JP4720020B2 - ドクターブレード - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軽量で、たわみ、ゆがみが小さく、ロールへの密着性が良好であり、且つ耐摩耗性に非常に優れた大型、広幅ロール用ドクターブレード材として使用することができるドクターブレードに関する。
【0002】
【従来の技術】
たとえば、印刷機において、印刷ローラーの表面に所定量のインクを載せるために、ドクターブレードで印刷ローラーの表面に付着した余分なインクをかき取ることが行われている。ドクターブレードを用いた印刷では、ローラー上のインクの量を精密に制御しないと、多色印刷などの場合には色が混ざったりして画質のよい印刷ができない。
【0003】
また、単色印刷の場合は、文字がにじんだり、かすれたりするという問題がある。インクの量を制御するためには、ドクターブレードとローラーとの間隔を常に一定に保つことが重要である。
【0004】
従来、金属製ドクターブレードを使用した場合、メッキ又はゴム被覆ロールの表面を傷付けやすく、高価なロールの寿命を著しく短かくする等の問題がある。また、ドクターブレードは、長さが通常0.3〜10m程度と長尺であり、金属製のドクターブレードは長尺であるがゆえに、その自重でたわみ、ドクターブレードとローラーとの間隔を精度よく制御することができない。
【0005】
また、金属では熱による膨張・収縮が大きく、部分的にドクターブレードが熱を持った場合には部分的に変形するので、ドクターブレードとローラーとの間隔の制御が困難である。一方、樹脂製ドクターブレードを使用した場合には、ロールへの均一密着性が得られないとか、ドクターブレードの磨耗が大きい等の問題があり、特に大型、広幅ロールに対し、適切な材料が見出せない状況である。
【0006】
このような欠点に対して、特開2000−289181号公報に、実質的に長尺の炭素繊維を用いた炭素繊維強化樹脂ドクターブレードが提案されている。前記公報に開示された方法によると、金属製ドクターブレードを使用した場合に発生する、メッキ又はゴム被覆ロールの表面を傷付けやすく、高価なロールの寿命を著しく短かくする等の問題は改善できる。また、樹脂製ドクターブレードを使用した場合に発生する、ロールへの均一密着性が得られないという問題は改善できるが、ドクターブレードの磨耗が大きいという問題は、必ずしも満足できるとは言えないものであった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、ドクターブレードとローラーとの間隔を常に一定に保つことができロールの均一密着性が良好でインクの量を精密に制御でき、さらに、耐摩耗性の非常に優れた、特に大型、広幅ロール用にも使用できるような新規なドクターブレードを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、このような実情に鑑み、従来技術の難点を改良せんとして鋭意検討した結果、以下のような構成を有することにより前記課題が解決できることを見出し本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、請求項1にかかる発明は、複数層の強化繊維基材に樹脂が含浸されてなる繊維強化樹脂成形体からなるドクターブレードであって、該強化繊維基材の少なくとも一層が扁平糸織物の強化繊維織物であり、前記扁平糸織物は単糸の糸幅と厚みの比が20以上で撚りのない扁平糸を経糸と緯糸の少なくとも一方に使用し、且つ経糸および緯糸の少なくとも一方の繊維が並行しており、前記扁平糸が前記ドクターブレードの長手方向と略並行方向に配置されていることを特徴とするドクターブレードである。
【0010】
また、請求項2にかかる発明は、扁平糸織物の強化繊維織物が用いられない層の強化繊維基材が、強化繊維織物、UD(Uni−Directional)シート、チョップドストランドマット、不織布、チョップから選ばれてなる請求項1に記載のドクターブレード。
【0011】
【0012】
また、請求項3にかかる発明は、前記扁平糸織物の経糸および緯糸が、両方共織物の状態で並行である請求項1又は2記載のドクターブレード。また、請求項4にかかる発明は、前記扁平糸織物の空隙率が、5%以下である請求項1乃至3記載のドクターブレード。
【0013】
また、請求項5にかかる発明は、前記扁平糸織物の扁平糸が、炭素繊維であることを特徴とする請求項1乃至4記載のドクターブレード。
【0014】
また、請求項6にかかる発明は、前記扁平糸織物の目付が、120〜220g/m2である請求項1乃至5記載のドクターブレードである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成を詳細に説明する。
【0016】
本発明のドクターブレードを構成する強化繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等が使用できるが、中でも軽量で、耐摩耗性に優れ、繊維強化樹脂の成形が容易な炭素繊維が好ましく、さらに好ましくは、炭素繊維織物の製織が容易なPAN系炭素繊維が用いられる。
【0017】
本発明においては、複数層の強化繊維基材に樹脂が含浸されてなる繊維強化樹脂成形体のうち、少なくとも一層の強化繊維基材が、扁平糸織物の強化繊維であれば良い。
【0018】
本発明に用いられるその他の層の強化繊維基材としては、通常用いている所の強化繊維織物、UD(Uni−Directional)シート、チョップドストランドマット、不織布、チョップなどが挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる扁平糸織物の扁平糸としては、扁平糸の単糸の糸幅と厚みの比が15以上の糸が挙げられ、20以上の扁平糸が特に好ましい。また、扁平糸の撚り数は特に限定されるもので無いが、撚りのない扁平な強化繊維糸を用いることが特に好ましい。
【0020】
本発明に用いられる扁平糸織物の強化繊維織物としては、扁平糸を経糸と緯糸の少なくとも一方に使用することが好ましく、経糸と緯糸の少なくとも一方の繊維が並行している扁平糸織物を用いるのが好ましい。
【0021】
本発明で用いられる強化繊維織物の少なくともその一部は、ドクターブレードの長手方向と概ね並行方向および垂直方向と概ね並行になるように配置させることがドクターブレードの強度を保つためには好ましい。
【0022】
また、耐摩耗性を向上させる上で、単糸の糸幅と厚みの比が20以上の撚りのない扁平な強化繊維糸がドクターブレードの長手方向と概ね並行方向に配置することが特に好ましい。
【0023】
本発明に用いられる扁平糸織物からなる強化繊維織物は、空隙率が5%以下であることが好ましい。強化繊維織物の空隙率を小さくすることによって、強化繊維糸が含まれない部分が少なくなり、摩耗量の少ない好適なドクターブレードとして使用することができる。
【0024】
強化繊維織物における空隙率については、次のように求めた。まず、強化繊維織物の裏側に使用糸が認識しやすい様な紙を貼り付け、複写機で複写する。例えば、ガラス繊維織物やアラミド繊維織物については黒紙を、炭素繊維織物は白紙を貼り付けると使用糸が認識しやすく好ましい。
【0025】
次に、複写した紙に、織り目の空隙が10個以上入る(4×3個、4×4個等)ように四角形を書き入れる。次いで、四角形の一辺が5〜10cmになるまで拡大複写する。
【0026】
その後、拡大複写したものの、織り目の空隙面積を小泉社製「単式プラニメーター」を用いて、織り目の総空隙面積Skを求める。四角形全体の面積Stと前記総空隙面積Skから空隙率(%)=Sk/St×100を求める。
【0027】
本発明に用いられる強化繊維基材に含浸させる樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリプロリレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリエーテルイミド(PEI) 、ポリエーテルケトン(PEK) 、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET) 、ポリイミド(PI)、ポリアセタール(POM) 、ポリフェニレンサルファイド(PPS) 、ポリスチレン(PS)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、不飽和ポリエステル樹脂が成形性、各種物性及びコストの点で好ましく用いられる。
【0028】
これらの樹脂には、難燃剤、カップリング剤、導電性付与剤、無機フィラーなどを配合してもよい。
【0029】
樹脂と強化繊維との割合としては、樹脂は、通常20〜70重量%、好ましくは30〜50重量%、強化繊維は、通常30〜80重量%、好ましくは50〜70重量%である。
樹脂の割合が20重量%より少ないと繊維強化樹脂からなる成形物の内部にボイド等の欠陥を生じ、強度が低下することがある。一方、70重量%を越えると繊維強化樹脂からなる成形物の弾性率が低くなるおそれがある。
【0030】
本発明に用いられる扁平糸織物の目付としては、120〜220g/m2が好ましい。
【0031】
本発明のドクターブレードを構成する繊維強化樹脂成形体とは、複数層の強化繊維基材に樹脂を含浸したものいう。
【0032】
本発明に用いられる扁平糸織物からなる強化繊維織物(強化繊維基材)の製造法としては、単糸の糸幅と厚みの比が15以上の扁平糸を用いて、経糸と緯糸の少なくとも一方を扁平糸として製織して扁平糸織物とする方法が挙げられ、また、単糸の糸幅と厚みの比が20以上の撚りのない扁平糸を経糸と緯糸の少なくとも一方として、経糸と緯糸の少なくとも一方の繊維が、並行している扁平糸織物を得る方法などが特に好ましい方法として挙げられる。更には、強化繊維織物を製織した後に、ウォータージェットを指向し、織糸を開繊・拡幅して扁平糸織物とする方法などが好ましい方法として挙げられる。
【0033】
本発明のドクターブレードの製造方法としては、例えば、樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合は、強化繊維織物(強化繊維基材)にあらかじめ未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させて、樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合は、強化繊維織物(強化繊維基材)に溶融状態の樹脂を含浸させて、プリプレグを作成し、複数枚のプリプレグを強化繊維が所定の配向となるように積層した後、加熱硬化して硬化物(繊維強化樹脂成形体)を得る。得られた硬化物(繊維強化樹脂成形体)を切削加工してドクターブレードを得る方法が挙げられる。
【0034】
また、他の製造方法としては、離型性のあるフイルム上に未硬化の熱硬化性樹脂あるいは溶融状態の熱可塑性樹脂を塗布後、強化繊維織物を含む複数層の強化繊維基材を所定の配向となるように積層したのち、さらに離型性のあるフイルムを積層して、脱泡および硬化させる連続成形法により硬化物(繊維強化樹脂成形体)を得る。得られた硬化物(繊維強化樹脂成形体)を切削加工してドクターブレードを得る方法が挙げられる。
【0035】
長尺のドクターブレードを製造することを考慮すると、後者の連続成形法による製造方法が特に好ましい。これらは、製造方法の一例を例示したものであり、特に前記方法のみに限定されるものではない。
【0036】
本発明のドクターブレードの厚みとしては、通常0.1〜10mmの範囲から選ばれる。
このようにして得られたドクターブレードは、強化繊維織物が扁平糸織物であるため、単位面積当たりの重量が同じ織物であっても、交点の数あるいは、強化繊維糸間の隙間の数が少ないため、強化繊維糸が含まれない部分が殆どなく、摩耗量の少ない好適なドクターブレードとして使用することができる。
【0037】
尚、ロールとしては、クロムメッキロール、ゴム被覆ロール等多目的の産業用ロールが使用される。
【0038】
【実施例】
以下、本発明のドクターブレードを実施例、比較例に基づいて具体的に説明する。
【0039】
実施例1
単糸の糸幅と厚みの比が30の撚りのない扁平な炭素繊維糸トレカT700SC(フィラメント数12000本:東レ社製)を、経糸および緯糸に使用し、その密度が3.1本/25mmとなるように炭素繊維の扁平糸織物を製織した。この炭素繊維織物の単位面積当たりの重量は198g/m2であり、空隙率は3%であった。一方、22.5texのガラス繊維糸を、密度が経糸53本/25mm、緯糸48本/25mmとなるようにガラス繊維織物を製織した。
【0040】
この炭素繊維織物2層とガラス繊維織物3層をガラス繊維の層が表面に配置するように、交互に積層し、不飽和ポリエステル樹脂を使用して、連続成形法にて繊維強化樹脂成形体を作製した。繊維強化樹脂成形体を、強化繊維糸の経糸および緯糸が長手方向と概ね並行方向および垂直方向になるように切削加工して、繊維強化樹脂製ドクターブレードを得た。
【0041】
実際の印刷機に、上記ドクターブレードを装着し、用いたところ、ブレードとロールの間隔が均一で、非常にきれいに印刷できた。また、耐摩耗性にすぐれ、長期使用に耐え得るものであった。
【0042】
比較例1
単糸の糸幅と厚みの比が13の炭素繊維糸トレカT300(フィラメント数3000本:東レ社製)を、経糸および緯糸に使用し、その密度が12.5本/25mmとなるように炭素繊維の扁平糸織物を製織した。この炭素繊維織物の単位面積当たりの重量は198g/m2であり、空隙率は6%であった。前記炭素繊維織物を実施例1における炭素繊維の扁平糸織物の代りに用いた以外は、実施例1と全く同様に、同じ形状、大きさの繊維強化樹脂製ドクターブレードを得た。
【0043】
実際の印刷機に、上記ドクターブレードを装着し、用いたところ、ブレードとロールの間隔が均一で、非常にきれいに印刷できた。しかし、実施例1と比較して、耐摩耗性に劣り、使用可能時間が20%減少した。
【0044】
比較例2
鉄「SS41」を用いて、実施例1と同じ形状、大きさのドクターブレードを作製した。このドクターブレードは自重でたわみ、印刷機に装着した場合、ドクターブレードとロールとの間隔が長手方向で不均一となり、きれいに印刷できなかった。また、ロールの温度の上昇と共にブレードに反りを生じ、均一密着が困難であった。
【0045】
比較例3アルミ合金「Al7075」を用いて、実施例1と同じ形状、大きさのドクターブレードを作製した。このドクターブレードは自重でたわみ、印刷機に装着した場合、ドクターブレードとロールとの間隔が長手方向で不均一となり、きれいに印刷できなかった。また、ロールの温度の上昇と共にブレードに反りを生じ、均一密着が困難であった。
【0046】
【発明の効果】
本発明のドクターブレードは、軽量で、たわみ、ゆがみが小さく、ロールへの密着性が良好であり、且つ耐摩耗性に非常に優れた大型、広幅ロール用ドクターブレード材として使用することができる。
Claims (6)
- 複数層の強化繊維基材に樹脂が含浸されてなる繊維強化樹脂成形体からなるドクターブレードであって、
該強化繊維基材の少なくとも一層が扁平糸織物の強化繊維織物であり、
前記扁平糸織物は単糸の糸幅と厚みの比が20以上で撚りのない扁平糸を経糸と緯糸の少なくとも一方に使用し、且つ経糸および緯糸の少なくとも一方の繊維が並行しており、前記扁平糸が前記ドクターブレードの長手方向と略並行方向に配置されていることを特徴とするドクターブレード。 - 扁平糸織物の強化繊維織物が用いられない層の強化繊維基材が、強化繊維織物、UD(Uni−Directional)シート、チョップドストランドマット、不織布、チョップから選ばれてなる請求項1に記載のドクターブレード。
- 前記扁平糸織物の経糸および緯糸が、両方共織物の状態で並行である請求項1又は2記載のドクターブレード。
- 前記扁平糸織物の空隙率が、5%以下である請求項1乃至3記載のドクターブレード。
- 前記扁平糸織物の扁平糸が、炭素繊維であることを特徴とする請求項1乃至4記載のドクターブレード。
- 前記扁平糸織物の目付が、120〜220g/m2である請求項1乃至5記載のドクターブレード。
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