JP4774139B2 - ガスケットを有するねじ付部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガスケットを有するねじ付部材に関する。ねじ付部材は、内燃機関用のスパークプラグである。
【0002】
【従来の技術】
図8に示すように、内燃機関、例えば自動車用等のガソリンエンジンの点火に使用されるスパークプラグ200は、主体金具201の外周面に形成されたねじ部201aにより、エンジンのシリンダヘッドSHに取り付けて使用される。ここで、主体金具201のねじ部201aの基端部外側には、シリンダヘッドSH側のねじ孔S1の周縁部と主体金具201との間をシールする環状のガスケット206が装着される。一般にガスケット206は、リング状の板部材を径方向に曲げ加工して構成されたものが多く、ねじ部201aをねじ孔S1にねじ込むことにより、ねじ部201aの基端側に形成されたフランジ状のガスケット受け部205と、ねじ孔S1の開口周縁部との間で潰れるように圧縮され、ねじ孔S1とガスケット受け部205との間をシールする。
【0003】
ここで、ガスケット206によるシール性を確保するには、ガスケット206に適度な圧縮力が付加されるよう、ねじ部201aの締付けトルクを調整することが重要である。そのため、各種スパークプラグ毎に、良好なシール性を得るための推奨締付けトルク範囲が設定されている。図9は、締付けトルクと、ねじ部201aの螺進に伴うガスケット206の圧縮変位αとの関係を示すものである。ガスケット206は、変形初期においてはその曲げ部に圧縮荷重が集中し、締付け初期段階の低荷重領域で大きく潰れ変形する。この領域では、シールに必要な締付け力はほとんど稼ぐことができない。
【0004】
ところが、変形が進行して、潰れを許容するための空隙部が少なくなると、さらに圧縮変形を進行させるには大きな荷重が必要となり、締付けトルクは一転急増する形となる。図9に示すように、斜線領域で示すスパークプラグ200の推奨締付けトルクの範囲が、一般にこの急増領域の途中に存在する形となる。これからも明らかなように、推奨締付けトルク範囲が得られるガスケットの圧縮変位αの範囲は非常に狭いことがわかる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
最近の自動車用エンジン等においては、排気ガス規制が強化されるに伴い、混合気もリーン領域のものが多く使用されるようになってきている(いわゆるリーンバーンエンジン)。リーンの混合気は燃料混合比率が低いため、図8に示す燃焼室K内におけるスパークプラグ200の接地電極204と、混合気の導入方向(あるいは吸気バルブの位置)との関係によっては、混合気の火花放電ギャップgへの流入が接地電極204に遮られて点火ミスを生じることがある。そのため、このようなエンジンにおいては、ねじ部201aのねじ込み終了の角度位置が、接地電極204が点火に最適な位置となるように指定されていることが多い。
【0006】
しかしながら、スパークプラグ200のねじ部201aを、必要なシール状態が得られるまでねじ込んだときに、接地電極204は必ずしも上記最適点火位置に位置するとは限らない。この場合、接地電極204を指定された位置に合わせるために、ねじ部201aをさらに締め込むか、逆に緩めることを行うと、前述の通り推奨締付けトルクとなるガスケットの圧縮変位αの範囲が極めて狭いため、トルクは推奨範囲をすぐに外れてしまうことになる。例えば、追加の締め込みによりトルクが大きい側に外れた場合は、ガスケット206やねじ部201aが損傷してシール性が損なわれたり、甚だしい場合には主体金具201をねじ切って締まったりするトラブルにつながる。他方、ねじ部201aを緩めてトルクが小さい側に外れた場合は、十分なシール力が得られなくなり、ガス漏れやスパークプラグ200の緩みに伴うがたつき等のトラブルにつながる。
【0007】
また、接地電極204を指定された位置に合わせるために、上記の如くねじ部201aをさらに締め込んだ場合、仮にガスケット206やねじ部201aが損傷しなかったとしても、スパークプラグ200の発火位置が軸線方向に移動し、燃焼室K内への突出量が大きくなる結果、接地電極204又は中心電極203とエンジンのピストンとの干渉、接地電極204又は中心電極203の過熱、エンジンの着火タイミングのばらつき等エンジン性能を低下させる恐れがある。
【0008】
なお、ねじ部201aのねじ山の開始端と接地電極204との位置関係を一定化することで、狭い推奨トルク範囲内で接地電極204の位置も最適化できるようにしたスパークプラグも提案されている(例えば特開平11−13613)。しかしながら、この方法では、主体金具201のねじ山開始位置に合わせて接地電極204の取り付け位置を決めなければならないため手間がかかり、作業も長時間化するので、製造能率の低下とコストアップにつながることはいうまでもない。
【0009】
本発明の課題は、スパークプラグとして構成されるねじ付部材において、適度な締付け力が維持された状態で、ねじ部のねじ込み角度位置の調整を比較的広範囲で行うことができ、ひいてはねじ付部材に取り付けられた接地電極の位置調整を、簡単かつ不具合なく行うことができるガスケットを有するねじ付部材を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上記の課題を解決するために、本発明のガスケットを有するねじ付部材は、
軸状の中心電極と、
両端が開放する筒状に形成され、前記中心電極の外側に配置されるとともに、外周面にねじ部が形成された主体金具と、
該主体金具の前端側開口縁に結合されて前記中心電極の前端部と対向し、該中心電極との間に火花放電ギャップを形成する接地電極と、
前記主体金具の後端側開口部から自身の後端部を突出させた状態で該主体金具の内側に配置されるとともに軸方向の貫通孔を有し、該貫通孔内に前記中心電極が配置される絶縁体と、
前記主体金具のねじ部に対し外側から同心的に装着される環状形態をなし、該ねじ部が取付部としてのシリンダヘッドに形成されたねじ孔に螺合した状態において、前記主体金具のねじ部基端側に外向きに張り出す形態で形成された環状のガスケット受け部と、前記ねじ孔の開口周縁部との間で圧縮されることにより、前記ねじ孔と前記ガスケット受け部との間をシールするガスケットとを備え、スパークプラグとして構成されるねじ付部材において、
前記ねじ部の呼びに対してISO 724で規定されるピッチをISO規格ピッチp’で表すとともに、前記ねじ部のピッチpを0.5mm以上でかつ前記ISO規格ピッチp’を下回る範囲に設定し、
前記ガスケットを軸方向に圧縮したときの圧縮荷重Fと、前記ガスケットの圧縮変位αとの関係を測定するとともに、前記ガスケットの初期外径を2R1、同内径を2R2として、前記ガスケットへの付加圧力PをF/{π(R12−R22)}にて算出することにより、該圧力Pが58.8〜117.6MPaとなる範囲に対応する前記圧縮変位αの変化量をΔαで表し、
前記シリンダヘッドの内面から前記主体金具の先端までの距離を発火位置の突出量Aとし、着火限界空燃比18以上となる範囲に対応する発火位置の突出量Aの変化幅をΔAで表すとき、
前記圧縮変位αの変化量Δαは、前記ISO規格ピッチp’の2分の1以上で、前記発火位置の突出量Aの変化幅ΔAを下回る値であり、前記圧力Pの範囲内にて前記ねじ部のねじ込み角度位置を調整して前記接地電極を位置調整したとき、必ず着火限界空燃比が18以上となるように設定されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、ISO 724(ISO metric screw threads−Basic dimensions)は、少なくともねじの呼びとピッチに関して、JIS B0205(メートル並目ねじ)又はJIS B0207(メートル細目ねじ)と一致している。したがって、本発明ではISO 724をJIS B0205又はJIS B0207で置き換えて適用してもよい。
【0012】
すなわち、上記構成では、ガスケット受け部とねじ孔の開口周縁部との間でガスケットを圧縮しながら、ねじ部を取付部のねじ孔にねじ込む際に、ガスケットへの適度な締付け力が生ずる圧力Pの範囲(以下、適性圧力範囲という)として58.8〜117.6MPa{MKS単位系換算6〜12kgf/mm2}を設定する。そして、該適性圧力範囲に対応するガスケットの圧縮変位αの変化量Δαが、ISO規格ピッチの2分の1以上に確保され、さらに、ねじ部のピッチは0.5mm以上でかつISO規格ピッチを下回る範囲に設定される。これにより、上記適度な締付け力が維持された状態で、ねじ部のねじ込み角度位置の調整を、0.5回転を上回る比較的広い範囲で行うことが可能となる。
【0013】
この場合、ガスケットへの付加圧力Pが58.8〜117.6MPaとなる、上記適性圧力範囲に対応するガスケットの圧縮変位αの変化量Δαは、ねじ部の1ピッチ分(ねじ部1回転分)以上確保されているのが望ましく、この点からねじ部のピッチは小さいほうがよい。しかし、ねじ部のピッチが0.5mm未満では、高い加工精度が要求されるため加工コストが上昇し、かつ締め付けの際何回転も必要となる場合があり、また製造過程や取付過程でねじ傷(打跡)や異物の噛み込み等が発生しやすくなる。
【0014】
なお、本発明にかかるガスケットを有するねじ付部材の具体的実施態様として、
ねじ付部材のねじ部に対し外側から同心的に装着される環状形態をなし、該ねじ部が取付部に形成されたねじ孔に螺合した状態において、前記ねじ付部材のねじ部基端側に外向きに張り出す形態で形成された環状のガスケット受け部と、前記ねじ孔の開口周縁部との間で圧縮されることにより、前記ねじ孔と前記ガスケット受け部との間をシールするガスケットを備え、
該ガスケットは、当該ガスケットを軸方向に圧縮したときの圧縮荷重Fと、前記ガスケットの圧縮変位αとの関係を測定するとともに、前記ガスケットの初期外径を2R1、同内径を2R2として、前記ガスケットへの付加圧力PをF/{π(R12−R22)}にて算出したときに、該圧力Pが58.8〜117.6MPaとなる範囲に対応する、前記圧縮変位αの変化量Δαが、前記ねじ部の呼びに対してISO 724で規定されるピッチ(ISO規格ピッチ)の2分の1以上に確保され、
前記ねじ部の呼びにM18×1.5を適用するとき、そのピッチp18が、0.5≦p18<1.5mmに設定され、前記呼びにM14×1.25を適用するとき、前記ピッチp14が、0.5≦p14<1.25mmに設定され、前記呼びにM12×1.25を適用するとき、前記ピッチp12が、0.5≦p12<1.25mmに設定され、前記呼びにM10×1を適用するとき、前記ピッチp10が、0.5≦p10<1.0mmに設定されるようになすこともできる。
【0015】
本発明が特に有効なねじ付部材としては、自動車エンジン等の内燃機関に使用されるスパークプラグを例示することができる。
【0016】
スパークプラグに本発明を適用することで、次のような効果が達成される。すなわち、前記したように、最近のリーンバーンエンジンにおいては、混合気への点火の確実性を向上させるために、接地電極が点火に最適な位置となるように、ねじ部のねじ込み終了の角度位置が指定されるケースが多い。ここで、ガスケットの寸法や材質には一定のばらつきがあり、他方、製造能率上の問題から、ねじ部のねじ山開始端と接地電極との間の位置関係も一定していないのが通常である。そのため、ガスケットへの圧力レベル(換言すれば締付けトルク)が、ある一定の目標値に到達するまでねじ部をねじ込んだときに、接地電極は必ずしも上記最適点火位置に位置するとは限らず、例えば目標位置から大きくずれてしまうこともありうる。
【0017】
しかしながら、本発明によれば、ガスケットへの適度な締付け力が生ずる上記適性圧力範囲内にて、圧縮変位αの変化量Δαが、ねじ部の呼びに対してISO規格ピッチの2分の1以上に確保されるようになっており、この変化量Δαに対応するねじ回転量範囲も広い。その結果、適切な締付け力が確保された状態で、ねじ部を比較的大きな角度範囲で回転させることができるようになり、接地電極の位置調整を問題なく行うことが可能となる。そして、ねじ部のねじ山開始端と接地電極との間の位置関係も特に管理する必要はなくなるから、特開平11−13613に開示された従来技術のような製造能率低下の心配もない。さらにこのとき、ねじ部のピッチは0.5mm以上でかつISO規格ピッチを下回る範囲に設定されているので、接地電極の位置調整を行うべく、ねじ部を比較的大きな角度範囲で回転させた場合にも、スパークプラグの発火位置の燃焼室内への突出量が大きく変動(増加)することがない。したがって、接地電極又は中心電極とエンジンのピストンとの干渉、接地電極又は中心電極の過熱、エンジンの着火タイミングのばらつき等エンジン性能を低下させる恐れが少なくなり、接地電極の位置調整の効果と相乗して、燃焼性能を安定化させることができる。
【0018】
なお、JIS B8031(内燃機関用スパークプラグ)には、ガスケット付スパークプラグのねじ部について、JIS B0207から選択されたねじが記載されている。したがって、本発明をスパークプラグで実施する場合には、ISO 724(又はJIS B0207)の代わりにJIS B8031を適用してもよい。
【0019】
そして本発明のねじ部を形成している部材(例えばねじ付部材がスパークプラグの場合、主体金具に相当)は、炭素を0.05〜0.3重量%含有する鋼材で形成することができる。いわゆる低炭素鋼材をねじ部を形成している部材に使用することにより、ISO規格を下回るピッチのねじを形成しても充分な靭性と強度とを有し、ねじ山の欠け等が生じにくくなる。ここで、炭素量が0.05重量%未満では強度が不足してねじ山の変形等を生じる場合があり、一方炭素量が0.3重量%を超えると脆くなりねじ山の欠け等を生じる場合がある。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1に、本発明のガスケットを有するねじ付部材の一例として、ガスケット付スパークプラグ150を、その取付状態で示している。スパークプラグ150は、筒状の主体金具1、その主体金具1の内側に嵌め込まれた絶縁体2、絶縁体2の内側に配置された中心電極3、及び主体金具1に一端が溶接等により結合されるとともに他端側が中心電極3の先端部と対向する接地電極4等を備えている。また、接地電極4と中心電極3との間には火花放電ギャップgが形成されている。
【0021】
主体金具1の前端側外周面にはねじ部7が形成されるとともに、そのねじ部7よりも後端側において主体金具1の外周面には、周方向に沿うフランジ状のガスシール部(ガスケット受け部)1fが外向きに突出して形成されている。このねじ部7の呼び(外径)は、例えば、ISO 724又はJIS B0207におけるM18×1.5(18mm)、M14×1.25(14mm)、M12×1.25(12mm)、M10×1(10mm)等が適用される。これらを、JIS B8031のねじの呼びで表せば、それぞれM18S、M14S、M12S、M10Sとなる。なお、1eは、主体金具1を取り付ける際に、スパナやレンチ等の工具を係合させる工具係合部であり、六角状の軸断面形状を有している。スパークプラグ150は、ねじ部7において取付部としてのシリンダヘッドSH側のねじ孔S1に取り付けられ、燃焼室Kに供給される混合気への着火源として使用される。そして、そのねじ部7の基端部には、ガスケット70がはめ込まれている(図1では、ガスケット70は圧縮前の状態となっている)。
【0022】
図2はガスケット70の一例を示すものである。ガスケット70は、環状の金属板素材に対し、その径方向に1ケ所ないし2ケ所以上設定された曲げ位置において、それぞれ周方向の曲げ部を形成することにより得られる環状に形成されている。そして、図3に示すように、ガスケット70は、ねじ部7の先端側から、基端部外周に形成されたガスシール部1fに対して同心的に装着され、ねじ部7をねじ孔S1に螺合させてこれを締め込むことにより、ガスシール部1fとねじ孔S1の開口周縁部SPとの間で、図4(c)に示すように、軸線方向に圧縮されてつぶれるように変形し、ねじ孔S1とねじ部7との間の隙間をシールする役割を果たす。
【0023】
上記ガスケット70は、軸線方向に圧縮力が加わると、その周方向の曲げ部の少なくとも1つのものにおいて曲げ変形が進み、その曲げ部両側の部分が上記軸線方向に互いに接近する形で全体が圧縮変形する。そして、その圧縮変形に伴い生ずる弾性復帰力により、ガスシール部1fのシール面1gと、ねじ孔S1の開口周縁部SPに対し各接触面を密着させてシール作用を生じさせることとなる。
【0024】
本実施例のガスケット70においては、図2に示すように、環状の金属板部材の内縁側から外縁側に向けて、第一〜第五の曲げ部171〜175(各々周方向の稜線部を形成する)がこの順序で形成されている。そして、第一〜第四の曲げ部171〜174は曲げの向きが同じとされ、第五の曲げ部175はこれらと曲げの向きが逆となっている。これら曲げ部171〜175により、ガスケット70は第一〜第六部分181〜186に分けて捕えることができる。このうち、第二及び第三の曲げ部172,173の間に位置する第三部分183は、その外面側が平坦とされて、図4(c)に示すように、ガスケット70の圧縮変形状態において、ガスシール部1f(図1)とのシール面を形成する。また、第一部分〜第五部分181〜185は、ガスケット70の内縁側に張り出す第一の袋状部187を形成する。該第一の袋状部187において、第二部分182及び第四部分184は、それぞれガスケット70の中心軸線方向に立ち上がるとともに、半径方向に互いに対向する壁部を構成する。他方、第五部分185及び第六部分186は、ガスケットの外縁下部を構成するヘアピン状断面の第二の袋状部188を形成し、これが第五部分を共有化する形で第一の袋状部187の外周側に結合された形となっている。そして、図4(c)に示すように、その第六部分186あるいは第五の曲げ部分175の外面側は、ガスケット70の圧縮変形状態において、ねじ孔S1の開口周縁部SPとのシール面を形成することとなる。なお、第一の袋状部187の内縁下面部もシール面を形成する場合がある。
【0025】
この実施例では、各曲げ部の曲率半径を大きくして全体に丸みを持たせるとともに、ガスシール部1fとの当接面187aを内側に引っ込む形で若干傾けた構造となっている。これにより、当接面187aの外縁付近にてガスシール部1fと線接触の形で当接する形となり、シール性が高められる。
【0026】
スパークプラグ150をねじ孔(プラグホール)S1に締め込むときの、本実施例のガスケット70の変形挙動は、例えば図4に示すようなものになると推測される。まず、変形の初期の段階では、第二の袋状部188により第一部分181が押し上げられ、主に第一の曲げ部171の曲げ角度を縮小させる形で変形が進行する。これにより、図4(b)に示すように、第二の袋状部188及び第一の袋状部187の各下縁部がねじ孔S1の開口周縁部SPに当接した状態となる。その後の変形挙動を図5の実線に基づいて説明すれば、ガスケット70の壁部を構成する第二部分182及び第四部分184が主に弾性的に橈み変形し、変位増大に伴い圧力(応力)が比較的大きく上昇する形となる(第1ステージ)。加圧力があるレベルに達すると、第二部分182及び第四部分184には塑性変形を伴う挫屈が開始し、変位増大に対する圧力増加の勾配が緩くなる(第2ステージ)。
【0027】
そして、図2に示すガスケット70の初期外径を2R1、同内径を2R2、圧縮荷重をFとして、ガスケット70への付加圧力PをF/{π(R12−R22)}にて算出したときに、図5の変形曲線において、この圧力Pが58.8〜117.6MPaとなる範囲(適性圧力範囲:第2ステージに相当)に対応する、ガスケット70の圧縮変位αの変化量Δαが、ISO規格ピッチp’の2分の1以上に確保されるものとなっている。また、ねじ部7及びねじ孔S1のピッチは、0.5mm以上でかつISO規格ピッチp’を下回る範囲に設定される。なお、ねじ部7及びねじ孔S1のピッチ(ねじ山1ピッチ分の螺進距離)は、図4(a)においてpで表されている。
【0028】
このように、ガスケット70付きスパークプラグ150は、上記適性圧力範囲58.8〜117.6MPaに対応する、ガスケット70の圧縮変位αの変化量Δαが、ISO規格ピッチの2分の1以上に確保されていること、及びねじ部7のピッチが、0.5mm以上でかつISO規格ピッチを下回る範囲に設定されることに特徴を有している。例えば、呼びM14×1.25(JIS B8031ではM14S)を適用する場合、適性圧力範囲に対応する、ガスケット70の圧縮変位αの変化量Δαは、ISO規格ピッチp14’=1.25mmの2分の1以上すなわちΔα≧0.625mmであり、ねじ部7のピッチp14は、0.5≦p14<1.25mmの範囲で設定される。つまり、適度な締付け力が維持された状態で、ねじ部7のねじ込み角度位置の調整は、(Δα/p14)回転分すなわち0.5回転を上回る比較的広い範囲で行える。
【0029】
このとき、例えばp14≦0.625mmに設定すると、適度な締付け力が維持された状態で、ねじ部7のねじ込み角度位置の調整は、常に1回転分以上の範囲で行えるようになる。したがって、図3(b)においてスパークプラグ150を適性圧力範囲内で360度回転し、接地電極4が最適点火位置になるよう任意の角度に位置調整することができる。なお、Δα≧p14となるように、変化量Δα及び/又はピッチp14を調整すれば、ねじ部7のねじ込み角度位置の調整は、同様に1回転分以上の範囲で行える。
【0030】
上記適性圧力範囲は、トルクレンチ等の工具を用いて、スパークプラグ150をねじ孔S1に対し締め込んだときに、ねじ部7等への破損が起こらない範囲で良好なシール性が確保できる、推奨締付けトルクの範囲に対応して設定されたものである。具体的には、スパークプラグ150をエンジンのシリンダヘッドSHに取付けたときに、振動等による緩みが発生せず、かつねじ部7のねじ山つぶれ等による気密性低下を招かない範囲である。なお、スパークプラグ150の推奨締付けトルクは、ねじ部7の呼び(外径)によって異なるが、圧力換算すると、ねじ部7の寸法によらずおおむね上記適性圧力範囲58.8〜117.6MPaの値となる。具体的に、実際に使用されているねじの呼び(ねじ径)毎に、推奨締付けトルクの範囲、ISO規格ピッチp’、ねじ部7のピッチp及び実際に使用されているねじ長lを例示すれば、表1のようになる。
【0031】
【表1】
【0032】
勿論、表1に例示した以外のねじの呼びやねじ長を採用することができる。なお、これら推奨締付けトルクの範囲は、ガスケット70の表面状態によって変化することがある。例えば、ガスシール部1f(図1)あるいはねじ孔S1の開口周縁SPとの接触部において、ガスケット70表面に油が付着していたり、面粗さが小さくなっている場合には、締付け時の摩擦が減じて上記推奨締付けトルクの下限値を下げることができる場合がある。
【0033】
主体金具1は、ISO規格を下回るピッチのねじ部7を有するので、充分な靭性と強度とを有し、特にねじ山の欠け等が生じにくい材質として、炭素を0.05〜0.3重量%含有するいわゆる低炭素鋼材で形成している。具体的には、一般構造用圧延鋼材(JIS G3101)のSS34、SS41等、機械構造用炭素鋼(JIS G4051)のS10C〜S25C等が用いられ、靭性を向上させるため焼準等の熱処理を施す場合もある。
【0034】
また、ガスケット70を構成する金属板材の材質は、次のような条件を満たしたものを選定することが望ましい。
▲1▼適度な強度を有しつつも圧縮に伴う塑性変形が比較的にスムーズに生ずること。
▲2▼プレス加工等による製造が容易であること。
▲3▼耐食性が良好であること。
【0035】
該条件を満たす材質としては、オーステナイト系ステンレス鋼を例示できる。
例えば、日本工業規格に定められた下記の規格番号の材質が使用可能である(代表的なものについては、Fe以外の主要成分(重量%)も併記している):SUS201、SUS202、SUS301、SUS301J、SUS302、SUS302B、SUS304(Cr:18.0〜20.0、Ni:8.0〜10.5)、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS305、SUS309S、SUS310S(Cr:24.0〜26.0、Ni:19.0〜22.0)、SUS316(Cr:16.0〜18.0、Ni:10.0〜14.0、Mo:2.5)、SUS316L、SUS316N、SUS316LN、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317、SUS317L、SUS317J1、SUS321、SUS347、SUSXM15J1等。
【0036】
また、金属板材の厚さtは、例えば上記のオーステナイト系ステンレス鋼を使用する場合は、例えば0.2〜0.5mm程度のものを使用するのがよい。厚さが0.2mm未満では、低い圧力にてガスケットがつぶれてしまい、適性圧力範囲内にて、圧縮変位αの変化量ΔαをISO規格ピッチの2分の1以上確保できなくなる場合がある。他方、厚さが0.5mmを超えると、ガスケットにつぶれ変形を生じさせるための圧力が高くなり過ぎ、ねじ部7のねじ山つぶれといった不具合を招く場合がある。なお、ガスケットの材料素材としては、冷間圧延用鋼帯にNiメッキあるいは亜鉛メッキ等の耐食メッキを施したものも使用できる。冷間圧延用鋼帯としては、例えばJIS G3141に規定されたSPCD、SPCE等、板厚0.3mm以上、引張強度300MPa以上のものを好ましく使用できる。
【0037】
なお、ガスケット高さH(中心軸線Oの方向の初期最大寸法)は、ステンレス鋼製の場合で2.1mm以上、冷間圧延用鋼帯製の場合で2.2mm以上に調整されている。
【0038】
【試験例】
本発明の効果を確認するため、ガスケット付スパークプラグ150のねじ部7のねじ込み可能回転角を測定した。スパークプラグ150のねじ部7は、図1において、ねじの呼びM14×1.25(JIS B8031ではねじの呼びM14S)に対するISO規格ピッチp14’は1.25mm、ねじのピッチp14は0.7mmであり、ねじ長lは19mmである。ねじ部7表面にはZnメッキクロメート処理を施している。使用されるガスケット70は、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS310Sにより全体が構成され、図2において、外径寸法2R2が20.3mm、内径寸法2R2が13.72mm、ガスケット高さHは2.1mm、板厚tは0.3mmである。また、適性圧力範囲58.8〜117.6MPaに対応する、ガスケット70の圧縮変位αの変化量Δαは、ISO規格ピッチp14’=1.25mmの2分の1以上すなわちΔα≧0.625mmが確保されている。
【0039】
このガスケット付スパークプラグ150のねじ部7を、トルクレンチでシリンダヘッドSH側のねじ孔S1に締め込み、このときの締付けトルク(圧力P)とねじ部7のねじ込み回転角とを測定し、図5の実線に示すガスケット70の変形曲線を得た。一方、ねじ部7のピッチp14がISO規格ピッチp14’=1.25mmである従来のガスケット付スパークプラグ150についても同様に比較測定を行い、図5の破線に示すガスケット70の変形曲線を得た。
【0040】
図5において、推奨締付けトルクの範囲24.5〜29.4N・m{MKS単位系換算2.5〜3.0kgf・m}(適性圧力範囲58.8〜117.6MPa)に対応する、ねじ部7のねじ込み可能回転角は、ピッチp14が0.7mmの場合に約340°であった。ピッチp14が1.25mm(ISO規格ピッチp14’と等しい)の場合には約240°であったから、両者の差の分だけねじ部7のねじ込み角度位置の調整範囲が広くなった。
【0041】
次に、上記ガスケット付スパークプラグ150をエンジンのシリンダヘッドSHに取り付けて燃焼試験を行った。図6において、ガスケット70の高さHを変えることにより、シリンダヘッドSH内面から主体金具1先端までの距離Aを変化させて、ガスケット付スパークプラグ150をエンジンに取り付けた。ギャップgは1.1mmに、また主体金具1先端から中心電極3先端までの距離Bは3.5mmにそれぞれ一定に保った。中心電極3の先端部にはφ0.8Ir合金チップ3aを、また接地電極4の先端部にはφ1.2Pt合金チップ4aをそれぞれ溶接接合している。この状態でエンジンを始動させ、着火限界空燃比を測定した。エンジンは、4サイクル2000ccの直噴ガソリンエンジンを使用し、700rpmで無負荷にて運転した。なお、接地電極4の角度位置の調整は着火限界空燃比が最良となる位置(すなわち、上記適性圧力範囲に対応する、ねじ部7のねじ込み角度位置の調整範囲)に固定した。距離Aを変化させたときの着火限界空燃比の変化を表すグラフを図7に示す。ここで、ギャップgと距離Bとはそれぞれ一定に保たれているので、距離Aの変化は、燃焼室K内への発火位置の突出量の変化と考えることができる。また、図6で主体金具1先端がシリンダヘッドSH内面より上方にあって燃焼室K内へ突出していない場合、図7において距離Aは負の値をとる。
【0042】
図7によれば、距離Aがおよそ0.25mm〜1.0mmの範囲(その変化幅ΔAは約0.75mm)において着火限界空燃比が18以上の高い値を示し、リーン領域で高性能を発揮することがわかる。図5において、ピッチp14が0.7mmの場合に、ねじ部7のねじ込み可能回転角は約340°であったから、このときの適性圧力範囲58.8〜117.6MPaに対応する、ガスケット70の圧縮変位αの変化量Δαを求めると、
Δα=0.7mm×(340°/360°)=0.661mmとなる。一方、ピッチp14が1.25mm(ISO規格ピッチp14’と等しい)の場合には、ねじ部7のねじ込み可能回転角は約240°であったから、同様にΔαを求めると、
Δα=1.25mm×(240°/360°)=0.833mmとなる。
【0043】
ピッチp14が0.7mmの場合には、着火限界空燃比が18以上の高い値を示す領域における距離Aの範囲(その変化幅ΔAは約0.75mm)よりも、適性圧力範囲58.8〜117.6MPaに対応する、ガスケット70の圧縮変位αの変化量Δαの値(0.661mm)は充分に小さい。したがって、適性圧力範囲58.8〜117.6MPaを得るためにねじ部7のねじ込み角度位置の調整を行っても、リーン燃焼領域を外れることなくエンジン性能を低下させないですむ。一方、ピッチp14が1.25mm(ISO規格ピッチp14’と等しい)の場合には、着火限界空燃比が18以上の高い値を示す領域における距離Aの範囲(その変化幅ΔAは約0.75mm)よりも、適性圧力範囲58.8〜117.6MPaに対応する、ガスケット70の圧縮変位αの変化量Δαの値(0.833mm)は大きくなってしまう。したがって、適性圧力範囲58.8〜117.6MPaを得るためにねじ部7のねじ込み角度位置の調整を行うと、リーン燃焼領域を外れてエンジン性能が低下するおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のガスケットを有するねじ付部材の一実施例たるガスケット付スパークプラグを示す縦断面図。
【図2】図1のガスケットの一例を示す側面部分断面図、平面図、及び側面断面拡大図。
【図3】図1のスパークプラグ及びガスケットの取付方法を説明する断面図。
【図4】図1のガスケットの変形機構の推測図。
【図5】本発明のガスケットの変形曲線の一例を示す図。
【図6】図1の要部を示す縦断面図。
【図7】 距離Aと着火限界空燃比との関係を表す図。
【図8】従来型のガスケットを有するスパークプラグの断面図。
【図9】図8のガスケットの変形曲線を示す説明図。
【符号の説明】
1 主体金具
1f ガスシール部(ガスケット受け部)
2 絶縁体
3 中心電極
4 接地電極
7 ねじ部
70 ガスケット
150 ガスケット付スパークプラグ(ねじ付部材)
SH シリンダヘッド(取付部)
S1 ねじ孔
SP 開口周縁部
g 火花放電ギャップ
Claims (2)
- 軸状の中心電極と、
両端が開放する筒状に形成され、前記中心電極の外側に配置されるとともに、外周面にねじ部が形成された主体金具と、
該主体金具の前端側開口縁に結合されて前記中心電極の前端部と対向し、該中心電極との間に火花放電ギャップを形成する接地電極と、
前記主体金具の後端側開口部から自身の後端部を突出させた状態で該主体金具の内側に配置されるとともに軸方向の貫通孔を有し、該貫通孔内に前記中心電極が配置される絶縁体と、
前記主体金具のねじ部に対し外側から同心的に装着される環状形態をなし、該ねじ部が取付部としてのシリンダヘッドに形成されたねじ孔に螺合した状態において、前記主体金具のねじ部基端側に外向きに張り出す形態で形成された環状のガスケット受け部と、前記ねじ孔の開口周縁部との間で圧縮されることにより、前記ねじ孔と前記ガスケット受け部との間をシールするガスケットとを備え、スパークプラグとして構成されるねじ付部材において、
前記ねじ部の呼びに対してISO 724で規定されるピッチをISO規格ピッチp’で表すとともに、前記ねじ部のピッチpを0.5mm以上でかつ前記ISO規格ピッチp’を下回る範囲に設定し、
前記ガスケットを軸方向に圧縮したときの圧縮荷重Fと、前記ガスケットの圧縮変位αとの関係を測定するとともに、前記ガスケットの初期外径を2R1、同内径を2R2として、前記ガスケットへの付加圧力PをF/{π(R12−R22)}にて算出することにより、該圧力Pが58.8〜117.6MPaとなる範囲に対応する前記圧縮変位αの変化量をΔαで表し、
前記シリンダヘッドの内面から前記主体金具の先端までの距離を発火位置の突出量Aとし、着火限界空燃比18以上となる範囲に対応する発火位置の突出量Aの変化幅をΔAで表すとき、
前記圧縮変位αの変化量Δαは、前記ISO規格ピッチp’の2分の1以上で、前記発火位置の突出量Aの変化幅ΔAを下回る値であり、前記圧力Pの範囲内にて前記ねじ部のねじ込み角度位置を調整して前記接地電極を位置調整したとき、必ず着火限界空燃比が18以上となるように設定されていることを特徴とするガスケットを有するねじ付部材。 - 前記ねじ部を形成している部材は、炭素を0.05〜0.3重量%含有する鋼材で形成されている請求項1記載のガスケットを有するねじ付部材。
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