JP2007138241A - プレス金型用鋳鉄およびプレス金型用鋳鉄製造方法 - Google Patents

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【課題】従来の鋳造設備を利用しながら、強度が高く、制振性、溶接性、焼き入れ性、加工性に優れたプレス金型用鋳鉄を提供する。
【解決手段】金属組織中の黒鉛球状化率が30〜70%であって、酸素含有量5〜20ppm(質量比)、パーライト率60〜100%、S含有量0.03%(質量比)以下のプレス金型用鋳鉄であり、質量比で、C含有量3〜4%、Si含有量1.5〜2.5%、Mn含有量0.5〜1.0%、Cr含有量0.2〜1.0%、Cu含有量0.2〜1.0%である。このプレス金型用鋳鉄の製造工程は、溶解炉10における作業工程と、取鍋20における作業工程と、鋳型30における作業工程とに分けられ、これらの作業工程は一部並行しながら進められる。
【選択図】図1

Description

本発明は、鋼板のプレス成形工程において使用されるプレス金型の素材として好適な鋳鉄材料に関する。
鋼板のプレス成形工程において使用されているプレス金型の素材としては、従来、FC250やFC300などの普通鋳鉄が主流であるが、一部ではダクタイル鋳鉄も使用されている。普通鋳鉄は比較的安価であり、振動減衰能に優れているが、溶接性が悪いという欠点がある。これに反し、ダクタイル鋳鉄は溶接性に優れているが、振動減衰能が悪く、普通鋳鉄より高価である。
そこで、普通鋳鉄およびダクタイル鋳鉄の長所を兼ね備えた鋳鉄材料の研究、開発が行われ、その代表例として、溶接性に優れたC/V(「Compacted/Vermicular」の略称。以下、同じ。)黒鉛鋳鉄鋳物などが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この鋳鉄材料は、C/V黒鉛鋳鉄鋳物に脱炭熱処理を施すことにより、表面層をフェライト組織にしたものである。
特開平10−176236号公報
特許文献1記載のC/V黒鉛鋳鉄鋳物の場合、その製造工程においては、接種後の溶湯を鋳込んで鋳物を形成した後、さらに、この鋳物を砂鉄に埋め込んで低温脱炭焼鈍を行う必要がある。このため、従来の鋳造工程に加え、熱処理工程を設ける必要があり、製造時間が増大するだけでなく、製造設備も複雑化する。
また、特許文献1記載のC/V黒鉛鋳鉄鋳物は、表面層がフェライト組織であるため、硬さが低く、耐摩耗性が劣っている。また、Mn、Cr、Niなどの焼き入れ性を向上させる合金元素の含有量が少ないことにより、フレームハードなどの熱処理によって硬化しないため、プレス金型用の鋳鉄としては不適である。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、従来の鋳造設備を利用しながら、強度が高く、制振性、溶接性、焼き入れ性、加工性に優れたプレス金型用鋳鉄を提供することにある。
本発明のプレス金型用鋳鉄は、金属組織中の黒鉛球状化率が30〜70%であって、酸素含有量5〜20ppm(質量比)、パーライト率60〜100%、硫黄(S)含有量0.03%(質量比)以下であることを特徴とする。このような構成とすれば、酸素含有量が少なく、普通鋳鉄特有の片状黒鉛が切断されるとともに微細化されたC/V状黒鉛が散在する金属組織が形成されるため、強度が高く、制振性、溶接性、焼き入れ性、加工性に優れたものとなる。なお、黒鉛球状化率が30%未満であると引っ張り強さが低下し、70%を超えると制振性が急激に低下するため前記範囲が好適である。また、酸素含有量が20ppm(質量比)を超えたり、硫黄(S)含有量が0.03%を超えたりすると、黒鉛形状制御が阻害され、パーライト率60%より小さくなると、強度、耐摩耗性が低下する。
また、このプレス金型用鋳鉄において、質量比で、炭素(C)含有量3〜4%、珪素(Si)含有量1.5〜2.5%、マンガン(Mn)含有量0.5〜1.0%、クロム(Cr)含有量0.2〜1.0%、銅(Cu)含有量0.2〜1.0%とすることもできる。このような構成とすれば、C、Si、Mn、CrおよびCuの作用により、マルテンサイト変態開始温度が低温側へ移行するため、空冷によって必要な硬さを得られる程度まで焼き入れ性を向上させることができ、焼入硬さも高まる。また、焼入歪みも軽減することができる。さらに、これらの合金元素は、焼き入れ性を向上させる作用を有するニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)などに比べ、安価で入手し易いため、コスト削減にも有効である。
一方、本発明のプレス金型用鋳鉄製造方法は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)の何れかを含む添加剤と、フェロシリコンを含む接種剤とを収容した取鍋中において溶湯処理を行うことを特徴とする。このような構成とすれば、添加剤の作用により、酸素含有量が20ppm(質量比)以下に低減され、黒鉛球状化率30〜70%程度の微細化されたC/V状黒鉛が散在する金属組織が形成されるため、強度が高く、制振性、溶接性、焼き入れ性および加工性に優れたプレス金型用鋳鉄を得ることができる。
この場合、前記添加剤として、マグネシウム(Mg)含有量1〜10%(質量比)のマグネシウム合金を用いれば、溶湯中に溶解している酸素()、硫黄()と、マグネシウム(Mg)との間で、
Mg+=MgO
Mg+=MgS
という二つの反応が生じるため、脱酸および脱硫を促進することができる。なお、添加剤としては、マグネシウム合金のほかに、酸素および硫黄との結合力の強いアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)などを含む合金を用いることもできる。
本発明により、従来の鋳造設備を利用しながら、強度が高く、制振性、溶接性、焼き入れ性、加工性に優れたプレス金型用鋳鉄を提供することができる。
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について詳しく説明する。図1は本発明の実施の形態であるプレス金型用鋳鉄の製造工程を示す図、図2はMg添加量と溶湯中のO,Nの関係を示すグラフ、図3は本発明の実施の形態であるプレス金型用鋳鉄およびその他の鋳鉄の金属組織を示す模式図、図4は黒鉛の球状化率と強度の関係を示すグラフである。
本実施形態のプレス金型用鋳鉄の製造工程は、図1に示すように、溶解炉10における作業工程と、取鍋20における作業工程と、鋳型30における作業工程とに分けられ、これらの作業工程は一部並行しながら進められる。
まず、溶解炉10に、原材料11である銑鉄や鉄くずなどを投入後、溶解炉10の通電12を開始すると、溶解炉10中の温度が上昇していき、1200℃〜1300℃程度まで到達すると、炉中の原材料11が徐々に溶け落ち13していき、やがて溶湯となる。この段階で、溶湯の一部を取り出して成分分析14を行い、酸素含有量および硫黄含有量を分析する。酸素含有量および硫黄含有量は原材料11の種類によって左右されるが、一般的には、原材料11における鉄くずの割合が高いときに酸素含有量および硫黄含有量が高くなる傾向にある。
次に、成分分析14によって判明した酸素含有量および硫黄含有量に対応した分量の脱酸剤・脱硫剤添加15を行う。本実施形態では、脱酸剤としてフェロシリコン(Fe−Si)を使用し、脱硫剤としてCa−Siを使用しているが、これらに限定するものではない。脱酸剤・脱硫剤添加15により、溶湯中の酸素含有量が70〜100ppm(質量比)程度となり、硫黄含有量が0.05%(質量比)以下程度となったら、溶解炉10の温度が約1400℃〜1500℃程度となるまで昇温16された後、出湯17が行われる。
一方、取鍋20においては、約200℃〜500℃程度となるまで予熱21が行われた後、取鍋20内に添加剤・接種剤セット22が行われる。本実施形態では、添加剤としてマグネシウム合金を使用し、接種剤としてフェロシリコンを使用しているが、これらに限定するものではない。そして、添加剤・接種剤セット22が完了した取鍋20内に、前述した溶解炉10から出湯17された溶湯が送り込まれ、溶湯処理23が行われる。この工程では、溶湯中にマグネシウム合金が添加された状態となり、溶湯中の酸素含有量が20ppm(質量比)以下にまで低減されるため、後述するように、凝固後は微細化された黒鉛が散在する金属組織が得られる。なお、Mg添加量と酸素含有量との関係は図2に示すような結果となる。図2を見ると、Mg添加量が0.01%(質量比)未満の場合は酸素含有量が70ppm(質量比)前後であるが、Mg添加量が0.015〜0.03%(質量比)になると酸素含有量は20〜5ppm(質量比)まで低減されることが判る。そのほか、図2を見ると、Mg添加量は最低限でも0.015%は必要であることが判る。
溶湯処理23においては、添加剤として使用されたマグネシウム合金により、取鍋20中において、Mg+=MgOおよびMg+=MgSという二つの反応が生じるため、脱酸および脱硫を促進することができる。溶湯処理23が完了すると、沈静化24が行われ、溶湯が約1350℃〜1400℃程度となるように温度調節25が行われた後、鋳型30への注湯26が行われる。
一方、鋳型30においては、予め模型準備31および造型32が行われており、完成した鋳型30内に、取鍋20中の溶湯が注湯26されることにより、所謂、鋳込み33が行われる。鋳込み33が完了したら、鋳型30内の溶湯が凝固し、約300℃〜500℃程度に降温するまで放置(静置)される。そして、前記温度まで降温すると、解枠34を行うことによって固化した鋳鉄品が鋳型30から取り出され、これに仕上げ35加工を施すことにより、鋳物36が完成する。
このようにして完成した鋳物36は、引っ張り強さ350N/mm2、フレームハード処理後の硬さHRC50以上を有しており、強度が高く、制振性、溶接性、焼き入れ性および加工性に優れているため、プレス金型用鋳鉄として好適である。
ここで、図3を参照して、本実施形態に係るプレス金型用鋳鉄(以下「TFG350」という。)およびその他の鋳鉄の金属組織について説明する。図3(a)は普通鋳鉄FC300の金属組織を示し、同(b)〜同(e)はTFG350の金属組織を示し、同(d)はダクタイル鋳鉄の金属組織を示している(倍率はいずれも200倍である)。図3を見ると、普通鋳鉄FC300の黒鉛球状化率は11.8%であるのに対し、TFG350の黒鉛球状化率は(b)36.7%,(c)47%,(d)50%,(e)68.4%となっている。なお、ダクタイル鋳鉄の黒鉛球状化率は90%である。
TFG350における黒鉛球状化率の相違は、図1で示した取鍋20における添加剤(マグネシウム合金)の添加量の多少によるものであるが、本実施形態におけるマグネシウム合金の添加量は、Mg換算した値で、図3(b)の場合は0.015%、図3(c)の場合は0.020%、図3(d)の場合は0.025%、図3(e)の場合は0.030%である。これらのことより、マグネシウム合金の添加量が増加するほど、黒鉛球状化率も高まることが分かるが、黒鉛球状化率が高まると制振性が低下する傾向が生じるので、マグネシウム添加量は、Mg換算値で0.015〜0.030%程度が好適範囲である。そのほか、図3を見ると、TFG350の黒鉛形状はJIS G5502−1995によるとIII型〜V型黒鉛に該当しており、所謂、C/V黒鉛だけでないことが判る。
次に、図4を参照して、本実施形態に係るプレス金型用鋳鉄の金属組織中における黒鉛球状化率と引張り強さの関係について説明する。図4を見ると分かるように、黒鉛球状化率が30%未満の場合は引張り強さは250〜300N/mm2であるが、球状化率が30%を超えると引張り強さは急激に高まって500N/mm2程度となり、70%程度まではその状態が保たれ、70%を超えると550N/mm2程度となり、その後は、黒鉛球状化率が高まっても引張り強さは横這い状態となっている。このことより、黒鉛球状化率30〜70%であれば、プレス金型用鋳鉄に必要な350N/mm2以上の引張り強さが得られることが判る。従って、黒鉛球状化率30〜70%とするためには、取り鍋中の溶湯に、マグネシウム換算で、0.015〜0.030%程度のMgを添加すれば良いこととなる。また、図4を見ると、黒鉛球状化率80%以上のダクタイル鋳鉄程度の黒鉛球状化率になっても、引張り強さはさほど増加せず、効率的でないことが判る。
本実施形態のプレス金型用鋳鉄において、以下のような効果を得ることができる。
(1)Mgを添加して酸素含有量を20〜5ppmにすれば、溶接時にC+=CO(Gas)反応によるピンホール欠陥をなくすことができると同時に溶接性が向上する。
(2)黒鉛形状を球状化率30〜70%の微細な黒鉛とすることにより、強度が向上すると同時に焼き入れ性の向上、熱伝導率の改善を図ることができる。
(3)Mn,Cr,Cuなどを含有することにより、焼入れ硬さが高まり、空冷程度でも硬化する程度の焼入れ性が得られ、焼入れ歪みも軽減することができる。
(4)微小欠陥がなく、酸素含有量が少ないので、微小鋳巣、加工時の黒鉛の脱落、表面焼き入れ時の黒鉛の酸化消耗、溶接欠陥が発生せず、焼付き抵抗性が優れている。
(5)黒鉛形状が完全に球状でないため、プレス金型として必要レベルの振動減衰能を維持することができる。
(6)普通鋳鉄に比べ高い強度を有するので高い応力レベルの箇所にも適用できる。
(7)フレームハードにより硬さを高めることができるので、鋼板の切断部分などにも適用することができ、使用範囲を広げることができる。
(8)普通鋳鉄に比べ強度、フレームハード硬さが高いため、高張力鋼板など強度が高い鋼板への適用も可能であり、使用範囲を広げることができる。
本発明のプレス金型用鋳物は、自動車産業用鋼板のプレス成形工程の金型用材料として広く使用することができる。
本発明の実施の形態であるプレス金型用鋳鉄の製造工程を示す図である。 Mg添加量と溶湯中のO,Nの関係を示すグラフである。 本発明の実施の形態であるプレス金型用鋳鉄および他の鋳鉄の金属組織を示す模式図である。 金属組織中の黒鉛の球状化率と強度の関係を示すグラフである。
符号の説明
10 溶解炉
11 原材料
12 通電
13 溶け落ち
14 成分分析
15 脱酸剤・脱硫剤添加
16 昇温
17 出湯
20 取鍋
21 予熱
22 添加剤・接種剤セット
23 溶湯処理
24 沈静化
25 温度調節
26 注湯
30 鋳型
31 模型準備
32 造型
33 鋳込み
34 解枠
35 仕上げ
36 鋳物

Claims (4)

  1. 金属組織中の黒鉛球状化率が30〜70%であって、酸素含有量5〜20ppm(質量比)、パーライト率60〜100%、硫黄(S)含有量0.03%(質量比)以下であることを特徴とするプレス金型用鋳鉄。
  2. 質量比で、炭素(C)含有量3〜4%、珪素(Si)含有量1.5〜2.5%、マンガン(Mn)含有量0.5〜1.0%、クロム(Cr)含有量0.2〜1.0%、銅(Cu)含有量0.2〜1.0%であることを特徴とする請求項1記載のプレス金型用鋳鉄。
  3. マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)の何れかを含む添加剤と、フェロシリコンを含む接種剤とを収容した取鍋中において溶湯処理を行うことを特徴とするプレス金型用鋳鉄製造方法。
  4. 前記添加剤として、マグネシウム(Mg)含有量1〜10%(質量比)のマグネシウム合金を用いたことを特徴とする請求項3記載のプレス金型用鋳鉄製造方法。
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