本発明は、圧電トランスに関し、更に詳しくは、AC−DCコンバータ等の電力伝送に利用可能な高出力電力の圧電トランスに関する。
巻き線が不要な変圧器である圧電トランスは、構造が簡単で薄型化及び軽量化を図り易いといった特徴や、電磁ノイズが発生しないといった特徴を有しているため、実用化に向けての研究開発が種々の用途について進められており、カラー液晶表示装置のバックライト用インバータでは昇圧トランスとして既に実用化されている。
バックライト用インバータに使用される上記の圧電トランスはローゼン型のものであり、一般的なローゼン型圧電トランスの出力電力は5W程度である。このような低出力電力の圧電トランスとは別に、AC−DCコンバータ等の電力伝送に利用可能な高出力電力、例えば出力電力数十W以上の圧電トランスの開発も進められている。
例えば特許文献1には、円形板状又は正方形板状を呈し、発電部、未分極の絶縁層、及び駆動部がこの順番で厚さ方向に積層された構造を有する圧電トランス(圧電磁器トランス)が記載されている。図3(a)は、特許文献1に記載されている正方形板状の圧電トランスを概略的に示すに平面図であり、図3(b)は、図3(a)に示したIII−III線断面の概略図である。
これらの図に示す圧電トランス70は、発電部50、未分極の絶縁層55、及び駆動部60がこの順番で厚さ方向に積層された構造を有している。発電部50には、その側面から底面に達する1対の外部電極65a、65bが互いに対向した状態で設けられており、駆動部60には、その側面から上面に達する1対の外部電極67a、67bが互いに対向した状態で設けられている。
発電部50は、厚さ方向に分極した圧電セラミックス層を介して積層された内部電極51を複数有しており、内部電極51を介して隣り合う圧電セラミックス層は互いに逆向きに分極されている。同様に、駆動部60は、厚さ方向に分極した圧電セラミックス層を介して積層された内部電極61を複数有しており、内部電極61を介して隣り合う圧電セラミックス層は互いに逆向きに分極されている。発電部50は低インピーダンス特性を有しており、駆動部60は高インピーダンス特性を有している。未分極の絶縁層55は、具体的には未分極の圧電セラミックスからなる。なお、図3(b)においては、便宜上、個々の内部電極51、61を1本の実施線で示しており、発電部50における圧電セラミックス層全体を参照符号53で、また、駆動部60における圧電セラミックス層全体を参照符号63で示している。
外部電極65aは、発電部50における1つおきの内部電極51と接続されており、外部電極65bは、発電部50における残りの内部電極51と接続されている。また、外部電極67aは、駆動部60における1つおきの内部電極61と接続されており、外部電極67bは、駆動部60における残りの内部電極61と接続されている。外部電極65a、65bは、図示を省略した1組の電極端子に接続されており、外部電極67a、67bは、図示を省略した他の1組の電極端子に接続されている。
上述した構造を有する圧電トランス70は、輪郭広がり基本振動モードで動作し、チタン酸ジルコン酸鉛系の圧電セラミックスを用いたときの電気機械結合係数が容易に50%を超える。このため、圧電トランス70によれば、エネルギー変換効率が高く、かつ、電磁トランスに比べてハイパワーのものを得ることができる。なお、特許文献1に記載されている円形板状の圧電トランスも上記の圧電トランス70と同様の構造を有している。この圧電トランスは、径広がり基本振動モードで動作し、その電気機械結合係数は圧電トランス70の電気機械結合係数よりも若干大きい。したがって、特許文献に1に記載されている円形板状の圧電トランスによっても、エネルギー変換効率が高く、かつ、電磁トランスに比べてハイパワーのものを得ることができる。
また、特許文献2には、あらかじめ分極処理した2枚の板状圧電体と、これら2枚の板状圧電体の間に配置された未分極の絶縁層とを備え、広がり振動モードで動作する圧電トランスが記載されている。図4は、特許文献2に記載さている圧電トランスを概略的に示す正面図である。同図に示す圧電トランス90は、上述のように、2枚の板状圧電体80、82と、これら2枚の板状圧電体80、82の間に配置された未分極の絶縁層84とを備えており、板状圧電体(圧電体駆動部)80の上下面には入力電極86a、86bが、また、板状圧電体(圧電体発電部)82の上下面には出力電極88a、88bがそれぞれ設けられている。絶縁層84の材料としては、接着材、セラミックス、又は板状圧電体と同じ材質で未分極のものが用いられる。この圧電トランス90は、特許文献2の記載によれば、大電力用に適したものである。なお、図4中の白抜きの矢印は、各板状圧電体80、82での分極方向を示している。
特許文献3には、圧電縦効果を利用した長方形板状の駆動部と、圧電横効果を利用した長方形板状の2枚の発電部とを備え、駆動部の上面及び下面それぞれに低誘電率基板を介して発電部が1つずつ配置された構造を有する圧電トランスが記載されている。上記の駆動部は長さ方向に分極されており、上記の各発電部は厚さ方向に分極されている。また、駆動部と発電部とは、相互に入れ替えてもよい旨、記載されている。低誘電率基板としてはアルミナ等が用いられ、特に比誘電率が10以下のものが用いられる。これらの圧電トランスは、特許文献3の記載によれば、高い昇圧比、又は高い降圧比が得られるものである。
特開平10−215011号公報(特許請求の範囲、発明の実施の形態の欄、発明の効果の欄、及び図1〜図6参照)
特開平11−330580号公報(請求項3、請求項4、第0043〜0049段、及び図5参照)
特開2001−44527号公報(特許請求の範囲、第0023〜0030段、発明の効果の欄、及び図1参照)
AC−DCコンバータ等の電力伝送に利用可能な高出力電力の圧電トランス、例えば出力電力50W以上の圧電トランスを得るためには、当該圧電トランスを大型化して電力容量を高めることが必要となる。ただし、圧電トランスの発電部及び駆動部は、それぞれ、内部電極形成用の組成物が片面に塗布されたグリーンシートを必要枚数積層してから焼結し、その後に分極処理を施すことによって形成されるため、圧電トランスが大型化するとグリーンシート積層体を十分に焼結させることが困難になり、所望の特性を有する圧電トランスを高い信頼性の下に製造し難くなる。
したがって、圧電トランスの大型化はできるだけ抑制することが望まれる。このことは、既存の電磁トランスに対して競争力の高い圧電トランスを得るという観点からも望まれることであり、結果として、圧電トランスでの電力密度を30W/cm3 程度以上という高い値にすることが必要となる。電磁トランスの電力密度が8W/cm3 程度であることを考慮すると、30W/cm3 という電力密度は極めて高い。
圧電トランスの駆動周波数を高くすることができれば、その電力密度を比較的容易に高くすることができるが、例えばAC−DCコンバータに利用される圧電トランスでは150kHz以上に電磁ノイズ規制があることから、その駆動周波数は150kHz未満に抑えられる。AC−DCコンバータに利用される圧電トランスは、通常、その基本共振周波数よりも2〜5%高い周波数で駆動されるので、このような用途の圧電トランスの電力密度を高めるためには、その基本共振周波数を高めることが望まれる。
しかしながら、圧電トランスの基本共振周波数は、当該圧電トランスを大型化するほど低下する。特に、特許文献1に記載されている圧電トランス(圧電磁器トランス)や、特許文献2に記載されている圧電トランスのように、発電部と駆動部との間に介在する絶縁層を未分極の圧電セラミックス、接着材、又はセラミックスで形成した圧電トランスでは、大型化に伴う基本共振周波数の低下が比較的大きい。
また、圧電トランスの基本共振周波数が仮に高くても、その放熱性が低いと駆動に伴う昇温が大きくなって、高電力容量化及び高電力密度化を図り難くなる。特に、発電部と駆動部との間に介在する絶縁層を未分極の圧電セラミックスで形成した圧電トランスでは、駆動に伴う昇温が比較的大きいので、高電力容量化及び高電力密度化を図り難い。
さらに、特許文献3に記載されている圧電トランスでは、その構造上、発電部のインピーダンスが駆動部のインピーダンスに比べて極めて大きくなる(例えば100倍以上大きくなる)ので、高電力容量化を図ろうとすると低誘電率基板からなる絶縁層の絶縁性が不十分となる。このため、特許文献3に記載されている圧電トランスでは、高電力容量化及び高電力密度化を図り難い。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来と同一の形状及び大きさであっても駆動周波数を高めることができるために高電力密度化を図り易く、かつ、高電力容量化を図り易い圧電トランスを提供することにある。
上記の目的を達成する本発明の圧電トランスは、輪郭広がり基本振動モードで動作する正方形板状の圧電トランス、又は径広がり基本振動モードで動作する円板状の圧電トランスであって、主面と平行に配された内部電極を有する駆動部と、主面と平行に配された内部電極を有する発電部と、前記駆動部と前記発電部との間に配された絶縁部とを備え、前記絶縁部がサファイアからなることを特徴とする(以下、この圧電トランスを「圧電トランスI」ということがある)。
この圧電トランスIは、サファイア(酸化アルミニウム単結晶)からなる上記の絶縁部を有しており、サファイアでの音速(音速度)は、圧電トランスに使用されるチタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックス(以下、「PZT系圧電セラミックス」と略記する。)等の圧電セラミックスでの音速(音速度)よりも速い。ある物質層の共振周波数は、当該物質層での音速に比例するので、大きな音速を有するサファイアによって絶縁部が形成された圧電トランスIでは、基本共振周波数を容易に高くすることができ、結果として、形状及び大きさが同一の従来の圧電トランスと比べて高い電力密度を得易くなる。
特に、サファイアからなる絶縁部は、圧電トランスでの厚さ方向の中央部に位置し、この部分は圧電トランスの中でも振動応力が最も大きい部分であるため、音速が速いというサファイアの特性を効果的に生かし易い。サファイアの機械的強度はPZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスに比べて高く、サファイアからなる絶縁部の機械的強度は、同じ厚さであれば、圧電セラミックスからなる絶縁部の機械的強度よりも1桁高くなる。このため、圧電トランスIを大振幅で振動させたときでも、絶縁部からの破壊を抑止し易い。ここで、本明細書でいう「機械的強度」とは、機械的強度の中でも最も強度をだし難い引っ張り強度を意味する。
また、サファイアの熱伝導率はPZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスの熱導電率よりも高いので、サファイアによって圧電トランスの絶縁部を形成することにより、この圧電トランス全体としての放熱性を高めることができる。その結果として、駆動に伴う昇温が抑えられるので、高電力容量化を図り易くなる。
さらに、サファイアの誘電率はPZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスの誘電率に比べて極めて小さく、しかも、サファイアの体積抵抗率は1×1014Ω・cm以上と高いので、絶縁特性が高い絶縁部を容易に形成することができる。この点からも、圧電トランスIでは高電力容量化を図り易い。
これらの理由から、本発明の圧電トランスIによれば、従来と同一の形状及び大きさであっても駆動周波数を高めることができるために高電力密度化を図り易く、かつ、高電力容量化を図り易いものを得易くなる。
本発明の圧電トランスIにおいては、前記絶縁部での音速が8000m/s以上、熱伝導率が30W/m・K以上であり、かつ、該絶縁部の機械的強度が、前記発電部又は前記駆動部を構成している圧電セラミックスの機械的強度よりも高いことが好ましい。なお、上記の音速は、27℃、30〜150kHz域での縦波の音速を意味し、上記の熱伝導率は80℃下での熱伝導率を意味する。
前述した目的を達成する本発明の他の圧電トランスは、輪郭広がり基本振動モードで動作する正方形板状の圧電トランス、又は径広がり基本振動モードで動作する円板状の圧電トランスであって、主面と平行に配された内部電極を有する駆動部と、主面と平行に配された内部電極を有する発電部と、前記駆動部と前記発電部との間に配された絶縁部とを備え、前記絶縁部が窒化アルミニウムからなることを特徴とする(以下、この圧電トランスを「圧電トランスA」ということがある)。
この圧電トランスAは、窒化アルミニウムからなる上記の絶縁部を有しており、窒化アルミニウムでの音速(音速度)は、圧電トランスに使用されPZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスでの音速(音速度)よりも速い。また、圧電トランスに使用されPZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスに比べて、窒化アルミニウムの熱伝導率は数十倍、機械的強度は数倍から1桁、体積抵抗率は1桁以上、それぞれ高い。そして、窒化アルミニウムの誘電率は、圧電トランスに使用されPZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスの誘電率に比べて極めて小さい。
したがって、圧電トランスAによれば、上述した本発明の圧電トランスIと同様の理由から、従来と同一の形状及び大きさであっても駆動周波数を高めることができるために高電力密度化を図り易く、かつ、高電力容量化を図り易いものを得易くなる。
本発明の圧電トランスAにおいては、前記絶縁部での音速が8000m/s以上、熱伝導率が150W/m・K以上であり、かつ、該絶縁部の機械的強度が、前記発電部又は前記駆動部を構成している圧電セラミックスの機械的強度よりも高いことが好ましい。なお、上記の音速は、27℃、30〜150kHz域での縦波の音速を意味し、上記の熱伝導率は80℃下での熱伝導率を意味する。
以上説明したように、本発明によれば、従来と同一の形状及び大きさであっても駆動周波数を高めることができるために高電力密度化を図り易く、かつ、高電力容量化を図り易い圧電トランスを得易くなるので、AC−DCコンバータ等の電力伝送に利用可能な高出力電力の圧電トランスであって小型のものを提供し易くなる。
本発明の圧電トランスは、上述したように、輪郭広がり基本振動モードで動作する正方形板状の圧電トランス、又は径広がり基本振動モードで動作する円板状の圧電トランスであり、駆動部と発電部との間にサファイア又は窒化アルミニウムからなる絶縁部が設けられているものである。以下、本発明の圧電トランスの形態について、図面を適宜参照して詳述する。
<第1形態>
図1(a)は、本発明の圧電トランスのうちの正方形板状の圧電トランスの一例を概略的に示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)に示したI−I線断面の概略図である。これらの図に示す圧電トランス30は、発電部(2次側)10、絶縁部15、及び駆動部(1次側)20がこの順番で厚さ方向に積層された構造を有している。発電部10において互いに対向する1組の側面の一方には外部電極25aが設けられ、他方の側面には外部電極25bが設けられている。また、駆動部20において互いに対向する1組の側面の一方には外部電極27aが設けられ、他方の側面には外部電極27bが設けられている。
発電部10は、厚さ方向に分極した圧電セラミックス層(以下、「圧電活性層」という。)を介して隣り合う内部電極11を複数(図示の例では9層)有している。各内部電極11は、例えば銀(Ag)−パラジウム(Pd)合金等の無機導電性材料からなり、これらの内部電極11は発電部10の主面と平行に、ひいては圧電トランス30の主面と平行に配されている。また、圧電活性層は、例えばPZT系圧電セラミックス等の無機圧電材料からなり、内部電極11を介して隣り合う圧電活性層は互いに逆向きに分極されている。最も下層の内部電極11の下には、未分極の圧電セラミックスからなる下部外装層が設けられており、最も上層の内部電極11の上には、未分極の圧電セラミックスからなる上部外装層が設けられている。
駆動部20は、上述した発電部10と同様の構造を有している。図示の例では、駆動部20における内部電極21の数が発電部10での内部電極11の数よりも少ない3層となっている。ただし、発電部10での内分電極11の数、及び隣り合う内部電極11同士の間隔(圧電活性層の厚さ)、並びに、駆動部20での内分電極21の数、及び隣り合う内部電極21同士の間隔(圧電活性層の厚さ)は、圧電トランス30の用途や、圧電トランス30に求められるインピーダンス特性に応じて、適宜選定可能である。
発電部10における1つおきの内部電極11は外部電極25aに接続されており、残りの内部電極11は外部電極25bに接続されている。また、駆動部20における1つおきの内部電極21は外部電極27aに接続されており、残りの内部電極21は外部電極27bに接続されている。各外部電極25a、25b、27a、27bは、例えば銀(Ag)等の導電性材料によって形成される。
なお、図1(b)においては、便宜上、個々の内部電極11、21を1本の実施線で示しており、発電部10における圧電セラミックス層全体を参照符号13で、また、駆動部20における圧電セラミックス層全体を参照符号23で示している。
発電部10と駆動部20との間に設けられている絶縁部15は、本発明の圧電トランスにおける特徴的な構成部材であり、この絶縁部15はサファイア(酸化アルミニウム単結晶)又は窒化アルミニウムからなる。発電部10及び駆動部20は、蝋付け等の方法により、接合材(図示せず。)を介して絶縁部15に強固に接合されている。
絶縁部15をサファイアによって形成した場合、通常、その音速は8000m/s以上となり、その熱伝導率は30W/m・K以上となる。圧電トランス30の電力密度及び電力容量を共に高くするという観点から、この絶縁部15の厚さは1〜2mm程度の範囲内とすることが好ましい。この厚さが1mm未満では駆動周波数の向上が小さく、また、圧電トランス30での発電部10と駆動部20との絶縁性を保持し難くなり、2mmを超えると、圧電トランス30の実効的な電気機械結合係数が低下する。
一方、絶縁部15を窒化アルミニウム(焼結体)によって形成する場合、その音速は8000m/s以上であることが好ましく、その熱伝導率は150W/m・K以上であることが好ましい。また、圧電トランス30の電力密度及び電力容量を共に高くするという観点から、その厚さは1〜3mm程度の範囲内とすることが好ましい。この厚さが1mm未満では駆動周波数の向上が小さく、また、圧電トランス30での発電部10と駆動部20との絶縁性を保持し難くなり、3mmを超えると圧電トランス30の実効的な電気機械結合係数が低下する。
上述した構造を有する圧電トランス30を使用するにあたっては、輪郭広がり基本振動モード(1次の輪郭広がり振動モード)を利用する。駆動部20内の各圧電活性層を輪郭広がり基本振動モードで振動させることができる周波数の交流を外部電極27a、27bに印加して、上記各圧電活性層を輪郭広がり基本振動モードの下に強勢に励振すると、輪郭広がり基本振動モードの電気機械結合係数kp’に依存する圧電逆効果により、発電部10内の各圧電活性層が輪郭広がり基本振動モードの下に強勢に励振される。
電気機械結合係数kp’の値は、圧電横効果による長さ方向縦振動モードでの電気機械結合係数k31の約2倍大きいので、圧電トランス30のエネルギー変換効率は高い。その結果として、圧電トランス30による電力伝送効率も高くなる。圧電トランス30の電力伝送効率が高ければ、この圧電トランス30の更なる小型化が可能となる。
また、絶縁部15の材料であるサファイア又は窒化アルミニウムでの音速は8000/s以上と速く、この値はPZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスでの音速の2.5倍以上であるので、絶縁部の材料として未分極の圧電セラミックスを用いた場合に比べて、圧電トランス30の基本共振周波数は高くなる。そのため、絶縁部の材料として未分極の圧電セラミックスを用いた圧電トランスの電力密度よりも、絶縁部15の材料としてサファイア又は窒化アルミニウムを用いた圧電トランス30の電力密度の方が大幅に高くなる。
例えば、圧電セラミックスとしてPZT系圧電セラミックスを用い、絶縁部15を厚さ1.5mmのサファイアで形成した場合、圧電トランス30の大きさが20mm×20mm×7mmであれば、その基本共振周波数は120kHzとなり、30W/cm3 以上の電力密度を容易に得ることができる。これに対し、サファイアに代えて未分極のPZT系圧電セラミックスを用いて絶縁部を形成した場合、圧電トランスの基本共振周波数は96kHzと大幅に低くなり、電力密度も18W/cm3 程度となる。
絶縁部15は圧電トランス30での厚さ方向の中央部に位置し、この部分は圧電トランス30の中でも振動応力が最も大きい部分であるため、音速が速いというサファイア又は窒化アルミニウムの特性を効果的に生かし易い。また、サファイア及び窒化アルミニウムそれぞれの機械的強度はPZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスに比べて高く、同じ厚さであれば、サファイア又は窒化アルミニウムからなる絶縁部15の機械的強度は、圧電セラミックスからなる絶縁部の機械的強度よりも数倍から1桁高くなる。このため、圧電トランス30を大振幅で振動させたときでも、絶縁部15からの破壊を抑止し易い。
さらに、サファイア及び窒化アルミニウムの熱伝導率は、PZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスの熱導電率よりもはるかに(数十倍)高いので、サファイア又は窒化アルミニウムによって絶縁部15が形成された圧電トランス30全体の放熱性は、未分極の圧電セラミックスで絶縁部が形成された圧電トランスの放熱性よりも大幅に高くなる。その結果として、圧電トランス30では駆動に伴う昇温が抑えられるので、高電力容量化を図り易い。
例えば、圧電セラミックスとしてチタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックスを用い、絶縁部15を厚さ1.5mmのサファイアで形成した場合、圧電トランス30の大きさが20mm×20mm×7mmであれば、50W出力時での温度上昇は僅か15℃程度以下となる。
サファイア及び窒化アルミニウムの誘電率は、PZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスの誘電率に比べて極めて小さく、しかも、サファイア及び窒化アルミニウムの体積抵抗率はそれぞれ1×1014Ω・cm以上と高いので、圧電トランス30では絶縁部15の絶縁特性を容易に高くすることができる。この点からも、圧電トランス30では高電力容量化を図り易い。
例えば、サファイア又は窒化アルミニウムからなる絶縁部15の厚さが1.0mmであれば、50Hz、5kVの交流電圧、及び10kVの直流電圧にも十分耐えられるようになる。また、絶縁部をPZT系圧電セラミックス等の圧電セラミックスで形成した場合に比べて、駆動部20から発電部10に流出する漏れ電流を1/100程度に減少させることができるので、伝導ノイズを2桁小さくすることが可能である。
<第2形態>
図2(a)は、本発明の圧電トランスのうちの円板状の圧電トランスの一例を概略的に示す平面図であり、図2(b)は、図2(a)に示したII−II線断面の概略図である。これらの図に示す圧電トランス40は、外形形状が円板状であるという点を除き、図1(a)及び図1(b)に示した圧電トランス30と同じ構造を有している。図2(a)及び図2(b)に示した各構成部材については、図1(a)又は図1(b)に示した構成部材と機能上共通するものに図1(a)又は図1(b)で用いた参照符号と同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
この圧電トランス40を使用するにあたっては、径広がり基本振動モード(1次の径広がり振動モード)を利用する。駆動部20内の各圧電活性層を径広がり基本振動モードで振動させることができる周波数の交流を外部電極27a、27bに印加して、上記各圧電活性層を径広がり基本振動モードの下に強勢に励振すると、径広がり基本振動モードの電気機械結合係数kp に依存する圧電逆効果により、発電部10内の各圧電活性層が径広がり基本振動モードの下に強勢に励振される。
圧電トランス40は、サファイア又は窒化アルミニウムからなる絶縁部15を有しているので、図1(a)及び図1(b)に示した圧電トランス30と同様の理由から、従来と同一の形状及び大きさであっても駆動周波数を高めることができるために高電力密度化を図り易く、かつ、高電力容量化を図り易いものである。また、径広がり基本振動モードの電気機械結合係数kp は、一般に、輪郭広がり基本振動モードでの電気機械結合係数kp’よりも僅かに大きな値となる。このため、圧電トランス40の電力密度は、駆動周波数が同じであれば、上述した圧電トランス30の電力密度よりも5〜10%程度高くなる。
<実施例>
圧電セラミックスとしてPZT系圧電セラミックスを用い、絶縁部として厚さ1.5mmの平板状を呈する人工合成サファイアを用いて、図1(a)及び図1(b)に示した圧電トランス30と同様の構造を有する20mm×20mm×7.0mmの正方形板状の圧電トランスを作製した。この圧電トランスにおける発電部の厚さは3.0mm、駆動部の厚さは2.5mmである。
発電部は、銀(Ag)−パラジウム(Pd)合金からなる内部電極を9層有しており、したがって、圧電活性層を8層有している。個々の圧電活性層の厚さは0.35mmである。一方、駆動部は、銀(Ag)−パラジウム(Pd)合金からなる内部電極を3層有しており、したがって、圧電活性層を2層有している。個々の圧電活性層の厚さは1.2mmである。発電部での内部電極の層数と駆動部での内部電極の層数との相違は、圧電トランスをAC−DCコンバータの昇圧トランスとして用いるときに、このAC−DCコンバータに接続される外部負荷とのインピーダンスマッチングをとるためである。
これら発電部及び駆動部は、平行平面研磨(ラッピング)されており、絶縁部(人工合成サファイア)に650℃で蝋付けされている。発電部及び駆動部それぞれに設けられている外部電極は、いずれも、銀(Ag)−パラジウム(Pd)合金からなる。
上述した構造を有する圧電トランスは、次のようにして作製した。まず、内部電極形成用の組成物が片面に塗布されたグリーンシートを必要枚数積層し、所定の大きさに打ち抜いた後に焼結して、発電部用の圧電セラミックス積層体を作製した。同様にして、駆動部用の圧電セラミックス積層体を作製した。次いで、各圧電セラミックス積層体に平行平面研磨を施してから絶縁部に蝋付けした。この後、発電部となる圧電セラミックス積層体の各内部電極、及び駆動部となる圧電セラミックス積層体の各内部電極に直流高電圧を印加することによって分極処理を施して、圧電トランスを得た。
この圧電トランスに20Ωの外部負荷を接続し、この状態で輪郭広がり基本振動モードの下に当該圧電トランスを動作させて、ハイパワーテストを行った。このときの圧電トランスの基本共振周波数は123kHz、駆動周波数は128kHzである。圧電トランスが30℃昇温した時点でパワー限界に達したものと定義したところ、最大出力電力は95W、最大電力密度は33.9W/cm3 であった。これらの値は、従来の圧電トランスと比べて相当に高く、一般の電磁型トランスと比べても相当に高い。
また、上記の圧電トランスの発電部及び駆動部に周波数60Hz、実効電圧5000Vの交流を印加したところ、5分経過後においても殆んど電流は流れなかった。さらに、伝導ノイズを測定したところ、後述する比較例の圧電トランスでの伝導ノイズの1/100以下であった。伝導ノイズが小さい本実施例の圧電トランスをAC−DCコンバータに用いると、従来の圧電トランスを搭載したAC−DCコンバータと比べてノイズフィルタの体積を1/10以下に抑えることが可能となるので、AC−DCコンバータを一層小型化することができる。
<実施例2>
外形形状が直径2.26mm、厚さ7mmの円板状であること以外は実施例1の圧電トランスと同じ構造を有する圧電トランスを作製した。そして、この圧電トランスに20Ωの外部負荷を接続し、この状態で径広がり基本振動モードの下に当該圧電トランスを動作させて、ハイパワーテストを行った。
このときの圧電トランスの基本共振周波数は136kHzであり、圧電トランスが30℃昇温した時点でパワー限界に達したものと定義したところ、最大出力電力は116W、最大電力密度は41.6W/cm3 であった。
<比較例>
絶縁部を未分極のPZT系圧電セラミックスで形成した以外は実施例1と同じ条件の下に圧電トランスを作製し、この圧電トランスに20Ωの外部負荷を接続した状態でその基本共振周波数を測定したところ、100kHzに満たなかった。また、最大出力電力は33Wであった。
図1(a)は、本発明の圧電トランスのうちの正方形板状の圧電トランスの一例を概略的に示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)に示したI−I線断面の概略図である。
図2(a)は、本発明の圧電トランスのうちの円板状の圧電トランスの一例を概略的に示す平面図であり、図2(b)は、図2(a)に示したII−II線断面の概略図である。
図3(a)は、従来の正方形板状の圧電トランスの一例を概略的に示すに平面図であり、図3(b)は、図3(a)に示したIII−III線断面の概略図である。
従来の圧電トランスの他の例を概略的に示す正面図である。
符号の説明
10 発電部
11 内部電極
15 サファイア又は窒化アルミニウムからなる絶縁部
20 駆動部
21 内部電極
25a、25b、27a、27b 外部電極
30 正方形状の圧電トランス
40 円板状の圧電トランス