JP4718739B2 - 鋳鉄の脱マンガン処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は鋳鉄溶湯の脱マンガン処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋳鉄鋳物は日本国内に於て年間約 400万t生産され産業を支える重要な素形材である。
その製造技術は適正な溶湯を得るための溶解法、脱硫法、黒鉛球状化処理法、および強固な鋳型を得るための造型法、さらには注湯法等を好ましく組み合わせることにより成り立っている。溶解法および造型法、注湯法については普通鋳鉄鋳物、球状黒鉛鋳鉄について共通であり、脱硫法および黒鉛球状化処理方法が球状黒鉛鋳鉄を製造する場合に特有の技術である。
【0003】
まず、鋳鉄溶湯を得るためにはまず溶解が必要である。一般にはキュポラおよび高周波誘導炉、低周波誘導炉等の電気炉が使用されている。球状黒鉛鋳鉄製造の場合、脱硫処理、球状化処理が行われるが、溶湯成分の調節は、溶解原料の種類、配合量および副原料の添加量によって行っている。キュポラにおいては溶湯中マンガンの酸化によって若干のマンガン量低減が起こるが、精錬機能のまったく無い高周波誘導炉、低周波誘導炉等の電気炉ではマンガン量の変化はほとんど無い。したがってマンガン量の低い溶湯を作るためにはマンガン量の少ない原料を用いる必要がある。溶解原料としては、主に鋼屑、鋳物用銑鉄、鋳物製造時に発生する押し湯等の戻り材が使用される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
現在の鋳鉄鋳物で使われる鋼屑は自動車用鋼板の加工屑が大半を占めている。近年、地球温暖化などの環境問題の観点から自動車の車体の軽量化による燃費の向上が必要となってきた。さらに衝突安全性の向上への強い要請があり自動車を構成する主要材料である薄鋼板の高強度化と高強度鋼板使用比率が一段と増している。この高強度鋼板は強化元素としてMn、Ti、Pなどを添加している。特に高強度鋼板のMn量は従来の自動車用鋼板の0.5%程度から2%以上へと大きく増加する。また、Mnは基地を硬質のパーライトにして軟質のフェライトの析出を抑える効果があり、鋳鉄を硬くする。引張り強さの向上を目的としてパーライト基地にする場合でも、過剰にMn量が増すと靭性の劣るチル化、引け等の欠陥が起こりやすくなる。したがって、鋳鉄鋳物の主要原料である自動車用鋼板加工屑のMn量の増加は鋳鉄鋳物の品質に悪影響を及ぼす。このようなことから、鋳造工場では鋳鉄溶湯の脱マンガン処理方法が望まれる。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記問題を解決したものであり、その特徴は以下の通りである。
(A) マンガンを含む鋳鉄溶湯中にFeS を含む脱マンガン処理剤を加え、硫化マンガンとして浮上させて溶湯中から除去することを特徴とする鋳鉄の脱マンガン処理方法。
(B) {S添加量(%) }>{溶湯Mn量(%)-目標Mn量(%) }×0.6 を満たす量のFeS を含む脱マンガン処理剤を添加することによる前記(A) 記載の脱マンガン処理方法。
(C) 鋳鉄溶湯を攪拌することにより、溶湯中のマンガンと硫黄の反応を促進するとともに生成する硫化マンガンの浮上除去を促進して、脱マンガンし、かつ過剰な溶解Sを残留させない前記(A) または(B) 記載の脱マンガン処理方法。
【0006】
本発明者らは脱マンガン反応が鋳鉄溶湯に硫黄を含む化合物を添加することにより進行することを見いだしたのである。
すなわち
【数1】
Mn + FeS → MnS + Fe (1)
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
この発明で対象とする溶湯は鋳鉄溶湯であり、通常はC:3〜4%、Si:1〜3%、Mn:0〜3%、P:0.02〜0.08%、S:0.10%以下であるが、その他用途によってはNi、Cr、Cu等の合金元素を〜数%含むこともある。但し、%は質量%を示す。
【0008】
本発明ではSを含む化合物としてはFeS が最も適当であり、FeS を含む脱マンガン処理剤を添加する。Sを含む化合物としてCu2 S、K2 Sなども、残留するCu、Kの影響を考慮すれば脱マンガン剤として用いることができる。
【0009】
(1)式の反応に必要なS量は化学量論的にはMn 1mol 当り、S 1molである。Mnの原子量は55g/mol 、Sの原子量は32g/mol であるので、MnS 生成のためにはMn1gに対してS 0.58gが必要である。したがって、脱マンガン処理剤の添加量は、S量(%) に換算して(溶湯Mn量(%) −目標Mn量(%))の0.6 倍以上は必要である。また、MnS とならずに溶湯中に溶け込み残留するS量を目的とする溶湯成分に合わせる様、脱マンガン処理剤の添加量上限を決める。球状黒鉛鋳鉄製造においてS量の低い溶湯が必要な場合は、脱マンガン処理後に脱硫処理を行うとMn量、S量がともに低い溶湯を得ることができる。
【0010】
MnS の密度は5.23g/cm3 であり、鋳鉄溶湯の密度およそ7g/cm3より小さいため、溶湯中で生成したMnS は浮上し溶湯表面のスラグ中に除去される。この浮上除去を促進するためには、溶湯の入った取鍋底部のポーラスプラグからガスを吹込むなど、溶湯を攪拌することが有効である。ガス攪拌の場合、吹込みガスとしては圧縮空気や窒素ガスが安価で使い易い。但し、溶湯中の酸素量、窒素量の増加を抑えるためにはAr等の不活性ガスの方が好ましい。また、溶湯を鋳込んだ後の鋳物は製品として仕上げるために機械加工を必要とするが、鋳物中に残留する数μm 程度の微細なMnS は強度機械加工時の被削性の向上に寄与する。
【0011】
一般に鋳物溶銑の処理においてはなるべく簡便な装置、設備での処理形態が望まれる。そこで、(1)式においてFeS を溶湯中に十分に溶解させる方法として、脱マンガン処理剤を出湯前か出湯中に取鍋に投入された状態で溶湯に添加されることが簡便で好ましい。脱マンガン効果を向上させるために、取鍋底部のポーラスプラグ(多孔質耐火物) を通じてAr等の不活性ガス、窒素ガス、圧縮空気を吹き込み、脱マンガン処理剤と溶湯を攪拌する。取鍋自体を機械的に揺動させたり、羽状やプロペラ状の稼動部分を溶湯中に浸漬し攪拌する攪拌装置を使って、強制的に脱マンガン処理剤と溶湯を攪拌する方法もある。
【0012】
また、粉状または粒状の脱マンガン処理剤を溶湯中に浸漬したランスパイブからAr等の不活性ガス、窒素ガス、圧縮空気により直接溶湯中に吹込むことも、吹込みによる溶湯の攪拌が付与されるため、脱マンガン率が大きくなる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
<実施例1>
実施例1の実施様態の説明図を図1に示す。
まず、30kg高周波炉1において1450℃で高強度鋼板屑、銑鉄を溶解し、所要の成分(C 3.5%、Si 2%、Mn 2.0%、P 0.020%、S 0.020%)に調整した鋳鉄溶湯3を作る。脱マンガン処理剤4としてS源粉末(98%FeS)0.7kg を上方から添加した。脱マンガン剤が溶湯中に溶け込み、スラグ状のものが溶湯表面に浮上するのが確認できた。このスラグの断面観察とX線分析からクラスター状のMnS が多量に含まれていることを確認した。
浮上したスラグを除去した後、0.3%Fe-Si(75) 接種し、30mmφの砂型に直接鋳込だ。
【0014】
常温まで冷却後、鋳込んだ試験片の断面を鏡面研磨し、光学顕微鏡で組織観察を行ったところ、黒鉛は片状黒鉛が十分に晶出していた。セメンタイトの晶出はほとんど認められなかった。さらに、試験片断面を200 倍の倍率で画像処理装置により観察し黒鉛部分と基地部分に2値化して、黒鉛部分の面積率を求めたところ、黒鉛面積率は14%であった。また、X線マイクロアナリシス装置を用いて晶出相の分析を行ったところ、微細なMnS の晶出が認められた。鋳込んだ試験片のMnの分析結果は0.6%、S は0.100%であった。
また、丸棒よりJIS 8B号試験片を作成し、引張試験を行ったところ27kgf/mm2 であった。
【0015】
<実施例2>
実施例2の実施様態の説明図を図2に示す。
まず、S源粉末(98%FeS)65kgを脱マンガン処理剤4として、取鍋5の底に造った反応室6に投入し、そこに浮上抑制材7として型銑10kg(2本)を入れで浮き上がらないように蓋をする。
予め高周波炉で高強度鋼板屑、銑鉄を溶解しC 3.5%、Si 2.0%、Mn 2.0%、P 0.020%、S 0.020%に調整した1550℃の鋳鉄溶湯3の3tを取鍋5 に注入する。
注入後に湯面が安定すると、スラグ状のものが溶湯表面に浮上するのが確認できた。このスラグの断面観察とX 線分析からクラスター状のMnS が多量に含まれていることを確認した。
反応が終了した後、浮上したスラグを除去し、小取鍋に処理溶湯を10kgとり、0.3%Fe-Si (75)合金で接種して、JISA号Y ブロックに鋳込んだ。鋳込んだ試験片のMnの分析結果は0.7%、S は0.080%であった。
【0016】
鋳込んだ試験片の断面のミクロ組織を観察したところ、黒鉛は片状黒鉛が十分に晶出していた。セメンタイトの晶出はほとんど認められなかった。試験片断面を200 倍の倍率で画像処理装置により観察し黒鉛部分と基地部分に2値化して、黒鉛部分の面積率を求めたところ、黒鉛面積率は13%であった。また、X線マイクロアナリシス装置を用いて晶出相の分析を行ったところ、微細なMnS の晶出が認められた。
また、JIS 8B号引張試験片を作成して引張試験を行ったところ、28kgf/mm2 が得られた。
【0017】
<実施例3>
実施例3の実施様態の説明図を図3に示す。
低周波炉の前炉を有するキュポラで高強度鋼板屑、銑鉄を溶解し脱硫処理前の溶湯成分(C 3.5%、Si 2.0%、Mn 1.0%、P 0.020%、S 0.063%)に調整した鋳鉄溶湯3を1550℃で10t を取鍋5に注入した後、脱マンガン処理剤4としてS源粉末(98%FeS)85kgをキャリアーガスとしてArガスを用い耐火物製ランス8よりインジェクションした。反応の進行に従い、スラグ状のものが溶湯表面に浮上するのが確認できた。このスラグの断面観察とX線分析からクラスター状のMnS が多量に含まれていることを確認した。
脱マンガン処理後、浮上したスラグを除去して脱硫処理を行った。脱硫処理終了後、小取鍋に処理溶湯を10kgとり、0.3%Fe-Si(75) 合金で接種し、JIS A 号Yブロックに鋳込んだ。鋳込んだ試験片のMnの分析結果は0.5%、Sは0.030%であった。
【0018】
鋳込んだ試験片の断面のミクロ組織を観察したところ、黒鉛は片状黒鉛が十分に晶出していた。画像処理装置により試験片断面を200 倍で観察し黒鉛部分と基地部分に2 値化して黒鉛部分の面積率を求めたところ、黒鉛面積率は15%であった。セメンタイトの晶出はほとんど認められなかった。また、X線マイクロアナリシス装置を用いて晶出相の分析を行ったところ、微細なMnS の晶出が認められた。また、JIS 8B号引張試験片を作成して引張試験を行ったところ、26kgf/mm2 が得られた。
実施例1、2、3の要点をまとめて表1に示す。
【0019】
【表1】
Figure 0004718739
【0020】
<比較例>
高周波炉で溶製した溶湯を取鍋に出湯した。取鍋に出湯した溶湯30kgは、温度1550℃、成分C 3.5%、Si 2.0%、Mn 2.0%、P 0.020%、S 0.030%である。0.3%Fe-Si(75)合金で接種し、JISA号Y ブロックに鋳込んだ。ミクロ組織を観察したところ、セメンタイトの晶出が認められ、黒鉛晶出量は少なく黒鉛面積率は2%であった。また、JIS 8B号引張試験片を作成して引張試験を行ったところ、引張り強さは15kgf/mm2 であった。
【0021】
【本発明の効果】
本発明によれば、従来困難であった脱マンガン処理を可能にし、マンガンを多量含む鋼屑を用いて欠陥の少ない鋳鉄鋳物を製造することができる。
従って、本発明の実用的価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1の実施様態の説明図。
【図2】 実施例2の実施様態の説明図。
【図3】 実施例3の実施様態の説明図。
【符号の説明】
1 高周波炉
2 コイル
3 鋳鉄溶湯
4 脱マンガン処理剤
5 取鍋
6 反応室
7 浮上抑止材
8 耐火物製ランス
9 ランスパイプ
10 脱マンガン処理剤タンク
11 Arガスボンベ

Claims (3)

  1. マンガンを含む鋳鉄溶湯中にFeS を含む脱マンガン処理剤を加え、硫化マンガンとして浮上させて溶湯中からマンガンを除去することを特徴とする鋳鉄の脱マンガン処理方法。
  2. {S添加量(%) }>{溶湯Mn量(%) −目標Mn量(%) }×0.6を満たす量のFeS を含む脱マンガン処理剤を添加することによる請求項1記載の脱マンガン処理方法。但し、%は質量%を示す。
  3. 鋳鉄溶湯を攪拌することにより、溶湯中のマンガンと硫黄の反応を促進するとともに生成する硫化マンガンの浮上除去を促進して、脱マンガンし、かつ過剰な溶解Sを残留させない請求項1または2記載の脱マンガン処理方法。
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