JP4746554B2 - 半導体電橋装置および半導体電橋装置を備える点火具 - Google Patents

半導体電橋装置および半導体電橋装置を備える点火具 Download PDF

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Description

本発明は、半導体電橋装置、より具体的には、金属層および特定の性質を有する金属酸化物層を交互に複数組重ね合わせたラミネート層で構成された電橋部を有する半導体電橋装置、およびかような半導体電橋装置を備える点火具に関するものである。
一般に点火具は、電気エネルギを受けることによって、機械的衝撃波および/または燃焼、爆燃もしくは爆発のような発熱反応を開始する。
そのため、点火具は、様々な目的の商用利用および政府による利用に供されている。例えば、自動車のエアバッグの膨張開始手段、または兵器システムにおけるエネルギ源の活性化手段などが挙げられる。
ところで、従来の点火具は、点火薬に点火するための手段として架橋ワイヤを利用していた。架橋ワイヤは、2つの接点間に取り付けられた細い抵抗性のワイヤである。そして、かかる架橋ワイヤを取り囲んで点火薬が配置されている。
かような構造になる点火具において、電流が架橋ワイヤに流れると抵抗発熱が生じ、架橋ワイヤの発熱温度が点火薬の点火温度に達すると、点火薬が点火される。一般に、点火薬の外側には、より伝火力の強い伝火薬が配置されていて、この伝火薬によって主要な装薬を点火する。また、近年、自動車の中に有線のLANを構築し、通信の信号によって点火具の作動をコントロールする検討がなされている。
しかしながら、かような架橋ワイヤを使用する点火具は、現行の利用用途では著しい欠点を有している。
例えば、多くの軍用および民生用の利用用途において、ますます増大する電磁妨害(EMI)を被りやすい。高レベルのEMIには深刻な危険性が存在する。なぜなら、EMIは、直接的な経路または間接的な経路で点火具に電磁エネルギを送り、意図しない場合にも点火具を点火させる可能性があるからである。すなわち、点火具は、静電放電(ESD)により無意図的に点火してしまうおそれがある。
そのため、従来の点火具では、標準的な利用用途において無意図的な放電から保護するために、パッシブ・フィルタ回路やEMI遮蔽手段を設けているが、かような保護手段を設けることは空間的および重量的な不利が著しい。また、近年検討されているLANにより、点火具の点火をコントロールする場合、架橋ワイヤーでは、通信の信号成分のエネルギーで点火するためには、エネルギーを蓄積するコンデンサーが非常に大きなサイズとなり、点火具の中に通信およびスイッチ回路を搭載するには空間的および重量的な不利が著しい。
このような偶発的な点火に関する問題を多少とも解決している点火具として、半導体電橋装置すなわちSCB(Semiconductor Bridge)が知られている。この半導体電橋装置は、同一の無点火レベルの架橋ワイヤを使用する点火具において必要とされる点火のためのエネルギよりも少ないエネルギで点火することができる。すなわち、半導体電橋装置で点火に必要とするエネルギは、同一の無点火性能を有する架橋ワイヤを使用する点火具が点火に必要とするエネルギよりも一桁小さい。
半導体電橋装置は、一般に、高温の火花で点火薬を点火する。すなわち、半導体電橋装置が発火すると、点火薬を点火するに十分な高出力密度の(例えば、場合によっては4000度ケルビンよりも高い)高温火花が発生する。また、半導体電橋装置は、数百マイクロ秒程度で点火点まで加熱される架橋ワイヤと比較して、数マイクロ秒程度という短時間で火花を発生させる。半導体電橋装置によって点火される点火薬は、半導体電橋装置に隣接した火薬すなわち最初の爆発物であり、通常数マイクロ秒足らずで点火し、さらに出力用装薬である伝火薬を点火する。
なお、半導体電橋装置は、一般的に、火花の生成に適した電流を供給することができる低インピーダンス電源または容量性放電(コンデンサーからの放電)により駆動される。
このような半導体電橋装置および半導体電橋装置を含む点火具の一例が、特許文献1、特許文献2および特許文献3にそれぞれ開示されている。
特許文献1に開示される半導体電橋装置は、例えばチタンである反応性金属と、例えばホウ素である反応性絶縁体とを含む一連の層からなるラミネート層を有するものである。
また、特許文献2に開示される半導体電橋装置は、加熱により酸素を発生する酸化剤層と金属層をラミネートした層を有するものである。
さらに、特許文献3に開示される半導体電橋装置は、酸化銅層や酸化シリコン層などの酸化物層とパラジウム、ニッケル−クロムなどの金属層からなるラミネート層を有するものである。
特許文献1 特表2004−513319号公報
特許文献2 特開平7−61319号公報
特許文献3 特表2004−518939号公報
特許文献1に記載された半導体電橋装置は、反応時間の点では問題はないものの、出力密度すなわち電橋部での火花発生量が不十分であるという問題があった。
また、特許文献2に記載された半導体電橋装置は、逆に、火花発生量の点では問題はないものの、化学反応により酸素を発生させ、その後に発火させるものであることから、結果として火花発生までの反応のために長時間を要するという点に問題があった。
さらに、特許文献3に記載された半導体電橋装置は、発熱の主体である抵抗層が最下部にありシリコン基板と接して配置される構造であるため、発生した熱がシリコン基板に吸収されることから、発火効率に劣るという問題があった。また、この半導体電橋装置は、絶縁層や反応層等をブリッジ部分にのみ形成させ、電極パッドをブリッジ部分以外に形成させる構造であることから、複雑な製造工程を必要とする不利もある。
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、作動に必要なエネルギーが低いにもかからわらず数マイクロ秒程度の短い作動時間で発火させることができ、しかも火花発生量が十分に大きい半導体電橋装置を、かかる半導体電橋装置を備える点火具と共に提供することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ある種の金属とある種の酸化物を組み合わせれば、加熱により酸素を発生させるという酸素付加工程の必要なしに点火薬を点火するのに十分な量の火花を発生させることができる、換言すると、化学反応を介在させずに短時間で大量の火花を発生させ得ることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.基板上に、一対のランド部分と該一対のランド部分を電気的に接続する電橋部を有し、かつ該一対のランド部分の上面に電極パッドを配設し、該電極パッドを介して通電することにより該電橋部において火花を発生させる半導体電橋装置であって、
該一対のランド部分および該電橋部が、金属層と金属酸化物層を交互に複数組重ね合わせたラミネート層からなり、該ラミネート層の最上層を金属層にすると共に、該金属酸化物層として分解温度が1500℃超の金属酸化物を用いることを特徴とする半導体電橋装置。
2.前記分解温度が1500℃超の金属酸化物がSiOまたはTiOで、かつ前記金属層を構成する金属がTiまたはZrであることを特徴とする上記1に記載の半導体電橋装置。
3.前記分解温度が1500℃超の金属酸化物がSiOで、かつ前記金属層を構成する金属がTiであることを特徴とする上記2に記載の半導体電橋装置。
4.前記ラミネート層における金属層および金属酸化物層の厚みがそれぞれ、0.02〜3ミクロンであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の半導体電橋装置。
5.前記ラミネート層全体の厚みが0.1〜10ミクロンであることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の半導体電橋装置。
6.前記ラミネート層の最上層の金属層の厚みが0.5〜3ミクロンであることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の半導体電橋装置。
7.前記ラミネート層の最下層が金属酸化物層からなり、かつその厚みが0.5〜3ミクロンであることを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の半導体電橋装置。
8.前記電橋部の抵抗値が0.5〜10Ωであることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の半導体電橋装置。
9.前記電橋部の上面に保護膜を形成したことを特徴とする上記1〜8のいずれかに記載の半導体電橋装置。
10.カップ体と、複数の電極ピンを互いに絶縁して保持し該カップ体の開口部を封じて一体化する塞栓とをそなえ、該カップ体の内部には、点火薬を充填すると共に、該電極ピンに接続され外部からの通電により発火する加熱素子を、該点火薬に当接して設置した点火具において、
該加熱素子として、上記1〜9のいずれかに記載の半導体電橋装置を用いることを特徴とする点火具。
第1図は、本発明に従う半導体電橋装置の平面図(a)および断面図(b)である。
第2図は、基板にダイオードをそなえる本発明に従う半導体電橋装置の平面図(a)および断面図(b)である。
第3図は、点火具の断面図である。
第4図は、点火実験に用いた回路図である。
第5図は、特許文献1の半導体電橋装置および本発明の半導体電橋装置を用いた場合における火花の発生状況を比較して示した図面代用写真である。
符号の説明
1 半導体電橋装置
10 基板
12 二酸化シリコン層
14−1,14−2 開口部
16−1,16−2 ドーピング領域
20 ラミネート層
22−1,22−2,22−3 金属層
24−1,24−2,24−3 金属酸化物層
25 密着層
30,32 ランド部分
34 電極パッド
36 電橋部
100 点火具
110 塞栓(ヘッダ)
120 電気接続部材
130 導電ピン
140 カップ体(キャップ)
150 点火薬
200 コンデンサー
210 スイッチ
220 半導体電橋装置
230 等価的な回路抵抗
以下、図面を参照しつつ、本発明をより詳細に記載する。
図1(a),(b)に、本発明の代表的な半導体電橋装置を、平面および断面(A−A′断面)で示す。
図中、番号1で半導体電橋装置の全体を示す。番号10はシリコンからなるを可とする基板、12はこの基板10上に形成された二酸化シリコン層であり、この二酸化シリコン層12は基板10の電気絶縁材料として機能する。なお、この二酸化シリコン層12は必ずしも必要ではなく、省略することもできる。
さて、本発明では、かような表面に二酸化シリコンの電気絶縁層12をそなえる基板10の上に、金属酸化物層24−1〜24−3および金属層22−1〜22−3を交互に積み重ねてラミネート層20を形成する。基板10が例えば二酸化シリコン層をその上に有するシリコン基板の場合でも、ラミネート層の最下層は金属酸化層、例えばSiO層とすることが好ましい。というのは、最下層のSiO24−1は上層の金属層で発生する熱を遮断して、基板への放熱を抑える役割があるが、電橋部と同じ幅で作られることにより、熱の伝達が厚み方向に制限されるので、断熱上有利となるからである。なお、金属酸化物層と基板の密着性が十分でない場合には、その間に密着層25を設けることができる。密着層としては一般的にTiやCrが使われる。
本発明では、上述したように、金属層と金属酸化物層を交互に複数組重ね合わせてラミネート層を形成するが、この際における重ね合わせ数は金属層と金属酸化物層の組を二組以上とし、かつ最表面を金属層とする必要がある。
このように、金属層と金属酸化物層の組を複数組重ね合わせた構造としたのは、かような構造の方が、金属層と金属酸化物層をそれぞれ一層のみ重ね合わせた一組構造よりも、より多量の火花を発生させることができるからである。
その理由は、まだ明確に解明されたわけではないが、金属層と金属酸化物の組み合わせが1組構造のものと複数組重ね合わせた構造の物を比較した場合、まず第1に同じ抵抗を実現するためには1組構造の金属膜厚より複数組み重ねた物の方が金属層のトータル厚みが厚くなる。これは、電極パッドがランド部分を覆っているため、中間層に対しては積層膜の側面からの導通となり、接触抵抗が含まれると同時に、金属を薄くすると通常バルクの値よりも高い体積抵抗率を示す2つの影響によるものと考えられる。
そして、金属層が厚い方が以下に述べる2点の理由で火花をより多く出すことができる。
(1)通電初期、電流は主に最も厚い最上層に流れ加熱され、最上層がその下の例えばSiOなどの金属酸化物層を巻き込みながらまず気化すると考えられる。最上層が無くなると残りの電気はその下の層に集中する。そして下の層もSiOを巻き込みながら気化して飛散する。つまり複数層にすることで火花化が上層から順次に起きるので、火花の発生時間が長いと考えられる。
(2)特に金属層がTiやZrの場合、金属層は通電で過熱され、数マイクロ秒で一気に沸点を超えて気化するが、高温のTiやZrが飛散する間に空気中の酸素と反応できるので、Tiの総量が多い方が大きな火花を発生させることができる。
また、最表面を金属層好ましくは最も厚い金属層とした理由は、薄い中間層に比べ、厚い最上層に電流が集中し発熱も集中するが、最上層は基板から最も遠い位置にあり、基板との間には幾膚もの金属酸化物層が存在するため、基板から熱的に遮断されている効果が最も高いので、より低いエネルギーで温度を上昇させることができ、発火効率が向上するからである。
さて、本発明では、上記した金属酸化物層および金属層のうち、特に金属酸化物層の材質が重要で、かような金属酸化物層としては、分解温度が1500℃超のものを使用する必要がある。というのは、分解温度が1500℃超であれば、金属層が溶解する温度まで金属酸化物層は酸素を発生することが無いので、金属層が固体の状態で下層からのガスの発生により物理的に破壊されることがなく、通電が保持されるからである。
本発明において金属酸化物層として好適な材料、すなわち分解温度が1500℃超の金属酸化物としては、例えばSiO,TiOおよびAl等が挙げられる。
また、本発明の金属層として好適な材料としては、例えばAu,Al,Ag,Bi,C,Co,Cr,Cu,Fe,Ge,Hf,In,Ir,Mg,Mo,Nb,Ni,Pb,Pt,n型Si,p型Si,Sn,Ta,Ti,V,W,ZnおよびZr等が挙げられる。
上記した金属酸化物層および金属層のうち、好適な組み合わせは金属酸化物がSiOまたはTiOで、かつ金属がTiまたはZrの組み合わせである。というのは、かような組み合わせにすることにより、とりわけ大きな火花発生量が得られるからである。特に、SiOとTiを組み合わせた場合には、最大の火花発生量が得られ、最適である。
次に、ラミネート層における中間の金属層および金属酸化物層の厚みはそれぞれ、0.02〜3ミクロンとすることが好ましい。
金属層および金属酸化物層の厚みが0.02ミクロンに満たないと、組み合わせ数が同一の場合、Ti総量は1組構造のものに近く、十分な火花量が発生しない。もし半導体電橋にTiをより多く含ませるためには何層も重ねなければならず、生産性が著しく低下する。
一方、厚みが3ミクロンを超えると、各層が厚すぎとなり、最上層の通電初期における金属層へ電流の集中が困難となり、低エネルギーでの点火が難しくなる。
中間の金属層および金属酸化物層のより好ましい厚みはそれぞれ、0.2〜0.25ミクロンの範囲である。
また、ラミネート層全体の厚みは0.1〜10ミクロンとすることが好ましい。というのは、ラミネート層の厚みが0.1ミクロンに満たないと、火花の元となる電橋部の体積が少なすぎ、飛散する火花が小さくなるためであり、一方10ミクロンを超えると、電橋部の体積が大きいため、電橋部全体を火花化させるためには過大のエネルギーを必要とするからである。さらに、真空蒸着やスパッタなどにより薄膜を形成すると、その膜の内部には応力が発生するが、厚みが厚くなると応力も大きくなり、基板から電橋部が剥離するおそれもある。
より好ましいラミネート層全体の厚みは0.6〜4ミクロンの範囲である。
さらに、本発明では、ラミネート層の最上層は金属層とするが、この最上層金属層の厚みは0.5〜3ミクロンとするのが好ましい。というのは、この厚みが0.5ミクロンに満たないと、中間層との差が十分でなくなるため、通電初期に最上層に十分な量の電流を集中して流すことができず、火花の量が低下し、一方3ミクロンを超えると、厚い金属層を揮化させるために多大のエネルギーが必要となるため、低エネルギーでの点火が難しくなるからである。より好ましい厚みは1〜2ミクロンの範囲である。
また、図1(b)に示したように、ラミネート層の最下層を金属酸化物層とする場合にはその厚みを0.5〜3ミクロンとすることが好ましい。というのは、この厚みが0.5ミクロンに満たないと、金属層で発生した熱が基板に伝達されてしまい、エネルギーをロスするため、低エネルギーでの点火が難しくなり、一方3ミクロンを超えると、基板への熱遮断に対しては好ましいが、膜の内部に派生する応力が大きくなり剥離の危険性が増大するからである。より好ましくは製造のし易さから1〜3ミクロンの範囲である。
なお、最下層を金属酸化物層とした場合には、ラミネート層で発生した熱が、基板へは散逸しないので、火花の発生を助長する利点がある。
さらに、複数層の金属層と金属酸化物層を重ね合わせる場合、金属層については表面に近くなるほどその厚みを厚くし、一方金属酸化物層については基板に近づくほどその厚みを厚くすることが有利である。
すなわち、通電初期においては基板への放熱が起きにくい最上層に電流を集中させることが、低エネルギーでの点火では重要となる。最上層が火花化した後はその下の金属層が次に厚い層となるので、電流は今度はこの層に集中する。このように順次上の層から火花化が進むが、より下の層が火花化するときには電源となるコンデンサー内の電荷量も初期に比べて減少しており、下層に行くほど金属層が薄いことは、残った電荷量で効率的に火花化できる利点がある。
反対に金属酸化物層は基板側で厚くすることで、火花化が下層に進行し、同時にコンテンサーに残った残り少ないエネルギーで薄い金属層を揮化させるためには、その下の金属層との熱的な絶縁を十分確保する必要があるからである。
なお、重ね合わせる好適複数組は2〜5組、より好ましくは3〜4組である。
ちなみに、金属層としてTiを、一方金属酸化物層としてSiOを用いた場合の各層の好適厚みは、次の通りである。すなわち、基板の表面に近い順に、
1.0μm厚のSiO層24−1、
0.25μm厚のTi層22−1、
0.225μm厚のSiO層24−2、
0.25μm厚のTi層22−2、
0.225μm厚のSiO層24−3および
1.0μm厚のTi層22−3
である。
なお、この場合、ラミネート層厚は、SiO層24−1〜24−3とTi層22−1〜22−3の厚みを合計した、2.95μmの厚みになる。
上述したラミネート層20は、リフトオフと言われる手法によって、ランド部分30,32と電橋部36に形成される。すなわち、基板上にあらかじめランド部分30,32とこれら2つのランド部分の間の電橋部36の基板がむき出しとなるようにレジストを形成した上にラミネート層となるTiとSiOを成膜後、レジストを除去することで、基板上にランド部分30,32と、電橋部36が構成される。
2つのランド部分30,32は、基板10上で比較的大きな面積を有する。電橋部36は、基板10の表面に平行な面において、すなわちラミネート層の堆積方向に対して垂直な方向において、比較的狭い面積を有する。
ここに、電橋部36の面積は、電橋部における抵抗値が0.5〜10Ωとなるように調整することが好ましい。より好ましくは2〜7Ωの範囲であり、この範囲であると安定した火花の発生を提供することができる。
一例として、基板10の表面に平行な面における、電橋部36の一番狭くなっている部分が、幅50μmで長さが50μmのときには、電橋部36の抵抗値はほぼ2Ωとなり、また電橋部36の一番狭くなっている部分が、幅20μmで長さが120μmのときには、電橋部36の抵抗値はほぼ5Ωとなる。
また、上記電橋部の上面には保護膜を設けることができる。この保護膜の素材としてはSiO,SiN等が有利に適合し、かような保護膜を形成することにより、点火薬中に含まれる化学成分の電橋部への化学的な影響をなくすことができる。
上記のようにして2つのランド部分30,32と電橋部36を形成したのち、リフトオフ等の適切な導電材料を堆積することにより、2つのランド部分30,32の上に電極パッド34を形成する。なお、電極パッド34の材料としてAl等が有利に適合する。
上記した電極パッド34を介して電橋部36に電流が流れると、最上層の金属層例えばTi層22−3を初めとして中間のTi層22−1,22−2には抵抗発熱が生じる。この発熱によりTi層22−1〜22−3が溶解、揮化して火花が発生するわけであるが、金属酸化物層例えばSiO層24−1〜24−3は断熱性が高く、また酸素の発生がないので、かような火花発生までブリッジ形状を好適に維持することができ、その結果、大容量の火花を発生させることができるのである。
この理由は、次のとおりと考えられる。
本発明の半導体電橋装置の火花発生のメカニズムは、金属層が通電により加熱され、数マイクロ秒の間に沸点を超え、揮化されることによる、いわゆる物理現象により火花を発生するものである。
通電初期、電流は最も厚みのある最上層の金属層例えばTi層に集中し、Ti層が加熱される。この熱で直下の金属酸化物層例えばSiO層も高温にさらされるが、1500℃以下では分解しないので、Tiが固体の間、SiOからの分解によるガスに起因したTi層の押し上げが発生しないため、Tiの通電は維持されてさらに温度が上昇する。SiOは断熱性が非常に高いので、Ti層で発生した熱は主にTi層内部に蓄えられ、やがて融点に達する。このころには金属の持つ抵抗温度係数により、常温に比べ非常に高い抵抗値に達しており、抵抗が増加することでさらに通電による発熱が集中し一気に沸点にまで達し、融点を超えたところでTiは揮化する。ここまでにわずか数マイクロ秒しかかからない。このような短時間の現象では化学反応など物質の移動が前提のシステムは十分機能することができず、むしろ物理現象として発生する火花の方が確実に発火を促すことができる。いったん融点に達したTi層はその下のSiO層からガスが発生してもTi層のクラックとなることはなく、通電は維持される。なお、Tiが個体の間に下からのガスが発生するとその圧力によるクラックや、不十分な温度での酸化反応の懸念がある。
本発明の半導体電橋装置は、このように金属が、固体から液体さらに沸点を通りこした温度での気化による電橋部の微細な爆発を利用しているため、その火花温度は非常に高温に達している。さらに、SiOはTiで発生した熱が基板へ放熱されるのを遮断すると同時に、Ti気化による爆発のときに一緒に巻き上げられるが、Tiと隣接しているがゆえにSiO自身もこのとき高温になっており、熱粒子となって飛散する。さらにTiは高温で飛散する過程においては空気中の酸素と反応することができ、さらに火花を大きくする。
以上、本発明の半導体電橋装置の代表的な構造について説明したが、本発明では、その他の構造として、静電放電による誤発火防止を目的として、図2に示すように、基板上にダイオードを形成することもできる。
すなわち、例えば図2に示すように、適切なエッチング技術を用いて、二酸化シリコン層12を選択的にエッチングして開口部14−1,14−2を形成し、例えばn型の基板10の表面を露出させる。ついで、開口部14−1,14−2で露出させた基板部分にp型半導体を形成するように不純物をドーピングし、基板内にpn接合を構成する。その上に開口部をふさぐようにアルミニウムなどの金属を堆積する。このような構造にすることにより、開口部14−1,14−2に、半導体電橋装置に集積されたツェナーダイオードを組み込むことができる。14−1,14−2に形成されたpn接合によるツェナーダイオードは基板のn領域で電気的に接続されているのでお互いに向き合った直列接続となりパッドを介して電橋部とは並列接続となる。
なお、基板10の開口部14−1,14−2に対応するドーピング領域16−1,16−2に適切な物質をドーピングすることによって、形成されるツェナーダイオードの降伏電圧を変えることができる。例えば、自動車のエアバッグの始動器のような用途においては、7ボルトないし8ボルトの降伏電圧が、静電放電(ESD)からの保護をもたらす。より感度の低い電橋部を必要とする用途では、より高い降伏電圧を用いる。
以上、本発明に従う半導体電橋装置について説明したが、次にかような半導体電橋装置を備えた点火具について説明する。
図3に、本考案に従う点火具を断面図で示す。
図中、番号100で点火具の全体を示し、番号140はカップ体(キャップともいう)、150は点火薬である。かかる点火薬150としては、その組成中にジルコニウムを含むものが好適である。その他、水素化チタンやボロン、トリシネートなどを含むものも有利に適合する。
番号110は合金で作られた塞栓(ヘッダともいう)であり、この塞栓110には、外部と電気的に接続するための電極ピン130がガラス封止により、互いに絶縁されて保持されている。このようにガラス封止によって電極ピン130を固定することにより、高い気密性を保ちながら電気的絶縁を確保することができる。
また、この電極ピン130は、カップ体140の内部で、加熱素子としての半導体電橋装置1と電気接続部材120を介して接続していて、外部からの信号を半導体電橋装置1に伝達する。
なお、点火具の内部には、図示は省略したがASICなどの電気回路を必要に応じて内蔵させることができる。ここに、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)とは、特定用途向け集積回路のことで、外部と相互通信してコード化された情報に基づいてスクイブを点火する相互通信スイッチ手段としての機能をもつ。
上記のような構成になる点火具において、その作動時には、外部から供給される発火信号が、導電ピン130を通り、電気接続部材120から、半導体電橋装置1の電極パッド34を介して電橋部36に送られ、この電橋部36で火花を発生させる。電橋部36で発生した火花は、カップ体140内で、電橋部36上に配置された点火薬150を点火させる。
図1に示した構成になる本発明に従う半導体電橋装置を、図3に示した点火具に装着して実際の火花発生状況について調査した。
なお、この調査実験は、点火具にはカップ体および点火薬を装着せず、半導体電橋装置がむき出しのままの状態で、点火具に点火信号を伝達することにより行い、その際の反応時間(火花発生までの時間)および火花発生高さを測定した。点火に使用した回路を図4に示す。コンデンサー200を充電し、スイッチ210をONすることで半導体電橋装置220に通電する。図中、230は等価的な回路抵抗である。
金属層および金属酸化物層として用いた材料を表1に示す。
また、各層の厚みは次のとおりである。
・第1金属酸化物層24−1の厚み:1μm、
・第1金属層22−1の厚み:0.25μm、
・第2金属酸化物層24−2の厚み:0.225μm、
・第2金属層22−2の厚み:0.25μm、
・第3金属酸化物層24−3の厚み:0.225μm、
・第3金属層22−3の厚み:1μm、
・ラミネート層全体の厚み:2.95μm。
いずれの場合も、電橋部の幅および長さを調整して、電橋部の抵抗値が2Ωまたは5Ωとなるようにした。
また、比較のため、金属層と金属酸化物層をそれぞれ一層のみ重ね合わせた一組構造の半導体電橋装置、さらには特許文献1に記載の半導体電橋装置も作成し、同様の実験に供した。
比較例、特許文献1に記載の半導体電橋装置の作製条件は次のとおりである。
(1)比較例
最下層:SiO層(厚み:1.65μm)、
最上層:Ti層(厚み:1.3μm)、
ラミネート層全体の厚み:2.95μm。
(2)特許文献1
反応性金属としてチタン(Ti)、反応性絶縁物としてホウ素(B)を用い基板に近い側から、
ホウ素:1μm、チタン:0.25μm、
ホウ素:0.225μm、チタン:0.25μm、
ホウ素:0.225μm、チタン:1μm、
ラミネート層全体の厚み:2.95μm。
なお、特許文献2については、その実施例に記載された数値を比較のために表1中に記す。
Figure 0004746554
同表より明らかなように、本発明に従う半導体電橋装置を用いた場合で、例えば電橋部の抵抗値が2Ωの場合には、1マイクロ秒という短い反応時間で、20mmという大きな火花を発生させることができた。また、電橋部の抵抗値が5Ωの場合には、1.5〜3.1マイクロ秒という短い反応時間で、7.2〜18mmという大きな火花を発生させることができた。特に、金属層としてTi、金属酸化物層としてSiOを用いた場合には、優れた結果が得られている。
これに対し、金属層と金属酸化物層が一組構造の比較例1は、発明例1ほどの火花発生高さが得られなかった。また、比較例2は、電橋部の抵抗値および入力エネルギーが等しい発明例3と比較すれば明らかなように、発明例3ほどの火花発生高さは得られていない。
また、特許文献1に記載の半導体電橋装置を用いた場合(No.6,7,8)には、No.1,2,3の発明例と比較すれば明らかなように、本発明ほど良好な火花発生高さを得ることができなかった。また、特許文献1に記載の半導体電橋装置では、入力エネルギーが低くした場合に、火花発生高さが極端に低下するという不利もある。
さらに、特許文献2に記載の半導体電橋装置は、火花の発生高さが低いだけでなく、反応時間が550マイクロ秒と本発明(No.1)に比べると長時間を要する。
なお、本発明の場合、電橋部の抵抗値を5Ωと高く、かつ入力エネルギーを186μJと小さくした場合であっても、点火薬を点火する十分な火花高さを得ることができた。
図5に、特許文献1の半導体電橋装置および本発明の半導体電橋装置を用いた場合における火花の発生状況を比較して示したが、電橋部の抵抗値が2Ωおよび5Ωいずれの場合においても、本発明の半導体電橋装置を用いた場合の方が火花高さが高いことが判る。
本発明の半導体電橋装置によれば、少ないエネルギーで数マイクロ秒程度の短時間で点火薬を点火するのに十分な量の火花を発生させることができる。
また、本発明の半導体電橋装置において、基板にツェナーダイオードを形成することにより、静電放電の発生から半導体電橋装置を保護することができる。
さらに、本発明の点火具によれば、電橋部の抵抗値を高くして、電流を少なくした場合でも、点火薬を点火する十分な火花を発生することができる。

Claims (10)

  1. 基板上に、一対のランド部分と該一対のランド部分を電気的に接続する電橋部を有し、かつ該一対のランド部分の上面に電極パッドを配設し、該電極パッドを介して通電することにより該電橋部において火花を発生させる半導体電橋装置であって、
    該一対のランド部分および該電橋部が、金属層と金属酸化物層を交互に複数組重ね合わせたラミネート層からなり、該ラミネート層の最上層を金属層にすると共に、該金属酸化物層として分解温度が1500℃超の金属酸化物を用いることを特徴とする半導体電橋装置。
  2. 前記分解温度が1500℃超の金属酸化物がSiOまたはTiOで、かつ前記金属層を構成する金属がTiまたはZrであることを特徴とする請求項1に記載の半導体電橋装置。
  3. 前記分解温度が1500℃超の金属酸化物がSiOで、かつ前記金属層を構成する金属がTiであることを特徴とする請求項2に記載の半導体電橋装置。
  4. 前記ラミネート層における金属層および金属酸化物層の厚みがそれぞれ、0.02〜3ミクロンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の半導体電橋装置。
  5. 前記ラミネート層全体の厚みが0.1〜10ミクロンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体電橋装置。
  6. 前記ラミネート層の最上層の金属層の厚みが0.5〜3ミクロンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の半導体電橋装置。
  7. 前記ラミネート層の最下層が金属酸化物層からなり、かつその厚みが0.5〜3ミクロンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の半導体電橋装置。
  8. 前記電橋部の抵抗値が0.5〜10Ωであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の半導体電橋装置。
  9. 前記電橋部の上面に保護膜を形成したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の半導体電橋装置。
  10. カップ体と、複数の電極ピンを互いに絶縁して保持し該カップ体の開口部を封じて一体化する塞栓とをそなえ、該カップ体の内部には、点火薬を充填すると共に、該電極ピンに接続され外部からの通電により発火する加熱素子を、該点火薬に当接して設置した点火具において、
    該加熱素子として、請求項1〜9のいずれかに記載の半導体電橋装置を用いることを特徴とする点火具。
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