以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
図1は、本発明の実施例に係る分流式流量センサ装置の全体構成を示す外観図である。本実施例の分流式流量センサ装置は、ヘッド部31とアンプ部32が電気ケーブル27で接続された構成を有する。アンプ部32は更に電気ケーブル10を介して外部機器(図示せず)に接続することができる。
図2は、本発明の実施例に係る分流式流量センサ装置のヘッド部の外観を示す斜視図である。また、図3は分流式流量センサ装置のヘッド部の分解図であり、図4は分流式流量センサ装置のヘッド部の主要部断面図である。この分流式流量センサ装置は、金属製の略円筒状の主流路部材(主流路モジュール)11と、その側面(図3等では上面)に形成された開口部に挿入されるバイパス流路モジュールを備えている。バイパス流路モジュールは、樹脂製のバイパス流路部材12と流量センサ基板21で構成されている。主流路部材11の側面開口部とバイパス流路部材12との間には、バイパスパッキン13が介装されている。また、詳しくは後述するが、基板パッキン22によって主流路部材11(主流路モジュール)の側面開口部とバイパス流路モジュールとの封止(気密性の確保)が成されている。
この分流式流量センサ装置は、略円筒状の主流路部材11の両端部を流量測定対象の装置や設備における気体の管路に挿入して使用される。主流路部材(主流路モジュール)11は気体の主流路を構成し、バイパス流路モジュール(バイパス流路部材12及び流量センサ基板21)は主流路から分流して流れる気体のバイパス流路を構成する。図4において、主流路を気体が流れる様子を太い矢印線で示し、バイパス流路を気体が流れる様子を細い矢印線で示している。
主流路部材11の上流側部分(バイパス流路モジュールの入口よりも上流側)には、複数のメッシュ板141とスペーサ142を交互に重ねた構造の整流手段14が装着されている。図示の例では、6枚のメッシュ板141と5枚のスペーサ142が交互に重ねられて整流手段14が構成されている。一例として、各メッシュ板141は厚み0.1mmの円板状の金属板に直径約0.2mmの小孔が多数形成されたものであり、各スペーサ142は厚み1.0mmの金属製の円環状部材である。
整流手段14は、図4に示すように、主流路部材11の上流側内壁面に設けられた段部111に押し当てられ、メッシュロック15を用いて固定されている。メッシュロック15は、円環状部材の外周に雄螺子が形成されたものであり、主流路部材11の段部111より上流側の内壁面に形成された雌螺子と螺合するようにねじ込まれる。整流手段14は、分流前の主流路における径方向の流量分布、つまり流路断面内の流量分布を均一にする働きを有する。
主流路部材11の下流側部分には、測定レンジ調整部材16及びメッシュフィルタ17が装着されている。測定レンジ調整部材16は、略円筒形の部材であり、一端側に鍔部161を有する。図4に示すように、主流路部材11の下流側内壁面に形成された段部112に、Oリング(オーリング)18を挟むようにして測定レンジ調整部材16の鍔部が押し当てられ、測定レンジ調整部材16の円筒形部分が主流路部材11の下流側円筒形部分に挿入される。測定レンジ調整部材16の円筒形部分の外径と、主流路部材11の下流側円筒形部分の内径はほぼ等しく、両者の隙間ができるだけ小さいことが望ましい。
測定レンジ調整部材16の鍔部161の外側端面にメッシュフィルタ17の外周部を挟むようにしてメッシュロック19がねじ込まれ、これによって測定レンジ調整部材16及びメッシュフィルタ17が固定されている。メッシュロック19は、上述のメッシュロック15と同様に、円環状部材の外周に雄螺子が形成されたものであり、主流路部材11の段部112より下流側の内壁面に形成された雌螺子と螺合するようにねじ込まれる。
メッシュフィルタ17は、下流側の管路から気体が逆流したときに気体中の異物(ごみ)が分流式流量センサ装置の内部に入り込むのを防止するために設けられている。また、測定レンジ調整部材16は、主流路の断面積を変えることによって測定レンジを変更することを容易にするために使用される。したがって、この測定レンジ調整部材16が装着される場合と装着されない場合がある。
図5は、バイパス流路部材12の斜視図である。また、図6はバイパス流路部材12及び流量センサ基板21で構成されるバイパス流路モジュールの断面図である。バイパス流路部材12は、主流路部材11の側面開口部を封止するように装着されたときに、主流路の断面の略中央部に位置するバイパス流路の入口121及び出口122を備え、入口121から出口122に至るバイパス流路がバイパス流路部材12の内部に形成されている。図6において、バイパス流路を気体が流れる様子を矢印線で示している。
図5及び図6から分かるように、バイパス流路部材12の上面には凹部123が形成され、この凹部123の前後が入口121及び出口122に連通している。図3及び図4に示すように、バイパス流路部材12の上面には、流量センサ基板21が被せられ、基板パッキン22を挟んで流量センサ基板21が主流路部材11に固定される。つまり、バイパス流路部材12の凹部123とその上側開口を塞ぐ流量センサ基板21によってバイパス流路の一部が形成されている。
図7は、主流路部材11及びバイパス流路部材12の側面に取り付けられる流量センサ基板21とそれに実装された熱式流量センサ211を示す斜視図である。また、図8は、主流路部材11の側面にバイパス流路部材12及び流量センサ基板21が取り付けられた状態を示す断面図である。なお、図7では、流量センサ基板21の下面(裏面)が見えるように流量センサ基板21を傾けて描いている。流量センサ基板21の下面には、半導体チップ部品である熱式流量センサ211が実装されている。つまり、バイパス流路の壁面の一部を構成する流量センサ基板21の下面に熱式流量センサ211が配置されている。
熱式流量センサ211と流量センサ基板21との電気接続は、ボンディングワイヤ(電線)211aを用いたワイヤボンディングによって行われている。一実施例において、ボンディングワイヤ211aを含む熱式流量センサ211と流量センサ基板21との電気接続部は絶縁樹脂でモールドされている。図5にも示したように、バイパス流路の一部を形成する凹部123の側方に一段下がった凹部124が形成されている。これは流量センサ基板21の下面に実装される熱式流量センサ211のボンディングワイヤ211a(又はそのモールド樹脂)を逃げるためのものである。
図9は、主流路部材11の側面開口部にバイパス流路部材12が装着され、その上に流量センサ基板21が取り付けられる様子を示す斜視図である。図4の断面図に良く示されているように、基板パッキン22は、主流路部材11の側面(上面)開口部の周囲に設けられた段部とバイパス流路部材12の上端部外周面とで形成される溝にはめ込まれる。4本の固定螺子23と下基板ホルダ285によって流量センサ基板21が主流路部材11の上面に締め付けられると、基板パッキン22が変形して主流路部材11の側面開口部とバイパス流路部材12の側面と流量センサ基板21の下面とが同時に封止される。流量センサ基板21等の取り付け構造については後で説明を加える。
前述のように、バイパス流路の入口121は主流路の断面の略中央部に位置する(図4参照)。これにより、気流の乱れが発生しやすい管路の壁面付近ではなく、比較的安定した気流となる中央部の気体をバイパス流路の入口121からバイパス流路へ導くことができる。その結果、バイパス流路を流れ込む気体の流量が安定しやすく、熱式流量センサ211による流量測定の安定性が向上する。
また、図4及び図6から分かるように、バイパス流路の入口121を構成するバイパス流路部材12の先端部は上流側へ突出し、入口121の周辺部121aが球面状に形成されている。つまり、主流路(の気体の流れ)に沿って流線形となるように形成されている。これにより、主流路中に配置されたバイパス流路の入口121の周辺部121aに起因する主流路の気流の乱れが低減される。主流路の気流が乱れれば、熱式流量センサ211が配置されたバイパス流路の気流に影響が出るので、主流路の気流の乱れを抑えることが重要である。同様の理由により、バイパス流路の出口122を構成するバイパス流路部材12の後端部は下流側へ突出し、出口122の周辺部122aも球面状(流線形)に形成されている。
図3に示すように、分流式流量センサ装置のヘッド部とアンプ部との電気接続のための電気ケーブル27が上下のケーブルブッシュ271,272と2本の固定螺子(図示を省略)を用いて主流路部材11の上面に固定されている。分流式流量センサ装置のヘッド部及びアンプ部の電気回路の構成については後述する。また、流量センサ基板21の上には、ヘッド部の電気回路を構成するプリント基板が内蔵された上ケースユニット28が被せられている。
図10は、上ケースユニット28及び流量センサ基板21の分解図である。また、図11は、分流式流量センサ装置のヘッド部の上ケースユニットを含む内部構造を示す断面図である。上ケースユニット28は、樹脂製の上ケース281と、その内部に収容される表示基板282、メイン基板283、上基板ホルダ284及び下基板ホルダ285を含んでいる。図3にも示されているように、上ケースユニット28(上ケース281)の上面には、2種類の表示器28a及び28bが備えられている。第1表示器28bは、一列に並んだ4個のLED(発光ダイオード)を順番に点灯させることにより、気体が流れている様子を表す流れ表示を行う。流量に応じてLEDを順番に点灯させる速度(周期)を変化させることにより、流量が視覚的に分かるような表示である。第2表示器28aは、アンプ部からの制御によってオン・オフされるLED表示であり、現在の流量があらかじめ設定した流量より多いか少ないかを表示する。表示基板282には、第1表示器28bに対応する4個のLEDと第2表示器28aに対応する1個のLEDが実装されている。
メイン基板283には、熱式流量センサ211の出力信号の処理回路、上記の表示器28a及び28bの駆動回路、アンプ部との通信のための回路、電源回路等の回路部品が実装されている。メイン基板283は、基板間コネクタ283aを介して表示基板282と上下一体に接続され、これらの基板282,283は樹脂製の上基板ホルダ284に固定される。上基板ホルダ284の下面の前後の端部には下方に突出した係合突起部284aが設けられ、これらに係合する係合部285aが下基板ホルダ285の前後の端部に形成されている。前後一対の係合突起部284aと係合部285aが係合することによって、上基板ホルダ284と下基板ホルダ285は一体に結合される。
樹脂製の下基板ホルダ285は、強度を高めるために、水平板部と両側の側板部285bからなる断面H形状の構造を有する。バイパス流路を流れる気体の圧力によって流量センサ基板21が撓むのを防止するために、下基板ホルダ285の下面が流量センサ基板21の上面に接触した状態で、図9に示したように下基板ホルダ285が主流路部材11の側面開口部に螺子止めされる。下基板ホルダ285の強度を高めるための断面形状はH形状に限らず、例えば断面コ形状(U形状)としてもよい。十分な強度を確保できる金属で下基板ホルダ285を作る場合は側板部285bを省いた水平板部のみの形状としてもよい。
また、側板部285bは、上ケースユニット28の両側壁の一部を兼ねている。すなわち、図10に示すように、上ケース281の両側面の比較的広い面積に矩形の切欠き281aが形成され、この切欠き281aに下基板ホルダ285の側板部285bが嵌り込み、上ケース281の側面と下基板ホルダ285の側板部285bの表面が面一になるように構成されている。そして、下基板ホルダ285の側板部285bを含む上ケースユニット28の側面全体に樹脂シート(図示を省略)が貼られる。このような構造により、各基板282,283の面積を最大限確保しながら上ケースユニット28の幅を小さくすることができる。
図11から分かるように、アンプ部との電気接続のための電気ケーブル27は、メイン基板283に接続されている。そして、メイン基板283と流量センサ基板21とが基板間コネクタ21aによって電気的に接続されている。図10から分かるように、上基板ホルダ284及び下基板ホルダ285のそれぞれの中央部に、基板間コネクタ21aを挿通させる貫通孔284b,285cが形成されている。
上ケース281の両側面の下端部には計4箇所の係合孔281bが形成されており、これらに対応する係合突起11aが主流路部材11の上部側面に形成されている。4対の係合孔281b及び係合突起11aを互いに係合させることにより、上ケース281が主流路部材11の上部に固定される。
図12は、ヘッド部の電気回路の構成を示すブロック図である。また、図13はヘッド部に接続されるアンプ部の電気回路の構成を示すブロック図である。前述のヘッド部31とアンプ部32との電気接続のための電気ケーブル27には、4本の電線、すなわちヘッド電源ライン、アナログ信号/通信線、ヘッド表示信号/通信線、及びグランド(GND)ラインが含まれている。アナログ信号/通信線は、ヘッド部31で検出された流量に相当する電圧信号(アナログ信号)をアンプ部32に送るための信号線路とディジタル通信線路とを兼ねている。また、ヘッド表示信号/通信線は、アンプ部32からヘッド部31のLED表示を制御するための信号線路とディジタル通信線路とを兼ねている。
ヘッド部31は、前述の熱式流量センサ211、その出力信号の処理回路である一対のブリッジ回路311と差動増幅回路312、V−F変換回路313、前述の第1表示器28b及び第2表示器28aに対応する複数のLEDを含むLED表示回路314、電気的にデータ書き換え可能なメモリ素子であるEEPROM315、2個のアナログスイッチ316A,316B、電源回路317及び2個の電圧検出回路318A,318Bを備えている。
熱式流量センサ211は、白金薄膜で構成されたヒータ抵抗301と温度補償抵抗302を二組備え、それぞれの組が上流側と下流側とに離間して配置されている。上流側及び下流側のヒータ抵抗301に一定の電流を流したときに、気流が無い場合は両者の発熱による温度に差が無いが、気体の流量が多くなるにつれて、上流側のヒータ抵抗301が下流側のヒータ抵抗301に比べて冷却されて温度が下がる度合いが大きくなる。
したがって、両者の温度差から気体の流量が検出できる。実際には、本実施例の熱式流量センサ211では、上流側及び下流側のヒータ抵抗301が共に設定温度(抵抗値)になるように、一対のブリッジ回路311によってそれぞれのヒータ抵抗301に電流が供給される。そして、上流側及び下流側のヒータ抵抗301の電流の差(電圧の差)が差動増幅回路312で増幅され、得られた出力電圧が気体の流量に相当する検出信号となる。なお、各ヒータ抵抗301と組になっている温度補償抵抗302は、周囲温度の変化を補償するための抵抗である。
熱式流量センサ211は初期特性や温度特性のばらつきがあるので、それを補償するための調整素子であるディジタルトリマー311aがブリッジ回路311に備えられている。ディジタルトリマーは、その抵抗値を電気信号によってディジタル的に設定することができる。本実施例で使用されているディジタルトリマー311aは、電源供給が無くなればその設定値が消滅する揮発性ディジタル補正素子である。したがって、電源投入時等に所定の設定値をディジタルトリマー311aに書き込む必要があり、その設定情報は電源供給が無くなっても記憶情報を保持する不揮発性メモリであるEEPROM315に保存されている。2個のディジタルトリマー311aの設定(調整)によって、熱式流量センサ211の上流側及び下流側のヒータ抵抗301の温度と抵抗値とのオフセットが調整される。
また、差動増幅回路312にもディジタルトリマー312aが備えられている。これは、差動増幅回路312のゲインを調整するためのものであり、最大流量のときに最大振幅の出力が得られるように、その抵抗値が調整(設定)される。この設定情報もEEPROM315に保存されている。EEPROM315から設定情報を読み出してディジタルトリマー311a及び312aの設定を行う処理については後述する。
なお、通常のアナログ式可変抵抗(半固定抵抗)ではなくディジタルトリマーを用いて流量検出回路の調整を行うことにより、以下のようなメリットが得られる。第1に、通常の可変抵抗では正確な(精細な)調整が難しく、調整後に振動等によって値が変化する可能性があるが、ディジタルトリマーは正確な調整が容易であり、振動に強い。第2に、ディジタルトリマーは、出荷検査工程における自動調整(機械化)に対応しやすい。その後に校正(再調整)を行う場合も、外部から通信によって行うことが容易である。
差動増幅回路312の出力電圧(流量に相当する検出信号)は、アナログスイッチ316Aを通ってアナログ信号/通信線でアンプ部32へ送られると共に、V−F変換回路313に与えられる。V−F変換回路313は、入力された流量に相当する電圧信号を周波数(周期)信号に変換し、変換後の信号をLED表示回路314に与える。この信号に基づいて、LED表示回路314は前述の第1表示器28bを構成する4個のLEDを与えられた周期で順番に点灯させる流れ表示を行う。流量が多いほど短い周期で(速い速度で)、4個のLEDが順番に繰り返し点灯する。
また、LED表示回路314に含まれる第2表示器28aを構成するLEDは、アンプ部32からの制御信号によって点灯又は消灯される。すなわち、アンプ部32からのヘッド表示信号(制御電圧信号)がヘッド表示信号/通信線を通してヘッド部31に送出され、このヘッド表示信号はアナログスイッチ316Bを通って電圧検出回路318Bに与えられる。そして、電圧検出回路318Bの出力信号がLED表示回路314に与えられている。
ヘッド表示信号は、前述の第1表示器28bの表示抑制信号と第2表示器28aの制御信号とが組み合わされた4つのレベルをとり得る制御電圧信号である。そして、電圧検出回路318Bはヘッド表示信号の電圧を4段階に識別し、第1表示器28bの表示抑制信号と第2表示器28aの制御信号とを出力する。第1表示器28bの表示抑制信号に関する詳細は後述するが、この信号によって、流れ表示を行う第1表示器28bが強制的にオフ(流れ表示の停止)になる。
アナログスイッチ316Aは、アナログ信号/通信線の用途を切り換える働き、具体的にはヘッド部31側の接続先をEEPROM315等(データライン)と差動増幅回路312との間で切り換える働きを有する。他方のアナログスイッチ316Bは、ヘッド表示信号/通信線の用途を切り換える働き、具体的にはヘッド部31側の接続先をEEPROM315等(クロックライン)と電圧検出回路318Bとの間で切り換える働きを有する。アナログスイッチ316A及び316Bの上記の切り換えは共に電圧検出回路318Aの出力によって行われ、その入力は電源回路317の入力側、すなわちアンプ部32から供給される電源電圧(ヘッド電源ライン)に接続されている。電源回路317は、アンプ部32から供給される電源電圧からヘッド部の動作用の安定化電圧を生成する定電圧回路である。
図13に示すように、アンプ部32は、LED表示回路321、キースイッチ322、電源回路323、A/D変換回路324、マイクロプロセッサ(MPU)325、ヘッド表示コントロール回路326、EEPROM327、入力回路328、アナログ出力回路329及び制御出力回路330を備えている。マイクロプロセッサ325は、アンプ部32及びヘッド部31の両方の制御を司る。ヘッド部31からアナログ信号/通信線を通して送られる差動増幅回路312の出力電圧(検出流量信号)は、A/D変換回路324でディジタル値に変換された後、マイクロプロセッサ325に入力される。
マイクロプロセッサ325は、ヘッド部31から受信した流量検出信号にリニアリティ補正を施して検出流量レベルを得る。つまり、前述のヘッド部31でのディジタルトリマー311a及び312aによる補正(調整)のみでは、十分なリニアリティ(特性の直線性)を得ることが困難なために、マイクロプロセッサ325の内部でソフトウェアによるリニアリティ補正が行われる。リニアリティ補正のためのパラメータ(アンプ部補正情報)は、最大流量及び流量ゼロのポイントだけでなく、中間段階のポイントを含む複数のポイントにおける実際の流量と検出流量との関係を表すテーブルである。あらかじめヘッド部31ごとに測定して得られたアンプ部補正情報が、そのヘッド部31のEEPROM315に記憶(保存)される。
前述のディジタルトリマー311a及び312aの設定情報と共にリニアリティ補正のためのアンプ部補正情報もヘッド部31に固有の情報としてヘッド部31のEEPROM315に保存されるので、ヘッド部31とアンプ部32との互換性が確保される。つまり、ヘッド部31とアンプ部32との組合せを工場出荷段階の組合せに固定する必要はなく、適宜変更することができる。また、ヘッド部31にはマイクロプロセッサ(処理装置)を搭載する必要が無く、アンプ部32のマイクロプロセッサ325が通信によってヘッド部31のディジタルトリマー311a及び312aの設定を行うので、コスト面での無駄が無くなると共に、ヘッド部31の小形化が可能になる。
アンプ部32のマイクロプロセッサ325は、リニアリティ補正後の検出流量レベルと、あらかじめ設定された基準流量レベルとを比較する。その比較結果は、判定信号として制御出力回路330から出力される。本実施例の流量センサ装置では2つの基準流量レベルを設定することができ、制御出力回路330から2つの判定信号が出力される(出力1及び出力2)。また、2つの判定信号はLED表示回路321によって表示出力される。
検出流量レベルはLED表示回路321に含まれる流量表示器に数値表示されると共に、アナログ出力回路329を介して外部機器へ出力することができる。これに使用されるアナログ出力/外部入力ポートは、外部機器(例えば上位コントローラ)からのデータ入力にも兼用され、その入力データは入力回路328を介してマイクロプロセッサ325に入力される。また、EEPROM327は、各種設定値や制御用データの記憶に使用される。
LED表示回路321は、検出流量レベルの数値表示を行うための7セグメントLED表示器(流量表示器)を有する。その他、設定流量(基準流量レベル)の表示用の7セグメントLED表示器や基準流量レベルと検出流量レベルとの比較判定結果を表示するためのLED等がLED表示回路321に含まれている。また、キースイッチ322は、各種設定を行うために使用される複数の押釦スイッチを含んでいる。これらの表示器や押釦スイッチを含むアンプ部32の上面パネルの例を図14に示す。
図14において、中央部上側に設けられた3桁の7セグメントLED表示器が流量表示器321aである。その下に設けられた少し小さい3桁の7セグメントLED表示器が設定流量(基準流量レベル)の表示器321bである。その左側には、2つ設定可能な基準流量レベルのいずれの表示であるかを示す2個のLED321cが設けられている。左上には、2つの基準流量レベルと検出流量レベルとの比較判定結果を表示するための2個のLED321dが設けられている。また、右下のLED321e(ADD)は、積算流量モードであることを示すLEDである。その右に設けられている押釦スイッチ322aは、表示動作モードを切り換えるためのスイッチであり、その上には、流量設定値(基準流量レベル)を増減するための押釦スイッチ322bが設けられている。また、左下には2つの基準流量レベルの設定を切り換えるための押釦スイッチ322cが設けられている。
図13において、電源回路323は、ヘッド部31にヘッドに供給する電源電圧(以下、ヘッド電源電圧という)をマイクロプロセッサ325からのヘッド電圧制御信号にしたがって切り換える。本実施例では、約6.5V(第1の電圧)と約9V(第2の電圧)との間で切り換えている。前述のようにヘッド部31のアナログ信号/通信線とヘッド表示信号/通信線に挿入された2個のアナログスイッチ316A,316Bのヘッド部31側接続先は、ヘッド電源電圧によって切り換えられる。これにより、マイクロプロセッサ325は、ヘッド部31のディジタルトリマー311a及び312a等の設定処理を実行する初期設定モードとヘッド部31から流量検出信号を受信しながらヘッド部31の表示制御を行う通常動作モードとを切り換えることができる。
図15は、初期設定モードにおけるヘッド部31のアナログスイッチ316A,316Bの接続先を示すブロック図である。初期設定モードではヘッド電源電圧が第1の電圧(約6.5V)に制御され、その結果、アナログ信号/通信線のアナログスイッチ316Aはヘッド部31のEEPROM315及び3個のディジタルトリマー311a及び312aのデータ端子に接続される。また、ヘッド表示信号/通信線のアナログスイッチ316BはEEPROM315及び3個のディジタルトリマー311a及び312aのクロック端子に接続される。これにより、ヘッド部31とアンプ部32のマイクロプロセッサ325との間に通信ライン(データ線及びクロック線)が形成され、マイクロプロセッサ325がEEPROM315の記憶データ(設定情報)を読み出し、それに基づいて3個のディジタルトリマー311a及び312aの値を書き込む(設定する)設定処理が可能となる。
図16は、通常動作モードにおけるヘッド部31のアナログスイッチ316A,316Bの接続先を示すブロック図である。通常動作モードでは、ヘッド電源電圧が第2の電圧(約9V)に制御され、その結果、アナログ信号/通信線のアナログスイッチ316Aはヘッド部31の差動増幅回路312の出力端子に接続される。また、ヘッド表示信号/通信線のアナログスイッチ316Bは電圧検出回路318Bに接続される。これにより、アンプ部32のマイクロプロセッサ325は、ヘッド部31から流量検出信号を受信しながらヘッド部31の表示制御を行う通常動作が可能となる。
図17は、電源投入時にアンプ部32のマイクロプロセッサ325が行う設定処理の例を示すフローチャートである。電源投入時に実行される初期処理ルーチンにおいて、マイクロプロセッサ325は、ヘッド電源電圧を第1の電圧(約6.5V)にするように電源回路323を制御する(ステップ#101)。この結果、ヘッド部31の電圧検出回路318Aは、アナログスイッチ316A,316Bの接続先を図15に示した初期設定モードにするような制御信号を出力する。
次のステップ#102において、マイクロプロセッサ325は、ヘッド部31のEEPROM315からディジタルトリマー311a又は312aの設定情報を読み出す。この際、通信時のノイズ等による誤データの読み出しを回避するために、同じデータを2回読み出して照合する処理を行う。読み出した設定情報が照合結果から正しいと判断された場合は、ステップ#103で設定情報に基づいてディジタルトリマー311a又は312aの書き込み(設定)を行い、続くステップ#104で書き込んだ値の読み出しと照合を行い、正しく書き込めたか否かをチェックする。ステップ#102からステップ#104の処理は、各ディジタルトリマー311a又は312aについて、最大3回ずつ繰り返される。
次に、EEPROM315からアンプ部補正情報を読み出す(ステップ#105)。アンプ部補正情報は、テーブルを構成する実際の流量と検出流量との関係が何箇所(ポイント)分記憶されているかを示すポイント数データと、各ポイントにおける実際の流量と検出流量との関係を示す補正データとからなる。先ず、ポイント数データが2回読み出されて照合される。照合結果が一致すれば、その数だけ補正データが読み込まれる。各補正データについても2回ずつ同じデータを読み出して照合する。照合の結果、正しい補正データが読み込まれたと判断される場合は、その補正データ(アンプ部補正情報)が所定のメモリ領域に保存される(ステップ#106)。
このアンプ部補正情報は、前述のように、マイクロプロセッサ325がヘッド部31から受信した流量検出信号にリニアリティ補正を施して検出流量レベルを得るために使用される。次のステップ#107でマイクロプロセッサ325は、ヘッド電源電圧を第2の電圧(約9V)にするように電源回路323を制御する。この結果、ヘッド部31の電圧検出回路318Aは、アナログスイッチ316A,316Bの接続先を図16に示した通常動作モードにするような制御信号を出力する。この後、マイクロプロセッサ325は、ヘッド部31から流量検出信号を受信しながらヘッド部31の表示制御を行う通常動作に移行する。
図18は、アンプ部32からの制御電圧信号によってヘッド部31の表示を制御するための回路構成を示すブロック図である。ヘッド部31のLED表示回路314には、前述の第1表示器28bに対応する4個のLEDが並べられた第1LED343と第2表示器28aに対応する1個の第2LED344とが含まれている。また、前述のV−F変換回路313とカウンタ341とデコーダ342とで第1表示器28bの表示制御回路340が構成されている。
V−F変換回路313は前述のように、検出流量に応じた電圧信号(差動増幅回路312の出力電圧)を周波数信号に変換する。流量が多いほどV−F変換回路313の出力信号の周波数が高くなる。カウンタ341は、V−F変換回路313の出力信号(パルス)をカウントし、二進数の00から11(十進数の0から3)の値を繰り返し出力する。デコーダ342は、カウンタ341の出力(2ビット)をデコードする。デコーダ342の4本の出力のうちの1本のみが順番に1になり、残り3本の出力は0となる。デコーダ342の4本の出力には第1LED343を構成する4個のLEDがそれぞれ接続されている。このような構成により、第1LED343を構成する4個のLEDが順番に点灯する流れ表示を実現している。検出流量が多いほど流れ表示の変化(点灯LEDの移動)が速くなる。
このような流れ表示は、流量がゼロのときは停止すべきものであるが、電源投入直後の過渡現象やノイズの影響により、流量がゼロであるにもかかわらず、点灯LEDが移動して流れ表示が生じてしまう場合がある。また、検出流量が実質的にゼロであっても、差動増幅回路312の出力電圧がゼロから僅かに上昇しただけで流れ表示が生じてしまうことがある。
上記のような現象を回避するために、本実施例の流量センサ装置では、アンプ部32のマイクロプロセッサ325が所定の条件下で表示抑制信号をヘッド部31に送出し、ヘッド部31の表示制御回路340は、この表示抑制信号を受信したときは差動増幅回路312の出力電圧(流量検出信号)にかかわらず第1LED343(第1表示器28b)の流れ表示を停止する。具体的には、図18に示すように、アンプ部32からのヘッド表示信号がアナログスイッチ316Bを介して電圧検出回路318Bに与えられ、ヘッド表示信号が表示抑制信号を意味する電圧である場合は電圧検出回路318Bの出力によって表示制御回路340のV−F変換回路313の動作が停止するように構成されている。
マイクロプロセッサ325が表示抑制信号をヘッド部31に送出する所定の条件とは、例えばリニアリティ補正後の検出流量レベルがしきい値より低い場合である。このしきい値は、検出流量レベルがそれ以下であれば実質的に流量ゼロと判断できるような値に設定される。あるいは、電源投入後の所定時間は表示抑制信号を送出し、流量センサの出力が安定するのを待って流れ表示を有効にするようにしてもよい。
このような構成により、ヘッド部31で簡単な表示制御回路340を用いて流れ表示を実現しながら、流量ゼロ付近での表示の不安定さをコントローラ部からの制御信号によって確実に回避することができる。流れ表示のための第1LED343を構成するLEDの数を5個以上に増やした場合も、同じ構成で表示抑制を実現することができる。
アンプ部32のマイクロプロセッサ325からヘッド表示コントロール回路326を経てヘッド部31に送出されるヘッド表示信号は、上記の表示抑制信号と第2LED344(第2表示器28a)の制御信号とが組み合わされた4つのレベルをとり得る制御電圧信号である。つまり、表示抑制信号のオン・オフと、第2LED344のオン・オフとの計4通りの組合せが4つの電圧レベルに対応付けられている。電圧検出回路318Bはヘッド表示信号の電圧を4段階に識別し、表示抑制信号(V−F変換回路313のオン・オフ)と第2表示器28aの制御信号(第2LED344のオン・オフ)とを個別に出力する。
このような構成により、1本の信号線で第1表示器28bの表示抑制と第2表示器28aのオン・オフ制御を同時に行うことができる。なお、第2表示器28a(第2LED344)は、アンプ部32のマイクロプロセッサ325が任意にオン・オフさせることができるが、通常は、基準流量レベルと検出流量レベルとの比較判定結果の表示に使用される。
以上、本発明の実施例を説明し、その変形例についても適宜説明したが、本発明は上記の実施例や変形例に限らず、種々の形態で実施することができる。