本発明は内燃機関に関し、特に強度低下を抑制すべく燃焼室内で旋回気流を案内する内燃機関に関する。
従来、内燃機関においては燃焼室内にタンブル(縦渦)やスワール(横渦)といった旋回気流を生成する技術が知られている。これらの旋回気流を燃焼室内で好適に案内することで旋回気流の強度低下を抑制でき、この結果、内燃機関の希薄燃焼領域の拡大や出力性能の向上を図ることができることから、従来から種々のピストン冠面形状が提案されている。
例えば特許文献1では、クランク軸線と平行な中心軸線を持つ円筒面よりなる凹部を有するピストン冠面形状が開示されている。特許文献1によるとこの凹部をピストン冠面の中心部に形成すると上死点においてシリンダヘッドとピストンとの間の中心間距離を確保でき、この中心間距離を確保するとガス流動の崩壊を遅らせることができることから、圧縮上死点付近まで流動エネルギーを確保できる旨が記載されている。また係る効果を得るにあたって特許文献1では、円筒面の大きさとピストン直径との関係に着目し、円筒面の曲率半径とピストンの直径をほぼ同等にすることが望ましいとしている。
特許文献2では、排気弁側で広く深くし、吸気弁側で狭く浅くした溝部を有するピストン冠面形状が開示されている。この溝部はタンブル流を一点に集めて燃料噴射弁近傍に導くことで、燃料噴霧を点火プラグ近傍へ層状に確実に輸送し、成層燃焼性能の向上を図るための構成となっている。特許文献3では、吸気弁配置側を大きな曲率半径R2で、排気弁配置側を小さな曲率半径R1でそれぞれ円弧状に形成したキャビティ燃焼室をピストン冠面の中央部に有するピストン冠面形状が開示されている。このキャビティ燃焼室は、燃焼室内で生成する順タンブル流の維持と内燃機関低回転時における燃料の拡散抑制とを図るための構成となっている。
特許文献4では、タンブルがピストンのストローク方向に長軸を有する楕円状となるように案内するためのキャビティを有するピストン冠面形状が開示されている。このキャビティはシリンダ壁面でのタンブル減衰を抑制し、タンブル流が円筒状である場合よりもさらに強いタンブル流の生成を図るための構成となっている。特許文献5では、底面が燃料噴射弁の軸線方向における断面で円弧状であって、しかも、ピストン冠面の周辺部にまで広がる略長方形状に形成した第2凹室を有するピストン冠面形状が開示されている。この第2凹室はタンブル強度の保持を図るための構成となっている。
特開平10−8968号公報
特開2000−345847号公報
特開2001−98947号公報
特開2003−113716号公報
特開2002−195040号公報
上記各特許文献によると、ピストン冠面に形成する凹部(各文献でそれぞれ凹部、溝部、キャビティ燃焼室、キャビティ、第2凹室と称す)は、旋回気流を燃焼室内でスムースに旋回させて減衰を抑制する効果を有している。ところが旋回気流を維持し、崩壊の遅延を図ることが希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上という観点から必ずしも最適であるとは限らないことが判明した。
そこで本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、燃焼室内で旋回気流を案内して強度低下を抑制するとともに、圧縮行程の上死点手前で旋回気流を崩壊して燃焼室内に強力な乱れを発生させることで、希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上を図ることができる内燃機関を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は旋回気流を案内するための案内面と、平坦部とを含む凹部が冠面に形成されたピストンを有する内燃機関であって、前記案内面が円筒内面であるとともに、該円筒内面が吸気バルブ側円筒内面と排気バルブ側円筒内面であり、且つ該吸気バルブ側円筒内面と該排気バルブ側円筒内面に前記平坦部が挟まれており、燃焼室の高さHに対する前記平坦部の幅Lwの比Lw/Hが、ゼロよりも大きく、且つ4.5以下になるように前記平坦部の幅Lwが設定されており、前記平坦部が前記冠面の前記内燃機関のクランク軸線の延伸方向にある周縁端部に至るまで延伸することで、前記周縁端部に前記平坦部よりも凸の部分が形成されていないことを特徴とする。ここで、旋回気流の強度低下を抑制するとともに圧縮行程上死点手前で旋回気流を崩壊させれば、この早期に崩壊させた分だけ流動エネルギーが大きな状態で旋回気流を崩壊させることができることから、燃焼室内の乱れ強度をより増大させることができる。そしてこのように乱れ強度を増大させると、混合気のミキシング性向上や火炎の伝播促進が図られ、この結果、希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上を図ることができることが判明した。
本発明はこのような新たな知見に基づくものであり、このため本発明は、旋回気流を案内して強度低下を抑制するための構成である案内面と、旋回気流を圧縮行程の上死点手前で崩壊させるための構成である平坦部とを含む凹部が冠面に形成されたピストンを有するものとなっている。一方、上記のような旋回気流の崩壊には圧縮行程上死点手前での燃焼室形状が密接に関係してくる一方で、このときの燃焼室形状を特定するにあたって特に重要な要素は燃焼室の高さHに対する平坦部の幅Lwの割合であることがわかった。このため係る点に着目して上記のように平坦部の幅Lwを設定した本発明によれば、希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上を図ることができる。
また本発明は、前記案内面が円筒内面であるとともに、該円筒内面が吸気バルブ側円筒内面と排気バルブ側円筒内面であり、且つ該吸気バルブ側円筒内面と該排気バルブ側円筒内面に前記平坦部が挟まれていることから、吸気ポートからの吸気が排気側のシリンダ壁面に到達する場合に、旋回気流としてタンブル流を生成することができるとともに、生成したタンブル流の強度低下を抑制しつつ維持することができる。なお、吸気ポートからの吸気を吸気ポート側壁面に到達させるようにして逆タンブル流を生成する場合であっても本発明を適用可能である。また円筒内面はその中心軸線がクランク軸線と略平行になるものであることが好ましいが、燃焼室内に流入する吸気の流入態様に応じて円筒内面の中心軸線が、クランク軸線と所定の角度をなしてもよい。
本発明によれば、燃焼室内で旋回気流を案内して強度低下を抑制するとともに、圧縮行程の上死点手前で旋回気流を崩壊して燃焼室内に強力な乱れを発生させることで、希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上を図ることができる内燃機関を提供できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
図1は本実施例に係る内燃機関50Aの要部を模式的に示す図であり、具体的には図1(a)で内燃機関50Aの要部を模式的に示すとともに、図1(b)でピストン1Aの冠面2aAを上面視で模式的に示している。なお、図示しないクランク軸線は図1(a)において紙面と直交する方向に延伸している。内燃機関50Aは筒内燃料直接噴射式のガソリンエンジンである。但しこれに限られず、内燃機関50Aは例えば所謂リーンバーンエンジンなどであってもよい。すなわち、内燃機関50Aは本発明を効果的に実施できる内燃機関であれば特に限定されない。
内燃機関50Aはシリンダブロック51、シリンダヘッド52及びピストン1Aなどを有して構成されている。シリンダブロック51には略円筒状のシリンダ51aが形成されており、シリンダ51a内にはピストン1Aが収容されている。ピストン1Aは図示しないコネクティングロッドと連結されており、さらにコネクティングロッドは図示しないクランクシャフトと連結されている。これによって、ピストン1Aがシリンダ51a内で往復運動すると、コネクティングロッドを介してクランクシャフトに動力が伝達され、さらにクランクシャフトによって往復運動が回転運動に変換される。例えば内燃機関50Aを備えた車両では、この回転運動に変換された動力を利用して車両を駆動する。
シリンダブロック51にはシリンダヘッド52が固定されている。燃焼室54はシリンダブロック51、シリンダヘッド52及びピストン1Aによって囲われた空間として形成されている。燃焼室54を形成するシリンダヘッド52の壁面はペントルーフ状に形成されている。シリンダヘッド52には吸気を燃焼室54内に導入するための吸気ポート52bと、燃焼したガスを燃焼室54から排気するための排気ポート52aとが夫々形成されており、さらに吸気ポート52bを開閉するための吸気弁55と、排気ポート52aを開閉するための排気弁56とが夫々配設されている。
点火プラグ53は上方から燃焼室54に電極を突出させた状態でシリンダヘッド52に配設されている。燃料噴射弁(図示省略)は吸気ポート52b内に噴射孔を突出させた状態でシリンダヘッド52に配設されており、この燃料噴射弁は吸気行程でシリンダ51a内に直接燃料を噴射できるようになっている。なお、燃料噴射弁は燃焼室54内に噴射孔を突出させた状態で例えば吸気ポート52bよりもシリンダブロック52側の位置や、燃焼室54上方の位置などに配設されてもよい。
次にピストン1Aについて詳述する。ピストン1Aの冠面2aAは凹部1aAと冠面周縁部1bAとで構成されている。冠面周縁部1bAは燃焼室54を形成するシリンダヘッド52の壁面と略平行に形成された面と、シリンダヘッド51(またはシリンダブロック52)の合わせ面と略平行に形成された面とを有している。一方、凹部1aAは平坦部Lと、平坦部Lを挟むようにして形成された排気ポート52a側円筒内面R1と、吸気ポート52b側円筒内面R2とで構成されている。平坦部Lは冠面2aAの中央に凹部1aAの底面として配置されていおり、シリンダブロック51(またはシリンダヘッド52)の合わせ面と略平行に形成されている。円筒内面R1及びR2はクランク軸線と略平行な中心軸線P1、P2を有しており、この中心軸線P1、P2は図1(a)に示す平坦部Lの端部を含み平坦部Lと略直交する平面上に設定されている。このように円筒内面R1及びR2の中心軸線P1、P2は、シリンダ51a中心軸線からそれぞれ排気ポート52a側及び吸気ポート52b側にオフセットしている。また円筒内面R1及びR2夫々は平坦部Lと接線で繋がるように形成されている。なお、本実施例では円筒内面R1、R2の曲率半径は同一となっている。
ここで、平坦部Lの延伸方向(本実施例ではクランク軸線の延伸方向)と直交する方向の幅をLw、排気ポート52a側円筒内面R1の曲率半径をr1、吸気ポート52b側円筒内面R2の曲率半径をr2とし、ピストン1Aの直径をDとする。このピストン1Aの直径Dは90mmとなっている。また本実施例では平坦部Lの幅Lwは燃焼室54の高さHの2.6倍(Lw/H=2.6)に設定されている。なお、本実施例ではこの燃焼室54の高さHは燃焼室54のうち、シリンダヘッド52に形成された部分の高さを示しているが、これはピストン1Aが上死点にあるときに、平坦部Lがシリンダヘッド52の下端(或いはシリンダヘッド51の上端)近傍に位置するように設定されていることによるものであり、燃焼室54の高さHはピストン1Aが上死点にあるときの燃焼室54そのものの高さであってもよい。
上述した構成で、次に吸気行程から圧縮行程上死点手前に至るまでの過程において、燃焼室54内で変化する吸気の流動態様について詳述する。吸気行程において吸気弁55が開弁すると、吸気ポート52bから燃焼室54内に吸気が流入する。また吸気弁55は所定のクランク角度で閉弁する。一方、燃焼室54内に流入した吸気は排気ポート52a側のシリンダ51a壁面に到達し、ピストン1A方向に方向転換する。さらに吸気は円筒内面R1に沿ってスムースに方向転換し、平坦部Lに沿って円筒内面R2に到達するとともに、円筒内面R2に沿ってスムースに方向転換する(図1(a)及び(b))。続いて吸気は吸気ポート52b側のシリンダ51a壁面に到達後、シリンダヘッド52の壁面に沿って方向転換する。このようにして図1(a)に示すようなタンブル流Tが燃焼室54内に生成される。また、燃料噴射弁は吸気弁55開弁中にシリンダ51a内に燃料を噴射し、噴射された燃料の噴霧は燃焼室54内でタンブル流Tによって搬送される。
一方、ピストン1Aは下死点に到達後上死点へ向かって上昇し、これにより圧縮行程が開始される。圧縮行程においてもタンブル流Tは旋回を続け、燃焼室54内で次第に圧縮されながらも維持される。さらにピストン1Aは上死点手前まで上昇する。このとき縮小した燃焼室54内では、タンブル流Tは平坦部Lによって旋回状態を維持できなくなり崩壊させられる。ここで、圧縮行程上死点手前まで旋回状態が維持されたタンブル流Tは強度の低下が抑制されており、さらに圧縮行程上死点手前で早期に崩壊した分、タンブル流Tの流動エネルギーは燃焼室54内により強い乱れを生み出すことになる。このため上記のようにタンブル流Tが崩壊すると、縮小した燃焼室54内では強力な乱れが発生し、この結果、燃料と空気の混合及び火炎の伝播が促進される。
図2は吸気行程から圧縮行程上死点に至るまでの過程におけるタンブル強度(タンブル流Tの強度)及び燃焼室54内の乱れ強度の変化を、種々の形状のピストン冠面2Aについて比較して示す図であり、具体的には図2(a)でこのときのタンブル強度の変化を示すとともに、図2(b)でこのときの乱れ強度の変化を示している。また両図とも横軸はクランク角度を示している。比較に用いたピストン冠面2Aはピストン1Aの冠面2aA、平坦部Lを有しない本実施例と同一の曲率半径R1(またはR2)の凹部を有する冠面2bA及びフラットな冠面2cAである。なお、図2の横軸は吸気弁55開弁後、さらに燃焼室54内でタンブル流Tが生成された後の所定のクランク角度を原点としている。
図2(a)に示すように、フラットな冠面2cAの場合には他の2つの冠面2aA、2bAの場合と比較して、吸気行程から圧縮行程上死点に至るまで全体的にタンブル強度が低くなっていることがわかる。またフラットな冠面2cAの場合には、ポイントPcにおいてタンブル流Tが崩壊してタンブル強度が低下することがわかる。これに対して冠面2bAの場合にはタンブル強度の低下が抑制され、この結果、上死点付近のポイントPbにおいて最もタンブル強度が高くなっていることがわかる。
さらにこれら2つの冠面2bA、2cAの場合と比較して冠面2aAの場合には、タンブル強度は次のような特徴を有している。すなわち冠面2aAの場合には、吸気行程からポイントPa手前までは平坦部Lを有しない冠面2bAの場合とほぼ同等のタンブル強度である一方で、タンブル流Tが崩壊するポイントPaが、冠面2bAの場合のポイントPbと比較して早くなっていることがわかる。このことから冠面2aAは、吸気行程から圧縮行程上死点手前に至るまでタンブル強度の低下を抑制するとともに、圧縮行程上死点手前でタンブル流Tを早期に崩壊させることができる形状であることがわかる。なお、圧縮行程上死点手前とは、平坦部Lを有しない冠面2bAでタンブル流Tが崩壊する場合のポイントPbに対応するクランク角度よりも手前のクランク角度を意味するものである。
一方、乱れ強度は図2(b)から吸気弁55が閉弁するまでは各ピストン冠面2aA、2bA、2cA共にほぼ同様であることがわかる。すなわち、吸気行程において吸気弁55が閉弁するまでは、冠面形状の違いは乱れ強度に対してほとんど影響を及ぼしていないことがわかる。その後、フラットな冠面2cAの場合には、他の2つの冠面2aA、2bAと比較して乱れ強度が大きく低下することがわかる。これは、フラットな冠面2cAではタンブル流Tを好適に案内できないことから一様な整流効果を与えることができず、タンブル強度が低下しながら乱れに変換されることによる。また、図2(a)に示すポイントPcでタンブル流Tが崩壊するとその直後に乱れ強度が増大するので、フラットな冠面形状2cAの場合には、図2(b)に示すポイントPfのような波形ピークが形成される。
これに対して冠面2bAの場合には、凹部に沿ってタンブル流Tが案内されるためタンブル強度の低下が抑制される。したがって冠面2bAの場合には、フラットな冠面2cAの場合と比較して乱れ強度が大きいことがわかる。また冠面2bAの場合にあっては図2(a)に示すポイントPbから、略点火進角エリアまでタンブル流Tが崩壊せず維持されていることがわかる。そして冠面2bAの場合にあっては、ポイントPbにおけるタンブル流Tの崩壊が乱れ強度を増大させるとともにポイントPeのような波形ピークを形成するが、この時点でのタンブル流Tの崩壊は既に略点火進角エリアでの乱れ強度増大にはほとんど寄与できないことがわかる。
これら2つの冠面2bA、2cAの場合と比較して冠面2aAの場合には、乱れ強度は次のような特徴を有している。すなわち、冠面2aAの場合には、タンブル流Tが凹部1aAに沿って案内されることからタンブル強度の低下が抑制されるとともに、平坦部Lを有することからタンブル流TがポイントPaで早期に崩壊し、この結果、ポイントPdのような波形ピークが形成されるとともに略点火進角エリアで強力な乱れが発生することがわかる。
図3は略点火進角エリアにおけるタンブル強度及び乱れ強度を冠面2aA、2bA及び2cAについて内燃機関50Aの運転条件毎に示す図であり、具体的には図3(a)で低回転時(回転数1200rpm時)のタンブル強度、図3(b)で低回転時の乱れ強度、図3(c)で高回転時(回転数4000rpm時)のタンブル強度、図3(d)で高回転時の乱れ強度を夫々示している。また上記各図では内燃機関50Aの吸入空気量が大きい場合と小さい場合とについても夫々示している。
まず低回転時のタンブル強度については図3(a)から、冠面2aA、2bA及び2cAともに吸入空気量が大きい場合のほうが小さい場合よりもタンブル強度が大きくなることがわかる。次に各冠面について比較すると、フラットな冠面2cAは冠面2aA及び2bAよりもタンブル強度が大幅に小さくなることがわかる。一方、冠面2aAと冠面2bAは吸入空気量が大きい場合と小さい場合でともに同等のタンブル強度になることがわかる。低回転時の乱れ強度については図3(b)から、冠面2aA、2bA及び2cAともに吸入空気量が大きい場合のほうが小さい場合よりも乱れ強度が大きくなることがわかる。次に各冠面について比較すると、フラットな冠面2cAは冠面2aA及び2bAよりも乱れ強度が大幅に小さくなることがわかる。一方、冠面2aAは冠面2bAよりも吸入空気量が大きい場合と小さい場合でともに乱れ強度が大きくなる(向上代α1及びβ1)ことがわかる。
高回転時のタンブル強度については図3(c)から、冠面2aA、2bA及び2cAともに吸入空気量が大きい場合のほうが小さい場合よりもタンブル強度が大きくなることがわかる。また各冠面について比較すると、フラットな冠面2cAは冠面2aA及び2bAよりもタンブル強度が大幅に小さくなることがわかる。一方、冠面2aAと冠面2bAは吸入空気量が大きい場合と小さい場合でともに同等のタンブル強度になることがわかる。高回転時の乱れ強度については図3(d)から、冠面2aA、2bA及び2cAともに吸入空気量が大きい場合のほうが小さい場合よりも乱れ強度が大きくなることがわかる。次に各冠面について比較すると、フラットな冠面2cAは冠面2aA及び2bAよりも乱れ強度が大幅に小さくなることがわかる。一方、冠面2aAは冠面2bAよりも吸入空気量が大きい場合と小さい場合でともに乱れ強度が大きくなる(向上代α2及びβ2)ことがわかる。
上記より、冠面2aAは低回転時に吸入空気量の大小に関わらず大きな乱れを発生でき、また高回転時にも吸入空気量の大小に関わらず大きな乱れを発生できる形状であることがわかる。すなわち冠面2aAは内燃機関50Aの回転数及び吸入空気量が変化しても、大きな乱れを発生できる形状であることがわかる。なお、内燃機関50Aの回転数が大きくなるほど筒内の乱れが増大する傾向にあることから、これに伴い乱れ強度の向上代も小さくなる傾向にあり、このため乱れ強度の向上代はα1>α2、β1>β2の関係にある。
上記結果を踏まえて、次に冠面2aA、2bA、2cA夫々を適用した場合の内燃機関50Aの燃料消費率と空燃比の関係について図4を用いて詳述する。図4に示すグラフは縦軸が燃料消費率、横軸が空燃比となっており、希薄燃焼時のこれらの特性を示している。なお、燃料消費率は同一の空燃比で燃料噴射量が多いほど高くなる。図4に示すように空燃比がストイキである場合には、各冠面2aA、2bA、2cAともに燃料消費率はほぼ同等となっている。一方、前述した図3に示すように、冠面2cAの場合には冠面2aA、2bAの場合よりも乱れ強度が小さいため混合気のミキシング性や火炎の伝播性も低い。したがって冠面2cAの場合には空燃比がリーンになるに従って、冠面2aA、2bAよりも余計に燃料を噴射する必要が生じ、この結果、燃料消費率が高くなる。これに対して冠面2aAの場合には、他の2つの冠面2bA、2cAの場合よりも乱れ強度が大きいため混合気のミキシング性や火炎の伝播性が高く、余計に燃料を噴射する必要がないため燃料消費率が低くなる。また平坦部Lを有しない冠面2bAの場合には、冠面2aAと比較して図3に示す差の分だけ乱れ強度が低くなることから、この差分だけ燃料消費率が高く表れている。
さらにフラットな冠面2cAの場合にはタンブル強度が低いため、空燃比がリーンになるほど火炎の伝播が困難になり、失火やトルク変動を引き起こす。これに対して冠面2aAの場合にはタンブル強度が高いため、冠面2cAと比較して空燃比がよりリーンになっても良好な火炎伝播が可能になる。したがって図4に示すように冠面2aAの場合には冠面2cAの場合と比較して、より希薄燃焼限界がリーン側に拡大されていることがわかる。また平坦部Lを有しない冠面2bAの場合には冠面2aAと比較して図3に示す乱れ強度の差の分だけ燃焼性が低くなることから、この差分だけ希薄燃焼限界が低く表れている。
次に冠面2aA、2bA、2cA夫々を適用した場合の内燃機関50Aの全負荷性能について図5を用いて詳述する。図5に示すグラフは、縦軸が軸トルク、横軸が内燃機関50Aの回転数を示している。フラットな冠面2cAの場合と冠面2aAの場合を比較すると、乱れ強度が大きい冠面2aAの場合のほうが回転数全域にわたって軸トルクが向上していることがわかる。さらに図中矢印で示すように低回転数領域で大幅に軸トルクが向上していることから、特に低回転数領域で乱れ強度増大の効果が大きく表れていることがわかる。また平坦部Lを有しない冠面2bAと比較しても冠面2aAのほうが図3に示す乱れ強度の差分だけ軸トルクが向上していることがわかる。
次にピストン1Aの平坦部Lに設定する幅Lwの大きさについて図6を用いて詳述する。図6は吸気行程から圧縮行程上死点に至るまでの過程におけるタンブル強度及び燃焼室54内の乱れ強度の変化を、燃焼室54の高さHに対してピストン1Aの平坦部Lの幅Lwを変化させた場合夫々について比較して示す図であり、具体的には図6(a)でこのときのタンブル強度の変化を示すとともに、図6(b)でこのときの乱れ強度の変化を示している。また両図とも横軸はクランク角度を示している。なお、図6に示すLw=0の場合は前述した冠面2bAの場合と同一であり、Lw/H=2.6の場合は冠面2aAの場合と同一である。また図6では参考としてフラットな冠面2cAの場合についても同時に示している。
図6(a)及び(b)で略点火進角エリア付近に着目し、Lw/H=0の場合と幅Lwを変化させた場合とを比較する。幅Lwを燃焼室54の高さHの0.8倍(Lw/H=0.8)に設定した場合には、図6(a)よりLw=0の場合とタンブル強度はほぼ同等であり、タンブル流Tが崩壊するポイントがポイントPbからPgに早まる。また図6(b)より、Lw/H=0.8の場合にはLw=0の場合よりも略点火進角エリアで乱れ強度が増大していることがわかる。すなわちLw/H=0.8の場合には、タンブル強度の低下を抑制するとともに圧縮行程上死点手前でタンブル流Tを崩壊させて、略点火進角エリアで乱れ強度の増大を図れることがわかる。
Lw/H=2.6の場合には、Lw/H=0.8の場合よりもさらにタンブル流Tが崩壊するポイントがポイントPaに早まり(図6(a))、また、略点火進角エリアでさらに乱れ強度が増大する(図6(b))。Lw/Hが2.6より大きくなるとさらにタンブル流Tの崩壊が早まるが、崩壊時及び略点火進角エリアでの乱れ強さはLw/H=2.6近傍を最大として次第に低下していく。そしてLw/H=4.3の場合には、図6(a)に示すポイントPhのようにタンブル流Tの崩壊が早まり過ぎて略点火進角エリアでタンブル強度が低下する。ただし図6(b)に示すように、略点火進角エリアにおける乱れ強度はLw=0の場合と比較してほぼ同等である。Lw/H=6.4の場合には、タンブル強度の低下を抑制してタンブル流Tを案内することが困難となり、図6(a)及び(b)に示すようにフラットな冠面2cAとほぼ同等のタンブル強度及び乱れ強度にまで低下する。
図7は燃焼室54の高さHに対してピストン1Aの平坦部Lの幅Lwを変化させた場合の略点火進角エリアにおけるタンブル強度及び乱れ強度を示す図であり、具体的には図7(a)でこのときのタンブル強度を示すとともに、図7(b)でこのときの乱れ強度を示している。また上記各図ではさらに低回転時と高回転時の場合について夫々示すとともに、参考としてフラットな冠面2cAの場合についても同時に示している。図7(a)を参照するとLw/Hに対応するタンブル強度を把握することができることから、この図7(a)でタンブル強度を確認することにより、0<Lw/H≦3.0を適正なタンブル強度を維持できるLw/Hの範囲として導き出すことができる。
一方、乱れ強度に関しては、乱れ強度が低回転時のLw=0の場合に発生する乱れ強度よりも大きい場合には効果的であると判断することができる。これに対して図7(b)からLw/Hが4.5よりも大きくなると、乱れ強度が低回転時のLw=0の場合に発生する乱れ強度よりも低下してしまうことがわかる。このため図7(b)から0<Lw/H≦4.5を乱れ強度を十分に増大できるLw/Hの範囲と導き出すことができる。一方、高回転時には筒内の乱れが増大する傾向にあることから、平坦部Lの幅Lwが大きいと圧縮行程上死点手前まで十分なタンブル強度でタンブル流Tを維持できなくなる虞がある。これに対してさらに図7(a)も考慮すると、0<Lw/H≦3.0を乱れ強度を十分に増大できるより好ましいLw/Hの範囲と導き出すことができる。したがってこれを満たすようにLw/Hを設定すれば、より好適にタンブル強度の低下を抑制するとともに乱れ強度を増大させることができる。
なお、冠面2aAは平坦部Lを有しない冠面2bAと比較して冠面周縁部1bAの大きさも低減できることから、圧縮行程において冠面周縁部1bAから発生するよどみ成分も低減でき、これによってもタンブル流Tの強度低下を抑制できる。また、円筒内面R1及びR2の中心軸線P1、P2を図1(a)に示す平坦部Lの端部を含み平坦部Lと略直交する平面上に設定することで、円筒内面R1、R2を平坦部Lと最もスムースに繋がるように(すなわち接線で繋がるように)形成することができることから、これによってもタンブル強度の低下を抑制できる。以上により、希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上を好適に図ることが可能な内燃機関50Aを実現できる。
本実施例に係る内燃機関50Bは、ピストン1Aの代わりにピストン1Bを備えている点以外、実施例1に係る内燃機関50Aと同一のものとなっている、またピストン1Bは、円筒内面R1、R2及び平坦部Lのクランク軸線と平行な方向の端部に、冠面2aBの周縁に沿って延伸する気流案内部Bをさらに備えている点以外、ピストン1Aと同一のものとなっている。図8はピストン1Bの冠面2aBを上面視で模式的に示す図である。気流案内部Bはピストン1Bの中心軸線を含みクランク軸線と略平行な面で対称な形状となっており、且つ気流案内部B夫々はピストン1Bの中心軸線を含みクランク軸線と略直交する面で互いに対称な形状となっている。また気流案内部B夫々の互いに対向する面各々は上面視で円弧状に形成されている。なお、気流案内部Bの幅bは気流案内部Bの冠面2aB中心に向かう方向の幅のうち最大の幅である。
気流案内部Bは図8中に矢印で示すような横旋回成分Sを抑制してタンブル流Tの整流効果を高めることができることから、これによりタンブル強度の低下を抑制することができる。なお、横旋回成分Sを抑制するための最適な気流案内部Bの配置や形状は例えば吸気ポート52bの形状、シリンダヘッド52側の燃焼室54の形状、ピストン1Bのストローク長、ボア径、ピストン1Bの平坦部Lの幅Lwやこの幅Lwの後述するオフセット量など(以下、単に内燃機関50の諸元と称す)によって異なってくる。このため気流案内部Bの具体的な配置や形状に関しては後に実施例9で詳述する。
一方、気流案内部Bの幅bの大きさは、タンブル強度の低下を抑制するとともに圧縮工程上死点手前でタンブル流Tを崩壊させて乱れ強度を増大させる効果を生み出す凹部1aBの大きさと密接な関係を有することから、係る効果を奏するにあたって重要な要素となる。図9は吸気行程から圧縮行程上死点に至るまでの過程におけるタンブル強度の変化を、燃焼室54の高さHに対して気流案内部Bの幅bを変化させた場合夫々について比較して示す図である。なお、図9に示すb=0の場合は、実施例1で示したピストン1Aの冠面2aAの場合と同一である。また図9では参考として実施例1で示したフラットな冠面2cAの場合についても同時に示している。
b/H=1.0の場合には、b=0の場合とほぼ同等のタンブル強度となる一方で、さらにタンブル流Tが崩壊するポイントがポイントPaからPiに早まるため早期に強力な乱れを発生させることができることがわかる。これに対してb/H=2.2の場合にはタンブル強度が低下することがわかり、さらにb/H=3.0の場合にはフラットな冠面2cAの場合とほぼ同等のタンブル強度にまで低下することがわかる。
図10は燃焼室54の高さHに対して気流案内部Bの幅bを変化させた場合の略点火進角エリアにおけるタンブル強度及び乱れ強度を示す図であり、具体的には図10(a)でこのときのタンブル強度を示すとともに、図10(b)でこのときの乱れ強度を示している。また上記各図ではさらに低回転時と高回転時の場合についても夫々示すとともに、参考としてフラットな冠面2cAの場合についても同時に示している。図10(a)からb/Hが大きくなるとタンブル強度はb/H=1.0近傍をピークに緩やかに低下することがわかる。また内燃機関50Aの回転数の大きさに関わらず、タンブル強度はb/Hが1.0よりも大きくなると低下する傾向にある。これは幅bが大きくなるとその分、凹部1aAが縮小されるという関係にあることに起因する。この図10(a)でタンブル強度を確認することにより、0<b/H≦2.0を適正なタンブル強度を維持できるb/Hの範囲と導き出すことができる。
一方、乱れ強度に関しては図10(b)から、0<b/H≦2.5を乱れ強度を十分な大きさに増大させることができるb/Hの範囲と導き出すことができる。これに対してさらに図10(a)も考慮すると、0<b/H<2.0を乱れ強度を十分な大きさに増大させることができるより好ましい範囲と導き出すことができる。したがってこれを満たすようにb/Hを設定すれば、より好適にタンブル強度の低下を抑制するとともに乱れ強度を増大させることができる。以上により、希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上をより好適に図ることが可能な内燃機関50Bを実現できる。
本実施例に係る内燃機関50Cは、ピストン1Aの代わりにピストン1Cを備えている点と、諸元が異なるものと想定している点以外、実施例1に係る内燃機関50Aと同一のものとなっている。またピストン1Cは、円筒内面R1及びR2の曲率半径r1及びr2が互いに異なる点以外、ピストン1Aと同一のものとなっている。図11は内燃機関50Cの要部を模式的に示す図であり、具体的には図11(a)で内燃機関50Cの要部を模式的に示すとともに、図11(b)でピストン1Cの冠面2aCを上面視で模式的に示している。円筒内面R1及びR2の中心軸線P1、P2は平坦部Lの端部を含み平坦部Lと略直交する平面上に設定されており、円筒内面R1及びR2夫々は平坦部Lと接線で繋がるように形成されている。
そして図11に示すように曲率半径r1をr2よりも大きくした場合には、排気ポート52a側の冠面周縁部1bCを縮小できる。この場合にはピストン1C上昇運動時に発生する排気側よどみ成分を低減できることから、タンブル流Tを円筒内面R1で良好に巻き込むことができる。一方、逆に曲率半径r2をr1よりも大きくすれば、吸気ポート52b側の冠面周縁部1bCを縮小できる。この場合にはピストン1C上昇運動時に発生する吸気側よどみ成分を低減できることから、タンブル流Tを円筒内面R2で良好に巻き上げることができる。このように排気ポート52a側と吸気ポート52b側の円筒内面R1、R2を異なる曲率半径で形成すれば、内燃機関50Cの諸元に応じてタンブル流Tの巻き込み側(或いは巻き上げ側)のよどみ成分をより低減させるといった調整が可能であり、これによりタンブル強度の低下をより好適に抑制できる。
なお、ピストン1Cをさらに図12に示すように変形することもできる。この変形例は、円筒内面R2の中心軸線P2を平坦部Lの端部を含み平坦部Lと略直交する平面上に設定する一方で、円筒内面R1の中心軸線P1を平坦部Lの端部を含み平坦部Lと略直交する平面上に設定しない例となっている。またこの例はさらに実施例5で後述するように平坦部Lをオフセットさせた例となっている。この例では円筒内面R1と平坦部Lがスムースに繋がらない分、タンブル強度の低下を招く虞があるが、内燃機関50の諸元次第では係る形状を適用してもよい。以上により、希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上をより好適に図ることが可能な内燃機関50Cを実現できる。
本実施例に係る内燃機関50Dは、ピストン1Cの代わりにピストン1Dを備えている点以外、実施例3に係る内燃機関50Cと同一のものとなっている、またピストン1Dは、実施例2で示した気流案内部Bをさらに備えている点以外、ピストン1Cと同一のものとなっている(図示省略)。この内燃機関50Dによれば、気流案内部Bで横旋回成分Sを抑制して整流効果を得られるので、内燃機関50Cよりも好適にタンブル強度低下を抑制できる。このため内燃機関50Dでは希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上をより好適に図ることができる。
本実施例に係る内燃機関50Eは、ピストン1Aの代わりにピストン1Eを備えている点と、諸元が異なるものと想定している点以外、実施例1に係る内燃機関50Aと同一のものとなっている、またピストン1Eは、平坦部Lを吸気ポート52b側または排気ポート52a側にオフセットさせている点以外、ピストン1Aと同一のものとなっている。図13は内燃機関50Eの要部を模式的に示す図であり、具体的には図13(a)で内燃機関50Eの要部を模式的に示すとともに、図13(b)でピストン1Eの冠面を上面視で模式的に示している。
ここで、平坦部Lの最適な配置は必ずしも冠面2a中央になるとは限らない。これは内燃機関50の諸元が異なると吸気がシリンダ51a壁面に到達する位置や燃焼室54内で旋回するタンブル流Tの大きさなどが異なってくるためである。したがって本実施例では内燃機関50Eの諸元に応じて、図13(a)に示すように平坦部Lをオフセット比Lw1:Lw2で吸気ポート52b側または排気ポート52a側にオフセットさせている。これによりタンブル流Tを凹部1aEでより好適に案内できることから、内燃機関50Eでは希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上をより好適に図ることができる。次に冠面2aEの変形例を実施例6から8までで示す。
本実施例に係る内燃機関50Fは、ピストン1Eの代わりにピストン1Fを備えている点以外、実施例5に係る内燃機関50Eと同一のものとなっている。またピストン1Fは、実施例2で示した気流案内部Bをさらに備えている点以外、ピストン1Eと同一のものとなっている(図示省略)。この内燃機関50Fによれば、気流案内部Bで横旋回成分Sを抑制して整流効果を得られるので内燃機関50Eよりも好適にタンブル強度低下を抑制できる。このため内燃機関50Fでは希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上をより好適に図ることができる。
本実施例に係る内燃機関50Gは、ピストン1Eの代わりにピストン1Gを備えている点以外、実施例5に係る内燃機関50Eと同一のものとなっている。またピストン1Gは円筒内面R1及びR2の曲率半径r1及びr2が互いに異なる点以外、ピストン1Eと同一のものとなっている。図14は内燃機関50Gの要部を模式的に示す図であり、具体的には図14(a)で内燃機関50Gの要部を模式的に示すとともに、図14(b)でピストン1Gの冠面2aGを上面視で示している。この内燃機関50Gによれば、冠面周縁部1bGを縮小してピストン1G上昇運動時のよどみ成分を低減できるので、内燃機関50Eよりもタンブル強度の低下をより好適に抑制できる。この結果、内燃機関50Gでは希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上をより好適に図ることができる。
本実施例に係る内燃機関50Hは、ピストン1Gの代わりにピストン1Hを備えている点以外、実施例7に係る内燃機関50Gと同一のものとなっている。またピストン1Hは、実施例2で示した気流案内部Bをさらに備えている点以外、ピストン1Gと同一のものとなっている(図示省略)。この内燃機関50Hによれば、気流案内部Bで横旋回成分Sを抑制するとともにピストン1H上昇運動時のよどみ成分を低減できるので、実施例5から7までの内燃機関50E、50F、50Gと比較して最も好適にタンブル強度の低下を抑制できる。この結果、内燃機関50Hでは希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上をより好適に図ることができる。
次に上述した実施例2、4、6及び8に係るピストン1B、1D、1F及び1Hが備える気流案内部Bの形状及び配置について詳述する。図15は気流案内部Bを備えるピストン1J、1K、1L、1M及び1Nの冠面2aを上面視で模式的に示す図である。気流案内部Bの形状や配置は図15に示すように内燃機関50の諸元に応じて適宜変形されてよく、具体的には例えば図15(a)に示すピストン1Jのように、気流案内部Bは気流案内部B夫々の互いに対向する面各々が上面視で円弧状になるように形成されたもので実現できる。なお、この面各々も上面視で円弧状になるものに限られず、例えば上面視で楕円状、異なる曲率半径の円弧を連ねたような形状、または円弧の代わりに直線を連ねたような形状になるものなどであってもよい。また気流案内部Bは例えば図15(b)に示すピストン1Kのように、気流案内部B夫々の互いに対向する面各々が上面視でクランク軸線と直交する方向に直線状となるように形成されたもので実現できる。
また、気流案内部Bは例えば図15(c)に示すピストン1Lのように、気流案内部B夫々の互いに対向する面各々が、上面視で平坦部Lに対応する部分については直線状となるように、円筒内面R1及びR2に対応する部分については円弧状となるように形成されたもので実現できる。また、平坦部Lがオフセットしている場合及び曲率半径r1及びr2が異なる場合には、これらの形状に基づいて図15(c)に示すピストン1Lの気流案内部Bを図15(d)に示すピストン1Mの気流案内部Bのように変形することも可能である。なお、上記図15(a)から(d)まででは、気流案内部Bはピストン1Bの中心軸線を含みクランク軸線と略平行な面で対称な形状となっており、且つ気流案内部B夫々はピストン1Bの中心軸線を含みクランク軸線と略直交する面で互いに対称な形状となっている。これに対して気流案内部Bを例えば図15(e)に示すように、対向する気流案内部B間の幅がピストン1N冠面の気流巻上げ側(吸気ポート52b側)で狭くなるように配置することも可能である。このようにシリンダ中心軸線を含むとともにクランク軸線に略平行な面で非対称になるように気流案内部Bを配置すれば、タンブル流Tを巻き上げる勢いを増大させることもできる。
また、気流案内部Bを備えることでトップリング部TRからピストン1の冠面2aまでの肉厚を確保することができるので、これによってピストン強度を高めることもできる。図16は、図15(a)で示したピストン1Jを模式的に示す図であり、具体的には図16(a)でピストン1Jの冠面1aJを上面視で示すとともに、図16(b)で図16(a)に示すピストン1JのA−A断面を示し、さらに図16(c)で図16(b)に示すピストン1JのA−A断面の変形例を示している。図16(b)に示すように、気流案内部Bを備えることでトップリング部TRからピストン1J冠面2aJまでの肉厚Hを確保することができることから、これによりピストン強度を高めることができる。なお、肉厚Hは5mm以上であることが好ましいが、これに限られず適宜設定してよい。また気流案内部Bの角隅部Kは図16(b)に示すような略直角な形状に限られず、例えば角隅部にR面取りを施すことは勿論のこと、円弧状の曲面形状や図16(c)に示すようにスムースな除辺によって繋がる形状などにすることも可能である。
また、以下に示すようにしてさらにピストン強度を高めることも可能である。図17は平坦部Lを有する冠面2aと平坦部Lを有しない冠面2bとを重ねて模式的に示す図であり、この冠面2aと冠面2bは冠面周縁部1bの大きさが互いに同一に設定されている。ここで、ピストン1の中心軸線が延伸する方向でトップリング部TRを凹部1aに重ねて設定する場合には、トップリング部TRと凹部1aとの間の肉厚Wが薄くなるため、ピストン強度が低下する虞がある。これに対して冠面周縁部1bの大きさを同一にして比較した場合、平坦部Lを有する冠面2aのほうが冠面2bよりも凹部1aの深さを浅く設定できる。したがって冠面2aを有するピストン1ではピストン1の中心軸線が延伸する方向でトップリング部TRを凹部1aよりも下方に容易に設定できることから、これによりさらにピストン強度を高めることもできる。
このため本実施例で示したピストン1J、1K、1L、1M及び1Nに対してさらに上記のようにトップリング部TRを設定すれば、これらピストン1J、1K、1L、1M及び1Nを備える内燃機関50J、50K、50L、50M及び50Nで希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上をより好適に図るとともに、さらにピストン強度を高めることもできる。なお、上記のようにトップリングTR部を設定することは、本実施例で示したピストン1J、1K、1L、1M及び1Nに限られず、実施例1から8に係るピストン1Aから1Hにおいても可能である。以上により、希薄燃焼領域の拡大及び出力性能の向上をより好適に図ることが可能な内燃機関50Jから50Nまでを実現できる。
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。例えばピストンの凹部に形成する案内面には、加工容易性や旋回気流の強度低下を好適に抑制できる形状といった観点から円筒内面を適用することが好適であるが、これに限らず楕円面や他の曲面や平面などを適用することも可能である。
内燃機関50Aの要部を模式的に示す図である。
吸気行程から圧縮行程上死点に至るまでの過程におけるタンブル強度及び燃焼室54内の乱れ強度の変化を、種々の形状のピストン冠面2Aについて比較して示す図である。
略点火進角エリアにおけるタンブル強度及び乱れ強度を冠面2aA、2bA及び2cAについて内燃機関50Aの運転条件毎に示す図である。
冠面2aA、2bA、2cA夫々を適用した場合の内燃機関50Aの燃料消費率と空燃比の関係を比較して示す図である。
冠面2aA、2bA、2cA夫々を適用した場合の内燃機関50Aの全負荷性能を比較して示す図である。
吸気行程から圧縮行程上死点に至るまでの過程におけるタンブル強度及び燃焼室54内の乱れ強度の変化を、燃焼室54の高さHに対してピストン1Aの平坦部Lの幅Lwを変化させた場合夫々について比較して示す図である。
燃焼室54の高さHに対してピストン1Aの平坦部Lの幅Lwを変化させた場合の略点火進角エリアにおけるタンブル強度及び乱れ強度を示す図である。
ピストン1Bの冠面2aBを上面視で模式的に示す図である。
吸気行程から圧縮行程上死点に至るまでの過程におけるタンブル強度の変化を、燃焼室54の高さHに対して気流案内部Bの幅bを変化させた場合夫々について比較して示す図である。
燃焼室54の高さHに対して気流案内部Bの幅bを変化させた場合の略点火進角エリアにおけるタンブル強度及び乱れ強度を示す図である。
内燃機関50Cの要部を模式的に示す図である。
ピストン1Cの変形例の一例を示す図である。
内燃機関50Eの要部を模式的に示す図である。
内燃機関50Gの要部を模式的に示す図である。
気流案内部Bを備えるピストン1J、1K、1L、1M及び1Nの冠面2aを上面視で模式的に示す図である。
ピストン1Jを模式的に示す図である。
平坦部Lを有する冠面2aと平坦部Lを有しない冠面2bとを重ねて模式的に示した図である。
符号の説明
1 ピストン
1a 凹部
1b 冠面周縁部
2 ピストン冠面
2a 平坦部Lを有する冠面
2b 平坦部Lを有しない冠面
2c フラットな冠面
50 内燃機関