JP4777166B2 - 非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法 - Google Patents

非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法 Download PDF

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Description

本発明は、建築鉄骨として使用される四面ボックス柱を構成するスキンプレートの表面とダイヤフラムとの溶接に適用される非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法に関する。
一般に、エレクトロスラグ溶接法は、大入熱1パス溶接が可能なため、他の溶接法に比べて高能率な溶接が可能であり、建築及び橋梁等の溶接構造物における鉄骨のダイヤフラム等を立向溶接する際に多く用いられている。近年、各種エレクトロスラグ溶接法の中でも特に、取り扱いの簡便さから、非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接が多用さている。
その一方で、エレクトロスラグ溶接法は、溶接入熱量が500kJ/cm程度以上と一般のアーク溶接に比べて大きいため、溶接で形成される溶接金属の冷却速度が小さく、溶接金属及び溶接熱影響部(HAZ)の靱性確保が容易ではないという問題点がある。エレクトロスラグ溶接法は、鋼材及び裏当金からの希釈が大きいため、4面ボックス柱のダイヤフラム溶接等における溶接金属の靱性確保には、溶接ワイヤの組成に加えて、スキンプレート及びダイヤフラムに用いる鋼板の化学組成、更には裏当金の組成が大きく影響する。そこで、近時、ワイヤ組成と鋼板及び裏当金との組み合わせを最適化して、溶接金属靱性を向上させる方法が開発されつつある。しかしながら、鋼板はダイヤフラム及びスキンプレート各々の必要特性から、自由に化学組成を変えられない場合もあり、また、裏当金も市場供給性及びコストの観点からやはり化学組成に制限があるため、前述した化学組成を最適化する方法は、常に適用できるとは限らない。
また、一定の溶接ワイヤ、鋼板及び裏当金を用いる場合には、溶接条件等によって、溶接金属の靱性を最適化することが好ましい。しかしながら、エレクトロスラグ溶接の場合、どのような継手ディテールであっても1パスで溶接を完了することが不可避であるため、その溶接条件(特に、電流、電圧及び溶接速度から決まる溶接入熱量)は、鋼板板厚、特にダイヤフラム厚及び開先幅(ボックス柱を構成するスキンプレート表面とダイヤフラム端部との間隙)により決定される溶接金属で埋めるべき開先断面積によって、比較的狭い範囲に限定され、他の多層盛溶接のように入熱を自由に広い範囲で変えることはできない。
以上の理由から、エレクトロスラグ溶接において、溶接条件を制御することによって溶接金属の靱性を大幅に向上させる試みは、ほとんどなされていないのが現状であり、従来、溶接金属の靱性を向上させる方法としては、主に、一定の溶接条件下で専ら溶接金属の組成を変化させる方法が採用されていた(例えば、特許文献1参照)。例えば、特許文献1には、溶接金属の靭性向上を目的として、C、Si、Mn、Mo、Ni、Ti、B、N及びOの含有量を適正化した大入熱エレクトロスラグ溶接用ワイヤが開示されている。一方、従来、溶接条件を規定することにより、溶接金属の靱性を向上させる方法としては、開先幅を限定する方法が試みられている(例えば、特許文献2参照。)。例えば、特許文献2に記載のボックス柱のダイヤフラム溶接方法では、ルート間隔を16〜22mmに設定して、非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接法で溶接することにより、ダイヤフラム溶接部のシャルピー吸収エネルギー量をボックス板材の最低シャルピー吸収エネルギー量以上にしている。
特開2002−79396号公報 特開平6−269963号公報
しかしながら、前述したように、エレクトロスラグ溶接法においては、溶接金属の靭性は、溶接ワイヤだけでなく母材及び裏当金の組成の影響も受けるため、特許文献1に記載の溶接用ワイヤを使用したとしても、十分な靭性が得られるとは限らない。また、特許文献2に記載の方法では、全ての継手ディテールにおいて、スキンプレート側での十分な溶け込み幅の確保及び溶け込み不良等の溶接欠陥の確実な回避を前提としており、更に溶接金属の靱性を向上することは困難である。
上述の如く、従来のボックス柱のエレクトロスラグ溶接方法においては、一定の溶接金属の要求靱性に対して、1つの溶接ワイヤで対応できる継手ディテール(ダイヤフラムとスキンプレート厚の組み合わせ)の範囲はかなり狭く、例えば、厚スキンプレートと薄ダイヤフラム、薄スキンプレートと厚ダイヤフラム、更に、その中間の組み合わせ毎に、各々溶接ワイヤの成分組成を変える必要がある。このような従来のエレクトロスラグ溶接方法は、溶接作業が煩雑であり、実効入熱的に厳しい薄スキンプレートと厚ダイヤフラムとの組み合わせに対しては、合金元素量の多い高価な特殊溶接ワイヤを使わなければならない状況にもなり、継手の生産性が低下すると共に、製造コストが増加するという問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであって、溶接ワイヤ、鋼材及び裏当金の成分組成を変更することなく、溶接条件の制御により、継手の健全性を維持しつつ、溶接金属の靭性を安定的に向上させることができる非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法を提供することを目的とする。
ボックス柱の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の靱性は、溶接入熱量を低減することにより確実に向上する。しかしながら、溶接入熱量を低減すると、スキンプレート側での溶接金属の全溶け込み幅、即ち、スキンプレートのダイヤフラム板厚方向での溶融幅からダイヤフラム厚を差し引いた余分の溶け込み幅(以下、単にスキンプレートの溶け込み幅ともいう。)で指標化される鋼材への溶け込み量を保証することは困難となる。
そこで、本発明者は、ボックス柱を非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接する場合、溶接金属の断面積と溶接入熱量との間に強い相関があることに着目し、要求される継手強度及び溶接欠陥回避等の溶接継手の健全性を維持するため、スキンプレート側での溶接金属の溶け込み幅を確保しつつ、靭性を良好に保持するために溶接金属断面積、即ち、溶接長手方向に直角な断面の溶接金属の断面積(以下、単に断面積という。)を、極力小さくするための溶接条件について詳細に検討した。
その結果、ダイヤフラム厚に応じて溶接金属の断面積の上限を規定し、その上で、特定の溶接条件を制御し、断面形状が所定の扁平比(長径W/短径D)を有し、スキンプレート側の溶け込み幅が所定以上である溶接金属を形成させることにより、要求される継手強度及び溶接欠陥回避等の溶接継手の健全性を維持しつつ、溶接金属の靭性を向上することができることを見出した。本発明は、上述した知見及び思想に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
即ち、本発明に係る非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法は、ボックス柱を構成するスキンプレートの表面と、ダイヤフラムの端部と、これらの間に設けられた間隙の両側に配置された裏当金とにより形成される開先空間内に、フラックスを充填すると共に給電ノズルを挿入し、この給電ノズル内にワイヤを送給しながら前記給電ノズルを鉛直方向に引き上げつつ溶接する非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法において、前記スキンプレートの表面と前記ダイヤフラムの端部との間の間隙の幅を19〜25mmとすると共に、前記ダイヤフラムの板厚TD(mm)に対して、溶接入熱量Q(kJ/cm)が下記数式(1)を満足するようにし、スラグ浴深さを15〜35mmとし、更に、前記給電ノズルの表面と前記スキンプレートの表面との最小距離が1〜5mmであり、前記給電ノズルの揺動幅sw(mm)が下記数式(2)を満足し、前記給電ノズルの揺動回数が2〜10往復/分であり、かつ折り返し点での停止時間が2〜10秒間である条件で、前記給電ノズルを前記ダイヤフラムの板厚方向に揺動させ、溶接方向に垂直な断面において、前記スキンプレート側の溶け込み幅が3mm以上で、断面積SA(mm2)が下記数式(3)を満足し、長径Wと短径Dとの比(W/D)が1.1以上である楕円形状の溶接金属を形成することを特徴とする。
Figure 0004777166
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この非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法においては、溶接速度、溶接電流及び溶接電圧のうちの1種又は2種以上の条件を調節することにより、前記溶接入熱量Qを上記数式(1)で規定している範囲内にすることができる。
また、前記開先空間内に、予め散布されるフラックス量を調節することにより、前記スラグ浴の深さを15〜35mmの範囲内にすることもできる。
本発明によれば、非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接によって、ボックス柱を構成するスキンプレート表面とダイヤフラムとを溶接するに際し、ダイヤフラム厚に応じて溶接金属の断面積の上限を規定しすると共に、特定の溶接条件を制御することにより、断面形状が所定の扁平比で、スキンプレート側の溶け込み幅が良好な溶接金属を形成させているため、溶接ワイヤやフラックス等の溶接材料、ダイヤフラム、スキンプレート及び裏当金等の成分組成を変えずに、溶接条件の最適化により、幅広い継手ディテールに対して要求される継手健全性を維持しつつ、更に溶接金属の靱性を向上させることが可能となる。本発明の適用により、建築鉄骨における四面ボックス柱の溶接において、溶接作業効率を良好に維持しつつ信頼性の高い溶接継手を提供することが可能となり、産業上の効果は顕著である。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。一般に、建築鉄骨におけるボックス柱を非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接する方法は、概略以下のように行なわれる。ボックス柱は、所定厚みの4枚の溶接構造用厚鋼材からなるスキンプレートで構成されている。そして、ボックス柱の内側のスキンプレート表面に対して、ダイヤフラムをその端部とスキンプレートとの間に設けられた間隙(開先幅)が所定範囲になるように配置し、この間隙の両側に2枚の裏当金を、スキンプレート表面及びダイヤフラム端部側面に当接するようにして配置する。また、溶接する際は、スキンプレート表面、ダイヤフラム端部、及び裏当金によって上下以外の部分が密閉された開先空間内に、フラックスを充填すると共に給電ノズルを挿入し、この給電ノズル内にワイヤを送給しながら給電ノズルを垂直方向に引き上げつつ行う。
このボックス柱の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接は、建築用途が大半であるため、スキンプレート及びダイヤフラムとして使用される鋼材としては、一般に、JIS規格で規定されている溶接構造用熱間圧延鋼(例えば、SM材490、SM520及びSM570等)が挙げられる。特に、靭性及び耐ラメラティア特性が要求される場合には、建築構造用圧延鋼(例えば、SN400、SN490及びSA440等)が使用される。また、溶接ワイヤとしては、溶接金属に対する強度及び靭性要求に応じて、例えば、JIS Z3353 YES52又はJIS Z3353 YES62相当品が用いられる。一方、裏当金は、構造部材ではないため、通常、鋼材の強度レベルに関わらず、490MPa級の平鋼(フラットバー)が用いられる場合が多いが、スキンプレート及びダイヤフラムと同等の鋼材が用いられる場合もあり得る。
図1(a)はエレクトロスラグ溶接の概要を模式的に示す図であり、図1(b)は図1(a)に示すA−A線による断面図である。本発明者は、図1(a)及び(b)に示す4面ボックス柱のエレクトロスラグ溶接部を模擬できるT字継手1について、溶接金属の断面積と溶接入熱量との間に強い相関があることに着目し、溶接ワイヤ7、フラックス、ダイヤフラム3、スキンプレート2及び裏当金4a,4bを変えずに、溶接金属5の断面積及び形状を変化させ、継手強度及び溶接欠陥回避等の溶接継手の健全性を維持するためにスキンプレート2側での溶接金属5の溶け込み幅(L1+L2)を確保しつつ、靭性を良好に保持するために溶接金属の断面積SA(溶接長手方向に垂直な断面の面積)を極力小さくするための溶接条件について詳細に検討した。
その結果、溶接方向に対して垂直な断面において、スキンプレート2側における溶接金属5の溶け込み幅(L1+L2)を3mm以上とし、かつ溶接金属5の断面積SAとダイヤフラム3の板厚TDとの関係が下記数式(4)を満足するようにし、更に、溶接金属5を楕円形状とし、その長径Wと短径Dとの比(=W/D)が1.1以上となるようにすると、溶接ワイヤ7、フラックス、ダイヤフラム3、スキンプレート2、裏当金4a,4bの成分組成を変えずに、継手強度及び溶接欠陥回避等の溶接継手の健全性を維持しつつ、溶接金属5の靭性を最も良好にすることができることを見いだした。
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なお、図1(a)及び(b)に示すように、ここでいうスキンプレート2側における溶接金属5の溶け込み幅(L1+L2)とは、スキンプレート2側における溶接金属5による全溶け込み幅からダイヤフラム3の板厚TDを差し引いた値であり、ダイヤフラム3の板厚方向におけるスキンプレート2の表面近傍の溶融幅を指す。また、溶接金属5の溶接方向に対して垂直な断面は、ダイヤフラム3の板厚方向に長い扁平な楕円形状となっており、長径Wはダイヤフラム3の板厚方向の長さを、短径Dはダイヤフラム3の板厚方向に対して垂直な方向の長さを夫々示す。
以下、本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法において、溶接金属の断面積及び形状を規定した理由について詳細に説明する。以下の説明においては、成分組成における質量%は、単に%と記載する。
本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法において、スキンプレート2側での溶接金属5の溶け込み幅(L1+L2)を3mm以上に限定したのは、継手強度を確保すると共に、溶接欠陥の抑制等により継手の健全性を保つためである。この溶け込み幅(L1+L2)が3mm未満であると、溶接金属5の形状によっては、溶け込み不良等の溶接欠陥が生じて、継手強度が保てない場合がある。溶接欠陥は、継手の疲労破壊及び脆性破壊の起点となる虞があるため、好ましくない。一方、この溶け込み幅(L1+L2)の上限は、継手の健全性を保つ上では特に限定する必要はなく、溶け込み幅(L1+L2)が大きくなる程、継手健全性がより向上する。一般的な非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法においては、溶け込み幅(L1+L2)を10mm程度以上に大きくしようとすると、必然的に溶接金属5の断面積SAが大きくなり、溶接金属の靭性の低下につながるため好ましくないが、本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法では、後述するように溶接金属5の断面積SAを規定しているため、このような問題を回避することができる。
また、本発明者は、溶接金属5のスキンプレート2側での溶け込み幅(L1+L2)を3mm以上とした条件で、この溶け込み幅(L1+L2)を確保しつつ、溶接金属5の靭性を向上するため、溶接金属5の断面積SAを低減する方法について実験的に検討した。具体的には、溶接ワイヤ7として、C:0.03%、Si:0.15%、Mn:2.25%、Mo:0.48%、Ti:0.12%及びB:0.006%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成で、直径が1.6mmのソリッドワイヤを使用し、スキンプレート2及びダイヤフラム3には、種々の板厚で、C:0.17%、Si:0.35%、Mn:1.31%及びAl:0.034%を含有する引張強度が490MPa級の鋼板を使用し、裏当金には、C:0.16%、Si:0.24%、Mn:1.34%及びAl:0.002%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、この不可避的不純物元素として微量のNi、Cu、Cr及びMoを含む組成の市販のフラットバーを使用して、非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接を行った。
その際、継手は図1(a)に示すT字継手1とし、また、スキンプレート2の板厚は50mmで一定とし、ダイヤフラム3の板厚TDを25〜65mm程度の範囲で変化させると共に、溶接条件として、開先幅a、溶接入熱量Q(kJ/cm)、ワイヤノズルの狙い位置x、給電ノズル6の揺動条件及びスラグ浴深さh等を変化させることにより、溶接金属5の状態が異なる複数の継手を作製し、溶接金属5の断面積及び形状と靭性及び溶け込み幅との関係を調べた。
なお、給電ノズル6の揺動については、図1(b)に示すように、溶接中に給電ノズル6を上方に引き上げながら、ダイヤフラム3の板厚方向に揺動させ、このときの給電ノズル6の揺動幅sw、揺動の往復回数、折り返し点での揺動停止時間を夫々変化させた。また、溶接中のスラグ浴深さhは、溶接前のフラックス散布量によって変化させ、溶接途中でスラグの開先の隙間等からの漏れ等でスラグ浴5aが減少する場合は、溶接中にフラックスを追加散布して溶接初期のスラグ浴深さhと極力同じになるように調整した。更に、ここでいう給電ノズル6の揺動幅swは、図1(a)及び(b)に示すように、ダイヤフラム3の板厚方向の給電ノズル6の揺動停止点(折り返し点)において、給電ノズル6が裏当金4aに最も近づいたときの給電ノズル6の表面と、裏当金4bに最も近づいたときの給電ノズル6の表面との距離、即ち、最大揺動幅である。
溶接金属の断面積と溶接入熱量との間には強い相関があり、溶接金属の靭性を最良化するためには溶接金属断面積を制御することが必須である。ただし、溶接金属の靭性向上のために溶接金属断面積を小さくすると、溶接金属の溶け込み幅が低減され、継手強度の低下や溶け込み不足による溶接欠陥が発生し継手健全性が損なわれる。このため、本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法においては、溶接金属の断面積を極力小さくしつつ溶け込み幅を確保するために、後述するように、溶接金属の扁平化、即ち、楕円形状を有する溶接金属の長径Wと短径Dとの比(W/D)を一定範囲に制御する。
先ず、溶接金属の溶け込み幅及び形状を最適条件とし、溶接金属の断面積と靭性との関係を調べた。具体的には、ダイヤフラムの板厚TDが異なる複数の継手について、溶接金属の溶け込み幅を3〜6mm、溶接金属の長径Wと短径Dとの比(W/D)を1.1〜1.5とし、溶接金属の断面積と靱性(平均0℃吸収エネルギー)との関係を調べた。図2は横軸に溶接金属の断面積(SA)をとり、溶接金属のシャルピー衝撃特性(vE0)をとって、溶接金属の断面積と靭性との関係を示すグラフ図である。図2に示すように、ダイヤフラムの板厚TDが厚くなるに従い溶接金属の靱性レベルは低下するが、ダイヤフラムの板厚TDがいずれの場合においても、ダイヤフラムの板厚TDが同じである継手については、溶接金属の靱性を良好に保つための限界溶接金属断面積が存在する。この結果から、本発明者は、ダイヤフラムの板厚TDに応じて、溶接金属の断面積を限界溶接金属断面積以下に規制することにより、溶接金属の靭性を向上できることを知見した。
そこで、本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法においては、図2に示す溶接金属の断面積と靭性との関係からダイヤフラムの板厚TD毎に求められる限界溶接金属断面積に基づき、溶接金属の靭性向上するための条件として、溶接金属の断面積SAとダイヤフラムの板厚TDとの関係が、上記数式(4)を満足するように規定している。上記数式(4)で規定しているように、溶接金属の断面積SAの上限値は、溶接金属の靭性向上の点から、ダイヤフラムの板厚TDに応じて決められる。一方、溶接金属の断面積SAの下限値は、特に限定する必要はないが、溶接金属の靭性向上の点からは、より小さい方が好ましい。ただし、溶接金属の断面積が過度に小さくなると、溶接金属の溶け込み幅が小さくなり、溶け込み不足による溶接欠陥及び継手強度の低下が発生し、継手の健全性を確保することが困難となる。
また、本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法においては、溶接金属の溶け込み幅3mm以上を前提としており、これを満足するため、溶接金属の断面形状を楕円形状(扁平断面形状)とし、その長径Wと短径Dの比(W/D)を1.1以上にしている。
本発明者は、図2に示すダイヤフラムの板厚TDが50mmの継手について、溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)を求め、W/Dと溶接金属の溶け込み幅との関係を調べた。図3は横軸に溶接金属の長径Wと短径Dとの比(W/D)をとり、縦軸に溶け込み幅をとって、溶接金属の形状と溶け込み幅との関係を示すグラフ図である。なお、図3においては、溶接金属の断面積SAが2400mm2以下の場合(SA=2000〜2400mm2)と、溶接金属の断面積SAが2500mm2以上場合(2500〜3000mm2)の2条件に層別して示す。
図3に示すように、溶接金属の断面積SAが2500mm以上の場合には、溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)によらず、溶接金属の溶け込み幅は十分に確保でき、継手健全性を良好に維持することができる。しかしながら、溶接金属断面積SAが2500mm以上の場合、上記数式(4)を満足しないため、上述の如く、また図2からも明らかなように、溶接金属の靭性が低下し、目標靭性レベルを確保できない。一方、図3に示すように、溶接金属断面積SAが2400mm以下の場合は、上記数式(4)を満足しているため、溶接金属の靭性を目標レベルに向上でき、更に、溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)を1.1以上とすることにより、溶接金属の溶け込み幅を3mm以上とすることが可能となる。
従って、本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法においては、靱性を確保するため、溶接金属断面積SAを上記数式(4)に示す範囲にすると共に、溶接金属の溶け込み幅を3mm以上に維持し、更に、継手健全性を良好に維持するために、溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)を1.1以上とする。なお、溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)は、溶接金属の溶け込み幅向上の点から、1.3以上とすることが好ましい。一方、溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)が大きくなるに従い、溶接金属の溶け込み幅は向上するが、溶接金属断面積SAが上記数式(4)を満足する条件において、通常の溶接で、溶接金属の断面形状をW/Dが1.5を超える程扁平化することは実際上容易ではない。よって、W/Dの上限は、実質上1.5となる。
以上の理由から、本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法においては、ボックス柱の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接により形成される溶接金属において、溶接ワイヤ及びフラックス等の溶接材料、ダイヤフラム、スキンプレート並びに裏当金等の成分組成を変えずに、良好な継手健全性を確保しつつ、溶接金属の靱性を向上させるため、スキンプレート側での溶接金属の溶け込み幅を3mm以上とすると共に、溶接金属の断面積SAとダイヤフラムの板厚TDとの関係が上記数式(4)式を満足し、かつ楕円形状を有する溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)が1.1以上である溶接金属を形成することを要件とする。
更に、溶接金属の断面積SAと溶接入熱量Qとの間には強い相関があり、かつ溶接金属の断面積SA及び溶け込み深さhは、スキンプレートの表面とダイヤフラムの端部との間に設けられた間隙(開先幅a)、溶接時のスラグ浴深さh、開先幅方向における給電ノズルの位置及びダイヤフラム方向における給電ノズルの揺動条件に影響を受ける。このため、溶接継手の健全性を確保しつつ、溶接金属の靭性向上効果をより確実なものとするためには、上述した溶接金属の条件の規定に加えて、以下に示す(A)〜(D)の溶接条件を規定することが必要となる。
(A)開先幅a:19〜25mm
ダイヤフラムの板厚TD及び溶接金属断面積SAが同一の条件では、開先幅aが小さい程開先の空隙形状が扁平化し、それに伴い、溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)が小さくなる。このため、溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)が1.1以上となるような断面形状の溶接金属を形成し、良好な溶け込み幅を確保するためには、開先幅を25mm以下にする必要がある。一方、開先幅が19mm未満になると、給電ノズルとスキンプレートの表面とが必然的に近づくため、溶接中に給電ノズルが鋼板に接触する等の不都合が生じ、好ましくない。従って、本発明においては、開先幅を19〜25mmに制限する。
(B)溶接入熱量Q:(17.5×TD−250)〜(17.5×TD−115)
ボックス柱のダイヤフラムの非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の断面積SAと溶接入熱量Qとの間には強い相関があり、上記数式(4)を満足し、かつ溶け込み幅が3mm以上の溶接金属を形成するためには、ダイヤフラムの板厚TDに応じて入熱量を適正に制御する必要がある。図4は横軸にダイヤフラムの板厚TDをとり、縦軸に溶接入熱量Qをとって、ダイヤフラム厚TD及び溶接入熱量Qを変化させたときの溶接金属の断面積SA、溶け込み幅及び溶接欠陥の有無を示すグラフ図である。図4に示すように、溶接入熱量Q(kJ/cm)が、ダイヤフラムの板厚TD(mm)に基づき下記数式(5)で示される範囲の上限値(17.5×TD−115)を超えると、溶接金属の靭性が低下する。一方、溶接入熱量Q(kJ/cm)が、ダイヤフラムの板厚TD(mm)に基づき下記数式(5)で示される範囲の下限値(17.5×TD−250)未満になると、溶接金属が不足したり、溶接金属の溶け込み幅が過小になったりするため、継手強度低下及び溶け込み不良等の溶接欠陥が生じて継手健全性が損なわれる。従って、本発明においては、溶接入熱量Q(kJ/cm)を、下記数式(5)で規定される範囲とする。
Figure 0004777166
なお、溶接入熱量Qは、溶接速度v、溶接電流I及び溶接電圧Eから求められ、これら溶接速度v、溶接電流I及び溶接電圧Eのうちの1種又は2種以上の条件を調節することにより、上記数式(5)を満足するように制御することができる。
(C)溶接中のスラグ浴深さh:15mm〜35mm
溶接中のスラグ浴深さhの変動によって、スキンプレート、ダイヤフラム及び裏当金の溶融量が変わる結果、溶接金属の断面積SA及び溶け込み幅(L1+L2)も変動する。溶接中のスラグ浴深さhが15mm未満になると、薄いスラグ浴を介して溶接金属への入熱が増加し、溶接金属断面積が過大となるため、溶接金属の靭性が劣化する。また、スラグ浴深さhが過小になると、シールド不足となって、溶接金属中に大気中のNが過大に含有され、溶接金属の靭性が大きく劣化する危険性が増大する。一方、スラグ浴深さhが35mmを超えると、厚いスラグ浴を介して溶接金属への入熱が減少し、溶接金属の断面積が過度に小さくなり、溶接金属の溶け込み不良が発生する可能性が大となる。従って、本発明においては、溶接中のスラグ浴深さhを15〜35mmとする。これにより、溶接金属の断面積SAとダイヤフラムの板厚TDとの関係が上記数式(4)を満足し、かつ溶接金属の溶け込み幅が3mm以上の溶接金属を形成することができる。なお、溶接中のスラグ浴深さhは、例えば、開先内に散布するフラックスの量を予め調整し、溶接開始時のスラグ浴深さを20〜30mmにすることにより、15〜35mmの範囲に維持することが可能となる。
(D)給電ノズルを、下記I〜IVに示す条件でダイヤフラムの板厚方向に揺動させる。
断面形状が楕円形状(扁平形状)で、かつその長径Wと短径Dの比(W/D)が1.1以上であり、更に、溶け込み幅が3mm以上で、断面積SAが上記数式(4)を満足する溶接金属を形成するためには、溶接中に、給電ノズル表面とスキンプレート表面との最小距離を所定の範囲に保ちながら、給電ノズルをダイヤフラムの板厚方向に揺動させると共に、その揺動幅、揺動回数及び折り返し点での停止時間を適正化する必要がある。以下、その具体的な条件について説明する。
I.給電ノズル表面とスキンプレート表面との最小距離:1〜5mm
溶接中における給電ノズルの表面とスキンプレートの表面との最小距離は、スキンプレート側における溶接金属の溶け込み幅に影響を与える。給電ノズルがスキンプレート表面に近づく程、即ち、溶接中の給電ノズルの表面とスキンプレートの表面との最小距離が小さくなる程、溶接金属がスキンプレート側に近付くため、溶接金属の断面積SA及び溶け込み幅(L1+L2)の確保に有利となる。しかしながら、給電ノズル表面とスキンプレート表面との最小距離が1mm未満になると、溶接中に給電ノズルがスキンプレート表面に接触する可能性が高まるため、好ましくない。一方、給電ノズルとスキンプレート表面との最小距離が5mmを超えると、溶接金属の断面積SA及び溶け込み幅(L1+L2)の向上効果が得られなくなる。このような理由から、本発明においては、溶接中の給電ノズル表面とスキンプレート表面との最小距離を1〜5mmとする。
II.揺動幅sw:(TD−12)〜(TD−2)
ダイヤフラムの板厚方向における給電ノズルの揺動幅swが大きくなる程、溶接金属の断面形状は扁平化しやすくなる。しかしながら、ダイヤフラムの板厚方向における揺動幅sw(mm)が、下記数式(6)で示される範囲の上限値、即ち、(TD−2)mmを超えると、給電ノズルの揺動制御の機械的な誤差等により、揺動端において裏当金又は鋼板に接触する可能性があり、好ましくない。一方、ダイヤフラムの板厚方向における揺動幅swが、下記数式(6)で示される範囲の下限値、即ち、(TD−12)mmよりも小さいと、断面形状が長径Wと短径Dの比(W/D)が1.1以上の楕円形状である溶接金属を安定して形成することが困難となる。これらの理由から、本発明においては、ダイヤフラムの板厚方向における揺動幅swを下記数式(6)で規定される範囲とする。
Figure 0004777166
III.揺動回数:2〜10往復/分
ダイヤフラムの板厚方向における給電ノズルの揺動回数が、1分間あたり10往復を超えると、揺動幅を前述の範囲とし、折り返し点での停止時間を後述する範囲にしても、溶接金属の断面形状を扁平化する効果及び溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)の制御効果が十分に得られなくなる。一方、1分間あたりの揺動回数が2往復未満と少ない場合、ダイヤフラムの板厚方向での給電ノズルの揺動が、垂直方向の溶接速度に比べて少なくなり、溶接金属の形状を十分に制御できなくなる。これらの理由から、本発明においては、給電ノズルの揺動回数を1分間あたり2〜10往復とする。
IV.折り返し点での停止時間:2〜10秒間
溶接金属の断面形状を扁平化し、かつその長径Wと短径Dの比(W/D)を1.1以上とするためには、ダイヤフラムの板厚方向に給電ノズルを揺動する際の折り返し点での停止時間を適性化する必要がある。揺動の折り返し点での停止時間が2秒未満であると、揺動を停止することによる溶接金属の断面形状の扁平化効果、及び溶接金属の長径Wと短径Dの比(W/D)の制御効果が、十分に得られない。一方、折り返し点における停止時間が10秒を超えると、折り返し点での溶接金属の溶け込みが過剰となり、溶接金属の断面形状が、揺動の中心よりも折り返し点近傍の方が幅が大きくなるような異常な形状になって、溶接金属内の靭性変動が過大になったり、溶接金属の中心で高温割れが生じたりする場合があるため、好ましくない。このような理由から、本発明においては、給電ノズルの揺動の折り返し点での停止時間は2〜10秒間に限定する。
なお、以上の説明は、基本的に1電極の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接を前提にしているが、上述した本発明の効果は、1電極でも2電極でも同様に発揮される。従って、本発明のの非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法は、1電極の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接に限定されるものではなく、2電極の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接に対しても有効である。
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明の作用及び効果について更に詳細に説明する。本実施例においては、種々の鋼板、溶接ワイヤ及び裏金を組み合わせて、本発明の溶接方法による継手と本発明を満足しない溶接方法による継手とを作製し、各継手の溶接金属の強度、靭性及び継手健全性を比較した。その際、鋼板には、下記表1に示す組成で、板厚が32〜60mmのものを使用した。また、裏当金には、下記表2に示す組成で、板厚が28mmの鋼板を使用した。更に、溶接ワイヤとしては、ワイヤ径が1.6mmで、下記表3に示す組成である3種類のワイヤを使用した。更にまた、溶接に際しては、スラグ浴を形成するフラックスを開先内に予め添加しておくと共に、必要に応じて溶接中にも開先内にフラックスを添加するが、そのフラックスとしては、1種類の中酸化マンガン系フラックスを使用した。下記表4に、溶接継手における使用材料組み合わせ及び各種溶接条件示す。なお、下記表4における下線は、本発明の範囲外であることを示す。また、下記表4に示すフラックス量は、溶接開始前に開先内に散布した量であるが、本実施例においては、比較例の一部(比較例7)を除き、溶接中のスラグ浴深さhを開始時とほぼ同程度に保つため、溶接途中でも必要に応じて開先内にフラックスを散布している。更に、下記表1〜3に示す成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
Figure 0004777166
Figure 0004777166
Figure 0004777166
Figure 0004777166
そして、上記表4に示す各継手について、以下に示す方法により、溶接金属の機械的性質及び状態について評価した。図5(a)は溶接金属から試験片を採取する位置を模式的に示す図であり、(b)は(a)に示す試験片採取部分の拡大図である。図5(a)及び(b)に示すように、機械的性質は、溶接金属5の中央部分から採取した試験片を使用して評価した。具体的には、引張特性は、溶接金属5から採取した平行部径が6mm、評点距離が30mmの丸棒引張試験片10を使用して、室温にて引張試験を実施し、その結果により評価した。また、靭性は、溶接金属5から採取した標準2mmVノッチシャルピー衝撃試験片11を用いて、0℃でシャルピー衝撃試験を実施し、その平均吸収エネルギーにより評価した。一方、溶接金属の形状、断面積SA及び溶け込み幅(L1+L2)は、溶接方向に垂直な断面を10視野以上撮影したマクロ組織写真に基づき、その平均値を求めた。また、同様にマクロ組織を観察し、溶接欠陥の有無についても評価した。以上の結果を上記表5にまとめて示す。なお、上記表5においては、1視野でも割れ又は溶け込み不足があった場合、その旨を溶接欠陥として示している。また、下記表5における下線は、本発明の範囲外であることを示す。
Figure 0004777166
上記表5に示すように、実施例1及び比較例2は、溶接中のワイヤ位置及びスラグ浴深さhの若干の変動を除き、開先幅a以外の条件を同一とした継手である。実施例1の継手は、開先幅aが本発明範囲内の23mmであり、一方、比較例1の継手の開先幅は28mmであり、本発明の範囲を逸脱している。このように、比較例1の継手は開先幅aが過大であるため、溶接金属断面積SAが過大となり、その結果、実施例1の継手に比べて靭性が大幅に劣っていた。
実施例2の継手と比較例2の継手とは、同様に、開先幅aのみが異なっている。具体的には、実施例2の継手の開先幅aは本発明範囲内の23mmであるのに対して、比較例2の継手の開先幅aは30mmと過大である。このため、比較例2の継手は、比較例1の継手と同様に溶接金属断面積SAが過大となると共に、開先が広がった分フラックス量が不足して、スラグ浴深さhが溶接開始段階から過小となり、その結果、溶接金属靭性が実施例2の継手に比べて著しく劣化した。
実施例3の継手と比較例3の継手とは、給電ノズル揺動条件のうち、揺動幅swが異なっている。具体的には、実施例3の継手は、揺動幅が40mmでダイヤフラム厚TD(=50mm)との差が10mmであり、(TD−12)mm以上(TD−2mm)以下の条件に合致しているのに対して、比較例3の継手の場合は、揺動幅swが30mmであり、(TD−12)mm、即ち、32mm以上を確保できておらず、過小であった。このため、溶接金属の長径Wと短径Dとの比(W/D)が1.1以上の条件を満足しておらず、その結果、比較例3の継手は、溶け込み幅が0.8mmとなり、十分な溶け込み幅が確保できず、その結果、溶接欠陥(溶け込み不足)が生じた。即ち、比較例3の継手は、強度及び靭性については実施例3の継手と同等であったが、継手健全性が劣っていた。一方、実施例3の継手は、溶け込み幅が3.6mmであり、十分な幅が確保されていた。
実施例4の継手と比較例4の継手とでは、溶接入熱量Qが異なっている。そして、比較例4の継手は、実施例4の継手に比べて電圧が高いため、溶接入熱量Qが大きく、上記数式(5)の範囲から外れた。このため、実施例4の継手の溶接金属断面積SAが本発明の範囲内であるのに対して、比較例4の継手の溶接金属断面積SAは本発明の範囲を逸脱し、過大であった。その結果、比較例4の継手は、鋼板、溶接材料及び他の溶接条件が略同一である実施例4の継手に比べて、溶接金属の靭性が大幅に劣っていた。
実施例5の継手及び比較例5の継手では、フラックス散布量の違いによって、スラグ浴深さhが異なっている。即ち、比較例5の継手は実施例5の継手に比べて、溶接前のフラックス散布量が過小なため、溶接を開始した後に生じるスラグ浴深さhが過小となっている。このため、比較例5の継手は、溶接金属の断面積SAが実施例5の継手に比べて過大となり、本発明の要件を満足しておらず、実施例5の継手に比べて溶接金属靭性が劣っていた。
同様に、実施例6の継手及び比較例6の継手も、フラックス散布量の違いにより、スラグ浴深さhを変えたものである。ただし、比較例6の継手は、溶接前のフラックス散布量が過大な例であるため、スラグ浴深さhが過大である。このため、比較例6の継手は、溶接金属の断面積SAが過小となり、良好な靭性は得られるものの、溶け込み幅が過小となった。その結果、比較例6の継手では、溶け込み不良が生じ、継手健全性は極めて不良となった。
一方、比較例7の継手は、溶接開始時はスラグ浴深さhの下限値以上であるが、溶接途中でフラックスの追加散布を行わなかったため、溶接途中におけるスラグ浴深さhが本発明の範囲から外れていた。そのため、溶接金属の断面積SAが過大となり、他の条件が同じである実施例7の継手に比べて、溶接金属の靭性が大幅に劣っていた。
比較例8の継手は、給電ノズルの揺動回数が過大なために、溶接金属の扁平化に対しての効果がなく、溶接金属の長径Wと短径Dとの比(W/D)が1.09と、本発明の範囲から外れていた。このため、比較例8の継手は、十分な溶け込み幅が得られず、溶け込み不足による溶接欠陥を生じた。これに対して、他の溶接条件は比較例8の継手と同じで、揺動回数を本発明の範囲内に設定した実施例8の継手では、十分な溶け込み幅が得られ、かつ靭性も良好であった。
比較例9の継手は、給電ノズルの揺動条件のうち、折り返し端での停止時間が本発明の範囲を逸脱した過大な例であり、この停止時間を12秒間に設定したものである。このため、折り返し端の近傍で母材が過度に溶融して、溶接金属の中央近傍がくびれた形状となっていた。その結果、溶接金属の中央に高温割れが生じ、継手としての健全性が損なわれていた。これに対して、比較例9の継手と同一の鋼板及び同一の溶接材料を使用し、停止時間以外は比較例9の継手と同一の溶接条件とし、停止時間を本発明の範囲内に設定した実施例9の継手では、このような高温割れが生じることはなく、また、溶接金属の強度及び靭性は良好であった。
比較例10の継手は、ノズル位置をスキンプレート寄りでなく、開先幅aの中間としているため、溶接金属の大きさ及び形状が好ましいものになってるにもかかわらず、溶け込み幅が不十分となり、溶接欠陥を生じている例である。ノズル位置での溶け込み幅を確保し、継手の健全性を確保するためには、入熱量Qを高めて溶接金属の断面積SAを大きくする必要があるが、その場合、靭性の劣化は避けられない。これに対して、ノズル位置を本発明の範囲内に設定した実施例10の継手は、溶接金属の靭性を保ちつつ、溶け込み幅も確保できた。
比較例11の継手は、溶接入熱量Qが過小であり、上記数式(5)に規定されている範囲から外れているため、機械的特性は十分高いが、溶け込み不足により、溶接欠陥が生じた。
上述の如く、本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法によれば、鋼板、溶接ワイヤ、裏当金の種類及び溶接ディテール(ダイヤフラムとスキンプレートの板厚組み合わせ)が同じであっても、継手の健全性の前提となる溶接金属の溶け込み幅を十分確保しながら、溶接金属特性、特に靭性を向上させることが可能であった。即ち、本発明の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法は、使用する鋼板及び溶接材料において、溶接継手の安全性を最も高くできる手段であると言える。
(a)はエレクトロスラグ溶接の概要を模式的に示す図であり、(b)は(a)に示すA−A線による断面図である。 横軸に溶接金属の断面積(SA)をとり、溶接金属のシャルピー衝撃特性(vE)をとって、溶接金属の断面積と靭性との関係を示すグラフ図である。 横軸に溶接金属の長径Wと短径Dとの比(W/D)をとり、縦軸に溶け込み幅をとって、溶接金属の形状と溶け込み幅との関係を示すグラフ図である。 横軸にダイヤフラムの板厚TDをとり、縦軸に溶接入熱量Qをとって、ダイヤフラム厚TD及び溶接入熱量Qを変化させたときの溶接金属の断面積SA、溶け込み幅及び溶接欠陥の有無を示すグラフ図である。 (a)は溶接金属から試験片を採取する位置を模式的に示す図であり、(b)は(a)に示す試験片採取部分の拡大図である。
符号の説明
1 継手
2 スキンプレート
3 ダイヤフラム
4a、4b 裏当金
5 溶接金属
5a スラグ浴
6 給電ノズル
7 溶接ワイヤ
10 丸棒引張試験片
11 シャルピー衝撃試験片
a 開先幅
h スラグ浴深さ
sw 揺動幅
D 溶接金属の短径
SA 溶接金属の断面積
TD ダイヤフラムの板厚
W 溶接金属の長径

Claims (3)

  1. ボックス柱を構成するスキンプレートの表面と、ダイヤフラムの端部と、これらの間に設けられた間隙の両側に配置された裏当金とにより形成される開先空間内に、フラックスを充填すると共に給電ノズルを挿入し、この給電ノズル内にワイヤを送給しながら前記給電ノズルを鉛直方向に引き上げつつ溶接する非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法において、
    前記スキンプレートの表面と前記ダイヤフラムの端部との間の間隙の幅を19〜25mmとすると共に、
    前記ダイヤフラムの板厚TD(mm)に対して、溶接入熱量Q(kJ/cm)が下記数式(A)を満足するようにし、
    Figure 0004777166
    スラグ浴深さを15〜35mmとし、
    更に、前記給電ノズルの表面と前記スキンプレートの表面との最小距離が1〜5mmであり、前記給電ノズルの揺動幅sw(mm)が下記数式(B)を満足し、前記給電ノズルの揺動回数が2〜10往復/分であり、かつ折り返し点での停止時間が2〜10秒間である条件で、前記給電ノズルを前記ダイヤフラムの板厚方向に揺動させ、
    Figure 0004777166
    溶接方向に垂直な断面において、前記スキンプレート側の溶け込み幅が3mm以上で、断面積SA(mm2)が下記数式(C)を満足し、長径Wと短径Dとの比(W/D)が1.1以上である楕円形状の溶接金属を形成することを特徴とする非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法。
    Figure 0004777166
  2. 溶接速度、溶接電流及び溶接電圧のうちの1種又は2種以上の条件を調節することにより、前記溶接入熱量Qを前記数式(A)で規定している範囲内にすることを特徴とする請求項1に記載の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法。
  3. 前記開先空間内に、予め散布されるフラックス量を調節することにより、前記スラグ浴の深さを15〜35mmの範囲内にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接方法。
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