JP4729068B2 - 梁貫通用スリーブ - Google Patents

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この発明は、鉄骨梁を貫通する空調ダクトなどの取付けに使用される梁貫通用スリーブに関する。
構築物においては、火災により鉄骨部が熱影響で耐力が低下するのを防止するため、鉄骨部には耐火被覆を施すことが義務つけられている。一般に構築物の鉄骨梁には、空調ダクトなどを通すための貫通穴が形成されており、鉄骨梁の貫通穴周縁には空調ダクトを挿通させるためのスリーブが取付けられている。鉄骨梁の貫通穴周縁とダクトの外面との間には、通常隙間が存在するので、スリーブを貫通穴周縁に取り付ける前に、貫通穴周縁とスリーブの外面との隙間に耐火被覆材による耐火処理を事前に行う必要がある。耐火被覆材は、耐火性能の関係から所定の厚みを満たすことが要求されているが、高所において貫通穴周縁とダクトの外面との隙間に耐火被覆材を充填することは、作業が煩雑になり作業コストが増加するという問題があった。そこで、鉄骨梁の貫通穴周縁とスリーブとの間に予め耐火処理を施す必要のないスリーブが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1のスリーブは、図8および図9に示すように、金属板からなるスリーブ1の外面に切り起こされた溝付き爪2が周方向に複数形成されており、スリーブ1の周方向の各端部側には、スリーブ1を筒状に維持するための係止爪3と開口部4が形成されている。そして、これらの溝付き爪2の溝部2aを鉄骨梁の貫通穴周縁に嵌合させることにより、スリーブ1は鉄骨梁に密着した状態で取付けられるようになっている。
実開平7−21819号公報
しかし、図8および図9のスリーブは、切起こされた溝付き爪2を介して鉄骨梁の貫通穴周縁に支持されているので、実際にはスリーブ1は溝付き爪2の部分を除き鉄骨梁の貫通穴周縁に密着しておらず、スリーブの外面と鉄骨梁の貫通穴周縁との間には依然として隙間が存在することになる。スリーブ1の外面と貫通穴の内周面が密着していない場合は、従来と同様にスリーブ1の鉄骨梁への取付け後に、高所においてその隙間に耐火材を充填しなければならないという問題がある。また、図8および図9のスリーブ1では、溝付き爪2が鉄骨梁の貫通穴周縁に直接接触することになるので、火災時にはスリーブ1側の熱が溝付き爪2を介して鉄骨梁に伝熱され、熱影響により鉄骨梁の耐力が低下するという問題がある。
そこでこの発明は、簡易な構造でスリーブから鉄骨梁への伝熱を耐火被覆材によって確実に阻止することができ、かつスリーブの鉄骨梁への取付けが容易な梁貫通用スリーブを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、構築物の鉄骨梁に形成された貫通穴に挿通される梁貫通用スリーブであって、前記スリーブを周方向の両端部が重なるように筒状に巻いた金属板から構成し、前記スリーブの外周面に、前記鉄骨梁の貫通穴周縁と嵌合可能な周方向に延びる凹溝を形成し、該凹溝の断面形状が台形状で溝底幅が開口幅よりも小となっており、このような凹溝に帯状の耐火被覆材を巻きつけて配設し、前記スリーブの半径方向外方の復元力により前記凹溝を前記貫通穴周縁に嵌合させるとともに前記耐火被覆材を前記貫通穴周縁に押圧し、前記スリーブの周方向の他側に、前記耐火被覆材が前記貫通穴周縁に押圧された状態で前記スリーブの周方向の一側と当接し前記スリーブの半径方向内方の変位を阻止する切起片を設けたことを特徴とする梁貫通用スリーブである。
この発明によれば、スリーブの半径方向外方の復元力により、スリーブの凹溝が鉄骨梁の貫通穴周縁と嵌合し、スリーブは鉄骨梁に取付けられる。凹溝内に配設された耐火被覆材は、スリーブの半径方向外方の復元力により鉄骨梁の貫通穴周縁に押圧され、この貫通穴周縁と密着する。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の梁貫通用スリーブにおいて、前記耐火被覆材は、ロックウールから構成されていることを特徴としている。
請求項1に記載の発明によれば、筒状に巻いた金属板の弾性による半径方向外方の復元力により凹溝を鉄骨梁の貫通穴周縁に嵌合させているので、スリーブの鉄骨梁への取付け作業が容易となり、高所での作業能率を高めることができる。また、切起片がスリーブの周方向の一側と当接することにより、スリーブの半径方向内方の変位を阻止することができ、スリーブの鉄骨梁からの脱落を確実に防止することができる。さらに、耐火被覆材は鉄骨梁の貫通穴周縁に密着するので、スリーブからの鉄骨梁への伝熱を耐火被覆材によって確実に阻止することができ、火災による熱影響で鉄骨梁の耐力が低下するのを防止することができる。耐火被覆材は、スリーブの鉄骨梁への取付け後もスリーブの半径方向外方の復元力により鉄骨梁の貫通穴周縁への押圧が継続されるので、長期にわたり耐火被覆材をスリーブと鉄骨梁の貫通穴周縁へ密着させることが可能となり、鉄骨梁耐火性能を長期にわたり維持することができる。
また、凹溝の断面形状が、開口幅が溝底幅よりも大きい台形状であるため、凹溝を鉄骨梁の貫通穴周縁に容易に嵌合することができるとともに、耐火被覆材を凹溝に容易に巻きつけることができる。さらに、耐火被覆材は凹溝に巻きつけられているので、耐火被覆材の巻付け量により耐火被覆材の厚みを調整することができ、所望の耐火強度を容易に得ることができる。
請求項2に記載の発明によれば、耐火被覆材を加工性に優れた人造鉱物繊維であるロックウールから構成しているので、耐火被覆材を凹溝に合致した形状に加工することができる。
つぎに、この発明の実施の形態について図面を用いて詳しく説明する。
図1ないし図6は、この発明の実施の形態を示しており、とくに耐火被覆材を用いた梁貫通用スリーブを示している。図2において、符号10は構築物の鉄骨梁を示しており、鉄骨梁10は水平方向に延びている。鉄骨梁10は、H形鋼から構成されている。鉄骨梁10の断面中央部に位置するウエブ10aは、板厚Tを有する平板状に形成されている。鉄骨梁10には、ウエブ10aを直交する方向に貫通する円形の貫通穴11が形成されている。鉄骨梁10には、貫通穴11によって貫通穴周縁10bが形成されている。ここで、貫通穴周縁10bとは、貫通穴11の内周面11aおよびウエブ10aにおける貫通穴11の周辺を意味する。
鉄骨梁10の貫通穴11には、スリーブ20が挿通されている。スリーブ20は、例えば表面に亜鉛めっきが施された薄板鋼板から構成されている。この実施の形態においては、スリーブ20は空調用ダクト(図示略)を挿通するために使用されるが、配管などを通すために用いることも可能である。スリーブ20は、図2に示すように、周方向の両端部が重なるように筒状に巻かれている。スリーブ20の外周面には、鉄骨梁10の貫通穴周縁10bと嵌合可能な周方向に延びる凹溝21が形成されている。図3は、スリーブ20の展開図を示しており、スリーブ20は展開形状が長方形となっている。スリーブ20の幅方向中央部には、凹溝21が位置している。凹溝21は、スリーブ20の一端部20aから他端部20bに向かって直線状に延びている。図5に示すように、凹溝21は断面形状が台形状に形成されており、溝底幅W1が開口幅W2よりも小となっている。溝底幅W1は、鉄骨梁10のウエブ10aの板厚Tとほぼ同じに設定されている。凹溝21の断面形状を台形状にしたのは、鉄骨梁10の貫通穴周縁10bへの凹溝21の嵌合を容易にするためであり、また後述する耐火被覆材としてのロックウール25の凹溝21への巻きつけを容易にするためである。
スリーブ20の周方向の他側には、スリーブ20の周方向の一側と当接し、筒状に巻かれたスリーブ20の半径方向内方の変位を阻止する二つの切起片22が設けられている。切起片22は、凹溝21を中心として左右にそれぞれ一つずつ設けられている。凹溝21および切起片22は、スリーブ20をプレス加工することにより形成されている。切起片22は、プレス加工によってスリーブ20の一部をコの字状に切り込むことにより形成され、図6に示すように、この切り込まれた部分を外方向に押出し折り曲げることにより、スリーブ20の周方向の一端部20aと当接可能となっている。
筒状に巻かれたスリーブ20の凹溝21内には、周方向に延びる耐火被覆材としてのロックウール25が配設されている。ロックウール25は、岩綿とも呼ばれ、玄武岩や鉄炉スラグなどに石灰などを混合し、高温をかけて溶解して形成する人造鉱物繊維であり、耐火性および加工性に優れている。ロックウール25は、帯状に形成されており、耐火基準に適合した所定の厚みとなるよう凹溝21に複数回巻きつけられている。この実施の形態においては、ロックウール20の幅は、鉄骨梁10のウエブ10aの板厚Tおよび凹溝21の溝底幅W1よりも若干大となっていることから、ロックウール20の幅方向端部は、凹溝21の側面にも接触するようになっている。このように、ロックウール20は、加工性に優れた人造鉱物繊維であるので、凹溝21の形状に最適な形状に加工することできる。
スリーブ20の凹溝21は、スリーブ20の半径方向外方の復元力により、鉄骨梁10の貫通穴周縁10bに嵌合されている。また、耐火被覆材としてのロックウール25は、スリーブ20の半径方向外方の復元力により鉄骨梁10の貫通穴周縁11bに押圧されている。これにより、ロックウール25は、貫通穴11の内周面11aを含む貫通穴周縁10bと密着している。ロックウール25が貫通穴周縁10bに押圧された状態では、二つの切起片22がスリーブ10の周方向の他端部20aと当接しており、これによりスリーブ20は、半径方向内方の変位が阻止されるようになっている。
つぎに、この実施の形態におけるスリーブ20の鉄骨梁10への取りつけ手順および作用について説明する。スリーブ20を鉄骨梁10へ取付ける際は、図3に示す平板状のスリーブ20を直径が鉄骨梁10の貫通穴11の内径よりも小となるように筒状に巻く。この状態では、スリーブ10の周方向の端部20aと端部20bが重なるが、端部20bの近傍の切起片22はまだ外方に起こされていないので、スリーブ20は円筒状に保たれたままとなる。この状態で、スリーブ20の外周面に円環状の保持治具30を嵌め込む。保持治具30は、スリーブ20の外径を鉄骨梁10の貫通穴11の内径よりも小に維持し、スリーブ20を貫通穴11に挿通しやすくするためのものであり、かつ凹溝21へのロックウール25の巻きつけを容易にするものである。この実施の形態においては、保持治具30は円環状に形成されているが、スリーブ20の直径を鉄骨梁10の貫通穴11の内径よりも小に維持することができれば、保持治具30をスリーブ20から取り外しが容易な多角形などに形成してもよい。
スリーブ20への保持治具30の嵌め込みが終了すると、凹溝21へのロックウール25の巻き付けを行う。円環状の保持治具30がスリーブ20へ嵌め込むことにより、ロックウール25を巻きつける際に、筒状に巻かれたスリーブ20が弾性によって半径方向外方に広がることを阻止することができ、ロックウール25の巻き付けが容易となる。また、凹溝21は開口幅W2が溝底幅W1よりも大となっており、凹溝21の傾斜面によってロックウール25は確実に凹溝21の溝底側に案内され、ロックウール25の巻き付け作業が容易となる。ロックウール25は、所望の耐火強度が得られる厚みになるまで、凹溝21に巻きつけられる。このように、この実施の形態においては、巻き付けによりロックウール25を凹溝21に配設する構成としているので、ロックウール25の巻付け量を調整することにより、ロックウール25を耐火基準に適合した厚みに容易に調整することができる。
凹溝21へのロックウール25の巻き付けが完了すると、スリーブ20を鉄骨梁10の貫通穴11に挿通し、凹溝21の位置を鉄骨梁10の貫通穴周縁10bに合致させる。つぎに、凹溝21の位置を貫通穴周縁10bに合致させた状態で、スリーブ20に嵌め込んだ保持治具30をスリーブ20から抜取る。これにより、スリーブ20は、半径方向外方の復元力Fにより拡径し、凹溝21が貫通穴周縁10bに嵌合する。凹溝21は、開口幅W2が溝底幅W1よりも大となっているので、凹溝21の位置を貫通穴周縁10bに精度よく合致させなくとも、凹溝21を容易に貫通穴周縁10bに嵌合させることができる。
凹溝21が貫通穴周縁10bに嵌合した状態では、凹溝21に配設されるロックウール25は、スリーブ20の半径方向外方の復元力Fにより貫通穴周縁10bに向けて押圧され、ロックウール25は貫通穴11の内周面11aを含む貫通穴周縁10bに密着することになる。ロックウール25は、耐火基準に適合した厚みに調整されているので、鉄骨梁10における貫通穴11の内周面11aおよび貫通穴周縁10bは、ロックウール25を介してスリーブ20と熱的に遮断された構造となる。
図6に示すように、ロックウール25が押圧された状態では、スリーブ20の周方向の他端部20b側に設けられた二つの切起片22が外方に起こされ、スリーブ20の一端部20a側に折り曲げられる。これにより、二つの切起片22は、スリーブ20の周方向の一端部20a側と当接し、スリーブ20の半径方向内方の変位が阻止され、スリーブ20の鉄骨梁10からの脱落を確実に防止することができる。この状態では、スリーブ20の半径方向外方の復元力Fにより、ロックウール25の鉄骨梁10の貫通穴周縁10bへの押圧が維持されている。その後、鉄骨梁10の表面およびスリーブ20の表面には、別の耐火被覆材(図示略)による耐火処理が施される。
このように、スリーブ20の凹溝21に配設されたロックウール25は、貫通穴11の内周面11aおよび貫通穴周縁10bに密着するので、スリーブ20からの鉄骨梁10への伝熱をロックウール25によって確実に阻止することができ、火災による熱影響で鉄骨梁10の耐力が低下するのを防止することができる。また、ロックウール25は、スリーブ20の鉄骨梁10への取付け後もスリーブ20の半径方向外方の復元力Fにより鉄骨梁10の貫通穴周縁10bへの押圧が継続されるので、長期にわたりロックウール25をスリーブ20と鉄骨梁10の貫通穴周縁10bへ密着させることが可能となり、鉄骨梁10の耐火性能を長期にわたり維持することができる。
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、この実施の形態においては、ロックウール25を凹溝21に巻き付けてロックウール25を凹溝21に配設するようにしているが、図7に示すように、ロックウール26を展開したスリーブ20の凹溝21に吹付けてロックウール26を凹溝21に固着させる構成としてもよい。また、耐火被覆材はロックウール25、26に限定されることはなく、所望の耐火性能を有するものであれば、他の材料からなる部材であってもよい。さらに、スリーブ20内に挿通されるのは空調ダクトに限られず、配管などであってもよい。
本発明に係わる梁貫通用スリーブの取付け状態を示す拡大断面図であって、図2のA−A線に沿う拡大断面図である。 図1の斜視図である。 図1のスリーブの展開図である。 図1のスリーブへ耐火被覆材を巻きつける状態を示す斜視図である。 図1のスリーブの拡大正面図である。 図1のスリーブにおける両端部の重ね合せ状態を示す断面図である。 図1のスリーブの変形例を示す展開図である。 従来のスリーブの展開図である。 図8のスリーブの断面図である。
符号の説明
10 鉄骨梁(H形鋼)
10a ウエブ
10b 貫通穴周縁
11 貫通穴
20 スリーブ
21 凹溝
22 切起片
25 ロックウール(耐火被覆材)
30 保持治具

Claims (2)

  1. 構築物の鉄骨梁に形成された貫通穴に挿通される梁貫通用スリーブであって、前記スリーブを周方向の両端部が重なるように筒状に巻いた金属板から構成し、前記スリーブの外周面に、前記鉄骨梁の貫通穴周縁と嵌合可能な周方向に延びる凹溝を形成し、該凹溝の断面形状が台形状で溝底幅が開口幅よりも小となっており、このような凹溝に帯状の耐火被覆材を巻きつけて配設し、前記スリーブの半径方向外方の復元力により前記凹溝を前記貫通穴周縁に嵌合させるとともに前記耐火被覆材を前記貫通穴周縁に押圧し、前記スリーブの周方向の他側に、前記耐火被覆材が前記貫通穴周縁に押圧された状態で前記スリーブの周方向の一側と当接し前記スリーブの半径方向内方の変位を阻止する切起片を設けたことを特徴とする梁貫通用スリーブ。
  2. 前記耐火被覆材は、ロックウールから構成されていることを特徴とする請求項1に記載の梁貫通用スリーブ。
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