上記特許文献2に示すような構造では、デフケースにピニオンギアおよびサイドギアを組み込んだ状態だと、サイドギアは、デフケースに設けられる二つのボス部の内側開口端面(受け座)に、スラストワッシャを介して当接させているだけであって径方向に位置決めされていない。
そのために、サイドギアとピニオンギアとの間に存在するバックラッシによって、サイドギアやスラストワッシャが径方向にがたつくおそれがあって、サイドギアの車軸嵌合孔の中心軸線やスラストワッシャの中心孔の中心軸線が、デフケースのボス部における車軸挿通孔の中心軸線に対して径方向に位置ずれすることが起こりうる。これにより、車両用差動歯車装置を車両に搭載して車軸を連結するときの組み付け作業が面倒になることが懸念される。
この他、さらに以下のような不具合が懸念される。
つまり、一般的に、サイドギアに対する車軸の連結は、大容量のトルク伝達に対応したうえで作業性を良好とするために、スプライン嵌合とするようになっている。そのために、車軸の外周面における先端側領域にオススプラインを設け、サイドギアの車軸嵌合孔の内周面にメススプラインを設けるようにしている。
このようなスプライン嵌合構造では、サイドギアに車軸をスプライン嵌合にて連結した後、サイドギアに車軸を抜け止めするための構造が必要になる。
この抜け止め構造は一般的に公知であるが、簡単に説明する。つまり、例えば車軸のオススプラインにおける先端寄りに円周方向に連続する周溝を設けるとともに、この周溝内に抜け止めリングを係入したうえで、サイドギアの車軸嵌合孔における内側開口寄り領域にメススプラインを形成せずに大径円筒部を設けるようにしておく。
そして、サイドギアの車軸嵌合孔に車軸をスプライン嵌合させることによって、車軸の抜け止めリングがサイドギアの車軸嵌合孔における大径円筒部に到達すると、抜け止めリングが自身の弾性復元力でもって拡径することによって、その外径側が車軸の周溝からはみ出した状態になって、このはみ出している外径側が、前記大径円筒部においてメススプラインの歯先に引っ掛けられるようになる。このとき、抜け止めリングが車軸の周溝と前記メススプラインの歯先との両方に跨って配置されるので、この抜け止めリングでもって車軸がサイドギアに抜け止めされることになるのである。
ところで、上記特許文献2にも示すように、一般的に、サイドギアの車軸嵌合孔の内径寸法が、ボス部の車軸挿通孔の内径寸法よりも小さくなっているために、車軸をボス部の車軸挿通孔を通してサイドギアの車軸嵌合孔に嵌入させる際に、車軸の周溝に係入させてある抜け止めリングが、サイドギアの車軸嵌合孔の入口またはスラストワッシャの中心孔の周縁に軸方向から当接することになってしまい、サイドギアの車軸嵌合孔へ抜け止めリングを縮径させた状態で入れることが困難になる。このように、車軸をサイドギアにスムースに組み付けることが困難であった。
本発明は、ピニオンギアをピニオンシャフトレスでデフケースに組み付けるとともに、サイドギアをピニオンギアより後組みとする形態で組み立てられる車両用差動歯車装置において、車軸の組み付け前段階でサイドギアやスラストワッシャを径方向に位置決めできるようにし、サイドギアに車軸をスムースに組み付け可能にすることを目的としている。
本発明の車両用差動歯車装置は、デフケースと、デフケースの内面所定領域に回転自在に組み付け保持される二つのピニオンギアと、各ピニオンギアより後に前記デフケース内に組み込まれて前記各ピニオンギアに噛合される二つのサイドギアとを含む構成において、次のような構成を採用する。
前記デフケースは、前記各サイドギアの車軸嵌合孔内にトルク伝達可能にそれぞれ嵌合される車軸が相対回転可能に挿通される車軸挿通孔を有しかつ内側開口端面が前記サイドギアを支える受け座とされる二つのボス部と、前記各ピニオンギアをそれぞれ回転自在に位置決め保持するためのピニオンギア保持部と、前記各ギアの組み付け用の開口窓とを有する。そして、前記ボス部の車軸挿通孔の内側開口から前記サイドギアの車軸嵌合孔の外側開口に跨る領域に、それらの中心軸線を略合致させるための位置決めリングが内嵌装着されている。
このように、本発明の前提となる構成としては、従来例のようにピニオンシャフトを用いてピニオンギアをデフケースに回転支持させる形態ではなく、ピニオンシャフトを用いずにデフケースのピニオンギア保持部にピニオンギアを直接的に回転自在に配置させるような形態になっている。また、そのような形態に関連して、サイドギアを前記ピニオンギアよりも後でデフケース内に組み付ける、後組み形態とされている。
このような形態では、そもそもサイドギアが径方向に位置ずれすることがあるので、本発明では、位置決めリングによってサイドギアをボス部に対して径方向に位置決めさせることにより、サイドギアの中心軸線をボス部の中心軸線に対してほぼ合致させるようにしている。
これにより、仮にデフケースにピニオンギアやサイドギアを組み込んだ状態で車軸を組み付けていない状態、つまり車両用差動歯車装置単体でも、サイドギアがボス部に対して径方向に位置ずれしにくくなる。
そのため、サイドギアに車軸を組み付けるにあたって、車軸をボス部の車軸挿通孔からサイドギアの車軸嵌合孔へ連続的かつスムースに組み付けることが可能になる等、組み付け作業が簡単かつ迅速に行えるようになる。
好ましくは、前記車両用差動歯車装置において、少なくとも一方のサイドギアの車軸嵌合孔における奥側開口寄り領域には、他領域に比べて内径が大きくされた大径円筒部が設けられ、前記サイドギアへ組み付ける車軸は、その先端に周溝が設けられるとともに、この周溝に弾性的に拡径または縮径可能な抜け止めリングが径方向外向きにはみ出した状態で係入されていて、前記車軸を前記サイドギアに組み付けたときに、前記抜け止めリングが前記大径円筒部と前記他領域との境の段差部に引っ掛かって前記車軸を抜け止めするように構成される。
この構成によれば、車両用差動歯車装置に少なくとも一方の車軸を組み付けた状態において、それらを非分離にしたまま、取り扱えるようになる。これにより、例えば車両用差動歯車装置の組み立て時や分解時等において作業内容の自由度が増すようになる。
本発明の車両用差動歯車装置は、デフケースと、デフケースの内面所定領域に回転自在に組み付け保持される二つのピニオンギアと、各ピニオンギアより後に前記デフケース内に組み込まれて前記各ピニオンギアに噛合される二つのサイドギアと、各サイドギアの背面と前記デフケースの各受け座との間にそれぞれ介装される二つのスラストワッシャとを含む構成において、次のような構成を採用する。
前記デフケースは、前記各サイドギアの車軸嵌合孔内にトルク伝達可能にそれぞれ嵌合される車軸が相対回転可能に挿通される車軸挿通孔を有しかつ内側開口端面が前記受け座とされる二つのボス部と、前記各ピニオンギアをそれぞれ回転自在に位置決め保持するためのピニオンギア保持部と、前記各ギアの組み付け用の開口窓とを有する。そして、前記ボス部の車軸挿通孔の内側開口から前記スラストワッシャの内周および前記サイドギアの車軸嵌合孔の外側開口とに跨る領域に、それらの中心軸線を略合致させるための位置決めリングが内嵌装着されている。
この構成によれば、上述したスラストワッシャを必須としてない構成と同様の作用、効果を奏することに加えて、スラストワッシャがサイドギアと受け座との摺接面におけるフリクションロスを軽減するためのすべり軸受として作用するから、当該サイドギアやデフケースの動作を円滑化するうえで有利となる。
好ましくは、前記サイドギアの背面が凸状球面に形成され、また、前記デフケースの受け座が前記サイドギアの背面形状に対応する凹状球面に形成され、さらに、前記スラストワッシャが、前記サイドギアの背面および受け座の各球面形状に倣って湾曲した形状とされる。
この構成によれば、サイドギアをデフケース内に組み付けるときに、当該サイドギアを正規組み付け予定の姿勢に対して斜め姿勢にした状態でデフケースの開口窓から差し込み、このサイドギアをデフケース内に先に組み付けてある二つのピニオンギアに噛合させるようにあてがった後、当該サイドギアをピニオンギアの回転軸心を支点として回しながらデフケース内の正規組み付け予定位置に送り込むことが可能になる。
これにより、サイドギアの組み付け作業が行いやすくなる他、サイドギアとデフケースの受け座との間に組み付け用軸方向隙間を確保する必要があるものの、従来例のようにサイドギアを正規組み付け予定の姿勢のままデフケース内に直線的に組み付ける場合に比べて、デフケースの開口窓および前記軸方向隙間を共に可及的に小さくすることが可能になる。
しかも、サイドギアの組み付け後に、このサイドギアを受け座から引き離すようにしておいて、サイドギアとデフケース内の受け座との間に存在する組み付け用軸方向隙間に、スラストワッシャを前述したようなサイドギアの組み付け形態と略同様にして組み付けることが可能になる。このスラストワッシャの組み付け作業も前記サイドギア同様に行いやすくなる。
好ましくは、前記ピニオンギア保持部は、前記デフケースの回転軸線周りの円周上で180度対向する領域に配置されかつ前記デフケースの周壁部において径方向外向きに陥没して前記ピニオンギアを部分的に埋没する状態で収納する凹所とされ、前記開口窓は、前記デフケースの回転軸線周りの円周上において前記各ピニオンギア保持部からそれぞれ90度ずれた領域に設けられる。
この構成によれば、ピニオンギア保持部の配置や形状等と、開口窓の配置形態とを特定することができる。
好ましくは、少なくとも一方のサイドギアの車軸嵌合孔における奥側開口寄り領域には、他領域に比べて内径が大きくされた大径円筒部が設けられ、前記サイドギアへ組み付ける車軸は、その先端に周溝が設けられるとともに、この周溝に弾性的に拡径または縮径可能な抜け止めリングが径方向外向きにはみ出した状態で係入されていて、前記車軸を前記サイドギアに組み付けたときに、前記抜け止めリングが前記大径円筒部と前記他領域との境の段差部に引っ掛かって前記車軸を抜け止めするように構成される。
この構成によれば、車両用差動歯車装置に少なくとも一方の車軸を組み付けた状態において、それらを非分離にしたまま、取り扱えるようになる。これにより、例えば車両用差動歯車装置の組み立て時や分解時等において作業内容の自由度が増すようになる。
好ましくは、前記ボス部の車軸挿通孔の内側開口端に大径円筒部が、また、サイドギアの車軸嵌合孔の外側開口端に他領域より大径の大径円筒部がそれぞれ設けられるとともに、前記スラストワッシャの中心孔の内径が、前記両大径円筒部の内径と略同一またはより大きくされ、前記位置決めリングが、円周一ヶ所を分離した略円筒形状のスナップリングとされ、前記両大径円筒部に装着した状態において内周面が前記ボス部の車軸挿通孔と略面一とされる。
この構成によれば、ボス部の車軸挿通孔からサイドギアの車軸嵌合孔に跨る領域に位置決め用リングを取り付けるようにしているにもかかわらず、車軸の組み付け時において車軸の周溝に係入されてある抜け止めリングを、ボス部の車軸挿通孔からサイドギアの車軸嵌合孔へ乗り移らせる過程で、前記位置決めリングに引っ掛からずに済む。
もし仮に、位置決めリングの内周面がボス部の車軸挿通孔と面一でなくて、内径側に出っ張っているとすると、前記抜け止めリングの乗り移り過程において、抜け止めリングが位置決めリングの内径側出っ張り部分に引っ掛かることが予想される。
要するに、本発明の上記構成によれば、このような不具合を回避できるので、抜け止めリングの乗り移りがスムースになるのである。
好ましくは、前記位置決めリングを前記所定位置に装着した状態でかつボス部側に寄せた状態で、当該位置決めリングのサイドギア側端面とサイドギアの段壁面との対向間に所定の軸方向隙間が設けられるとともに、この軸方向隙間が、前記抜け止めリングの軸方向幅より小さく設定される。
この構成によれば、車軸の組み付け時において車軸の周溝に係入されてある抜け止めリングを、ボス部の車軸挿通孔からサイドギアの車軸嵌合孔へ乗り移らせる過程で、抜け止めリングが、前記軸方向隙間に入り込まずに済む。
もし仮に、前記軸方向隙間が抜け止めリングの軸方向幅よりも大きいとすると、前記抜け止めリングの乗り移り過程において、抜け止めリングが前記軸方向隙間の位置に到達したときに弾性的に拡径して、前記軸方向隙間内に入り込むことが予想される。
要するに、本発明の上記構成によれば、このような不具合を回避できるので、抜け止めリングの乗り移りがスムースになるのである。
好ましくは、前記位置決めリングは、そのサイドギア側端縁から軸方向途中までに軸方向に沿うスリットが円周数ヶ所に設けられ、各スリット間に位置する複数の舌片のうち、円周方向所定数おきの舌片が径方向斜め内向きに曲がった形状とされる。
この構成によれば、車軸の組み付け時において車軸の周溝に係入されてある抜け止めリングを、ボス部の車軸挿通孔からサイドギアの車軸嵌合孔へ乗り移らせる過程で、位置決めリングにおける斜め内向き形状の舌片により抜け止めリングが弾性的に縮径されるようになって、この抜け止めリングの乗り移りがスムースになる。しかも、位置決めリングの製造作業内容が比較的簡単になるから、その製造コストを抑制するうえで有利となる。
好ましくは、前記サイドギアの大径円筒部と車軸嵌合孔との境の段壁面に、大径円筒部側から車軸嵌合孔側へ向けて漸次縮径するテーパ状ガイド面が設けられ、このテーパ状ガイド面の最大外径縁が、前記所定位置に位置決めリングを装着した状態において当該位置決めリングの内径位置より径方向外側に位置するように設定される。
この構成によれば、車軸の組み付け時において車軸の周溝に係入されてある抜け止めリングを、ボス部の車軸挿通孔からサイドギアの車軸嵌合孔へ乗り移らせる過程で、抜け止めリングが、前記段壁面に軸方向から当接せずに済んで、テーパ状ガイド面に当接することになる。
もし仮に、前記テーパ状ガイド面の最大外径縁が、位置決めリングの内径位置よりも径方向内側に位置させたとすると、前記抜け止めリングの乗り移り過程において、抜け止めリングが前記段壁面に軸方向から当接して、テーパ状ガイド面の位置まで到達しなくなることが予想される。
要するに、本発明の上記構成によれば、このような不具合を回避できるので、テーパ状ガイド面により抜け止めリングを弾性的に縮径させることが可能になり、この抜け止めリングの乗り移りがスムースになるのである。
本発明によれば、車軸の組み付け前段階でサイドギアやスラストワッシャを径方向に位置決めできるようにしているから、サイドギアに車軸をスムースに組み付けることが可能になる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1から図20に示して詳細に説明する。
まず、図1から図12に本発明の一実施形態を示している。ここで、本発明の特徴を適用した部分の説明に先立ち、本発明の適用対象となる車両用差動歯車装置の概略構成について、図1から図3を参照して説明する。
図1は、本発明に係る車両用差動歯車装置の一実施形態を示す横断面図、図2は、図1に示す車両用差動歯車装置に車軸を組み付けた状態を示す横断面図、図2の(3)−(3)線断面の矢視図である。図中、1は車両用差動歯車装置、2,3は車軸、4は変速機ハウジングである。
この実施形態での車両用差動歯車装置1は、例えばフロントエンジン・フロントドライブ(FF)方式の自動車等に用いられるタイプであり、図示していない変速機構から出力される回転動力を、左右一対の車軸2,3を介して左右の駆動輪に伝達するものである。
そして、車両用差動歯車装置1は、デフケース6、リングギア7、二つ一対のピニオンギア8,9、二つ一対のサイドギア10,11等、を含むツーピニオン構造とされている。
この車両用差動歯車装置1の動作については、基本的に公知のとおりであるので、ここでは簡単に説明する。
まず、車両が直進している場合には、リングギア7に回転動力が入力されると、リングギア7と一体に固定されるデフケース6が回転し、このデフケース6と一体的に一対のピニオンギア8,9が公転することにより、一対のサイドギア10,11および一対の車軸2,3が回転駆動されるので、左右の駆動輪が同一回転数で駆動される。
一方、車両のカーブ走行等によって、左右の駆動輪間に回転抵抗差が生じたときに、一対のピニオンギア8,9が自転することになって、両サイドギア10,11が差動回転することになるので、リングギア7に入力される回転動力が左右の車軸2,3を介して左右の駆動輪に差動分配されるようになる。
ここから、車両用差動歯車装置の各構成要素について、個別に説明する。
デフケース6は、中空の箱形状であり、その周壁部分において対向する二ヶ所に円筒形のボス部21,22が突設されている。
このデフケース6の両ボス部21,22が転がり軸受BGを介して変速機ハウジング4に設けられる左右二つの貫通孔4a,4bに回転自在に支持されるようになっている。この両ボス部21,22の中心孔が、車軸2,3が相対回転可能に挿通される車軸挿通孔21a,22aとされる。
このデフケース6の周壁部において両ボス部21,22の中心軸線周りの円周上で180度対向する二ヶ所には、図3に示すように、内部空間にピニオンギア8,9やサイドギア10,11等を組み付けるための開口窓23,24が設けられている。この開口窓23,24の大きさは、ピニオンギア8,9やサイドギア10,11等の組み付け性を考慮して、適宜設定される。
また、デフケース6の周壁部には、二つピニオンギア8,9を回転可能な状態で保持するための二つのピニオンギア保持部25,26が設けられている。
このピニオンギア保持部25,26は、デフケース6の回転軸線周りの円周上で180度対向する領域にかつ開口窓23,24とそれぞれ略90度ずれた領域に配置されており、デフケース6の周壁部において径方向外向きに陥没してピニオンギア8,9を部分的に埋没する状態で収納する円形の凹所とされている。
なお、ピニオンギア保持部25,26としての凹所の開口直径や深さ等の大きさについては、ピニオンギア8,9の大径外周面が微小隙間を介して埋没するような状態で嵌入されるように設定されることによって、ピニオンギア8,9が傾かないような安定した姿勢とされるようになっている。このようにして、ピニオンギア8,9がピニオンシャフトを用いずにデフケース6に支持されるようになっている。
リングギア7は、デフケース6の径方向外向きフランジ27にボルトにより一体的に取り付けられており、図示していないが、変速機構の出力ギアに噛合される。
一対のピニオンギア8,9は、デフケース6の各ピニオンギア保持部25,26に、個別に回転自在に収納保持されている。
一対のサイドギア10,11は、それぞれデフケース6内において一対のピニオンギア8,9に噛合する領域に配置されている。
この一対のサイドギア10,11の中心には、車軸2,3がトルク伝達可能に嵌合される車軸嵌合孔10a,11aが設けられている。
このサイドギア10,11に対する車軸2,3の連結は、大容量のトルク伝達に対応したうえで作業性を良好とするために、スプライン嵌合とされている。
つまり、車軸2,3の外周面における先端寄り領域にオススプラインが、また、サイドギア10,11の車軸嵌合孔10a,11aの内周面にメススプラインが、それぞれ設けられている。なお、これらのスプラインは、全体の細部が見づらくなるので、図示を簡略化し、符号を省略している。
そして、サイドギア10,11の外側端面が、デフケース6の受け座28,29にスラストワッシャ12,13を介して回転可能に支持されている。
受け座28,29は、ボス部21,22の内側開口端面に設けられている。
このサイドギア10,11の背面は凸状球面に形成され、また、デフケース6の受け座28,29はサイドギア10,11の背面形状に対応する凹状球面に形成され、さらに、スラストワッシャ12,13は、サイドギア10,11の背面および受け座28,29の各球面形状に倣って湾曲した形状とされている。
なお、前記凸状球面の曲率と凹状球面の曲率とは略同一とされている。これらの形状は、サイドギア10,11を後組みとするときの作業を考慮したものである。
ここで、サイドギア10,11の後組み作業について、図4から図7を参照して説明する。
まず、ピニオンギア8,9をデフケース6の適宜の開口窓23,24からデフケース6内に差し入れてから、デフケース6のピニオンギア保持部25,26内に嵌め入れる。
この後、各サイドギア10,11をデフケース6の各開口窓23,24から個別に差し込む。その際、図5や図6に示すように、サイドギア10,11をデフケース6内への正規組み付け姿勢とせずに、斜め姿勢にして、デフケース6内に先に組み付けてある二つのピニオンギア8,9に噛合させるようにあてがう。
そして、図5や図6中の矢印で示すように、両方のサイドギア10,11を同時に押し込む。これにより、サイドギア10,11がピニオンギア8,9の回転軸心を支点として回るとともに、ピニオンギア8,9が回転する。それと同時に、サイドギア10,11の背面に形成されている凸状球面がデフケース6の受け座28,29の凹状球面に沿って滑りながら、サイドギア10,11がデフケース6内の正規組み付け予定位置に送り込まれることになる。
この時点では、スラストワッシャ12,13を入れていないので、サイドギア10,11を軽い力でスムースに動かせるようになる。
この後、各サイドギア10,11の背面とデフケース6の受け座28,29との間に、スラストワッシャ12,13を差し込む。このスラストワッシャ12,13も、図7に示すように、サイドギア10,11と同様に斜め姿勢にして滑り込ませることにより、組み付ける。
このように、サイドギア10,11を斜め姿勢にして組み付ける形態にすれば、デフケース6の開口窓23,24を無駄に大きくせずに済むから、デフケース6の強度向上を図るうえで有利となる。しかも、サイドギア10,11とピニオンギア8,9との対向間隔、ならびにそこに介装するスラストワッシャ12,13の厚みを可及的に小さくすることが可能になるから、装置の小型化や軽量化を図るうえで有利となる。
但し、上述したように車両用差動歯車装置1を組み立てても、そのままの状態では、サイドギア10,11とスラストワッシャ12,13とを、デフケース6の受け座28,29に当接させているだけであって、径方向に位置決めされていない関係より、サイドギア10,11とピニオンギア8,9との間に存在するバックラッシによって、サイドギア10,11またはスラストワッシャ12,13が径方向にがたつくおそれがあって、サイドギア10,11の車軸嵌合孔10a,11aの中心軸線またはスラストワッシャ12,13の中心孔の中心軸線が、デフケース6のボス部21,22における車軸挿通孔21a,22aの中心軸線に対して径方向に位置ずれすることが起こりうる。
このような事情に鑑み、この実施形態では以下のような構成を採用することによって対処している。以下、本発明の特徴を適用している部分について、図1から図12を参照して詳細に説明する。
上述したようにピニオンギア8,9をピニオンシャフトレスでデフケース6に組み付けるとともに、サイドギア10,11をピニオンギア8,9より後組みとする形態で組み立てられる車両用差動歯車装置1において、要するに、位置決めリング14,15を用いて、車軸2,3の組み付け前段階でサイドギア10,11やスラストワッシャ12,13を径方向に位置決めできるように工夫している。
具体的に、まず、図9に示すように、位置決めリング14,15は、ボス部21,22の車軸挿通孔21a,22aの内側開口からスラストワッシャ12,13の内周およびサイドギア10,11の車軸嵌合孔10a,11aの外側開口に跨る領域に、内嵌装着されている。
なお、車軸挿通孔21a,22aの内側開口とは、車軸2,3の挿入方向奥側のことであり、車軸嵌合孔10a,11aの外側開口とは、車軸2,3の挿入方向手前側のことである。
この位置決めリング14,15の取り付けは、例えば図8に示すように、位置決めリング14,15を径方向内向きに圧縮させるような外力(矢印X方向の荷重)を加えることによって、縮径させておいて、そのままボス部21,22の車軸挿通孔21a,22a内へ差し入れてから、矢印Y方向へ押し込むだけで、位置決めリング14,15が装着予定領域に到達したときに、自身の弾性復元力によって拡径して、前記領域に嵌入することになる。
このように位置決めリング14,15を装着すると、ボス部21,22に対してサイドギア10,11とスラストワッシャ12,13とを径方向の適正位置に配置したうえで、その状態を保持することができる。この適正位置とは、前記三者の各中心軸線を略合致させるような位置のことである。
これにより、車軸2,3を車両用差動歯車装置1に組み付けていない状態であっても、サイドギア10,11およびスラストワッシャ12,13が、デフケース6のボス部21,22に対して径方向に位置ずれしにくくなる。
このようにするために、ボス部21,22の車軸挿通孔21a,22aの内側開口端に大径円筒部21b,22bを設け、また、サイドギア10,11の車軸嵌合孔10a,11aの外側開口端に他領域より大径の大径円筒部10b,11bを設け、さらに、スラストワッシャ12,13の中心孔の内径寸法を、両大径円筒部21b,22b,10b,11bの内径寸法と略同じにしている。
なお、位置決めリング14,15は、円周一ヶ所を分離した略円筒形状の、いわゆるスナップリングとされている。つまり、この位置決めリング14,15は、外力の付与により弾性的に拡径または縮径可能であるとともに、自身の弾性復元力で元の自然状態に戻るようなものである。例えば位置決めリング14,15は、前述したような機能と所定の耐久性とを有するものであれば、適宜の材料(金属や樹脂等)で形成することができる。
この位置決めリング14,15は、両大径円筒部21b,10b,22b,11bに装着した状態において、その内周面が、図9に示すように、ボス部21,22の車軸挿通孔21a,22aの内周面と略面一とされるように設定されている。
さらに、サイドギア10,11の大径円筒部10b,11bと車軸嵌合孔10a,11aとの境の段壁面には、テーパ状ガイド面10c,11cが設けられている。このテーパ状ガイド面10c,11cは、大径円筒部10b,11b側から車軸嵌合孔10a,11a側へ向けて漸次縮径する形状とされている。
しかも、このテーパ状ガイド面10c,11cの最大外径縁は、前記所定位置に位置決めリング14,15を装着した状態において当該位置決めリング14,15の内径位置より径方向外側に位置されている。
さらにまた、サイドギア10,11に対して車軸2,3をスプライン嵌合にて連結した後、車軸2,3を抜けにくくさせることが要求される場合がある。
この抜け止め構造は、一般的に公知であるが、以下で簡単に説明する。この実施形態では、一方の車軸2のみを抜きにくくした場合を例に挙げている。
まず、一方の車軸2の先端側に、円周方向に連続する周溝2aが設けられているとともに、この周溝2a内に抜け止めリング16が係入されている。この抜け止めリング16は、その外径側が周溝2a内から径方向外向きにはみ出した状態になっている。
抜け止めリング16は、円周一ヶ所を分離した断面略円形の、いわゆるスナップリングとされている。つまり、この抜け止めリング16は、一般的に公知のように、外力の付与により弾性的に拡径または縮径可能であるとともに、自身の弾性復元力で元の自然状態に戻るようなものである。
その一方で、両方のサイドギア10,11の車軸嵌合孔10a,11aにおける内側開口寄り領域に、メススプラインを無くした大径円筒部10d,11dを設ける。この大径円筒部10d,11dの内径寸法は、メススプラインの各歯底を結ぶ仮想円の直径寸法と所定量だけ大きく設定されている。なお、大径円筒部10d,11dの内径寸法はメススプラインの各歯底を結ぶ仮想円の直径寸法と同じにしてもよい。参考までに、上述したように両方のサイドギア10,11を同じ形状物としている理由は、生産性を向上するとともに、組み付け間違いを無くすためである。
そして、一方の車軸2を一方のサイドギア10の車軸嵌合孔10aにスプライン嵌合させる過程において、車軸2の抜け止めリング16がサイドギア10の車軸嵌合孔10aにおける内側端部の大径円筒部10dの存在位置に到達すると、抜け止めリング16が自身の弾性復元力でもって拡径することによって、その外径側が車軸2の周溝2aからはみ出して、このはみ出した外径側が、サイドギア10のメススプラインの歯先(段差部)に引っ掛けられるようになる。
このとき、抜け止めリング16は、車軸2の周溝2aとサイドギア10のメススプラインの歯先との両方に跨って配置されるので、この抜け止めリング16でもって車軸2がサイドギア10に抜け止めされるようになるのである。
ところで、サイドギア10に車軸2を連結するにあたって、車軸2の周溝2aに抜け止めリング16を係入させている関係より、次のような点に工夫をしている。
つまり、例えば図9に示すように、位置決めリング14,15を前記使用場所に装着している状態において、この位置決めリング14,15をボス部21,22側へ寄せた状態で、当該位置決めリング14,15のサイドギア10,11側端面とサイドギア10,11の段壁面との対向間に所定の軸方向隙間Δαが設けられているとともに、この軸方向隙間Δαが、抜け止めリング16の断面径、あるいは軸方向幅より小さく設定されている。
なお、前記軸方向隙間Δαは、関係各部の製造誤差を吸収して位置決めリング14,15を適正状態に装着しやすくすることを考慮して、適宜に確保されている。
また、上述したように、軸方向隙間Δαを、抜け止めリング16の断面径、あるいは軸方向幅より小さく設定していれば、サイドギア10に車軸2を連結する過程において、抜け止めリング16が弾性的に拡径して軸方向隙間Δα内に入り込むことを防止することができ、車軸2のスムースな組み付け性を確保することが可能になるのである。
次に、上述した車両用差動歯車装置1のサイドギア10,11に車軸2,3を連結するときの様子について、図11および図12を参照して説明する。
単純に、車軸2,3をデフケース6のボス部21,22から差し入れ、そのまま奥へ押し込めばよいのである。
というのは、上述したように、位置決めリング14,15でもってボス部21,22に対してサイドギア10,11とスラストワッシャ12,13とを径方向の適正位置に配置することにより前記三者の各中心軸線を略合致させたうえで、その状態を保持させるようにしているため、両方の車軸2,3ともに、サイドギア10,11に嵌合しやすくなっているからである。
但し、この実施形態では、上述したように一方の車軸2のみ抜け止めのための構造を採用しているので、この一方の車軸2に関して、組み付け要領を詳細に説明することにする。
まず、一方の車軸2をボス部21に差し入れる際、車軸2の周溝2aから抜け止めリング16の外径側がはみ出しているが、この抜け止めリング16を押さえて周溝2a内に埋没させるようにしておけば、ボス部21の車軸挿通孔21a内にスムースに差し入れることが可能である。
そのまま、車軸2を押し込むと、車軸2の抜け止めリング16がボス部21の車軸挿通孔21aを通過して、この抜け止めリング16が位置決めリング14の内径側に入り込むことになる。
その際、車軸挿通孔21aの内周面と位置決めリング14の内周面とを略面一にしているので、前記抜け止めリング16の乗り移りがスムースに行われる。このスムースな乗り移り作用は、位置決めリング14の存在によって、抜け止めリング16が、スラストワッシャ12の中心孔の周縁やサイドギア10の車軸嵌合孔10aの入口に軸方向から当接して引っ掛からなくなっているから、得られるのである。
この後、抜け止めリング16が、図11に示すように、サイドギア10の車軸嵌合孔10aにおける入口のテーパ状ガイド面10cに当接することになる。その過程においては、軸方向隙間Δαを抜け止めリング16の断面径寸法より小さく設定している関係上、この抜け止めリング16が、テーパ状ガイド面10cに当接する前に弾性的に拡径して軸方向隙間Δα内に入り込むことが防止されるようになっている。
そして、テーパ状ガイド面10cに当接した抜け止めリング16には、車軸2の押し込み荷重が付与され続けているために、テーパ状ガイド面10cのガイド作用によって抜け止めリング16が徐々に弾性的に縮径させられることになって、最終的に、図12に示すように、縮径された抜け止めリング16が、サイドギア10の車軸嵌合孔10a内へ入り込むことになる。
この後、車軸2をさらに押し込むと、図10に示すように、抜け止めリング16が、サイドギア10のメススプラインの歯先を越えて大径円筒部10dの位置に到達することになり、この歯先に軸方向に引っ掛けられることになる。この状態では、前述した抜け止めリング16の引っ掛かりによって、車軸2を引き抜きにくくなっている。
但し、車軸2に所定以上の大きな引き抜き荷重を加えた場合には、抜け止めリング16の前記引っ掛かりが解除されて、車軸2を引き抜けるようになっている。このように引き抜ける理由は、抜け止めリング16を断面略円形にしているとともに、それをメススプラインの歯先のテーパ面に引っ掛けるようにしているからである。このようにしている理由は、車両用差動歯車装置1を分解整備するときに作業を行いやすくすることを考慮しているからである。
以上説明したように、本発明を適用した実施形態では、位置決めリング14,15によってサイドギア10,11およびスラストワッシャ12,13をボス部21,22に対して径方向に位置決めさせることにより、サイドギア10,11、スラストワッシャ12,13、ボス部21,22の三者の各中心軸線をほぼ合致させるようにしている。
これにより、仮にデフケース6にピニオンギア8,9、サイドギア10,11およびスラストワッシャ12,13を組み込んだ状態で車軸2,3を組み付けていなくても、サイドギア10,11およびスラストワッシャ12,13が、ボス部21,22に対して径方向に位置ずれしにくくなる。
そのため、車軸2,3を組み付けるにあたって、車軸2,3をボス部21,22の車軸挿通孔21a,22aに挿通した後、さらにスラストワッシャ12,13の中心孔およびサイドギア10,11の車軸嵌合孔10a,11aへと連続的かつスムースに乗り移らせることが可能になる等、組み付け作業を簡単かつ迅速に行うことが可能になる。したがって、車両用差動歯車装置1の生産性の向上、ひいては製造コストの低減に貢献できるようになる。
しかも、上記実施形態では、一方の車軸2を組み込んだ後で抜けにくくするために車軸2の先端側に抜け止めリング16を装着している点を考慮し、前述した一方の位置決めリング14の装着状態を工夫するとともに、サイドギア10の車軸嵌合孔10aの入口にテーパ状ガイド面10cを設ける等といった工夫をしているから、車軸2の組み付け時に車軸2に装着してある抜け止めリング16をサイドギア10の大径円筒部10dまでスムースに到達させることが可能になる。
このように、位置決めリング14,15を使用するにあたって、それが、車軸2,3の組み付け上の障害とならないように工夫されているから、従前からの車両用差動歯車装置と略同等の取り扱いが可能になる等、汎用性が高められている。
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下、本発明の他の実施形態を例に挙げる。
(1)図13から図16に本発明の他実施形態を示している。この実施形態では、一方の位置決めリング14の形状が、上記実施形態の位置決めリング14と異なる。ここでは、上記実施形態との相違点のみを説明し、上記実施形態と同一の部分についての説明は割愛する。
具体的に、位置決めリング14の軸方向一端側に、テーパ状ガイド部14aが設けられている。このテーパ状ガイド部14aは、軸方向途中の所定位置から端縁へ向けて漸次縮径する形状とされている。
このテーパ状ガイド部14aは、図13に示すように位置決めリング14を所定位置に装着した状態において、サイドギア10のテーパ状ガイド面10cにおいて外径側領域に沿って当接するように組み付けられるようになっている。
このように位置決めリング14にテーパ状ガイド部14aを設けた場合、車両用差動歯車装置1に車軸2を連結する過程において、以下のような優位性がある。
まず、車軸挿通孔21aの内周面と位置決めリング14の内周面とを略面一にしているので、車軸2に装着してある抜け止めリング16をボス部21の車軸挿通孔21aを通過させて位置決めリング14の内径側にスムースに乗り移らせることができる。
この後、抜け止めリング16が、図15において破線で示すように、まず、位置決めリング14のテーパ状ガイド部14aに当接することになって、このテーパ状ガイド部14aによって、抜け止めリング16がわずかに縮径されることになり、続いて、サイドギア10の車軸嵌合孔10aにおける入口のテーパ状ガイド面10cに当接することになる。
そして、テーパ状ガイド面10cに当接した抜け止めリング16には、車軸2の押し込み荷重が付与され続けているために、テーパ状ガイド面10cのガイド作用によって抜け止めリング16が徐々に弾性的に縮径させられることになって、最終的に、図16に示すように、縮径された抜け止めリング16が、サイドギア10の車軸嵌合孔10a内へ入ることになる。
このような位置決めリング14であれば、図9に示した軸方向隙間Δαを設ける必要がなくなるとともに、位置決めリング14のテーパ状ガイド部14aが、ボス部21の車軸挿通孔21aからテーパ状ガイド面10cまでを連続した面とするようになるから、抜け止めリング16の押し込みが奥までスムースに行えるようになる。
この実施形態の場合も、上記実施形態と略同様の作用、効果が得られるうえ、上記実施形態のように図9に示した軸方向隙間Δαを抜け止めリング16の断面径または軸方向幅より小さくするといった製造上の条件を無くすことができる点で有利となる。
なお、この実施形態では、片方の位置決めリング14のみを例に挙げているが、他方の位置決めリング15についても、上記片方の位置決めリング14と同一の構成とすることが可能である。
このように両方の位置決めリング14,15を同じ形状物とする場合には、生産性が向上するとともに、組み付け間違いを無くすうえで有利となる他、両方の車軸2,3に抜け止め構造を採用する場合に好適である。
(2)図17から図20に本発明の他実施形態を示している。この実施形態では、一方の位置決めリング14の形状が、上記実施形態の位置決めリング14と異なる。ここでは、上記実施形態との相違点のみを説明し、上記実施形態と同一の部分についての説明は割愛する。
具体的に、位置決めリング14は、図18に示すように、そのサイドギア10側端縁から軸方向途中までに軸方向に沿うスリットが円周数ヶ所に設けられていて、各スリット間に位置する複数の舌片のうち、円周方向所定数おきの舌片14b・・・が径方向斜め内向きに曲がった形状とされている。
そして、図17および図19に示すように、位置決めリング14を所定位置に装着した状態において、屈曲形状の舌片14b・・・は、その内径側先端縁が、サイドギア10のテーパ状ガイド面10cの外端縁に対し径方向で内径側または略同じ位置に配置されるようになっている。
このような位置決めリング14の場合、上記実施形態と同様、その装着を容易とするために図17に示すような軸方向隙間Δαを確保しているが、この軸方向隙間Δαは抜け止めリング16の断面径または軸方向幅より小さく設定されている。
ここで、位置決めリング14に屈曲形状の舌片14b・・・を設けた場合、車両用差動歯車装置1に車軸2を連結する過程において、以下のような優位性がある。
まず、車軸挿通孔21aの内周面と位置決めリング14の内周面とを略面一にしているので、車軸2に装着してある抜け止めリング16をボス部21の車軸挿通孔21aを通過させて位置決めリング14の内径側にスムースに乗り移らせることができる。
この後、抜け止めリング16が、図20において破線で示すように、まず、位置決めリング14の屈曲形状の舌片14b・・・に当接することになって、この舌片14b・・・によって、抜け止めリング16が適宜に弾性的に縮径されることになり、続いて、図20において実線で示すように、サイドギア10の車軸嵌合孔10aにおける入口のテーパ状ガイド面10cに当接することになる。
そして、テーパ状ガイド面10cに当接した抜け止めリング16には、車軸2の押し込み荷重が付与され続けているために、テーパ状ガイド面10cのガイド作用によって抜け止めリング16が徐々に弾性的に縮径させられることになって、最終的に、縮径された抜け止めリング16が、サイドギア10の車軸嵌合孔10a内へ入ることになる。
この実施形態の場合も、上記実施形態と略同様の作用、効果が得られる。しかも、位置決めリング14については、上記(1)で示した実施形態に比べて、舌片14bの屈曲作業が比較的簡単であるから、その製造コストを抑制するうえで有利となる。
なお、この実施形態では、片方の位置決めリング14のみを例に挙げているが、他方の位置決めリング15についても片方の位置決めリング14と同一の構成とすることが可能である。このように両方の位置決めリング14,15を同じ形状物とする場合には、生産性が向上するとともに、組み付け間違いを無くすうえで有利となる他、両方の車軸2,3に抜け止め構造を採用する場合に好適である。
(3)上記実施形態では、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)方式の車両に搭載されるフロント側の車両用差動歯車装置を例に挙げているが、フロントエンジン・リアドライブ(FR)方式の車両に搭載されるリア側の車両用差動歯車装置や、四輪駆動方式の車両におけるフロント側の車両用差動歯車装置およびリア側の車両用差動歯車装置にも、本発明を適用することが可能である。
(4)上記実施形態では、サイドギア10,11と車軸2,3との連結をスプライン嵌合としているが、その他に、一般的に公知のキー結合やセレーション結合とすることが可能である。また、上記実施形態では、テーパ状ガイド面10cを直線的な傾斜にしているが、テーパ部分を丸みを帯びて出っ張る凸レンズのような球面形状としたり、あるいは丸みを帯びて凹む凹レンズのような球面形状としたり、することも可能である。
(5)上記実施形態では、ワンピース構造のデフケース6を例に挙げているが、ツーピース構造であってもよい。このツーピース構造のデフケースは、図示していないが、例えば有底円筒形のボディと、このボディの開口に取り付けられるキャップとを組み合わせて構成されるものが考えられる。
この場合も、サイドギア10,11を位置決めリング14,15で径方向に位置決めする構造や、抜け止めリング16をスムースに組み付けるための構造については上記実施形態と同様とされる。