JP4785896B2 - 海生物付着防止システム及び海生物付着防止方法 - Google Patents
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Description
また、塩素やヒドラジンのような腐食性の強い薬剤を使用する場合では、海水が接触する配管や設備を腐食・損傷させてしまうおそれがある。
さらに、例えば、硫酸第一鉄等の薬剤を使用すると、不溶性の金属酸化物や金属水酸化物等が配管内に堆積し、配管の閉塞を起こすおそれがある。このような堆積物を取り除くためには、さらなる処理コストがかかる。
また、本構成の海生物付着防止システムは、基本的には磁気処理手段に海水を通水させるだけの構成であるから、薬剤処理のような処理コストも不要となる。
なお、本構成の海生物付着防止システムは、薬剤を使用するものではないので、環境に優しく、配管や設備を腐食・損傷させるおそれもないという利点も当然に有している。
なお、本構成の海生物付着防止システムは、取水管の取水口から磁気処理手段までの間に、取水ポンプ、トラベリングスクリーン、ストレーナ等の付帯設備を設けている場合においては、これらの付帯設備全体に磁気処理された海水を行き渡らせることができるので、特に効果的である。
なお、本構成のように磁気処理と薬剤処理とを併用する場合では、薬剤の使用量は薬剤処理のみで行う場合よりも格段に少なくて済むので、環境に対する負担は非常に小さく、さらに、設備に対する腐食性も殆ど問題とはならない。
初めに、本発明の海生物付着防止システム100において磁気処理手段として使用する磁気処理装置50を説明する。図1は、磁気処理装置50の斜視図である。図2は、磁気処理装置50に収容されるユニット54の側面図である。図3は、図1のIII−IIIにおける磁気処理装置50の断面図である。
次に、上で説明した磁気処理装置50を組み入れた本発明の海生物付着防止システム100の構成について、代表的な実施形態を説明する。
図4は、第1実施形態による海生物付着防止システム100を示した概略構成図である。
この海生物付着防止システム100では、海水を利用する設備10から海中に向けて取水管20が延伸され、取水管20の先端側の取水口21と基端側の設備10との間に上流側から下流側に亘って付帯設備としてのトラベリングスクリーン31、取水ポンプ32、およびストレーナ33がこの順に設けられている。取水ポンプ32を駆動させて取水口21から海水の採取を開始すると、初めに、トラベリングスクリーン31で海水中に浮遊する藻類等の大まかな異物が除去される。次いで、トラベリングスクリーン31で除去しきれなかった砂や小石等の比較的小さい異物がストレーナ33で除去される。この時点において、海水中に含まれる異物はある程度除去されているが、フジツボ等の海生物(特に、幼生など)はストレーナ33で捕捉されずに通過してしまう場合がある。このため、ストレーナ33の設置部より下流側の取水管20または設備10においては、将来、海生物の付着の問題が起こるおそれがある。
図5は、第2実施形態による海生物付着防止システム100を示した概略構成図である。
この第2実施形態では、取水管20のうち、磁気処理装置50を接続している位置の下流側に、取水管20から海水の一部が分岐する箇所である分流部22を形成し、磁気処理装置50を接続している位置の上流側に、分岐した海水が取水管20に戻る箇所である合流部23を形成している。そして、この分流部22と合流部23との間に亘って、両者を接続するリターン管40を取水管に並べるようにして設けている。このような構成により、磁気処理装置50によって磁気処理された海水の少なくとも一部は、磁気処理装置50の下流の分流部22からリターン管40を通って磁気処理装置50の上流の合流部23に戻される。なお、本実施形態におけるその他の構成は、第1実施形態と同様である。
図6は、第3実施形態による海生物付着防止システム100を示した概略構成図である。
この第3実施形態では、分流部22で一旦分岐した海水が再び取水管20に戻る合流部23を、特に取水管20の取水口21の付近に形成している。その他の構成は、第2実施形態と同様である。
図7は、第4実施形態による海生物付着防止システム100を示した概略構成図である。
海水の処理に関しては、勿論、薬剤を全く使用しないことが理想的である。しかしながら、本発明は、環境に殆んど影響を与えない程度の少量の薬剤の使用を排除することを意図するものではない。薬剤の使用が磁気処理装置50による海水の磁気処理を補完する目的であれば、従来よりも薬剤の使用量をかなり低減することができるとともに、磁気処理と薬剤処理との相乗効果により、優れた海生物の付着・抑制効果が期待できる。また、薬剤の使用量を少なくできることから、配管や設備10に対する腐食性も殆ど問題とはならない。
本発明の海生物付着防止システム100による効果を確認するため、パイロットプラントによる試験を実施した。試験内容を、以下に実施例として説明する。
この試験では、塩ビ板で作製した試験ケース(25×15×14cm)内に約300個体のフジツボ類のキプリス幼生(タテジマフジツボ)を収容し、磁気処理された海水が試験ケース内を通過・循環するように磁気処理装置と試験ケースとをホースで接続し、海水を15日間にわたって連続的に循環させた。海水には天然の海水をフィルタ(目合0.5μm)で濾過したものを30L使用し、水温は約25℃に、流量は30L/分に設定した。図8にこの試験装置の概略図を示す。
磁気処理装置として、本発明の海生物付着防止システム100に使用可能なネオジム磁石53を備えた磁気処理装置50を用い、海水の鉄イオン濃度と海生物の付着抑制効果の関係を調べるため、ネオジム磁石53の磁束密度が異なる4つの条件(2000ガウス、4000ガウス、6000ガウス、8000ガウス)で試験を行った。なお、ここで用いた磁気処理装置50に装着されたユニット54の海水の流通方向に直交する断面(図2)において、海水が流動する断面積の全断面積に対する割合は約45%であり、ネオジム磁石53の断面積の全断面積に対する割合は約55%である。また、対照として、ネオジム磁石を装着していない筐体だけの装置(以下、着磁無品と称する)についても上記と同様の試験を行った。
まず、予備試験として、試験ケースにキプロス幼生を収容せずに海水を循環させ、上記4つの条件及び着磁無品に対して海水中の鉄イオン濃度の測定を5分毎に行った。鉄イオン濃度の測定には、2ppb以上の濃度の測定が可能であるTPTZ吸光光度法による測定装置を用いた。なお、試験開始前の海水中の鉄イオン濃度は、測定限界の2ppb未満であった。
タテジマフジツボの付着試験は、試験ケースにキプロス幼生を収容して海水を循環させ、試験終了後(15日目)に、試験ケース内の側面及び底面に付着したキプリス幼生、及び、キプリス幼生から変態した幼フジツボについて、目視及び実体顕微鏡により観察し、試験ケースの側面及び底面に付着している個体数により試験結果の評価を行った。
予備試験として行った、海水中の鉄イオン濃度の磁束密度依存性の試験結果を図9に示す。この図において、「<2」は2ppb未満であることを、「>10」は10ppbより大きいことを示している。鉄イオン濃度値はやや不安定な傾向が見られるが、磁束密度が4000ガウス、6000ガウス、8000ガウスの場合は、海水中の鉄イオン濃度が明らかに増加していることが分かる。一方、磁束密度が2000ガウスの場合及び着磁無品の場合は、海水中の鉄イオン濃度には大きな変化がないことが分かる。この予備試験結果より、本発明に係る磁気処理装置50を用いて海水を磁気処理するにあたり、ネオジム磁石53の磁束密度と海水中の鉄イオン濃度の関係が明らかになった。この試験では循環時間を20分としたが、それ以降も鉄イオン濃度は保持されたと考えられる。
図10に示すのは、試験終了後(15日経過後)における着磁無品及び各磁束密度に対するタテジマフジツボの付着数を示した試験結果である。縦軸はタテジマフジツボの個体数(キプリス幼生及び幼フジツボの合計)を示す。また、黒塗り部は試験終了後に試験ケースの側面及び底面に付着していた個体数を表し、白抜き部は試験終了後に側面や底面に付着していなかった個体数を表し、それらの合計が試験開始時に試験ケースに収容したキプロス幼生の総数となっている。
着磁無品では、試験開始時に試験ケースに収容した325個体の内、側面及び底面に付着した個体は全て幼フジツボへと変態しており、幼フジツボの付着数は282個体(付着率86.8%)であった。一方、磁束密度が2000ガウスの場合は、試験開始時に試験ケースに収容した306個体の内、幼フジツボが129個体、キプリス幼生が1個体、合計130個体が付着(付着率42.5%)していた。磁束密度が4000の場合は、試験開始時に試験ケースに収容した322個体の内、幼フジツボが65個体、キプリス幼生が4個体、合計69個体が付着(付着率21.4%)していた。磁束密度が6000の場合は、試験開始時に試験ケースに収容した313個体の内、幼フジツボが87個体、キプリス幼生が5個体、合計92個体が付着(付着率29.4%)していた。最後に、磁束密度が8000ガウスの場合は、試験開始時に試験ケースに収容した314個体の内、幼フジツボが46個体であり、キプリス幼生が7個体、合計53個体が付着(付着率16.9%)していた。この結果より、磁束密度が2000ガウスの場合は、着磁無品と比べ付着率を半分程度にしか抑制できないが、磁束密度が4000ガウス以上の場合は、着磁無品と比べ付着率を3分の1程度以下に抑制できることが分かる。
上記試験結果から、磁束密度が4000ガウス以上の場合にタテジマフジツボの付着率が大幅に抑制されることが分かり、図9の予備試験結果と照らし合わせると、海水中の鉄イオン濃度を少なくとも2ppb以上にすれば良いことが明らかになった。
ネオジム磁石53による磁気処理によって、海水中の鉄イオン濃度が本発明における有効濃度の下限値である2ppb以上に増加した理由としては、次のようなことが考えられる。
通常の海水条件下であれば、海水中に鉄イオンが存在した場合、二価の鉄イオンは急速に酸化されて三価の鉄イオンとなり、さらにこの三価の鉄イオンは溶解度が小さいため短時間でコロイド状の水酸化第二鉄(Fe(OH)3)へと変化し、沈澱又は壁面等に吸着することとなる。
ところが、本発明の磁気処理装置50により海水の磁気処理を行うと、一部に特異な磁鉄鉱マグネタイト(四三酸化鉄;Fe3O4)が形成されていたことから、ネオジム磁石53による強力な磁力により、水酸化第二鉄または三価の鉄イオンが部分的に二価の状態にまで還元され、その結果、鉄イオン全体の溶存量が増加したものと推測される。
なお、この試験結果はタテジマフジツボに対しての付着抑制効果のみ示しているが、フジツボ類は硫酸鉄流入モデル水路試験において、ムラサキイガイに比べ耐性が高いことが知られている。そのため、本発明の海生物付着防止システムはムラサキイガイや他の海生物に対しても付着抑制効果があることが予想される。
(1)上記実施形態では、筐体52の内部に複数のネオジム磁石53を備えたユニット54を収容して磁気処理装置50を構成し、この磁気処理装置50の内部に海水を通水させたが、取水管20の外部にネオジム磁石53を備えた磁気処理装置50を取り付けて、取水管20の外部から海水に磁力を付与する構成とすることも可能である。この場合、磁気処理装置50の設置箇所を容易に変更することができるという利点がある。
20 取水管
21 取水口
22 分流部
23 合流部
34 薬剤注入装置(薬剤注入手段)
40 リターン管
50 磁気処理装置(磁気処理手段)
53 ネオジム磁石
100 海生物付着防止システム
Claims (10)
- 海水を利用する設備において海水が接触する部分に海生物が付着することを防止する海生物付着防止システムであって、
海水を採取する前記設備の取水管に、磁気処理により海水中の鉄イオン濃度を前記海生物の付着を抑制する濃度である有効濃度にする磁気処理手段を設けた海生物付着防止システム。 - 前記有効濃度は、2ppb以上、50ppb未満である請求項1に記載の海生物付着防止システム。
- 前記磁気処理手段は、ネオジム磁石を含む請求項1又は2に記載の海生物付着防止システム。
- 前記磁気処理された海水の少なくとも一部を前記磁気処理手段の設置箇所より上流側に戻すリターン管を、前記取水管に形成した分流部と合流部とに亘って設けた請求項1〜3の何れか一項に記載の海生物付着防止システム。
- 前記取水管は、前記合流部より上流側の内径が下流側の内径より小さく設定されている請求項4に記載の海生物付着防止システム。
- 前記合流部を、前記取水管の取水口付近に形成した請求項4に記載の海生物付着防止システム。
- 前記取水管の取水口付近から、前記海生物の付着を防止する薬剤、又は、海水中に鉄イオンを供給する薬剤を注入する薬剤注入手段を設けた請求項1〜6の何れか一項に記載の海生物付着防止システム。
- 海水を利用する設備において海水が接触する部分に海生物が付着することを防止する海生物付着防止方法であって、
海水を採取する前記設備の取水管に対し、当該取水管を流れる海水中の鉄イオン濃度が前記海生物の付着を抑制する濃度である有効濃度となるように、磁気を付与する磁気処理工程を包含する海生物付着防止方法。 - 前記磁気処理工程により磁気を付与した海水を磁気処理を施す磁気処理箇所より上流側に戻すリターン工程を包含する請求項8に記載の海生物付着防止方法。
- 前記取水管の取水口付近から、前記海生物の付着を防止する薬剤、又は、海水中に鉄イオンを供給する薬剤を注入する薬剤注入工程を包含する請求項8又は9に記載の海生物付着防止方法。
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