JP4723716B2 - 多孔性印判の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、連続気泡を有する熱可塑性の多孔質印材の表面を液体が滲み出し不能な非多孔質保護被膜と液体滲み出し部に形成した多孔性印判の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の熱可塑性樹脂を原料とする多孔性印判は、連続気泡を有する多孔質シートや多孔質パイプ等を印材とし、加熱した金型を直接押し当てたり、サーマルヘッドで直接加熱したり、炭酸ガスレーザやYAGレーザといった各種レーザ光を用いて加熱したり、発熱材を介在させ赤外線キセノンフラッシュランプなどによって加熱したりして、インキ滲み出し不能な非多孔質保護被膜とインキ滲み出し可能な多孔質残部とからなる印面に形成した後、多孔質印材の表面又は裏面からインキを含浸し、ホルダーなどに組み付けて印判を製造していた。
このような印判は、印面を形成した後でインキを含浸するものであったが、これは印材にインキが含浸していると熱によって印材の気泡を閉塞できないためであった。
【0003】
前記課題を解決せんとし、インキを含浸した後に印面を加工できるようにした発明として特開平10−278214号、特開平10−337943号、特開2000−6509号が公知となっている。
特開平10−278214号は、発泡性合成ゴムに予め印刷用インクを含浸させた状態にして、その表面にレーザー光線を照射することにより、レーザー光線の照射にて溶融した部分がインクにて冷却され、溶融が表面のみに留まって印材の深部に至らず、よって、レーザー光線に照射された表面部分だけの細孔が潰されて閉塞面となる発明である。しかし、実際は発泡性合成ゴムの表面に存在しているインクにレーザー光線のエネルギーが吸収されてしまって、完全には気泡を閉塞できず、また、解像度も低い印判しか得ることができなかった。
特開平10−337943号は、平均気泡径が2〜10μm微細連続気孔を有し、軟化温度が50℃〜150℃の熱可塑性樹脂の発泡体を印材とし、印面加工する温度では揮発してしまう揮発性溶剤を主成分としたインキを印面に含浸しておくと、印面を加工するための加熱印加によって、印材の表面層のインキが蒸発し、表面層にインキがしみ出てくるまでに時間がかかり、その間に印材の表面が軟化ないしは溶融して気孔が閉塞される発明であり、特開2000−6509号は、印材全体にインキを含浸させた印材表面に揮発性溶剤を含浸させると、浸透力の大きな揮発性溶剤がインキを押し上げて、印材表面層に揮発性溶剤が含浸された印材層ができ、この状態で印材表面がサーマルヘッドで加熱されると、溶剤が揮発するとともに印材が軟化し、インキがしみ出る前に印材の微細気孔が閉塞される発明である。しかし、これらの発明は多孔質印材の気泡の大きさや気泡の連続度合(連泡性ともいう)、多孔質印材の材質などによって、印材表面に新たな溶剤又はインキが浸透してくるスピードが異なるので、まだもって完全には気泡を閉塞できなかった。特に、連続気泡の平均気泡径が20μm以上になるとインキの浸透が早くなって気孔閉塞ができ難くなると共に捺印品位が悪くなる欠点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を鑑み、連続気泡を有する多孔質印材に液体を含浸した後でも気泡を完全に閉塞して印面を形成できるようにした多孔性印判の製造方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
多孔質印材の融点より高い沸点を持つ溶剤を主溶剤とするインキを含浸した連続気泡を有する熱可塑性の多孔質印材の表面に多孔質印材の表面が溶融する前に蒸発する溶剤を含浸させると共に、前記多孔質印材の表面にフィルムを密着させ、前記フィルム側から所要部分を加熱し、前記多孔質印材の表面の加熱した部分を溶融固化させて液体が滲み出し不能な非多孔質保護被膜に形成し、前記多孔質印材の残部表面を液体滲み出し部に形成したのち、前記フィルムを剥がすことを特徴とする多孔性印判の製造方法。更に、前記フィルムが、フィルムの片面に粘着剤が塗布してある粘着性フィルムである多孔性印判の製造方法。
【0006】
【作用】
本発明の多孔性印判は、連続気泡を有する熱可塑性の多孔質印材を用い、多孔質印材の印面を加工する前に液体を含浸させると同時に、フィルムを多孔質印材表面に密着させ、フィルム側から所要部分を加熱して多孔質印材を溶融固化させ、液体が滲み出し不能な非多孔質保護被膜を所要部分に形成することを特徴とする多孔性印判の製造方法である。また、液体としては、多孔質印材の表面が溶融する前に蒸発する溶剤又は当該溶剤を主溶剤とするインキを用いる。
多孔質印材の表面が溶融する前に蒸発してしまう溶剤を含む液体を多孔質印材に含浸し、印面の所要部分を加熱すると、加熱した部分の溶剤は気化するが、密着しているフィルムによって多孔質印材から抜け出すことができずに加熱した部分周辺の液体を押し広げる。よって、加熱部分の多孔質印材の表面には、気泡に液体が充填されていない状態が生まれる。続いて即座に多孔質印材が溶融して気泡が完全に閉塞される。その後、加熱が終了すると瞬時に気化した液体が液化して多孔質印材の溶融部分を冷却するので、多孔質印材の過剰な溶融を抑制でき、解像度の高い印面を得ることができる。
印面加工の為の加熱手段は、加熱した金型、コンピュータで制御されたサーマルヘッド、キセノンフラッシュランプからの赤外線照射、コンピュータで制御されたレーザ光など、従来公知の方法によって実現される。
【0007】
次に、本発明で用いられる構成要素について説明する。
本発明で使用することのできる連続気泡を有する熱可塑性の多孔質印材は、原材料としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、ポリブチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化物系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。これを公知の溶出法、発泡法、燒結法などの方法によって連続気泡化することができ、シート状又はロール状のものが主に用いられる。前記熱可塑性樹脂は、融点が50℃〜150℃のものが好ましく用いられ、また、多孔質印材の気泡径は特に限定されないが、2〜100μmの範囲のものが好ましく用いられる。前記熱可塑性樹脂にカーボンブラック・有機顔料・パール顔料などの着色剤兼発熱剤を混合した有色の多孔質印材を用いても良好な結果を得ることができる。
本発明に用いられるフィルムとしては、耐熱性・平滑性の見地から、セロハン・アセテート・ポリ塩化ビニル・ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリエステル・ポリエチレンテレフタレート・ポリ四ふっ化エチレン、ポリイミドなどのプラスチックフィルムが主に用いられる。また、当該フィルムは前記多孔質印材の融点より高い融点を持つことが好ましい。フィルムの融点が低いと多孔質印材より先にフィルムが溶融してしまうからである。当該フィルムは、有色又は無色、透明又は不透明の別を問わないが、印面加工の為の各種加熱手段の熱を阻害しないことと、加工状態の確認が容易であることから、透明フィルムが通常使用される。また、フィルムの片面に天然ゴム・スチレン−ブタジエンゴム・イソブチレンゴム・イソプレンゴム・スチレン−イソプレンブロック共重合体・スチレン−ブタジエンブロック共重合体等のゴム系粘着剤や、アクリル系粘着剤や、シリコーン系粘着剤などの粘着剤が塗布してある粘着性フィルムは、多孔質印材に密着させることが容易なので特に好ましく用いられる。また、前記プラスチックフィルムに前記粘着剤が塗布してある市販の粘着テープも前記粘着性フィルムと同様に好ましく用いることができる。
次に、本発明で使用する液体について説明する。本発明で使用する液体は、前記多孔質印材の表面を加熱する温度で蒸発する溶剤又は当該溶剤を主溶剤とするインキである。具体的には、使用する熱可塑性樹脂によって様々な溶剤を選択することができるが、水(H2O)や、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノ−ル、ノルマルブタノール、イソブタノール、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどが主に使用される。インキを用いる場合は、前記溶剤を主溶剤としたインキであれば、水性・油性、顔料・染料の別を問わない。すなわち当該インキは、印面を加工するための熱でインキ中の溶剤が気化すれば良く、加工熱で気化する程度の配合量・粘度であればチキソトロピック性を備えていようがいまいが、ニュートン流体であろうがなかろうが関係無く用いることができる。
本発明で使用する溶剤は、通常前記多孔質印材の融点より低い沸点を持つ溶剤を用いるが、場合によっては前記多孔質印材の融点より高い沸点を持つ溶剤を用いても問題なく加工できることもある。印面を加熱しても表面の熱可塑性樹脂は前記溶剤によって冷却されているので、実際は熱可塑性樹脂の融点温度では溶解が開始せず、溶剤が熱可塑性樹脂に先んじて気化することがあるためである。すなわち、熱可塑性樹脂が溶融するより先に気化する溶剤を用いれば良く、どのような溶剤を用いても構わない。
【0008】
【実施例】
本発明の実施例1を図1を用いて説明する。図1は、加熱手段を用いる直前の状態の本発明多孔性印判断面図である。
1は融点80℃のポリエチレンを公知の溶出法を用いて連続気泡化した多孔質印材、2は多孔質印材1より気孔径・気孔率が共に大きく毛細管現象により多孔質印材1へインキを移行することができるインキ吸蔵体、3は多孔質印材1を保持する為の保持枠、4はインキ吸蔵体2を保持すると共に保持枠3も保持する本体、5は本体4を保持するホルダー、6はホルダーを覆うキャップ、7は溶剤又はインキを滴下する充填口である。
次に、本発明多孔性印判の製造方法について説明する。
まず、片面にシリコーン系粘着剤が塗布してある融点(軟化点)150℃のポリプロピレン製透明フィルム9を用いて、フィルムの粘着面と多孔質印材1を貼り付ける(図2)。次に、充填口7からエタノール(沸点78℃)を主成分とした印判用のインキを滴下し、インキ吸蔵体にインキを含浸させる。インキ吸蔵体内のインキは毛細管の働きによって、多孔質印材1に浸透していき、多孔質印材はインキで充填される(図3)。
次に、炭酸ガスレーザを用いて、フィルム側からレーザ光を照射する。そうすると、表面の加熱した部分のエタノールは気化するが、密着しているフィルムによって多孔質印材から抜け出すことができず、表面の加熱した部分周辺のエタノールを押し広げ、気泡にエタノールが満たされない部分が生まれる(図4)。それとほとんど同時に、レーザ光の熱によって、多孔質印材が溶融して気泡が完全に閉塞される(図5)。次に、レーザ光の照射が終了すると、瞬時に気化していたエタノールが液化して多孔質印材の溶融部分を冷却し、多孔質印材の過剰な溶融を抑制する。
このようにして、印影とすべき部分以外にレーザ光を照射して溶融固化させ、インキが滲み出し不能な非多孔質保護被膜を形成する。レーザ光を照射しなかった部分は、引き続きインキが滲み出すことが可能な多孔質面を保っている。
次に、前記フィルムを剥がすと、直ぐに押印可能な多孔性印判となる。
【0009】
次に、実施例2について、実施例1との差異のみを説明する。
融点80℃のポリエチレンを公知の溶出法を用いて連続気泡化した多孔質印材の印面に表面から約1mm程度の層ができるように水を浸透させる。次に、片面に天然ゴム系粘着剤が塗布してある融点(軟化点)150℃のポリプロピレン製透明フィルム9を印面に貼付し、図1のようにそれぞれの部材を組み付ける。多孔質印材の表面は水性インキで濡れているので容易に密着するが、丁寧に残存する空気を抜いたほうが、仕上がりが良くなるので好ましい。
次に、サーマルヘッドを用いて、フィルム側から加熱すると、図4のように、表面の加熱した部分の水は気化するが、密着しているフィルムによって多孔質印材から抜け出すことができず、表面の加熱した部分周辺の水を押し広げ、気泡に水が満たされない部分が生まれる。それとほとんど同時に、サーマルヘッドの熱によって、図5のように多孔質印材が溶融して気泡が完全に閉塞される。次に、サーマルヘッドによる加熱が終了すると、瞬時に気化していた水が液化して多孔質印材の溶融部分を冷却し、多孔質印材の過剰な溶融を抑制する。
このようにして、印影とすべき部分以外を溶融固化させ、水が滲み出し不能な非多孔質保護被膜を形成する。溶融固化しなかった部分は、引き続き水が滲み出すことが可能な多孔質面を保っている。
次に、前記フィルムを剥がし、印面を紙や布に数回押し当てて余分な水を除去した後、充填口7より印判用インキを注入すると、インキ吸蔵体に水性インキが含浸される。このインキ吸蔵体中の水性インキは、毛細管力によって多孔質印材に移行し、多孔質印材に充填され、多孔性印判を得ることができる。
【0010】
次に、実施例3について、実施例1との差異のみを説明する。
まず、前記それぞれの部材を組み付けて、図1のような状態にする。
次に、充填口7からグリコールエーテル(沸点200℃)を主溶剤とする油性顔料インキを注入し、インキ吸蔵体に油性顔料インキを含浸させる。インキ吸蔵体中の油性顔料インキは、毛細管力によって多孔質印材に移行し、多孔質印材に充填される。
次に、別に用意したエタノール(沸点78℃)を含浸させたパッドに多孔質印材を付着させる。そうすると、多孔質印材の表面に約1mm程度のエタノールの層ができる。その後、融点150℃のポリプロピレン製透明フィルムを多孔質印材1に貼り付ける。多孔質印材の表面はエタノールで濡れているので、容易に密着するが、丁寧に残存する空気を抜いたほうが、仕上がりが良くなるので好ましい。
次に、ネガフィルムをフィルムに重ね、フィルム側からキセノンランプによる赤外線を照射すると、図4のように表面の加熱した部分のエタノールは気化するが、密着しているフィルムによって多孔質印材から抜け出すことができず、表面の加熱した部分周辺のエタノールを押し広げ、気泡にエタノールが満たされない部分が生まれる。それとほとんど同時に、赤外線の熱によって、図5のように多孔質印材が溶融して気泡が完全に閉塞される。キセノンランプによるフラッシュは赤外線を一瞬照射するだけなので、気化していたエタノールは瞬時に液化して多孔質印材の溶融部分を冷却し、多孔質印材の過剰な溶融を抑制する。
このようにして、印影とすべき部分以外を溶融固化させ、インキが滲み出し不能な非多孔質保護被膜を形成する。溶融固化しなかった部分は、引き続きインキが滲み出すことが可能な多孔質面を保っている。
次に、前記フィルムを剥がし、紙に数回押し当て余分なエタノールを除去すると、油性顔料インキが滲み出すことが可能な多孔性印判となる。
【0011】
【発明の効果】
以上本発明は、連続気泡を有する多孔質印材に液体を含浸させ、かつ、フィルムを貼付した状態で印面を加熱加工することにより、多孔質印材に液体を含浸したままでも気泡を完全に閉塞して印面を形成することができる。また、加熱が終了すると瞬時に気化した液体が液化して多孔質印材の溶融部分を冷却するので、多孔質印材の過剰な溶融を抑制でき、解像度の高い印面を得ることができる。
また本発明は、あらかじめインキを含浸した多孔質印材に印面を加工することができるので、印面加工後すぐに押印できる印判を得ることができるとともに、レーザ加工機、サーマルヘッド熱転写プリンター、赤外線フラッシュランプなど各種の多孔質印材加工手段を用いることができ、多種多様な顧客要求に応じることができる。
【0012】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の断面図
【図2】液体を充填する前の多孔質印材
【図3】液体を充填した状態の多孔質印材
【図4】所要部分を加熱した状態の多孔質印材
【図5】所要部分が溶融して非多孔質保護被膜を形成した状態の多孔質印材
【符号の説明】
1 多孔質印材
2 インキ吸蔵体
3 保持枠
4 本体
5 ホルダー
6 キャップ
7 充填口
9 フィルム
Claims (2)
- 多孔質印材の融点より高い沸点を持つ溶剤を主溶剤とするインキを含浸した連続気泡を有する熱可塑性の多孔質印材の表面に多孔質印材の表面が溶融する前に蒸発する溶剤を含浸させると共に、前記多孔質印材の表面にフィルムを密着させ、前記フィルム側から所要部分を加熱し、前記多孔質印材の表面の加熱した部分を溶融固化させて液体が滲み出し不能な非多孔質保護被膜に形成し、前記多孔質印材の残部表面を液体滲み出し部に形成したのち、前記フィルムを剥がすことを特徴とする多孔性印判の製造方法。
- 前記フィルムが、フィルムの片面に粘着剤が塗布してある粘着性フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の多孔性印判の製造方法。
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