JP4792013B2 - 硫化水素除去方法およびガス精製装置 - Google Patents

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本発明は、バイオガスなど二酸化炭素と硫化水素をともに含有する被処理ガスより硫化水素を除去する方法、およびこれを実現するガス精製装置に関する。
近年、化石燃料の燃焼によって発生する二酸化炭素が地球温暖化の要因の一つとして問題となっており、またこれに関連してエネルギー問題が重要視されつつある。そこで下水汚泥や農業廃棄物、食品廃棄物等を嫌気性菌により発酵させた際に発生するバイオガスを、燃料ガスや発電用ガスタービン駆動用ガス、燃料電池用原料ガス等に高度利用することが注目されている。典型的なバイオガスは60〜70%のメタンと、30〜40%の二酸化炭素とから構成され、さらに窒素や酸素、硫化水素、水蒸気などをそれぞれ微量に含んでいる。
微量成分のうち窒素、酸素および水は、バイオガスをエネルギー使用する際に大きな問題となるものではないが、硫化水素については固体燃料電池や発電タービン等の腐食原因となることから高いレベルでバイオガスから除去することが求められている。
硫化水素を除去するために従来一般的に用いられている技術は、(I)酸化鉄または水酸化鉄と硫化水素とを化学反応させる反応除去方法、(II)ゼオライトなどの多孔質吸着剤に硫化水素を吸着させる吸着除去方法、に大別される。
上記(I)の反応除去方法は、硫化水素を、酸化鉄または水酸化鉄などの剤と化学反応させて硫化鉄を生成することによりこれを除去する技術であるが、
(ア)一般に硫化鉄や水酸化鉄は使い捨てであり、例えば半年から一年ごとに剤を廃棄し、また新たなものに入れ替える際に多くのコストを要する;
(イ)年間の剤の廃棄量が数十トンオーダーとなることが一般的であり、循環型エネルギー利用というバイオマスの思想に反する;
(ウ)剤の入れ替えの際に、反応性の高い吸着済みの剤が空気に曝されると発火等の事故が起きる虞がある;
などの問題がある。例えば下記特許文献1には、バイオガスよりまず酸化鉄により硫化水素を反応除去し、ついで脱水装置で水蒸気を除去した後、さらに活性炭やゼオライトを充填した補助脱硫装置で硫化メチルやメチルメルカプタンを除去する脱硫装置の発明が記載されているが、剤である酸化鉄を再生処理する観点からの検討はなされていない。
これに対し、下記特許文献2に記載の方法は、酸化鉄と硫化水素とが化学反応して生じる硫化鉄を、過酸化水素や次亜塩素酸によって処理することで酸化鉄や水酸化鉄に変成し、剤の再使用を可能にしている。
一方、上記(II)の吸着除去方法は、ゼオライトや活性炭などの多孔質材料とバイオガスとを接触させることで、吸着反応性に富む硫化水素を、多孔質材料の細孔である吸着サイトに吸着させて除去する技術である。例えば下記特許文献3には、天然ガスにともに混合する微量の二酸化炭素と硫化水素とをゼオライトで除去するスイートニング方法の発明が記載されている。また下記非特許文献1では、二酸化炭素が硫化水素に比べて大過剰に存在する被処理ガスから、ゼオライトを用いて硫化水素を除去する方法についての検討がなされている。
特開2003−277779号公報 特開2002−253963号公報 特公昭52−49001号公報 M.Bulow,W.Luts,M.Suckow、「The mutual transformation of hydrogen sulphide and carbonyl sulphide and its role for gas desulphurization process with zeolitic molecular sieve sorbents」、Studies in Surface Science and Catalysis、(オランダ)、Elsevier Science社、1998年、Vol.120、p.301−345
上記特許文献2に記載の脱硫方法は、硫化水素の除去に用いた使用済みの酸化鉄を再生処理するものであり、剤を使い捨てにしないという観点からは上記(ア)〜(ウ)の問題を解決した技術ともいえるが、剤の再生に次亜塩素酸などの環境負荷物質を大量に用いることから、その除害化に別途のエネルギーコストを要するという新たな問題がある。
また上記特許文献3では、天然ガス中に微量に含まれる二酸化炭素および硫化水素を脱硫の対象としていることから、活性炭やゼオライトにより比較的容易に硫化水素を吸着除去することが可能であるが、バイオガスのように大量の二酸化炭素を含有する被処理ガスを対象とする場合は以下の理由によりその脱硫が困難となる。
すなわち硫化水素は、触媒存在下で二酸化炭素と共存すると以下の反応式(1)により硫化カルボニルが容易に生成する。硫化カルボニルもまたバイオガスをエネルギー使用する際に装置等の腐食の原因となり、また人体にも有害であるうえ、化学的に安定な物質であって反応除去または吸着除去をすることが容易ではないため、バイオガス中の硫化水素については、硫化カルボニルに変換することなく、硫化水素のままで除去することが好ましい。
(化1)
S+CO→COS+HO (1)
しかし、天然ガスのように二酸化炭素の含有率が低い場合とは異なり、二酸化炭素をパーセントオーダー、特にバイオガスのように30〜40%程度も含有する被処理ガスの場合、上記反応式(1)の生起確率が飛躍的に増加し、吸着剤によって硫化水素を飽和状態(破過状態)まで吸着する前に硫化カルボニルが吸着剤より漏出する虞がある。さらに、硫化水素の吸着剤であるゼオライトや活性炭は触媒反応性もまた高いため、吸着剤としてのみならず上記反応式(1)を引き起こす触媒としても作用する。
したがって上記特許文献3の方法によるガス精製を行う場合、硫化水素および大量の二酸化炭素を含む被処理ガスを脱硫するためには、硫化水素および硫化カルボニルがいずれも吸着塔を破過することのないよう、複数系統の吸着塔を極めて短い時間で切り替えて運転する必要があり煩雑である。これは非特許文献1においても、二酸化炭素が硫化水素に比べて大過剰に存在した場合、ゼオライトを用いた硫化水素の吸着除去は、いわゆるVSA(Vacuum Swing Adsorption)方式やPSA(Pressure Swing Adsorption)方式のような短時間操作による方法でのみ可能であると結論づけられていることからも窺うことができる。
なお、PSAは一般にパーセントオーダーの高濃度の不純ガスをppmレベル程度まで低減するために用いられる技術であり、バイオガス中の硫化水素のように1000ppm程度しか含有していない不純ガスを1ppm以下まで高レベルで除去することは精製ガスの回収率が悪くなるなどの理由からコストに合わず、現実にはVSA方式やPSA方式によって短時間で吸着塔を切り替えて脱硫することは、実用化が困難といえる。
本発明は上記各課題に鑑みてなされたものであり、バイオガスなど硫化水素とともに大量の二酸化炭素を含有する被処理ガスから高いレベルで硫化水素を除去することが可能であって、吸着と再生とを順次繰り返す連続方式により被処理ガスの精製が長時間にわたって実施可能であってまた剤を使い捨てることがなく、さらに吸着塔の切替時間を長く取ることができて実用的な方法、およびこれを実現するガス精製装置を提供することを目的とする。
本発明は、ゼオライトの吸着サイトに予め水またはアンモニアを吸着させておくことにより、上記反応式(1)に示される硫化カルボニルの生成を抑制することができるという知見に基づいてなされたものである。すなわち本発明は、硫化水素に対する吸着能力を高く維持しつつも上記反応式(1)に示される硫化カルボニルの生成を抑制したゼオライトを吸着剤に用いることにより、硫化水素の破過時間と硫化カルボニルの生成時間とをバランスさせ、もって吸着塔の破過時間を最大化するという技術思想に基づくものである。
すなわち本発明にかかる硫化水素除去方法は、
(1)二酸化炭素と硫化水素をともに含有する被処理ガスを、硫化カルボニルの生成を抑制する触媒反応抑制剤として水またはアンモニアを予め吸着させたゼオライトに流通させることにより、前記被処理ガスから硫化水素を除去する硫化水素除去方法;
)ゼオライトに吸着させる水分量が、該ゼオライトの乾燥質量の0.2〜3.3重量%である上記()に記載の硫化水素除去方法;
)被処理ガスに脱水処理を施した後に、前記ゼオライトへの流通を行うことを特徴とする上記()または()に記載の硫化水素除去方法;
)被処理ガスが、二酸化炭素を5〜60%含有するバイオガスである上記(1)から()のいずれかに記載の硫化水素除去方法;
(5)ゼオライトが、A型ゼオライト、X型ゼオライトまたはフェリエライト型ゼオライトである上記(1)から()のいずれかに記載の硫化水素除去方法;
)ゼオライトの陽イオン種が、第2族元素のイオンである上記(1)から()のいずれかに記載の硫化水素除去方法;
)陽イオン種がカルシウムイオンである上記()に記載の硫化水素除去方法;
)ゼオライトのイオン交換サイトには、前記第2族元素のイオンを70%以上含有する複数種類の陽イオン種が存在する上記()または()に記載の硫化水素除去方法;
を要旨とする。
また本発明にかかるバイオガス精製装置は、
)二酸化炭素と硫化水素をともに含有する被処理ガスより前記硫化水素をゼオライトにより吸着除去する少なくとも二基の吸着塔と、それぞれの吸着塔に再生用ガスを供給して前記硫化水素を吸着したゼオライトを加熱条件下で再生する加熱再生手段と、被処理ガスの導入先を一の吸着塔から他の吸着塔に切り替えるとともに再生用ガスの供給先を前記他の吸着塔から前記一の吸着塔に切り替える切替手段と、を備えるガス精製装置であって、
前記ゼオライトには、アンモニア、または前記ゼオライトの乾燥質量に対し0.2〜3.3重量%の水が、硫化カルボニルの生成を抑制する触媒反応抑制剤として吸着されていることを特徴とするガス精製装置;
を要旨とする。
本発明においては、さらに具体的な態様として、
10)飽和水蒸気を吸着させた前記ゼオライトを所定の加熱条件下で脱着ガスと接触させることにより前記水分量を調整する上記()または上記()に従属する()〜()のいずれかに記載の硫化水素除去方法;
11)硫化水素を吸着させた前記ゼオライトを、熱スイング吸着方式により再生することを特徴とする上記(1)から()または(10)のいずれかに記載の硫化水素除去方法;
12)前記熱スイング吸着方式によるゼオライトの再生温度を、前記脱着ガスとの接触温度以下とすることを特徴とする上記(10)または上記(10)に従属する(11)に記載の硫化水素除去方法;
によっても上記本発明の目的を達成することができる。
本発明にかかる硫化水素除去方法によれば、硫化カルボニルの生成を抑制する触媒反応抑制剤をゼオライトに予め吸着させた状態で、硫化水素を含有する被処理ガスをこれに流通させることにより、上記反応式(1)で示される硫化カルボニルの発生を抑えることができる。これにより、仮に被処理ガスがバイオガスであって大量の二酸化炭素が含まれている場合であっても、硫化カルボニルが生成されるまでの反応時間を長くし、これを硫化水素の破過時間と同等またはそれ以上とすることができる。したがってかかるゼオライトを、並列に設けられた複数系統の吸着塔にそれぞれ充填し、硫化水素の吸着除去と、ゼオライトの再生とを交互に切り替えて運転することにより、硫化水素および硫化カルボニルが漏出することなく長時間にわたって、被処理ガスの精製を連続的に実施することができる。
また本発明によれば吸着塔の切替時間を長く取ることが可能となるため、ゼオライトの再生処理にあたっては、VSA方式やPSA方式に比べ吸着した硫化水素をより完全に脱着することのできるTSA(Thermal Swing Adsorption)方式を採用することができるため、次工程における硫化水素の吸着除去をより高いレベルで行うことが可能となる。
図1は本発明の硫化水素除去方法を実現するためのガス精製装置1の系統図である。ガス精製装置1を用いることにより、硫化水素を含有する被処理ガスRAより、二系統の吸着ラインA,Bを交互に切り替えて当該硫化水素を除去し、精製ガスRFを得ることができる。被処理ガスRAは流量制御装置(マスフローコントローラー:MFC)14により所定の流量に制御されて被処理ガス供給管2から矢印方向に供給される。また吸着ラインA,Bには、ゼオライトが充填された吸着塔9a,9bがそれぞれ設けられており、ゼオライトと被処理ガスRAとを接触させることでこれに含まれる硫化水素を吸着除去することができる。
ただし本発明においては、少なくとも二系統の吸着ラインが並列に設けられている限り、系統数は三ライン以上としてもよく、各系統に複数の吸着塔が直列に配設されていてもよい。
<ゼオライトについて>
吸着塔9a,9bに充填されるゼオライトとは、分子サイズの細孔を多数もつ結晶性のアルミノ珪酸塩の総称であり、狭義には珪素とアルミニウムとが酸素を共有したTO四面体(T=Si,Al)が結合して三次元ネットワークの骨格をなし、細孔(吸着サイト)に交換可能な陽イオンが存在して他の分子を吸着可能な物質を意味する。また近年では上記T原子としてリン(P),ガリウム(Ga)などのIIB,IVb、Vb族元素を含む物質や、AlPOなど陽イオンを含まないゼオライト類縁化合物も合成されており、本発明はゼオライトおよびゼオライト類縁化合物を総称してゼオライトとよぶ。
ゼオライトには結晶構造型の相違により、いわゆるA型、X型、Y型、ZSM−5型、B型、P型、T型、L型、Ω型、モルデナイト型、ペンタシル型、フェリエライト型、など様々な種類が存在する。本発明においては、硫化水素の吸着量が大きく破過時間を長く確保できるという観点から、A型(国際ゼオライト学会が制定した3文字コード名:LTA)、X型(同:FAU)またはフェリエライト型(同:FER)が特に好適に用いられる。
またゼオライトは、1種または2種以上のイオン種を担持しており、その組成は下式(2)の一般式で表される。ただし下式(2)は3種の陽イオン種を担持するゼオライトに関する一般式であり、陽イオン種が1種、2種または4種以上の場合については容易に類推が可能であろう。
(化2)
aAk+・bBl+・cCm+・(SiO12(AlO12 (2)
上式(2)で、A、BおよびCは陽イオン種を、k、lおよびmはそれぞれの価数を、a、bおよびcはそれぞれの含有量であり、a×k+b×l+c×m=12である。このとき、各陽イオン種(例えば陽イオン種A)のゼオライト中含有率は、下式(3)で表すことができる。
イオン種としては、各種金属やNHなどの陽イオンが代表的であり、このうち本発明においては特にカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)などの第2族元素(周期表の第2族元素、旧2A族元素)の二価イオンが、ゼオライトの触媒反応性を抑制する効果にもっとも優れるため好適である。ゼオライトの担持するイオン種として第2族元素のイオンが好ましいことは、後述する実施例2により明らかとなる。
本発明に用いるゼオライトに陽イオン種として含有される第2族元素のイオン(以下、第2族イオンという。)の含有率は70%以上、好ましくはなるべく100%に近いことが好ましい。かかる含有率で第2族イオンを含むゼオライトが本発明に好適に用いられることは、後述する実施例3により明らかとなる。
(数1)
陽イオン種Aのゼオライト中含有率
=当該陽イオン原子数×価数/ゼオライト骨格中のアルミ原子数
=a×k/12 (3)
化学合成されたゼオライトは一般に粉体として提供されることから、これを吸着剤として用いる際には直径や高さ(以下、径という。)が0.5〜3.0mm程度の球状または柱状などの形状の粒子に成形することが好ましい。また特に上記範囲より選択された径を均一に有するゼオライトを用いることにより、吸着塔9a,9bにゼオライトを層状に充填した場合にも、被処理ガスの圧力損失を低減しつつ、被処理ガスとゼオライトとの接触面積を十分に得ることができる。
ゼオライトの成形に用いるバインダー種としては、アルミナ系、シリカ系、または粘土系が一般的であるところ、このうちアルミナ系バインダー種はゼオライトの触媒活性を促進する可能性があることから、本発明に用いるゼオライトにはシリカ系または粘土系が好適に用いられる。
本発明においては、上記ゼオライトを1種、または2種以上を混合、積層もしくは他の吸着塔に充填して、用いることができる。
上記反応式(1)に示す硫化カルボニルの生成を抑制する触媒反応抑制剤について>
本発明は、吸着剤として用いるゼオライトの触媒活性を抑制し、硫化水素を飽和状態まで吸着させる間に上記反応式(1)に基づく硫化カルボニルの生成を抑えることを趣旨とするものである。
上記反応式(1)に示す硫化カルボニルの生成を抑制する触媒反応抑制剤(以下、触媒反応抑制剤ということがある)としては、ゼオライトの吸着サイトに吸着されることで硫化カルボニルを生成する触媒活性を抑制することのできる材料である水またはアンモニアを用いることができる。このうち特に精製ガスRFに混合しても問題を生じる虞が低く、また精製ガスRFから容易に除去可能であって、かつ入手性、安全性に優れる観点から、水(水蒸気)が好適である。
本発明者らの検討によれば、ゼオライトの吸着活性と触媒活性とは正の相関があり、フレッシュなゼオライトに対して水またはアンモニア触媒反応抑制剤として吸着させることで硫化水素に対する吸着活性を落としつつ、硫化カルボニルを生成する触媒活性も抑制することができる。
ゼオライトに対して触媒反応抑制剤を極微量だけ吸着させた場合、硫化水素の飽和吸着力はほとんど低下しない代わりに、硫化カルボニルが上記反応式(1)に基づいて高い頻度で変わらず生成されるため、バイオガスのように二酸化炭素を大量に含む処理ガスを精製する場合、ゼオライトが硫化水素によって破過する前に硫化カルボニルが吸着塔より漏出することとなる。
これに対し、ゼオライトに対して触媒反応抑制剤を大量に吸着させた場合は、硫化カルボニルの生起確率を大幅に低下させることができる反面、硫化水素の吸着可能時間が過少となって吸着ラインA,Bの切り替え頻度が高くなる。一方、TSA方式によってゼオライトを再生するためには所定の冷却時間が必要であるため、破過時間が所定以下となった場合は再生工程がこれに間に合わず、その結果、不完全な再生と吸着ラインA,Bの切り替えとを繰り返すことで徐々に吸着可能時間が短くなり遂には被処理ガスの連続的な精製処理が不可能となるか、または吸着ラインの数を増やす必要がある。
したがって本発明においては、被処理ガスに含有される二酸化炭素と硫化水素との反応生起確率、すなわち各濃度に応じて、ゼオライトに予め吸着させておく触媒反応抑制剤の吸着量を適切に保持することが好ましい。硫化水素の吸着処理中に(a)触媒反応抑制剤がゼオライトから脱着したり、または(b)被処理ガスに触媒反応抑制剤が含有されていてゼオライトへの吸着量が漸増したりすると、それぞれ、ゼオライトの触媒活性が改善して硫化カルボニルの生成および吸着塔からの漏出が促進されたり(aの場合)、硫化水素の吸着可能時間が漸減して破過時間が短くなったり(bの場合)するためである。
以下、触媒反応抑制剤に水を用いる場合を例にとり説明を行う。
本発明の硫化水素除去方法においては、吸着剤に用いるゼオライトの質量に対し0.2〜3.3wt%の比率で水分を吸着させるとよい。かかる質量比でゼオライトに水分を含有させることが好適であることは、後述する実施例1および2により明らかとなる。また、ゼオライトの触媒活性がその細孔の大小や多寡ではなく吸着サイトに担持されている陽イオン種の種類と量に依存するという知見から、上記水分含有比率はゼオライトの結晶構造型に依存しないことが本発明者らの検討により明らかとなっている。
ゼオライトに水分を含有させる具体的な方法は特に限定されず、例えば吸着剤製造後の乾燥処理の際にゼオライト含水量を調整することも可能であるし、乾燥品を吸着塔9a,9bに充填した後に含水・加熱再生を行うことにより調整することもできる。例えば後者の場合、吸着塔9a,9bに充填されたゼオライトに飽和状態まで水蒸気を通気して吸着させ、これを所定の加熱温度にて十分にガスパージすることで、当該加熱温度に応じた水分を再現性よくゼオライトに吸着させることができる。
<被処理ガスについて>
本発明の硫化水素除去方法の対象とする被処理ガスは硫化水素含有ガスであるが、二酸化炭素をパーセントオーダー、特に10%以上含有する硫化水素含有ガスの場合であっても硫化カルボニルの生成を抑制し、長時間にわたる精製処理が可能であるために本発明の効果を十分に享受することができる。具体的には、上述のようにメタンとともに高濃度の二酸化炭素を含有するバイオガスをその対象とする。本発明にて好適に精製処理されるバイオガスの組成は原料および発生条件により異なるが、微量成分として1〜10000ppmの硫化水素のほか窒素、酸素および飽和水蒸気を含み、かかる微量成分を除く主成分メタンが40〜95%、副成分二酸化炭素が60〜5%の混合比であることが一般的である。
被処理ガスは、ゼオライトに流通される前に脱水処理が施されることが好ましい。特にバイオガスには飽和水蒸気が含有していることが一般的であるため、これを脱硫するに際しては、脱水剤と接触させたり、冷却および/または加圧したりして脱水するとよい。これにより、被処理ガスの通気中にもゼオライト質量に対する水分の好適な含有比率を維持することができる。脱水剤との接触により被処理ガスを脱水する前者の場合、被処理ガスを常温、例えば10乃至50℃の範囲とすることができ簡便である。
脱水剤としてはシリカゲルや活性アルミナが一般的であるが、活性アルミナは上式(1)に対する触媒となりうるため、本発明においてはシリカゲルを用いることが好ましい。脱水剤は、吸着塔9a,9bの内部においてゼオライトの上流側に層状に充填してもよく、また吸着塔9a,9bとは別の脱水槽を設けて吸着塔9a,9bの上流側に接続してもよい。
脱水剤による脱水効率を向上し、被処理ガスをより高いレベルで脱水する観点から、被処理ガスは2乃至10気圧、具体的には600[kPaG]程度に加圧するとよい。被処理ガスRAの加圧は、図1においてMFC14の前段または後段に圧縮機(図示せず)を接続して行う。
また本発明においては、硫化水素を除去するためのゼオライト、水分を除去するための脱水剤のほか、他の不純物を除去するための第三の吸着剤を、脱水剤とゼオライトとの間、または脱水剤の上流側に設けてもよい。かかる第三の吸着剤は、吸着塔9bまたは9aの内部にゼオライトともに充填してもよく、他の吸着槽を被処理ガス供給管2または吸着ラインA,Bの途中に設けてもよい。
<吸着工程について>
図1で、吸着ラインAにより被処理ガスRAの精製を行う場合、バルブV1,V7,V9,V10のみを開放し、バルブV2,V3,V4,V5,V6,V8を閉止しておく。かかる状態で、配管2および4aを通じて吸着塔9aに導入された被処理ガスRAは、吸着塔9aに充填されたゼオライトを流通することでこれと接触し、含有している硫化水素が除去されて精製ガスとなり配管6aを通じて吸着塔9aより導出される。
バルブV1,V2は吸着塔9a,9bのそれぞれに対し被処理ガスRAの一次側に設けられた開閉弁であり、バルブV7,V8は同じく二次側に設けられた開閉弁であって、吸着ラインA,Bをそれぞれ開閉制御するものである。
バルブV1乃至V10の開閉操作は手動で行ってもよいが、その一部または全部を自動弁とし、その開閉は切替制御装置17を主たる構成とする切替手段によって自動的に行ってもよい。図1では、一点鎖線で表される制御信号ライン19によってバルブV1乃至V8と処理装置18とを接続し、所定のタイミングに従ってこれらのバルブを開閉することで吸着ラインAとBとを切り替える。
バルブV9は精製ガスRFを系外にある燃焼装置や燃料電池などの精製ガス使用装置(図示せず)に向けて送出するための開閉弁であり、バルブV7,V8の下流側に精製ガス回収管8を介して連通している。またバルブV10は圧力調整弁であり、吸着ラインAとBとの切り替えを円滑化するとともに逆流などが生じないようライン内を均圧化する。ただし、被処理ガスRAおよび再生用ガスRVがともに大気圧の場合は、かかる均圧化は不要である。
吸着ラインAによる硫化水素の吸着除去工程を所定時間行った後、吸着塔9aが破過する前に、バルブV2を開放し、同時にまたはこれに次いでバルブV1を閉止し、被処理ガスRAの導入経路を吸着ラインBへと切り替える。このとき、バルブV2の開放とともにバルブV8を開放し、またバルブV1の閉止とともにバルブV7を閉止する。以降は、配管2および4bを通じて吸着塔9bに導入された被処理ガスRAは、吸着塔9bで脱硫精製されたのち、配管6bを通じて精製ガスとして導出される。
かかる切り替えのタイミングは、例えば以下のいずれかの方法に基づいて決定することができる。
(ア)被処理ガスRAの単位時間あたりの流量およびこれに含有する硫化水素の濃度と、ゼオライトの吸着能力および充填量とから求められる被処理ガスRAの通気可能時間に所定の安全率を乗じた切替時間を予め求め、これにしたがってバルブの上記切り替えを行う方法。通気可能時間は、吸着等温線や破過吸着等温線に基づいて求めることができる。
(イ)吸着塔9a,9bに充填されたゼオライトの内部に、硫化水素の到達を視覚的に検知することのできる破過検知剤を埋設し、ゼオライトの破過のタイミングが近づいていること、すなわち吸着ラインを切り替えるべきタイミングが訪れたことを検知する方法。破過検知剤には硫化水素との反応により変色する薬剤を用い、またかかる変色を外部より観察できるよう吸着塔9a,9bには検知窓を設けるとよい。
(ウ)吸着塔9a,9bの二次側に分析計または検知器を連設し、硫化水素が精製ガスに混入したことを迅速に検知してバルブの上記切り替えを行う方法。この場合、精製ガスへの硫化水素の混入、すなわち吸着塔9a,9bの破過が既に生じたことが検知された際に、当該混入した硫化水素がバルブV7,V8を経由して系外に排出されることのないよう、分析計または検知器とバルブV7,V8との間にはそれぞれバックアップ用のゼオライトを設けるとよい。
(エ)後述する再生工程の完了をもって、吸着ラインAとBを切り替える方法。すなわち吸着塔9aまたは9bに充填されたゼオライトがガスパージにより完全に再生された場合に、吸着工程にある吸着塔9bまたは9aに残存する吸着性能の多寡によらず吸着ラインを切り替えることとしてもよい。
上記吸着工程によれば、吸着後の被処理ガスRA中の硫化水素の濃度を1ppm以下まで低減することができる。
<再生工程について>
吸着ラインBによる硫化水素の吸着除去が行われている間に、吸着塔9aに充填されたゼオライトをTSA方式により再生する。すなわちガス精製装置1は、硫化水素を吸着したゼオライトに加熱された再生用ガスRVを通気するか、またはゼオライトをヒーター等により加熱しつつ常温または加熱された再生用ガスRVを通気してガスパージする加熱再生手段を備えている。
メタンガスを主成分とするバイオガスを被処理ガスRAとする場合、再生工程時のガス組成がメタンの爆発範囲に入らぬよう、再生用ガスRVには、高純度の窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましいが、このほか圧縮空気から圧力スイング(PSA)法によって抽出した窒素ガスを用いてもよい。
ゼオライトと再生用ガスRVとの接触温度は、ゼオライトの種類によっても相違するが、100〜300℃程度とするとよい。このように、常温など相対的に低い温度で行う硫化水素の除去工程と、相対的に高い温度に加熱して行う脱着再生工程とを交互に繰り返すTSA方式により、ゼオライトを吸着と再生に交互に供しつつ繰り返し使用することができる。
加熱下でのガスパージにより高温となったゼオライトを冷却する場合には、窒素ガスなどの不活性ガスのほか、精製済みの精製ガスRFを用いることもできる。したがって図1に示すガス精製装置1の系統図において、バルブV10の下流に三方弁を設け、その二次側の一方を精製ガス使用装置と、他方をMFC16と接続する構成としてもよい。
なお、ゼオライトの好適な加熱再生条件については、後述の予備実験および実施例1より明らかとなる。
再生用ガスRVはMFC16により所定の流量に保たれながら再生用ガス供給管10を通じて吸着ラインAに送られる。すなわちバルブV5を開放してバルブV6とV7を閉止することで再生用ガスRVは吸着塔9aへと導入される。さらにバルブV3を開放してバルブV1とV4を閉止することで、吸着塔9aに充填されたゼオライトと再生用ガスRVとが接触し、吸着されていた硫化水素を脱着することでゼオライトがガスパージされる。また脱着した硫化水素を含む再生用ガスRVは排気ガスEXとなって系外へ排出され、除害装置(図示せず)などへと送られる。
吸着塔9aの再生処理が完了した場合、硫化水素の吸着ラインをBからAに直ちに切り替えてもよく、また吸着塔9bが上記(ア)〜(ウ)などの方法で決定される所定の切り替えタイミングに達するまで再生用ガスRVを吸着塔9aに通気しつづけてもよい。さらにはバルブV5を閉止して再生用ガスRVの系内への導入を停止し、吸着塔9aを待機状態としてもよい。
<次工程について>
吸着ラインBでの吸着処理工程が終了した場合、バルブV2を閉止してV1を開放することで、被処理ガスRAの導入経路を再び吸着ラインAとすることができる。この場合、吸着塔9aによる硫化水素の除去を開始すると同時に、またはこれに続けて、今度は吸着塔9bの再生を行うことで、さらに被処理ガスRAの連続精製処理が継続可能となる。具体的には、バルブV2,V8,V5,V3を閉止し、バルブV1,V7,V6,V4を開放することで、吸着塔9aには被処理ガスRAを導入して硫化水素の除去を行い、吸着塔9bには再生用ガスRVを導入してこれに充填されたゼオライトのガスパージを行う。
以降は、上記各工程を順次繰り返すことで、吸着ラインAまたはBにより被処理ガスRAの長時間にわたる連続的な硫化水素除去処理を継続することができる。
なお吸着塔9aの再生は、必ずしも充填されたゼオライトが完全に再生されるまで行うことを要するものではない。すなわち直前の吸着工程において吸着した硫化水素に相当する量の硫化水素が直後の再生工程において脱着されるかぎり、吸着塔9aの破過時間が漸減することはなく、したがって吸着ラインA,Bの切り替えによって理論的には永続的に被処理ガスRAの精製処理を継続することができる。
本発明においては、バルブV1,V2,V7およびV8を同時に開放し、バルブV3乃至V6を閉止して吸着ラインAおよびBにより同時に硫化水素の除去処理を行い、その後、バルブV1,V2,V7,V8を閉止し、バルブV3乃至V6を開放することで吸着ラインAおよびBを同時に再生することもできる。
[予備実験]
図2に系統図を示す再生試験装置40を用い、CaA型ゼオライトの再生温度と含水量との関係を評価して最適含水状態を決定する試験を行った。評価試験は以下のように行った。
すなわち、飽和状態まで含水したCaA型ゼオライト1gを容器291に層状に充填し、外部よりヒーター33にて所定の再生温度に加熱しつつ、乾燥窒素を成分とする再生用ガスRVを脱着ガスとしてこれに十分に通気して、ゼオライトの質量が安定化するまで水分を脱着させた。
再生温度を100℃から350℃まで変化させながら同様の試験を行ってゼオライトの質量減少量を測定した。測定結果を表1に示す。各再生温度に対する含水率は、350℃加熱再生後のゼオライトの質量を基準(含水率:0[wt%])として示したものである。
ただし後述のように、350℃の加熱再生後のゼオライトは実質的に完全乾燥状態と認められるものであり、100℃乃至300℃の再生温度後の含水率の各数値は、乾燥状態のゼオライト質量を基準とする水分の質量と読み換えることができる。
Figure 0004792013
表1より、各再生温度で乾燥脱着ガスにより十分に水分を脱着させても、少なくとも再生温度を300℃以下とする限り、ゼオライトの保水力により所定量の水分が吸着されたまま残存することが分かった。またかかる保水力は加熱温度が低いほど強く、すなわち再生温度をコントロールすることでゼオライトに所望の量の水分を含有させることが可能となることが分かった。
[実施例1]
図3に系統図を示す破過試験装置41を用いて硫化水素を含有する被処理ガスRAの流通破過試験を行った。容器291は内容積17.3mlであり、これに上記予備実験と同様に100℃〜350℃でそれぞれ加熱再生され所定の含水率の水分を吸着したCaA型ゼオライト13gを層状に充填している。
被処理ガスRAとしては二酸化炭素50%、メタン50%、硫化水素500ppmの混合ガスを用い、これを200ml/minの流量で容器291に流通させた。なお、二酸化炭素とメタンの上記混合比は、硫化水素を除いたガス成分に対する比率である。
容器291の出口より排出される排気ガスEXの含有成分を、(株)島津製作所製のガスクロマトグラフィー(TCD)により6分間隔で測定した。
ゼオライトの含水率、すなわち加熱再生温度を変化させた場合の、硫化水素検知時間と、硫化カルボニル検知時間とをそれぞれ表2および図4に示す。硫化水素検知時間とは、被処理ガスRAより硫化水素が除去されずに容器291から漏出したことが検知されるまでの時間であり、すなわちゼオライトの破過時間を意味している。なお下表において、硫化カルボニル検知時間が空欄である実験番号1〜6の各ケースは、硫化水素検知時間よりも硫化カルボニル検知時間のほうが長いことを意味している。
Figure 0004792013
上記予備実験および実施例1より、ゼオライトの再生温度を高くしてその含水率を低く抑えることにより、ゼオライトの触媒作用が活性化し、硫化水素の破過以前に硫化カルボニルが発生する。表1,2をあわせると、含水率が0.7wt%より低い場合は硫化水素の破過以前に硫化カルボニルの発生が認められ、特に0.2wt%より低い場合は硫化カルボニル検知時間が顕著に短縮されるため好ましくない。
一方、再生温度を低くしてゼオライトの含水率を高くすると、ゼオライトの吸着性能が低下する。特に含水率が3.3wt%を上回ると破過時間が90分を下回り、また吸着性能の低下が著しいことが図4より分かる。また硫化水素の破過時間と硫化カルボニルの検知時間とをともに十分に長く確保するためには、特にゼオライトの含水率が0.7wt%〜1.5wt%となる加熱再生条件を設定することが好ましいといえる。
ゼオライトに予め吸着させるのに好適な上記含水率は、本発明に用いられるゼオライトの種別に拠らず共通である。一方、これを実現するための再生温度はゼオライト種によって変動する。CaA型ゼオライトについていえば、表2より、再生温度は175〜300℃、特に225〜275℃が好ましい。
[比較例1]
下表3に示す各種のゼオライト、および活性アルミナ、シリカゲル、活性炭を吸着剤に用いて、実施例1と同様に被処理ガスRAの流通破過試験をおこなった。ただし本比較例では、各吸着剤を十分に乾燥させた状態で容器291に充填している。すなわち本比較例は、触媒反応抑制剤としての水をゼオライト等の吸着剤に吸着させることなく被処理ガスRAと接触させた場合の破過時間を調べるものである。シリカゲルには富士シリシア製:フジシリカゲルA型、活性炭には日本エンバイロケミカルズ製:粒状白鷺炭(G2X)を使用した。
硫化水素検知時間と硫化カルボニル検知時間をそれぞれ下表3に示す。表中の空欄(−)は、硫化水素または硫化カルボニルのうち少なくとも他方の成分の検知時間よりも長いことを意味する。
Figure 0004792013
また、硫化水素または硫化カルボニルの少なくともいずれかの漏出がガスクロマトグラフィーにより検知されるまでの通気時間を硫化水素処理時間と定義し、結果を下表4に示す。
[実施例2]
比較例1と同種の吸着剤を用いて、予備実験と同様の最適含水状態決定試験、および実施例1と同様の流通破過試験を連続して行った。すなわち本実施例は、図2に示す再生試験装置40を用いて、それぞれのゼオライト種について最適含水状態を決定し、つづけて図3に示す破過試験装置41を用いて、かかる最適含水状態、すなわち最適反応制御状態における被処理ガスRAの流通破過試験を行ったものである。
硫化水素処理時間を下表4にあわせて示す。
なお本実施例のうち、吸着剤にCaA型ゼオライトを用いた結果は、すなわち実施例1における実験番号6に相当するものであり、その硫化水素処理時間は上表2を参照のとおり、硫化水素検知時間の204分である。
Figure 0004792013
表3、4に示す結果より、例えば吸着剤にCaA型ゼオライトを用いた場合、硫化カルボニルの生成反応に対するゼオライトの触媒反応性を触媒反応抑制剤である水によって制御していない比較例1においては、これを制御して硫化水素の破過時間と硫化カルボニルの検知時間とを最適にバランスさせた実施例2(実施例1)よりも硫化水素の吸着能力は高い(硫化水素検知時間:282分)が、上式(1)に従って、硫化水素の破過時間よりも僅かな時間で硫化カルボニルが生成された(硫化カルボニル検知時間:36分)ため、吸着剤のガス精製能力全体としては大幅に劣る結果(硫化水素処理時間:36分)となった。
同様の傾向は、MgA型ゼオライトについても顕著に認められ、乾燥状態のゼオライトでは硫化水素処理時間がわずか6分であるところ、最適含水状態に制御することによりこれを72分まで拡張することができた。またX型ゼオライトやフェリエライト型ゼオライトでも同様の傾向が認められ、さらにゼオライトの陽イオン種が第2族イオンである場合に特に本発明の効果を享受できることが分かる。具体的には、CaX型ゼオライトやCaフェリエライト型ゼオライトを吸着剤とした場合に、いずれも硫化水素処理時間を30分以上も拡張することができた。
かかる本発明の効果は吸着剤にゼオライトを用いた場合にのみ見られるものであり、活性アルミナ、シリカゲルまたは活性炭を用いた場合はそもそも硫化水素の吸着能力が乏しく、また硫化カルボニルの生成反応に対する触媒活性が高くないため、吸着剤の触媒活性を抑制していない無制御状態であっても、硫化水素検知時間が硫化カルボニル検知時間と同等以下であることから、触媒反応抑制剤によって硫化水素処理時間を拡張することができない。
換言すると、本発明に用いる硫化水素除去剤にはゼオライトを用いることが必要であり、また用いるゼオライト種としては、A型、X型およびフェリエライト型が好ましく、ゼオライトの陽イオン種としては、周期表の第2族元素の二価イオン、特にカルシウムイオンが望ましいといえる。
なお、CaA型ゼオライトを吸着剤に用いた実施例1において、再生温度を350℃とした場合(表2:実験番号9)の硫化水素検知時間と硫化カルボニル検知時間は、表3に示す比較例1の結果と同等であることから、両状態のゼオライトはともに完全乾燥状態であったことがわかる。したがって本発明においてゼオライトに吸着させる触媒反応抑制剤に水を用いる場合、乾燥状態のゼオライトの質量に対し、0.2乃至3.3重量%とすることが好ましく、0.7乃至1.5重量%とすることが特に好ましいといえる。かかる好適な含水率はCaA型の場合に限られるものではなく、実施例2で良好な結果を得たA型、X型、フェリエライト型ゼオライトにおいて、特に陽イオン種が第2族イオンである場合、有意な相違なく上記含水率範囲が好ましいことが本発明者らの検討により確認されている。
[実施例3]
陽イオン種として一価イオンと二価イオンをともに有するゼオライトにおいて、二価イオンの好適な含有率を知るため、NaA型ゼオライトのCa含有率を変化させてなるNaCaA型ゼオライトを調整し、これを吸着剤に用いて実施例2と同様の方法により被処理ガスRAの硫化水素流通破過試験を行った。すなわち硫化水素と硫化カルボニルの破過時間が同等となる最適含水状態にあるCaA型ゼオライトを容器291に充填し、バイオガスを模擬した被処理ガスRAをこれに通気してその破過を検知することにより硫化水素処理時間を測定した。実験結果を下表5および図5に示す。
Figure 0004792013
本実施例の結果より、ゼオライトのイオン交換サイトに含有される一価イオンと二価イオンとの比率によって硫化水素の処理可能時間が大きく変動することが分かった。またゼオライトの陽イオン種がカルシウムイオンなどの第2族元素のイオンの場合、かかる第2族元素の含有比率70%を境に、これ以上の含有比率の場合には硫化水素処理能力が飛躍的に向上することが分かった(図5を参照)。
また第2族元素の二価イオンの最適な含有率は極力100%に近いものであるが、実施例2のCaA型ゼオライトの流通破過試験の結果(表4を参照)と本実施例のCa含有率95%の結果が同等であり、またこれとCa含有率90%の結果との間に有意な差はない(図5を参照)ことから、一価イオンと二価イオンとが混合したゼオライトにおける二価イオンの好ましい含有率は90%以上、特に好ましくは95%以上である。
なお、二価イオンのかかる好適な含有率は、これをカルシウムイオンとするか、マグネシウムイオンやストロンチウムイオンとするか、またはこれらを混合するかによって変動するものではない。
[実施例4]
図1に系統図を示すガス精製装置1の吸着塔9a,9bに、1.0wt%の水分を吸着させたCaA型ゼオライトを吸着剤として充填し、TSA式による被処理ガスRAの繰り返し精製処理試験を行った。吸着塔9a,9bは内容積80[ml]であり、これに上記ゼオライトを層状に60g充填した。
吸着工程において通気する被処理ガスRAには、硫化水素500ppm、およびこれを除く成分比として二酸化炭素40%およびメタン60%を含有する乾燥混合ガスを用い、これをMFC14により2.0[l/min]の流量に制御して吸着ラインAまたはBに順次切り替えて供給した。
一方、吸着剤の再生工程では再生用ガスRVとして200℃に加熱したメタンガスをMFC16により500[ml/min]の流量に制御して、ゼオライトを再生中の吸着ラインAまたはBに供給した。CaA型ゼオライトに予め吸着させておく1.0wt%の水分量は、表1の結果より250℃の加熱再生に対応したものであり、これを下回る温度の再生用ガスRVや被処理ガスRAを通気することによっては、ゼオライトより水分が失われることはない。
吸着塔9aまたは9bの出口側における精製ガスRFの成分を(株)島津製作所製のガスクロマトグラフィー(TCD)により6分間隔で測定し、硫化水素または硫化カルボニルが検出された時点で吸着ラインを切り替え、当該吸着ラインを再生工程に移行させることとした。かかる吸着工程と再生工程とを吸着ラインA,Bについてそれぞれ40回ずつ繰り返し、各回において吸着工程を開始してから硫化水素または硫化カルボニルが検出されるまでの通気時間、すなわち被処理ガスRAの吸着可能時間(検知時間)を測定した。互いに切り替えて用いられる吸着ラインAまたはBのうち一方の吸着塔(吸着塔9a)の吸着可能時間の測定結果を図6に示す。
実験の結果から、吸着剤の再生工程と硫化水素の吸着工程とを繰り返しても検知時間は150分程度を維持しつづけ、触媒反応抑制剤として水を吸着させて触媒反応活性を制御したゼオライトは、連続運転によっても硫化水素除去性能が低下しないことが確認された。
また40回の連続運転の間、吸着塔9aの出口から硫化カルボニルは検知されなかった。この結果から触媒反応活性の制御状態も、連続運転によって失われるものではないことが分かった。
なお、図6の結果から、例えば100分や120分など、硫化水素の吸着可能時間内の所定の時間間隔によって吸着ラインAとBとを順次切り替えることで、きわめて長時間にわたり被処理ガスRAの精製を行うことができる。
[実施例5]
被処理ガスRAとして2000ppmの硫化水素を含み、主成分を約60%のメタンおよび約40%の二酸化炭素とするバイオガスを用いた以外は実施例4と同様の流通破過試験を行った。すなわち下水処理場などで生じる実際のバイオガスの精製処理を連続して行うことができるかどうかを検証する実験である。吸着塔9aの破過時間を下表6に示す。
Figure 0004792013
本実施例の結果より、触媒活性を制御したゼオライトを吸着剤に用いることで、バイオガスから硫化カルボニルの発生を伴わず硫化水素を除去できることが確認された。また繰り返し除去試験を行っても硫化水素の吸着可能時間は変わらず、吸着性能が維持されることがわかった。
ガス精製装置1の系統図である。 再生試験装置40の系統図である。 破過試験装置41の系統図である。 CaA型ゼオライトの再生温度と硫化水素処理能力との関係を示すグラフである(実施例1)。 NaCaA型ゼオライトのCa含有率と硫化水素処理能力との関係を示すグラフである(実施例3)。 硫化水素連続除去試験結果を示すグラフである(実施例4)。
符号の説明
1 ガス精製装置
9a,9b 吸着塔
33 ヒーター
40 再生試験装置
41 破過試験装置
291 容器
A,B 吸着ライン
EX 排気ガス
RA 被処理ガス
RF 精製ガス
RV 再生用ガス
V1〜V10 バルブ

Claims (9)

  1. 二酸化炭素と硫化水素をともに含有する被処理ガスを、硫化カルボニルの生成を抑制する触媒反応抑制剤として水またはアンモニアを予め吸着させたゼオライトに流通させることにより、前記被処理ガスから硫化水素を除去する硫化水素除去方法。
  2. ゼオライトに吸着させる水分量が、該ゼオライトの乾燥質量の0.2〜3.3重量%である請求項に記載の硫化水素除去方法。
  3. 被処理ガスに脱水処理を施した後に、前記ゼオライトへの流通を行うことを特徴とする請求項またはに記載の硫化水素除去方法。
  4. 被処理ガスが、二酸化炭素を5〜60%含有するバイオガスである請求項1からのいずれかに記載の硫化水素除去方法。
  5. ゼオライトが、A型ゼオライト、X型ゼオライトまたはフェリエライト型ゼオライトである請求項1からのいずれかに記載の硫化水素除去方法。
  6. ゼオライトの陽イオン種が、第2族元素のイオンである請求項1からのいずれかに記載の硫化水素除去方法。
  7. 陽イオン種がカルシウムイオンである請求項に記載の硫化水素除去方法。
  8. ゼオライトのイオン交換サイトには、前記第2族元素のイオンを70%以上含有する複数種類の陽イオン種が存在する請求項またはに記載の硫化水素除去方法。
  9. 二酸化炭素と硫化水素をともに含有する被処理ガスより前記硫化水素をゼオライトにより吸着除去する少なくとも二基の吸着塔と、それぞれの吸着塔に再生用ガスを供給して前記硫化水素を吸着したゼオライトを加熱条件下で再生する加熱再生手段と、被処理ガスの導入先を一の吸着塔から他の吸着塔に切り替えるとともに再生用ガスの供給先を前記他の吸着塔から前記一の吸着塔に切り替える切替手段と、を備えるガス精製装置であって、
    前記ゼオライトには、アンモニア、または前記ゼオライトの乾燥質量に対し0.2〜3.3重量%の水が、硫化カルボニルの生成を抑制する触媒反応抑制剤として吸着されていることを特徴とするガス精製装置。
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