JP4792561B2 - ヒト免疫不全ウイルス感染・増殖抑制剤 - Google Patents
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Description
当初HIV感染は、同性愛者、麻薬常習者等に特徴的な感染症であると考えられていたが、現在では異性間交渉による感染が最も重要な感染経路となっている。エイズの治療法として開発が進められているものには、逆転写酵素阻害剤、ウイルス吸着阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、糖鎖合成阻害剤、中和抗体・受動免疫法、ワクチン、アンチセンス剤、免疫調節剤、遺伝子治療法などがある。
吸着阻害剤を用いた開発の多くは、HIVのレセプターである白血球分化抗原のCD4に関するものである。CD4そのものや、毒素や抗体で修飾したCD4分子を用いて、HIV感染を阻害することを狙っている(例えば、特許文献1〜3、及び非特許文献1参照。)。このような研究開発の他に、ペプチドTと呼ばれるペプチドを用いたウイルス吸着競合阻害剤、カブトガニ由来の生体防御ペプチドのタキプレシン・ポリフェムシン類縁体であるT22などを投与する方法が開発されつつある(例えば、非特許文献2参照。)。しかし、これらの吸着阻害物質は、遺伝子組み換えや、化学合成によって製造されたものであり、人体に投与した場合の安全性は未知である。また、製造コストも比較的高く、全世界的にエイズに対する予防が必要なことから、安全で、しかも安価なHIV吸着阻害方法の開発が強く望まれていた。
また、グルコースオキシダーゼやパーオキシダーゼ(ラクトパーオキシダーゼまたはミエロパーオキシダーゼ)がHIV−1に対する抗ウイルス作用があることが報告されている(例えば、非特許文献6参照。)。
しかしながら、シアリルラクトースのHIV感染・増殖抑制効果については知られていない。
本発明者らは、母乳に含まれるオリゴ糖の抗ウイルス作用について研究を進める過程でシアリルラクトースがHIVに対して強い感染防御効果を有することを初めて見出した。本発明者らは、再現性のよいHIVウイルス感染判定系を用い、種々の天然成分のスクリーニングを行った結果、シアリルラクトースにHIV感染・増殖抑制作用が存在することを見出して本発明を完成するに至った。
(1)HIVの感染を防ぐことができ、また、既感染者に対しては、体内でさらにウイルスが増殖して感染細胞が増加することを防ぐことができる。
(2)すでに通常の食品として摂取している成分を有効成分とする組成であるため、投与することによる副作用の心配が少ない。
(3)原料が比較的大量に存在するため、従来の抗HIV製剤に比べて製造コストが非常に安い。
(4)従来の抗HIV製剤に比べて比較的容易に、しかも大量に調製できるため、特定の患者の治療に使用が限定されることがなく、広くHIV感染・増殖を予防することができる。
本発明の有効成分としては、牛乳をはじめとする哺乳類の乳から精製したシアリルラクトースが用いられる。シアリルラクトースは哺乳類の乳汁や分泌液等から公知の方法によって調製することができる(特開平07‐079800号公報)。シアリルラクトースは哺乳類の乳から分離されるオリゴ糖であるが、本発明の実施においてはどのような種、由来のものでも差し支えない。
また必要に応じて、乳糖、グルコース、ガラクトース、シアル酸などから化学合成あるいは酵素合成により生産することもできる。現在最も安価でかつ容易に入手できるシアリルラクトースとしては牛乳より分離したものである。
また、ヒト血清アルブミン等とともにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等で溶解し滅菌して注射製剤とすることもできる。
また、本発明のシアリルラクトースを、牛乳、乳飲料、発酵乳、ジュース、ゼリー、ビスケット、パン、飴、麺類、チーズ、バター、ソーセージ等の飲食品、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物等に配合することができる。
これらのヒト免疫不全ウイルスの感染・増殖防御剤及びヒト免疫不全ウイルスの感染・増殖抑制用飲食品は、ヒト免疫不全ウイルスの感染および増殖抑制能を有するので、ヒト免疫不全ウイルスにより引き起こされるさまざまな病態の予防、治療、改善に非常に有益となりうる。
シアリルラクトースは日常摂取されている乳中にも存在するものであり、本発明において使用される量では毒性は知られていない。
(シアリルラクトースの抗HIV活性の測定)
(多サイクル感染実験)
HIVの標的細胞として単球由来マクロファージ(MDM)を用い、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(10%ヒト男性AB血清含有)で一週間培養した後に感染実験に供した。
HIVとしてAD8 (R5-HIV-1)を用い、感染の12時間前にシアリルラクトース(SL)を最終濃度がそれぞれ0μg/ml、10μg/ml及び30μg/mlとなるように添加した。ウイルスを感染させた後に3日毎に培養液を半量採取し、それぞれに同量の0μg/ml、10μg/ml及び30μg/ml SL含有DMEM(10%ヒト男性AB血清含有)を添加して、18日間培養を継続した。採取した培養上清は-20℃に保存しておき、培養が終了した後にそれらの逆転写酵素活性をPCR法を用いて測定した。陽性対照としてはSLの代わりに、HIV感染・増殖防御作用が公知であるラクトパーオキシダーゼ(LPO)を用いて同様に行った。その結果を図1に示す。
図1にみられるように、SL無添加(0μg/ml)では、培養日数とともに逆転写活性が上昇しているのに対して、SL濃度が10μg/ml、30μg/mlでは逆転写酵素活性が上昇していなかった。このことはSL添加によりHIVのMDMへの感染が抑制された結果、逆転写酵素活性が上昇しなかったことを示している。
HIVの標的細胞として、ヒト乳腺上皮MCF-7細胞を用い、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM) (10%ヒト男性AB血清含有)で一週間培養した後に感染実験に供した。
HIVとして、HIVエンベロープタンパク質の一種であるHXB2(X4)-Env、JRFL(R5)-Env、又はアンフォトロピックマウス白血病ウイルスエンベロープタンパク質であるMLV(amphotropic)-EnvでHIV遺伝子クローンNL4-3-Luc-R(-)E(-)をレスキューしたシュードタイプ(pseudotype)ウイルスを用いた。これらのウイルスはレスキューに用いられたエンベロープタンパク質を利用して細胞に吸着侵入し、逆転写した後にプロバイラル(proviral)DNAを染色体に組み込んでウイルス遺伝子を発現させるが、Vpr (R)やEnv (E)やNefの遺伝子の欠損のために、次の感染サイクルへは到達できないという性質を有するので、ウイルス感染は一度しか起こらない。
感染の12時間前に或いは12時間後に、SLを最終濃度がそれぞれ30μg/mlとなるように添加し、ウイルス添加後24時間培養した後、細胞を回収して細胞抽出液を調製した。HIV遺伝子クローンNL4-3-Luc-R(-)E(-)に組み込まれたルシフェラーゼ遺伝子の発現を、細胞抽出液のルシフェラーゼ活性をDual-Luciferase Reporter Assay System(Promega社製)を用いて測定することで調べた。コントロールとしてはSLを添加しない培地を用い、SLの代わりに、HIV感染・増殖抑制作用が公知であるラクトパーオキシダーゼ(LPO)を用いて同様に行った。ルシフェラーゼ活性値は、コントロールの値を100%とした相対値で示した。その結果を図2に示す。
図2にみられるように、HIVウイルスエンベロープタンパク質でレスキューしたHIVについては、SL添加によりコントロール及び陽性対照であるLPOと比較してルシフェラーゼ活性が抑制されていた。また、アンフォトロピックマウス白血病ウイルスエンベロープタンパク質で再生したHIVについては、SL添加により陽性対照であるLPOには劣るもののコントロールと比較してルシフェラーゼ活性が抑制されていた。また、全てのエンベロープタンパク質においてウイルス感染前に添加(pre)した方がウイルス感染後に添加(post)するよりルシフェラーゼ活性が抑制されていた。ルシフェラーゼ活性が抑制されているということはHIVの感染が抑制されていることを示している。
このことは、感染前にSLを添加することでより効果的に抗HIV作用を発揮することを示している。また、これらの抗HIV効果はエンベロープタンパク質の種類に拘らず発揮することが示された。
なお、本発明のSLは、陽性対照として用いたLPOと比較して熱処理に対して安定であるという性質を有しているので、加熱処理を必要とする飲食品に配合しても抗HIV効果が得られるという利点を有している。
このようにして得られた本発明のシアリルラクトースは、そのままHIV感染・増殖抑制剤としても利用可能である。
本実施例においては、上記実施例1により得たシアリルラクトースの注射用製剤の生産例を示した。
(1)シアリルラクトース 100 mg
ヒト血清アルブミン 100 mg
上記組成をPBSで溶解し、全量を20mlに調製し、滅菌後、バイアル瓶に2mlずつ分注し、常法により凍結乾燥密封した。
(2)シアリルラクトース 100 mg
ツイーン80 1 mg
ヒト血清アルブミン 100 mg
上記組成を注射用生理食塩水に溶解し、全量を20mlに調製し、滅菌後、バイアル瓶に2ml ずつ分注し、常法により凍結乾燥密封した。
(3)シアリルラクトース 100 mg
ツイーン80 1 mg
ソルビトール 4 mg
上記組成をPBSで溶解し、全量を20mlに調製し、滅菌後、バイアル瓶に2mlずつ分注し、常法により凍結乾燥密封した。
(4)シアリルラクトース 2 g
ツイーン80 2 mg
グリシン 2 g
上記組成を注射用生理食塩水に溶解し、全量を20mlに調製し、滅菌後、バイアル瓶に2mlずつ分注し、常法により凍結乾燥密封した。
(5)シアリルラクトース 2 g
ツイーン80 1 mg
ソルビトール 2 g
グリシン 1 g
上記組成を注射用生理食塩水に溶解し、全量を20mlに調製し、滅菌後、バイアル瓶に2mlずつ分注し、常法により凍結乾燥密封した。
(6)シアリルラクトース 2 g
ソルビトール 4 g
ヒト血清アルブミン 50 mg
上記組成をPBSで溶解し、全量を20mlに調製し、滅菌後、バイアル瓶に2mlずつ分注し、常法により凍結乾燥密封した。
乳糖 170g、馬鈴薯澱粉 5g、実施例1で調製したシアリルラクトース 20g、ステアリン酸タルク 5gを混合し、圧縮錠剤機(富士薬品機械 Y-5010-Q)により圧縮して(条件1〜4ton)、本発明のHIV感染・増殖抑制用錠剤を製造した。
ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gに、上記実施例1で得られたシアリルラクトース 40gを加えて混合した。混合物を1袋1.5gずつ袋に詰め、本発明のHIV感染・増殖抑制用スティック状栄養健康食品を製造した。
表1に示した配合で原料を混合した後、容器に充填し、加熱殺菌して、本発明のHIV感染・増殖抑制用飲料を製造した。
表2に示した配合で原料を混合し、ドウを作成して成型した後、焙焼して、本発明のHIV感染・増殖抑制用ビスケットを製造した。
表 3に示した配合で原料を混合した後、容器に充填し、加熱殺菌して、本発明のHIV感染・増殖抑制用ゼリーを製造した。
[図2] SL (pre)は、感染前のシアリルラクトース添加を、SL (post)は、感染後のシアリルラクトース添加を表す。LPO (pre)は、感染前の陽性対照のラクトパーオキシダーゼ添加を、LPO (post)は、感染後の陽性対照のラクトパーオキシダーゼ添加を表す。Controlはネガティブコントロールを表す。
Claims (1)
- シアリルラクトースを有効成分とするヒト免疫不全ウイルス感染・増殖抑制剤。
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