JP4789500B2 - ベルト車及びそれを用いたベルト駆動装置 - Google Patents

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Description

本発明は、プーリやローラ等のベルト車と、これを用いたベルトの駆動装置に関するものである。
従来より、この種のベルト駆動装置として、Vベルトやリブドベルト、或いは平ベルトによって動力を伝達するようにしたベルト伝動装置が広く知られており、平ベルトを用いたものでは、一般的に、ベルトが走行中に蛇行したり、プーリの片側に寄る片寄り走行をしたりする、という問題があることも知られている。
これは、平ベルトが、他のベルトに比べて、プーリ軸の正規位置からのずれや、軸荷重の変化によるプーリ軸のたわみ、プーリの揺れ等、装置構成要素の変化に敏感なためである。このような蛇行・片寄り走行を生じた場合には平ベルトが平プーリのフランジに接触して、該平ベルト側面の毛羽立ちや心線のほつれを生ずる。
この問題に対して、平プーリの外周面に球面状のクラウンをつける(中高曲面に形成する)ことが知られている(特許文献1参照)。これは、平ベルトの左側部と右側部とに張力差を生じてプーリ軸が傾き、それに伴って平ベルトがプーリ上で片寄ったときに、平ベルトの張力によってプーリに回転モーメントが働くことを利用して、プーリ軸の傾き及び平ベルトの片寄りを解消せんとするものである。
また、平プーリの外周面に多数の溝を周方向に間隔をおいて形成したものも知られている(特許文献2参照)。すなわち、その溝は、プーリの幅中央から両側へ「く」の字状になるように対称に延びたものであり、平ベルトとプーリとの間に平ベルトを中央に寄せるような摩擦力を発生させることにより、該ベルトの蛇行ないしは片寄りを防止するようにしている。
さらに、平ベルトの両側にガイドプーリを配置し、この平ベルトの走行位置を規制することも知られている(特許文献3参照)。
しかし、プーリにクラウンを形成する場合、平ベルトの走行安定性(蛇行や片寄りの防止)を重要視してクラウンの曲率半径を小さくすれば、ベルトの幅中央に応力が集中し、ベルト幅全体を伝動に有効に利用することができず、心線の早期疲労及び伝動能力の低下を招く。
また、プーリのクラウンを該プーリの回転中心を中心とする球状に形成した場合、仮にベルトの片寄り防止の効果が高まるとしても、プーリのクラウンによってベルトの幅中央に応力が集中するという問題は依然として残る。
また、平プーリに上述の如き溝加工をすると、該平プーリの製造コストが高くなり、しかも、溝加工だけでは平ベルトの蛇行や片寄りを確実に防止することは難しい。
さらに、平ベルトの両側にガイドプーリ等を配置してその走行位置を規制する方式を採用すると、平ベルトの両側がそのような規制部材に常時接触することになるため、その側面のほころび、心線のほつれを生じ易くなる。従って、それらを防止するための平ベルトに特殊な加工を施すことが必要になり、平ベルトの製造コスト低減に不利になる。
以上のような理由から、平ベルト伝動装置は、Vベルトなど他のベルトに比べて、ベルトの曲げによるロスが少なく伝動効率が非常に高いにも拘わらず、十分に活用されていないのが実情である。このことは、ベルト伝動装置のみならず、ベルト搬送装置も含めて、平ベルトを用いたベルト駆動装置全般について言える。
斯かる問題点に対し、本願の発明者らは、平ベルトの片寄りを生じたときに、ベルトの張力によってプーリやその軸にかかる軸荷重の位置がずれることを利用して、この軸荷重によりプーリをベルトに対し斜交いになるように傾斜させ、これによりベルトの片寄りを戻すようにしたベルト伝動装置を開発して、先に特許出願をしている(例えば特願2004−058632号等)。
上記先願に係るベルト伝動装置の特徴は、上記の如く自動的にベルトの走行位置を調整するプーリ(以下、自動調心プーリともいう)の構造にあり、具体的には、このプーリは、平ベルトの巻き掛けられる円筒状のプーリ本体と、該プーリ本体を回転自在に支持する筒状の軸部材と、この軸部材の筒孔に挿入された支持ロッドとを備え、該支持ロッド及び軸部材がピン等により係合されて、このピン等の周りにプーリ本体及び軸部材が揺動可能になっている。
そして、上記ピン等の軸線、即ち上記プーリ本体及び軸部材の揺動中心軸(枢軸)が、該プーリ本体の回転中心軸に直交し且つ軸荷重の方向に対し該プーリ本体の回転方向前側に傾倒するようにレイアウトされている。このことで、平ベルトの片寄りに伴い軸荷重の位置がプーリ幅方向にずれたときには、この軸荷重によりプーリ本体が枢軸周りに回動変位(揺動)して軸荷重Lの方向に高低がつくように傾斜するとともに、ベルトに対し斜交いに接触した状態になり、これにより当該ベルトにその片寄りを戻す力を与えるようになっている。
そのような自動調心プーリを用いれば、従来まで平ベルト伝動の最大の問題点であったベルトの蛇行や片寄りの問題を、耐久性やコスト面での不具合を招くことなく解消して、曲げによるロスが少なく伝動効率が非常に高いという平ベルト本来の特長を十分に生かすことができるようになる。
実開昭59−45351号公報 特開平6−307521号公報 実公昭63−6520号公報
ところが、上記自動調心プーリによってベルトの蛇行や片寄りの問題を解消したとしても、平ベルト伝動装置を例えば自動車の補機駆動のように水などの掛かる虞れがある状況下で使用する場合には、そうして水などが掛かったとき(以下、注水時という)に摩擦力が大幅に低下して、スリップが発生するという問題が残されている。これは、平ベルトがリブドベルトに比べて排水性に劣り、リブドベルトのようなくさび効果も得られないため、注水時の摩擦力の低下が特に大きくなるからである。
そのような注水時のスリップの問題は、平ベルトのみに限定されず、例えばサーペンタインレイアウトのように、平ベルト状になっているリブドベルトや歯付ベルトの背面を平プーリに巻き掛ける場合にも同様に問題となり得る。
そこで、本発明の目的は、平ベルト、或いはその他のベルトの背面が巻き付けられる平プーリなど(ベルト車)の摩擦面の形状に工夫を凝らして、その両面間の伝動能力の注水による低下を抑制し、もって、ベルト駆動装置のより一層の活用を図ることにある。
上記の目的を達成するために、本発明は、ベルト車の摩擦面に所定形状の波状面を形成して、この波状面に押し当てられたベルトが弾性変形することにより、該ベルト及びプーリの摩擦面間において摩擦伝動を主体としながら、擬似的な噛み合い伝動も行われるようにしたことを特徴とする。
すなわちここに開示する発明に係るベルト車は、ベルトの巻き付けられる摩擦面に周方向に交互に凹部及び凸部の現れる波状面を形成し、この波状面において隣り合う凹部及び凸部の周方向の長さを基準値として、その凹部の底から凸部の突端までの径方向の長さを上記基準値の1/10以下としたものである。ここで、波状面とは、交互に現れる凹部及び凸部の少なくとも一部、望ましくは大部分が曲面により構成されていて、その一部は平面であってもよいが、この平面と曲面、或いは曲面同士の連続する部位において曲率があまり急に変化することがなく、比較的滑らかで且つ緩やかな凹凸によって構成されるものを意味する。
上記のような波状面が形成されたベルト車の摩擦面にベルトを巻き付けて張力を与えると、ベルトは波状面に沿うように弾性変形し、その波状面の凸部では凹状に、また凹部では凸状になって、あたかも歯付ベルトが歯付プーリと噛み合うような状態になる(以下、これを疑似噛み合いともいう)。このことで、上記ベルトとベルト車との間では摩擦伝動を主体としながら、擬似的な噛み合い伝動も行われるようになる。
その際、上記波状面とベルトとの間の面圧が凹部及び凸部でそれぞれ異なることから、それら全体として得られる摩擦力の大きさは波状面のないものに比べてやや小さくなる。特に、凹部の底から凸部の突端までの径方向の長さ(以下、凹凸の振れ幅ともいう)が大きいときには、ベルトが波状面の凹部に十分に沿わなくなって、摩擦力の低下幅が大きくなるとともに、上記疑似噛み合いの作用も低下してしまう。さらに、そのように凹凸の振れ幅が大きいと、ベルトがベルト車の摩擦面(波状面)に巻き付き、或いは離れる際の衝撃によって騒音や振動の問題を生じる虞れがある。
これに対し、上記構成では、波状面において隣り合う凹部及び凸部の周方向の長さ、即ち凹凸の周期に対して、その振れ幅を1/10以下に抑えている。このように凹凸の振れ幅がその周期に対して小さい、即ち凹凸の緩やかな波状面には、その凹凸に沿ってベルトがぴったりと巻き付くようになるから、上記した摩擦力の低下や騒音・振動の発生を抑えながら、疑似噛み合いの作用を十分に得ることができる。
そして、上記のように摩擦力がやや低下していても、これに加えて擬似的な噛み合い伝動が行われることで、無水時の伝動能力を十分に確保することができ、さらに、注水時の伝動能力の低下を効果的に抑制して、スリップの発生を抑えることができる。これは、注水時には、ベルトと摩擦面(波状面)との間に水膜が介在することによって、摩擦力が大幅に低下する一方で、擬似噛み合いによる伝動能力の低下幅は比較的小さいため、この両者を合わせた伝動能力の低下幅が小さくなるからである。
さらに、上記ベルト車の波状面においてはベルトが巻き付き始めるときに、このベルトによって凸部から凹部に水が落とし込まれることになり、凹凸のないものに比べて排水性が向上することから、水膜の介在による摩擦力の低下自体も抑制され、このことによっても注水時の伝動能力の低下を抑えることができる。
尚、上記ベルト車の波状面とベルトとの間では弾性滑りを含めて幾らかは滑りが発生するが、上述の如く波状面が曲面主体に形成されていることから、滑りによってベルトがひどく摩耗することはなく、これによる耐久性の低下は実質、問題にはならない。
上記の如くベルトを波状面に沿って弾性変形させて、疑似噛み合いの作用を効果的に得るために、上記波状面の凹凸の振れ幅、即ち凹部の底から凸部の突端までの径方向長さは、ベルトの厚みの1/10以下とするのが好ましい。
また、好ましいのは、上記波状面の全てを曲面により形成し、その曲率を少なくとも凸部において周方向に連続的に変化させることである。こうすれば、曲率の連続的に変化する波状面に沿って、この波状面に巻き付けられるベルトがよりスムーズに弾性変形するようになるから、上記の疑似噛み合いの作用がより効果的に得られるとともに、その波状面には曲率の急変する段部などが存在しないから、騒音・振動の発生やベルトの摩耗をより確実に抑えることができる。
このことからすれば、本発明に係るベルト車は、ベルトの巻き付けられる摩擦面に周方向に交互に凹部及び凸部が現れるように波状面を形成し、この波状面の曲率を少なくとも凸部において周方向に連続的に変化させたものと言うこともできる。この構成により上記の発明と同様の作用が得られるが、その場合でも、波状面の凹凸の振れ幅はその周期(隣り合う凹部及び凸部の周方向の長さ)の1/10以下とするのがよい。
さらに、好ましいのは、上記ベルト車の摩擦面に形成する波状面において隣り合う凹部及び凸部の周方向の長さ、即ち凹凸の周期を周方向に変化させることである。こうすれば、ベルトが波状面に巻き付いたり、離れたりするときの衝撃や、波状面の凹部から空気が押し出されるときの音などの発生の周期が一定でなくなり、特定の周波数域で騒音や振動が大きくなることを防止できる。
上述の如きベルト車を製造するには、例えば、金属製素材をプレス加工してベルト車を形成するのがよく、その場合にベルト車の摩擦面にはプレス型によって波状面を一体成形するのが好ましい。また、ベルト車は、樹脂又は金属のいずれかを型により成形してもよく、その場合には成形型によって波状面を一体成形するのがよい。或いは、金属製素型材を切削加工してベルト車を形成する場合には、その摩擦面をホブにより削って波状面を形成するのがよい。そのようにすれば、ベルト車の摩擦面に波状面を形成するためのコストアップが抑えられる。
別の観点によれば、本発明は、上述の如きベルト車を少なくとも駆動軸に取り付けたベルト駆動装置である。このベルト駆動装置では、少なくとも駆動軸に取り付けたベルト車において上述の如く注水時の伝動能力の低下を抑えて、ベルトスリップを防止することができるので、ベルト伝動装置や搬送装置においてその伝動能力や搬送能力を安定的に発揮させる上で有利になる。
また、上記ベルト駆動装置のうち、特にベルト伝動装置においては、上記ベルトの巻き掛けられるアイドラプーリを設け、このアイドラプーリとしては、そのプーリ本体を回転自在に支持するとともに、その回転中心軸に沿って見て、軸荷重の方向に対し当該プーリ本体の回転方向前側に傾倒した枢軸の周りに揺動自在に支持するようにした自動調心プーリを用いることが好ましい。
すなわち、先の特許出願(特願2004−058632号)に係る自動調心プーリを用いることによって、ベルトの蛇行や片寄り走行を確実に防止することができ、特に平ベルト伝動装置において伝動能力を十分に発揮させることができるようになる。一方で、そのような自動調心プーリの作用は、ベルトの走行中にのみ得られるものであり、例えば駆動プーリにおいてスリップが発生し、ベルトの走行が間欠的になったり、停止したりすると、上記蛇行・片寄り防止機能も十分には発揮されなくなってしまう。
従って、上記自動調心プーリを用いて平ベルトの蛇行や片寄り走行を防止するようにした平ベルト伝動装置においては、上述の如く注水時にも駆動プーリ(ベルト車)におけるベルトスリップの発生を効果的に抑制して、ベルトの走行状態を安定的に維持できるという作用が、特に有効なものとなるのである。
但し、本発明においてベルトは、平ベルトに限らず、リブドベルトや歯付ベルト(タイミングベルト)等、その種類は問わない。平ベルトの場合は、その内周面及び外周面のどちらをベルト車の摩擦面に巻き付けるようにしてもよいが、リブドベルトや歯付ベルトの場合はその背面を巻き付ける場合に限るものとする。
以上のように、本発明に係るベルト車によると、ベルトの巻き掛けられる摩擦面に所定形状の波状面を形成して、ベルトとの間で摩擦伝動を主体としながら、擬似的な噛み合い伝動も行われるようにしたことで、注水時の伝動能力の低下を効果的に抑制して、スリップの発生を抑えることができる。しかも、上記波状面を滑らかで且つ凹凸の緩やかな形状とすることで、上記の効果が十分に得られるとともに、騒音・振動の発生やベルトの摩耗も抑制することができる。
また、上記ベルト車を少なくとも駆動軸に取り付けたベルト駆動装置によると、注水時の駆動側のベルト車におけるスリップの発生を抑制できるので、ベルトの走行状態を維持して、その伝動能力や搬送能力を安定的に発揮させる上で有利になる。
さらに、そのようなベルト駆動装置において自動調心プーリを用いれば、平ベルトの蛇行や片寄り走行を解消して、ベルトの伝動能力を十分に発揮させることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下に説明するベルト駆動装置の構成はあくまで一例に過ぎず、如何なる意味においても本発明の構成を限定するものではない。
図1は、本発明に係るベルト駆動装置を自動車用エンジンの補機駆動システムAとした場合のベルト及びプーリのレイアウトを模式的に示す。同図において符号1は、駆動軸であるエンジンEのクランクシャフト(図示せず)に回転一体に取付固定された駆動プーリ(ベルト車)としてのクランクプーリである。また、符号2〜6はそれぞれ従動プーリであり、例えば、2は、エンジン補機であるパワーステアリング用ポンプ(図示せず)の回転軸に回転一体に取付固定されたPSポンププーリ、3は、同様にオルタネータ(図示せず)の回転軸に固定されたオルタネータプーリであり、4は、同様に空調機用コンプレッサ(図示せず)の回転軸に固定されたコンプレッサプーリである。さらに、5は、伝動ベルト8の張力を調整するためのオートテンショナ7のテンションプーリであり、6はアイドラプーリである。
上記クランクプーリ1、PSポンププーリ2、オルタネータプーリ3、コンプレッサプーリ4、テンションプーリ5及びアイドラプーリ6はいずれも平プーリからなり、これらのプーリ1〜6間に平ベルトからなる伝動ベルト8が巻き掛けられている。このベルト8は、一例として心線を有するコード平ベルトなどが好ましい。
また、上記平ベルト8は、上記クランクプーリ1及び各補機の駆動プーリ2〜4にあってはそれぞれ伝動面である内周面をプーリ2〜4に接触させた正曲げ状態で、またテンションプーリ5及びアイドラプーリ6にあってはそれぞれ外周面(背面)をプーリ5,6に接触させた逆曲げ状態で巻き付けられて、いわゆるサーペンタインレイアウトで巻き掛けられている。そして、エンジンEの運転に伴うクランク軸(クランクプーリ1)の回転により、ベルト8がクランクプーリ1→テンションプーリ5→PSポンププーリ2→オルタネータプーリ3→アイドラプーリ6→コンプレッサプーリ4→クランクプーリ1の順に図において時計回り方向に走行して、各補機を駆動するようになっている。
−自動調心プーリ−
この実施形態では、上記アイドラプーリ6が、伝動ベルト8の片寄りに伴いその片寄りを戻すように揺動して、その伝動ベルト8の走行位置を自動調整する自動調心プーリである。その具体的な構造は、例えば図2及び図3に示すように、伝動ベルト8の巻き掛けられる円筒状のプーリ本体60と、このプーリ本体60をベアリング61によって回転中心軸C1の周りに回転自在に支持する筒状の軸部材62と、この軸部材62を上記回転中心軸C1に直交する枢軸C2の周りに揺動自在となるように、該枢軸C2を構成するピン64を介して支持する支持ロッド63と、からなる。
上記支持ロッド63は、その長手方向の基端側に鍔部63aが形成され、この鍔部63aがブラケットB等に締結されてエンジンEのシリンダブロックの側壁に固定される一方、上記軸部材62の筒孔に挿入される先端側の部位は、図3(b)に示すように断面円形ロッドを縦に半割りにカットしたような断面D字状に形成されていて、その外周の平坦面63b(以下、Dカット面という)が上記枢軸C2に略直交するように配置されている。
また、上記支持ロッド63の先端側には、断面D字状に形成された部位の中央付近で上記枢軸C2に沿って支持ロッド63の半径方向に延びる断面円形の貫通孔が形成され、この貫通孔の一端(図の上端)が上記Dカット面63bに開口する一方、該貫通孔の他端は、支持ロッド63先端側の外周の円弧面に開口している。
一方、上記軸部材62の筒孔は、上記支持ロッド63先端側の断面形状に対応して断面D字状に形成されている。すなわち、軸部材62の筒内面には、支持ロッド63のDカット面63bに対し枢軸C2方向に対向する平坦な対向面62aが該枢軸C2に直交するように形成されるとともに、上記支持ロッド63の外周円弧面を囲むように円弧面が形成され、これら対向面62a及び円弧面には、それぞれ、支持ロッド63の貫通孔に対応する部位に開口し、枢軸C2に沿って延びるように断面円形の支持孔が形成されている。
そして、上記支持ロッド63の貫通孔に上記ピン64が挿通され、このピン64の両端部がそれぞれ上記軸部材62の支持孔に嵌入されている(即ち、ピン64は、プーリ本体60の幅の中央付近に配置され、支持ロッド63のDカット面63b及び軸部材62の対向面62aに直交している)。また、上記ピン64の外周面と支持ロッド63の貫通孔内面との間には円筒状の樹脂製摺動材65が配設され、一方、支持ロッド63のDカット面63bと軸部材62の対向面62aとの間には、概略円盤状をなすニードルベアリング66(ボールベアリング等でもよい)が介設されている。
この構成により、上記軸部材62及びプーリ本体60は、上記支持ロッド63に対してピン64(枢軸C2)の周りに揺動自在に支持されており、伝動ベルト8の幅の中央部がプーリ本体60の幅の中央付近からずれると、この伝動ベルト8の張力(軸部材62に生じる軸荷重)によって上記ピン64の周りに揺動するようになっている。なお、上記支持ロッド63のDカット面63bに連なるロッド外周の円弧面と、これを取り囲む軸部材62の円弧状筒内面との間には、上記ピン64を軸として軸部材62がプーリ本体60とともに揺動することを許容するための隙間が形成されている。
そうして、上記アイドラプーリ6は、上記図1に示すような補機駆動システムAにおいて、図4に模式的に示すように、ベルト8の張力により発生する軸荷重Lの方向を基準として、枢軸C2をプーリ本体60の回転方向前側に、即ち、図に矢印Rで示すベルト走行方向の前側に、所定角度αだけ傾倒させた状態で配設されている。これにより、該プーリ本体60に巻き掛けられて走行する伝動ベルト8が幅方向に片寄ったときには、このことに起因する軸荷重中心のずれによってプーリ本体60が軸荷重方向に傾斜するとともに、ベルト8に対し斜交いになり、当該ベルト8の片寄りを戻すようになっている。
詳しくは、図5に示すように、伝動ベルト8がプーリ本体60の幅の中央付近に掛かっているときには、軸荷重のベクトルL(実線で示す)は枢軸C2と交差し、その分力Loが枢軸C2に沿って作用するとともに、分力L1が枢軸C2に直交するように作用する。一方、図示しないが、伝動ベルト8がプーリ本体60の中央からその片側へ寄ると、その片側に軸荷重Lがずれて作用するようになる。こうなると、軸荷重の分力L1により軸部材62に枢軸C2周りの回転モーメントが作用し、これにより軸部材62がプーリ本体60とともにピン64(枢軸C2)の周りに回動変位(揺動)することになる。
すなわち、上記の如く伝動ベルト8が片寄って軸荷重Lの位置がずれたときでも、仮にその軸荷重Lの方向が枢軸C2と平行であれば、このときにはL=Lo、L1=0となり、枢軸C2周りの回転モーメントは発生しないが、この実施形態のように軸荷重Lの方向が枢軸C2の方向から角度αだけ傾いていれば、その軸荷重Lの分力L1によって枢軸C2周りの回転モーメントが発生し、これにより軸部材62及びプーリ本体60が枢軸C2の周りに回動変位するのである。ここで、上記角度αは、軸荷重Lの方向を基準とする枢軸C2の傾倒角に相当する。
そして、この実施形態では、上記図4等に示すように枢軸C2が軸荷重Lの方向に対しプーリ本体60の回転方向前側に傾倒しているから、上記の如くプーリ本体60及び軸部材62が軸荷重の分力L1によってピン64(枢軸C2)の周りに回動させられるとき、該プーリ本体60は、軸荷重Lに直交する方向に見て図6(図4のVI矢視図)に誇張して示すように、その軸荷重Lの方向(図の上下方向)について伝動ベルト8の片寄ってきた側が低く、反対側が高くなるように傾斜し、これと同時に、その軸荷重Lの方向に見て図7(図4のVII矢視図)に誇張して示すように、伝動ベルト8の片寄ってきた側がベルト走行方向Rの前側になるように、伝動ベルト8の走行方向に対して斜交いになる。なお、上記図4、図6及び図7において伝動ベルト8は、プーリ本体60が回動変位した状態のみを仮想線(二点鎖線)で示している。
そのようにプーリ本体60が回動変位すると、伝動ベルト8は、上記図6のようなプーリ本体60の軸荷重方向への傾斜によって片寄りを戻す方向の戻し力を受けるとともに、上記図7のようにプーリ本体60が斜交いになることによって片寄りを戻す方向の戻し力を受けて、その走行方向が変更され、この両方の作用によって伝動ベルト8の片寄りが防止されることになる。
なお、この実施形態では、図1に示すように伝動ベルト8をアイドラプーリ6に対して比較的大きく巻き付けており(図の例では巻付け角は180°に近い)、これにより、プーリ本体60にしっかりと軸荷重Lがかかるようになっているが、これに限るものではない。上記の如く軸荷重Lによってプーリ本体60を回動変位させるためには、伝動ベルト8の巻付け角を約10°以上にすればよい。
また、上述の如くアイドラプーリ6のプーリ本体60が軸荷重方向に傾斜することによる戻し力の作用と、該プーリ本体60が斜交いになることによる戻し力の作用とでは、後者の方が片寄り防止効果が高いので、その斜交いによる作用を有効に利用するために、上記枢軸C2の傾倒角αは0度を越え45度以下の範囲に設定するのが好ましく、30度以下とするのがさらに好ましい。
−ウエーブプーリ−
上述の如くアイドラプーリ6を自動調心プーリとしたことで、この実施形態の補機駆動システムAでは、平ベルト伝動の最大の課題であったベルトの蛇行や片寄りの問題を解消できるから、従来一般的なリブドベルトに代えて、伝動ベルト8として平ベルトを用いることにより、伝動効率を大幅に高めることができる。
しかし、自動車用エンジンの補機駆動システムの場合は、走行中に雨水などが掛かる虞れがあり、そうして水などが掛かったとき(注水時)のスリップの問題が残されている。すなわち、平ベルトはリブドベルトに比べて排水性に劣り、リブドベルトのようなくさび効果も得られないため、注水による摩擦力の低下が特に大きくなり、スリップが発生しやすいからである。
これに対し、この実施形態では、クランクプーリ1を始めとして伝動ベルト8が正曲げ状態で巻き掛けられる各補機の駆動プーリ2〜4を、それぞれ、注水時の伝動能力の低下を特に抑えることができる特別のプーリによって構成した。このプーリは、本発明の特徴であるが、伝動ベルト8の巻き付けられる外周面(摩擦面)全体に非常に小さく且つ緩やかなウエーブ状の面(波状面)を形成したものであり、以下、ウエーブプーリとも呼ぶことにする。
上記ウエーブプーリにより構成した例えばオルタネータプーリ3について説明すると、このプーリ3の本体30の外周面には、そのプーリ幅全体に亘って延びる非常に薄い蒲鉾状の凹部30aと凸部30bとが周方向に交互に形成されていて、その曲率が周方向に連続的に変化する緩やかな波状面が形成されている。すなわち、図8(a)に拡大して示すように、周方向に展開した波状面30の外形は例えば正弦波状をなし、プーリ本体30外周のベース円(図に一点差線で示す)を基準として、図示の如く凹部30aと凸部30bとが周方向に交互に現れる。
そうして交互に現れる凹部30a及び凸部30bの周方向の長さ、即ち凹凸の周期ωは、この例では概略2mmくらいであり、これは直径約60mmのプーリ本体30の中心角で約4°に相当する。一方、上記凹部30aの底から凸部30bの突端までの径方向の長さ、即ち凹凸の振れ幅αは、この例では概略0.1mmとしている。つまり、図示の例では、プーリ本体30外周の波状面における凹凸の振れ幅αは、その凹凸の周期ωの約20分の1になっている。
また、この実施形態のようなベルト駆動装置において用いる伝動ベルト8の厚みは通常、約1.5〜4mm程度であり、上記凹凸の振れ幅αは、その厚みの1/10以下になっている(尚、上記ベルト厚みに対して凹凸の振れ幅αは、0.1〜0.5mmとすればよく、0.2〜0.4mmとするのが好ましい)。
そのように凹凸の全てが曲面により形成され、しかも、凹凸の振れ幅ωがその周期α及びベルト厚みに対して十分に小さい緩やかな波状面に伝動ベルト8を巻き付けると、この伝動ベルト8は、図8(b)に模式的に示すように、波状面の凹凸に沿って主に内周側のゴム層が圧縮弾性変形し、その波状面の凸部30bでは凹状に、また谷部30aでは凸状になる。言い換えると、伝動ベルト8は、あたかも歯付ベルトが歯付プーリと噛み合うような状態になる(疑似噛み合い)。
そのように接触する伝動ベルト8の内周面とプーリ本体30の波状面との間では、この波状面の凹部30aで接触面圧が低くなるため、凸部30bを含めた接触面全体として得られる摩擦力は、波状面のないものに比べてやや低下することになる。しかし、上記のように疑似噛み合い状態となるため、伝動ベルト8とプーリ本体30との間では摩擦伝動を主体としながら、擬似的な噛み合い伝動も行われるようになり、両者を合わせた伝動能力は、水を掛けないとき(無水時)であれば上記波状面のないものよりも低くはなるものの、大きくは変化しない。
一方、伝動ベルト8の内周面とプーリ本体30の波状面との間に水を掛けたとき(注水時)には、両者間に水膜が介在することによって摩擦力は大幅に低下することになるが、上記擬似噛み合いによる伝動能力はあまり低下しない。このため、摩擦力と疑似噛み合いの作用との両方を合わせた伝動能力は、注水時には上記波状面のないものよりも大きくなる。つまり、疑似噛み合いによって注水時の伝動能力の低下を効果的に抑制することができる。
しかも、上記プーリ本体30の波状面に伝動ベルト8が巻き付き始めるときには、この伝動ベルト8によって波状面の凸部30bから凹部30aに水膜が落とし込まれることになり、凹凸のないものに比べて排水性が向上するので、水膜の介在による摩擦力の低下自体も抑制され、このことによっても注水時の伝動能力の低下が抑えられる。
但し、上記波状面の凹凸があまり大きいと、伝動ベルト8が十分に凹凸に沿わなくなって、上記した以上に摩擦力が低下してしまう上に、上記の疑似噛み合いの作用も十分には得られなくなるので、無水時、注水時の両方で伝動能力の低下が著しい。また、そのように波状面の凹凸が大きな場合には、伝動ベルト8がプーリ本体30に巻き付くときや或いは離れるときの衝撃が大きくなって、騒音や振動の問題を生じる虞れもある。
これに対し、この実施形態では、上記のように波状面の全てを曲面により滑らかに形成するとともに、その凹凸を、振れ幅αが周期ωの約1/20と小さくなり、また、ベルト厚みの1/10以下となるような非常に緩やかなものとしたから、上記の如く伝動能力が著しく低下することがなく、また、騒音や振動の問題も生ない。
さらに、上記のように滑らかな波状面においては、凹部30aや凸部30bはあっても曲面の曲率が急変する段部などが存在せず、このことによっても上記騒音や振動の防止が図られるとともに、伝動ベルト8の摩耗も効果的に抑制ることができる。すなわち、上記波状面と伝動ベルト8の内周面との間では上述の如く摩擦伝動が主体となるから、弾性滑りを含めて幾らかは滑りが発生するが、その波状面が滑らかで段部もないことから、滑りによる伝動ベルト8の摩耗の心配はないものである。
したがって、上記実施形態に係るウエーブプーリによると、伝動ベルト8の巻き掛けられるプーリ本体30の摩擦面に上記のような滑らかで且つ凹凸の緩やかな波状面を形成して、騒音・振動の発生や伝動ベルト8の摩耗を抑えながら、伝動ベルト8との間で摩擦伝動を主体としつつ、擬似的な噛み合い伝動も行われるようにしたから、注水時の伝動能力の低下を効果的に抑制して、ベルトスリップの発生を抑えることができる。
そして、上記ウエーブプーリによって駆動側のクランクプーリ1及び従動側の補機プーリ2〜4をそれぞれ構成したエンジンの補機駆動システムAでは、例えば雨水などが掛かったときでも上記各プーリ1〜4においてベルトスリップの発生を防止し、伝動ベルト8の走行状態を安定的に維持して、補機の作動を確保することができる。
特に、この実施形態では伝動ベルト8として平ベルトを用いており、その蛇行や片寄り走行をアイドラプーリ6の自動調心機能によって防止しているが、その自動調心機能は伝動ベルト8の走行中にのみ得られるものであるから、上記の如く注水時にもクランクプーリ1におけるスリップを効果的に抑制して、伝動ベルト8の走行状態を安定的に維持できるというウエーブプーリの働きは極めて有効なものである。
上記のようなウエーブプーリを製造するには、例えば、鋼板などの金属製素材をプレス加工すればよく、その場合には、プーリ本体の摩擦面にはプレス型によって波状面を一体成形するのが好ましい。また、樹脂又は金属を型により成形してプーリ本体を成形してもよく、その場合には成形型によって波状面を一体成形するのがよい。或いは、アルミ合金などの金属製素型材を切削加工してプーリ本体を形成することもでき、その場合には、プーリ本体の摩擦面をホブにより削って波状面を形成するのがよい。そのようにすれば、プーリの摩擦面に波状面を形成するためのコストアップを抑制できる。
尚、上述した実施形態では、クランクプーリ1を始めとして補機の駆動プーリ2〜4にもウエーブプーリを用いているが、これに限らず、クランクプーリ1だけをウエーブプーリとしてもよい。
また、ウエーブプーリの波状面の形状は上記実施形態のものに限定されない。すなわち、例えば上記実施形態では、波状面における凹凸の振れ幅αをその周期ωの約1/20としているが、これはもう少し大きくてもよく、例えば約1/10以下とすればよい。また、波状面の全てを曲面により形成する必要はなく、一部は平面としてもよい。
さらに、上記波状面の曲率を必ずしも連続的に変化させる必要もなく、曲面と曲面、或いは平面と曲面とが連続する部位において曲率を不連続に変化させてもよい。但し、その場合でも、波状面の凸部においては曲率が連続的に変化することが望ましく、また、曲率の不連続に変化する部位においてもその変化は急ではないことが望ましい。
また、上述した実施形態では、ウエーブプーリの波状面における凹凸の周期ωを全周に亘って一定(上記の例ではプーリ中心角で4°)としているが、これを周方向にランダムに変化させるようにしてもよい。こうすれば、伝動ベルト8がプーリ本体30に巻き付いたり、離れたりするときの衝撃や、波状面の凹部30aから空気が押し出されるときの音などの発生の周期が一定でなくなり、特定の周波数域で騒音や振動が大きくなることがないから、より確実な騒音低減が図られる。
さらに、上記実施形態の補機駆動システムAでは自動調心プーリをアイドラプーリ6として用いているが、これに限らず、自動調心プーリは例えばテンションプーリ5として用いることもできるし、これ以外に伝動ベルト8の蛇行を防止できるものがあれば、自動調心プーリは用いなくてもよい。勿論、自動調心プーリの構造は上記のものに限定されず、それは、伝動ベルト8の巻き掛けられるプーリ本体が、その回転中心軸C1に沿って見て、軸荷重Lの方向に対し当該プーリ本体の回転方向前側に傾倒した枢軸C2の周りに揺動自在に支持されたものであればよい。
また、上記実施形態では、本発明に係るウエーブプーリを自動車用エンジンの補機駆動システムAに使用しているが、これに限らず、ウエーブプーリは各種の産業機械、その他の機器におけるベルト伝動装置、ベルト搬送装置に利用可能である。その場合に、例えば幅広のベルトをローラ(ベルト車)に巻き掛けた装置では、そのローラの外周面に波状面を形成すればよい。
以下、ウエーブプーリの波状面の形状と無水時及び注水時における伝動能力の変化について、実際に行った試験結果に基づいて具体的に説明する。
−見かけの摩擦係数の測定−
図9は、ウエーブプーリの波状面の形状によって変化する伝動能力を計測する試験装置の概略構成を示す。試験の方法自体は、摩擦係数の測定方法として一般的なベルト移動法と同じであり、ベルトBのロードセルLCの配置されているスパンを図示の如く引き上げながら、このロードセルLCによって検出される張力Ttを張り側張力とみなし、一方、錘Wによる張力Tsを緩み側張力とみなして、ベルトBとプーリPとの接触角θに基づきオイラーの式(式1)によって、以下の(式2)の如く見かけの摩擦係数μ′を求める。
Figure 0004789500
上記見かけの摩擦係数μ′は、ウエーブプーリの場合は、純粋な摩擦伝動と疑似噛み合いによる伝動とを合わせた伝動能力の大きさを表すものである。また、図示の如く接触角θを比較的小さくしているのは、この試験に供するウエーブプーリの外周面が周方向に4つの区間に等分されていて、それぞれの区間に異なる形状の波状面が形成されているからである。
すなわち、上記試験に供したウエーブプーリは、図10にそのイメージを模式的に示すように、それぞれ4種類の波状面を有する第1及び第2の2つのウエーブプーリであり、同図(a)に示す第1プーリP1のA,B,C,Dの各区間には、それぞれ、凹凸の周期ωをプーリ中心角で4°として、凹凸の振れ幅αを0.2mm、0.1mm、0.04mm、0.02mmと異ならせた4種類の波状面を形成している。
また、同図(b)に示す第2プーリP2のA,B,C,Dの各区間には、それぞれ、凹凸の振れ幅αを0.1mmとして、凹凸の周期ωをプーリ中心角で4°、8°、12°、16°と異ならせた4種類の波状面を形成している。この結果、第1プーリP1のB区間と第2プーリP2のA区間には同一の波状面が形成されており、波状面の種類は全部で7種類となった。
そして、ベルトBとプーリ外周面(波状面)との間に水を掛けないとき(無水時)と、水を掛けたとき(注水時)とで、それぞれ、上記8つの区間についてロードセルLCによりベルトBの張り側張力Ttを検出し、上記(式2)によって見かけの摩擦係数μ′を計算した。また、比較のために波状面を形成しない平プーリについても同様にして見かけの摩擦係数μ′を計算した。
こうして8つの区間の波状面についてそれぞれ求めた見かけの摩擦係数μ′は、図11に示すように、波状面の種類(プーリ表面状態)によって異なる値となった。すなわち、まず、ウエーブプーリP1,P2は、その何れの区間においても無水時と注水時の見かけの摩擦係数μ′の変化が通常の平プーリに比べてかなり小さいことが分かる。
また、凹凸の周期ωを一定とした第1プーリP1の4つの区間A,B,C,D同士で比較すると、A→B→C→Dの順に凹凸の振れ幅αが小さくなるに連れて無水時の摩擦係数μ′は大きくなる一方、注水時の摩擦係数μ′はあまり変化せず、結果として無水時と注水時との摩擦係数μ′の変化が大きくなることが分かる。これは、凹凸が緩やかなほどベルト内周面と波状面との間の純粋な摩擦力が増大することと、疑似噛み合いによる伝動能力がやや低下するものの、その変化は相対的に小さいこととによると考えられる。
一方、凹凸の振れ幅αを一定とした第2プーリP2の4つの区間A,B,C,D同士で比較すると、この場合は、凹凸の周期ωが最も短いA区間(この区間の波状面は第1プーリのB区間と同じである)からB区間、C区間と周期が長くなるに連れて無水時の摩擦係数μ′が徐々に大きくなっている。一方、この場合も注水時の摩擦係数μ′は余り変化せず、結果として無水時と注水時との摩擦係数の変化は、区間Aにおいて最も小さくなることが分かる。
上記第2プーリP2の試験結果からは、凹凸の振れ幅αが適当な値(この場合は0.1mm)であり、この値が凹凸の周期ωの1/10以下であれば、その周期ωを変更しても疑似噛み合いによる伝動能力はあまり変化せず、一方、周期が長くなって平プーリに近づけば、純粋な摩擦力は増大することが伺える。
そして、以上の試験結果から、本発明に係るウエーブプーリは、その波状面とベルト内周面との疑似噛み合い効果によって、注水による見かけの摩擦係数μ′の低下を効果的に抑えることができるものであり、特に上記第1プーリP1のA,B両区間のように、凹凸の振れ幅αを周期ωの約1/10以下とした緩やかな波状面において、疑似噛み合い高さを十分に得られるよう、凹凸の振れ幅αを比較的大きくした場合(この例からは凹凸の振れ幅αを周期ωの約1/10〜1/20とした場合)に、特に高い効果が得られると考えられる。
−スリップトルクの計測−
次に、上述した測定結果に基づいて、上記記第1プーリP1の区間A,Bの波状面をそれぞれ全周に亘って形成した2つのウエーブプーリを準備して、図12に概略を示す試験装置によってスリップトルクを計測した。図示の試験装置においてP1は駆動プーリであり、この駆動プーリP1に実施例1,2として上記2つのウエーブプーリを用いた。また、比較例として平プーリとリブドプーリとを用いた。
図示のP2は、ベルトBの蛇行や片寄りを防止するための自動調心プーリであり、上述した実施形態に記載の構造のものとした。P3は、ベルトBに所定の張力を付与するためのテンションプーリであり、図示しないが、該テンションプーリP3の軸に連結されたロープが上方で滑車などにより折り返されていて、これに繋がれた錘によってデッドウエイトDWが付加されるようになっている。また、P4は、ベルトBの駆動負荷を調整するための従動プーリであり、このプーリP4におけるベルトBの巻き付き角度(接触角)は例えば100〜120°としている。
上記駆動プーリP1、自動調心プーリP2、テンションプーリP3、従動プーリP4の直径は、それぞれ、117.5mm、70mm、50mm、60mmであり、駆動プーリP1、テンションプーリP3及び負荷プーリP4には、それぞれベルトBを正曲げ状態で巻き掛け、また自動調心プーリP2には逆曲げ状態で巻き掛けている。
また、上記ベルトBとしては、注水対策を施していない基本仕様の平ベルト1種と、この基本仕様の平ベルトの底ゴム層に短繊維を混入して、注水時の滑りを抑えるようにした注水対策仕様のもの3種とを準備した。上記基本仕様は、例えば、張力帯としてアラミド心線を用いたコード平ベルトであり、底ゴム層は、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)である。
上記注水対策仕様の平ベルトの底ゴム層に混入する短繊維は、上記対策仕様1では綿粉を、対策仕様2ではテクノーラ短繊維を、また、対策仕様3ではシリカ短繊維と綿粉とを、それぞれ用いた。いずれの平ベルトもベルト幅は10mmとし、その厚みは2.5mmとした。尚、比較用のリブドベルトの幅は約14mmで、上記平ベルトよりも幅の広いものとした。
そして、上記駆動プーリP1として上記2つのウエーブプーリ又は平プーリのいずれかを用い、それぞれ、上記4種の平ベルトのいずれかを巻き掛けて、合計12通りの仕様でスリップテストを行った。また、比較のために、上記駆動プーリP1にリブドプーリを用い、これに上記リブドベルトを巻き掛けてスリップテストを行った。それら13通りのスリップテストの各々において、注水時には駆動プーリP1に対するベルトBの入り側スパンに例えば毎分1800mlで注水を行い、また、テンションプーリ3に与える負荷(DW)は294N→686N→1079N→294N(R294Nと表示)と変化させる。
具体的に上記スリップテストは、上記のようにテンションプーリ3加える負荷によってベルトBの張力を略一定に保ちつつ、駆動プーリP1を例えば2000rpmの略一定の回転速度で回転させて、ベルトBを駆動プーリP1→自動調心プーリP2→テンションプーリP3→従動プーリP4→駆動プーリP1の順に、図において時計回りに走行させる。
そうしてベルトBを走行させながら、従動プーリP4の回転負荷を徐々に上げて行き、該従動プーリP4及び上記駆動プーリP1にそれぞれ設けた回転センサによって駆動軸及び従動軸の回転速度を逐次、検出して、この回転速度差からスリップ率を算出する。そうすると、図13に一例を示すように、従動プーリP4の回転負荷(トルク)の増大に応じて駆動プーリP1のスリップ率が増大し、或るところからはスリップ率だけが高くなってトルクを伝達しない100%スリップの状態になる(ベルトスリップの発生)。
このようにして駆動プーリP1においてベルトスリップが発生するときの該駆動プーリP1の駆動トルク、或いは従動プーリP4の回転負荷(トルク)をスリップトルクとして求めると、このスリップトルクの大きさは無水時と注水時とで明らかに異なるだけでなく、駆動プーリP1として用いたプーリの種類によっても大きく異なることが分かった。図14〜16は、それぞれ、駆動プーリP1として上記比較例の平プーリと、実施例のウエーブプーリ1、同ウエーブプーリ2とを用いたものであり、その各図の(a)が無水時を、また、図(b)が注水時を示す。
そして、上記図15(b),16(b)を図14(b)と対比すると、実施例のウエーブプーリ1,2によって、比較例の平プーリに比べて注水時のスリップトルクが高くなっていることが分かる。すなわち、例えば基本仕様の平ベルトを用いた場合、ウエーブプーリ1のスリップトルクは平プーリとあまり変わらないが、ウエーブプーリ2では明らかに高くなっている。また、対策仕様1〜3の平ベルトを用いれば、ウエーブプーリ1,2のスリップトルクは平プーリに比べて大幅に高くなっており、注水時の伝動能力の低下が効果的に抑制されていることが分かる。
しかも、これら対策仕様1〜3の平ベルトとウエーブプーリ1,2とを組み合わせたものでは、スリップトルクがリブドベルトと比べても高くなっており、このことから、ウエーブプーリを用いることで、注水時の伝動能力の低下を極めて効果的に抑制できることが分かった。
一方、図15(a),16(a)を図14(a)と対比すると、無水時にはウエーブプーリ1,2では平プーリに比べてスリップトルクがやや低くなっていることが分かるが、その低下度合いは小さく、ウエーブプーリ1,2を用いても、無水時の伝動能力を十分に確保できると言える。
上記図14及び図16の試験結果を整理して、駆動プーリP1の種類毎に注水時のスリップトルクの無水時に対する割合(トルク保持率)を示したのが図17である。同図(a)に示す平プーリに比べて、同図(b)に示すウエーブプーリ2では、対策仕様1〜3の平ベルトは勿論、基本仕様の平ベルトであっても注水時のトルク保持率が平プーリに比べて大きくなっており、上記したように注水時の伝動能力の低下が極めて効果的に抑えられていることは明らかである。
尚、図14〜16からは、ベルトBの張力が大きいほど、スリップトルクも大きくなることが分かるが、図17からは、トルク保持率は張力に依存しないことが伺える。同図において最初のトルク保持率が特に大きく、これと同じ張力であっても最後のトルク保持率が低いのは、高張力下でのスリップ試験によってベルトBの伝動面に損傷を生じたためと考えられる。
したがって、以上の試験結果から、本発明に係るウエーブプーリ(ベルト車)を用いれば、無水時の伝動能力を確保しながら、注水時の伝動能力の低下を効果的に抑制できることが分かった。特にベルト側にも注水対策を施せば、注水時のトルク保持率が大幅に高くなって、スリップトルクがリブドベルトをも上回るものがあり、ウエーブプーリの効果が非常に高いことが分かる。
以上、説明したように、本発明に係るベルト車及びベルト駆動装置は、注水による摩擦力の低下を疑似噛み合いにより補完して、その伝動能力の低下を極めて効果的に抑制できるから、水などの掛かりやすい状況下でも伝動効率の高い平ベルトを十分に活用できるようになり、例えば自動車、農機、各種産業機械等に適用して、高い省エネ効果が得られる極めて利用可能性の高いものである。
本発明に係るベルト駆動装置をエンジンの補機駆動システムに適用した実施形態を示す概略構成図である。 自動調心プーリの一例を示す枢軸の方向に見た一部断面図である。 同プーリを枢軸と直交する方向に見た一部断面図である。 同プーリの使用状態を一部断面で示す側面図である。 同使用状態において軸荷重により軸部材に回転モーメントが発生することを説明するための斜視図である。 同使用状態においてベルトが片寄ったときのプーリ本体の回動変位状態を、軸荷重Lに直交する方向(図4の矢印VIの方向)に見て模式的に示す説明図である。 同使用状態においてベルトが片寄ったときのプーリ本体の回動変位状態を、軸荷重Lの方向(図4の矢印VIIの方向)に見て模式的に示す説明図である。 本発明に係るウエーブプーリ(ベルト車)の波状面の形状を示す模式図であり、同図(b)には疑似噛み合いの様子を示す。 見かけの摩擦係数を測定する試験装置の概略構成図である。 同試験に供するウエーブプーリのイメージ図である。 同プーリの各区間における、波状面の形状と見かけの摩擦係数との関係を示す試験結果の図である。 スリップトルクを計測する試験装置の概略構成図である。 回転負荷(トルク)とスリップ率との関係を示す図である。 平プーリを用い、ベルトの張力を変えながら、ベルトの種類毎にスリップトルクを計測したスリップ試験結果のグラフ図である。 ウエーブプーリ1を用いた場合の図14相当図である。 ウエーブプーリ2を用いた場合の図14相当図である。 注水時のトルク保持率を示したグラフ図である。
符号の説明
A 補機駆動システム(ベルト駆動装置)
1 クランクプーリ(ベルト車)
2 PSポンププーリ(ベルト車)
3 オルタネータプーリ(ベルト車)
30 プーリ本体
30a 凹部(波状面)
30b 凸部(波状面)
ω 凹凸の周期(隣り合う凹部及び凸部の周方向の長さ)
α 凹凸の振れ幅(凹部の底から凸部の突端までの径方向の長さ)
4 コンプレッサプーリ(ベルト車)
6 アイドラプーリ(自動調心プーリ)
60 プーリ本体
C1 プーリ回転中心軸
C2 枢軸
L 軸荷重

Claims (8)

  1. ベルトにおける平らな接触面が巻き付けられる摩擦面に、周方向に交互に凹部及び凸部が現れる波状面を形成し、この波状面の曲率を少なくとも上記凸部において周方向に連続的に変化させることによって、上記ベルトの接触面側が、上記凸部では凹状に、上記凹部では凸状になるように圧縮弾性変形して、上記ベルトが擬似的に噛み合うような状態になることを特徴とするベルト車。
  2. 請求項1に記載のベルト車において、
    上記波状面の全てを曲面により形成し、その曲率を少なくとも上記凸部において周方向に連続的に変化させたことを特徴とするベルト車。
  3. 請求項1又は2に記載のベルト車において、
    上記波状面において隣り合う凹部及び凸部の周方向の長さを、周方向に変化させたことを特徴とするベルト車。
  4. 請求項1〜の何れか1つに記載のベルト車において、
    金属製素材をプレス加工してなり、そのプレス型により上記波状面を摩擦面に一体成形したことを特徴とするベルト車。
  5. 請求項1〜の何れか1つに記載のベルト車において、
    樹脂又は金属のいずれかを型により成形してなり、その成形型により上記波状面を摩擦面に一体成形したことを特徴とするベルト車。
  6. 請求項1〜の何れか1つに記載のベルト車において、
    金属製素型材を切削加工してなり、ホブにより上記摩擦面を削って波状面を形成したことを特徴とするベルト車。
  7. 請求項1〜の何れか1つに記載のベルト車を少なくとも駆動軸に取り付けたことを特徴とするベルト駆動装置。
  8. 請求項に記載のベルト駆動装置において、
    上記ベルトの巻き掛けられるアイドラプーリが設けられ、
    上記アイドラプーリが、そのプーリ本体を回転自在に支持するとともに、その回転中心軸に沿って見て、軸荷重の方向に対し当該プーリ本体の回転方向前側に傾倒した枢軸の周りに揺動自在に支持してなる自動調心プーリであることを特徴とするベルト駆動装置。
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