれるが、本発明の組成物、および使用はヒトにおいて使用されることが望ましい。
【0070】
例を挙げて本発明を記載してきたが、使用した専門用語は限定を意図するものではなく説明を意図するものであることが分かるであろう。上記技術から、本発明の多くの改変および変形が可能であることは明らかである。よって、添付の請求項の範囲であれば、本発明を本明細書において特に記載したものとは異なる方法で行ってもよいことが分かるであろう。
【0071】
本願で引用した全ての特許、公開特許公報、およびデータベースエントリーの開示は、かかる個々の特許、公報およびデータベースエントリーが各々、具体的かつ個々に本明細書に引用されて組み込まれ、その全てが示されているのと同じ程度でそれらの全内容が引用することにより本明細書の一部とされる。
【実施例】
【0072】
本発明に従い、新規低分子量陽イオンペプチド、ppTG1(配列番号2)を合成した。このペプチドはグルタミン酸残基を含有せず、DNAを結合して成形し、さらに膜破壊を引き起こすことができる。
【0073】
材料および方法
細胞:HeLa細胞(ATCC)および293−EBNA細胞(Invitrogen)を10%ウシ胎児血清、1%ゲンタマイシン、1%グルタミンおよび3g/l グルコースを補給したDMEM培地中、37℃および5%CO2のインキュベータ内で培養した。
WiDr(ATCC CCL-218)、MDA−MB−435S(ATCC HTB-129)、SW480(ATCC CCL-228)およびLoVo細胞(CCL-229)を10%ウシ胎児血清、1%ゲンタマイシン、1%グルタミンおよび3g/lグルコースを含有する好適な培地中、37℃および5%CO2のインキュベータ内で培養した。
【0074】
プラスミド:CMVプロモーター、HMG遺伝子のイントロン1およびSV40ポリAシグナルの制御下、EBV oriP配列に加えてルシフェラーゼ遺伝子を有するプラスミドpTG11056(13787bp;Langle-Rouault et al., 1998, J. Virol., 72, 6181-6185)を使用する。さらに、CMVプロモーター、ショートSV40 16S/19SイントロンおよびSV40ポリAシグナル含んでなるルシフェラーゼ発現カセットを有するプラスミドpTG11236(5738bp)もこの試験で使用する。
プラスミドpTG11022(7998bp)は、HMG遺伝子のイントロン1およびSV40ポリAシグナルを含有する「エンプティー」CMV IEプロモーター駆動発現カセットを有するプラスミドの典型である。
【0075】
ポリペプチド:以下のペプチドの化学合成はNeosystem(France)によって行った。
ppTG1(20mer、分子量2297)(配列番号2)
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala
JTS−1(20mer、分子量2301)(配列番号3)
Gly-Leu-Phe-Glu-Ala-Leu-Leu-Glu-Leu-Leu-Glu-Ser-Leu-Trp-Glu-Leu-Leu-Leu-Glu-Ala
JTS−1−K13(40mer、分子量4826)(配列番号4)
Gly-Leu-Phe-Glu-Ala-Leu-Leu-Glu-Leu-Leu-Glu-Set-Leu-Trp-Glu-Leu-Leu-Leu-Glu-Ala-Cys-Cys-Tyr-Lys -Ala-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Trp-Lys-Lys-Lys-Lys-Gln-Ser
KALA(30mer、分子量3131)(配列番号5)
Trp-Glu-Ala-Lys-Leu-Ala-Lys-Ala-Leu-Ala-Lys-Ala-Leu-Ala-Lys-His-Leu-Ala-Lys-Ala-Leu-Ala-Lys-Ala-Leu-Lys-Ala-Cys-Glu-Ala
ppTG20(20mer)(配列番号6)
Gly-Leu-Phe-Arg-Ala-Leu-Leu-Arg-Leu-Leu-Arg-Ser-Leu-Trp-Arg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ala
ppTG21(20mer)(配列番号7)
Gly-Leu-Phe-His-Ala-Leu-Leu-His-Leu-Leu-His-Ser-Leu-Trp-His-Leu-Leu-Leu-His-Ala
ppTG22(21mer)(配列番号8)
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Cys
ppTG23(21mer)(配列番号9)
Cys-Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala
ppTG24(22mer)(配列番号10)
Cys-Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Cys
ppTG25(20mer)(配列番号11)ppTG1−リンカー−SV40NLS
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Gly-Gly-Gly-Pro-Lys-Lys-Lys-Arg-Lys-Val-Glu-Asp
ppTG26(20mer)(配列番号12)ppTG1−リンカー−SV40NLSm(変異型)
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Gly-Gly-Gly-Pro-Lys-Thr-Lys-Arg-Lys-Val-Glu-Asp
ppTG27(20mer)(配列番号13)ppTG1−リンカー−SV40NLSrev(逆転型)
Gly-Leu-Phe-Lys-Ala-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Ser-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala-Gly-Gly-Gly-Asp-Glu-Val-Lys-Arg-Lys-Lys-Lys-Pro
ppTG28(20mer)(配列番号14)
Gly-Leu-Phe-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Trp-Lys-Leu-Leu-Leu-Lys-Ala
ppTG29(20mer)(配列番号15)
Gly-Leu-Phe-Arg-Arg-Leu-Leu-Arg-Leu-Leu-Arg-Arg-Leu-Trp-Arg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ala
ppTG30(20mer)(配列番号16)
Gly-Ile-Phe-Lys-Ala-Ile-Ile-Lys-Ile-Ile-Lys-Ser-Ile-Trp-Lys-Ile-Ile-Ile-Lys-Ala
ppTG31(20mer)(配列番号17)
Gly-Ile-Phe-Arg-Ala-Ile-Ile-Arg-Ile-Ile-Arg-Ser-Ile-Trp-Arg-Ile-Ile-Ile-Arg-Ala
ppTG32(20mer)(配列番号18)
Gly-Val-Phe-Lys-Ala-Val-Val-Lys-Val-Val-Lys-Ser-Val-Trp-Lys-Val-Val-Val-Lys-Ala
ppTG33(20mer)(配列番号19)
Gly-Val-Phe-Arg-Ala-Val-Val-Arg-Val-Val-Arg-Ser-Val-Trp-Arg-Val-Val-Val-Arg-Ala
ppTG20−D配置(20mer)(配列番号20)
Gly-Leu-Phe-Arg-Ala-Leu-Leu-Arg-Leu-Leu-Arg-Ser-Leu-Trp-Arg-Leu-Leu-Leu-Arg-Ala
【0076】
ペプチドは、陽イオンペプチドの場合にはカウンターイオンとして酢酸塩を含有する純度80〜97%の凍結乾燥粉末として入手した。ペプチドJTS−1−K13を二段階で合成した。最初にJTS−1−システインおよびシステイン−K13を合成し、次ぎにジスルフィド結合を形成する。全てのペプチドを最終濃度少なくとも1g/lまでmilliQ水で希釈した。
【0077】
必要であれば、ペプチドppTG1およびppTG20のN末端とポリエチレングリコール(PEG) MW2000とを共有結合させてPEG−ppTG1およびPEG−ppTG20を得てもよい。これらの生成物にはHPLCによる精製を行わなかった。3.3μg/μl〜0.5μg/μl間の濃度において差がない場合には全てのペプチドをmilliQ水に溶解した。
【0078】
脂質および補助脂質
脂質pcTG90は、引用することによりその全てが本明細書の一部とされる欧州特許第EP901463号に開示される通りである(また、上記に示した式も参照)。
【0079】
ゲルリターデーション( Gel retardation )アッセイ
3μgのプラスミドpTG11236を0.9%NaClを含有する漸増量の各々のペプチド(最終量30μl)とともにインキュベートした。室温で20分間のインキュベーション後、6μl 5×ローディングバッファー(TAEバッファー中グリセロールおよびブロモフェノールブルー)を加え、これらの溶液の10μlを臭化エチジウムの存在下で1%アガロースゲル上で解析した。
【0080】
リポソームリーケージ(リポソーム漏出( Liposome leakage ) ) アッセイ
1−パルミトイル−2−オレイル−ホスファチジルコリン(POPC)リポソームは反復凍結融解法により調製した後、押し出し成形を行った(Olson et al., 1979, Biochim. Biophys. Acta 557, 19-23)。クロロホルム中10μモルのPOPCをガラス管に入れ、Labconco Rapidvapボルテックスエバポレータ(Uniequip, Germany)を用いて溶媒を減圧下で蒸発させた。得られた脂質フィルムをカルセイン水溶液(100mMカルセイン、3.75当量NaOH、50mM NaCl)0.5mlで水和させた。超音波水浴(Bransonic 221, Branson Ultrasonics Corp., USA)で溶液が透明になるまで脂質懸濁物を超音波処理した。凍結融解を5サイクル行った後、200nm孔径ポリカーボーネート膜(Nuclepore, Costar, MA, USA)に4回通してリポソームを押し出し成形した。セファデックスG-50カラム(3cm×14cm)および溶出バッファーとして200mM NaCl、25mM HEPES、pH7.3溶液を用いるゲル排除クロマトグラフィーにより遊離カルセインをリポソーム封入カルセインとを分離した。最終脂質濃度はリンアッセイ(Bartlett, 1959, J. Biol. Chem. 234, 466-469)により確認した。リポソーム粒径はCoulter N4プラスサブミクロン粒径分析装置(Coultronics France S. A, France)を用いて動的レーザー光散乱法により測定した。測定では一定の散乱光角度90°を用い、3nm〜10000nmサイズのウインドウ内で行った。
【0081】
リポソームリーケージアッセイはPlanck et al.(1994, J. Biol. Chem. 269, 12918-12924)で記載されるように行った。リポソーム原液を1.8×アッセイバッファー(360mM NaCl、36mMクエン酸ナトリウム、pH5およびpH7)で脂質濃度45μMまで希釈した。96ウェルマイクロタイタープレートである一つのウェルの20μlのペプチド溶液を次のウェルに移し、80μl H2Oで希釈して、試験するペプチドの1:5連続希釈を行った。100μlのリポソーム溶液を各ウェルに加え(最終脂質濃度:25μM)、室温で30分後、マイクロタイタープレート蛍光分光計(WALLAC, 1420 multilabel counter Victor)で535nm(励起:485nm)にて蛍光アッセイを行った。これらの条件はフルオレセインの分析に好適なものであるが、カルセインの好適な励起/発光プロフィール(495nm/515nm)に可能な限り近い。100%漏出値は10%Triton X−100溶液1lの添加により得られた。漏出活性についてはペプチド濃度に対してプロットした。
【0082】
融合誘導ペプチドでのトランスフェクションアッセイ
細胞を24ウェルプレートで10%FCSを補給したDMEM中4×104(239−EBNA)または7×104(HeLa、Renca)細胞/ウェルの密度で培養した。翌日、培地を200μl血清フリーDMEMに交換し、プラスミド(pTG11056もしくはpTG11236)/ペプチド複合体またはプラスミド/ペプチド/脂質複合体を0.9%NaClまたは5%グルコース30μl中で調製した。室温で20分後、これらの複合体を細胞に与え、次いで、この細胞を37℃および5%CO2で2〜3時間インキュベートし、その後、1ml血清含有DMEMを添加した。約20時間後、1×Promega溶解バッファー100μlを加えて細胞を溶解し、溶解物20μlのルシフェラーゼ活性を調べた。タンパク質をビシンコン酸(bicinchonic acid)(BCA)比色法(Smith, Anal. Biochem. 150 (1985), 76-85)により定量した。
【0083】
in vivo 試験
指定量のルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236をppTG1および/またはpcTG90/DOPEと混合した。得られた製剤はマウスに筋肉内(30μl)、静脈内(250μl)または腫瘍内(Renca腫瘍、100μl)注射した。指定の時点で筋肉、腫瘍または器官を回収し、細かく砕き、Promegaのルシフェラーゼアッセイキットでルシフェラーゼ活性を調べた。
【0084】
細胞培養
バフィロマイシンAの存在下でのトランスフェクション:6×104 HeLa細胞を24ウェルプレートで培養した。トランスフェクション30分前とトランスフェクション中、細胞を175nMバフィロマイシンAで処理した(血清不在下での細胞のトランスフェクションミックスとの1時間のトランスフェクション)。
【0085】
例1:DNA結合活性
ppTG1ペプチドのDNA複合体化能力をゲルリターデーションアッセイによって調べた。3μgのpTG11236を0.9%NaClを最終量30μlまで加えた漸増量のppTG1(0.01μg〜27μg)と混合した。室温で20分間のインキュベーション後、ローディングバッファーを加え、得られた溶液の10μlを1%アガロースゲル上で解析した。同じ試験をJTS−1、JTS−1−K13およびKALAペプチドでも行った。
【0086】
プラスミド/ペプチド比3μgプラスミドDNA(0.8pmol)/4μgペプチド(1.4nmol)でppTG1と複合体化させるとプラスミドpTG11236の遅延が得られるという結果が示された。1μgペプチド(0.35nmol)を加えた場合には50%のDNAが複合体化する。プラスミドDNAの遅延は陰イオンJTS−1の存在下では見られない(3μg pTG11236および0.1μg〜10μg JTS−1)が、3μg(0.6nmol)JTS−1−K13では3μg pTG11236の>95%の遅延がもたらされる。これらの結果から、本発明のペプチドppTG1がDNAプラスミドと複合体を形成しうることが分かる。
【0087】
例2:リポソームリーケージアッセイ
ペプチドppTG1を蛍光製品カルセインを含有するPOPCリポソームを用いるリポソームリーケージアッセイで膜破壊を引き起こすその能力について試験した。リポソームリーケージアッセイはPlanck et al.(1994-上記)に記載されるように行った;Triton X−100処理によるカルセインの放出を正の対照反応とし、水とのインキュベーションを負の対照とした。ペプチドppTG1(開始時の20μg)の膜分解活性と同量(20μg)のJTS−1、JTS−1−K13およびKALAのものとを比較した。
【0088】
この結果を図1A/1Bに示す。
【0089】
図1A/1Bから、ppTG1がpH5(図1A)およびpH7(図1B)の両方で、JTS−1およびJTS−1−K13と少なくとも同じくらい効率的に膜破壊を引き起こすことができることが分かる。
【0090】
例3: in vitro におけるトランスフェクション効率−ppTG1、リポフェクチンおよびPEIの比較
293−EBNA1およびHeLa細胞をin vitroでトランスフェクトするppTG1およびプラスミドDNAの複合体の能力について調べた。
【0091】
プラスミドpTG11056 0.5μg、0.1μg、0.05μgおよび0.01μgで、前日に24ウェルプレートで培養した4×104 293−EBNA細胞をトランスフェクトした。このプラスミドをppTG1の完全DNA複合体化または不完全DNA複合体化量のいずれかと5%グルコース30μl中で混合し、室温で20分後、この混合物を200μl血清フリー培地でインキュベートした細胞に加えた。さらに、pTG11056を確立されたトランスフェクション試薬リポフェクチンおよびPEIを加えて作製した。製造業者の推奨に従い、リポフェクチン(Gibco BRL)およびPEIを使用した。要するに、リポフェクチンを200μl血清フリー培地中4倍重量過剰のプラスミドDNAに加え、その後(室温で20分後)これを細胞に与えた。PEIを10mM溶液に希釈、例えば、75μlを5%グルコース30μg中0.5μg DNAに加え、室温で30分後、200μl血清フリー培地で培養した細胞に移した。3時間後、1mlの血清含有DMEMを細胞に与えた。20時間後、細胞を洗浄し、1/5の溶解細胞でルシフェラーゼ活性を確認した。
【0092】
ルシフェラーゼ活性を図2に示す。
【0093】
図2より、ppTG1(電荷比約1)0.65μgと複合体化したpTG11056 0.5μgで293−EBNA1細胞をトランスフェクションした場合にリポフェクチンまたはPEIとで作製した複合体で見られるルシフェラーゼ活性より高い活性が得られることが分かる。ppTG1(同じ電荷比)0.065μgと混合したpTG11056 0.05μgでのトランスフェクションでもなお高いトランスフェクション効率を示すが、PEIおよびリポフェクチン製剤では10倍以上効率が低い。
【0094】
この試験から、ペプチドppTG1を含んでなる本発明の複合体でのトランスフェクションはリポフェクチンまたはPEIを、特に低濃度で含んでなる先行技術の複合体とのものと少なくとも同程度に効率が良く、ほとんどの測定ではいっそう顕著に効率が良くなることが分かる。プラスミドDNAで細胞を効率的にトランスフェクトするのにはppTG1単独で十分である。
【0095】
もう一つの試験では、リポフェクチンまたはppTG1と複合体化したpTG11236 0.5μgまたは0.05μgで、トランスフェクション前日に24ウェルプレートに播種した7×104HeLa細胞をトランスフェクトした。プラスミド/ペプチド複合体を5%グルコースまたは0.9%NaCl30μl中で調製し、室温で20分後、細胞に与えた(200μl血清フリー培地)。3時間後に血清含有培地を添加し、翌日細胞を回収した。
【0096】
全タンパク質溶解物のルシフェラーゼ活性を図3に示す。
【0097】
図3より、ppTG1 1.17μgまたは0.117μgを含有するpTG11236 0.5μgまたは0.05μgの製剤(ペプチドの全DNA複合体化量;電荷比1.8)ではリポフェクチンを用いて作製したDNAで見られるルシフェラーゼ活性と同等の活性が得られたことが分かる。pTG11236 0.05μgのトランスフェクション効率に対し、0.9%NaCl中でppTG1と混合したプラスミドDNAではリポフェクチン製剤で見られるルシフェラーゼ活性よりも高い活性が得られると考えられる。
【0098】
図2および図3から、プラスミドDNAを細胞に効率的に導入するにはペプチドppTG1単独で十分であることが示される。この効率は低DNA量で、例えば、リポフェクチンまたはPEI試薬などの確立されたトランスフェクション試薬よりも優れている。
【0099】
例4:トランスフェクション効率:HeLa細胞でのppTG1およびJTS−1−K13の比較
ppTG1およびJTS−1−K13のトランスフェクション効率への影響の比較をHeLa細胞で行った。pTG11236 0.5μgまたは0.05μgの複合体を漸増量の各々のペプチドを用いて作製した。
【0100】
ルシフェラーゼ解析の結果を図4に示す。
図4により、JTS−1−K13 1.5μgと複合体化したpTG11236 0.5μgでは高レベルのルシフェラーゼ発現が得られたが、JTS−1−K13と複合体化したプラスミドDNA0.05μgでのトランスフェクションではppTG1でのトランスフェクションと比べて相変わらず低いことが分かる。これらの結果より、ppTG1がJTS−1−K13よりも優れたトランスフェクション試薬であることが示唆される。
【0101】
例5: in vitro におけるトランスフェクション効率−HeLaおよびCHO細胞でのppTG1およびKALAの比較
ppTG1およびKALAの比較をHeLaおよびCHO細胞で行った。5×104細胞を24ウェルプレートに播種した。翌日、0.9%NaCl30μl中でppTG1またはKALAと複合体化したpTG11236 500ngまたは50ngで細胞をトランスフェクトした。電荷比+/−は1、2、3、4、7〜10と変えた。トランスフェクション20時間後に細胞を回収し、100μl Promega溶解バッファーに溶解させた。20μl中のルシフェラーゼ活性および全タンパク質濃度を調べた。
【0102】
その結果を図5a/bに示す。
【0103】
図5a/bにより、ppTG1を含んでなる複合体でのトランスフェクションではペプチドKALAを用いて作製したものよりも効率が良いことが分かる。ペプチドppTG1の場合、HeLa細胞において最適な電荷比条件は1または2のいずれかであった。KALAでは、ppTG1の場合よりも200倍(pTG11236 50ng)〜4倍(500ng)低い電荷比7で最適な遺伝子導入が示された。最も優れた事例では、ppTG1を含んでなる複合体はKALAを含んでなる複合体よりも3000倍効率が良かった。
【0104】
CHO細胞では、トランスフェクションの最適条件はppTG11を含んでなる複合体では電荷比2および3各々で、KALAを含んでなる複合体では電荷比10および7各々で見られ、遺伝子導入においてppTG1が比較的効率が良かった(pTG11236 50ngで68倍およびpTG11236 500ngで9倍)。最も優れた事例では、ppTG1を含んでなる複合体はKALAを含んでなる複合体よりも2500倍効率が良かった。
【0105】
例6:ペプチドppTG1およびpcTG90/DOPEを含んでなる複合体の in vitro におけるトランスフェクション効率
350μlのクロロホルム中でpcTG90およびDOPE(1:1)の混合物を調製した。溶液をボルテックスエバポレーターを用いて蒸発させた。得られた脂質フィルムを1mlの5%グルコースに再懸濁し、濃度約0.5mg/mlとした。ppTG1を水に溶解して3mg/mlにし、脂質懸濁物に加えた。次いで、混合物を5%グルコースで希釈したDNA(pTG11236)に加えて攪拌した。
【0106】
HeLa細胞を24ウェルプレートに6×104細胞の密度で播種した。翌日、細胞を200μl血清フリー培地とともにインキュベートし、30μlのプラスミド(50ng)/ペプチド/脂質混合物を加えて5%CO2中37℃で3時間インキュベートした。次いで、DMEM 1ml+10%FCSを添加した。翌日、培地を除去し、細胞を500μlのPBSで洗浄し、続けて、100μlのPromega溶解バッファーで処理した。
【0107】
細胞溶解物20μlのルシフェラーゼ活性を測定するまでプレートを−80℃で保存した。タンパク質アッセイはPierce BCAキットを用いて行った。
【0108】
図6はこの試験の結果である。
【0109】
図6より、50ngのプラスミドおよび最終電荷比3、5および10では、少量のppTG1の添加(各々複合体の正電荷の1/3、1/5および1/10を与える)により少なくとも1log pcTG90/DOPEのトランスフェクション効率が高まることが分かる。最終電荷比5および10でppTG1量を増やす(各々複合体の正電荷の2/3および7/10を与える)とこの高まりはいっそう大きなものとなった(2log)。最終電荷比3では、ppTG1単独でpcTG90/DOPE単独よりも優れた結果が得られた。
【0110】
例7: in vivo 試験
プラスミド pTG11236 60μgまたは30μgを5%グルコース250μl中でペプチドppTG1および/またはpcTG90/DOPE 1:2混合物と混合した。室温で20分間のインキュベーション後、B6SJLマウスに複合体を静脈注射した。1日目にマウスを犠牲にした。肺を摘出し、全タンパク質を抽出してルシフェラーゼ活性を調べた。
【0111】
その結果を図7に示す。
【0112】
図7より、肺での遺伝子発現はpTG11236およびppTG1(5匹のマウス中5匹とも)を含んでなる複合体で達成できることが分かる。陽イオン脂質をさらに含んでなる複合体にppTG1が存在することによって遺伝子発現が10倍増強した。
【0113】
例8:トランスフェクション効率−JTS−1の影響
JTS1を1mM NaOHに溶解して1mg/mlとし、5%グルコースで希釈したDNAと混合した。次いで、ppTG1をこの溶液に添加した。例6で記載したように、pcTG90/DOPE ppTG1混合物を調製した。例6で記載したように、HeLa細胞でプラスミド50ngを加えてトランスフェクションアッセイを行った。
【0114】
その結果を図8に示す。
【0115】
図8により、ppTG1 0.9μgおよびJTS1 0.1μg(最終電荷比5)と複合体化したpTG11236によってppTG1/pcTG90/DOPE(最終電荷比5、電荷比2(+/−)を与えるppTG1)の最適製剤と比べて約10倍、さらに最終電荷比5のpcTG90/DOPE単独と比べて約1000倍ルシフェラーゼ活性が高まったことが分かる。
【0116】
最終電荷比1〜2を有するppTG1/プラスミドDNA複合体は多様な細胞株の効率的なトランスフェクションを媒介している。この効率はリポフェクチン、PEI、またはGottschalk et al., 1996に記載の多成分ペプチド複合体を含んでなる複合体で見られるトランスフェクションレベルと同等またはそれよりも優れている。
【0117】
実施例概要:
in vitro
ペプチドppTG1、単独またはプラスミドDNAとの複合体、はPOPC/Chol(3:2モル比)リポソームを効率的に不安定化するが、KALAはこの種のリポソームに対して活性を示さない。遺伝子導入効率の調査をヒト腫瘍細胞系 WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoまで拡大した。これら全ての細胞系ではppTG1/DNA複合体でのトランスフェクトで好結果が得られた。ppTG1/プラスミド複合体でのトランスフェクション効率はバフィロマイシンAの存在下でも低下しなかった。このことから遺伝子導入がエンドソームの酸性化と関連がないことが示唆される。
【0118】
ppTG1の種々の誘導体を設計した。pH5でプラスミドDNAを結合するppTG21(Lys=>His)を除き、これら全てのペプチド(材料および方法を参照)はpH8でアガロースゲル中のプラスミドDNAの移動を阻止することができた。ppTG20(Lys=>Arg)およびppTG21のPOPC/Cholリポソームでのリポソーム漏出活性はppTG1に匹敵するものであった。ppTG20でのトランスフェクション効率はppTG1のものに匹敵するものであったが、ppTG21でのトランスフェクション効率はかなり低下した。二つのさらなる塩基性アミノ酸残基を有するペプチドppTG28およびppTG29は、リポソーム漏出および遺伝子導入アッセイにおいてはppTG1およびppTG20と同等であった。LeuのIleまたはValでの置換によりリポソーム漏出活性が阻害され(ppTG32およびppTG33)、in vitro遺伝子導入効率が低下した(ppTG30、ppTG31、ppTG32およびppTG33)。C末端に野生型または変異型核局在化シグナル(SV40ラージT抗原)を有するppTG1誘導体はリポソーム漏出および遺伝子導入効率を保持した。ppTG1 Nおよび/またはC末端へのCys残基の付加ではリポソーム漏出活性が失われることはなかったが、遺伝子導入効率は低下した。ペプチドのN末端と共有結合するポリエチレングリコール(PEG)2000を含有するppTG1およびppTG20誘導体はリポソーム漏出活性、遺伝子導入効率を保持したものの、かなり低下した。D配置の全てのアミノ酸を含有するppTG20誘導体(ppTG20−D)をさらに調べた。このペプチドのリポソーム漏出および遺伝子導入活性は保持された。
【0119】
in vivo:
マウスに静脈注射したペプチドppTG20およびppTG20−Dを含有するプラスミドDNA複合体では、ppTG1を含有するものよりもいっそう高い肺での遺伝子導入効率が得られた。しかし、JTS1−K13では遺伝子導入が少なく、KALAでは検出すらできなかった。ppTG32の使用では遺伝子導入効率がかなり低下し、in vivo遺伝子導入を成功させるにはDNA結合活性のほか、リポソーム漏出活性が重要であることが示唆された。ppTG1およびppTG20を用いた遺伝子導入はpcTG90/DOPE 1:2[+/−]10により作製した最適なリポプレックスを用いた遺伝子導入と少なくとも同等であった。
【0120】
リポーター遺伝子活性は注射後1日目で最大となった後、時間の経過とともに低下した。14日目の再投与によりリポーター遺伝子活性の再生が起こった。
【0121】
例9:DNA結合活性
材料および方法で示したppTG1誘導体についてのプラスミドDNA結合能力をゲルリターデーションアッセイによって調べた。
【0122】
その結果を以下の表1で示す。
【0123】
【表1】
【0124】
表1に示した結果はppTG21(Lys=>His)を除く、全てのペプチドがpH8でプラスミドDNAと結合することができたことを示している。しかしながら、pH5でならppTG21がDNAを結合できることも分かった。この結果はヒスチジン残基(pK6)のプロトン化状態によって説明することができ、プラスミドDNAとppTG1誘導ペプチドとの結合が主として静電気相互作用によるものであることが示唆される。
【0125】
例10:リポソーム漏出活性
POPCおよびコレステロール、モル比3:2(mol/mol)からなるリポソームでリポソーム漏出活性を調べた。コレステロールは天然膜の流動性を決定するそれらの重要な遍在成分である。よって、かかるリポソームでの試験は純粋なPOPCリポソームでの試験よりも in vivo条件に近い。ペプチドppTG1、JTS−1−K13、KALAおよびJTS−1をpH5およびpH7で比較した。
【0126】
その結果を図9Aに示す。
【0127】
図9Aにより、KALAではコレステロール(chol)含有リポソームからカルセインを遊離させることができなかったことがはっきりと分かる。JTS−1−K13もまたpH7でカルセイン放出を妨げたが、pH5では低レベルの放出が起こった。pH感受性ペプチドJTS−1はpH5で高い溶解活性を示し、pH7ではこの活性は低下した。ppTG1はpH5およびpH7でPOPC/cholリポソームからカルセインを効率的に遊離させることができた。
【0128】
POPC/chol 3:2リポソームでのリポソーム漏出活性についてプラスミドDNA pTG11236とのppTG1複合体を試験した。
【0129】
その結果を図9Bに示す。
【0130】
図9Bにより、プラスミドDNAに対してペプチド過剰である場合(P/N 5または10)、リポソーム漏出は遊離ppTG1と同等であったことがはっきりと分かる。理論的に全てのペプチドがプラスミドDNAとの結合に関与する、電荷比(P/N)1または0.8条件では、漏出活性は少し低下した。この観察はDNA結合および膜破壊活性には異なる構造特性が必要であることから説明できる。
【0131】
pH7におけるPOPC/chol 3:2リポソームでのリポソーム漏出活性について材料および方法で記載した一連のppTG1誘導体を試験した。その結果を図9C(ppTG20およびppTG21)、図9D(ppTG22〜ppTG24およびppTG20−D)、図9E(ppTG25〜ppTG27)、図9F(ppTG28〜ppTG33)、および図9G(PEG−ppTG1およびPEG−ppTG20)に示し、また表1に要約する。
【0132】
図9C、9Dおよび9Gより、ppTG1のLysのArgまたはHisでの置換、D配置のppTG20、またはppTG1もしくはppTG20N末端へのPEG2000付加では得られたペプチドの膜破壊活性が低下しなかったことがはっきり分かる。図9Fでは、二つの塩基性アミノ酸(ppTG28およびppTG29)の付加、またはLeuのIle(ppTG31)での置換ではリポソーム漏出活性が少し低下したことが示される。LeuのValでの置換ではリポソーム漏出活性(ppTG32およびppTG33)がかなり低下した。図9Dでは、さらなるCys残基をC末端に付加してもリポソーム漏出活性に影響はなかったが、N末端に付加すると膜破壊がやや低下した(ppTG23およびppTG24)ことが示される。図9Eでは、野生型(wt)、逆転型または変異型NLSと結合したppTG1の漏出活性は大きいが、ppTG1で得られた最大値よりも低いことがはっきりと示される。
【0133】
例11: in vitro におけるトランスフェクション効率
プラスミド/ppTG1複合体でのトランスフェクション効率をヒト腫瘍細胞WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVo(ATCC)においてリポフェクチン、PEIおよびpcTG90/DOPE(1:1)[+/−]5との比較により試験した。トランスフェクション後1日目のルシフェラーゼ活性を図10Aに示す。
【0134】
図10Aより、ppTG1/プラスミド複合体によってヒト腫瘍細胞系、特にSW480細胞を効率的にトランスフェクトできることがはっきりと分かる。
HeLa細胞における遺伝子導入効率について材料および方法に記載した連続系ppTG1誘導体を試験した。漸増量のペプチドと複合体化したpTG11236 50ngで6×104細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後1日目にルシフェラーゼ活性を調べた。その結果を図10B(ppTG20、ppTG21)、図10C(ppTG25、ppTG26、ppTG27)、図10D(ppTG28〜ppTG33)、図10E(PEG−ppTG1およびPEG−ppTG20)、図10F(ppTG22〜ppTG24)および図10G(ppTG20−D)に示す。また、全ての結果を表1に示している。
【0135】
図10Bより、LysのArg残基での置換ではトランスフェクション効率に変化はなかったが、LysのHisでの置換ではかなりの低下が起こったことがはっきり分かる。図10Cでは、SV40ラージT抗原誘導NLSペプチドのC末端付加が遺伝子導入効率に影響しなかったことが示される。
【0136】
図10Dでは、二つの塩基性アミノ酸残基の付加(ppTG28およびppTG29)によるトランスフェクション効率に変化はなかったことが示される。しかし、LeuのIleでの置換(ppTG30およびppTG31)では遺伝子導入効率が低下し、LeuのValでの置換ではこの活性がさらにいっそう低下したことが示される。PEG−2000のN末端への共有結合によりトランスフェクション効率が低下した(図10E)。また、Cys残基のppTG1のNおよび/またはC末端への結合も同様であった(図10F)。しかし、ppTG20−Dの効率は遺伝子導入試験でのppTG1と同等であった(図10G)。
【0137】
例11:ppTG1の遺伝子導入機構に関する研究
バフィロマイシンAは特異的な液胞型プロトンポンプ阻害剤である。バフィロマイシン処理によって後期エンドソームの酸性化を防ぐ。トランスフェクション30分前およびその間、HeLa細胞をバフィロマイシンA(175nM)で処理した(血清不在下でのトランスフェクション複合体との1時間のトランスフェクション)。PEIまたはppTG1を用いたpTG11236 150ngで6×104細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後1日目にルシフェラーゼアッセイを行った。
【0138】
バフィロマイシンAの存在はppTG1でのトランスフェクション効率には影響を与えなかったが、PEIでのトランスフェクションを400倍低下させた(データは示していない)。このことはppTG1/プラスミド複合体がエンドソームに取り込まれた場合にそれらがpHに無関係の機構を介して放出されることを示唆している。
【0139】
例12: in vivo 試験
単一成分系ペプチドベクターでの遺伝子導入の可能性をin vivoで調べた。ルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 50または60μgを5%グルコース250μl中でpcTG90/DOPE(1:2)[+/−]10と複合体化した(Meyer et al. 2000)。得られたリポプレックスベクターを5%グルコース250μl中でppTG1、ppTG20およびppTG32と複合体化したpTG11236を用いる遺伝子導入試験の参照とした。各群5匹のマウスに静脈注射を施し、注射後1日目に動物を犠牲にし、肺のルシフェラーゼ活性を調べた。その結果を図11に示す。
【0140】
図11Aにより、ppTG1複合体(電荷比2〜3間)を用いた遺伝子導入によりリポプレックスを用いて得られるルシフェラーゼ活性に匹敵する活性が肺で得られたことがはっきり分かる。ppTG20を用いた遺伝子導入ではppTG1よりも効率が良く、かつ毒性が低いという一般的な傾向が示されたが、ペプチドppTG32との複合体では検出可能なリポーター遺伝子発現は得られなかった。これはppTG1誘導ペプチドによる遺伝子送達を成功させるには膜破壊活性が必要であることを意味している。
【0141】
ppTG1との複合体をJTS−1−K13、KALA、K8−NLSm/JTS−1およびppTG20で作製したものと比較した。KALAおよびK8−NLSm/JTS−1では効率が悪かった(データは示していない)。ppTG1、JTS−1−K13およびppTG20と複合体化したpTG11236 50μgの静脈注射後1日目に肺で見られるルシフェラーゼ活性を図11Bに示す。ppTG1を用いた遺伝子導入はJTS−1−K13を用いた場合よりも良いと考えられる。ppTG20を用いた遺伝子導入はppTG1よりも高い遺伝子発現をもたらし、かつ毒性が低い再現可能な傾向を示す。
【0142】
ppTG1/プラスミド複合体を用いて得られる遺伝子発現は注射後3日目にバックグラウンドレベルまで低下した(データは示していない)。1回目の注射後14日目のppTG1/プラスミド複合体の再投与によってリポーター遺伝子発現が再現された。3日目にその系はなお不応であった(図11C)。
【0143】
図11Dでは、ppTG20がppTG1よりも効率の良い遺伝子導入をもたらし、ppTG20−DがppTG20よりもいっそう効率が良いと考えられることが確認できる。
【0144】
これらのデータは重要なin vivo遺伝子導入を可能にする単一成分系ペプチドベクターを初めて示すものである。
【0145】
例13: in vivo 試験:腫瘍内注射後の非濃縮 (non-condensing) トランスフェクションエンハンサーとしてのppTG21
材料および方法
B6D2マウスに4×105RENCA細胞(ネズミ腎臓腫瘍細胞、ATCC)を皮下注射し、腫瘍増殖を誘発した。腫瘍体積が約30mm3に達したところで、本発明のペプチドの存在または不在下でルシフェラーゼ発現プラスミドDNA pTG13236を含有する5%グルコース溶液30μgを腫瘍に注射した。注射後1日目にマウスを犠牲にし、腫瘍を回収してホモジナイズした。ルシフェラーゼ活性を調べ、RLU/腫瘍gとして表した。
【0146】
結果
RENCA担癌マウスにおいて腫瘍内注射後のプラスミド導入を強化する能力についてペプチドppTG21を試験した。ルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 10μgをpH8(10mM Tris pH8)で漸増量(すなわち、0.1、0.6、3または15マイクログラム)のppTG21と混合した。これらの条件下ではppTG21はプラスミドDNAに結合できない(上記参照)、同時に、同じ条件で漸増量(すなわち、0.1%、0.2%、0.4%および0.6%)のHPC(ヘキサデシル−ホスホ−コリン)の存在下、同じプラスミドDNAを投与することにより試験を行った。同じ条件でプラスミドDNA単独、またはHPCまたはppTG21の存在下でプラスミドDNAを腫瘍内注射した。翌日、腫瘍のルシフェラーゼ活性を調べた(RLU/腫瘍g)。その結果を図12に示す。
【0147】
図12より、pTG11236 10μgとppTG21 0.6μgとを同時注射することで遺伝子発現が明らかに高まることがはっきり示される。この高まりは非濃縮脂質HPCで得られた結果に匹敵するものである。
参考文献
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Wyman, T.B et al., 1997, Biochemistry 36 : 3008-3017
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1A】リポソームリーケージアッセイ。漸増量のペプチドJTS1、ppTG1、JTS1−K13、KALAおよびppTG20が示される。図1AはpH5で行ったリポソーム漏出アッセイの結果である。図1BはpH7で得られた結果の概要である。
【図1B】リポソームリーケージアッセイ。漸増量のペプチドJTS1、ppTG1、JTS1−K13、KALAおよびppTG20が示される。図1AはpH5で行ったリポソーム漏出アッセイの結果である。図1BはpH7で得られた結果の概要である。
【図2】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1、PEIおよびリポフェクチンの比較。リポフェクチン、PEIまたは指定の電荷比(+/−)のppTG1を加えて製造したプラスミドpTG11056 0.5μg、0.1μg、0.05μgまたは0.01μgで293−EBNA細胞をトランスフェクトした。モックはバッファーでのトランスフェクションとする。
【図3】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1およびリポフェクチンの比較;電荷比の影響。7×104HeLa細胞を24ウェルプレートで培養した。翌日、リポフェクチンまたは指定の電荷比(+/−)のppTG1を加えて製造したpTG11236 0.5μgまたは0.05μgで細胞をトランスフェクトした。
【図4】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1およびJTS1−K13の比較。指定の電荷比(+/−)のppTG1またはJTS1−K13を加えて製造したpTG11236 0.5μgまたは0.05μgで5×104 HeLa細胞をトランスフェクトした。JTS1−K13の推定は分子あたりの正味の正電荷+5に基づいて行われる。
【図5a】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1およびKALAの比較。指定の電荷比(+/−)のppTG1またはKALAを加えて作製したpTG11236(=p) 50または500ngで5×104 HeLaまたはCHO細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後20時間で確認されるルシフェラーゼ活性を図5A(HeLa細胞)および図5B(CHO細胞)に示す。
【図5b】in vitroトランスフェクション試験−ppTG1およびKALAの比較。指定の電荷比(+/−)のppTG1またはKALAを加えて作製したpTG11236(=p) 50または500ngで5×104 HeLaまたはCHO細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後20時間で確認されるルシフェラーゼ活性を図5A(HeLa細胞)および図5B(CHO細胞)に示す。
【図6】in vitroトランスフェクション試験−pcTG90/DOPE有りおよび無しでのppTG1の比較。ppTG1またはKALAと複合体化したpTG11236 500ngまたは50ngでHeLaまたはCHO細胞をトランスフェクトした。電荷比+/−は1、2、3、4、7〜10と変えた。
【図7】in vivo試験。各群5匹のB6SJLマウスにppTG1単独またはppTG1 42gの不在または存在下、pcTG90/DOPE 1:2を加えて製造したpTG11236 60μgまたは30μgを静脈注射した。各製剤の最終電荷比を示す。
【図8】トランスフェクション効率−JTS−1の効果。
【図9A−1】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。A)ppTG1、JTS−1−K13、KALAおよびJTS−1のpH5およびpH7での比較。
【図9A−2】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。A)ppTG1、JTS−1−K13、KALAおよびJTS−1のpH5およびpH7での比較。
【図9B】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。B)ppTG1およびプラスミドpTG11236の複合体のpH7でのリポソーム漏出活性。
【図9C】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。C)ppTG1、ppTG20およびppTG21のpH7での比較。
【図9D】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。D)ppTG1、ppTG20−D、ppTG22、ppTG23およびppTG24のpH7での比較。
【図9E】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。E)ppTG1とppTG25、ppTG26およびppTG27とのpH7での比較。
【図9F】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。F)ppTG1と一連のペプチドppTG28〜ppTG33とのpH7での比較。
【図9G】リポソームリーケージアッセイ。漸増量の指定のペプチドをPOPC/コレステロール(3:2 mol/mol)リポソームとともに室温で30分間インキュベートした。放射蛍光についてはペプチド濃度に対してプロットした。G)ppTG1およびppTG20とPEG−ppTG1およびPEG−ppTG20とのpH7での比較。
【図10A】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
【図10B】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。B)ppTG1、ppTG20およびppTG21。
【図10C】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。C)ppTG25、ppTG26およびppTG27。
【図10D−1】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。D)ppTG1および一連のppTG28〜ppTG33。
【図10D−2】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。D)ppTG1および一連のppTG28〜ppTG33。
【図10E】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。E)ppTG1、PEG−ppTG1およびPEG−ppTG20。
【図10F】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。F)ppTG1、ppTG22、ppTG23およびppTG24。
【図10G】in vitroトランスフェクション試験。A)ヒト腫瘍細胞系WiDr、MDA−MB−435S、SW480およびLoVoを異なる電荷比のppTG1、PEI、リポフェクチンおよびpcTG90/DOPEを用いてルシフェラーゼ発現プラスミドpTG11236 500ngまたは50ngでトランスフェクトした。トランスフェクション後1日におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示す。B)〜G)HeLa細胞を漸増電荷比[P/N]の指定のペプチドを用いてpTG11236 50ngでトランスフェクトした。G)ppTG1およびppTG20−D。
【図11A】in vivo試験。アスタリスクの付いた数は各群5匹のうちの死亡マウス数を示す。A)各群5匹のB6SJLマウスにpcTG90/DOPE 1:2 [P/N] 10、または指定量のppTG1、ppTG20およびppTG32と複合体化したpTG11236 60μgまたは50μgを静脈注射した。注射後1日目にマウスを犠牲にし、肺のルシフェラーゼ活性を調べた。
【図11B】in vivo試験。アスタリスクの付いた数は各群5匹のうちの死亡マウス数を示す。B)各群5匹のB6SJLマウスにppTG1、JTS−1−K13およびppTG20と複合体化したpTG11236 60μgまたは50μgを静脈注射した。注射後1日目にマウスを犠牲にし、肺のルシフェラーゼ活性を調べた。
【図11C】in vivo試験。アスタリスクの付いた数は各群5匹のうちの死亡マウス数を示す。C)5匹のB6SJLマウス群全てに0日目のppTG1と複合体化したpTG11236またはpTG11022 (「エンプティベクター」)60μgの予備注射後、0、3および14日目にppTG1 150μgと複合体化したpTG11236 60μgを静脈注射した。翌日、マウスを犠牲にした。肺のルシフェラーゼ活性/mgタンパク質を示す。
【図11D】in vivo試験。アスタリスクの付いた数は各群5匹のうちの死亡マウス数を示す。D)各群5匹のB6SJLマウスにppTG1、ppTG20またはppTG20−D 180μgと複合体化したpTG11236 60μgを静脈注射した。注射後1日目にマウスを犠牲にし、肺のルシフェラーゼ活性を示す。
【図12】HPCまたはppTG21の存在または不在下、pH8でのpTG11236プラスミド(pと記載)10マイクログラムの腫瘍内投与後1日目のRENCA腫瘍のルシフェラーゼ活性。
Claims (11)
- 下記のa)およびb)を含んでなる、組成物:
a)下記の(i)および(ii)からなる群から選択される少なくとも一つのペプチド:
(i)アミノ酸配列 Gly Leu Phe Xaa Ala Leu Leu Xaa Leu Leu Xaa Ser Leu Trp Xaa Leu Leu Leu Xaa Ala(配列番号1)を含んでなるか、またはからなる、ペプチド[ここで、Xaaは、アラニン(AlaまたはA)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、トリプトファン(TrpまたはW)、バリン(ValまたはV)、アスパラギン(AsnまたはN)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GluまたはQ)、グリシン(GlyまたはG)、セリン(SerまたはS)、トレオニン(ThrまたはT)およびチロシン(TyrまたはY)からなる群から互いに独立して選択される]、および
(ii)アミノ酸配列 Gly-Leu-Phe-His-Ala-Leu-Leu-His-Leu-Leu-His-Ser-Leu-Trp-His-Leu-Leu-Leu-His-Ala(配列番号7)を含んでなるか、またはからなる、ペプチド[なお、前記ペプチドは前記組成物において6より大きいpHである];
b)少なくとも1種の目的物質。 - 目的物質を細胞へ導入することを目的とする、請求項1に記載の組成物。
- 目的物質が核酸である、請求項1または2に記載の組成物。
- 脊椎動物の組織に投与した場合に、細胞への核酸導入を強化しうるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
- 核酸が裸の核酸である、請求項3に記載の組成物。
- 目的物質の濃度が約0.01mM〜約1mMの範囲である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
- 医薬上許容される注射可能な担体をさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
- 少なくとも1種の目的物質を細胞へ導入するための組成物を製造するための、下記(i)および(ii)からなる群から選択される、ペプチドの使用:
(i)アミノ酸配列 Gly Leu Phe Xaa Ala Leu Leu Xaa Leu Leu Xaa Ser Leu Trp Xaa Leu Leu Leu Xaa Ala(配列番号1)を含んでなるか、またはからなる、ペプチド[ここで、Xaaはアラニン(AlaまたはA)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、トリプトファン(TrpまたはW)、バリン(ValまたはV)、アスパラギン(AsnまたはN)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GluまたはQ)、グリシン(GlyまたはG)、セリン(SerまたはS)、トレオニン(ThrまたはT)およびチロシン(TyrまたはY)からなる群から互いに独立して選択される]、および
(ii)アミノ酸配列 Gly-Leu-Phe-His-Ala-Leu-Leu-His-Leu-Leu-His-Ser-Leu-Trp-His-Leu-Leu-Leu-His-Ala(配列番号7)を含んでなるか、またはからなる、ペプチド[なお、前記ペプチドは前記組成物において6より大きいpHである]。 - 目的物質が核酸である、請求項8に記載の使用。
- 目的物質を細胞へ導入する方法であって、細胞を請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物と接触させることを含んでなる、方法。
- 細胞への目的物質の導入を強化するための、下記(i)および(ii)からなる群から選択される、ペプチドの使用:
(i)アミノ酸配列 Gly Leu Phe Xaa Ala Leu Leu Xaa Leu Leu Xaa Ser Leu Trp Xaa Leu Leu Leu Xaa Ala(配列番号1)を含んでなるか、またはからなる、ペプチド[ここで、Xaaはアラニン(AlaまたはA)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、トリプトファン(TrpまたはW)、バリン(ValまたはV)、アスパラギン(AsnまたはN)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GluまたはQ)、グリシン(GlyまたはG)、セリン(SerまたはS)、トレオニン(ThrまたはT)およびチロシン(TyrまたはY)からなる群から互いに独立して選択される]、および
(ii)アミノ酸配列 Gly-Leu-Phe-His-Ala-Leu-Leu-His-Leu-Leu-His-Ser-Leu-Trp-His-Leu-Leu-Leu-His-Ala(配列番号7)を含んでなるか、またはからなる、ペプチド[なお、前記ペプチドは前記組成物において6より大きいpHである]。
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