JP4728838B2 - 超音波によるスポット溶接部の評価方法及び装置 - Google Patents

超音波によるスポット溶接部の評価方法及び装置 Download PDF

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Description

本発明は、スポット溶接によって形成される溶融部(ナゲット)の直径を、超音波を利用した非破壊手段にて検査する方法及び装置に関する。
近年、例えば自動車ボディの製造工場などにおいては、スポット溶接部の検査を現場で高能率に行えるようにするため、簡便に実施可能なスポット溶接検査方法が待望されている。
自動車のボディは、数千点にも及ぶスポット溶接によって組立てられており、スポット溶接の良否が車体の強度や耐久性に直接影響を及ぼすため、スポット溶接が適切に行われているか否かを検査することは極めて重要である。従来、このようなスポット溶接部の検査方法として、スポット溶接された金属板の間へタガネを差込み、スポット溶接部が剥離するか否かを確認することにより良否を判定するタガネ検査が行われている。しかし、タガネ検査を行うとスポット溶接部が割れる場合があるので、タガネ検査によってはスポット溶接の良否を正確に判定することが困難である。また、タガネ検査によって破壊されたスポット溶接部を製品へ利用することは不可能であるため、コストが高くつく問題がある。
そこで、近年、超音波を用いてスポット溶接部の良否を非破壊で検査する装置及び方法が種々提案されている。
例えば特許文献1〜4には、2枚の板を重ねて溶接され製作されるスポット溶接部の良否評価のために、板面に垂直に超音波を入射させて反射波を検出する方法や装置が開示されている。又、特許文献5には、被検体を介してその上下に1組の局部水浸探触子を対向に配置して被検体を水平方向に移動させることにより、送信側局部水浸探触子から送信される超音波ビームにより被検体のスポット溶接部を走査し、受信側局部水浸探触子により受信された信号からスポット溶接部中の傷の有無を判定する超音波探傷装置が開示されている。
特開2000−146928号公報 特開2002−131297号公報 特開平11−2627号公報 特開平6−265529号公報 特開昭62−52456号公報 特開2004−163210号公報
しかし、これらの先行技術では、平板状の被検体に対して垂直方向に超音波を送受信する。よって、図15に例示する被検体のスポット溶接部102に形成されるくぼみ102bの周囲に形成される傾斜面102cにおいて、超音波ビームを効率よく被検体内に入射させることができないため、スポット溶接部102に形成されるナゲット102aの大きさを高精度に検出することが難しいという問題がある。
即ち、図15に示すように、上板101aと下板101bを重ねてスポット溶接すると、スポット溶接部102には、上板101aと下板101bの接合部に「ナゲット」と呼ばれる溶融凝固組織102aが形成される。又、スポット溶接では、図示しない電極チップによって上板101a及び下板101bが強圧されるので、上板101a及び下板101bの表面には、電極チップの先端部の形状に相当するくぼみ102bが形成される。更に、当該くぼみ102bの底面と上板101a及び下板101bの表面との間には、円錐状の傾斜面102cが形成される。溶接が正常に行われた場合、前記ナゲット102aの直径は、溶接に使用される電極チップの直径よりもやや大きいか同等程度になり、くぼみ102bの内径は、電極チップの先端部の形状が面取りを有する円柱形に形成されていることから、電極チップの円柱部の直径よりもやや小さくなる。従って、くぼみ102bの内径は、ナゲット102aの径よりもやや小さくなるのが通常である。溶接が正常に行われなかった場合には、正常に溶接が行われた場合に比べてナゲット径が小さくなり、強度不足等の異常が発生する。なお、図中の符号Sは、ナゲット102aの止端を示している。
このように、スポット溶接部102には、くぼみ102bの底面と上板101a及び下板101bの表面との間に円錐状の傾斜面102cが形成されるので、前記先行技術に係る超音波検査装置のように、超音波ビームを被検体である上板101a及び下板101bの表面に対して垂直方向に送受信して検査すると、超音波が傾斜面102cにおいて反射され、被検体の内部に殆ど伝搬しないため、検査部位からの信号が殆ど得られない。前述のように、ナゲット102aの大きさは、電極チップの直径よりもやや大きいか同等程度の直径になるので、ナゲット102aの止端Sと被検体に形成される傾斜面102cとは殆ど重なりあっている。従って、超音波が傾斜面102cにおいて反射されると、ナゲット止端Sの近辺からの正確な信号が得られにくくなり、正確なナゲット直径の判定及び欠陥の有無の判定をすることが困難になる。
本願発明者の一部は既に特許文献6において、複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価方法において、スポット溶接部の外側の金属板にスポット溶接部の溶接金属に向けてLamb波を励起し、Lamb波を溶接金属に透過させ、透過後Lamb波を受信することにより、スポット溶接部の健全性を評価することを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価方法を提案した。この技術によって、スポット溶接部に生成されるくぼみの周囲に形成される傾斜面の影響を受けずにスポット溶接部の評価を行なうことに成功した。しかし、特許文献6では、2つのLamb波探触子をスポット溶接部を挟んで向かい合わせて配置するに際し、2つのLamb波探触子とスポット溶接部との位置関係が所定の位置関係からずれると、Lamb波の伝搬経路がスポット溶接部の中心からずれるため、正しくスポット溶接部の健全性を評価できないことがあると判明した。この問題は、測定時間が短時間に限られるため、Lamb波探触子とスポット溶接部との相対位置の調整を十分に行うことができない場合に顕著に発生する。特許文献6では、正しくスポット溶接部の健全性を評価するためには長い測定時間が必要である。
ここにいうLamb波(Lamb wave)とは、板波(plate wave)とも称され、薄板(金属板、非金属板のいずれでもよい)へ超音波を特定の入射角で斜めに入射させた場合に発生する。入射波の屈折によって薄板中に生成された斜め進行する縦波や横波が薄板の表面および裏面においてモード変換を伴う反射を繰り返しながら伝搬して干渉する結果、薄板が板厚中心に関して対称、あるいは非対称に変位する進行波が生成される。この進行波がLamb波である(Joseph L. Rose、 Ultrasonic waves in solid media、 pp.101-126、 Cambridge Univ Press、 Cambridge、 1999を参照)。なお、Lamb波探触子とは、薄板へLamb波を励起するために、特定の入射角で超音波を薄板へ入射させることができる超音波探触子である。また、この探触子をLamb波の受波に用いることが可能である。
又、特許文献6に示された方法を用いてスポット溶接部の健全性を評価しようとする場合、特開2004−163210号公報の請求項3に示した2つの周波数f1及びf2(f1<f2)のLamb波を用いて透過したLamb波の振幅A1及びA2を検出し、それらの比(A2/A1)を求める方法を用いない場合には、2つのLamb波探触子と金属板との接触状態の変化によって、透過したLamb波の振幅が変化する場合があるため、スポット溶接部の健全性を正しく評価できないことがあることも判明した。この問題も、測定時間が短時間に限られ、Lamb波探触子と金属板との接触状態を十分に安定させることができない場合に顕著に発生する。この点からも、特許文献6では、正しくスポット溶接部の健全性を評価するためには長い測定時間が必要である。なお、2つの周波数のLamb波を用いる場合には、Lamb波の通過パスを同じにする必要から、1つのLamb波探触子の内部に2つの超音波振動子を前後に並べて取り付ける必要があるため、Lamb波探触子が大型化することが避けられないので、狭い場所にあるスポット溶接部の評価が難しい問題があった。
本発明は、かかる従来技術の不備を解決するためになされたものであって、その課題とするところは、測定時間が短時間に限られる場合においても、信頼性高くスポット溶接部の健全性を評価することにある。また、本発明は超音波探触子と金属板との接触状態に局所的な不具合があった場合にはこれを検知することにより信頼性高くスポット溶接部の健全性を評価することをその課題とする。
本発明は、複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価方法において、金属板またはスポット溶接部の表面沿いの方向と厚さ方向とによって形成される断面内を伝搬する超音波を被検体の表面沿いに伝搬する超音波と称することとしたとき、スポット溶接部の外側の金属板の直線上に並んだ複数の送波位置から複数方向へ向けて、被検体の表面沿いに伝搬する複数の超音波を送波し、スポット溶接部の外側の金属板の直線上に並んだ複数の受波位置において、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波、及び伝搬経路にスポット溶接部を含む被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波を受波し、前記伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波の透過時間または透過超音波の振幅の検出値から、超音波の送波手段および超音波の受波手段と金属板との接触状態を判別すると共に、前記複数位置において受波された超音波の透過時間を検出することにより、スポット溶接部のナゲットの径を測定することによって、前記課題を解決したものである。
前記複数位置において受波された超音波の振幅も検出することにより、スポット溶接部のナゲットの径を精度良く測定するようにしたものである。
本発明は、又、複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価装置において、金属板またはスポット溶接部の表面沿いの方向と厚さ方向とによって形成される断面内を伝搬する超音波を被検体の表面沿いに伝搬する超音波と称することとしたとき、スポット溶接部の外側の金属板の直線上に並んだ複数の送波位置から複数方向へ向けて、被検体の表面沿いに伝搬する複数の超音波を送波する送波手段と、スポット溶接部の外側の金属板の直線上に並んだ複数の受波位置において、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波、及び伝搬経路にスポット溶接部を含む被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波を受波する受波手段と、前記伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波の透過時間または透過超音波の振幅の検出値から、前記送波手段および受波手段と金属板との接触状態を判別する手段と、前記複数位置において受波された超音波の透過時間を検出することにより、スポット溶接部のナゲットの径を測定する手段と、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
又、前記スポット溶接部のナゲットの径を測定する手段が、前記複数位置において受波された超音波の振幅も検出するようにしたものである。
又、前記送波手段を、振動子アレイを備えた超音波探触子としたものである。
又、前記受波手段を、振動子アレイを備えた超音波探触子としたものである。
本発明によれば、スポット溶接部に形成されるくぼみの周囲に形成される傾斜面の影響を受けずに、正確に非破壊でスポット溶接部の評価を行なうことが可能になると共に、測定時間が短時間に限られる場合においても、信頼性高くスポット溶接部の健全性を評価することが可能である。また、本発明では超音波探触子と金属板との接触状態に局所的な不具合があった場合にはこれを検知することができるので、信頼性高くスポット溶接部の健全性を評価することが可能である。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
以下、2枚の金属板が接合されてなるスポット溶接部の評価を例にとり説明する。2枚の金属板の上側の板を上板、下側の板を下板と称する。本発明では、図1に示すとおり、振動子アレイ11を備えた超音波探触子10と振動子アレイ21を備えた超音波探触子20とを、上板1a上のスポット溶接部2を挟んだ位置に向かい合わせて当接させる。超音波探触子10及び超音波探触子20と上板1aとの間には適当な接触媒質を介在させる。
振動子アレイ11を備えた超音波探触子10を用いて、複数の位置から上板1aに超音波を送波する。超音波探触子10は、樹脂くさび12に振動子アレイ11が貼り付けられた構造を有しており、振動子アレイ11から送波された超音波が斜めに上板1aへ入射する。前記斜めに入射した超音波によって、図2に示す如く、上板1aの中に上板1a表面に対して斜めに進行する超音波が送波される。該斜め進行する超音波は、縦波および横波を含み、上板1aの底面及び表面において反射やモード変換を繰り返しながら、上板1a中を伝搬する。図2において実線は横波であり、破線は縦波である。超音波の上板1aへの入射角が適当な値の場合には、上記反射を繰り返して伝搬する超音波は、Lamb波と呼ばれる波動になる。伝搬してきた超音波は、振動子アレイ21を備えた超音波探触子20によって受波される。超音波探触子20は、樹脂くさび22に振動子アレイ21が貼り付けられた構造を有している。
振動子アレイ11を備えた超音波探触子10と振動子アレイ21を備えた超音波探触子20とによって、図3に示す平面経路(金属板の上面からみた経路)を伝搬した超音波を受信することができる。超音波探触子10の振動子アレイ11の個々の振動子を11〜11と表し、超音波探触子20の振動子アレイ21の個々の振動子を21〜21と表すことにする。Nとしては例えば4、8、16、32などの個数を用いる。図3はNが8の場合である。振動子アレイの振動子11〜11から送波される超音波には空間的に広がりがあるので、振動子11〜11から図3に示した平面経路をとる超音波を送波することができる。
超音波探触子10の振動子11から送波された超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波する。次に、超音波探触子10の振動子11から送波された超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波する。この過程を、超音波探触子10の振動子11から送波された超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波するまで、送波を行う振動子11(n=1,2,‥,N)を順次変更して行う。この結果、複数位置から送波され複数の方向へ伝搬する超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波することができる。
スポット溶接部2に生成されるナゲット2aは、図4に示すとおり、ほぼ板厚方向に平行な方向性を有する溶融凝固組織2bとなっている。この溶融凝固組織2bはデンドライト組織とも呼ばれ、一方向へ延びた粗い結晶の集まりであるため、金属板の金属組織に比べ、超音波の伝達が悪い(減衰が大きい)性質のほか、超音波の伝搬速度が金属板の金属組織とは若干異なる性質を持っている。溶融凝固組織2bでは、図4に示すミクロ金属組織の模式図のように金属結晶の特定の方位(図4に破線の矢印を用いて示す)が板厚(z)方向にほぼ揃っているため、該組織は弾性的な異方性を持っている。従って、超音波はその伝搬する方向に依存して伝搬速度が変化する。これに対して、金属板の金属組織では金属結晶がランダムな方向に向いているため、超音波の伝搬速度はその伝搬方向に依存せず、一定の値となる。以上、説明したことによって、被検体の表面沿いに伝搬する超音波の伝搬速度は、伝搬経路に溶融凝固組織2bを含む場合と伝搬経路に溶融凝固組織2bを含まない場合(金属板の金属組織のみを伝搬)との間で異なるのが一般的である。
従って、図5に第1実施形態を模式的に示すように、被検体の表面沿いに伝搬する超音波の伝搬経路(図5ではx方向へ超音波が伝搬)に溶融凝固組織2bがあった場合には、溶融凝固組織2bの板表面に平行な長さに応じて伝達に要する時間(透過時間。伝達時間ともいう。)が変化する。よって、図3に示した経路を伝搬する超音波は、その経路に溶融凝固組織2bが含まれる場合、伝搬経路に存在する溶融凝固組織2bの長さに応じて伝達に要する時間が変化した後、超音波探触子20に受波される。
図6は、板厚2.6mmの2枚の鋼板を重ねてスポット溶接を行ったサンプルに、前記したように超音波探触子10及び超音波探触子20をスポット溶接部2を挟んで向かい合わせて当接させ、振動子アレイの振動子11nが送波し、振動子アレイの振動子21(n=1,2,‥,8、それぞれ向かい合う振動子が超音波の送波および受波を行う)が受波した超音波の透過時間を検出した結果(アレイ配列方向でみた受波超音波の透過時間プロフィル)である。以下、nを素子番号と称する。横軸に示した1から8が素子番号に対応する。
図6の透過時間プロフィルにおいて、超音波の伝搬経路に溶融凝固組織2bを含む場合の超音波の透過時間は、超音波の伝搬経路に溶融凝固組織2bを含まない場合(素子番号1および8)の受波の透過時間と比べ、大きくなっている。これは、溶融凝固組織2bを有する部分をその表面沿いに伝搬する超音波の伝搬速度が、鋼板の金属組織をその表面沿いに伝搬する超音波の伝搬速度よりも小さいことによる。したがって、図6において受波の透過時間が大きい部分の幅が、板表面に垂直な方向から見たときの溶融凝固組織2bの大きさ、即ち、ナゲット径に比例する。
又、図7は、表面になだらかな曲率を有する板厚2.6mmの2枚の鋼板を重ねてスポット溶接を行った別のサンプルを用いて同様の測定を行った結果である。超音波探触子10および超音波探触子20が金属板に当接される表面(以下、接触面)は平面であるため、接触面と前記サンプル表面との間に若干の隙間が生じた。そこで、この隙間に接触媒質が満たされるようにして測定を行った。この隙間は超音波探触子10および超音波探触子20の素子番号8側に発生していた。図6と図7とを比較すると、素子番号nが大きい場合に、表面になだらかな曲率を有するサンプルにおける超音波の透過時間が大きくなっている。この原因は、隙間に満たされた接触媒質を超音波が伝搬する時間が透過時間に上乗せされていることである。逆に、溶融凝固組織2bを含まない伝搬経路をとる超音波の透過時間を比較することによって、超音波探触子10、または超音波探触子20と金属板との間の隙間の有無、即ち、接触状態を判別することができる。
図8は第1実施形態を実施するための装置の一例を示している。この装置は、超音波の送波に用いられる振動子アレイ11〜11を備えた超音波探触子10及び超音波の受波に用いられる振動子アレイ21〜21を備えた超音波探触子20、前記振動子アレイ11〜11の振動子から超音波を送波するのに用いられる電気パルスを供給し、又、前記振動子アレイ21〜21が受波した超音波の信号を増幅する超音波送受信器30、該超音波送受信器30と振動子アレイ11〜11との間に介在して、振動子アレイ11〜11の各振動子と超音波送受信器30との接続を切り替えるスイッチ回路25、前記超音波送受信器30と振動子アレイ21〜21との間に介在して、振動子アレイ21〜21の各振動子と超音波送受信器30との接続を切り替えるスイッチ回路26、前記超音波送受信器30によって増幅された信号のうち被検体の表面沿いに伝搬する超音波による信号を取り出すゲート手段31、該ゲート手段31によって取り出された受波超音波の信号から超音波の透過時間を検出する時間計測手段32によって構成されている。
なお、超音波送受信器30によって増幅された信号をA/D変換し、ソフトウェアによって、ディジタル化された信号から被検体の表面沿いに伝搬する超音波の透過時間を検出するようにゲート手段31および時間計測手段32を構成することもできる。
図8に示した装置において、超音波探触子10及び20のクサビ材12、22をポリスチロールとし、振動子アレイ11〜11及び21〜21のアレイ配列方向における振動子の幅を1.6mm、超音波の上板表面への入射角が34.7°となるようにしてスポット溶接部2の測定を実施した。測定の対象として板厚2.6mmの2枚の鋼板を重ねてスポット溶接して作製された30個のサンプルを用いた。ナゲット径の測定では、振動子アレイの振動子11が送波し、振動子アレイの振動子21(n=1,2,‥,8、それぞれ向かい合う振動子が超音波の送波および受波を行う)が受波した超音波の振幅から、図9に示すように、アレイ配列方向でみた受波超音波の透過時間プロフィルを補間によって求めて、この透過時間プロフィルが所定のしきい値Ttを上回る幅Wtを求めた。そして、該Wtをナゲット径とした。
ここで、しきい値Ttの設定方法は下記のとおりとした。即ち、予め数例のサンプルを用いて、断面検鏡の結果と前記透過時間プロフィルとを比較した結果、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波の透過時間に対してほぼ+0.5%をしきい値Ttとすると、検鏡により求めたナゲット径と本発明により求めたナゲット径が最もよく一致することが判明したので、ここではしきい値Ttを+0.5%とした。なお、前記しきい値Tt(+0.5%)は一例であって、実際は、測定対象ごとに実験値等に基づいてしきい値の設定を行うのが良い。
図8に示した第1実施形態の装置による(本発明による)測定結果を図10に示す。図10では、横軸に切断試験の結果求められたナゲット径をとり、縦軸に本発明の方法により求められたナゲット径をとって散布図表示を行っている。図10によれば、全ての測定値が±0.5mm以内におさまっており、信頼性の高い測定結果が得られることがわかる。
従来技術との対比のために、本発明の方法と特許文献6に示された方法との間で測定時間の対比を行った。本発明の方法では、1つのサンプル当たりの測定時間が平均3.5秒であったのに対し、特許文献6に示された方法では、本発明による装置と同程度の測定精度を得るのに必要な1つのサンプル当たりの測定時間が平均約30秒であった。特許文献6に示された方法では、超音波探触子と溶接凝固組織との位置合わせが短時間では行えないこと、精密な減衰測定には超音波探触子とサンプルとの接触状態の安定化が必要なことなどから測定時間が長くなった。特許文献6は短い測定時間が求められる現場でのスポット溶接部健全性評価に適用しにくいことが改めて明らかとなった。本実施形態の装置を用いることにより、短時間で精度が良いスポット溶接部健全性評価を行うことが可能である。さらに、本発明では超音波探触子と金属板との接触状態に局所的な不具合があった場合にはこれを検知することにより信頼性高くスポット溶接部の健全性を評価することが可能である。
なお、振動子アレイ11〜11及び21〜21のアレイ配列方向における振動子の幅を小さくすることによって、測定精度を更に高めることができる。振動子アレイ11〜11及び21〜21のアレイ配列方向における振動子の幅は、必要とされる測定精度に応じて決めるとよい。振動子の幅が十分に小さい場合には、透過時間プロフィルにしきい値を設定してナゲット径を測定する方法ではなく、溶融凝固組織を含まない経路での受波超音波の透過時間をτ0としたとき、単に、超音波透過時間がτ0から変化している幅Wtを求めてナゲット径とすることも可能である。また、図9に示した受波超音波のアレイ配列方向での透過時間プロフィルを用い、受波超音波の透過時間の最大値と溶融凝固組織を含まない経路での受波超音波の透過時間との比を求めて、これからナゲット径を求めることも可能である。
本実施形態においては、送波側、受波側、共に振動子アレイを備えた超音波探触子を用いているので、構成が簡略である。なお、いずれか一方、又は、両方に、複数の探触子を並置して用いたり、又は、単一の探触子を走査して用いることも可能である。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第1実施形態と共通する部分は説明を省略する。
スポット溶接部2に生成されるナゲット2aは、図4を用いて既に説明したとおり、ほぼ板厚方向に平行な方向性を有する溶融凝固組織2bとなっている。又、この溶融凝固組織2bは一方向へ延びた粗い結晶の集まりであるため、金属板の金属組織に比べ、超音波の伝達が悪い(減衰が大きい)性質を持っている。従って、図11に模式的に示すように、被検体の表面沿いに伝搬する超音波の伝搬経路(図11ではx方向へ超音波が伝搬)に溶融凝固組織2bがあった場合には、溶融凝固組織2bの板表面に平行な長さに応じて透過する超音波の透過波高さ(振幅ともいう)が低下する。よって、図3に示した経路を伝搬する超音波は、その経路に溶融凝固組織2bが含まれる場合、伝搬経路に存在する溶融凝固組織2bの長さに応じて振幅が低下した後、超音波探触子20に受波される。
図12は、図6に示した実験において、同時にアレイ配列方向でみた受波超音波の振幅プロフィル(透過波高さとも言う)を測定した結果である。以下、nを素子番号と称する。横軸に示した1から8が素子番号に対応する。図12の振幅プロフィルにおいて、超音波の伝搬経路に溶融凝固組織2bを含む場合の受波超音波の振幅は、超音波の伝搬経路に溶融凝固組織2bを含まない場合(素子番号1および8)の受波超音波の振幅と比べ、小さくなっている。これは、溶融凝固組織2bを有する部分をその表面沿いに伝搬する超音波が溶融凝固組織2bによる減衰を受けることによる。ゆえに、図12において受波超音波の振幅が小さい部分の幅が、板表面に垂直な方向から見たときの溶融凝固組織2bの大きさ、即ち、ナゲット径に比例する。具体的には、アレイ配列方向でみた受波超音波の振幅プロフィル(透過波高さプロフィルとも言う)を補間によって求めて、この振幅プロフィルが所定のしきい値Taを下回る部分(減衰帯)の幅を求める。そして、該減衰帯の幅Waをナゲット径とする。
以上から、アレイ配列方向でみた受波超音波の透過時間プロフィルとアレイ配列方向でみた受波超音波の振幅プロフィルとを同時に測定することによって、2通りのナゲット径を求めることができる。即ち、受波超音波の透過時間プロフィルから求めたナゲット径Ntおよびアレイ配列方向でみた受波超音波の振幅プロフィルから求めたナゲット径Naを同時に求めることができる。これら2つのナゲット径測定値を組み合わせることにより、一方のみを用いるナゲット径測定よりも高精度の測定を行うことが可能である。例えば、NtとNaとの平均値をナゲット径とする方法、NtとNaとの荷重平均値をナゲット径とする方法、2つの測定値の乖離が大きい場合には、いずれか一方の測定値をナゲット径とする方法などが考えられる。
また、本実施形態においても、図7を用いて説明したのと同様に、超音波の透過時間から超音波探触子10、または超音波探触子20と金属板との間の隙間の有無、即ち、接触状態を判別することができる。
図13は第2実施形態を実施するための装置の一例を示している。この装置は、超音波の送波に用いられる振動子アレイ11〜11を備えた超音波探触子10及び超音波の受波に用いられる振動子アレイ21〜21を備えた超音波探触子20、前記振動子アレイ11〜11の振動子から超音波を送波するのに用いられる電気パルスを供給し、又、前記振動子アレイ21〜21が受波した超音波の信号を増幅する超音波送受信器30、該超音波送受信器30と振動子アレイ11〜11との間に介在して、振動子アレイ11〜11の各振動子と超音波送受信器30との接続を切り替えるスイッチ回路25、前記超音波送受信器30と振動子アレイ21〜21との間に介在して、振動子アレイ21〜21の各振動子と超音波送受信器30との接続を切り替えるスイッチ回路26、前記超音波送受信器30によって増幅された信号のうち被検体の表面沿いに伝搬する超音波による信号を取り出すゲート手段31、該ゲート手段31によって取り出された受波超音波の信号から超音波の透過時間を検出する時間計測手段32、前記ゲート手段31によって取り出された受波超音波の信号から超音波の振幅を検出するピーク値検出回路33、前記時間計測手段32および前記ピーク値検出回路33によって検出された受波超音波の透過時間および振幅から、ナゲット径を演算する演算装置34によって構成されている。
なお、超音波送受信器30によって増幅された信号をA/D変換し、ソフトウェアによって、ディジタル化された信号から被検体の表面沿いに伝搬する超音波の透過時間および振幅を検出するようにゲート手段31、時間計測手段32、およびピーク値検出回路33を構成することもできる。
図13に示した装置において、超音波探触子10及び20のクサビ材12、22をポリスチロールとし、振動子アレイ11〜11及び21〜21のアレイ配列方向における振動子の幅を1.6mm、超音波の上板表面への入射角が34.7°となるようにしてスポット溶接部2の測定を実施した。測定の対象として板厚2.6mmの2枚の鋼板を重ねてスポット溶接して作製された30個のサンプルを用いた。なお、これらサンプルは実施例1のサンプルとは異なる。
透過時間に基づくナゲット径Ntの測定では、振動子アレイの振動子11が送波し、振動子アレイの振動子21(n=1,2,‥,8、それぞれ向かい合う振動子が超音波の送波および受波を行う)が受波した超音波から、図9に示すように、アレイ配列方向でみた受波超音波の透過時間プロフィルを補間によって求めて、この透過時間プロフィルが所定のしきい値を上回る幅Wtを求めた。そして、該Wtをナゲット径とした。
ここで、しきい値Ttの設定方法は下記のとおりとした。即ち、予め数例のサンプルを用いて、断面検鏡の結果と前記透過時間プロフィルとを比較した結果、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波の透過時間に対してほぼ+0.5%をしきい値Ttとすると、検鏡により求めたナゲット径と本発明により求めたナゲット径が最もよく一致することが判明したので、ここではしきい値Ttを+0.5%とした。なお、前記しきい値Tt(+0.5%)は一例であって、実際は、測定対象ごとに実験値等に基づいてしきい値の設定を行うのが良い。
また、振幅に基づくナゲット径Naの測定では、振動子アレイの振動子11が送波し、振動子アレイの振動子21(n=1,2,‥,8、それぞれ向かい合う振動子が超音波の送波および受波を行う)が受波した超音波の振幅から、図12に示すように、アレイ配列方向でみた受波超音波の振幅プロフィルを補間によって求めて、この透過時間プロフィルが所定のしきい値Taを下回る幅Waを求めた。そして、該Waをナゲット径とした。
ここで、しきい値Taの設定方法は下記のとおりとした。即ち、予め数例のサンプルを用いて、断面検鏡(切断試験とも言う)の結果と前記振幅プロフィルとを比較した結果、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波の振幅に対してほぼ−6dBをしきい値Taとすると、検鏡により求めたナゲット径と本発明により求めたナゲット径が最もよく一致することが判明したので、ここではしきい値Taを−6dBとした。なお、前記しきい値Ta(−6dB)は一例であって、実際は、測定対象ごとに実験値等に基づいてしきい値の設定を行うのが良い。
図13に示した第2実施形態の装置による(本発明による)測定結果を図14に示す。図14では、横軸に切断試験の結果求められたナゲット径をとり、縦軸に本発明の方法により求められたナゲット径をとって散布図表示を行っている。図14では、透過時間に基づくナゲット径Ntと振幅に基づくナゲット径Naとの平均値をナゲット径とした。図14によれば、全ての測定値が±0.4mm以内におさまっており、信頼性の高い測定結果が得られることがわかる。ここでは、透過時間に基づくナゲット径Ntと振幅に基づくナゲット径Naとの平均値を利用した例を説明した。これは、一例にすぎず、両者の最大値または最小値、あるいは両者のうち一方が想定されるナゲット径範囲外の測定値となった場合は他方の値を採用するような信頼度を考慮した判定など、測定対象や測定外乱等にあわせて、適宜判定方法を変更すればよい。
従来技術との対比のために、本発明の方法と特許文献6に示された方法との間で測定時間の対比を行った。本発明の方法では、1つのサンプル当たりの測定時間が平均3.5秒であったのに対し、特許文献6に示された方法では、本発明による装置と同程度の測定精度を得るのに必要な1つのサンプル当たりの測定時間が平均約60秒であった。特許文献6に示された方法では、超音波探触子と溶接凝固組織との位置合わせが短時間では行えないこと、精密な減衰測定には超音波探触子とサンプルとの接触状態の安定化が必要なことなどから測定時間が長くなった。特許文献6は短い測定時間が求められる現場でのスポット溶接部健全性評価に適用しにくいことが改めて明らかとなった。本実施形態の装置を用いることにより、短時間で精度が良いスポット溶接部健全性評価を行うことが可能である。さらに、本発明では超音波探触子と金属板との接触状態に局所的な不具合があった場合にはこれを検知することにより信頼性高くスポット溶接部の健全性を評価することが可能である。
なお、第1実施形態と同様に、振動子アレイ11〜11及び21〜21のアレイ配列方向における振動子の幅を小さくすることによって、測定精度を更に高めることができる。
前記実施形態においては、送波側、受波側、共に振動子アレイを備えた超音波探触子を用いているので、構成が簡略である。なお、いずれか一方、又は、両方に、複数の探触子を並置して用いたり、又は、単一の探触子を走査して用いることも可能である。
なお、以上の説明においては、本発明が金属板の溶接検査に適用されていたが、本発明の適用対象は、これに限定されない。又、溶接枚数も2枚に限定されず、スポット溶接部の健全性の評価も、ナゲット径のみを測定するものに限定されない。
本発明の実施形態の基本構成を示す斜視図 本発明の原理を説明するための、超音波の伝搬経路を示す断面図 同じく平面図 スポット溶接部の断面図 超音波透過時間とナゲットとの関係を示す説明図 透過時間プロフィルの測定例 なだらかな曲率を有するサンプルに対する透過時間プロフィルの測定例 本発明の第1実施形態を実施するための装置の例を示す一部ブロック図を含む斜視図 透過時間プロフィルからのナゲット径測定方法を示す説明図 本発明法による測定結果の精度を示す線図 受波超音波振幅とナゲットとの関係を示す説明図 振幅プロフィルからのナゲット径測定方法を示す説明図 本発明の第2実施形態を実施するための装置の例を示す一部ブロック図を含む斜視図 第2実施形態による測定結果の精度を示す線図 スポット溶接部を解説するための断面図
符号の説明
1a、101a…上板
1b、101b…下板
2、102…スポット溶接部
2a、102a…ナゲット
2b…溶融凝固組織
10、20…超音波探触子
11、21…振動子アレイ
25…スイッチ回路
26…スイッチ回路
30…超音波送受信器
31…ゲート回路
32…時間計測装置
33…ピーク値検出回路
34…演算装置

Claims (6)

  1. 複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価方法において、金属板またはスポット溶接部の表面沿いの方向と厚さ方向とによって形成される断面内を伝搬する超音波を被検体の表面沿いに伝搬する超音波と称することとしたとき、
    スポット溶接部の外側の金属板の直線上に並んだ複数の送波位置から複数方向へ向けて、被検体の表面沿いに伝搬する複数の超音波を送波し、
    スポット溶接部の外側の金属板の直線上に並んだ複数の受波位置において、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波、及び伝搬経路にスポット溶接部を含む被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波を受波し、
    前記伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波の透過時間または透過超音波の振幅の検出値から、超音波の送波手段および超音波の受波手段と金属板との接触状態を判別すると共に、
    前記複数位置において受波された超音波の透過時間を検出することにより、スポット溶接部のナゲットの径を測定することを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価方法。
  2. 請求項1において、前記複数位置において受波された超音波の振幅も検出して、スポット溶接部のナゲットの径を測定することを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価方法。
  3. 複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価装置において、金属板またはスポット溶接部の表面沿いの方向と厚さ方向とによって形成される断面内を伝搬する超音波を被検体の表面沿いに伝搬する超音波と称することとしたとき、
    スポット溶接部の外側の金属板の直線上に並んだ複数の送波位置から複数方向へ向けて、被検体の表面沿いに伝搬する複数の超音波を送波する送波手段と、
    スポット溶接部の外側の金属板の直線上に並んだ複数の受波位置において、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波、及び伝搬経路にスポット溶接部を含む被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波を受波する受波手段と、
    前記伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波の透過時間または透過超音波の振幅の検出値から、前記送波手段および受波手段と金属板との接触状態を判別する手段と、
    前記複数位置において受波された超音波の透過時間を検出することにより、スポット溶接部のナゲットの径を測定する手段と、
    を備えたことを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。
  4. 請求項において、前記スポット溶接部のナゲットの径を測定する手段が、前記複数位置において受波された超音波の振幅も検出するようにされていることを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。
  5. 請求項3又は4において、前記送波手段が、振動子アレイを備えた超音波探触子であることを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。
  6. 請求項乃至のいずれかにおいて、前記受波手段が、振動子アレイを備えた超音波探触子であることを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。
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