JP4743592B2 - 長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料及び成形品の製造方法 - Google Patents

長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料及び成形品の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、機械的強度、特に衝撃強に優れた、強化繊維の含有量が大きく、かつプレス成形に好適な長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料及び成形品の製造方法に関する。
従来より、熱可塑性樹脂を強化繊維で複合した成形材料が知られている。なかでも、高強度の成形品を得るために、連続した強化繊維を引き抜き、これに樹脂を含浸させ切断してペレットとすることにより、ペレットと同等の長さに強化繊維を含有させた長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料が知られている。
長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、これを射出成形して成形品を得ることも可能であるが、射出成形はその過程で繊維の破損が避けられないため、成形品中では繊維が長い形態で残存せず、強度が不充分となる。一方、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料をプレス成形する場合には、得られる成形品中の強化繊維の残存繊維長は長く残存するため、成形品は剛性ばかりでなく衝撃強度なども高くなる。
前記プレス成形用の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料として、特許文献1及び特許文献2には、1.5mm以下の比較的径の小さい細い材料を用いることが開示されている。このような長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の使用により、加熱が容易で生産性に優れ、しかも成形流動性に優れ、かつ成形品中の残存繊維長が長く残るため機械的強度に優れた成形品が得られるとされている。
一方、特許文献3には、射出成形用の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料として、機械的強度を向上させたものが開示されている。即ち、ポリアミド樹脂(a1)55〜80質量%と、改質剤である不飽和カルボン酸類(a2)で改質された改質結晶性ポリオレフィン樹脂(a3)45〜20質量%[(a1)+(a3)=100質量%]とから形成されたポリマーアロイ樹脂が使用される。そして、該ポリマーアロイ樹脂成分(A)40〜90質量%からなる柱状体の樹脂相中にその長軸と略平行に整列された長繊維強化材(B)60〜10質量%[(A)+(B)=100質量%]が開繊状態で含有された混合系を長さ3〜30mmに切断した長繊維強化ポリマーアロイ樹脂柱状体(C)が開示さている。得られる樹脂柱状体(C)では、ポリアミド樹脂(a1)と改質結晶性ポリオレフィン樹脂(a3)との間に化学結合が存在するとされている。
また、特許文献4には、衝撃強度及び熱変形温度(HDT)に優れ、用途として射出成形用が示唆されている長繊維強化ポリオレフィン樹脂が開示されている。即ち、熱可塑性樹脂成形品として、(A)ポリオレフィン系樹脂99〜50質量部と(B)ポリアミド系樹脂1〜50質量部とからなる樹脂成分100
質量部に対し、(C)繊維状強化材10〜200質量部を配合してなる構造体で、繊維状強化材(C)が実質上構造体と同一長さで構造体の長さ方向に実質的に平行配列している、長さ3mm以上の長繊維強化ポリオレフィン樹脂構造体が開示されている。
さらに、特許文献5では、加工性・耐熱性を損なうことなく、実用環境下で吸水しても剛性・衝撃強度等の機械的強度がより優れた、射出成形用に適する長繊維強化ポリアミド樹脂組成物が開示されている。即ち、(A):ポリアミド樹脂(C)80〜50質量%とポリオレフィン樹脂(D)20〜50質量%とをブレンドしてなり、MFR(230℃、21.2N)が1〜70g/10min.である樹脂ブレンド物(B):質量平均繊維長が2mm以上である繊維で、成分(A)/(B)の質量比が20/80〜95/5である長繊維強化ポリアミド樹脂組成物が開示されている。
特表2003−503233号公報 特開2000−141502号公報 特許3387215号公報 特許3343381号公報 特開2002−234998号公報
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を用いて、プレス成形をした場合、機械的強度に優れた成形品が得られるものの、安全靴の先芯やトレイ等の、機械的強度、特に衝撃強度が要求される成形品ではなお不充分であり、更なる強度向上が望まれる。
一方、上記文献3〜特許文献5に記載された射出成形用又は射出成形用が意図されている成形材料をプレス成形品の製造に使用すると、必ずしも充分な成形性及び機械的強度が得られない。特に、ガラス繊維の含有量を多くして強度の大きい成形品を生産性よく製造しようとした場合に問題を有していた。
本発明は、特に、プレス成形をした場合に、高剛性、高衝撃強度などの優れた機械的強度を成形品が得られる長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を進めたところ、下記するような新規な知見を得て、本発明に到達した。
即ち、高い剛性が求められる成形品の製造には、ポリオレフィン樹脂を使用した強化繊維比率の高い長繊維強化成形材料が使用されているが、成形品によっては、更に高い剛性が求められている。この強化繊維比率が高い成形材料の成形には射出成形には好適ではなく、主にプレス成形法によって成形されている。これは、プレス成形の場合には、成形品中の強化繊維の残存繊維長が長く、剛性のみではなく衝撃強度なども高くなるためである。更に、剛性の高いポリアミド樹脂を使用することで、長繊維強化成形材料の剛性を上げることが考えられるが、プレス成形法では材料が加熱された状態で外気にさらされる為に、ポリアミド樹脂には吸湿による強度低下、樹脂の酸化劣化による強度低下の懸念がある。また、ポリアミド樹脂はポリオレフィン樹脂と比較して融点が高く、同じ成形条件で欠肉が発生し易くなる。
本発明者は、高い剛性のポリアミド樹脂とポリオレフィン樹脂とを特定の比率で混合、かつ、MFRを70〜200g/10min.とすることにより、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料が強化繊維比率が高い場合でも含浸することができ、かつ生産性が良好になり、剛性や衝撃強度の高い成形品を得ることができることを見出した。更に、この場合、従来の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料と同等の低い温度でプレス成形が可能となり、加熱の為のエネルギー効率が低下せず、従来所有していた設備で成形品を得ることが可能となることも見出した。
かくして、本発明は以下を要旨とするものである。
(1)ポリオレフィン樹脂(A):70〜90質量部とポリアミド樹脂(B):10〜30質量部とを含む熱可塑性樹脂と、強化繊維とを含有してなるプレス成形用の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料であって、前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂(A):70〜90質量部とポリアミド樹脂(B):10〜30質量部とを含み、かつMFR(230℃、21.2N)70〜200g/10minを有し、前記強化繊維が、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料100質量部に対して65〜80質量部含有され、かつ長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の平均径が0.2〜1.5mmであることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料。
(2)ポリオレフィン樹脂(A)が、その一部又は全部が不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂である上記(1)に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
(3)ポリオレフィン樹脂(A)がポリプロピレン樹脂である上記(1)または(2)に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
(4)ポリアミド樹脂(B)がナイロン6である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
(5)強化繊維が、ガラス繊維である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
)上記(1)〜()のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を、複数個ランダムに配置し、これを加熱下にプレスすることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂成形シート材料の製造方法。
)上記(1)〜()のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を複数用い、これらを加熱した後または加熱しながら成形型にランダムに配置しプレスすることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
)上記(1)〜()のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を複数個用い、これらを散布堆積させる線状成形材料供給工程と、前記堆積した長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料に加熱ガスを通過させて線状成形材料を加熱溶融し溶融塊を形成する溶融塊形成工程と、前記溶融塊を成形型に供給しプレス成形して成形体を得る成形工程とを含むことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
)繊維強化熱可塑性樹脂成形品が安全靴用先芯である上記()又は()に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
10)上記()に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形シート材料を切出し、成形型に供給しプレス成形することを特徴とする安全靴先芯の製造方法。
本発明によれば、プレス成形をした場合に、高剛性、高衝撃強度などの優れた機械的強度を成形品が得られる長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料が提供される。
本発明における熱可塑性樹脂を構成するポリオレフィン樹脂(A)は、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン系炭化水素化合物を適当な触媒を用いて付加重合することで得られるものであり、そのいずれもが使用できる。例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンホモポリマー、或いはこれらを主体とするコポリマー等が挙げられる。但し、コポリマーに関してはオレフィン以外のコモノマー成分が20質量%以下であるものが好ましい。また、ポリオレフィンは分岐構造を有するものでもよく、その重合度及び分岐度に関しても特に制限はなく、成形加工性を有するものであれば何れにてもよく、また2種以上の混合物でもよい。
本発明では、ポリオレフィン樹脂は、その一部又は全部が酸変性ポリオレフィン樹脂であるのが好ましい。一部に酸変性ポリオレフィン樹脂を使用する場合は、好ましくは1質量%以上、特に好ましくは5質量%以上であることが剛性及び衝撃性に優れるため好適である。
酸変性ポリオレフィン樹脂としては、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィンの単独重合体または共重合体も好ましい。その好ましい例としては、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合したもの、オレフィンと不飽和カルボン酸またはその誘導体から選ばれた1種または2種以上をランダムまたはブロック共重合したもの、またはこれらの重合体にさらに不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合したものが挙げられる。
上記カルボン酸変性のために使用される不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。また、不飽和カルボン酸の誘導体としてはこれらの酸の無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩などが挙げられる。その具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステルアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸モノアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、メタクリル酸ナトリウムなどを挙げられる。
上記の不飽和カルボン酸およびその誘導体のうち、好ましいのはアクリル酸若しくはメタクリル酸のグリシジルエステル、または無水マレイン酸である。これらにより変性された好ましい酸変性ポリプロピレン樹脂としては、エチレンおよび/またはプロピレンを主たる樹脂構成単位とするポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性したもの、エチレンおよび/またはプロピレンを主体とするポリプロピレンと(メタ)アクリル酸グリシジルエステルまたは無水マレイン酸とを共重合することにより酸変性したものが挙げられる。
上記ポリオレフィン樹脂または酸変性オレフィン樹脂は、その質量平均分子量が5,000以上であること好ましく、より好ましくは10,000以上であり、さらには15,000〜50,000が好ましい。
本発明で使用される熱可塑性樹脂を構成するポリアミド樹脂(B)としては、既知の種々のポリアミド系樹脂を挙げることができる。例えば、蓚酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸のようなジカルボン酸とエチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4−シクロヘキシルジアミン、m−キシリレンジアミンのようなジアミンとを重縮合して得られるポリアミド樹脂;カプロラクタム、ラウリンラクタムのような環状ラクタムを重合して得られるポリアミド樹脂;或いは環状ラクタムと、ジカルボン酸とジアミンとの塩を共重合して得られるポリアミド樹脂等を挙げることができる。これらのポリアミド系樹脂のうち、好ましくは、ナイロン6、ナイロン66及びこれらの共重合体等が挙げられ、ナイロン6が最も好ましい。これらナイロン6等はポリオレフィン系樹脂よりも熱変形温度が高く、衝撃強度改善に加え、熱変形温度の向上という効果も得られる。
本発明の熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂70〜90質量部と、ポリアミド系樹脂10〜30質量部とを含むことを必要とする。ポリオレフィン樹脂が70質量部より小さい場合には、成形品の欠肉等の欠点が生じ易くなり、また、90質量部より大きい場合には、充分な剛性衝撃強度が得られなくなってしまう。また、ポリアミド樹脂が10質量部より小さい場合には、衝撃強度改善効果が得られず、また、30質量部より大きい場合には、吸水により強度変化が大きくなるという問題を生じる場合がある。
また、本発明の熱可塑性樹脂の有するMFR(メルトフローレート、230℃、21.2N)は、70〜200であることが必要である。MFRが70より低いとガラス含有量の多い本発明においては、特に生産性や含浸性が劣り、また、200より高い場合には、充分な剛性、衝撃強度が得られなくなり、いずれも本発明の目的が達成できない、なかでも、MFR(230℃、21.2N)は、90〜180であるのが好適である。
本発明における強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維等を単独あるいは併用して使用することができる。なかでもガラス繊維は特性上優れているため好ましい。強化繊維は、モノフィラメントの平均径が6〜23μmであることが好ましく、より好ましくは10〜17μmである。モノフィラメントの平均径が6μm未満の場合はコスト高になるとともに、強化繊維の含有率が同じ場合、表面積が大きくなり成形流動性が劣るため好ましくない。また、平均径が23μmを超える場合は、機械的物性が劣るため好ましくない。
また、長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を得るための強化繊維は、100〜2,000本、より好ましくは200〜1,600本のモノフィラメントによって集束される。モノフィラメントが、100本未満であると、後工程において多数本の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料が必要となるため作業が煩雑となる。また、2,000本を超えると、強化繊維ストランドが太くなるため、熱可塑性樹脂をモノフィラメント間にまで均一に含浸させることが困難になると共に、できあがった長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料が太くなり、該線状成形材料から成形シート材料や成形体を製造した場合において線状成形材料が粗く分散されるため、最終的に得られる成形品の強度が十分に得られない。
上記強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させることにより、好ましくは以下の(a)〜(f)の特徴を有する本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料が得られる。
(a)円形又は楕円形に近い断面形状を有する。これにより、線状成形材料を三次元的に配向して散布することが容易となり、このように散布されたものをプレス成形すると、強化繊維が三次元的に配向したシート材料又は成形品を得ることができる。また、強化繊維が三次元的に配向することにより、得られたシート材料を成形する際に、強化繊維が絡み合って樹脂と一体に流れやすくなり、強化繊維の分布が均一になるため、機械強度及び寸法安定性に優れた成形品を得ることができる。一方、線状成形材料の断面形状が極端に偏平又はテープ状の場合、均一に散布しても二次元的に配向しやすく、プレス成形する際に、強化繊維が絡んだまま流れにくいため、成形品中の強化繊維の分散性が劣り、期待する機械的強度を得ることができない場合がある。
(b)平均径が0.2〜1.5mmであり、好ましくは、0.2〜1.0mmである。これにより、散布の工程で線状成形材料を均一に分散させることができ、プレス成形したときに、強化繊維を均一に分布させることができる。また、プレス成形する際の成形流動性が良好で、強化繊維の分布が均一になるため、機械強度及び寸法安定性に優れたシート材料や成形品を得ることができる。
平均径が1.5mmを超えると、プレス成形したときに前記線状成形材料が粗く分散されるため、機械的強度が低いものしか得られない。また、平均径が0.2mm未満であると、線状成形材料を作成する工程が煩雑になり、線状成形材料の表面積が増えるため、成形時の成形流動性が劣る。
(c)強化繊維の含有率が65〜80質量%、より好ましくは65〜75質量%である。強化繊維の含有率が65質量%未満の場合は、補強効果が低く、80質量%を超える場合は、繊維を包むマトリックスの量が少なすぎ、後述する含浸率を95%以上に確保することが困難となる。
(d)熱可塑性樹脂の含浸率が95%以上である。これにより、成形する際にモノフィラメントレベルまで熱可塑性樹脂を含浸させる工程が不要となるため、高い成形圧が不要となり、成形時間を短縮することができる。熱可塑性樹脂の含浸率が95%未満であると、空隙部が欠陥となりやすく、成形品の表面外観が悪くなると共に、均一な機械的特性が得られなくなる。
なお、本発明における含浸率とは、長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料の断面を200倍の電子顕微鏡で観察し、20μmのメッシュをおいて、メッシュ中に少しでもボイド(空気の泡)が認められれば、このメッシュをボイド面積として加え、観察した全断面積とボイド面積とから以下の数式によって求めたものである。

{(全断面積−ボイド面積)/全断面積}×100(%)

(e)線状成形材料の平均長は10〜50mmとされる。平均長が10mm未満の場合には、強化繊維が短いため、最終的に得られる成形品の機械的物性が低下し、50mmを超える場合は、プレス成形時に線状成形材料を均一に散布することが困難になると共に、成形の際の成形流動性が劣り、強化繊維が均一に分散しにくい。
(f)線状成形材料の平均径(D)と平均長(L)の比(L/D)が好ましくは15〜100であり、特に好ましくは30〜80である。これにより、線状成形材料を堆積させたときに、より嵩高く散布することができ、得られるシート材料又は成形品中の強化繊維を三次元方向に配向させることがより容易になる。このため、成形の際に強化繊維が絡んだまま流れ、成形品の強化繊維の分散性が良好となり、期待する機械的強度を得ることができる。
本発明に用いる長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を製造する方法は、強化繊維を樹脂含浸槽に送り込み、溶融含浸法により樹脂を含浸させた後、1本又は複数本の強化繊維束をひとつのノズルから引き抜き、所定の長さに切断して得る方法が好ましい。更に、好ましくはスプリットを施すことなく集束した1本の強化繊維束をひとつのノズルから引き抜く方法を採用するとノズルからの引き抜きが容易となり、強化繊維の含有率を高めることができ、かつ毛羽の発生を少なくすることができる。この方法では、径の小さい長繊維強化状成形材料を比較的容易に得ることができるため、前記L/Dを15〜100にすることが容易になる。
本発明によれば、上述した特徴を有する長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を、例えばコンベア等の上に均一に散布し、加熱炉中に導き、無加圧下で加熱溶融接着させるか、あるいはダブルベルトや平板プレス、ロールプレス等を用いて加圧下で加熱溶融圧着することにより、長繊維強化熱可塑性樹脂成形シート材料又は成形品を得ることができる。
具体的には、下記の方法が挙げられる。
a)長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を複数用い、これを上記の散布方法等でランダムに散布し加圧または無加圧で、加熱することにより、シート状に溶融圧着する方法。シートは平板の成形品とすることも可能であり、また、このシートを成形材料として所定寸法に切り出して、再加熱して成形品を成形することもできる。
b)長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を複数用い、成形型にランダムに配置した後、成形型内で、成形材料を加熱してプレスする方法。
c)長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を複数用い、これらを加熱した後成形型に配置しプレスする方法。
c−1)長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を複数個用い、これらを散布堆積させる線状成形材料供給工程と、前記堆積した長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料に加熱ガスを通過させて線状成形材料を加熱溶融し溶融塊を形成する溶融塊形成工程と、前記溶融塊を成形型に供給しプレス成形して成形体を得る成形工程とを含む方法。
が挙げられ、全ての方法により剛性、衝撃強度に優れる成形品が得られる。
上記a)の方法でシート状の成形材料または成形品を作成する場合は、本発明は、マトリックス樹脂としてポリアミド樹脂を用いているため、加熱による劣化をより受けやすいものの、加熱とほぼ同時に加圧してシートを作成することで線状成形材料にできるだけ熱を加えずに済むため、結果として得られる成形品は機械的強度に優れる。
またc)〜c−1)の方法では、複数の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を一旦過熱し、溶融させた後に、溶融物を成形機に配置させるために、ガラス繊維が切断されることなく存在するため、成形品の機械的強度に優れるとともに、成形時のガラス繊維の流動性が向上し、成形品中にガラス繊維が均一に分散するため好ましい。c)の方法のうち、c−1)の方法は、長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を散布堆積し、加熱及び加圧して直接成形品を得ることが好ましい。特に本発明においては、前記成形材料を複数用いて散布堆積させると、該成形材料は3次元的に嵩高になりやすいために、c−1の方法により堆積させた長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料に加熱ガスを通過させて溶融し、これを成形型にてプレスすることが最も好ましい。
長繊維強化線状成形材料を散布する方法としては、線状成形材料を振動フィーダーに入れ、ある高さから落下させてコンベア上に均一に散布することが好ましい。落下させる高さは、線状成形材料の平均長や前記L/Dによっても異なるが、実質的に三次元に配向するような散布状態となるように適宜コントロールすればよい。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
実施例1
平均径13μmのモノフィラメントを用いて、スプリットをかけずに集束本数を6
00本とした1本のガラス繊維ストランドを、酸変性プリプロピレン樹脂を含んだポリプロピレン樹脂(MFR:200g/10min)70質量部とナイロン樹脂30質量部とからなる溶融した熱可塑性樹脂(MFR:100g/10min)の含浸浴中に導入した。
溶融含浸を行った後、内径0.49mmのノズルから50m/minの速度で引き抜き、長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を得た。このときの生産性は◎であった。なお、ここでの生産性は1時間引き抜いた時に全本数に対する切れた本数の割合を表し、1割以下を◎、2割以下を○、2割以上を×とした。得られた長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料の平均径は0.49mm、ガラス含有率は75質量%、含浸率はn=5の平均値で100%であった。
次いで、この長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料をペレタイザーで長さが20mmとなるように切断して短線状成形材料を作製し、得られた短線状成形材料1300gを400mm×400mm 枠内に散布し、240℃に加熱した平板プレスに移動し厚さ3mmのスペーサーを配置し2kg/cm2で7分間プレスした。その後冷却して長繊維強化熱可塑性樹脂成形成形品を得た。この平板からASTM D256,D790に準拠した形で試験片を切り出し、各n=5で強度測定を行った。その平均値を表1に示す。
参考例1
ポリプロピレン樹脂(MFR:200g/10min)60質量部とナイロン樹脂40質量部とからなる熱可塑性樹脂を使用した以外は、実施例1と同様の方法で長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材を得た。このときの熱可塑性樹脂のMFRは、90g/10min、生産性は○、平均径は0.49mm、ガラス含有率は75質量%、含浸率はn=5の平均値で99%であった。
次いで、該成形材料を用いて、実施例1と同様の方法で、成形、強度測定を行った。その平均値を表1に示す。
実施例
ポリプロピレン樹脂(MFR:200g/10min)80質量部とナイロン樹脂20量部とからなる熱可塑性樹脂可塑性樹脂を使用した以外は、実施例1と同等の方法で長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材を得た。このときの熱可塑性樹脂のMFRは、120g/10min、生産は◎、平均径は0.49mm、ガラス含有量は75質量%、含浸率はn=5の平均値で100%であった。
次いで、該成形材料を用いて実施例1と同様の方法で、成形、強度測定を行った。その平均値を表1に示す。
実施例
ポリプロピレン樹脂(MFR:200g/10min)90質量部とナイロン樹脂10質量部とからなる熱可塑性樹脂可塑性樹脂を使用した以外は、実施例1と同等の方法で長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材を得た。このときの熱可塑性樹脂のMFRは、140g/10min、生産は◎、平均径は0.49mm、ガラス含有量は75質量%、含浸率はn=5の平均値で100%であった。
次いで、該成形材料を用いて実施例1と同様の方法で、成形、強度測定を行った。その平均値を表1に示す。
参考例2
ポリプロピレン樹脂(MFR:200g/10min)95質量部とナイロン樹脂5質量部とからなる熱可塑性樹脂可塑性樹脂を使用した以外は、実施例1と同等の方法で長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材を得た。このときの熱可塑性樹脂のMFRは、160g/10min、生産は◎、平均径は0.49mm、ガラス含有量は75質量%、含浸率はn=5の平均値で100%であった。
次いで、該成形材料を用いて実施例1と同様の方法で、成形、強度測定を行った。その平均値を表1に示す。
比較例1
ポリプロピレン樹脂(MFR:200g/10min)40質量部とナイロン樹脂60質量部とからなる熱可塑性樹脂を使用した以外は、実施例1と同様の方法で長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材を得た。このときの熱可塑性樹脂のMFRは、60g/10min、生産性は×、平均径は0.49mm、ガラス含有率は75質量%、含浸率はn=5の平均値で96%であった。
次いで、該成形材料を用いて、実施例1と同様の方法で、成形、強度測定を行った
。その平均値を表1に示す。
比較例2
ポリプロピレン樹脂(MFR:30g/10min)70質量部を使用した以外は、実施例1と同様の方法で長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材を得た。このときの熱可塑性樹脂のMFRは、20g/10min、生産性は×、平均径は0.49mm、ガラス含有率は75質量%、含浸率はn=5の平均値で94%であった。
次いで、該成形材料を用いて、実施例1と同様の方法で、成形、強度測定を行った
。その平均値を表1に示す。
比較例3
一本のガラス繊維ストランドの集束本数を400本に変えた以外は、実施例1と同様の方法で長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材を得た。このときの熱可塑性樹脂のMFRは、100g/10min、生産性は◎、平均径は0.49mm、ガラス含有率は50質量%、含浸率はn=5の平均値で100%であった。
次いで、該成形材料を用いて、実施例1と同様の方法で、成形、強度測定を行った
。その平均値を表1に示す。
比較例4
平均径13mmのモノフィラメントを用いて、スプリットをかけずに集束本数600本としたガラス繊維ストランドを18本束ねたガラス繊維束に変え、ノズルの内径を2.2mmに変えた以外は、実施例1と同様の方法で長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材を得た。このときの熱可塑性樹脂のMFRは、100g/10min、生産性は×、平均径は2.2mm、ガラス含有率は75質量%、含浸率はn=5の平均値で90%であった。
次いで、該成形材料を用いて、実施例1と同様の方法で、成形、強度測定を行った。その平均値を表1に示す。
比較例5
ポリプロピレン樹脂(MFR:200g/10min)100質量部に変えた以外は、実施例1と同様の方法で長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材を得た。このときの熱可塑性樹脂のMFRは、200g/10min、生産性は◎、平均径は0.49mm、ガラス含有率は75質量%、含浸率はn=5の平均値で100%であった。
次いで、該成形材料を用いて、実施例1と同様の方法で、成形、強度測定を行った
。その平均値を表1に示す。
Figure 0004743592
表1から、本発明で規定する長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を用いた実施例1〜5の長繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、曲げ弾性率及びシャルピー衝撃強度に優れていることが分かる。一方、本発明で規定するよりも、ポリアミド樹脂が多く、熱可塑性樹脂のMFRが小さい比較例1では、含浸率が劣り、生産性が悪いことが分かる。
そして、比較例2では、ポリアミド樹脂は規定内だが、熱可塑性樹脂のMFRが更に小さい為に含浸率が劣り、生産性が悪いだけでなく、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度も劣ることが分かり、また、比較例3では、ガラス含有量を低くしたが、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度が劣ることが分かる。更に、本発明で規定するよりも、長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料の平均径を大きくした比較例4では含浸率が劣り、生産性が悪く、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度が劣ることが分かり、比較例5ではポリアミド樹脂を含んでいない為に、含浸率、生産性は優れるが、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度が劣ることが分かる。

Claims (10)

  1. ポリオレフィン樹脂(A):70〜90質量部とポリアミド樹脂(B):10〜30質量部とを含む熱可塑性樹脂と、強化繊維とを含有してなるプレス成形用の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料であって、前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂(A):70〜90質量部とポリアミド樹脂(B):10〜30質量部とを含み、かつMFR(230℃、21.2N)70〜200g/10minを有し、前記強化繊維が、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料100質量部に対して65〜80質量部含有され、かつ長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の平均径が0.2〜1.5mmであることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料。
  2. ポリオレフィン樹脂(A)は、その一部又は全部が不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂である請求項1に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料。
  3. ポリオレフィン樹脂(A)がポリプロピレン樹脂である請求項1または2に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料。
  4. ポリアミド樹脂(B)がナイロン6である請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料。
  5. 強化繊維が、ガラス繊維である請求項1〜4のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料。
  6. 請求項1〜のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を、複数個ランダムに配置し、これを加熱下にプレスすることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂成形シート材料の製造方法。
  7. 請求項1〜のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を複数用い、これらを加熱した後または加熱しながら成形型にランダムに配置しプレスすることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
  8. 請求項1〜のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料を複数個用い、これらを散布堆積させる線状成形材料供給工程と、前記堆積した長繊維強化熱可塑性樹脂線状成形材料に加熱ガスを通過させて線状成形材料を加熱溶融し溶融塊を形成する溶融塊形成工程と、前記溶融塊を成形型に供給しプレス成形して成形体を得る成形工程とを含むことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
  9. 繊維強化熱可塑性樹脂成形品が安全靴用先芯である請求項又はに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
  10. 請求項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形シート材料を切出し、成形型に供給しプレス成形することを特徴とする安全靴先芯の製造方法。
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