JP4753134B2 - タングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる紫外発光薄膜及び同薄膜の製造方法 - Google Patents

タングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる紫外発光薄膜及び同薄膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、タングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物の薄膜を使った高強度紫外発光体及びそのレーザーアブレーション法による製造法に関する。
タングステン酸塩化合物及びモリブデン酸塩化合物を使った蛍光体は、レーザー用ホスト物質や医療用シンチレーターといった実用的な観点から研究されてきている。これらの物質は、短波長紫外光・X線・電子線などで励起することにより、青色の蛍光を発光する。
WO4 2-あるいはMoO4 2-イオンは体心正四面体構造で安定化され、この部分とII族金属イオンとの間の電荷移動や分子軌道法計算により蛍光発光が議論されている。
粉体調製法は、共沈法によるもの(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)、固相反応法によるもの(非特許文献4参照)、水熱法によるもの(非特許文献5参照)がある。
また、薄膜調製法には、スパッタ法によるもの(特許文献1参照)、電子ビーム蒸着法によるもの(非特許文献6参照)、噴霧熱分解法によるもの(非特許文献7参照)、電気化学的手法によるもの(非特許文献8参照)、レーザーアブレーション法によるもの(非特許文献9参照)が開示されている。
いずれも、蛍光スペクトルは415〜450nm付近に発光強度のピークをもち、青色発光を示すことが報告されている。しかし、これらは理論計算によると300nm以下のバンドギャップをもち、紫外光レーザー媒体として有望と考えられるにもかかわらず、紫外光の蛍光発光が得られていないのが現状である。
E.F. Paski et al., Anal. Chem.,60(1988)1224 D. Chen, et al., Mater. Res.Bull., 38(2003)1783-1789 J.H. Ryu et al., J. Alloys andCompounds, 390(2005)245-249 G. Blasse et al., Chem. Phys.Lett., 173(1990)409 S.J. Chen et al., J. Cryst.Growth, 253(2003)361-365 P.F. Carcia et al., J. Mater.Res., 12(1997) 1385-1390 Z.D. Lou et al., Mater. Res.Bull., 37(2002)1573-1582 W.S. Cho et al., J. Am. Ceram.Soc.,78(1995) 3110-3112 K. Tanaka, J. Vac. Sci.Technol., A20(2002) 486-491 Y. Kashiwakura et al., 特開平1-263188,1989
タングステン酸塩化合物及びモリブデン酸塩化合物はバンドギャップが4.11eV(300nm)、あるいは構造によっては5.27eV(234nm)と紫外光領域の値を持つにもかかわらず、良質の可視発光材料として知られているが、高強度紫外発光体としての役割を有していない。これはタングステンあるいはモリブデン原子の周りの配位子場に構造乱れに起因する対称性低下に起因するものと考えられている。
そこで、本願発明は、極めて良質の薄膜を作成することにより、これまで不可能だった紫外光発光を示すタングステン酸塩化合物/モリブデン酸塩化合物を得ようとするものである。
上記の課題に鑑み、次の技術を提供する。
その1)10nm以下の均一な結晶性ナノ粒子が凝集した組織を備えている紫外発光を示すタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる紫外発光薄膜を提供する。これによって、紫外発光を示す高強度紫外発光体としての役割を備えた薄膜を得ることができる。
その2)250nm励起光による360〜370nmの範囲の蛍光発光ピークを備えている1)記載のタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる紫外発光薄膜を提供する。
その3)MIMIIO4(MI=Ca, Sr, Ba, Pb, MII=W, Mo)で表されるタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物である1)又は2)記載の紫外発光薄膜を提供する。
その4)タングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなるターゲットと基板を互いに直角にするオフアクシス配置をすると共に、該ターゲットにレーザーを照射し、レーザーアブレーションにより基板上にタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる薄膜を形成する紫外発光薄膜の製造方法を提供する。
その5)20〜200Paの圧力条件下でレーザーアブレーションを行う4)記載の紫外発光薄膜の製造方法を提供する。
その6)基板を加熱せずにレーザーアブレーションを行う4)又は5)記載の紫外発光薄膜の製造方法を提供する。
その7)相対密度95%以上の焼結密度を備えたタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなるターゲットを用いてレーザーアブレーションを行う4)〜6)のいずれかに記載の紫外発光薄膜の製造方法を提供する。
その8)レーザーアブレーション後の基板上に形成された薄膜が、10nm以下の均一な結晶性ナノ粒子が凝集した組織を備えている4)〜7)のいずれかに記載の紫外発光薄膜の製造方法を提供する。
その9)レーザーアブレーション後の基板上に形成された薄膜が、250nm励起光による360〜370nmの範囲の蛍光発光ピークを備えている8)記載の紫外発光薄膜の製造方法を提供する。
その10)MIMIIO4(MI=Ca, Sr, Ba, Pb, MII=W, Mo)で表されるタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物のターゲットを用いてレーザーアブレーションを行う4)〜9)のいずれかに記載の紫外発光薄膜の製造方法を提供する。
本願発明は、焼結法により相対密度95%以上にまでにしたタングステン酸塩あるいはモリブデン酸塩の高密度焼結体をターゲットとして用い、レーザーアブレーション法を使用し、かつターゲットと基板を互いに直角にする配置(オフアクシス)で薄膜を得ることにより、結晶化したナノ粒子が凝集した薄膜を得るという手法を使うことで、従来法では得られない紫外発光特性をもつタングステン酸塩あるいはモリブデン酸塩の薄膜が得ることが可能となるという優れた効果が得られた。
以下、本発明の特徴を、図等を使用して具体的に説明する。なお、以下の説明は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本願発明に含まれるものである。
本願発明の紫外発光薄膜は、タングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなるターゲットと基板をオフアクシス配置すると共に、該ターゲットにレーザーを照射し、レーザーアブレーションにより基板上にタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる薄膜を形成するものである。これによって、10nm以下の均一な結晶性ナノ粒子が凝集した組織を備えた紫外発光薄膜を基板上に得ることができる。
レーザーアブレーションを行うに際しては、20〜200Paの圧力条件下で行うことが望ましい。また、レーザーアブレーションを行うに際しては、基板を加熱せずに行うことができる。従来では基板の加熱が必須の要件であり、本願発明はこのような基板の加熱を必要としない点も大きな特徴の一つである。
レーザーアブレーションを行うターゲットの原料としては、MIMIIO4(MI=Ca, Sr, Ba, Pb, MII=W, Mo)で表されるタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物を使用する。
この原料は、例えば、原料金属イオンのクエン酸錯体を作成し、これにマイクロ波を照射して前駆体を得、加熱焼成によって得られる均一な粉体を用いることができる。
この粉体を、スパークプラズマ焼結法により相対密度95%以上にまでにしたタングステン酸塩あるいはモリブデン酸塩の高密度焼結体をターゲットとして用いるのが望ましい。
さらに、レーザーアブレーション法を使いかつターゲットと基板を互いに直角におく配置(オフアクシス)で薄膜を得ることにより、結晶化したナノ粒子が凝集した薄膜が得られる。この手法を使うことで、従来法では得られない紫外発光特性をもつタングステン酸塩あるいはモリブデン酸塩の薄膜が得ることが可能となった。
紫外発光薄膜は、ターゲットの組成が反映され、MIMIIO4(MI=Ca, Sr, Ba, Pb, MII=W, Mo)で表されるタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる薄膜を得ることができる。この紫外発光薄膜は、250nm励起光による360〜370nmの範囲の蛍光発光ピークを備えている。
そして、レーザーアブレーション後の基板上に形成された薄膜が10nm以下の均一な結晶性ナノ粒子が凝集した組織を備え、これが紫外発光薄膜としての特徴をなすものである。次に、実施例について説明する。
タングステン酸塩化合物及びモリブデン酸塩化合物原料粉を、スパークプラズマ焼結法を用いて相対密度95%以上になるまで焼結し、タングステン酸塩化合物及びモリブデン酸塩化合物からなる焼結体ターゲットに作製した。
次に、このターゲットにレーザー光を照射し、レーザーアブレーション法により、基板上にタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる薄膜を形成した。本実施例では、PbWO4とCaWO4を使用した。
レーザーアブレーション法による薄膜の形成条件は次の通りである。
レーザー光:Nd-YAGレーザーの3倍波355 nm、
基板:ガラス又はシリコン
雰囲気:アルゴン
雰囲気圧力:10 Paと50 Pa、
蒸着時間:1時間
基板温度:室温
(X線回折の結果)(図1〜図5)
ターゲットと基板の間の位置関係を図1に示す。本例においては、基板とターゲットの関係を、平行(オンアクシス)の場合と垂直(オフアクシス)の場合において、それぞれPbWO4とCaWO4で比較した。X線回折の結果を図2〜図5に示す。
図2〜図5に示すように、いずれの場合も、比較的鋭いピークが平行の場合と垂直の場合で同じ位置に現れ、薄膜は結晶化していることがわかる。
これに加えて、図2及び図3に示すように、PbWO4の場合には、23°〜35°の範囲に非常に広いピークが認められ、非晶質相が生成しているものと考えられた。
垂直(オフアクシス)で、かつ圧力が高い(50Pa, 100Pa)ほど、非晶質相の生成は押さえられることがわかった。一方、CaWO4の場合も、同様の傾向が認められた。
このように、タングステン酸塩の結晶性薄膜をオフアクシス配置と20〜200Paの圧力条件下でレーザーアブレーションを行うことにより、基板加熱なしに作成できることがわかった。
なお、圧力が20Pa未満では、結晶性タングステン酸塩に加えて多くの非晶質相が形成されるようになるため、20Pa以上が良い。また、200Paを超える場合には、生成薄膜の量が減少するとともに、その付着性が急激に低下するため、上限は200Paとするのが望ましい。
従来のレーザーアブレーション法では基板温度600°Cが必要であることと比較すると、極めて大きなプロセス条件の改善であることが分る。
(光吸収)(図6〜図9)
10Paで作成した試料はPbWO4とCaWO4、あるいはオンアクシス(図には示していない)とオフアクシスいずれの場合も、可視・紫外域で強い吸収を示した。これは上記の非晶質相が副生成物として生成し、これが強い光吸収を示すためと考えられた。
50Paあるいは 100Paでオンアクシス配置の場合(図6、図8)は、いずれのタングステン酸塩で赤外域に近づくほど吸光度は低下したが、明確な吸収端を示すものではなかった。
一方、オフアクシス配置で50Paあるいは 100Paで調製したものは、PbWO4の場合は350nm付近(図7)、CaWO4の場合は270nm付近(図9)で吸光度が急激に低下して明確な吸収端が観測された。
これらの結果は、オフアクシス配置で50Paあるいは 100Paで調製したものは光学的に均一な物質に近いことが明らかである。X線回折の非晶質相の生成が抑えられることとよく対応している。
(蛍光発光)(図10〜図11)
図10〜図11に示すように、50Paあるいは100Paで作成した250nmの励起光による蛍光発光ピークは360〜370nm の範囲で観測された。既に数多く観測・報告されている粉体・薄膜・単結晶などの蛍光発光ピーク位置415〜450nm と比較して約50 nm以上短波長側にシフトしていることが観測された。
蛍光ピーク自体はオンアクシス、オフアクシスにはあまり依存しなかった。
(透過電子顕微鏡観察)(図12〜図15)
オフアクシスで調製した時の組織はPbWO4とCaWO4のような物質による違いよりは、圧力による違いが顕著だった。
10Paで調製した試料(図12、図14)は結晶性粒子と考えられる黒い小さな点と非晶質と思われる大きなコントラストの弱い粒子から成り立っていた。
一方、50Paで調製した試料(図13、図15)は 10nm以下の均一なサイズのナノ粒子が凝集していることがわかった。
以上のことから、均一な結晶性ナノ粒子が凝集した構造が紫外発光を示すタングステン酸塩・モリブデン酸塩の作成に重要であることが明らかである。
以上から、10nm以下の均一な結晶性ナノ粒子が凝集した組織を有し、紫外発光を示すタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる薄膜を備えた本発明は、紫外光発光体及びレーザー発光素子として極めて有用である。
ターゲットと基板の配置を示す説明図である。 オンアクシス配置で得られたPbWO4薄膜のX線回折スペクトルを示す図である。 オフアクシス配置で得られたPbWO4薄膜のX線回折スペクトルを示す図である。 オンアクシス配置で得られたCaWO4薄膜のX線回折スペクトルを示す図である。 オフアクシス配置で得られたCaWO4薄膜のX線回折スペクトルを示す図である。 オンアクシス配置で得られたPbWO4薄膜の光吸収スペクトルを示す図である。 オフアクシス配置で得られたPbWO4薄膜の光吸収スペクトルを示す図である。 オンアクシス配置で得られたCaWO4薄膜の光吸収スペクトルを示す図である。 オフアクシス配置で得られたCaWO4薄膜の光吸収スペクトルを示す図である。 オフアクシス配置、Ar圧力50Paで得られたPbWO4薄膜の蛍光発光スペクトルを示す図である。 オンアクシス配置、Ar圧力50Paで得られたCaWO4薄膜の蛍光発光スペクトルを示す図である。 オフアクシス配置、Ar圧力10Paで得られたPbWO4薄膜の透過型電子顕微鏡写真および電子線回折像を示す図である。 オフアクシス配置、Ar圧力50Paで得られたPbWO4薄膜の透過型電子顕微鏡写真および電子線回折像を示す図である。 オフアクシス配置、Ar圧力10Paで得られたCaWO4薄膜の透過型電子顕微鏡写真および電子線回折像を示す図である。 オフアクシス配置、Ar圧力50Paで得られたCaWO4薄膜の透過型電子顕微鏡写真を示す図である。

Claims (10)

10nm以下の均一な結晶性ナノ粒子が凝集した組織を備えていることを特徴とする紫外発光を示すタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる紫外発光薄膜。
250nm励起光による360〜370nmの範囲の蛍光発光ピークを備えていることを特徴とする請求項1記載のタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる紫外発光薄膜。
MIMIIO4(MI=Ca, Sr, Ba, Pb, MII=W, Mo)で表されるタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の紫外発光薄膜。
タングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなるターゲットと基板を互いに直角にするオフアクシス配置をすると共に、該ターゲットにレーザーを照射し、レーザーアブレーションにより基板上にタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなる薄膜を形成することを特徴とする紫外発光薄膜の製造方法。
20〜200Paの圧力条件下でレーザーアブレーションを行うことを特徴とする請求項4記載の紫外発光薄膜の製造方法。
基板を加熱せずにレーザーアブレーションを行うことを特徴とする請求項4又は5記載の紫外発光薄膜の製造方法。
相対密度95%以上の焼結密度を備えたタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物からなるターゲットを用いてレーザーアブレーションを行うことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の紫外発光薄膜の製造方法。
レーザーアブレーション後の基板上に形成された薄膜が、10nm以下の均一な結晶性ナノ粒子が凝集した組織を備えていることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の紫外発光薄膜の製造方法。
レーザーアブレーション後の基板上に形成された薄膜が、250nm励起光による360〜370nmの範囲の蛍光発光ピークを備えていることを特徴とする請求項8記載の紫外発光薄膜の製造方法。
MIMIIO4(MI=Ca, Sr, Ba, Pb, MII=W, Mo)で表されるタングステン酸塩化合物及び/又はモリブデン酸塩化合物のターゲットを用いてレーザーアブレーションを行うことを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載の紫外発光薄膜の製造方法。
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