図1は、本発明の実施の一形態のシート体10を簡略化して示す断面図である。シート体10は、電界型のアンテナ素子11と、導電性材料から成る部分を有する部材(以下「通信妨害部材」という)12との間またはアンテナ素子近傍に設けられ、アンテナ素子11を用いて通信妨害部材12の近傍で無線通信するにあたって、アンテナ素子11による通信環境が、通信妨害部材12によって悪化することを抑制するシート体10である。ここで、近傍とは、アンテナ素子による無線通信の通信環境に影響を与える近い位置を意味している。
通信環境の悪化には、アンテナ素子11の入力インピーダンスの低下および電磁エネルギの損失が含まれる。また通信妨害部材12の影響により、アンテナ素子11の共振周波数がシフトすることもある。したがってシート体10は、通信妨害部材12によるアンテナ素子11の入力インピーダンスの低下を抑制し、通信妨害部材12による電磁エネルギの損失を抑制するシート体10である。また共振周波数に関しては、シート体10によって調整されるものでもよいし、さらに整合回路(リアクタンス装荷部)によって整合されるものであってよい。
アンテナ素子11は、電界型のアンテナ素子であれば特に限定されるものではないが、本実施の形態では、ダイポールアンテナ、モノポールアンテナ、またはループアンテナである。ループアンテナの場合、周囲長が1波長、または1波長に近づくと電界型の挙動を示す。ここでいう1波長あるいはダイポールアンテナの1/2波長やモノポールアンテナの1/4波長は実効的な意味であり、たとえば誘電率や透磁率にて波長短縮効果を受けてその波長相当分の長さになった場合を含む。
本発明でいう電界型のアンテナ素子とは、電磁誘導方式の磁界型のアンテナ素子の機能、すなわち磁力線を検出する機能だけを有するものを除き、電界型のアンテナ素子の機能、すなわち電気力線を検出する機能を有するものであればよい。したがって電界型のアンテナ素子には、電気力線を検出する機能だけを利用する素子、電気力線を検出する機能および磁力線を検出する機能の両方を併用する素子、および電気力線を検出する機能と磁力線を検出する機能とを、交互に切替えて利用する素子が、含まれる。
本発明でいう通信妨害部材としての導電性材料とは、導電性を有する材料だけから成る材料、および導電性を有する材料を含んだ材料である。この導電性材料は、たとえば金属、Si系材料、黒鉛シートなどの導電性材料、ITOおよびZnOなどの酸化物ならびに水、薬品、油などの液体、含水性材料などを含み、アンテナ素子との間で高周波数的に短絡、結合または干渉を引き起こす可能性のあるレベルの導電率を有する材料をいう。導電性材料は、導電性を有する材料であり、金属など、抵抗率が10−6Ωcm以上10−1Ωcm未満である比較的抵抗率が低い材料と、水および海水などの液体ならびに半導体など、抵抗率が10−1Ωcm以上106Ωcm以下である比較的抵抗率が高い材料とを含む。
また導電性材料から成る部分を有する部材とは、少なくとも一部分が導電性材料から成る部材であり、全体が導電性材料から成る部材、および一部分だけが導電性材料から成る部材を含む。したがってこの部材は、少なくとも一部が導電性を示す部材であり、たとえば表面部だけが導電性を有していてもよいし、全体が導電性を有していてもよく、具体的には、他のアンテナ体、他のアンテナ素子、金属板、金属容器、筐体、シールド材、導電性繊維、液体が収容された容器、液体が収容された試験管、ペーストが収容された容器などを含む。
アンテナ素子11とシート体10とは、粘接着剤層を介して貼着されても、粘接着剤層を介さず直接設けられてもよい。粘接着剤層は、粘着性または接着性を有し、接合剤から成る層であり、その粘着性または接着性によって、アンテナ素子11とシート体10とが貼着される。接合剤は一般に誘電体であり、粘接着剤層は、誘電体層でもある。直接設ける構成は、アンテナ素子11およびシールド層13のうちの少なくともいずれか一方が有する粘着性または接着性によって、相互に貼着する構成であってもよいし、シールド層13にアンテナ素子11を印刷、描写、蒸着などによって、直接加工して設ける構成であってもよいし、アンテナ素子11またはアンテナ素子11を支持する支持体にシールド層13を塗工、溶着、固着、埋め込み、挟み込み、吹きつけなどによって、付加する構成であってもよい。支持体は、たとえばPETフィルムである。
シート体10は、電磁界を遮蔽する効果を有するシート体であり、無線通信に用いられる電磁波によって形成される電磁界を遮蔽する効果を有するシート体である。つまり、アンテナ素子11の近傍にある通信妨害部材12によるインピーダンス低下等の影響を抑えるために、アンテナ素子11からの電磁界を通信妨害部材12に届きにくくするためのシートである。ここでは遮蔽と表現しているが、完全でなく一部を遮蔽する場合も、磁界を集中させて通過させる場合も含む。したがってシート体10は、無線通信に用いられる電磁波を遮断する構成であり、これによって前述の通信環境の悪化を抑制する。
遮断の対象とする電磁波は、どうような用途で利用される電磁波であってもよく、遮断の対象とする電磁波の周波数は、電磁波の用途によって決定されるものである。遮断の対象とする電磁波は、たとえばRFIDシステムで利用される電磁波であり、UHF帯に属する860MHz以上1GHz以下の範囲(以下「高MHz帯」という)に含まれる周波数の電磁波であって、さらに具体的には、日本国内では950MHz以上956MHz以下の範囲に含まれる周波数の電磁波である。
前記遮断の対象とする電磁波の周波数は例示であり、例示の周波数以外の周波数の電磁波を遮断する構成でも本発明に含まれる。シールド層の材料特性はこれらの周波数範囲ではほとんど差がなく推移し、本発明での数値をそのまま使うことができる。
また2.4GHz帯の周波数の電磁波を遮断の対象とすることがある。2.4GHz帯は、2400MHz以上2500MHz未満の周波数範囲である。RFIDシステムで用いられる電磁波の周波数は、2400MHz以上2483.5MHz以下の範囲に含まれる。
遮断の対象とする電磁波の周波数は、特に限定されるものではないが、300MHz以上300GHz以下の範囲を含み、任意の単数または複数の周波数を選択することができる。この300MHz以上300GHz以下の範囲には、UHF帯(300MHz〜3GHz)、SHF帯(3GHz〜30GHz)およびEHF帯(30GHz〜300GHz)が含まれる。
シート体10は、シールド層13と、導体層14と、貼着用剤層15とが積層される積層体に構成される。シールド層13は、電磁界を遮断するための層であり、電磁波を遮断するための層である。
導体層14は、導電性材料から成る層であり、本実施の形態では銅から成る。導体層14は、通信妨害部材としてアンテナ素子11に影響する可能性があるため、シールド層13によりその影響を抑えることになる。導体層14はまた中間アンテナとして機能することもある。導体層14のインピーダンスを向上させるため、スリットを入れたり、分割したり、導電率に分布を持たせたりすることができる。なお導体層14の大きさに制限はない。
貼着用剤層15は、シールド層13を含むシート体10を物品に貼着するための貼着用剤から成る層である。貼着用剤は、粘着剤および接着剤の少なくとも1種類を含み、粘着性または接着性による結合力を有している。
シールド層13、導体層14および貼着用剤層15は、厚み方向一方側から他方側に、この順で積層されている。シールド層13と導体層14との間またはアンテナ素子近傍には、粘着剤または接着剤から成る結着層16が介在され、この結着層16によって、シールド層13と導体層14とが互いに結合されている。貼着用剤層15は、自己の粘着力または接着力で導体層14に結合されている。以下、シールド層13、導体層14、貼着用剤層15および結着層16を総称するとき、各構成層13〜16という。
導体層14および貼着用剤層15は、必ずしも必要な構成材料ではなく、シールド層13を通信妨害部材12に結着層16を介して貼着したり、結着層16を介さずに直接積層することも可能である。シート体10の各構成層13〜16は、それぞれ多層化されていてもよく、たとえばシールド層13を多層化して透磁率に傾斜性を持たせたり、単層でも透磁率に傾斜性を持たせたものを用いることが可能である。
各層13〜16の厚み寸法およびシート体10全の厚み寸法は、特に限定されるものではないが、例を挙げるならば、本実施の形態では、シールド層13の厚み寸法は、1μm以上10mm以下であり、導体層14の厚み寸法は、100Å(1×10−8m)以上500μm以下であり、貼着用剤層15は、1μm以上1mm以下であり、結着層16は、1μm以上1mm以下であり、シート体10の全体の厚み寸法は、3μm以上12mm以下である。シート体10は、全体の厚み寸法が、小さくすることが可能で、かつ各層13〜16が前述のような材料から成っており、可撓性を有している。したがってシート体10は、自在に変形させることができる。
シールド層13は、複素比透磁率および複素比誘電率を含む材料特性値を選択することによって、無線通信に用いられる電磁波を遮断している。複素比透磁率の実数部μ’が大きいほど、磁力線が集中して通過するようになって電磁波の遮断効果が高くなり、複素比透磁率の虚数部μ”および透磁率損失項tanδμ(=μ”/μ’)が小さいほど、磁界エネルギの損失が小さくなる。したがって複素比透磁率の実数部μ’は、大きいほど好ましく、複素比透磁率の虚数部μ”および透磁率損失項tanδμは、小さいほど好ましい。また複素比誘電率の実数部ε’が大きいほど、電気力線が集中して通過するようになって電磁波の遮断効果が高くなり、複素比誘電率の虚数部ε”が小さいほど、電界エネルギの損失が小さくなる。したがって複素比誘電率の実数部ε’は、大きいほど好ましく、また複素比誘電率の虚数部ε”は、小さいほど好ましい。
また本発明において、複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ’ならびに複素比誘電率の実数部ε’および虚数部ε”の数値は、無線通信に用いられる電磁波の周波数に対応する数値である。無線通信に用いられる電磁波の周波数は、特に限定されるものではないが、UHF帯、SHF帯およびEHF帯を含む300MHz以上300GHz以下の範囲の周波数であってもよく、たとえば860MHz以上1GHz以下の高MHz帯または2.4GHz帯の周波数であってもよい。
本実施の形態では、シールド層13は、無線通信に用いられる電磁波に対して、複素比透磁率の実数部μ’と複素比透磁率の虚数部μ”とは、μ’≧μ”の関係を有し、したがって複素比透磁率の実数部μ’が複素比透磁率の虚数部μ”以上である。またシールド層13は、無線通信に用いられる電磁波に対して、複素比透磁率の実数部μ’が5以上でありかつ透磁率損失項tanδμが1以下である。またシールド層13は、無線通信に用いられる電磁波に対して、複素比透磁率の実数部μ’が10以上でありかつ透磁率損失項tanδμが1以下である構成とすることが好ましく、無線通信に用いられる電磁波に対して、複素比透磁率の実数部μ’が20以上でありかつ透磁率損失項tanδμが0.5以下である構成とすることが、さらに好ましい。
また本実施の形態では、シールド層13は、無線通信に用いられる電磁波に対して、複素比誘電率の実数部ε’が20以上であり、複素比誘電率の虚数部ε”が300以下であって、誘電率損失項tanδε(=ε”/ ε’)が15以下である。
図2は、シールド層13の内部構造を拡大して示す断面図である。図2には、図解を容易にするために、磁性粉末21および磁性微粒子22のハッチングを省略して示す。シールド層13は、前述のような材料特性値を得るために、結合材20に、磁性を有する材料から成る粉末(以下「磁性粉末」という)21と、磁性を有する材料から成る微粒子(以下「磁性微粒子」という)22とが混合されて形成される。シールド層13は、磁性材料として、磁性粉末21および磁性微粒子22を含有している。本実施の形態では、結合材20は、ポリマーから成り、たとえばノンハロゲン系ポリマー、またはノンハロゲン系ポリマーと他のポリマーなどの材料とを混合したノンハロゲン系混合材料から成る。結合材の具体例は、あくまでも一例であり、ノンハロゲン系ポリマーに限定されるものではない。
結合材20として、ハロゲン系ポリマーを用いることも可能である。結合材20に関しては、ポリマー(樹脂、TPE、ゴム)ジェル、オリゴマーなど、有機系および無機系を問わず、また重合度などに依存することなく、あらゆる材質の材料を用いることができる。ノンハロゲン系の材料は、環境面で好ましく用いることができるものである。シート化するためにはポリマー材料が適し、たとえば以下に例示するものを好ましく用いることができるが、例に挙げていない種類の材料およびブレンドのし方が異なる材料、アロイ化した材料など、シート化できる材料は全て用いることが可能である。
結合剤20の材料としては、各種の有機重合体材料を用いることが可能であり、たとえばゴム、熱可塑性エラストマー、各種プラスチックを含む高分子材料などが挙げられる。前記ゴムとしては、たとえば天然ゴムのほか、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリル系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、水素添加ニトリルゴム(HNBR)などの合成ゴム単独、それらの誘導体、もしくはこれらを各種変性処理にて改質したものなどが挙げられる。また液状ゴムでも構わない。
これらのゴムは、単独で用いるほか、複数をブレンドして用いることができる。ゴムには、加硫剤のほか、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、充填剤、着色剤などの従来からゴムの配合剤として用いられていたものを適宜配合することができる。これら以外にも、任意の添加剤を用いることができる。たとえば、誘電率および導電率を制御するために所定量の誘電体(カーボンブラック、黒鉛、酸化チタンなど)を、用途の1つである電子機器内に発生する不要電磁波へのインピーダンスマッチングおよび温度環境に応じて、材料設計して添加することができる。さらに加工助剤(滑剤、分散剤)も適宜選択して添加してもよい。
熱可塑性エラストマーとしては、たとえば塩素化ポリエチレンのような塩素系、エチレン系共重合体、アクリル系、エチレンアクリル共重合体系、ウレタン系、エステル系、シリコーン系、スチレン系、アミド系などの各種熱可塑性エラストマーおよびそれらの誘導体が挙げられる。
さらに、各種プラスチックとしては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、ポリスルホン、ウレタン系樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、生分解性樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂およびこれらの誘導体が挙げられる。これらの結合剤として、低分子量のオリゴマータイプおよび液状タイプを用いることができる。熱、圧力、紫外線、放射線、電子線、風乾、硬化剤などにより成型後にシート状になるものであれば、任意の材料を選択することができる。
磁性粉末21は、扁平な軟磁性金属粉末であり、互いに接触しないように分散され、かつシールド層13の厚み方向に対して垂直に延びるように配向されている。磁性粉末21は、略円板状であり、平均厚み寸法は、2μmであり、厚み方向に垂直な方向の平均外径は、55μmである。磁性微粒子22は、金属粉末の厚み寸法よりも小さい微粒子であり、少なくとも外表面部が全体にわたって非導電性を有し、導電性が低くなるように構成されている。磁性微粒子22の平均外径は、1μmである。
シールド層13を形成する結合材20は、たとえば水素添加したNBRゴムであるHNBRが用いられる。また磁性粉末21は、たとえば鉄、珪素およびアルミニウムの合金(Fe−Si−Al)であるセンダストから成る。また磁性微粒子は、全体の導電性を抑えて耐食性を有する、たとえば酸化鉄(マグネタイト)から成る。前述の形状、寸法および材料は、例示に過ぎず、これに限定されるものではない。
シールド層13は、適切な複素比透磁率および複素比誘電率を有するものであるなら、その材料構成はとくに限定されない。本実施例の様に結合材20に軟磁性粉末21および/または磁性微粒子22を分散させたものでもいいし、磁性体(金属酸化物、セラミックス、グラニュラ薄膜、フェライトメッキ、金属有機化合物、磁性メッキなど)をそのままシールド層13として使うことも可能である。
軟磁性粉末21および/または磁性微粒子22である軟磁性粉末の材料としては、センダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素鋼(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si−B(−Cu−Nb)合金、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Cr−Si合金、Fe−Al−Ni−Cr合金、Fe−Ni−Cr合金、Fe−Cr−Al−Si合金、Fe系合金、Co系合金、Si系合金、Ni系合金、アモルファス金属などが挙げられる。
また軟磁性粉末の材料としてフェライトまたは純鉄を用いてもよい。フェライトとしては、たとえばMn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Mn−Mgフェライト、Mnフェライト、Cu−Znフェライト、Cu−Mg−Znフェライトなどのソフトフェライト、あるいは永久磁石材料であるハードフェライトが挙げられる。純鉄としてはたとえばカルボニル鉄などが挙げられる。軟磁性粉末の材料としては、これら磁性材料を単体で用いるほか、複数をブレンドしても構わない。
軟磁性粉末としては、たとえば円板状を含む板状、楕円形を短軸まわりに回転させた回転楕円体状などの扁平軟磁性粉末であってもよいし、たとえば針状、繊維状、球状、多面体状、塊状などの非扁平軟磁性粉末であってもよい。好ましくは、軟磁性粉末として透磁率の高い扁平軟磁性粉末を用いることがよい。軟磁性粉末として、1種類の形状の粉末だけを用いてもよいし、複数種類の形状の粉末を組合せて混合して用いてもよいが、複数種類の形状の粉末を組合せる場合、少なくとも1種類は扁平状であることが好ましい。
軟磁性粉末の粒径は1nm以上1000μm以下、好ましくは10nm以上300μm以下であるのがよい。また扁平軟磁性粉末の場合、アスペクト比は2以上500以下、好ましくは10以上100以下であることがよい。特にナノサイズの磁性微粉末を使用することで、UHF帯およびSHF帯でのシールド層において、複素比透磁率の実数部μ’の値をたとえば10以上と高くし、かつ複素比透磁率の虚数部μ”の値をたとえば5以下と低くすることができる。
また軟磁性粉末は、その表面に絶縁性を増すために有機物または無機物の被覆層を、メッキ、溶着、電着などの被覆処理によって形成してもよい。また軟磁性粉末は、その表面に耐食性を向上させるために酸化被膜を有していてもよい。磁性粉末の表面は、表面処理が施されていることが好ましい。表面処理剤はカップリング剤および界面活性剤などによる一般的な処理法を用いることができる。また磁性粉末と結合材の濡れ性を向上させる全ての手段、たとえば樹脂被覆、分散剤などを用いることができる。
シールド層13は、磁性材として、軟磁性金属、軟磁性酸化金属、磁性金属および磁性酸化金属のうちの少なくともいずれか1つから成る材料である、またはそれを含有する材料から成る。シールド層13は、軟磁性金属、軟磁性酸化金属、磁性金属および磁性酸化金属のうちの少なくともいずれか1つから成る粉末および微粒子の少なくとも一方を、前述のように結合材20に、分散させる構成でもよいし、軟磁性金属、軟磁性酸化金属、磁性金属および磁性酸化金属のうちの少なくともいずれか1つによって薄膜を含む膜に形成されてもよい。
磁性材料を結合材20に分散させる構成のシールド層13は、結合材20としての有機重合体100重量部に対して、磁性材料として、フェライト、鉄合金および鉄粒子の群から選ばれる1または複数の材料を、1重量部以上1500重量部以下の配合量で含む材料から形成される。有機重合体100重量部に対する磁性材料の配合量は、好ましくは10重量部以上1000重量部以下である。有機重合体100重量部に対する磁性材料の配合量が、1重量部未満である場合、十分な透磁率が得られず、1500重量部を超えると加工性が劣り、シート体10を製造できなくなるか、または製造が困難になる。
シールド層13の構成が同一である場合、複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”は、対象となる電磁波の周波数によって異なり、対象となる電磁波の周波数が高くなるにつれて、小さくなる傾向を有している。本実施の形態において、遮断の対象とする電磁波は、高MHz帯および2.4GHz帯の周波数の電磁波を含んでいる。複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”は、対象となる電磁波の周波数が高くなるにつれて、小さくなる傾向を有している。したがって高MHz帯および2.4GHz帯の電磁波を含めて遮断可能な構成とするためには、たとえば1以上10MHz以下程度の低い周波数の電磁波の遮断を目的とする構成と比べて、全体的に複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”が、特に実数部μ’が小さくなってしまう。
シールド層13における複素比透磁率の実数部μ’を大きくするためには、シールド層13における磁性を有する材料から成る部分の量を多くする必要がある。また複素比透磁率の虚数部μ”を小さくするためには、磁力線の経路25における非磁性材料から成る部分を少なくすればよい。単純に考えると、シールド層13における磁性粉末21の配合量を多くすれば、磁性を有する材料から成る部分の量を多くし、磁力線の経路における非磁性材料から成る部分を少なくすることができるが、磁性粉末21の配合量を多くしすぎて、磁性粉末21同士が接触してしまうと、シールド層13が導電性を有してしまい、シールド層13内に電流を生じ、抵抗による損失が発生して電磁エネルギが吸収されてしまう。したがって単純に磁性粉末21の配合量を多くすることはできない。
本実施の形態では、磁性粉末21とともに、磁性微粒子22を混合することによって、磁性粉末21が互いに接触してしまうことを防ぎ、かつ各磁性粉末21間に磁性微粒子22を介在させ、磁性を有する材料から成る部分の量を多くするとともに、磁力線の経路25における非磁性材料から成る部分を少なくすることができる。したがって高MHz帯および2.4GHz帯の電磁波に対して、前述のような複素比透磁率が得られる。たとえばシールド層13の950MHzの電磁波に対する複素比透磁率の実部μ’が19.16であり、透磁率損失項tanδμが0.58であり、複素比誘電率の実部ε’が165.8であり、誘電率損失項tanδεが0.15である。またシールド層13の表面抵抗率(JIS K6911)は、106Ω/□である。
高MHz帯および2.4GHz帯を含む高周波数域では、たとえ磁性金属であっても複素比透磁率の実数部μ’の低下が大きく、高い値を得ることは難しい。また1000MHz以上であるGHz帯では、磁性金属単体のシートよりも、結合材20に磁性粉末21を分散させたシールド層13を備えるシート体10の方が、複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”共に高い値を示すことがある。
1MHz以上10MHz以下程度の低い周波数では、結合材20に磁性粉末21を分散させたシート体10の複素比透磁率の実数部μ’は、もちろん磁性金属単体のシートの複素比透磁率の実数部μ’よりもそれぞれ小さい。周波数上昇による複素比透磁率の実数部μ’の低下率を比べると、結合材20に磁性粉末21を分散させたシート体10の低下率は、磁性金属単体のシートの低下率に比べて小さい。したがって300MHz以上、特に高MHz帯およびGHz帯(1GHz以上1THz未満)を含む高周波数域では、逆転現象が生じることもある程、結合材20に磁性粉末21を分散させたシート体10の複素比透磁率の実数部μ’は、磁性金属単体のシートの複素比透磁率の実数部μ’よりもそれぞれ大きくなる場合がある。この現象は、磁性体である磁性粉末21、22同士が離れて分散する結果、間に介在する材料による磁気ロスが生じるため、シート体10のシールド層13では、磁気共鳴周波数が高周波数側に、したがってMHz帯(1MHz以上1GHz未満)側からGHz帯側にシフトすることによる現象である。
さらにSnoekの限界則に示されるように複素比透磁率の実数部μ’の周波数上昇による低下もあり、複素比透磁率の実数部μ’の周波数上昇対する低下率に連動して、複素比透磁率の虚数部μ”が大きくなっている。300MHz以上、特に高MHz帯およびGHz帯を含む高周波数域では、磁性金属単体のシートなどでは、複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”が共に大きいか、複素比透磁率の実数部μ’が小さくかつ複素透磁率の虚数部μ”が大きいという特性を有している。300MHz以上、特に高MHz帯およびGHz帯を含む高周波数域では、複素比透磁率の実数部μ’が大きくかつ複素比透磁率の虚数部μ”が小さいという特性を得ることは難しい。
磁性材料は、低周波数域における複素比透磁率の実数部μ’が大きいほど、周波数上昇による複素比透磁率の実数部μ’の低下率が大きいという傾向を有する。このような傾向を有する磁性材料の粉末(磁性粉末)21を、結合材20に分散させることで、周波数上昇による複素比透磁率の実数部μ’の低下率を抑えるとともに、磁性粉末21同士の絶縁性を確保することができる。さらに磁性粉末21を結合材20に分散させるだけの構成では、磁性粉末21間に存在する結合材20の影響で、300MHz以上、特に高MHz帯およびGHz帯を含む高周波数域での複素比透磁率の実数部μ’を大きくすることに限界がある。したがって磁力線がシート体10のシールド層13を通りやすくなるように磁界パスともよばれる複素比透磁率の実数部μ’の高い経路をさらにミクロなレベルで構築する必要がある。この磁界パスを形成するために磁性微粒子22が混合される。もちろんこの磁界パスの形成によって、シールド層13が導電性を有する構成となることがないように、磁性粉末21間の高い電気絶縁性を確保する必要がある。この電気絶縁性の確保は、たとえば磁性微粒子22を、少なくとも外表面部が全体にわたって非導電性を有する構成として実現される。本実施の形態では、この磁性微粒子22としては、フェライトのナノ粒子を用いている。この粒子は、酸化物磁性体であるため導電性を発現することはない。
このようにして複素比透磁率の虚数部μ”がピーク値となる共鳴周波数が高周波数側にシフトし、さらに5GHzおよび10GHzと上げることで、300MHz以上、特に高MHz帯および2.4GHz帯での複素比透磁率の実数部μ’が大きくかつ複素比透磁率の虚数部μ”が小さい、シールド層13を実現することが可能となる。
また本発明の実施の他の形態のシールド層13として、磁性材料の充填率を高くするために、平均粒子径比が約4:1の大きさの異なる2種類の磁性粒子を、前述と同様の結合材20に混合し、磁性微粒子および軟磁性金属繊維を混合する。さらに電気絶縁性を確保するために、電気絶縁性微粒子を混合する。前記2種類の磁性粒子は、前記磁性粉末21と同一の材料から成り、大きい方の平均粒子径は約20μmであり、小さい方の平均粒子径は約5μmである。また磁性微粒子および軟磁性金属繊維は、鉄系材料から成り、磁性微粒子の平均粒径および軟磁性金属繊維の平均繊維径は、約1μmである。電気絶縁性微粒子は、酸化ケイ素(SiO2)から成り、平均粒子径は約10nmである。またこのサイズの微粒子は、磁性粉末21のシールド層13における分散時の方向および間隔を制御する役割も有する。
さらにシールド層13内の空隙をできるだけなくすために、シールド層13の実測比重値が、配合からの理論比重値になるべく近い値を取るように設計、製造している。図2に示す構成に変えて、前述のような構成であっても、同様に、複素比透磁率の虚数部μ”がピーク値となる共鳴周波数が高周波数側にシフトし、さらに5GHzおよび10GHzと上げることで、300MHz以上、特に高MHz帯および2.4GHz帯での複素比透磁率の実数部μ’が大きくかつ複素比透磁率の虚数部μ”が小さい、シールド層13を実現することが可能となる。
また本実施の形態のシールド層13の材料設計の基本的思想は、通信周波数にて高抵抗を有し、通信周波数での複素比透磁率の実数部μ’を高くして磁界成分をシールド層13内に呼び込み、扁平形状の磁性粉末をミクロに配向、配列させることで任意の方向に磁気が流れ易くなることで磁気異方性を付与し、複素比透磁率の虚数部μ”を低くして磁気的損失を抑えることである。これにより本発明の効果を得ること可能となる。
またシート体10は、各層13〜16の少なくともいずれか1つの層に、たとえば難燃剤または難燃助剤が添加されている。これによってシート体10に、難燃性が付与されている。たとえば携帯電話などのエレクトロニクス機器も、内装するポリマー材料に難燃性を要求されることがある。
このような難燃性を得るための難燃剤としては、特に限定されることはないが、たとえばリン化合物、ホウ素化合物、臭素系難燃剤、亜鉛系難燃剤、窒素系難燃剤、水酸化物系難燃剤、金属化合物系難燃剤などを適宜用いることができる。リン化合物としては、リン酸エステル、リン酸チタンなどが挙げられる。ほう素化合物としては、ホウ酸亜鉛などが挙げられる。臭素系難燃剤としては、ヘキサブロモベンゼン、ヘキサブロモシクロドデカン、デカブロモベンジルフェニルエーテル、デカブロモベンジルフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノール、臭化アンモニウムなどが挙げられる。亜鉛系難燃剤としては、炭酸亜鉛、酸化亜鉛若しくはホウ酸亜鉛などが挙げられる。窒素系難燃剤としては、たとえばトリアジン化合物、ヒンダードアミン化合物、若しくはメラミンシアヌレート、メラミングアニジン化合物といったようなメラミン系化合物などが挙げられる。水酸化物系難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。金属化合物系難燃剤としては、たとえば3酸化アンチモン、酸化モリブデン、酸化マンガン、酸化クロム、酸化鉄などが挙げられる。
本実施例では、重量比において、結合材を100として、臭素系難燃剤を20、三酸化アンチモンを10、リン酸エステルを14の比で、それぞれ添加することによって、UL94難燃試験においてV0相当の難燃性を得ることができる。シート体10は、このような物品を構成する素材として、または物品に装着して好適に用いることができる。たとえば航空機、船舶および車両内の装置など、燃焼およびこれに伴うガスの発生を防止したい空間などで用いられる物品に装着するなどして、好適に用いることができる。
またシート体10は、電気絶縁性を有している。具体的には、各層11,12が前述のような材料から成ることによって、シート体10の表面抵抗率(JIS K6911)が102Ω/□以上である。シールド層13の表面抵抗率は、大きいほど好ましい。したがって実現可能な最大値が、表面抵抗率の上限値となる。このように高い表面抵抗率を有し、電気絶縁性を有している。
またシート体10は、耐熱性を有している。具体的には、ゴムあるいは樹脂材料に架橋剤を添加した場合のシート体10の耐熱温度は、150℃であり、シート体10は、少なくとも150℃を超える温度になるまでは、特性に変化を生じない。
またシート体10は、熱伝導性が付与されている。シート体10が用いられる環境は、たとえばICを含む通信手段および電源手段など、発熱源となる手段の近傍で用いられる場合がある。シート体10の熱伝導性が優れていることによって、発熱源となる手段で発熱される熱を逃がすことができ、その発熱源となる手段の昇温を抑え、高温に晒されることによる性能低下を防ぐことができる。
シート体10は、少なくとも一方の表面部が、粘着性または接着性を有している。本実施の形態では、前述のように貼着用剤層15を有しており、これによって厚み方向他方側の表面部が粘着性または接着性を有している。シート体10は、貼着用剤層15の粘着性または接着性による結合力によって、物品に貼着することができる。したがってシート体10は、たとえば通信妨害部材12に貼着することによって、アンテナ素子11と通信妨害部材12との間またはアンテナ素子近傍に、容易に設けることができる。シート体10は、厚み方向一方側がアンテナ素子11側に配置され、厚み方向他方側が通信妨害部材12側に配置されて設けられる。貼着用剤は、たとえば日東電工社製No.5000Nが用いられる。
以下、実施例を挙げて本発明の評価方法を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1は、結合剤20として水素添加ニトリルゴム(HNBR、日本ゼオン製「ゼットポール」)100重量部、扁平軟磁性粉末(磁性金属)21としてセンダスト(Fe−Si−Al系合金)(同和鉱業製DT)690重量部および磁性微粒子22として、超微粒子鉄粉(JFEケミカル製)69重量部を添加(充填)し、界面活性剤、分散剤を加え、さらに過酸化物(日本油脂社製の商品名「パーミクルD」)を架橋剤として加え、熱プレス法によりシールド層13を形成し、このようなシールド層13を備えるシート体10を作製した。配合に於ける、ポリマー分率は45.3vol.%、磁性体分率は46.4vol.%である。
実測比重値は、上記で得られたシートの重量/体積から算出し、理論比重値は、各構成成分の比重×含有量の総和を体積で除して算出した。本実施例での理論比重値は3.89であり、実測比重値は3.53であった。
上記で得られたシールド層13について、同軸管法によりその材料定数(複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”、複素比誘電率の実数部ε’および虚数部ε”を測定した。具体的には、シールド層13と同一構成である外形が7mmかつ内径が3mmのリング状試料を作成し、試料の同軸管内部への接触部分に導電性塗料を塗布および乾燥し、同軸管部分を、同軸ケーブルを介してアジレント社製のネットワークアナライザー8720ESに接続し、S11(反射減衰強度)およびS21(透過減衰強度)を測定し、ここから複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”を決定した。また複素比誘電率の実数部ε’および複素比誘電率の虚数部ε”は、複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”と同様にして測定される。複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”ならびに複素比誘電率の実数部ε’および虚数部ε”の1または複数を不特定に指す場合、材料定数という場合ある。
図3は、実施例1の材料定数μ’、μ”、ε’、ε”の測定結果を示すグラフである。図1には、「◆」印によって、複素比透磁率の実数部μ’を示し、「■」印によって、複素比透磁率の虚数部μ”を示し、「△」印によって、複素比誘電率の実数部ε’を示し、「×」印によって、複素比誘電率の虚数部ε”を示す。表1および図3に示すように、950MHzの電磁波に対する複素比透磁率の実部μ’は19.16であり、透磁率損失項tanδμが0.58であり、複素比誘電率の実部ε’が165.8であり、誘電率損失項tanδεが0.15である。また表面抵抗率(JIS K6911)は、106Ω/□である。
図4は、シート体10を備えるタグ30を簡略化して示す断面図である。図5は、タグ30を示す斜視図である。タグ30は、無線通信によって情報を伝達する電子情報伝達装置の1つであり、たとえば固体の自動認識に利用されるRFID(Radio Frequency IDentification)システムのトランスポンダとして用いられる。タグ30は、電界型のアンテナ素子11と、アンテナ素子11に電気的に接続され、アンテナ素子11を用いて通信する通信手段である集積回路(以下「IC」という)17と、シート体10とを備えている。タグ30は、リーダからの要求信号をアンテナ素子11によって受信すると、IC17内に記憶されている情報を表す信号をアンテナ素子11によって送信するように構成されている。したがってリーダは、タグ30に保持されている情報を読取ることができる。タグ30は、たとえば商品に貼着して設けられ、商品の盗難防止および在庫状況の把握など、商品管理に利用されている。アンテナ素子11とシート体10とを含んでアンテナ装置が構成される。図4には図示していないが、整合回路を付加していることもある。
アンテナ手段であるアンテナ素子11は、前述のように、ダイポールアンテナである。アンテナ素子11は、ポリエチレンテレフタレート(PET)から成る基材18の厚み方向一方側の表面部に形成されるパターン導体によって実現される。IC17は、アンテナ素子11のたとえば中央部に配置され、電気的に接続されている。IC17は、少なくとも記憶部と制御部とを有している。記憶部には情報を記憶することが可能であり、制御部は、記憶部に情報を記憶させ、または記憶部から情報を読出すことができる。このIC17は、アンテナ素子11によって受信される電磁波信号が表す指令に応答して、情報を記憶部に記憶し、または記憶部に記憶される情報を読出して、その情報を表す信号をアンテナ素子11に与える。基材18は、長方形板状であり、アンテナ素子11は、基材18の中央部に長手方向に延びて設けられる。アンテナ素子11およびIC17の層の厚み寸法は、1nm以上500μm以下であり、基材18の層の厚み寸法は、0.1μm以上2mm以下である。シート体10に直接アンテナ素子11を印刷、加工することで基材を用いない構成であってもよい。
アンテナ素子11、IC17および基材18によって、タグ本体33が構成される。タグ本体33は、可撓性を有する接着テープに搭載されるなどしてパッケージングされている。タグ本体33とシート体10とによって、タグ30が構成されている。図4には、簡略化して示しているが、タグ本体33にシート体10が貼着される状態で積層される。図4には示されていないが、タグ本体33(基材18が含まれない構成もある)とシート体10の間には粘着剤もしくは接着剤を用いられるか、タグ本体33かシート体10のどちらかまたは双方が粘着性もしくは接着性を有することにより貼付けられる場合もある。タグ本体33は、アンテナ素子11およびIC17が設けられる側とは反対側の表面部をシート体10に対向させ、シート体10のシールド層13に導体層14などの層とは反対側から結合される。シート体10とタグ本体33との結合構造は、特に限定されるものではないが、粘着剤および接着剤を含む結着剤を用いて結合してもよい。図3には、シート体10とタグ本体33とを結合するための構成は省略して示す。タグ30は、厚み方向一方側から他方側に、アンテナ素子11およびIC17の層、基材18の層、シールド層13、結着層16、導体層14ならびに貼着用剤層15がこの順で積層されている。シート体10と基材18とは、同一の長方形状に形成されている。タグ本体33は、図4の向きでもよいし、図面上で上下反対にした構成でもよいことは、前述のとおりである。
アンテナ素子11は、アンテナ素子11が延びる方向と交差する方向へ向けて電磁波信号を送信し、アンテナ素子11が延びる方向と交差する方向から到来する電磁波信号を受信することができる。本実施の形態では、アンテナ素子11を基準にして、基材18およびシート体10とは反対側に向かう送受信方向Aへ電磁波信号を送信し、送受信方向Aから到来する電磁波信号を受信することができる。送受信方向Aは主な方向を示しているが、回り込んだ電波で通信する場合もあるため、その方向に限定されるものではない。
タグ30は、たとえばリーダである情報管理装置から、予め定める記憶すべき情報(以下「主情報」という)と、その主情報を記憶するように指令する情報(以下「記憶指令情報」という)とを表す電磁波信号が、アンテナ素子11によって受信されると、主情報および記憶指令情報を表す電気信号がアンテナ素子11からIC17に与えられる。ICタグ17は、制御部が、記憶指令情報に基づいて、主情報を記憶部に記憶させる。
また情報管理装置から、記憶部に記憶される情報(以下「記憶情報」という)を送信するように指令する情報(以下「送信指令情報」という)を表す電磁波信号が、アンテナ素子11によって受信されると、送信指令情報を表す電気信号がアンテナ素子11からIC17に与えられる。ICタグ17は、制御部が、送信指令情報に基づいて、記憶部に記憶される情報(記憶情報)を読出し、その記憶情報を表す電気信号をアンテナ素子11に与える。これによってアンテナ素子11から、記憶情報を表す電磁波信号が送信される。
このようにタグ30は、アンテナ素子11によって電磁波信号を送受信する電子情報伝達装置である。タグ30は、内蔵するバッテリによって駆動されるバッテリ駆動タグであってもよいし、受信した電磁波信号のエネルギを利用して電磁波信号を返信するバッテリレスタグであってもよい。
このようなタグ30は、通信妨害部材12の近傍で用いることができるようにするために、シート体10を備えている。シート体10は、一例としてアンテナ素子11に対して、送受信方向Aと反対側に設けられる。シート体10は、貼着用剤層15を用いて通信妨害部材12に貼着して用いられる。このタグ30は、アンテナ素子11よりもシート体10を通信妨害部材12側に配置して、アンテナ素子11と通信妨害部材12との間またはアンテナ素子近傍にシート体10が介在もしくは配置されるように設けられる。
図6は、タグ30を通信妨害部材12に貼着した状態で、アンテナ素子11の近傍に形成される電界を示す断面図である。図7は、シート体10を介在させずに、アンテナ素子11およびICタグ17を通信妨害部材12近傍に配置した状態で、アンテナ素子11の近傍に形成される電界を示す断面図である。図6は、理解を容易にするために、タグ30の構成のうち、アンテナ素子11、IC17およびシールド層13以外の構成を省略して示す。アンテナ素子11の近傍に通信妨害部材12が存在しない自由空間では、アンテナ素子11の両端部11a,11bの電位差によって生じる電界が、そのまま空間に広がり、電界の強度変化によって磁界が形成され、さらにその磁界の強度の変化によって電界が形成される。アンテナ素子11は、このような電界および磁界の形成現象が順次連続的に繰返される原理を利用して、電磁波を送信することができる。またアンテナ素子11は、送信原理と逆の原理によって、共振周波数の電磁波を受信することができる。
図7に示すように、アンテナ素子11の近傍に通信妨害部材12が存在する場合、アンテナ素子11の両端に生じる電界は、通信妨害部材12から受ける電気的な影響を無視することができず、周波数にも依存するがMHz帯以上の周波数域では短絡(ショート)現象が生じ、結果的にアンテナ素子11の持つインピーダンスがそれにより低下してしまうことになる。
つまりアンテナ素子11の両端部11a,11bに電位差が生じる状態では、アンテナ素子11の両端部11a,11bが、正または負にそれぞれ帯電された状態となり、これによってアンテナ素子11の両端部11a,11bと、通信妨害部材12におけるアンテナ素子11の両端部11a,11bとそれぞれ対向する部分12a,12bとの間に電界が形成され、アンテナ素子11の両端部11a,11bと正負反対に帯電された状態となる。アンテナ素子11には、ICによって交番電圧が印加され、両端部11a,11bは、正または負が交互に入替わるように帯電され、これと同期して通信妨害部材12における各部分12a,12bも、正または負が交互に入替わるように帯電されることになる。以下、図6および図7において、アンテナ素子11の左側の端部を一端部11aとし、右側の端部を他端部11bとし、通信妨害部材12における各部分12a,12bのうち、左側の部分を一方部分12aとし、右側の部分を他方部分12bとする。
微小時間について観察すると、アンテナ素子11の他端部11bから一端部11aに向かう電流I11が生じるとともに、通信妨害部材12内に、一方部分12aから他方部分12bに向かう電流I12が生じる。このように逆向きの電流が生じる。前述のようにアンテナ素子11には、ICによって交番電圧が印加されるので、図7に示す向きの電流が生じる状態と、図7と反対向きの電流が生じる状態とが交互に発生する。周波数が高くなると、アンテナ素子11の一端部11aと通信妨害部材12の一方部分12aとの間、およびアンテナ素子11の他端部11bと通信妨害部材12の他方部分12bとの間に、あたかも電流I0が生じているのと等価の状態となり、アンテナ素子11の一端部11aと通信妨害部材12の一方部分12aとの間、およびアンテナ素子11の他端部11bと通信妨害部材12の他方部分12bとの間が、短絡しているのと等価の状態になる。いわば高周波的に短絡した状態となる。この高周波的に短絡する現象は、コンデンサに高周波の電圧を印加した場合に、通電しているのと同様の状態になることと同じ現象である。
このような高周波的な短絡が生じると、アンテナ素子11と通信妨害部材12とによって閉回路が形成され、通信妨害部材12が近傍に存在しない場合に比べて電流値が増加する。つまりアンテナ素子11の近傍に通信妨害部材12がない場合に比べて、インピーダンスが低下する。インピーダンスをZとし、電圧値をVとし、電流値をIとすると、インピーダンスZは、Z=V/Iとなり、電流値Iが増加することからも、インピーダンスZが低下していることから確認されている。このインピーダンスZは、アンテナ素子11と通信妨害部材12とによって形成される回路のインピーダンスであるが、回路を構成するアンテナ素子11の入力インピーダンスでもある。したがってアンテナ近傍に通信妨害部材12が存在すると、アンテナ素子11の入力インピーダンスが低下してしまう。
これに対して図6に示すように、シート体10は、電界型のアンテナ素子11と通信妨害部材12との間に設けると、アンテナ素子11の両端部11a,11bが帯電されることによって、通信妨害部材12との間に形成される電界の強度が小さくなる。したがって高周波的な短絡回路の形成が弱まり、アンテナ素子11の入力インピーダンスの低下が抑制される。入力インピーダンスの低下抑制は、アンテナ素子11に生じる電流の電流値が、通信妨害部材12が存在しない場合に近い小さい値となることから確認されている。このようにシート体10を用いることによって入力インピーダンスの低下を抑制することができる。
本件発明者は、表1および図3に示す実施例1の材料定数μ’、μ”、ε’、ε”の数値を用いて、金属製の通信妨害部材12近傍にダイポールアンテナであるアンテナ素子11がある場合に、アンテナ素子11と通信妨害部材12との間またはアンテナ素子近傍にシート体10を挟込む状態で、アンテナ素子11のインピーダンス回復度合を電磁界シミュレータ(Sonnet)により計算した。
シミュレーションに用いた構成は、図4のとおりである。導体層14として金属板である銅(Cu)板を有し、50μm厚の粘着層16および500μm厚のシールド層13を設け、基材18である100μm厚のPETフィルムにアンテナ・エレメントであるアンテナ素子11を配置している。この結果、入力インピーダンスは126Ω(1GHzの場合、リアクタンスがゼロの周波数)、放射効率は3%(利得−12.6dB)となった。
シート体10は、電界型のアンテナ素子11と通信妨害部材12との間に設けることによって、アンテナ素子11が通信妨害部材の近傍に配置されるときに、導電性材料から成る部分を有する部材よるアンテナ素子の入力インピーダンスの低下を抑制することができる。シート体10を用いなければ、電界型のアンテナ素子11は、通信妨害部材12の近傍では、ほとんど動作しなくなり、無線通信に用いることができなくなる。この理由として、電界型のアンテナ素子11の入力インピーダンスが大幅に小さくなることが挙げられる。電界型のアンテナ素子11の入力インピーダンスが小さくなると、電界型のアンテナ素子11を用いて通信するIC17のインピーダンスと乖離し、電界型のアンテナ素子11とIC17との間で、信号を受渡しすることができなくなってしまう。シート体10は、アンテナ素子11が導電性材料から成る部分を有する部材の近傍に配置されるときに、アンテナ素子11の入力インピーダンスの低下を抑制することができる。電界型アンテナであるため誘電率および誘電損失を大きくしたいところであるが、誘電損失(tanδε=ε”/ε’)を大きくするには、複素比誘電率の虚数部ε”を大きくする必要があるものの、複素比誘電率の虚数部ε”が必要以上に大きくなると導電率が上がってしまい、短絡を進める方向に寄与することになる。本発明では誘電率以外に透磁率を制御することを手段として選択し、インピーダンスを効率的に回復させたものである。つまり誘電率と透磁率を併用して、導電性を上げすぎないことによって、通信改善効果を得ることができている。したがってシート体10を用いることによって、電界型のアンテナ素子11を用いて、通信妨害部材12の近傍であっても、好適に無線通信することができる。
具体的には、アンテナ素子11がダイポールアンテナである場合、ダイポールアンテナの中央部にIC17を接続させるが、IC17のインピーダンスは、たとえば40Ωであったり、50Ωであったりする。このインピーダンスと整合を取るには、少なくともアンテナのインピーダンスが10Ω程度必要となる。
アンテナ素子11に金属を近づけると、レジスタンスが下がり、インピーダンスも小さくなってしまうためである。計算例を示すと、シート体10を用いない場合、アンテナ素子11と通信妨害部材12との間に、0.53mm厚の誘電体のみあるとすると、インピーダンスは0.85Ωとなる。この数字はたとえ40Ωに比べて小さすぎる。タグ30では、構成の簡略化のために、アンテナ素子11とIC17とは直づけされる。途中にインピーダンス調整用の回路は設けられない。したがって前記インピーダンスの差は致命的である。これに対してシート体10を設けることによって、アンテナ素子11の入力インピーダンスの低下を抑制することができる。
さらに電磁エネルギの減衰を抑えるため、エネルギ減衰中の磁界成分の発生に着目し、シート体10の複素比透磁率の調整によって、実数部μ’を大きくすることで磁界を集め、且つμ”を小さくすることで集めた磁界のエネルギが熱エネルギに変換しないようにする。このようにシート体10の複素透磁率を調整する場合、シート体10の複素比誘電率を調整する場合に比べて、電磁エネルギの減衰を抑える効果を得やすい。この理由は、磁界は発生源に近い程強くなるため、薄型シートであっても複素比透磁率を調整すれば、効果的に働くためである。
さらに電磁エネルギの損失を抑えることによって、アンテナ素子11のアンテナ特性としては、放射効率を大きくすることができる。放射効率η=10(利得−指向性利得)/10で表すことができる。指向性利得は、金属などの損失を含まない利得である。利得(通常Gainとだけ書かれている場合はこちらを指す。)は、損失を含んだ「いわば真の利得」といえる。計算結果、放射効率を良くする(上げる)ためには、損失を少なくすればよいことがわかった。また、アンテナの放射抵抗をRrad、損失抵抗をRlossとすると、放射効率η=Rrad/(Rrad+Rloss)である。Rradは無損失アンテナの入力インピーダンスのレジスタンスに相当するため、アンテナ素子11に金属を近づけてレジスタンスが下がると、放射効率が低下することになる。このため、アンテナ素子11の入力インピーダンスの低下を抑制することで放射効率を大きくすることができる。
さらにアンテナ素子11の長さは、シート体10の複素比誘電率および複素比透磁率による波長短縮効果の影響を受けるため、周波数の再調整が必要である。この波長短縮の影響を考慮するとシビアな製造条件が要求される。これを回避するためには、大きな数値をとる傾向にある複素比誘電率の実部をなるべく小さい値とすることが求められる。
またアンテナ素子11がとして、ダイポールアンテナを用いることができる。これによって、簡単、小型な構成のダイポールアンテナを、通信妨害部材12の近傍で用いて無線通信することができる。
またシート体10には、シールド層13が設けられ、シールド層13は、無線通信に用いられる電磁波に対して、複素比透磁率の実数部μ’と複素比透磁率の虚数部μ”がμ’≧μ”であり、好ましくは、複素比透磁率の実数部μ’が5以上でありかつ透磁率損失項tanδμ≦1であり、さらに好ましくは、複素比透磁率の実数部μ’が20以上でありかつ透磁率損失項tanδμ≦0.5である。またシールド層13は、無線通信に用いられる電磁波に対して、複素比誘電率の実数部ε’が20以上である。さらにシールド層13は、無線通信に用いられる電磁波に対して、複素比誘電率の虚数部ε”が300以下である。これによってアンテナ素子11が通信妨害部材12の近傍に配置されるときに、通信妨害部材12よるアンテナ素子11の入力インピーダンスの低下を抑制することができるとともに、通信妨害部材12よる電磁エネルギの損失を抑制することができるシート体を実現することができる。
グラフなどは省略するが、950MHz帯の複素比透磁率の実数部μ’が50でありかつ透磁率損失項tanδμ=0.1である場合の放射効率のシミュレーション結果の一例を述べると、入力インピーダンスは13Ω(1GHzの場合、リアクタンスがゼロの周波数)、放射効率は8%(利得−5.1dB)となった。
図8は、アンテナ素子11としてダイポールアンテナを用いる場合のシート体10の効果を確認するためのシミュレーションにおいて想定したシート体10の構成を示す断面図である。このシミュレーションでは、シート体10は、シールド層13だけを有し、アンテナ素子11に基材18に相当する誘電体層を介してシート体10(シールド層13)を設け、シート体10(シールド層13)がアンテナ素子11と金属板から成る通信妨害部材12との間に配置されるように、シート体10(シールド層13)に通信妨害部材12を直接積層した構成について、通信状態をシミュレーションした。
図9は、図8の構成によるシミュレーション結果を示し、周波数とアンテナ素子11の入力インピーダンスの実数部(Real)及び虚数部(Imaginary)との関係を示すグラフである。この入力インピーダンスの虚数部がゼロになる周波数が共振周波数(図9では953MHz)を示す。図10は、図8の構成によるシミュレーション結果を示し、指向性利得を示すグラフである。図11は、図8の構成によるシミュレーション結果を示し、絶対利得を示すグラフである。
表1は、図8の構成の各層の材料定数を示す。各材料定数は、950MHzの周波数における値である。
このシミュレーションでは、基材18に相当する誘電体層として、950MHz帯の複素比誘電率の実数部ε’が1.1でありかつ誘電率損失項tanδε=0.01である層厚1mmの誘電体層(たとえば発泡スチロールなどの発泡体層)を想定し、950MHz帯の複素比誘電率の実数部ε’が100でありかつ誘電率損失項tanδε=0.01、複素比透磁率の実数部μ’が50でありかつ透磁率損失項tanδμ=0.01、導電率10−4[S/m]であるシールド層13を想定した。アンテナ素子11側に誘電体層(基材18)が配置され、この誘電体層に、アンテナ素子11と反対側でシート体10としてシールド層13が積層されている。このようなシミュレーションの結果、入力インピーダンス(実数部)は、入力インピーダンスの虚数部(リアクタンス)がゼロの周波数である953MHzにおいて30Ωとなり、指向性利得は、6.696dBi(図10のθ(Theta)=0の場合の値)、絶対利得は、0.266dBi(図11のθ(Theta)=0の場合の値)となり、放射効率は22.53%となった。
電界型のアンテナ素子11の金属対応の課題、つまり通信妨害部材12に対する課題に対して、従来の技術では磁性を有するシートを用いることは検討されていなかった。この理由は、電界型のアンテナ素子では電界を主に利用するため、電界に対しては当然に効果がある誘電率が議論され、透磁率の効果は十分に着目されなかった。つまり透磁率を有するシート体10によるインピーダンス回復効果は知られていなかった。
透磁率を利用した(誘電率も併用することになる)インピーダンス回復効果は大きく、通信妨害部材12の近傍に配置されることによるアンテナ素子11の入力インピーダンスが0Ω近くまで落ち込んだものが、シート体11の複素比透磁率の実数部μ’を10以上(高MHz帯または2.4GHz帯において)とすることで数10Ω付近まで回復する。これにより通信手段およびアンテナ素子11に接続されるIC固有のインピーダンス、たとえば、30Ωおよび50Ωと整合がとれることになり、まずアンテナ素子を含む共振回路として動作可能となる。
次に、電磁エネルギの損失であるが、シールド層13の複素比透磁率の虚数部μ”の数値が大きければその損失が大きくなり、結果的にアンテナ素子11の放射効率が低下する。複素比透磁率の透磁率損失項tanδμが1以下(高MHz帯または2.4GHz帯において)であると損失がやや少なくなり、複素比透磁率の透磁率損失項tanδμが0.5以下(高MHz帯または2.4GHz帯において)となれば、さらに電磁エネルギの損失が小さくなり、アンテナ素子11の放射効率を改善する。
シールド層13の複素比誘電率の実数部ε’は、アンテナ素子の大きさを決める波長短縮効果に複素比透磁率の実数部μ’と共に寄与する。複素比誘電率の実数部ε’を20以上とすることで、アンテナ素子11の大きさを約4.4分の1に短縮することができる。
シールド層13の複素比誘電率の虚数部ε”を300以下としている。
ここでωは角周波数(ω=2πf)、ε0は真空の誘電率(8.8541×1012[F/m]、fは周波数[Hz]である。本発明のシールド層は導電性材料ではなく誘電性材料であるが、導電性材料にて成り立つ上の式より計算すると、周波数が950MHzでは導電率σ≒15.9S/m(抵抗率ρ≒0.06Ωm)、周波数が2.4GHzでは導電率σ≒39.9S/m(抵抗率ρ≒0.02Ωm)が得られる。これら以下の導電率、これ以上の抵抗率を有していると概略考えてよい。
またシールド層13には、軟磁性金属、軟磁性酸化金属、磁性金属、磁性酸化金属のうちの少なくともいずれか1つから成る材料、またはそれが含有されている材料である。磁性を発現するための手法にとくに限定はないが、これらの材料を直接用いるか、結合材中に分散させるかの方向により実現される。この構成によって、前述の特性が得られるシールド層を形成することができる。したがって前述の優れた効果を達成するシート体10を実現することができる。
またシート体10は、導体層14を有しているので、アンテナ素子11の近傍に導電性材料から成る導体層14が存在する状態で、前述の無線通信に用いる電磁波の周波数に合わせて、シールド層13の複素比透磁率の実数部μ’および虚数部μ”ならびに複素比誘電率の実数部ε’および虚数部ε”が調整されている。これによってシールド層13の好適な特性を実現することができる。したがって通信妨害部材12の近傍で、さらに好適な無線通信を実現することができる。
またアンテナ素子11としてダイポールアンテナとシート体10を組合わせることにより、アンテナ素子11の小型化が実現できる。本シート体10の複素比透磁率の実数部μ’および複素比誘電率の実数部ε’の高さにより相まって、波長短縮効果が加わり、従来製品に比べて格段に小型化を達成することができる。ダイポールアンテナは線状で、カーブおよび折曲がりがあってもよく、全長がλ/2あればよい。たとえば950MHzでは、約15.8cm長であるが、これに本シート体による波長短縮効果が加わり、約3〜10cmの線状素子が可能となり、さらに曲折を加えることで2〜3cmのラベルにも収まるサイズが可能となる。さらに小型化することもでき、貼れる対象は広範囲に及ぶことになる。
従来製品は、通信妨害部材12の近傍で動作するアンテナはパッチアンテナがある。ただし、パッチアンテナのサイズは一辺λ/2必要となり、たとえば950MHzでは、最大約15.8cm角の正方形状と大きくなり、具体的にはカードサイズには収まらず、タグとしても大きすぎる。パッチとグランド導体間の距離も一般にλ/16〜λ/64必要であり、小型、柔軟性を要求される用途には用いることができなかった。
図12は、本発明の実施の他の形態のタグ30を簡略化して示す斜視図である。図12に示すタグ30は、図1〜図11で説明したタグ30と類似の構成を有しており、対応する構成に同一の符号を付し、異なる点についてだけ説明する。図1〜図11で説明したタグ30は、アンテナ素子11としてダイポールアンテナが用いられたけれども、図12に示すタグ30は、アンテナ素子11としてモノポールアンテナが用いられる。ダイポールアンテナでは、アンテナ素子11の中央部に、つまりアンテナ素子11を構成する2つの素子片の間にIC17が設けられる構成であるけれども、モノポールアンテナは、前記2つの素子片の一方が、グラウンド板100に置き換えられる構成である。このようなモノポールアンテナを用いる構成のタグ30は、前述のようなダイポールアンテナを用いる構成のタグ30と同様の効果を得ることができる。シート体10の効果は、同様に得られる。さらにダイポールアンテナを用いる場合よりもさらに小形化が可能である。
このように、シート体10を用いることによって、アンテナ素子11を用いるタグ30を、通信妨害部材12に貼着するなどして、通信妨害部材12の近傍に設け、電磁波信号の好適な送受信を実現できる状態で、タグ30を用いることができる。したがってたとえば、タグ30は、たとえば図13に示すような通信妨害部材12である金属製の容器に飲料を収容した飲料品40に貼着して、たとえば商品管理などの目的で用いることができる。またタグ30は、たとえば図14に示すような基板など通信妨害部材12が多数用いられている携帯電話装置などの電子装置41に内蔵するようにして、たとえば商品管理またはユーザ認証、盗難防止などの目的で用いることができる。このようにタグ30の広い用途を確保することができ、利便性を高いタグ30を実現することができる。
またシート体10は、前述のように可撓性を有しているので、自在に変形させることができる。これによって設置場所の制限が少なく、広い用途で用いることが可能になる。たとえば物品に貼着して用いる場合に、物品の形状に倣わせて設けることが可能になる。たとえば、図13に示すように、通信妨害部材12が、円筒状の外表面を有する物品、たとえば飲料の容器である場合にも、その表面の形状に倣わせて貼着することが可能である。したがってシート体10の装着場所の制限を少なくするとともに、装着作業を容易にすることができる。タグ30として用いる場合には、他の構成の材料を適宜選択して、タグ30が全体として可撓性を有する構成にしておくことによって、円筒面状の表面に倣って貼着することができるようになる。
またシート体10は、少なくとも一表面部に粘着性が付与されているので、物品に装着して用いる場合、粘着性を利用して、物品に粘着させて装着することができる。これによってシート体10を物品に容易に装着することができる。したがってシート体10およびそれを備える電子情報伝達装置を利用するための作業を容易にすることができる。
またシート体10は、難燃性が得られる。タグ30を含む、アンテナ素子11を用いて無線通信する電子情報伝達装置は、難燃性を要求される場合がある。シート体10は、このような難燃性が要求される用途にも好適に用いることができる。
またシート体が用いられる環境は、たとえばIC17を含む通信手段および電源手段など、発熱源となる手段の近傍で用いられる場合がある。シート体10の熱伝導性が優れていることによって、発熱源となる手段で発熱される熱を逃がすことができ、その発熱源となる手段の昇温を抑え、高温に晒されることによる性能低下を防ぐことができる。
またシート体10は、耐熱性および電気絶縁性を有している。耐熱性に関しては、特に自動車用途にて120℃および130℃での用いることがあり、その温度でも性能劣化することなく用いることができることが要求される。架橋材を添加し、結合材を架橋することでその耐熱性が実現できる。架橋の手段は問わないが、たとえば結合材の種類および架橋材を適宜に組み合わせることにより、それ以上の高温(たとえば200℃)の耐熱性を実現することももちろん可能である。さらに有機および無機系の絶縁性材料を結合材として、軟磁性金属粉を被覆することで、シート内に分散する軟磁性金属が直接接触することなくシート体10の電気絶縁性を向上させることができる。電気が導通するようではそれ自体に渦電流が発生し、磁気エネルギを減衰させてしまう。さらに回路およびメッキ筐体(グラウンド)が極近接して配置されるため、シート体10に導電性があればそれを介して導通してしまうことになり、動作に支障をきたすことになる。これらを防ぐためにシート体10には表面抵抗率として102Ω/□以上を達成している。
図15は、本発明の実施のさらに他の形態のタグ30を簡略化して示す平面図である。この場合のアンテナ素子11は、略円環状のループアンテナから成り、IC17が接続される。図16は、図15のタグ30を示す断面図である。図15および図16に示すタグ30は、図1〜図14で説明したタグ30と類似の構成を有しており、対応する構成に同一の符号を付し、異なる点についてだけ説明する。図15および図16に示すタグ30では、アンテナ素子11としてループアンテナが用いられ、基材18に積層されている。また図15および図16のタグ30では、シート体10は、シールド層13だけを有し、アンテナ素子11に基材18を介してシート体10(シールド層13)が設けられている。
図15および図16には、2つのタグ30が、互いに当接する状態で、厚み方向と垂直な方向に並べて設けられる状態を示している。図15に示す2つのタグ30は、同一の構成であるが、以下の説明での理解を助ける目的で、図15には、左側のタグ30のアンテナ素子11およびIC17には、添え字「a」を添えて示し、右側のタグ30のアンテナ素子11およびIC17には、添え字「b」を添えて示し、文章中において、識別が必要な場合には添え字を用いて識別し、識別が不要な場合は、添え字を用いることなく説明する。
図15および図16に示すように、複数のタグ30が互いに近接して配置される状態は、たとえば複数の物品が密集状態で設けられ、これらの各物品に1つずつタグ30が装着される場合の状態である。この場合の物品は、たとえば試料が収納される試験管であり、行列状に区切られる領域を有する試験管立ての各領域に収容されている。各タグ30は、各試験菅または試験管の蓋に、それぞれ装着されている。
このように複数のタグ30が密集状態で設けられる場合に、1つのタグ30とって他のタグ30のアンテナ素子11は、通信妨害部材となってしまうが、各タグ30にシート体10が設けられ、アンテナ素子11の近傍にシート体10が設けられることによって、各タグ30に通信不良が生じることを防ぐことができる。このようにシート体10は、アンテナ素子11と通信妨害部材、ここでは他のアンテナ素子11との間に設けなくても、アンテナ素子11の近傍に設けていれば、アンテナ素子11の通信環境を改善することができる。
図17は、図15および図16のように2つのタグ30が、近接して配置される場合のシミュレーション結果を示すグラフである。図18は、図15および図16に示すタグ30においてシート体10が設けられていない2つのタグが、同様に近接して配置される場合のシミュレーション結果を示すグラフである。図17には、周波数とSパラメータ値の関係を示すグラフである。Sパラメータ値の単位はdBであり、値の大きさを相対比較している。ここで「S11」は反射電力の割合を、「S21」はアンテナ素子11間(IC17間)を伝播した電力を表している。具体的には、「S11」は、図15に示すように2つのタグ30が並べて設けられる場合、いずれか一方、たとえば左側(または右側)のタグ30のIC17a(またはIC17b)に供給された電力のうち、左側(または右側)のタグ30のIC17a(またはIC17b)で反射された電力の割合を表し、「S21」は、左側(または右側)のタグ30のIC17a(またはIC17b)から供給された電力のうち、右側(または左側)のタグ30のIC17b(またはIC17a)に伝わった電力の割合を表す。このように一方のIC17から他方のIC17に電力が伝わる状態を、本発明では結合という。図15の場合は、2つのタグ30が同一の構成であるので、左側のタグ30のIC17aで給電した場合のS11、S21と、右側のタグ30のIC17bで給電した場合のS11、S21とは、同一の値となる。また「単体コイルS11」は、図15に示すようなタグ30が、単体で自由空間に存在する場合の「S11」に相当する値を表している。
表2は、シミュレーションにあたって設定した各層の材料定数を示す。各材料定数は、2.4GHzの周波数における値である。
このシミュレーションでは、本発明のシート体10を用い、近くに存在する2個のループアンテナのアンテナ素子11間の結合特性を評価している。シミュレーションにあたり、シールド層13は、塩素化ポリエチレン100(部)にカルボニル鉄530(部)を加えて混練しシート化して作成した。このシールド層13は、同軸管法で測定した材料定数は、2.4GHzにおいて複素比誘電率の実数部ε’が12.31でありかつ誘電率損失項tanδε=0.07、複素比透磁率の実数部μ’が3.0でありかつ透磁率損失項tanδμ=0.43であった。シミュレーションでは、この材料定数を用いた。
図18に示すとおり、シート体10が無い場合、2つのアンテナ素子11を近づけて配置すると、S11およびS21の各放物線が双峰状になり、本来の通信周波数の前後にピークを有することになり、通信周波数での通信特性は低下する。通信電磁エネルギの損失の一例である。これはアンテナ素子11同士の結合によるものである。これに対して図17に示すように、シート体10を積層させると双峰性が消えて、通信特性が改善されてくる。このメカニズムは、あくまでも推測ではあるが、シート体10による電磁波の放射パターン変更、シールド層による波長短縮によるアンテナ動作の変更や、シールド層の損失成分による影響などが考えられる。いずれにしても、シート体10によって通信環境が改善されることは明らかである。
この近くに存在する2個のアンテナ素子11(タグ30)は、前述のように、密集状態のタグ30(トランスボンダ)の読み取りをモデリングしたものであり、互いのアンテナ素子11が通信妨害部材となり、特に結合による影響が懸念されている。本発明のシート体10をアンテナ素子11に積層することにより、アンテナ素子11同士の結合を緩和できる可能性を有することを見出したものである。本例は、アンテナ素子11と通信妨害部材の間にシート体10を配置するのではなく、アンテナ素子11近傍に配置した例となる。
図15〜図18では、2つのタグ30が並べられる例を挙げているが、たとえばカード型のトランスポンダなどの電子情報伝達装置が、積層される状態にあっても、前述と同様に通信環境が改善される。
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、構成を変更することができる。たとえば積層構成を変更するようにしてもよい。具体的には、シールド層13に対して導体層14などと反対側に、貼着用剤層15同様の構成を有するもう1つの貼着用剤層が設けられる構成であってもよい。このようなシート体10を、タグ30に用いる場合、アンテナ素子11とIC17とが搭載されるタグ本体33に、シート体10を貼着して、タグ30を構成するときに、別途に接着剤を用いなくてももう1つの貼着用剤層を用いて貼着可能となり、作業が容易になる。このようにシート体10の電子情報伝達装置への組込みが容易になるなど、シート体10の設置および装着作業を容易にすることができる。
また貼着用剤層15は、タグ30に組込むときに、タグ本体33に、シート体10を貼着するために用いられてもよい。この場合、前記もう1つの貼着剤層が設けられるのであれば、このもう1つの貼着用剤層を用いて物品に貼着するようにしてもよいし、もう1つの貼着用剤層がなければ、粘着剤または接着剤を用いて物品に貼着すればよい。また貼着用剤層15およびもう1つの貼着用剤層は、必須構成ではなく、これらの層を形成せずに、粘着剤または接着剤をシールド層13などの層に添加して、シート体10の表面に粘着性または接着性を付与する構成であってもよい。
また難燃性を与えるための手段は、難燃剤を添加する構成に代えて、他の構成であってもよい。またシート体10に最低限必要な性能は、磁界を遮断する性能であり、その他の性能に関しては、必須要件ではなく、有していない構成であってもよい。
またシート体10の用途は、タグ30に限定されるものではなく、タグ30以外のトランスポンダであってもよいし、トランスポンダ以外の電子情報伝達装置であってもよいし、アンテナ素子11とシート体10とを用いてアンテナ装置として構成されてもよい。タグ30以外の電子情報伝達装置としては、たとえばタグ30とともにRFIDシステムを構築するアンテナ、リーダ、リーダ/ライタ、携帯電話装置、PDAおよびパソコンなどが挙げられるが、これ以外の盗難防止装置、ロボット類の遠隔操作などの通信、車載のECU、その他の電波による無線技術が用いられる一切のアンテナ機能部品であってもよい。周波数がラジオ波域に限定しないことも前述のとおりである。またシート体10の用途は、電子情報伝達装置に限定されるものではなく、少なくとも磁界を遮断すべき要求がある用途で、広く用いることができる。またタグ30は、前述の物品以外の通信妨害部材12を有する物品であってもよい。
シート体10に導電性を有する導体層を積層した場合、アンテナの共振周波数を調整すれば、どのような導電性材料から成る部分を有する部材の近傍で無線通信する場合でもアンテナとして機能することになる。アンテナの共振周波数の調整は公知の手段を用いることができる。
これらの変更例以外の構成の変更であってもよい。