JP4776177B2 - 光電変換素子 - Google Patents

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Description

本発明は、光電変換素子に関する。さらに詳しくは、本発明は、複合色素及びn型半導体を包含する光電変換素子であって、該複合色素は、互いに異なる励起準位を有する複数の成分色素が互いに化学結合されてなり、それにより、電子移動用の直鎖又は枝分かれ構造体を形成し、該直鎖又は枝分かれ構造体は一端において該n型半導体に保持され、他端は自由端であり、その励起準位が該直鎖又は枝分かれ構造体の上記のn型半導体に保持された端部から、上記の自由端に向かって減少する順序で配列されていることを特徴とする光電変換素子に関する。本発明の光電変換素子は、光電変換性能に優れ、特に、太陽エネルギーからのエネルギー取り出し効率(エネルギー変換効率)が高く、また、それを用いて簡便に色素増感型太陽電池を製造することができるので、色素増感型太陽電池などに有利に用いられる。
本発明はまた、上記の光電変換素子を用いた色素増感型太陽電池に関する。
文明社会はエネルギーの消費によって成立するが、そのエネルギーの大部分は、自然が長年かけて太陽光エネルギーを蓄えた化石燃料に由来する。近年、その化石燃料の減少やその燃焼による地球温暖化問題が、人類社会の持続的発展の足かせとなる危惧が高まっている。
これらの問題を解決するために、太陽エネルギーから直接エネルギーを取り出す研究開発が盛んに行われている。これらの中で、太陽電池は太陽エネルギーからのエネルギー取り出し効率(エネルギー変換効率)が高いため多くの研究が為されている。とりわけ、色素に代表される光増感剤を用い、その励起電子を効率よく取り出すことが可能な色素増感型太陽電池は、Michael Gratzel等によって、エネルギー変換効率が7%を超えるシステムが発表(Nature 1991,353,737参照)されて以来、複雑な製造工程を経ず、安価に製造できる次世代の太陽電池として注目を集めている。
色素増感型太陽電池は、一般にガラスやポリマーといった支持体上に、優れた導電性と透明性を兼ね備えた酸化インジウム系膜(ITO)、フッ素等をドープした酸化スズ系膜(FTO)がコーティングされた基板(導電性支持体)等の上に、さらに、安価な材料である数十ナノメートルサイズの酸化チタンの多孔質構造膜をn型半導体として積層して陰極とし、同様の基板上に、主に白金の薄膜を積層した陽極を用いて、ヨウ素に代表される酸化還元対を含んだ電解液を介して陰極と陽極を対向するように配置した構造を有する。そして、陰極には太陽光の可視領域の光を吸収し励起電子を発生させるために、錯体色素に代表される色素が光増感剤として担持され、光電変換素子が形成される。
光増感剤から発生した励起電子はn型半導体に移動し、更に両電極を接続する導線を通って陽極へ移動する。陽極へ移動した電子は電解液を還元し、電解液は電子を放出して酸化状態となった光増感剤を還元する。こうした一連の流れを繰り返すことにより、色素増感型太陽電池は機能する。
色素に代表される光増感剤は、一定の範囲の波長を有する光を吸収することができる。その範囲の波長を有する光が照射されると、その光子のエネルギーを受けて、基底状態の電子が励起され、励起状態へと電子遷移する。その励起された電子は、通常は熱エネルギーを放出したり、蛍光や燐光といった発光を伴ってエネルギーを放出したりして基底状態に戻る。この励起された電子を光増感剤から取り出すことによって、光エネルギーの電気エネルギーへの変換(光電変換)が行われる。
このように、光増感剤は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する重要な役割を担う。そのため、光増感剤の研究は盛んに行われている。
光増感剤を分子単位で捉える場合、通常、1つの光子のエネルギーを受け取り、1つの電子を励起させる。光のエネルギーは波長が長いほど低くなるので、長波長の光を吸収して励起する(励起状態へと電子遷移する)光増感剤は、弱いエネルギーの光によって励起することが可能であることを意味する。そのため、光増感剤の吸収できる波長領域が、長波長から短波長(この場合、光は高いエネルギーを有する)までの広い範囲となる。太陽電池においては、太陽光という広い波長分布をもつ光の広い範囲を有効に活用することが、多くの電子(高い電流)を取り出すために重要であるため、光増感剤をより長波長まで吸収できるよう改良する研究が盛んである。
長波長までの吸光を試みる場合は、共役構造の拡大を目指すのが一般的である。例えば、日本国特表2002−512729号公報(WO98/50393号公報及び米国特許第6245988号に対応)には、三座配位の配位子をもつ単核の錯体色素を用いる技術が開示され、Inorg. Chem. 2002,41,367には、四座配位の配位子をもつ単核の錯体色素を用いる技術が開示されている。また、J.Phys. Chem. B 2003,107,597には、共役構造を有する有機色素を用いる技術が開示されている。
さらに、長波長まで吸光することを目的とし、複数の金属を有する複核錯体を用いる技術(日本国特開2000−323191号公報(EP1052661に対応))、複数の色素の吸収を組み合わせることを目的として、複数の色素層を積層して用いる技術(日本国特開2000−195569号公報)や複数の色素を会合させて用いる技術(日本国特開2002−343455号公報)が開示されている。
しかしながら、上記のような、単一色素を用いて吸収波長範囲を拡大した場合や、複数の色素を組み合わせて用いながらも、複数の色素が同じレベルのエネルギー準位で電解質から電子を受け取り、n型半導体へ励起電子を受け渡すような場合は、太陽光のような波長分布の広い光から電子を取り出す際、理論的にそのエネルギー変換効率に限界がある。なぜならば、長波長の光を吸収できるようになるに従って、取り出し電子数が増加するので、大きな電流を得ることが可能となるが、長波長光は光増感剤の電子を遷移させるために必要なエネルギーが小さいために、高い電圧を得ることが出来なくなるからである。
上述のように、一般的に、光増感剤は一光子のエネルギーを受け取って一電子を発生する一光子吸収で機能する。しかし、特定の化合物においては二光子のエネルギーを受け取って一電子を発生する二光子吸収が可能である(Science 1998,281,1653参照)。このようにすれば、エネルギーの低い長波長の光を用いて、高いエネルギー準位に電子を遷移することが可能となるので、上述の理論限界を打破することも可能となる。この技術は、1つの分子の中で励起された電子を、更に励起する仕組みである。励起状態におかれた電子は短い時間で基底状態に戻るため、一般的には、3重項状態のような準安定励起状態へ電子移動させて励起電子の寿命(励起寿命)を稼ぎ、2回目の励起を起こすようにする。しかしながら、その場合であっても、一つの分子が短い時間の間に2度光を吸収する必要があるため、その2度目の励起が起こる確率は低くなり、多くの電子を取り出すことはできなくなる。したがって、太陽電池のように多くの電子を取り出すことを目的とする場合に二光子吸収を応用するのは困難である。そのため、この技術は、重合開始剤(Nature 1999,398,51)や光センサー(日本国特開2001−210857号公報)への応用が検討されるに留まっている。
なお、対向する両極に、それぞれ異なる励起準位を有する色素によって増感されたn型半導体層とp型半導体層を設置し、効率よく太陽光エネルギーを取り出す技術が、J.He等によって提案されている(Solar Energy Materials & Solar Cells 2000,62,265)。しかしながら、この技術は、半導体層の設置、色素の吸着等の工程を複数回行う必要があり、製造が複雑になるといった問題を有している。
このような状況下、本発明者らは、光電変換性能に優れ、特に、太陽エネルギーからのエネルギー取り出し効率(エネルギー変換効率)が高く、また、簡便に色素増感型太陽電池を製造することのできる光電変換素子を開発するために鋭意検討した。
その結果、本発明者らは、そのような光電変換素子は、複合色素及びn型半導体を包含する光電変換素子であって、該複合色素は、互いに異なる励起準位を有する複数の成分色素が互いに化学結合されてなり、それにより、電子移動用の直鎖又は枝分かれ構造体を形成し、該直鎖又は枝分かれ構造体は一端において該n型半導体に保持され、他端は自由端であり、その励起準位が該直鎖又は枝分かれ構造体の上記のn型半導体に保持された端部から、上記の自由端に向かって減少する順序で配列されていることを特徴とする光電変換素子によって実現されることを知見した。この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
したがって、本発明の一つの目的は、太陽エネルギーからのエネルギー取り出し効率(エネルギー変換効率)が高く、また、簡便に色素増感型太陽電池を製造することのできる光電変換素子を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、上記の光電変換素子を含む色素増感型太陽電池を提供することである。この太陽電池において、電解質として適切な酸化還元準位を有する電解質を用い、対極の準位を制御することにより、特に高い電圧を得ることができる。
本発明の上記及びその他の諸目的、諸特徴ならびに諸利益は、添付の図面を参照しながら行う以下の詳細な説明及び請求の範囲から明らかになる。
本発明によれば、
複合色素及びn型半導体を包含する光電変換素子であって、
該複合色素は、互いに異なる励起準位を有する複数の成分色素が互いに化学結合されてなり、それにより、電子移動用の直鎖又は枝分かれ構造体を形成し、該直鎖又は枝分かれ構造体は一端において該n型半導体に保持され、他端は自由端であり、
該直鎖又は枝分かれ構造体において、該複数の成分色素は、その励起準位が該直鎖又は枝分かれ構造体の上記のn型半導体に保持された端部から、上記の自由端に向かって減少する順序で配列されている、
ことを特徴とする光電変換素子が提供される。
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明の基本的特徴及び好ましい態様を列挙する。
1.複合色素及びn型半導体を包含する光電変換素子であって、
該複合色素は、互いに異なる励起準位を有する複数の成分色素が互いに結合されてなり、それにより、電子移動用の直鎖又は枝分かれ構造体を形成し、該直鎖又は枝分かれ構造体は一端において該n型半導体に保持され、他端は自由端であり、
該直鎖又は枝分かれ構造体において、該複数の成分色素は、その励起準位が該直鎖又は枝分かれ構造体の上記のn型半導体に保持された端部から、上記の自由端に向かって減少する序列で配置され、
該n型半導体に保持された成分色素に結合された成分色素の最低非占有軌道のエネルギー準位は、該n型半導体の伝導帯のエネルギー準位より低く配置されている、
ことを特徴とする光電変換素子。
2.該複合色素の各成分色素は金属原子とそれに配位した配位子とを含有していて、該複合色素は、複数の金属原子と、少なくとも1つの橋かけ配位子を含む複数の配位子とからなる複核錯体より構成され、該橋かけ配位子は複核錯体中の互いに隣接する金属原子の間に位置して上記の互いに隣接する金属原子を橋かけてなることを特徴とする前項1に記載の光電変換素子。
3.該複核錯体中の橋かけ配位子が非対称構造を有することを特徴とする前項2に記載の光電変換素子。
4.該複核錯体中の橋かけ配位子の該非対称構造が、共役二重結合を有する複素環セグメントと、該複素環セグメントに結合した非複素環セグメントとからなることによって形成されており、
該複素環セグメントは橋かけ配位子において該非複素環セグメントに比べて該n型半導体から遠い側に位置し、該複素環セグメントにおいてヘテロ原子が該n型半導体から遠い側に位置している、
ことを特徴とする前項3に記載の光電変換素子。
5.色素増感型太陽電池であって、
前項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子を含む電極、
対極、及び
該光電変換素子と該対極の間に設けられた電解質
からなり、
該光電変換素子を含む電極と該対極を、該電解質の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合する時に作動可能となる、
ことを特徴とする色素増感型太陽電池。
6.該対極の準位が、銀/銀イオンの酸化還元準位に対して−0.2V以上であることを特徴とする前項5に記載の色素増感型太陽電池。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の光電変換素子は複合色素及びn型半導体を包含する。
複合色素は、互いに異なる励起準位を有する複数の成分色素が互いに化学結合されてなり、それにより、電子移動用の直鎖又は枝分かれ構造体を形成し、該直鎖又は枝分かれ構造体は一端において該n型半導体に保持され、他端は自由端である。そして、該直鎖又は枝分かれ構造体において、該複数の成分色素は、その励起準位が該直鎖又は枝分かれ構造体の上記のn型半導体に保持された端部から、上記の自由端に向かって減少する順序で配列されている。
本発明において励起準位とは、可視光以上の波長領域の光を、色素(成分色素または複合色素)が吸光して強く励起する、基底状態の軌道準位を意味する。そのような基底状態の軌道準位は、通常、最高占有軌道(HOMO)であり、最高占有軌道からの遷移が確認できる限りにおいて、最高占有軌道を励起準位とする。なお、本発明においては、複数の成分色素が化学結合して複合色素を構成しているが、成分色素の励起準位とは、該成分色素が他の成分色素と結合せず、単一の色素として存在している場合の、吸光して強く励起する、基底状態の軌道準位を意味する。
本発明において、「互いに異なる励起準位を有する」とは、成分色素の励起準位が、互いに0.05eV以上異なることを意味する。成分色素の励起準位の差は、好ましくは0.1eV以上、より好ましくは0.2eV以上、最も好ましくは0.4eV以上である。成分色素の励起準位の差の上限に関しては特に制約は無いが、励起準位差が大きい場合には可視光を用いて励起電子の注入を行うことが出来なくなるため、好ましくは3eV以下、より好ましくは2.5eV以下、更に好ましくは2eV以下である。
本発明において、「励起準位が低い」とは、エネルギーレベルが安定であることを意味し、後述する電気化学的測定によって求められる電位の値が大きくなることを意味する。
本発明において、成分色素の励起準位はサイクリックボルタンメトリ測定に代表される電気化学的測定法によって測定され、その序列が見出される(サイクリックボルタンメトリ測定については、Allen J. Bard et al.,“Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications”, John Wiley & and Sons、1980年、を参照)。具体的には、各成分色素(吸光部位)あるいはその変性体や前駆体をそれぞれ独立にサイクリックボルタンメトリを用いて酸化準位を測定し、それぞれの吸光部位の励起準位と判断し、複合色素のサイクリックボルタンメトリ測定結果と照らし合わせて判断する。この際、それぞれの測定は、電極、溶媒、電位挿引速度を統一して行う。溶解性の観点から溶媒を統一することができない場合は、特定の成分色素あるいはその変性体や前駆体を複数種の溶媒を用いて測定し、溶媒による測定値の差を換算して求めることもできる。また、複合色素の化学結合を生成した場合に、成分色素の励起準位がシフトする場合もあるが、その場合は、複数の成分色素あるいはその変性体や前駆体及び複合色素の紫外可視吸収スペクトルの変化も参照して励起準位のシフトを判断できる。
また、サイクリックボルタンメトリ測定を用いた励起準位の序列の判定が困難な場合は、Density Functional Theory(DFT)のような理論に基づく計算化学手法によって、最高占有軌道(HOMO)準位を算出することによっても判定できる。この場合は、公知の化合物のイオン化ポテンシャルと最高占有軌道の序列が正しく計算できる手法を選択することが必要である。成分色素あるいはその変性体や前駆体及び複合色素が錯体の場合はB3LYP、PBE1PBE等と呼ばれるハイブリッド型のファンクショナルが有効に用いられる。
また、励起準位の序列を判定するために吸収波長の変化も併せて検討する必要がある場合は、Time Dependent Density Functional Theory(TDDFT)に基づく計算が好ましく用いられる。この場合も、公知の化合物の吸収スペクトル或いはその序列が正しく計算できる手法を選択することが必要である。
更には、所望に応じ、イオン化ポテンシャル測定装置を用いて励起準位の序列を測定する方法が選択される場合もある。
図1にサイクリックボルタンメトリの測定結果例として、実施例2において製造した化合物の測定結果を示す。図1から、異なる準位に酸化波が観測され、異なる励起準位を有することが分かる。
本発明において成分色素とは、可視光を吸収し着色している化合物を意味する。成分色素の例として、有機色素及び錯体色素が挙げられる。有機色素の例として、シアニン系、クマリン系、スピロピラン系、アゾ系、キサンテン系などの、広く色素として市販されている化合物、及びその変性体が挙げられる。錯体色素とは、少なくとも1つの金属と少なくとも1つの配位子とからなる、可視光を吸収し着色している化合物である。本発明においては、複数の成分色素が化学的に結合されて複合色素を形成する。
本発明において、「化学的に結合されている」とは、共有結合、イオン結合、配位結合等の化学結合が存在することを意味し、その結合の存在は、後に述べる各種測定によって結合形態を確認する方法、結合する前の色素(各吸光部位や色素の前駆体)の溶媒を用い、新たに形成した色素(複合色素)の洗浄を行って溶解しないことを確認する方法等によって確認できる。
上記のように、複合色素は電子移動用の直鎖又は枝分かれ構造体を形成する。この構造体は、一端においてn型半導体に保持され、他端は自由端である。
構造体が一端においてn型半導体に「保持されている」とは、構造体がn型半導体から脱離せず、構造体からn型半導体への電子の移動が可能となっていることを意味する。「保持されている」例として、構造体が一端においてn型半導体に物理的に吸着している場合、化学的に吸着している場合、化学結合している場合を挙げることができる。化学結合の例として、エステル結合、リン酸エステル結合、配位結合、イオン結合を挙げることができる。
本発明の光電変換素子において、成分色素は、その励起準位がn型半導体に保持された端部から自由端に向かって減少する順序で配列されているため、エネルギー変換が効率的に行われる。以下、この理由について説明する。
色素に光が照射されると電子が励起される。このとき、n型半導体に保持された成分色素(以下、しばしば「第一吸光部位」と称す)からは、容易にn型半導体に電子が注入される。その結果、第一吸光部位は電子を失った状態になる。電子を失った色素に隣接して結合された成分色素が励起されると、電子を失った軌道へと電子注入が容易に起こる。その結果、電子を失った状態は、n型半導体に保持された色素(第一吸光部位)から、それに化学結合した色素(以下、しばしば「第二吸光部位」と称し、隣接順に従って、順に「第三吸光部位」、「第四吸光部位」のように称す)へと移動する。第一吸光部位が最も高い励起準位を有し、第二吸光部位、第三吸光部位と、n型半導体から離れるに従って、低い励起準位を有しているため、電子を失った軌道を順次低い準位へと移行させることができる(図2に模式的に示す)。一般には、成分色素の非占有軌道の準位を変えずに励起準位を下げていくと、電子遷移幅が広くなるため色素の吸収波長が短波長領域のみに限定されるが、複合色素を用いれば、前述の仕組みによって、色素の吸収波長を短波長のみに限定することなく、広い電子遷移幅を獲得することができる。従って、このような複合色素及びn型半導体からなる光電変換素子を用いた色素増感型太陽電池においては、可視光や所望に応じて近赤外光といった長波長の光を吸収する特性を維持しながら、低いエネルギー準位の電解質を用いて発電することが可能となり、長波長光の吸収と高電圧を併せ持った高性能の太陽電池が得られる(図3に模式的に示す)。本発明における複合色素は、複数の成分色素が化学的に結合されているため、上述のような励起電子の移動が高い確率で起こる。とりわけ、この複数の成分色素を結合部位が、n型半導体に保持された成分色素に向かって、他端側の成分色素からの励起電子が移動しやすいよう非対称な構造を有する場合、上述のような励起電子の移動がより高い確率で起こるので好ましい。
このように励起されて電子を放出して電子を失った軌道に、段階的に励起電子を用いて電子を移動させ、順次低い準位へと電子を失った軌道を移行させることで、複合色素に含まれる複数の成分色素(吸光部位)のそれぞれの基底状態からの電子遷移を利用する段階的な多光子吸収システムが機能する。このシステムは、励起電子を更に励起する従来の多光子吸収に比べ、基底状態の電子を励起するために励起電子の安定性(寿命)が次の電子遷移が起こる確率を律することがないため、多光子吸収システムが機能しやすくなる。
複合色素中の成分色素(吸光部位)の数は特に限定されない。成分色素の数が多いほど上述の多光子吸収システムの理論的変換効率が高くなるが、成分色素(吸光部位)の数が4以上では、吸光部位数の増加に伴う理論的変換効率の向上は小さくなるので、製造の複雑さと理論変換効率のバランスから、化学的に結合される成分色素(吸光部位)の数は3以下が好ましく、より好ましくは2である。
複合色素は、n型半導体に電子を注入する役割を担うので、第一吸光部位は、n型半導体やその微粒子との結合に適した結合性官能基を有することが好ましい。具体的には、カルボン酸基およびその塩、スルフォン酸基およびその塩、リン酸基およびその塩から選ばれる官能基を有することが好ましい。また、カルボン酸のエステル、燐酸エステル、スルフォン酸エステルといった官能基であっても、使用される際に実質的に上記の官能基と同等の結合を形成しうるものであればよい。
複合色素の例としては、複核錯体より構成される複合色素や、π共役を有する各種の有機色素が、所望によって結合基が導入されて結合された各種有機色素が挙げられる。複合色素の中で、複核錯体より構成される複合色素が好ましい。
複核錯体より構成される複合色素について説明する。複合色素が複核錯体より構成される場合、該複合色素の各成分色素は金属原子とそれに配位した配位子とを含有していて、該複合色素は、複数の金属原子と、少なくとも1つの橋かけ配位子を含む複数の配位子とからなる複核錯体より構成され、該橋かけ配位子は複核錯体中の互いに隣接する金属原子の間に位置して上記の互いに隣接する金属原子を橋かけてなる。
複核錯体より構成される複合色素が好ましい理由は次の通りである。複核錯体より構成される複合色素の場合、各成分色素は、有機色素の場合に比して、基底状態準位と励起状態準位とで電子が主に存在する場所が、金属と配位子というように分離できる。そのため、複数の成分色素を結合して励起電子を注入するといった機能の分離を鮮明に行うことが可能になる。また、複核錯体より構成される複合色素の場合、有機色素の場合に比べて電子を放出した状態が安定なため、本発明のように電子の受け渡しを順次行うのに好適に用いられる。とりわけ、n型半導体とともに用いられる光電変換素子において、錯体色素は電子を放出した状態で安定であるため、本発明における段階的な多光子吸収システムに好適である。
なお、複合色素となる複核錯体は、後述のように複数の錯体色素(成分色素)から配位子置換によって製造される場合が多く、錯体色素(成分色素)を形成していた一部の部位(配位子)が成分色素から脱離するが、この場合も、複核錯体において、その前駆体である成分色素を構成する金属原子に関わる電子遷移に帰属される可視光吸収が観測されれば、複核錯体は、複数の成分色素が化学的に結合された複合色素であると判断される。
複核錯体中の橋かけ配位子(後述の式(1)の配位子BLに対応)は非対称構造を有することが好ましい。非対称構造を有することによって、複核錯体の電子遷移に方向性を持たせることが可能となり、n型半導体から遠い側に配置された成分色素(第二吸光部位など)から電子遷移によって発生した電子を効率よく取り出すことが可能となる。
複核錯体中の橋かけ配位子の非対称構造は、共役二重結合を有する複素環セグメント(以下、しばしば、共役二重結合を有する複素環セグメントを単に「複素環セグメント」と称し、共役二重結合を有する複素環を単に「複素環」と称する。複素環セグメントは複素環のみからなっていてもよいし、複素環とそれに結合した官能基とからなっていてもよい)と、該複素環セグメントに結合した非複素環セグメントとからなることによって形成されており、該複素環セグメントは橋かけ配位子において該非複素環セグメントに比べて該n型半導体から遠い側に位置し、該複素環セグメントにおいてヘテロ原子(炭素原子でない原子)が該n型半導体から遠い側に位置して金属原子と配位していることが好ましい。このような場合、複素環セグメントは金属からの電子遷移(MLCT)の遷移確率が高いので、n型半導体から遠い側に配置された成分色素から電子遷移によって発生した電子を効率よく取り出す効果がより顕著になるので有利である。
すなわち、本発明の光電変換素子においては、互いに異なる励起準位を有する複数の成分色素が化学的に結合されて複合色素を形成しているが、これらの結合された複数の成分色素が、それぞれ光を吸収し励起された電子を効率よくn型半導体を介して電気エネルギーとして取り出すことが、エネルギー変換効率を高めるために重要であり、そのためには、n型半導体から遠い側に配置された成分色素からの電子遷移によって発生した電子を効率よく取り出すことが重要である。かかる色素が複核錯体である場合は、橋かけ配位子に対する電子遷移の確率がn型半導体に近い側の金属からの電子遷移より、n型半導体から遠い側の金属からの電子遷移が高い場合、上述のような適切な電子遷移の方向になるため好ましい。
上述のように、金属原子と複素環セグメントとが複素環セグメントのヘテロ原子のところで配位結合を形成している場合、その金属原子からの複素環セグメントへの電子遷移の確率が高い。したがって、橋かけ配位子において、複素環セグメントが非複素環セグメントに比べてn型半導体から遠い側に位置し、複素環セグメントにおいてヘテロ原子(炭素原子でない原子)がn型半導体から遠い側に位置することが好ましい。
上記の複核錯体は、次の式(1)で表される構造を有することが好ましい。
(L0l1(X0l20[(BL)m{M(L)n1(X)n2}pm]q (1)
(ただし、L0、Lは、それぞれ独立に遷移金属原子に配位できる複素環セグメントを有する配位子を表し、X0、Xは、それぞれ独立に複素環セグメントを有しない配位子を表し、M0、Mは、それぞれ独立に遷移金属原子を表し、BLは、複数の遷移金属原子に配位できる部位を有する橋かけ配位子を表し、l1、l2は、その和が7以下であって、l1は1から7までの整数であり、l2は、0から6までの整数であり、mは、1から7までの整数であり、l1、l2、mの総和は8以下であり、n1、n2は、その和が7以下であって、n1は、0から6までの整数であり、n2は、1から7までの整数であり、p、qは、それぞれ独立に1以上の整数であり、l1、l2、m、n1,n2、pm、qが、それぞれ2以上の場合は、複数のL0、X0、BL、M、L、Xは、それぞれ互いに同じであっても異なっていてもよい。)
上述のような電子の移動を、上記式(1)を用い、簡単のためm、p、qが1である場合について、図4並びに図5を参照しながら説明する。
図4は、上記式(1)の後述の好ましい構造を模式的に表したものである。L0は配位子であり、複素環セグメントと非複素環セグメント(n型半導体と結合する官能基を有している)とからなり、金属原子M0に複素環セグメントのヘテロ原子で配位している。BLは非対称構造を有した橋かけ配位子であり、複素環セグメントと非複素環セグメントとからなり、複素環セグメントのヘテロ原子で金属原子Mに配位し、非複素環セグメント中の原子で金属原子M0に配位している。前述の通り、金属原子から複素環セグメントへの電子遷移(MLCT)は遷移確率が高く、金属原子M0から配位子L0、金属原子Mから橋かけ配位子BLへの電子遷移はいずれも高い確率で起こる。
図5は、それぞれのエネルギー準位と軌道の概念を模式的に表したものである。光が照射されると、金属原子M0に由来する占有軌道から配位子L0の非占有軌道へと電子遷移(図中(A))し、その励起電子は、配位子L0からn型半導体へ移動(図中(B))し、電子を失った状態となる。その状態で、金属原子Mに由来する占有軌道から橋かけ配位子BLの非占有軌道へと電子遷移(図中(C))した場合、その電子は、構造的かつエネルギー的に近接する電子を失っていた金属原子M0に由来する占有軌道へと電子移動(図中(D))を起こす。この結果、励起によって電子を失った準位が、高い準位の金属原子M0に由来する占有軌道から低い準位の金属原子Mに由来する占有軌道へと移動し、色素増感型太陽電池においては、より低い準位の電解質から電子を受け取ることが可能となる。
そして、橋かけ配位子BLが非対称であることによって、図中(D)で示す電子の流れの方向を容易に制御できるようになる。とりわけ、橋かけ配位子BLの非占有軌道に対する遷移の確率が、金属原子M0に由来する占有軌道からの遷移(図中(D)の逆方向)より、金属原子Mに由来する占有軌道からの遷移(図中(C))が高い場合に、図5に示した向きの電子遷移並びに電子移動が効率的に起こる。そのため、橋かけ配位子BLの金属原子M側が図4に模式的に示したように複素環セグメントのヘテロ原子で配位していることが好ましい。
上記式(1)で表される複核錯体の好ましい構造について詳しく説明する。
上記式(1)において、橋かけ配位子BLは複素環セグメントと非複素環セグメントとからなり、非複素環セグメントにおいて金属原子M0に配位し、qが2以上の整数である場合、複素環セグメントは金属原子M0に近い側の金属原子Mと配位し、さらに複素環セグメントのヘテロ原子には単数または複数の金属原子Mが配位していることが好ましい。このような構造を有することにより、金属原子Mから励起された電子は、橋かけ配位子BLを介して金属原子M0方向へと流れるため、低い準位からの励起電子をより効率よく、励起によって電子を失った色素に注入することが可能となる。
非複素環セグメントとは、複素環を有しないセグメントであって、複素環セグメントと結合しているものを言う。具体的には、複素環を有しない、原子(オキソアニオンのようなイオンの形のものも含む)、原子団が挙げられる。
複核錯体の構造は、後に述べる各種分析法で決定され、それに基づいて金属原子M0が特定される。即ち、決定された構造から橋かけ配位子BLの遷移金属との配位構造を特定し、橋かけ配位子BLに配位している複数の遷移金属原子の中から、複素環セグメントに配位している遷移金属原子と非複素環セグメントに配位している遷移金属原子とを特定することによって、非複素環セグメントに配位している遷移金属原子がM0と特定される。
また、複核錯体の末端に位置する成分色素のいずれかが橋かけ配位子ではない複素環セグメント(上記式の(L)に対応)を有しない場合は、その末端に位置する成分色素がn型半導体から遠い側に位置すると判断し、複核錯体の末端に位置する成分色素の橋かけ配位子ではない複素環セグメント(上記式の(L0)または(L)に対応)のいずれか片方が後述するn型半導体やその微粒子との結合に適した結合性官能基を有する場合は、その結合性官能基を有する側がn型半導体に保持される側と判断する。
上記式(1)において、qが2以上の整数である場合、M0に直接配位しない橋かけ配位子BLが存在するが、そのようなBLは金属原子M0に近い側の金属原子Mと非複素環セグメントで配位している。この金属原子M0に近い側とは、特定された複核錯体の構造の結合の序列によって決定される。例えば、qが2でmが1の場合の遷移金属と橋かけ配位子BLだけを取り出して示した序列は、M0(BL)(M)[BL][M]となるが、この場合、この式における左方の金属原子M(即ち、(M)で表されるM)が[M]で表されるMよりもM0に近い側のMである。
上記式(1)で示される複核錯体の構造についてさらに詳しく述べる。
上記式(1)において、橋かけ配位子BLの複素環セグメントを有する配位構造は単座であっても2座以上であってもよいが、2座以上が好ましい。2座以上とすることによって、より強固な配位結合が可能となる。上限に関しては、Mの配位数に応じて適宜選択できるが、より好ましくは2座以上4座以下である。
上記式(1)のn型半導体から遠い側のMに配位したBLの複素環セグメントとは、窒素原子、硫黄原子および酸素原子から選ばれるヘテロ原子を環内に少なくとも1つ有する、1以上の5員環、6員環または7員環から構成された構造である。そして、このようなヘテロ原子でn型半導体から遠い側のMと配位している。化学的に結合された2以上の5員環、6員環または7員環を有する複素環セグメントである場合、複素環セグメントのエネルギーレベルが下がるため好ましい。更に、2以上の5員環、6員環または7員環が、それぞれ1以上の窒素原子、硫黄原子および酸素原子から選ばれるヘテロ原子を、図6にヘテロ原子を表すZa、Zbを用いて模式的に示した配置で環内に有する場合、Mとの結合がより強固になるため好ましい。
このような複素環セグメントの例として、ピリジン、ピロール、ピラン、フラン、チオピラン、チオフェン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、カプロラクタム、カプロラクトン等の5員環、6員環または7員環、さらに、ビピリジン、ターピリジン、フェナントロリン、クォーターピリジンのようにこれらが化学的に結合した環状化合物等が挙げられる。
これらのなかで、ビピリジン、ターピリジン、フェナントロリン、クォーターピリジンおよび後述する官能基がそれらに結合した誘導体は、とりわけ好ましく用いられる。
また、この複素環セグメントには、M0側に配位する非複素環セグメントが結合している。複素環セグメントは、複素環セグメントのエネルギーレベルのコントロールや複核錯体の溶媒に対する溶解度を向上させることができるような官能基を有していてもよい。このような官能基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、フェニル基、ベンジル基、カルボン酸基、スルフォン酸基、リン酸基、ヒドロキシル基、クロロ基、フルオロ基が挙げられる。官能基の例としては更に、フェニル基にカルボキシル基などが結合したものが挙げられる。これらの官能基の種類および組み合わせは、溶媒との親和性、電子吸引性、電子供与性等の性質を考慮して適宜選択できる。このような、電子吸引性基や電子供与性基と複素環セグメントとの共鳴の度合いを調整することによって、橋かけ配位子BLの準位が調整され、結合された複数の成分色素の励起状態準位や励起準位を調整することができる。とりわけ、橋かけ配位子BLの励起状態準位は、橋かけ配位子BLのn型半導体から遠い側に配位する金属原子Mからの電子遷移幅(吸収波長)に大きな影響を与えるので、この制御は重要となる。
橋かけ配位子BLがこのような官能基を有する場合、後述する配位子L0が有する官能基とは異なる官能基が好ましい。即ち、L0の結合性官能基を用いて、n型半導体と結合する際、結合部位の制御が容易になるためである。
上記式(1)において、M0側に配位した非複素環セグメントとは、複素環を有しないセグメントであって、複素環セグメントと結合しているものを言う。非複素環セグメントは、ヒドロキシル基やヒドロキシル基がイオン化したオキソアニオン(O-)のように複素環セグメントに結合した官能基であってもよいし、複素環セグメントに結合した少なくとも1つの原子と、該原子と結合している原子または原子団とからなっていてもよい。このM0側に配位する原子種は限定されないが、窒素原子、酸素原子、硫黄原子および水素原子から選ばれる原子であることが好ましい。具体的には、カルボニル基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基及びオキソアニオン(O-)等が挙げられる。これらの中で、カルボニル基を2つ有するβ−ジケトナト基のような2座以上の配位子は結合強度が高くなるため好ましい。また、オキソアニオン(O-)が2つ存在するイオン化されたジオール構造も結合強度が高く、とりわけ、BLが配位する金属種やその金属の他の配位子によっては、イオン的な結合を形成して結合強度が高くなり好ましい。
次に橋かけ配位子BLの好ましい構造の具体例を幾つか挙げて説明する。図7は、1,10−フェナントロリン−5,6−ジオン(図7(c):キノン型と称す)から誘導されるBLである。このような化合物は、用いられる反応雰囲気によって、図7(b)で表される1価のアニオン構造(セミキノン型と称す)、図7(a)で表される2価のアニオン構造(カテコールアニオン型と称す)と変化する。従って、このような化合物の場合は、複核錯体においても、キノン型、セミキノン型、カテコール型の幾つかが混ざりあった状態で存在する場合が多い。また、この図においては、いずれも図の左方に複素環セグメントが位置し、右方に非複素環セグメントが位置する。カテコール型においては、非複素環セグメントがオキソアニオン(O-)を有する構造となる。
図8は、他の典型例である。図8(a)はフェナントロリン環の4,7位を変性し、4位にメチレン鎖を介してβ−ジケトナト基を非複素環セグメントとして導入し、7位にはアルデヒド基をBLの非占有軌道準位を調整する目的で導入した化合物である。また図8(b)は、複素環セグメントにカテコールアニオン構造を有するフェニル基が導入された例である。図8(a)並びに図8(b)の構造のような場合も、非複素環セグメントは、図7に示したようなイオン性の変化を伴うことがある。
上記式(1)において、M0、Mは、それぞれ独立に遷移金属原子を表す。遷移金属とは、周期律表の3〜11族の元素のことをいい、目的に応じて選択されるが、好ましくは、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cr、Mn、Cu、Zn、Mo,WおよびReから選ばれる遷移金属原子であり、より好ましくは、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Ptから選ばれる遷移金属原子である。
とりわけM0は、光電変換素子およびそれを用いた色素増感型太陽電池において複素環セグメントへの遷移確率の高い錯体が得られやすいために広く用いられる元素が好ましく、具体的にはFe、Ru、Osから選ばれる遷移金属原子が好ましく、最も好ましくは、Ruである。
また、M0は好ましくは6配位の遷移金属である。即ち、上記式(1)におけるL0は、後述のように色素増感型太陽電池用途で安定性やエネルギー準位の観点から一般に用いられる、ビピリジン、フェナントロリン、ターピリジン、クォーターピリジン並びにそれらの誘導体といった2から4座の複素環セグメントが好ましく用いられるが、M0が6配位構造となることによって、これらの好ましいL0に対応した構造体が得られるためである。
一方Mは、好ましくは4配位または6配位の遷移金属である。このような配位数は、それぞれの準位の調整と色素増感型太陽電池として用いる際の電解質からの電子注入部位(式(1)における、L及び/またはX)の数や得られる錯体の構造の安定性、製造の容易さなどを勘案して適宜選択される。M0、Mは、それぞれ同一であっても異なっていていてもよいが、それぞれの酸化準位は、M0が最も高く、1または複数存在するMのうち、M0に近いMほど酸化準位が高い。このような序列にすることによって、より低い準位からの励起電子を効率よく取り出すことができる。このような酸化準位は、配位子と結合した状態でサイクリックボルタンメトリ測定に代表される電気化学的測定法等によって測定して求められる。
このようなM0やMの種類は、それぞれの金属から見てn型半導体側に位置する配位子(上記式(1)のL0に対応)や橋かけ配位子(上記式(1)のBLに対応)の種類と共に電子遷移の確率を大きく変化させるので、複合色素のところで説明したような適切な電子移動の方向性を持たせるために、電子遷移の確率が高い金属と配位子の組み合わせが選択される。
上記式(1)において、L0、Lは、それぞれ独立に、遷移金属原子に配位できる複素環セグメントを有する配位子を表す。これらの複素環セグメントは、窒素原子、硫黄原子および酸素原子から選ばれるヘテロ原子を環内に少なくとも1つ有する、1以上の5員環、6員環または7員環から構成される。そして、このようなヘテロ原子でn型半導体から遠い側のM0やMと配位している。化学的に結合された2以上の5員環、6員環または7員環を有する複素環セグメントである場合、複素環セグメントのエネルギーレベルが下がるため好ましい。更に、2以上の5員環、6員環または7員環が、それぞれ1以上の窒素原子、硫黄原子および酸素原子から選ばれるヘテロ原子を、橋かけ配位子BLの説明のところで図6を用いて説明した配置で環内に有する場合、それぞれM0、Mとの結合がより強固になるため好ましい。
このような複素環セグメントの例として、ピリジン、ピロール、ピラン、フラン、チオピラン、チオフェン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、カプロラクタム、カプロラクトン等の5員環、6員環または7員環、およびビピリジン、ターピリジン、フェナントロリン、クォーターピリジンのようにこれらが化学的に結合した環状化合物等が挙げられる。
複素環セグメントは、官能基を有していてもよい。官能基の例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、フェニル基、ベンジル基、カルボン酸基、スルフォン酸基、リン酸基、ヒドロキシル基、クロロ基、フルオロ基が挙げられる。官能基の例として更に、フェニル基にカルボキシル基などが結合したものが挙げられる。これらの官能基の種類や組み合わせは、化学結合性、電子吸引性、電子供与性等の性質を考慮して適宜選択できる。
これらのなかで、L0は、遷移金属原子に配位できる2座以上4座以下の配位子であることが好ましく、具体的には、前述の5員環、6員環または7員環が化学的に結合して、ビピリジン、フェナントロリン、ターピリジン、クォーターピリジンのように2座から4座の配位子となっている物質が好ましい。そして、L0はn型半導体やその微粒子との結合に適した結合性官能基を有することが好ましい。具体的には、カルボン酸基およびその塩、スルフォン酸基およびその塩、リン酸基およびその塩から選ばれる官能基を有することが好ましい。また、カルボン酸のエステル、燐酸エステル、スルフォン酸エステルといった官能基であっても、使用される際に実質的に上記の官能基と同等の結合を形成しうるものであればよい。さらに、l1が2以上の場合、複数以上のL0の少なくとも1つのL0にこのような官能基を有することが好ましく、複数以上のL0にこれらの官能基が2以上結合している場合は、それらは同じであっていても異なっていてもよい。
より好ましいL0としては、通常光電変換素子の増感剤として用いられる、複素環を有する配位子が挙げられる。この用途においては、結合性官能基を有し、窒素原子を有する複素共役環からなる2座以上4座以下の配位子が好ましく用いられ、具体的には、カルボン酸基およびその塩、リン酸基およびその塩が結合した、ビピリジン、フェナントロリン、ターピリジン、およびクォーターピリジンが好ましい。
一方Lは、遷移金属原子に配位できる単座以上3座以下の複素環を有する配位子であることが好ましい。
Lは、所望に応じて存在し、主に、Mの基底状態準位の調整の機能と色素増感型太陽電池として用いる場合は、電解質からの電子の受け取りの機能を有する。なお、Lが官能基を有する場合、L0が有する官能基とは異なる官能基を有する方が好ましい。即ち、L0の結合性官能基を用いて、式(1)で表される複核錯体をn型半導体やその微粒子と結合して用いる場合に、その物質との複核錯体の結合する部位を制御するのが容易になるためである。
上記式(1)において、X0、Xは、それぞれ独立に、複素環を有しない配位子を表し、アニオン性または中性の配位子が好ましく用いられる。具体的には、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヒドロキソ、シアノ、チオシアナト、イソチオシアナト、ニトロ、カルボナト、ホスファト、スルフィト、スルファト、アシルオキシ、アシルチオ、アンミン、エチレンジアミン並びにその誘導体、トリエチレンテトラミン並びにその誘導体、カルボニル、ホスフィンなどのイオンや分子が例示できる。更に、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素およびその誘導体に、カルボニル基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基やそれらのイオンなどの上記配位構造が結合した化合物等も用いられる。
上記式(1)において、l1、l2は、その和が7以下であって、l1は、1から7までの整数であり、l2は、0から6までの整数である。これらの数値は、M0の配位数とBLのM0側の配位部位によって決定される。好ましくは、l1は1から3までの整数である。先述の通り、L0が2座から4座の配位子であることが好ましいため、M0の配位数とともに適宜決定される。またl2は好ましくは0から2までの整数である。すなわち、主にX0は、M0の配位数、BLの非複素環セグメント及びL0の配位構造によって、M0の配位数が満たされない場合に補うのに必要な配位子であるためである。
l1、l2のより好ましい組み合わせを以下に例示する。
A)M0が6配位の金属であり、L0がビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体のような2座配位の配位子で、l1が2であり、BLのM0側の配位がβ−ジケトナト基のような2座であってl2が0の場合。
B)M0が6配位の金属であり、L0がターピリジンおよびその誘導体のような3座配位の配位子で、l1が1であり、BLのM0側の配位が3座であって、l2が0の場合。
C)M0が6配位の金属であり、L0がターピリジンおよびその誘導体のような3座配位の配位子で、l1が1であり、BLのM0側の配位が2座であって、l2が1の場合。
D)M0が6配位の金属であり、L0がクォーターピリジンおよびその誘導体のような4座配位の配位子で、l1が1であり、BLのM0側の配位が2座であって、l2が0の場合。
先述のように、M0は6配位の金属が好ましく用いられるため、前記の好ましい組み合わせのように、l1は1または2が好ましく、l2は0または1が好ましい。
一般式(1)において、mは、M0の配位数、L0、X0、BLのM0側の配位構造によって決定され、1から7までの整数であり、l1、l2との総和が8以下である。mが2以上の場合は、複核錯体は、BLを分岐点として枝分かれした構造となる。複核錯体の構造の複雑性を抑えるためには、mは1から3までの整数であることが好ましく、より好ましくは1または2であり、さらに好ましくは1である。とりわけ、BLの非複素環セグメントの配位構造が2座である場合は、mは1が好ましい。
先述のように、M0は6配位の金属が好ましく用いられるため、その場合は、l1、l2、mの総和は5以下となる。
上記式(1)において、n1、n2は、その和が7以下であって、n1は、0から6までの整数であり、n2は、1から7までの整数である。これらの数値は、Mの配位数とBLのM側の配位部位によって決定される。
n1、n2の好ましい組み合わせを以下に例示する。
a)Mが4配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体のような2座配位の配位子で、n1が0であり、Xが単座配位の配位子であってn2が2の場合。
b)Mが4配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体のような2座配位の配位子で、n1が0であり、Xが2座配位の配位子であってn2が1の場合。
c)Mが4配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがターピリジンおよびその誘導体のような3座配位の配位子で、n1が0であり、Xが単座配位の配位子であってn2が1の場合。
d)Mが6配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体のような2座配位の配位子で、n1が0であり、Xが単座配位の配位子であってn2が4の場合。
e)Mが6配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体のような2座配位の配位子で、n1が0であり、Xが2座配位の配位子であってn2が2の場合。
f)Mが6配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体のような2座配位の配位子で、Lが2座配位の配位子でn1が1であり、Xが単座配位の配位子であってn2が2の場合。
g)Mが6配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体のような2座配位の配位子で、Lが2座配位の配位子でn1が1であり、Xが2座配位の配位子であってn2が1の場合。
h)Mが6配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体のような2座配位の配位子で、Lが2座配位の配位子でn1が2であり、n2が0の場合。
i)Mが6配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがターピリジンおよびその誘導体のような3座配位の配位子で、n1が0であり、Xが単座配位の配位子であってn2が3の場合。
j)Mが6配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがターピリジンおよびその誘導体のような3座配位の配位子で、n1が0であり、Xが3座配位の配位子であってn2が1の場合。
k)Mが6配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがクォーターピリジンおよびその誘導体のような4座配位の配位子で、n1が0であり、Xが単座配位の配位子であってn2が2の場合。
l)Mが6配位の金属であり、BLのMと配位する複素環セグメントがクォーターピリジンおよびその誘導体のような4座配位の配位子で、n1が0であり、Xが2座配位の配位子であってn2が1の場合。
上記式(1)において、pは、1以上の整数であり、BLのMと配位する複素環セグメントの配位構造およびその数によって決定される。例えば、複素環セグメントが、ビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体等のような2座配位の配位子やターピリジンおよびその誘導体のような3座配位の配位子を1つ有する場合は、pは1であり、複素環セグメントがビピリジンおよびその誘導体、フェナントロリンおよびその誘導体等のような2座配位の配位子を2つ有する場合は、pは1または2であり、好ましくは2である。複素環セグメントがキノリンおよびその誘導体のような1座配位の配位子を3つ有する場合は、pは1から3までの整数であって、好ましくは3である。上限に関しては、特に制約はないが、複核錯体の構造が複雑になり、その製造が困難になる場合があるため、1から3までの整数が好ましい。より好ましくは、1または2である。さらに、最も構造が簡略化されるのはpが1の場合である。
上記式(1)において、qは、[(BL)m{M(L)n1(X)n2}pm]の繰り返し数を表す1以上の整数である。qが2以上の場合、複核錯体は3核以上の錯体となるが、その場合、Mの両側にBLがM0に近い側に非複素環セグメントが位置するように方向性を持って配置され、BL−M−BLの如く直鎖構造となる。
このqの数が増すに従って、一般式(1)で表される複核錯体はより広い範囲の光を吸収し、かつ、後に述べる適切な電解質類との組み合わせによって、より高い電圧を取り出すことが可能となる。しかしながら、前述のように複合色素が複核錯体の場合であっても、qが3以上であっても構造が複雑になり製造の容易さが損なわれるのに対し、得られる光の広範囲吸収の程度や高電圧化の程度が小さいため、qは1または2が好ましく、さらに製造の容易さの観点からqは1であることが好ましい。
上記式(1)の複核錯体が電荷を有する場合は、その電荷を中和するカウンターイオンを用いることができる。カウンターイオンの例としては、四フッ化ホウ素イオン、四フッ化リンイオン、過塩素酸イオン、塩素イオン、臭素イオン、よう素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、イソチオシアン酸イオン、チオシアン酸イオン等の各種アニオン、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン等のアルカリ金属、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、モノメチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、トリフェニルアンモニウムイオン等の有機アンモニウムイオン、テトラフェニルフォスフォニウムイオンに代表される有機フォスフォニウムイオン等が挙げられる。
複核錯体の合成方法について説明する。複核錯体は、それぞれの配位子と金属との結合のしやすさを比較したうえで、所望に応じ錯交換反応を組み合わせて合成できる。具体的には、以下のような方法が例示できる。
(1)(L0l1(X0l20からなる錯体を合成し、別に合成した(BL)m{M(L)n1(X)n2}pmからなる錯体を所望に応じて錯交換反応を経て結合させる方法、
(2)(L0l1(X0l20(BL)mからなる錯体を合成し、M(L)n1(X)n2を結合する方法、
(3)(L0l1(X0l20(BL)mからなる錯体を合成し、次いでMの塩を結合させた後(L)n1(X)n2を結合する方法、
(4)(L0l1(X0l20とM(L)n1(X)n2とBLを混合し、結合させる方法。
(1)の場合、(L0l1(X0l20からなる錯体は、例えば、M0の塩化物塩とL0を溶媒の存在下混合し加熱して合成する。この際、M0の配位数とL0の配位数を比較し、残存させるべきX0に相当する、この場合は塩素イオン数から溶媒への投入量を決定する。例えば、L0が4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジンのように2座配位の配位子で、M0が6配位のルテニウムの場合であって、塩化ルテニウムを原料として用い塩素イオンを2つ残存させる場合は、L0をM0に対し、2倍量(モル比)投入する。このような反応は、溶解特性の良好な、ジメチルフォルムアミドなどの溶媒中で好適に行われ、通常、反応温度が安定しやすい還流温度で数時間反応させる。得られた化合物にはX0として塩素イオンが残るが、この部位を、(BL)m{M(L)n1(X)n2}pmとの錯交換に用いる。一方、(BL)m{M(L)n1(X)n2}pmの合成に関して、m=p=1の場合で例示する。この場合、(BL)m{M(L)n1(X)n2}pmは(BL)mM(L)n1(X)n2の構造となるが、この場合も、Mの塩化物や酢酸塩のような、後で置換反応が起こり易い化合物を原料にすることが良い場合が多い。また、例えば、Mの塩化物や酢酸塩に、BLやLが直接配位しにくい時は、ジメチルスルフォキシド(DMSO)錯体などを中間体として経由して合成するのが好ましい。そして、上述のように結合させるべきそれぞれの配位子を順に、加熱攪拌等して配位させる。例えば、ジイソチオシアナト−(1,10−フェナントロリン−5,6−ジオン)白金(II)を合成する場合は、まず、テトラクロロ白金(II)酸カリウム塩を水のような溶媒に溶解し、DMSOを2〜4倍(モル比)程度混合して、塩化白金のDMSO錯体を形成する。そして、そのDMSO部をより配位力が強い1,10−フェナントロリン−5,6−ジオンを等モル比程度混合して反応させることでDMSOと交換し、フェナントロリン環の窒素原子の部分で、白金と配位させ、最後に残った塩素イオンを塩素イオンより配位力が強いイソチオシアンイオンに置き換える。このように、塩素イオンは、置換されやすいので、反応最後の置き換えに用いるのが好ましい。そして、複核反応を行うが、この場合は、1,10−フェナントロリン−5,6−ジオンのジオンに由来する部位が(L0l1(X0l20のX0の一部又は、全部と置き換わって配位するが、ジオン構造(キノン型)は、反応速度遅い場合があるので、緩やかな還元力を有するジメチルフォルムアミドのような溶媒中や水酸化カリウムに代表される塩基性化合物とともにカテコール型を形成しながら反応させるのが好ましい場合が多い。また、中間体として、DMSO錯体を例示したが、このような中間体を形成する場合は、アセトニトリルやベンゾニトリルといったニトリル化合物やシクロオクタジエン環、トリフェニルフォスフィン、酢酸イオンといった化合物も好適に用いられる。
(2)の場合は、まず(L0l1(X0l20(BL)mからなる錯体を合成する。本発明の好ましい構造であるBLが非対称の場合は、その結合の方向を制御する必要がある。例えば、BLが5,6−ジヒドロキシ−1,10−フェナントロリンの場合で、M0側にオキソアニオン構造で配位させる時は、溶媒中に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性物質を混合し、塩基性雰囲気下で反応する。このようにすることによって、フェナントロリン環の窒素原子による配位に対し、オキソアニオンの配位を優先させることができ、BLの配位の方向を制御できる。この場合も、配位子置換を伴うが、X0は塩素イオンが好ましい。例えば、(シス−ジクロロ−ビス(2,2'―ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸))ルテニウム(II)に5,6−ジヒドロキシ−1,10−フェナントロリンのヒドロキシル基をオキソアニオンへとイオン化させながら反応させる時は、溶解性の良好なジメチルフォルムアミドと水の混合溶媒を用い、塩基性条件とするために水酸化カリウムを添加し、窒素やアルゴンといった不活性ガス雰囲気下、数時間過熱還流して行う。このようにすることによって、(シス−ジクロロ−ビス(2,2'―ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸))ルテニウム(II)の塩素イオンに置き換わって、イオン化された5,6−ジヒドロキシ−1,10−フェナントロリンが結合する。そして、別途合成したM(L)n1(X)n2を結合する。この、M(L)n1(X)n2の合成は、(1)の方法の(L0l1(X0l20の合成と同様にして行えばよい。この場合も、(1)で示したように、このMがBLの共役二重結合を有する複素環のヘテロ原子との配位しにくい場合は、(1)で示したDMSO錯体のような中間体を経て、反応を行う。錯体の合成反応は、より強い配位力を有する結合の生成が優先し、目的化合物が形成した後、配位子交換が起こって、目的化合物とは異なる構造になる場合があるので、そのような場合は、反応時間を必要以上に長く取らない方が良い。例えば、(ビス(2,2'―ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)−(1,10−フェナントロリン−5,6−ジオレート))ルテニウム(II)−(ビス(2,2'―ビピリジル))ルテニウム(II)のクロライド塩の合成を、水とエタノールの混合溶媒中、還流温度で合成する場合は、反応時間は1時間程度が好ましい。また、錯形成定数を求められ、活性化エネルギーの大小の判断が付く場合は、反応温度を上げたり下げたりすることによっても、配位子交換反応を抑えることも可能である。
(3)の場合は、(2)の方法と同様にして合成した(L0l1(X0l20(BL)mからなる錯体に、Mの例えば塩化物塩や酢酸塩を結合させた後(L)n1及び/又は(X)n2を結合する方法である。この場合は、Mの例えば塩化物塩や酢酸塩を結合させる際に、目的化合物がMを中心に対称な2量化体が生成する可能性があるので、反応の濃度や温度を低く設定し、2量化反応を抑えると共に、生成後、精製操作などを加え、目的化合物を取り出す方が好ましい。
(4)の場合は、BLが対称構造の場合には、簡便であるため、好適に用いられる。また、非対称構造の場合であっても、M0、Mとの配位力が異なる場合には使用できる。即ち、例えば、BLとして5,6−ジヒドロキシ−1,10−フェナントロリンやその誘導体を用いる場合、オキソアニオンとM0の配位結合の生成速度がフェナントロリンの窒素原子との配位速度より速く、逆に、Mとの配位結合の生成速度がフェナントロリンの窒素との結合が早い場合、このように同時に混合した場合も、目的の方向性をもって配位させることができる。
各部位等の合成条件は次のようにして設定し、合成する。
まず、上述のようにそれぞれの金属と配位子の結合のしやすさを比較する。この比較は、文献に記された反応速度定数や類似化合物の合成例を参照しながら、それぞれの配位子や金属塩の前駆体を相互に反応させて行う。この比較を予め行う方が後述する分析による構造決定が容易になるので好ましい。次いで、考案した反応順での複核錯体の合成を行う。その合成は、出発原料が溶解しやすい、或いは、懸濁状態となるような合成溶媒を、各種有機溶媒や水、所望に応じて、各種有機及び/又は無機の塩などを添加し、所望に応じて、各種有機溶媒や水を混合して合成溶媒とする。また、目的とする結合の種類によっては、合成溶媒の酸性、塩基性の程度や酸化性、還元性の程度が反応の進行や生成物の安定性に重要な場合があるので、添加剤は溶解性のみならず、このような特性も勘案して選択される。
反応は、選択した有機溶媒の沸点や、反応順を決定する際の予備実験における反応の容易さを勘案して反応温度、反応時間を決定する。この際、後述の各種分析法を用いて反応を追跡し、反応の終点を決定する方法が好ましく用いられる場合が多い。
このような反応は、通常常圧下で行われる。また、窒素やアルゴンといった不活性ガスを溶媒に吹き込みながら反応を進行させる方が好ましい場合が多い。
合成溶媒が、生成物に対して貧溶媒である場合は、生成物が合成時に沈殿し、分離が容易になる場合がある。また、部分的に溶媒を溜去することによって、生成物の沈殿が得られる場合もある。このように、沈殿物として目的化合物が得られる場合は、それを濾紙に代表される濾別法や遠心分離法に代表される分離法を用いて回収する。また、溶媒を完全溜去して得られた固形物(目的化合物と原料などの混合物)を目的化合物の貧溶媒を用いて洗浄する方法や、再結晶、最沈殿、分液分離やシリカ、アルミナ、有機修飾シリカなどの吸着剤を用いたカラム精製などの精製法も所望に応じて適宜選択される。このような、精製操作の必要性や方法は、生成物の特性、工程の利便性、経済性等を考慮して適宜選択される。
複核錯体の構造は、赤外線分光分析法(IR)、核磁気共鳴分光法(NMR)、紫外−可視分光分析法(UV−vis)、各種質量分析法(MS)法、ICP発光分析法、蛍光X線分光分析法、各種化学的元素定量法の組み合わせ、単結晶を形成してX線回折分析法を用いて原子間距離を求める等の方法により決定される。
所望により結合基を導入され、π共役を有する各種の有機色素が化学的に結合されたものとしては、9−フェニルキサンテン系、トリフェニルメタン系、アクジリン系、クマリン系、インジゴ系、シアニン系、スピロピラン系、アゾ系、キサンテン系などの各種有機色素を複数用い、化学合成によって互いに結合された色素(複合色素)等が挙げられる。このような、化学合成は、複核錯体の合成のところで示したのと同様に通常の有機化学的合成法によってなされ、その分析も、複核錯体の合成のところで示したような分析法によって分析される。なお、このような有機色素の例は、松岡賢著「JOEM Handbook 2 Absorption Spectra of Dyes for Diode Lasers」、日本国、ぶんしん出版(1990)などに記載されている。
本発明において、異なる励起準位を有する複数の成分色素が化学的に結合された複合色素のそれぞれの成分色素からの光吸収は、同一波長領域であっても異なっていてもよいが、これらの光吸収が異なる波長領域であることが好ましい。異なる波長領域とすることによって、太陽光に代表されるブロードな波長分布をもつ光の広い領域を使用することが可能となる。
次に、本発明の光電変換素子を構成するn型半導体について説明する。本発明において、n型半導体は、複合色素が光を吸収することによって生じた励起電子を受け取り、電子を回収する際に必要な導電性材料へと受け渡す機能を有する。
従って、n型半導体の伝導体準位は、このn型半導体に保持された成分色素の励起状態準位より低い準位であることが必要であり、その成分色素の最低非占有軌道(LUMO)の準位より低い準位であることが好ましい。
n型半導体としては、具体的には、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化バナジウム等の各種酸化物半導体、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等の各種複合酸化物半導体、カドミウムやビスマスの硫化物、カドミウムのセレン化物やテルル化物、ガリウムのリン化物やヒ素化物等が挙げられ、これらを組み合わせて用いることもできる。これらの中で、酸化チタンは複合色素からの励起電子を受け取る性能や透明導電膜まで移動させる性能などのバランスが取れているため好ましく用いられる。
n型半導体の形状には特に限定はないが、微粒子であることが好ましい。微粒子とすることによって、複合色素から電子を受け取る面積が増大するため、多くの複合色素を光吸収剤としてより効率的に機能させることができ、光電変換の効率が向上する。
微粒子のサイズは、光電変換素子の使用目的、用いられる光の強度、複合色素の吸光度等によって決定されるが、好ましい粒子サイズは、その一次粒子径が1〜5000nm、より好ましくは2〜100nm、最も好ましくは2〜50nmである。一次粒径が5000nmを越えると、半導体の膜の光透過性が低下して、入射した光を有効に使えない場合があり、一次粒径が1nm未満の場合は、半導体微粒子の電子伝導度が低下して、発生した励起電子を後に述べる導電性支持体に移送する際のロスが大きくなる場合がある。
このような微粒子の粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置、動的光散乱光度計などによって測定できる。また、n型半導体が設けられている光電変換素子を走査型電子顕微鏡で観察し、得られた像から粒径を算出することもできる。走査型電子顕微鏡を用いる場合は、測定画面内に存在する粒子のサイズを測定し、その平均値として算出する。微粒子が球形の場合は、その直径をもって粒径と判断し、そうでない場合は、最長辺の長さと最短辺の長さの平均とする。
n型半導体は、その表面に、電子の伝導度を調節できるようなシェル層が設けられていてもよい。シェル層の存在により、例えば、励起して電子を失った複合色素や、電解質のような他の材料への逆電子移動を抑制することができる場合がある。本発明において、複合色素から励起された電子が複合色素に戻りにくい場合、段階的多光子吸収システムがより効率的に機能する。そのため、とりわけn型半導体が導電性の高い酸化錫や酸化亜鉛のような材料の場合は、シェル層が重要な役割を担う場合がある。
シェル材料として、n型半導体材料や絶縁体が用いられる。具体的な材料として、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化バナジウム等の各種酸化物半導体、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等の各種複合酸化物半導体、カドミウムやビスマスの硫化物、カドミウムのセレン化物やテルル化物、ガリウムのリン化物やヒ素化物等の無機n型半導体、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、炭酸マンガン等の遷移金属炭酸塩、炭酸ランタン、炭酸イッテルビウム、炭酸セリウム等のランタノイド炭酸塩等の金属炭酸塩、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム等のアルカリ金属酸化物、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物、酸化アルミニウム、酸化コバルト、酸化マンガン等の遷移金属酸化物、酸化セリウム、酸化ガドリニウム、酸化サマリウム、酸化イッテルビウム等のランタノイドの酸化物等の金属酸化物、シリカに代表される天然または合成の珪酸化合物等の無機絶縁体、低分子、高分子の有機絶縁体等が挙げられる。これらの材料を組み合わせて使用することもできる。これらの中で、材料の安定性の観点から、無機n型半導体、無機絶縁体から選ばれる無機化合物が好ましく、より好ましくは、アルカリ土類金属を含有する無機化合物である。
シェル構造の厚みは適宜選択できるが、複合色素からn型半導体への電子注入の確率を落とさないようにするため、好ましくは1nm未満であり、より好ましくは0.8nm以下、更に好ましくは0.6nm以下、最も好ましくは0.4nm以下である。下限に関しては、開放電圧が向上する限り限定は無いが、好ましくは0.1nm以上である。
シェルの厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて直接観察するか、測定深さが一般的に5nm以下であるX線光電子分光法(XPS)を用いて、n型半導体の特定の元素(例えば、n型半導体が酸化チタンの場合はチタン)とシェルを形成する材料の特定の元素(例えば、炭酸カルシウムの場合はカルシウム)の原子数比と、後に述べる方法で求めたシェルの組成から分かるシェルの比重を用いて算出することもできる。原子数比を求めるために選択される特定の元素は、分析の容易さ(ピークの重なりが少ないこと、ピークの強度が強いこと、好ましくはn型半導体/シェルのいずれか片方のみに存在すること)によって適宜選択される。
また、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)のような装置を用いエッチングしながら組成分布を求め、その組成の変化が顕在化するまでのエッチング厚みを用いてシェル厚みを求めることもできる。更に簡易的には、シェル部、n型半導体の材料の比重とその原料の使用量、およびn型半導体が粒子状の場合はその平均粒径から算出することも可能である。
上記のように本発明の光電変換素子は複合色素及びn型半導体を包含するが、n型半導体は後に述べる導電性材料などと接した形で存在していてもよい。n型半導体として微粒子を用いる際には、導電性材料の表面で焼結されて多孔質構造の半導体膜の形となっていると、n型半導体中の電子の流れが良好となるので好ましい。多孔質構造とは、例えば、窒素ガスを用いたBET表面積測定によって得られた質量あたりの表面積から算出される表面積増大が、その粒子が存在する面を平面に投影した面積の5倍以上のものをいい、好ましくは10倍以上、より好ましくは50倍以上である。このようなシェルを有するn型半導体は、前記のn型半導体と混合して用いることもできる。
半導体膜には、上記のn型半導体以外に、後に述べる光電変換素子の性能を落とさない程度の量の、アセチルアセトン等の有機物バインダー、金属過酸化物(例えば、過酸化チタン、過酸化スズ、過酸化ニオブ等)、金属アルコキシド等の無機物バインダー、硝酸、硫酸等の無機物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、セルロースおよびその変性体等の高分子化合物、ノニオン系、アニオン系、カチオン系やシリコーン系等の各種界面活性剤類、キレート補助剤類を加えることも可能である。
本発明におけるn型半導体が導電性材料と接している場合、導電性材料としては、金、銀、銅、白金、パラジウム等の金属やその薄膜、錫をドープした酸化インジウム(ITO)に代表される酸化インジウム系化合物、フッ素をドープした酸化錫(FTO)に代表される酸化錫系化合物、酸化亜鉛系化合物等の透明導電性材料やこれらからなる薄膜等が用いられる。
本発明の光電変換素子には、異なる励起準位を有する複数の成分色素を化学的に結合した複合色素のほかに、本発明で用いる成分色素と同レベルの励起準位を有する錯体色素や有機色素を含んでもよい。
本発明において、複合色素や上記の錯体色素や有機色素の保持(担持)量は、紫外−可視分光分析によって色素の吸光度から色素量を換算して求められる。この測定は、光電変換素子を含む電池の状態で行ってもよいし、アルカリ水溶液等を用いて色素をn型半導体から解結合させた後に行ってもよい。
本発明の色素増感型太陽電池について説明する。本発明の色素増感型太陽電池は、本発明の光電変換素子を含む電極(陰極)、対極、及び該光電変換素子と該対極の間に設けられた電解質からなり、該光電変換素子を含む電極と該対極を、該電解質の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合する時に作動可能となることを特徴とする。
そして、その一対の電極の少なくとも一方は、錫をドープした酸化インジウム(ITO)に代表される酸化インジウム系化合物、フッ素をドープした酸化錫(FTO)に代表される酸化錫系化合物、酸化亜鉛系化合物等の透明導電性材料、またはこれらからなる薄膜を透明基材上に設置した透明導電性支持体を含んでいることが好ましい。
電解質は上記の2電極(陰極と対極)にサンドイッチ式に挟まれていてもよいし(この場合、「挟持型電池」と称する)。また、上記の2電極(陰極と対極)は電解質に浸漬されていてもよい(この場合、「浸漬型電池」と称する)。
上述のように、本発明の光電変換素子は、複合色素及びn型半導体からなり、通常は複合色素がn型半導体に担持されている。n型半導体は、複合色素が光を吸収することによって生じた励起電子を受け取り、電子を回収する際に必要な導電性材料へと受け渡す機能を有するため、導電性材料と接触している。このように、導電性材料の表面に形成されたn型半導体および複合色素からなる層が陰極(光電変換電極)となる。
本発明においては、陰極を構成する導電性材料が、透明導電性材料であることが好ましい。即ち、色素増感型太陽電池において、透明導電性支持体は、光を導入するための電極として使用されるが、光電変換素子が光を導入される側に配置された方が、電解質の光吸収などによる光の損失がなく、照射された光エネルギーを有効に活用することができるためである。この好ましい色素増感型太陽電池の構造例を図9に模式的に示す。
また、透明導電性材料から電解質への電子の漏洩を防止することを目的として、n型半導体から透明導電材料への電子の受け渡しを大きく阻害しない範囲で、透明導電性材料の表面に逆電子移動防止層を設置することもできる。このような材料としては、結晶性の低いあるいは非晶質の酸化チタンが好適に用いられ、ゾル−ゲル法やスパッタリング法で設置される。
ここで、透明とは、光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましい。
透明基材としては、上記透明性を有するガラスや有機物等を用いることができ、限定はされない。具体的には、有機物の例としては、透明ポリマーフィルムが挙げられ、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネート(PC)、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等を用いることができる。
電解質は、光によって励起して励起電子をn型半導体に渡して電子を失った複合色素に電子を補充する機能を有する。電解質としては、複合色素の酸化還元準位に適した準位を持つものが選択される。この準位が適合していることによって電解質から色素への電子の移動が可能となり、色素増感型太陽電池は機能する。この準位が適合しているとは、具体的には、複合色素のn型半導体から最も離れた成分色素(最も低い励起準位を有する成分色素)よりも高いエネルギー準位(即ち、電気化学測定法によって求めた準位の値が小さい準位)であることを言う。このようなエネルギー準位順であることによって、電解質と複合色素との間の電子移動が容易に起こる。
なお、準位の適合性は、サイクリックボルタンメトリに代表される電気化学的測定によって確認できる。
本発明において対極の準位とは、色素増感型太陽電池において光電変換素子を有してなる陰極と対向して設置されている対極が電解質に電子を受け渡すエネルギー準位のことである。この準位において、酸化体で存在していた電解質は、還元されて還元体へと変化し、光電変換素子中の複合色素へ電子を受け渡すことができるようになる。このような対極準位は、光電変換素子を有してなる陰極(光電変換電極)を作用極とし、白金に代表される対極を設置し、電位参照となる参照極を併設して行う3極式光電気化学測定と参照極を設置せず対極と作用極の電位差を測定する2極式光電気化学測定のそれぞれの電圧値から、3極式光電気化学測定の際に用いた、参照極の酸化還元準位に対する準位(電位)として求められる。また、3極式電気化学測定でポテンシャルの挿引速度を十分遅くしたり、電解質を含む測定液を攪拌したりするなどして酸化波や還元波が観測されない測定条件とし、光を照射せずに測定した場合の、電流−電圧曲線が電圧軸(通常X軸)と交差する点(酸化電流も還元電流も観測されない点)を求めることによっても、対極準位を求めることができる。
この対極準位は、作用極として用いられる光電変換素子を有してなる陰極(光電変換電極)の準位との差によって、色素増感型太陽電池の発生電圧を決定するため、作用極準位が低いこと(電気化学測定において値が大きいこと)は、色素増感型太陽電池の電圧が高く取れることを意味するので好ましい。
本発明において、対極の準位の下限(即ち、電気化学測定法によって求めた準位(電位)の最大値)は、複合色素のn型半導体から最も離れた成分色素(最も低い励起準位を有する成分色素)よりも高いエネルギー準位であれば、色素増感型太陽電池は作動するので特に限定は無いが、複合色素の最も低い励起準位を有する成分色素の準位より0.05V以上高いことが好ましく、0.1V以上高いことがより好ましい。一方、対極の準位の上限は、n型半導体の伝導体準位より低い準位であれば色素増感型太陽電池は作動するので特に限定はないが、高い電圧を得るためには、複合色素の最も低い励起準位との差が、1V以下であることが好ましく、より好ましくは、その差が0.8V以下であり、更に好ましくは0.5V以下であり、最も好ましくは0.3V以下である。
複合色素は、異なる励起準位を有する成分色素をn型半導体から離れるに従って低い励起準位となるように化学的に結合した複合色素であり、好ましくは、結合されたそれぞれの成分色素からの励起電子がn型半導体に向かって方向性を持って電子移動する構造を有する。そのため、低い励起準位を有するn型半導体側から遠い側に位置する成分色素からの電子移動をうまく利用することによって、低い準位で電解質から受け取った電子をn型半導体まで順次受け渡すことが可能となる。このような仕組みによって、成分色素の電子遷移の幅(吸収スペクトルに対応)よりも広い範囲にまたがる電位差を光電変換素子が設置された陰極と対極の間に生じさせることが可能となるので、対極の準位は、複合色素の最も低い励起準位を有する成分色素の準位より高ければ、低いほど好ましい。具体的には、対極の準位としては、電気化学的測定によって求められる電位の値が、好ましくは銀/銀イオン酸化還元準位に対して−0.2V以上であり、より好ましくは、銀/銀イオン酸化還元準位に対して0V以上であり、更に好ましくは、銀/銀イオン酸化還元準位に対して0.3V以上であり、最も好ましくは、銀/銀イオン酸化還元準位に対して0.5V以上である。特に、複合色素のn型半導体に最も近接した成分色素(第一吸光部位)の励起準位より低い準位に対極準位がある場合は、上述のように、第一吸光部位のみでは受け取ることが出来ない低い準位で電解質から電子を受け取ることになり、第一吸光部位の電子遷移幅を超える電位差を生ずることが可能となるので好ましい。このような組み合わせを用い、色素の電子遷移幅を超える対極の準位で作動することにより、一光子吸収系の理論限界を超える色素増感型太陽電池となり得る。
酸化還元対としては、例えば、ヨウ素とヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム等)の組み合わせ、臭素と臭化物の組み合わせ、塩素と塩化物の組み合わせ、アルキルビオローゲンとその還元体の組み合わせ、キノン/ハイドロキノン、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、銅(I)イオン/銅(II)イオン、マンガン(II)イオン/マンガン(III)イオン、コバルトイオン(II)/コバルトイオン(III)等の遷移金属イオン対、フェロシアン/フェリシアン、四塩化コバルト(II)/四塩化コバルト(III)、四臭化コバルト(II)/四臭化コバルト(III)、六塩化イリジウム(II)/六塩化イリジウム(III)、六シアノ化ルテニウム(II)/六シアノ化ルテニウム(III)、六塩化ロジウム(II)/六塩化ロジウム(III)、六塩化レニウム(III)/六塩化レニウム(IV)、六塩化レニウム(IV)/六塩化レニウム(V)、六塩化オスミウム(III)/六塩化オスミウム(IV)、六塩化オスミウム(IV)/六塩化オスミウム(V)等の錯イオンの組み合わせ、コバルト、鉄、ルテニウム、マンガン、ニッケル、レニウムといった遷移金属とビピリジンやその誘導体、ターピリジンやその誘導体、フェナントロリンやその誘導体といった複素共役環及びその誘導体で形成されているような錯体類、フェロセン/フェロセニウムイオン、コバルトセン/コバルトセニウムイオン、ルテノセン/ルテノセウムイオンといったシクロペンタジエン及びその誘導体と金属の錯体類、ポルフィリン系化合物類等が使用できる。
これらの中で、上述の好ましい対極準位になるものが高い電圧を獲得するために好ましく用いられる。
電解質は溶液の形であってもなくてもよい。電解質溶液には、対極準位を調整する目的で、酸化剤や還元剤を添加することができる。即ち、電解質の多くは、複数の価数を取り得るので、酸化剤や還元剤を混合することによって、目的の価数の酸化還元対を色素増感型太陽電池内の電子の授受(対極から電子を受け取り、電子を放出した複合色素の電子を受け渡す)に用いるためである。とりわけ、遷移金属を電解質内に有する場合は、多くの価数を取り得る電解質になる場合が多く、酸化剤や還元剤による準位調整が有効になることが多い。
これらの酸化剤や還元剤は、調整される電解質の組成の酸化/還元準位に応じて適宜選択されるが、代表的な酸化剤として、ニトロソニウム四フッ化硼素が代表的な還元剤として有機/無機のスルフィン酸並びにその塩やアスコルビン酸やその塩などが例示できる。
電解質溶液の電気伝導度を上げる目的で、電解質溶液中に支持電解質を加えてもよい。支持電解質としては、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウムなどの過塩素酸の有機、無機の塩、ヘキサフルオロ燐酸リチウム、ヘキサフルオロ燐酸ナトリウム、ヘキサフルオロ燐酸アンモニウム、ヘキサフルオロ燐酸テトラメチルアンモニウム、ヘキサフルオロ燐酸テトラエチルアンモニウム、ヘキサフルオロ燐酸テトラブチルアンモニウムなどのヘキサフルオロ燐酸の有機、無機の塩などを挙げることができる。これらを溶かす有機溶媒には、非プロトン性の極性溶媒が好ましく、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトシキプロピオニトリル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、1,3−ジメチルイミダゾリノン、3−メチルオキサゾリジノン等を例示することができる。
酸化還元対は電子のキャリアになるので、ある程度の濃度が必要であり、0.001mol/l以上が好ましく、より好ましくは0.01mol/l以上、更に好ましくは0.3mol/l以上である。上限に関しては、特に制限は無いが、電解質が着色している場合は、光を遮蔽して複合色素に吸収される光の量が減ずる場合があるので、好ましくは3mol/l以下の範囲で用いられる。また、電解質中の酸化体濃度が高すぎると光電変換素子から電解質への電子の逆流が発生する場合もあるので、還元体と酸化体の濃度比は色素増感型太陽電池の光電変換性能を測定しながら適宜決定される。通常、還元体濃度が酸化体濃度より高い方が好ましい。また、酸化体と還元体のいずれか一方を電解質として色素増感型太陽電池に加えた場合であっても、電子を失った複合色素や対極において電解質が電子の授受を行うことによって、それぞれ他方の成分が生成して、作動する場合がある。とりわけ、還元体のみを添加した場合に光を照射すれば、複合色素は積極的に電子を放出しようとして電子を失った状態になり、還元体から電子を奪って、還元体は酸化体へと変化し、電解質中においては、還元体と酸化体が両方存在する状態になる。そして、その濃度比は、通常、上述のような還元体成分が多い好ましい範囲となる。
電解質の濃度は、電解質の化学構造と電解質を溶かす溶媒の種類に依存するため、前述のような電解質は、有機アンモニウム塩化に代表される有機塩化反応を施したり、溶媒との親和性が高い官能基を結合したりして用いられることが好ましい。
電解質は、これまで述べてきたように、有機溶媒に溶解した液体として用いられることが多いが、電解質の漏れを防止することを主たる目的として、電解質を有機溶媒に溶解した液体をポリマーマトリックスに含浸した、いわゆるゲル電解質として用いたり、溶融塩状態で用いたりすることも可能である。このようなゲル電解質のポリマーマトリックスは、酸化還元対を含む有機溶媒の中で重合されてもよいし、予めシート状に成型されたものであってもよい。シート状に成型されたものとしては、リチウムイオン電池、コンデンサー等のセパレーター、血液分離膜、加湿膜として使用されるポリオレフィン系やセルロース系の微多孔膜が好ましく用いられる。このような微多孔膜を用いる場合は、その厚みは薄い方が好ましく、通常、2μmから20μmの厚みのものが用いられる。膜中の空孔は、酸化還元対の拡散効率の観点から多いほどよく、膜強度との関係で好ましい空孔率(膜全体に対する空孔の体積分率)が決定されるが、通常、30〜90%、好ましくは50〜90%のものが使用される。
さらに、有機や無機の固体電解質(p型半導体)も用いることが可能であり、ホール輸送能力をもつ有機ポリマー、CuI、CuSCN、NiO等のp型半導体などが例示できる。
本発明の光電変換素子の製造方法及び本発明の色素増感型太陽電池の製造法について説明する。製造方法については特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。
以下にその代表例を示す。まず、n型半導体の微粒子を含む分散液を作製する工程、該分散液を導電性支持体上に塗布する塗布工程、それに引き続く焼結工程を経て、導電性支持体上に半導体膜を形成させ、さらに複合色素を含む光増感剤を該半導体膜内に保持(担持)させる吸着工程の順によって光電変換素子を製造し、電解質を含む層を対向電極(対極)に挟み込み/または対向電極を設置後に電解質を注入し、所望に応じ、電解質成分の漏れがないように封止する。
本発明において、n型半導体の微粒子を含む分散液の媒体は、室温下において液状を保持できれば制限はなく、例えば、水、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶媒、アセトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド等の親水性有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン等の疎水性有機溶媒、これらの混合物等が挙げられる。
n型半導体微粒子の分散性を高めたり、粘度を調整する目的で、アセチルアセトン等の有機物バインダー、金属過酸化物(例えば、過酸化チタン、過酸化スズ、過酸化ニオブ等)、金属アルコキシド等の無機物バインダー、硝酸、硫酸等の無機物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、セルロースおよびその変性体等の高分子化合物、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、シリコーン系等の各種界面活性剤類、キレート補助剤類を添加してもよい。また、所望に応じて酸や塩基を添加することによって、n型半導体微粒子の分散性を向上することができる。
分散液の固形分質量濃度には限定は無く、塗布のしやすさ、乾燥の速さ等によって適宜選択されるが、好ましくは10〜50%、より好ましくは15〜40%である。
分散液を作製する際の混合条件は限定されないが、より微分散させることを目的として、ペイントシェーカー、ボールミル、ホモジナイザー等の混合攪拌機、超音波ホモジナイザー等を使用できる。分散される粒子を予め乳鉢等によって十分に粉砕しておくことも有効な手段である。
半導体微粒子を含む分散液を導電性支持体上に塗布する方法に限定はなく、導電性支持体上に半導体膜を形成できればよい。例えば、スクリーン印刷法、スピンコーター法、ディップコーター法、ドクターブレード法、ワイヤーバーによる塗布法等が挙げられる。塗布後は、必要であれば室温にて乾燥させる工程を施してもよい。塗布作業を数回に分けて重ね塗りする場合は、一回の塗布ごとに上記の乾燥工程を行うことが好ましい。下記の焼結工程のみを行うことにより、上記の乾燥工程をかねてもよい。
塗布後の焼結温度は、用いる半導体の種類、必要な焼結程度、用いられる導電性支持体の耐熱性等によって異なり、目的に応じて適宜選択される。一般には、焼結温度が高い方が短時間で粒子同士を接合することができ、粒子間のより高い導電性が得られやすいため好ましいが、物質によっては結晶相転移を起こして光電変換性能を落とす場合がある。
導電性支持体の種類も焼結温度を決定するにあたり重要である。すなわち、導電性支持体は、透明性基板と透明導電膜から構成され、それぞれに耐熱温度がある。例えば、透明性基板にポリマーフィルム等の融点や軟化点の低い有機物を用い、透明導電膜にITOを用いた時は、ポリマーフィルムの耐熱温度より低い焼結温度とすればよく、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。一方、透明性基板にガラスを用い、透明導電膜にFTOを用いた時は、ガラスの耐熱温度より低い焼結温度とすることが必要で、好ましくは600℃以下である。焼結時間は、好ましくは10分以上1時間以下、より好ましくは20分以上1時間以下である。
焼結時の雰囲気ガスに関しては特に限定は無く、目的に応じて適宜選択される。具体的には、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、水素に代表される還元雰囲気、窒素と酸素の混合ガス雰囲気、大気、炭酸ガス、酸素等を使用できる。
以上の条件で形成された焼結後の半導体膜の厚さは、好ましくは0.5μm以上50μm以下、より好ましくは1.0μm以上30μm以下である。膜の厚さが0.5μm未満では、以下に示す光増感剤を充分に吸着させることができず、エネルギー変換効率を高めることはできない場合がある。一方、厚みが50μmを越えると、半導体膜そのものの機械的強度が低下し、導電性支持体から剥がれやすくなると同時に光透過性が低下し、光増感剤まで十分な光が到達しなくなる不具合が生じる場合がある。また、半導体膜内の電子移動経路が長くなり、内部抵抗が増加しエネルギー変換効率が低下する恐れがある。
次に、複合色素を含む吸光性物質を半導体膜内に保持(担持)させる工程について説明する。先ず、複合色素を溶解する溶媒を選択する。溶媒は、色素の溶解特性によって選択されるが、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールといった各種アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンといった各種ケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルといった各種エステル類、スルフォラン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミドなどやこれらの混合溶媒などが例示できる。このような溶媒に溶解された複合色素を含む光増感剤を溶解した溶液に、n型半導体が形成された陰極前駆体を接触させて、複合色素はn型半導体に担持され、電極(陰極)が形成される。この工程は、常温下、数時間から数日間かけて行うことも可能であるが、選択された溶媒の還流温度または、50℃以上その還流温度程度の温度まで加熱して行うことが好ましい。このようにすることによって、複合色素の溶解度が高くなり、より多くの複合色素をn型半導体に担持することが可能となるばかりか、複合色素がn型半導体との結合基を有する場合は、それらの結合がより強固となる場合がある。また、複合色素をn型半導体に担持するのに要する時間も10分から数時間といった短い時間となり、工業生産性の観点からも好ましい。
以上のように、本発明の複合色素とn型半導体からなる光電変換素子では、結合された複数の成分色素間の電子移動が高い確率で起こるため、広い波長範囲の光から電子を取り出せることが、以下詳述する実施例1と比較例1、実施例2と比較例2の結果をそれぞれ対比することによって分かる。更には、低い準位の対極で電子を受け取った電解質から電子を受け取ることが可能となるため高い電圧の色素増感型太陽電池が得られることが以下詳述する実施例3〜6と比較例3及び4との比較によって分かる。また、実施例7及び8と参考例1との比較によって分かるように、本発明の光電変換素子からなる色素増感型太陽電池では、二光子吸収システムが機能する。このような段階的な多光子吸収システムは強い光に対してより良好に作動するため、強い光で情報を書込み、弱い光で情報を読み出す光メモリのような用途に用いると、書き込まれた情報の劣化が少なくなる。更には、光強度に対する電子発生特性が一光子吸収系とは異なるので、その特性を活かした光スイッチングや光センサーの用途にも使用可能となる。
本発明の光電変換素子は、光電変換性能に優れ、特に、太陽エネルギーからのエネルギー取り出し効率(エネルギー変換効率)が高く、また、それを用いて簡便に色素増感型太陽電池を製造することができるので、色素増感型太陽電池などに有利に用いられる。
以下に、本発明を実施例、比較例及び参考例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
本発明で用いられる測定法は以下のとおりである。
(1) 紫外−可視分光法(UV−vis)
測定は、日本国(株)島津製作所製UV−2500PCを用い、300nm〜800nmの範囲をスリット幅=5.0nm、スキャンスピード=高速の条件で行う。実施例1並びに比較例1の色素吸着量測定のための紫外−可視分光法(UV−vis)の測定は、日本国(株)島津製作所製MPC2200を用い、300nm〜800nmの範囲をスリット幅=5.0nm、スキャンスピード=高速の条件で行う。
(2) 赤外分光法(FT−IR)
測定は、実施例1、比較例1、実施例4並びに実施例5においては、米国パーキンエルマー社製SYSTEM2000 COMPRISINを用い、KBr錠剤法を用いて、400〜4000cm-1の範囲をResolution=4cm-1として行う。その他の測定は、米国Spectra−Tech社製IRμsを用い、顕微透過法を用いて、400〜4000cm-1の範囲をResolution=4cm-1として行う。
液体クロマトグラフィー(LC)の測定は、米国Agilent社製1100seriesを用い、日本国GL Sciences Inc.製Inertsil ODS−3(2.1mmI.D.×150mm)のカラムを用い、流速=0.2mL/minで移動相として、SolA=Water(0.1質量%のトリフロオロ酢酸(TFA)を添加)、SolB=CH3CN(0.1質量%のTFAを添加)を用い、サンプル注入量3μLで行う。検出には、254nmおよび400nm光の光吸収を用いる。
(3) 質量分析法(MS)
測定は、2種の測定(エレクトロスプレーイオン化法質量分析及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型質量分析)を測定検体の性質等に応じて用いる。
エレクトロスプレーイオン化法質量分析(ESI−MS)は、米国Thermoquest社製LCQを用い、APCIでイオン化してpositiveモードで測定幅m/z(質量/電荷)=50〜2000の条件で行う。エレクトロスプレーイオン化法(ESI)には、米国Agilent社製1100seriesを用いる。
マトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)は、日本国(株)島津製作所製AXIMA CFR plusを用い、検出器をリニアモードに設定し、正イオン検出で積算回数2000回として行う。イオン化は337nmの窒素レーザーを検体を含浸させたマトリックスに照射して行う。
(4) ICP発光分析(ICP−AES)
測定は、まず、イタリア国マイルストーン社製ETHOS PLUSを用い、試料を700倍量の硝酸とともにマイクロウエーブで分解し、純水で希釈したのち、サイクロンチャンバーを装着したフランス国JOBIN YVON社製JY138を用い、プラズマガス(PL1)=13(L/min)、シースガス(G1)=0.3(L/min)、ネブライザーガス圧=3.0(bar)、ネブライザーガス=0.2(L/min)、高周波パワー=1.4(kW)の条件で行う。
(5) 蛍光X線分光分析
測定は、オランダ国フィリップスアナリティカル社製PW2400を用い、ロジウムの管球を用いて行う。
(6) サイクリックボルタンメトリ
測定は、英国ソーラトロン社製Solartron1280Zを用い、電解セルとして米国バイオアナリティカルシステムズ社(BAS社)製ガラスセルVC−3、作用極として同社製0.0706cm2(3mmφ)のグラッシュカーボンまたは白金、対極として、白金線、参照電極として、Ag/Ag+の米国バイオアナリティカルシステムズ社(BAS社)製RE−5を用いて行う。
(7) 色素増感型太陽電池の性能
色素増感型太陽電池の性能は以下のように測定する。
挟持型太陽電池を用いる場合は次のようにする。ソーラーシミュレーター(日本国ワコム電創(株)製)によって、約100mW/cm2である擬似太陽光を挟持型太陽電池に照射し、I−V−カーブトレーサー(日本国英弘精機(株)製)によって、短絡電流値(Isc)を求める。電池測定面積は1cm2である。
浸漬型太陽電池を用いる場合は、3極式光電気化学測定または2極式光電気化学測定を行う。3極式光電気化学測定は次のように行う。まず、100mlビーカーに、約100mlの電解質溶液を入れ、その中に作用極として光電変換素子を含む電極を、対極としてコイル状にした白金線を浸漬することにより、浸漬型太陽電池を構成する。上記のビーカーに、さらに、参照電極としてAg/Ag+の米国バイオアナリティカルシステムズ社(BAS社)製RE−5を浸漬する。英国ソーラトロン社製Solartron1280Zを用い、電解質溶液を攪拌しながら、3極式光電気化学測定を行う。光照射によって発生する電流並びに電圧を測定する場合に用いる光源は、日本国(株)島津製作所製ハロゲンランプAT−100HGを用い、同社製PS−150UE−DCを用いて、所望に応じて光量を制御しながら行う。光源(装置の作用極端)と作用極の距離は、約6cmである。
2極式光電気化学測定は、参照電極を用いず、参照電極に結合していた配線を対極に結合して行うこと以外は3極式電気化学測定の場合と同様に行う。
(1)複合色素の合成
(第一吸光部位に相当する成分色素前駆体A(成分色素A)の合成)
塩化ルテニウム・n水和物(日本国和光純薬工業(株)製試薬)0.523gとジメチルフォルムアミド50mlを三口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、室温で15分間攪拌した。次いで、ジメチルフォルムアミド50mlと4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン(日本国東京化成工業(株)製試薬)0.952gを加え、遮光しながら窒素雰囲気下3時間加熱還流した。放冷後、保有粒子径5μmの濾紙を用いて濾過し、得られる濾液をロータリーエバポレーターを用いて乾燥固化して濃紫色の固体を得た。
この固体をジイソプロピルエーテル/アセトン混合溶媒(ジイソプロピルエーテル/アセトン体積比=4:1)で洗浄し、更に、2N塩酸水溶液を用いて遮光、室温下4時間攪拌した。そして、保有粒子径1μmの濾紙を用いて吸引濾過してこの固体を分取し、成分色素Aを得た。色素Aを赤外分光分析法、紫外−可視分光分析法、および蛍光X線分析法を用いて分析したところ、成分色素Aは、シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)からなる錯体色素であることが確認された。
(成分色素Aに結合する第二吸光部位に相当する成分色素(成分色素B)の合成)
テトラクロロ白金(II)酸カリウム塩(日本国和光純薬工業(株)製試薬)1.0gを精製水5mlに溶解し、ジメチルスルフォキシド0.55mlを加えて、混ぜ合わせた後、室温下1時間静置したところ、淡黄色の結晶様析出物が得られた。この結晶様析出物を保有粒子径5μmの濾紙を用いて濾取し、エタノールで洗浄、風乾した。
風乾後の結晶様析出物を、別に、1,10−フェナントロリン−5,6−ジオン(米国シグマ−アルドリッチ社製試薬)0.301gをエタノール60mlに溶解した液に0.602g加え、大気雰囲気下3時間加熱還流した。冷却後保有粒子径5μmの濾紙を用いて吸引濾過して分取し橙黄色粉末を得た。この粉末を赤外分光分析法、液体クロマトグラム、紫外−可視分光分析法を用いて分析したところ、この粉末は、ジクロロ−(1,10−フェナントロリン−5,6−ジオン)白金(II)からなることが確認された。
次いで、この粉末0.303gをジメチルフォルムアミド80mlに懸濁し、イソチオシアン酸カリウム(日本国和光純薬工業(株)製試薬)0.125gを精製水20mlに溶解した液を加えて、大気雰囲気下2時間加熱還流した。放冷後、保有粒子径5μmの濾紙を用いて濾過し、濾液をロータリーエバポレーターを用いて乾燥固化して黒緑色の固体を得た。この固体をジイソプロピルエーテル/アセトンの4:1(体積比)混合溶媒で洗浄し、乾燥して、成分色素Bを得た。成分色素Bを赤外分光分析法、液体クロマトグラムおよび蛍光X線分析法を用いて分析したところ、この粉末は、ジイソチオシアナト−(1,10−フェナントロリン−5,6−ジオン)白金(II)からなる錯体色素であることが確認された。
(複合色素Zの合成)
成分色素B0.100gをジメチルフォルムアミド30mlに溶解し、そこへ、成分色素A0.135gをメタノール70mlに溶解した液を、攪拌しながら室温下滴下した。次に、6フッ化リンのカリウム塩(日本国東京化成工業(株)製試薬)0.070gを精製水10mlに溶解した液を加え100℃で5時間加熱攪拌した。放冷後、保有粒子径5μmの濾紙を用いて濃茶褐色の固体を濾取し、成分色素A、Bの溶媒であるジメチルフォルムアミドとメタノールを用いて洗浄し、乾燥して、化学的に結合された濃茶褐色の複合色素Zを得た。
この複合色素Zを赤外分光分析法(IR)、紫外−可視分光分析法(UV−vis)、液体クロマトグラム(LC)、エレクトロスプレーイオン化法を用いた質量分析法(ESI−MS)、ICP発光分析法(ICP−AES)およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)を用いて分析したところ、液体クロマトグラム(LC)より、成分色素A、成分色素Bからの反応が進行したことが確認され、IRより2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボキシレート、1,10−フェナントロリン−5,6−ジオンの変性体およびイソチオシアナト基の存在が確認され、ICP−AESによりルテニウム、白金の存在が確認され、ESI−MS並びに、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸をマトリックスとして測定したMALDI−TOF−MSにより、目的化合物の分子量を有する分子が存在することが確認された。MALDI−TOF−MSの測定結果を図10に示す。測定時に目的分子量の化合物がイオン化などして分解したことを示す構成物のピーク及びそれにマトリックスが付加したピーク、目的分子量物を構成元素の同位の存在体に由来する目的分子量付近のピークと共に、1114m/zに目的分子量の化合物に対応するピークが存在することがわかる。なお、図10においては、図10に示した範囲の測定の結果、最も高いピークの強度を示した点を100%とし、他のピークの強度をそのピークの強度との比(100分率)で表し、その比率を「ピークの相対強度」と称して縦軸に示した。さらに、UV−visを用いて、紫外−可視スペクトルを測定し、成分色素A、成分色素Bのスペクトルとの比較によって成分色素Aと成分色素Bとが結合した複核錯体からなる複合色素になったことによるスペクトル変化を確認するとともに、それぞれに由来する吸収が異なる波長領域に観測されることを確認した。これらの結果より、この粉末は、成分色素Aから塩素イオンが脱離し、換わって1,10−フェナントロリン−5,6−ジオンのジオン部位が、主としてオキソアニオン(O-)に変化して配位したルテニウムと白金を有する複核錯体であることが確認された。この複核錯体の代表構造を図11に示す。図11に示した通り、この複核錯体は、結合性官能基として部分的にカリウム塩化されたカルボキシル基を有するビピリジル環(上記式(1)のL0に対応)、それに配位したルテニウム(上記式(1)のM0に対応)、そのルテニウムに非複素環セグメントであるジオン部が、主としてオキソアニオン(O-)に変化して配位した橋かけ配位子である1,10−フェナントロリン−5,6−ジオンの変性体(上記式(1)のBLに対応)、その複素環セグメントに配位した白金(上記式(1)のMに対応)および白金に配位したアニオン性配位子であるイソチオシアナト基(上記式(1)のXに対応)から構成され上記式(1)で示した構造であり、錯体色素である成分色素Aと成分色素Bとが化学的に結合したことが確認され、複数の成分色素が化学的に結合されている複合色素であることが確認された。
この複合色素Z(上記成分色素Aと成分色素Bからなる複核錯体)0.0035gをジメチルフォルムアミド25mlに溶解し、孔径1μmの濾紙で濾過し、支持電解質として6フッ化リンのテトラ−t−ブチルアンモニウム塩0.975gを用い、窒素ガス置換を行って挿引速度20mV/secの条件でグラッシュカーボン電極を作用極として行ったサイクリックボルタンメトリ測定の結果、ルテニウム由来の酸化波が0.75V(対参照電極準位)、白金の酸化波が1.0V(対参照電極準位)に観測され、第一吸光部位に相当する成分色素Aに由来する部位が高い励起準位を有することが確認された。なお、この帰属は、同様にして行った成分色素A、成分色素Bのサイクリックボルタンメトリ測定結果と照らし合わせて行った。以上より、この複合色素は異なる励起準位を有することが確認された。
(2)光電変換素子の作製
(n型半導体分散液の作製)
結晶性酸化チタン微粒子(日本国日本アエロジル(株)製 P−25)6gと、水120gと、硝酸1.49gをまぜた後、80℃で約8時間の加熱処理を施した。放冷後、エバポレーターにより水分を留去して粉末状にし、乳鉢でよく粉砕した。上記の方法によって得られた結晶性酸化チタン微粒子1gと、水3.68gを超音波ホモジナイザーを用いて約10分間分散した。分散後、焼結助剤としての1.7質量%過酸化チタン水溶液(PTA、日本国田中転写(株)製)1gと、Triton−X100(米国シグマ−アルドリッチ社製、界面活性剤)0.06gをゆっくりと加えて撹拌し、n型半導体分散液を作製した。
(光電変換素子の作製)
フッ素をドープした酸化スズ(FTO:シート抵抗約8Ω/□)層がガラス基板に設置された透明導電性ガラス(日本国日本板硝子(株)製)の導電面側にワイヤーバー(ワイヤー巻線部300m/m、芯径12.5m/m、巻線径0.20m/m)を用いて上記の分散液を塗布した。塗布後、室温にて約1時間風乾した。この透明導電性ガラス上に設けたn型半導体からなる膜(半導体膜)を電気炉に入れ500℃で約30分間焼結した。焼結後の膜厚は約1.7μmであった。
次に、複合色素Zを全溶解時に3.7×10-4mol/lの濃度となる量、ジメチルスルフォキシドに投入し、部分的に溶解した状態で約45分間、上記の半導体膜と共に加熱還流し、半導体膜内に上記複合色素を担持させた。このようにして、光電変換素子を得た。この光電変換素子は、該光電変換素子と透明導電性支持体とからなる電極(光電変換電極)の形で得られた。還流後、電極をアセトニトリルで軽く洗った。上記色素の担持量は0.90×10-8mol/cm2であった。なお、複合色素Zの溶媒であるジメチルスルフォキシドで洗浄してもこのようにして担持された色素は脱離せず、また、n型半導体とともに測定したIRの結果から、複合色素Zがn型半導体に化学結合していることが確認された。
(3) 色素増感型太陽電池の作製と評価
対極には、スライドガラス上にスパッタ法により膜厚約0.1μm白金膜を作製し、白金電極を準備した。電解液は、メトキシプロピオニトリルを溶媒とし、電解質としてヨウ素(日本国和光純薬工業(株)製試薬)を0.05mol/lの濃度で 、ヨウ化リチウム(日本国和光純薬工業(株)製試薬)を0.1mol/lの濃度で、ジメチルプロピルイミダゾリウムアイオダイド(スイス国SOLARONIX社製DMPII)0.6mol/lの濃度でそれぞれ溶解し、添加剤としてtert−ブチルピリジン(日本国東京化成工業(株)製試薬)0.5mol/lの濃度で加えて調製した。
上記の光電変換電極に、この電解液を滴下し、対極の白金面と光電変換素子の間に電解液を狭持できるようにして色素増感型太陽電池(狭持型)を作製した。
(光電変換特性の評価)
作製した色素増感型太陽電池を計測器に接続し、光の強度が約100mW/cm2である擬似太陽光を照射して光電変換特性を測定した。その結果、色素の吸着量あたりの電流は2.2×108mA/molであり、UVカットフィルター(日本国(株)ケンコー製L41スーパープロワイド)を用いた場合の色素の吸着量あたりの電流は1.3×108mA/molであった。これらのデータを下記の比較例1のデータと比較したところ、成分色素Bに由来する部位から約30%の電流がとり出されていることが確認され、複合色素Zを構成する2つの吸光部位(複核)間の電子移動が起こっていることが確認された。
(1)成分色素の合成
(橋かけ配位子の合成)
1,10−フェナントロリン−5,6−ジオン(米国シグマ−アルドリッチ社製試薬)1gとジチオオキサミド(日本国東京化成工業(株)製試薬)0.691gとをエタノール40ml中に加え、大気雰囲気下13時間加熱還流した。冷却後保有粒子径1μmの濾紙を用いて吸引濾過して分取し粉末を得た。未反応物を除去するために、得られた粉末をクロロホルム100ml中室温下で攪拌洗浄し、再度保有粒子径1μmの濾紙を用いて吸引濾過して分取し、5,6−ジヒドロキシ−1,10−フェナントロリンの粉末0.759gを得た。
(複核錯体前駆体Cの合成(第一吸光部位への橋かけ配位子の結合))
第一吸光部位の前駆体として用いる(シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸))ルテニウム(II)(日本国小島化学薬品(株)製)0.111gと上記にて合成した5,6−ジヒドロキシ−1,10−フェナントロリン0.04gと水酸化カリウム(日本国和光純薬工業(株)製試薬)0.055gをジメチルフォルムアミド14mlと精製水7mlの混合溶媒中に加え、窒素雰囲気下3時間加熱還流した。放冷後、ロータリーエバポレーターを用いて乾燥固化して茶色の固体を得た。
この固体を精製水8mlに溶解させた後、0.1N塩酸水溶液3mlを加えることで濃茶色粉末を得た。この粉末を遠心分離装置を用いて、12000r/mで5分間の遠心操作で分取した。分取した粉末をエタノール20mlで洗浄し、真空下で乾燥させて粉末を取り出した。この粉末を赤外分光分析法、紫外−可視分光分析法、およびα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸をマトリックスとしたマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法を用いて分析したところ、(ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)−(1,10−フェナントロリン−5,6−ジオレート))ルテニウム(II)で、一部カルボン酸部位がカリウム塩化されたものからなる複核錯体前駆体Cであることが確認された。MALDI−TOF−MSの測定結果を図12に示す。測定時に目的分子量の化合物がイオン化などして分解したことを示す構成物のピーク及びそれにマトリックスが付加したピーク、目的分子量物を構成元素の同位の存在体に由来する目的分子量付近のピークと共に、801m/zに目的分子量の化合物に対応するピークが存在することがわかる。なお、図12においては、図12に示した範囲の測定の結果、最も高いピークの強度を示した点を100%とし、他のピークの強度をそのピークの強度との比(100分率)で表し、その比率をピークの「相対強度」と称して縦軸に示した。複核錯体前駆体Cの代表構造を図13に示す。図13に示した通り、複核錯体前駆体Cは、結合性官能基として部分的にカリウム塩化されたカルボキシル基を有するビピリジル環(上記式(1)のL0に対応)、それに配位したルテニウム(上記式(1)のM0に対応)、そのルテニウムに非複素環セグメントで配位した複素環セグメントを有する橋かけ配位子(上記式(1)のBLに対応)を有する構造であることが分かる。
(複合色素Yの合成)
複核錯体前駆体C0.05gを窒素バブリングを施したエタノール100mlと精製水100mlの混合溶媒200ml中で加熱下攪拌した。別に、第二吸光部位の前駆体である(シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル))ルテニウム(II)・2水和物(米国シグマ−アルドリッチ社製試薬)0.029gを窒素バブリングを施したエタノール100mlと精製水100mlの混合溶媒200ml中で室温下攪拌した後、両液を混合した。この混合液を窒素雰囲気下1時間加熱還流し、放冷後、保有粒子径5μmの濾紙を用いてろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターを用いて乾燥固化して茶色粉末を得た。
この茶色粉末を赤外分光分析法(IR)、紫外−可視分光分析法(UV−vis)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF−MS)およびを用いて分析した。IRより2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸及びそのカリウム塩、1,10−フェナントロリン−5,6−ジオレート、2,2'−ビピリジルの存在と、ルテニウムと1,10−フェナントロリン−5,6−ジオレートのジオレート部との結合が確認され、UV−visを用いて、紫外−可視スペクトルを測定し、複核錯体前駆体Cと(シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル))ルテニウム(II)・2水和物のスペクトルとの比較によって両者が結合して複核錯体色素(複合色素)になったことによるスペクトル変化を確認するとともに、それぞれに由来する吸収が異なる波長領域に観測されることを確認した。さらに、2,5−ジヒドロキシ安息香酸をマトリックスとして測定したMALDI−TOF−MSにより目的化合物の分子量の分子が存在することが確認された。MALDI−TOF−MSの測定結果を図14に示す。測定時に目的分子量の化合物がイオン化などして分解したことを示す構成物のピーク及びそれにマトリックスが付加したピーク、目的分子量物を構成元素の同位の存在体に由来する目的分子量付近のピークと共に、1214m/zに目的分子量を有する化合物が存在することがわかる。なお、図14においては、図14に示した範囲の測定の結果、最も高いピークの強度を示した点を100%とし、他のピークの強度をそのピークの強度との比(100分率)で表し、その比率をピークの「相対強度」と称して縦軸に示した。これらの結果より、この粉末は、(シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル))ルテニウム(II)・2水和物から塩素イオンが脱離し、換わって複核錯体前駆体Cの1,10−フェナントロリン−5,6−ジオレートのフェナントロリン部位が配位した2つのルテニウムを有する複核錯体(ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸)−(1,10−フェナントロリン−5,6−ジオレート))ルテニウム(II)−(ビス(2,2'−ビピリジル))ルテニウム(II)のクロライド塩(カルボン酸位は部分的にカリウム塩化された状態)(複核錯体(複合色素)Y)であることが確認された。この複核錯体の代表構造を図15に示す。図15に示した通り、複合色素Yは、結合性官能基として部分的にカリウム塩化されたカルボキシル基を有するビピリジル環(上記式(1)のL0に対応)、それに配位したルテニウム(上記式(1)のM0に対応)、そのルテニウムに非複素環セグメントであるジオレート部で配位した橋かけ配位子である1,10−フェナントロリン−5,6−ジオレート(上記式(1)のBLに対応)、その複素環セグメントに配位したルテニウム(上記式(1)のMに対応)およびルテニウムに配位した複素環であるビピリジル環(上記式(1)のLに対応)から構成される、上記式(1)で表される構造であり、複数の成分色素が化学的に結合されている複合色素であることが確認された。
この複核錯体Y0.006gをアセトニトリル10mlに溶解し、支持電解質としてテトラ−n−ブチルアンモニウムの過塩素酸塩0.342gを用い、窒素ガス置換を行って挿引速度20mV/secの条件で白金電極を作用極として行ったサイクリックボルタンメトリ測定の結果、第一吸光部位に相当する複核錯体前駆体Cのルテニウム由来の酸化波が0.59V(対参照電極準位)、第二吸光部位に相当するシス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル))ルテニウム(II)・2水和物が脱塩素して結合した側に由来する酸化波が1.1V(対参照電極準位)に観測され、n型半導体側の部位が高い励起準位を有することが確認された。なお、この帰属は、同様にしてジメチルフォルムアミド中で行った(シス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボン酸))ルテニウム(II)のサイクリックボルタンメトリ測定結果、及び、同様にしてジメチルフォルムアミド並びにアセトニトリル中で行った、別途合成した(1,10−フェナントロリン−5,6−ジオン)−(ビス(2,2'−ビピリジル))ルテニウム(II)のサイクリックボルタンメトリ測定結果と照らし合わせて行った。以上より、この複合色素は異なる励起準位を有することが確認された。
(2)光電変換素子の作製、色素増感型太陽電池の作製と評価
ワイヤーバーの巻線径を1.0m/mに変更した以外は、実施例1と同様にしてn型半導体分散液の作製並びに塗布、乾燥、焼結を行い、透明導電性ガラス上に半導体膜を形成した。焼結後の膜厚は、約8μmであった。複合色素Zを複合色素Yに変更し、エタノールに3.0×10-4mol/lに溶解した以外は実施例1と同様にして色素増感型太陽電池(狭持型)を作製した。なお、複合色素Yの溶媒であるエタノールで洗浄してもこのようにして担持された色素は脱離せず、複合色素Yがn型半導体に保持されていることが確認された。実施例1と同様にしてこの色素増感型太陽電池の光電変換特性を評価したところ、0.48mA/cm2の電流が得られた。このデータを下記の比較例2のデータと比較したところ、第二吸光部位に相当するn型半導体から遠い側に配置されたシス−ジクロロ−ビス(2,2'−ビピリジル))ルテニウム(II)・2水和物に由来する部位からの電流が取り出されていることが確認され、複核間の電子移動が起こっていることが確認された。
(1)光電変換素子の作製
実施例1と同様にしてn型半導体分散液を作製した。ワイヤーバーの巻線径を1.0m/mに変更した以外は実施例1と同様にして、幅2.5cm、縦5cmのFTO層がガラス基板に設置された透明導電性ガラス(日本国日本板硝子(株)製)の導電面側に上記の分散液を塗布した。塗布後、実施例1と同様にして、乾燥、焼結を行い、次いで、実施例2と同様にして複核錯体Yの吸着を行い、光電変換電極を作製した。
(2)電解質溶液の調製並びに光電気化学測定
電解質としてテトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド(日本国東京化成工業(株)製試薬)を用い、これを0.1mol/lの濃度でアセトニトリルに溶解して電解質溶液とした。作製した光電変換電極を作用極とし、電解質溶液に浸漬し、光源に与える印加電圧を12Vにして2極式並びに3極式の光電気化学測定を電位挿引速度20mV/secの条件で行った。その結果、光照射によって電流が観測され、発生する電圧は1.2Vであった。また、対極準位は+0.1V(対参照電極)であった。
(1)電解質の合成
塩化コバルト(II)六水和物(日本国和光純薬工業(株)製)3.59gとテトラエチルアンモニウムクロリド(日本国和光純薬工業(株)製)5.01gをそれぞれ、モレキュラーシーブズを用いて脱水したエタノール15mlに溶解した後、両液を混合し、約10分間の加熱還流を行った。反応終了後、室温まで冷却した後、析出した青色粉末をろ過により取り出し乾燥させた。この乾燥した粉末を、IR、XRFを用いて分析した結果、テトラクロロコバルト(II)−ビス(テトラエチルアンモニウム)(=(Et4N)2[CoCl4])であることが確認された。
(2)光電変換電極の作成、電解質溶液の調製並びに光電気化学測定
電解質溶液を、上記にて合成したテトラクロロコバルト(II)−ビス(テトラエチルアンモニウム)の0.05mol/lアセトニトリル溶液に換えた以外は実施例3と同様にして光電変換電極の作製、電解質溶液の調製、光電気化学測定を行ったところ、光照射によって電流が観測され、発生する電圧は0.8Vであった。また、対極準位は0V(対参照電極)であった。
複合色素Yに換えて実施例1で製造した複合色素Zを用い、複合色素Zを全溶解時に3.0×10-4mol/lの濃度となる量、ジメチルスルフォキシドに投入し、部分的に溶解した状態で約1時間、半導体膜と共に加熱還流して光電変換電極を作製し、電解質溶液に0.5mmol/lのニトロソニウム四フッ化硼素(米国シグマ−アルドリッチ社製試薬)を添加した以外は、実施例4と同様にして電解質溶液の調製、光電気化学測定を行ったところ、光照射によって電流が観測され、発生する電圧は0.8Vであった。また、対極準位は+0.4V(対参照電極)であった。
(1)電解質の合成
ヘキサクロロレニウム(IV)酸カリウム(日本国和光純薬工業(株)製)0.6gを50mlの0.1N塩酸水溶液に溶解した。この溶液を攪拌しながらテトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシドの10%水溶液(日本国東京化成工業(株)製試薬)6.54gを添加し、生成した沈殿物を濾取し、精製水で洗浄し、乾燥した。IR並びにXRFで分析したところ、ヘキサクロロレニウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウム(=(n−Bu4N)2[ReCl6])であることが確認された。
(2)光電変換電極の作成、電解質溶液の調製並びに光電気化学測定
電解質溶液を、上記のヘキサクロロレニウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウムの0.01mol/lアセトニトリル溶液に換え、電解質溶液に0.2mmol/lのニトロソニウム四フッ化硼素(米国シグマ−アルドリッチ社製試薬)を添加した以外は、実施例3と同様にして電解質溶液の調製を行い、酸化チタンのターゲットを用いたスパッタ法によって約0.2μmの酸化チタン層をFTO層の面に予め設置し、その面にn型半導体分散液を塗布した以外は実施例3と同様にして、光電変換電極の作製を行い、さらにUVカットフィルター(日本国(株)ケンコー製L42)を光源と作用極(光電変換電極)との間に設置して、光電気化学測定を行ったところ、光照射によって電流が観測され、発生する電圧は1.1Vであった。また、対極準位は+0.7V(対参照電極)であった。
実施例3と同様にして光電変換電極を作製し、光電変換電極Sとした。また、複合色素Yに換えて、シス−ジイソチオシアナト−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)のビス−テトラブチルアンモニウム塩(スイス国SOLARONIX社製Ruthenium 535−bis TBA)を用いる以外は実施例3と同様にして、光電変換電極Tを作製した。
電解質としてヨウ化リチウム(日本国和光純薬工業(株)製試薬)を用い、これを0.1mol/lの濃度でアセトニトリルに溶解して電解質溶液とした。光電変換電極Sと光電変換電極Tをそれぞれ独立に、この電解質溶液に浸漬し、作用極(光電変換電極)に−0.2Vの電位を印加し、光強度を変更する目的で、光源に与える印加電圧を4Vから11Vの間、4Vから8Vまでは0.5V刻みで、8Vから11Vまでは1V刻みで変更し、光電変換電極Sの光電変換電極Tに対する光照射によって発生する電流の比を3極式光電気化学測定法を用いて測定した。光源に与える印加電圧が(光強度が強い)11Vの場合の電流比を1とした場合の、光電変換電極Sの光電変換電極Tに対する発生電流比の相対値は、光強度が弱い4Vから順に、0.64、0.71、0.75、0.80、0.84、0.86、0.88、0.91、0.93、0.95、0.97、1となった。この結果を図16に示した。即ち、図16において、横軸に上記光源に与えた印加電圧をとり、縦軸に上記の2電極の発生電流の比を光源印加電圧11Vのところが1となるようにして求めた相対値を「発生電流比の相対値」と称してとり、この結果を示した。参考例1との比較により二光子吸収システムで特徴的に観測される光強度が弱い場合に発生電流が小さくなる現象が観測された。
複合色素Yに換えて実施例1で製造した複合色素Zを用い、複合色素Zを全溶解時に3.0×10-4mol/lの濃度となる量、ジメチルスルフォキシドに投入し、部分的に溶解した状態で約1時間、半導体膜と共に加熱還流して光電変換電極Uを作製した以外は、実施例7と同様にして光電変換電極Uの光電変換電極Tに対する光照射によって発生する電流の比を3極式光電気化学測定法を用いて測定した。その結果、光源に与える印加電圧が(光強度が強い)11Vの場合の比を1とした場合の、光電変換電極Uの光電変換電極Tに対する発生電流比の相対値は、光強度が弱い4Vから順に、0.64、0.73、0.78、0.82、0.86、0.89、0.91、0.94、0.95、0.97、1.00、1となった。この結果を図17に示した。即ち、図17において、横軸に上記光源に与えた印加電圧をとり、縦軸に上記の2電極の発生電流の比を光源印加電圧11Vのところが1となるようにして求めた相対値を「発生電流比の相対値」と称してとり、この結果を示した。
比較例1
複合色素Zに換えて、シス−ジイソチオシアナト−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)のビス−テトラブチルアンモニウム塩で表される分光増感色素(スイス国SOLARONIX社製Ruthenium 535−bis TBA)のエタノール溶液(3×10-4mol/l)を用いた以外は実施例1と同様にして色素増感型太陽電池(狭持型)を作製した。このときのシス−ジイソチオシアナト−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)のビス−テトラブチルアンモニウム塩の吸着量は、3.2×10-8mol/cm2であった。
光電変換特性の測定を実施例1と同様にして行ったところ、色素の吸着量あたりの電流は、1.2×108mA/molであり、UVカットフィルターを用いた場合の色素の吸着量あたりの電流は、1.0×108mA/molであった。
比較例2
複合色素Yに換えて複核錯体前駆体Cを用いた以外は実施例2と同様にして色素増感型太陽電池(狭持型)の作製並びに電池性能の評価を行ったところ、0.12mA/cm2の電流が観測された。また、別に0.1mol/lのKOH水溶液を用いて色素(複核錯体前駆体C)を脱離して色素吸着量を測定したところ、実施例2の複合色素Yに対し、単位面積あたり75mol%であった。
比較例3
色素をシス−ジイソチオシアナト−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)のビス−テトラブチルアンモニウム塩で表される錯体色素(スイス国SOLARONIX社製Ruthenium 535−bis TBA)に換え、電解質をヨウ化リチウム(日本国和光純薬工業(株)製試薬)に換えた以外は実施例3と同様にして光電変換電極の作製、電解質溶液の調製、光電気化学測定を行ったところ、光照射によって電流が観測され、発生する電圧は0.7Vであった。また、対極準位は−0.3V(対参照電極)であった。
比較例4
色素をシス−ジイソチオシアナト−ビス(2,2'−ビピリジル−4,4'−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)のビス−テトラブチルアンモニウム塩(スイス国SOLARONIX社製Ruthenium 535−bis TBA)で表される錯体色素に換えた以外は実施例6と同様にして光電変換電極の作製、電解質溶液の調製、光電気化学測定を行ったところ、光照射によって電流が観測されなかった。
参考例1
実施例7で製造した光電変換電極Tを2枚用意しT1、T2とした。実施例7と同様にして、T1とT2の光照射によって発生する電流の比を測定した。光源に与える印加電圧が(光強度が強い)11Vの場合の比を1とした場合の、光電変換電極T1の光電変換電極T2に対する発生電流比の相対値は、光強度が弱い4Vから順に、1.00、1.01、0.99、0.99、0.98、0.98、0.99、1.01、0.99、1.01、1.02、1となった。この結果を図18に示した。即ち、図18において、横軸に上記光源に与えた印加電圧をとり、縦軸に上記の2電極の発生電流の比を光源印加電圧11Vのところが1となるようにして求めた相対値を「発生電流比の相対値」と称してとり、この結果を示した。
本発明において用いる複合色素のサイクリックボルタンメトリ測定の例である。 本発明の光電変換素子を用いて達成される電子移動とそれに伴う電子を放出した軌道準位の低準位への移動を模式的に表現した説明図である。 本発明の光電変換素子ならびに色素増感型太陽電池において達成される長波長光の吸収と光電圧の両立を模式的に表現した説明図である。 本発明において用いる複核錯体の構造の1例を模式的に表現した説明図である。 図4の構造模式図で表した複核錯体の構成要素のエネルギー準位と軌道の概念を模式的に表現した説明図である。 本発明において用いる複核錯体に含まれる共役二重結合を有する複素環の構造の1例を模式的に示した説明図である。 本発明において用いる複核錯体の橋かけ配位子の1つの典型例である。 本発明において用いる複核錯体の橋かけ配位子の他の典型例である。 本発明の色素増感型太陽電池の構造の1例である。 実施例1で製造した複合色素のマトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)の測定結果である。 実施例1で製造した複合色素の代表構造図である。 実施例2で製造した複合色素前駆体のマトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)の測定結果である。 実施例2で製造した複合色素前駆体の代表構造図である。 実施例2で製造した複合色素のマトリックス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)の測定結果である。 実施例2で製造した複合色素の代表構造図である。 実施例7の、複合色素を包含する色素増感型太陽電池の光照射による発生電流と単一の色素を包含する色素増感型太陽電池の光照射による発生電流との比の、照射された光強度による変化を表す測定結果である。 実施例8の、複合色素を包含する色素増感型太陽電池の光照射による発生電流と単一の色素を包含する色素増感型太陽電池の光照射による発生電流との比の、照射された光強度による変化を表す測定結果である。 参考例1の、単一の色素を包含する色素増感型太陽電池の光照射による発生電流を2回測定した場合の、発生電流の比の、照射された光強度による変化を表す測定結果である。

Claims (6)

  1. 複合色素及びn型半導体を包含する光電変換素子であって、
    該複合色素は、互いに異なる励起準位を有する複数の成分色素が互いに結合されてなり、それにより、電子移動用の直鎖又は枝分かれ構造体を形成し、該直鎖又は枝分かれ構造体は一端において該n型半導体に保持され、他端は自由端であり、
    該直鎖又は枝分かれ構造体において、該複数の成分色素は、その励起準位が該直鎖又は枝分かれ構造体の上記のn型半導体に保持された端部から、上記の自由端に向かって減少する序列で配置され、
    該n型半導体に保持された成分色素に結合された成分色素の最低非占有軌道のエネルギー準位は、該n型半導体の伝導帯のエネルギー準位より低く配置されている、
    ことを特徴とする光電変換素子。
  2. 該複合色素の各成分色素は金属原子とそれに配位した配位子とを含有していて、該複合色素は、複数の金属原子と、少なくとも1つの橋かけ配位子を含む複数の配位子とからなる複核錯体より構成され、該橋かけ配位子は複核錯体中の互いに隣接する金属原子の間に位置して上記の互いに隣接する金属原子を橋かけてなることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
  3. 該複核錯体中の橋かけ配位子が非対称構造を有することを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子。
  4. 該複核錯体中の橋かけ配位子の該非対称構造が、共役二重結合を有する複素環セグメントと、該複素環セグメントに結合した非複素環セグメントとからなることによって形成されており、
    該複素環セグメントは橋かけ配位子において該非複素環セグメントに比べて該n型半導体から遠い側に位置し、該複素環セグメントにおいてヘテロ原子が該n型半導体から遠い側に位置している、
    ことを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子。
  5. 色素増感型太陽電池であって、
    請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子を含む電極、
    対極、及び
    該光電変換素子と該対極の間に設けられた電解質
    からなり、
    該光電変換素子を含む電極と該対極を、該電解質の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合する時に作動可能となる、
    ことを特徴とする色素増感型太陽電池。
  6. 該対極の準位が、銀/銀イオンの酸化還元準位に対して−0.2V以上であることを特徴とする請求項5に記載の色素増感型太陽電池。
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