JP4753335B2 - エノン還元酵素 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、α,β−不飽和ケトン(以下、エノン (enone) と略す)のα,β−不飽和結合の還元に有用な、新規なエノン還元酵素、該酵素をコードするDNA、該酵素の製造方法、該酵素ならびに該酵素に相同性を有する蛋白質を用いたα,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を選択的に還元する方法、特に光学活性ケトンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ケトンは、有機合成における原料として極めて汎用性の高い化合物である。また、ケトンは、医薬品合成において重要な光学活性中間体である光学活性アルコール、光学活性アミンの原料としても重要な化合物である。特に光学活性ケトンは、様々な医薬品の合成原料として有用である。
これらのケトンの前駆体として、例えば、アルデヒドとケトンの縮合反応により得られるα,β−不飽和ケトンが有用である。
【0003】
例えば、アセトアルデヒドと2−ブタノンを縮合することにより3−メチル−3−ペンテン−2−オン(3-methyl-3-penten-2-one; J. Amer. Chem. Soc., 81, 1117-1119 (1959))を容易に調製することができる。
【0004】
種々のケトンは、α,β−不飽和カルボニル化合物の、α,β−不飽和結合を選択的に還元することにより得ることができる。カルボニル基の還元反応を伴わずに、α,β−不飽和結合のみを選択的に還元する方法としては、Ni触媒やPd-C触媒を用いた水素添加反応などが知られている(「接触水素化反応」p135、東京化学同人 (1987))。これらの方法は、反応を継続することによりカルボニル基も還元される、環境に対して負荷の大きい金属を触媒として利用する、高圧の水素を利用するなどの問題がある。カルボニル基の還元は、ケトンの収率の低下を意味している。
【0005】
一方、生物学的な反応によってα,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を選択的に還元する方法としては、次のような生物を用いた方法が報告されている。
・植物細胞(J. Nat. Prod. 56, 1406-1409 (1993))
・パン酵母(Tetrahedron Lett. 52, 5197-5200 (1978) , Bull. Chem. Soc. Jpn. 64, 3473-3475 (1991) , Tetrahedron Asym. 6, 2143-2144 (1995)他)
・カビ(J. Org. Chem. 47, 792-798 (1982))
しかしこれらの方法では、カルボニル基の還元反応を伴う、反応性が低い、細胞の大量調製が困難など問題がある。
【0006】
この他にα,β−不飽和カルボニル化合物の還元酵素としては、以下のような酵素が報告されている。これらの酵素は、いずれも基質特異性が明らかにされていない、あるいはα,β−不飽和結合の還元における立体選択性が低い、もしくは、明らかにされていない、といった理由により、工業的な利用には不向きである。
クロストリジウム・チロブチリカム(Clostridium tyrobutyricum)由来の2−エノエート還元酵素 (2-enoate reductase, E.C.1.3.1.31) (J. Biotechnol. 6, 13-29 (1987))
クロストリジウム・クライベリ (Clostridium kluyveri) 由来のアクリロイル−CoA還元酵素 (acryloyl-CoA reductase) (Biol. Chem. Hoppe-Seyler 366, 953-961 (1985) )
Kluyveromyces lactis由来のエノン還元酵素-I (KLER1, 特願2001-049363)
パン酵母より精製されたエノン還元酵素YER−2(京都大学・河合ら、第4回生体触媒シンポジウム講演要旨集p58 (2001) )
パン酵母より精製されたエノン還元酵素EI及びEII(Eur. J. Biochem. 255, 271-278 (1998))
サッカロミセス・カールズバーゲンシス (Saccharomyces carlesbergensis) 由来の旧黄色酵素 (Old Yellow Enzyme-1, 以下、OYE1と略す)
タバコ(Nicotiana tabacum)細胞由来のエノン還元酵素(ベルベノン還元酵素(verbenone reductase, 別名p90)(J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1993, 1426-1427、Chem. Lett. 2000, 850-851)
タバコ(Nicotiana tabacum)細胞由来のエノン還元酵素であるカルボン還元酵素(別名、エノン還元酵素−I、もしくはp44、Phytochemistry 31, 2599-2603 (1992)
タバコ(Nicotiana tabacum)細胞由来のエノン還元酵素であるエノン還元酵素−II 、p74(Phytochemistry 31, 2599-2603 (1992))、
植物の1種ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilisPhytochemistry 49, 49-53 (1998))やアスタシア・ロンガ(Astasia longa)から精製されたエノン還元酵素(Phytochemistry 49, 49-53 (1998))
ラット肝臓より精製されたエノン還元酵素(Arch. Biochem. Biophys. 282, 183-187 (1990))
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、α,β−不飽和ケトンのα,β−不飽和結合を選択的に還元し、α,β−飽和ケトン、特に高い光学純度を持つ光学活性ケトンを生成する酵素活性を有する新規なエノン還元酵素、該酵素をコードする遺伝子を提供することを課題とする。さらに、本発明は、該酵素並びに該酵素を生産する生物を利用してα,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を選択的に還元する方法、特に高い光学純度を持つ光学活性ケトンの製造方法の提供を課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、エノン還元活性を有する酵素の探索を目的に、メチルビニルケトンから2−ブタノンを生成する酵素をスクリーニングした結果、クライベロマイセス・ラクティス (Kluyveromyces lactis) が目的とする活性を有することを見出した。次に、クライベロマイセス・ラクティスの菌体より目的とする活性を有する酵素を精製し、その性質を明らかにした。この酵素は、α,β−不飽和ケトンのα,β−不飽和結合をβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸依存的に選択的に還元すること、ケトンの還元活性を実質的に持たないこと、本酵素が3-Methyl-4-(3-pyridyl)-3-buten-2-oneなどを還元してほぼ100% ee の(S)体光学活性ケトンを生成することを確認した。
【0009】
次に本発明者らは、該酵素の部分アミノ酸配列を解析した結果、ゲノム配列からの予想ORFとして報告されているKluyveromyces Yellow Enzyme (KYE1; Yeast 11, 459-465 (1995)) と一致することを見いだした。更に、この予想ORFをクローニングし、大腸菌により発現させ、その発現産物の活性を確認することにより、この予想ORFが本発明の酵素KLER2をコードする遺伝子であることを確認した。そしてこの酵素やそのホモログ、あるいはこれらを産生する細胞等によって、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合の選択的な還元が可能となることを見出し本発明を完成した。以下、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸はNADP、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドはNAD、そしてこれらの還元型をNADPHあるいはNADHと記載する。
【0010】
すなわち本発明は、次のエノン還元酵素、該酵素をコードするDNA、該酵素の製造方法、該酵素ならびに該酵素に相同性を有する蛋白質を用いたα,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を選択的に還元し、特に光学活性ケトンを生産する方法に関する。
〔1〕 次の(A)から(C)に示す理化学的性質を有する、エノン還元酵素。
(A)作用
還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を電子供与体として、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元し、対応する飽和炭化水素を生成する。
(B)基質特異性
(1) 電子供与体としては、還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドよりも還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸に対して、有意に高い活性を有する。
(2)不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元するが、実質的にケトンの還元活性は無い。
(3) 3-Methyl-4-(3-pyridyl)-3-buten-2-oneのα,β−不飽和結合を選択的に還元し、90% ee以上の (S)-3-methyl-4-(3-pyridyl)-3-butan-2-oneを生成する。
(C)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム −ポリアクリルアミドゲル電気泳動により約47,000。ゲル濾過により約92,000。
〔2〕 更に次に示す理化学的性質(D)−(E)を有する〔1〕に記載のエノン還元酵素。
(D)作用pH
pH 5.0−8.0
(E)至適温度
37−45℃
〔3〕 クライベロマイセス(Kluyveromyces)属に由来する〔1〕に記載の新規エノン還元酵素。
〔4〕 クライベロマイセス属に属する微生物がクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)であることを特徴とする、〔3〕に記載の新規エノン還元酵素。
〔5〕 クライベロマイセス属に属し、〔1〕に記載のエノン還元酵素生産能を有する微生物を培養することを特徴とする〔1〕に記載のエノン還元酵素を取得する方法。
〔6〕 クライベロマイセス属に属する微生物が、クライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)である、〔5〕に記載の方法。
〔7〕 下記(a)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、下記の理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、下記の理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、下記の理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(A)作用
還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を電子供与体として、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元し、対応する飽和炭化水素を生成する。
(B)基質特異性
(1) 電子供与体としては、還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドよりも還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸に対して、有意に高い活性を有する。
(2)不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元するが、実質的にケトンの還元活性は無い。
(3) 3-Methyl-4-(3-pyridyl)-3-buten-2-oneのα,β−不飽和結合を選択的に還元し、90% ee以上の (S)-3-methyl-4-(3-pyridyl)-3-butan-2-oneを生成する。
〔8〕 〔7〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質。
〔9〕 〔7〕に記載のポリヌクレオチドが挿入された組換えベクター。
〔10〕 更にβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を補酵素とする酸化還元反応を触媒することができる脱水素酵素をコードするポリヌクレオチドが挿入された、〔9〕に記載の組換えベクター。
〔11〕 酸化還元反応を触媒することができる脱水素酵素が、グルコース脱水素酵素であることを特徴とする〔10〕記載の組換えベクター。
〔12〕 〔7〕に記載のポリヌクレオチド、または〔9〕に記載のベクターを発現可能に保持した形質転換体。
〔13〕 〔12〕に記載の形質転換体を培養する工程を含む〔8〕に記載の蛋白質の製造方法。
〔14〕 〔1〕に記載のエノン還元酵素、〔8〕に記載の蛋白質、該酵素または蛋白質を産生する微生物、および該微生物の処理物、からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質を、α,β不飽和ケトンに作用させ、生成するケトンを回収する工程を含む、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を選択的に還元し、飽和ケトンを生産する方法。
〔15〕〔1〕に記載のエノン還元酵素、〔8〕に記載の蛋白質、該酵素または蛋白質を産生する微生物、および該微生物の処理物、からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質を、α位、および/またはβ位に置換基を有するα,β不飽和ケトンに作用させ、生成する光学活性ケトンを回収する工程を含む、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を選択的に還元し、光学活性飽和ケトンを生産する方法。
〔16〕微生物が、〔12〕に記載の形質転換体である〔15〕に記載の方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、次の(A)−(C)に示す理化学的性質を有するエノン還元酵素を提供する。
(A)作用
還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を電子供与体として、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元し、対応する飽和炭化水素を生成する。
(B)基質特異性
(1) 電子供与体としては、NADHよりもNADPHに対して、有意に高い活性を有する。
(2)不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元するが、実質的にケトンの還元活性は無い。
(3) 3-Methyl-4-(3-pyridyl)-3-buten-2-oneのα,β−不飽和結合を選択的に還元し、90% ee以上の (S)-3-methyl-4-(3-pyridyl)-3-butan-2-oneを生成する。
(C)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム −ポリアクリルアミドゲル電気泳動により約47,000。ゲル濾過により約92,000。
【0012】
本発明のエノン還元酵素は、望ましくは更に次の理化学的的性質(D)−(E)を備える。
(D)作用pH
pH 5.0−8.0
(E)至適温度
37−45℃
【0013】
本発明の酵素のNADPHに対する反応性がNADHに対する反応性に比較して有意に高いとは、少なくとも2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上高い活性を言う。NADPHとNADHに対する反応性は、実施例に示すような方法によって比較することができる。すなわち、同一のα,β−不飽和ケトンを基質とし、両者を用いてケトンを生成させる。このときに消費されるNADPH、あるいはNADHの量を比較すれば、反応性を比較することができる。
【0014】
また本発明において、エノン還元酵素が基質に対して実質的に作用しないこととは、具体的には、メチルビニルケトンにおけるオレフィンに対する還元活性の1%以下であることを言う。またα,β−不飽和結合の選択的な還元とは、オレフィンを還元するための条件下で、ケトンが実質的に還元されないことを言う。
本発明において、ケトン部分が還元された生成物が、たとえば基質の5%以下、通常2%以下、望ましくは1%以下であるときに、ケトンが実質的に還元されないと言う。ケトン部分を還元する活性は、たとえば2−ブタノンに被検酵素を作用させ、還元生成物の量を定量することにより比較することができる。還元生成物の量は、NADPHの減少を指標として知ることもできる。
【0015】
本発明の酵素は、該酵素を産生する微生物から通常の蛋白質の精製方法により、精製することができる。例えば、菌体を破砕後、プロタミン硫酸沈澱を行い、その遠心分離上清を硫酸アンモニウムを用いて塩析し、更に、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過などを組み合わせることにより、精製することができる。
【0016】
本発明において、エノンに対する還元活性は、次のようにして確認することができる。本発明においてエノンとは、α,β不飽和ケトンを意味する。
エノンに対する還元活性測定法:
50mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、0.2mM NADPH、20mM メチルビニルケトン及び酵素を合む反応液中30℃で反応させ、NADPHの減少にともなう340 nmの吸光度の減少を測定する。1Uは、1分間に1μmolのNADPHの減少を触媒する酵素量とした。また、蛋白質の定量は、バイオラッド製蛋白質アッセイキットを用いた色素結合法により行った。
【0017】
上記のような理化学的性状を持つエノン還元酵素は、たとえばクライベロマイセス属酵母の培養物より精製することができる。クライベロマイセス属酵母としては、クライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)が特に本発明によるエノン還元酵素の産生能に優れる。本発明のエノン還元酵素を得るために利用することができるクライベロマイセス・ラクティスは、たとえば、IFO 0433、IFO 1012、IFO 1267、IFO 1673、IFO 1903として財団法人発酵研究所より入手することができる。
【0018】
上記微生物は、YM培地等の真菌の培養に用いられる一般的な培地で培養される。十分に増殖させた後に菌体を回収し、2−メルカプトエタノールやフェニルメタンフルホニルフルオリド等の還元剤やプロテアーゼ阻害剤を加えた緩衝液中で破砕して無細胞抽出液とする。無細胞抽出液から、蛋白質の溶解度による分画(有機溶媒による沈澱や硫安などによる塩析など)や、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィーや、キレート、色素、抗体などを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることにより精製することができる。たとえば、フェニル−セファロースを用いた疎水クロマトグラフィー、MonoQを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、フェニル−スーパーロースを用いた疎水クロマトグラフィー等を経て電気泳動的にほぼ単一バンドにまで精製することができる。
【0019】
クライベロマイセス・ラクティスから精製することができる本発明によるエノン還元酵素は、上記理化学的性質(A)−(C)、および(D)−(F)を有する。クライベロマイセス・ラクティスから精製することができる本発明によるエノン還元酵素は、公知のα,β−不飽和カルボニル化合物の還元酵素に対して、明らかに新規な酵素である。
【0020】
たとえば、α,β−不飽和カルボニル化合物の還元酵素としては、クロストリジウム・チロブチリカム(Clostridium tyrobutyricum)由来の2−エノエート還元酵素 (2-enoate reductase, E.C.1.3.1.31) が知られている。本酵素は、NADH依存的に(E)−2−メチル−2−ブテン酸を還元し、(R)−2−メチル酪酸を生成する(J. Biotechnol. 6, 13-29 (1987))。また本酵素は、カルボニル残基がカルボン酸、アルデヒド、あるいはケト酸の場合に基質とするが、ケトン体に対する活性は報告されていない。更に、分子量は、ゲル濾過において80万−94万であり、本発明の酵素(ドデシル硫酸ナトリウム−ゲル電気泳動 (以下、SDS-PAGEと略す)で43,000、ゲル濾過で42,000)とは明確に異なる。
【0021】
また、クロストリジウム・クライベリ (Clostridium kluyveri) 由来のアクリロイル−CoA還元酵素 (acryloyl-CoA reductase) がエチルビニルケトン還元活性を有することが報告されている(Biol. Chem. Hoppe-Seyler 366, 953-961 (1985) )が、本酵素は補酵素として還元型メチルビオローゲンを利用し、分子量はゲル濾過で28,400、SDS-PAGEで14,200であり本発明の酵素とは異なる。
【0022】
また、本発明者により出願されているクライベロマイセス・ラクティスよりクローニングしたエノン還元酵素(特願2001-049363、以下 KLER1と略す)は、本発明のエノン還元酵素(以下、KLER2と略す)と同様に、クライベロマイセス・ラクティスが生産する酵素であるが、分子量(KLER1は、ゲル濾過による分子量は約42,000、SDS-PAGEによるモノマーの分子量が約43,000のモノマー酵素であるが、KLER2は、ゲル濾過における分子量が約92,000、SDS-PAGEによるモノマーの分子量が約47,000の2量体酵素である)、基質特異性(KLER1は、環状のエノンである2−シクロヘキセノンに対して実質的に反応しないが、KLER2は環状のエノンも基質となりうる)、などが明確に異なる酵素である。
【0023】
また、パン酵母より複数のエノン還元酵素が精製され報告されている。京都大学の河合らは、パン酵母よりエノン還元酵素(YER−2)を精製し、酵素化学的性質を報告している(第4回生体触媒シンポジウム講演要旨集p58 (2001) )。本酵素は、本発明の酵素と同様に3-Methyl-4-(3-pyridyl)-3-buten-2-oneのα,β−不飽和結合を選択的に還元し、 (S)-3-methyl-4-(3-pyridyl)-3-butan-2-oneを生成することが報告されているが、その分子量 (ゲル濾過で38,000、SDS-PAGEで41,000)は本発明の酵素と異なる。Wannerらは、同じパン酵母より2種類のエノン還元酵素(EI及びEII)の精製と性質を報告している(Eur. J. Biochem. 255, 271-278 (1998))。EI(ゲル濾過における分子量が75,000、SDS-PAGEによる分子量が37,000及び34,000のヘテロ2量体)、EII (EI(ゲル濾過における分子量が130,000、SDS-PAGEによる分子量が56,000及び64,000のヘテロ2量体)ともに分子量などが本発明の酵素とは異なる。
【0024】
また、サッカロミセス・カールズバーゲンシス(Saccharomyces carlesbergensis)やサッカロミセス・セレビジアエ (Saccharomyces cerevisiae) 由来の旧黄色酵素(Old Yellow Enzyme, 以下OYE1と略す)が、NADPH酸化活性を有すると共に電子受容体として酸素だけでなく、Cyclohex-2-enone を電子受容体 として利用し、cyclohexanone を生成することが報告されている(J. Biol. Chem. 268, 6097-6106 (1993) )。また、Saccharomyces cerevisiae より同様な活性を有するOYE2, OYE3がクローニングされている。OYE1遺伝子がクローニングされ、その塩基配列、予想アミノ酸配列が明らかにされており、本発明のエノン還元酵素KLER2と高いホモロジーを有することが明らかとなった(BLAST programを用いたホモロジーサーチの結果、71% identity, 84% similarity)。この OYE1によるエノンへの水添反応は、α-炭素に対して Re-面より、β-炭素に対して Si-面より優先して起こることが推定されている(Biochemistry 34, 4246-4256 (1995))。しかし、生成するケトンの光学純度は具体的に示されておらず、OYE1 を用いた光学活性ケトンの製造方法が工業的に必要な純度 (少なくとも90%ee以上) を満足するか否かは明らかにされていない。
【0025】
植物では、タバコ(Nicotiana tabacum)の細胞より多数のエノン還元酵素(ベルベノン還元酵素(別名p90)、カルボン還元酵素(別名、エノン還元酵素−I、別名p44)、エノン還元酵素−II、p74)が精製され、その性質が報告されている。ベルベノン還元酵素 (verbenone reductase, p90) は、その分子量 (ゲル濾過における分子量が90,000、SDS-PAGEによる分子量が45,000)が本発明の酵素に近いが、3-Methyl-4-(3-pyridyl)-3-buten-2-oneに対する還元活性、立体選択性などは不明であり、また、還元反応の最適pHが7.2であり、本発明の酵素の6.2とは明らかに異なる。
【0026】
エノン還元酵素-I (p44) は、ゲル濾過における分子量が44,000、SDS-PAGEによる分子量が22,000)であり、また、主にNADHを利用することから本発明の酵素とは異なる。
エノン還元酵素−IIは、α,β−不飽和ケトンのβ位炭素に水素を有さない化合物( (R) -pulegone)も基質になること、ゲル濾過における分子量が132,000、SDS-PAGEによる分子量が22,000及び45,000であること(Phytochemistry 31, 2599-2603 (1992))から本発明の酵素とは異なる。p74はゲル濾過における分子量が74,000、SDS-PAGEによる分子量が37,000であることから、これらの酵素は明らかに本発明の酵素とは異なる。
【0027】
また、植物の1種ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis; ゲル濾過、SDS-PAGEによる分子量が共に55,000;)やアスタシア・ロンガ(Astasia longa; ゲル濾過,、SDS-PAGEによる分子量が共に35,000もしくは36,000)からもエノン還元酵素が精製されている(Phytochemistry 49, 49-53 (1998))が、これらの酵素はいずれも補酵素としてNADHを利用すること、その分子量が明らかに本発明の酵素とは異なる。
【0028】
また、動物ではラット肝臓よりエノン還元酵素が精製されている(Arch. Biochem. Biophys. 282, 183-187 (1990))。この酵素は、ゲル濾過,、SDS-PAGEによる分子量が共に39,500であり、本発明の酵素とは明らかに異なる。
【0029】
なお本発明の精製酵素の部分アミノ酸配列は、予想ORFとして報告されているKYE1 (Yeast 11, 459-465 (1995)と一致した。KYE1は、ゲノムの塩基配列からの予想ORFがOYE1とホモロジーを有するためにKluyveromyces Yellow Enzyme-1 (KYE1) と命名されたものである。KYE1の機能に関しては、KYE1を破壊した遺伝子と天然の遺伝子を併せ持つ二倍体 (diploid) の粗酵素液におけるNADPH 脱水素酵素活性 (チトクロムC及びメナジオン存在下におけるNADPH酸化活性) の減少が測定されているのみである。つまりKYE1によりコードされる蛋白質自身が直接NADPH脱水素酵素活性を有することは示されていない。また、KYE1によりコードされる蛋白質の酵素化学的性質、特に、この蛋白質がエノンに対する還元活性を有すること、その還元反応が極めて高い立体選択性を有すること、などは明らかにされていない。
【0030】
本発明は、エノン還元酵素およびそのホモログをコードするポリヌクレオチドに関する。本発明において、ポリヌクレオチドは、DNAやRNAのような天然に存在するポリヌクレオチドであることもできるし、人工的に合成されたヌクレオチド誘導体を含むポリヌクレオチドであっても良い。
【0031】
本発明のエノン還元酵素をコードするポリヌクレオチドは、たとえば配列番号:1に示す塩基配列を含む。配列番号:1に示す塩基配列は、配列番号:2に示すアミノ酸配列を含む蛋白質をコードしており、このアミノ酸配列を含む蛋白質は、本発明によるエノン還元酵素の好ましい態様を構成する。
【0032】
なお本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードすることができるあらゆる塩基配列を含む。1つのアミノ酸に対応するコドンは、1〜6存在することから、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAは、配列番号:1のみとは限らず、配列番号:1に記載されるDNAと等価とみなすことができるDNAは複数存在する。
【0033】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、前記理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含む。当業者であれば、配列番号:1に記載のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res. 10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol. 100, pp.448 (1983), Molecular Cloning 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200 (1991) )などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することが可能である。
【0034】
また、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドであって、かつ前記理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドも含む。ストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとは、配列番号:1に記載中の任意の少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、たとえば40、60または100個の連続した配列を一つまたは複数選択したDNAをプローブDNAとし、たとえばECL direct nucleic acid labeling and detection system (Amersham Pharmaica Biotech社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(wash:42℃、0.5x SSCを含むprimary wash buffer)において、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。
【0035】
ストリンジェントな条件下で配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドには、配列番号:1と類似する塩基配列を含むものが含まれる。このようなポリヌクレオチドは、配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードしている可能性が高い。したがって当業者は、このようなポリヌクレオチドの中から、本明細書の記載に基づいて、エノン還元酵素活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを選択することができる。
【0036】
さらに、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%以上のホモロジーを有し、かつ前記理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含む。蛋白質のホモロジー検索は、たとえばSWISS-PROT、PIRなどの蛋白質のアミノ酸配列に関するデータベースやDNA Databank of JAPAN(DDBJ)、EMBL、Gene-BankなどのDNAに関するデータベース、DNA配列を元にした予想アミノ酸配列に関するデータベースなどを対象に、FASTA programやBLAST programなどを用いて、たとえば、インターネット上で行うことができる。配列番号:2に記載のアミノ酸配列を用いてSWISS-PROTを対象にBLAST programを用いてホモロジー検索を行った結果、既知の蛋白質の中でもっとも高いホモロジーを示したのは、Saccharomyces carlesbergensis Old Yellow Enzyme 1 (OYE1の71%(Identity)、84%(Positives)であった。本発明の90%以上のホモロジーとは、たとえば、BLAST programを用いたPositiveの相同性の値を示す。
【0037】
これらのポリヌクレオチドによってコードされ、アミノ酸配列に変異を含む蛋白質は、前記理化学的性状(A)および(B)を有する限り、本発明のエノン還元酵素のホモログに含まれる。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のエノン還元酵素の遺伝子工学的な製造に有用である。あるいは本発明のポリヌクレオチドによって、α,β−不飽和ケトンからのα,β―飽和ケトンの製造に有用なエノン還元酵素活性を有する微生物を遺伝子工学的に作り出すことができる。
【0038】
本発明は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有し、かつエノン還元酵素活性を有する蛋白質、及びそのホモログを含む。配列番号:2に示すアミノ酸配列を含む蛋白質は、本発明によるエノン還元酵素の好ましい態様を構成する。
【0039】
本発明のエノン還元酵素のホモログとは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含む。当業者であれば、配列番号:1に記載のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res. 10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200 (1991) )などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することによりエノン還元酵素のホモログをコードするDNAを得ることができる。そのエノン還元酵素のホモログをコードするDNAを宿主に導入して発現させることにより、配列番号:2に記載のエノン還元酵素のホモログを得ることが可能である。
【0040】
さらに、本発明のエノン還元酵素のホモログとは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは95%以上のホモロジーを有する蛋白質をいう。蛋白質のホモロジー検索は、たとえばSWISS-PROT、PIRなどの蛋白質のアミノ酸配列に関するデータベースやDNA Databank of JAPAN(DDBJ)、EMBL、Gene-BankなどのDNAに関するデータベース、DNA配列を元にした予想したアミノ酸配列に関するデータベースなどを対象に、FASTA programやBLAST programなどを用いて、たとえば、インターネット上で行うことができる。配列番号:2に記載のアミノ酸配列を用いてDDBJを対象にBLAST programを用いてホモロジー検索を行った結果、既知の蛋白質の中でもっとも高いホモロジーを示したのは、Saccharomyces carlesbergensis Old Yellow Enzyme 1 (OYE1の71%(Identity)、84%(Positives)であった。本発明の90%以上のホモロジーとは、たとえば、BLAST programを用いたPositiveの相同性の値を示す。
【0041】
本発明のエノン還元酵素をコードするポリヌクレオチドは、たとえば、以下のような方法によって単離することができる。
【0042】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:1に記載された塩基配列に基づいて他の生物からPCRクローニングやハイブリダイズによって単離することもできる。配列番号:1に記載の塩基配列は、クライベロマイセス・ラクティスより単離された遺伝子のものである。配列番号:1に記載の塩基配列を利用してPCR用プライマーをデザインし、クライベロマイセス属酵母等の微生物から、エノン還元酵素活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0043】
また前記理化学的性質(A)−(C)を有するエノン還元酵素を単離し、その構造的特徴をもとに、本発明のポリヌクレオチドを得ることもできる。本発明の酵素を精製後、N末端アミノ酸配列を解析し、さらに、リジルエンドペプチダーゼ、V8プロテアーゼなどの酵素により切断後、逆相液体クロマトグラフィーなどによりペプチド断片を精製後プロテインシーケンサーによりアミノ酸配列を解析することにより複数のアミノ酸配列を決めることができる。
【0044】
部分的なアミノ酸配列が明らかになれば、それをコードする塩基配列を推定することができる。推定された塩基配列、あるいは配列番号:1に示す塩基配列を元にPCR用のプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAもしくは、cDNAライブラリーを鋳型として、PCRを行うことにより本発明のDNAの一部を得ることができる。
【0045】
さらに、得られたDNA断片をプローブとして、酵素生産株の染色体DNAの制限酵素消化物をファージ、プラスミドなどに導入し、大腸菌を形質転換して得られたライブラリーやcDNAライブラリーを利用して、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーションなどにより、本発明のDNAを得ることができる。
【0046】
また、PCRにより得られたDNA断片の塩基配列を解析し、得られた配列から、既知のDNAの外側に伸長させるためのPCRプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAを適当な制限酵素で消化後、自己環化反応によりDNAを鋳型として逆PCRを行うことにより(Genetics 120, 621-623 (1988))、また、RACE法(Rapid Amplification of cDNA End、「PCR実験マニュアル」p25-33, HBJ出版局)などにより本発明のDNAを得ることも可能である。
【0047】
なお本発明のDNAは、以上のような方法によってクローニングされたゲノムDNA、あるいはcDNAの他、合成によって得ることもできる。
【0048】
このようにして単離された、本発明によるエノン還元酵素をコードするDNAを公知の発現ベクターに挿入することにより、エノン還元酵素発現ベクターが提供される。そして、この発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、本発明のエノン還元酵素を組換え体から得ることができる。あるいは本発明によるエノン還元酵素をコードするDNAをゲノムに組み込んだ形質転換体を培養することにより、本発明のエノン還元酵素を組換え体から得ることもできる。
【0049】
本発明の組換えベクターは、本発明のエノン還元酵素をコードするDNAとともにNADPを補酵素とし酸化反応を触媒する脱水素酵素をコードするポリヌクレオチドが挿入された組換えベクターも含む。これらの脱水素酵素として、グルコース脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ホスホグルコン酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、グリセロール脱水素酵素などが挙げられる。これらの酵素は、本発明のエノン還元酵素の補酵素であるNADPHを、NADP+ から再生する際に利用することができる。
【0050】
本発明においてNADPHを補酵素とするエノン還元酵素を発現させるために、形質転換の対象となる微生物は、NADPHを補酵素とするエノン還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを含む組み換えベクターにより形質転換され、NADPHを補酵素とするエノン還元酵素活性を発現することができる生物であれば特に制限はない。利用可能な微生物としては、たとえば以下のような微生物を示すことができる。
エシェリヒア(Escherichia)属
バチルス(Bacillus)属
シュードモナス(Pseudomonas)属
セラチア(Serratia)属
ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
ストレプトコッカス(Streptococcus)属
ラクトバチルス(Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発されている細菌
ロドコッカス(Rhodococcus)属
ストレプトマイセス(Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発されている放線菌
サッカロマイセス(Saccharomyces)属
クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
ヤロウイア(Yarrowia)属
トリコスポロン(Trichosporon)属
ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
ピキア(Pichia)属
キャンディダ(Candida)属などの宿主ベクター系の開発されている酵母
ノイロスポラ(Neurospora)属
アスペルギルス(Aspergillus)属
セファロスポリウム(Cephalosporium)属
トリコデルマ(Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発されているカビ
【0051】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組み換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、モレキュラー・クローニング、Cold Spring Harbor Laboratories)。微生物中などにおいて、本発明のNADP+を補酵素とするエノン還元酵素遺伝子を発現させるためには、まず微生物中において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクター中にこのDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5'-側上流に、より好ましくはターミネーターを3'-側下流に、それぞれ組み込めばよい。このプロモーター、ターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーター、ターミネーターを用いる必要がある。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネータ−などに関して「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv. Biochem. Eng. 43, 75-102 (1990)、Yeast 8, 423-488 (1992)、などに詳細に記述されている。
【0052】
例えばエシェリヒア属、特に大腸菌エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとして、pBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc (lac、trpの融合)、λファージ PL、PRなどに由来するプロモーターなどが利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターなどを用いることができる。これらの中で、市販のpSE420(Invitrogen製)のマルチクローニングサイトを一部改変したベクターpSE420D(特開2000-189170に記載)が好適に利用できる。
【0053】
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミドなどが利用可能であり、染色体にインテグレートすることもできる。また、プロモーター、ターミネーターとしてapr(アルカリプロテアーゼ)、npr(中性プロテアーゼ)、amy(α−アミラーゼ)などが利用できる。
【0054】
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)などで宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010などに由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240などが利用可能であり、プロモーター、ターミネーターとして、リパーゼ(特開平5-284973)遺伝子などが利用できる。
【0055】
ブレビバクテリウム属特に、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene 39, 281 (1985))などのプラスミドベクターが利用可能である。プロモーター、ターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
【0056】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol. Gen. Genet. 196, 175 (1984)などのプラスミドベクターが利用可能である。
【0057】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属においては、pHV1301(FEMS Microbiol. Lett. 26, 239 (1985)、pGK1(Appl. Environ. Microbiol. 50, 94 (1985))などがプラスミドベクターとして利用可能である。
【0058】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J. Bacteriol. 137, 614 (1979))などが利用可能であり、プロモーターとして大腸菌で利用されているものが利用可能である。
【0059】
ロドコッカス(Rhodococcus)属においては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクターが使用可能である (J.
Gen. Microbiol. 138,1003 (1992) )。
【0060】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985)に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においては、pIJ486 (Mol. Gen. Genet. 203, 468-478, 1986)、pKC1064(Gene 103,97-99 (1991) )、pUWL-KS (Gene 165,149-150 (1995) )が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol. 11, 46-53 (1997) )。
【0061】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae) においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドが利用可能であり、染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組み換えを利用したインテグレーションベクター(EP 537456など)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β−ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)などのプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0062】
クライベロマイセス属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J. Bacteriol. 145, 382-390 (1981))、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソームDNAなどとの相同組み換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP 537456など)などが利用可能である。また、ADH、PGKなどに由来するプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0063】
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のARS (自律複製に関与する遺伝子)及びサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクターが利用可能である(Mol. Cell. Biol. 6, 80 (1986))。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーターなどが利用できる(EMBO J. 6, 729 (1987))。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0064】
チゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ (Zygosaccharomyces rouxii)由来の pSB3(Nucleic Acids Res. 13, 4267 (1985))などに由来するプラスミドベクターが利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5 プロモーターや、チゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri. Biol. Chem. 54, 2521 (1990))などが利用可能である。
【0065】
ピキア(Pichia)属においては、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などにピキア由来自律複製に関与する遺伝子 (PARS1、PARS2)などを利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol. Cell. Biol. 5, 3376 (1985))、高濃度培養とメタノールで誘導可能な AOX など強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res. 15, 3859 (1987))。また、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta、旧名ハンゼヌラ・ポリモルファ Hansenula polymorpha)において宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast 7, 431-443 (1991))。また、メタノールなどで誘導される AOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーターなどが利用可能である。
【0066】
キャンディダ(Candida)属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス (Candida utilis) などにおいて宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいてはキャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri. Biol. Chem. 51, 51, 1587 (1987))、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターは強力なプロモーターが開発されている(特開平 08-173170)。
【0067】
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー (Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー (Aspergillus oryzae) などがカビの中で最もよく研究されており、プラスミドや染色体へのインテグレーションが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trends in Biotechnology 7, 283-287 (1989))。
【0068】
トリコデルマ(Trichoderma)属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用したホストベクター系が開発され、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーターなどが利用できる(Biotechnology 7, 596-603 (1989))。
【0069】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature 315, 592-594 (1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種蛋白質を発現させる系が開発されており、好適に利用できる。
【0070】
また、上記の方法で得られる本発明のエノン還元酵素を発現する形質転換体は、本発明の酵素の製造や、以下に述べるα,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合の選択的還元によるα,β−飽和ケトンの製造に用いることができる。
【0071】
すなわち本発明は、前記エノン還元酵素、該酵素または蛋白質を産生する微生物、および該微生物の処理物、からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質をα,β不飽和ケトンに作用させる工程を含む、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を選択的に還元する方法に関する。本発明の酵素、酵素を含む培養物、その処理物が反応溶液と接触させることにより、目的とする酵素反応を行わせることができる。
【0072】
本発明の方法において、エノン還元酵素としては、配列番号:2に記載されたアミノ酸配列からなる蛋白質、そのホモログ、あるいは前記理化学的性質(A)−(C)を有するエノン還元酵素を用いることができる。エノン還元酵素は、精製されたものの他、粗精製酵素として用いることもできる。更に本発明においては、エノン還元酵素として、エノン還元酵素の産生能を有する細胞を用いることもできる。本発明において使用するエノン還元酵素生産能を有する細胞は、NADPH依存性エノン還元酵素生産能を有するクライベロマイセス属に属するすべての菌株、突然変異株、変種、遺伝子操作技術の利用により作成された本発明の酵素生産能を獲得した形質転換体を含む。
【0073】
なお、酵素と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されるものではない。反応溶液は、基質や酵素反応に必要な補酵素であるNADPHを酵素活性の発現に望ましい環境を与える適当な溶媒に溶解したものである。本発明におけるエノン還元酵素を含む微生物の処理物には、具体的には界面活性剤やトルエンなどの有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したものなどが含まれる。
【0074】
本発明におけるα,β−不飽和ケトンは限定されない。たとえば、次の一般式Iで表される化合物を、α,β−不飽和ケトンとして示すことができる。
【0075】
一般式I
【化1】
【0076】
式中、
R1は、水素、アルキル基、アリル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアルコキシ基(ただし、アルキル基、アリル基、アルケニル基、アラルキル基、およびアルコキシ基は置換されていても良い)を、
R2、R3、およびR4は、水素、または置換されていても良い短鎖アルキル基を示す。
【0077】
R1における前記アルキル基、アリル基、アルケニル基、アラルキル基、およびアルコキシ基としては、たとえば炭素数1〜8のものが挙げられる。またこれらの置換基は、ハロゲン、ニトロ基、アミノ基、アルコキシ基等で置換されていても良い。一方、R2-R4における短鎖アルキル基とは、たとえばメチル、エチル、ブチル、またはプロピルを挙げることができる。これらの短鎖アルキル基も、ハロゲン、ニトロ基、アミノ基、アルコキシ基等で置換されていても良い。なおR2-R4は、独立して、または同時に前記置換基であることができる。
【0078】
具体的には、R1-R4として以下に示す置換基からなる化合物が本発明における基質化合物として望ましい。
R1=H、メチル基、エチル基、フェニル基、3−ピリジル基、2−ピリジル基、3−ニトロフェニル基、3−メトキシフェニル基、および4−メトキシフェニル基R2=H、メチル基、およびエチル基
R3=H、メチル基、およびエチル基
R4=H、メチル基、およびエチル基
【0079】
より具体的には、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、3−ペンテン−2−オン、3−メチル−3−ペンテン−2−オン、2−ヘキセノン、2−メチル−2−ヘキセノン、3−メチル−4−(3−ピリジル)−3−ブテン−2−オン、3−メチル−4−フェニル−3−ブテン−2−オン、3−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−3−ブテン−2−オン等が好適に用いられる。
【0080】
更に、本発明の酵素、または、該酵素を産生する微生物もしくはその処理物をα−置換を有するα,β−不飽和ケトンに作用させることにより、光学活性な飽和ケトンの合成にも利用できる。例えば、3−メチル−4−(3−ピリジル)−3−ブテン−2−オンより(S)−3−メチル−4−(3−ピリジル)−ブタン−2−オン、3−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−3−ブテン−2−オンより(S)−3−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−3−ブタン−2−オン等を合成することができる。
【0081】
前記本発明によるケトン製造方法においては、NADPHの再生系を組み合わせることができる。エノン還元酵素による還元反応に付随して、NADPHからNADP+が生成する。NADP+からNADPHへの再生は、微生物の含有するNADP+からNADPHを再生する酵素(系)によって行うことができる。これらNADP+還元能は、反応系にグルコースまたはエタノールを添加することにより、増強することが可能である。また、NADP+からNADPHを生成する能力を有する酵素、例えば、グルコース脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ホスホグルコン酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、グリセロール脱水素酵素などを含む微生物、その処理物、ならびに部分精製もしくは精製酵素を用いてNADPHの再生を行うことができる。例えば、上記グルコース脱水素酵素の場合には、グルコースからδ−グルコノラクトンへの変換を利用することにより、NADPHの再生が行われる。
【0082】
これらのNADPH再生に必要な反応を構成する成分は、本発明によるケトンの製造のための反応系に添加、もしくは固定化したものを添加することができる。あるいはNADPHの交換が可能な膜を介して接触させることができる。
【0083】
また、本発明のDNAを含む組換えベクターで形質転換した微生物を、生存した状態で前記ケトンの製造方法に利用する場合には、NADPH再生のための付加的な反応系を不要とできる場合がある。すなわち、NADPH再生活性の高い微生物を宿主として用いることにより、形質転換体を用いた還元反応において、NADPH再生用の酵素を添加することなく効率的な反応が行える。さらに、NADPH再生に利用可能なグルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素、有機酸脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素など)などの遺伝子を、本発明のNADPH依存性エノン還元酵素をコードするDNAと同時に宿主に導入することによって、より効率的なNADPH再生酵素とNADPH依存性エノン還元酵素の発現、還元反応を行うことも可能である。これらの2つもしくはそれ以上の遺伝子の宿主への導入には、大腸菌においては不和合性をさけるために複製起源の異なる複数のベクターに別々に遺伝子を導入した組み換えベクターにより宿主を形質転換する方法や、単一のベクターに両遺伝子を導入する方法、片方、もしくは、両方の遺伝子を染色体中に導入する方法などを利用することができる。
【0084】
本発明におけるNADPH再生に利用可能なグルコース脱水素酵素として、バシラス・サブチルス(Bacillus subtilis)に由来するグルコース脱水素酵素を示すことができる。この酵素をコードする遺伝子は既に単離されている。あるいは既に明らかにされているその塩基配列に基づいて、PCRやハイブリダイズスクリーニングによって、当該微生物から取得することもできる。
【0085】
単一のベクター中に複数の遺伝子を導入する場合には、プロモーター、ターミネーターなど発現制御に関わる領域をそれぞれの遺伝子に連結する方法やラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させることも可能である。
【0086】
本発明の酵素を用いた還元反応は、水中で、あるいは水に溶解しにくい有機溶媒と水との2相中で実施することができる。水に溶解しにくい有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン、イソオクタンなどを用いることができる。あるいは、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の有機溶媒と水性媒体との混合系中で行うこともできる。
【0087】
本発明の反応は、固定化酵素、膜リアクター等を利用して行うことも可能である。特に、本反応の基質となるα,β−不飽和ケトンは水に対して難溶性の物が多いために、ポリプロピレンなどの疎水性の膜を介して本発明の酵素、本発明の酵素を含む微生物、その処理物を含む水相と基質α,β−不飽和ケトンを含む有機溶媒相を接触させ、反応させることにより基質及び生成物による阻害作用を低減させることができる。
【0088】
本発明のエノン還元酵素による酵素反応は、以下の条件で行うことができる。
・反応温度:4-55℃、好ましくは15-45℃
・pH:4-9、好ましくは5.0-8.0、さらに好ましくはpH6.0-7.0
・基質濃度:0.01-90%、好ましくは0.1-20%
【0089】
基質とするニトリル化合物の水性媒体に対する溶解度が著しく小さい場合には、反応液中に界面活性剤を加えることもできる。界面活性剤としては、 0.1〜5.0 重量%のTriton X-100、あるいはTween 60などが用いられる。基質の溶解度を向上させるために、有機溶媒との混合溶媒の利用も効果的である。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシドなどを添加することにより反応を効率よく行うことができる。あるいは、水に溶解しにくい有機溶媒中や、水に溶解しにくい有機溶媒と水性媒体との2相系において、本発明の反応を行うことができる。水に溶解しにくい有機溶媒としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、あるいは1−オクタノール等を用いることができる。
【0090】
この基質濃度に対して、本発明のエノン還元酵素、あるいは該酵素活性を持つ微生物、および/またはそれらの処理物からなる酵素活性物質は、たとえば1mU/mL〜100U/mL、好ましくは100mU/mL以上の酵素活性量とすることにより、酵素反応を効率的に進めることができる。
また酵素活性物質として微生物菌体を利用するときには、基質に対する微生物の使用量は、乾燥菌体として0.01〜5.0 重量%相当量とするのが好ましい。酵素や、菌体などの酵素活性物質は、反応液に溶解、あるいは分散させることにより、基質と接触させることができる。あるいは、化学結合や包括などの手法によって固定化した酵素活性物質を用いることもできる。更に、基質は透過できるが、酵素分子や菌体の透過を制限する多孔質膜で基質溶液と酵素活性物質を隔てた状態で反応させることもできる。
【0091】
反応系には必要に応じて補酵素NADP+またはNADPHを0.001 mM-100 mM、好ましくは、0.01-10 mM添加することができる。また、基質は反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなりすぎないように連続的、もしくは非連続的に添加することが望ましい。
【0092】
NADPH再生のために反応系に添加される化合物、例えばグルコース脱水素酵素を利用する場合のグルコース、ギ酸脱水素酵素を利用する場合のギ酸、アルコール脱水素酵素を利用する場合のエタノールもしくは2-プロパノール、グルタミン酸脱水素酵素を利用する場合のL−グルタミン酸、リンゴ酸脱水素酵素を利用する場合のL−リンゴ酸、等は、基質α,β−不飽和ケトンに対してモル比で0.1-20、好ましくは0.5-5倍過剰に添加することができる。NADPH再生用の酵素、例えばグルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素、有機酸脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素など)等は、本発明のNADPH依存性エノン還元酵素に比較して酵素活性で0.1-100倍、好ましくは0.5-20倍程度添加することができる。
【0093】
本発明のα,β−不飽和ケトンの還元により生成するケトンの精製は、菌体、蛋白質の遠心分離、膜処理等による分離、溶媒抽出、蒸留、クロマトグラフィー等を適当に組み合わせることにより行うことができる。
【0094】
これら各種合成反応に利用する本発明の酵素は、精製酵素に限定されず、部分精製酵素、本酵素を含む微生物菌体、その処理物も含まれる。なお本発明における処理物とは、菌体、精製酵素、あるいは部分精製酵素などを様々な方法で固定化処理したものを総称して示す用語である。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
【実施例】
[実施例1]エノン還元酵素の精製
クライベロマイセス・ラクティス IFO 1267株を1.2LのYM培地(グルコース20g/L、酵母エキス3g/L、麦芽エキス3g/L、ペプトン5g/L、pH 6.0)で培養し、遠心分離により菌体を調製した。得られた湿菌体を50mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、0.02%2−メルカプトエタノール及び2mMフェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)で澱懸し、ビードビーター(Biospec社製)により破砕後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。この無細胞抽出液にプロタミン硫酸を添加し、遠心分離により除核酸した上清を得た。その上清に硫安を30%飽和になるまで添加し、30%硫安を含む標準緩衝液(10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、0.01% 2−メルカプトエタノール、10% グリセロール)で平衡化したフェニル−セファロースHP(2.6cm×10cm)に添加し、硫安濃度を30%−0%の勾配溶出を行った。
【0096】
NADPH依存性メチルビニルケトン還元活性は、勾配溶出部分に2つのピークがみられた。これらのピークのうち前方に溶出したピーク部分を回収し、限外濾過により濃縮した。
濃縮した酵素液を標準緩衝液に対して透析した後、同緩衝液で平衡化したMonoQ(0.5 cm× 5cm)に添加した。標準緩衝液でカラムを洗浄した後、0−0.5M塩化ナトリウムの勾配溶出を行った。溶出した活性画分を回収し、限外濾過により濃縮した。
【0097】
濃縮酵素液に硫安を30%飽和添加し、30%飽和硫安を含む標準緩衝液で平衡化したフェニル−スーパーロース(0.5cm×5cm)に添加した。同緩衝液で洗浄後、30%−0%飽和硫安で勾配溶出を行った。溶出した活性画分を回収した。
濃縮した酵素液を標準緩衝液に対して透析した後、同緩衝液で平衡化したブルー・セファロース(5mL)に添加した。標準緩衝液でカラムを洗浄した後、0−0.5M塩化ナトリウムの勾配溶出を行った。溶出した活性画分を回収し、限外濾過により濃縮した。
【0098】
ブルー・セファロースにより得られた活性画分を、SDS-PAGEにより解析した結果、ほぼ単一バンドであった(図1)。
精製酵素のメチルビニルケトンに対する比活性は約1.3 U/mgであった。精製の要約を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
[実施例2]エノン還元酵素の分子量測定
実施例1で得られた酵素のサブユニットの分子量をSDS-PAGEにより求めた結果、約47,000であった。また、スーパーデックスG200のゲルろ過カラムを用いて分子量を測定したところ、約92,000であった。これらの結果より、本発明のエノン還元酵素はホモダイマーと予想された。
【0101】
[実施例3]エノン還元酵素の至適pH
リン酸カリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、ブリットン・ロビンソンの広域緩衝液を用いてpHを変化させて、実施例1で得られた酵素のメチルビニルケトン還元活性を調べ、最大活性を100とした相対活性で表し、図2に示した。反応の至適pHは6.2であり、pH5.0−8.0の極めて広い範囲で最大活性の80%以上の活性を示した。
【0102】
[実施例4]エノン還元酵素の至適温度
実施例1で得られた酵素を標準反応条件のうち温度だけを変化させて、メチルビニルケトン還元活性を測定し、最大活性を100とした相対活性で表し、図3に示した。反応の至適温度は37℃であり、37−45℃において最大活性の80%以上の活性を示した。
【0103】
[実施例5]エノン還元酵素の基質特異性
実施例1で得られた酵素を種々のエノン、ケトン、およびアルデヒドと反応させ、その還元反応の活性をメチルビニルケトンの還元を100とした相対活性で表し、表2に示した。
【0104】
【表2】
【0105】
[実施例6]エノン還元酵素の部分アミノ酸配列
実施例1で得られた酵素を用いて、SDS−PAGEのゲルより、エノン還元酵素を含むゲル断片を切り出し、2回洗浄後、リジルエンドペプチダーゼを用いて、35℃で終夜イン・ゲル・ダイジェションを行った。消化したペプチドを逆相HPLC (東ソー製TSK gel ODS-80-Ts、2.0mm × 250mm) を用い、0.1% トリフルオロ酢酸 (TFA) 中でアセトニトリルのグラジエント溶出によりペプチドを分離し、分取した。
【0106】
分取したペプチドピーク2種を lep_59、lep_78とし、それぞれプロテインシーケンサー(Hewlett Packard G1005A Protein Sequencer System) によりアミノ酸配列の解析を行った。lep_59、lep_78のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:3,4で示した。このアミノ酸配列を用いてSWISS-PROTを対象にBLASTプログラムを用いてホモロジー検索を行った結果、クライベロマイセス・ラクティスのNADPH-Dehydrogenaseと予想されているORF (KYE1)と一致した。
【0107】
配列番号:3:lep_59
Met-Ser-Ala-Glu-Gly-Tyr-Ile-Asp-Tyr-Pro-Thr-Tyr配列番号:4:lep_65
Arg-Leu-Ala-Tyr-Val-Asp-Leu-Val-Glu-Pro-Arg-Val
【0108】
[実施例7]クライベロマイセス・ラクティスからの染色体DNAの精製
クライベロマイセス・ラクティス IFO 1267株をYM培地で培養し、菌体を調製した。菌体からの染色体DNAの精製は、Meth. Cell Biol. 29, 39-44 (1975) に記載の方法により行った。
【0109】
[実施例8]エノン還元酵素遺伝子のクローニング
DDBJに登録されているKYE1 (SWISS-PROT Accession No., P40952) に対応するDNA配列 (DDBJ Accession No., L37452) を基にPCR用プライマーKYE1-ND(配列番号:5)、KYE1-Cu(配列番号:6) を合成した。
プライマーを各25pmol、dNTP10nmol、クライベロマイセス・ラクティス由来染色体DNA50ng、Pfu DNA polymerase用緩衝液 (STRATAGENE製)、Pfu DNA polymerase 2U (STRATAGENE製)を含む50μLの反応液を用い、変性(95℃、45秒) 、アニール(50℃、1分)、伸長(75℃、6分)を30サイクル、GeneAmp PCR System 2400 (アプライド・バイオシステムズ・ジャパン製)を用いてPCRを行った結果、特異的な増幅産物が得られた。
【0110】
得られたDNA断片を、フェノール/クロロホルム抽出後、エタノール沈殿として回収した。DNA断片を制限酵素Afl III、XbaIで2重消化し、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、Sephaglas BandPrep Kit(ファルマシア製)により精製した。
得られたDNA断片を、NcoI、XbaIで2重消化したpSE420DとTakara Ligation Kitを用いて、ライゲーションした。
ライゲーションしたDNAにより大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン(50mg/L)を含むLB培地で生育し、得られた形質転換株よりプラスミドをFlexiPrepにより精製した。
【0111】
プラスミドの挿入DNA部分の塩基配列を解析した。DNA塩基配列の解析には、BigDye Terminator Cycle Sequencing FS ready Reaction Kit (パーキンエルマー製)を用いてPCRを行い、DNAシーケンサーABI PRISMTM310 (パーキンエルマー製)により行った。得られたDNA塩基配列を配列番号1に、コードするタンパク質の配列は配列番号2に示す。DNA配列からのORF検索、予想アミノ酸配列への翻訳などは、Genetyx-WIN(ソフトウェア開発株式会社製)を用いて行った。その結果、DDBJには766-GTT(Val)と登録されていたが、766-GGT(Gly)であった。それ以外は、完全に一致していた。得られたプラスミドはpSE-KYE1とした。
【0112】
KYE1-ND/配列番号:5
ACGACATGTCATTTATGAACTTTGAAC
KYE1-Cu/配列番号:6
TGTTCTAGATTATTTCTTGTAACCCTTGGC
【0113】
[実施例9]組換えエノン還元酵素の部分精製
エノン還元酵素を発現するプラスミドpSE-KYE1で形質転換された大腸菌HB101株をアンピシリンを含む50mLの液体LB培地で終夜30℃培養し、0.1mM IPTGを加え、さらに4時間培養を行った。
【0114】
菌体を遠心分離により集菌した後、0.02% 2-メルカプトエタノール、2mM PMSF、10%グリセリンを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)30mLに懸濁し、密閉式超音波破砕装置UCD-200TM(コスモバイオ製)を用いて3分間処理を4回繰り返すことで、菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離し、その上清を菌体抽出液中として回収した。この無細胞抽出液にプロタミン硫酸を添加し、遠心分離により除核酸した上清を得た。その上清に硫安を30%飽和になるまで添加し、30%硫安を含む緩衝液(10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)、0.01% 2−メルカプトエタノール、10% グリセロール)で平衡化したフェニル−セファロースHP(2.6cm×10cm)に添加し、硫安濃度を30%−0%の勾配溶出を行った。NADPH依存性メチルエノン還元活性は、勾配溶出部分にピークがみられ、この溶出したピーク部分を回収し、限外濾過により濃縮した。
部分精製酵素のメチルビニルケトンに対する比活性は約1.68 U/mgであった。精製の要約を表3に示す。
【0115】
【表3】
【0116】
[実施例10]宿主のみとの比較
実施例9で得られた組換えエノン還元酵素の種々の基質に対する活性を測定した。また、該プラスミドを含まない大腸菌HB101株を50mLのLB培地で終夜培養し、0.1mM IPTG添加後さらに4時間培養した菌体を、実施例9と同様に破砕して種々の基質に対する活性を測定した。結果を表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
[実施例11]組換えエノン還元酵素を用いた3−ペンタノンの合成
実施例9において得られた組換えエノン還元酵素0.5U(エチルビニルケトンに対して)、200mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、44mgNADPH、0.2% エチルビニルケトンを含む反応液1mLで、25℃で終夜反応させた。生成した3−ペンタノンをガスクロマトグラフィーで定量し、出発原料であるエチルビニルケトンに対する収率を求めた。ガスクロマトグラフィーの条件は以下のとおりである。すなわち、Porapak PS(Waters、mesh 50-80、3.2mm×210cm)を用い、カラム温度を130℃とし、水素炎イオン化検出器(FID)を利用して分析した。その結果、反応収率100%で3−ペンタノンが生成していた。
【0119】
[参考例1]4-(3-ピリジル)-3-メチル-3-ブテン-2-オンの合成
ニコチンアルデヒド25 mmolと2-ブタノン50 mmolを酢酸35 mLに溶解させ、撹拌しながら濃硫酸4 mLを滴下し、50℃に加熱した。4時間後、水50 mLを加え、20%水酸化ナトリウム水溶液で塩基性にした。水層を酢酸エチルで抽出し、有機層をあわせて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、4-(3-ピリジル)-3-メチル-3-ブテン-2-オンを収率75%で得た。
【0120】
[参考例2]4-(3-ニトロフェニル)-3-メチル-3-ブテン-2-オンの合成
3-ニトロベンズアルデヒド25 mmolと2-ブタノン50 mmolを酢酸35 mLに溶解させ、撹拌しながら濃硫酸2 mLを滴下した。22時間後、水50 mLを加え、20%水酸化ナトリウム水溶液で中和した。水層を酢酸エチルで抽出し、有機層をあわせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、4-(3-ニトロフェニル)-3-メチル-3-ブテン-2-オンを収率81%で得た。
【0121】
[参考例3]ラセミ体4-(3-ピリジル)-3-メチル-2-ブタノンの合成
4-(3-ピリジル)-3-メチル-3-ブテン-2-オン0.91 mmolをエタノール5 mLに溶解させ、5%パラジウム炭素10 mgを加え、水素雰囲気下で4日間撹拌した。濾過によってパラジウム炭素を除いた後、濾液を減圧下で濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、ラセミ体4-(3-ピリジル)-3-メチル-2-ブタノンを収率84%で得た。
【0122】
[参考例4]ラセミ体4-(3-ニトロフェニル)-3-メチル-2-ブタノンの合成
乾燥テトラヒドロフラン30 mLを氷浴上で0 ℃に冷却し、塩化銅(I)20 mmolと水素化リチウムアルムニウム5 mmolを加えて激しく撹拌した。10分後、4-(3-ニトロフェニル)-3-メチル-3-ブテン-2-オン5 mmolを加え、更に1時間撹拌した。ごく少量の水を加えた後、濾過し、濾液を減圧化で濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、ラセミ体4-(3-ニトロフェニル)-3-メチル-2-ブタノンを収率12%で得た。
【0123】
[実施例12]組換えエノン還元酵素による(S)−3−メチル−4−(3−ピリジル)−2−ブタノンの合成
実施例9において得られた組換えエノン還元酵素0.5U(3−メチル−4−(3−ピリジル)−3−ブテン−2−オンに対する還元活性として)、200mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、44mg NADPH、0.2% 3−メチル−4−(3−ピリジル)−3−ブテン−2−オン(参考例1で調製) を含む反応液1mLで、25℃で終夜反応させた。反応後、1mLの酢酸エチルで抽出した後、生成した3−メチル−4−(3−ピリジル)−2−ブタノンをガスクロマトグラフィーで定量し、出発原料である3−メチル−4−(3−ピリジル)−3−ブテン−2−オンに対する収率を求めた。
【0124】
ガスクロマトグラフィーの条件は以下のとおりである。すなわち、Cp−Cyclodextrin−β−2,3,6−M−19(ジーエルサイエンス、0.25mm×25m)を用い、カラム温度を150℃、注入温度を250℃、検出器温度を260℃とし、水素炎イオン化検出器(FID)を利用して分析した。キャリアーガスはヘリウムとし、流速1.6mL/minに設定した。この条件下において、参考例3で合成したラセミ体を分析した結果、R体は12.59分、S体は12.74分に検出された。その結果、反応の収率は100%であり、得られた3−メチル−4−(3−ピリジル)−2−ブタノンの光学純度は99%ee以上のS体であった。
【0125】
[実施例13]組換えエノン還元酵素による(S)−3−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−2−ブタノンの合成
実施例9において得られた組換えエノン還元酵素0.5U(3−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−3−ブテン−2−オンに対する活性として)、200mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、44mg NADPH、0.2% 3−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−3−ブテン−2−オン(参考例2で調製した) を含む反応液1mLで、25℃で終夜反応させた。反応後、1mLの酢酸エチルで抽出した後、生成した3−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−2−ブタノンをガスクロマトグラフィーで定量し、出発原料である3−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−3−ブテン−2−オンに対する収率を求めた。
【0126】
ガスクロマトグラフィーの条件は、カラム温度を160℃にした以外は実施例12と同様にした。この条件下において、参考例4で合成したラセミ体を分析した結果、R体は46.67分、S体は48.25分に検出された。その結果、反応の収率は100%であり、得られた3−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−2−ブタノンの光学純度は99%ee以上のS体であった。
【0127】
【発明の効果】
エノンを還元し、ケトンおよび光学活性なケトンを製造する新規な酵素が提供された。本発明のエノン還元酵素は、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元し、対応する飽和炭化水素を生成する。その光学特異性はきわめて高く、たとえば3-Methyl-4-(3-pyridyl)-3-buten-2-oneを基質としたとき、そのα,β−不飽和結合を選択的に還元し、90% ee以上の (S)-3-methyl-4-(3-pyridyl)-3-butan-2-oneを生成する。このような光学純度の高い光学活性ケトンの酵素的な製造方法を実現した意義は大きい。
【0128】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】SDS−PAGEにおけるパターンを示す図である。レーン1は分子量マーカー、レーン2は実施例1で得られた酵素を示す。
【図2】実施例1で得られた酵素のメチルビニルケトン還元活性のpH依存性を示す図である。
【図3】実施例1で得られた酵素のメチルビニルケトン還元活性の温度依存性を示す図である。
Claims (2)
- 下記(a)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質、該酵素または蛋白質を産生する微生物、および該微生物の処理物、からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質を、α,β不飽和ケトンに作用させ、生成するケトンを回収する工程を含む、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を選択的に還元し、飽和ケトンを生産する方法。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、
欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、下記の理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、下記の理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、下記の理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(A)作用
還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を電子供与体として、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元し、対応する飽和炭化水素を生成する。
(B)基質特異性
(1) 電子供与体としては、還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドよりも還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸に対して、有意に高い活性を有する。
(2)不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元するが、実質的にケトンの還元活性は無い。
(3) 3-Methyl-4-(3-pyridyl)-3-buten-2-oneのα,β−不飽和結合を選択的に還元し、90% ee以上の (S)-3-methyl-4-(3-pyridyl)-3-butan-2-oneを生成する。 - 下記(a)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質、該酵素または蛋白質を産生する微生物、および該微生物の処理物、からなる群から選択されるいずれかの酵素活性物質を、α位、および/またはβ位に置換基を有するα,β不飽和ケトンに作用させ、生成する光学活性ケトンを回収する工程を含む、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を選択的に還元し、光学活性飽和ケトンを生産する方法。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、下記の理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、下記の理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、下記の理化学的性状(A)および(B)を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(A)作用
還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を電子供与体として、α,β−不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元し、対応する飽和炭化水素を生成する。
(B)基質特異性
(1) 電子供与体としては、還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドよりも還元型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸に対して、有意に高い活性を有する。
(2)不飽和ケトンの炭素−炭素2重結合を還元するが、実質的にケトンの還元活性は無い。
(3) 3-Methyl-4-(3-pyridyl)-3-buten-2-oneのα,β−不飽和結合を選択的に還元し、90% ee以上の (S)-3-methyl-4-(3-pyridyl)-3-butan-2-oneを生成する。
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