JP4786844B2 - パラ−ヒドロキシ桂皮酸の生物学的製造 - Google Patents
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Description
本出願は、米国仮特許出願第60/147719号(1999年8月6日出願)の特典を請求するものである。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、分子生物学および微生物学に関するものである。さらに具体的には、本発明では促進されたチロシンアンモニア−リアーゼ活性を有する新規の遺伝子工学的生体触媒について記載する。
【0003】
(発明の背景)
フェニルアラニンアンモニア−リアーゼ(PAL)(EC4.3.1.5)は植物(Koukol他、J.Biol.Chem.236:2692〜2698(1961))、菌類(Bandoni他、Phytochemistry 7:205〜207(1968))、酵母(Ogata他、Agric.Biol.Chem.31:200〜206(1967))、および放線菌(Emes他、Can.J.Microbiology 48:613〜622(1970))に広く分布しているが、Escherichia coliあるいはほ乳類細胞では発見されていない(Hanson and Havir In The Enzymes、3版;Boyer、P.、Ed.;Academic:New York、1967;pp75〜167)。PALはフェニルプロパノイド代謝の第1酵素で、L−フェニルアラニンから(pro−3S)−水素および−NH3 +を除去してトランス−桂皮酸の形成を触媒する。P450酵素系の存在下では、トランス−経皮酸をパラ−ヒドロキシ経皮酸(PHCA)に変換することができ、これはリグニンおよびイソフラボノイドなど種々の第2代謝物の産生のための植物における一般的な中間体として働く。しかし微生物では、第2代謝物形成のための前駆体として経皮酸は役立つが、PHCAは役立たない。これまでに経皮酸ヒドロキシラーゼ酵素は微生物材料からは特性が発見されていない。植物ではPAL酵素はリグニン、イソフラボノイドおよびその他のフェニルプロパノイドの生合成における調節酵素であると考えられている(Hahlbrock他、Annu.Rev.Plant Phys.Plant Mol.Biol.40:347〜369(1989))。しかし、紅色酵母、Rhodotorula glutinis(Rhodosporidium toruloides)では、このリアーゼは代謝機能としてフェニルアラニンを分解し、この酵素の作用によって形成された桂皮酸は安息香酸塩およびその他の細胞物質に変換される。
【0004】
Rhodosporidium toruloidesを含めた様々な材料から得られたPALの遺伝子配列は、配列決定され発表されている(Edwards他、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA 82:6731〜6735(1985);Cramer他、Plant Mol.Biol.12:367〜383(1989);Lois他、EMBO J.8:1641〜1648(1989);Minami他、Eur.J.Biochem.185:19〜25(1989);Anason他、Gene 58:189〜199(1987);Rasmussen&Oerum、DNA Sequence、1:207〜211(1991)。様々な材料から得られたPAL遺伝子は、酵母、大腸菌および昆虫細胞培養物において活性PAL酵素として過剰発現された(Faulkner他、Gene 143:13〜20(1994);Langer他、Biochemistry 36:10867〜10871(1997);McKegney他、Phytochemistry 41:1259〜1263(1996))。PALは生まれつきの代謝異常フェニルケトン尿症の正常化(Bourget他、FEBS lett.180:5〜8(1985);米国特許第5753487号)、腫瘍代謝の変化(Fritz他J.Biol.Chem.251:4646〜4650(1976))、血清フェニルアラニンの定量分析(Koyama他、Clin.Chim.Acta、136:131〜136(1984))において、および桂皮酸からのL−フェニルアラニンの合成経路として(Yamada他、Appl.Environ.Microbiol.42:773(1981)、Hamilton他、Trends in Biotechnol.3:64〜68(1985)およびEvans他、Microbial Biotechnology 25:399〜405(1987))有用な可能性があるので注目されてきた。
【0005】
植物では、PAL酵素はフェニルアラニンをトランス−桂皮酸に変換し、次に桂皮酸−4−ヒドロキシラーゼによってパラ位が水酸化されてPHCAが形成される(Pierrel他、Eur.J.Biochem.224:835(1994);Urban他、Eur.J.Biochem.222:843(1994);Cabello−Hurtado他、J.Biol.Chem.273:7260(1998);およびTeutsch他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:4102(1993))。しかし微生物系では、桂皮酸のさらなる代謝はPHCAへのパラ位水酸化を必要としないので、微生物におけるこの反応に関する情報は乏しい。
【0006】
入手した情報によって、いくつかの植物および微生物から得られたPALは、フェニルアラニンを桂皮酸に変換する能力に加えて、チロシンを基質として受容できることが示された。このような反応における酵素活性はチロシンアンモニアリアーゼ(TAL)と呼ばれる。TALによるチロシンの変換によって、桂皮酸の仲介なしにチロシンからPHCAの直接形成がもたらされる。しかし、天然のPAL/TAL酵素は全て、基質としてチロシンよりもフェニルアラニンを使用することを好む。TAL活性の程度は常にPAL活性よりも低いが、この差の大きさは広く変化する。たとえば、パセリの酵素は、KMがフェニルアラニンでは15〜25μM、チロシンでは2.0〜8.0mMで、代謝回転数はそれぞれ22/秒および0.3/秒である(Appert他、Eur.J.Biochem.225:491(1994))。対照的に、トウモロコシの酵素では、フェニルアラニンに対するKMはチロシンの15倍のみであるが、代謝回転数は約10倍高い(Havir他、Plant Physiol.48:130(1971))。この通例の例外は酵母、Rhodosporidiumで、PAL触媒活性に対するTAL触媒活性の比は約0.58である(Hanson and Havir In The Biochemistry of Plants;Academic:New York、1981;Vol.7、pp577〜625)。
【0007】
前述した生物学的系では、PHCAの生成に有用ないくつかの酵素が提供されるが、このモノマーの効果的な生成は実現されていない。したがって、達成するために問題なのは、安価な物質または発酵可能な炭素源を使用して生物学的原料からPHCAを効果的に生成する方法の考案および実施である。出願人等は、微生物および植物宿主の両者を操作して、PALおよびp450/p−450レダクターゼ系をコードする外来遺伝子を過剰発現させるか、変異型および野生型TAL活性をコードする遺伝子を発現させることによって記載した問題を解決した。
【0008】
(発明の概要)
本発明の目的は、液晶ポリマー(LCP)製造用モノマーとして有望な化合物、PHCAの生物学的製造である。グルコースおよびその他の発酵可能な炭素基質からPHCAを製造するためには、2種類の有望な生物学的経路がある。
1)フェニルアラニンから桂皮酸、さらにPHCAへの変換。この経路には、酵素PAL並びにチトクロームP−450およびチトクロームp−450レダクターゼが必要である(スキーム1)。
2)桂皮酸が介在しないチロシンからPHCAへの一段階変換(スキーム1)。この経路には、PALと非常に類似した傾向があるが、チロシンに対する基質特異性がより高い酵素TALが必要である。この経路には、チトクロームp−450およびチトクロームp−450レダクターゼは必要ない。したがって、TAL経路の操作には、TAL経路によって機能するためのTAL活性が増強された生体触媒の生成が必要である。
【0009】
【化1】
【0010】
本発明では、1)桂皮酸からPHCAへの変換、2)PAL経路を介したグルコースからフェニルアラニン、ひいてはPHCAへの変換、および3)促進されたチロシンアンモニア−リアーゼ(TAL)活性を有する新規の生体触媒の生成によるPHCAの生物学的製造方法を説明する。TALの創出には酵母PAL遺伝子の単離、PALをコードする配列の変異誘発および創出、および改善されたTAL活性を有する変異体の選択が必要である。本発明はさらに、種々の菌類および細菌において、前述の経路によるグルコースからのPHCAの生物学的製造を示す。
【0011】
したがって、本発明の目的は、PHCAの製造方法であって、(i)組換え宿主細胞を発酵可能な炭素基質と接触させることであって、前記組換え細胞はP−450/P−450レダクターゼ系を欠損し、適切な調節配列と制御可能に結合したチロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする遺伝子を含んでおり、(ii)前記組換え細胞を、PHCAを製造するために十分な時間生育させること、および(iii)任意選択で前記PHCAを回収することを含む方法を提供することである。本発明の内容の中で、発酵可能な炭素基質は、単糖類、オリゴ糖類、多糖類、二酸化炭素、メタノール、ホルムアルデヒド、蟻酸塩、および炭素を含むアミンから成る群から選択され、宿主細胞は細菌、酵母、糸状菌、藻類および植物細胞から成る群から選択されることが可能である。
【0012】
同様に、P−450/P−450レダクターゼ系を欠損し、適切な調節配列と制御可能に結合したチロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする遺伝子を含む組換え宿主細胞を提供する。
【0013】
さらに、PHCAの製造方法であって、(i)組換え酵母細胞を発酵可能な炭素基質と接触させることであって、前記組換え細胞は、a)植物P−450/P−450レダクターゼ系、およびb)適切な調節配列と制御可能に結合した酵母PAL活性をコードする遺伝子を含んでおり、(ii)前記組換え細胞を、PHCAを製造するために十分な時間生育させること、および(iii)任意選択で前記PHCAを回収することを含む製造方法を提供する。
【0014】
本発明の他の目的は、TAL活性をコードする遺伝子の同定方法であって、(i)TAL活性をコードすると推測される外来遺伝子を含む組換え微生物を、PHCAを代謝するために十分な時間PHCAと接触させること、および(ii)組換え微生物の生育を監視して、微生物の生育によってTAL活性をコードする遺伝子の存在が示されることを含む同定方法を提供することである。
【0015】
同様に、TAL活性をコードする遺伝子の同定方法が提供され、(i)単一の炭素源としてPHCAを使用することが可能な宿主細胞を、TAL活性をコードすると考えられる遺伝子で形質転換して、形質転換体を生成すること、(ii)形質転換体の生育速度を単一の炭素源としてPHCAを使用することが可能な形質転換してない宿主細胞と比較し、形質転換によって加速した生育速度はTAL活性をコードする遺伝子の存在を示すことを含む。
【0016】
(配列の説明および生物の寄託)
出願人は、特許手続き上の微生物寄託の国際的承認に関するブタペスト条約の条件に基づいて、米国菌培養収集所(ATCC)、Boulevard、Manassas、VA20110〜2209に以下の生物寄託を行った。
【0017】
【表1】
【0018】
本発明は、以下の詳細な説明および本明細書の一部を形成する添付の配列の説明によってさらに完全に理解することができる。
【0019】
出願人(等)は、37C.F.R.1.821〜1.825(「Requirements for Patent Applications Containing Nucleotide Sequences and/or Amino Acid Sequence DIsclosures−the Sequence Rules」に準拠し、世界知的所有権機構(WIPO)Standard ST.25(1998)、およびEPOおよびPCT(規則5.2および49.5(a−bis)、および行政指導208項および補遺C)の配列リスト必要条件に適合する14個の配列を提供する。
【0020】
配列番号1〜6はベクター構築用プライマーである。
【0021】
配列番号7は、野生型R.glutinis PAL酵素をコードするヌクレオチド配列である。
【0022】
配列番号8は、野生型R.glutinis PAL酵素をコードするヌクレオチド配列によってコードされる推定アミノ酸配列である。
【0023】
配列番号9は、促進されたTAL活性を有する変異R.glitinis PAL酵素をコードするヌクレオチド配列である。
【0024】
配列番号10は、促進されたTAL活性を有する変異R.glitinis PAL酵素をコードするヌクレオチド配列によってコードされる推定アミノ酸配列である。
【0025】
配列番号11は、H.tuberosus チトクロームp−450酵素をコードするヌクレオチド配列である。
【0026】
配列番号12は、H.tuberosus チトクロームp−450酵素をコードするヌクレオチド配列によってコードされる推定アミノ酸配列である。
【0027】
配列番号13は、H.tuberosus p−450レダクターゼ酵素をコードするヌクレオチド配列である。
【0028】
配列番号14は、H.tuberosus p−450レダクターゼ酵素をコードするヌクレオチド配列によってコードされる推定アミノ酸配列である。
【0029】
(発明の詳細な説明)
本発明は、PHCAを生成する生物学的方法を説明する。一実施形態では、様々な細菌および菌類はトランス桂皮酸をPHCAに変換する能力を有することが発見された。他の実施形態では、酵母PALを宿主E.coliに形質転換すると、グルコースがPHCAに変換されることが示された。他の実施形態では、酵母PALおよびキクイモの植物チトクロームP−450およびチトクロームP−450レダクターゼ遺伝子を酵母宿主に取り込ませると、この組換え酵母はグルコースをPHCAに変換する能力を獲得した。さらに他の実施形態では、増強されたチロシンアンモニア−リアーゼ(TAL)活性を有する新規生体触媒が開発され、この活性をコードする遺伝子はPHCA生成用に組換え宿主を形質転換するために使用された。TALの創出には、機能性PAL遺伝子の単離、弱い発現ベクターの構築、PALコーディング配列の変異誘発および創出、および改善されたTAL活性を有する変異体の選択が必要であった。創出したTAL酵素によって、微生物において1段階でチロシンからPHCAを生成することが可能である。
【0030】
以下の略語および定義を本明細書および特許請求の範囲の説明に使用する。
【0031】
「フェニルアンモニア−リアーゼ」はPALと略する。
【0032】
「チロシンアンモニア−リアーゼ」はTALと略する。
【0033】
「パラ−ヒドロキシ桂皮酸」はPHCAと略する。
【0034】
「桂皮酸4−ヒドロキシラーゼ」はC4Hと略する。
【0035】
本明細書では、「桂皮酸(cinnamic acid)」および「桂皮酸(cinnamate)」は交換して使用できる。
【0036】
「TAL活性」という用語は、チロシンのPHCAへの直接変換を触媒する蛋白質の能力を意味する。
【0037】
「PAL活性」という用語は、フェニルアラニンの桂皮酸への直接変換を触媒する蛋白質の能力を意味する。
【0038】
「P−450/P−450レダクターゼ系」という用語は、桂皮酸をPHCAに触媒的に変換する役割を果たす蛋白質系である。P−450/P−450レダクターゼ系は、桂皮酸4−ヒドロキシラーゼ機能を実施する当業界で公知のいくつかの酵素または酵素系の1つである。本明細書では、「桂皮酸4−ヒドロキシラーゼ」という用語は、桂皮酸のPHCAへの変換をもたらす全般的な酵素活性を意味し、一方「P−450/P−450レダクターゼ系」という用語は、桂皮酸4−ヒドロキシラーゼ活性を有する特異的な2成分蛋白質系のことである。
【0039】
「PAL/TAL活性」または「PAL/TAL酵素」という用語は、PALおよびTAL活性の両者を含む蛋白質を意味する。このような蛋白質は、酵素基質としてチロシンおよびフェニルアラニンの両方に少なくともある程度の特異性を有する。
【0040】
「変異PAL/TAL」という用語は、PAL活性よりも強いTAL活性を有する野生型PAL酵素から得られた蛋白質を意味する。このように、変異PAL/TAL蛋白質はフェニルアラニンよりもチロシンに対してより強い基質特異性を有する。
【0041】
「触媒効率」という用語は、酵素のkcat/KMとして定義される。「触媒効率」は、ある酵素のある基質に対する特異性を量的に示すために使用される。
【0042】
「kcat」という用語は、「回転数」と呼ばれることも多い。「kcat」という用語は、単位時間当たり活性部位当たり生成物に変換される基質分子の最大数として、または単位時間当たりで酵素回転数として定義される。Kcat=Vmax/[E]で、式中、[E]は酵素濃度である(「Ferst In Enzyme Structure and Mechanim」2版、W.H.Freeman:New York、1985;pp98〜120)。
【0043】
「芳香族アミノ酸生合成」という用語は、芳香族アミノ酸を製造するために必要とされる細胞内の生物学的過程および酵素的経路を意味する。
【0044】
「発酵可能な炭素基質」という用語は、本発明の宿主生物によって代謝されることが可能な炭素源であり、特に単糖類、オリゴ糖類、多糖類、および炭素1個の物質またはそれらの混合物から成る群から選択された炭素原料を意味する。
【0045】
「相補的」という用語は、互いにハイブリダイズすることができるヌクレオチド塩基間の関係を説明するために使用する。たとえばDNAに関しては、アデノシンはチミン、シトシンはグアニンと相補的である。したがって、本発明にはまた、添付した配列リストに報告された完全な配列並びに実質的に同様の核酸配列と相補的な単離済み核酸フラグメントが含まれる。
【0046】
「遺伝子」とは、コーディング配列の前(5′−非コード配列)および後(3′−非コード配列)にある調節配列を含めた特定の蛋白質を発現する核酸フラグメントのことである。「天然遺伝子」または「野生型遺伝子」とは、独自の調節配列を備えた天然に見いだされる遺伝子のことである。「キメラ遺伝子」とは、天然には一緒に見いだされない調節遺伝子およびコーディング配列を含む、天然遺伝子ではない遺伝子のことである。したがって、キメラ遺伝子には、異なる原料から得られた調節配列およびコーディング配列、または同一の原料から得られるが天然に見いだされる様式とは異なる配置の調節配列およびコーディング配列を含めることが可能である。「内在性遺伝子」とは、生物のゲノムに天然に位置する天然遺伝子のことである。「外来」遺伝子とは、通常宿主生物には見いだされないが、遺伝子導入によって宿主細胞に導入された遺伝子のことである。外来遺伝子には、天然にはない生物に挿入された天然遺伝子またはキメラ遺伝子を含めることが可能である。
【0047】
「コーディング配列」とは、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列のことである。
【0048】
「適切な調節配列」とは、コーディング配列の上流(5′−非コード配列)、内部、または下流(3′−非コード配列)に位置し、関連するコーディング配列の転写、RNAプロセシングまたは安定性、または翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列のことである。調節配列には、プロモータ、翻訳リーダー配列、イントロン、およびポリアデニル化認識配列を含めることが可能である。
【0049】
「プロモータ」とは、コーディング配列または機能性RNAの発現を制御できるDNA配列のことである。一般に、コーディング配列はプロモータ配列の3′に位置している。プロモータは、天然遺伝子からそのままの状態で得られるか、または天然に見いだされる異なるプロモータ由来の異なる要素から構成されるか、または合成DNA部分を含むことが可能である。異なるプロモータは異なる組織または細胞型において、または発生の異なる段階において、または異なる環境条件に応答して、遺伝子を発現させることが可能であることを当業者等は理解するであろう。ほとんどの細胞型で最も多く遺伝子を発現させるプロモータは、通常「構成的プロモータ」と呼ばれる。さらに、ほとんどの場合において調節配列の正確な境界は完全には定義されていないので、長さの異なるDNAフラグメントが同一のプロモータ活性を有する可能性があると考えられる。
【0050】
「制御可能に結合した」という用語は、1個の核酸フラグメントと核酸配列の関係が、一方の機能が他方によって影響を受けるようになっていることを意味する。たとえばプロモータは、コーディング配列の発現に影響を与えることができるとき(すなわち、コーディング配列はプロモータの転写制御下にあるとき)、コーディング配列に制御可能に結合している。コーディング配列は、センス方向またはアンチセンス方向で制御配列に制御可能に結合することができる。
【0051】
「発現」という用語は、本明細書では本発明の核酸フラグメントから得られたセンスRNA(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定した蓄積を意味する。発現とはまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳のことである。「アンチセンス阻害」とは、標的蛋白質の発現を抑制することができるアンチセンスRNA転写物の産生のことである。「過剰発現」とは、通常の、または形質転換してない生物よりも産生濃度が過剰なトランスジェニック生物における遺伝子生成物の産生のことである。「相互抑制効果」とは、同一の、または実質的に同様の外来遺伝子または内在性遺伝子の発現を抑制できるセンスRNA転写物の産生のことである(米国特許第5,231,020号)。
【0052】
「RNA転写物」とは、RNAポリメラーゼの触媒によるDNA配列の転写によって得られた生成物のことである。RNA転写物がDNA配列と全く完全に相補的なコピーであるときは、第1転写物と称するか、または第1転写物の転写後のプロセシングによって得られたRNA配列であるときは、成熟RNAと称する。「メッセンジャーRNA(mRNA)」とは、イントロンが無く、細胞によって蛋白質に翻訳されることができるRNAのことである。「cDNA」とは、mRNAに相補的で、mRNAから得られた2重鎖DNAのことである。「センス」RNAとは、mRNAを含み、細胞によって蛋白質に翻訳することができるRNA転写物のことである。「アンチセンスRNA」とは、標的第1転写物またはmRNAの全てまたは一部と相補的で、標的遺伝子の発現を遮断するRNA転写物のことである(米国特許第5,107,065号)。アンチセンスRNAは、特定の遺伝子転写物のいずれかの部分、すなわち、5′非コーディング配列、3′非コーディング配列、イントロン、またはコーディング配列に相補的であることが可能である。「機能性RNA」とは、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、または翻訳されなくても細胞プロセスに影響を及ぼす他のRNAのことである。
【0053】
「形質転換」とは、核酸断片を宿主生物のゲノムに導入して、遺伝的に安定して受け継がれるようになることである。形質転換した核酸フラグメントを含む宿主生物は、「トランスジェニック」または「組換え」または「形質転換」生物と呼ばれる。
【0054】
「プラスミド」、「ベクター」および「カセット」という用語は、しばしば細胞の主要な代謝部分ではない遺伝子を運ぶ余分な染色体要素のことで、通常環状2本鎖DNA分子の形態をしている。このような要素は、任意の原料から得られた自動複製配列、ゲノム統合配列、ファージまたはヌクレオチド配列、線状または環状の1本鎖または2本鎖DNAまたはRNAであることが可能で、いくつかのヌクレオチド配列は、選択された遺伝子のプロモータ断片およびDNA配列を適切な3′非翻訳配列と一緒に細胞内に導入することができる独自の構造と結合または再結合している。「形質転換カセット」とは、外来遺伝子を含み、外来遺伝子に加えて特定の宿主細胞の形質転換を促進する因子を有する特異的ベクターのことである。「発現カセット」とは、外来遺伝子を含み、外来遺伝子に加えて外来宿主でその遺伝子の発現を促進させる因子を有する特異的ベクターのことである。
【0055】
「ラインウィーバー−バークプロット」とは、反応速度パラメータ、KMおよびVMAXを評価するための酵素反応速度データのプロットのことである。
【0056】
本明細書で使用した標準的組換えDNAおよび分子クローニング技術は当業界ではよく知られており、Sambrook、J.、Fritsch、E.F.and Maniatis、T.「Molecular Cloning:A Laboratory Mannual」2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、New York、1989(以後「Maniatis」とする)、およびSilhavy、T.J.、Bennan、M.L.and Enquist、L.W.「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、New York、1984、およびGreen Publishing and Wiley−Interscienceによって出版されたAusubel、F.M.et al.、「In Current Protocols in Molecular Biology」、1987に記載されている。
【0057】
本発明は、PHCAの生物学的製造方法について説明する。この方法では、桂皮酸4−ヒドロキシラーゼ活性(C4H)、フェニルアラニンアンモニウム−リアーゼ(PAL)活性またはチロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を使用する。桂皮酸ヒドロキシラーゼ活性は、桂皮酸をPHCAに変換する。本発明の内容では、P−450/P−450レダクターゼ系は、このC4H機能を果たす。PAL活性は、P−450/P−450レダクターゼ系の存在下でフェニルアラニンをPHCAに変換する。これらの活性は、以下のスキームに従って連携している。
TAL活性は、以下のスキームに従って、中間段階を介さずにチロシンを直接PHCAに変換する。
【0058】
一実施形態では、この方法は同一蛋白質内にPALおよびTALの両機能を含む活性を発現する組換え微生物宿主細胞を使用する。この実施形態では、宿主細胞はP−450/P−450レダクターゼ系を欠損しており、TAL経路を介してPHCAを産生する。
【0059】
他の実施形態では、この方法はP−450/P−450レダクターゼ系をコードする遺伝子の存在下でPAL活性をコードする遺伝子を含む組換え宿主を使用する。
【0060】
他の実施形態で、本発明はC4H活性で選択した生物によって桂皮酸からPHCAを生成する方法を説明する。
【0061】
本発明は、液晶ポリマー(LCP)製造用モノマーとして使用可能なPHCAの生物学的製造に有用である。LCP類は、電気的連結装置および遠距離通信および航空宇宙科学の用途で使用することができる。滅菌照射に耐性のあるLCPによって、医療装置、並びに薬品、および食品包装用途でこれらを使用することが可能になる。
【0062】
遺伝子
本発明で使用した鍵となる酵素活性は、当業界で公知のいくつかの遺伝子によってコードされる。主要な酵素には、桂皮酸4−ヒドロキシラーゼ(C4H)活性(P−450/P−450レダクターゼ)、フェニルアラニンアンモニウムリアーゼ(PAL)およびチロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)が含まれる。
【0063】
フェニルアラニンアンモニウムリアーゼ(PAL)、チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性およびP−450/P−450レダクターゼ系
PALをコードする遺伝子は当業界で公知で、いくつかは植物および微生物原料の両方から配列決定されている(たとえば、EP321488[R.toruloides]、WO9811205[Eucalyptus grandis and Pinus radiata]、WO9732023[Petunia]、JP05153978[Pisum sativum]、WO9307279[ジャガイモ、コメ]を参照のこと)。PAL遺伝子の配列は市販されている(たとえば、GenBank AJ010143およびX76967を参照のこと)。組換え宿主で野生型PALを発現することが望ましい場合、野生型は限定しないが、Rhodotrorula種、Rhodosporidium種およびSporobolomyces種などの酵母、Streptomycesなどの細菌微生物、およびエンドウマメ、ジャガイモ、コメ、ユーカリ、マツ、トウモロコシ、ツクバネアサガオ、シロイヌナズナ、タバコおよびパセリなどの植物を含めた原料から得ることが可能である。
【0064】
独占的にTLA活性を有する酵素、すなわちPHCA生成のために基質としてチロシンだけを使用する酵素をコードする遺伝子は知られていない。前述のPAL酵素のいくつかは、チロシンに対していくらかの基質親和性を有する。したがって、TAL活性をコードする遺伝子は、前述のPAL遺伝子と同一で、同時に単離することが可能である。たとえば、パセリ(Appert他、Eur.J.Biochem.225:491(1994))およびトウモロコシ(Havir他、Plant Physiol.48:130(1971))から単離されたPAL酵素はいずれも基質としてチロシンを使用する能力を示す。同様に、Rhodosporidiumから単離されたPAL酵素はまた(Hodgins DS、J.Biol.Chem.246:2977(1971))、基質としてチロシンを使用できる。このような酵素は、本明細書ではPAL/TAL酵素または活性と称する。PAL/TAL活性をコードする野生型遺伝子を発現する組換え生物を作り出すことが望ましい場合、トウモロコシ、コムギ、パセリ、Rhizoctonia salani、Rhodosporidium、Sporobolomyces pararoseusおよびRhodosporidiumから単離された遺伝子は、Hanson and Havir「The Biochemistry of Plants」、Academic、New York、1981、Vol.7、pp577〜625で論じられた通りに使用することが可能であるが、Rhodosporidiumの遺伝子が好ましい。
【0065】
本発明では、桂皮酸をPHCAに変換するために有用なC4H活性を有するP−450/P−450レダクターゼ系を提供する。この系は当業界では公知で、様々な植物組織から単離されている。たとえば、レダクターゼは、キクイモ(Helianthus tubersus)、[embl遺伝子座HTU2NFR、登録番号Z26250.1]、パセリ(Petroselinum crispum)[Koopmann他、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94(26)、14954〜14959(1997)、[遺伝子座AF024634、登録番号AF034634.1]、ハナビシソウ(Eschscholzia californica)、Rosco他、Arch.Biochem.Biophys.348(2)、369〜377(1997)、[遺伝子座ECU67186、登録番号U67186.1]、Arabidopsis thaliana、[pir:遺伝子座S21531]、オオカラスノエンドウ(Vicia sativa)、[pir:遺伝子座S37159]、ヤエナリ(Vigna radiata)、Shet他、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90(7)、2890〜2894(1993)、[pir:遺伝子座A47298]、およびケシ(Papaver somniferum)、[遺伝子座PSU67185、登録番号U67185.1]から単離されている。
【0066】
チトクロームは、キクイモ(Helianthus tuberosus)、[embl遺伝子座HTTC4MMR、登録番号Z17369.1]、Zinnia elegans、[swissprot:遺伝子座TCMO_ZINEL、登録番号Q43240]Catharanthus roseus[swissprot:遺伝子座TCMO_CATRO、登録番号P48522]、Populus tremuloides[swissprot:遺伝子座TCMO_POPTM、登録番号O24312]、Populus kitakamiensis[swissprot:遺伝子座TCMO_POPKI、登録番号Q43054]、Glycyrrhiza echinata[swissprot:遺伝子座TCMO_GLYEC、登録番号Q96423]、Glycine max[swissprot:遺伝子座TCMO_SOYBN、登録番号Q42797]並びにその他の原料から単離された。
【0067】
本発明では、配列番号11および配列番号13で記載したようなキクイモ(Helianthus tuberosus)から単離されたP−450/P−450レダクターゼ系をコードする遺伝子が好ましい。当業者等は、本発明の目的には植物から単離されたチトクロームP−450/P−450レダクターゼ系が適していることを理解するであろう。チトクローム遺伝子(配列番号11)の配列は、この系で公知のP−450チトクロームと約92%(Zinnia elegans、Q43240)から約63%(Phaseolus vulgaris、embl遺伝子座PV09449、登録番号Y09449.1)の範囲で同一性を示すので、配列番号11と少なくとも63%の同一性を示す植物から単離されたP−450チトクロームが本発明に適しているものと考えられる。同様に、この系のP450レダクターゼ(配列番号13)は、公知のレダクターゼP−450と約79%(パセリ、AF024632.1)から約68%(ケシ、U67185.1)の範囲で同一性を示すので、配列番号13と少なくとも68%の同一性を示す植物から単離されたP−450レダクターゼが本発明に適しているものと考えられる。
【0068】
配列に応じた手順でこれらまたは相同な野生型遺伝子を得る方法は、当業界で公知である。配列に応じた手順には、限定はしないが、核酸ハイブリダイゼーション法、および核酸増幅技術(たとえば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR))の様々な使用によって例示されるDNAおよびRNA増幅法が含まれる。
【0069】
たとえば、前述の活性(PAL、TALまたはチトクロームP−450/P−450レダクターゼ系)の相同物またはいずれかをコードする遺伝子は、DNAハイブリダイゼーションプローブとして公知の配列全てまたは一部を使用することによって直接単離して、当業界で周知の方法を使用して所望する植物、菌類、酵母、または細菌からライブラリをスクリーニングすることができる。文献による核酸配列をベースとした特定のオリゴヌクレオチドプローブを当業界で公知の方法によって設計して合成することができる(Maniatis、前述)。さらに、完全な配列を直接使用して、ランダムプライマーDNA標識法、ニックトランスレーション法、または末端標識法など当業者に公知の方法によってDNAプローブを合成したり、またはin vitro転写系に有用なRNAプローブを合成したりすることができる。さらに、特異的プライマーを設計し使用して、この配列の一部または完全長を増幅することができる。得られた増幅精製物を直接増幅反応中または増幅反応後に標識して、プローブとして使用して適度に厳密な条件下で完全長cDNAまたはゲノム断片を単離することができる。
【0070】
さらに、文献の配列の短い2配列をポリメラーゼ連鎖反応方法で使用して、DNAまたはRNAから相同な遺伝子をコードするより長い核酸断片を増幅することが可能である。ポリメラーゼ連鎖反応はまた、クローンした核酸断片のライブラリに実施することが可能で、1個目のプライマー配列は文献の配列から得られ、もう1個のプライマー配列は細菌遺伝子をコードするmRNA前駆体の3′末端のポリアデニル酸領域の存在を利用する。あるいは、第2のプライマー配列は、クローニングベクターから得られた配列をベースとすることが可能である。たとえば、当業者はRACEプロトコール(Forhman他、PNAS USA 85:8998(1998))に従って、転写物上の1点と3′または5′末端との間の領域のコピーを増幅するPCRを使用することによってcDNAを作製することができる。3′および5′方向に向いたプライマーは、文献の配列から設計することができる。市販の3′RACEまたは5′RACE系(BRL)を使用して、特異的な3′または5′cDNA断片を単離することができる(Ohara他、PNAS USA 86:5673(1989)、Loh他、Science 243:217(1989))。
【0071】
変異PAL/TAL活性
本発明の目的は、フェニルアラニンよりもチロシンにより基質特異性を示す変異PAL/TAL活性を提供することである。一般な取り組みには、フェニルアラニンよりもチロシンにより基質特異性を示すPAL/TAL活性を有する生物の選択が含まれる。一般的に、基質特異性はkcat/KM(触媒効率)によって量的に表し、酵素で確認された活性部位の数に基づいて計算する。
【0072】
フェニルアラニンアンモニア−リアーゼは、分子量約330000で、約80KDの同一サブユニット4個から構成される(Havir他、Biochemistry 14:1620〜1626(1975))。PALは触媒上必須のデヒドロアラニン残基を含むことが示唆された(Hanson他、Arch.Biochem.Biophys.141:1〜17(1970))。パセリのPALのSer−202は、デヒドロアラニンの前駆体であることが示された(Langer他、Biochemistry、36:10867〜10871(1997))。PALのkcatは、相同な酵素、ヒスチジンアンモニア−リアーゼ(HAL)の結晶構造に関する最近の研究から得られた情報に基づいて計算された。これらの研究によって、酵素の活性部位の反応性求電子性残基は4−メチリデン−イジダゾール−5−オンであり、これはAla−Ser−Gly配列を含む142〜144残基の環化および脱水によって自動触媒的に形成されることが明らかになった(Schwede他、Biochemistry 38:5355〜5361(1999))。今までに研究された4量体のPAL酵素はまた、全てそれぞれの活性部位にAla−Ser−Gly配列を含むので、PALの各活性部位はまた、この配列から形成された4−メチリデン−イジダゾール−5−オンを含む。
【0073】
本発明の内容では、変異誘発用に選択された適切な野生型酵素は、チロシンに対する触媒効率が約4.14×103から1×109M-1sec-1であり、約1×104M-1sec-1から約5×104M-1sec-1の範囲が好ましい。
【0074】
適切なPAL/TAL酵素の選択方法には、弱発現ベクターの構築、変異誘発およびPALコーディング配列の創出、および最終的には改善されたTAL活性を有する変異体の選択が含まれる。
【0075】
PALの変異誘発
様々な取り組みを使用してPAL/TAL酵素を変異誘発することが可能である。本明細書で使用した適切な2通りの取り組みには、誤りがちなPCR(error−prone PCR)(Leung 19:6052〜6052(1991)およびSpee他、Nucleic Acid Res.21:777〜778(1993))およびin vivo変異誘発が含まれる。
【0076】
誤りがちなPCRの主な利点は、この方法によって導入される変化は全てPAL遺伝子内部で、変化はPCR条件の変化によって容易に制御することが可能であることである。他方のin vivo変異誘発は、E.coli XL1−Red株、およびStratagene(Stratagene、La Jolla、CA、Greener and Callahan、Strategies 7:32〜34(1994))のEpicurian coli XL1−Red変異誘発遺伝子株など市販されている材料を使用して実施することが可能である。この株は1次DNA修復経路の3種(mutS、mutDおよびmutT)を欠損しており、変異率が野生型よりも5000倍高い。In vivo変異誘発は、(誤りがちなPCRのように)連結効率に左右されないが、変異はベクターの任意領域に生じる可能性があり、変異率は一般的にかなり低い。
【0077】
あるいは、増強されたTAL活性を有する変異PAL/TAL酵素を「遺伝子シャフリング」法(米国特許第5,605,793号、米国特許第5,811,238号、米国特許第5,830,721号、および米国特許第5,837,458号)を使用して構築することが計画される。遺伝子シャフリングは、実施の容易さ、および高い変異誘発率のために特に魅力がある。遺伝子シャフリングの方法には、関心のある遺伝子と同一または異なるDNA領域の集団をさらに存在させて、関心のある遺伝子を特定の大きさの断片に制限することが含まれる。次いで、この断片のプールを変性させ、次に再度アニーリングして変異遺伝子を作製する。次に、変異遺伝子を改変された活性によってスクリーニングする。
【0078】
この方法によってTAL活性を改変または増強するために、野生型PAL/TAL配列を変異させスクリーニングする。この配列は2本鎖で、50bpから10kbまでの範囲の様々な長さであることが可能である。この配列は、当業界で周知の制限エンドヌクレアーゼを使用して約10bpから1000bpまでの範囲の断片に無作為に切断することが可能である(Maniatis 前述)。さらに、完全長配列には配列の全てまたは一部にハイブリダイズすることができる断片の集合体を付け加えることができる。同様に、野生型配列にハイブリダイズできない断片の集合体もまた付け加えてよい。一般に、これらの断片集合体を添加するには、核酸全体と比較して約10倍から20倍過剰な重量で添加する。一般に、この方法によって混合物中に約100から1000個の特異性の異なる核酸断片を生成することが可能である。無作為な核酸断片の混合集合体を変性して1本鎖核酸断片を形成し、次いで再度アニーリングする。他の1本鎖核酸断片と相同な領域を有する1本鎖核酸断片だけがアニーリングする。無作為核酸断片は、加熱によって変性することが可能である。当業者であれば、2本鎖核酸を完全に変性するために必要な条件を決定することができよう。温度は、80℃から100℃が好ましい。核酸断片は冷却することによって再度アニーリングすることが可能である。その温度は20℃から75℃が好ましい。復元は、ポリエチレングリコール(「PEG」)または塩を添加することによって加速することができる。塩濃度は、0mMから200mMが好ましい。アニールした核酸断片は、次に核酸ポリメラーゼおよびdNTP(すなわち、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)の存在下でインキュベートする。この核酸ポリメラーゼはクレノウフラグメント、Taqポリメラーゼまたは当業界で公知のその他のDNAポリメラーゼであることが可能である。このポリメラーゼは、アニーリング前、アニーリングと同時に、またはアニーリング後に無作為核酸断片に添加することが可能である。変性、復元およびポリメラーゼ存在下でのインキュベーションのサイクルは所望する回数で繰り返す。このサイクルは、2回から50回が好ましく、一連の操作は10から40回繰り返すことがより好ましい。得られた核酸は、約50bpから約100kbの大きな2本鎖ポリヌクレオチドで、標準的クローニング法および発現方法によって発現および改変したTAL活性をスクリーニングすることが可能である(Maniatis 前述)。
【0079】
変異誘発法に関わりなく、触媒効率が約4.14×103M-1sec-1から約1×109M-1sec-1で、一般的な触媒効率は12.6×103M-1sec-1である遺伝子を創出できるものと考えられる。
【0080】
改善されたTAL活性を有する変種の選択
増強されたTAL活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を有する変異体を選択するために、チロシンからPHCAへの反応の可逆性に基づいた選択システムを開発した。チロシンをPHCAに変換する役割を果たすTAL活性は、逆反応と平衡状態にあることが理解されよう。変異遺伝子は、標準的方法によって、チロシン無しでは生育できないE.coliチロシン栄養素要求変異株にクローニングされた。形質転換体を適切な濃度のPHCA存在下でチロシン欠損培地で培養した。これらの条件で生育したコロニーを採取して、変異遺伝子の存在を分析した。この方法で触媒効率が約12.6×103M-1sec-1で、PAL触媒活性に対するTAL触媒活性の比が野生型では0.5であるのに比べて1.7である遺伝子が単離された。
【0081】
当業者等は、増強されたTAL活性をコードする遺伝子の選択のために、さらにスクリーニングを考えることができよう。たとえば、Acinetobacter calcoaceticus DSM586(ATCC 33304)は効率的にp−クマリン酸(PHCA)を分解することができ、それを単一の炭素源として利用することがよく知られている(Delneri他、Biochim.Biophys.Acta 1244:363〜367(1995))。この分解のために提案された経路は、経路Iとして示される。
【0082】
経路I
p−ヒドロキシ桂皮酸 → p−ヒドロキシ安息香酸 → プロトカテキン酸 この提案した経路に含まれる酵素は全て、PHCAを細胞培養物に添加することによって誘導される。TAL遺伝子をA.calcoaceticus(ATCC 3304)、またはPHCAを単一の炭素源として使用できるその他の微生物に形質転換することによって、前記の経路は変更されて、経路IIに例示したようにPHCAのためにチロシンが基質となることが示される。
【0083】
経路II
L−チロシン → p−ヒドロキシ桂皮酸 → p−ヒドロキシ安息香酸→プロトカテキン酸
経路IIの要素を有する細胞は、PHCAで生育するとき、経路Iだけを有するものよりも活発に増殖することが理解されよう。したがって、TAL活性を有する遺伝子の確認用の篩い分けとしてこの系を使用することが可能である。細胞には炭素が中枢代謝に入るまでこの化合物をさらに分解する経路が含まれるので、この選択系は阻害濃度のPHCAの影響を回避できるという他の利点を有する。
【0084】
産生用生物
微生物宿主
本発明の産生用生物には、PHCA産生に必要な遺伝子を発現できる生物が含まれよう。一般に産生用生物は微生物および植物に限られる。
【0085】
本発明のPHCA産生に有用な微生物は、限定はしないが、たとえば腸内細菌(たとえば、EscherichiaおよびSalmonella)並びにBacillus、Acinetobacter、Streptomyces、Methylobacter、RhodococcusおよびPseudomonaなどの細菌、RhodobacterおよびSynechocystisなどの藍細菌、Saccharomyces、Zygosaccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Hansenula、Debaryomyces、Mucor、PichiaおよびTorulopsisなどの酵母、およびAspergillusおよびArthrobotrysなど糸状菌、および藻類を含むことが可能である。本発明のPAL、PAL/TALおよびP−450およびP−450レダクターゼ遺伝子は、これらおよびその他の微生物宿主で産生して、商用に有用な大量のPHCAを調製することが可能である。
【0086】
外来蛋白質の高濃度発現を目的とする調節配列を含む微生物発現系および発現ベクターは、当業者等にとって周知である。これらはいずれもPHCA産生用キメラ遺伝子を構築するために使用できる。次いで、これらのキメラ遺伝子は形質転換によって微生物に導入し、高濃度でこの酵素を発現させることができる。
【0087】
適切な微生物宿主細胞の形質転換に有用なベクターまたはカセットは、当業界では周知である。一般に、ベクターまたはカセットは、関連する遺伝子の転写および翻訳を指示する配列、選択マーカー、および自律複製または染色体への組み込みを可能にする配列を含む。適切なベクターには、転写開始制御部分を収容した遺伝子の5′領域および転写終結を制御するDNA断片の3′領域が含まれる。両方の制御領域を形質転換した宿主細胞と相同な遺伝子から得られると最も好ましいが、このような制御領域は産生用宿主として選択した特定の種に本来ある遺伝子から得る必要はないと考えるべきである。
【0088】
所望する宿主細胞の関連遺伝子の発現させる上で有用な開始制御領域またはプロモータは数多く、当業者によく知られている。実質的には、これらの遺伝子を作動できるプロモータは本発明に適しており、限定はしないが、CYC1、HIS3、GAL1、GAL10、ADH1、PGK、PHO5、GAPDH、ADC1、TRP1、URA3、LEU2、ENO、TPI(Saccharomycesでの発現に有用)、AOX1(Pichiaでの発現に有用)、およびlac、trp、lPL、lPR、T7、tac、およびtrc(Escherichia coliでの発現に有用)が含まれる。
【0089】
終結制御領域はまた、好ましい宿主に本来ある種々の遺伝子から得ることが可能である。任意選択では終結部位は不要であるが、含まれるならば最も好ましい。
【0090】
PHCAの商用製造を所望する場合、様々な発酵方法を適用することが可能である。たとえば、大量生産は、回分または連続発酵の両方によって実施することが可能である。
【0091】
古典的な回分発酵法とは、培地の組成物を発酵開始時に設定し、発酵中人為的に変化を与えない閉鎖系である。したがって、発酵開始時に培地に所望する微生物または微生物類を接種し、系に何も添加することなく発酵を起こさせる。しかし、一般的に「回分」発酵法の炭素源濃度は限定されており、pHおよび酸素濃度などの因子の制御がしばしば行われる。回分式では、系の代謝物およびバイオマス組成物は発酵を停止するときまで絶えず変化する。回分培養内では、細胞は静的な遅滞期からゆっくり増殖の盛んな対数期に移行し、最後には増殖速度が減速するか、または停止した定常期に達する。処理を行わなければ、定常期の細胞は最後には死滅してしまうだろう。一般的に、対数期の細胞が最終産物または中間体製造のバルクとして役立つ。
【0092】
標準的回分系を変更したものが半回分式である。半回分式発酵法はまた本発明に適しており、発酵が進行するにつれて基質をさらに添加すること以外は一般的な回分式を含む。半回分式は、代謝が抑えられると細胞の代謝が阻害される傾向があり、培地中の基質量を制限することが好ましい場合に有用である。半回分式における実際的な基質濃度の測定は困難で、したがってpH、溶存酸素およびCO2などの排気ガス分圧などの測定要素の変化に基づいて評価する。回分式および半回分式発酵法は当業界では一般的では周知であり、実例は、本明細書に参考として援用した、Brock、T.D.「Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology」、2版;Sinauer Associates:Sunderland、Massachusettes、1989;またはDeshpande、M.V.Appl.Biochem.Biotechnol.36:227、(1992)に見いだすことが可能である。
【0093】
PHCAの商用製造はまた、連続発酵法で実現することが可能である。連続発酵法は限定した発酵培地を連続的にバイオリアクターに添加すると同時に、等量の調整培地を処理のために除去する開放系である。連続発酵では一般に培地は一定した高密度に維持されており、細胞は主として対数増殖期にある。
【0094】
連続発酵法では、細胞増殖または最終産物濃度に影響を及ぼすいくつかの因子を調整することを考慮する。たとえば、1方法では炭素源または窒素源などの制限的栄養物質を固定した割合に制限し続け、その他の変数は全て適度にする。他の系では、増殖に影響を及ぼすいくつかの要素を連続的に変化させ、一方細胞濃度は培地濁度で測定して一定に維持する。連続式では定常状態を維持することに努力が払われ、したがって培地除去による細胞損失は発酵中の細胞増殖速度に対して釣り合っていなければならない。連続発酵法のための栄養素および成長因子を調節する方法並びに生成物形成速度を最大にする技術は、産業微生物学の業界では周知であり、様々な方法がBrock、前述、によって説明されている。
【0095】
P−450/P−450レダクターゼ系の存在下でPAL経路を介してPHCAを産生するためには、細胞の生育を維持する培地が適している。しかし、微生物の自然な炭素の流れの一部としてPHCAの生成を所望する場合、発酵培地は適切な炭素基質を含まなければならない。適切な基質には、限定はしないがグルコース、ラフィノースおよびフルクトースなどの単糖類、乳糖およびショ糖などのオリゴ糖類、澱粉またはセルロースまたはそれらの混合物などの多糖類およびチーズホエー透過物、コーンシロップリカー、テンサイ糖蜜、および大麦モルトなどの再生可能な供給原料から得られた未精製混合物が含まれることが可能である。さらに、炭素基質はまた、鍵となる生化学的中間体に代謝によって変換することが示された二酸化炭素、ホルムアルデヒド、蟻酸またはメタノールなどの1炭素基質であることが可能である。
【0096】
植物宿主
あるいは、本発明は関連するPAL、PAL/TALおよびP−450およびP−450レダクターゼ遺伝子を収容した植物細胞においてPHCAを産生することを提供する。好ましい植物宿主は、高濃度のPHCAまたはPHCA−グルコシド複合体産生を維持する種類である。適切な緑色植物には、限定はしないが、ダイズ、ナタネ(Brassica napus、B.campestris)、ヒマワリ(Helianthus annus)、キクイモ(Helianthus tuberosis)、ワタ(Gossypium hirsutum)、トウモロコシ、タバコ(Nicotiana tabacum)、アルファルファ(Medicago sativa)、コムギ(Triticum種)、オオムギ(Hordeum valgare)、オートムギ、(Avena sativa、L)、サトウモロコシ(Sorghum bicolor)、コメ(Oryza sativa)、Aravidopsis、アブラナ科植物(ブロッコリ、カリフラワー、キャベツ、アメリカボウフウなど)、メロン、ニンジン、セロリ、パセリ、トマト、ジャガイモ、イチゴ、ピーナツ、ブドウ、緑色種子作物、テンサイ、サトウキビ、インゲンマメ、エンドウマメ、ライムギ、アマ、広葉樹木、針葉樹木、および飼草が含まれる。本発明に必要な遺伝子の過剰発現は、まず所望する組織で所望する発達段階で遺伝子を発現させることができるプロモータに制御可能にコーディング領域が結合したキメラ遺伝子を構築することによって実現することが可能である。便利であるという理由から、キメラ遺伝子は同一の遺伝子から得られたプロモータ配列および翻訳リーダー配列を含むことが可能である。転写終結シグナルをコードする3′非コーディング配列もまた提供しなければならない。このキメラ遺伝子はまた、遺伝子発現を促進するために1個または複数のイントロンを含むことが可能である。
【0097】
コーディング領域の発現を誘導可能な任意プロモータと任意ターミネータの任意の組み合わせは、キメラ遺伝子配列で使用することが可能である。プロモータおよびターミネータの適切な組み合わせの例の中には、ノパリン合成酵素(nos)、オクトピン合成酵素(ocs)およびカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)遺伝子由来のものが含まれる。使用可能な効果的な植物プロモータの1種は、高等植物プロモータである。本発明の遺伝子配列に制御可能に結合したこのようなプロモータは、本発明の遺伝子産物の発現を促進することができるだろう。本発明で使用可能な高等植物プロモータには、たとえばダイズから得られたリブロース−1,5−ビスホスフェートカルボキシラーゼの小サブユニット(ss)のプロモータ(Berry−Lowe他、J.Molecular and App.Gen.1:483〜498(1982))、およびクロロフィルa/b結合蛋白質のプロモータが含まれる。これらの2種のプロモータは植物細胞において光で誘導されることが知られている(たとえば、Cashmore、A.「Genetic Engineering of Plants、an Agricultural Perspective」;Plenum:New York、1983:pp29〜38;Coruzzi他、J.Biol.Chem.258:1399(1983)、およびDunsmuir他、J.Mol.Appl.Genetics 2:285(1983)を参照のこと)。
【0098】
次に、このキメラ遺伝子を含むプラスミドベクターを構築することができる。プラスミドベクターの選択は、宿主植物を形質転換するために使用する方法に左右される。当業者等は、キメラ遺伝子を含む宿主細胞の形質転換、選択および増殖を成功させるためにプラスミドベクターに存在させなければならない遺伝子要素をよく知っている。当業者等はまた、異なる独立した形質転換現象は異なる濃度およびパターンの発現をもたらすこと(Jones他、EMBO J.4:2411〜2418(1985);De Almeida他、Mol.Gen.Genetics 218:78〜86(1989))、したがって所望する発現濃度およびパターンを示す細胞株を得るために多数の現象をスクリーニングしなければならないことを認識するであろう。このようなスクリーニングは、DNAブロットのサザン分析(Southern他、J.Mol.Biol.98:503(1975))、mRNA発現のノザン分析(Kroczek、J.Chromatogr.Biomed.Appl.、618:133〜145(1993))、蛋白質発現のウェスタン分析、発現遺伝子産物の酵素活性分析、または表現型分析によって実現することが可能である。
【0099】
いくつかの適用では、PHCAを産生する遺伝子の遺伝子産物を異なる細胞区分に誘導することは有用であろう。したがって、酵素をコードするコーディング配列に適切な細胞内標的配列、たとえば添加したトランジット配列(Keegstra、K.、Cell 56:247〜253(1989))、シグナル配列または小胞体局在をコードする配列(Chrispeels、J.J.、Ann.Rev.Plant.Phys.Plant Mol.Biol.42:21〜53(1991))、または核酸局在シグナル(Raikhel、N.、Plant Phys.100:1627〜1632(1992))を添加して、および/または既に存在する標的配列を除去して改変することによって、前述のキメラ遺伝子をさらに補足することが可能である。引用された文献はこれらそれぞれの例を挙げているが、そのリストは完全なものではなく、本発明に有用なより実用的な標的シグナルが将来発見される可能性がある。
【0100】
任意選択で、植物におけるPHCA産生は、PHCAの下流の酵素をコードする遺伝子のアンチセンス阻害したり、または共抑制したりすることによって促進されると考えられる。これらの酵素は、PHCAを有用性の少ない生成物に形質転換したり、PHCAの蓄積を妨害したりする可能性がある。これらの下流遺伝子をコードする遺伝子をアンチセンス構造で収容する構成物を含むトランスジェニック植物は、PHCA蓄積促進に役立つことが可能である。同様に、同遺伝子が過剰発現すると、遺伝子共抑制によってPHCA蓄積の促進に役立つ可能性がある。したがって、当業者等は、このすぐ下流の遺伝子の全てまたは一部のための、アンチセンスRNAを発現するように設計されたキメラ遺伝子(米国特許第5,107,065号)は、植物プロモータ配列に対して逆向きに遺伝子または遺伝子断片を結合することによって構築できることを理解するだろう。共抑制またはアンチセンスキメラ遺伝子のいずれかは、形質転換によって植物内に導入され、それによって対応する内在性遺伝子の発現を減少させるか、または排除することができる。
【0101】
製造方法
本発明は、PHCAのいくつかの生物学的製造方法を提供する。一実施形態では、桂皮酸を必須のC4H活性を含む生物と接触させることが可能である。これらの生物は野生型または組換え体であることが可能である。Streptomyces griseus(ATCC 13723、ATCC 13968,TU6)、Rhodococcus erythropolis(ATCC 4277)、Aspergillus petrakii(ATCC 12337)、Asperigillus niger(ATCC 10549)およびArthrobotrys robusta(ATCC 11856)を含めた桂皮酸をPHCAに変換する能力を有するようないくつかの生物は、本発明では含めなかった。
【0102】
他の実施形態では、酵母PALおよび植物チトクロームP−450およびチトクロームP−450遺伝子を、グルコースをPHCAに変換する能力を示す酵母宿主種および組換え酵母に取り込ませた。Saccharomyces cerevisiaeは、この製造方法のために選択されたが、当業者等は様々な酵母が適しており、前述の微生物製造用生物は含まれるが限定はされないことを理解するだろう。同様に、グルコースを炭素基質として使用したが、様々な他の発酵可能な炭素基質を使用することが可能である。
【0103】
好ましい実施形態では、P−450/P−450レダクターゼ系を欠損し、PAL/TAL酵素を収容しており、酵素が最小限のTAL活性レベルを有し、炭素が発酵可能な炭素源からチロシンを介してPHCAに向かって流れている組換え微生物または植物細胞からPHCAは製造することが可能である。
【0104】
本発明はさらに以下の実施例で明確に説明する。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、例示のためだけに記載するものである。前記の解説およびこれらの実施例から、当業者等は本発明の本質的な特性を把握することができ、それらの精神および範囲を逸脱することなく、様々な用途および条件に適応させるために本発明の様々な変化および変更を実施できる。
以下に、本発明の好ましい態様を示す。
[1] (i)組換え宿主細胞を発酵可能な炭素基質と接触させることであって、前記組換え細胞は桂皮酸ヒドロキシラーゼ活性を欠損し、適切な調節配列に制御可能に結合したチロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする遺伝子を含んでいること、
(ii)パラ−ヒドロキシ桂皮酸を産生するために十分な時間、前記組換え細胞を生育させること、および
(iii)任意選択で前記パラ−ヒドロキシ桂皮酸を回収することを含むことを特徴とするパラ−ヒドロキシ桂皮酸の生成方法。
[2] 前記発酵可能な炭素基質が単糖類、オリゴ糖類、多糖類、二酸化炭素、メタノール、ホルムアルデヒド、蟻酸および炭素を含むアミンから成る群から選択されることを特徴とする[1]に記載の方法。
[3] 前記発酵可能な炭素基質がグルコースであることを特徴とする[2]に記載の方法。
[4] 前記組換え宿主細胞が細菌、酵母、糸状菌、藻類および植物細胞から成る群から選択されることを特徴とする[1]に記載の方法。
[5] 前記組換え宿主細胞がAspergillus、Arthrobotrys、Saccharomyces、Zygosaccharomyces、Pichia、Kluyveromyces、Candida、Hansenula、Debaryomyces、Mucor、Torulopsis、Methylobacter、Echerichia、Salmonella、Bacillus、Acinetobacter、Rhodococcus、Rhodobacter、Synechocystis、Streptomyces、およびPseudomonasから成る群から選択されることを特徴とする[4]に記載の方法。
[6] 前記組換え宿主細胞がダイズ、ナタネ、ヒマワリ、ワタ、トウモロコシ、タバコ、アルファルファ、コムギ、オオムギ、オートムギ、サトウモロコシ、コメ、ブロッコリ、カリフラワー、キャベツ、アメリカボウフウ、メロン、ニンジン、セロリ、パセリ、トマト、ジャガイモ、イチゴ、ピーナツ、ブドウ、緑色種子作物、テンサイ、サトウキビ、インゲンマメ、エンドウマメ、ライムギ、アマ、広葉樹木、針葉樹木、および飼草から成る群から選択されることを特徴とする[1]に記載の方法。
[7] 前記チロシンアンモニアリアーゼが触媒効率約4.14×103M-1sec-1から約1×109M-1sec-1であることを特徴とする[1]に記載の方法。
[8] チロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする前記遺伝子が配列番号8または配列番号10で記載したポリペプチドをコードすることを特徴とする[1]に記載の方法。
[9] チロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする前記遺伝子がRhodosporidium種から得られることを特徴とする[1]に記載の方法。
[10] ATCC名称PTA407およびPTA409を有する細胞から成る群から選択された適切な調節配列に制御可能に結合したチロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする遺伝子を含むことを特徴とする組換え宿主細胞。
[11] 桂皮酸ヒドロキシラーゼ活性を欠損し、適切な調節配列に制御可能に結合したチロシンアンモニアリアーゼをコードする遺伝子を含む組換え宿主細胞であって、前記チロシンアンモニアリアーゼの触媒効率が4.14×103M-1sec-1から約1×109M-1sec-1であることを特徴とする宿主細胞。
[12] 配列番号10に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするチロシンアンモニアリアーゼ遺伝子。
[13] 配列番号10に記載のポリペプチド。
[14] (i)組換え酵母細胞を発酵可能な炭素基質と接触させることであって、前記組換え細胞が、
a)植物P−450/P−450レダクターゼ系をコードする遺伝子、および
b)適切な調節配列と制御可能に結合した酵母フェニルアンモニア−リアーゼ活性をコードする遺伝子を含むこと、
(ii)パラ−ヒドロキシ桂皮酸を産生するために十分な時間、前記組換え細胞を生育させること、および
(iii)任意選択で前記パラ−ヒドロキシ桂皮酸を回収することを含むことを特徴とするパラ−ヒドロキシ桂皮酸の生成方法。
[15] 前記発酵可能な炭素基質が単糖類、オリゴ糖類、多糖類、二酸化炭素、メタノール、ホルムアルデヒド、蟻酸および炭素を含むアミンから成る群から選択されることを特徴とする[14]に記載の方法。
[16] 前記発酵可能な炭素基質がグルコースであることを特徴とする[15]に記載の方法。
[17] 前記組換え酵母細胞がAspergillus、Arthrobotrys、Saccharomyces、Zygosaccharomyces、Pichia、Kluyveromyces、Candida、Hansenula、Debaryomyces、Mucor、TorulopsisおよびPenicilliumから成る群から選択されることを特徴とする[14]に記載の方法。
[18] 植物P−450/P−450レダクターゼ系をコードする前記遺伝子がキクイモ、ダイズ、ナタネ、ヒマワリ、ワタ、トウモロコシ、タバコ、アルファルファ、コムギ、オオムギ、オートムギ、サトウモロコシ、コメ、ブロッコリ、カリフラワー、キャベツ、アメリカボウフウ、メロン、ニンジン、セロリ、パセリ、トマト、ジャガイモ、イチゴ、ピーナツ、ブドウ、緑色種子作物、テンサイ、サトウキビ、インゲンマメ、エンドウマメ、ライムギ、アマ、広葉樹木、針葉樹木、および飼草から成る群から選択される植物から得られたことを特徴とする[14]に記載の方法。
[19] 植物P−450/P−450レダクターゼ系をコードする前記遺伝子が配列番号11および配列番号13に記載されていることを特徴とする[18]に記載の方法。
[20] 酵母PAL活性をコードする前記遺伝子がRhodotorula種、Rhodosporidium種およびSporobolomyces種から成る群から得られたことを特徴とする[14]に記載の方法。
[21] 酵母PAL活性をコードする前記遺伝子が配列番号8に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とする[20]に記載の方法。
[22] ATCC名称、PTA408を有することを特徴とする組換え宿主細胞。
[23] (i)Streptomyces griseus(ATCC13273、ATCC13968、TU6)、Rhodococcus erythropolis(ATCC4277)、Aspergillus petrakii(ATCC12337)、Aspergillus niger(ATCC10549)およびArthrobotrys robusta(ATCC11856)から成る群から選択された微生物細胞を桂皮酸と接触させること、
(ii)パラ−ヒドロキシ桂皮酸を産生するために十分な時間、前記微生物を生育させること、および
(iii)任意選択で前記パラ−ヒドロキシ酸を回収することを含むことを特徴とするパラ−ヒドロキシ桂皮酸を生成方法。
[24] チロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする遺伝子の同定方法であって、
(i)チロシンアンモニアリアーゼ活性をコードすることが推測される外来遺伝子を含むチロシン要求組換え微生物を、パラ−ヒドロキシ桂皮酸を代謝するために十分な時間パラ−ヒドロキシ桂皮酸と接触させること、および
(ii)前記組換え微生物の生育を監視することであって、前記生物が生育することによってチロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする遺伝子の存在が示されることを含むことを特徴とする遺伝子の同定方法。
[25] チロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする遺伝子の同定方法であって、
(i)単一の炭素源としてパラ−ヒドロキシ桂皮酸を使用する宿主細胞を、チロシンアンモニアリアーゼ活性をコードすることが推測される遺伝子で形質転換して形質転換体を生成すること、
(ii)形質転換体の生育速度を単一の炭素源としてパラ−ヒドロキシ桂皮酸を使用することができる非形質転換宿主細胞と比較して、形質転換体の生育速度が加速するとTAL活性をコードする遺伝子の存在が示されることを含むことを特徴とする遺伝子の同定方法。
[26] 酵母PAL活性をコードする前記遺伝子が配列番号10で記載したポリペプチドをコードすることを特徴とする[20]に記載の方法。
[27] ATCC名称、PTA409を有することを特徴とする組換え宿主細胞。
【0105】
実施例
一般的方法
PCR増幅、DNAクローニング用に所望する末端を作り出すためのエンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼによるDNA変更、連結および細菌の形質転換に必要な手順は、当業界では周知である。本明細書で使用した標準的な分子クローニング技法は、当業界では周知であり、Sambrook、J.、Fritcsch、E.F.and Maniatis、T.「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、2版;Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring、New York、1989(以後「Maniatis」とする)、およびSilhavy、T.J.、Bennan、M.L.and Enquist、L.W.「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring、New York、1984およびAusubel他、「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing and Wiley−Interscience;1987に記載されている。
【0106】
細菌培養物の維持および増殖に適した材料および方法は、当業界では周知である。以下の実施例で使用するために適した技法は、「Manual of Methods for General Bacteriology」:Phillipp Gerhardt、R.G.E.Murray、Ralph N.Costilow、Eugene W.Nester、Willis A.Wood、Noel R.Kreig and G.Briggs Phillips著、「American Society for Microbiology」:Washington、DC、1994またはBrock、T.D.「Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology」、2版、;Sinauer Associates:Suderland、MA、1989の記載に見いだすことが可能である。試薬、制限酵素および細菌細胞の生育および維持に使用する物質は全て、他に特定しなければ、Aldrich Chemicals(Milwaukee、WI)、DIFCO Laboratories(Detroit、MI)、GIBCO/BRL(Gaithersburg、MD)、またはSigma Chemical Company(St.Louis、MO)から入手した。
【0107】
PCR反応は、AmplitaqまたはAmplitaq Gold Enzymeを使用したGeneAMP PCR System 9700(PE Applied Biosystems、Foster City、CA)で実施した。反復条件および反応は、製造元の指示に従って標準通りとした。
【0108】
略号の意味は以下の通りである。「sec」は秒の意味であり、「min」は分の意味であり、「h」は時間の意味であり、「d」は日の意味であり、「μL」はミクロリットルの意味であり、「mL」はミリリットルの意味であり、「L」はリットルの意味であり、「mm」はミリメートルの意味であり、「nm」はナノメートルの意味であり、「mM」はミリモルの意味であり、「M」はモルの意味であり、「mmol」はミリモルの意味であり、「μモル」はミクロモルの意味であり、「g」はグラムの意味であり、「μg」はミクログラムの意味であり、「ng」はナノグラムの意味であり、「U」は単位の意味であり、および「mU」はミリ単位の意味である。
【0109】
菌種、ベクターおよび培養条件
チロシン栄養要求型Escherichia coli種AT2471および野生型Escherichia coli W3110は、当初はColi Genetic Stock Center(CGSC #4510)、Yale大学、New Haven、CT.)から入手した。Epicurian coli XL1−Red種は、Stratageneから購入した。Escherichia coli BL21(DE3)細胞は、酵素過剰発現のために使用した(Shuster、B.and Retey、J.FEBS Lett.349:252〜254(1994))。pBR322およびpET−24dベクターはそれぞれ、New England Biolab(Bevely、MA)およびNavagen(Madison、WI)から購入した。pKK233−3は、Amersham Pharmaciaから購入した。
【0110】
Rhodosporidium toruloides用生育培地
複合培地:Rhodosporidium toruloides(ATCC番号10788)は、脱イオン水に溶かしたモルト抽出物(1.0%)、酵母抽出物(0.10%)およびL−フェニルアラニン(0.10%)を含む培地で培養した。Difco保証Bacto−モルトおよびBacto−酵母抽出物を使用した。モルトおよび酵母抽出物の溶液は、フェニルアラニンを入れずに高圧滅菌した。フィルタ滅菌したフェニルアラニン2%溶液の一定量(50mL)を高圧滅菌したモルトおよび酵母抽出物溶液1.0Lに添加した(Abell他、「phenylalanine Ammonia−lyase from Yeast Rhodotorula glutinis」、Methods Enzymol.142:242〜248(1987))。
【0111】
最小培地:培地には、脱イオン水に溶かした50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.2)、MgSO4(100mg/L)、ビオチン(10mg/L)およびL−フェニルアラニン(2.5g/L)が含まれた。リン酸緩衝溶液は、その他の生物を入れずに高圧滅菌した。50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.2)1.0lに溶かしたL―フェニルアラニン(25g/L)、MgSO4(1.0g/L)およびビオチン(0.1g/L)の溶液を濾過によって滅菌して、100mLを高圧滅菌したリン酸緩衝液900mLに添加した。この成分の最終濃度は、KH2SO4(5.55g/L);K2PO4(1.61g/L)MgSO4(100mg/L);ビオチン(10mg/L)およびL−フェニルアラニン(2.5g/L)(Marusich、W.C.、Jensen、R.A.and Zamir、L.O.「Induction of L−Phenylalanine Ammonia−Lyase During Utilization of Phenylalanine as a Carbon or Nitrogen Source in Rhodosporidium toruloides」、J.Bacteriol.146:1013〜1019(1981))。
【0112】
酵素活性アッセイ
精製酵素のPALまたはTAL活性は、Abell他、「Phenylalanine Ammonia−lyase from Yeast Rhodotorula glutinis」、Methods Enzymol.142:242〜248(1987)に従って、分光光度計を使用して測定した。PALを決定するための分光光学的アッセイは、酵素を1.0mM p−フェニルアラニンおよび50mM Tris−HCl(pH8.5)を含む溶液に添加することよって開始した。次に、この反応に続いて、9000cm-1のモル吸光計数を使用して、290nmにおける生成物、桂皮酸の吸光度を監視した。このアッセイは、0.0075から0.0018/minの範囲の吸光度変化をもたらす酵素量を使用して5分間行った。1活性単位によって、1分あたりフェニルアラニン1.0μmolが桂皮酸へ脱アミノ化することが示された。TAL活性は、反応溶液中にチロシンを使用して同様に測定した。生成したパラ−ヒドロキシ桂皮酸の吸光度は315nmで追跡し、その活性はPHCAの10000cm-1のモル吸光計数を使用して測定した。活性1単位によって、1分あたりチロシン1.0μmolがパラ−ヒドロキシ桂皮酸へ脱アミノ化することが示された。
【0113】
SDSゲル電気泳動法
8〜25%既製PhastGelsで、列当たり蛋白質4.0μグラムを泳動させ、クーマシーブルーで染色した。Pharmacia高分子量(HMW)マーカーおよびSigmaの等級I PALを標準として使用した。
【0114】
HPLC分析用の試料調製法
HPLCアッセイは、細胞全体によって形成した桂皮酸およびPHCAの濃度を測定するために開発された。一般的なアッセイでは、選択培地で増殖した培養物を遠心した後、上清20〜1000μLをリン酸で酸性化し、0.2または0.45ミクロンフィルタで濾過して、HPLCで分析して、生育培地中のPHCAおよび桂皮酸の濃度を測定した。あるいは遠心に続いて、細胞をチロシン1.0mMまたはフェニルアラニン1.0mMを含む100mM Tris−HCl(pH8.5)に懸濁して、室温で1.0〜16hインキュベートした。次いで、濾過したこの懸濁液の一定量(20〜1000μL)を分析した。
【0115】
HPLC法
オートサンプラーおよびダイオードアレイUV/vis検出器を装備したHewlett Packard 1090M HPLCシステムを、MAC−MOD Analytical Inc.から供給された逆相Zorbax SB−C8カラム(4.6mM×250mm)と共に使用した。流速は1分あたり1.0mL、カラム温度は40℃で実施した。UV検出器は、波長250、230、270、290および310nmに設定して、溶出液を監視した。
【0116】
【表2】
【0117】
前述したHPLCシステムを使用した関連代謝物の保持時間(RT)を以下にまとめて示した。
【0118】
【表3】
【0119】
MONOQ緩衝液
これらの分析の緩衝液は、開始緩衝液としてリン酸カリウム50mM、pH7.0を使用し、次にMONOQカラムの溶出液として400mMリン酸カリウム緩衝液、pH7.2を使用した。
【0120】
実施例1
桂皮酸をPHCAに変換するための微生物
図1は、種々の微生物における桂皮酸ヒドロキシラーゼの存在についてのスクリーニングおよび桂皮酸からPHCAへの変換能力の調査を示した図である。
【0121】
桂皮酸ヒドロキシラーゼを有する微生物を発見するために、150株を超える様々な微生物および真菌の桂皮酸からPHCAに変換する能力をスクリーニングした。2段階発酵方法を使用した。まず微生物を培地中で3日間培養し、次いでその20%を接種物として第2段階の培養に使用した。第2段階で24時間増殖させた後、桂皮酸を添加し、間隔をおいて試料を採取し、HPLCによってPHCAの存在について分析した。
【0122】
生育培地
ATCC培地#196−酵母/モルト培地
この培地には、(1リットル当たりグラムで)モルト抽出物、6.0;マルトース、1.8;デキストロース、6.0;および酵母抽出物、1.2が含まれた。pHは、7.0に調節した。
【0123】
ATCC培地#5−胞子形成ブロス
この培地には、(1リットル当たりグラムで)酵母抽出物、1.0;牛肉エキス、1.0;トリプトン、2.0;およびグルコース、10.0が含まれた。
【0124】
ダイズ粉/グリセロール培地(SBG)
この培地には、(1リットル当たりグラムで)グリセロール、20;酵母抽出物、5.0;ダイズ粉、5.0;塩化ナトリウム、5.0;リン酸水素2カリウム、5.0が含まれた。pHは7.0に調節した。
【0125】
ジャガイモ−デキストロース/酵母培地(PDY)
(1リットル当たりグラムで)ジャガイモデキストロースブロス、24.0;酵母抽出物、5.0が含まれたこの培地を真菌株の生育用に使用した。
【0126】
試験した100〜150種の微生物の中で、異なる3株、Streptomyces griseus(ATCC 13273、ATCC 13968、TU6)、細菌Rhodococcus erythropolis(ATCC 4277)、および真菌株、Aspergillus petrakii(ATCC 12337)、Aspergillus niger(ATCC 10549)およびArthrobotrys robusta(ATCC 11856)において、桂皮酸をPHCAに変換する能力が示された。この結果によって、一般にSprepromycete類、特にStreptimyces griseusはこのヒドロキシル化において最も活性を表すことが示された。したがって、以下のStreptomyces griseus株(ATCC 13273、ATCC 13968、TU6)を使用してさらに研究を実施した。
【0127】
3種の複合培地(SBG、胞子形成ブロスおよび酵母/モルト培地)において生育中のStreptomyces griseusのパラ−ヒドロキシル化桂皮酸をPHCAにする能力を調べた。SBG、胞子形成ブロスおよびモルト/酵母培地での2段階発酵方法を使用した。様々な間隔で試料を採取し、PHCAの存在についてPHCAで分析した。データを以下の表1に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
【表5】
【0130】
【表6】
【0131】
データによってわかるように、試験したStreptomyces griseus株、ATCC13273次いでATCC13968およびTU6は、SBG培地で生育させるとPHCA産生活性が最も高かった。SBGと胞子形成ブロスの両方で生育させたStreptomyces griseusのATCC13967株は、桂皮酸をPHCAに変換することができた。胞子形成培地で生育させた細胞(ATCC13968)は、生育24時間後に最も高いPHCA産生能力を示し、一方SGB培地で生育した細胞は60時間後に最大PHCA産生活性に達した。
【0132】
実施例2
最適なTLA/PAL活性比を含む微生物のスクリーニング
実施例2では、種々の微生物のPALおよびTAL活性についてのスクリーニングを説明する。この情報は、PALおよびPAL/TAL酵素のさらなるクローニング、発現、精製および反応速度分析用に最も適した微生物の選択を可能にするために必要である。
【0133】
生育培地およびStreptomycesにおけるPALの誘導
Streptomycesには、2段階発酵方法を使用した。段階I培地には、グルコース(2%)、ダイズ粉(1%)、酵母抽出物(0.5%)、肉エキス(0.3%)、炭酸カルシウム(0.3%)が含まれ、第II段階の接種のためには4%を使用した。段階II培地には、グルコース(2%)、酵母抽出物(2%)、塩化ナトリウム(0.5%)、炭酸カルシウム(0.3%)が含まれた。この培地を100mLずつ500mLのフラスコに分配した。この培地に移した細胞を振盪機において25℃で24時間インキュベートした。
【0134】
複合培地で生育後のRhdosporidium toruloides細胞の準備
増殖収量およびPAL/TAL比活性を測定するために、Rhodosporidium toruloides細胞を(250mL容量のDeLongフラスコに入れた)複合培地50mLで増殖させた。収量(細胞の湿重量)は8.11グラムであった。次に、最初の収集物から0.8g(湿重量)を使用して(10×1リットルDelongフラスコに入れた)200mLに移した。リン酸緩衝液100mM(pH7.1)で3回洗浄した後の収量は、16.0グラムであった。
【0135】
細胞抽出物の調製
細胞ペレットを5.0mL/g細胞で50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)に懸濁して、French Pressure Cellに20000psiで1回通過させることによって破壊した。次いで、破壊した細胞を14200×gで30分間遠心して、破壊していない細胞を除去した。抽出物試料を蛋白質濃度アッセイよびPAL/TAL活性測定のために使用した。蛋白質測定はPierce Co.のBCA法(ビシンコニン酸)によって実施した。
【0136】
ゲル
BioRad(Cambridge、MA)製の成形済みの7.5%アクリルアミドゲルを使用した。細胞抽出物または酵素溶液の試料をPharmacia(Upsula、Sweden)製の分子量標準物と共にゲルに添加した。凍結乾燥した高分子量(HMW)蛋白質を100μlの50mM Tris−HCl pH8.5に溶解し、ブロモフェノールブルーを添加した。BioRad製の泳動用緩衝液は、10倍溶液から調製して、ゲルを150ボルトで泳動した。泳動色素が泳動によってゲルから排出した後、さらに1時間ゲルを泳動した。分子量マーカーおよび試料の列を含むゲルの1端を切断し、クーマシーブルーで約45分間染色した。ゲルを2分割してゲル物質を裁断し、1.0〜2.0mLの50mM Tris−HCl緩衝液pH8.5に入れて4℃で放置した。次いで、PAL活性は間隔を空けて2回測定した。前述のように測定したところ、ゲル切片は最大173mUのPAL活性を含んでいた。
【0137】
PAL/TAL活性
PAL/TAL活性は前述のように測定した。この方法を使用して、PALおよびTALそれぞれの比活性を測定したところ、0.0241±0.0005U/mgおよび0.0143±0.0005U/mgであった(表2)。これらの結果に基づいて、PAL/TALの比を算出すると、1.68±0.07であった。精製酵素で測定すると、PAL/TAL比は2.12であった。文献ではこれらの酵素の値は1.7であると報告されている(Hanson and Havir In The Biochemistry of Plants;Academic:New York、1981;Vol.7、pp577〜625)。この完全なデータを表2に示す。
【0138】
【表7】
【0139】
表2に概略を示したように、Rhodotorula glutinis(ATCC 10788)としても知られるRhodosporidium toruloidesは最高のTAL活性を有するので、さらに研究を行うために選択した。
【0140】
実施例3
E.coliにおけるRhdosporidium toruloides PALのクローニングおよび発現
実施例3では、精製のために十分な量のPALを産生するために、E.coliにおいてRhodosporidium toruloidesのフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)をクローニングし、発現させることを説明する。
【0141】
RNA精製
Rhodosporidium toruloides RNAは、フェニルアラニンを含んだ複合培地で生育した対数期の細胞から精製した。全RNAを単離して、mRNAはQiagen 全RNAおよびmRNA単離キットそれぞれを使用して、製造者の指示に従って精製した。
【0142】
逆転写
Rhodosporidium toruloides mRNA(3μL、75ng)をPerkin Elmer(Norwich CT.)に従って逆転写した。GeneAmpキットの指示では、ジエチルピロカルボネート(DEPC)処理水を使用しない。使用したPCRプライマー(0.75μM)は、キット付属のランダムヘキサマーで、EcoRI制限部位を含む上流プライマー(配列番号1)5′−ATAGTAGAATTCATGGCACCCTCGCTCGACTCGA−3′およびPstI制限部位を含む下流PCRプライマー(配列番号2)5′−GAGAGACTGCAGAGAGGCAGCCAAGAACG−3′である。これらは、Rhodosporidium toruloides PAL遺伝子から合成した。キットのpAW109 RNAおよびDM151およびDM152プライマーを使用した陽性対照もまた実施した。PCRは、変性温度95℃、1.0分、アニーリング温度55℃、1.0分および伸長温度72℃、2.0分のサイクルを30回実施した。サイクル当たり5秒を伸長段階に付加し、最終伸長段階は10分を使用した。一定量(5.0μL)をPCR反応混合物から採取し、1%アガロースゲルに添加して、PCR反応生成物を確認した。
【0143】
PCR断片の消化は、10×マルチバッファ(2.0μL)、牛血清アルブミン(BSA、10mg/mL、1.0μL)、EcoRIおよびPstI(それぞれ0.5μL)、PCR生成物(4.0μL)および蒸留脱イオン水(12.5μL)を使用して実施した。反応物全体を1%アガロースゲルに添加し、所望する大きさのDNA断片を精製した。
【0144】
ライゲーション
構築用ライゲーション混合物(全量50μL)には、ライゲーション緩衝液(10×、5.0μL)、T4DNAリガーゼ 3.0U/μL(1.0μL)、BSA(10mg/mL、2.5μL)、EcoRIおよびPstI制限部位を有するプライマーを使用したPCR生成物 19ng/μL(25μL)、既にEcoRIおよびPstIで切断されたpKK233−3 33ng/μL(2.0μL)および脱イオン蒸留水(14.5μL)が含まれた。対照ベクター用ライゲーション混合物(全量50μL)には、ライゲーション緩衝液(10×、5.0μL)、T4DNAリガーゼ 3.0U/μL(1.0μL)、BSA(10mg/mL、2.5μL)、既にEcoRIおよびPstI(2.0μL)で切断されたpKK233−3 33ng/μLおよび脱イオン蒸留水(39.5μL)が含まれた。この反応混合物を16℃で一晩インキュベートした。
【0145】
形質転換
コンピテントDH10bE.coli細胞(Gibco)は、氷上で約20分間解凍した。次いで、ライゲーション混合物2.0μLを細胞50μLに添加し、氷上で30分間インキュベートした。この細胞に20秒間37℃で熱ショックを与え、次いで再度氷上で冷却した。次いで、LBブロス0.95mLをこの細胞に添加し、振盪機上で37℃で1.0時間インキュベートした。次いでこの細胞を遠心して、LBブロス約50μLに再懸濁して、アンピシリン100mg/Lを含むLBプレートに画線して、37℃で一晩インキュベートした。
【0146】
クローン
Rhodosporidium toruloides PAL遺伝子をE.coliで過剰発現させた。この実施例で調製したPCR生成物をまず標準的クローニングベクターにクローニングし、次いでDH10b E.colliのtacプロモータ制御下で過剰発現するのpKK233−3ベクターにクローニングした。6個のクローン全部について、細胞全体および無細胞両方のPAL活性を調べた。
【0147】
細胞生育
細胞を最初に、アンピシリン100mg/Lを含んだLB培地50mLを入れた250mLの邪魔板付きフラスコ内で37℃で一晩生育させた。誘導されなかった細胞を収集する前に、一定量5.0mLを新鮮培地に移し、約0.9(OD600)になるまで生育させた。次いでIPTGを最終濃度0.2mg/mLになるまで添加して酵素を誘導させ、さらに細胞を3.0時間生育させた。OD600測定値を表3に示した。
【0148】
【表8】
【0149】
細胞全体のPAL活性
一定量の誘導されなかった細胞(1.0mL)および誘導された細胞(0.2mL)を収集前に採取した。細胞をペレット状にして、50mM Tris緩衝液pH8.5、10mLに再懸濁した。次いでフェニルアラニンを添加し(最終濃度1.0mM)、混合物を振盪機上で37℃で1.0時間インキュベートした。次いで、この混合物をリン酸50μLで酸性にして、細胞をペレット状にした。次いで溶質を濾過し、前述のようにHPLCで分析した。誘導細胞の培養培地も同様に処理して、HPLCで分析した。桂皮酸およびPHCA標準物(1.0mM)もまた分析して、試料中の化合物の濃度を計算するために使用した(たとえば、(177.66mAU試料)/(12734.13mAU/mM標準物)*(1000μM/mM)=13.95μM桂皮酸である)。結果を表3に示す。
【0150】
無細胞のPAL活性
細胞を遠心によって収集した。この収集した細胞ペレットに、50mM Tris緩衝液(pH8.5)1.0mLを添加し、この細胞をFrench Pressure Cellに約18000psiで1回通過させて破壊した。この抽出物をEpendorf Microfuge中で4℃で10〜15分間遠心した。上清(1.0mL)を除去して、PAL活性およびBradford蛋白質アッセイのために使用した(Bradford、M.Anal.Biochem.、72、248、1976)。最高の比活性、0.244(PAL)および0.0650(TAL)U/mg蛋白質が認められた。
【0151】
SDSゲル電気泳動
一般的方法で説明したように、精製したPAL蛋白質を8〜25%既製PhastGelで泳動した。精製したPALの分子量は、これらの分析に基づいて287kDaであると推定された。
【0152】
前記の実験中、LB培地で細胞が生育する間および細胞全体アッセイ中に、PHCAおよび桂皮酸の両者が出現することが発見された。E.coliは桂皮酸をPHCAに変換する酵素機構を有さないので、形質転換したE.coli培養物でPHCAが検出されたことは予期せぬ発見であった。したがって、これらの培養物にPHCAが存在することによって、E.coliで発現した野生型酵母PAL酵素には、PAL活性に加えてチロシンを直接PHCAに変換するTAL活性が含まれることが示唆された。
【0153】
実施例4
Rhodosporidium toruloides野生型PALを過剰発現する組換えE.coliによるPHCA産生
この実施例では、野生型PALを過剰発現するE.coli株がグルコースまたはLB培地のいずれかでの生育する間のPHCA産生能力についての分析を説明する。
【0154】
前述のように、PHCAの合成経路は2種類ある。1経路では、PHCAはPALによるフェニルアラニンからトランス桂皮酸への変換、次いでチトクロームP450酵素系によるパラ位のヒドロキシル化によって合成することができる。もう1種の経路では、TALによってチロシンが1段階反応でPHCAに変換され、P−450は必要ない。チトクロームP−450酵素はE.coliには存在しないので、これらの細胞で形成されたPHCAはTAL経路によるものであろう。この仮説を確かめるために、以下の実験を実施した。PCA 12Km(実施例8で説明)を含むE.coli細胞を1.0mM桂皮酸と共に一晩インキュベートして、PHCA産生をHPLCで監視した。
【0155】
細胞生育
細胞を、LBブロス、アンピシリン100mg/Lを含むLB+0.2%グルコース中で30℃で一晩、またはM9培地(以下参照)+0.2%グルコースまたはアンピシリン100mg/Lを含むM9培地+2%グルコース中で30℃で24h生育させた。M9培地+グルコースで生育させた細胞は、LB培地の細胞よりも顕著に増殖が遅かった。
【0156】
PHCAアッセイ
各細胞培養物の一定量(1.0mL)をリン酸50μLで酸性化し、ペレット状にして、上清を濾過して一般的方法で説明したようにHPLCで分析した。24時間後、または72時間後に試料を採取した。PHCA標準物(1.0mM)もまた分析して、試料中の化合物濃度の決定に使用した。生育をPHCA産生に関連づけるために、試料をまた採取して600nmでの細胞密度を測定した(表3参照、実施例2)。
【0157】
表3のデータからわかるように、野生型PALを含むE.coli細胞はLB(グルコースの有無にかかわらず)またはグルコースを含むM9培地(以下参照)のいずれかで生育させるとPHCAを産生した。LB培地にグルコースを添加すると、形成されるPHCA全量および培養物の細胞密度が増加するが、細胞密度当たりのPHCA産生を減少した。
【0158】
M9培地
細菌培養用M9最小培地には、(1リットルあたりグラムで)Na2HPO4、6.0;KH2PO4、3.0;NH4Cl、1.0;NaCl、0.5;およびグルコース、4が含まれる(Maniatis、付録A.3)。
【0159】
実施例5
E.coliからの組換え野生型Rhodosporidium toruloides PALの精製
熱処理、硫酸アンモニウム沈殿、陰イオン交換カラム、疎水性相互作用クロマトグラフィおよびゲル濾過を使用して、形質転換したE.coliから野生型組換えR.toruloides PALを精製した。
【0160】
細胞生育
細胞は、10Lの発酵漕内で、アンピシリン100mg/Lを含む2×YT培地で、28℃で生育させた。
【0161】
無細胞抽出液の調製
細胞を収集し、用時まで凍結ペレットとして保存した。このペレット(湿重量76g)を50mM Tris−HCl pH8.5で洗浄し、密度が緩衝液1.0mL当たりの細胞湿重量が2.0gとなるように同緩衝液で再懸濁した。少量のDNaseを添加して、細胞を2回French Pressure Cellに約18000psiで通過させた。次いで、プロテアーゼ阻害剤、PMSFを抽出物に最終濃度0.5mMになるように添加した。細胞残渣を13000×g、30分間、次いでさらに105000×g、1.0時間の遠心で除去した。
【0162】
抽出物の熱処理
抽出物を温度60℃で10分間加熱し、その後氷上に置いた。変性蛋白質を25000×g、30分間の遠心でペレットにした。
【0163】
硫酸アンモニウム沈殿
硫酸アンモニウム沈殿は、硫酸アンモニウム飽和溶液を4℃で添加することによって実施した。溶液を氷上で15〜30分間攪拌した。沈殿した蛋白質を25000×g、15分間の遠心でペレットにして、ペレットを最小量のTris緩衝液に溶解した。硫酸アンモニウム35%で沈殿中、溶液のpHを測定して、8.5に調節した。抽出物の量は、各沈殿毎に測定した。抽出物は硫酸アンモニウムによって別々に沈殿したが、両操作から得られた硫酸アンモニウム50%沈殿物を集めて、Centricon−50限外濾過管(Milipore、Bedford、MA)で脱塩した。
【0164】
陰イオン交換クロマトグラフィ
陰イオン交換クロマトグラフィは、20mm×165mm、50μm HQカラム(Perspetive Biosystems、Farmingham、MA)で、30mL/minの流速で実施した。開始緩衝液(緩衝液A)は5mM Tris−HCl pH8.5で、溶出緩衝液(緩衝液B)は5.0mM Tris−HCl pH8.5、NaCl 0.5Mであった。カラムをカラム量(CV)の2倍の緩衝液Aで平衡化し、試料注入後2CVの緩衝液Aで洗浄した。勾配は10CVで100%緩衝液Aから50%緩衝液Aおよび緩衝液Bとした。次いで、第2勾配は2CVで50%緩衝液Aおよび緩衝液Bから100%緩衝液Bとした。このカラムを2CVの緩衝液Bで洗浄し、次いで2CVの緩衝液Aで再度平衡化した。蛋白質は280nmで監視し、最初の勾配中の10mLずつ画分を氷上に収集した。試料の大きさは5.0mlまでで、蛋白質340mg、またはカラム許容量、2850mgの約12%を含んでいた。異なる操作から得た画分をプールして、前記で示したように濃縮した。
【0165】
疎水性相互作用クロマトグラフィ
疎水性相互作用クロマトグラフィは、20mm×167mm、50μm PEカラム(Perspetive Biosystems、Farmingham、MA)で、流速30mL/minで実施した。開始緩衝液(緩衝液A)は5.0mM Tris−HCl pH8.5、(NH4)2SO4 1.0Mで、溶出緩衝液(緩衝液B)は5.0mMTris−HCl pH8.5であった。カラムは2CVで平衡化し、試料注入後2CVの緩衝液Aで洗浄した。次いで、勾配は10CVで緩衝液A100%から緩衝液B100%とした。このカラムを2CVの緩衝液Bで洗浄し、次いで2CVの緩衝液Aで再度平衡化した。蛋白質を280nmで監視し、10mLずつ画分を集め、勾配中、氷上で維持した。5.0mLまで、蛋白質50mgまで、またはカラム許容量420mgの12%までの試料に、飽和硫酸アンモニウム溶液を添加することによって(NH4)2SO4 1.0Mに調節した。異なる操作から得られた画分を集め、前述のように脱塩して濃縮した。
【0166】
ゲル濾過クロマトグラフィ(GF)
ゲル濾過は、10mm×305mm、Superdex 200HRカラムで、流速0.5mL/minで実施した。NaCl 0.2Mを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)を使用して、カラムを1CV操作し、蛋白質溶出を280nmで監視した。画分(0.5mL)を集めて、氷上に維持した。カラムに添加した試料量は100μLで、蛋白質を10mgまで含んでいた。ピーク中央から得た画分をプールし、前述のように濃縮した。
【0167】
精製度および比活性の上昇を説明するデータを表4に示す。
【0168】
【表9】
【0169】
実施例6
炭素源の選択
この実施例では、Rhodosporidium toruloides PAL遺伝子(配列番号7)および植物P−450およびP−450レダクターゼ(それぞれ、配列番号11および配列番号13)を含む組換えSaccharomyces cerevisiae株(PTA 408)のフェニルアラニンをPHCAに変換する能力に対する様々な炭素源の影響を説明する。
【0170】
酵母PALおよび植物P−450およびP−450レダクターゼを含むSaccharomyces cerevisiaeの2個のコロニー(#1および#2)を選択し、ラフィノース、ガラクトースおよびグルコースのいずれかを含む3種の異なる培地で生育させた。この培地は、Raf/SCMまたはGal/SCMまたはGlu/SCMと称した。これらの3実験で使用した種々の培地の配合は以下の通りである。
【0171】
Glu/SCM(Ade/His/Ura)には、Bacto−yeast窒素基(6.7g/L);グルコース、(20.0g/L);およびSCM、(2.0g/L)が含まれた。
【0172】
Raf/SCM(Ade/His/Ura)には、Bacto−yeast窒素基(6.7g/L);ラフィノース、(20.0g/L);およびSCM、(2.0g/L)が含まれた。
【0173】
Raf/Gal SCM(Ade/His/Ura)/Tyr/Pheには、Bacto−yeast窒素基(6.7g/L);ラフィノース、(10.0g/L);ガラクトース、(10.0g/L);およびSCM、(2.0g/L);チロシン、(0.5g/L);およびフェニルアラニン、(10.0g/L)が含まれた。
【0174】
酵母用SCM(Ade/His/Ura)寒天プレートには、Bacto−yeast窒素基(3.35g/L);デキストロース、(10.0g/L);寒天、(10.0g/L);SCM、(1.0g/L);およびddH2O(500mL)が含まれた。
【0175】
コロニーそれぞれのグリセロールストック(300μL)を、Glu/SCM、Gal/SCMおよびRaf/SCM培地に接種するために使用した。各株および各培地について2連で培養物を調製し、培養物を24時間および48時間生育させた。
【0176】
細胞密度は前述のように測定し、次いで細胞を遠心して、0.85%食塩リン酸緩衝液で1回洗浄して、SCM培地(5.0mL)に懸濁して、OD600を再度測定した。次いで、細胞をRaf/SCMまたはGal/SCM培地いずれかを25.0mL含んだ対応するフラスコに最終OD600、0.5になるまで添加した。ガラクトース(最終濃度5%)をフラスコそれぞれに添加して、振盪機で約16時間振盪して誘導させた。誘導後、フェニルアラニン(最終濃度1.0mM)をフラスコそれぞれに添加して、試料(1.0mL)をそれぞれのフラスコから2、4、6、24および48時間後に採取し、PHCAの存在をHPLCで分析した(表5参照)。
【0177】
【表10】
【0178】
【表11】
【0179】
表5のデータからわかるように、試験した株はいずれも異なる培地中で生育するとき同様の挙動を示した。6〜24時間の間に、最高濃度のPHCA産生が認められ、フェニルアラニンの約30%はPHCAに変換された。最初の出現および蓄積に続いて、PHCA濃度の減少が認められた(48時間)。
【0180】
実施例7
Rhodosporidium toruloides PAL、植物チトクロームP−450およびチトクロームP−450レダクターゼを含む組換えSacharomyces cerevisiae株によるPHCAの産生
この実施例では、野生型PALおよび、植物チトクロームP−450およびチトクロームP−450レダクターゼ遺伝子を含む組換えSacharomyces cerevisiae株によるPHCAの産生のガラクトースによる誘導を説明する。
【0181】
Sacharomyces cerevisiae株に取り込まれたPAL、チトクロームP−450およびチトクロームP−450レダクターゼはガラクトースプロモータ制御下にあるので、形成するPHCA濃度に対するガラクトースの誘導の長さを調べるために実験を実施した。PHCAを最高濃度で産生するSacharomyces cerevisiae株#2を選択して、ガラクトースによって誘導した。組換えSacharomyces cerevisiaeが直接グルコースをPHCAに変換することができるかどうかを調べるために、ガラクトースで1時間誘導後、1群の細胞にグルコースを与え、フェニルアラニンは添加しなかった。他の群の細胞はラフィノースで生育させた。フラスコ全てから間隔をおいて試料を採取し、前述のようにHPLC分析用に調製した。
【0182】
Sacharomyces cerevisiaeのグリセロール懸濁試料をSCM−グルコースプレートに画線して、30℃でインキュベートした。コロニー4個をプレートから採取し、Glu/SCM培地4.0mLに接種して、振盪機上で(30℃、250rpm)一晩放置した。細胞懸濁液1mLを採取し、OD600を測定した。生育24時間後、OD600が約1.4から1.6のとき、細胞(1.0mL)をGlu/SCM培地25mLまたはRaf/SCM培地50mLに移した。一晩生育後(30℃、250rpm)、試料(1.0mL)を各フラスコから採取し、OD600を測定した。
【0183】
【表12】
【0184】
ODデータからわかるように、ラフィノースと比較してグルコースで生育するとより多くの細胞集団が得られた。組換えSaccharomyces cerevisiaeがフェニルアラニンを添加しないで直接グルコースをPHCAに変換できるかどうかを調べるために、グルコースまたはラフィノースで生育させた後、細胞をグルコース添加前にガラクトースによって誘導する実験を計画した。間隔をおいて試料を採取し、前述のようにHPLC分析用に準備した。データを表6に示す。
【0185】
【表13】
【0186】
【表14】
【0187】
表6のデータでわかるように、グルコースを含む培地で生育するとより多くの細胞量が得られるが、形成するPHCAの量はラフィノース存在下で生育させるとより多くなった(24時間ラフィノースで生育させるとPHCAが約200μMであるのに対し、グルコースでの生育では約14.5μMである)。このことによって、ガラクトースによって誘導可能なプロモータに対するグルコースの阻害効果が強調される。
【0188】
他の実験では、グルコースまたはラフィノースを含む生育培地にフェニルアラニンを添加する効果を判定した。フラスコそれぞれの試料(10mL)を培地25mLを含む容量125mLのフラスコに移し、細胞をガラクトース(最終濃度2%)で誘導した。この誘導を、1.0、3.0、6.0時間および一晩行った。特定の誘導時間後、フェニルアラニン(1.0mM)をフラスコそれぞれに添加し、PHCAの形成を測定した。結果を以下の表7にまとめて示す。
【0189】
【表15】
【0190】
予想通り、かつ表7からわかるように、両培地にフェニルアラニンを添加するとフェニルアラニンを添加しない場合と比較してPHCAの産生がより高くなった。一般に、ラフィノースで生育した細胞はグルコースで生育した細胞と比較してより多量のPHCAをフェニルアラニンから産生した。ラフィノースで生育した細胞によるフェニルアラニンからのPHCAの平均産生量は約500μMで、約24時間後に最高濃度のPHCAが形成された。ほとんどの場合、PHCA濃度は約24時間後に最大値に達し、顕著な変化なく実験終了時(約54時間)まで維持された。誘導期間(すなわち、1.0、3.0、6.0時間および一晩)は、PHCA産生濃度に顕著な差異をもたらさないようであった。グルコースで生育させた培養物中の形成されたPHCAの濃度は、約300μMであった。グルコース生育細胞によって形成されたPHCAの全量はラフィノース生育細胞による生成よりも少ないが、PHCAの形成パターンは同一であった。
【0191】
要約すると、Rhodosporidium toruloides野生型PALおよび植物チトクロームP−450およびチトクロームP−450レダクターゼを含む組換えSaccharomyces cerevisiae細胞は、フェニルアラニンを添加しないでもグルコースを直接PHCAに変換する能力を有していた(約25%変換)。フェニルアラニンを添加すると、約50%がPHCAに変換された。
【0192】
実施例8
変異PAL(PAL/TAL)酵素同定用選択システムの開発
この実施例では、改善されたTAL活性を有する変異PAL酵素の選択方法について説明する。現在のところ、中間段階無しにチロシンを直接PHCAに効率的に変換できるように操作した酵素はない。この反応では、酵素はチロシンをPHCAおよびアンモニアに変換する一方、逆反応として同酵素はPHCAおよびアンモニアをチロシンに変換する。チロシンをPHCAに変換できる変異PAL酵素を検出するために、以下のスクリーニングを開発した。
【0193】
発現ベクターの構築(PCA12Km)
弱発現ベクターは、市販のpBR233ベクターを変更することによって作製した。簡単に言うと、pBR322をPstIで切断し、2種のプライマー、pBR1(配列番号3)
5′−GAGAGACTCGAGCCCGGGAGATCTCAGACCAAGTTTACTCATATA−3′
およびpBR2(配列番号4)
5′−GAGAGACTCGAGCTGCAGTCTAGAACTCTTTTTTCAATATTATTG−3′
でPCRを20サイクル行った。
【0194】
PCR反応生成物をフェノールクロロホルムで抽出して、EtOH沈殿させ、XhoIで切断した。次いで、XhoI切断生成物をゲルで単離して、連結してE.coliに形質転換してテトラサイクリン耐性で選択した。したがって、このベクターはアンピシリン耐性は欠損するが、β−ラクタマーゼプロモータおよび以下の制限部位、XbaI、PstI、XhoI、SmaI、BglIIを含むpBR322である。pBR322のテトラサイクリン耐性遺伝子は、カナマイシン耐性遺伝子に置き換えられた。テトラサイクリン耐性遺伝子をpCA12(図1)からEcoRV(185)およびNruI(972)部位で切り出し、末端をpfuポリメラーゼ(PCR polishing kit、Stratagene)を使用して削り、平滑末端Pkb カナマイシン耐性遺伝子断片(Vieira and Messing、Gene 19:259〜268(1982))と連結した。最終構築物は、XL1−Blueベクター(図1)へのライゲーションの形質転換後にLB/kmプレートで選択した。
【0195】
Rhodosporidium toruloidesのPAL遺伝子のPCA12Kmへのサブクローニング
酵母(Rhodosporidium toruloides)PALの遺伝子配列は決定され、報告されている(Anson他、Gene 58:189〜199(1987))。報告された配列に基づいて、pBR322をベースとしたベクターにサブクローニングした。次いで、完全なPAL遺伝子をプラスミドからXbaI−PstI切断によって取り出し、この遺伝子をXba−PstI−切断PCA12Kmに連結した。PAL遺伝子を含む新規構築物をPCA18Kmと称した。
【0196】
チロシン要求株E.coliにおけるPAL酵素の発現
PCA12KmおよびPCA18Kmをチロシン要求E.coli株AT2471に形質転換して、TALおよびPAL活性を細胞全体のアッセイを使用して測定した。少量のPHCAまたは桂皮酸の形成がこれらの細胞とチロシンまたはフェニルアラニンとのインキュベーション後に検出された(表8)。
【0197】
【表16】
【0198】
表8に見られるように、酵母PAL酵素はPCA18Kmベクターを含むチロシン要求E.coli株AT2471で弱く発現した。
【0199】
選択条件の決定(選択システムの開発)
PCA18Kmベクターを含むチロシン要求E.coli株AT2471は、元の株と同様のチロシン要求特性を示した。この細胞は最小培地のプレートでは生育しないが、チロシン0.004mMをプレートに添加すると良好に生育した。適切な選択条件を発見するために、様々な濃度のチロシンまたはPHCAを含む最小培地プレートで細胞生育を試験した(表9参照)。
【0200】
【表17】
【0201】
表9で示した結果は、高濃度のPHCAは細胞に毒性であることを示唆している。PHCA濃度2.0mMを選択実験用に選択した。異なるチロシン濃度での細胞増殖に関する情報は選択のために重要である。たとえば、細胞によるPHCAからのチロシン生成は、細胞生育を維持するために十分ではなく、少量のチロシン(0.0001〜0.0002mM)をプレートに添加することが可能である。これによって、わずかに改善されたTAL活性を有する酵素を発現する株の同定が可能となろう。言い換えると、選択の厳密さは選択プレートのPHCAおよびチロシン濃度を変化させることによって調節することができる。
【0202】
実施例9
改善されたTAL活性を有する変異PAL酵素の操作
誤りがちなPCR
PCA18Km構築物から完全なPAL遺伝子を増幅するために、以下のプライマーを使用した。
プライマーA(配列番号5)
5′−TAGCTCTAGAATGGCACCCTCG−3′
プライマーB(配列番号6)
5′−AACTGCAGCTAAGCGAGCATC−3′
プライマーA(前向きプライマー)はATGコドン直前にXbaI制限酵素部位を含み、プライマーB(逆向きプライマー)は停止コドン直後にPstI部位を有する。PCRの誤る割合を増加させるために、単純なTaqポリメラーゼおよび回数の多い反応サイクル(35サイクル)を使用した。さらに、dATP、dTTP、dGTP、およびdCTPの割合を変化させた。4種の異なる反応を実施した。それぞれの反応において、dNTPの1種の濃度を0.1mMとし、その他の3種のdNTPを0.4mMに調節した。4種の反応のPCR産物を反応完了後に一緒に混合した。誤りがちなPCR生成物をXbaIおよびPstIで切断後、断片をXbaI−PstI−切断PCA12Kmに連結した。
【0203】
E.coli XL−Red株を使用したIn vivo変異誘発
PCA18Kmは、XL1−Red株に形質転換し、細胞をLB培地およびカナマイシンで一晩生育させた。変異率を増加させるために、細胞を新鮮な生育培地で希釈して、さらに生育させた。2〜4細胞世代周期後、プラスミドを精製して、選択用に使用した。
【0204】
選択
変異誘発後、無作為に変異したPAL遺伝子を含む変異PCA18Kmのプールをエレクトロポレーションによってチロシン要求E.coli株に形質転換した。形質転換効率は、1.5×108cfu/μgDNAであった。次いで、抗生物質を入れたLB培地で細胞を5.0時間を超えてインキュベートした。最小培地で洗浄後、細胞をチロシン0.0002mMおよびPHCA2.0mMを補充した最小培地を含むプレートに画線した。30℃で3.0〜5.0日インキュベーション後、1.0〜10個のコロニーが各プレートに出現した。
【0205】
選択プレートに出現したコロニーのPAL/TAL活性を一般的方法で説明した細胞全体のアッセイを使用して分析した。EP18Km−6と称する変異体の1種では、野生型の細胞よりもTAL活性比が増大していることが認められた。EP18Km−6変異体の一般的分析を実施した。プラスミドDNAを変異細胞から精製して、次にE.coliに再度形質転換した。新規の形質転換体は元の変異体と同様にTAL比が増大しており、TAL活性の改善に関与する変異は全てプラスミド上にあることが示された。変異体をより特徴付けるために、以下の分析を実施した。
【0206】
実施例10
変異PAL酵素の特徴付け
変異遺伝子の配列分析
EP18Km−6の全遺伝子をABI377自動シークエンサ(Applied Biosystems、Foster City、CA)で配列決定して、DNAstarプログラム(DNASTAR Inc.、Madison、WI)を使用してデータを処理した。得られたPAL変異体の分析に続いて野生型遺伝子(配列番号7)との比較を行って、変異遺伝子(配列番号9)が以下の4種の1塩基置換変異(点突然変異)、すなわちCTG(Leu215)からCTC、GAA(Glu264)からGAG、GCT(Ala286)からGCAおよびATC(Ile540)からACCへの変異を含むことが示された。最初の3種の変異は3番目の塩基で生じており、アミノ酸変化を起こさないサイレント突然変異であった。4種目の変異は2番目の塩基変化(ATCからACC)であった。この変異は、酵素の保存領域にあるイソロイシン−540をトレオニンに変化させた。様々な原料から得られた種々のPAL酵素は、この重要な位置にイソロイシンまたはロイシンのいずれかを有する。
【0207】
EP18Km−6変異酵素の過剰発現および精製
酵素反応速度分析用に純粋な酵素を十分量得るために、この酵素を過剰発現ベクター、pET−24―dで発現させた。pET−24−dベクターをEcoRIで切断して、製造元(Promega、Madison、WI)の指示に従ってクレノウ酵素を使用して切断生成物を充填した。次いで、線状になったベクターをNheIで切断し、XbaIおよびSmaIでEP18Km−6を切断することによって変異PAL遺伝子を得た。NheIおよびXbaIは両立可能な部位なので、変異遺伝子はpETAL構築物(図2)を調製するためにライゲーションによってpET24−dベクターにサブクローニングした。pET−24−dベクターはN末端T7タグ配列および任意選択でC末端HisTag配列を有しているので、酵素がN末端およびC末端の両方で天然の配列を発現できるように、これらのタグを使用しなかった。変異遺伝子をpET−24−dベクターにクローニングした後、この構築物をE.coli BL21(DE3)に形質転換した(DE3)。過剰発現させるため、IPTG1.0mMを添加する前に細胞をカナマイシンを含むLB培地でOD600が1.0になるまで生育させた。誘導4.0時間後、細胞を遠心によって収集し、一般的方法の項で説明したように粗抽出物を調製した。粗抽出物のSDS−PAGE分析によって、発現した酵素は際立った蛋白質バンドであり、発現濃度は前蛋白質の10〜15%と推定されることが明らかとなった(図3)。図3は、精製した変異PAL酵素(A列)および精製用に出発物質として使用した細胞粗抽出物(列B)のSDS−PAGEを示している。C列は標準的分子量マーカー(上から下へ、94,67、43、30、20および14kDa)である。PALの精製のために、プロテアーゼ阻害剤PMSF、アミノカプロン酸およびベンズアミジン(それぞれ1.0mM)を含んだ10mMリン酸カリウム緩衝液、pH6.6に細胞ペレットを懸濁した。細胞を超音波処理(Bransonモデル185、出力設定70%、氷浴中4分)で破壊して、次に遠心した(30000×g、30分)。透明な上清をMono−Q HPLCカラム(流速1.0mL/min)に添加した。このカラムを50mMリン酸カリウム緩衝液、pH7.0で開始して、次に溶出緩衝液として400mMリン酸緩衝液、pH7.2で溶出した。この酵素はリン酸カリウム濃度約90mMで溶出した。活性画分を集め、Centricon YM100(Milipore、Bedford、MA)を使用して濃縮した。酵素の純度はSDS−PAGE電気泳動によって判定したところ>98%であった(図3)。
【0208】
変異PAL酵素の生化学的特性
酵母野生型および精製した変異PAL酵素と、基質としてチロシンまたはフェニルアラニンを使用して、詳細な酵素反応速度分析を実施した。PALおよびTAL活性を一般的方法で説明したように分光光学的に測定し、KMおよびVMAXをラインウィーバーバークプロットから決定した。活性テトラマーには4個の活性部位が存在すると仮定して、VMAXからkcatを計算した。決定した酵素のKMおよびkcatを表10に示した。
【0209】
【表18】
【0210】
kcat/KMとして定義した触媒効率は、野生型および変異酵素の両方について計算した。野生型酵素のTAL対PAL触媒効率の比は0.5である一方、変異酵素の比は1.7に増加していた(表11参照)。この結果から、フェニルアラニンを使用することを好む野生型と異なり、変異酵素は基質としてチロシンを使用することを好むことが示され、それによって酵母PALの基質特異性が変異誘発および選択後に変化したことが明確に示唆された。
【0211】
【表19】
【0212】
実施例11
E.coliにおけるTAL経路によるグルコースからのPHCAの生物学的製造
変異PALを使用したE.coliにおけるグルコースからのPHCAの製造
改善されたTAL活性(EP18Km−6)を有する変異PAL遺伝子のプラスミドを野生型E.coli W3110に形質転換した。この細胞をグルコースを単一の炭素源として使用した最小培地で生育させた。一晩生育後、生育培地20μLを濾過して、PHCAを検出するためにHPLCで分析した。野生型(対照)E.coli細胞ではPHCAの蓄積は認められなかった。しかし、変異PAL遺伝子をE.coliで発現させたとき、グルコースを単一の炭素源として含む最小培地で一晩細胞を生育させるとPHCA0.138mMが検出された(表12参照)。
【0213】
【表20】
【0214】
桂皮酸ヒドロキシラーゼ活性を欠損したE.coli細胞
PCA12Kmベクターを含むE.coli細胞を一晩桂皮酸1.0mMとインキュベートしてもPHCAは産生されず、E.coli細胞は桂皮酸をPHCAに変換する能力を欠如していることが強調された。
【0215】
実施例12
変更PALの酵母発現ベクターへの取り込み
以下の酵母株およびpGPD316発現ベクターを使用した。ZXY34−1A株は遺伝子型、Mata、ade2−1、can1−100、his3−11、−15、leu2−3、−112、trup1−1、ura3−1、aro3::ΔURA3、aro4::ΔHIS3を含み、aro3、aro4ダブルノックアウトと称した。ZXY0304A株は遺伝子型、Mata、ade2−1、can1−100、his3−11、−15、leu2−3、−112、trup1−1、ura3−1、aro3::Δura3、aro4::ΔHIS3を含み、aro3、aro4ダブルノックアウトであった。
【0216】
当業界で周知の標準的サブクローニング法を使用して、変更したPALを前記ベクターに取り込ませた。変更したPAL cDNA(2.0kb)をXbaIおよびSmaI制限酵素で切断し、得られた切断断片をSpeIおよびSmaI制限酵素で切断した発現ベクターpGPD316に連結した。pGPD316およびpEp18のインサートによる新規構築物をpGSW18と称した(図4)。新規構築物を制限酵素で切断し、続いてアガロースゲルで電気泳動して確認した。
【0217】
実施例13
芳香族アミノ酸無しでグルコースをPHCAに変換するARO4GSWの能力
遺伝子型、Mata、ade2−1、can1−100、his3−11、−15、leu2−3、−112、trup1−1、ura3−1、aro3::Δura3、aro4::ΔHIS3を含み、aro3、aro4ダブルノックアウトと称したZXY0304A株を使用した。このZXY0304A株を標準的酢酸リチウム法で変更PALを含むpGSW18によって形質転換した。形質転換体、ARO4GSWはSCM培地(ロイシンおよびウラシルを含まない)を使用して選択した。ARO4GSW(グリセロールストック100μL)を使用して、2%グルコースを含む標準SCM培地に接種した。この生物を30℃で5.0時間生育させ、細胞を遠心して、2%グルコースを含むが芳香族アミノ酸は含まないSCM培地に再懸濁して、一晩生育させた。次いで、この細胞を遠心して、以下の培地、a)フェニルアラニンおよびチロシン約400μmを含む標準SCM培地、およびb)芳香族アミノ酸を含まないSCM培地に最終細胞密度1.0(OD600nm)になるまで再懸濁した。この細胞を振盪機上(250rpm、0℃)に維持して、HPLC分析用に試料(1.0mL)を2.0、4.0、6.0および16時間後に採取した。結果を表13に示す。
【0218】
【表21】
【0219】
表13に示されるように、組換え酵母ARO4GSW株は生育培地に芳香族アミノ酸を加えなくても、グルコースからPHCAを産生した。このデータからまた、生育培地に芳香族アミノ酸を添加すると芳香族アミノ酸無しの生育と比較してPHCA産生濃度がほぼ2.5倍増加することが示される。これらの結果から、チトクロームP−450およびチトクロームP−450レダクターゼ無しでグルコースをPHCAに変換する変異PALを含む組換えSaccharomyces cerevisiaeの能力が強調される。
【0220】
実施例14
芳香族アミノ酸飢餓中の変更PALを含むARO4GSWによるPHCA産生に対するフェニルアラニンおよびチロシンの影響
この実施例では、芳香族アミノ酸飢餓中の変更PALを含むARO4GSWによるPHCA産生に対するフェニルアラニンおよびチロシンの影響を調べる。
【0221】
ARO4GSWのグリセロールストック試料(100μLを)2%グルコースを含む標準SCM培地に接種した。収集前に細胞を振盪機上に30℃で5.0時間維持した。ペレットを2%グルコースは含むが芳香族アミノ酸は含まないSCM培地に再懸濁して、振盪機上において30℃で一晩生育させた。次に、この培養液を遠心して、以下の培地、a)標準SCM培地、b)芳香族アミノ酸を含まず、2%グルコースおよび1.0mMフェニルアラニンを含むSCM培地、およびc)芳香族アミノ酸を含まず、2%グルコースおよび1.0mMチロシンを含むSCM培地に最終細胞密度1.0OD600nmになるまで再懸濁した。これらの培養物を振盪機(250rpm、30℃)に戻し、HPLC分析用に試料(1.0mL)を2.0、4.0、6.0および16時間後に採取した。結果を表14に示す。
【0222】
【表22】
【0223】
表14のデータでわかるように、細胞を芳香族アミノ酸飢餓にすると、あまりPHCAは産生されなかった。フェニルアラニンを添加しても産生するPHCAの濃度にあまり影響はなかった。しかし、チロシンを添加すると、PHCAの著しい増加が生じた。したがって、この結果から本発明で開発した変更PAL遺伝子を含む新規組換え株は、PHCA産生の基質としてチロシンを好むことが確認される。
【0224】
実施例15
トウモロコシにおける変異PAL/TALの形質転換および発現とPHCA産生
センス方向に変異PAL/TAL遺伝子(配列番号8)を含むキメラ遺伝子は、適切なオリゴヌクレオチドプライマーを使用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって構築することができる。以下に説明するように、クローニング部位(NcoIまたはSmaI)をオリゴヌクレオチドに取り込ませて、切断ベクターpML103に挿入したとき適切なDNA断片方向をもたらすことができる。次いで、10mM Tris−HCl、pH8.3、KCl 50mM、MgCl2 1.5mM、dGTP 200mM、dATP 200mM、dTTP 200mM、dCTP 200mMおよびDNAポリメラーゼ 0.025単位に溶かした各オリゴヌクレオチド 0.4mMおよび標的DNA 0.3pMから成る標準PCR混合物100μL量で増幅を実施する。反応はPerkin−Elmer Thermocycler(商標)で、95℃1分、55℃2分および72℃3分を含む30サイクルおよび最終サイクル後の72℃7分の最終伸長を実施した。次いで、増幅したDNAを制限酵素NcoIおよびSmaIで切断して、0.7%低融点アガロースゲルで40mM Tris−酢酸塩、pH8.5、EDTA 1mMで分画した。適切なバンドをゲルから摘出し、68℃で融解して、プラスミドpML103の4.9kb NcoI−SmaI断片と一緒にした。プラスミドpML103をブタペスト条約に基づきATCCに寄託し、受け入れ番号ATCC97366を受け取った。pML103のDNA断片には、pGem9Zf(+)ベクター(Promega Corp.、7113 Benhart Dr.、Raleigh、NC)中のトウモロコシの27kDゼイン遺伝子の1.05kb SalI−NcoIプロモータ断片およびトウモロコシの10kDゼイン遺伝子3′末端の0.96kbSmaI−SalI断片が含まれる。ベクターおよび挿入DNAを本質的に前述のように(Maniatis)15℃で一晩ライゲーションした。次いで連結したDNAを使用してE.coli XL1−Blue(Epicurian Coli XL−1;Stratagene)を形質転換した。細菌の形質転換体はプラスミドDNAの制限酵素切断およびチェインターミネータ法(DNA配列決定キット、U.S.Biochemical)を使用した限定ヌクレオチド配列分析によってスクリーニングした。得られたプラスミド構築物には、5′から3′末端に向かって、トウモロコシ27kDゼインプロモータ、変異PAL/TAL酵素をコードするDNAフラグメント、および10kDゼイン3′領域が含まれる。
【0225】
次にこのように構築したキメラ遺伝子を以下の手順によってトウモロコシ細胞に導入することができる。未熟なトウモロコシ胚を近交系H99とLH132の雑種(Indiana Agric.Exp.Station、IN、USA)から得た発生穎果から切断することができる。この胚は受粉後10から11日経て1.0から1.5mmの長さになったとき切除する。次いで、この胚を胚軸が下面になるように置いて、アガロース固形化N6培地と接触させる(Chu他、Sci.Sin.Peking 18:659〜668(1975))。この胚を27℃の暗所に維持した。胚柄構造に支えられた体性前胚様体および胚様体の未分化細胞集団から成る破砕されやすい胚発生カルスが、これらの未熟な胚の胚盤から増殖する。最初の外植片から単離された胚発生カルスは、N6培地で培養して、2〜3週間毎にこの培地で継体培養することができる。(Dr.Peter Eckes、Hoechst Ag、v Frankfurt、Germanyから入手した)プラスミド、p35S/Acを選択可能なマーカーを提供するための形質転換実験で使用することができる。このプラスミドにはホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ(PAT)をコードするPat遺伝子(欧州特許第0242236号参照)が含まれる。酵素PATはホスフィノトリシンなど除草剤グルタミン合成酵素阻害剤に対する耐性をもたらす。p35S/Acのpat遺伝子は、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモータ(Odell他、Nature 313:810〜812(1985))およびAgrobacterium tumefaciensのTiプラスミドのT−DNA由来のノパリン合成酵素遺伝子3M領域に制御下にある。パーティクルガン法(Klein他、Nature 327:70〜73(1987))を使用して、カルス培養細胞に遺伝子を導入した。この方法に従って、金粒子(直径1μm)に以下の技法を使用してDNAをコーティングした。プラスミドDNA10μgを金粒子の懸濁液50μLに添加する(1mL当たり60mg)。塩化カルシウム(2.5M溶液50μL)およびスペルミジン遊離塩基(1.0M溶液20μL)をこの粒子に添加する。この溶液を添加する間、懸濁液を激しく攪拌する。10分後、試験管を一時的に遠心して(15000rpmで5秒)、上清を除去した。この粒子を無水エタノール200μLに懸濁して、再度遠心して上清を除去する。エタノール洗浄を再度実施して、この粒子をエタノール最終量30μLに懸濁する。DNAコーティング金粒子の一定量(5μL)をフライングディスク(Bio−Rads、861 Ridgeview Dr、Medina、OH)の中央に置くことが可能である。次いで、この粒子をトウモロコシ細胞にPDS−1000/Heを使用して(Bio−Rads Labs、861 Ridgeview Dr、Medina、OH)、ヘリウム圧1000psi、ギャップ距離0.5cmおよびフライング距離1.0cmで加速する。
【0226】
パーティクルガンのために、胚組織をアガロース固形化N6培地上の濾紙に置く。この組織を薄い芝生のように整え、直径約5cmの円形領域を被覆させる。この組織を含むペトリ皿をPDS−1000/Heのチャンバー内のストッピングスクリーンから約8cmのところに置く。次いで、チャンバー内の空気を、Hg28インチの真空まで排気する。衝撃管のHe圧が1000psiに達すると破裂するラプチャ膜を使用してマクロキャリアをヘリウム衝撃波で加速する。
【0227】
パーティクルガン後7日経て、組織をグルホシネート(1リットルあたり2mg)を含み、カゼインまたはプロリンを欠如したN6培地に移すことが可能である。さらに2週間後、この組織をグルホシネートを含む新鮮なN6培地に移すことが可能である。6週間後、グルホシネート補充培地を含むプレートのいくつかにカルスが活発に増殖する直径約1cmの領域を確認することができる。これらのカルスは選択培地でサブクローニングしたとき、生育し続けることが可能である。組織集団をまず2,4−Dを1リットル当たり0.2mg補充したN6培地に移すことによって、遺伝子導入したカルスから植物を再度発生させることができる。2週間後、組織を再発生培地に移すことができる(Fromm他、Bio/Technology 8:833〜839(1990))。
【0228】
PHCA産生濃度は、植物組織乾燥重量の約0.1%から約10%の範囲であることが期待される。
【0229】
実施例16
単一炭素源としてL−チロシンを使用した改善されたTAL酵素の選択
変異誘発したTAL遺伝子(配列番号8)を、本明細書に参考として援用したKok他による記載のように(Appl.Environ.Microbiol.65:1675〜1680(1990))、自然な形質転換によってAcinetobacter染色体に導入する。TAL遺伝子は構成的プロモータの制御下にあり、抗生物質耐性マーカー遺伝子の存在するベクターで宿主に挿入される。形質転換体は蒸留水1L(pH7.4)に溶かした寒天15g、Na2HPO4 6g、KH2PO4 3g、NaCl 0.5g、NH4Cl 1g、L−チロシン 0.5g、1M MgCl2 2ml、1M CaCl2 0.1ml、1M CaCl2 0.1mlを含むM9塩培地(実施例4)で培養する。形質転換体を抗生物質耐性に基づいて単離する。L−チロシンからPHCAへの変換を改善した創出TAL遺伝子を含む形質転換体は、L−チロシンを含む最小培地で良好な生育を示し、大きなコロニーを形成する。所望する濃度のTAL活性が実現するまでさらに創出を行うために、これらの大きなコロニーを回収する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 pBR233から得られ、PAL発現ベクターPCA18Kmの構築のために使用されるベクターPVA12Kmのプラスミドマップである。
【図2】 変異PAL/TAL酵素を含むベクターpETALのプラスミドマップである。
【図3】 精製した変異PAL酵素および変異PAL酵素精製用出発物質として使用した細胞粗抽出物のSDS−PAGEを示した図である。
【図4】 酵母の変異PAL/TAL酵素発現用に使用した発現ベクターpGSW18のプラスミドマップである。
【配列表】
Claims (8)
- (i)組換え宿主細胞を発酵可能な炭素基質と接触させることであって、前記組換え細胞は桂皮酸ヒドロキシラーゼ活性を欠損し、適切な調節配列に制御可能に結合したチロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする配列番号10に記載のポリペプチドをコードする遺伝子を含んでいること、
(ii)パラ−ヒドロキシ桂皮酸を産生するために十分な時間、前記組換え細胞を生育させること、および
(iii)任意選択で前記パラ−ヒドロキシ桂皮酸を回収すること
を含むことを特徴とするパラ−ヒドロキシ桂皮酸の生成方法。 - 前記チロシンアンモニアリアーゼが触媒効率約4.14×103M-1sec-1から約1×109M-1sec-1であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 桂皮酸ヒドロキシラーゼ活性を欠損し、適切な調節配列に制御可能に結合したチロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする配列番号10に記載のポリペプチドをコードする遺伝子を含むことを特徴とする組換え宿主細胞。
- 前記チロシンアンモニアリアーゼの触媒効率が4.14×103M-1sec-1から約1×109M-1sec-1であることを特徴とする請求項3に記載の宿主細胞。
- ATCC名称PTA407およびPTA409を有する細胞から成る群から選択された適切な調節配列に制御可能に結合したチロシンアンモニアリアーゼ活性をコードする配列番号10に記載のポリペプチドをコードする遺伝子を含むことを特徴とする組換え宿主細胞。
- 配列番号10に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするチロシンアンモニアリアーゼ遺伝子。
- 配列番号10に記載のポリペプチド。
- (i)組換え酵母細胞を発酵可能な炭素基質と接触させることであって、前記組換え細胞が、
a)配列番号11および配列番号13に記載されている植物P−450/P−450レダクターゼ系をコードする遺伝子、および
b)適切な調節配列と制御可能に結合したロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)由来のフェニルアラニンアンモニア−リアーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子を含むこと、
(ii)パラ−ヒドロキシ桂皮酸を産生するために十分な時間、前記組換え細胞を生育させること、および
(iii)任意選択で前記パラ−ヒドロキシ桂皮酸を回収すること
を含むことを特徴とするパラ−ヒドロキシ桂皮酸の生成方法。
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