JP4721564B2 - ヒト細胞膜結合蛋白 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒト細胞膜結合蛋白、これを発現するベクター、該ベクターで形質転換された形質転換体およびヒト細胞膜結合蛋白を利用したヒト細胞膜結合アダプターに関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞間接着は、細胞の分化、増殖、アポトーシス、形態形成、個体発生などの生物の基本的生命活動、免疫反応、炎症反応、血液凝固などの生理的反応、癌の進展などの病態などに関与することが知られている。細胞表面には、この細胞間接着に関与する種々の分子(細胞接着分子)が存在している。
【0003】
また、外傷などにより皮下組織に入った抗原は、リンパ節に入り、ここでマクロファージまたは樹状細胞に取り込まれて消化され、その断片ペプチドがこれらの細胞上の主要組織適合抗原上に提示される。この断片ペプチドに対する生体の免疫応答成立過程においても、細胞間接着は重要な役割を演じている。
【0004】
このように細胞膜表面には、細胞接着分子が存在しており、それらに固有の各種機能を発現している。これら細胞接着分子などの細胞膜表面上のマーカーを改変させることができれば、細胞間接着を介して、細胞自体の機能、生体の生理的反応機序、癌を初めとする各種疾患の病態などを解明することができ、また各種疾患に対する治療および予防のための薬剤の研究、開発にも大いに役立つと考えられる。
【0005】
例えば、腫瘍傷害性を有するT細胞、マクロファージなどの細胞表面に、癌特異的抗体結合能を付与する改変を行い、これらの細胞と抗癌抗体との結合物を作製することができれば、これらの細胞は選択的に、効率よく癌細胞をターゲティングして、制癌効果を奏し得ると考えられる。また、癌組織から摘出後、細胞増殖能を失わせる処理を施した癌細胞表面に、GM-CSF、IFN-γなどを結合させることができれば、オーダーメイドの癌ワクチンを製造することが可能となる。即ち、このワクチンは患者由来の癌細胞を利用するものであり、その投与によれば、自己の癌細胞に対する免疫応答の誘導が可能となり、これによる制癌効果が期待できる。
【0006】
現在、上記のような生理活性蛋白質などを細胞表面に固定して細胞表面を改変する技術としては、基本的には化学結合を形成する架橋試薬を反応させる技術が知られるのみである。
【0007】
しかしながら、このような架橋試薬を利用して細胞表面を改変する技術は、対象が生きているヒト細胞であるために、反応条件などの選択、管理に厳密な調節、制御が必要となり、それら自体非常に難かしい。また細胞自体が、上記化学反応によって、その機能に重大な悪影響を受けることは避けられない不利がある。しかも、上記細胞表面の改変に際しては、改変が必要とされる細胞毎に、その都度、前記化学反応を実施しなければならない。このように、現在知られている細胞表面の改変技術は、実用的には尚多くの問題を抱えている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ヒト細胞表面を改変する技術、特に従来の架橋試薬に代替利用して、ヒト細胞の表面の性状を改変することができる蛋白質、即ち、ヒト細胞膜結合アダプターとして機能し得る蛋白質、およびこれを利用したヒト細胞表面の改変技術を提供することにある。
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねる過程において、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)の産生する細胞溶解毒素であるインターメディリシン(ILY, Infection and Immunity, 64(8), 3093 (1996))が、ヒト細胞に高い特異性を示すことを見出した。該ILYのヒト細胞膜に対する特異的結合部位を単離することができれば、これが上記目的に合致する細胞膜結合アダプターとして有効であるとの着想から、本発明者は更に研究を重ねた。その過程で、ILYのドメイン4(ILY4D)を上記特異的結合に関与する部位と考え、この種蛋白を融合蛋白として単離するためによく利用されているグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)を用いて、融合蛋白(GST-ILY4D)を調製し、そのヒト細胞膜結合性を常法に従い調べた(Proceeding of 18th International Congress of Biochemistry and Molecular Biology, pp.221, Birmingham (2000))。
【0010】
その結果、予想に反して、得られた融合蛋白質(GST-ILY4D)は、ヒト細胞膜以外の各種哺乳動物の細胞膜にも結合性を示し、ヒト細胞膜に特異的ではないことが確認された。しかも、この融合蛋白質は、従来よりGSTが利用されてきている本来の特徴であるGST部分での切断の容易性を有しておらず、この融合蛋白質から、目的とするILY4Dを単離することはできなかった。
【0011】
本発明者は、ILYのヒト細胞膜特異性に関して、引続き多くの研究、試験を繰り返した結果、前記ILY4Dのアミノ酸配列を少なくとも有する蛋白のN末端にシステイン残基を連結したアミノ酸配列の蛋白質を単離するに成功するとともに、この蛋白質は、GST-ILY4Dとは異なり、ヒト細胞特異的な結合性を示し、上記目的に合致する細胞膜結合アダプターとして有効であることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成されている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の要旨の発明を提供する。
(1) ILYの419番目から532番目までのアミノ酸配列を少なくとも有し且つそのN末端にCysを有することを特徴とするヒト細胞膜結合蛋白。
(2) ILYの400-419番目のいずれかから532番目までのアミノ酸配列を有し且つそのN末端にCysを有することを特徴とするヒト細胞膜結合蛋白。
(3) ILYの419番目から532番目までのアミノ酸配列を有し且つそのN末端にCysを有することを特徴とするヒト細胞膜結合蛋白。
(4) ILYの400番目から532番目までのアミノ酸配列を有し且つそのN末端にCysを有することを特徴とするヒト細胞膜結合蛋白。
(5) N末端CysにBam HIサイトに由来するGly-Serを介して更にHisの6個からなるオリゴペプチドを連結したことを特徴とする上記(1)-(4)のいずれかに記載のヒト細胞膜結合蛋白。
(6) 上記(1)-(5)のいずれかに記載のヒト細胞膜結合蛋白をコードするヌクレオチド配列をベクターに組み込んでなるヒト細胞膜結合蛋白発現ベクター。
(7) プラスミドpQE-9のBam HI-Hind III間に上記(1)-(4)のいずれかに記載のヒト細胞膜結合蛋白をコードするヌクレオチド配列を含む配列を挿入した上記(6)に記載の発現ベクター。
(8) 上記(6)または(7)に記載の発現ベクターで形質転換した形質転換体。
(9) 宿主が大腸菌である上記(8)に記載の形質転換体。
(10) 上記(1)-(5)のいずれかに記載のヒト細胞膜結合蛋白を有効成分とするヒト細胞膜結合アダプター。
【0013】
【発明の効果】
本発明により提供されるヒト細胞膜結合蛋白は、その有するILY4Dの配列、即ちILYの400-419番目のいずれかから532番目までのアミノ酸配列が、ヒト細胞膜への特異的結合に関与する性質を有し、しかも細胞溶解性はなく、更に抗原性も低いことを特徴とする。従って、これは細胞膜結合アダプターとして用いて、そのN末端に様々な生理活性物質などを連結させた融合蛋白質または架橋蛋白質の形態で、各種細胞に作用させることができ、これによって細胞の状態にほとんど影響を与えずに生理活性蛋白質などを細胞表面に固定化して、細胞膜表面機能を改変(生理活性物質などを外部環境に対して提示)することができる。
【0014】
特に、上記改変は、本発明ヒト細胞膜結合蛋白と生理活性物質などとの連結物を、改変を要求される細胞と接触させるのみで非常に簡単に実施できる利点がある。しかも、上記連結物の調製は、細胞を利用するものではないため、その条件等になんら厳しい制約を受けない。また、上記連結物は、細胞の改変時に調製する必要はなく、予め調製して必要時まで保存しておくこともできる。更に、この連結物の利用によれば、複数の生理活性物質などを同時に同じ細胞表面に固定化することもできる。
【0015】
本発明のヒト細胞膜結合蛋白を利用した細胞膜表面機能の改変は、以下のように、例えば医療分野において有効に利用することができる。
(1) 癌抗原特異的抗体と本発明細胞膜結合アダプターとの連結蛋白質を用いて、腫瘍傷害性の活性化Tリンパ球、活性化マクロファージなどを改変することによって、これらの細胞を選択的に効率よく癌細胞にターゲティングすることができ、このような細胞による制癌効果を期待できる。
(2) 摘出癌組織から得た癌細胞の表面に本発明アダプターを利用してGM-CSF、IFN-γなどを導入した“オーダーメイド癌ワクチン”を作成することができる。このワクチンは、放射線照射によって細胞増殖能を失わせてから、癌患者体内に戻すことによって、強制的に自分の癌細胞に対する腫瘍免疫応答を誘導させることができ、癌の免疫療法などの開発に役立つ。
【0016】
また、本発明ヒト細胞膜結合蛋白は、ヒトの細胞膜にのみ特異的に結合性を示す特徴があり、それ故、未知細胞がヒト細胞であるか否かを識別することにも利用することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸などの略号による表示は、IUPAC、IUBの規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)および当該分野における慣用記号に従うものとする。
(1) 本発明ヒト細胞膜結合蛋白の製造(遺伝子工学的手法)
本発明蛋白は、ILY4DをコードするILY遺伝子断片を少なくとも含むDNAを利用して、通常の遺伝子工学的手法に従い製造することができる(例えば、Science, 224, 1431 (1984); Biochem. Biophys. Res. Comm., 130, 692, (1985); Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80, 5990 (1983)など参照)。即ち、所望蛋白をコードする遺伝子を含む発現ベクターを作成し、これを適当な宿主細胞に導入し、得られる形質転換体を培養し、培養物から本発明蛋白を回収することができる。
【0018】
ILY遺伝子は、常法に従いストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)から単離することもでき、またそれ自体公知のもの(例えばJournal of Clinical Microbiology, 38(1), 220 (2000)参照)を利用することもできる。その具体例は、例えばジーンバンク(DDBJ, EMBL, Gen Bank)に登録番号AB029317として登録されたものを挙げることができる。
【0019】
本明細書におけるILY遺伝子およびILY4Dにおける塩基配列及びアミノ酸配列番号は、このジーンバンクに登録されたそれに従うものとする。
【0020】
本発明蛋白の製造の好ましい一例につき詳述すれば、該方法においては、まず、ストレプトコッカス インターメディウスのゲノムDNAを鋳型とし、適当なプライマーを用いて、ILY4Dをコードする領域を含む遺伝子断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させる(工程1)。次いで、増幅物(所望の遺伝子断片)を適当なベクターに組込む(工程2)。更に、得られる組替えベクターで宿主細胞を形質転換し、形質転換体の培養によって所望の本発明蛋白を得る(工程3)。
工程 1(PCR による遺伝子断片の増幅 )
PCRは常法に従い実施することができる(Science, 230, 1350 (1985)など参照)。その具体例は、例えば後記実施例に詳述するとおりである。
【0021】
PCR条件も、基本的には公知の方法に従うことができる。例えば、初期アニーリングは、約92-98℃で30秒-10分程度で実施できる。増幅反応は、約92-98℃で10秒-2分程度、約40-65℃で10秒-3分程度、約65-80℃で15秒-3分程度を1サイクルとして、該サイクルを15-45回程度繰り返すことにより実施できる。また上記PCR反応には、常法に従って、各種DNAポリメラーゼ(Taq DNAポリメラーゼ、AmpliTaq DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Takara Z-Taq DNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼなど;PEバイオシステム株式会社、宝酒造株式会社などより市販)を使用することも可能である。
【0022】
上記PCR反応後の、PCR増幅物の同定、検出なども、公知の手段に従うかもしくはこれに準じて実施することができる。例えば代表的には、PCR反応後に、アガロースゲル電気泳動法などによりPCR産物を分離し、臭化エチジウム染色などの方法によりバンドを染色し、紫外線下で目的のバンドの有無を観測することにより、同定、検出できる。アガロースゲル電気泳動、バンドの染色、染色されたバンドの検出などの各操作は、いずれも従来より慣用されている各種の方法に従うことができる。
【0023】
PCRにおいて用いるプライマーは、ILY4Dをコードする領域(ジーンバンク(DDBJ, EMBL, GenBank)の登録番号AB029317の1388-1732領域)の配列情報を基礎として、所望の遺伝子断片が増幅されるように適宜設計することができる。
【0024】
例えば、ILY4Dの上流に直接Cysを付加した本発明蛋白を製造する場合、センス鎖(上流側)は上記登録番号AB029317の1388-1413領域と相同性のある塩基配列を少なくとも有するものとするのが好ましい。アンチセンス鎖(下流側)は同1768-1789領域にハイブリダイズする塩基配列を少なくとも有するものとするのが好ましい。また、例えばILY4Dの上流に19個のアミノ酸配列を挟んでCysを付加した本発明蛋白を製造する場合、センス鎖は同1331-1354領域と相同性のある塩基配列を少なくとも有するものが好ましい。アンチセンス鎖は、上記と同一でよい。
【0025】
センス鎖には、更にその上流側にCysコドンを連結させる。また、得られるPCR増幅物を引続き適当なベクターに組込むことを考慮すると、該センス鎖は、更にその上流に制限酵素サイト(例えばBam HIサイト)などを連結させておくのが好ましい。また、これらの各プライマーは、上記の好ましい例のように、ILY4D領域の下流側を余分に増幅し得るものとするように設計するのが望ましい。
【0026】
尚、各プライマーの塩基長は、この種プライマーに採用される通常のもの、例えば20-50塩基長程度のものとすることができる。
【0027】
これらのプライマーは、市販のDNA合成装置、例えばABI社製DNA/RNA合成機などの自動シンセサイザーを用いて常法に従い製造することができる。また、後記するように化学合成することができる。得られるオリゴヌクレオチドは、更に必要に応じて、市販の精製用カートリッジ等を用いて精製して本発明プライマーとすることができる。
【0028】
本発明にプライマーとして利用される上記センス鎖およびアンチセンス鎖の具体的配列は、配列番号:1-3に示す通りである。尚、配列番号:1および2に示す配列において、3-8番目の配列がBam HIサイトであり、9-11番目の配列がCysコドンである。
【0029】
上記配列番号:1のセンス鎖と配列番号:3のアンチセンス鎖との利用によれば、ILY4Dの上流に直接Cysを付加した本発明蛋白(以下、「Cys-ILY4D」という)を製造することができる。また、上記配列番号:2のセンス鎖と配列番号:3のアンチセンス鎖との利用によれば、ILY4Dの上流に19個のアミノ酸配列を挟んでCysを付加した本発明蛋白(以下、「Cys-longILY4D」という)を製造することができる。
【0030】
その他の本発明蛋白の製造の際には、上記に準じて適当なセンス鎖を設計、合成して利用することができる。
工程 2(PCR 増幅物による組換えベクターの調製 )
組換えベクターは、前記工程1に従い増幅されたPCR増幅物を利用して、常法に従い製造される。即ち、前記工程1で得られるPCR増幅物を適当な制限酵素で処理して所望の遺伝子断片を切取り、これを同一制限酵素で処理した適当なベクターに組込むことにより調製される。
【0031】
この際、例えばILY4Dをコードするヌクレオチド配列を含むPCR増幅物では、その終止コドンとそれに続く配列(AAGCTT)が、Hind III切断サイトと一致するので、所望増幅物の下流側は、このHind IIIの利用によって切断することができる。また、PCR増幅物の上流側は、工程1のPCRで利用したプライマー(センス鎖)に付加した制限酵素サイト(好ましくはBam HI)で切断する。
【0032】
組換えベクターの調製に用いるベクターは、組換えられた発現ベクターが宿主細胞中で複製でき且つ所望の遺伝子を発現できるものであればよい。該ベクターは、この種分野において利用する宿主毎によく知られている。本発明でも公知の各種のものをいずれも利用することができる。
【0033】
一般には、複製開始点以外に、プロモーターおよびオペレーター配列、リボソーム結合サイト、マルチクローニングサイト、開始コドンおよび終止コドンを有するものが好ましい。これら各調節因子を有しており、本発明に利用することができる市販のベクターの例としては、例えばpMAL-c2X(New England BioLab社)、pTYB1、pQE-9(QIAGEN社製)などを挙げることができる。
【0034】
特に好ましいベクターとしては、6個のHis(ヘキサヒスチジン・タグ、マーカー配列)の下流に目的蛋白が誘導発現されるように設計されている公知のプラスミドベクター、例えば大腸菌を宿主細胞とするpQE-9(QIAGEN社製)などを挙げることができる。
【0035】
ベクターへの所望遺伝子断片の導入、即ち組換え発現ベクターの調製は、常法に従うことができる。
工程 3( 宿主細胞の形質転換および培養による本発明蛋白の製造 )
組換え発現ベクターを用いて、適当な宿主細胞を形質転換する。宿主細胞としては、汎用されている大腸菌などの公知の菌株を用いることができる。また、形質転換は、常法に従って行うことができる。
【0036】
ベクターとしてpQE-9を用い、宿主細胞として大腸菌JM109株を用いる場合、一般にベクター1μgを利用することによって106-107コロニーの形質転換体を得ることができる。
【0037】
続いて、形質転換株を常法に従い培養することによって、所望の本発明蛋白が形質転換株の細胞内、細胞外または細胞膜上に発現、生産(蓄積、分泌)される。形質転換体の培養に利用される培地は、利用する宿主細胞に応じて任意に選択することができ、慣用される各種の培地のいずれでもよい。また形質転換体の培養条件も宿主細胞の生育に適した通常の条件を採用することができる。
【0038】
所望蛋白は、その物理的性質、化学的性質などを利用した各種の分離操作などにより分離、精製することができる。その例としては、例えば細胞を破砕し、破砕物を遠心分離し、上清より蛋白を抽出し、抽出物を更にゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどにより精製する方法を例示することができる。
【0039】
尚、ヘキサヒスチジン・タグを有する本発明蛋白は、この配列を有することに基づいてニッケルなどの重金属に配位しやすい性質を有しているので、Ni-NTAカラムなどのニッケル担持カラムなどを用いて、より簡単に精製することができる。
(2) 本発明ヒト細胞膜結合蛋白の製造(化学合成)
本発明蛋白は、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法に従い製造することができる。該方法には、通常の液相法および固相法によるペプチド合成法が包含される。
【0040】
ペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。本発明蛋白の合成は、そのいずれによることもできる。
【0041】
上記ペプチド合成には一般的な各種の縮合法が採用できる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシサクシンアミド、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミドなど)法、ウッドワード法などを例示できる。
【0042】
これら各方法に利用できる溶媒も、この種のペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチルなどおよびこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0043】
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸乃至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステルなどの低級アルキルエステル;例えばベンジルエステル、p-メトキシベンジルエステル、p-ニトロベンジルエステルなどのアラルキルエステルなどとして保護することができる。
【0044】
また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル(Z)基、ベンジルオキシカルボニル(Boc)基、第三級ブチル基などで保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。
【0045】
更に、例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2-メトキシベンゼンスルホニル基、メタンスルホニル基、Boc基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基などの適当な保護基により保護することができる。
【0046】
上記保護基を有するアミノ酸、ペプチドおよび最終的に得られる本発明蛋白におけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸などを用いる方法などに従って実施することができる。
【0047】
得られる本発明蛋白は、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法などのペプチド化学の分野で汎用される方法に従って、適宜精製することができる。
(3) 本発明蛋白のヒト細胞膜結合アダプターとしての利用
本発明蛋白は、これに例えば癌に特異的な抗体などを連結させた後、そのヒト細胞膜への特異的結合能を利用してヒト細胞(腫瘍傷害性を有するT細胞、マクロファージなど)に結合させることができる。これによってヒト細胞に癌細胞を選択的に効率よくターゲティング可能な性質を付与することができる。これらのヒト細胞は選択的に癌細胞に結合するため、癌の治療に有用である。
【0048】
また、本発明蛋白は、これに例えばGM-CSF、IFN-γなどの生理活性物質を連結させた後、摘出組織から得た癌細胞に結合させるときには、所謂オーダーメイド癌ワクチンを製造することができる。即ち、得られる癌細胞(ワクチン)はその細胞膜表面に上記生理活性物質を表出していることに基づいて、ヒト体内において腫瘍免疫応答を誘導することができる。従ってこれを例えば放射線照射などによって細胞増殖能を失わせた後、癌患者に戻すときには、生体内で自分の癌細胞に対する腫瘍免疫応答が誘導され、癌の免疫治療を行い得る。
【0049】
本発明蛋白と上記抗体、生理活性物質などの他の蛋白との連結は、基本的には本発明蛋白の有するCys残基上のチオール基と、連結させるべき相手蛋白のチオール基、アミノ基などの官能基とを結合させることにより行い得る。その方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。
(a)本発明蛋白と、連結相手蛋白とを混合攪拌し、自動酸化反応により-S-S-結合を形成させる方法、
(b)本発明蛋白のSH基と連結相手蛋白のSH基とを、1,8-ビスマレイミドトリエチレングリコールなどの架橋剤の存在下に反応させる方法。
(c)本発明蛋白のSH基と連結相手蛋白のアミノ基とをN-(4-マレイミドブチリルオキシ)スクシンアミドなどの架橋剤の存在下に反応させる方法。
【0050】
これらの連結反応は、常法に従い実施することができる。また、これらの連結反応に当たって、本発明蛋白は例えばこれを適当なニッケル担持カラムに担持させた状態で使用することもできる。
【0051】
本発明蛋白は、そのN末端またはヘキサヒスチジン・タグに続く1個のCys残基しか有していないので、前記連結反応はこのCys部位以外では起こり得ない。従って、前記連結反応ではほぼ均一な連結体を得ることができる利点がある。
【0052】
【実施例】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げる。
【0053】
【実施例1】
本発明蛋白Cys-ILY4Dの製造
(1) Cys-ILY4D遺伝子増幅用プライマーの合成
自動シンセサイザとしてABI社製DNA/RNA合成機を用い、基質(dNTP)および規定試薬を用いて、下記プライマー対を合成した。
・センス鎖(Bam HI-Cys-ILY4D-Fw、配列番号:1に示すヌクレオチド配列を有するもの)
・アンチセンス鎖(ILY-Cend-Bw、配列番号:3に示すヌクレオチド配列を有するもの)
(2) PCRによる遺伝子断片の増幅
ストレプトコッカス・インターメディウスUNS46株(聖バーソロミューおよび王立ロンドン医科歯科大学のロバート ワイリー(Robert A. Whiley)博士より供与された臨床分離株)のゲノムDNAを鋳型として、上記(1)のセンス鎖とアンチセンス鎖とのプライマーセットを用い、増幅の忠実さ(fidelity)が高いとされるPyrobest DNA polymerase(宝酒造製)を用いてPCR反応を行った。反応は、PCR反応チューブの反応液(上記で合成した各プライマーをそれぞれ10pmol、1.5mM塩化マグネシウム含有PCR緩衝液、0.1mMのdNTPおよび1.25UのPyrobest DNA polymeraseを含む、総量50μl)中にて、94℃で1分間前処理した後、94℃で1分、54℃で1分、68℃で3分のサイクルを30回行った。
【0054】
反応後、PCR産物についてアガロースゲル電気泳動を行って、所望のILY4Dをコードするヌクレオチドの増幅断片が得られていることを確認した。この増幅断片をBam HIとHind IIIで処理し、切断断片を得た。アガロースゲル電気泳動により遺伝子断片が切り出されていることを確認後、その遺伝子断片をゲル切片から精製し、TE(10mMトリス塩酸+1mM EDTA, pH8)10μlに溶解した。
(3) プラスミドベクターの組換え
ベクターとして、ヘキサヒスチジン・タグの下流に目的蛋白が誘導されるよう設計されているpQE-9(QIAGEN社製)を用いて、以下の通り発現プラスミドベクターを調製した。
【0055】
尚、pQE-9は、Xho Iサイト、プロモーター/オペレーター、Eco RIサイト、リボソーム結合サイト、ヘキサヒスチジン・タグ、Bam HIサイト、Hind IIIサイト、ターミネーター、Xba IサイトおよびBgl Iサイトを含むblaをこの順序で有している。
【0056】
まず、1μgのpQE-9 を各20UのBam HIおよびHind IIIにより消化し、消化物を精製後、TE10μlに溶解した。アガロースゲル電気泳動により遺伝子断片が切り出されていることを確認後、その遺伝子断片をゲル切片から精製し、TE10μlに溶解した。このpQE-9 の4μlと、上記(2)で調製した遺伝子断片溶液の6μlを混合し、混合物と等量の連結酵素液(ligation high、TOYOBO社製)をさらに加えて、16℃で一晩放置して連結反応を完結させた。この操作により、本発明蛋白発現ベクターを得た。
(4) 宿主細胞の形質転換
(3)で得た連結反応液で大腸菌JM109株のコンピテントセルを形質転換させ、形質転換株をLB寒天培地(Amp+・Mg-)で選択培養した。コロニー形成株に含まれる発現ベクターが目的遺伝子を保有するか否かを、アルカリミニプレップ法(生化学,63(11),1349(1991))により確認した。尚、この確認の際の遺伝子断片の切出しはBam HIとHind IIIを用いて実施した。
【0057】
目的遺伝子断片が挿入されたプラスミドDNAをもつコロニー形成株(形質転換株)からシーケンス用プラスミドを調製し、キット(Bca BESTTM Dideoxy Sequencing Kit, TaKaRa社製)を利用して該キットに添付の仕様書に従いシーケンシングを行い、遺伝子断片の塩基配列を解析した。
【0058】
塩基配列解析の結果から、挿入断片の塩基配列が確認された形質転換株の培養菌液1mlを、15mlのLB培地(Amp+・Mg-)に加え、37℃で振盪培養を行った(1サンプルにつき2本用意)。
【0059】
培養液がOD600=0.4-0.6になるまで培養を続け、2本の培養液のうち1本に100mM Isopropyl-β-D(-)-thiogalactopyranoside(IPTG)を150μl加えて目的遺伝子の発現を誘導し、さらに4時間振盪培養を行った。その後、氷中で10分放置し、得られる培養液を4℃、3000回転/分にて5分遠心分離して上清と菌体とに分けた。それぞれに、等量の2倍濃度のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)試料用緩衝液を加えて95℃で5分間熱処理し、SDS-PAGE用サンプルを調製した。
【0060】
得られたサンプル15μl(マーカーは5μl)を、それぞれのレーンにとり、SDS-PAGEによって展開し、電気泳動後、Coomassie Brilliant Blue R250(CBB)染色およびイムノブロットによって、目的蛋白の発現が誘導されているか否かを確認した。
【0061】
その結果、目的の蛋白を含むサンプルでは14kDaのバンドが確認できた(図1のレーンA参照)。このバンドの確認によって目的蛋白の発現が確認されたクローンは、pQE-9ベクター1μg当たりに換算して約106コロニーであった。
【0062】
目的蛋白の発現が確認されたクローンについて、グリセロールストックを作り、-30℃にて保存した。
(5) 宿主細胞から発現蛋白の分離精製
まず、50ml容の遠心チューブにLB液体培地(Amp+・Mg-)を10ml入れ、それに上記グリセロールストック菌体を100μl加え、37℃で一晩振盪培養を行った。続いて、坂口フラスコにLB液体培地(Amp+・Mg-)を250ml入れたもの4本を用意し、それぞれに前日培養した上記培養液を5ml加えた。OD600=0.4-0.6になるまで37℃で振盪培養した後、100mMのIPTGを2.5ml加えて 本発明蛋白の発現を誘導し、さらに4時間培養を行った。その後、氷中で10分放置し、培養液を7000回転/分にて20分間遠心分離して上清と菌体とに分けた。
【0063】
沈殿した菌体を同体積のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に懸濁し、懸濁液をフレンチプレス(SLM Instruments,Inc.)にかけて大腸菌体を破砕した。フレンチプレスから流出した菌体破砕液を同体積のPBSに懸濁し、懸濁液を4℃にてスターラーを用いて一時間緩やかに攪拌し、更に12000回転/分にて20 分間遠心分離して上清と菌体に分けた。
【0064】
次に、目的蛋白を含む上清(粗分画)を、Ni-NTA Agarose(Qiagen社製) を充填したカラムに吸着させ、カラムを平衡化緩衝液(20mM TrisHCl、0.5M NaCl、5mM
イミダゾール;pH7.85)で一晩洗浄して、目的蛋白以外の夾雑物を除去した。カラムを洗浄後、溶出緩衝液(平衡化緩衝液に更にイミダゾールを加えてその濃度をそれぞれ20mM、50mMおよび200mMに調整したもの)を用いて順次溶出させた。溶出速度は1ml/1minとし、1mlずつ試験管に集めた。
【0065】
続いて、上記各濃度のイミダゾールを含む溶出緩衝液にて溶出された各分画について、280nmの吸光度を測定し、用いたイミダゾールの各濃度毎に吸光度のピーク分画を集めて透析チューブに詰め、それぞれ2lのPBSに対して4時間の透析を3回繰り返した。
【0066】
イミダゾールの各濃度における透析物を20μlずつとり、それらに等量の2倍濃度のSDS-PAGE試料用緩衝液を加えて泳動用試料とした。各泳動用試料をSDS-PAGE後、イムノブロットおよび銀染色し、どの濃度に目的蛋白が溶出されるかを確認した。これによって精製された本発明蛋白画分(図1のレーンAに相当する画分)を得た。
【0067】
【実施例2】
本発明蛋白Cys-longILY4Dの製造
(1) Cys-longILY4D遺伝子増幅用プライマーの合成
ILY4Dの上流に隣接する19アミノ酸残基を含むアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(ジーンバンク登録番号AB029317参照)の5'端にCysコドン(TGC)を連結し、さらにその上流にBam HIサイト(GGATCC)を付加したセンス鎖(Bam HI-Cys-longILY4D-Fw, 配列番号:2に示すヌクレオチド配列を有する)を、自動シンセサイザとしてABI社製DNA/RNA合成機を用い、基質(dNTP)および規定試薬を用いて合成した。
【0068】
アンチセンス鎖としては、実施例1の(1)で合成したILY-Cend-Bw(配列番号:3に示すヌクレオチド配列を有する)を用いた。
(2) PCRによる遺伝子断片の増幅
実施例1の(2)と同様に、ストレプトコッカス インターメディウスUNS46株のゲノムDNAを鋳型とし、上記(1)のセンス鎖およびアンチセンス鎖のプライマーセットを用いてPCR反応を行い、増幅物より目的遺伝子断片のTE溶液を調製した。
(3) プラスミドベクターの組換え
ベクターとしてpQE-9を用い、実施例1の(3)と同様にして、組換えプラスミドベクターを構築した。
(4) 宿主細胞の形質転換
上記(3)で調製した組換え反応液で大腸菌JM109株(コンピテントセル)を形質転換し、実施例1の(4)と同様にして、選択培養後、目的蛋白の発現が誘導されているか否かを確認した。
【0069】
その結果、目的蛋白の15.4kDaのバンドが確認できた(図1のレーンB参照)。
【0070】
発現が確認されたクローンは、pQE-9ベクター1μgあたりに換算して、約106コロニーであった。
【0071】
発現が確認されたクローンについて、グリセロールストックを作り、-30℃にて保存した。
(5) 宿主細胞からの発現蛋白の分離精製
実施例1の(5)と同様にして、培養後、菌体破砕および抽出を行って、精製された本発明蛋白の画分(図1のレーンBに相当するもの)を得た。
【0072】
【試験例1】
本発明蛋白の赤血球膜溶血活性
実施例1および2で得た本発明蛋白分画10μl、30μlおよび100μlについて、それぞれミクロ遠心チューブ中でPBSにて希釈して総量を990μlとした。続いて、各チューブに50%ヒト赤血球懸濁液を10μlずつ加えた。
【0073】
100%溶血のコントロールとして、滅菌水990μlに50%ヒト赤血球懸濁液10μlを加えたチューブと、0%溶血のコントロールとして、PBS990μlに50%ヒト赤血球懸濁液10μlを加えたチューブを用意した。
【0074】
これら各チューブ内容液を37℃で1時間放置して反応させた後、遠心機を用いて4℃、3000回転/分にて5分間遠心して、沈殿物と上清とに分けた。各チューブ内の上清200μlを、それぞれプラスチックプレート(Falcon96穴プラスチックプレート)の各ウエルに分注し、540nmの吸光度を測定し、得られた測定値より溶血の程度(%)を算出した。即ち、100%溶血コントロールの吸光度を100、0%溶血コントロールの吸光度を0とし、各吸光度測定値の溶血%を算出した。
【0075】
その結果は、図2(横軸:本発明蛋白質量(μl)、縦軸:溶血率(%))に示す通りである。
【0076】
図中、(1)は実施例1で得た本発明蛋白Cys-ILY4Dを用いた場合の結果を、(2)は実施例2で得た本発明蛋白Cys-longILY4Dを用いた場合の結果を示す。
【0077】
但し、実施例1の蛋白画分の蛋白質濃度は約0.15μg/μlであり、実施例2の蛋白画分の蛋白質濃度は約0.1μg/μlである。
【0078】
該図に示す結果より、実施例1および2で得た本発明蛋白分画を用いた場合には、両者ともヒト赤血球膜溶血活性を示さないことが明らかとなった。
【0079】
【試験例2】
本発明蛋白の細胞膜結合性
ミクロ遠心チューブに、実施例1および2で得た本発明蛋白の1μgを含むPBS希釈液を990μlずつ分注し、続いて、各チューブに50%ヒトまたはウサギ赤血球ゴースト懸濁液(ヒトまたはウサギ赤血球をその10倍容量の5mM TrisHCl(pH7.4)で溶血させ、それらを同緩衝液で3回ずつ遠心洗浄し、最後に1回PBS洗浄を行って調製した懸濁液)をそれぞれ10μlずつ加えた。これらを37℃で1時間放置して反応させた後、遠心機により4℃、12000回転/分にて10分間遠心して沈殿と上清とを回収した。
【0080】
得られた沈殿に1mlのPBSを加えて3回遠心洗浄し、その後、上清を捨て、沈殿に200μlのPBSを加えて再懸濁した。
【0081】
上記で得た上清分画および沈殿の再懸濁液のそれぞれを100μlずつ遠心チューブに分注し、これらのそれぞれに等量の2倍濃度のSDS-PAGE試料用緩衝液を加えて泳動用試料とし、各試料をSDS-PAGE後、抗ILY-C末端ペプチド抗体(Journal of Clinical Microbiology, 38(1), 220 (2000))を利用して得られたイムノブロット像から、本発明蛋白のそれぞれの赤血球膜への結合性を解析した。
【0082】
上記で得られたイムノブロット像を図3に示す。
【0083】
図3中、Aは実施例1で得た本発明蛋白を用いた場合の結果を示し、Bは実施例2で得た本発明蛋白を用いた場合の結果を示している。各レーンはそれぞれ次のものを示す。
レーン1;吸収上清分画(ヒト赤血球膜を用いた場合)
レーン2;沈殿(赤血球膜)分画(ヒト赤血球膜を用いた場合)
レーン3;吸収上清分画(ウサギ赤血球膜を用いた場合)
レーン4;沈殿(赤血球膜)分画(ウサギ赤血球膜を用いた場合)
図3に示される結果より、実施例1および2で得られた本発明蛋白は、両者ともヒトの赤血球膜に顕著な結合性を示す(ヒト沈殿にヒト赤血球膜と結合した本発明蛋白が認められること(レーン2参照)および/またはウサギ上清にウサギ赤血球膜と結合しない本発明蛋白が検出されること(レーン3参照))ことが明らかである。また、ウサギの赤血球膜には殆ど結合性を示さないこと(レーン4に示すウサギ沈殿にはウサギ赤血球膜と結合する本発明蛋白のバンドが殆ど認められないこと)も明らかである。
【0084】
このことから、本発明蛋白は、ヒト細胞膜に対して特異結合性を示し、ヒト細胞膜結合アダプターとして有用であることが判った。
【0085】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1および2に従い精製した本発明蛋白のSDS-PAGE像(CBB染色による)を示す図である。
【図2】本発明蛋白の細胞溶解作用を示すグラフである。
【図3】本発明蛋白の特異的ヒト細胞膜結合性を示す図である。
Claims (9)
- インターメディリシンの400-419番目のいずれかから532番目までのアミノ酸配列を有し且つそのN末端にCysを有することを特徴とするヒト細胞膜結合蛋白。
- インターメディリシンの419番目から532番目までのアミノ酸配列を有し且つそのN末端にCysを有することを特徴とするヒト細胞膜結合蛋白。
- インターメディリシンの400番目から532番目までのアミノ酸配列を有し且つそのN末端にCysを有することを特徴とするヒト細胞膜結合蛋白。
- N末端CysにBam HIサイトに由来するGly-Serを介して更にHisの6個からなるオリゴペプチドを連結したことを特徴とする請求項1-3のいずれかに記載のヒト細胞膜結合蛋白。
- 請求項1-4のいずれかに記載のヒト細胞膜結合蛋白をコードするヌクレオチド配列をベクターに組込んでなるヒト細胞膜結合蛋白発現ベクター。
- プラスミドpQE-9(商標)のBam HI-Hind III間に請求項1-3のいずれかに記載のヒト細胞膜結合蛋白をコードするヌクレオチド配列を含む配列を挿入した請求項5に記載の発現ベクター。
- 請求項5または6に記載の発現ベクターで形質転換した形質転換体。
- 宿主が大腸菌である請求項7に記載の形質転換体。
- 請求項1-4のいずれかに記載のヒト細胞膜結合蛋白を有効成分とするヒト細胞膜結合アダプター。
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