本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の第1の実施の形態に係る通信システム評価装置1が評価の対象とする通信システムは、図1に例示するように、地上側に配備された地上局2と、中央局4と、移動体としての列車T内に配備された移動局5とを含む。
ここで地上局2は、移動体である列車Tの運行経路に沿って、沿線や駅などに設置された無線基地局であり、地上局通信設備20と、地上局無線機21と、地上局アンテナ22とを含んで構成され、移動局5は、移動体通信設備50と、移動体無線機51と、移動体アンテナ52とを含んで構成される。
地上局2の地上局通信設備20は、例えばルータなどの通信中継装置であり、地上側データ伝送網3を介して中央局4に接続される。この地上局通信設備20は、中央局4から地上側データ伝送網3を介して受信するパケットを、地上局無線機21へ出力する。また、この地上局通信設備20は、地上局無線機21が出力するパケットを、地上側データ伝送網3を介して中央局4へ送信する。
地上局無線機21は、地上局通信設備20からパケットが入力されると、所定の無線アクセスプロトコルに従い、送信タイミングを定める。そして地上局無線機21は、当該定めた送信タイミングで、入力されたパケットを無線信号に変換し、当該無線信号を地上局アンテナ22を介して送出する。また、この地上局無線機21は、地上局アンテナ22に到来した無線信号を受信してパケットに変換し、地上局通信設備20へ出力する。
移動局5の移動体通信設備50は、例えばルータなどの通信中継装置であり、イーサネット(登録商標)や無線LAN(Local Area Network)などデータ伝送網を介して、移動体である列車T内の少なくとも一つの通信端末Lとの間で、パケットのデータを送受している。
移動体無線機51は、地上局2から、所定の無線アクセスプロトコルに従って送信した無線信号が移動体アンテナ52に到来すると、当該無線信号を受信し、受信した無線信号をパケットに変換して、移動体通信設備50に出力する。また、この移動体無線機51は、移動体通信設備50からパケットが入力されると、所定の無線アクセスプロトコルに従い、送信タイミングを定める。そして移動体無線機51は、当該定めた送信タイミングで、入力されたパケットを無線信号に変換し、当該無線信号を移動体アンテナ52を介して送出する。
地上側データ伝送網3は、複数の地上局2、及び中央局4との間でパケットを伝送するためのデータ伝送用ネットワークであり、例えば、広域イーサネットやSDH(Synchronous Digital Hierarchy)、ないしWAN(Wide Area Network)専用回線などで構成される。
中央局4は、ルータなどの通信中継装置やサーバ、認証装置などを含んで構成され、移動局5とパケットを送受する通信端末に対して、地上局2を介して種々の通信サービスを提供する。
以上のような通信システムを評価の対象とする、本発明の実施の形態に係る通信システム評価装置1は、図2に示すように、入力部11と、出力部12と、記憶部13と、演算部14とを含んで構成されている。
入力部11は、運行予定を表す運行情報と、測定された無線通信環境指標を表す情報との入力を受けて、これらの情報を演算部14に出力する。ここに、運行情報は、列車Tやバスなどの場合は、ダイヤグラムの情報であり、少なくとも評価の対象となる移動体(以下、注目移動体と呼ぶ)の移動経路上の各位置の通過時刻を規定する情報である。また無線通信環境指標は、例えば、受信電力分布やビット誤り率などが注目移動体の移動位置に対してどのように変化するかを表す情報であり、例えば移動位置に対する曲線を規定する情報(グラフを描画可能な情報、例えば複数の移動位置における受信電力やビット誤り率の値の列など)として入力する。
出力部12は、ディスプレイなどであり、演算部14から入力される指示に従い、演算の結果などの情報を表示出力する。記憶部13は、例えばディスク装置や、半導体記憶素子などであり、入力された情報や、演算の結果などを保持する。また、この記憶部13は、演算部14のワークメモリとしても動作する。さらに演算部14がプログラムに従って動作する汎用の演算処理装置(プロセッサなど)である場合は、この記憶部13には、演算部14が実行するプログラムが格納される。なお、入力された情報や演算結果は、記憶部13に必ずしも保持される必要はなく、例えばネットワークなどを介して接続されたサーバに蓄積されても構わない。
演算部14は、運行情報を用い、移動経路上の移動体の位置に対する、移動局5と地上局2との間の通信性能を表す情報を、移動体の移動時間経過に対する通信性能の変化の情報へ変換して出力する。この演算部14の具体的な処理の内容を次に説明する。
本実施の形態の演算部14は、FPGA等を用い、ハードワイヤードロジックによって実現されてもよいし、汎用のプロセッサを用いて、記憶部12に格納したプログラムを実行させることで、次の図3に示す処理を行わせてもよい。
演算部14は、移動体の位置を、移動経路上の所定の点(例えば路線の起点など。以下、この所定の点を起点と呼ぶ)からの移動距離Lで表して以下の演算を行う。入力された無線通信環境指標の測定結果に基づき、起点からの移動距離Lに対する無線通信環境指標Pfの変化を表す通信指標情報Pf(L)を生成する(S1)。ここで無線通信環境指標Pfは、例えば移動経路の沿線において、移動体や地上局アンテナの電波送受信に対する電波雑音電力の影響が無視できる場合は、受信電力Prを無線通信環境指標とし、電波雑音電力の影響が無視できない場合はビット誤り率εbを無線通信環境指標と定めればよい。
演算部14は、移動局5の無線機の性能を表す情報としての最小受信電力の情報に基づき、各地上局2が移動経路のどの範囲をカバーするかを表す情報を生成する(S2)。そしてこの情報を基に、移動局5が通信先の地上局2を変更する、移動経路上のポイント(ハンドオーバするポイント)を起点からの距離で表したLh(n,n+1)を求める(S3)。ここでLh(n,n+1)とは、ある地上局2が生成するカバーエリア(無線セル)nと、それに隣接して、別の地上局2が生成する無線セルn+1の境界地点を表し、無線セルn内を移動している列車はこの地点Lh(n,n+1)に到来したときに無線セルnから無線セルn+1へのハンドオーバ処理を開始する。また無線セルn+1内を移動している列車は、この地点Lh(n,n+1)に到達したときに、無線セルn+1から無線セルnへのハンドオーバの処理を開始するする。Lh(n,n+1)の例として、運行情報である列車運行ダイヤグラムとともに示したものを図4に示す。
演算部14は、次に、評価の対象となる注目移動体(ここでは列車aとする)の運行情報を参照し、時刻に対する、注目移動体の起点からの距離の関係La(t)を求める(S4)。
ここで、演算部14が生成するPf(L)及びLa(t)の例を図5に示す。図5においては、無線通信環境指標を表すPf(L)として、移動体である列車が走行する鉄道路線の沿線に設置された地上局アンテナ22から送信された電波を、列車側の移動局5が受信する場合の受信電力Prを測定し、起点からの距離Lと受信電力Prの関係を求めた結果と、無線通信環境指標をビット誤り率εbとして、列車が走行する鉄道路線の沿線に設置された地上局アンテナ22から送信された電波を、列車側の移動局5が受信する場合のビットエラー率εbを、起点からの距離Lとの関係で表したものとを示す。
演算部14は、さらに、演算したPf(L)とLa(t)とを用いて、運行時刻に対する無線通信環境指標の変化をPfa(t)=Pf(La(t))を求める(S5)。図6に示すように、無線通信環境指標を受信電力と定義した場合とビット誤り率と定義した場合とにおけるPfa(t)の例を示す。
さらに演算部14は、各無線セルに複数の移動体がある場合の影響を考慮した無線通信環境指標を演算してもよい。この場合、演算部14はさらに、ハンドオーバするポイントを表す情報Lh(n,n+1)と、La(t)と、移動局5がハンドオーバの処理に要する時間(使用する移動体無線機51の性能と、無線アクセスプロトコルの種類とに依存する)と、に基づいて、注目移動体である列車aが各無線セルに進入する時刻と、各無線セルから離脱する時刻(以下、i番目の無線セルiに進入する時刻をtiain、i番目の無線セルiから離脱する時刻をtiaoutと記す)と、を求める(S6)。これらtiain及びtiaout等を時系列に並べると図7に示すようなものとなる。
演算部14は、さらに運行情報を参照して、Lhと、La(t)と、移動局5がハンドオーバの処理に要する時間とを用い、評価の対象となる移動体(ここでは列車a)が運行予定に従って移動するうちに、同時期に同じ地上局2と通信する他の移動体(列車b,c・・・)を検索する(S7)。具体的な処理例として演算部14は、運行情報に含まれている各列車b,c・・・が各無線セル1,2,・・・に進入する時刻と、各無線セル1,2,・・・から離脱する時刻(以下、i番目の無線セルiに列車xが進入する時刻をtixin、i番目の無線セルiから列車xが離脱する時刻をtixoutと記す)と、を求める。そしてこれらの情報を用いて、i番目の無線セルiについて、tiainからtiaoutまでの間に、当該無線セルiにおける他の列車の数の時間変化Nat(t)を得る(S7)。この時間変化Nat(t)は、例えば、図8に例示するようなものとなる。
列車aにとって同時期に同一無線セル内に存在する他列車は、通信時に送信タイミングが一致し送信権の競合が発生する可能性があり、通信スループットなどの通信性能に影響を及ぼすので、通信性能の評価には同時期に同一無線セル内に存在する他列車の数などの情報を得ておくのである。
演算部14は、各列車a,b,c,・・・が地上局2との間で送受信する通信トラフィック量を測定し、または所定の値と仮定し、各列車a,b,c,・・・が走行中に送受信する通信トラフィック量と時刻の関係Tr(t)を求める(S8)。なお、ここでの説明は簡単のため全列車に関して同じTr(t)を用いる。
演算部14は、ここまでに求めた、Pfa(t)やNat(t)やTr(t)、及び、ハンドオーバするタイミングtiain,tiaoutなどから、注目移動体である列車aの通信性能を求める(S9)。本実施の形態では通信性能として通信スループットを用い、この通信スループットと移動開始からの時刻tとの関係Rac(t)を求めて出力する。
ここでRac(t)を求める方法としては、例えば、無線アクセスプロトコルとしてIEEE802.11標準方式を使用する場合、特開2005−303658号公報に、第1の実施形態として記載された方法を用いることができる。
すなわち、タイムスロットSlotが20μs、SIFS(Short Inter-frame Space)は10μs、DISF(Distributed Inter-frame Space)は50μsとし、時刻tにおいて同一の通信経路を使用する無線局の総数(移動局5の数)をNat(t)、送受信フレームの平均データ長をLm、全移動局5が単位時間当りに送信するデータの総量をTr(t)とする。また、送受信フレームのデータのスループットをここでは実効通信スループットRac(t)とする。
また、a>bのとき、
と演算する。以下の説明では、所定回数(7回)再送しても送信成功しなかったフレームは、再送失敗(リトライオーバ)フレームとして廃棄することとする。
通信プロトコルとしてIEEE802.11標準プロトコルを用いる場合を想定すると、ユニキャスト送信の場合、送信局Aが送信したフレームを、受信局Bが正常に受信すると、この受信局BはAckフレームを返信する。この送信局Aのフレームの送信開始から、Ackフレームが送信終了するまでの所要時間Tftは、次の式(2)で示される。
再送n回目のバックオフ時間の期待値Tbk(n)は、バイナリポテンシャルバックオフアルゴリズムより、式(3)で示される。
したがって、他のフレームとの衝突やノイズによるフレームエラーおよび他フレームの送信終了を待つ送信延期を考慮しない場合のフレーム送信時間の期待値Ttcoは、
Ttco=DISF+Tbk(0)+Tft
となる。
また、他局との通信衝突の確率を考慮すると、次のようになる。すなわち、ここでの衝突発生時のフレーム再送信開始タイミングは、CSMA/CD方式であるIEEE802.11標準プロトコルでは、フレーム送信前にランダムに選んだ数に比例した時間(バックオフ時間)だけ送信延期した後に送信を開始する。
フレームを送信しようとしているある無線局が、n回目の再送時に他の無線局と送信タイミングが一致するランダム時間を選ぶ確率Pcl(n)は、式(4)と表すことができる。
ここでNtlは、換算無線局数であり、
換算無線局数Ntl(t)=CEILING[Nat(t) η]
として演算される。ここで、CEILING[*]は、[*]内の数値を切り上げた整数値とすることを表す。また、ηは、
と定義する。ここでMIN[*]は、[*]の2つの数値のうち、絶対値の小さい値を選択することを意味する。
式(4)において、衝突確率を考える場合、他の無線局が送信起動をかけるタイミング及びフレーム送信開始までの時間はどちらもランダムである。したがって、ある無線局がフレームをどのタイミングで送信しても、他の無線局の送信タイミングが一致する確率は全て等しいと考える。例えば、ある無線局が送信時にランダムに選ぶ整数(n個の中から1個)に対応するタイミングと、他のN個の無線局の送信タイミングが一致する確率は(1/n)Nとする。
また、ネットワーク全体の負荷が小さいことは、ある時点、例えばある無線局が送信起動をかけた時点で送信フレームを持っている他の無線局の数が少ないことと等価であると見なし、換算無線局数Ntlを上のように規定したものである。
次に、通信フレームの送信遅延時間を考える。CSMA/CD方式であるIEEE802.11標準プロトコルでは、フレーム送信前にキャリアセンスを行い、無線伝送路に他の無線局からのキャリアが存在しなければ、予定のランダム時間だけ待ってからフレームを送信する。
もし、キャリアが存在していれば、そのキャリアが停止するまで待機し、さらにランダム時間待ってからフレームを送信する。また、送信前にランダム時間だけ待っている途中でキャリアをセンスした場合は、そのキャリアが存在している期間はランダム時間の計測を一時停止し、キャリアが停止した後、再度ランダム時間の計測を再開する。このキャリア存在中にランダム時間の計測を停止することを送信延期と呼ぶ。
再送n回目の送信延期時間の期待値Tdf(n)は、式(6)で表わすことができる。
式(6)では、送信延期がバックオフのランダム時間計測中に発生するため、ランダム時間の平均値に相当する時間に他の無線局が送信するフレーム数の期待値を計算している。なお、あるタイミングで他の無線局がフレーム送信する確率は衝突確率と同様、Pcl(n)である。例えば、再送0回目(最初の送信時)は、0〜31の中からランダムに整数を選び、それに20μsをかけた時間だけバックオフを行う。上記各整数から3を選ぶと、0,1,2のタイミングで送信される他の無線局のフレームが送信延期の対象となり、送信延期時間の期待値は、3 (Pcl(0) Tft)となる。他方、5を選んだ場合には、同様に、送信延期時間の期待値は、5 (Pcl(0) Tft)である。各整数を選ぶ確率は1/32であり、また、0を選んだ場合は衝突のみで送信延期はあり得ない。したがって、
Tdf(0)=31・(31+1)/2×Pcl(0)・Tft×(1/32)
=31/2×Pcl(0)・Tft
となる。他の再送回数の時も同様に考えて、このTdf(0)が得られる。
次に送信成功確率について考える。送信が成功する確率は、フレームエラーが発生しない確率と衝突が発生しない確率の積である。したがって、再送0回目(最初の送信時)に送信成功する確率Pts(0)は、
Pts(0)=(1−FER)(1−Pcl(n))
である。次に、再送1回目(最初の送信時)に送信成功する確率Pts(1)は、再送0回目で送信失敗したフレームが対象であるから、なおここにFERは、フレームエラーが生じる確率を表し、Pfa(t)をビットエラーレートとして、FER=Lm×Pfa(t)と演算することができる。
Pts(1)=(1−FER)(1−Pcl(1)) (1−Pts(0))
である。以下同様に、再送n回目に送信に成功する確率Pts(n)は、式(7)となる。
また、ここでは所定回数(7回)再送しても送信成功しなかったフレームは、再送失敗(リトライオーバ)フレームとして廃棄することとしているので、リトライオーバ確率Proは、式(8)となる。
次に、送信完了時間および実効通信スループットについて考える。
再送n回目の送信完了時間(キャリアセンスからAckフレーム送信終了までの所要時間)の期待値Ttc(n)は、
Ttc(n)=Ttc(n−1)+DISF+Tbk(n)+Tdf(n)+Tft
となる。ただし、Ttc(−1)=0とする。
ここで、フレーム送信時間(フレーム送信開始からAckフレーム送信終了までの所要時間)をTftとし、再送n回目のバックオフ時間の期待値をTbk(n)、また、衝突、フレームエラー及び他送信延期を考慮しない場合の送信完了時間、すなわちキャリアセンスからAckフレーム送信終了までの所要時間の期待値をTtcoとしている。また再送n回目の送信完了時間、すなわちキャリアセンスからAckフレーム送信終了までの所要時間の期待値をTtc(n)とする。
したがって、送信完了時間(送信開始からAckフレーム送信終了までの所要時間)の期待値Ttcは、式(9)で表わすことができる。
また、1フレームを送信完了するために必要な時間の期待値をTtcとすると、MACデータの実効通信スループットRac(t)は、再送失敗する確率Proも考慮して、
Rac(t)=Rmac=Lm×8/Ttc (1−Pro) (10)
となる。
このように、Pfa(t)、Nat(t)、Tr(t)、Rac(t)を特開2005−303658公報の第1の実施形態に記載されたBER、Nt、Rl、Rmacに置き換え、Pfa(t)を時刻tにおけるBER、Nat(t)を時刻tにおけるNt−1、全列車分のTr(t)の合計を時刻tにおけるRlと置き換えると、時刻tにおけるRmacが得られる。
なお、ハンドオーバが発生している期間は全くデータ伝送ができないため、ハンドオーバ処理中の時刻tではHo(t)=0、ハンドオーバ処理をおこなっていない時刻tではHo(t)=1となる関数Hoを用いると、時刻tにおけるRac(t)を、式(10)に代えて、
Rac(t)=Rmac・Ho(t)
としてもよい。ここに、
Rmac=Lm×8/Ttc (1−Pro)
である。
また、ここでの例では、CSMA/CD方式のプロトコルの例を用いて説明したが、他の無線アクセスプロトコルの例として、図9に示すポーリング方式も考えられる。
この方式では、地上局無線機21が、地上局2のカバーエリアにある移動体無線機51を順次、1局ずつ呼び出す(7001、7003、7005)、すると、呼び出された移動体無線機51がそれに応答する(7002、7004、7006)。地上局2および移動局5は、送信するデータが発生した場合には、呼び出しや応答の時に送信するパケット(7001〜7006)に、当該送信するデータを含めて送信する。また、図9では、パケットは時間τ[秒]毎に時分割多重方式で送信されるものとし、一つのパケットに含めることができるデータ量を最大α[バイト]とする。
時刻tにおける同一無線セル内に存在する移動局5の数はNat(t)であるから、図9に示すポーリング方式では、ある移動局5の送信間隔は2τ・Nat(t)[秒]となり、時刻tにおいて1つの移動局5が地上局2へ単位時間当たりに送信できる最大トラフィック量は8α/(2τ・Nat(t))[ビット/秒]となる。
ここで、1つの移動局5が時刻tにおいて地上局2との間で送受信するトラフィック量Tr(t)[ビット/秒]のうち、移動局5から地上局2へ送信する(上りの)トラフィック量を例えばTr(t)/2[ビット/秒]と仮定すると、無線伝送路でパケット誤りが発生しない場合でも、Tr(t)/2が8α/(2τ・Nat(t))より大きければ列車側(送信側)でデータ溢れが発生し、トラフィック量は8α/(2τ・Nat(t))で頭打ちになる。
また、時刻tにおけるビット誤り率はPfa(t)であるから、パケット誤り率を8α・Pfa(t)と考えると、1−(8α・Pfa(t))がパケットを正常に伝送できる確率である。
さらに、図8よりハンドオーバが発生している期間は全くデータ伝送ができないため、ハンドオーバが発生している時刻tではHo(t)=0、ハンドオーバが発生していない時刻tではHo(t)=1となる関数Hoを用いると、時刻tにおけるMACデータの実効通信スループットRac(t)[ビット/秒]は、
Rac(t)={8α/(2τ・Nat(t))}×{1−(8α・Pfa(t))}×Ho(t)
となる。
なお、これらのプロトコル以外あってでも無線アクセスプロトコルを数式などでモデル化すれば、通信能力を演算することができる。
Rac(t)の概要の例を図10に示す。図10におけるRac(t)のように通信スループットを時系列に表示すると、通信スループットが低い環境でもその継続時間が短く、無線アクセスプロトコルの再送機能により無視できる場合や、受信電力が大きくあるいはビット誤り率が低く通信スループットが大きくなるはずの環境が長い時間継続しても、すれ違い列車や追い越し列車などにより同一無線セル内に複数列車が存在して通信スループットが低くなる場合など、従来のように距離に対する受信電力やビット誤り率の関係だけでは判明しなかった通信性能を明らかにすることができる。
ところで、ハンドオーバするタイミングやNat(t)、Pfa(t)、Tr(t)を入力する際には、図11(a)から(c)等に示すように、テーブルとして入力することとしてもよい。
本実施形態によれば、運行予定に従って移動する移動体を用いた移動体通信システムにおいて、沿線の電波伝搬状態の変動や、他の移動体が及ぼす影響を、実際の運行予定を表す運行情報に従った時間的な変動に変換しており、これにより実際の移動中の通信性能を評価でき、より精度の高い通信性能評価を行うことできる。
[無線通信環境指標を演算で求める例]
ここまでの例では、無線通信環境指標である受信電力Prやビット誤り率εbを測定により求めていたが、これらの情報を計算により求めてもよい。
この例では、入力部11は、運行予定を表す運行情報と、通信性能の演算に用いる情報との入力を受けて、演算部14に出力する。ここで通信性能の演算に用いる情報は、移動体の移動経路上の各位置における移動局5と地上局2との間の通信性能の演算に用いられる情報であり、(a)無線パラメータやシミュレーションの対象となる空間(送受信局が存在する空間)の周囲環境(建物のレイアウトなど)、(b)地上局2の位置(アンテナの配置などを含む)、(c)周囲の雑音、(d)電波干渉波の電力等のシミュレーション環境に関する情報、などである。またこの通信性能の演算に用いる情報には、(e)使用する通信プロトコルを特定する情報を含んでもよく、さらに(f)地上局2の数、(g)通信端末の数、(h)各通信端末に必要な単位時間当りの送受信データ量及び(i)その他の所望のシミュレーション条件を含んでもよい。なお、無線パラメータは、使用する無線周波数や送受信変調方式や送信電力などの情報である。
また、この入力部11は、(j)各地上局2がカバーする通信可能範囲(カバーエリア)を規定する情報の入力を受けて、演算部14に出力する。
そして演算部14は、入力部11にて入力を受け入れた、通信性能の演算に用いる情報、すなわち使用する無線周波数やシミュレーションの対象となる空間(送受信局が存在する空間)の周囲環境(建物のレイアウトなど)や地上局2と移動局5との位置や送信電力、地上局2や移動局5が備えるアンテナの特性などの情報に基づき、地上局2と移動局5との間の無線通信環境指標を算出する。
ここで無線通信環境指標は、例としては、受信電力分布やビット誤り率などがある。例えば電界強度分布や遅延特性分布などの演算は、一般的に知られているレイトレーシング法や有限差分時間領域法などを用いて行うことができる。ここに、レイトレーシング法は、電波伝搬を幾何光学的に解析する方法であり、鹿子嶋憲一著「光・電磁波工学」コロナ社、2003年などの文献において述べられている。また、有限差分時間領域法は、マクスウェルの方程式を差分化して電磁界を解析する方法であり、宇野亨著「FDTD法による電磁界およびアンテナ解析」コロナ社、1998年などの文献に述べられている。なお、遅延特性とは、電波伝搬経路の異なる複数の電波の位相差の特性である。
また演算部14は、ビット誤り率を演算する場合や、上記演算で得られた電界強度分布や遅延特性分布を用い、さらに入力された情報として、送受信に使用される変調方式や周囲の雑音および電波干渉波の電力などの情報を参照して、通信に用いる変調方式との関係に基づいて定められる方法で誤り率特性分布を演算する。例えば通信に用いる変調方式がBPSK(Binary Phase Shift Keying)やQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)であれば、1ビット当りの信号電力に対する雑音密度の比であるEb/Noを用いて計算することができる。この信号電力対雑音密度の比Eb/Noは、上記演算で得られた電界強度分布や遅延特性分布を用い、さらに入力された情報として、送受信に使用される変調方式や周囲の雑音および電波干渉波の電力などの情報を参照して演算できる。このように、Eb/Noから伝送路誤り率特性分布を求める方法は、藤野忠著「ディジタル移動通信」昭晃堂、2000年などの文献において述べられている。
以下では、この場合の通信システム評価装置1の動作を、無線通信環境指標としてビット誤り率εbを用い、移動体が列車である場合を例として述べる。
この場合、通信システム評価装置1は、図12に示すように、まず沿線の地上局位置、地形、建築物を数値モデル化し、地上局2および列車で使用する無線機の送受信性能などから、地上局2が送信した電波を列車で受信した場合の受信電波強度と起点駅からの距離Lの関係Pr(L)を求める(S11)。ここでPr(L)を求める方法としては、レイトレーシング法やモーメント法など、一般の電波伝搬シミュレーションや電磁場解析ソフトウェアなどを使用することができる。
次に、鉄道路線沿線の電波雑音を列車で受信した場合の受信雑音強度と起点からの距離Lの関係Nr(L)を求める(S12)。このNr(L)を求める方法としては、沿線で電波雑音を計測した結果を用いてもよいし、電波雑音源の場所や電波強度が判明している場合は、レイトレーシング法やモーメント法などの一般の電波伝搬シミュレーションや電磁場解析ソフトウェアなどを用いてもよいし、全ての路線にわたり一定の電波雑音電力を仮定してもよい。
次に、PrとNrより、地上局2からの電波を列車で受信した場合のビット誤り率と起点からの距離Lの関係εb(Pr(L),Nr(L))を求める(S13)。ここで、εb(Pr(L),Nr(L))とあるのは、εbがPr(L)とNr(L)の関数であることを示す。PrとNrよりビット誤り率εbを求める方法には、上述の藤野忠著「ディジタル移動通信」(昭晃堂、2000年)などの文献において述べられている方法を用いることができる。図13に、起点からの距離Lに対するPr、Nrおよびεbの変化例を示す。
次に、評価対象となる列車(注目移動体)aの運行情報(この場合は列車運行ダイヤグラム)より、起点からの距離Lと通過時刻との関係La(t)を求める(S14)。
次に、上記εbとNrより、地上局2らの電波を列車で受信した場合のビット誤り率と通過時刻の関係εb(Pr(La(t)),Nr(La(t)))を求める(S15)。なお、εb(Pr(La(t)),Nr(La(t)))とは、εbがPr(L)とNr(L)の関数であり、さらにPrとNrがLa(t)の関数であることを示す。図14にεb(Pr(La(t)),Nr(La(t)))の例を示す。
本実施形態によれば、鉄道等、移動体の移動経路近傍の無線通信環境指標を、計算により求めるので、無線通信環境の測定作業負担の低減を図ることが可能である。
[応用例]
このように本実施の形態によると、無線通信の性能指標となるビットエラーレートや、受信電力、スループットなどの情報を、移動体の実際の移動状況に応じて、運行時刻別に評価できる。そこで、評価の結果のうち、現実に通信状況が所定の状態となる(例えばビットレートが予め定めたしきい値を超える、ないしは受信電力やスループットがしきい値を下回るなど)の条件を満足する時間帯を検出し、当該時間帯を強調表示するなどして、当該時間帯の存在を警告することとしてもよい。
さらに、無線通信の性能指標となるビットエラーレートや、受信電力、スループットなどの情報を、送受するデータの変調方式やプロトコルを変更しつつ評価することで、運行時刻別に、各変調方式や各プロトコルでの無線通信の性能指標を得ることができる。そこで、運行時間帯ごとに最も高い性能指標となる変調方式やプロトコルを提示する情報を出力してもよい。
この情報は、移動中の通信状態の変動に配慮して、場所・時間帯に応じて無線変調方式やプロトコルを適応的に変化させる処理に供することができる。
[移動体側端末からの通信評価]
実際の鉄道システムでは、上述の通信性能を持つ列車通信システムを使用して、業務用通信やインターネットアクセスなどの通信アプリケーションを使用することもあり、こうした通信アプリケーションを使用した場合の通信性能の評価も必要である。
本発明の第2の実施の形態に係る通信システム評価装置10は、図15に示すように、CPU(Central Processing Unit)や、主記憶部等を含む演算部71と、情報の入力などを行うキーボードやマウスなどの入力部72と、入力した情報や、動作状態、ログ情報などを表示出力するディスプレイなどの出力部73と、送受信するパケットを蓄積したり、ログ情報を保持するハードディスクや、メモリディスク、不揮発性メモリなどで構成可能な記憶部74と、地上局通信設備20や、移動体通信設備50に接続するためのインタフェース部75と、を含んで構成される。
ここで演算部71は、図16に示すように、機能的には、評価開始からの経過時刻tを計時するタイマ(不図示)と、複数の地上局無線アクセスプロトコル模擬部61と、地上局切替模擬部62と、移動局無線アクセスプロトコル模擬部63とから構成される。なお、以下の説明では、上記タイマが計時する時刻をシミュレーション時刻と呼ぶ。
地上局無線アクセスプロトコル模擬部61は、各地上局2に対応して設けられており、対応する地上局2の地上局通信設備20に接続される。この地上局無線アクセスプロトコル模擬部61は、地上局無線機21及び地上局アンテナ22の動作を模擬し、対応する地上局通信設備20宛のパケットを受信する動作や、対応する地上局無線通信設備20が出力するパケットを、無線アクセスプロトコルに基づいて無線伝送路を介して送信する動作をシミュレートする。なお、この地上局無線アクセスプロトコル模擬部61が模式的に、無線伝送路に対して送信するパケットは、実際には地上局切替模擬部62に出力される。
具体的な処理として、地上局無線アクセスプロトコル模擬部61は、図17に示すように、対応して接続されている地上局通信設備20からパケットの入力を受けると(S21)、当該パケットを移動局5へ送信する送信待ち時間Δtを無線アクセスプロトコルのモデルに基づいて計算する(S22)。この処理S22における送信待ち時間の計算例は後に述べる。
地上局無線アクセスプロトコル模擬部61は、パケットの入力を受けた時点でのタイマの計時するシミュレーション時刻tから、計算した送信待ち時間Δtに相当する時間が経過したか否かを判断し(S23)、送信待ち時間Δtに相当する時間が経過すると、入力されたパケットを地上局切替模擬部62に出力する(S24)。
地上局切替模擬部62は、少なくとも評価の対象となる移動体(以下、注目移動体と呼ぶ)の運行予定を記述した運行情報を参照し、評価の開始時点からの経過時刻tに対する注目移動体の所在位置の変化を表す情報La(t)を取得して処理を開始する。
さらに地上局切替模擬部62は、図18に示すように、地上局無線アクセスプロトコル模擬部61から、パケットの転送を受けると、当該転送されたパケットの宛先と、送出元の地上局通信設備20とを識別する(S31)。そして、この宛先となった移動体が注目移動体であり、かつ受信した時点での上記タイマの計時するシミュレーション時刻tにおける注目移動体の位置La(t)が、上記識別した地上局通信設備20を含む地上局2の通信範囲内に存在するか(在圏しているか)否かを判断する(S32)。地上局切替模擬部62は、ここで在圏していると判断すると、当該パケットを移動局無線アクセスプロトコル模擬部63に出力する(S33)。なお、ここで在圏していないと判断したときには、地上局切替模擬部62は、パケットを破棄する(S34)。
また、この地上局切替模擬部62は、図19に示すように、移動局無線アクセスプロトコル模擬部63からパケットの転送を受けると(S41)、当該転送を受けた時点での上記タイマの計時するシミュレーション時刻tにおける、パケットの送信元である注目移動体の位置La(t)を調べる(S42)。そして、このLa(t)の位置をカバーする地上局2があるか否かを検索する(S43)。ここでLa(t)の位置をカバーする地上局2が検索により見出された場合は、当該見出した地上局2に対応する地上局無線アクセスプロトコル模擬部61に対して、転送されたパケットを出力する(S44)。なお、検索により、La(t)の位置をカバーする地上局2が見出せなかった場合は、転送されたパケットを破棄する(S45)。
移動局無線アクセスプロトコル模擬部63は、注目移動体の移動体通信設備50に接続される。そして、この移動体通信設備50から入力されるパケットを、無線アクセスプロトコルに基づいて、地上局切替模擬部62に模擬的に送信する動作を行う。また、この移動局無線アクセスプロトコル模擬部63は、地上局切替模擬部62が出力するパケットを、接続されている移動体通信設備50に出力する。
具体的な処理の例として、この移動局無線アクセスプロトコル模擬部63は、図20に示すように、接続されている移動体通信設備50からパケットを受信すると(S51)、当該受信したパケットを地上局2へ送信する送信待ち時間Δtを、無線アクセスプロトコルに基づいて計算する(S52)。この送信待ち時間の計算方法についても後に述べる。
移動局無線アクセスプロトコル模擬部63は、パケットの入力を受けた時点でのタイマの計時するシミュレーション時刻tから、計算した送信待ち時間Δtに相当する時間が経過したか否かを判断し(S53)、送信待ち時間に相当する時間Δtが経過したと判断すると、受信したパケットを、地上局切替模擬部62に転送する(S54)。
ここで、地上局無線アクセスプロトコル模擬部61および移動局無線アクセスプロトコル模擬部63において、送信待ち時間Δtを、無線アクセスプロトコルに基づいて計算する方法について例を挙げて説明する。ただし、以下の例に限らず、他の無線アクセスプロトコルであっても、数式などでモデル化できれば同様に計算できる。
この送信待ち時間を計算する例の一つとして、無線アクセスプロトコルが図9に示したポーリング方式である場合の例を示す。この方式では、地上局無線機21が複数の移動局無線機51を、順番に1局ずつ呼び出し(7001、7003、7005)、呼び出された移動局無線機51がそれに応答する(7002、7004、7006)こととなる。地上局2および移動局5では、送信するべきデータが発生したときには、そのデータを、上述の呼び出しや応答の時に送信するパケット(7001〜7006)に含めて送信する。また、図9では、パケットは時間τ毎に送信されるものとし、各パケットの中に入れることができるデータ量を最大αバイトとする。
いま、地上局2が送信しようとするデータがβバイトである場合、γ=CEILING[β/α]個のパケットが必要となる。なお、CEILING[*]は*の小数点以下を切り上げた整数値を示すとする。この場合、送信待ち時間(送信完了までの待ち時間と同意)Δtを、(2γ−1)τ以上(2γ+1)τ以下と規定する。例えば、これらの平均値として、Δt=2γτとしてもよい。移動局5がβバイトのデータを送信する場合も同様である。
また、送信待ち時間を計算するもう一つの例として、無線アクセスプロトコルがIEEE802.11標準方式である場合を示す。この場合の送信待ち時間の計算方法は、特開2005−303658号公報に記載された方法を用いることができる。具体的例では、式(2)
や、
Ttco=DISF+Tbk(0)+Tft
を用いればよい。
ここで、地上局切替模擬部62が、図18に示した処理S32において、注目移動体の移動局5が、パケット送信元である地上局2のカバーエリアに在圏しているか否かを判断する方法について述べる。
地上局切替模擬部62は図21に示すように、まず、注目移動体の移動パターン情報を生成し、移動開始の位置(起点)をカバーエリアに含む地上局2を通信先として設定するなど初期化処理を行う(S61)。ここで移動パターン情報は、注目移動体の運行情報に基づいて生成できる。例えば、注目移動体の移動経路において、注目移動体が、通信先の地上局2を切り替えるポイント(ハンドオーバポイント)Lhを定めておく。
地上局切替模擬部62は、注目移動体が次に進入するべきカバーエリアをカバーする地上局2を特定する(S62)。この特定は、現在の通信先である地上局2のカバーエリアに対して、注目移動体の移動方向側に隣接するカバーエリアを備えた地上局2を見出すことで行うことができる。
また、地上局切替模擬部62は、注目移動体の移動が終了したか否かを調べ(S63)、移動が終了したと判断すると、処理を終了する。
地上局切替模擬部62は、この処理S63において、移動が終了していないと判断すると、タイマが計時しているシミュレーション時刻tにおいて、注目移動体の移動位置La(t)がハンドオーバポイントLhに到来しているか否か(当該時点が通信先となっている地上局2のカバーエリアから離脱する時刻であるか否か)を調べる(S64)。ここで、注目移動体の移動位置La(t)がハンドオーバポイントLhに到来していないならば、引き続き、現在通信先となっている地上局2のカバーエリアにあることとして、処理S63に戻って処理を続ける。
この処理S64において、注目移動体の移動位置La(t)がハンドオーバポイントLhに到来していると判断すると、ハンドオーバ処理に係る時刻だけ待機して(S65)、処理S62で特定した地上局2を新たな通信先として設定する(S66)。そして地上局切替模擬部62は、処理S62に戻って処理を続ける。
なお、ここでは移動距離La(t)により、通信相手の地上局2を特定する例について述べたが、これに限られるものではない。例えば、地上局切替模擬部62は、予め注目移動体が、各ハンドオーバポイントLhに到達する時刻tを求め、これにより各地上局2のカバーエリアに進入する時刻と、離脱する時刻とを算出しておき、移動開始からの時刻tにより、通信相手の地上局2を特定することとしてもよい。
また、ここでは無線伝送路のビットエラーの影響や、他の移動体の移動局5との無線アクセス競合の影響が考慮されていないが、これらを考慮したシミュレーションを行っても構わない。また、通信システム評価装置1を介して送信または受信されたパケット数や、廃棄されたパケット数などをログ情報として記録し、蓄積することとしてもよい。
この場合、図22に示すように、無線伝送路を模擬する無線伝送路模擬部64をさらに設け、地上局切替模擬部62の出力を、この無線伝送路模擬部64を介して、地上局無線アクセスプロトコル模擬部61や移動局無線アクセスプロトコル模擬部63へ出力することとする。
そして、無線伝送路模擬部64は、図23に示すように、地上局切替模擬部62が出力するパケットを受けて(S71)、このパケット内にビットエラーを発生させるか否かを判断する(S72)。この処理の方法については後に述べる。
無線伝送路模擬部64は、この処理S72でビットエラーを発生させないこととする場合は、処理S71で受けたパケットを、移動局無線アクセスプロトコル模擬部63へ転送する(S73)。一方、処理S72において、パケット内にビットエラーを発生させると判断されると、無線伝送路模擬部64は、当該パケットを廃棄する(S74)。また、この処理S74では、無線伝送路模擬部64は、パケットを廃棄する代りに、パケット内に実際にビットエラーを挿入することとしてもよい。
また、無線伝送路模擬部64は、図24に示すように、移動局無線アクセスプロトコル模擬部63からパケットが入力されると(S81)、このパケット内にビットエラーを発生させるか否かを判断する(S82)。この処理の方法については後に述べる。無線伝送路模擬部64は、この処理S82においてビットエラーを発生させないこととする場合は、処理S81で受けたパケットを、地上局切替模擬部62へ転送する(S83)。一方、処理S82において、パケット内にビットエラーを発生させると判断したときには、無線伝送路模擬部64は、当該パケットを廃棄する(S84)。この処理S84においても、無線伝送路模擬部64は、パケットを廃棄する代りに、パケット内に実際にビットエラーを挿入することとしてもよい。
ここで、無線伝送路模擬部64が、図23に示した処理S72や、図24に示した処理S82において、パケット内にビットエラーを発生させるか否かを判断する方法の例を図25に示す。
この例では、無線伝送路模擬部64は、図23や図24に示した処理を行う前に、図25に示すように、無線伝送路のビットエラー率εbを時系列に設定する(S91)。例えば、時刻aから時刻bまでの間はε=10の−5乗、時刻bから時刻cまでの間はεb=10の−6乗、というように設定する。
ここで、無線伝送路のビットエラー率εb算出のために、利用者が入力したビット誤り率εbの曲線を規定する情報を用いるか、あるいはビット誤り率の時間変化を表わすテーブルを参照する。
次に、無線伝送路模擬部64は、タイマが計時するシミュレーション時刻におけるビットエラー率の値を上述の設定に従ってεbcとする(S92)。そして1以上1/εbc以下の整数であるランダムの数値Yを定める(S93)。この値Yは、ビットエラーが発生するまでのビット長を表わす。
無線伝送路模擬部64は、処理S72やS82においては、図26に示すように、上記処理によって設定した数値Yから、受けいれたパケットのビット長を減算し、その減算結果を改めてYに代入する(S100)。次に、このYが0以下となったか否かを調べ(S101)、Yが0以下の値となっていれば、パケット内にビットエラーを発生させると判定し(S102)、また、図25の処理S92以下の処理を実行する(A)。
また、処理S101において、Yが0より大きい値であれば、パケット内にビットエラーを発生させないと判定する(S103)。このときには、判定のタイミングにおいてタイマが計時するシミュレーション時刻tでの、無線伝送路のビットエラー率εbが現在の無線伝送路のビットエラー率εbcと異なっているか(εbの値が変化する時刻を経過したか)否かを調べ(S104)、異なっていれば、図25の処理S92以下の処理を実行する(A)。また異なっていなければ、そのまま処理を続ける。
また、ここで述べた例では、無線伝送路のビットエラーの影響を模擬するために、ビットエラー率に基づいたビットエラー挿入あるいはパケット廃棄を行うこととしたが、ビットエラーの影響を模擬する別の方法として、指定された特定のパケットのみにビットエラー挿入あるいはパケット廃棄を行うこととしてもよい。ここで特定のパケットとは、例えば、TCP(Transmission Control Protocol)のSYNパケット、ACKパケット、FINパケットなどが挙げられる。これらはTCPヘッダの制御ビットを参照することで判断できる。
ただし特定のパケットとは、上記以外でも、パケットのビット配列から判断可能なものであれば、どのようなパケットであってもよい。
このように特定のパケットのみにビットエラー挿入あるいはパケット廃棄を行うと、その特定のパケットが消失した場合に通信システムがどのような動作を行うかを検証することが可能となる。
また、これら地上局切替模擬部62及び無線伝送路模擬部64は、さらに、注目移動体以外の、他の移動体の影響を反映させる動作を行ってもよい。この動作は、図27に示すような処理として行われる。すなわち、まず他の移動局5の発生局数、発生および消滅タイミング、各他移動局5から発生するトラフィック量を設定する(S110)。例えば、時刻aに他の移動体が、注目移動体が在圏する地上局2のカバーエリア内に発生し、各局から連続的にηバイトのパケットが発生し、時刻bには当該カバーエリアから消滅する、というように設定すればよい。
なお、注目移動体が属するカバーエリア内に進入または当該カバーエリアから離脱する他の移動体の数と、その進入、離脱の時刻とは、既に説明したように、運行情報を用いて生成することができる。また、他の移動体から発生するトラフィック量の算出のためには、移動体のトラフィック量を表わす曲線を規定する情報又はトラフィック量を表わすテーブル情報を用いればよい。
この場合、例えば地上局切替模擬部62は、タイマが計時するシミュレーション時刻を参照し、それが他の移動体の発生または離脱時刻となったか否かを調べる(S111)。ここで、他の移動体の発生時刻でも離脱時刻でもなければ、処理を終了する。
また、地上局切替模擬部62は、処理S111において、他の移動体の発生時刻となったと判断すると、他の移動体の数を表わす変数(例えばk)を、発生する移動体の数だけインクリメントし(S112)、他の移動体の擬似トラフィック(例えば、上述の設定では各局から連続的にηバイトとするなど)を発生している状態と設定する(S113)。この設定による演算の内容については後に述べる。
また、地上局切替模擬部62は、処理S111において、他の移動体の消滅時刻となったと判断すると、他の移動体の数を表わす変数(例えばk)を、消滅する移動体の数だけデクリメントし(S114)、他の移動体の擬似トラフィックが、消滅する移動体の数だけ消滅した状態とする(S115)。
ここで、他の移動体の擬似トラフィックを考慮した処理の第1の例として、図9に示したポーリング方式の場合を説明する。この場合、他移動体の擬似トラフィックの影響は注目移動体の送信待ち時間に反映する。
すなわち、時刻aから他移動体の数がk局となる場合、すなわち注目移動体も含めた、カバーエリア内の全移動体の数が(k+1)局の場合、γ=CEILING[η/α]として、送信待ち時間は、時刻aより{2(k+1)(γ−1)+1}・τ以上、{2(k+1)γ+1}・τ以下となり、その平均値は、{(2γ−1)(k+1)+1}・τとなる。
さらに、時刻bから他移動局数がkd局消滅する場合、すなわち注目移動体も含めた全移動局数が(k+1−kd)局となる場合、送信待ち時間は時刻bより{2(k+1−kd)(γ−1)+1}・τ以上、{2(k+1−kd)γ+1}・τ以下となり、その平均値は、{(2γ−1)(k+1−kd)+1}・τとなる。
また、他移動局の擬似トラフィックを考慮した処理の第2の例として、無線アクセスプロトコルにIEEE802.11標準方式を使用する場合について説明する。この例においても、他移動局の擬似トラフィックの影響は注目移動局からのデータの送信待ち時間に反映される。
この場合の送信待ち時間は、既に述べたTtc、すなわち、
Ttc(n)=Ttc(n−1)+DISF+Tbk(n)+Tdf(n)+Tft
とすることができる。
また、この実施の形態では、ログ情報蓄積部65をさらに設けてもよい。ログ情報蓄積部65を設ける場合、地上局無線アクセスプロトコル模擬部61や移動体無線アクセスプロトコル模擬部63は、送受信したパケット数や、バイト数などデータ量の累積値を演算して、ログ情報蓄積部65に出力する。
また無線伝送路模擬部64は、ビットエラー率の設定値や、廃棄されたパケット数など廃棄されたデータ量の累積値をログ情報蓄積部65に出力する。さらに地上局切替模擬部62は、通信先の地上局2を切り替えたときに、当該切替をした時点でタイマが計時しているシミュレーション時刻を出力する。
さらに、無線アクセス競合を模擬する場合は、発生、ないし消滅した他移動局数および発生するトラフィックの量などの情報を出力してもよい。
ログ情報蓄積部65は、これらの情報の入力を受けて、送受信したパケット数や、バイト数などデータ量の累積値、ビットエラー率の設定値、廃棄されたパケット数など廃棄されたデータ量の累積値、その他の情報をハードディスク等の記憶装置に保持する。
さらにここまでの説明では、注目移動体は、1つの移動体だけであり、通信システム評価装置10に接続する移動局通信設備50は、1局のみとして説明したが、複数の移動体通信設備50を接続して、複数の通信端末から評価可能とすることもできる。
この場合、地上局切替模擬部62は、接続される複数の移動体通信設備50の各々をアドレス(MACアドレスあるいはIPアドレスなど)によって識別する。これらのアドレスは予め入力されていてもよいし、通過するパケットより学習することとしても構わないが、各移動体通信設備50を接続したコネクタ等の物理的配線と、これらのアドレスを対応付ける。また、地上局切替の動作に関しては、この地上局切替模擬部62は、移動体通信設備50ごとに設けた移動体無線アクセスプロトコル模擬部63ごとに、個別に設定および処理を行う。
また、無線アクセスの競合を模擬する処理についても、各移動体無線アクセスプロトコル模擬部63に対して個別に行うが、接続された複数の移動体通信設備50が搭載された移動体の少なくとも一部複数が、同一の地上局2のカバーエリア内に存在する場合は、移動体通信設備50の各々について、それとは異なる他の移動体のパラメータ(他移動局の発生局数、発生および消滅タイミング、各他移動局から発生するトラフィック量)を反映させることにより、接続された複数の移動体通信設備50どうしの無線アクセス競合を、さらに実際に即した状態で模擬することができる。
また、この例では、移動体通信設備50間でのパケット送受信も模擬できる。この模擬を行う場合は、地上局切替模擬部62は、移動体通信設備50からのパケットの宛先アドレスが、他の移動体通信設備50の宛先アドレスになっていれば、地上局2ではなく、当該他の移動体通信設備50へ、パケットを送出する。
なお、本実施の形態の通信システム評価装置10は、上述のように演算装置などを用いて実現できるが、これに限られず、例えば各機能毎にFPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いてLSI化したり、ネットワークプロセッサなどで各機能を並列に動作させることとしてもよい。
さらに、設定項目やログ情報を印刷するための外部出力装置や、他のコンピュータ装置へ設定データを移動させるためのUSBメモリや、記憶部74に蓄積できない大容量のログ情報などを蓄積しておく外部記憶装置を設けてもよい。
1,10 通信システム評価装置、2 地上局、3 地上側データ伝送網、4 中央局、5 移動体、11,72 入力部、12,73 出力部、13,74 記憶部、14,71 演算部、20 地上局通信設備、21 地上局無線機、22 地上局アンテナ、50 移動体通信設備、51 移動体無線機、52 移動体アンテナ、61 地上局無線アクセスプロトコル模擬部、62 地上局切替模擬部、63 移動局無線アクセスプロトコル模擬部、64 無線伝送路模擬部、75 インタフェース部。