JP4785795B2 - 海生物付着防止システム - Google Patents

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Description

本発明は、海水を利用する設備において海水が接触する部分に海生物が付着することを防止する海生物付着防止システムに関する。
海岸地域で操業している発電所や工場等の設備では、産業活動において発生する様々な熱と熱交換を行うため、海水が冷熱媒体として広く利用されている。例えば、都市ガス製造工場では、低温の液化天然ガス(LNG)が流れる配管の外表面に熱媒として海水を接触させ、配管内部のLNGを気化させている。また、火力発電所では、発電タービンから戻された蒸気を凝縮させる復水器の冷媒として海水が使用される。
このような冷熱媒体として利用される海水は、一般に、設備から海中に取水管を設置し、取水管に接続した取水ポンプによって海中から直接汲み上げられている。ところが、天然の海水中にはムラサキイガイ、フジツボ、ヒドロムシ、コケムシ等の海生物が含まれていることから、海中から汲み上げた海水をそのまま設備に導入すると、設備内で使用する配管や装置(例えば、熱交換器、復水器等)において海水が接触する部分に海生物が付着し、やがて水路が閉塞する等して故障やトラブルの原因となることがある。
そこで、従来においては、海中から採取した海水に対し、過酸化水素、塩素、ヒドラジン、第四級アンモニウム塩、有機イオウ化合物、硫酸第1鉄等の薬剤を大量に添加して、海水中の海生物の成長を抑制し、設備への海生物の付着を低減することが行われていた(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
一方、採取した海水に対して磁気処理を施すことにより、海水中に含まれる海生物の成長を抑制し、設備への海生物の付着を低減しようとする技術もあった(例えば、特許文献3を参照)。
特公昭61−2439号公報 特開昭59−98791号公報 特開2000−270755号公報
しかしながら、特許文献1や特許文献2の技術は、海水に化学物質である薬剤を大量に添加することになるため、環境への悪影響が懸念される。
また、塩素やヒドラジンのような腐食性の強い薬剤を使用する場合では、海水が接触する配管や設備を腐食・損傷させてしまうおそれがある。
さらに、例えば、硫酸第一鉄等の薬剤を使用すると、不溶性の金属酸化物や金属水酸化物等が配管内に堆積し、配管の閉塞を起こすおそれがある。このような堆積物を取り除くためには、さらなる処理コストがかかる。
一方、特許文献3の技術は、薬剤を使用しない海水処理方法であるため、特許文献1または特許文献2の技術と比べて環境に優しく、配管や設備を腐食・損傷させるおそれも少ない。さらに、薬剤を使用しない分、コストがかからないという利点もある。ところが、特許文献3の技術では、磁力が弱いと十分な効果が期待できず、さらに、そのような磁気処理による効果も基本的には磁気処理装置を取り付けた位置より下流側のみの区間に限定されるため、海水が接触する部分全体にわたって海生物の付着・成長を抑制することまではできない。このため、海水が流通する水路の閉塞を完全且つ確実に防止することは困難である。
従って、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境に優しく、配管や設備を腐食・損傷させるおそれもなく、処理コストが不用であることに加えて、海水を利用する設備において海水が接触する部分全体にわたって海生物の付着・成長を抑制し、海水が流通する水路の閉塞を効果的に防止することを可能とする海生物付着防止システムを実現することにある。
本発明に係る海生物付着防止システムの特徴構成は、海水を利用する設備において海水が接触する部分に海生物が付着することを防止する海生物付着防止システムであって、海水を採取する前記設備の取水管に、海水を磁気処理する磁気処理手段を設置し、前記磁気処理された海水の少なくとも一部を前記磁気処理手段の設置箇所より上流側に戻すリターン管を、前記取水管に形成した分流部と合流部とに亘って設けたことにある。
本構成の海生物付着防止システムでは、磁気処理された海水の少なくとも一部が磁気処理手段の設置箇所より上流側に戻されるため、磁気処理手段の下流側だけでなく上流側の配管(取水管)にも磁気処理された海水が流通することとなる。このため、配管に対して上流側から海生物の付着・成長を抑制する効果が発揮され、水路の閉塞を効果的に防止することができる。特に、磁気処理手段は、一般に複数の磁石を流路内に挿入した形態を採用し、この構造では磁気処理手段の流入口近傍において海生物の付着を回避し難くなるが、本構成では、リターン管を介して磁気処理済みの海水を流入口から導入することができるので、流入口近傍での海生物の付着を効果的に防止することができる。
また、本構成の海生物付着防止システムは、基本的には磁気処理手段に海水を通水させるだけの構成であるから、薬剤処理のような処理コストも不要となる。
なお、本構成の海生物付着防止システムは、薬剤を使用するものではないので、環境に優しく、配管や設備を腐食・損傷させるおそれもないという利点も当然に有している。
本発明に係る海生物付着防止システムにおいては、前記取水管は、前記合流部より上流側の内径が下流側の内径より小さく設定されてもよい。
本構成の海生物付着防止システムでは、取水管のうち合流部より上流側の内径を下流側の内径より小さく設定することで、取水管の取水口から合流部までの区間を流れる海水の流速を高めることができる。このため、磁気処理された海水が流れない合流部より上流側の区間であっても海生物が付着し難くなる。
本発明に係る海生物付着防止システムにおいては、前記合流部を、前記取水管の取水口付近に形成してもよい。
本構成の海生物付着防止システムでは、取水管の取水口付近に合流部を形成したことにより、磁気処理された海水の少なくとも一部を戻すリターン管が取水管の取水口付近に接続されることになる。このため、配管の上流から下流までの略全域に亘って磁気処理された海水を行き渡らせることができ、その結果、水路の閉塞を略完全に且つ確実に防止することができる。
なお、本構成の海生物付着防止システムは、取水管の取水口から磁気処理手段までの間に、取水ポンプ、トラベリングスクリーン、ストレーナ等の付帯設備を設けている場合においては、これらの付帯設備全体に磁気処理された海水を行き渡らせることができるので、特に効果的である。
本発明に係る海生物付着防止システムにおいては、前記取水管の取水口付近から前記海生物の付着を防止する薬剤を注入する薬剤注入手段を設けてもよい。
本構成の海生物付着防止システムでは、磁気処理手段による海水の磁気処理を薬剤処理によって補完することができるので、海生物の付着・成長抑制効果が大きくなる。
なお、本構成のように磁気処理と薬剤処理とを併用する場合では、薬剤の使用量は薬剤処理のみで行う場合よりも格段に少なくて済むので、環境に対する負担は非常に小さく、さらに、設備に対する腐食性も殆ど問題とはならない。
本発明に係る海生物付着防止システムにおいては、前記薬剤注入手段により注入される前記薬剤は、少なくとも前記合流部より上流側において前記海生物の付着を防止し、前記磁気処理手段は、前記合流部より下流側において海水を磁気処理するようにしてもよい。
本構成の海生物付着防止システムでは、薬剤注入による海生物の付着・成長抑制効果は、少なくとも取水管の取水口から磁気処理した海水が合流する合流部の地点までの区間で発揮されればよい。そして、合流部より下流側は磁気処理された海水によって海生物の付着・成長抑制効果を得ることができる。このため、磁気処理と薬剤処理とを併用する場合において、薬剤の使用量を最小限にすることができる。
このように、本構成では、環境への影響や設備等の腐食を最小限に抑えつつ、確実な海生物の付着・成長抑制効果を得ることができる。
本発明に係る海生物付着防止システムにおいては、前記磁気処理手段は、前記分流部より上流側に設けた上流側磁気処理手段と、前記分流部より下流側に設けた下流側磁気処理手段とから構成されてもよい。
本構成の海生物付着防止システムは、海水の磁気処理を、上流側磁気処理手段および下流側磁気処理手段の二箇所で夫々行うものであることから、海生物の付着・成長抑制効果をより確実に得ることができる。また、磁気処理手段を二つの磁気処理手段に分けたことで、各磁気処理手段として比較的小型ものを採用することができる。そして、そのようなコンパクトな構成でありながらも十分な効果が得られ易い。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、本発明は以下の実施の形態および図面に記載される構成に限定されるものではなく、同様の作用効果を奏する構成であれば種々の改変が可能である。
〔磁気処理装置〕
初めに、本発明の海生物付着防止システム100において磁気処理手段として使用する磁気処理装置50を説明する。図1は、磁気処理装置50の斜視図である。図2は、磁気処理装置50に収容されるユニット54の側面図である。図3は、図1のIII−IIIにおける磁気処理装置50の断面図である。
磁気処理装置50は、フランジ部51を有する筒状の筐体52の内部に、約8000ガウスの磁力を有する複数のネオジム(Nd2Fe14B)磁石53を備えたユニット54を収容して構成される。このユニット54において、夫々のネオジム磁石53は、パイプ状のケース55に挿入された状態で配置されている。ネオジム磁石53を内包するケース55は、内部に海水が侵入しないように両端部が閉鎖されている。そして、このケース55を複数個、並列配置した状態で、通水孔56が形成された二枚の円形プレート57と固定治具58とを用いて挟持固定されている。また、固定治具58の幾つかには、筐体52に対してユニット54を出し入れするためのグリップ59が取り付けられている。
磁気処理装置50を構成する部材のうち、フランジ部51、筐体52、ケース55、円形プレート57、固定治具58、およびグリップ59は海水に曝されるため、好適には、ステンレス(例えば、SUS316)、ハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)、チタン等の耐蝕性に優れた材料で構成される。あるいは、上記部材の海水が接触する部分に、フッ素樹脂、セラミック、ガラス等のコーティングを施して耐蝕性を高めてもよい。
ユニット54は、図2に示すように、ネオジム磁石53を内包するケース55が複数段(図示する例では11段)に亘って積層された構造を有し、その最下段から最上段にかけてネオジム磁石53のS極とN極とが交互に配置された状態となっている。また、図2から分かるように、ユニット54の側面を見ると、一つのネオジム磁石53の周りを6つの通水孔56が取り囲むように構成されている。
このようなユニット54を筐体52に装着し、海水が流通する配管に取り付けると、上流側から到来する海水は一方の円形プレート57の通水孔56を通過し、筐体52の内表面とネオジム磁石53を内包するケース55の外表面との間の空間を満たしつつ下流側に流動する。このとき、この空間内においてネオジム磁石53から海水に磁気が付与され、海水の磁気処理が行われる。その後、磁気処理された海水は他方の円形プレート57の通水孔56から排出されて下流に進行する。
ここで、本発明者らは、鋭意研究の結果、海水に対して所定の条件で磁気処理を行うと、海水中に含まれる海生物の付着・成長を抑制することができることを突き止めた。詳細は後述の実施例において説明するが、ネオジム磁石53によって海水に8000ガウス程度の強力な磁力を付与して磁気処理を行うと、海生物の一種であるムラサキイガイの壁部等への付着を防止することができることが明らかとなった。このような海水の磁気処理による海生物の付着・成長抑制効果は、まだ完全には解明されていないが、おおよそ次のような理由により達成されると推測される。
先ず、本発明者らは、約8000ガウスの磁力による磁気処理の前後において、海水の状態がどのように変化するかを調査した。その結果、磁気処理を行うと海水中に溶存する鉄イオン濃度が約20ppbから約50ppbまで急激に上昇することが判明した。一方、海水中のカルシウムイオン濃度、マグネシウムイオン濃度、塩分濃度、ならびにpH、水温、電気伝導度、表面張力の各物性についても調査したが、これらの値については磁気処理の前後で特段の変化は見られなかった。
以上の結果から、磁気処理によって海水中の鉄イオン濃度が上昇したことが海生物の付着・成長の抑制に効いていると考えられる。
なお、従来技術の項目で説明した特許文献2にも記載されるように、海水に対して人為的に鉄イオン濃度を添加すると、海生物の付着・成長の抑制に一定の効果があることが一部では既に知られている。しかし、本発明は、特許文献2で行っているような大量の硫酸第一鉄等の薬剤の添加により海水中の鉄イオン濃度を上昇させているのではなく、海水に約8000ガウスの磁気を付与するだけで海水中の鉄イオン濃度が上昇するという特異な現象を見出し、この現象を海生物の付着・成長を防止する技術として利用するに至ったものである。
〔海生物付着防止システム〕
次に、上で説明した磁気処理装置50を組み入れた本発明の海生物付着防止システム100の構成について説明する。
磁気処理装置50は、海水を採取する設備の取水管20に取り付けて使用される。例えば、取水管20の一部に磁気処理装置50を直列接続する。そして、磁気処理装置50によって磁気処理された海水の少なくとも一部が磁気処理装置50の設置箇所より上流側に戻されるように、後述するリターン管40を設置する。本発明にあっては、海生物付着防止システム100は、少なくとも、磁気処理装置50およびリターン管40を含む構成とされる。以下、本発明の海生物付着防止システム100について、代表的な実施形態を説明する。
(第1実施形態)
図4は、第1実施形態による海生物付着防止システム100を示した概略構成図である。
この海生物付着防止システム100では、海水を利用する設備10から海中に向けて取水管20が延伸され、取水管20の先端側の取水口21と基端側の設備10との間に上流側から下流側に亘って付帯設備としてのトラベリングスクリーン31、取水ポンプ32、およびストレーナ33がこの順に設けられている。取水ポンプ32を駆動させて取水口21から海水の採取を開始すると、初めに、トラベリングスクリーン31で海水中に浮遊する藻類等の大まかな異物が除去される。次いで、トラベリングスクリーン31で除去しきれなかった砂や小石等の比較的小さい異物がストレーナ33で除去される。この時点において、海水中に含まれる異物はある程度除去されているが、ムラサキイガイ等の海生物(特に、幼生など)はストレーナ33で捕捉されずに通過してしまう場合がある。このため、ストレーナ33の設置部より下流側の取水管20または設備10においては、将来、海生物の付着の問題が起こるおそれがある。
そこで、第1実施形態では、磁気処理装置50をストレーナ33の後段に接続している。また、取水管20のうち、磁気処理装置50を接続している位置の下流側に、取水管20から海水の一部が分岐する箇所である分流部22を形成し、磁気処理装置50を接続している位置の上流側に、分岐した海水が取水管20に戻る箇所である合流部23を形成している。そして、この分流部22と合流部23との間に亘って、両者を接続するリターン管40を取水管に並べるようにして設けている。このような構成により、磁気処理装置50によって磁気処理された海水の少なくとも一部は、磁気処理装置50の下流の分流部22からリターン管40を通って磁気処理装置50の上流の合流部23に戻される。
本実施形態の構成では、磁気処理された海水の少なくとも一部が磁気処理装置50の設置箇所より上流側に戻されるため、磁気処理装置50の下流側だけでなく上流側の配管(取水管20)にも磁気処理された海水が流通することとなる。特に、従来では海生物の付着回避が困難であった磁気処理装置50の流入口に対しても、リターン管を介して磁気処理済みの海水を導入することができる。従って、配管に対してその上流側から海生物の付着・成長を抑制する効果が発揮され、水路の閉塞を効果的に防止することができる。
また、本実施形態の海生物付着防止システム100では、海生物の付着・成長を抑制するための塩素等の薬剤を使用していないので、環境に優しく、配管や設備を腐食・損傷させるおそれもなく、処理コストも低いという利点を有している。
なお、本実施形態の海生物付着防止システム100において、取水管20のうち合流部23より上流側の内径を下流側の内径より小さく設定することが可能である。このような構成とすれば、取水管20の取水口21から合流部23までの区間を流れる海水の流速を高めることができる。その結果、磁気処理された海水が流れない合流部23より上流側の区間であっても海生物が付着し難くなる。
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態による海生物付着防止システム100を示した概略構成図である。
この第2実施形態では、分流部22で一旦分岐した海水が再び取水管20に戻る合流部23を、特に取水管20の取水口21の付近に形成している。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
第2実施形態の構成によれば、磁気処理された海水の少なくとも一部を戻すリターン管40の出口側の端部が取水管20の取水口21の付近に接続されることになる。このため、配管の上流から下流までの略全域に亘って磁気処理された海水を行き渡らせることが可能となる。その結果、本実施形態の構成では水路の閉塞が略完全に且つ確実に防止される。
特に、図5に示すように、取水管20の取水口21から磁気処理装置50までの間に、トラベリングスクリーン31、取水ポンプ32、ストレーナ33等の付帯設備を設けている場合においては、これらの付帯設備全体に磁気処理された海水を行き渡らせることができるので、海生物の付着・抑制効果は一層大きくなる。
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態による海生物付着防止システム100を示した概略構成図である。
海水の処理に関しては、勿論、薬剤を全く使用しないことが理想的である。しかしながら、本発明は、環境に殆んど影響を与えない程度の少量の薬剤の使用を排除することを意図するものではない。薬剤の使用が、磁気処理装置50による海水の磁気処理を補完する目的であれば、従来よりも薬剤の使用量をかなり低減することができるとともに、磁気処理と薬剤処理との相乗効果により、優れた海生物の付着・抑制効果が期待できる。また、薬剤の使用量を少なくできることから、配管や設備10に対する腐食性も殆ど問題とはならない。
そこで、この第3実施形態では、取水管20の取水口21の付近から薬剤を注入する薬剤注入装置34を設けている。図6に示した構成では、薬剤は取水口21の付近から添加されるので、取水管20を流れる海水のうち、薬剤注入装置34によって添加された薬剤は主に合流部23より上流側の海水を処理し、磁気処理装置50は合流部23より下流側の海水を処理することになる。従って、本実施形態では、薬剤の使用量が最小限に低減され、環境への影響や設備等の腐食を最小限に抑えつつ、確実な海生物の付着・成長抑制効果を得ることができる。
なお、本実施形態における薬剤注入装置34以外の構成は、第1実施形態と同様である。また、海水に添加する薬剤としては、次亜塩素酸ソーダ等の塩素系薬剤、過酸化水素等の酸素系薬剤等を用いることができる。
ところで、この薬剤注入装置34は、第2実施形態の海生物付着防止システム100に設けることも可能である。この場合、薬剤を添加する位置および磁気処理された海水が戻る位置が、共に取水管20の取水口21の付近となるので、配管の上流から下流までの略全域に亘って薬剤処理および磁気処理された海水を行き渡らせることが可能となり、海生物の付着・抑制効果は大きいものとなる。
(第4実施形態)
図7は、第4実施形態による海生物付着防止システム100を示した概略構成図である。
この第4実施形態では、磁気処理装置50が、分流部22より上流側に設けた上流側磁気処理装置51と、分流部22より下流側に設けた下流側磁気処理装置52とから構成される。その他の構成は、第2実施形態と同様である。
第4実施形態は、海水の磁気処理を、上流側磁気処理装置51および下流側磁気処理装置52の二箇所で夫々行うものである。そのため、海生物の付着・成長抑制効果をより確実に得ることができる。また、磁気処理装置50を二つの上流側磁気処理装置51および下流側磁気処理装置52としたことで、それぞれを比較的小型のものを採用することができる。そして、そのようなコンパクトな構成でありながら十分な効果が得られ易い。
なお、磁気処理装置50を上流側磁気処理装置51および下流側磁気処理装置52とする構成は、第1実施形態および第3実施形態の海生物付着防止システム100に適用することも可能である。これらの場合も海生物の付着・抑制効果は大きいものとなる。
〔実施例〕
本発明の海生物付着防止システム100による効果を確認するため、パイロットプラントによる試験を実施した。試験内容を、以下に実施例として説明する。
(1)試験概要
この試験では、海水を満たした黒色プラスチック容器製の水槽(37×26×21cm)に50個体のムラサキイガイ稚貝(殻長約14〜24mm)を収容し、本発明の海生物付着防止システム100に使用可能な「ネオジム磁石(約8000ガウス)を備えた磁気処理装置」(以下、本発明品と称する)に海水を14日間にわたって連続的に通過・循環させた。海水には天然の海水をフィルタ(0.5μm)で濾過したものを30L使用した。海水の水温は約20℃となるようにヒータで制御した。海水の流量は30L/分に設定した。図9にこの試験装置の概略図を示す。
海水の磁気処理を行った後、ムラサキイガイ稚貝の状態を目視および実体顕微鏡により観察し、さらに処理前後における海水の分析を行った。分析項目は、水温、pH、塩分濃度、遊離カルシウムイオン濃度、遊離マグネシウムイオン濃度、カルシウム硬度、マグネシウム硬度、亜硝酸体窒素、硝酸体窒素、およびアンモニウム体窒素とした。
また、対照として、ネオジム磁石の代わりにフェライト磁石(約2000ガウス)を装着した磁気処理装置(以下、フェライト品と称する)、および磁石を装着していない筐体だけの装置(以下、着磁無品と称する)についても上記と同様の試験を行った。
(2)試験結果
ムラサキイガイ稚貝の状態について、本発明品で海水を磁気処理したものは、試験開始後2日目から壁部等に対する付着力の低下が見られ、10日目ではムラサキイガイ稚貝の付着は完全に無くなった。一方、フェライト品および着磁無品では、試験終了後も全ての個体が壁部等に付着していた。
一方、海水の分析結果については、本発明品、フェライト品、着磁無品のいずれにおいても、多少の数値変動はあったものの、いずれの項目においても特に注目すべき変化は見られなかった。
上記試験から、本発明品によって海水の磁気処理を行うと、ムラサキイガイ稚貝の付着・抑制に効果があることが分かったが、海水の分析結果からその原因を解明するまでには至らなかった。ただし、本発明品で使用したネオジム磁石と対照で使用したフェライト磁石とでは、発生する磁力に約4倍もの顕著な差があり、この点は注目すべき点である。そこで、本発明者らは、海水に付与する磁力の大きさが、ムラサキイガイ稚貝の付着・抑制効果に直接的または間接的に影響している可能性があると考え、次に説明する追加試験を実施した。
(3)追加試験
上記(1)の試験で使用したものと同様の海水に対し、本発明品、フェライト品、着磁無品を使用して夫々処理を行った。この追加試験では、処理時の海水中に溶存する鉄イオン濃度について測定・分析を行った。その分析結果を図10のグラフに示す。
図10より、本発明品で処理した海水中の鉄イオン濃度は、処理前の20ppbから5分後に40ppbまで急増し、最終的に50ppbまで増加した。一方、フェライト品および着磁無品では、鉄イオン濃度は処理前の20ppbから変動することはなかった。これらの結果から、ネオジム磁石を使用して8000ガウス程度の強い磁力を海水に付与すると、海水中の鉄イオン濃度が短時間で急速に増加し、これがムラサキイガイ等の海生物の付着・抑制効果に効くものと推定される。
さらに、注目すべき現象として、本発明品で磁気処理した装置において、海水が接触した箇所には二価の酸化鉄と三価の酸化鉄とが混合した特異な磁鉄鉱マグネタイト(四三酸化鉄;Fe34)が形成されていた。
(4)考察
ネオジム磁石による磁気処理によって海水中の鉄イオン濃度が増加した理由としては、次のようなことが考えられる。
通常の海水条件下であれば、海水中に鉄イオンが存在した場合、二価の鉄イオンは急速に酸化されて三価の鉄イオンとなり、さらにこの三価の鉄イオンは溶解度が小さいため短時間でコロイド状の水酸化第二鉄(Fe(OH)3)へと変化し、沈澱又は壁面等に吸着することとなる。
ところが、本発明品により海水の磁気処理を行うと、一部に特異な磁鉄鉱マグネタイトが形成されていたことから、約8000ガウスもの強力な磁力により、水酸化第二鉄または三価の鉄イオンが部分的に二価の状態にまで還元され、その結果、鉄イオン全体の溶存量が増加したものと推測される。
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、磁気処理装置50によって磁気処理した海水の少なくとも一部をリターン管40によって磁気処理装置50の設置箇所より上流側に戻す構成であったが、図8に示すように、リターン管40を設けない構成で海水の磁気処理を行うことも勿論か能である。ただし、この場合は条件によっては、磁気処理装置50より上流側の区間には磁気処理された海水が流れないため海生物が付着することも考えられるが、少なくとも前記上流側の区間を流れる海水の流速を高めるような措置(例えば、取水管20を縮径したり、取水ポンプ32の性能を上げる等)を講じれば、海生物の付着を低減または防止することができるため、大きな問題とはならない。
(2)上記実施形態では、筐体の内部に複数のネオジム磁石を備えたユニットを収容して磁気処理装置を構成し、この磁気処理装置の内部に海水を通水させたが、取水管の外部にネオジム磁石を備えた磁気処理装置を取り付けて、取水管の外部から海水に磁力を付与する構成とすることも可能である。この場合、磁気処理装置の設置箇所を容易に変更することができるという利点がある。
(3)上記実施形態では、磁気処理装置の磁石としてネオジム磁石(永久磁石)を使用したが、ネオジム磁石の代わりに電磁石を使用することも可能である。この場合、電磁石のコイルに流す電流量を変化させることで磁力の大きさを調節することができる。従って、電磁石を用いれば、海生物の付着状況等に応じて、海水中に溶存する鉄イオンの濃度を変化させることができると考えられる。
(4)本発明の海生物付着防止システム100によって磁気処理を行った海水中の鉄イオンの濃度は50ppb程度と極めて微量であるため、これをそのまま海水に戻しても環境面で特に問題とはならないが、海水を戻す際に適宜曝気処理を行ってから排水してもよい。この場合、海水中に溶存する鉄イオンが空気により酸化されて水酸化第二鉄(Fe(OH)3)へと変化し易いので、設備で利用した後の海水を通常の海水条件に近い状態に戻して海中に排出することができる。
磁気処理装置の斜視図 磁気処理装置に収容されるユニットの側面図 図1のIII−IIIにおける磁気処理装置の断面図 第1実施形態による海生物付着防止システムを示した概略構成図 第2実施形態による海生物付着防止システムを示した概略構成図 第3実施形態による海生物付着防止システムを示した概略構成図 第4実施形態による海生物付着防止システムを示した概略構成図 別実施形態による海生物付着防止システムを示した概略構成図 実施例による試験装置の概略図 海水中に溶存する鉄イオン濃度の変化を示すグラフ
符号の説明
10 設備
20 取水管
21 取水口
22 分流部
23 合流部
34 薬剤注入装置(薬剤注入手段)
40 リターン管
50 磁気処理装置(磁気処理手段)
51 上流側磁気処理装置(上流側磁気処理手段)
52 下流側磁気処理装置(下流側磁気処理手段)
100 海生物付着防止システム

Claims (6)

  1. 海水を利用する設備において海水が接触する部分に海生物が付着することを防止する海生物付着防止システムであって、
    海水を採取する前記設備の取水管に、海水を磁気処理する磁気処理手段を設置し、
    前記磁気処理された海水の少なくとも一部を前記磁気処理手段の設置箇所より上流側に戻すリターン管を、前記取水管に形成した分流部と合流部とに亘って設けた海生物付着防止システム。
  2. 前記取水管は、前記合流部より上流側の内径が下流側の内径より小さく設定されている請求項1に記載の海生物付着防止システム。
  3. 前記合流部を、前記取水管の取水口付近に形成した請求項1に記載の海生物付着防止システム。
  4. 前記取水管の取水口付近から前記海生物の付着を防止する薬剤を注入する薬剤注入手段を設けた請求項1〜3の何れか一項に記載の海生物付着防止システム。
  5. 前記薬剤注入手段により注入される前記薬剤は、少なくとも前記合流部より上流側において前記海生物の付着を防止し、前記磁気処理手段は、前記合流部より下流側において海水を磁気処理する請求項4に記載の海生物付着防止システム。
  6. 前記磁気処理手段は、前記分流部より上流側に設けた上流側磁気処理手段と、前記分流部より下流側に設けた下流側磁気処理手段とから構成される請求項1〜5の何れか一項に記載の海生物付着防止システム。
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